説明

偏光変換素子の製造方法

【課題】光線の透過特性の良好な偏光変換素子の製造方法を提供する。
【解決手段】PBS4の出射面のうち、複数のλ/2位相差板5が貼り付けられるλ/2位相差板固定領域5'と異なる領域、即ち、複数の第2の透光性部材24の出射面に複数のマスキングテープ40を貼り合わせる。マスキングテープ40は、第2の透光性部材24の出射面のうち少なくとも光線の透過領域を覆って、且つ、第1の透光性部材14の出射面のうちλ/2位相差板固定領域5'にかからないように貼り付ける。次に、λ/2位相差板固定領域5'に、光学接着材を塗布する。次に、PBS4のλ/2位相差板固定領域5にλ/2位相差板5を位置決めして仮固定する。次に、接着剤を硬化させて、λ/2位相差板5'を固定する。そして、マスキングテープ40を剥離することにより、PBS4の出射面の一部に複数のλ/2位相差板5が選択的に固定された偏光変換素子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ランダムな偏光方向を有する光を、一方向の偏光方向を有する光に変換する光学素子である偏光変換素子として、入射されたランダム光をS波とP波とに分離して出射するプレート型の偏光分離素子(以下、「PBS(Polarization Beam Splitter:偏光ビームスプリッタ)」という)の出射面の一部に、S波またはP波に偏光方向を揃えるλ/2位相差板が選択的に設けられたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の偏光変換素子は、PBSの出射面の一部に、複数のλ/2位相差板(1/2波長板)が選択的に設けられて構成されている。PBSは、光の入射面および該入射面と略平行な光の出射面を有する同一形状の第1の透光性部材(第1のプリズム)および第2の透光性部材をそれぞれ複数有している。第1の透光性部材の入射面および出射面と所定の角度をなす面には偏光分離膜が形成された偏光分離膜面(ダイクロイック膜面)を有し、該偏光分離膜面と略平行な面には反射膜が形成された反射膜面を有している。このような第1の透光性部材と第2の透光性部材とが、交互に複数周期貼り合わされて、プレート型のPBSが構成されている。そして、PBSの出射面において、複数の第1の透光性部材の出射面の出射面に、λ/2位相差板が接着剤により接着されて設けられている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−309853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の偏光変換素子において、PBSに接着剤によりλ/2位相差板を貼り付けるときには、貼り付け強度および貼り付け時に発生する気泡の除去性を確保するために、十分な塗布量の接着剤を塗布する必要がある。このため、接着剤の塗布時、および、接着剤を介してPBSの出射面にλ/2位相差板を貼り付ける際に、λ/2位相差板が固定される領域から接着剤がはみ出しやすい。このように、λ/2位相差板の固定領域からはみ出した接着剤が、PBSの出射面の光線の透過領域にまで至った場合には、接着剤により透過光の光の拡散が生じて光の透過効率が部分的に低下し、透過光の光量が不均一になったり、全体的な照度の低下を招いたりするなど、偏光変換素子の光学特性を劣化させる虞があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
〔適用例1〕本適用例にかかる偏光変換素子の製造方法は、断面が略平行四辺形の柱状体からなる第1の透光性部材および第2の透光性部材がそれぞれ交互に複数周期貼り合わされ、光の入射面および該入射面と略平行な光の出射面を有し、前記入射面と所定の角度をなす偏光分離膜面と全反射膜面とを有して形成された積層体であるプレート型の偏光分離素子を備え、該偏光分離素子の出射面において、前記第1の透光性部材または前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、いずれか一方の前記出射面の少なくとも光線の透過領域を含むλ/2位相差板固定領域にλ/2位相差板が接着剤により固定されて設けられた偏光変換素子の製造方法であって、前記偏光分離素子を作成する偏光分離素子作成工程と、前記偏光分離素子の前記第1の透光性部材および前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、前記λ/2位相差板が設けられる前記出射面とは異なる前記出射面の少なくとも光線の透過領域を覆うようにマスキングテープを貼り付けるマスキングテープ貼り付け工程と、前記マスキングテープ貼り付け工程の後で、前記第1の透光性部材および前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、前記λ/2位相差板が設けられる前記出射面の少なくとも前記λ/2位相差板固定領域に前記接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記接着剤塗布工程の後で、前記接着剤が塗布された前記λ/2位相差板固定領域に前記λ/2位相差板を位置合わせして仮固定するλ/2位相差板位置決め・仮固定工程と、前記接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、前記マスキングテープを剥離するマスキングテープ剥離工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、マスキングテープにより、第1の透光性部材および第2の透光性部材それぞれの出射面のうち、λ/2位相差板が貼り付けられる一方の出射面に、他方の出射面の光線の透過領域に接着剤をはみ出させることなくλ/2位相差板を接着することができる。これにより、光線の透過領域に接着剤がはみ出した場合に起こり得る光の透過効率の低下を防止できるので、光の透過効率が高く、均一な光透過性を有する偏光変換素子を製造することができる。
【0009】
〔適用例2〕上記適用例にかかる偏光変換素子の製造方法において、前記マスキングテープ貼り付け工程で、前記マスキングテープが、前記λ/2位相差板固定領域に沿って且つ前記λ/2位相差板固定領域にかからない大きさを有して貼り付けられることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、λ/2位相差板位置決め・仮固定工程において、マスキングテープの端面部分をガイドとしてλ/2位相差板を容易に且つ精度よく位置決めすることができるので、作業性が向上して工程の効率化が図れるとともに、λ/2位相差板の位置ずれ不良が軽減する。
【0011】
〔適用例3〕上記適用例にかかる偏光変換素子の製造方法において、前記マスキングテープの厚みが、前記λ/2位相差板よりも薄いことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、λ/2位相差板位置決め・仮固定工程において、位置決めされた複数のλ/2位相差板を押圧ツールにより一括して押圧することにより、複数のλ/2位相差板を、均一な密着性にて仮固定することができる。
【0013】
〔適用例4〕上記適用例にかかる偏光変換素子の製造方法において、前記マスキングテープが、前記第1の透光性部材および前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、前記マスキングテープが貼り付けられる前記出射面の少なくとも一端側の外側に突出された部分を加えた大きさを有していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、マスキングテープの透光性部材から突出された部分がつかみ易いので、マスキングテープを剥離する工程の作業性が向上する。
【0015】
〔適用例5〕上記適用例にかかる偏光変換素子の製造方法において、前記接着剤塗布工程で用いる前記接着剤には、未硬化状態において、前記λ/2位相差板位置決め・仮固定工程において仮固定されたときの前記λ/2位相差板が容易に動かないように保持できる粘着性を有するものが用いられ、前記λ/2位相差板位置決め・仮固定工程の後で、前記マスキングテープ剥離工程が行われることことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、λ/2位相差板位置決め・仮固定工程の後で、λ/2位相差板にきずや汚れなどの不良特性が発見された場合に、比較的容易に不良のλ/2位相差板を取り外して良品のλ/2位相差板に交換することが可能になるので、製造歩留りを向上させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、偏光変換素子の製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
まず、本実施形態の製造方法により製造される偏光変換素子の一例について説明する。
図1は、偏光変換素子の一実施形態を示し、偏光分離素子(以下PBSという)の出射面の一部に選択的に貼り付けられて設けられたλ/2位相差板を光学系構造の液晶パネル側からみた正面図である。図2は、本実施形態の偏光変換素子を用いた光学系構成の一例として、一般的な液晶プロジェクタの光学系構成を模式的に示す説明図である。図3は、本実施形態の偏光変換素子の光学的な作用を説明する側面図である。
