説明

側方α−置換アクリレート化合物およびその重合体

【課題】高い重合反応性、液晶相の広い温度範囲、良好な混和性等の性質を有する化合物、該化合物を含有する組成物、ならびに、該組成物の重合によって得られ、光学異方性、透明性、化学的安定性、耐熱性、硬度、接着性、密着性、機械的強度等に優れ、透水性、吸水性およびガス透過度が低いといった特性を有する重合体を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


[式中、Raはアルキル等であり;Rbはフッ素または−CF3であり;Aは1,4−シク
ロヘキシレン、1,4−フェニレン等であり;Zは単結合、アルキレン等であり;Yは単結合、アルキレン等であり;mおよびnは0〜5の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−置換アクリロイルオキシを有する鎖状基が1,4−フェニレン環に置換した化合物、該化合物を含む組成物、該化合物の重合体およびこれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性を有する重合性化合物の分子を一定の方向に配向させて光重合させることによって分子配列が固定された重合体が得られる。このような重合体は光学異方性を有することが知られている(特許文献1参照)。前記液晶性を有する重合性化合物としては、たとえば、下記に示すアクリレートなどが挙げられる(特許文献2および3参照)。これらのアクリレートは反応性が高く、得られる重合体の透明性は高いが、耐熱性や機械的強度等の特性の改良がさらに求められている。
【0003】
【化1】

【特許文献1】特開平8−3111号公報
【特許文献2】特開平7−17910号公報
【特許文献3】特開平9−316032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、重合性基を有し、高い重合反応性、液晶相の広い温度範囲および良好な混和性(miscibility)等の性質を有する化合物、ならびに、該化合物を含有し、良好な塗布
性等を有する組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、前記組成物の重合によって得られ、光学異方性、透明性、化学的安定性、耐熱性、硬度、接着性、密着性および機械的強度等の特性に優れるとともに、透水性、吸水性およびガス透過度が低いといった特性を有する重合体およびその特性を利用した用途を提供することも課題とする。なお、前記機械的強度は、ヤング率、引っ張り強度、引き裂き強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度等である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の態様は、下記の項に記載したとおりである。なお、以下において、化合物(1)における末端基、環および結合基に関して好ましい例も述べる。
【0006】
[1]下記式(1)で表される化合物。
【0007】
【化2】

【0008】
式(1)中、Raは、独立に水素、ハロゲン、シアノ、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF3、−OCF2H、−N=C=O、−N=C=Sまたは炭素数1〜20のアルキルであり、該アルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、−S−、−SO2−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;Rbはフッ素または
−CF3であり;Aは、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン
、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイルまたはビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジイルであり、これらの環において、任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよ
く、任意の−CH=は−N=で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲン、炭素数1〜5のアルキルまたは炭素数1〜5のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく;Zは、独立に単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−
CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;Yは単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−または−
CH=CH−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;mおよびnは、それぞれ0〜5の整数である。
【0009】
好ましいRaは、水素、塩素、フッ素、シアノ、−N=C=O、−N=C=S、アルキ
ル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルコキシ、アルキルチオ、アルキルチオアルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルオキシアルキル、アルコキシアルケニル、アルキニルおよびアルキニルオキシなどである。これらの基において、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた基も好ましい。好ましいハロゲンはフッ素、塩素であり、さらに好ましいハロゲンはフッ素である。具体的な例は、モノフルオロアルキル、ポリフルオロアルキル、ペルフルオロアルキル、モノフルオロアルコキシ、ポリフルオロアルコキシ、ペルフルオロアルコキシなどである。これらの基は分岐鎖よりも直鎖の方が好ましい。光学活性な化合物を得るためには分岐したRaが好ましい。
【0010】
さらに好ましいRaは、水素、フッ素、塩素、シアノ、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF3、−OCF2H、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のアルコキシおよび炭素数2〜10のアルコキシアルキルなどである。アルキル、アルコキシおよびアルコキシアルキルとしては、たとえば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、メトキシメチ、メトキシエチルなどが挙げられる。特に好ましいRaは、炭素数1〜10のアルキルおよび炭素数1〜10のアルコキシである。
【0011】
好ましいAは、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、2,2−ジフルオロ−1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−
フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5−トリフルオロ−1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、3−フルオロピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチル−フルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジイル、9−エチルフルオレン−2,7−ジイル、9−フルオロフルオレン−2,7−ジイルおよび9,9−ジフルオロフルオレン−2,7−ジイルなどである。
【0012】
1,4−シクロヘキシレンおよび1,3−ジオキサン−2,5−ジイルの立体配置は、シスよりもトランスが好ましい。なお、2−フルオロ−1,4−フェニレンおよび3−フルオロ−1,4−フェニレンは構造的に同一であるので、後者は例示していない。この規則は、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレンおよび3,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンとの関係などにも適用される。mが2〜10の整数であるとき、任意に選んだ2つのAは、同一であってもよく、または、異なっていてもよい。
【0013】
さらに好ましいAは、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレンおよび2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。特に好ましいAは、1,4−シクロへキシレンおよび1,4−フェニレンである。
【0014】
好ましいZは、単結合、−(CH22−、−(CF22−、−CH2O−、−OCH2−、−CF2O−、−OCF2−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−C≡C−、−(CH24−、−(CH23O−、−O(CH23−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−および−OCO−CH=CH−である。
【0015】
さらに好ましいZは、単結合、−(CH22−、−COO−、−OCO−、−CH2
−、−OCH2−、−CF2O−、−OCF2−、−CH=CH−、−C≡C−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−および−OCO−CH=
CH−である。特に好ましいZは、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−および−OCO−CH=CH−である。mが2〜10の整数であるとき、任意に選んだ2つのZは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0016】
好ましいYは、単結合および炭素数1〜10のアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は、−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよい

