説明

作業車両

【課題】HST走行装置を備えた作業車両における、エンジン中低速回転時にHST負荷トルクが過大となった場合の、エンストや過大なエンジン回転低下を防止する。
【解決手段】作業車両が、HST走行装置と、目標回転速度を設定するガバナ操作器の操作検出手段と、HSTポンプの容量制御器に目標回転速度に応じた制御信号を算出し出力するコントローラと、エンジンの回転検出手段を備え、コントローラはさらに、回転検出手段により検出した回転速度が、目標回転速度よりも低く設定した設定回転速度以下で、エンジンの最大トルク回転速度よりも低い所定回転速度以下またはエンジンの最大トルク回転速度以下の状態が所定時間以上継続したときには、制御信号を低減させ、急激な回転速度の低下およびエンジンの停止を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HST走行装置を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速装置であるHST走行装置を備えた例えばホイールローダのような作業車両の走行速度は、車輪を駆動するモータに作動油を供給するポンプの吐出量を、ポンプを駆動するエンジンの回転速度、作動油の走行負荷圧力などに基づいて制御することにより決められている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−331878号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した形態の作業車両には、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0004】
すなわち、HST走行装置の特性として、作業車両の走行速度は、走行負荷の変動に対してポンプの吐出量が変わり変動するので、作業車両に例えば路面清掃装置のような作業装置を装備して、エンジンを中低速回転にし、ポンプの吐出量を小さくし低速走行によって作業を行なう場合、けん引力が小さいので走行負荷が過大になるとエンストや過大なエンジン回転低下による操作性の悪化が発生する。
【0005】
したがって、オペレータはその都度、操作手段の例えばアクセルを操作して、エンジンの回転速度を制御しながら作業を行なう必要がある。したがってオペレータは、作業装置の操作と車両走行速度の操作の両方に注意が必要であり、運転操作が煩雑で、身体への負担が大きく、能率のよい作業が難しい。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、HST走行装置を備えた作業車両において、エンジン中低速回転時にHST負荷トルクが過大となった場合、エンストや過大なエンジン回転低下による操作性の悪化を防止することができる、作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記課題を解決する作業車両として、HST走行装置と、HSTポンプを駆動するエンジンの目標回転速度を設定するガバナ操作器の操作量を検出する操作検出手段と、HSTポンプの容量制御器に該目標回転速度に応じた制御信号を算出し出力するコントローラと、エンジンの回転速度を検出する回転検出手段と、を備え、該コントローラはさらに、回転検出手段により検出した回転速度が、該操作量に応じた目標回転速度よりも低く設定した設定回転速度以下で、該エンジンの最大トルク回転速度よりも低い所定回転速度以下またはエンジンの最大トルク回転速度以下の状態が所定時間以上継続したときには、該制御信号を低減させ、HSTポンプの吸収トルクを低減させ、急激な回転速度の低下およびエンジンの停止を防止する、ことを特徴とする作業車両が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従って構成された作業車両は、回転検出手段により検出した回転速度が、目標回転速度よりも低く設定した設定回転速度以下で、エンジンの最大トルク回転速度よりも低い所定回転速度以下またはエンジンの最大トルク回転速度以下の状態が所定時間以上継続したときには、HSTポンプの容量制御器への制御信号を低減させ、HSTポンプの吸収トルクを低減させ、急激な回転速度の低下およびエンジンの停止を防止する。
【0009】
