説明

偏波保持光ファイバ及び光ファイバジャイロ

【課題】 小さい胴径のリールに長い条長で巻き付けた場合にも偏波クロストークの劣化が少ない偏波保持光ファイバとこれを用いた小型で高性能な光ファイバジャイロの提供。
【解決手段】 コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、2mの条長で測定されるカットオフ波長が前記使用波長より長く、且つ胴径φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークが−35dB/100m以下である偏波保持光ファイバ。このファイバにおいて、クラッド径70μm〜90μm、被覆外径160μm〜180μm、応力付与部の直径20μm〜35μm、応力付与部間の間隔4μm〜7μm、比屈折率差0.60〜0.85%、カットオフ波長0.85μm〜0.92μmの範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機などの移動体において該移動体の姿勢や位置を正確に測定するための光ファイバジャイロを作製するために好適な偏波保持光ファイバに関し、特に、長尺ファイバを小さな曲げ径に巻いても特性劣化が少なく、安定した特性を得ることができる偏波保持光ファイバとそれを用いた光ファイバジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
偏波保持光ファイバは、直線偏波を保持して伝送可能な単一モード光導波路(シングルモードファイバ)である。その典型的な構造を図1に示す。この偏波保持光ファイバ1は、中心のコア2と、該コア2の両側方に配置された一対の応力付与部3a,3bと、それらを囲むクラッド4とからなっている。この偏波保持光ファイバ1は、光が導波するコア2内に複屈折を誘起するための、互いに分離し、直径方向に対向し、かつ長手方向に延長した応力付与部3a,3bと呼ばれる1対のガラス領域がこの光導波路ファイバのクラッド4内に配置されている。応力付与部3a,3bの熱膨張係数は、クラッド4の熱膨張係数と異なっており、またこれらの応力付与部3a,3bの少なくとも一方の断面寸法が前記コア2の直径よりも大きいことを特徴とするものがよく知られている。この構造の偏波保持光ファイバは、PANDA(Polarization-maintaining and absorption reducing)型と呼ばれている。
【0003】
従来、偏波保持光ファイバは、偏波依存性を有する光部品同士の接続用ファイバとして用いられる他、それ自身光ファイバグレーティングや光ファイバカプラなどの伝送用光部品として加工され、光ファイバ型ジャイロ、光伝送装置および各種計測器等に利用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
従来の偏波保持光ファイバは、その製造性、品質の安定性、一般的な石英系光導波路ファイバとの接続性などを考慮し、125μmのクラッド外径(以下、クラッド径という。)をもった図1に示すような形状のものが一般的であった。
【0005】
前述したような特徴を持つ偏波保持光ファイバは、そのプルーフテストレベルに応じてφ60mm〜φ40mmの胴径を持つスプールに巻き付けた後、光伝送部品や各種計測器に実装される。前記胴径は、曲げによる前記ファイバの光学特性やクラッド部に与えられる歪量から考えられる信頼性への影響を考慮して決定される。
【0006】
光ファイバジャイロなど、小径に巻き込む必要がある偏波保持光ファイバでは、通常のクラッド径125μmにすると、歪を原因とした強度劣化による信頼性劣化の問題がある。そのため、クラッド径を80μmにした細径の偏波保持光ファイバも開発されている(例えば、特許文献2,非特許文献1,2参照。)。
【特許文献1】特開昭63−106519号公報
【特許文献2】特開2003−337238号公報
【非特許文献1】フジクラ技報、第85号(1993年10月発行)、p1−p9
【非特許文献2】http://www.fibercore.com/06hb-hbg.php (Fibercore社ホームページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記非特許文献1には、クラッド径を80μmと細径化したジャイロスコープ用偏波保持光ファイバが報告されている。このジャイロスコープ用偏波保持光ファイバは、マイクロベンド損失を抑制するためにコアとクラッドとの間の比屈折率差(以下、単に比屈折率差という。)Δを通常の偏波保持光ファイバより大きくし、モードフィールド径(以下、MFDという。)を小さくした構造を用いている。
【0008】
しかしながら、前述したようにMFDを小さくすると、融着接続をした場合の軸ずれによる接続損失が大きくなりやすいという欠点がある。
特許文献2には、この問題を解決するために設計を最適化したファイバ構造が示されている。すなわち、特許文献2には、コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコア及び応力付与部がクラッドに包囲されてなる偏波保持光ファイバであって、クラッド径が70〜90μmであり、応力付与部の直径が21〜32μmであり、応力付与部間の間隔が6〜17μmであり、比屈折率差が0.3〜0.5%である偏波保持光ファイバが開示されている。