【0019】
〔偏光変換素子〕
まず、本実施形態の製造方法により製造される偏光変換素子について説明する。
図1に示すように、偏光変換素子6は、断面が略平行四辺形の柱状の第1の透光性部材14と第2の透光性部材24とが交互に複数周期貼り合わされて構成されたPBS4と、該PBS4の一部に選択的に設けられた複数のλ/2位相差板5とを有している。本実施形態では、λ/2位相差板5は、PBS4のうち第1の透光性部材14の光の出射面側に貼り付けられて設けられている。
【0020】
第1および第2の透光性部材14,24としては、板ガラスが用いられる。ただし、ガラス以外の透光性の板状材料を用いることもできる。また、第1の透光性部材14と第2の透光性部材24とのいずれか一方を、他方とは異なる色を有する材料を用いるようにしてもよい。例えば、一方の部材を無色透明な板ガラスで形成し、他方の部材を青色で透明な板ガラスで形成するようにしてもよい。このようにすれば、PBS4を作成するとき、また、PBS4あるいは偏光変換素子6として完成した後で、第1の透光性部材14と第2の透光性部材24との区別をつけやすいという利点がある。なお、板ガラスとしては、磨き板ガラスやフロートガラスが好ましく、特に、磨き板ガラスが好ましい。
【0021】
図3に示す偏光変換素子6において、交互に貼り合わされてPBS4を形成する第1の透光性部材14および第2の透光性部材24のそれぞれの略平行な二つの表面のうち、一方の表面には偏光分離膜面4aが形成され、他方の表面には全反射膜面4bが形成されている。本実施形態のPBS4においては、第1の透光性部材14の略平行な二つの表面のうち、一方の表面上に偏光分離膜面4aが形成され、他方の表面上に全反射膜面4bが形成され、第2の透光性部材24の表面には、これらの膜のいずれも形成されていない構成を示している。
【0022】
偏光分離膜面4aは、S偏光とP偏光のいずれか一方を選択的に透過させ、他方を選択的に反射する性質を有する偏光分離膜からなっている。通常、このような性質を有する誘電体多層膜を積層することによって、偏光分離膜面4aが形成される。
【0023】
全反射膜面4bは、偏光分離膜面4aを構成する偏光分離膜とは異なる組成および構成を有する誘電体多層膜を積層することによって形成される全反射膜からなっている。誘電体多層膜を積層することによって形成される全反射膜面4bは、特定の直線偏光成分(例えばS偏光)を約98%程度の高い反射率で反射することができるので好ましい。全反射膜面4bは、偏光分離膜面4aで反射された直線偏光成分(S偏光またはP偏光)のみを選択的に反射し、他の直線偏光成分は反射しないような誘電体多層膜で構成されたものが好ましい。なお、全反射膜面4bは、アルミニウムなどを蒸着することによって形成するようにしてもよい。
以上、説明した構成の第1の透光性部材14と第2の透光性部材24とは、例えば紫外線硬化タイプの光学接着剤によって交互に複数周期貼り合わされ、これによりPBS4が形成されている。
【0024】
PBS4の出射面の一部には、水晶の薄板からなるλ/2位相差板5が、選択的に貼り付けられて設けられている。本実施形態の偏光変換素子6においては、λ/2位相差板5は、PBS4の出射面(図3において左側の面)うちで、第1の透光性部材14の出射面に設けられている。
本実施形態の水晶からなるλ/2位相差板5は、従来の有機物からなるフィルム状のλ/2位相差板のように、耐熱性や耐光性が極めて弱い特殊な接着剤を用いなくてもよく、所謂光学接着剤と呼ばれる耐熱性や耐光性に優れた接着剤によりPBS4に貼り付けることができる。また、水晶からなるλ/2位相差板5は、それ自体が有機物からなるλ/2位相差板に比して耐熱性や耐光性に優れている。
【0025】
〔偏光変換素子を用いた光学系構成〕
ここで、偏光変換素子6を用いた光学系構成の一例として、一般的な液晶プロジェクタの光学系の構成を説明する。
図2に示すように、一般的に、液晶プロジェクタは、光源ランプ1、第1のフライアイレンズ2、第2のフライアイレンズ3、偏光変換素子6、照明系レンズ7a,7b、偏光子8、液晶パネル9、検光子10、および投射レンズ11により構成されている。
ここで、第1のフライアイレンズ2は、複数の矩形状のレンズセルからなり、また、第2のフライアイレンズ3は、第1のフライアイレンズ2の各レンズセルに対応して配置されている矩形状のレンズセルの集合体からなっており、光源ランプ1からのアーク像を二次光源像として投射させる。
