説明

体積位相型ホログラム記録材料及びそれを用いた光情報記録媒体

【課題】高感度で、高いコントラストが得られ、記録保持性に優れるとともに、多重記録性の改善された体積位相型ホログラム記録材料及びそれを用いた体積位相型ホログラム記録媒体を提供する。
【解決手段】3次元架橋ポリマーマトリックス、光ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を本質的に含み、該ポリマーマトリックスが、ラジカル重合反応性基としての不飽和結合と非ラジカル重合反応性基としての水酸基を有する下記式(1)で表されるマトリックス形成化合物と、ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物から形成されたものであり、光ラジカル重合性モノマーがアセナフチレン化合物を必須成分として含むものである体積位相型ホログラム記録材料。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレントな活性エネルギー線を用いて情報の記録・再生を行う体積位相型ホログラム記録に適した材料及びそれを用いた光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラム情報記録は、情報を2次元のページデータとして記録・再生する方式であり、DVDなどのビットデータ方式に比べて記録密度及び転送速度を大幅に向上させることが可能であることから、次世代光情報記録方式の一つとして盛んに研究開発が進められている。
【0003】
特に、体積位相型ホログラム記録材料(以下、単にホログラム記録材料ともいう。)を用いた光情報記録媒体(以下、単にホログラム記録媒体ともいう。)は、理論上の最大回折効率が1と大きく、また、情報の重ね書き(多重記録)が可能であるため、高密度記録を達成できる情報記録媒体として実用化が期待されている。ホログラム記録材料としては、記録媒体製造の簡便性、原料選択の多様性などが考慮され、フォトポリマーが用いられる場合が多い。
【0004】
光ラジカル重合性成分及び光ラジカル重合開始剤を含むホログラム記録媒体の記録層(以下、単にホログラム記録層ともいう。)に、コヒーレントな活性エネルギー線からなる参照光及び情報光を同時に照射して明暗の干渉パターンを生じさせると、明部において重合反応が誘起され、重合性成分は重合反応によって生じる濃度勾配を緩和・解消する方向、すなわち干渉パターンの暗部から明部へと拡散移動する。一方、非反応性成分は重合性成分の拡散移動を補償する方向、すなわち干渉パターンの明部から暗部へと逆拡散移動する。このようにして、ホログラム記録層中に干渉パターンの光強度の強弱に応じた各成分の濃度分布が生じ、これが屈折率の変調構造として記録される。
【0005】
ホログラム記録媒体の記録容量は、原理的に、ホログラム記録層の厚みに比例する。したがって、ホログラム記録層は、材料による光吸収や重合反応に伴う体積収縮などによる記録性能への影響を実質的に許容できる範囲でなるべく厚く形成されることが有利である。ホログラム記録層に実際に求められる厚みは、約200μm〜2mmと、従来の光情報記録媒体に比べて非常に厚いものである。
【0006】
特許文献1には、唯一の処理工程として化学作用放射線に露光すると屈折率像を形成する実質的に固体の光重合性組成物であって、本質的に(a)25〜75%の溶媒可溶性、熱可塑性重合体結合剤、(b)5〜60%の液体エチレン系不飽和単量体、(c)0.1〜10%の化学作用放射線に露光すると該不飽和単量体の重合を活性化する光開始剤系、よりなる組成物が開示されている。ここで、各成分を均一に溶解させ、また、支持体上に塗布できる程度に組成物の粘度を下げるために溶媒を用いている。ホログラム記録層を形成するためには、該組成物を支持体上に塗布した後、溶媒を蒸発除去する乾燥工程を必要とするため、記録層の厚みは実質的に100μm以下に制限されていた。
【0007】
ホログラム記録層を形成する際に溶媒を必要とせず、約200μm以上の比較的厚い層を形成できるホログラム記録材料、それを用いたホログラム記録媒体及びその製造方法がこれまでに幾つか開示されている。例えば、ホログラム記録層の形成過程(in−situ)で形成させた3次元架橋ポリマーマトリックスを含むもの(特許文献2〜5、非特許文献1等)などがある。
【0008】
ここで、3次元架橋ポリマーマトリックスは、ホログラム記録材料に物理的強度を付与してホログラム記録層としての形状を保持する役割に加え、重合性化合物の過剰な移動を抑制し、また、ホログラム記録時の重合に伴う体積収縮を低減する役割を果たすと考えられている(非特許文献1)。
【0009】
特許文献2には、3次元架橋ポリマーマトリックス及び1種又は複数の光活性モノマーからなり、少なくとも1種の光活性モノマーが、モノマー官能基の他に、ポリマーマトリックスに実質的に存在しない部分を含み、マトリックスポリマー及び1種又は複数の光活性モノマーの重合から生じるポリマーが相溶性である光学製品が開示されている。特許文献2には、また、3次元架橋ポリマーマトリックスが、1種又は複数の前記光活性モノマーの存在下で、1種又は複数の光活性モノマーが重合する反応から独立した重合反応により形成される光学製品が開示されている。
【0010】
この構成によるホログラム記録媒体は、ホログラム記録層を形成する際に溶媒が不要であり、数100μm〜数mm程度の厚い層を比較的容易に形成することができるという利点を有する。
【0011】
ホログラム記録媒体には、また、高い透明性が要求される。したがって、3次元架橋ポリマーマトリックスは、重合性モノマー及び該モノマーが重合して生成したポリマーと相溶性であることが必要である。
【0012】
しかしながら、特許文献2に開示された光学製品では、この相溶性の条件を満たすマトリックスポリマーとモノマーとの組み合わせは限られる。また、この相溶性の条件を満たすマトリックスポリマーとモノマーとの組み合わせであっても、マトリックスポリマーとモノマー及びモノマーが重合して生成したポリマーとの屈折率差を大きくは取れないという問題がある。
【0013】
ホログラム情報記録において、干渉パターンとして記録されたデータは後露光などの固定化処理を行うことによって完全に固定される。大量のデータを連続して記録する場合には、データが記録され始めてから固定され終わるまでの所要時間が長くなるため、一旦記録されたデータがその間に劣化してしまうことが起こり得る。したがって、ホログラム記録媒体には、更に、少なくとも連続記録から固定化処理までの所要時間内で記録されたデータが劣化しないこと(以下、記録保持性という。)が要求される。
【0014】
しかしながら、特許文献2に開示された光学製品では記録保持性が充分ではないという問題がある。
【0015】
特許文献3には、複数の反応性基を有する3次元架橋構造を有するポリマーマトリックスであって、コヒーレントな光の干渉により生じる干渉縞を屈折率の差によって記録することができるポリマーマトリックスからなり、ホログラムを記録するための構成成分として重合性モノマーを有しない体積型ホログラム記録材料が開示されている。
