説明

作業車両

【課題】走行機体の左右傾斜に拘わらず作業機を圃場面に対して予め定められた左右傾斜姿勢で保持させる左右傾斜制御を行う作業車両であって、低コストで、精度の高い左右傾斜制御を実行することが可能な作業車両を提供する。
【解決手段】前輪1側のフロントアクスルケース23の左右傾斜によって走行機体3が左右傾斜することを抑制するために、走行機体3をフロントアクスルケース23に左右傾斜可能に支持し、フロントアクスルケース23の左右傾斜角を検出する前輪側傾斜角検出手段と、走行機体3の走行速度を検出する車速検出手段とを設け、制御部は、前輪側傾斜角検出手段によって事前に検出されたフロントアクスルケース23の左右傾斜角と、車速検出手段からの検出結果とによって、走行機体3のその後の左右傾斜角を予測し、予測結果及び傾斜角検出手段36の検出結果に基づいて左右傾斜制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行機体の後方に連結された作業機の左右傾斜制御を行う作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
左右一対の前輪及び後輪によって支持された走行機体の後側に作業機を昇降可能に連結し、作業機を走行機体に対して左右傾斜させるアクチュエータと、走行機体の左右傾斜角を検出する傾斜角検出手段とを備え、傾斜角検出手段の検出結果に基づき、アクチュエータを介して、走行機体の左右傾斜に拘わらず作業機を圃場面に対して予め定められた左右傾斜姿勢で保持させる左右傾斜制御を行う制御部を設けた作業車両が従来公知である。
【0003】
ところで、圃場に凹凸等が多い場合や、左右の車輪間の距離(トレッド)が狭い場合には、作業機の左右傾斜姿勢が頻繁に変更されるが、このように左右傾斜姿勢が頻繁に変化する状況下においては、傾斜角検出手段の検出結果のみによって、作業機を所定の左右傾斜姿勢で保持させることは難しかった。
【0004】
このような事情から、上記傾斜角検出手段に加えて、左右傾斜速度を検出する角速度センサを設け、傾斜角検出手段及び角速度センサの検出結果に基づいて、左右傾斜制御の精度を向上させた特許文献1に示す作業車両が公知になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−101736号公報(第1−2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記文献の作業車両では、角速度センサが高価な部材であるため、コストを低く抑えることが困難になる。
本発明は、走行機体の左右傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備え、傾斜角検出手段の検出結果に基づき、アクチュエータを介して、走行機体の左右傾斜に拘わらず作業機を圃場面に対して予め定められた左右傾斜姿勢で保持させる左右傾斜制御を行う作業車両であって、低コストで、精度の高い左右傾斜制御を実行することが可能な作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、左右一対の前輪1及び後輪2によって支持された走行機体3の後側に作業機を昇降可能に連結し、作業機を走行機体3に対して左右傾斜させるアクチュエータ18と、走行機体3の左右傾斜角を検出する傾斜角検出手段36とを備え、傾斜角検出手段36の検出結果に基づき、アクチュエータ18を介して、走行機体3の左右傾斜に拘わらず作業機を圃場面に対して予め定められた左右傾斜姿勢で保持させる左右傾斜制御を行う制御部19を設けた作業車両であって、前輪1側のフロントアクスルケース23の左右傾斜によって走行機体3が左右傾斜することを抑制するために、該走行機体3をフロントアクスルケース23に左右傾斜可能に支持し、フロントアクスルケース23の左右傾斜角を検出する前輪側傾斜角検出手段32と、走行機体3の走行速度を検出する車速検出手段31とを設け、制御部19は、前輪側傾斜角検出手段32によって事前に検出されたフロントアクスルケース23の左右傾斜角と、車速検出手段31からの検出結果とによって、走行機体3のその後の左右傾斜角を予測し、該予測結果及び傾斜角検出手段36の検出結果に基づいて上記左右傾斜制御を実行