説明

偏心型減速機

【課題】クランク保持穴に入り込んでいる潤滑油を容易に交換でき、クランク保持穴内の摩耗粉等の異物を容易に除去できる、偏心型減速機を提供する。
【解決手段】ケース12内の潤滑油が流動可能な潤滑孔33は、上端側がクランク保持穴32の底部に対して開口するように形成されるとともに、基部キャリア19を下方に向かって貫通して開口するように形成される。排油ポート27は、ケース12においてこのケース12を側方に向かって貫通して外部に開口するように形成されるとともに、潤滑孔33の下端側の開口33bよりも下方でケース12内に開口するように形成される。排油ポート27の外部への開口27aに対して着脱自在に取り付けられた蓋部材28が取り外されることでケース12内の潤滑油が排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースの内周に配置された内歯に噛み合う外歯歯車が、キャリアに回転自在に保持されたクランク軸の回転に伴い偏心して揺動回転するとともに、ケース内の潤滑油を排出するための排油ポートがケースに設けられた、偏心型減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業用機械等においては、大きい減速比を実現可能な減速機として偏心型減速機が用いられている。このような偏心型減速機として、ケースの内周に配置された内歯に噛み合う外歯歯車が、クランク軸の回転に伴い偏心して揺動回転するとともに、ケース内の潤滑油を排出するための排油ポートがケースに設けられた偏心型減速機が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に開示された偏心型減速機においては、ピニオン(17、18)として設けられた外歯歯車が、ケース(15)の内周に配置された内歯(内歯ピン13)と噛み合い、クランク軸(37)の回転に伴い偏心して回転する。また、特許文献1に開示された偏心型減速機においては、クランク軸の一端側及び他端側を回転自在に保持する基部キャリア及び端部キャリアと出力軸とが、基台部(22)及び端板部(23)を有するキャリア(20)として設けられている。尚、基部キャリア及び出力軸が基台部(22)として、端部キャリアが端板部(23)として、それぞれ設けられている。そして、クランク軸は、上端側が端部キャリアに軸受(39)を介して、下端側が基部キャリアに軸受(38)を介して、回転自在に保持されている。また、ケースにおける側方には、ケース内の潤滑油を交換する際に、この潤滑油を排出するための排油ポートが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4004256号公報(第3−4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された偏心型減速機においては、基部キャリアの上端側に、クランク軸の下端側を回転自在に保持するための軸受であるクランク軸軸受が配置されるクランク保持穴が形成されている。そして、ケースには、出力軸が突出して設けられる基部キャリアの下端側の端部よりも上方の位置であって上記のクランク保持穴に水平方向でほぼ対応する位置において、側方に向かって外部に開口するように排油ポートが設けられている。この偏心型減速機においては、ケース内の潤滑油の交換のために排油ポートから潤滑油を排出させる場合、基部キャリアの周囲とケースとの間の領域を重力によって下方に向かって通過可能な潤滑油については、排油ポートから排出させることができる。
【0005】
しかし、上記のクランク保持穴に入り込んでいる潤滑油については、排油ポートから排出させることが難しく、交換することが困難となる。そして、潤滑油の交換の際にクランク保持穴に入り込んだ潤滑油の交換が困難であることに起因して、潤滑油の交換とともにクランク保持穴から摩耗粉等の異物を除去することも困難となる。このため、クランク保持穴に入り込んでいる潤滑油の交換や異物の除去を行う際には相当に作業の手間を要してしまうことになる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、基部キャリアに形成されたクランク保持穴にクランク軸軸受を介してクランク軸の下端側が回転自在に保持された偏心型減速機において、ケース内の潤滑油の交換のために排油ポートから潤滑油を排出させる際に、クランク
保持穴に入り込んでいる潤滑油を容易に交換できるとともに、クランク保持穴内の摩耗粉等の異物を容易に除去することができる偏心型減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1発明に係る偏心型減速機は、上端側に電動機が取り付けられるとともに内周に複数の内歯が配置されたケースと、前記ケースに収納されるとともに前記内歯に噛み合う外歯が外周に設けられた外歯歯車と、前記外歯歯車に形成されたクランク用孔を貫通し、前記電動機からの回転駆動力が伝達されて回転することで前記外歯歯車を偏心させて揺動回転させるクランク軸と、前記クランク軸の上端側を第1クランク軸軸受を介して回転自在に保持する端部キャリアと、前記クランク軸の下端側を第2クランク軸軸受を介して回転自在に保持するととともに、前記第2クランク軸軸受が配置されるクランク保持穴が形成された基部キャリアと、前記端部キャリアと前記基部キャリアとを連結する支柱と、前記基部キャリアに対して下方に向かって突出した状態で固定されるとともに、下端側にピニオンが固定される出力軸と、を備えている。そして、第1発明に係る偏心型減速機は、上端側が前記クランク保持穴の底部に対して開口するように形成されるとともに、前記基部キャリアを下方に向かって貫通して開口するように形成され、ケース内の潤滑油が流動可能な潤滑孔と、前記ケースにおいて当該ケースを側方に向かって貫通して外部に開口するように形成されるとともに、前記潤滑孔の下端側の開口よりも下方で当該ケース内に開口するように形成され、外部への開口に対して着脱自在に取り付けられた蓋部材が取り外されることでケース内の潤滑油を排出可能な排油ポートと、を更に備えていることを特徴とする。
