説明

作業装置の潤滑構造

【課題】 コスト増を抑制し、潤滑性の良い作業装置の潤滑構造を提供する。
【解決手段】 ヘッジトリマ1の動力伝達装置10は、駆動ギヤ11と、これに歯合して回転動する従動ギヤ13と、これに接続されて従動ギヤからの動力を伝達する伝動機構部20と、これからの動力を受けて所定作業を行う作業部50と、駆動ギヤ11、従動ギヤ13、伝動機構部20を回転自在に支持してグリスを収容するギヤケース60とを備え、伝動機構部20は従動ギヤ13と作業部50との間に枢結されたロッド25、25'を有する。動力伝達装置10の潤滑構造は、駆動ギヤ11、従動ギヤ13を囲むギヤケース60の内側面部81a、82aをこれらのギヤに近接して設け、これらのギヤの噛合い部15近傍とロッドの従動ギヤ側の大回動部27の移動軌跡範囲の近傍位置との間を第1連通溝68で繋ぐ。噛合い部15から送り出されるグリスは第1連通溝68に流れて大回動部27に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち式作業機、特にヘッジトリマ、草刈機、刈払機等の回転運動を往復運動に変換する伝動機構部を備えた作業装置の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
手持ち式作業機、例えば、ヘッジトリマは、回転運動を往復運動に変換する伝動機構部を備えている。この伝動機構部の潤滑には一般的にグリスが用いられているが、伝動機構部内の駆動部品へのグリス供給が不十分になると、焼付きや摩耗等が発生して伝動機構部が損傷する虞が生じる。そこで、グリス供給が不十分にならないように、定期的にグリスを補給すればよいが、この補給作業は作業者にとって煩わしい。
【0003】
一方、伝動機構部内の回転部にボールベアリングやニードルベアリングを装着してグリス補給を軽減可能な構造にしたり、伝動機構部に動力を伝達する従動ギヤ等に凹みや切欠きを設けてグリスの受容を容易にして潤滑性を向上させたりする手持ち作業装置が開発されている(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載の手持ち作業装置は、従動ギヤ(文献では歯車)の側面に取り付けられた偏心カム(文献では偏心器)に回動部(文献ではリング)が摺動可能に嵌合し、回動部にはこれから延びる刃が複数設けられている。このため、従動ギヤが回転動すると、偏心カムが従動ギヤと連動して回転して回動部及び刃が往復運動する。このとき、回動部の側面は従動ギヤの側面と摺接するため、これらの側面が焼付いたり摩耗したりする虞がある。そこで、従動ギヤの側面に潤滑油を受容可能な凹部(文献では凹み)を設けて焼付き等を防止している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−136784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の手持ち作業装置では、凹部に潤滑油を受容しても、従動ギヤや伝動機構部を収容するハウジングと従動ギヤや伝動機構部との間の隙間が大きいので、手持ち作業装置の姿勢によっては凹部に受容された潤滑油が流出して、十分な潤滑性能を発揮することができない場合がある。
【0007】
一方、ボールベアリングやニードルベアリングを装着した手持ち作業装置では、部品点数の増加によってコストが増大するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、手持ち作業装置のコストの増大を抑制し、潤滑性が良い作業装置の潤滑構造が要求されており、このような要望に応える作業装置の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため、本発明は、駆動源(例えば、実施形態におけるエンジン)からの動力を受けて回転動する駆動ギヤと、該駆動ギヤに歯合して駆動ギヤからの動力を受けて回転動する従動ギヤと、該従動ギヤに接続されて従動ギヤと連動して該従動ギヤからの動力を伝達する伝動機構部と、該伝動機構部からの動力を受けて所定作業を行う作業部と、少なくとも駆動ギヤ、従動ギヤ及び伝動機構部を回転自在に支持して潤滑剤(例えば、実施形態におけるグリス)を収容するギヤケースとを有してなる作業装置(例えば、実施形態におけるヘッジトリマ1)において、伝動機構部は従動ギヤと作業部との間で回動自在に連結されたロッドを有してなる作業装置の潤滑構造であって、駆動ギヤを囲むギヤケースの内側面部を該駆動ギヤに近接して設け、従動ギヤを囲むギヤケースの内側面部を該従動ギヤに近接して設け、駆動ギヤと従動ギヤとの噛合い部近傍とロッドの従動ギヤ側の回動部の移動軌跡範囲の近傍位置との間を連通する第1連通路(例えば、実施形態における第1連通溝68)をギヤケースに設け、駆動ギヤ及び従動ギヤの回転によって噛合い部から送り出される潤滑剤を第1連通路に流して回動部に供給することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、駆動ギヤに近接してギヤケースの内側面部を設け、従動ギヤに近接してギヤケースの内側面部を設け、噛合い部近傍とロッドの従動ギヤ側の回動部の移動軌跡範囲の近傍位置との間を第1連通路で繋ぐことにより、駆動ギヤ及び従動ギヤと、これらを囲む内側面部との間の隙間を小さくすることができる。