【0016】
特許文献4には、(a)活性メチレン基を1分子中に1以上含む化合物又は活性メチン基を1分子中に2以上含む化合物、(b)活性メチレン基又は活性メチン基より生成するカルボアニオンが求核付加する基を1分子中に2以上含む化合物、(c)マイケル反応触媒、(d)光重合性化合物、及び(e)光重合開始剤系を含有する体積ホログラム記録用感光性組成物が開示されている。
【0017】
これら、特許文献3や特許文献4で開示されたホログラム記録材料は、記録保持性の向上は認められるものの、感度は未だ充分であるとは言えない。
【0018】
ホログラム記録材料の多重記録性を向上させる方法の一つとして、連鎖移動剤や重合抑制剤などを添加して所定の光照射あたりの光ラジカル重合性モノマーの重合度(生成ポリマーの平均分子量)を制御し、モノマーを効率的に利用することが有効であると考えられる。
【0019】
特許文献5には、情報光と参照光とから生ずる干渉縞により光重合することのできる重合性モノマーを含有する体積位相型ホログラム記録材料であって、該記録材料がポリマーマトリックス、光重合開始剤及び連鎖移動剤を含有し、連鎖移動剤の含有量が光重合により生成するポリマーの平均分子量を1,000〜3,000,000の範囲内に制御しうる量である体積位相型ホログラム記録材料が開示されている。
【0020】
また、特許文献6には、バインダー、エチレン性二重結合を含む重合性モノマー、光重合開始剤、並びにアリル基又はアリル基の誘導体を有する化合物を含む光記録用組成物が開示されている。アリル基又はアリル基の誘導体を有する化合物は、ラジカル重合反応の際にアリルラジカルを形成し、アリルラジカルはその共鳴安定性の故にラジカル重合反応を実質的に停止させ、これによりモノマー重合度が適度に制御されると述べられている。
【0021】
しかしながら、特許文献5に開示されたホログラム記録材料は、光重合により生成するポリマーの平均分子量を制御することによって、生成ポリマーとポリマーマトリックスとの相溶性を改善し光散乱によるノイズを低減させることを主な目的としており、多重記録性そのものの向上については特に示されていない。
【0022】
また、特許文献5に開示されたホログラム記録材料、特許文献6に開示された光記録用組成物では、特許文献2の場合と同様に、バインダー(又はマトリックスポリマー)とモノマー及びモノマーが重合して生成したポリマーとが相溶する組み合わせは限られ、また、相溶する組み合わせであっても、バインダー(又はマトリックスポリマー)とモノマー及びモノマーが重合して生成したポリマーとの屈折率差を大きくは取れないという問題が依然として残っている。
【0023】
前述のように、ホログラム記録材料は様々な方法によって性能の改善が図られてはいるものの未だ充分とは言えず、高感度で、高いコントラストが得られ、記録保持性及び多重記録性に優れたホログラム記録材料の提供が求められている。
【0024】
【特許文献1】特開平2−3081号公報
【特許文献2】特開平11−352303号公報
【特許文献3】WO2005/078531号公報
【特許文献4】特開2005−275389号公報
【特許文献5】WO2007/007436号公報
【特許文献6】特開2007−41160号公報
【非特許文献1】T.J.Trentler, J.E.Boyd and V.L.Colvin, Epoxy Resin-Photopolymer Composites for Volume Holography, Chemistry of Materials, Vol. 12, pp. 1431-1438 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、高感度で、高いコントラストが得られ、記録保持性に優れるとともに、多重記録性の改善された体積位相型ホログラム記録材料及びそれを用いた体積位相型ホログラム記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、(a)3次元架橋ポリマーマトリックス、(b)光ラジカル重合性モノマー及び(c)光ラジカル重合開始剤を主成分とする体積位相型ホログラム記録材料であって、(a)3次元架橋ポリマーマトリックスが(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物0.5〜40重量%及び(a2)ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物を含む(A)ポリマーマトリックス形成材料から形成されたラジカル重合反応性基を有する3次元架橋ポリマーマトリックスであり、前記(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物が下記式(1)で表される化合物であり、前記(b)光ラジカル重合性モノマーが(b1)アセナフチレン及びその誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のアセナフチレン化合物を含むことを特徴とする体積位相型ホログラム記録材料である。
【化1】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表し、R3はアルキレン基であり、nは1〜4の数であり、L2は芳香環を有しても良い2価の基を表す。)
【0027】
上記ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物としては、下記式(2)〜(5)で表される化合物が好ましく例示される。
【0028】
【化2】

【0029】
上記式(2)〜(5)において、R1はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表し、L3は酸素原子、硫黄原子、−C(O)O−又は−N(R6)−を表し、L4は単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基又はアルキレン基を表す。また、nは1〜4の数を表し、R3はアルキレン基を表し、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0030】
(A)ポリマーマトリックス形成材料が、屈折率差の絶対値が0.05以上となる組合せを含む2種又は3種以上の化合物からなる混合物であること、又は(a)3次元架橋ポリマーマトリックスと相溶する1種以上の非反応性化合物を更に含むことは、優れた上記体積位相型ホログラム記録材料を与える。
【0031】
また、本発明は、上記体積位相型ホログラム記録材料が、1つの支持体上に又は2つの支持体間に形成されてなる体積位相型ホログラム記録用光情報記録媒体である。
【0032】