【0008】
この発明によると、ケース内の潤滑油を排出する際には、排油ポートの外部への開口を塞ぐ蓋部材が取り外され、ケース内の潤滑油が排油ポートを介して排出される。このため、ケース内において、潤滑油は、ケースの周方向における排油ポートが配置されている位置に向かう周方向の流れも伴いながら、排油ポートが設けられた下方に向かって流動する。そして、クランク保持穴に入り込んでいる潤滑油やクランク保持穴の上方に位置している潤滑油は、上端側がクランク保持穴の底部で開口するとともに下端側が基部キャリアの下端部で開口する潤滑孔を通過して基部キャリアの下方に向かって流動することになる。更に、潤滑孔の下端側の開口から下方に流動した潤滑油は、ケース内での上述した周方向及び下方への潤滑油の流れとともに、この潤滑孔の下端側の開口よりも下方に形成された排油ポートにおけるケース内への開口に向かって流動することになる。これにより、クランク保持穴に入り込んでいる潤滑油を潤滑孔及び排油ポートを介して排出させて容易に交換することができる。また、クランク保持穴内の潤滑油やクランク保持穴の上方に位置している潤滑油がクランク保持穴の底部に開口する潤滑孔を通過して流動するため、この潤滑油の流れとともに洗い流すようにしてクランク保持穴内の摩耗粉等の異物を容易に除去することができる。
【0009】
従って、本発明によると、基部キャリアに形成されたクランク保持穴にクランク軸軸受を介してクランク軸の下端側が回転自在に保持された偏心型減速機において、ケース内の潤滑油の交換のために排油ポートから潤滑油を排出させる際に、クランク保持穴に入り込んでいる潤滑油を容易に交換できるとともに、クランク保持穴内の摩耗粉等の異物を容易に除去することができる。
【0010】
第2発明に係る偏心型減速機は、第1発明の偏心型減速機において、前記潤滑孔は、前記クランク保持穴の底部において、前記基部キャリアの回転中心線方向と垂直な方向である径方向における外側で開口し、前記外歯歯車の中央部分には、上下方向に当該外歯歯車を貫通する中央孔が形成され、前記中央孔は、前記クランク保持穴の上方に対して前記基部キャリアの径方向における内側に配置されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によると、ケース内の潤滑油が排出される際、外歯歯車の中央孔の内側とその上方とに位置している潤滑油は、上下に外歯歯車を貫通するこの中央孔を通過して下方の基部キャリアに向かって流動することになる。中央孔の下方から基部キャリアの上方に流動した潤滑油は、基部キャリアの径方向の中央部分から外側に向かって流動し、更に、中央孔の下方よりも径方向の外側に配置されたクランク保持穴に向かってその多くが流動することになる。そして、クランク保持穴の底部においては潤滑孔が基部キャリアの径方向の外側で開口しているため、クランク保持穴における基部キャリアの径方向内側から流入した潤滑油は、径方向外側に向かって流動して潤滑孔から流出していくことになる。これにより、クランク保持穴内において基部キャリアの径方向内側から外側の潤滑孔に向かって流動して排出される潤滑油の流れを形成でき、この潤滑油の流れとともに洗い流すようにしてクランク保持穴内の摩耗粉等の異物を更に容易に除去することができる。
【0012】
第3発明に係る偏心型減速機は、第1発明又は第2発明の偏心型減速機において、前記基部キャリアに対して、当該基部キャリアの回転中心線方向と垂直な方向である径方向における外側の縁部分の下方に配置されるとともに、前記ケースの内周と前記出力軸の外周との間で環状に延びるように区画され、前記ケースの内周に沿って周方向にケース内の潤滑油が流動可能な環状流路が更に設けられ、前記潤滑孔が前記環状流路に対して上方から開口し、前記排油ポートが前記環状流路の側方における下方側に対して開口することを特徴とする。
【0013】
この発明によると、ケース内の潤滑油が排出される際、潤滑孔から基部キャリアの下方に流れ出た潤滑油は、潤滑孔の下端側の開口の下方に配置されてケース内周と出力軸外周との間で区画された環状流路へと流動していくことになる。潤滑孔から環状流路に流入した潤滑油は、ケースの周方向における排油ポートが配置されている位置に向かって環状流路の周方向に沿って流動することになる。そして、この潤滑油は、環状流路の側方における下方側に開口した排油ポートから外部へと排出されることになる。このため、ケース内の潤滑油が排出される際に潤滑孔の下端側の開口がケースの周方向において排油ポートから離れた位置に位置している場合であっても、排油ポートへの周方向の潤滑油の流れを確保する環状流路に沿って効率よく排出されることになる。そして、この潤滑油の流れとともに、クランク保持穴から除去された摩耗粉等の異物も排油ポートから容易に排出することができる。
【0014】
第4発明に係る偏心型減速機は、第1発明乃至第3発明のいずれかの偏心型減速機において、前記支柱の側面の前記基部キャリアへの連結部分には、前記クランク保持穴に対向する方向に向かって下方に傾斜する曲面が形成され、前記潤滑孔は、前記クランク保持穴を介して隣り合って配置された前記支柱のそれぞれの前記曲面からの水平方向の距離が等距離な線と上下方向において重なる位置で開口していることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、ケース内の潤滑油が排出される際、クランク保持穴に対向する支柱側面の近傍に位置している潤滑油は、その側面に沿って下方に流動することになる。その潤滑油は、更に、支柱の根元部分でクランク保持穴に対向する方向に向かって下方に傾斜する曲面に沿って流動し、クランク保持穴に向かってその多くが流入することになる。そして、クランク保持穴の底部には、クランク保持穴の両側の支柱における上記各曲面から水平方向で等距離な位置の下方と重なる位置で潤滑孔が開口している。このため、上記の両曲面を経てクランク保持穴に流入した潤滑油は、潤滑孔に対する基部キャリアの周方向における両側の領域を略均等に洗い流すようにして流れながら潤滑孔へと流動することになる。これにより、クランク保持穴内において基部キャリアの径方向の両側から中央側の潤滑孔に向かって流動して排出される潤滑油の流れを形成でき、この潤滑油の流れとともに洗い流すようにしてクランク保持穴内の摩耗粉等の異物を更に容易に除去することができる。