【0017】
[2]前記式(1)中、m+nが1〜3の整数である項[1]に記載の化合物。
[3]前記式(1)中、m+nが2である項[1]に記載の化合物。
[4]前記式(1)中、Raが非重合性基である項[1]〜[3]のいずれかに記載の
化合物。
【0018】
[5]前記式(1)中、Raが、独立に炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10の
アルコキシまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、これらの任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;Aが、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルまたはピリミジン−2,5−ジイ
ルであり、これらの任意の水素は、塩素、フッ素、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のフルオロアルキルで置き換えられてもよく;Zが、独立に単結合、−CH2O−
、−OCH2−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−
OCO(CH22−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−または−C≡C−であり;Yが単結合または炭素数1〜10を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて任意の−CH2−は−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよい
項[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物。
【0019】
[6]下記式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物。
【0020】
【化3】

【0021】
式(I)〜(III)中、Raは、独立に水素、ハロゲン、シアノ、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF3、−OCF2H、−N=C=O、−N=C=Sまたは炭素数1〜2
0のアルキルであり、該アルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、−S−、−SO2−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;Rbはフ
ッ素または−CF3であり;Aは、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘ
キセニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイルまたはビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジイルであり、これらの環において、任意の−CH2−は−O−で置き換え
られてもよく、任意の−CH=は−N=で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲン、炭素数1〜5のアルキルまたは炭素数1〜5のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく;Zは、独立に単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=
CH−、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;Yは単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO
−または−CH=CH−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0022】
[7]前記式(I)〜(III)中、Raが非重合性基である項[6]に記載の化合物。
[8]前記式(I)〜(III)中、Raが、独立に炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のアルコキシまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、これらの任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;Aが、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルまたはピリミジン−2,5−ジイルであり、これらの任意の水素は、塩素、フッ素、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のフルオロアルキルで置き換えられてもよく;Zが、独立に単結合、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−または−C≡C−であり;Yが単結合または炭素数1〜10を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて任意の−CH2−は−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられて
もよい項[6]に記載の化合物。
【0023】
[9]前記式(I)〜(III)中、Raが、独立に炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数1〜10のアルコキシであり;Aが、独立に1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;Zが、独立に単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−または−C≡C−であり;Yが単結合または炭素数1〜10を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて環に隣接する−CH2−が−O−、−COO−または−O
