信号処理装置、及びレーダ装置
【課題】周波数成分を平滑化してピーク周波数を求め、各ビート信号におけるピーク周波数のビート信号を用いて方位角を検出する場合に、誤検出を防止する。
【解決手段】 ピーク周波数検出手段が、ビート信号群の周波数成分を平滑化したときに極大値が形成されるピーク周波数を検出し、ビート信号抽出手段が、前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出し、方位角検出手段が、前記抽出された抽出ビート信号のうち、第1の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号と、第2の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号との位相差に対応する方位角を検出するので、同一物体から得られたビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、誤検出を防止できる。
【解決手段】 ピーク周波数検出手段が、ビート信号群の周波数成分を平滑化したときに極大値が形成されるピーク周波数を検出し、ビート信号抽出手段が、前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出し、方位角検出手段が、前記抽出された抽出ビート信号のうち、第1の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号と、第2の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号との位相差に対応する方位角を検出するので、同一物体から得られたビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、誤検出を防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信信号を探索領域に送信するとともに探索領域からの反射信号をアンテナ群で受信し、送信信号と個々のアンテナで受信した受信信号を混合してビート信号群を生成するレーダ送受信機の信号処理装置に関し、特に、前記ビート信号群の位相差に基づき目標物体の方位角を検出する信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相モノパルス方式のレーダ装置は、探索領域にレーダ信号を送信し、複数の受信用アンテナで受信した反射信号の位相差から、反射物つまり目標物体の方位角を検出する。かかる位相モノパルス方式のレーダ装置は、小型かつ簡易な構成により実現でき、車載用レーダ装置として用いられる。特許文献1には、位相モノパルス方式の車載用レーダ装置の例が記載されている。
【0003】
車載用レーダ装置の場合、電波法の規定によりミリ波長のレーダ信号を用いる。よって、レーダ装置は、ミリ波長の受信信号を取扱い易い中間周波数にダウンコンバートしてから信号処理を行い、目標物体(例えば他の車両)の方位角を検出する。
【0004】
図1は、車載用の位相モノパルス式のレーダ装置による、目標物体の方位角検出方法を説明する図である。このレーダ装置は、探索領域A1にレーダ信号(電磁波)Stを送信し、探索領域A1からの反射信号を2つのアンテナ12_1、12_2により受信信号Sr1、Sr2として受信する。このとき、周波数変調を施した連続波を送信信号Stとして用いることにより、反射信号の周波数は、反射物の相対速度に応じたドップラ周波数と相対距離に応じた遅延時間分、偏移する。よって、受信信号Sr1、Sr2には、反射物の相対距離と相対速度に応じて異なる周波数の反射信号が含まれる。
【0005】
次に、レーダ装置は、送信信号Stと受信信号Sr1、Sr2をミキシングして、送信信号Stと受信信号Sr1、Sr2との周波数差に対応する周波数を有するビート信号Sb1、Sb2を生成する。このとき、受信信号Sr1、Sr2に含まれる反射信号からは、それぞれの周波数偏移量の周波数を有するビート信号が生成される。
【0006】
ここで、アンテナ12_1、12_2の正面Fを方位角0度としたとき、方位角θに位置する目標物体Tからの反射信号Str1、Str2の経路長は目標物体の方位角θに応じてΔd異なるので、受信時間に差が生じる。よって、その受信時間差の分、反射信号Str1、Str2から生成されたビート信号Stb1、Stb2に位相差φbが生じる。そして、この位相差φb、アンテナ12_1、12_2の間隔d、及びビート信号Stb1、Stb2の波長λを用いると、次式から方位角θが算出される。
【0007】
θ=arcsin(λ・φb/(2π・d))。
【0008】
ところで、ビート信号Sb1、Sb2には、目標物体Tから得られるビート信号Stb1、Stb2のほかに、種々の反射物から得られるビート信号が含まれる。よって、レーダ装置は、目標物体Tの反射断面積が他の反射物より相対的に大きく、従って反射信号Str1、Str2のレベルが相対的に大きいことを利用して、目標物体Tから得られるビート信号Stb1、Stb2をビート信号Sb1、Sb2から検出する。具体的には、まずビート信号Sb1、Sb2をAD変換し、サンプリングデータをFFT(高速フーリエ変換)処理することで、それぞれの周波数成分fs1、fs2を検出する。すると、周波数成分fs1、fs2の分布形状における極大値がビート信号Stb1、Stb2に対応する。
【0009】
ここで、レーダ装置は、周波数成分fs1、fs2を曲線近似してそれぞれの極大値を求める代わりに、周波数成分fs1、fs2の平均値fs_avを求めることで、他の反射物によるビート信号を含むビート信号Sb1、Sb2を平滑化する。そして、平均値fs_avを曲線近似することで、その極大値が形成される周波数(ピーク周波数)fpを検出する。すると、周波数成分fs1、fs2の分布形状における極大値が形成される周波数は、ピーク周波数fpにより近似される。よって、レーダ装置は、各ビート信号Sb1、Sb2においてピーク周波数fpを有するビート信号を検出することで、ビート信号Stb1、Stb2とほぼ一致するビート信号を検出する。そして、その位相差に基づき目標物体Tの方位角θを求める。
【特許文献1】特開2003−255044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、同一の目標物体であっても、その反射断面積が大きく、あるいは突起物などがあると、異なる反射点から反射信号が得られる場合がある。すると、それぞれの反射点では相対距離が異なるので、異なる周波数のビート信号が得られる。
【0011】
例えば図2(A)に示すように、目標物体Tの反射点Ta1から反射信号と、反射点Ta2から反射信号を受信した場合には、反射点Ta1とTa2ではレーダ装置10からの相対距離が異なる。そして、例えば図2(B)に示すように、3つの受信用アンテナ12_1〜3で反射信号を受信してアンテナごとにビート信号を生成し、ビート信号の複数の異なる組合せから複数の方位角を求めて方位角の絞込みを行うレーダ装置において、2つのアンテナ(例えばアンテナ12_1、12_2)は反射点Ta1から反射信号Str1、2を受信し、他の1つのアンテナ(例えばアンテナ12_3)は反射点Ta2から反射信号Str3を受信する場合がある。
【0012】
すると、アンテナ12_1〜3による受信信号Sr1〜3から得られるビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3と、周波数成分fs1〜3の平均値fs_avは、図2(C)に示すようになる。すなわち、ビート信号Sb1、2の周波数成分fs1、2はピーク周波数fpで極大値を形成するが、ビート信号Sb3の周波数成分fs3はピーク周波数fpから乖離した周波数fxで極大値を形成する。そして、周波数成分fs3においてピーク周波数fpのビート信号は、その反射レベルが小さいので、目標物体Tからの反射信号でない可能性が大きい。よって、かかるビート信号Sb3におけるピーク周波数fxのビート信号と、ビート信号Sb1、2におけるピーク周波数fpのビート信号のいずれかとの組合せにおける位相差を用いて方位角を算出すると、誤検出のおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、周波数成分の平均値からピーク周波数を求め、各ビート信号におけるピーク周波数のビート信号を用いて方位角を検出する場合であっても、かかる誤検出を防止する信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の側面における信号処理装置は、アンテナ群を有するとともに、周波数変調した連続波を送信信号として探索領域に送信して当該探索領域からの反射信号を前記アンテナ群で受信し、前記送信信号と個々の前記アンテナで受信した受信信号との周波数差に対応する周波数を有するビート信号群を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記ビート信号群の周波数成分を平滑化したときに極大値が形成されるピーク周波数を検出するピーク周波数検出手段と、前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段と、前記抽出された抽出ビート信号のうち、第1の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号と、第2の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号との位相差に基づいて目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有することを特徴とする。
【0015】
上記側面における好ましい態様は、前記所定条件は、前記ピーク周波数またはピーク周波数帯域における周波数成分のレベルが、前記ビート信号群における前記ピーク周波数のビート信号のレベルの平均値、中央値、または、最大値から所定レベル小さい値のうちいずれか以上であることを特徴とする。
【0016】
上記側面における別の好ましい態様は、前記所定条件は、前記ピーク周波数帯域における周波数成分の分布形状が極大値を形成することであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記側面によれば、前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段を有するので、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できる所定条件を用いてビート信号を選別し、条件を満たすビート信号を抽出することで、同一目標物体からの反射信号によるビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、方位角の誤検出を回避できる。
【0018】
上記の好ましい態様によれば、ピーク周波数帯域における周波数成分のパワーが他のビート信号と比べて相対的に大きい場合に、ピーク周波数での周波数成分が極大値を形成する蓋然性が大きいことを利用して、前記所定条件は、前記ピーク周波数またはピーク周波数帯域における周波数成分のレベルが、前記ビート信号群における前記ピーク周波数のビート信号の平均値、中央値、または、最大値から所定レベル小さい値のうちいずれか以上であることとする。よって、かかる条件によりビート信号を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まるので、誤検出を確実に回避できる。
【0019】
上記の別の好ましい態様によれば、前記所定条件は、前記ピーク周波数帯域で極大値を形成することであるので、ピーク周波数帯域で周波数成分が極大値を形成することが直接的に確認できる。よって、このような条件によりビート信号を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まるので、誤検出を確実に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0021】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。レーダ装置10は、車両1の前部フロントグリル内、あるいはバンパー内に搭載され、フロントグリルやバンパー前面に形成されるレドームを透過して車両1前方の探索領域A1にレーダ信号(電磁波)を送信し、探索領域A1からの反射信号を受信する。
【0022】
そして、レーダ装置10は、受信信号からビート信号を生成して、これをマイクロコンピュータなどの信号処理装置により処理することで、探索領域A1内の目標物体が位置する方位角と相対距離、相対速度を検出する。目標物体には、車両1の先行車両、対向車や出会い頭に出くわす他車両などが含まれる。そして、検出結果に基づいて、車両1の図示されない制御装置が、先行車両に追従走行したり、他車両との衝突を回避したりするように車両1の各種アクチュエータを制御する。
【0023】
図4は、本実施形態におけるレーダ装置10の構成例を示す。レーダ装置10は、レーダ信号の送受信を行いビート信号を生成するレーダ送受信機30と、レーダ送受信機30が生成するビート信号を処理する信号処理装置14とを有する。
【0024】
レーダ送受信機30は、レーダ信号を送信する送信用アンテナ11と、所定間隔離間して設置された3つの受信用アンテナ12_1〜3とを有し、目標物体からの反射信号をアンテナ12_1〜3により受信する。そして、信号処理装置14は、後述するようにアンテナ12〜3での受信信号Sr1〜3から生成されるビート信号Sb1〜3の位相差に基づき、目標物体が位置する方位角を求める。よって、このレーダ装置は、位相モノパルス式のレーダ装置である。また、レーダ装置10は、周波数変調した(Frequency Modulated)連続波(Continuous Wave)をレーダ信号として用い、ビート信号Sb1〜3の周波数を解析することで、目標物体までの距離と目標物体の相対速度を検出するFM−CW(Frequency Modulated- Continuous Wave)方式を採用する。
【0025】
レーダ送受信機30は、送信系として、信号処理装置14からの指示に応答して、三角波状の周波数変調信号を生成する変調信号生成部16と、周波数変調信号に従って周波数変調された送信用レーダ信号Stを出力する電圧制御発振器(VCO)18と、送信用レーダ信号Stを電力分配する分配器20を有し、さらに、電力分配された送信用レーダ信号Stの一部をレーダ装置正面の基準方向Fに向け送信信号Stとして送信する送信アンテナ11を有する。
【0026】
また、レーダ送受信機30は、受信系として、受信用のアンテナ12_1〜3と、信号処理装置14の指示信号Scに応答して、受信アンテナ12_1〜3による受信信号Sr1、Sr2を時分割で切り替えて出力するスイッチ26とを有し、さらに、スイッチ26から出力される受信信号Sr1〜3のそれぞれと電力分配された送信用レーダ信号Stの一部Stとを混合して、送信信号Stと受信信号Sr1〜3それぞれとの周波数差に対応する周波数を有するビート信号Sb1〜3を生成するミキサ22と、ビート信号Sb〜3をそれぞれをサンプリングして、デジタルデータに変換するA/D変換器24とを有する。
【0027】
A/D変換器24を介して入力されるビート信号Sb1〜3のサンプリングデータは信号処理装置14に取り込まれる。
【0028】
信号処理装置14は、ビート信号Sb1〜3のサンプリングデータに対しFFT処理を実行し、周波数成分を検出するDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置を有する。この演算処理装置が、周波数成分検出手段14bに対応する。
【0029】
また、信号処理装置14は、FFT処理されたビート信号Sb1〜3を処理するマイクロコンピュータを有する。マイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する。
【0030】
そして、各ビート信号Sb1〜3の周波数成分を平滑化してその極大値が形成されるピーク周波数を検出するピーク周波数検出手段14c、ピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段14d、抽出ビート信号のうち、ピーク周波数のビート信号の位相差に基づき求められる方位角を目標物体の方位角として検出する方位角検出手段14e、ピーク周波数から目標物体の相対速度、相対距離を検出する相対速度・相対距離検出手段14f、これらの検出結果を図示されない車両1の制御装置に出力する出力手段14gは、各処理手順を定めたプログラムと、これを実行するCPUにより構成される。
【0031】
また、変調信号生成部16に変調信号の生成を指示する指示信号を出力し、スイッチ26に切替えの指示信号Scを出力することでレーダ送受信機30の送受信動作を制御する送受信制御手段14aは、制御手順を定めたプログラムと、これを実行するCPUにより構成される。
【0032】
図5は、レーダ送受信機30の動作を説明する図である。図5(A)、(B)では、横軸に時間、縦軸に周波数を示し、送信信号St、目標物体Tからの反射信号Str1〜3、反射信号Str1〜3から得られるビート信号Stb1〜3の周波数を示す。なお、図5(A)、(B)では、目標物体Tにおける反射信号Str1〜3の反射点は同じとする。
【0033】
まず、図5(A)に示すように、実線で示す送信信号Stの周波数は、周波数fmの三角波に従って、周波数偏移幅ΔF(中心周波数f0)で時間軸に対して直線的な上昇と下降とを反復する。以下では、送信信号Stの周波数上昇期間をアップ期間、周波数下降期間をダウン期間という。そして、送信信号Stの周波数に対し、破線で示す反射信号Strの周波数は、目標物体Tとの距離による遅延ΔT1と、目標物体の相対速度に応じたドップラ効果による周波数偏移ΔDを受ける。
【0034】
すると、図5(B)に示すように、反射信号Str1〜3の周波数変移の結果、ビート信号Stb1〜3の周波数は、アップ期間では周波数fu(以下、アップビート周波数fuという)、ダウン期間では周波数fd(以下、ダウンビート周波数fdという)となる。
【0035】
図6は、本実施形態における信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。図6に示す手順は、1対のアップ期間とダウン期間とからなる変調周期を1検出サイクルとして、検出サイクルごとに実行される。
【0036】
まず、周波数成分検出手段14bが、アップ期間におけるアンテナ12_1〜3ごとのビート信号Sb1〜3のサンプルデータをFFT処理して周波数成分を検出する。そして、ダウン期間におけるアンテナ12_1〜3ごとのビート信号Sb1〜3に対しても同じ処理を行う(S2)。ここにおいて、アップ期間でのビート信号Sb1〜3の周波数成分と、ダウン期間でのビート信号Sb1〜3の周波数成分が検出される。
【0037】
次に、ピーク周波数検出手段14cが、アップ期間でのビート信号Sb1〜3の周波数成分を平滑化してその極大値が形成されるピーク周波数を検出する。このとき、平滑化の方法としては、例えばビート信号Sb1〜3の周波数成分の平均を算出する方法が可能であるが、中央値を算出するなど、ほかの方法を用いても良い。そして、ビート信号抽出手段14dと、方位角検出手段14eが、アップ期間におけるビート信号Sb1〜3のそれぞれからアップ期間でのピーク周波数のビート信号を検出し、その位相差に対応した方位角を検出する。また、ダウン期間におけるビート信号Sb〜3に対して同じ処理を行う(S4)。ここにおいて、アップ期間における目標物体Tの方位角と、ダウン期間における目標物体Tの方位角が求められる。なお、この手順S4は、後に詳述する。
【0038】