【0009】
さらに光ファイバジャイロ用ファイバとして、Fibercore社からは、カットオフ波長680〜780nm、MFD4.2μmのクラッド外径が80μmのファイバが提供されている。このファイバを用いて胴径40mmのスプールに500m巻いたとき、−27dBの偏波クロストークが得られているが、更に小さいスプールに長く巻いた場合、偏波クロストークの劣化がある。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、小さい胴径のリールに長い条長で巻き付けた場合にも偏波クロストークの劣化が少ない偏波保持光ファイバ及びこの偏波保持光ファイバを用いた小型で高性能な光ファイバジャイロの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、2mの条長で測定されるカットオフ波長が前記使用波長より長く、且つ胴径φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークが−35dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバを提供する。
【0012】
また本発明は、コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、クラッド径が70μm〜90μmの範囲であり、被覆外径が160μm〜180μmの範囲であり、応力付与部の直径が20μm〜35μmの範囲であり、応力付与部間の間隔が4μm〜7μmの範囲であり、コアとクラッドとの比屈折率差が0.60〜0.85%の範囲であり、且つ2mの条長で測定されるカットオフ波長が0.85μm〜0.92μmの範囲であることを特徴とする偏波保持光ファイバを提供する。
【0013】
また本発明は、コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、クラッド径が70μm〜90μmの範囲であり、被覆外径が160μm〜180μmの範囲であり、応力付与部の直径が20μm〜35μmの範囲であり、応力付与部間の間隔が4μm〜7μmの範囲であり、コアとクラッドとの比屈折率差が0.60〜0.85%の範囲であり、2mの条長で測定されるカットオフ波長が前記使用波長より長く、且つ胴径φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークが−35dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバを提供する。
【0014】
本発明の偏波保持光ファイバにおいて、モード複屈折率が5.5×10−4〜8.0×10−4の範囲であり、波長0.85μmにおけるMFDが4.0μm〜4.4μmの範囲であることが好ましい。
【0015】
また本発明は、本発明に係る前記偏波保持光ファイバを胴径60mm以下のリールに500m以上巻いてなることを特徴とする光ファイバジャイロを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の偏波保持光ファイバは、クラッド径が70μm〜90μm、より好ましくは77μm〜83μmと細径化しても、優れた偏波保持特性を有するとともに、2mの条長で測定するカットオフ波長が使用波長よりも長いものなので、小さい胴径のリールに長い条長で巻き付けた場合にも偏波クロストーク特性の劣化が少なくなり、より小型で高性能な光ファイバジャイロを提供することができる。
本発明の光ファイバジャイロは、本発明に係る前記偏波保持光ファイバを胴径60mm以下のリールに500m以上巻いてなるものなので、良好な偏波クロストーク特性を持ち、従来品よりも小型にでき、この光ファイバジャイロを搭載した各種機器の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明者らは、ボビン巻きを行った際の、カットオフ波長(以下、カットオフと略記する場合がある。)の挙動について評価を行った。表1は、カットオフの曲げ径及び曲げ条長依存性を測定した結果である。
【0018】
【表1】

【0019】
また、2mカットオフと比較したシフト量を図2に示す。
一般的な光ファイバジャイロに使用される巻き条件は、条長が数百m〜1km、曲げ径が15〜40mmφである。図2中、斜線を付した領域は、曲げ径60mmφ以下、条長100m以上の領域を示す。マージンを考慮して一般的な光ファイバジャイロで使用される場合よりもカットオフシフト量が小さめの条件としている。この条件でボビン巻き状態でのカットオフは、少なくとも0.925倍以下にシフトすると言える。使用波長850nmでのシングルモード動作を曲げ径60mmφ、条長100mのボビン巻き状態において末端で保証するには、2mカットオフは(850nm/0.925倍=)919nm以下となる。
【0020】
次に、ボビン巻き状態での偏波クロストークについて実験を行った。2mカットオフを使用波長より長波長に設定した場合、入射端から一定距離の区間はマルチモード状態で伝送する。高次モード(LP11)と基底モード(LP01)のモードの結合が生じると偏波クロストークが劣化する。図3に偏波クロストークの長手方向依存性を示す。2mカットオフ波長1380nmの素線を使用し、巻き径は300mm、ファイバの比屈折率差Δは0.32%とし、波長1310nmにおいて測定を行った。図3中「MM領域」はマルチモード状態で光が伝搬する領域であり、「SM領域」はシングルモード状態で光が伝搬する領域である。MM領域の倍程度の条長で高次モードの影響がなくなり、−45dB/100m以下の偏波クロストークが得られた。モード間の結合が殆ど生じていないことを示している。