また、偏光変換素子6は、第2のフライアイレンズ3から出射されたランダム光をS波とP波に分離するものであり、ここで、λ/2位相差板5は、偏光変換素子6のPBS4から出射された光をS波またはP波のいずれかの偏光方向に揃えるためのものである。以下、液晶プロジェクタの光学系構成における偏光変換素子6の作用について図3を参照して詳細に説明する。
【0026】
〔偏光変換素子の作用〕
図3において、本実施形態の一例を示すPBS4とλ/2位相差板5とからなる偏光変換素子6に、複数のレンズセルからなる第2のフライアイレンズ3から入射されてくるランダム光(P波+S波)は、PBS4の偏光分離膜面4aにおいて、P波が透過光とされ、S波は反射光とされて分光される。偏光分離膜面4aで反射されたS波は、さらに、PBS4の全反射膜面4bで反射され、照明系レンズ7aの方向(図面左方向、図2を参照)に出射される。一方、偏光分離膜面4aを透過したP波は、PBS4の出射側側面に貼り付けられたλ/2位相差板5に入射する。
【0027】
ここで、本実施形態のλ/2位相差板5は、旋光特性を有する水晶板からなり、水晶板の光学軸はP波に対して45°に設定されている。このため、λ/2位相差板5に入射されたP波は、λ/2位相差板5を構成する水晶板により90°旋光されて、S波の偏波光とされて、照明系レンズ7aの方向(図面左方向、図2を参照)に出射される。よって、照明系レンズ7aの方向に出射される光は、偏光分離膜面4aを透過したP波もλ/2位相差板5によりS波に旋光されることにより、偏光分離膜面4aで反射され、全反射膜面4bでさらに反射されたS波と偏光方向が揃う状態になる。
【0028】
〔偏光変換素子の製造方法〕
次に、偏光変換素子6の製造方法の一実施形態について、PBS4へのλ/2位相差板5の貼り付け方法を中心に図面を参照して説明する。
図4は、偏光変換素子6の製造工程を説明するフローチャートである。また、図5は、偏光変換素子6の製造工程において、PBS4にλ/2位相差板5を貼り付けるステップを説明するものであり、(a)は、PBS4にマスキングテープ40を貼り付けた状態を示す正面図、(b)は、λ/2位相差板5を貼り付けた状態を示す正面図である。
【0029】
偏光変換素子6の製造の開始にあたっては、まず、図4のステップS1の工程において、PBS4を公知の方法により作成する。
この工程では、板状のガラスからなる複数の第1の透光性部材14および第2の透光性部材24をそれぞれ準備する。第1の透光性部材14の略平行な二つの表面(膜形成面)のうち、一方の表面上には、偏光分離膜面4aを形成するために、S偏光とP偏光のいずれか一方を選択的に透過させ他方を選択的に反射する性質を有する偏光分離膜を、誘電体多層膜を積層することによって形成する。また、第1の透光性部材14の偏光分離膜面4aを形成するための偏光分離膜を形成した面と略平行な他方の面には、偏光分離膜を構成する誘電体多層膜とは異なる組成および構成の誘電体多層膜などからなり、全反射膜面4bを形成するための全反射膜を形成する。
次に、これらの第1の透光性部材14および第2の透光性部材24を、光学接着材により交互に複数回貼り合わせて複数の第1の透光性部材14および第2の透光性部材24からなる積層体を形成する。
こうして貼り合わされた複数の第1の透光性部材14および第2の透光性部材24の表面と所定の角度をなす切断面にて略平行に切断することによって、PBS4の原型となる透光性ブロックを切り出す。このときの所定の角度の値は、約45°とすることが好ましい。
そして、切り出された透光性ブロックの切断面の表面を研磨することによってPBS4を得る。
【0030】
次に、ステップS2において、図5(a)に示すように、PBS4の出射面のうち、複数のλ/2位相差板5が貼り付けられるλ/2位相差板固定領域5'と異なる領域、即ち、複数の第2の透光性部材24の出射面にマスキングテープ40を貼り合わせる。このとき、マスキングテープ40は、第2の透光性部材24の出射面のうち少なくとも光線の透過領域を覆って、且つ、第1の透光性部材14の出射面のうちλ/2位相差板固定領域5'に沿って且つλ/2位相差板固定領域5'にかからないように貼り付ける。
また、マスキングテープ40の厚さは、後述するλ/2位相差板5を位置決めして仮固定を行う工程において複数のλ/2位相差板5を押圧ツールにより一括して押圧する際に押圧ツールに当らないように、λ/2位相差板5の厚さよりも薄いものであることが好ましい。また、マスキングテープ40の厚みは、λ/2位相差板5よりも薄い範囲内にてなるべく厚くした方が、後述する接着剤塗布工程において、マスキングテープ40の端面部分をガイドとして接着剤をλ/2位相差板固定領域5'に選択的に塗布することができるのでより好ましい。
