説明

個人移動用具

【課題】自走ができて、安全な走行を容易とすると共に、走行の制御を搭乗者の重心位置から行うようにした個人移動用具の提供。
【解決手段】人を乗せて移動させるインラインスケートのような個人移動用具にあって、人の足を固定する部位30、フレーム3、4、車輪6、7を配した移動用具本体と、車輪6を回転させ、前記フレーム3、4に固定のモータ15と、乗る人の重心位置を足裏の圧力中心の前後方向から検出する重心位置検出手段36と、重心位置から目標速度を演算する制御手段42と、この制御手段の出力からモータへ駆動電流を出力する駆動手段14とより成っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪を転がらせ移動するもので、詳しくは両足に装着し、モータの回転力にて移動せしめる個人の移動用具に関する。
【背景技術】
【0002】
人類は今までに、電車、車、バイク、自転車等の多くの移動用具を開発してきた。輸送用の移動手段、スポーツ用の移動手段に大別できる。そして、足に装着しての移動手段として、ローラースケート等がある。このローラースケートは、駆動力を持たずに、人の足の蹴力を利用して前進するものであるが、これでは、個人の移動手段として魅力的なものではない。
【0003】
従来例として、靴等の履物に電動機(モータ)を装着した例として、特許文献1を示すことができる。この特許文献1には、履物の裏面にあって、かかと部に回転可能のホイールが設けられ、このホイールが電動モータにより、回転され、履物及びこれをはいている人が前進させられる装置で、その出願人は電動ヒーリング装置と称している。
【0004】
この電動ヒーリング装置には、例では段落[0080]に記載されているように、「図22は、本発明に使用される電動ヒーリング装置1000の斜視図である。電動ヒーリング装置は、バッテリー104を有するベルト1002を具えており、配線されたスロットル1006により、履物1010のヒール開口部に配置された電動車輪アセンブリの制御が行われる。スロットル1006は通常、回路(例えば、速度コントローラ)を含んでおり、電動ホイールアセンブリ1008に供給される電力量又はエネルギー量が制御される。この方法では、使用者は、履物1010の爪先部1012でウォーキングを行い、次に、例えば、身体の重心を履物1010のかかと部へ移動させて、電動ホイールアセンブリ1008のホイールで受動的ローリングを行い、次に、電動ホイールアセンブリ1008のモータに電力を供給して電気駆動によるローリングを行う。」とあり、さらに段落[0081]には、「図23は電動ヒーリング装置1020の側部斜視図であり、後部に、本発明の一態様に係る直流モータ1020が取り付けられている。モータ1022の回転シャフトは、ベルト1024及び履物1028のかかと部の側部ホイール1026に結合され、ホイール1026は電気駆動によって回転する。他の実施例においては、スプラグスイッチは、モータ1022の回転シャフトとベルト1024のカップリングに用いられ、モータが動いていないとき、ホイールは、モータ巻線の抵抗無しで、ホイールを自由に回転させることができる。電動ヒーリング装置1020はまた、スロットル(好ましくはワイヤレススロットル)と電源(例えば、バッテリー源)を具えている。」と記述されている。
【0005】
また、特許文献2は、本体フレームに駆動機構を設け、この駆動機構を足の力で、支点を中心に揺動させ、その動きを回転力に換えて走行速度を加減速するものであり、それに加えて、補助動力として、モータ15を組込んだものが開示されています。段落[0025]には、「この、別の駆動源を併用する機構では、ポテンショメータ13、コントローラー14、サーボモーター15、電源16を図5,図6のような位置に、ビスで本体フレーム3と固定する。ポテンショメータ13は、駆動プレート2に取付られたギヤ17、ポテンショメータ13に取付られたギヤ18を介して、駆動プレート2の変移角を捉えることが出来るように本体フレーム3に取り付ける。また、サーボデータ15からシャット6bへの動力の伝達にスプロケット7a,チェーン8c,スプロケットと一体の一方向回転クラッチ9b、を増設した形状である。スプロケット7aはサーボモーター15の回転軸に取り付け、スプロケットと一体の一方向回転クラッチ9bはシャット6bに一方向回転クラッチ9aと同じようにして取り付け、動力の伝達はチェーン8cにより伝わるように組み立てる。ポテンショメータ13は駆動プレート2の変移角をコントローラー14に信号として伝え、コントローラー14を経由してサーボモーター15を制御する。」と記述されている。
【0006】
特許文献3は、コントローラーを手で操作せずに体重移動のみでスピードの加減速や旋回を行い、路面の凹凸等に対処可能な電動式移動体および電動式移動体の制御方法を提供するものである。段落[0012]には、「電動ローラースケート1は、ベースプレート2と、駆動輪3と、電動モータ4と、制御装置5と、前方の補助輪6と、後方の補助車7と、電源装置8との各部から構成されてる。」と記述され、また段落[0014]には「駆動輪3は、ベースプレート2の地面側に設置される車輪状の部材であり、電動モータ4から供給される動力によって回転し、電動ローラースケータ1の加減速を行う。」と記述されている。