【0021】
比屈折率差を変化させたときの、カットオフ波長に対するMFDと曲げ損失の関係を図4に示す。図4に示す結果からわかるように、MFDを大きくしようとすると比屈折率差Δが下がるため、曲げ損失の影響による偏波クロストーク劣化も顕著になる。従来のように、2mカットオフ波長を0.80μm以下にしようとすると、比屈折率差Δを0.60%に設定する必要がある。ここで、カットオフ波長を0.92μmにすると、比屈折率差Δを0.70%とすることができる。この場合、曲げ損失は10−9dB/mレベルから10−18dB/mレベルまで低くすることができるので、従来よりも小さな径で巻いても曲げ損失に起因する偏波クロストークの劣化を抑えることができる。
【0022】
以上の結果から、本発明の偏波保持光ファイバにあっては、目標とする比屈折率差Δを0.70%、目標とするカットオフ波長を0.90μm、MFDを4.2μm〜4.3μmとした。
【0023】
図5は、計算により求めた応力付与部間隔、応力付与部直径のモード複屈折率(B)依存性を示すグラフである。図1に示すようなPANDA型偏波保持光ファイバの場合、モード複屈折率Bは、下記式(1)で表される(P. L. Chu et. al: “Analytical Method for Calculation of Stress and Material Birefringence in Polarization-Maintaining Optical Fiber,” J. of Lightwave Technol. Vol. LT-2, No.5, Oct. 1984)。
【0024】
【数1】

【0025】
この式(1)において、Bはモード複屈折率であり、Eは石英のヤング率であり、Cは光弾性係数であり、νはポアソン比であり、αはクラッド4の熱膨張係数であり、αは応力付与部3a,3bの熱膨張係数であり、Tは応力付与部3a,3bの融点と実使用環境温度との差であり、dは応力付与部3a,3bの半径であり、dはコア2の中心と応力付与部3a(または3b)の中心との距離であり、bはクラッド4の半径である。また、rおよびθは、コア2の中心を原点とする偏波保持光ファイバ1内部にある任意の点の座標を示し、r=0として偏波保持光ファイバ1のモード複屈折率を代表できる。
【0026】
この式(1)中、下記式(2)
【0027】
【数2】

【0028】
で表される因子は、応力付与部3a,3bの材料により決定することができる。応力付与部3a,3bの材料は、一般的にB添加石英が用いられており、Bの添加量は、Bの断面質量換算で21質量%以下とすることが望ましい(例えば特開2002−214465号公報参照)。このような応力付与部3a,3bの材料は、経験的に知られている値として、Eとして7830kg/mm、νとして0.186、(α−α)Tとして1.69×10−3という値を用いることにより、一般的な応力付与部3a,3bの材料を表現することができる。
【0029】
また、下記式(3)
【0030】
【数3】

【0031】
で表される因子は、偏波保持光ファイバ1の構造パラメータにより決定され、モード複屈折率Bを大きくするためには、各応力付与部3a,3bの直径Dを大きくし、応力付与部3a,3b間の間隔Rを小さくすればよいことが分かる。
【0032】
図5より、本発明の偏波保持光ファイバにおいて、5.5×10−4以上のモード複屈折率を得るためには、応力付与部直径Dを20μm〜35μmの範囲、応力付与部間隔Rを4〜7μmの範囲とすることが望ましいといえる。さらにコストや製造制御性を考慮すると、応力付与部直径Dは20μm〜27μmの範囲とすることが望ましい。
【0033】
本発明は、コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、2mの条長で測定されるカットオフ波長が前記使用波長より長く、且つ胴径φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークが−35dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバを提供する。
【0034】
このような偏波保持光ファイバを提供するには、クラッド径を70μm〜90μmの範囲、被覆外径を160μm〜180μmの範囲、応力付与部の直径を20μm〜35μmの範囲、応力付与部間の間隔を4μm〜7μmの範囲、コアとクラッドとの比屈折率差を0.60〜0.85%の範囲、且つ2mの条長で測定されるカットオフ波長を0.85μm〜0.92μmの範囲にそれぞれ設定することが望ましい。
【0035】
本発明の偏波保持光ファイバは、カットオフ波長を使用波長よりも長くすることで、MFDを大きな値で維持しながら、曲げ損失を低減することができ、15mm〜40mmという小さな曲げ直径で、500〜1000mの長いファイバを巻き込んでも偏波クロストークの劣化がほとんど無い優れたものとなる。前述した各構造パラメーターが前述した範囲から外れると、MFDを大きな値で維持しながら、曲げ損失を低減することが困難になり、小さな曲げ直径で長いファイバを巻き込んだ場合に偏波クロストークが劣化してしまう。