そして、同一の目標物体からは同一の方位角と、同一の強度のビート信号が検出されることから、相対速度・相対距離検出手段14fが、アップ期間とダウン期間とで検出された方位角とビート信号の強度とが一致または近似する、アップビート周波数fu(正確には、アップビート周波数fuを近似するアップ期間でのピーク周波数)とダウンビート周波数fd(正確には、ダウンビート周波数fdを近似するダウン期間でのピーク周波数)とを対応付けする(S6)。ここにおいて、目標物体Tに対応したアップビート周波数fuとダウンビート周波数fdのペアが形成される。
【0039】
そして、相対速度・相対距離検出手段14fは、ペアが形成されたアップビート周波数fuと、ダウンビート周波数fdとを用いて、目標物体Tの相対距離と相対速度を検出する(S8)。なお、相対距離Rと相対速度Vは、アップビート周波数fu、ダウンビート周波数fd、送信信号Stの周波数変調周期fm、送信信号Stの中心周波数f0と周波数変調幅ΔF、及び光速Cから次式により算出される。
【0040】
R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm)
V=C・(fd−fu)/(4・f0)
そして、出力手段14gは、複数の目標物体が検出されたときに、そのなかから信頼性がある検出結果を確定する(S10)。具体的には検出履歴の接続回数が基準値以上のときに、信頼性があると判断する。
【0041】
そして、出力手段14gは、確定した検出結果について、車両制御の対象としての条件を満たすか否かにより、車両1の制御装置に出力する検出結果を選択する(S12)。例えば、レーダ信号の自車線前方の方位角に位置し一定距離範囲にある目標物体であれば追従走行制御の対象として選択される。また、探索領域A1端部に位置し一定距離以下の目標物体であれば、衝突対応制御の対象として選択される。そして、出力手段14gは、選択した検出結果を車両1の制御装置に向けて出力する(S14)。
【0042】
ここで、上記手順S4における方位角検出処理について、図7に従って、図8を参照しつつ説明する。
【0043】
図7は、上記手順S4における方位角検出処理の詳細な動作手順を説明するフローチャート図である。図8は、位相差を検出するビート信号の組合せについて説明する図である。
【0044】
まず、ピーク周波数検出手段14cが、ビート信号Sb1〜3の周波数成分を平滑化してその極大値が形成されるピーク周波数を求める(S42)。
【0045】
方位角検出手段14eは、ビート信号Sb1〜3の複数の異なるビート信号対において、ピーク周波数のビート信号間の位相差を検出する(S44)。そして、方位角検出手段14eは、各位相差に対応する方位角を求める。(S46)。
【0046】
具体的には、図8に示すように、方位角検出手段14eは、ビート信号Sb1、Sb2におけるピーク周波数のビート信号間の位相差φb12を検出する。次に、ビート信号Sb2、Sb3におけるピーク周波数のビート信号間の位相差φb23を検出する。そして、ビート信号Sb3、Sb1におけるピーク周波数のビート信号間の位相差φb31を検出する。
【0047】
そして、方位角検出手段14eは、位相差φb12に対応する方位角θ12、位相差φb23に対応する方位角θ23、位相差φb31に対応する方位角θ31を求める。このとき、方位角検出手段14eは、各位相差φb12、φb23、φb31と方位角とを対応付けたマップデータM12、M23、M31を参照して、位相差に対応する方位角を検出する。かかるマップデータは、予め信号処理装置14内のROMに格納される。
【0048】
そして、方位角検出手段14eは、今回の検出サイクルで検出したピーク周波数と、前回の検出サイクルの手順S10で検出結果として確定された目標物体のピーク周波数との差分が所定の許容範囲内であるか否かを確認する(S48)。ここにおいて、ピーク周波数は目標物体の相対距離と相対速度を反映していることから、相対距離、相対速度を基準に目標物体の信頼性を判断する。
【0049】
そして、判断結果が「YES」のときには、ビート信号抽出手段14dは、ピーク周波数でのビート信号Sb1〜3が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できるような条件を用い、条件を満たすビート信号を抽出する(S50)。そして、方位角検出手段14eは、3つの方位角θ12、θ23、θ31のうち抽出ビート信号を用いて検出された方位角であって、前回検出サイクルでの検出方位角と最も近似する方位角を、今回の検出方位角として採用する(S52)。
【0050】
一方、手順S48において判断結果が「NO」のときには、方位角検出手段14eは、3つの方位角θ12、θ23、θ31のうち、最も近似する組合せ、つまり方位角の差が最小となる組合せの代表値(例えば平均値)を検出方位角として選択する(S54)。
【0051】
このような手順によれば、ピーク周波数でのビート信号Sb1〜3が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できる条件を用いてビート信号を選別することで、同一目標物体からの反射信号によるビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、方位角の誤検出を回避できる。
【0052】
なお、本実施形態の変形例としては、手順S44の前に手順S50を実行し、抽出ビート信号を用いて方位角検出を行うようにしてもよい。
【0053】
次に、手順50におけるビート信号の抽出手順の例を説明する。
【0054】
まず、図9、図10を用いて、ビート信号の抽出手順の第1の例を説明する。
【0055】
図9(A)、(B)は、ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す。また、図10は、ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【0056】
第1の例では、ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分のレベルがビート信号群で相対的に大きいことを条件として、ビート信号を抽出する。具体的には、ピーク周波数におけるビート信号のレベルが、ビート信号全体の代表値以上となることを条件とする。あるいは、ピーク周波数を含む一定の帯域幅(例えばピーク周波数±1〜2周波数ビン)のピーク周波数帯域における周波数成分が代表値以上となることを条件とする。代表値としては、例えば平均値が用いられるが、中央値、または、最大値から所定レベル低い値などを用いてもよい。
【0057】
まず、上述した手順では、ビート信号Sb1〜3に含まれる路側の設置物や路面などからの反射信号によるビート信号の影響を平滑化するために、一例として平均値fs_avを求め、その曲線近似における極大値が形成されるピーク周波数fpを求めた。
【0058】
このとき、図9(A)に示すように、例えば、周波数成分fs3の形状における極大値がピーク周波数fpと乖離した周波数fxで形成されると、周波数成分の平均値fs_avは、図示されるようになる。すなわち、周波数成分fs1、fs2は、ほぼピーク周波数fpにおいて極大値を形成し(矢印P1)、そのとき極大値のレベルは、平均値fs_av以上となる。よって、ビート信号Sb1、Sb2のピーク周波数におけるビート信号を用いて方位角検出を行うことで、目標物体の方位角が正確に検出できる。
【0059】
これに対し、ピーク周波数fpから乖離した周波数fxにおいて極大値を形成するビート信号Sb3では、ピーク周波数fpにおけるビート信号のレベルが平均値fs_av未満となる(矢印P2)。よって、ビート信号Sb3のピーク周波数におけるビート信号を用いると、方位角が誤検出されるおそれがある。
【0060】
図10に示すように、ビート信号抽出手段14dは、まず周波数成分fs1〜3のピーク周波数fpでのレベルを求める(S502)。そして、求めたレベルが平均値fs_avのピーク周波数fpにおけるレベル以上であるビート信号を抽出する(S504)。
すると、この場合はビート信号Sb3を抽出せず、処理対象から除外する。その結果、図7の手順S52では、ビート信号Sb1、Sb2から求めた方位角θ12が検出される。
【0061】
このように、ピーク周波数帯域での周波数成分のパワーが他のビート信号と比べて相対的に大きい場合、ピーク周波数での周波数成分が極大値を形成する蓋然性が大きいことを利用し、ピーク周波数でのレベルが相対的に大きいことを条件としてビート信号を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まる。よって、誤検出を確実に回避できる。
【0062】
また、上記のことは、図9(B)に示すように、ビート信号Sb3の周波数成分の極大値が分裂した状態においても、同様である。
【0063】
次に、図11、図12を用いて、ビート信号の抽出手順の第2の例を説明する。
【0064】
図11(A)、(B)は、ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す。各周波数成分と平均値の例は、図9(A)、(B)と同じである。また、図12は、ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【0065】
第2の例では、ピーク周波数帯域の周波数成分の分布形状が極大値を形成することを条件としてビート信号を抽出する。
【0066】
図11(A)に示すように、ピーク周波数帯域(ピーク周波数fp±fa)におけるビート信号Sb1、Sb2を曲線近似すると、ビート信号Sb1、Sb2は上方に凸形状となり、極大値を形成する。なお、ここでの帯域幅faは、一例として±1〜2周波数ビンとする。このとき、これらの周波数成分fs1、fs2は、その全体の形状もほぼピーク周波数fpにおいて極大値を形成する。よって、ビート信号Sb1、Sb2におけるピーク周波数のビート信号を方位角検出に用いることができる。
【0067】
これに対し、ピーク周波数fpから乖離した周波数fxにおいて極大値を形成するビート信号Sb3では、ピーク周波数fpにおけるビート信号のレベルが上方に凸とならず、極大値を形成しない。よって、かかるビート信号Sb3を方位角検出に用いると、誤検出を生じるおそれがある。