【0016】
第5発明に係る偏心型減速機は、第1発明乃至第4発明のいずれかの偏心型減速機において、前記ケースの内周には、前記排油ポートの当該ケース内への開口の下縁部の内側において周方向に亘って延びるとともに内側に向かって段状に形成された段部が設けられ、前記段部は、前記潤滑孔の下端側の開口と上下方向において少なくとも一部が重なって配置されていることを特徴とする。
【0017】
この発明によると、ケース内の潤滑油が排出される際、潤滑孔の下端側の開口から潤滑油とともに排出された摩耗粉等の異物は、流動する潤滑油とともに下方に移動することになる。このとき、潤滑孔の下端側の開口の下方にはケースの内周から内側に延びる段部が形成されているため、この段部によって多くの異物の下方への移動が妨げられ、異物が段部の更に下方に移動してしまうことが抑制されることになる。そして、この段部はケースの内周の周方向に沿って延びるとともに排油ポートのケース内への開口の下縁部に連なるように形成されているため、潤滑油の排油ポートへ向かう流れとともに異物が移動することになる。これにより、クランク保持穴から除去されて潤滑孔から排出された摩耗粉等の異物が、排油ポートから容易に排出されることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、基部キャリアに形成されたクランク保持穴にクランク軸軸受を介してクランク軸の下端側が回転自在に保持された偏心型減速機において、ケース内の潤滑油の交換のために排油ポートから潤滑油を排出させる際に、クランク保持穴に入り込んでいる潤滑油を容易に交換できるとともに、クランク保持穴内の摩耗粉等の異物を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る偏心型減速機の正面図であって、一部切欠き断面で示す図である。
【図2】図1に示す偏心型減速機における減速機構及びケースの一部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示す基部キャリア及び支柱を上方から見た平面図である。
【図4】図2における一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図5】図3のA−A線矢視位置に対応する位置での基部キャリア及び支柱の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【図6】図1に示す基部キャリア及び支柱を上方から見た平面図であって、上下方向において位置が対応するケース、外歯歯車及び出力軸の外形についても二点鎖線で図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る偏心型減速機は、風車、建設機械、産業用ロボット、種々の工作機械等の各種産業用機会、各種車両、等において広く適用することができる。尚、例えば、風車においては、近年、ブレード(羽根)の直径が大きくなる傾向にあることから、風向きに合わせて風車のナセルを旋回させるためのヨー駆動装置として、寸法の大型化を抑制しつつ且つ高出力仕様の減速機が要求される状況にある。このため、本実施形態に係る偏心型減速機は、風車用ヨー駆動装置として用いられると好適である。また、この例に限らず、本実施形態に係る偏心型減速機は、ケースの内周に配置された内歯に噛み合う外歯歯車が、キャリアに回転自在に保持されたクランク軸の回転に伴い偏心して揺動回転するとともに、ケース内の潤滑油を排出するための排油ポートがケースに設けられた、偏心型減速機に関して、広く適用することができるものである。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係る偏心型減速機1の正面図であって、一部切欠き断面で示す図である。図1に示す偏心型減速機1は、例えば、風車のナセルを旋回させる風車用ヨー駆動装置として用いられ、減速機構11、ケース12、ピニオン13、等を備えて構成されている。
【0022】
図1に示すように、偏心型減速機1は、上端側においてケース12に対して電動機100が取り付けられ、下端側においてケース12から突出するように位置する後述の出力軸22にピニオン13が固定されている。尚、図1では、ピニオン13を模式的に示している。偏心型減速機1は、電動機100から入力された回転駆動力をケース12の内側に配置された減速機構11を介して減速して伝達してピニオン13から出力する。そして、この偏心型減速機1においては、ケース12内に潤滑油が密封されており、電動機100が上方にピニオン13が下方に配置された姿勢で、ケース12内の潤滑油の交換が行われる。また、偏心型減速機1は、風車用ヨー駆動装置として用いられる場合には、ピニオン13が風車のタワーの上部に固定された歯車と噛み合うように配置される。そして、電動機100からの回転駆動力に伴って偏心型減速機1が作動してピニオン13が回転することで、風車のナセルが旋回する。
【0023】
尚、以下の説明においては、偏心型減速機1がケース12内の潤滑油を交換される際の姿勢(図1に示す姿勢)を基準として上下方向を規定して説明する。即ち、偏心型減速機1にて、電動機100が取り付けられる一端側の入力側を上端側として、ピニオン13が配置される他端側の出力側を下端側として説明する。また、図1及び後述の図2においては、上下方向に沿って配置される偏心型減速装置1の回転中心線Pを一点鎖線で図示しており、回転中心線Pに対して左側に表した断面と右側に表した断面とで周方向(回転中心線Pを中心とした周方向)における異なる角度の断面を図示している。
【0024】