また、本発明は、(A)ポリマーマトリックス形成材料、(b)光ラジカル重合性モノマー及び(c)光ラジカル重合開始剤を主成分とする体積位相型ホログラム記録材料前駆体であって、(A)ポリマーマトリックス形成材料が(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物0.5〜40重量%及び(a2)ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物を含み、且つ光ラジカル重合反応以外の反応によって重合して3次元架橋ポリマーマトリックスを形成するものであり、前記(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物が上記式(1)で表される化合物であり、前記(b)光ラジカル重合性モノマーが(b1)アセナフチレン及びその誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のアセナフチレン化合物であることを特徴とする体積位相型ホログラム記録材料前駆体である。
【0033】
更に、本発明は、上記の体積位相型ホログラム記録材料前駆体を、光ラジカル重合反応以外の反応によって重合してラジカル重合反応性基を有する3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させることを特徴とする上記の体積位相型ホログラム記録材料の形成方法である。
【発明の効果】
【0034】
光ラジカル重合性モノマーとして、平均分子量の比較的小さい重合体を形成することが知られており、且つ相対的に屈折率が高いアセナフチレン化合物を含むことで、所定の光照射あたりのラジカル重合性モノマーの重合度(生成ポリマーの平均分子量)を抑えてモノマーを効率的に利用することができる。また、光記録時に干渉パターンの明部と暗部とで屈折率差をより大きくすることができるため、高い感度、高いコントラスト、優れた記録保持性という利点を維持した上で、多重記録性の改善された体積位相型ホログラム記録材料及びそれを用いた体積位相型ホログラム記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る体積位相型ホログラム記録材料又はその前駆体は、(a)3次元架橋ポリマーマトリックス又は(A)ポリマーマトリックス形成材料、(b)光ラジカル重合性モノマー及び(c)光ラジカル重合開始剤を主成分とする。
以下、3次元架橋ポリマーマトリックスをポリマーマトリックス又は(a)成分ともいい、3次元架橋ポリマーマトリックスを形成する化合物(モノマー)をポリマーマトリックス形成材料又は(A)成分ともいい、光ラジカル重合性モノマーを(b)成分ともいい、光ラジカル重合開始剤を(c)成分ともいう。
【0036】
(A)成分であるポリマーマトリックス形成材料は、(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物0.5〜40重量%及び(a2)ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物を含む。以下、ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物を(a1)成分ともいい、ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物を(a2)成分ともいう。
【0037】
(b)成分である光ラジカル重合性モノマーは、(b1)アセナフチレン及びその誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のアセナフチレン化合物を含む。以下、アセナフチレン化合物を(b1)成分ともいう。
【0038】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料は、本発明の体積位相型ホログラム記録材料前駆体(以下、ホログラム記録材料前駆体又は前駆体ともいう)を、光ラジカル重合反応以外の重合反応によって、ラジカル重合反応性基を有する上記3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させることにより製造することが有利である。ホログラム記録材料前駆体は、上記(A)ポリマーマトリックス形成材料、(b)光ラジカル重合性モノマー及び(c)光ラジカル重合開始剤を主成分とする
【0039】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料又は前駆体は、上記(a)成分又は(A)成分、(b)成分及び(c)成分を主成分とする。ここで、(a)成分の3次元架橋ポリマーマトリックスは、ラジカル重合反応性基を有するポリマーであって、このラジカル重合反応性基は(A)成分中のラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物に由来する。そして、この3次元架橋ポリマーマトリックスのラジカル重合反応性基は、(b)成分の光ラジカル重合性モノマーが光ラジカル重合反応するとき、共重合しうる。
【0040】
本発明において、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックスは、ホログラム記録層の形成過程(in−situ)で形成させることが好ましい。有利には、ホログラム記録材料前駆体を使用してホログラム記録層を形成させる際、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させることが好ましい。この場合は、(a1)成分であるラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物及び(a2)成分であるラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物の他に、(b)成分である光ラジカル重合性モノマーと(c)成分である光ラジカル重合開始剤、場合によっては更に連鎖移動剤が共存する状態で3次元架橋ポリマーマトリックスが生成する。この際、(a1)成分や(b)成分のラジカル重合反応性基、連鎖移動剤の連鎖移動官能基が反応してしまうと、ホログラム記録材料としての性能が低下するので、(c)成分の共存下においても、(a1)成分や(b)成分のラジカル重合反応性基、連鎖移動剤の連鎖移動官能基を可及的に減少させることなく形成させることが好ましい。また、(a1)成分もラジカル重合反応性基を有するが、(a1)成分はラジカル重合反応性基を実質的に減少させることなく、ポリマーマトリックスの形成に関与することが好ましい。そのためには、(a1)成分はラジカル重合反応性基の他に、他の重合性官能基を有することが良い。他の重合性官能基は、ラジカル重合反応性基でなければ良く、また、エステル結合で重合する場合のように、一方がOH基、他方がカルボン酸基又はその誘導体基を有するように2種類以上の化合物からなっていても良い。なお、本明細書でいう重合は不飽和基が関与する重合の他、縮合、重付加を含み、モノマー(モノマーとしての化合物)は重合性を示すオリゴマーを含む。また、光ラジカル重合は光重合開始剤の存在する状態で重合する場合を含み、光ラジカル重合反応性基も同様である。そして、光ラジカル重合反応性基としては、オレフィン性二重結合を有する官能基が適する。また、光ラジカル重合及び光ラジカル重合反応性基を、ラジカル重合及びラジカル重合反応性基と略称することがある。
【0041】
ラジカル重合反応性基を実質的に減少させることなく3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させるための反応の例としては、光ラジカル重合とは別の反応形態で重合が進行する重縮合反応やイソシアネート-ヒドロキシル重付加反応(ポリウレタン形成)、イソシアネート-アミン重付加反応(ポリ尿素形成)、イソシアネート-チオール重付加反応、エポキシ-アミン重付加反応、エポキシ-チオール重付加反応、エピスルフィド-アミン重付加反応、エピスルフィド-チオール重付加反応などが挙げられる。有利には、イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応である。しかし、これに限らない。ラジカル重合反応性基を実質的に減少させることなく3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させるためには、光ラジカル重合とは別の反応形態での重合が優先的に生じるように、反応触媒等を配合したり、反応温度を調整したりすることが良い。
【0042】
ラジカル重合反応性基を実質的に減少させることなく3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させるための反応は、適当な触媒を用いることによって促進させることができる。例えば、イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応の触媒としては、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレートなどのスズ化合物、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、イミダゾール誘導体、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの三級アミン化合物などを用いることができる。これらの触媒は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0043】
イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応で得られるポリウレタンが3次元架橋ポリマーマトリックスとなる場合を例として説明すると、イソシアネート化合物とヒドロキシ化合物が(A)成分であるポリマーマトリックス形成材料となる。(A)成分は、ラジカル重合反応性基を有する(a1)成分と有しない(a2)成分を含むが、この場合、少なくとも一部のヒドロキシ化合物がラジカル重合反応性基を有する(a1)成分となり、非光重合性の残りのヒドロキシ化合物及びイソシアネート化合物が(a2)成分となることが望ましい。なお、3次元架橋ポリマーマトリックスとなるためには、イソシアネート化合物又はヒドロキシ化合物の少なくとも一方が平均して2より多いイソシアネート基又はヒドロキシル基を有することが望ましい。
【0044】
(a2)成分となるイソシアネート化合物としては、1分子中に2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物又はその混合物が使用される。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタン−4,4',4' '−トリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート(H12MDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、シクロヘキサン−1,3,5−トリイソシアネート及びこれらのイソシアネート化合物から得られる三量体、ビウレット体、アダクト体、プレポリマーなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0045】
(a2)成分の一部となるヒドロキシ化合物としては、1分子中に2以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物又はその混合物が使用される。例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートジオール類などが挙げられる。ポリマーマトリックス形成のためのイソシアネート-ヒドロキシル重付加反応で使用されるイソシアネート化合物として1分子中に2個のイソシアネート基を有するもの(ジイソシアネート化合物)を選択する場合は、3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させるために、ヒドロキシ化合物として1分子中に3個以上のヒドロキシル基を有するものを使用することが好ましい。これらのヒドロキシ化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0046】
(a1)成分は前記一般式(1)で表される化合物であるが、単独で用いても2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。(a1)成分は、1分子中に2個以上のヒドロキシル基を有し、且つラジカル重合反応性基を有するポリヒドロキシ化合物がある。一般式(1)において、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表すが、好ましくは炭素数6〜30で酸素原子、硫黄原子を含んでも良い2価の芳香族基である。R1、R2はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表す。ここで、R3はアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基であり、nは1〜4の数である。L2は芳香環を有しても良い2価の基、好ましくは炭素数1〜20で酸素原子、硫黄原子を含んでも良い2価の基を表す。
【0047】
一般式(1)で表される化合物の中でも前記式(2)〜(5)で表される化合物が(a1)成分として好ましい。式(2)〜(5)において、R1はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表し、L3は酸素原子、硫黄原子、−C(O)O−又は−N(R6)−を表し、L4は単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基又はアルキレン基を表す。ここで、nは1〜4の数を表し、R3はアルキレン基であり、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。そして、式(1)〜(5)で同一の記号は原則として同一の意味を有するが、独立に変化する。
