説明

修正器具

【課題】切削ブレードの取り付けられるフランジの支持面を簡単に修正可能な修正器具を提供する。
【解決手段】修正器具80は、ブレードマウントの係合軸を受け入れる開口部82aとこの開口部を囲繞し固定フランジの支持面に作用する作用部82bとを有する作用体82と、この作用体を支持する握り体84と、作用体の作用部に貼着され固定フランジの支持面を研磨する研磨シート86とから構成される。固定フランジの支持面に研磨シートを圧接させて修正器具の握り体を左右に回動することにより、支持面に付着したごみを除去して固定フランジの支持面を滑面に修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードを取り付ける固定フランジの端面を修正する修正器具に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエーハを個々のデバイスに分割する切削装置(ダイシング装置)は、ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハの分割予定ライン(ストリート)を切削する切削ブレードを回転可能に支持した切削手段とを具備しており、ウエーハを高精度に個々のデバイスに分割することができる。
【0003】
切削手段は、モータにより回転駆動されるスピンドルと、スピンドルの先端に取り付けられた固定フランジを有するブレードマウントと、このブレードマウントに装着された薄い切刃を有する切削ブレードと、切削ブレードをブレードマウントに固定する固定ナットとから構成される。
【0004】
最近の切削装置では、スピンドルが60,000rpm等の非常に高速回転で回転されるため、ウエーハを高精度に切削して個々のデバイスに分割するためには高速回転での回転バランスをとることが非常に重要である。
【0005】
しかし、切削ブレードは固定ナットの締め付けにより円形基台が固定フランジの支持面に圧接されるため、円形基台の金属粉が固定フランジの支持面に付着して円形基台の固定フランジに対する密着性が経時的に悪化する。
【0006】
その結果、スピンドルの回転に対して切削ブレードの切刃が蛇行して回転するようになり、切削されたチップ(デバイス)の側面や角部に欠けやクラックが発生してデバイスの品質を低下させるという問題がある。この問題を解決するための、フランジ端面修正治具が特許第3472390号に開示されている。
【特許文献1】特許第3472390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたフランジ端面修正治具は有効ではあるが、固定フランジの支持面(端面)を修正するには、チャックテーブルに修正治具をセットし、高精度に修正用チップを固定フランジの支持面に接触させなければならず熟練を要するという問題がある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単に誰でも固定フランジの支持面を修正可能な修正器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段とを備えた切削装置における修正器具であって、該切削手段は、回転駆動されるスピンドルと、係合軸及び固定フランジを有し該スピンドルの先端部に取り外し可能に固定されたブレードマウントと、中央に装着穴が形成された円形基台の外周に切刃を備え、該装着穴が前記ブレードマウントの係合軸に挿入されて該固定フランジの支持面が前記円形基台の背面を支持するように該ブレードマウントに取り付けられた切削ブレードと、該係合軸の先端に形成されたねじに螺合し該切削ブレードの前記円形基台の前面に作用して該固定フランジと協同して該切削ブレードの前記円形基台を挟持する固定ナットとを具備し、前記修正器具は、該係合軸を受け入れる開口部と該開口部を囲繞し前記固定フランジの支持面に作用する作用部とを有する作用体と、該作用体と一体的に構成され該作用体を支持する握り体と、該作用体の作用部に貼着され前記固定フランジの支持面を研磨する研磨シートとから構成され、前記固定フランジの支持面に該研磨シートが作用して付着したごみを除去して該固定フランジの支持面を滑面に修正することを特徴とする修正器具が提供される。
【0010】
好ましくは、前記修正器具の開口部の内側面に研磨シートが貼着され、該係合軸の外周に付着したごみを除去して該係合軸の外周を滑面に修正する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の修正器具によると、修正器具の握り体を手で持ち、固定フランジの支持面に研磨シートを接触させて回動することにより、固定フランジの支持面に付着したごみを除去して固定フランジの支持面を滑面に修正できるので、熟練を要することなく誰でも簡単に固定フランジの支持面を滑面に修正できる。
【0012】
また、開口部の内側面に研磨シートを貼着して係合軸の外周に付着したごみを除去し、係合軸の外周を滑面に修正することができるので、切削ブレードを係合軸に装着する際、かじりを生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は半導体ウエーハをダイシングして個々のチップ(デバイス)に分割することのできる本発明実施形態を適用可能な切削装置2の外観を示している。
【0014】
切削装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作手段4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像手段によって撮像された画像が表示されるCRT等の表示手段6が設けられている。
【0015】
図2に示すように、ダイシング対象のウエーハWの表面においては、第1のストリートS1と第2ストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画されて多数のデバイスDがウエーハW上に形成されている。