【0068】
図12に示すように、ビート信号抽出手段14dは、まず周波数成分fs1〜3のピーク周波数fpを含むピーク周波数帯域を曲線近似する(S506)。そして、曲線近似した部分が極大値を示すビート信号を抽出する(S508)。よって、この場合はビート信号Sb3を抽出せず、処理対象から除外する。
【0069】
このような手順によれば、ピーク周波数帯域で周波数成分が極大値を形成することが直接的に確認できる。このとき、ビート信号Sb1、Sb2、Sb3の周波数成分の離散値データをすべての周波数にわたり曲線近似するより、ピーク周波数帯域の周波数成分を曲線近似することにより信号処理装置14の処理負荷を軽減できる。そして、このような条件によりビート信号Sb1、Sb2を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号Sb1、Sb2が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まるので、誤検出を確実に回避できる。
【0070】
なお、上記のことは、図11(B)においても同様である。
【0071】
上述の第1、第2のビート信号の抽出手順は、いずれか1つを実行してもよいし、両方実行してもよい。両方実行することにより、ピーク周波数でのビート信号Sb1、Sb2が同一目標物体からの反射信号によるものである確度がさらに高まるので、確実に誤検出を回避できる。
【0072】
次に、ビート信号の位相の折返しを考慮した実施例について説明する。
【0073】
位相モノパルス方式による方位角の検出においては、ビート信号の波長が反射信号の経路長差より大きいときは、±πの範囲内で検出された位相差から一意に方位角が求まる。しかし、目標物体の方位角が大きいと、ビート信号の波長より経路長差が大きくなる場合がある。すると、次式に示すように±πでいわゆる位相差の折返しが生じる。
【0074】
θ=arcsin(λ・(φb±π)/(2π・d))
その結果、1つの位相差φから複数の方位角、つまり目標物体が実際に存在する方位角と、目標物体が実際に存在しない虚偽の方位角とが求められる。
【0075】
このことを考慮し、この実施例では、検出された位相差から求められる複数の方位角の絞込みを行う。具体的には、ビート信号の組合せごとに、位相差から方位角の候補群を求める。
【0076】
図13は、ビート信号の組合せごとに、位相差と方位角とを対応付けたマップデータの例を示す。図示するように、例えば、マップデータM12においては、位相差φb12に対応する方位角候補群G12として、θ121、θ122、θ123が検出される。また、マップデータM23においては、位相差φb23に対応する方位角の候補群G23として、θ231、θ232、θ233が抽出される。さらに、マップデータM31においては、位相差φb31に対応する方位角の候補群G31として、θ311、312、313が抽出される。
【0077】
なお、図1に示したように、アンテナ12_1と12_2との間隔がd1、アンテナ12_2と12_3との間隔がd2、アンテナ12_1と12_3との間隔がd1+d2となるように各アンテナが設置される。すると、異なる間隔のアンテナ対により受信された受信信号からビート信号を生成した場合、ビート信号対の位相差と方位角を対応付けたマップデータM12、M23、M31ははそれぞれ異なったものとなる。
【0078】
方位角検出手段14eは、上記のようにして検出された候補群G12、G23、G31から近似した方位角を抽出して、方位角の絞込みを行うが、このとき候補群に誤検出された方位角が混入していると、絞込みの結果が誤ってしまう。そこで、ビート信号抽出手段14dが、上述の手順により抽出したビート信号を用いて求められた方位角を用いた絞り込みの結果を採用する。そうすることで、方位角の検出精度を高めることができる。
【0079】
図14は、この実施例における方位角検出処理の手順を示すフローチャート図である。図7で示したフローチャート図と異なる手順について説明する。
【0080】
方位角検出手段14eは、位相差φb12に対応する方位角の候補群G12、位相差φb23に対応する方位角の候補群G23、位相差φb31に対応する方位角の候補群G31を求める(S46a)。ここにおいて、合計9個の方位角候補が求められる。
【0081】
そして、方位角検出手段14eは、手順S50において抽出されなかったビート信号を用いて検出された候補群を絞り込み対象から除外し、抽出ビート信号を用いて検出された方位角の候補群の中から、前回の検出サイクルにおいて検出された方位角と最も近似される方位角を検出方位角として採用する(S52)。例えば、図9または図11で示したような周波数分布のビート信号Sb1〜3を用いた場合、方位角検出手段14eは、ビート信号Sb3を用いて検出された候補群G23、G32を絞り込み対象から除外し、抽出ビート信号Sb1、Sb2を用いて検出された方位角の候補群G12の中から、前回の検出サイクルにおいて検出された方位角と最も近似される方位角を検出方位角として採用する。
【0082】
一方、手順S48において判断結果が否定されたときには、各候補群G12、G23、G31から1つずつ抽出される3つの方位角候補の組合せのうち、最も近似する方位角候補の組合せ、つまりそれぞれの方位角差が最小となる方位角候補(具体的には、θ122、θ232、θ311)を選択し、その代表値(例えば平均値)を検出方位角として選択する。(S54)。
【0083】
このような手順によれば、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できる条件を用いてビート信号を選別することで、同一目標物体からの反射信号によるビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、方位角の誤検出を回避できる。
【0084】
なお、上述の説明においては3つのアンテナにより反射信号を受信する例を示したが、アンテナの数は4つ以上であってもよい。また、アンテナごとに得られるビート信号の組合せ数も、上述の例に限られない。例えば、3つのアンテナを用いた場合であっても、アンテナ12_1と12_2で受信し、アンテナ12_2と12_3で受信し、アンテナ12_3と12_1で受信する、というように、各アンテナ2回ずつ受信を行い、合計6つのビート信号における2つの組合せにより、方位角候補を求めても良い。その場合、6つのビート信号について上述と同じ方法によりビート信号抽出処理を行うことで、方位角の誤検出を回避できる。
【0085】
また、レーダ装置10が車載用レーダとして使用される場合に、車両の前方だけでなく、側方や後方を監視するためのレーダとして用いることができる。さらに、車両以外の移動体に対して本実施形態のレーダ装置は適用可能である。
【0086】
以上説明したように、本実施形態によれば、周波数成分を平滑化してピーク周波数を求め、各ビート信号におけるピーク周波数のビート信号を用いて方位角を検出する場合であっても、かかる誤検出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】車載用の位相モノパルス式のレーダ装置による、目標物体の方位角検出方法を説明する図である。
【図2】同一の目標物体の異なる反射点から反射信号が得られる場合を説明する図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図4】本実施形態におけるレーダ装置10の構成例を示す。
【図5】レーダ送受信機30の動作を説明する図である。
【図6】本実施形態における信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図7】方位角検出処理の詳細な手順を説明するフローチャート図である。
【図8】位相差を検出するビート信号の組合せについて説明する図である。
【図9】ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す図である。
【図10】ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図11】ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す図である。
【図12】ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図13】ビート信号の組合せごとに、位相差と方位角とを対応付けたマップデータの例を示す図である。
【図14】この実施例における方位角検出処理の手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0088】
10:レーダ装置、30:レーダ送受信機、14:信号処理装置、14c:ピーク周波数検出手段、14d:ビート信号抽出手段、14e:方位角検出手段、14f:相対速度・相対距離検出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信信号を探索領域に送信するとともに探索領域からの反射信号をアンテナ群で受信し、送信信号と個々のアンテナで受信した受信信号を混合してビート信号群を生成するレーダ送受信機の信号処理装置に関し、特に、前記ビート信号群の位相差に基づき目標物体の方位角を検出する信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相モノパルス方式のレーダ装置は、探索領域にレーダ信号を送信し、複数の受信用アンテナで受信した反射信号の位相差から、反射物つまり目標物体の方位角を検出する。かかる位相モノパルス方式のレーダ装置は、小型かつ簡易な構成により実現でき、車載用レーダ装置として用いられる。特許文献1には、位相モノパルス方式の車載用レーダ装置の例が記載されている。
【0003】
車載用レーダ装置の場合、電波法の規定によりミリ波長のレーダ信号を用いる。よって、レーダ装置は、ミリ波長の受信信号を取扱い易い中間周波数にダウンコンバートしてから信号処理を行い、目標物体(例えば他の車両)の方位角を検出する。