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、前輪側のフロントアクスルケースの左右傾斜によって走行機体が左右傾斜することを抑制された状態において、角速度センサに比べて安価な前輪側傾斜角検出手段及び車速検出手段を利用して、走行機体のその後の左右傾斜角を予測し、該予測値及び傾斜角検出手段の検出結果に基づいて作業機の左右傾斜制御を行うことが可能であるため、この左右傾斜制御を低コスト且つ高精度に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の作業車両を適用した農業用トラクタの側面図である。
【図2】フロントアクスルケースの構成を示す正面図である。
【図3】制御部のブロック図である。
【図4】左右傾斜制御を行う制御部のメインルーチンのフロー図である。
【図5】制御部が行うデータ取得周期演算のサブルーチンのフロー図である。
【図6】制御部による割込み処理によってデータ取得周期毎に実行されるデータ取得のサブルーチンのフロー図である。
【図7】制御部が行う傾き制御補正のサブルーチンのフロー図である。
【図8】リフトロッドシリンダにおける偏差に対する伸縮スピードの特性グラフである。
【図9】制御部が行う傾き傾き出力のサブルーチンのフロー図である。
【図10】フロントアクスルケースの他例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の作業車両を適用した農業用トラクタの側面図である。同図に示すトラクタは、左右一対の操向輪である前輪1,1及び左右一対の後輪2,2によって、支持された走行機体3と、走行機体3の後方に昇降リンク4を介して昇降自在に連結されるロータリ耕耘装置等の作業機(図示しない)とを備えている。
【0011】
上記走行機体3は、前後方向に延びる機体フレーム6上の前部にエンジン7を設置し、該エンジン7上方をボンネット8によって開閉自在に覆うとともに、該ボンネット8の後方に操縦部9を設置し、エンジン7の後方に前後方向に長いミッションケース11を配置することにより、構成されている。操縦部9では、後輪2用の左右のフェンダカバー12の間に座席13を配置し、該座席13の前方にステアリングハンドル14を設置している。
【0012】
上記昇降リンク4は、左右一対のロアリンク14,14と、該ロアリンク14,14上方に位置して前後方向に延びるトップリンク16とを備えており、上下揺動するロアリンク14,14及びトップリンク16の後端部には、図示しないオートヒッチを介して、作業機が着脱自在に連結されている。
【0013】
走行機体3の後端部には、左右一対のリフトアーム17,17が上下揺動可能に支持され、この左右のリフトアーム17,17の後端部には、リフトロッド18,18を介して、上述の左右のロアリンク14,14がそれぞれ吊下げ支持されている。この各リフトアーム17を油圧式のリフトシリンダ(図示しない)によって、上下揺動させることにより、昇降リンク4に連結された作業機が昇降駆動される。
【0014】
また、前記左右のリフトロッド18,18の一方は、油圧式のリフトロッドシリンダに(アクチュエータ)よって、構成されており、このリフトロッドシリンダ18を伸縮作動させることにより、左右のリフトロッド18,18の他方に対して一方の長さ変更され、作業機の左右傾斜角を変更することが可能になる。
【0015】
本トラクタには、このリフトロッドシリンダ18を介して、作業機の左右傾斜を制御するマイコン等からなる制御部19(図3参照)が設けられている。この制御部19は、このリフトロッドシリンダ18を介して、走行機体3の左右傾斜姿勢に拘わらず、作業機を圃場面に対して予め定めた所定の左右傾斜姿勢で、保持する左右傾斜制御を実行する。
【0016】
このように左右傾斜調整可能に走行機体3に連結される作業機は、走行機体3の後端部から後方に突出するPTO軸21によって、駆動される。PTO軸21には、ミッションケース11内のトランスミッション(図示しない)によって変速されたエンジン動力が伝動される。
【0017】
上記左右の後輪2,2は、ミッションケース11の後端側に設置された後輪2用のリヤアクスルケース22の左右端側にそれぞれ軸支されている。このリヤアクスルケース22は、走行機体3の後端部を支持するとともに、トランスミッション11からの動力を後輪2に伝動する伝動機構を内装している。