【0031】
また、マスキングテープ40は、λ/2位相差板5を接着するための接着剤がPBS4とマスキングテープ40との接着されている界面に侵入してこないレベルの接着力、および接着剤に対する耐性を有して、且つ、マスキングテープ40をPBS4から剥す際に、マスキングテープ40の接着剤がPBS4の表面に残らないレベルの接着力を有しているものを用いる。さらに、本実施形態では、λ/2位相差板5用の接着剤として紫外線硬化タイプの光学接着剤を用いるので、紫外線に対する耐性を有するマスキングテープ40を用いる。
上記のような性能を具備するマスキングテープとして、例えば、日東電工株式会社製のプリント基板用マスキングテープ(製品名:N−300)などが本実施形態の製造方法に用いるマスキングテープ40として適用可能である。
【0032】
PBS4にマスキングテープ40を貼り合わせる工程では、顕微鏡でマスキングテープ40の貼り付け位置を確認しながら、手作業でマスキングテープ40を貼り合わせることがもちろん可能であるが、マスキングテープ40の貼り付け位置精度および製造効率の向上を図るため、例えば、従来の有機系のフィルムからなるλ/2位相差板をPBSに貼り付ける工程で使用される貼り付け装置を用いることが好ましい。
この貼り付け装置は、PBS4をチャッキングした状態で搬送するPBS搬送手段と、該PBS搬送手段と平行に配置され、PBS4に貼り付ける被貼り付け体を搬送する被貼り付け物搬送手段と、被貼り付け物を吸着してピックアップするピックアップ機構および被貼り付け物をPBSに貼り付けてから押圧する押圧ローラを備えた貼り付けヘッドを、PBS搬送手段および被貼り付け物搬送手段の搬送方向に対して直交する方向に走査することが可能なキャリッジと、を有している。
貼り付け装置によりPBS4にマスキングテープ40を貼り付ける方法では、まず、PBS搬送手段が有する載置台に、PBS4を、マスキングテープ40を接着する出射面側を上側に向けてチャッキングし、被貼り付け物搬送手段が有する載置台には、マスキングテープ40を、その接着面を下側に向けてチャッキングしてから、PBS4およびマスキングテープ40をキャリッジの下方まで搬送させる。次に、キャリッジの貼り付けヘッドのピックアップ機構によりマスキングテープ40を吸着し、キャリッジを走査させてマスキングテープ40をPBS4の上方に走査させる。そして、例えば画像認識装置を用いて、マスキングテープ40をPBS4上の所定の貼り付け位置に位置合わせして貼り合わせてから、貼り付けヘッドの押圧ローラによりマスキングテープ40を押圧することによって、PBS4の出射面の所定の位置にマスキングテープ40が貼り付けられる。
【0033】
次に、図4のステップS3において、図5(a)に示すλ/2位相差板固定領域5'に、例えばディスペンサなどによりλ/2位相差板5を接着するための光学接着材を塗布する。本実施形態では、水晶板からなるλ/2位相差板5を適用しているので、従来の有機系のフィルムからなるλ/2位相差板のように特殊な有機系接着剤を用いる必要はなく、例えば紫外線硬化タイプの周知の光学系接着剤を用いることができる。接着剤は、複数のマスキングテープ40の各端面をガイドとして、λ/2位相差板固定領域5'に選択的に塗布することができ、λ/2位相差板固定領域5'外にはみ出してしまった接着剤はマスキングテープ40上にのり上げるので、接着剤をPBS4表面のλ/2位相差板固定領域5'外にはみ出させることなく塗布することができる。なお、図中、略矩形状のλ/2位相差板固定領域5'のうち、複数のマスキングテープ40側の二辺と直行する方向の二辺側は、偏光変換素子6の光線の透過領域外であるため接着剤がはみ出しても構わない。
【0034】
次に、図4のステップS4において、図5(a)に示すPBS4のλ/2位相差板固定領域5'にλ/2位相差板5を位置決めして所定の圧力にて押圧することによって、該λ/2位相差板5を接着剤の粘着性により仮固定する(図5(b)を参照)。このとき、図4のステップS2でλ/2位相差板固定領域5'と異なる領域に位置決めして貼り付けられた複数のマスキングテープ40の各端面をガイドとして、λ/2位相差板5を容易に位置決めして貼り付けることができる。
【0035】
次に、ステップS5に示すように、PBS4の出射面の一部に位置決めされて仮固定されたλ/2位相差板5に紫外線を照射することにより接着剤を硬化させて、λ/2位相差板5を固定する(図5(b)を参照)。
【0036】