したがって、エンジン中低速回転時にHST負荷トルクが過大となった場合、エンストや過大なエンジン回転低下による操作性の悪化を防止できる。そして従来の、作業装置の操作と車両走行速度の操作の両方に注意が必要で、運転操作が煩雑で、身体への負担が大きく、能率のよい作業が難しい問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に従って構成された作業車両について、代表的な作業車両である、ホイールローダにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0011】
図6を参照してホイールローダについて説明する。ホイールローダ2は、前車輪4および作業腕装置6を装備した前車体8と、後車輪10、エンジン室12、運転室14ならびに後述のHST走行装置を装備した後車体16を備えている。作業腕装置6にはクイックカプラ18を介して、作業装置である回転ブラシ、サイドブラシなどを備えた路面清掃装置20が取付けられている。路面清掃装置20を取付けたホイールローダ2は、低速度で走行し路面の清掃作業を行う。
【0012】
図1を参照して説明する。ホイールローダ2(図6)は、前車輪4および後車輪10を駆動するHST走行装置22と、HSTポンプ22aを駆動するエンジンEの目標回転速度を設定するガバナ操作器であるガバナペダル24の操作量を検出する操作検出手段であるペダル操作センサ26と、HSTポンプ22aの容量制御器22bにこの目標回転速度に応じた制御信号を算出し出力するコントローラ28と、エンジンEの回転速度を検出する回転検出手段である回転速度センサ30を備えている。
【0013】
HST走行装置22は、エンジンEによって駆動される可変容量型の上記のHSTポンプ22aと、前車輪4および後車輪10に出力軸を連結したHSTモータ22cを閉ループの油圧回路で接続した周知のものである。HSTポンプ22aの容量制御器22bは、コントローラ28からの制御信号である電気信号を、例えば斜板式可変容量型ポンプにおいては、電磁弁によって油圧信号に変換し、その出力油圧によって斜板を傾転作動させる制御機構を備えた周知のものである。
【0014】
ペダル操作センサ26は、ガバナペダル24の踏込み量を、ポテンショメータによって踏込み角度に応じた電気信号として出力する。
【0015】
図2を参照して説明する。HSTポンプ22aの吐出量Qは、エンジン回転速度の増減に応じた前記の制御信号に応じて矢印Xで示す、「小」容量と「大」容量の間で増減設定されるとともに、HSTモータ22cの走行負荷(油圧力P)とのバランスによって、走行負荷(油圧力P)が減ると増量し、負荷が増すと減量するように、例えば馬力一定になるように制御される。
【0016】
コントローラ28は、ペダル操作センサ26の出力である目標回転速度と回転速度センサ30の出力であるエンジンEの実際の回転速度を比較する比較器28a、およびこれらの回転速度に基づいてHSTポンプ22aの容量制御器22bに回転速度に応じた制御信号を算出し出力する演算器28bを備えている。演算器28bはタイマー28cを備えている。
【0017】
演算器28bは、前述のエンジンEの目標回転速度を設定するガバナペダル24のペダル操作センサ26の出力に基づいて目標回転速度に応じた制御信号を算出するとともに、回転速度センサ30により検出した回転速度が、目標回転速度よりも低く設定した設定回転速度(閾値3と呼ぶ)以下で、エンジンEの最大トルク回転速度(閾値1と呼ぶ)よりも低い所定回転速度(閾値2と呼ぶ)以下またはエンジンの最大トルク回転速度(閾値1)以下の状態が所定時間(閾値4と呼ぶ)以上継続したときには、低減させた制御信号を算出する。
【0018】
「閾値1」としての最大トルク回転速度は、図3に示すように、エンジン最大トルクのエンジン回転速度である。
【0019】
「閾値2」としての所定回転速度は、図3に示すように、エンジンの最大トルク回転速度とローアイドル回転速度の略中間の回転速度である。
【0020】
「閾値3」としての設定回転速度は、図4に示すように、ガバナ操作量に応じてローアイドルから閾値1まで直線的に変化する目標回転速度に対して、同じガバナ操作量においてそれよりも低く設定した直線的に変化する回転速度である。低く設定する回転速度の大きさは、作業車両の作業装置の種類、作業形態などによって決定される。
【0021】
「閾値4」としての所定時間Tは、演算器28bのタイマー28cによって設定され、その大きさは、作業車両の作業装置の種類、作業形態などによって決定される。
【0022】
また、制御信号の低減させる量も、作業車両の作業装置の種類、作業形態などによって決定される。
【0023】
図5を参照してコントローラ28の制御手順について説明する。
【0024】