【0018】
上記左右の前輪1,1は、走行機体3の前部下面側を支持する左右方向のフロントアクスルケース23の左右端側に軸支されている。このフロントアクスルケース23には、トランスミッション11からの動力を前輪1に伝動する伝動機構を内装さている。
【0019】
図2は、フロントアクスルケースの構成を示す正面図である。図1及び図2に示すように、フロントアクスルケース23の左右方向中央部を、機体フレーム6の前部下面側に設置された前後の支持ブラケット24,26の間において、前後方向の軸心回りに軸支することにより、フロントアクスルケース23全体が、左右傾斜自在に走行機体3に取付けられ、これによって走行機体3に対してフロントアクスルケース23がローリング自在に構成される。
【0020】
具体的には、前側の支持ブラケット24から後方に向かって前後方向のセンタピン27が突設され、このセンタピン27が、フロントアクスルケース23の図示しない軸受によって軸支されることにより、走行機体3が、センタピン27の軸回りにローリング自在に、フロントアクスルケース23に支持される。ちなみに、後側の支持ブラケット26は、フロントアクスルケース23内に取付固定されるとともに、取付部材28を介して、センタピン27の延長線Lの軸心回り回動自在に走行機体3に取付支持されている。すなわち、取付部材28は、フロントアクスルケース23と一体で、センタピン27の軸回りに回動作動する。
【0021】
該構成によって、本トラクタは、左右の前輪1,1の高さが互いに異なるように左右傾斜した場合でも、走行機体3の左端と右端の高さが異なるように左右傾斜することが抑制される。このため、圃場に凹凸がある場合でも、その凹凸を、フロントアクスルアース23と走行機体3とのローリング作動によって許容し、走行機体3が左右傾斜姿勢が頻繁に変更されるのを抑制した状態で、安定した走行を行うことが可能になる。
【0022】
また、該構成のトラクタでは、圃場の凹凸を通過するように、走行機体3を前進側に直進走行させた場合、まず、左右一方側の前輪が凹凸を通過し、続いて、ホイールベースHB分だけ走行機体3が前進走行すると、該一方側の後輪が該凹凸を通過する。前輪1が上記凹凸を通過する際には、フロントアクスルケース23が走行機体3に対して所定量だけ左右傾斜(前後方向の軸心回りに回動)するため、走行機体3は圃場面に対して殆ど左右傾斜しないが、後輪2が上記凹凸を通過する際には、走行機体3自体が、上記所定量と略同程度、圃場面に対して左右傾斜(前後方向の軸心回りに回動)することになる。
【0023】
すなわち、走行機体3に対してフロントアクスルケース23が前後方向の軸心回りに回動した際の回動角である左右傾斜角(スイング角θ)は、その後に、圃場面に対して走行機体3が前後方向の軸心回りに回動した際の回動角である左右傾斜角(傾き角θ1)を、予測する上での指標になる。そして、ある時点でのスイング角θによって予測される傾き角θ1は、該ある時点での前輪1の位置に後輪2が達した時の傾き角θであり、そのため、走行機体3のホイールベースHBと、走行機体の走行速度である車速が分かれば、現在転のスイング角θから、傾き角θ1を予測することが可能になる。
【0024】
すなわち、事前に検出された車速と、フロントアクスルケース23のスイング角θによって、走行機体3のその後の傾き角θ1を予想し、この予想を利用することによって、精度の高い左右傾斜制御を行うことが可能になる。
【0025】
図3は、制御部のブロック図である。制御部19の入力側には、左右傾斜制御の実行・実行停止を切換える切換スイッチ29と、前後輪1,2の駆動軸等の回転速度を検知することにより上記車速を検出するピックアップセンサ等からなる車速検出手段31と、フロントアクスルケース23の上記スイング角θを検出するようにフロントアクスルケース23のローリング支点側(センタピン27側)に設置されたポテンショメータであるスイング角検出センサ(前輪側傾斜角検出手段)32と、左右水平方向に対する作業機の真横軸の傾斜角である作業機側傾き角X1の目標値となる設定角Gを設定する設定ボリューム33と、伸縮するリフトロッドシリンダ18の長さを検出するポテンショメータであるリフトロッドセンサ34と、走行機体3の上記傾き角θ1を検出する傾斜センサ(傾斜角検出手段)36と、リフトアーム17の上下揺動角を検出することにより作業機の昇降高さを検出するポテンショメータである昇降高さ検出手段37とが接続されている。