図2は、図1における減速機構11及びケース12の一部を拡大して示す断面図である。図1及び図2に示すように、ケース12は、上端側に電動機100が取り付けられるとともに内側に減速機構11が配置されており、ケース本体14とモータフランジ15とを備えて構成されている。また、ケース12内には潤滑油が密封されており、ケース本体14と減速機構11の出力軸22との間や、ケース本体14とモータフランジ15との間、モータフランジ15と電動機100との間にそれぞれ配置されたシール要素によって、ケース12内の潤滑由が封止されている。尚、ケース12内の潤滑油を封止するこのようなシール要素として、図1及び図2では、ケース本体14及び出力軸22の間に配置されたシール部材25と、ケース本体14及びモータフランジ15の間に配置されたシール部材26とを例示している。
【0025】
ケース本体14は、上下方向における両端部が開口した筒状に形成されている。そして、ケース本体14において上方に向かって開口するよう配置される上端側の開口部はモータフランジ15により覆われている。一方、ケース本体14において下方に向かって開口する下端側の開口部からは出力軸22が突出している。尚、ケース本体14は、回転中心線Pと垂直な断面の形状が円形となるように形成されている。また、ケース本体14の内周には、本実施形態における内歯を構成する複数のピン内歯16(図1及び図2では、断面でなく外径を図示)が配置されている。ピン内歯16は、ピン状の部材(丸棒状の部材)として形成され、その長手方向が回転中心線Pと平行に位置するように配置されるとともに、ケース本体14の内周において周方向に沿って等間隔で配列され、後述する外歯歯車18の外歯45と噛み合うように構成されている。
【0026】
また、ケース本体14の下端側には、ケース本体14の周方向における異なる位置に、ケース12内の潤滑油を排出可能な排油ポート27が複数設けられている。例えば、排油ポート27は、ケース本体14の周方向において回転中心線Pを中心とした角度で180
度ずれた位置に2つ設けられている。そして、各排油ポート27は、ケース本体14を側方に向かって貫通して外部に開口するように形成され、ケース12の外部への開口27aと内部への開口27bとの間を連通可能に形成されている。また、各排油ポート27の外部への開口27aに対しては、蓋部材28(図1及び図2では、断面でなく外径を図示)が着脱自在に取り付けられている。排油ポート27の外部への開口27aに取り付けられた蓋部材28が取り外されて開口27aが開放されることで、ケース12内の潤滑油が排出されることになる。
【0027】
モータフランジ15は、ケース本体14の上端側の開口部を覆うようにケース本体14に対して取り付けられる蓋状の部材として形成されており、上端側に向かって段状に縮径する部分を有する外形となるように形成された筒状体として設けられている。このモータフランジ15の下端側の端部は、ケース本体14の上端側の端部に対してボルトにより固定されている。一方、モータフランジ15の上端側には、ケース12よりも上方に配置される電動機100が取り付けられている。
【0028】
図1及び図2に示すように、減速機構11は、モータフランジ15の内側に配置される遊星歯車機構(図1及び図2では、その一部を図示)、クランク軸17、外歯歯車18、基部キャリア19、端部キャリア20、支柱21、出力軸22、第1クランク軸軸受23、第2クランク軸軸受24、等を備えて構成されている。遊星歯車機構の入力側は、電動機100の出力軸に連結されている。一方、遊星歯車機構の出力側において設けられた太陽歯車29は、クランク軸17の上端側の端部に固定されたスパーギア30に噛み合うように配置されている。
【0029】
クランク軸17は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施形態では4つ)配置されており、その軸方向が回転中心線Pと平行になるように配置されている。各クランク軸17(図1及び図2では、断面でなく外形を図示)は、外歯歯車18に形成されたクランク用孔31をそれぞれ貫通するように配置されており、電動機100からの回転駆動力が遊星歯車機構及びスパーギア30を介して伝達されて回転することで外歯歯車18を偏心させて揺動回転させる軸部材として設けられている。そして、クランク軸17は、自らの回転(自転)に伴う外歯歯車18の回転とともに、公転動作を行うことになる。
【0030】
また、クランク軸17には、第1偏心部17a、第2偏心部17b、第1軸部17c、第2軸部17dが形成され、上端側から、第1軸部17c、第1偏心部17a、第2偏心部17b、第2軸部17dの順番で設けられている。第1偏心部17a及び第2偏心部17bは、軸方向と垂直な断面が円形断面となるように形成され、それぞれの中心位置がクランク軸17の回転中心線に対して偏心するように設けられている。第1偏心部17a及び第2偏心部17bは、外歯歯車18のクランク用孔31に配置されている。
【0031】
クランク軸17の上端側に設けられた第1軸部17cは、第1クランク軸軸受23を介して端部キャリア20に対して回転自在に保持されている。クランク軸17の下端側に設けられた第2軸部17dは、第2クランク軸軸受24を介して基部キャリア19に対して回転自在に保持されている。また、第1軸部17cには、第1クランク軸軸受23から上端側に突出するように位置するその端部側において、前述したスパーギア30がスプライン結合部を介して固定されている。尚、第1クランク軸軸受23及び第2クランク軸軸受24は、例えば、円錐ころ軸受として設けられている。
【0032】
図3は、基部キャリア19及び支柱21を上方から見た平面図である。図1乃至図3に示すように、基部キャリア19は、水平方向における外形が円形形状の部材として設けられ、ケース12内に配置されている。そして、基部キャリア19は、上端側において複数
の支柱21が一体に形成されるとともに下端側において出力軸22が一体に形成されている。尚、出力軸22は、基部キャリア19に対して下方に向かって突出した状態で固定される(本実施形態では、出力軸22は一体に形成されることで基部キャリア19に固定されている)とともに、下端側にピニオン13がスプライン結合を介して固定されている。
【0033】