【0007】
段落[0021]には、「次に制御装置5の構成について、図3にブロック図を用いて説明する。制御装置5は、ドライバ10と、CPU11と、レゾルバ12と、電流電圧センサ13と、通信回路14と、運動検出装置15との機能からなる。」と記述され、また段落[0026]には「運動検出装置15は、電動ローラースケート1および乗り手の身体の運動の検出装置である。例としては回転体に加わるコリオリ力を検出することで動作を検出する振動ジャイロ等の検知手段であり、回転体に加わる圧力の検出をすることなどで電動ローラースケート1の運動を検出して信号化し、検出結果をCPU11に送る。また、乗り手の体にも振動ジャイロ等の動作検出手段を取り付けておき、乗り手の身体の運動を検出して信号化し、検出結果をCPU11に送る。乗り手の身体への取り付け位置の例としては、乗り手の腰位置にベルトで装着するなどが考えられるが、その場合には有線または無線によってCPU11との情報伝達が可能となっているとする。運動検出手段15として振動ジャイロ等を用いる場合には、複数の振動ジャイロを用いることでX軸方向やY軸方向やZ軸方向への運動を検出し、運動検出の精度を向上させるとする。」と記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−508953
【特許文献2】特開2003−299764
【特許文献3】特開2004−24614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1にあっては、前述のように、スロットル1006により電動ホイールアセンブリ1008に供給される電力量又はエネルギー量が制御されるとあり、手動にて制御される絵が図22に示されています。これでは、手に制御スロットルを持たなければならず、走行の安定性の採り方(両手で行う)に不安定である。また履物をはく人の重心をかかと部へと移行させているので、常に重心上からも不都合があり、更に回転力を加えるために、重心が後方へ移り、転倒する危険をもはらんでいる。
【0010】
また、特許文献2にあっては、足ふみ型の駆動機構に加えて補助動力源として、モータを用いるもので、駆動プレート2の変移角を検出して動力のアシストをしています。これでは、モータの回転力のみで動かすこともできず、また駆動プレート2の揺動は、走行の不安定から逃れない不都合を有していた。
【0011】
さらに特許文献3にあっては、運動検出装置14は振動ジャイロであり、乗り手の体の運動を検出して信号化し、CPUに送るが、乗り手の身体への取り付け位置の例としては、乗り手の腰位置にベルトで装着している。この乗り手の腰位置に振動ジャイロがあると、身体を積極的に動かす動作をしなければならず、加減速の操作が遅れて、俊敏性に欠ける欠点を有していた。
【0012】
そこで、この発明は、両足に履いて利用するインラインスケートのような個人移動用具にあって、自走ができて、安全な走行を可能とすると共に、走行の制御を搭乗者の重心位置から俊敏に行うことが出来る個人移動用具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る個人移動用具は、人の足を固定する部位と、フレームと、車輪を配した移動用具本体と、前記移動用具本体の車輪を回転させ、前記フレームに固定のモータと、前記移動用具本体上に乗る搭乗者の重心位置を検出する重心位置検出手段と、この重心位置検出手段より得られる重心位置から目標速度を演算する制御手段と、この制御手段の出力から前記モータへの回転駆動電流を出力する駆動手段とより成ることを特徴としている(請求項1)。
【0014】
この構成から、移動用具を履き、移動しようとして立つと、搭乗者の体重が移動用具に係り、搭乗者の重心位置が重心位置検出手段により得られ、この重心位置から目標速度が制御手段により演算され、この演算結果より駆動手段からの駆動出力によりモータが回転され、そして車輪が従動され、搭乗者は移動用具に乗ったまま前進される。
【0015】
この個人移動用具は、搭乗者の重心位置から目標速度が得られているので、その重心位置を自らのコントロールにより、得られる速度を任意に且つ俊敏に変化させることができる。
【0016】
前記重心位置検出手段は、少なくとも足の裏の前後2ヶ所の圧力を測定する圧力センサより成るものが好ましい(請求項2)。これにより、搭乗者の足に加えられる前後2ヶ所の圧力が圧力センサから得られ、目標速度の演算の入力として用いられる。
【0017】
前後制御手段としては、マイクロコンピュータが用いられることが好ましい(請求項3)。このマイクロコンピュータは16ビットのCPUが搭載している。動作周期25(MHz)、512キロバイトROMと8キロバイトのRAMを持っている。
【0018】