CO−で置き換えられてもよい項[6]に記載の化合物。
【0024】
[10]項[1]〜[9]のいずれかに記載の化合物を少なくとも1種含有する組成物。
[11]項[1]〜[9]のいずれかに記載の化合物とは異なる重合性化合物をさらに含有する項[10]に記載の組成物。
【0025】
[12]項[1]〜[9]のいずれかに記載の化合物とは異なる重合性の光学活性化合物をさらに含有する項[10]または[11]に記載の組成物。
[13]非重合性の液晶性化合物をさらに含有する項[10]〜[12]のいずれかに記載の組成物。
【0026】
[14]非重合性の光学活性化合物をさらに含有する項[10]〜[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]重合開始剤をさらに含有する項[10]〜[14]のいずれかに記載の組成物。
【0027】
[16]溶媒をさらに含有する項[10]〜[15]のいずれかに記載の組成物。
[17]項[10]〜[16]のいずれかに記載の組成物を重合させることにより得られる重合体。
【0028】
[18]重量平均分子量が500〜1,000,000である項[17]に記載の重合体。
[19]重量平均分子量が1,000〜500,000である項[17]に記載の重合体。
【0029】
[20]光学活性化合物である項[17]〜[19]のいずれかに記載の重合体。
[21]項[17]〜[20]のいずれかに記載の重合体を含むフィルム。
[22]項[17]〜[20]のいずれかに記載の重合体を含む光学異方性を有する成形体。
【0030】
[23]項[10]〜[16]のいずれかに記載の組成物、項[17]〜[20]のいずれかに記載の重合体、項[21]に記載のフィルム、または、項[22]に記載の光学異方性を有する成形体を含む液晶表示素子。
【発明の効果】
【0031】
本発明の化合物は、高い重合反応性、液晶相の広い温度範囲および良好な混和性(miscibility)等の性質を有し、また、本発明の化合物を含有する組成物は、良好な塗布性等
を有する。本発明の組成物の重合によって得られる重合体は、光学異方性、透明性、化学的安定性、耐熱性、硬度、接着性、密着性、機械的強度等の特性に優れるとともに、透水性、吸水性およびガス透過度が低いといった特性を有する。したがって、本発明の重合体は、位相差膜、偏光素子、円偏光素子、楕円偏光素子、反射防止膜、選択反射膜、色補償膜、視野角補償膜および液晶配向膜等に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る側方α−置換アクリレート化合物、該化合物を含有する組成物、該組成物から得られる重合体およびその用途について、詳細に説明する。
なお、本明細書における用語の使い方は、以下のとおりである。
【0033】
「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相等の液晶相を有する化合物および液晶相を有さないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。「化合物(1)」は、式(1)で表わされる化合物を意味する。また、式(1)で表わされる化合物の少なくとも1つを意味することもある。「組成物(1)」は化合物(1)から選択される少なくとも1つの化合物を含有する組成物を意味する。「重合体(1)」は組成物(1)を重合させることによって得られる重合体を意味する。「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0034】
また、化学式において、1つの化合物が複数のAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なってもよい。この規則は、Y、Z等の記号などにも適用される。「アルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−等で置き換えられてもよい」の句の意
味を一例で示す。C49−において、任意の−CH2−が−O−または−CH=CH−で
置き換えられた基は、たとえば、C37O−、CH3−O−(CH22−、CH3−O−CH2−O−、H2C=CH−(CH23−、CH3−CH=CH−(CH22−、CH3−CH=CH−CH2−O−等である。このように「任意の」という語は、「区別なく選択さ
れた少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH3−O−O−CH2−よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH3−O−CH2−O−の方が好ましい。
【0035】
〔化合物〕
本発明の化合物(1)は、上記式(1)に示すように、重合性基のα−置換アクリロイルオキシを有することから、高い重合反応性、液晶相の広い温度範囲、適切な光学異方性および良好な混和性等の特性を示す。また、上記式(1)に示すように、重合性基のα−置換アクリロイルオキシにおけるRbがフッ素または−CF3であることにより、Rbが水
素またはメチルの場合と比較して、化合物(1)は、良好な配向性や耐熱性を有し、液晶相の温度範囲が広がるなどの利点が得られることがある。なお、本発明の化合物(1)におけるRaは、(メタ)アクリロイルオキシ基などのような重合性基ではなく、非重合性
の基である。
【0036】
化合物(1)は、他の液晶性化合物や重合性化合物等と混合するとき、容易に均一になりやすい。化合物(1)の一部は液晶性を有するという特徴がある。また、化合物(1)が不斉炭素を有する場合は光学活性を有するという特徴がある。
【0037】
化合物(1)の末端基、環および結合基を適当に選択することによって、光学異方性等の物性を任意に調整することが可能である。末端基Ra、環Aおよび結合基Zの種類が、