また、基部キャリア19には、その上端側に、第2クランク軸軸受24がそれぞれ配置される複数(本実施形態では4つ)のクランク保持穴32が形成されている。クランク保持穴32は、円形断面で下方に凹んだ穴として形成されている。基部キャリア19は、各クランク保持穴32によって各クランク軸17の下端側をその第2軸部17dにて第2クランク軸軸受24を介して回転自在に保持している。そして、クランク保持穴32は、偏心型減速機1の回転中心線Pと一致する基部キャリア19の回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成されている。尚、クランク保持穴32の底部には、第2クランク軸軸受24の外輪の下端部を支持する段状の部分と、この段状の部分の内側で更に広く浅く凹んだ部分とが設けられている。このような凹んだ部分が形成されていることで、第2軸部17dの下端部及び第2クランク軸軸受24の下端部と、クランク保持穴32の底部との間において、ケース12内の潤滑油が流動可能なスペースが確保されている。
【0034】
図4は、図2におけるクランク保持穴32及びその近傍を拡大して示す拡大断面図である。尚、図4の断面図においては、蓋部材28が取り外された状態の断面を図示している。図2乃至図4によく示すように、基部キャリア19には、各クランク保持穴32にそれぞれ対応して、ケース12内の潤滑油が流動可能な潤滑孔33が形成されている。各潤滑孔33は、その上端側の開口33aがクランク保持穴32の底部に対して開口するように形成されるとともに、基部キャリア19を下方に向かって貫通し、その下端側の開口33bにおいて基部キャリア19の下端部から開口するように形成されている。そして、潤滑孔33は、クランク保持穴32の底部において、基部キャリア19の回転中心線P方向と垂直な方向である径方向における外側で開口している。
【0035】
尚、ケース本体14に形成された排油ポート27は、その開口27bにおいて、上述した潤滑孔33の下端側の開口33bよりも下方でケース12内に開口するように形成されている。また、ケース本体14の排油ポート27に対応する位置における内周には、排油ポート27のケース12内への開口27bの下縁部の内側において周方向に亘って延びるとともに内側に向かって段状に形成された段部34が設けられている。そして、この段部34は、潤滑孔33の下端側の開口33bと上下方向において重なって配置されている。
【0036】
また、図1、図2及び図4に示すように、ケース12内においては、ケース本体14の内周14aと出力軸22の外周22aとの間で環状に延びるように区画されるとともに、ケース本体14の内周14aに沿って周方向にケース12内の潤滑油が流動可能な環状流路35が設けられている。この環状流路35は、基部キャリア19に対して、この基部キャリア19の径方向における外側の縁部分の下方に配置されている。そして、基部キャリア19に形成された潤滑孔33が、その開口33bにおいて環状流路35に対して上方から開口している。また、ケース本体14に形成された排油ポート27が、その開口27bにおいて環状流路35の側方における下方側に対して開口している。
【0037】
図1及び図2に示すように、端部キャリア20は、支柱21を介して基部キャリア19と連結され、円板状の部材として設けられている。端部キャリア20には、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置にクランク軸17の上端側の第1軸部17cが配置される貫通孔としてクランク貫通孔36が形成されている。このクランク貫通孔36において、クランク軸17の上端側がその第1軸部17cにて第1クランク軸軸受23を介して回転自在に保持されている。尚、端部キャリア20の外周には、玉軸受として構
成された主軸受41が取り付けられている。端部キャリア20は、この主軸受41を介してケース12の内周側に対して回転自在に保持されている。
【0038】
図1乃至図3に示すように、支柱21は、基部キャリア19と端部キャリア20との間に配置され、基部キャリア19と端部キャリア20とを連結する柱状部分として設けられている。支柱21は、基部キャリア19の回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施形態では4つ)配置され、その軸方向が回転中心線Pと平行となるように配置されている。尚、支柱21とクランク軸17とは、回転中心線Pを中心とした周方向に沿って交互に配置されている。各支柱21は、前述のように基部キャリア19に一体に形成され、基部キャリア19の上端側において突出するように設けられている。
【0039】
また、各支柱21には、端部キャリア20に形成された貫通孔に向かって開口するとともに回転中心線Pと平行に延び、支柱ピン37が圧入される支柱ピン穴38が形成されている。支柱ピン37が端部キャリア20の上端側から支柱ピン穴38に亘って圧入されることで、基部キャリア19及び端部キャリア20の周方向の位置が合わされる。また、各支柱21には、端部キャリア20に形成された貫通孔に向かって開口するとともに回転中心線Pと平行に延び、支柱ボルト39が挿入される支柱ボルト穴40が形成されている。支柱ボルト穴40の内周には、雌ネジ部分が形成され、支柱ボルト39の下端側には、雄ネジ部分として形成されたネジ部が設けられている。支柱ボルト39は、端部キャリア20を貫通するよう配置されるとともにそのネジ部が支柱ボルト穴40の雌ネジ部分と螺合することで、端部キャリア20と基部キャリア19とを支柱21を介して結合するように構成されている。
【0040】
図5は、図3のA−A線矢視位置に対応する位置での基部キャリア19及び支柱21の一部の断面を拡大して示す拡大断面図である。図3及び図5によく示すように、支柱21の側面の基部キャリア19への連結部分には、クランク保持穴32に対向する方向に向かって下方に傾斜する曲面42が形成されている。尚、本実施形態において例示する曲面42は、回転中心線Pと平行な断面であって支柱21の側面とクランク保持穴32とが対向する方向に沿った断面(図5に示す断面)において、円弧状の断面を有する曲面として構成されている。また、図3によく示すように、潤滑孔33は、クランク保持穴32を介して隣り合って配置された支柱21のそれぞれの曲面42からの水平方向の距離が等距離な位置を示す等距離線B(図3において一点鎖線で示す仮想の線)と上下方向において重なる位置で開口している。