【0036】
本発明の偏波保持光ファイバにおいて、モード複屈折率が5.5×10−4〜8.0×10−4の範囲であり、波長0.85μmにおけるMFDが4.0μm〜4.4μmの範囲であることが好ましい。
モード複屈折率及びMFDが前記範囲内である偏波保持光ファイバを構成することにより、周辺の光部品と低損失で結合させることができる。
【0037】
また本発明の光ファイバジャイロは、前述した本発明に係る偏波保持光ファイバを胴径60mm以下のリールに500m以上巻いたことを特徴としている。
このような光ファイバジャイロを用いることで、システム全体の特性を維持したまま、より小型化することが可能である。
【実施例】
【0038】
図1に示す断面構造のPANDA型の偏波保持ファイバ1を作製した。この偏波保持ファイバ1は、コア2の両側方の対称位置に一対の応力付与部3a,3bが設けられ、これらコア2及び応力付与部3a,3bとがクラッド4で包囲された構造になっている。コア2には、クラッド4より屈折率が高い材料が用いられ、応力付与部3a,3bには、コア2及びクラッド4より熱膨張係数の大きい材料が用いられる。これらの材料としては、従来のPANDA型偏波保持ファイバに用いられている材料であれば、いずれのものを用いてもよいが、例えば、コア2としてはGeOを添加(ドープ)した石英ガラス(GeO添加石英ガラス)を用い、各応力付与部3a,3bとしてはBの断面質量換算で17〜21質量%程度ドープしたB−SiOガラスを用い、クラッド4としては純石英ガラス(SiO)を用いる構成が例示される。
【0039】
[実施例1]
偏波保持光ファイバの作製にあたっては、まず、比屈折率差Δが0.70%となるように、GeO添加石英ガラスからなるコア部と純石英ガラスからなるクラッド部とを有するVAD母材を用意した。次いで、所定のカットオフ波長が得られるように外周に石英ガラスを堆積させ焼結して、PANDA型偏波保持光ファイバのコアクラッド母材を得た。次いで、このコアクラッド母材のコア部の両側に、所定の位置及び直径となるように超音波ドリルで孔をあけ、この孔の内表面を研削及び研磨して鏡面化することにより、孔開き母材を製造した。
別途、MCVD法を用いて偏波保持光ファイバの応力付与部となるB−SiOガラス製の応力付与部材を製造した。
この応力付与部材を、前記孔開き母材に挿入し、線引き炉にて加熱し、クラッド径80μmになるように線引きして偏波保持光ファイバを製造した。さらに線引き後の光ファイバ裸線に対して、2層の紫外線硬化型アクリレート樹脂を被覆し、光ファイバ素線を得た。この際、1層目被覆径は約125μmとし、2層目被覆径は約170μmとした。得られた偏波保持光ファイバ(No.1)の構造パラメータ及び光学特性を測定した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
本実施例の偏波保持光ファイバ(No.1)は、2mで測定したカットオフ波長が0.90μmであったが、φ60mmの胴径を有するリールに10m巻いた時点で、カットオフ波長は0.85μmとなり、10m以上でφ60mmよりも小さなリールに巻き込んで使用する場合は、0.85μmにおいてシングルモードとなることが確認された。そしてφ60mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークは−39dB/100mと良好であった。
【0042】
[実施例2]
偏波保持光ファイバの作製にあたっては、まず、比屈折率差Δが0.65%となるように、GeO添加石英ガラスからなるコア部と純石英ガラスからなるクラッド部とを有するVAD母材を用意した。次いで、所定のカットオフ波長が得られるように外周に石英ガラスを堆積させ焼結して、PANDA型偏波保持光ファイバのコアクラッド母材を得た。次いで、このコアクラッド母材のコア部の両側に、所定の位置及び直径となるように超音波ドリルで孔をあけ、この孔の内表面を研削及び研磨して鏡面化することにより、孔開き母材を製造した。
別途、MCVD法を用いて偏波保持光ファイバの応力付与部となるB−SiOガラス製の応力付与部材を製造した。
この応力付与部材を、前記孔開き母材に挿入し、線引き炉にて加熱し、クラッド径80μmになるように線引きして偏波保持光ファイバを製造した。さらに線引き後の光ファイバ裸線に対して、2層の紫外線硬化型アクリレート樹脂を被覆し、光ファイバ素線を得た。この際、1層目被覆径は約125μmとし、2層目被覆径は約170μmとした。得られた偏波保持光ファイバ(No.2)の構造パラメータ及び光学特性を測定した。その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
本実施例の偏波保持光ファイバ(No.2)は、2mで測定したカットオフ波長が0.90μmであったが、φ40mmの胴径を有するリールに10m巻いた時点で、カットオフ波長は0.83μmとなり、数mでφ40mmよりも小さなリールに巻き込んで使用する場合は、0.85μmにおいてシングルモードとなることが確認された。そしてφ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークは−38dB/100mと良好であった。