化合物(1)の物性に与える効果を以下に説明する。
【0038】
aが直鎖のアルキルの場合、液晶相の温度範囲が広く、粘度が小さい。Raが分岐のアルキルの場合、他の液晶性化合物との相溶性がよい。Raがシアノ、ハロゲン、−CF3または−OCF3の場合においても、良好な液晶相温度範囲を示し、適度な相溶性を有して
おり、特にシアノの場合、大きな光学異方性値を有し、−F、−CF3または−OCF3の場合、小さな光学異方性値を有する。
【0039】
環Aが、1,4−フェニレン、任意の水素がフッ素で置き換えらた1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイルまたはピリダジン−3,6−ジイルの場合、光学異方性が大きい。環Aが、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレンまたは1,3−ジオキサン−2,5−ジイルの場合、光学異方性が小さい。複数の環Aのうち少なくとも2つの環が1,4−シクロヘキシレンの場合、透明点が高く、光学異方性が小さく、粘度が小さい。少なくとも1つの環が1,4−フェニレンの場合、光学異方性が比較的大きく、配向秩序パラメーター(orientational order parameter)が大きい。少なくとも2つの環が1,4−フェニレンの場合、光学異方性が大きく、
液晶相の温度範囲が広く、透明点が高い。
【0040】
結合基Zが、単結合、−(CH22−、−CH2O−、−OCH2−、−CF2O−、−
OCF2−、−CH=CH−、−CF=CF−または−(CH24−の場合、粘度が小さ
い。結合基Zが、単結合、−(CH22−、−OCF2−、−CF2O−、−CH=CH−または−(CH24−の場合、粘度がより小さい。結合基Zが、−CH=CH−または−CF=CF−の場合、液晶相の温度範囲が広く、弾性定数比が大きい。結合基Zが−C≡C−の場合、光学異方性が大きい。
【0041】
化合物(1)が3つ以下の環を有するときは粘度が低く、3つ以上の環を有するときは透明点が高い。ここでは、六員環等を環とみなし、三員環は環とみなさない。
化合物(1)は、光学活性であってもよいし、光学的に不活性でもよい。光学活性な場合、化合物(1)は不斉炭素を有する。不斉炭素の立体配置はRでもSでもよい。不斉炭素を有する場合は相溶性がよい。
【0042】
以上のように、末端基、環および結合基の種類や、環の数を適宜選択することにより目的の物性を有する化合物を得ることができる。
また、化合物(1)が2つ以下の環を有し、Raが−Cl、−Br、−I、−COOH
、−COCl、−COBr、−CHO、−OH、−OSO2CH3または−OSO264
CH3−pである場合、合成中間体として特に有用である。例えば、Raが−COOH、−COClまたは−COBrであれば、対応するアルコール、フェノール誘導体を用いてエステル化合物へ誘導することができる。同様に−Cl、−Br、−I、−OH、−OSO2CH3または−OSO264CH3−pであれば、エーテル化合物に誘導できる。また、Raが−CHOであれば、ウィティッヒ試薬等により−CH=CH−への誘導できる。上
記α−置換アクリロイルオキシ基を安定的に存在させる範囲内で、有機合成化学の手法を組み合わせることにより、これらの化合物をさらに別の合成中間体へも誘導することが可能である。
【0043】
化合物(1)は、有機合成化学の手法を組み合わせることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環および結合基を導入する方法は、ホーベン−ワイル(Houben-Wyle, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シ
ンセシーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクシ
ョンズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講
座(丸善)等の成書に記載されている。
【0044】
上記α−置換アクリロイルオキシ基の導入には、α−置換アクリル酸、α−置換アクリル酸ハライドを用いることができる。J. Org. Chem., 1989, 54, 5640、特開昭60−1
58137号公報、特開昭61−85345号公報等にα−フルオロアクリル酸フルオリドの合成法が記載されている。DE2357816号公報、DE2350119号公報、DE2357677号公報などにはα−クロロアクリル酸クロリドの合成法が記載されている。Org. Lett., 2001, 3, 2915などにはα−トリフルオロメチルアクリル酸クロリド
の合成法が記載されている。これらの化合物を出発物質として利用することにより化合物(1)を合成することができる。
【0045】
結合基Zの合成について、スキーム1〜12で説明する。このスキームにおいて、MSG1およびMSG2は少なくとも一つの環を有する1価の有機基である。複数のMSG1
またはMSG2)は同一でも異なってもよい。化合物(1A)〜(1M)は、本発明の化
合物(1)に相当する。これらの方法は、光学活性な化合物(1)および光学的に不活性な化合物(1)に適用できる。
【0046】
<スキーム1> Zが単結合の化合物
下記に示すように、アリールホウ酸(S1)と公知の方法で合成される化合物(S2)とを、炭酸塩水溶液中、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどの触媒の存在下で反応させることにより化合物(1A)を合成できる。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(S3)にn−ブチルリチウムを、次いで塩化亜鉛を反応させた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどの触媒の存在下で化合物(S2)とさらに反応させることによっても合成できる。
【0047】
【化4】