【0041】
図1及び図2に示す外歯歯車18は、平行に配置された状態でケース12内に収納される第1外歯歯車18aと第2外歯歯車18bとで構成されている。第1外歯歯車18a及び第2外歯歯車18bにはそれぞれ、クランク軸17が貫通するクランク用孔31と、支柱21が貫通する支柱貫通孔43と、中央部分に設けられた中央孔44とが形成されている。第1外歯歯車18a及び第2外歯歯車18bのそれぞれの中央部分に形成された各中央孔44は、各外歯歯車18(18a、18b)を貫通するように形成されている。そして、各中央孔44は、クランク保持穴32の上方に対して基部キャリア19の径方向における内側に配置されている。
【0042】
また、第1外歯歯車18a及び第2外歯歯車18bは、回転中心線Pと平行な方向において、クランク用孔31及び支柱貫通孔43の位置がそれぞれ対応するように配置されている。各外歯歯車18(18a、18b)のクランク用孔31は、円形孔として形成され、クランク軸17に対応して外歯歯車18の周方向に沿って均等角度の位置に複数(本実施形態では4つ)配置されている。また、支柱貫通孔43は、支柱21の断面形状に対応した孔として形成され、支柱21に対応して外歯歯車18の周方向に沿った均等角度の位
置に複数(本実施形態では4つ)配置されている。また、支柱貫通孔43は、外歯歯車18の周方向において、クランク用孔31と交互に形成されている。尚、支柱貫通孔43には、支柱21が遊嵌状態で貫通している。
【0043】
また、第1外歯歯車18a及び第2外歯歯車18bのそれぞれの外周には、ピン内歯16に噛み合う外歯45が設けられている。尚、第1外歯歯車18a及び第2外歯歯車18bの外歯45の歯数は、ピン内歯16の歯数よりも1個又は複数個少なくなるように設けられている。このため、クランク軸17が回転するごとに、噛み合う外歯45とピン内歯16との噛み合いがずれ、外歯歯車18(18a、18b)が偏心して揺動回転するように構成されている。
【0044】
また、各外歯歯車18(18a、18b)は、各クランク用孔31において各外歯用軸受46を介してクランク軸17を回転自在に保持している。第1外歯歯車18aの外歯用軸受46は第1偏心部17aを回転自在に保持しており、第2外歯歯車18bの外歯用軸受46は第2偏心部17bを回転自在に保持している。尚、外歯用軸受46は、円筒ころ軸受(又はニードルころ軸受)として構成されている。
【0045】
次に、上述した偏心型減速機1の作動について説明する。偏心型減速機1は、電動機100の運転が行われることにより作動する。電動機100の運転が開始されると、遊星歯車機構が駆動されて太陽歯車29が回転し、各スパーギア30が固定された各クランク軸17が回転する。この回転に伴って、クランク軸17の第1及び第2偏心部(17a、17b)から外歯歯車18(18a、18b)に対して荷重が作用し、外歯歯車18(18a、18b)がピン内歯16と噛み合いをずらしながら揺動するように偏心して回転する。そして、外歯歯車18(18a、18b)の偏心回転に伴って、外歯歯車18(18a、18b)に対して回転保持されたクランク軸17が自転しながら回転中心線Pを中心として公転動作を行う。このクランク軸17の公転動作により、クランク軸17を回転自在に保持する基部キャリア19及び端部キャリア20とともに、出力軸22が回転し、大きなトルクがピニオン13から出力されることになる。
【0046】
ここで、偏心型減速機1においてケース12内の潤滑油を排出する際におけるケース12内での潤滑油の流れとクランク保持穴32内の摩耗粉等の異物の除去効果とについて説明する。ケース12内の潤滑油を排出する際には、排油ポート27の外部への開口27aを塞ぐ蓋部材28が取り外され、ケース12内の潤滑油が排油ポート27を介して排出される。このため、ケース12内において、潤滑油は、ケース12の周方向における排油ポート27が配置されている位置に向かう周方向の流れも伴いながら、排油ポート27が設けられた下方に向かって流動する。
【0047】
上記のようにケース12内の潤滑油が排出される際、クランク保持穴32に入り込んでいる潤滑油やクランク保持穴32の上方に位置している潤滑油は、図4において破線の矢印で示すように流動する。即ち、クランク保持穴32内やその上方の潤滑油は、上端側がクランク保持穴32の底部で開口するとともに下端側が基部キャリア19の下端部で開口する潤滑孔33を通過して基部キャリア19の下方に向かって流動することになる。更に、潤滑孔33の下端側の開口33bから下方に流動した潤滑油は、ケース12内での前述した周方向及び下方への潤滑油の流れとともに、図4中の破線の矢印で示すように、潤滑孔33の下端側の開口33bよりも下方に形成された排油ポート27におけるケース12内への開口27bに向かって流動することになる。これにより、クランク保持穴32に入り込んでいる潤滑油が潤滑孔33及び排油ポート27を介して排出され、容易に交換されることになる。また、クランク保持穴32内の潤滑油やクランク保持穴32の上方に位置している潤滑油がクランク保持穴32の底部に開口する潤滑孔33を通過して流動するため、この潤滑油の流れとともに洗い流されるようにしてクランク保持穴32内の摩耗粉等
の異物が容易に除去されることになる。尚、クランク保持穴32の上方の潤滑油がクランク保持穴32内を下方に向かって通過する際には、この潤滑油は、第2クランク軸軸受24の転動体間を主として通過して下方に流動することになる。
【0048】