前記モータとこれにより駆動される車輪との間に減速機を備えていることが好ましい(請求項4)。これにより、モータの回転速度を減速することができる。
【0019】
また、速度は最高速度に制限を持たすことが好ましい(請求項5)。これにより、所定速度例えば6km/h程に制限され、安全性が保持される。
【0020】
前記目標速度は、重心位置が足裏の圧力中心の前後方向の値から得るようにすることが好ましい(請求項6)。これにより、足裏に人の正面方向を正にとった軸を考え、直立静止状態の圧力中心から±15mmの範囲を原点としている。これは人の重心は外力が無くとも常に揺れ動いているため、原点を広くとっている。
【0021】
また、前記目標速度は、重心位置から得られる傾斜角度により加速度を演算して得るようにすることでも良い(請求項7)。これにより、加速度を演算条件とすることで、上体角(傾斜角度)の揺れ幅が小さくなり、搭乗者の姿勢を安定させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、この発明によれば、移動用具上の搭乗者の重心が重心位置検出手段から得られ、この重心位置から目標速度が制御手段より演算される。この演算結果により駆動手段からの駆動出力が制御され、モータが回転され、車輪が従動される。このため移動用具上の搭乗者は前進される。この前進の速度は、重心位置に決定されているので、搭乗者自ら重心位置を変化させることで任意にコントロールすることができる(請求項1)。
【0023】
前記重心位置検出手段は、足の裏の少なくとも前後2ヶ所の圧力を測定する圧力センサより成ることから(請求項2)、加速、減速の指令信号を俊敏に得られ、しかも搭乗者の動き、加速時は前傾、減速時は後傾に合う重心位置検出手段を得ることができる。
【0024】
前記目標速度は、重心位置が足裏の圧力中心の前方又は後方の値から得られ、目標速度になるように車輪を加減速し、フィードバッグ制御して、所望の目標速度に至らしめている(請求項6)。
【0025】
前記目標速度は、重心位置が足裏の圧力中心より前方又は後方の値から人の上体角度(傾斜角度)を得て、その傾斜角度により加速度を演算し、この加速度を演算条件として用い、目標速度になるように車輪を加減速し、フィードバッグ制御して、所望の目標速度に至らしめている。この結果として、搭乗者の傾斜角度の振れ幅をより少なくでき、姿勢を安定させることができる(請求項7)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係る個人移動用具の斜視図でマイクロコンピュータと電源が外された状態である。
【図2】同上の側面図である。
【図3】同上の駆動機構の部分の倒立した上体での斜視図である。
【図4】個人移動用具の左足側部分の側面図である。
【図5】この発明の制御フローを示すフローチャートである。
【図6】倒立振子に関する説明図である。
【図7】CoP制御モードの目標速度とPMR速度との特性線図である。
【図8】倒立振子制御則モードの目標速度とPMR速度との特性線図である。
【図9】CoP制御と倒立振子制御則モードの傾斜角との特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本願発明の実施例について図面により説明する。
【実施例1】
【0028】
まず、この発明の実施例1を説明すると、個人移動用具としてインラインスケートに実施した例を用いて説明する。図1は、斜視図、図2は側面図で、インラインスケートから成る個人移動用具1の右足側部分が示され、水平フレーム3と垂直フレーム4とより成る移動用具本体(ボディ)2を持っており、前記水平フレーム3は、体重を支えるに十分なる金属製の薄い平板状で、細長の長方形をなしている。また前記垂直フレーム4は、金属製で、断面がコ字状に形成され、前記水平フレーム3の下面で、その短手方向中央で且つ長手方向に沿って垂直フレーム4がねじ止めされて固着されている。
【0029】
垂直フレーム4は、図3に示すように、倒立させて斜め底面側に見たように、コ字状の2つの垂直面4a、4bと水平面4cを持ち、前方側に車輪6と後方側に車輪7を設けている。前記前方の車輪6及び後方の車輪7は、それぞれ、軸8、9にて支えられている。
【0030】
前方の車輪6は、前記軸8に固定され、軸8からの入力される回転力にて従動して回転される。この軸8の右側には、プーリ11が固着され、張設のタイミングベルト12から回転力が伝達される。
【0031】
また、前記水平フレーム3の下方の垂直フレーム4には、前方の車輪6を回転させるための駆動機構14も取付られている。この駆動機構14は、主にモータ15と減速機16等とより構成され、両者は取付プレート17を介して一体化されている。前記モータ15は、ブラシレスモータ、24Vが採用され、具体的には、前記垂直フレーム4の垂直面4a、4bの中央付近で形成の穴18a、18bに挿入され、この垂直面4a、4bに対して直角方向に配置されている。なお、モータ15の右側には、回転速度を検出するエンコーダ19が設けられ、回転速度がフィードバック信号として下記するマイクロコンピュータ42に戻されている。