【0048】
<スキーム2> Zが−CH=CH−の化合物
下記に示すように、公知の方法で合成されるホスホニウム塩(S5)にカリウムt−ブトキシドなどの塩基を添加して発生させたリンイリドを、アルデヒド(S4)に反応させることにより化合物(1B)を合成できる。反応条件や基質によってはシス体が生成するので、必要に応じて公知の方法によりシス体をトランス体に異性化する。
【0049】
【化5】

【0050】
<スキーム3> Zが−(CH22−の化合物
下記に示すように、化合物(1B)をパラジウム炭素などの触媒の存在下で水素化することにより、化合物(1C)を合成できる。
【0051】
【化6】

【0052】
<スキーム4> Zが−(CF22−の化合物
下記に示すように、J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 5414 に記載された方法に従い、
フッ化水素触媒の存在下、ジケトン(S6)を四フッ化硫黄でフッ素化することにより、−(CF22−を有する化合物(1D)を合成できる。
【0053】
【化7】

【0054】
<スキーム5> Zが−(CH24−の化合物
下記に示すように、スキーム2の方法に従って、ホスホニウム塩(S5)の代わりにホスホニウム塩(S7)を用いて−(CH22−CH=CH−を有する化合物を合成し、これを接触水素化することにより化合物(1E)を合成できる。
【0055】
【化8】

【0056】
<スキーム6> Zが−CH2O−または−OCH2−の化合物
下記に示すように、まず、化合物(S4)を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤で還元して化合物(S8)を得る。これを臭化水素酸等でハロゲン化して化合物(S9)を得る
。次いで、炭酸カリウム等の存在下で、化合物(S9)を化合物(S10)と反応させることにより化合物(1F)を合成できる。この方法によって−CH2O−を有する化合物
も合成できる。
【0057】
【化9】

【0058】
<スキーム7> Zが−COO−または−OCO−の化合物
下記に示すように、化合物(S3)にn−ブチルリチウムを、次いで二酸化炭素を反応させてカルボン酸(S11)を得る。化合物(S11)とフェノール(S10)とをDCC(1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)およびDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)の存在下で脱水させることにより、−COO−を有する化合物(1G)を合成できる。この方法によって−OCO−を有する化合物も合成できる。また、(S11)に塩化チオニルまたはオキザリルクロリドなどを作用させ、酸クロリド化合物に誘導し、ピリジンまたはトリエチルアミンなどの塩基存在下、(S10)を作用させることにより(1G)を合成することもできる。
【0059】
【化10】

【0060】
<スキーム8> Zが−CF=CF−の化合物
下記に示すように、まず、化合物(S3)をn−ブチルリチウムで処理した後、テトラフルオロエチレンを反応させて化合物(S12)を得る。次いで、化合物(S2)をn−ブチルリチウムで処理した後、化合物(S12)と反応させことにより化合物(1H)を合成できる。合成条件を選択することで、シス体の化合物(1H)を製造することもできる。
【0061】
【化11】

【0062】
<スキーム9> Zが−C≡C−の化合物
下記に示すように、ジクロロパラジウムおよびハロゲン化銅の触媒存在下、化合物(S13)を化合物(S2)と反応させことにより、化合物(1J)を合成できる。
【0063】
【化12】

【0064】
<スキーム10> Zが−C≡C−COO−の化合物
下記に示すように、まず、化合物(S13)をn−ブチルリチウムでリチオ化した後、二酸化炭素を作用させてカルボン酸(S14)を得る。次いで、カルボン酸(S14)とフェノール(S10)とを、DCCおよびDMAPの存在下で脱水させることにより、−C≡C−COO−を有する化合物(1K)を合成できる。この方法によって−OCO−C≡C−を有する化合物も合成できる。また、スキーム7において(S11)から(1G)に誘導したように、酸クロリド化合物経由で(1K)を合成することもできる。
【0065】
【化13】

【0066】
<スキーム11> Zが−C≡C−CH=CH−または−CH=CH−C≡C−の化合物
下記に示すように、化合物(S13)とビニルブロミド(S15)とのクロスカップリング反応により、−C≡C−CH=CH−を有する化合物(1L)を合成できる。シス体の化合物(S15)を使用すれば、シス体の(1L)を製造できる。
【0067】
【化14】

【0068】
<スキーム12> Zが−CF2O−または−OCF2−の化合物
下記に示すように、まず、化合物(1G)をローソン試薬などの硫黄化剤で処理して化合物(S16)を得る。次いで、フッ化水素ピリジン錯体およびNBS(N−ブロモスクシンイミド)を用いて化合物(S16)をフッ素化することにより、−CF2O−を有す
る化合物(1M)を合成できる。また、化合物(S16)を(ジエチルアミノ)サルファートリフルオリド(DAST)でフッ素化することによっても化合物(1M)を合成できる。この方法によって−OCF2−を有する化合物も合成できる。P. Kirsch et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 1480.に記載の方法によってこれらの結合基を生成させることも可能である。
【0069】
【化15】

【0070】
上記のような方法で合成される化合物の例(化合物(a−1)〜(d−8))を以下に示す。なお、上記のようにして合成された化合物の構造は、たとえば、プロトンNMRスペクトルなどにより確認することができる。
【0071】
【化16】