図6は、基部キャリア19及び支柱21を上方から見た平面図であって、上下方向において位置が対応するケース14、外歯歯車18及び出力軸22の外形についても二点鎖線で図示した図である。ケース12内の潤滑油が排出される際、外歯歯車18の中央孔44の内側とその上方とに位置している潤滑油は、上下に外歯歯車18を貫通するこの中央孔44を通過して下方の基部キャリア19に向かって流動することになる(図2参照)。そして、中央孔44の下方から基部キャリア19の上方に流動した潤滑油は、図6において破線の矢印aで示すように、基部キャリア19の径方向の中央部分から外側に向かって流動し、更に、中央孔44の下方よりも径方向の外側に配置されたクランク保持穴32に向かってその多くが流動することになる。そして、クランク保持穴32の底部においては潤滑孔33が基部キャリア19の径方向の外側で開口しているため、クランク保持穴32における基部キャリア19の径方向内側から流入した潤滑油は、径方向外側に向かって流動して潤滑孔33から流出していくことになる(図4及び図6を参照)。これにより、クランク保持穴32内において基部キャリア19の径方向内側から外側の潤滑孔33に向かって流動して排出される潤滑油の流れを形成でき、この潤滑油の流れとともに洗い流すようにしてクランク保持穴32内の摩耗粉等の異物を更に容易に除去することができる。
【0049】
また、ケース12内の潤滑油が排出される際、支柱21におけるクランク保持穴32に対向する側面の近傍に位置している潤滑油は、その側面に沿って下方に流動することになる。そして、その潤滑油は、図6において破線の矢印bで示すように、支柱21の根元部分でクランク保持穴32に対向する方向に向かって下方に傾斜する曲面42に沿って流動し、クランク保持穴32に向かってその多くが流入することになる。そして、クランク保持穴32の底部には、クランク保持穴32の両側の支柱21における上記各曲面42から水平方向で等距離な位置(図3に示す等距離線Bの位置)の下方と重なる位置で潤滑孔33が開口している。このため、上記の両曲面42を経てクランク保持穴32に流入した潤滑油は、潤滑孔33に対する基部キャリア19の周方向における両側の領域を略均等に洗い流すようにして流れながら潤滑孔33へと流動することになる(図6参照)。これにより、クランク保持穴32内において基部キャリア19の周方向の両側から中央側の潤滑孔33に向かって流動して排出される潤滑油の流れを形成でき、この潤滑油の流れとともに洗い流すようにしてクランク保持穴32内の摩耗粉等の異物を更に容易に除去することができる。
【0050】
また、ケース12内の潤滑油が排出される際、潤滑孔33から基部キャリア19の下方に流れ出た潤滑油は、潤滑孔33の下端側の開口33bの下方に配置されてケース本体14の内周14aと出力軸22の外周22aとの間で区画された環状流路35へと流動していくことになる(図2及び図4を参照)。尚、図6では、基部キャリア19とケース本体14との位置関係について、潤滑孔33の下端側の開口33bがケース本体14の周方向において排油ポート27から離れた位置に位置している場合を図示している。この場合、潤滑孔33から環状流路35に流入した潤滑油は、図6において破線の矢印cで示すように、ケース12の周方向における排油ポート27が配置されている位置に向かって環状流路35の周方向に沿って流動することになる。そして、この潤滑油は、環状流路35の側方における下方側に開口した排油ポート27から外部へと排出されることになる。このため、ケース12内の潤滑油が排出される際に潤滑孔33の下端側の開口33bがケース12の周方向において排油ポート27から離れた位置に位置している場合であっても、排油ポート27への周方向の潤滑油の流れを確保する環状流路35に沿って効率よく排出されることになる。そして、この潤滑油の流れとともに、クランク保持穴32から除去された摩耗粉等の異物も排油ポート27から容易に排出することができる。
【0051】
また、ケース12内の潤滑油が排出される際、潤滑孔33の下端側の開口33bから潤滑油とともに排出された摩耗粉等の異物は、流動する潤滑油とともに下方に移動することになる。このとき、潤滑孔33の下端側の開口33bの下方にはケース本体14の内周14aから内側に延びる段部34が形成されているため、この段部34によって多くの異物の下方への移動が妨げられ、異物が段部34の更に下方に移動してしまうことが抑制されることになる(図2及び図4を参照)。そして、この段部34はケース12の内周の周方向に沿って延びるとともに排油ポート27のケース12内への開口27bの下縁部に連なるように形成されているため、潤滑油の排油ポート27へ向かう流れとともに異物が移動することになる。これにより、クランク保持穴32から除去されて潤滑孔33から排出された摩耗粉等の異物が、排油ポート27から容易に排出されることになる。
【0052】
以上説明した揺動形減速機1によると、基部キャリア19に形成されたクランク保持穴32にクランク軸軸受24を介してクランク軸17の下端側が回転自在に保持された偏心型減速機1において、ケース12内の潤滑油の交換のために排油ポート27から潤滑油を排出させる際に、クランク保持穴32に入り込んでいる潤滑油を容易に交換できるとともに、クランク保持穴32内の摩耗粉等の異物を容易に除去することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、次のように変更して実施することができる。
【0054】
(1)本実施形態では、ケース内の潤滑油が排出される際の潤滑油の流路に関し、外歯歯車の中央孔を通過してクランク保持穴を外側に向かって流動する流路と、上方から環状流路に流入して周方向に流動して下方の排油ポートへと至る流路と、支柱の根元部分の曲面に沿って流動してクランク保持穴に両側から流入する流路と、の3つの形態の流路がいずれも設けられているものを例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、上記の3つの形態の流路のうちのいずれかが設けられているものであってもよい。
【0055】
(2)潤滑孔の位置や数、開口形状については、本実施形態で例示したものに限らず、種々変更して実施してもよい。例えば、1つのクランク保持穴に対して複数の潤滑孔が開口しているものであってもよい。また、クランク保持穴の底部への開口が、上方に向かって開口面積が拡大するように形成されているものであってもよい。