【0004】
図1は、車載用の位相モノパルス式のレーダ装置による、目標物体の方位角検出方法を説明する図である。このレーダ装置は、探索領域A1にレーダ信号(電磁波)Stを送信し、探索領域A1からの反射信号を2つのアンテナ12_1、12_2により受信信号Sr1、Sr2として受信する。このとき、周波数変調を施した連続波を送信信号Stとして用いることにより、反射信号の周波数は、反射物の相対速度に応じたドップラ周波数と相対距離に応じた遅延時間分、偏移する。よって、受信信号Sr1、Sr2には、反射物の相対距離と相対速度に応じて異なる周波数の反射信号が含まれる。
【0005】
次に、レーダ装置は、送信信号Stと受信信号Sr1、Sr2をミキシングして、送信信号Stと受信信号Sr1、Sr2との周波数差に対応する周波数を有するビート信号Sb1、Sb2を生成する。このとき、受信信号Sr1、Sr2に含まれる反射信号からは、それぞれの周波数偏移量の周波数を有するビート信号が生成される。
【0006】
ここで、アンテナ12_1、12_2の正面Fを方位角0度としたとき、方位角θに位置する目標物体Tからの反射信号Str1、Str2の経路長は目標物体の方位角θに応じてΔd異なるので、受信時間に差が生じる。よって、その受信時間差の分、反射信号Str1、Str2から生成されたビート信号Stb1、Stb2に位相差φbが生じる。そして、この位相差φb、アンテナ12_1、12_2の間隔d、及びビート信号Stb1、Stb2の波長λを用いると、次式から方位角θが算出される。
【0007】
θ=arcsin(λ・φb/(2π・d))。
【0008】
ところで、ビート信号Sb1、Sb2には、目標物体Tから得られるビート信号Stb1、Stb2のほかに、種々の反射物から得られるビート信号が含まれる。よって、レーダ装置は、目標物体Tの反射断面積が他の反射物より相対的に大きく、従って反射信号Str1、Str2のレベルが相対的に大きいことを利用して、目標物体Tから得られるビート信号Stb1、Stb2をビート信号Sb1、Sb2から検出する。具体的には、まずビート信号Sb1、Sb2をAD変換し、サンプリングデータをFFT(高速フーリエ変換)処理することで、それぞれの周波数成分fs1、fs2を検出する。すると、周波数成分fs1、fs2の分布形状における極大値がビート信号Stb1、Stb2に対応する。
【0009】
ここで、レーダ装置は、周波数成分fs1、fs2を曲線近似してそれぞれの極大値を求める代わりに、周波数成分fs1、fs2の平均値fs_avを求めることで、他の反射物によるビート信号を含むビート信号Sb1、Sb2を平滑化する。そして、平均値fs_avを曲線近似することで、その極大値が形成される周波数(ピーク周波数)fpを検出する。すると、周波数成分fs1、fs2の分布形状における極大値が形成される周波数は、ピーク周波数fpにより近似される。よって、レーダ装置は、各ビート信号Sb1、Sb2においてピーク周波数fpを有するビート信号を検出することで、ビート信号Stb1、Stb2とほぼ一致するビート信号を検出する。そして、その位相差に基づき目標物体Tの方位角θを求める。
【特許文献1】特開2003−255044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、同一の目標物体であっても、その反射断面積が大きく、あるいは突起物などがあると、異なる反射点から反射信号が得られる場合がある。すると、それぞれの反射点では相対距離が異なるので、異なる周波数のビート信号が得られる。
【0011】
例えば図2(A)に示すように、目標物体Tの反射点Ta1から反射信号と、反射点Ta2から反射信号を受信した場合には、反射点Ta1とTa2ではレーダ装置10からの相対距離が異なる。そして、例えば図2(B)に示すように、3つの受信用アンテナ12_1〜3で反射信号を受信してアンテナごとにビート信号を生成し、ビート信号の複数の異なる組合せから複数の方位角を求めて方位角の絞込みを行うレーダ装置において、2つのアンテナ(例えばアンテナ12_1、12_2)は反射点Ta1から反射信号Str1、2を受信し、他の1つのアンテナ(例えばアンテナ12_3)は反射点Ta2から反射信号Str3を受信する場合がある。
【0012】
すると、アンテナ12_1〜3による受信信号Sr1〜3から得られるビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3と、周波数成分fs1〜3の平均値fs_avは、図2(C)に示すようになる。すなわち、ビート信号Sb1、2の周波数成分fs1、2はピーク周波数fpで極大値を形成するが、ビート信号Sb3の周波数成分fs3はピーク周波数fpから乖離した周波数fxで極大値を形成する。そして、周波数成分fs3においてピーク周波数fpのビート信号は、その反射レベルが小さいので、目標物体Tからの反射信号でない可能性が大きい。よって、かかるビート信号Sb3におけるピーク周波数fxのビート信号と、ビート信号Sb1、2におけるピーク周波数fpのビート信号のいずれかとの組合せにおける位相差を用いて方位角を算出すると、誤検出のおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、周波数成分の平均値からピーク周波数を求め、各ビート信号におけるピーク周波数のビート信号を用いて方位角を検出する場合であっても、かかる誤検出を防止する信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の側面における信号処理装置は、アンテナ群を有するとともに、周波数変調した連続波を送信信号として探索領域に送信して当該探索領域からの反射信号を前記アンテナ群で受信し、前記送信信号と個々の前記アンテナで受信した受信信号との周波数差に対応する周波数を有するビート信号群を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記ビート信号群の周波数成分を平滑化したときに極大値が形成されるピーク周波数を検出するピーク周波数検出手段と、前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段と、前記抽出された抽出ビート信号のうち、第1の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号と、第2の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号との位相差に基づいて目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有することを特徴とする。
【0015】
上記側面における好ましい態様は、前記所定条件は、前記ピーク周波数またはピーク周波数帯域における周波数成分のレベルが、前記ビート信号群における前記ピーク周波数のビート信号のレベルの平均値、中央値、または、最大値から所定レベル小さい値のうちいずれか以上であることを特徴とする。
【0016】
上記側面における別の好ましい態様は、前記所定条件は、前記ピーク周波数帯域における周波数成分の分布形状が極大値を形成することであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記側面によれば、前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段を有するので、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できる所定条件を用いてビート信号を選別し、条件を満たすビート信号を抽出することで、同一目標物体からの反射信号によるビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、方位角の誤検出を回避できる。
【0018】
上記の好ましい態様によれば、ピーク周波数帯域における周波数成分のパワーが他のビート信号と比べて相対的に大きい場合に、ピーク周波数での周波数成分が極大値を形成する蓋然性が大きいことを利用して、前記所定条件は、前記ピーク周波数またはピーク周波数帯域における周波数成分のレベルが、前記ビート信号群における前記ピーク周波数のビート信号の平均値、中央値、または、最大値から所定レベル小さい値のうちいずれか以上であることとする。よって、かかる条件によりビート信号を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まるので、誤検出を確実に回避できる。
【0019】
上記の別の好ましい態様によれば、前記所定条件は、前記ピーク周波数帯域で極大値を形成することであるので、ピーク周波数帯域で周波数成分が極大値を形成することが直接的に確認できる。よって、このような条件によりビート信号を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まるので、誤検出を確実に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0021】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。レーダ装置10は、車両1の前部フロントグリル内、あるいはバンパー内に搭載され、フロントグリルやバンパー前面に形成されるレドームを透過して車両1前方の探索領域A1にレーダ信号(電磁波)を送信し、探索領域A1からの反射信号を受信する。
【0022】
そして、レーダ装置10は、受信信号からビート信号を生成して、これをマイクロコンピュータなどの信号処理装置により処理することで、探索領域A1内の目標物体が位置する方位角と相対距離、相対速度を検出する。目標物体には、車両1の先行車両、対向車や出会い頭に出くわす他車両などが含まれる。そして、検出結果に基づいて、車両1の図示されない制御装置が、先行車両に追従走行したり、他車両との衝突を回避したりするように車両1の各種アクチュエータを制御する。