【0032】
前記減速機構16は、遊星歯車を用いた減速装置で、立方体を成し、一方側(左側)に入力側プーリ20、他方側(右側)に出力側プーリ21がそれぞれ設けられ、前記垂直面4a、4bの中央付近で前記モータ15よりも前方側で垂直面4a、4bに対して直角方向に配置され、ねじ止めにて垂直面4aに固着されている。
【0033】
この減速機16は、前記入力側プーリ20から前記モータ15の回転力がベルト22を介して伝えられ、減速機16内で減速(減速比は25)され、出力側プーリ21に伝えられる。
【0034】
前記移動用具本体2の水平フレーム3の上方には、前方及び後方の部位に2本の取付支柱25、26が固着立設され、その上方に弾性変形する弾性体27、28を介して前記水平フレーム3と同形状のシェル取付プレート29が取付られている。そしてシェル取付プレート29は加えられる荷重(体重)により上下方向にmm伸縮が可能となっている。
【0035】
シェル取付プレート29には、足を固定するシェル30が固着されている。それから、このシェル取付プレート29の反シェル側(水平プレート側)に、プッシュロッド33、34が、それぞれ足の親指付け根部分と、かかとの末端部分とに対応する部位にそれぞれ水平フレーム3に向けて取付られ、その先端と前記水平フレーム3との間に、圧力センサ36、37が配されている。
【0036】
この圧力センサ36、37は、圧力を抵抗値変化の電気信号として取り出すことのできるもので、その電気信号は、下記するマイクロコンピュータ42に入力される。この両圧力センサ36、37の電気信号により、搭乗者の重心が足の前方、後方又は中心にあるか否かマイクロコンピュータ42内で判定される。
【0037】
40は、モータ15を駆動するための駆動手段となるモータドライバーで、前記水平フレーム3上に固着され、シェル取付プレート29下に配置されている。このモータドライバー40は下記するマイクロコンピュータ42からの出力信号にて稼働され、モータ駆動に適する電圧に変換してモータ15に供給される。
【0038】
マイクロコンピュータ42は、移動用具本体2の後方に取付られており、前記モータ15の回転力即ち前方の車輪6の駆動に関与している。このマイクロコンピュータ42は、16ビットのものが搭載され、中央演算装置(CPU)と、ラム(RAM)ロム(ROM)の記憶装置と、入出力ポート(1/0)等を有する公知構造のものである。
【0039】
このコンピュータ42には、前記圧力センサ36、37からの圧力信号が入力され、所定のプログラムにしたがって演算され、前記したモータドライバー40に出力されている。このコンピュータ42内の演算処理は、図5のフローチャートをもって下記に詳細に説明する。なお、43は電源で、モータドライバー40等へ電力を供給している。また44は手動制御時のリモートコントローラで、駆動スイッチ45を入れ、摘み46を回転させることで、抵抗値変化信号を出力し、速度をコントロールしている。それから、マイクロコンピュータ42には、図示しないが、別の電源が設けられている。
【0040】
以上、この発明を個人移動用具1として、インラインスケートに実施した構成を説明しており、その右足側部分に駆動機構14が設けられた例であり、左足側部分は図4に示されている通り、モータなどの駆動機構14は一切持っていない。
【0041】
この左足側部分の個人移動用具101には、移動用具本体102としてコ字状に形成の垂直フレーム104が設けられ、この垂直フレーム104に4個の車輪108、109、110、111が軸108、109、110、111を介して回転自在に取付られている。それから、垂直フレーム104の上方に足を固定するシェル130が設けられている。150はスペーサで、前記右足側部分が駆動機構14の装着により縦方向に高くなっている構成に対応するため、設けられている。
【0042】
次に、この発明に係る個人移動用具(PMR)1の操縦例を図5を加えて説明する。図示しない搭乗者は始動スイッチをONとすることで、前記マイクロコンピュータ42を稼働状態にし、操縦モードステップ201に至る。操縦モードは、三つのパターンがあり、第1に手動によるリモコン制御、第2に足裏圧力中心(CoP)を用いた制御、第3に倒立振子制御則を用いた制御があります。その操縦モードの選択は搭乗者にまかされているが、特定の操縦モードに固定することもできる。
【0043】
操縦モードの選択が完了したら、信号入力のステップ202に至り、第1のリモコン制御が選択された場合には、リモコン操縦信号が、第2、第3の操縦モードが選択された場合には、前記圧力センサ36、37から足裏の圧力が電気信号として入力される。それから、前記モータ15に取付られているエンコーダ19からも回転速度がフィードバックされる。そして次のステップ203に至る。
【0044】
ステップ203にあっては、個人移動用具1の目標とする速度が演算される。第1のリモコン制御が選択された場合に、ステップ203では、目標速度が、下記の数式1により演算される。
【0045】
【数1】