このため、駆動ギヤと従動ギヤの噛合い部近傍の潤滑剤の圧力を高めることができ、この昇圧された潤滑剤をロッドの従動ギヤ側の回動部に供給することができる。その結果、ベアリング等を装着することなく少ない部品のままで、潤滑性の向上を効率よく図ることができる。特に、伝動機構部内の潤滑剤が少なくなった時でも、駆動ギヤと従動ギヤに付着する潤滑剤は遠心力によって、駆動ギヤと従動ギヤの歯部に移動するので、駆動ギヤと従動ギヤの噛合い部近傍から確実に回動部を潤滑することができる。
【0011】
また本発明は、第1連通路の一方側が、従動ギヤに設けられた偏心カムに摺動可能に嵌合するロッドの回動部(例えば、実施形態における大回動部27)の移動軌跡範囲の内側に開口して、潤滑剤を従動ギヤに嵌合する回動部の摺動面に供給することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、第1連通路の一方側を従動ギヤに設けられた偏心カムに摺動可能に嵌合するロッドの回動部の移動軌跡範囲の内側に開口させることにより、潤滑剤を偏心カムに対して摺動する回動部の摺動面に直接に導くことができ、摺動面の潤滑性をより向上させることができる。
【0013】
また本発明は、摺動面に凹部を設け、該凹部の移動軌跡範囲内に第1連通路の一方側を開口させて、潤滑剤を凹部に供給することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、摺動面に凹部を設け、この凹部の移動軌跡範囲内に第1連通路の一方側を開口させることにより、凹部に潤滑剤を直接に導くことができるので、摺動面での潤滑剤の受容がより有利となり、更に回動部の潤滑性を向上させることができる。
【0015】
さらに本発明は、ギヤケースのロッドの移動軌跡を囲む近接させた位置に内側面部を設け、偏心カム及びロッドの運動によって変化するギヤケース内の容積変動により発生する潤滑剤の圧力変動を利用して、潤滑剤を回動部に供給することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、ギヤケースのロッドの移動軌跡を囲む近接させた位置に内側面部を設け、偏心カム及びロッドの運動による潤滑剤の圧力変動を利用することにより、伝動機構部に潤滑剤のポンプ機能を持たせることができ、ベアリングを介入させずに少ない設計変更でコストの増大を招くこと無く、回動部の潤滑性の向上を図ることができる。
【0017】
また本発明は、偏心カム及びロッドの運動によって変化するギヤケース内の空間部のうち縮小される空間部の容積が略最小となる位置の付近に、縮小された空間部と摺動面とを連通する第2連通路を設けたことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、空間部が略最小となる付近でこの空間部と摺動面とを第2連通路によって連通することにより、高い圧力の潤滑剤を摺動面に供給することができ、更に回動部の潤滑性を向上させることができる。
【0019】
また本発明は、ロッドに第2連通路を設けたことを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、ロッドに第2連通路を設けることにより、摺動面と空間部とが第2連通路によって常に連通されるので、回動部の潤滑性を更に向上させることができる。
【0021】
また本発明は、摺動面に凹部を設け、該凹部に第2連通路の一端側を接続して、凹部内の空間部と縮小された空間部とを連通することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、摺動面に設けた凹部が第2連通路の一端側に接続することにより、この凹部に潤滑剤が直接に導かれるので、潤滑剤の受容がより有利となり、第2連通路からの潤滑剤の供給と相まって、回動部の潤滑性を更に向上させることができる。
【0023】