【0016】
ウエーハWは粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周縁部は環状フレームFに貼着されている。これにより、ウエーハWはダイシングテープTを介してフレームFに支持された状態となり、図1に示したウエーハカセット8中にウエーハが複数枚(例えば25枚)収容される。ウエーハカセット8は上下動可能なカセットエレベータ9上に載置される。
【0017】
ウエーハカセット8の後方には、ウエーハカセット8から切削前のウエーハWを搬出するとともに、切削後のウエーハをウエーハカセット8に搬入する搬出入手段10が配設されている。ウエーハカセット8と搬出入手段10との間には、搬出入対象のウエーハが一時的に載置される領域である仮置き領域12が設けられており、仮置き領域12には、ウエーハWを一定の位置に位置合わせする位置合わせ手段14が配設されている。
【0018】
仮置き領域12の近傍には、ウエーハWと一体となったフレームFを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送手段16が配設されており、仮置き領域12に搬出されたウエーハWは、搬送手段16により吸着されてチャックテーブル18上に搬送され、このチャックテーブル18に吸引されるとともに、複数の固定手段19によりフレームFが固定されることでチャックテーブル18上に保持される。
【0019】
チャックテーブル18は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル18のX軸方向の移動経路の上方には、ウエーハWの切削すべきストリートを検出するアライメント手段20が配設されている。
【0020】
アライメント手段20は、ウエーハWの表面を撮像する撮像手段22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の処理によって切削すべきストリートを検出することができる。撮像手段22によって取得された画像は、表示手段6に表示される。
【0021】
アライメント手段20の左側には、チャックテーブル18に保持されたウエーハWに対して切削加工を施す切削手段24が配設されている。切削手段24はアライメント手段20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0022】
切削手段24は、回転可能なスピンドル26の先端に切削ブレード28が装着されて構成され、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削ブレード28は撮像手段22のX軸方向の延長線上に位置している。
【0023】
図3を参照すると、スピンドルと、スピンドルに装着されるブレードマウントとの関係を示す分解斜視図が示されている。スピンドルユニット30のスピンドルハウジング32中には、図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル26が回転可能に収容されている。スピンドル26はテーパ部26a及び先端小径部26bを有しており、先端小径部26bには雄ねじ34が形成されている。
【0024】
36は係合軸(凸部)38と、係合軸38と一体的に形成された固定フランジ40とから構成されるブレードマウントであり、係合軸38には雄ねじ42が形成されている。さらに、ブレードマウント36は装着穴43を有している。
【0025】
ブレードマウント36は、装着穴43をスピンドル26の先端小径部26b及びテーパ部26aに挿入して、ナット44を雄ねじ34に螺合して締め付けることにより、図4に示すようにスピンドル26の先端部に取り付けられる。
【0026】
図4はブレードマウント36が固定されたスピンドル26と、切削ブレード28との装着関係を示す分解斜視図である。切削ブレード28はハブブレードと呼ばれ、円形ハブ48を有する円形基台46の外周にニッケル母材中にダイヤモンド砥粒が分散された切刃50が電着されて構成されている。
【0027】
切削ブレード28の装着穴52をブレードマウント36の係合軸38に挿入し、固定ナット54を係合軸38の雄ねじ42に螺合して締め付けることにより、図5に示すように切削ブレード28がスピンドル26に取り付けられる。
【0028】
図6を参照すると、切削ブレード28を装着した切削手段24の拡大斜視図が示されている。60は切削ブレード28をカバーするブレードカバーであり、このブレードカバー60には切削ブレード28の側面に沿って伸長する図示しない切削水ノズルが取り付けられている。切削水が、パイプ72を介して図示しない切削水ノズルに供給される。
【0029】
62は着脱カバーであり、ねじ64によりブレードカバー60に取り付けられる。着脱カバー62は、ブレードカバー60に取り付けられた際、切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水ノズル70を有している。切削水は、パイプ74を介して切削水ノズル70に供給される。
【0030】
66はブレード検出ブロックであり、ねじ68によりブレードカバー60に取り付けられる。ブレード検出ブロック66には発光素子及び受光素子からなる図示しないブレードセンサが取り付けられており、このブレードセンサにより切削ブレード28の切刃50の状態を検出する。
【0031】
ブレードセンサにより切刃50の欠け等を検出した場合には、切削ブレード28を新たな切削ブレードに交換する。76はブレードセンサの位置を調整するための調整ねじである。
【0032】
次に、図7及び図8を参照して、本発明の実施形態に係る固定フランジ40の支持面を修正する修正器具80について説明する。図7(A)は修正器具80の斜視図、図7(B)は修正器具80の一部断面図である。