次に、ステップS6に進み、マスキングテープ40を剥離することにより、図1および図3に示すように、PBS4の出射面の一部に複数のλ/2位相差板5が選択的に固定された偏光変換素子6を得る。
そして、図4のステップS7に示すように、該偏光変換素子6が所望の外観品質であるか否かを確認する外観検査を行い、一連の偏光変換素子6の製造工程を終了する。
なお、外観検査後に、必要に応じて良品の偏光変換素子6のPBS4の表面に、反射防止膜などの光学膜を形成する場合もある。
【0037】
上記実施形態の偏光変換素子6の製造方法によれば、マスキングテープ40により、第2の透光性部材24の出射面の光線の透過領域に接着剤をはみ出させることなく、第1の透光性部材14の出射面のλ/2位相差板固定領域5'にλ/2位相差板5を接着することができる。これにより、光線の透過領域に接着剤がはみ出した場合に起こり得る光の透過効率の低下を防止できるので、光の透過効率が高く、均一な光透過性を有する偏光変換素子6を製造することができる。
また、λ/2位相差板5を位置決めして仮固定する際に、マスキングテープ40の端面部分をガイドとしてλ/2位相差板5を容易に且つ精度よく位置決めすることができるので、作業性が向上して工程の効率化が図れるとともに、λ/2位相差板5の位置ずれ不良が軽減する。
【0038】
(変形例1)
上記実施形態の偏光変換素子6の製造方法において説明したPBS4に貼り付けるマスキングテープ40は、以下説明する変形例1のマスキングテープ140のような形態とすることにより、マスキングテープを剥離する工程における作業性を向上させることができる。
図6は、マスキングテープ剥離工程において、作業性を向上せしめるマスキングテープ140の変形例を説明するものであり、PBS4にマスキングテープ140を貼り付けた状態を示す正面図である。なお、図6のマスキングテープ140以外の構成は、上記実施形態の図5(a)と同じであるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0039】
図6に示すマスキングテープ140は、PBS4において、第2の透光性部材24の出射面のうち少なくとも光線の透過領域を覆うとともに、第1の透光性部材14の出射面のうちλ/2位相差板固定領域5'にかからない大きさを有して、且つ、第2の透光性部材24の少なくとも一端側の外側に突出された部分を加えた大きさおよび形状を有している。なお、図6のマスキングテープ140は、第2の透光性部材24の第1の透光性部材14と隣接された側と直交する方向の両端側のうち一端側にのみ外側に突出された部分を有しているが、両端側に突出された部分を有する構成としてもよい。また、複数の第2の透光性部材24から外側に突出されたマスキングテープ140の部分どうしがつなげられている構成としてもよい。
【0040】
変形例1のマスキングテープ140によれば、該マスキングテープ140の第2の透光性部材24から突出された部分をつかみ易く、マスキングテープ140を剥離する工程の作業性が向上する。なお、マスキングテープ140の複数の第2の透光性部材24から突出された部分どうしがつなげられた構成とすれば、複数の第2の透光性部材24に貼り付けられた複数のマスキングテープ140を一度に剥離することができるので、作業性をさらに向上させることができる。
【0041】
(変形例2)
上記実施形態の偏光変換素子6の製造方法では、PBS4にマスキングテープ40を貼り付けた状態で、λ/2位相差板5の貼り付け位置であるλ/2位相差板固定領域5'に接着剤を塗布してから、λ/2位相差板5を位置決めして仮固定した後、接着剤を硬化させてからマスキングテープ40を剥離する構成とした。これに限らず、接着剤によりλ/2位相差板5が容易に動かない状態に仮固定できれば、マスキングテープ40を剥離してから接着剤を硬化させる構成としてもよい。
図7は、マスキングテープ40を剥離してから、λ/2位相差板5を接着する接着剤を硬化させる製造方法を説明するフローチャートである。なお、本変形例の製造方法のうち、上記実施形態と同一の工程については説明を省略する。
【0042】
図7において、ステップS11のPBS4を作成する工程、ステップS12のマスキングテープ40を貼り付ける工程、ステップS13の接着剤を塗布する工程、ステップS14のλ/2位相差板5を位置決めして仮固定する工程は、上記実施形態で説明した図4のステップS1〜ステップS4と同一の方法にて進められる。ただし、ステップS13の接着剤を塗布する工程において、使用する光学系接着剤は、例えば粘度を高く調整することにより、ステップS14でPBS4の所定の位置に位置決めして仮固定されるλ/2位相差板5が容易に動かないように、未硬化状態において所定の粘着力を有するように調整されたものを用いる。