さらに本発明は、ギヤケースに潤滑剤を受容する受容部を設け、該受容部を、ロッドの運動によって仕切られるギヤケース内の2つの空間部にまたがることなく配置することを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、潤滑剤の受容部をロッドの運動によって仕切られた2つの空間部にまたがることなく設けることにより、請求項4から7のいずれかの発明の作用効果を低下させることなく、ギヤケース内の潤滑剤の収容量を増大させることができ、回動部の潤滑性を更に向上させることができる。
【0025】
また本発明は、第1連通路を、従動ギヤに設けられた偏心カム及びロッドの運動によって一定時間の間塞がれない位置に配置することを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、第1連通路はカム及びロッドの運動によって一定の時間塞がれない位置に配置されることにより、噛合い部から送り出された潤滑剤を容易に回動部に供給することができ、回動部の潤滑性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係わる作業装置の潤滑構造によれば、駆動ギヤに近接してギヤケースの内側面部を設け、従動ギヤに近接してギヤケースの内側面部を設け、噛合い部近傍とロッドの従動ギヤ側の回動部の移動軌跡範囲の近傍位置との間を第1連通路で繋ぐことにより、コストの増大を抑制し、潤滑性が良い作業装置の潤滑構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係わる作業装置の潤滑構造の好ましい実施の形態を図1から図7に基づいて説明する。本実施の形態は、枝や葉を刈り取るヘッジトリマの潤滑構造について説明する。図1(a)及び(b)は、ヘッジトリマ1の動力伝達装置10の下面図及び断面図を示している。動力伝達装置10は、図示しないエンジンからの動力を受けて回転動する駆動ギヤ11と、この駆動ギヤ11に歯合して駆動ギヤ11からの動力を受けて回転動する従動ギヤ13と、この従動ギヤ13の側面に取り付けられて従動ギヤ13と連動して従動ギヤ13からの動力を伝達する伝動機構部20と、この伝動機構部20からの動力を受けて枝や葉を刈り取る作業部50と、駆動ギヤ11、従動ギヤ13及び伝動機構部20を回転自在に支持してグリスを収容するギヤケース60とを有してなる。
【0029】
駆動ギヤ11は、図2(部品展開図)に示すように、軸部11aと軸部11aの先端部に形成された歯部11bとを有してなり、ギヤケース60内に装着されたベアリング61を介して回転自在に支持されている。従動ギヤ13は駆動ギヤ11のピッチ円直径より大径であり、従動ギヤ13の両側面には従動ギヤ13の回転中心軸線Sより外側に偏心した円形状の偏心カム21,21’が一体的に設けられている。これらの偏心カム21,21’は従動ギヤ13より小径であって一直線上に配置されている。
【0030】
伝動機構部20は、前述した一対の偏心カム21,21’と、各偏心カム21,21’に回動自在に嵌合したロッド25,25’とを有してなる。ロッド25,25’は板状であり、連結棒26と連結棒26の一端側に形成されて偏心カム21,21’に嵌合する円環状の大回動部27と、連結棒26の他端側に形成されて作業部50の基部に回動自在に嵌合して大回動部27より小径の円環状の小回動部28とを有してなる。大回動部27を偏心カム21,21’に嵌合すると、大回動部27の表側の側面と偏心カム21,21’の端面は略同一平面上に配置される。
【0031】
作業部50は、動力伝達装置10から延出する一対のブレード51,51’を有してなる。ブレード51,51’は板状であり、先端側に複数の刃をブレード51,51’の延びる方向に沿って配設してなる。一対のブレード51,51’は側面同士が対向するように配置されて、一方のブレード51は一方の偏心カム21に嵌合したロッド25に連結され、他方のブレード51’は他方の偏心カム21’に嵌合したロッド25’に連結されている。このため、駆動ギヤ11が回転動すると、伝動機構部20を介して一対にブレード51,51’が互いに異なる方向に往復動する。
【0032】
このように構成された駆動ギヤ11、従動ギヤ13、伝動機構部20及び作業部50の基部を収容するギヤケース60は、本体部63とこれを覆う蓋部70とを有してなる。本体部63は、図1(a)、(b)及び図2に示すように、平面視において略矩形状であり、本体部63の表面側には駆動ギヤ11、従動ギヤ13、伝動機構部20及び作業部50の基部を収容する本体側収容凹部64が形成されている。本体側収容凹部64は、駆動ギヤ11を収容する本体側筒状小凹部65と、従動ギヤ13及び伝動機構部20を収容する本体側筒状大凹部66と、作業部50の基部側を収容する本体側矩形凹部67とを有してなる。
【0033】