【0048】
式(2)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物などが挙げられる。
【0049】
式(3)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物などが挙げられる。
【0050】
式(4)で表される化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物などが挙げられる。
【0051】
式(5)で表される化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂のビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物などが挙げられる。
【0052】
前記式(1)又は(2)〜(5)で表される化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0053】
(a1)成分であるラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物又は前記式(1)で表される化合物の含有率としては、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックス(前駆体の場合は(A)成分であるポリマーマトリックス形成材料)に対して0.5〜40重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましく、2〜6重量%が更に好ましい。別の観点からは、3次元架橋ポリマーマトリックスに導入されるラジカル重合反応性基の濃度として、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックス又は(A)成分であるポリマーマトリックス形成材料全体に対して0.01〜1.2mol/kgが好ましく、0.025〜0.4mol/kgがより好ましく、0.05〜0.2mol/kgが更に好ましい。ラジカル重合反応性基が多過ぎると、ホログラム記録に伴うホログラム記録層の体積変化(収縮)が許容範囲より大きくなって記録データが劣化したり、ホログラム記録に伴うホログラム記録層の硬化が進み過ぎて感度が、特に多重記録時において損なわれることがある。一方、ラジカル重合反応性基が少な過ぎると、充分な回折効率が得られなかったり、記録保持性が低下する場合がある。このような(a1)成分に由来する単位構造をポリマーマトリックスに導入することで、構造に由来する高屈折率及び剛直性によると思われる効果により、記録データの高いコントラストと記録保持性とを両立させることができる。また、(a1)成分及び(a2)成分となる化合物は2種以上使用することができるが、これらの化合物の1以上の組合せは屈折率差が0.05以上となることが好ましい。
【0054】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料は、コヒーレントな活性エネルギー線からなる参照光及び情報光を同時に照射して生じる明暗の干渉パターンを屈折率コントラストとして記録することを目的としており、この材料からなる体積位相型ホログラム記録媒体では、前記屈折率コントラストの少なくとも一部は、露光後に一部の(b)成分である光ラジカル重合性モノマーが干渉パターンの暗部から明部へと拡散移動することにより形成される。この屈折率コントラストが高いと、ホログラムの読み出し時の信号強度が高くなるので、高い屈折率コントラストが得られるよう拡散移動する光ラジカル重合性モノマーと3次元架橋マトリックスポリマーとの屈折率差が大きいものが望ましい。しかし、この3次元架橋マトリックスポリマーと光ラジカル重合性モノマーとの屈折率差が大きすぎると界面での散乱が大きくなり濁りが生じ記録性が低下する。本発明においては3次元架橋ポリマーマトリックス形成材料に、屈折率差の絶対値が0.05以上となる組合せを含む2種又は3種以上の化合物の混合物を用いることで、3次元架橋ポリマーマトリックスの屈折率を調整することができ、この3次元架橋ポリマーマトリックスポリマーと光ラジカル重合性モノマーとの屈折率差を読み出し時の信号強度がより高く、かつ、濁りが発生しない状態にコントロールすることができるものである。
【0055】
本発明のホログラム記録材料には、上記(a)成分の他に、(b)成分である光ラジカル重合性モノマーと(c)成分である光ラジカル重合開始剤が配合される。光が照射されることにより(c)成分はラジカルを発生して、(b)成分の重合を生じさせる。この際、(b)成分のラジカル重合反応性基の少なくとも一部は、ポリマーマトリックスに存在するラジカル重合反応性基と反応して共重合する。そして、(b)成分から生じるポリマー又は(b)成分は、ポリマーマトリックスと相溶して高い透明性を示すことが望ましい。そして、(b)成分として適切なものを使用することによってホログラム記録材料の感度や記録データのコントラストを更に高めることができる。
【0056】
(b1)成分のアセナフチレン化合物は平均分子量の比較的小さい重合体を形成することが知られている。このような平均分子量の比較的小さい重合体を形成する光ラジカル重合性モノマーをホログラム記録材料に適用することにより、所定の光照射あたりのラジカル重合性モノマーの重合度(生成ポリマーの平均分子量)を抑えてモノマーを効率的に利用することができ、ホログラム記録材料の多重記録性を改善することができる。
【0057】
本発明において、(b)成分である光ラジカル重合性モノマーは、ホログラム記録に用いるコヒーレントな活性エネルギー線により開始される光ラジカル重合反応を起こし、3次元架橋ポリマーマトリックスと相溶するものであり、アセナフチレン化合物を必須成分として含む。(b1)成分のアセナフチレン化合物の配合量は、(b)成分である光ラジカル重合性モノマー全体の50wt%以上であることが好ましく、70wt%以上であることがより好ましい。
【0058】
(b1)成分のアセナフチレン化合物としては、式(6)で表される構造を持つアセナフチレン又はその誘導体から選ばれる化合物がある。この化合物は、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
【化3】