【0072】
【化17】

【0073】
【化18】

【0074】
【化19】

【0075】
〔組成物〕
本発明の組成物(1)は良好な塗布性等の特性を有する。本発明の組成物(1)の第一の態様は、1つの化合物(1)を含有する。この組成物の重合によって単独重合体が得られる。第二の態様は、化合物(1)から選択された少なくとも2つの化合物を含有する。この組成物の重合によって共重合体が得られる。これらの組成物は添加物をさらに含有し
てもよい。第三の態様は、少なくとも1つの化合物(1)と、その他の重合性化合物とを含有する。その他の重合性化合物は、重合性基を有する化合物ではあるが、化合物(1)とは異なる。この組成物の重合によっても共重合体が得られる。また、本発明の組成物(1)は、液晶性化合物、光学活性化合物、重合開始剤、溶媒、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加物をさらに含有してもよい。これらの添加物を、1)その他の重合性化合物、2)液晶性化合物、3)光学活性化合物、4)重合開始剤、5)溶媒、6)界面活性剤、7)酸化防止剤、8)紫外線吸収剤の順で説明する。
【0076】
1)その他の重合性化合物
組成物(1)は、その他の重合性化合物を含有してもよい。その他の重合性化合物としては、皮膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この化合物は、液晶性を有しない化合物と液晶性を有する化合物とに分類される。
【0077】
液晶性を有しないその他の重合性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体などが挙げられる。
【0078】
好ましいビニル誘導体としては、たとえば、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2−ジメチルブタン酸ビニル、2,2−ジメチルペンタン酸ビニル、2−メチル−2−ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2−エチル−2−メチルブタン酸ビニル、N−ビニルアセトアミド、p−t−ブチル安息香酸ビニル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t−アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、α、β−ビニルナフタレン、メチルビニルケトン、イソブチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0079】
好ましいスチレン誘導体としては、たとえば、スチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0080】
好ましい(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールA グリジジルジアクリレート(大阪有機化学株式会社製「ビスコート700」)、ポリエチレングリコールジアクリレートジメチルイタコネートなどが挙げられる。
【0081】
好ましいソルビン酸誘導体としては、たとえば、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸リチウム、ソルビン酸1−ナフチルメチルアンモニウム、ソルビン酸ベンジルアンモニウム、ソルビン酸ドデシルアンモニウム、ソルビン酸オクタデシルアンモニウム、ソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸イソプロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸t−ブチル、ソルビン酸ヘキシル、ソルビン酸オクチル、ソルビン酸オクタデシル、ソルビン酸シクロペンチル、ソルビン酸シクロヘキシル、ソルビン酸ビニル、ソルビン酸アリル、ソルビン酸プロパギルなどが挙げられる。

【0082】
好ましいフマル酸誘導体としては、たとえば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0083】
好ましいイタコン酸誘導体としては、たとえば、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジイソプロピルイタコネートなどが挙げられる。
この他、ブタジエン、イソプレン、マレイミド等、多くの重合性化合物を用いることができる。
【0084】
液晶性を有するその他の重合性化合物としては、官能基としてアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、フマロイルオキシ基、マレイミジル基、オキシラン環またはオキセタン環などを有する液晶性化合物であって、化合物(1)ではないものを挙げることができる。このような化合物は、組成物(1)の液晶相温度範囲を調製するために用いることもできる。これらのうち、液晶性アクリル酸誘導体は、透明で機械的強度の大きいポリマーを与えるので好ましい。前記液晶性アクリル酸誘導体を除く化合物においては、その重合に要する時間がアクリル酸誘導体より長い場合がある。しかしながら、これらの重合性化合物は、副生物の生成を抑制し、ポリマーの機械強度および熱安定性を向上させる点で有用である。
【0085】
本発明の重合体の特徴を維持し、かつ、上記のような共重合体の特徴を顕著に発現させるためには、化合物(1)以外の化合物に由来する構成単位を、好ましくは5〜95モル%、より好ましくは60〜95モル%の範囲で含有することが望ましい。液晶性を有する構成単位および液晶性を有さない構成単位については、前記範囲内で自由に変更することができ、これらの合計量が上述する範囲内であればよく、また、どちらか一方だけを含有していてもよい。
【0086】
上記液晶性を有するその他の重合性化合物としては、たとえば、下記式(BRM−1)〜(BRM−16)で表される化合物を挙げることができる。
【0087】
【化20】

【0088】
【化21】

【0089】
【化22】

【0090】
上記式(BRM−1)〜(BRM−16)において、P0はアクリロイルオキシ基、メ
タクリロイルオキシ基、フマロイルオキシ基、マレイミジル基、オキシラン環またはオキセタン環を含む重合性基を示し、γは0〜15を示し、δは0または1を示し、X0は、
炭素数1〜15のアルキルもしくはアルコキシ、ハロゲン、炭素数1〜3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、シアノまたは−O(CH2)γP0を示し、L1、L2、L3
よびL4は、独立に水素、ハロゲン、炭素数1〜15のアルキルもしくはアルコキシまた
は炭素数1〜3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシを示す。
【0091】
中でも特に好適な液晶性を有するその他の重合性化合物を、下記式(BRM−a−1)〜(BRM−a−11)および式(BRM−b−1)〜(BRM−b−13)に例示する。なお、同様な物性を有する液晶性化合物であれば、いずれも好適に使用できるので、この例示は本発明の組成物の構成を制限するものではない。
【0092】
【化23】