【0043】
ステップS14で、PBS4上の所定の位置にλ/2位相差板5を位置決めして仮固定した後で、ステップS15に示すように、マスキングテープ40を剥離する。上記したように、ステップS13でPBS4のλ/2位相差板固定領域5'に塗布された光学接着剤は、未硬化状態において所定の粘着力を有するように調整されているので、PBS4上に仮固定されたλ/2位相差板5が動いてλ/2位相差板固定領域5'の領域外にずれることなくマスキングテープ40を剥離することができる。
【0044】
次に、ステップS16に示すように、PBS4の出射面に仮固定されたλ/2位相差板5に紫外線を照射することにより接着剤を硬化させて、λ/2位相差板5を固定することにより得られた偏光変換素子6を、ステップS17に示すように外観検査を行って良品の偏光変換素子6を得て、本変形例の偏光変換素子6の製造工程が終了する。
【0045】
上記変形例2の製造方法によっても、上記実施形態と同様な優れた光透過性を有する偏光変換素子6を製造することができる。また、例えば、PBS4にλ/2位相差板5を位置決めして仮固定する工程の後でλ/2位相差板5にきずや汚れなどの不良特性が発見された場合に、比較的容易に不良のλ/2位相差板5を取り外して良品のλ/2位相差板5に交換することが可能であり、製造歩留りを向上させる効果を奏する。
【0046】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態およびその変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態の偏光変換素子6において、PBS4に貼り付けられるλ/2位相差板5を構成する水晶板は、その光学軸を、入射されてくるP波に対して45°に設定されたものとした。これに限らず、λ/2位相差板5を構成する水晶板の光学軸が、入射されてくるP波に対して135°に設定されたものであってもよく、入射されたP波を90°または180°のいずれかに旋光させても、S波の偏波光として出射することができる。また、λ/2位相差板5に入射される光をP波ではなく、S波とするように構成してもよく、この場合においては、λ/2位相差板5を構成する水晶板の光学軸を、入射されてくるS波に対して45°のみでなく135°に傾斜させて設定することにより、入射されたS波を90°または180°のいずれかに旋光させて、P波の偏波光として出射することができる。
【0048】
また、上記実施形態の偏光変換素子6では、PBS4の偏光分離膜面4aを透過したP波を、λ/2位相差板5を構成する水晶板によってS波に旋光させて、偏光分離膜面4aで反射されたS波と偏光方向を揃えている例を説明した。これとは逆に、PBS4の出射面に配置するλ/2位相差板5の貼り付け位置であるλ/2位相差板固定領域5'を、PBS4の偏光分離膜面4aを透過してくるP波ではなく、PBS4の全反射膜面4bで反射されたS波側の出射側側面に配置して、全反射膜面4bで反射されて出射されてきたS波を90°旋光させて、P波の偏波光として出射させることにより、照明系レンズ7aの方向に出射される光としてP波に偏光方向を揃えるようにしてもよい。この場合においては、λ/2位相差板5を構成する水晶板の光学軸は、入射されるS波に対して45°または135°に傾斜させて設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】偏光変換素子の一実施形態を説明する正面図。
【図2】本実施形態の偏光変換素子を用いた光学系構成の一例として、一般的な液晶プロジェクタの光学系構成を模式的に示す説明図。
【図3】本実施形態の偏光変換素子の光学的な作用を説明する側面図。
【図4】偏光変換素子の製造工程を説明するフローチャート。
【図5】(a)は、偏光変換素子の製造工程において、λ/2位相差板貼り付け工程を説明する正面図、(b)は、λ/2位相差板を貼り付けた状態を示す正面図。
【図6】偏光変換素子の製造方法において、PBSに貼り付けるマスキングテープの変形例を示す正面図。
【図7】偏光変換素子の製造方法の変形例を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0050】