ステップS1において、ペダル操作センサ26の出力であるエンジンEの目標回転速度と回転速度センサ30の出力であるエンジンEの実際の回転速度をとり込み、ステップS2に進む。
【0025】
ステップS2において、エンジンEの実際の回転速度が閾値3以下であるか判定し、閾値3以下のときにはステップS3に進み、以下でないときにはステップS4に進む。
【0026】
ステップS3において、エンジンEの実際の回転速度が最大トルク回転速度(閾値1)よりも低い所定回転速度(閾値2)以下であるか判定し、閾値2以下のときにはステップS5に進み、以下でないときにはステップS6に進む。
【0027】
ステップS4において、ガバナ操作量に応じて算出した制御信号を容量制御器22bに出力し、ステップS1に戻る。
【0028】
ステップS5において、ガバナ操作量に応じて制御信号を低減算出し容量制御器22bに出力し、ステップS1に戻る。
【0029】
ステップS6においては、エンジンEの実際の回転速度が最大トルク回転速度(閾値1)以下であるか判定し、閾値1以下のときにはステップS7に進み、以下でないときにはステップS4に進む。
【0030】
ステップS7においては、エンジンの最大トルク回転速度(閾値1)以下の状態が所定時間T(閾値4)以上であるか判定し、以上であるときはステップS5に進み、以上でないときにはステップS4に進む。
【0031】
上述したとおりの作業車両2の作用効果について説明する。
【0032】
本発明に従って構成された作業車両2は、回転検出手段30により検出した回転速度が、目標回転速度よりも低く設定した設定回転速度(設定回転速度)以下で、エンジンの最大トルク回転速度(閾値1)よりも低い所定回転速度(閾値2)以下またはエンジンの最大トルク回転速度(閾値1)以下の状態が所定時間(閾値4)以上継続したときには、HSTポンプ22aの容量制御器22bへの制御信号を低減させ、HSTポンプ22aの吸収トルクを低減させ、急激な回転速度の低下およびエンジンの停止を防止する。
【0033】
したがって、エンジン中低速回転時にHST負荷トルクが過大となった場合、エンストや過大なエンジン回転低下による操作性の悪化を防止できる。そして従来の、作業装置の操作と車両走行速度の操作の両方に注意が必要で、運転操作が煩雑で、身体への負担が大きく、能率のよい作業が難しい問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に従って構成された作業車両の構成説明図。
【図2】HSTポンプの油圧出力の特性線図。
【図3】エンジンの回転速度と出力トルクの関係に、最大トルク回転速度(閾値1)および所定回転速度(閾値2)を併記した線図。
【図4】ガバナ操作量とエンジン回転速度の関係について、目標回転速度およびそれより低く設定した設定回転速度(閾値3)で示した線図。
【図5】コントローラの制御手順を示すフローチャート。
【図6】作業車両の代表例であるホイールローダの側面図。
【符号の説明】
【0035】
2:ホイールローダ(作業車両)
22:HST走行装置
22a:HSTポンプ
22b:容量制御器
24:ガバナペダル(ガバナ操作器)
26:ペダル操作センサ(操作検出手段)
28:コントローラ
30:回転速度センサ(回転検出手段)
E:エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HST走行装置と、
HSTポンプを駆動するエンジンの目標回転速度を設定するガバナ操作器の操作量を検出する操作検出手段と、
HSTポンプの容量制御器に該目標回転速度に応じた制御信号を算出し出力するコントローラと、
エンジンの回転速度を検出する回転検出手段と、を備え、
該コントローラはさらに、
回転検出手段により検出した回転速度が、該操作量に応じた目標回転速度よりも低く設定した設定回転速度以下で、
該エンジンの最大トルク回転速度よりも低い所定回転速度以下またはエンジンの最大トルク回転速度以下の状態が所定時間以上継続したときには、
該制御信号を低減させ、HSTポンプの吸収トルクを低減させ、急激な回転速度の低下およびエンジンの停止を防止する、
ことを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−133469(P2010−133469A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308758(P2008−308758)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】