式中、R7はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。炭化水素基としてはアルキル基として例えばメチル基、エチル基、n−ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基等の分岐状アルキル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の環状アルキル基等が挙げられる。また、アリール基として例えばフェニル基、トリル基、メシチル基等が挙げられる。好ましくは水素原子、メチル基又はフェニル基であり、更に好ましくは水素原子又はメチル基である。また、R7が炭化水素基であり、隣接して存在する場合、二つの炭化水素基が互いに結合して脂環式構造又は芳香族環構造を形成してもよい。より好ましいR7は、水素、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基である。R7が水素以外の置換基である場合、その置換基の数はアセナフチレン化合物1分子当り、1又は2であることが好ましい。
【0059】
(b)成分である光ラジカル重合性モノマーの配合量は、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックスに導入されるラジカル重合反応性基を有する化合物単位の含有率によって調整することが好ましい。(a)成分中のラジカル重合反応性基に対する(b)成分の光ラジカル重合性応性基のモル比率は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。しかし、1.0以上であることが好ましい。
【0060】
(c)成分である光ラジカル重合開始剤としては、公知である種々の光ラジカル重合開始剤を用いることができ、ホログラム記録に用いるコヒーレントな活性エネルギー線の波長に応じて適宜選択して用いることが良い。好ましい光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0061】
(c)成分である光ラジカル重合開始剤の添加量は、使用する光ラジカル重合開始剤の種類、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックス中のラジカル重合反応性基の濃度及び(b)成分である光ラジカル重合性モノマーの配合量によって異なるため一概には決められないが、ホログラム記録材料全体に対して0.05〜10重量%の範囲が好ましく、0.1〜5重量%の範囲がより好ましい。
【0062】
本発明のホログラム記録材料は、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分の他に、連鎖移動剤を含んでいてもよい。ここで、連鎖移動剤とは光記録時のラジカル重合反応において成長末端からラジカルを移動させることができる化合物であり、生成ポリマーの重合度を効果的に制御できるものであることが好ましい。有利には、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させる際に(A)成分であるポリマーマトリックス形成材料や(b)成分である光ラジカル重合性モノマーと実質的に反応しないものが好ましい。このような連鎖移動剤としては、ジスルフィド化合物、ジチオカルボン酸エステル類、スチレン誘導体などが挙げられる。
【0063】
ジスルフィド化合物としては、ジフェニルジスルフィド、ジ−p−トリルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。
【0064】
ジチオカルボン酸エステル類としては、ジチオ安息香酸クミル、ジチオ安息香酸ベンジルなどが挙げられる。
【0065】
スチレン誘導体としては、α−メチルスチレンダイマー、好ましくは2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを主成分として含むα−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0066】
連鎖移動剤の添加量は、使用する連鎖移動剤の種類、(a)成分である3次元架橋ポリマーマトリックス中のラジカル重合反応性基の濃度及び(b)成分である光ラジカル重合性モノマーの配合量によって異なるため一概には決められないが、ホログラム記録材料全体に対して0.1〜20重量%の範囲が好ましく、0.2〜10重量%の範囲がより好ましい。連鎖移動剤の添加量が多過ぎると、光記録時のラジカル重合反応において生成ポリマーの重合度が上がらず記録感度が損なわれることがある。一方、(d)連鎖移動剤の添加量が少な過ぎると、生成ポリマーの重合度の制御が不充分となり多重記録性が低下する場合がある。
【0067】
本発明のホログラム記録材料又はその前駆体には、上記成分の他に3次元架橋ポリマーマトリックスと相溶し、上記成分とは非反応性の化合物を配合することができる。ここで、非反応性化合物とは、3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させるための反応及びホログラム記録時の光ラジカル重合反応のいずれにも実質的に関与しないものを指し、3次元架橋ポリマーマトリックスと相溶するものの中から選ばれる。かかる非反応性化合物としては、例えば、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤などが挙げられる。好ましくは、可塑剤である。可塑剤の役割としては、ホログラム記録材料中における光ラジカル重合性成分の拡散を助け、ホログラム記録時の屈折率の変調構造形成に要する時間を短縮することなどが考えられる。
【0068】
可塑剤として適切な屈折率を有するものを選ぶことによって、記録データのコントラストを改善することができる。例えば、光ラジカル重合性モノマーとして1分子中に芳香環又は硫黄原子を有する高屈折率化合物を用いる場合、可塑剤としては、前記高屈折率の光ラジカル重合性モノマーの屈折率に対して0.05以上低い屈折率を有するものが好ましい。
【0069】
その他、増感剤、界面活性剤、安定化剤などの添加剤を必要に応じて更に含んでも良い。
【0070】
本発明の体積位相型ホログラム記録媒体は、例えば、イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応の場合、(A)成分であるポリマーマトリックス形成材料を事前に反応させてウレタンプレポリマー等として用いることもできる。ウレタンプレポリマーは通常良く用いられる方法により調製できる。すなわちイソシアネート化合物とポリオール化合物を、(NCO/OH)の比2.5〜4.0で混合し、100〜110℃で3〜5時間反応させることにより得られる。使用するポリオール化合物はラジカル重合反応性基を有していても、有していなくても良い。
【0071】
本発明の体積位相型ホログラム記録媒体に光を照射してホログラムを形成したのちは、これを硬化させて記録を固定する。硬化の方法は特に限定されるものでなく光硬化、熱硬化いずれの硬化方法でも適用できる。
【0072】