【0023】
図4は、本実施形態におけるレーダ装置10の構成例を示す。レーダ装置10は、レーダ信号の送受信を行いビート信号を生成するレーダ送受信機30と、レーダ送受信機30が生成するビート信号を処理する信号処理装置14とを有する。
【0024】
レーダ送受信機30は、レーダ信号を送信する送信用アンテナ11と、所定間隔離間して設置された3つの受信用アンテナ12_1〜3とを有し、目標物体からの反射信号をアンテナ12_1〜3により受信する。そして、信号処理装置14は、後述するようにアンテナ12〜3での受信信号Sr1〜3から生成されるビート信号Sb1〜3の位相差に基づき、目標物体が位置する方位角を求める。よって、このレーダ装置は、位相モノパルス式のレーダ装置である。また、レーダ装置10は、周波数変調した(Frequency Modulated)連続波(Continuous Wave)をレーダ信号として用い、ビート信号Sb1〜3の周波数を解析することで、目標物体までの距離と目標物体の相対速度を検出するFM−CW(Frequency Modulated- Continuous Wave)方式を採用する。
【0025】
レーダ送受信機30は、送信系として、信号処理装置14からの指示に応答して、三角波状の周波数変調信号を生成する変調信号生成部16と、周波数変調信号に従って周波数変調された送信用レーダ信号Stを出力する電圧制御発振器(VCO)18と、送信用レーダ信号Stを電力分配する分配器20を有し、さらに、電力分配された送信用レーダ信号Stの一部をレーダ装置正面の基準方向Fに向け送信信号Stとして送信する送信アンテナ11を有する。
【0026】
また、レーダ送受信機30は、受信系として、受信用のアンテナ12_1〜3と、信号処理装置14の指示信号Scに応答して、受信アンテナ12_1〜3による受信信号Sr1、Sr2を時分割で切り替えて出力するスイッチ26とを有し、さらに、スイッチ26から出力される受信信号Sr1〜3のそれぞれと電力分配された送信用レーダ信号Stの一部Stとを混合して、送信信号Stと受信信号Sr1〜3それぞれとの周波数差に対応する周波数を有するビート信号Sb1〜3を生成するミキサ22と、ビート信号Sb〜3をそれぞれをサンプリングして、デジタルデータに変換するA/D変換器24とを有する。
【0027】
A/D変換器24を介して入力されるビート信号Sb1〜3のサンプリングデータは信号処理装置14に取り込まれる。
【0028】
信号処理装置14は、ビート信号Sb1〜3のサンプリングデータに対しFFT処理を実行し、周波数成分を検出するDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置を有する。この演算処理装置が、周波数成分検出手段14bに対応する。
【0029】
また、信号処理装置14は、FFT処理されたビート信号Sb1〜3を処理するマイクロコンピュータを有する。マイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する。
【0030】
そして、各ビート信号Sb1〜3の周波数成分を平滑化してその極大値が形成されるピーク周波数を検出するピーク周波数検出手段14c、ピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段14d、抽出ビート信号のうち、ピーク周波数のビート信号の位相差に基づき求められる方位角を目標物体の方位角として検出する方位角検出手段14e、ピーク周波数から目標物体の相対速度、相対距離を検出する相対速度・相対距離検出手段14f、これらの検出結果を図示されない車両1の制御装置に出力する出力手段14gは、各処理手順を定めたプログラムと、これを実行するCPUにより構成される。
【0031】
また、変調信号生成部16に変調信号の生成を指示する指示信号を出力し、スイッチ26に切替えの指示信号Scを出力することでレーダ送受信機30の送受信動作を制御する送受信制御手段14aは、制御手順を定めたプログラムと、これを実行するCPUにより構成される。
【0032】
図5は、レーダ送受信機30の動作を説明する図である。図5(A)、(B)では、横軸に時間、縦軸に周波数を示し、送信信号St、目標物体Tからの反射信号Str1〜3、反射信号Str1〜3から得られるビート信号Stb1〜3の周波数を示す。なお、図5(A)、(B)では、目標物体Tにおける反射信号Str1〜3の反射点は同じとする。
【0033】
まず、図5(A)に示すように、実線で示す送信信号Stの周波数は、周波数fmの三角波に従って、周波数偏移幅ΔF(中心周波数f0)で時間軸に対して直線的な上昇と下降とを反復する。以下では、送信信号Stの周波数上昇期間をアップ期間、周波数下降期間をダウン期間という。そして、送信信号Stの周波数に対し、破線で示す反射信号Strの周波数は、目標物体Tとの距離による遅延ΔT1と、目標物体の相対速度に応じたドップラ効果による周波数偏移ΔDを受ける。
【0034】
すると、図5(B)に示すように、反射信号Str1〜3の周波数変移の結果、ビート信号Stb1〜3の周波数は、アップ期間では周波数fu(以下、アップビート周波数fuという)、ダウン期間では周波数fd(以下、ダウンビート周波数fdという)となる。
【0035】
図6は、本実施形態における信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。図6に示す手順は、1対のアップ期間とダウン期間とからなる変調周期を1検出サイクルとして、検出サイクルごとに実行される。
【0036】
まず、周波数成分検出手段14bが、アップ期間におけるアンテナ12_1〜3ごとのビート信号Sb1〜3のサンプルデータをFFT処理して周波数成分を検出する。そして、ダウン期間におけるアンテナ12_1〜3ごとのビート信号Sb1〜3に対しても同じ処理を行う(S2)。ここにおいて、アップ期間でのビート信号Sb1〜3の周波数成分と、ダウン期間でのビート信号Sb1〜3の周波数成分が検出される。
【0037】
次に、ピーク周波数検出手段14cが、アップ期間でのビート信号Sb1〜3の周波数成分を平滑化してその極大値が形成されるピーク周波数を検出する。このとき、平滑化の方法としては、例えばビート信号Sb1〜3の周波数成分の平均を算出する方法が可能であるが、中央値を算出するなど、ほかの方法を用いても良い。そして、ビート信号抽出手段14dと、方位角検出手段14eが、アップ期間におけるビート信号Sb1〜3のそれぞれからアップ期間でのピーク周波数のビート信号を検出し、その位相差に対応した方位角を検出する。また、ダウン期間におけるビート信号Sb〜3に対して同じ処理を行う(S4)。ここにおいて、アップ期間における目標物体Tの方位角と、ダウン期間における目標物体Tの方位角が求められる。なお、この手順S4は、後に詳述する。
【0038】
そして、同一の目標物体からは同一の方位角と、同一の強度のビート信号が検出されることから、相対速度・相対距離検出手段14fが、アップ期間とダウン期間とで検出された方位角とビート信号の強度とが一致または近似する、アップビート周波数fu(正確には、アップビート周波数fuを近似するアップ期間でのピーク周波数)とダウンビート周波数fd(正確には、ダウンビート周波数fdを近似するダウン期間でのピーク周波数)とを対応付けする(S6)。ここにおいて、目標物体Tに対応したアップビート周波数fuとダウンビート周波数fdのペアが形成される。
【0039】
そして、相対速度・相対距離検出手段14fは、ペアが形成されたアップビート周波数fuと、ダウンビート周波数fdとを用いて、目標物体Tの相対距離と相対速度を検出する(S8)。なお、相対距離Rと相対速度Vは、アップビート周波数fu、ダウンビート周波数fd、送信信号Stの周波数変調周期fm、送信信号Stの中心周波数f0と周波数変調幅ΔF、及び光速Cから次式により算出される。
【0040】
R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm)
V=C・(fd−fu)/(4・f0)
そして、出力手段14gは、複数の目標物体が検出されたときに、そのなかから信頼性がある検出結果を確定する(S10)。具体的には検出履歴の接続回数が基準値以上のときに、信頼性があると判断する。
【0041】
そして、出力手段14gは、確定した検出結果について、車両制御の対象としての条件を満たすか否かにより、車両1の制御装置に出力する検出結果を選択する(S12)。例えば、レーダ信号の自車線前方の方位角に位置し一定距離範囲にある目標物体であれば追従走行制御の対象として選択される。また、探索領域A1端部に位置し一定距離以下の目標物体であれば、衝突対応制御の対象として選択される。そして、出力手段14gは、選択した検出結果を車両1の制御装置に向けて出力する(S14)。
【0042】
ここで、上記手順S4における方位角検出処理について、図7に従って、図8を参照しつつ説明する。
【0043】
図7は、上記手順S4における方位角検出処理の詳細な動作手順を説明するフローチャート図である。図8は、位相差を検出するビート信号の組合せについて説明する図である。
【0044】
まず、ピーク周波数検出手段14cが、ビート信号Sb1〜3の周波数成分を平滑化してその極大値が形成されるピーク周波数を求める(S42)。
【0045】
方位角検出手段14eは、ビート信号Sb1〜3の複数の異なるビート信号対において、ピーク周波数のビート信号間の位相差を検出する(S44)。そして、方位角検出手段14eは、各位相差に対応する方位角を求める。(S46)。
【0046】
具体的には、図8に示すように、方位角検出手段14eは、ビート信号Sb1、Sb2におけるピーク周波数のビート信号間の位相差φb12を検出する。次に、ビート信号Sb2、Sb3におけるピーク周波数のビート信号間の位相差φb23を検出する。そして、ビート信号Sb3、Sb1におけるピーク周波数のビート信号間の位相差φb31を検出する。