1…光源ランプ、2…第1のフライアイレンズ、3…第2のフライアイレンズ、4…偏光分離素子としてのPBS、4a…偏光分離膜面、4b…全反射膜面、5'…λ/2位相差板固定領域、5…λ/2位相差板、6…偏光変換素子、7a,7b…照明系レンズ、8…偏光子、9…液晶パネル、10…検光子,11…投射レンズ,14…第1の透光性部材、24…第2の透光性部材、40,140…マスキングテープ、S1,S11…偏光分離素子作成工程としてのステップ、S2,S12…マスキングテープ貼り付け工程としてのステップ、S3,S13…接着剤塗布工程としてのステップ、S4,S14…λ/2位相差板位置決め・仮固定工程としてのステップ、S5,S16…接着剤硬化工程としてのステップ、S6,S15…マスキングテープ剥離工程としてのステップ、S7,S17…外観検査工程としてのステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が略平行四辺形の柱状体からなる第1の透光性部材および第2の透光性部材がそれぞれ交互に複数周期貼り合わされ、光の入射面および該入射面と略平行な光の出射面を有し、前記入射面と所定の角度をなす偏光分離膜面と全反射膜面とを有して形成された積層体であるプレート型の偏光分離素子を備え、該偏光分離素子の出射面において、前記第1の透光性部材または前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、いずれか一方の前記出射面の少なくとも光線の透過領域を含むλ/2位相差板固定領域にλ/2位相差板が接着剤により固定されて設けられた偏光変換素子の製造方法であって、
前記偏光分離素子を作成する偏光分離素子作成工程と、
前記偏光分離素子の前記第1の透光性部材および前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、前記λ/2位相差板が設けられる前記出射面とは異なる前記出射面の少なくとも光線の透過領域を覆うようにマスキングテープを貼り付けるマスキングテープ貼り付け工程と、
前記マスキングテープ貼り付け工程の後で、前記第1の透光性部材および前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、前記λ/2位相差板が設けられる前記出射面の少なくとも前記λ/2位相差板固定領域に前記接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記接着剤塗布工程の後で、前記接着剤が塗布された前記λ/2位相差板固定領域に前記λ/2位相差板を位置合わせして仮固定するλ/2位相差板位置決め・仮固定工程と、
前記接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、
前記マスキングテープを剥離するマスキングテープ剥離工程と、
を含むことを特徴とする偏光変換素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光変換素子の製造方法において、
前記マスキングテープ貼り付け工程で、前記マスキングテープが、前記λ/2位相差板固定領域に沿って且つ前記λ/2位相差板固定領域にかからない大きさを有して貼り付けられることを特徴とする偏光変換素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の偏光変換素子の製造方法において、
前記マスキングテープの厚みが、前記λ/2位相差板よりも薄いことを特徴とする偏光変換素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の偏光変換素子の製造方法において、
前記マスキングテープが、前記第1の透光性部材および前記第2の透光性部材それぞれの前記出射面のうち、前記マスキングテープが貼り付けられる前記出射面の少なくとも一端側の外側に突出された部分を加えた大きさを有していることを特徴とする偏光変換素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の偏光変換素子の製造方法において、
前記接着剤塗布工程で用いる前記接着剤には、未硬化状態において、前記λ/2位相差板位置決め・仮固定工程において仮固定されたときの前記λ/2位相差板が容易に動かないように保持できる粘着性を有するものが用いられ、
前記λ/2位相差板位置決め・仮固定工程の後で、前記マスキングテープ剥離工程が行われることを特徴とする偏光変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−163083(P2009−163083A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1884(P2008−1884)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】