一方、蓋部70の裏面側には、本体側収容凹部64を覆うように形成された蓋側収容凹部71が形成されている。蓋側収容凹部71は、本体側筒状小凹部65と対向配置される蓋側筒状小凹部72と、本体側筒状大凹部66と対向配置される蓋側筒状大凹部73と、本体側矩形凹部67と対向配置される蓋側矩形凹部74とを有してなる。
【0034】
蓋部70が本体部63に固定されると、本体側筒状小凹部65及び蓋側筒状小凹部72、本体側筒状大凹部66及び蓋側筒状大凹部73、本体側矩形凹部67及び蓋側矩形凹部74のそれぞれが連続的に繋がり、駆動ギヤ11を収容する第1収容部81、従動ギヤ13及び伝動機構部20を収容する第2収容部82及び作業部50の基部を収容する第3収容部83が形成される。なお、蓋部70は、複数のボルトによって締結されて本体部63に固定される。
【0035】
第1収容部81の内側面部81aは、駆動ギヤ11に近接して配置され、第2収容部82の内側面部82aは従動ギヤ13及び伝動機構部20(偏心カム21,21’、ロッド25,25’)に近接して配置されている。
【0036】
第1収容部81と第2収容部82は互いに交差しており、各交差部分は互いに開口して第1収容部81と第2収容部82とを連通している。この交差部分には駆動ギヤ11と従動ギヤ13の歯部が突出して噛み合っている。以下、この駆動ギヤ11と従動ギヤ13とが噛合った部分を「噛合い部15」と記す。
【0037】
第1収容部81内に収容された駆動ギヤ11と第1収容部81との間の隙間、第2収容部82内に収容された従動ギヤ13及び伝動機後部20と第2収容部82との間の隙間、第3収容部83内に収容された作業部50の基部と第3収容部83との間の隙間には、潤滑剤となるグリスが注入されている。
【0038】
噛合い部15よりベアリング61側の本体部63には、ロッド25の大回動部27の斜線で示した移動軌跡Tの範囲のうち駆動ギヤ11側の近傍位置と噛合い部15の近傍位置との間を連通する第1連通溝68が形成されている。なお、この第1連通溝68は噛合い部15の近傍位置と大回動部27の移動軌跡Tの範囲の近傍位置とが連通していればよく、本体部63にこれらの間を繋ぐトンネル状の流路を設けるようにしても良い。第1連通溝68は、偏心カム21及びロッド25の大回動部27の運動によって一定時間の間塞がれない位置に配置されている。このため、噛合い部15近傍からグリスが容易に大回動部27に注入されて、大回動部27の潤滑性を向上させることができる。
【0039】
偏心カム21,21’に嵌合する大回動部27の摺動面27aには、第2収容部82内の空間部82bに開口する凹部27bが形成されている。この凹部27bの移動軌跡範囲内に前述した第1連通溝68の一方側が開口している。このため、図3(a)〜(c)に示すように、ロッド25’の大回動部27が第1連通溝68から離反した位置にあるときには、第1連通溝68から流出するグリスが摺動面27aに積極的に凹部27bに受容されることはないが、大回動部27が図3(d)に示す位置に移動すると、第1連通溝68から流出するグリスは凹部27bに受容されて摺動面27aに積極的に供給される。このため、大回動部27にベアリング等を装着することなく少ない部品のままで、摺動面27aの潤滑性の向上を効率的に図ることができる。特に、伝動機構部20内のグリス量が少なくなった時でも、駆動ギヤ11と従動ギヤ13に付着するグリスは遠心力によって、駆動ギヤ11と従動ギヤ13の歯部に移動するので、駆動ギヤ11と従動ギヤ13の噛合い部15の近傍から確実に大回動部27の摺動面27aを潤滑することができる。なお、凹部27bはロッド25,25'に限らず、偏心カム21,21'に設けても、ロッド25,25'に設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【0040】
また図4(a)及び(b)に示すように、ロッド25'の大回動部27の連結棒26側の付近に、さらに詳細には偏心カム21'及びロッド25'の運動によって変化する第2収容部82内の空間部82bのうち縮小される側の空間部82b'の容積が略最小となる位置の付近に、縮小される空間部82b'と、大回動部27の摺動面27aとを連通する第2連通路30が設けられている。また、第2連通路30の摺動面27a側の開口部には、第2収容部82内の空間部82b'に連通する凹部31が形成されている。
【0041】