【0046】
この数式において、Vd目標速度、Kcは速度ゲイン、Eはリモコンからの信号である。このように、第1のリモコン制御においては、リモコンからの入力が目標速度に正比例するようになっている。尚、目標速度が5.80km/h以上に、または0km/hにならないよう制限が設けられている。
【0047】
また、第2の足裏圧力中心(CoP)制御が選択された場合には、ステップ203においては、目標速度が下記の数式2により求められる。
【0048】
【数2】

【0049】
上記数式において、Kvは速度ゲイン、CoPは右足裏の圧力中心(Center of Pressure)の略である。このCoPの座標系は次のようにとる。右足裏に人の正面方向を正にとった軸を考え、直立状態の圧力中心から±15(mm)範囲内を原点とする。これは、人の重心は外力が無くとも常に揺れ動いているため、原点を広くとるようにしたものである。さらに、目標速度が5.80km/h以上に、または0km/hにならないよう制限がかけられている。
【0050】
第3の倒立振子制御則モードが選択された場合に、ステップ203において目標速度が、下記の数式3により求められる。
【0051】
【数3】

【0052】
上記数式において、目標速度の決定因子として加速度が用いられる。これは、人により急な加速・減速により、バランスを崩す人が見られたため、倒立振子のモデリングを行い、安定した走行及び操作性の向上を図ったものである。尚、図6に質量が0の台車状にある倒立振子のモデルが示される。ここで、図中のxは支点中心、δはX軸方向の支点中心からCoPまでの距離、θは振子の傾斜角、l(エル)は、振子の支点から重心までの長さを表す。尚、支点中心は直立姿勢におけるCoPとし、X軸は進行方向、Z軸は鉛直方向とするものである。このモデルにおける倒立振子の運動方程式は、次のようになる。
【0053】
【数4】

【0054】
上記数式4をθ=0回りでcosθ≒1,sinθ≒θ(=δ/l)と線形近似し、J=ml/3を与えると、次のようになる。
【0055】
【数5】

【0056】
支点中心の加速度を入力とみなし、支点を加速させ振子の姿勢回復を行う。本モデルの連続時間系の状態方程式は次のようになる。
【0057】
【数6】

【0058】
ただし、X:状態変数(n×1)、Ac:n×n、Bc:n×r、C:m×n、n=2、m=1、r=1である。マイコンによるデジタル制御を行うために、数式6を離散化させ、次の式を得る。
【0059】
【数7】

【0060】
ただし、kはk番目の物理量、係数A,Bは、下記する数式8,数式9である。
【0061】
【数8】

【0062】
【数9】

【0063】
Tはサンプリング周期である。さらに、数式7に最適l型ディジタルサーボ系を適用し、安定化制御を行う。θd(k)を目標角度、e(k)=θd(k)-θ(k)を誤差信号、Δを一階差分オペレータとするエラーシステムは、下記する数式10となる。
【0064】
【数10】