【0047】
そして、方位角検出手段14eは、位相差φb12に対応する方位角θ12、位相差φb23に対応する方位角θ23、位相差φb31に対応する方位角θ31を求める。このとき、方位角検出手段14eは、各位相差φb12、φb23、φb31と方位角とを対応付けたマップデータM12、M23、M31を参照して、位相差に対応する方位角を検出する。かかるマップデータは、予め信号処理装置14内のROMに格納される。
【0048】
そして、方位角検出手段14eは、今回の検出サイクルで検出したピーク周波数と、前回の検出サイクルの手順S10で検出結果として確定された目標物体のピーク周波数との差分が所定の許容範囲内であるか否かを確認する(S48)。ここにおいて、ピーク周波数は目標物体の相対距離と相対速度を反映していることから、相対距離、相対速度を基準に目標物体の信頼性を判断する。
【0049】
そして、判断結果が「YES」のときには、ビート信号抽出手段14dは、ピーク周波数でのビート信号Sb1〜3が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できるような条件を用い、条件を満たすビート信号を抽出する(S50)。そして、方位角検出手段14eは、3つの方位角θ12、θ23、θ31のうち抽出ビート信号を用いて検出された方位角であって、前回検出サイクルでの検出方位角と最も近似する方位角を、今回の検出方位角として採用する(S52)。
【0050】
一方、手順S48において判断結果が「NO」のときには、方位角検出手段14eは、3つの方位角θ12、θ23、θ31のうち、最も近似する組合せ、つまり方位角の差が最小となる組合せの代表値(例えば平均値)を検出方位角として選択する(S54)。
【0051】
このような手順によれば、ピーク周波数でのビート信号Sb1〜3が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できる条件を用いてビート信号を選別することで、同一目標物体からの反射信号によるビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、方位角の誤検出を回避できる。
【0052】
なお、本実施形態の変形例としては、手順S44の前に手順S50を実行し、抽出ビート信号を用いて方位角検出を行うようにしてもよい。
【0053】
次に、手順50におけるビート信号の抽出手順の例を説明する。
【0054】
まず、図9、図10を用いて、ビート信号の抽出手順の第1の例を説明する。
【0055】
図9(A)、(B)は、ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す。また、図10は、ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【0056】
第1の例では、ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分のレベルがビート信号群で相対的に大きいことを条件として、ビート信号を抽出する。具体的には、ピーク周波数におけるビート信号のレベルが、ビート信号全体の代表値以上となることを条件とする。あるいは、ピーク周波数を含む一定の帯域幅(例えばピーク周波数±1〜2周波数ビン)のピーク周波数帯域における周波数成分が代表値以上となることを条件とする。代表値としては、例えば平均値が用いられるが、中央値、または、最大値から所定レベル低い値などを用いてもよい。
【0057】
まず、上述した手順では、ビート信号Sb1〜3に含まれる路側の設置物や路面などからの反射信号によるビート信号の影響を平滑化するために、一例として平均値fs_avを求め、その曲線近似における極大値が形成されるピーク周波数fpを求めた。
【0058】
このとき、図9(A)に示すように、例えば、周波数成分fs3の形状における極大値がピーク周波数fpと乖離した周波数fxで形成されると、周波数成分の平均値fs_avは、図示されるようになる。すなわち、周波数成分fs1、fs2は、ほぼピーク周波数fpにおいて極大値を形成し(矢印P1)、そのとき極大値のレベルは、平均値fs_av以上となる。よって、ビート信号Sb1、Sb2のピーク周波数におけるビート信号を用いて方位角検出を行うことで、目標物体の方位角が正確に検出できる。
【0059】
これに対し、ピーク周波数fpから乖離した周波数fxにおいて極大値を形成するビート信号Sb3では、ピーク周波数fpにおけるビート信号のレベルが平均値fs_av未満となる(矢印P2)。よって、ビート信号Sb3のピーク周波数におけるビート信号を用いると、方位角が誤検出されるおそれがある。
【0060】
図10に示すように、ビート信号抽出手段14dは、まず周波数成分fs1〜3のピーク周波数fpでのレベルを求める(S502)。そして、求めたレベルが平均値fs_avのピーク周波数fpにおけるレベル以上であるビート信号を抽出する(S504)。
すると、この場合はビート信号Sb3を抽出せず、処理対象から除外する。その結果、図7の手順S52では、ビート信号Sb1、Sb2から求めた方位角θ12が検出される。
【0061】
このように、ピーク周波数帯域での周波数成分のパワーが他のビート信号と比べて相対的に大きい場合、ピーク周波数での周波数成分が極大値を形成する蓋然性が大きいことを利用し、ピーク周波数でのレベルが相対的に大きいことを条件としてビート信号を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まる。よって、誤検出を確実に回避できる。
【0062】
また、上記のことは、図9(B)に示すように、ビート信号Sb3の周波数成分の極大値が分裂した状態においても、同様である。
【0063】
次に、図11、図12を用いて、ビート信号の抽出手順の第2の例を説明する。
【0064】
図11(A)、(B)は、ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す。各周波数成分と平均値の例は、図9(A)、(B)と同じである。また、図12は、ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【0065】
第2の例では、ピーク周波数帯域の周波数成分の分布形状が極大値を形成することを条件としてビート信号を抽出する。
【0066】
図11(A)に示すように、ピーク周波数帯域(ピーク周波数fp±fa)におけるビート信号Sb1、Sb2を曲線近似すると、ビート信号Sb1、Sb2は上方に凸形状となり、極大値を形成する。なお、ここでの帯域幅faは、一例として±1〜2周波数ビンとする。このとき、これらの周波数成分fs1、fs2は、その全体の形状もほぼピーク周波数fpにおいて極大値を形成する。よって、ビート信号Sb1、Sb2におけるピーク周波数のビート信号を方位角検出に用いることができる。
【0067】
これに対し、ピーク周波数fpから乖離した周波数fxにおいて極大値を形成するビート信号Sb3では、ピーク周波数fpにおけるビート信号のレベルが上方に凸とならず、極大値を形成しない。よって、かかるビート信号Sb3を方位角検出に用いると、誤検出を生じるおそれがある。
【0068】
図12に示すように、ビート信号抽出手段14dは、まず周波数成分fs1〜3のピーク周波数fpを含むピーク周波数帯域を曲線近似する(S506)。そして、曲線近似した部分が極大値を示すビート信号を抽出する(S508)。よって、この場合はビート信号Sb3を抽出せず、処理対象から除外する。
【0069】
このような手順によれば、ピーク周波数帯域で周波数成分が極大値を形成することが直接的に確認できる。このとき、ビート信号Sb1、Sb2、Sb3の周波数成分の離散値データをすべての周波数にわたり曲線近似するより、ピーク周波数帯域の周波数成分を曲線近似することにより信号処理装置14の処理負荷を軽減できる。そして、このような条件によりビート信号Sb1、Sb2を抽出することで、ピーク周波数でのビート信号Sb1、Sb2が同一目標物体からの反射信号によるものである確度が高まるので、誤検出を確実に回避できる。
【0070】
なお、上記のことは、図11(B)においても同様である。
【0071】
上述の第1、第2のビート信号の抽出手順は、いずれか1つを実行してもよいし、両方実行してもよい。両方実行することにより、ピーク周波数でのビート信号Sb1、Sb2が同一目標物体からの反射信号によるものである確度がさらに高まるので、確実に誤検出を回避できる。
【0072】
次に、ビート信号の位相の折返しを考慮した実施例について説明する。
【0073】
位相モノパルス方式による方位角の検出においては、ビート信号の波長が反射信号の経路長差より大きいときは、±πの範囲内で検出された位相差から一意に方位角が求まる。しかし、目標物体の方位角が大きいと、ビート信号の波長より経路長差が大きくなる場合がある。すると、次式に示すように±πでいわゆる位相差の折返しが生じる。
【0074】
θ=arcsin(λ・(φb±π)/(2π・d))
その結果、1つの位相差φから複数の方位角、つまり目標物体が実際に存在する方位角と、目標物体が実際に存在しない虚偽の方位角とが求められる。
【0075】
このことを考慮し、この実施例では、検出された位相差から求められる複数の方位角の絞込みを行う。具体的には、ビート信号の組合せごとに、位相差から方位角の候補群を求める。
【0076】
図13は、ビート信号の組合せごとに、位相差と方位角とを対応付けたマップデータの例を示す。図示するように、例えば、マップデータM12においては、位相差φb12に対応する方位角候補群G12として、θ121、θ122、θ123が検出される。また、マップデータM23においては、位相差φb23に対応する方位角の候補群G23として、θ231、θ232、θ233が抽出される。さらに、マップデータM31においては、位相差φb31に対応する方位角の候補群G31として、θ311、312、313が抽出される。
【0077】