【0026】
一方、制御部19の出力側には、圧油の供給・排出によってリフトロッドシリンダ18を伸長作動させる伸長側電磁バルブ38と、圧油の供給・排出によってリフトロッドシリンダ18を縮小作動させる縮小側電磁バルブ39とが接続されている。ちなみに、これらの電磁バルブ38,39は、リフトロッドシリンダ18の伸縮速度も変更調整できるように構成されている。
【0027】
上記リフトロッドセンサ34からの検出値は、走行機体3の真横軸に対する作業機の真横軸の傾斜角である作業機側スイング角Xを示している。走行機体3の傾き角θ1と、作業機側スイング角Xと、作業機側傾き角X1との間には、「X=X1−θ1」の関係が成立する。このため、作業機側傾き角X1を設定角Gで保持されるためには(作業機の予め定められた左右傾斜姿勢で保持させるためには)、リフトロッドシリンダ18を伸縮制御して、作業側スイング角Xの値を、「G−θ1」(以下、この値を「偏差d」と呼ぶ)で保持する必要がある。
【0028】
このように作業側スイング角Xを、偏差dの値で保持するためには、走行機体3の傾き角θ1の値が常時必要になるが、本トラクタでは、この傾き角θ1を、傾斜センサ36から直接取得する他、作業機の左右傾斜の変化が激しい場合には、予め検出されたスイング角θから、該傾き角θ1を予測し、これを用いる。すなわち、上述の制御部19は、左右傾斜制御の処理において、傾き角θ1の補正のための傾き制御補正のサブルーチンを実行する。
【0029】
図4は、左右傾斜制御を行う制御部のメインルーチンのフロー図である。切換スイッチ29によって、左右傾斜制御の実行が開始されると、ステップS1に進む。ちなみに、上述の趣旨から、この左右傾斜制御は、走行機体3が前進側に走行している場合のみ実行され、後進側に走行している場合には実行されない。
【0030】
ステップS1では、初期設置を行う。この初期設定では、設定ボリューム33による設定角Gの設定や、走行機体3のホイールベースHBの値の入力や、左右の前輪1,1の間の距離であるトレッドTの値の入力等を行う。そして、ステップS2に進む。
【0031】
ステップS2では、フロントアクスルケース23のスイング角θに関する情報と取得する周期であるデータ取得周期を演算するデータ取得周期演算のサブルーチンを実行し、該処理が完了すると、ステップS3に進む。ステップS3では、前述した傾き制御補正のサブルーチンを実行し、該処理が完了すると、ステップS4に進む。
【0032】
ステップS4では、ステップ3の傾き制御補正のサブルーチンにおいて、取得された傾き角θ1の値に基づいて、作業機が、圃場面(左右水平方向)に対して、予め設定した左右傾斜姿勢で保持されるように(作業側傾き角X1を設定角Gで保持されるように)、リフトロッドシリンダ18を伸縮作動させる傾き出力のサブルーチンを実行し、該処理が終了すると、ステップS2に戻る。以下、ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS2→・・・と処理を繰返す。
【0033】
図5は、制御部が行うデータ取得周期演算のサブルーチンのフロー図である。データ取得周期演算のサブルーチン処理が開始されると、ステップS11に進む。ステップS11では、車速検出手段31を介して走行機体3の前進走行側の車速を読込み、ステップS12に進む。ステップS12では、データ取得周期を、「K/走行速度」によって求め、該サブルーチンの処理を終了させる。ちなみに、Kはデータ取得距離を示し、例えば20mmに設定し、走行速度が0.5km/hである場合には、データ取得周期は、144msになる。ちなみにデータ取得距離Kは、必ずホイールベースHBを等分に分割した値に設定され、例えばホイールベースHBが1400mmで、データ取得距離Kが20mmの場合、ホイールベースHBは70個の等分に分割されることになる。
【0034】