【0093】
【化24】

【0094】
【化25】

【0095】
【化26】

【0096】
2)液晶性化合物
組成物(1)は重合性基を有しない液晶性化合物を含有してもよい。このような非重合性の液晶性化合物の例は、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)等に記載されている。化合物(1)は、液晶相の広い温度範囲や他の液晶性化合物との良好な相溶性等の特性を有する。したがって、液晶性化合物を含有する組成物(1)は、液晶表示素子に封入される液晶組成物として用いることができる。このような組成物(1)は、二色性色素等の添加物をさらに含有してもよい。液晶性化合物を含有する組成物(1)を重合させることによって、化合物(1)の重合体と液晶性化合物との複合材料(composite materials)を得ることができる。
【0097】
3)光学活性化合物
組成物(1)は光学活性化合物を含有してもよい。光学活性を有する化合物(1)を適当量含有した組成物、または、光学活性でない化合物(1)に光学活性化合物を適当量添加して得られた組成物を、配向処理した基板上に塗布して重合することによって、らせん構造(ツイスト構造)を示す位相差フィルムが得られる。化合物(1)の重合によって、このらせん構造が固定される。得られた光学異方性体の特性は、得られたらせん構造のらせんピッチに依存する。このらせんピッチ長は、光学活性化合物の種類および添加量により調整できる。添加する光学活性化合物は1つでもよいが、らせんピッチの温度依存性を相殺する目的で複数の光学活性化合物を用いてもよい。なお、組成物(1)には、化合物(1)および光学活性化合物の他に、化合物(1)以外の重合性化合物が含まれてもよい。
【0098】
上記のような光学異方性体の特性である可視光の選択反射は、らせん構造が入射光に作用し、円偏光や楕円偏光を反射させるものである。選択反射特性はλ=n・Pitch(λは
選択反射中心波長、nは平均屈折率、Pitchはらせんピッチ)で表されるため、nまたはPitchによりλおよびその帯域(Δλ)を適宜調整することができる。色純度を良くするに
はΔλを小さくすればよいし、広帯域の反射を所望する際にはΔλを大きくすればよい。さらにこの選択反射はセル厚の影響も大きく受ける。色純度を保つためには、セル厚が小さくなりすぎないようにしなければならない。配向の均一性を保つためには、セル厚が大きくなりすぎないようにしなければならない。したがって、適度なセル厚の調整が必要であり、0.5〜25μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。
【0099】
らせんピッチを可視光よりさらに短くすることで、W. H. de Jeu, Physical Properties of Liquid Crystalline Materials, Gordon and Breach, New York(1980)に記載のネガティブ型cプレート(c−plate)を調製できる。らせんピッチを短くするためには、ねじり力(HTP:ヘリカル・ツイスティング・パワー)の大きな光学活性化合物を用い、さらにその添加量を増やすことで達成できる。具体的にはλを350nm以下、好ましくは200nm以下とすることで、ネガティブ型cプレートを調製できる。このネガティブ型cプレートは液晶表示素子のうちVAN型、VAC型、OCB型等の表示素子に適した光学補償膜となる。
【0100】
上記光学活性化合物は、らせん構造を誘起し、ベースとなる重合性液晶組成物と適切に混合できれば、いずれの光学活性化合物を用いてもよい。また、重合性化合物でも非重合性化合物のいずれでもよく、目的に応じて最適な化合物を添加することができる。耐熱性および耐溶媒性を考慮した場合、重合性化合物の方が好適である。さらに上記光学活性化合物は、ねじり力(HTP:ヘリカル・ツイスティング・パワー)が大きいものが、らせんピッチを短くする上で好適である。ねじり力の大きな化合物の代表例が、GB2298202号公報、DE10221751号公報で開示されている。
【0101】
上記光学活性化合物としては、たとえば、下記に示す光学活性化合物(Op−1)〜(Op−19)が好適であり、化合物(Op−14)〜(Op−19)が特に好適である。式中、Rcは重合性もしくは非重合性の炭素数1〜10のアルキルもしくはアルコキシを
示し、鎖末端のCH3基は−OCOCH=CH2で置換されてもよい。また、複数のRc
同一でも異なってもよい。*が付与された炭素は不斉炭素である。
【0102】
【化27】