本発明の体積位相型ホログラム記録媒体は、ホログラム記録材料を基材上に形成して使用する。具体的には、1つの支持体上に又は2つの支持体間に形成して使用する。
【0073】
本発明の体積位相型ホログラム記録媒体の作製は、液状の体積位相型ホログラム記録材料前駆体組成物を、ガラス板やポリカーボネート板、ポリメチルメタクリレート板、ポリエステルフィルムなどの基材上に塗布又は基材間に注入し、重合させ、光ラジカル重合反応性基を実質的に減少させることなく3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させる方法が適する。この際、ホログラム記録層上には酸素や水分を遮断する目的で保護層を設けても良い。保護層には、例えば上記の基板と同等なもの、あるいはポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール又はポリエチレンテレフタレートなどのフィルムやガラスなどを用いることができる。
【0074】
前述のように作製された体積位相型ホログラム記録媒体は、従来から知られている方法により干渉露光を行って体積位相型ホログラムを形成することができる。例えば、レーザ光やコヒーレンス性(可干渉性)の優れた光(例えば、波長300〜1200nmの光)による通常のホログラフィ露光装置による二光束干渉縞露光によりその内部に干渉縞が記録される。この段階で、記録された干渉縞による回折光が得られ、ホログラムとすることができる。本発明のホログラム記録材料に適した光源としては、He−Neレーザ(633nm)、Arレーザ(515、488nm)、YAGレーザ(532nm)、He−Cdレーザ(442nm)、あるいは青色DPSSレーザ(405nm)等が利用できる。また、上記レーザ等によるホログラム記録後に、キセノンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ等による紫外線(UV)全面照射、あるいは60℃程度の熱を光記録用組成物膜に加えることにより、未反応のまま残っている一部光ラジカル重合性化合物の重合、物質移動に伴う相分離が促進され、よりホログラム特性に優れたホログラムが得られる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
〔記録媒体作製〕
イソシアネート化合物としてヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)(屈折率nD=1.453)30.8重量部、ヒドロキシ化合物としてポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、G−400、平均分子量409)(屈折率nD=1.469)48.1重量部、ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物として9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(新日鐵化学(株)製、ASF−400)(屈折率nD=1.616)4.0重量部、イソシアネート−ヒドロキシル重付加反応(ポリウレタン形成)の触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.03重量部、光ラジカル重合開始剤としてビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イルガキュア784)1.2重量部、光ラジカル重合性モノマーとしてアセナフチレン(新日鐵化学(株)製)(屈折率nD=1.678)4.0重量部、可塑剤としてO−アセチルクエン酸トリブチル(東京化成工業(株)製)(屈折率nD=1.441)11.8重量部からなる記録材料前駆体を調製した。この記録材料前駆体を、シリコンフィルムスペーサー(厚み0.2mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(50mm×50mm、厚み0.5mm、一方はアルミニウム蒸着層(反射層)付き)の空隙に導入した。窒素雰囲気下、室温で一晩静置した後、60℃で5時間加熱処理した。2枚のガラス基板の間にホログラム記録材料が形成された光情報記録媒体を得た。
【0076】
〔ページデータ記録・再生〕
上記手順により作製した記録媒体を用い、パルステック工業(株)製コリニアホログラフィックメディア評価システムSHOT−1000を用いて、以下の条件でホログラムの記録・再生を行った。再生(読み出し)は、記録(書き込み)の30秒後に行った。情報パターンは標準装備のもの(約1.6kBのテスト情報パターン、データピクセル数26112個)を用いた。
データ記録条件:
記録・再生レーザー波長 532nm
記録レーザー強度 1.0mW(パルス幅 10nsec、パルス間隔 50μsec)
情報光/参照光強度比 0.67
データ再生条件:
再生レーザー強度 0.1mW(パルス幅 10nsec、パルス間隔 50μsec)
再生エネルギー 約0.13〜2.6mJ/cm2(再生情報のSNRにより調整)
【0077】
〔記録感度の評価〕
記録時のパルス数を変えることによって照射レーザーのエネルギー(mJ/cm2)を変え、再生情報のビットエラーレート(BER)を測定した。BERは、通常、記録エネルギーの増加に伴って低下する傾向にある。ここでは、光情報記録媒体の記録感度として、ほぼ良好な再生情報(BER<10-3)が得られる最小の記録エネルギーを用いた。結果を表1に示す。
【0078】
〔多重特性の評価〕
光情報記録媒体の多重特性の評価としては、VPS(Variable Pitch Spiral)法として知られている、記録位置を周辺部から中心に向かってスパイラル状にシフトさせる方法を用いた。記録ホログラム数は9×9=81個、シフトピッチは40μmとした。この場合、最後(81個目)のホログラムの多重数は25多重となる。光情報記録媒体の多重特性が不充分であると、記録ホログラム数が増えるに従って再生情報のS/N比(SNR)が低下する。ここでは、光情報記録媒体の多重特性として、連続してSNR>2.5が得られる最大の記録ホログラム数を用いた。結果を表1に示す。
【0079】
〔記録感度と多重特性との両立性の評価〕
光情報記録媒体の前記記録感度と前記多重特性とは、通常、トレードオフの関係を示す傾向にある。ここでは、記録感度Sと多重特性Mとの両立性を示す指標Yとして、下記式によって算出した数値を用いた。
Y= (多重特性)/(記録感度)1/2
結果を表1に示す。
実施例2
可塑剤としてのO−アセチルクエン酸トリブチルを10.8重量部、連鎖移動剤としての2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(屈折率nD=1.569)を1.0重量部使用した以外は実施例1と同様にして、光情報記録媒体を得た。
【0080】
実施例3