図6は、制御部による割込み処理によってデータ取得周期毎に実行されるデータ取得のサブルーチンのフロー図である。データ取得のサブルーチンが実行されると、ステップS21に進む。ステップS21では、スイング角検出センサ31によって、フロントアクスルケース23のスイング角θを取得し、ステップS22に進む。ステップS22では、傾斜センサ36によって、走行機体3の傾き角θ1を取得し、ステップS23に進む。
【0035】
ステップS23では、左右の前輪1、1の上下高さを差である前輪上下量Dを「D=T×tan(θ−θ1)」の式によって求める。この前輪上下量Dは、「θ1=arctan(D/T)」として傾き角θ1を予想できる値であり、「θ−θ1」とするのは、左右方向に水平なフロントアクスルケース22に対してリヤアクスルケース22を含む走行機体3が左右傾斜することにより検出されるスイング角θと、左右方向に水平な走行機体3に対してフロンアクスルケース22が左右傾斜することにより検出されるスイング角θとを区別するために、このような計算を行っている。
【0036】
ステップS24では、この前輪上下量Dを、制御部19のメモリ等のデータ領域に確保されているキューに代入する処理を行い、該サブルーチンの処理を終了させる。このキューには、少なくともホイールベースHB分の前輪上下量Dを格納することが可能であり、ホイールベース1400mmで、取得距離が20mmの場合、少なくとも70個分の過去の前輪上下量Dを記憶できるようにしている。前進走行時、前輪1が位置している箇所に後輪2が位置するまでの前輪上下量Dが、取得距離毎に、キューに個別に記憶されている。ちなみに、キューに最新の前輪上下量Dのデータが格納されると、最古の前輪上下量Dのデータが廃棄され、常に、キュー内のデータは最新に保たれている。
【0037】
図7は、制御部が行う傾き制御補正のサブルーチンのフロー図である。傾き制御補正のサブルーチンの処理が開始されると、ステップS31に進む。ステップS31では、現在後輪2が位置している箇所に前輪1が位置していた際の前輪上下量Dをキューから取得し、ステップS32に進む。ちなみに、このようにキューから取得された前輪上下量Dは、図5及び図6に示すサブルーチンの処理によって、車速が正確に加味されたものになる。
【0038】
ステップS32では、前回の傾き制御補正のサブルーチンの実行時に取得された直前前輪上下量D0を取得するとともに、「H=D−D0」によって、前輪上下量Dの変位量Hを取得するとともに、現在の前輪上下量Dの値を、直前前輪上下量D0に代入して、次回の傾き制御補正のサブルーチンの実行時に利用できるようにする。そして、ステップS33に進む。
【0039】
ステップS33では、変位量Hの値が予め定めた所定値αによりも大きいか否かを確認し、大きい場合には、ステップS34に進む一方で、α以下の場合には、ステップS35に進む。
【0040】
図8は、リフトロッドシリンダにおける偏差に対する伸縮スピードの特性グラフである。リフトロッドシリンダ18は、特性1〜特性5の5つの出力特性を有している。全ての出力特性において、偏差dが大きくなるほど、伸縮スピードを増加させるが、偏差dに対する増加量は、特性1→特性2→特性3→特性4→特性5の順番で大きくなっている。
【0041】
図7に示すように、ステップS34では、変位量Hが大きくなるほど、出力特性を、特性1→特性2→特性3→特性4→特性5の順に設定してステップS36に進む一方で、ステップS35では、特性1に出力特性を設置してステップS36に進む。すなわち、総じて、変位量Hが大きい程、リフトロッドシリンダ18の伸縮スピードは高速に設定される。
【0042】
ステップS36では、前回の傾き制御補正のサブルーチンの実行時に取得された直前変位量H0を取得し、変位速度Vを、「V=H−H0」によって求めるとともに、現在の変位量Hを、直前変位量H0に代入して、次回の傾き制御補正のサブルーチンの実行時に利用できるようにする。そして、ステップS37に進む。ちなみに、変位速度Vは、該サブルーチンの実行間隔の変位量Hの変化率であり、速度に相当する値である。
【0043】
ステップS37では、変化速度Vが予め定めた所定値βよりも大きいか否かを確認し、大きい場合には、ステップS38に進み、β以下の場合には、ステップS39に進む。
【0044】