このため、図5(a)〜(h)に示すように、第2収容部82内の斜線で示した空間部82bは、偏心カム21'(21)及びロッド25'(25)の矢印A方向の運動によって2つの空間部82b、82bに仕切られる。そして、これらの空間部82b、82bは偏心カム21'(21)及びロッド25'(25)の運動によって容積が変動し、2つの空間部82b、82bのうちの容積が縮小される側の空間部82bは、図5(b)〜(f)のように偏心カム21'(21)及びロッド25'(25)の運動によって暫時容積が縮小される。そして、図5(g)に示した位置に偏心カム21'(21)及びロッド25'(25)が移動すると、空間部82bの容積は略最小になる。その結果、この空間部82bに存在するグリスは圧縮されて昇圧して第2連通路30に流れ込んで凹部31で受容され、摺動面27aに供給される。つまり、伝動機構部20はグリスを送り込むためのポンプ機能を持つことになる。このため、摺動面27aにベアリングを装着することなく少ない設計変更でコストの増大を招くこと無く、摺動面27aの潤滑性の向上を効率的に図ることができる。なお、凹部31はロッド25'(25)に限らず、偏心カム21'(21)に設けても、ロッド25'(25)に設けた場合と同様の効果を得ることができる。また第2連通路30は、ロッド25に設けずとも、前述した原理を応用すれば、ギヤケース60や従動ギヤ13に設けても良い。
【0042】
さて、前述した実施例では、グリスは動力伝達装置10の作動と共に微量ではあるが次第に消費されて、グリス不足による各駆動部品の潤滑不足が生じる虞がある。このため、グリス不足を未然に防止するため、図6に示すように、第2収容部82の底面にグリスを受容する受容部85を設けてもよい。この受容部85は、図7(a)及び(h)に示すように、ロッド25'(25)によって仕切られる第2収容部82内の空間部82bが、図7(b)〜(f)に示すように、ロッド25'(25)の運動によって仕切られた2つの空間部82b、82bの一方側に配置されている。本実施例では、受容部85はロッド回転方向(矢印A方向)の下流側に位置する空間部82bに設けられている。
【0043】
この受容部85の形状は、2つの空間部82b、82bにまたがらない様な略半円形状に形成されており、図7(b)〜(g)に示す空間部82bの圧縮過程で、空間部82bから他の空間部82bにグリスが漏れにくくなっている。図7(b)〜(e)に示す空間部82bの圧縮過程において、空間部82bがグリスで満たされて、受容部85にグリスを受容する余地があれば、空間部82bから受容部85にグリスが流入する。更に図7(f)及び(g)に示すように、空間部82bの圧縮が最も高くなる付近では、受容部85は空間部82bに開口しなくなる様に形成されており、かつロッド25'(25)の第2連通路30は空間部82bに連通している。この為、図7(f)及び(g)に示す過程では、空間部82b内に満たされたグリスは、第2連通路30から摺動面27aに流入して潤滑する。また図7(f)及び(g)に示す過程における空間部82bの圧縮された容積が、第2連通路30と凹部31の合算された容積より大きくなるように、受容部85を配置すれば、グリスが第2連通路30を密に流れて、凹部31にグリスが十分に受容されるので、より効果的である。なお、図6及び7では受容部85を空間部82b側に設けているが、もちろん空間部82b側に設けても良く、また空間部82bと空間部82bのそれぞれに設けても良い。
【0044】
なお、図1に示すように、前述した実施例では、ギヤケース60の本体部63に加工を施した例を説明したが、もちろんギヤケース60の蓋部70に同様の加工を施しても良い。またこれまで説明した実施例では、ギヤケース60と駆動部品(駆動ギヤ11、従動ギヤ13、伝動機構部20)とが直接に接触する可能性があるが、ギヤケース60や蓋部70を保護するために図示しない保護部材を間に入れて、この保護部材に前述した第1〜第3収容部81〜83、受容部85等を同様に形成しても良い。また、従動ギヤ13に受容部85を設けて同様の効果を持たせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態に係わるヘッジトリマの動力伝達装置を示し、同図(a)は動力伝達装置の下面図であり、同図(b)は同図(a)のI−I矢視に相当する部分の断面図である。
【図2】この動力伝達装置の部分展開図を示す。
【図3】動力伝達装置に設けられた第1連通路とロッドとの位置関係を示す動力伝達装置の下面図である。
【図4】動力伝達装置に設けられた第2連通路を示し、同図(a)は動力伝達装置の下面図であり、同図(b)は同図(a)のIV−IV矢視に相当する部分の断面図である。
【図5】空間部の容積変動によるグリスの供給を説明するための説明図を示す。
【図6】受容部を設けた動力伝達装置の下面図を示す。
【図7】受容部によるグリスの供給を説明するための説明図を示す。
【符号の説明】
【0046】
1 ヘッジトリマ(作業装置)
11 駆動ギヤ
13 従動ギヤ
15 噛合い部
20 伝動機構部
21,21' 偏心カム