ヘキサメチレンジイソシアネート 30.7重量部、ポリエーテルトリオール 48.3重量部、ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物として9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物(合成品)(屈折率nD=1.630)4.0重量部、ジブチルスズジラウレート 0.03重量部、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム 1.2重量部、アセナフチレン 4.0重量部、O−アセチルクエン酸トリブチル 10.8重量部からなる記録材料前駆体を実施例1と同様にして調製し、シリコンフィルムスペーサー(厚み0.2mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(50mm×50mm、厚み0.5mm、一方はアルミニウム蒸着層(反射層)付き)の空隙に導入した。窒素雰囲気下、室温で一晩静置した後、60℃で5時間加熱処理した。2枚のガラス基板の間にホログラム記録材料が形成された光情報記録媒体を得た。
実施例2及び3で得た光情報記録媒体についても、実施例1と同様な評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
比較例1
光ラジカル重合性モノマーとしてジビニルベンゼン(新日鐵化学(株)製、DVB960)(屈折率nD=1.579)4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様にして光情報記録媒体を得た。
【0083】
比較例2
光ラジカル重合性モノマーとして3,3’−ジビニルビフェニル(新日鐵化学(株)製)(屈折率nD=1.639)4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様にして光情報記録媒体を得た。
【0084】
比較例3
光ラジカル重合性モノマーとして3,3’−ジビニルビフェニル(新日鐵化学(株)製)(屈折率nD=1.639)4.0重量部を用いた以外は実施例2と同様にして光情報記録媒体を得た。
実施例1と同様に評価した記録感度S、多重特性M及び両立性の指標Yを表2にまとめて示す。
【0085】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)3次元架橋ポリマーマトリックス、(b)光ラジカル重合性モノマー及び(c)光ラジカル重合開始剤を主成分とする体積位相型ホログラム記録材料であって、
(a)3次元架橋ポリマーマトリックスが(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物0.5〜40重量%及び(a2)ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物を含む(A)ポリマーマトリックス形成材料から形成されたラジカル重合反応性基を有する3次元架橋ポリマーマトリックスであり、
前記(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物が下記式(1)で表される化合物であり、
前記(b)光ラジカル重合性モノマーが(b1)アセナフチレン及びその誘導体からなる群から選ばれる1種以上のアセナフチレン化合物を含むことを特徴とする体積位相型ホログラム記録材料。
【化1】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表し、R3はアルキレン基であり、nは1〜4の数であり、L2は芳香環を有しても良い2価の基を表す。)
【請求項2】
(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物が、下記式(2)〜(5)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の体積位相型ホログラム記録材料。
【化2】

(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表し、L3は酸素原子、硫黄原子、−C(O)O−又は−N(R6)−を表し、L4は単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基又はアルキレン基を表す。また、nは1〜4の数を表し、R3はアルキレン基を表し、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
(A)ポリマーマトリックス形成材料が、屈折率差の絶対値が0.05以上となる組合せを含む2種又は3種以上の化合物の混合物である請求項1〜5いずれかに記載の体積位相型ホログラム記録材料。
【請求項4】
(a)3次元架橋ポリマーマトリックスと相溶する少なくとも1種の非反応性化合物を更に含む請求項1〜3いずれかに記載の体積位相型ホログラム記録材料。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の体積位相型ホログラム記録材料が、1つの支持体上に又は2つの支持体間に形成されてなる体積位相型ホログラム記録用光情報記録媒体。
【請求項6】
(A)ポリマーマトリックス形成材料、(b)光ラジカル重合性モノマー及び(c)光ラジカル重合開始剤を主成分とする体積位相型ホログラム記録材料前駆体であって、
(A)ポリマーマトリックス形成材料が(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物0.5〜40重量%及び(a2)ラジカル重合反応性基を有さないマトリックス形成化合物を含み、且つ光ラジカル重合反応以外の反応によって重合して3次元架橋ポリマーマトリックスを形成するものであり、
前記(a1)ラジカル重合反応性基を有するマトリックス形成化合物が下記式(1)で表される化合物であり、
前記(b)光ラジカル重合性モノマーが(b1)アセナフチレン及びその誘導体からなる群から選ばれる1種以上のアセナフチレン化合物を含むことを特徴とする体積位相型ホログラム記録材料前駆体。
【化3】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、L1は酸素原子、硫黄原子又は−(OR3nO−を表し、R3はアルキレン基であり、nは1〜4の数であり、L2は芳香環を有しても良い2価の基を表す。)
【請求項7】
請求項6に記載の体積位相型ホログラム記録材料前駆体を、光ラジカル重合反応以外の反応によって重合してラジカル重合反応性基を有する3次元架橋ポリマーマトリックスを形成させることを特徴とする体積位相型ホログラム記録材料の形成方法。

【公開番号】特開2009−175304(P2009−175304A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12287(P2008−12287)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】