ステップS38では、作業機の左右傾斜姿勢が激しく変化する可能性があるものとして、前輪上下量Dから「arctan(D/T)」によって演算される値を、予想される傾き角θ1とみなして、該サブルーチンの処理を終了させ、ステップS4において、この予想される傾き角θ1に基づいて、作業車両の左右傾斜制御を行う。
【0045】
ステップS39では、傾斜センサ36の出力が安定する所定時間が経過しているか否かを検出し、経過していない場合には、ステップS38に進み、経過している場合には、ステップS40に進む。ステップS40では、傾斜センサ36の検出値を、正確な値であるものとして、傾き角θ1とし、該サブルーチンの処理を終了させ、ステップS4において、傾斜センサ36から検出された傾き角θ1に基づいて、作業車両の左右傾斜制御を行う。
【0046】
以上のようにして、ステップS38において、走行機体3の傾き角θ1の補正処理が実行される。
【0047】
図9は、制御部が行う傾き傾き出力のサブルーチンのフロー図である。傾き出力のサブルーチンの処理が開始されると、ステップS51に進む。ステップS51では、偏差dを求め、ステップS52に進む。ステップS52では、偏差dの大きさが不感帯に範囲内であるか否かを確認し、不感帯の範囲外であれば、ステップS53に進み、不感帯範囲内であれば、ステップS54に進む。ステップS53では、作業側スイング角Xの値が偏差dとなるようにリフトロッドシリンダ18を、伸縮作動させ、該サブルーチンの処理を終了させる。ちなみに、ステップS53では、上述した図8に示す出力特性に対応した速度で、リフトロッドシリンダ18を伸縮させる。ステップS54では、不感帯の範囲であるため、リフトロッドシリンダ54の伸縮作動を停止させ、該サブルーチンの処理を終了させる。
【0048】
図10は、フロントアクスルケースの他例を示す正面図である。同図に示すフロントアクスルケース23では、前輪側傾斜角検出手段32を、フロントアクスルケース23の左右水平方向に対する左右傾斜角を検出する傾斜センサによって構成してもよい。また、この場合、フロントアクスルケース23のスイング角θは、2つの傾斜センサ32,36によって、求める。
【符号の説明】
【0049】
1 前輪
2 後輪
3 走行機体
18 リフトロッドシリンダ(アクチュエータ,リフトロッド)
19 制御部(マイコン)
23 フロントアクスルケース
31 車速検出手段(ピックアップセンサ)
32 スイング角検出センサ(前輪側傾斜角検出手段,傾斜センサ)
36 傾斜センサ(傾斜角検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前輪(1)及び後輪(2)によって支持された走行機体(3)の後側に作業機を昇降可能に連結し、作業機を走行機体(3)に対して左右傾斜させるアクチュエータ(18)と、走行機体(3)の左右傾斜角を検出する傾斜角検出手段(36)とを備え、傾斜角検出手段(36)の検出結果に基づき、アクチュエータ(18)を介して、走行機体(3)の左右傾斜に拘わらず作業機を圃場面に対して予め定められた左右傾斜姿勢で保持させる左右傾斜制御を行う制御部(19)を設けた作業車両であって、前輪(1)側のフロントアクスルケース(23)の左右傾斜によって走行機体(3)が左右傾斜することを抑制するために、該走行機体(3)をフロントアクスルケース(23)に左右傾斜可能に支持し、フロントアクスルケース(23)の左右傾斜角を検出する前輪側傾斜角検出手段(32)と、走行機体(3)の走行速度を検出する車速検出手段(31)とを設け、制御部(19)は、前輪側傾斜角検出手段(32)によって事前に検出されたフロントアクスルケース(23)の左右傾斜角と、車速検出手段(31)からの検出結果とによって、走行機体(3)のその後の左右傾斜角を予測し、該予測結果及び傾斜角検出手段(36)の検出結果に基づいて上記左右傾斜制御を実行する作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−65619(P2012−65619A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214612(P2010−214612)
【出願日】平成22年9月25日(2010.9.25)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】