なお、図1に示したように、アンテナ12_1と12_2との間隔がd1、アンテナ12_2と12_3との間隔がd2、アンテナ12_1と12_3との間隔がd1+d2となるように各アンテナが設置される。すると、異なる間隔のアンテナ対により受信された受信信号からビート信号を生成した場合、ビート信号対の位相差と方位角を対応付けたマップデータM12、M23、M31ははそれぞれ異なったものとなる。
【0078】
方位角検出手段14eは、上記のようにして検出された候補群G12、G23、G31から近似した方位角を抽出して、方位角の絞込みを行うが、このとき候補群に誤検出された方位角が混入していると、絞込みの結果が誤ってしまう。そこで、ビート信号抽出手段14dが、上述の手順により抽出したビート信号を用いて求められた方位角を用いた絞り込みの結果を採用する。そうすることで、方位角の検出精度を高めることができる。
【0079】
図14は、この実施例における方位角検出処理の手順を示すフローチャート図である。図7で示したフローチャート図と異なる手順について説明する。
【0080】
方位角検出手段14eは、位相差φb12に対応する方位角の候補群G12、位相差φb23に対応する方位角の候補群G23、位相差φb31に対応する方位角の候補群G31を求める(S46a)。ここにおいて、合計9個の方位角候補が求められる。
【0081】
そして、方位角検出手段14eは、手順S50において抽出されなかったビート信号を用いて検出された候補群を絞り込み対象から除外し、抽出ビート信号を用いて検出された方位角の候補群の中から、前回の検出サイクルにおいて検出された方位角と最も近似される方位角を検出方位角として採用する(S52)。例えば、図9または図11で示したような周波数分布のビート信号Sb1〜3を用いた場合、方位角検出手段14eは、ビート信号Sb3を用いて検出された候補群G23、G32を絞り込み対象から除外し、抽出ビート信号Sb1、Sb2を用いて検出された方位角の候補群G12の中から、前回の検出サイクルにおいて検出された方位角と最も近似される方位角を検出方位角として採用する。
【0082】
一方、手順S48において判断結果が否定されたときには、各候補群G12、G23、G31から1つずつ抽出される3つの方位角候補の組合せのうち、最も近似する方位角候補の組合せ、つまりそれぞれの方位角差が最小となる方位角候補(具体的には、θ122、θ232、θ311)を選択し、その代表値(例えば平均値)を検出方位角として選択する。(S54)。
【0083】
このような手順によれば、ピーク周波数でのビート信号が同一目標物体からの反射信号によるものであることが確認できる条件を用いてビート信号を選別することで、同一目標物体からの反射信号によるビート信号を用いて方位角検出ができる。よって、方位角の誤検出を回避できる。
【0084】
なお、上述の説明においては3つのアンテナにより反射信号を受信する例を示したが、アンテナの数は4つ以上であってもよい。また、アンテナごとに得られるビート信号の組合せ数も、上述の例に限られない。例えば、3つのアンテナを用いた場合であっても、アンテナ12_1と12_2で受信し、アンテナ12_2と12_3で受信し、アンテナ12_3と12_1で受信する、というように、各アンテナ2回ずつ受信を行い、合計6つのビート信号における2つの組合せにより、方位角候補を求めても良い。その場合、6つのビート信号について上述と同じ方法によりビート信号抽出処理を行うことで、方位角の誤検出を回避できる。
【0085】
また、レーダ装置10が車載用レーダとして使用される場合に、車両の前方だけでなく、側方や後方を監視するためのレーダとして用いることができる。さらに、車両以外の移動体に対して本実施形態のレーダ装置は適用可能である。
【0086】
以上説明したように、本実施形態によれば、周波数成分を平滑化してピーク周波数を求め、各ビート信号におけるピーク周波数のビート信号を用いて方位角を検出する場合であっても、かかる誤検出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】車載用の位相モノパルス式のレーダ装置による、目標物体の方位角検出方法を説明する図である。
【図2】同一の目標物体の異なる反射点から反射信号が得られる場合を説明する図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図4】本実施形態におけるレーダ装置10の構成例を示す。
【図5】レーダ送受信機30の動作を説明する図である。
【図6】本実施形態における信号処理装置14の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図7】方位角検出処理の詳細な手順を説明するフローチャート図である。
【図8】位相差を検出するビート信号の組合せについて説明する図である。
【図9】ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す図である。
【図10】ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図11】ビート信号Sb1〜3の周波数成分fs1〜3の形状を示す図である。
【図12】ビート信号抽出手段14dの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図13】ビート信号の組合せごとに、位相差と方位角とを対応付けたマップデータの例を示す図である。
【図14】この実施例における方位角検出処理の手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0088】
10:レーダ装置、30:レーダ送受信機、14:信号処理装置、14c:ピーク周波数検出手段、14d:ビート信号抽出手段、14e:方位角検出手段、14f:相対速度・相対距離検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ群を有するとともに、周波数変調した連続波を送信信号として探索領域に送信して当該探索領域からの反射信号を前記アンテナ群で受信し、前記送信信号と個々の前記アンテナで受信した受信信号との周波数差に対応する周波数を有するビート信号群を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記ビート信号群の周波数成分を平滑化したときに極大値が形成されるピーク周波数を検出するピーク周波数検出手段と、
前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段と、
前記抽出された抽出ビート信号のうち、第1の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号と、第2の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号との位相差に基づいて目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有する信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定条件は、前記ピーク周波数またはピーク周波数帯域における周波数成分のレベルが、前記ビート信号群における前記ピーク周波数のビート信号のレベルの平均値、中央値、または、最大値から所定レベル小さい値のうちいずれか以上であることであることを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記所定条件は、前記ピーク周波数帯域における周波数成分の分布形状が極大値を形成することであることを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。
【請求項1】
アンテナ群を有するとともに、周波数変調した連続波を送信信号として探索領域に送信して当該探索領域からの反射信号を前記アンテナ群で受信し、前記送信信号と個々の前記アンテナで受信した受信信号との周波数差に対応する周波数を有するビート信号群を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記ビート信号群の周波数成分を平滑化したときに極大値が形成されるピーク周波数を検出するピーク周波数検出手段と、
前記ビート信号群から、前記ピーク周波数を含むピーク周波数帯域における周波数成分の状態が所定の条件を満たすビート信号を抽出するビート信号抽出手段と、
前記抽出された抽出ビート信号のうち、第1の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号と、第2の抽出ビート信号に含まれる前記ピーク周波数のビート信号との位相差に基づいて目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有する信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定条件は、前記ピーク周波数またはピーク周波数帯域における周波数成分のレベルが、前記ビート信号群における前記ピーク周波数のビート信号のレベルの平均値、中央値、または、最大値から所定レベル小さい値のうちいずれか以上であることであることを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記所定条件は、前記ピーク周波数帯域における周波数成分の分布形状が極大値を形成することであることを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−293968(P2009−293968A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145374(P2008−145374)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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