【0033】
修正器具80は、ブレードマウント36の係合軸38を受け入れる開口部82aとこの開口部82aを囲繞し固定フランジ40の支持面に作用する作用部82bを有する作用体82と、作用体82を支持する握り体84を含んでいる。作用体82の作用部82bには研磨シート86が貼着されており、開口部82aの内側面にも研磨シート86が貼着されている。
【0034】
研磨シート86としては、住友スリーエム株式会社製の商品名ラッピングフィルムシート、又はダイヤモンドラッピングフィルムシートを採用可能である。これらのフィルムシートは、ポリエステルフィルムにミクロングレードの砥粒がコーティングされて構成されている。
【0035】
切削装置2によりウエーハWの切削を続行して、ブレードセンサにより切削ブレード28の磨耗又は欠けを検出した場合には、切削ブレード28を新たな切削ブレードと交換する。この時には、図4に示すように、ナット54を緩めて切削ブレード28をブレードマウント36から取り外す。
【0036】
この時、図8に示すように、本実施形態の修正器具80をブレードマウント36の係合軸38に装着して、握り体84を手で持って研磨シート86をブレードマウント36の固定フランジ40の支持面に押し付けて矢印88に示すように修正器具80を左右に数回回転する。
【0037】
これにより、ブレードマウント36の固定フランジ40の支持面に付着したごみを除去して固定フランジ40の支持面を滑面に修正できる。また、修正器具80の開口部82aの内側面にも研磨シート86が貼着されているので、係合軸38の外周に付着したごみを除去し係合軸38の外周を滑面に修正することができる。
【0038】
このように、修正器具80を使用してブレードマウント36の固定フランジ40の支持面及び係合軸38の外周を滑面に修正した後、新たな切削ブレード28をブレードマウント36の係合軸38に装着して、固定ナット54を締め付けることにより、新たな切削ブレード28を滑面に修正された固定フランジ40の支持面と固定ナット54で両側から安定して支持することができる。
【0039】
上述した実施形態によると、修正器具80の握り体84を手で持ち、固定フランジ40の支持面に研磨シート86を接触させて修正器具80を回動し、固定フランジ40の支持面に付着したごみを除去してフランジの支持面を滑面に修正できるので、熟練を要することなく誰でも簡単に固定フランジ40の支持面を滑面に修正できる。
【0040】
また、修正器具80の開口部82aの内側面にも研磨シートを貼着したので、ブレードマウント36の係合軸38の外周に付着したごみを除去し、係合軸38の外周を滑面に修正することができる。これにより、切削ブレード28をブレードマウント36の係合軸38に装着する際、かじりが生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の修正器具が適用可能な切削装置の外観斜視図である。
【図2】フレームと一体化されたウエーハを示す斜視図である。
【図3】スピンドルユニットと、スピンドルに固定されるべきブレードマウントとの関係を示す分解斜視図である。
【図4】スピンドルユニットと、スピンドルに装着されるべきハブブレードとの関係を示す分解斜視図である。
【図5】ハブブレードがスピンドルに装着された状態の斜視図である。
【図6】切削手段の拡大斜視図である。
【図7】図7(A)は本発明実施形態の修正器具の斜視図、図7(B)は一部断面図である。
【図8】修正器具により固定フランジの支持面を修正する様子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
2 切削装置
18 チャックテーブル
24 切削手段
26 スピンドル
28 切削ブレード
30 スピンドルユニット
36 ブレードマウント
38 係合軸
40 固定ブラケット
44 固定ナット
80 修正器具
82 作用体
84 握り体
86 研磨シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段とを備えた切削装置における修正器具であって、
該切削手段は、回転駆動されるスピンドルと、係合軸及び固定フランジを有し該スピンドルの先端部に取り外し可能に固定されたブレードマウントと、中央に装着穴が形成された円形基台の外周に切刃を備え、該装着穴が前記ブレードマウントの係合軸に挿入されて該固定フランジの支持面が前記円形基台の背面を支持するように該ブレードマウントに取り付けられた切削ブレードと、該係合軸の先端に形成されたねじに螺合し該切削ブレードの前記円形基台の前面に作用して該固定フランジと協同して該切削ブレードの前記円形基台を挟持する固定ナットとを具備し、
前記修正器具は、該係合軸を受け入れる開口部と該開口部を囲繞し前記固定フランジの支持面に作用する作用部とを有する作用体と、該作用体と一体的に構成され該作用体を支持する握り体と、該作用体の作用部に貼着され前記固定フランジの支持面を研磨する研磨シートとから構成され、
前記固定フランジの支持面に該研磨シートが作用して付着したごみを除去して該固定フランジの支持面を滑面に修正することを特徴とする修正器具。
【請求項2】
前記修正器具の前記開口部の内側面に研磨シートが貼着され、該係合軸の外周に付着したごみを除去して該係合軸の外周を滑面に修正する請求項1記載の修正器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−142932(P2009−142932A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322138(P2007−322138)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】