【0056】
(3)また、ケースの内周において排油ポートのケース内への開口の下縁部の内側で周方向に延びる段部については、本実施形態で例示したものに限らず、ケースの内側に向かって段状に形成されている部分が設けられていればよく、種々形状を変更して実施することができる。
【0057】
(4)また、クランク軸や基部キャリア、出力軸等については、種々形態を変更して実施することができる。例えば、出力軸については、基部キャリアと一体でなく基部キャリアとは別部材として設けられて基部キャリアに結合されてもよい。また、基部キャリアと端部キャリアとを連結する支柱は、基部キャリアに一体に形成されていなくてもよく、基部キャリアとは別部材として形成されていてもよい。また、クランク軸及び支柱の数は、本実施形態とは異なっていてもよい。また、クランク軸の偏心部の個数や外歯歯車の枚数については、2つでなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ケースの内周に配置された内歯に噛み合う外歯歯車が、キャリアに回転自在に保持されたクランク軸の回転に伴い偏心して揺動回転するとともに、ケース内の潤滑油
を排出するための排油ポートがケースに設けられた、偏心型減速機として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0059】
1 偏心型減速機
12 ケース
13 ピニオン
16 ピン内歯(内歯)
17 クランク軸用歯車
18、18a、18b 外歯歯車
19 基部キャリア
20 端部キャリア
21 支柱
22 出力軸
23 第1クランク軸軸受
24 第2クランク軸軸受
27 排油ポート
27a 排油ポートの外部への開口
28 蓋部材
31 クランク用孔
32 クランク保持穴
33 潤滑孔
33b 潤滑孔の下端側の開口
45 外歯
100 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端側に電動機が取り付けられるとともに内周に複数の内歯が配置されたケースと、
前記ケースに収納されるとともに前記内歯に噛み合う外歯が外周に設けられた外歯歯車と、
前記外歯歯車に形成されたクランク用孔を貫通し、前記電動機からの回転駆動力が伝達されて回転することで前記外歯歯車を偏心させて揺動回転させるクランク軸と、
前記クランク軸の上端側を第1クランク軸軸受を介して回転自在に保持する端部キャリアと、
前記クランク軸の下端側を第2クランク軸軸受を介して回転自在に保持するととともに、前記第2クランク軸軸受が配置されるクランク保持穴が形成された基部キャリアと、
前記端部キャリアと前記基部キャリアとを連結する支柱と、
前記基部キャリアに対して下方に向かって突出した状態で固定されるとともに、下端側にピニオンが固定される出力軸と、
を備えた偏心型減速機であって、
上端側が前記クランク保持穴の底部に対して開口するように形成されるとともに、前記基部キャリアを下方に向かって貫通して開口するように形成され、ケース内の潤滑油が流動可能な潤滑孔と、
前記ケースにおいて当該ケースを側方に向かって貫通して外部に開口するように形成されるとともに、前記潤滑孔の下端側の開口よりも下方で当該ケース内に開口するように形成され、外部への開口に対して着脱自在に取り付けられた蓋部材が取り外されることでケース内の潤滑油を排出可能な排油ポートと、
を更に備えていることを特徴とする、偏心型減速機。
【請求項2】
請求項1に記載の偏心型減速機であって、
前記潤滑孔は、前記クランク保持穴の底部において、前記基部キャリアの回転中心線方向と垂直な方向である径方向における外側で開口し、
前記外歯歯車の中央部分には、上下方向に当該外歯歯車を貫通する中央孔が形成され、
前記中央孔は、前記クランク保持穴の上方に対して前記基部キャリアの径方向における内側に配置されていることを特徴とする、偏心型減速機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の偏心型減速機であって、
前記基部キャリアに対して、当該基部キャリアの回転中心線方向と垂直な方向である径方向における外側の縁部分の下方に配置されるとともに、前記ケースの内周と前記出力軸の外周との間で環状に延びるように区画され、前記ケースの内周に沿って周方向にケース内の潤滑油が流動可能な環状流路が更に設けられ、
前記潤滑孔が前記環状流路に対して上方から開口し、前記排油ポートが前記環状流路の側方における下方側に対して開口することを特徴とする、偏心型減速機。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の偏心型減速機であって、
前記支柱の側面の前記基部キャリアへの連結部分には、前記クランク保持穴に対向する方向に向かって下方に傾斜する曲面が形成され、
前記潤滑孔は、前記クランク保持穴を介して隣り合って配置された前記支柱のそれぞれの前記曲面からの水平方向の距離が等距離な線と上下方向において重なる位置で開口していることを特徴とする、偏心型減速機。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の偏心型減速機であって、
前記ケースの内周には、前記排油ポートの当該ケース内への開口の下縁部の内側において周方向に亘って延びるとともに内側に向かって段状に形成された段部が設けられ、
前記段部は、前記潤滑孔の下端側の開口と上下方向において少なくとも一部が重なって
配置されていることを特徴とする、偏心型減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−64273(P2011−64273A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215923(P2009−215923)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】