【0065】
ただし、Iは、m×mである。さらに、数式10を下記のように表現する。
【0066】
【数11】

【0067】
エラーシステムの最適制御入力をえるために、次のように評価関数を導入した。
【0068】
【数12】

【0069】
Qは半正定対称行列(m+n)×(m+n)の重み関数、Hは正定数である。この数式12を最小にするような最適制御入力は、下記する数式13,14,15となる。
【0070】
【数13】

【0071】
【数14】

【0072】
【数15】

【0073】
上記数式15は、一般的にRiccati方程式と呼ばれるものである。尚、上記数式13,14,15は、上記数式12を変形することで導くことができる。これによって支点の加速度は、下記する数式16に示されるものとなる。
【0074】
【数16】

【0075】
尚、傾斜角θは圧力センサ36,37からの圧力により演算される。この数式16によって求められた加速度に基づいて、上記数式3から目標速度が演算されるものである。
【0076】
ステップ204にあっては、選択された操縦モードで得られた目標速度にしたがって、マイクロコンピュータ42からモータドライバー40に駆動用電力が出力され、モータ15が回転される。モータ15には、エンコーダ19が取付られているから、実際の回転速度(実際の速度と均等)が得られ、この実際の回転速度がマイクロコンピュータ42にフィードバックされる。
【0077】
ステップ205にあっては、実際の速度と目標速度とが比較され、モータ15への出力が制御され、個人移動具は目標速度に至る。
【0078】
走行特性を評価するため、基本的な走行実験を行った。
制御モードとして、第2の足裏圧力中心(CoP)を用いた制御モード(以下CoP制御モードという)、第3の倒立振子制御則モードの二つで、搭乗者は体重58kgの成人男性である。実験は、平らな床上で行い、直線20mを走行した。最初の10mは最大速度まで加速し、次の10mは減速して走行した。
【0079】
実験の結果は、図7、図8、図9に示す。図7と図8は、各モードにおける速度のグラフ、図9は両モードにおける傾斜角を比較したグラフである。実験により、両制御モードとも個人移動用具(PMR)1の速度が目標速度にほとんど誤差なく追従しており、最大5.80km/hに達していることが確認できた。
【0080】
図9を見ると、CoP制御モードより倒立振子制御則モードの方が傾斜角度の振り幅が小さいことがわかり、倒立振子制御則モードの方が搭乗者の姿勢が安定しているといえる。
【符号の説明】
【0081】
1 個人移動用具
2 移動用具本体
3 水平フレーム
4 垂直フレーム
6,7 車輪
8,9 軸
11 プーリ
12 タイミングベルト
14 駆動機構
15 モータ
16 減速機
17 取付プレート
19 エンコーダ
25,26 取付支柱
27,28 弾性体
29 シェル取付プレート
30 シェル
33,34 プッシュロッド
35,36 圧力センサ
40 モータドライバー
42 マイクロコンピュータ
44 リモコン
101 左足側部分の個人移動用具
104 垂直フレーム
108,109,110,111 車軸
130 シェル
150 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の足を固定する部位と、フレームと、車輪を配した移動用具本体と、
前記移動用具本体の車輪を回転させ、前記フレームに固定のモータと、
前記移動用具本体上に乗る人の重心位置を検出する重心位置検出手段と、
この重心位置検出手段より得られる重心位置から目標速度を演算する制御手段と、
この制御手段の出力から前記モータへの回転駆動電流を出力する駆動手段とより成ることを特徴とする個人移動用具。
【請求項2】
前記重心位置検出手段は、足の裏の少なくとも前後2ヶ所の圧力を測定する圧力センサーより成ることを特徴とする請求項1記載の個人移動用具。
【請求項3】
前記制御手段は、マイクロコンピュータより成ることを特徴とする請求項1記載の個人移動用具。
【請求項4】
前記モータとこれにより駆動される車輪との間に減速機を備えたことを特徴とする請求項1記載の個人移動用具。
【請求項5】
最高速度の制限を持つことを特徴とする請求項1,2又は3記載の個人移動用具。
【請求項6】
前記目標速度は、重心位置が足裏の圧力中心の前後方向の値から得るようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の個人移動用具。
【請求項7】
前記目標速度は、重心位置から得られる傾斜角度より加速度を演算して得るようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の個人移動用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−227491(P2010−227491A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81354(P2009−81354)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】