【0045】
[比較例]
比屈折率差Δが0.60%となるように、GeO添加石英ガラスからなるコア部と純石英ガラスからなるクラッド部とを有するVAD母材を用意した。次いで、所定のカットオフ波長が得られるように外周に石英ガラスを堆積させ焼結して、PANDA型偏波保持光ファイバのコアクラッド母材を得た。次いで、このコアクラッド母材のコア部の両側に、所定の位置及び直径となるように超音波ドリルで孔をあけ、この孔の内表面を研削及び研磨して鏡面化することにより、孔開き母材を製造した。
別途、MCVD法を用いて偏波保持光ファイバの応力付与部となるB−SiOガラス製の応力付与部材を製造した。
この応力付与部材を、前記孔開き母材に挿入し、線引き炉にて加熱し、クラッド径80μmになるように線引きして偏波保持光ファイバを製造した。さらに線引き後の光ファイバ裸線に対して、2層の紫外線硬化型アクリレート樹脂を被覆し、光ファイバ素線を得た。この際、1層目被覆径は約125μmとし、2層目被覆径は約170μmとした。得られた偏波保持光ファイバ(No.3)の構造パラメータ及び光学特性を測定した。その結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
比較例の偏波保持光ファイバ(No.3)は、2mで測定したカットオフ波長でも0.82μmなので条長、巻き方によるカットオフ波長のシフトは問題にしなくてもよいが、曲げ損失が本発明のファイバよりも高いため、φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークは−26dB/100m程度まで劣化した。
なお、表2〜表4中で「損失」は、各光ファイバを曲げ損失の生じない大きな径で巻いたときの損失であり、また「曲げ損失」はある小さな径(2R=20mm)に巻いたときに生じる損失である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】偏波保持光ファイバの断面図である。
【図2】ボビン巻き状態のカットオフの2mカットオフに対するシフト量を示すグラフである。
【図3】偏波クロストークの長手方向依存性を示すグラフである。
【図4】比屈折率差を変化させたときの、MFDとカットオフ波長の関係を示すグラフである。
【図5】応力付与部間隔、応力付与部直径のモード複屈折率依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1…偏波保持光ファイバ、2…コア、3a,3b…応力付与部、4…クラッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、2mの条長で測定されるカットオフ波長が前記使用波長より長く、且つ胴径φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークが−35dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバ。
【請求項2】
コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、クラッド径が70μm〜90μmの範囲であり、被覆外径が160μm〜180μmの範囲であり、応力付与部の直径が20μm〜35μmの範囲であり、応力付与部間の間隔が4μm〜7μmの範囲であり、コアとクラッドとの比屈折率差が0.60〜0.85%の範囲であり、且つ2mの条長で測定されるカットオフ波長が0.85μm〜0.92μmの範囲であることを特徴とする偏波保持光ファイバ。
【請求項3】
コアの両側方に一対の応力付与部が設けられ、これらのコアと応力付与部とがクラッドに包囲されてなる波長0.81〜0.87μmで使用される偏波保持光ファイバであって、クラッド径が70μm〜90μmの範囲であり、被覆外径が160μm〜180μmの範囲であり、応力付与部の直径が20μm〜35μmの範囲であり、応力付与部間の間隔が4μm〜7μmの範囲であり、コアとクラッドとの比屈折率差が0.60〜0.85%の範囲であり、2mの条長で測定されるカットオフ波長が前記使用波長より長く、且つ胴径φ40mmのリールに1000m巻いたときの偏波クロストークが−35dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバ。
【請求項4】
モード複屈折率が5.5×10−4〜8.0×10−4の範囲であり、波長0.85μmにおけるモードフィールド径が4.0μm〜4.4μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偏波保持光ファイバ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の偏波保持光ファイバを胴径60mm以下のリールに500m以上巻いてなることを特徴とする光ファイバジャイロ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−10896(P2007−10896A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190246(P2005−190246)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】