25,25' ロッド
27 大回動部(回動部)
27a 摺動面
27b,31 凹部
30 第2連通路
50 作業部
60 ギヤケース
68 第1連通溝(第1連通路)
81a,82a 内側面部
82b,82b 空間部
85 受容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を受けて回転動する駆動ギヤと、該駆動ギヤに歯合して前記駆動ギヤからの動力を受けて回転動する従動ギヤと、該従動ギヤに接続されて前記従動ギヤと連動して該従動ギヤからの動力を伝達する伝動機構部と、該伝動機構部からの動力を受けて所定作業を行う作業部と、少なくとも前記駆動ギヤ、前記従動ギヤ及び前記伝動機構部を回転自在に支持して潤滑剤を収容するギヤケースとを有してなる作業装置において、前記伝動機構部は前記従動ギヤと前記作業部との間で回動自在に連結されたロッドを有してなる作業装置の潤滑構造であって、
前記駆動ギヤを囲む前記ギヤケースの内側面部を該駆動ギヤに近接して設け、
前記従動ギヤを囲む前記ギヤケースの内側面部を該従動ギヤに近接して設け、
前記駆動ギヤと前記従動ギヤとの噛合い部近傍と前記ロッドの従動ギヤ側の回動部の移動軌跡範囲の近傍位置との間を連通する第1連通路を前記ギヤケースに設け、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転によって前記噛合い部から送り出される潤滑剤を前記第1連通路に流して前記回動部に供給することを特徴とする作業装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記第1連通路の一方側は、前記従動ギヤに設けられた偏心カムに摺動可能に嵌合する前記ロッドの前記回動部の移動軌跡範囲の内側に開口して、前記潤滑剤を前記偏心カムに嵌合する前記回動部の摺動面に供給することを特徴とする請求項1に記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項3】
前記摺動面に凹部を設け、該凹部の移動軌跡範囲内に前記第1連通路の一方側を開口させて、前記潤滑剤を前記凹部に供給することを特徴とする請求項2に記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項4】
前記ギヤケースの前記ロッドの移動軌跡を囲む近接させた位置に内側面部を設け、
前記偏心カム及び前記ロッドの運動によって変化する前記ギヤケース内の容積変動により発生する潤滑剤の圧力変動を利用して、前記潤滑剤を前記回動部に供給することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項5】
前記偏心カム及び前記ロッドの運動によって変化する前記ギヤケース内の空間部のうち縮小される空間部の容積が略最小となる位置の付近に、縮小された空間部と前記摺動面とを連通する第2連通路を設けたことを特徴とする請求項4に記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項6】
前記ロッドに前記第2連通路を設けたことを特徴とする請求項5に記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項7】
前記摺動面に凹部を設け、該凹部に前記第2連通路の一端側を接続して、前記凹部内の空間部と前記縮小された空間部とを連通することを特徴とする請求項6記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項8】
前記ギヤケースに前記潤滑剤を受容する受容部を設け、該受容部を、前記ロッドの運動によって仕切られる前記ギヤケース内の2つの空間部にまたがることなく配置することを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の作業装置の潤滑構造。
【請求項9】
前記第1連通路を、前記従動ギヤに設けられた偏心カム及び前記ロッドの運動によって一定時間の間塞がれない位置に配置することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の作業装置の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−254785(P2006−254785A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76577(P2005−76577)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000237215)富士ロビン株式会社 (27)
【Fターム(参考)】