【0103】
【化28】

【0104】
4)重合開始剤
組成物(1)は重合開始剤を含有してもよい。光ラジカル重合用の好ましい開始剤としては、たとえば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(商品名:ダロキュアー1173)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:イルガキュアー184)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名:イルガキュアー651)、イルガキュアー500(商品名)、イルガキュアー2959(商品名)、イルガキュアー907(商品名)、イルガキュアー369(商品名)、イルガキュアー1300(商品名)、イルガキュアー819(商品名)、イルガキュアー1700(商品名)、イルガキュアー1800(商品名)、イルガキュアー1850(商品名)、ダロキュアー4265(商品名)、イルガキュアー784(商品名)、p−メトキシフェニル−2,4−ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−5−トリクロロメチル−1,3,4−オキサジアゾール、9−フェニルアクリジン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、2,4−ジエチルキサントン/p−ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物などが挙げられる。
【0105】
熱ラジカル重合用の好ましい開始剤としては、たとえば、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキシド(DTBPO)、t−ブチルパーオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(ACN)などが挙げられる。
【0106】
アニオン重合、配位重合およびリビング重合用の好ましい開始剤としては、たとえば、n−C49Li、t−C49Li−R3Al等のアルカリ金属アルキル、アルミニウム化
合物、遷移金属化合物などが挙げられる。
【0107】
5)溶媒
組成物(1)は溶媒を含有してもよい。組成物(1)の重合は溶媒中で行なってもよいし、無溶媒で行なってもよい。また、配向膜、反射防止膜、視野角補償膜などの製造を光重合によって行う場合には、溶媒を含有する組成物(1)を基板上に塗布し、溶媒を除去した後、光を照射して重合させてもよい。
【0108】
好ましい溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、PGMEAなどが挙げられる。溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0109】
基板上への組成物のコーティングには公知のコーター(ドクター・ブレード、コーティング装置等)を用いることができる。なお、重合時の溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がない。重合効率、溶剤コスト、エネルギーコスト等を考慮して、個々のケースごとに決定されればよい。
【0110】
6)界面活性剤
組成物(1)は界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、組成物を支持基板などに塗布するのを容易にし、液晶相の配向を制御するといった効果を有する。好ましい界面活性剤としては、たとえば、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。界面活性剤の量は、界面活性剤の種類、組成物の組成比などにより異なるが、組成物(1)全体(溶媒を除く)の重量に対して100ppm〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%の範囲である。
【0111】
7)酸化防止剤
組成物(1)は酸化防止剤を含有してもよい。組成物(1)は高い重合性を有するため、酸化防止剤は取扱いを容易にする。好ましい酸化防止剤としては、たとえば、ヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、トリフェニルフォスファイト、トリアルキルフォスファイトなどが挙げられ、好ましい市販品としては、チバスペシャリティー社製「イルガノックス245」、「イルガノックス1035」などが挙げられる。
【0112】
8)紫外線吸収剤
組成物(1)は紫外線吸収剤を含有してもよい。組成物(1)は高い重合性を有するため、紫外線吸収剤により保存安定性が向上する。好ましい紫外線吸収剤としては、たとえば、チバスペシャリティー社製「チヌビンPS」、「チヌビン213」、「チヌビン109」、「チヌビン328」、「チヌビン384−2」、「チヌビン327」などが挙げられる。
【0113】
〔重合体〕
本発明の重合体は、少なくとも1つの化合物(1)を含有する組成物(1)を重合させることによって得られる。この重合体を重合体(1)と表記する。本発明の重合体(1)は、良好な光学異方性、高い透明性、良好な化学的安定性、良好な耐熱性、低い吸水性、低いガス透過度、良好な硬度、良好な機械的強度等の特性を有する。なお、前記機械的強度は、ヤング率、引っ張り強度、引き裂き強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度等である。重合体(1)は、化合物(1)に由来する構成単位を有する。
【0114】
重合の種類は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合等である。好ましい反応温度は0〜150℃の範囲であり、好ましい反応時間は1〜100時間である。得られる重合体の種類は、単独重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等である。用途に適した重合法および重合体を選択するのが好ましい。
【0115】
重合体(1)は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂である。熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは500〜1,000,000、さらに好ましくは1,000〜500,000、特に好ましくは5,000〜100,000の範囲である。このような重合体(1)は溶媒に可溶であるので、用途に適した形状に成形するのが容易である。熱可塑性樹脂を得るには、化合物(1)単独で、または、化合物(1)と片末端に重合性基を有するその他の重合性化合物とを用いるのがよい。一方、その他の重合性化合物として、両末端に重合性基を有する化合物を用いたときは、熱硬化性樹脂が得られやすい。熱硬化性樹脂は三次元の架橋構造を有する。このような重合体(1)は溶媒に不溶であるので、分子量を測定することができない。基板上に本発明の組成物を塗布重合し、分子の配向を固定して光学異方性を得る場合、さらに加工を施すことがないので、分子量の大小は問題とならず、使用環境において条件を満足すればよい。
【0116】
より分子量を上げるために、架橋剤を添加してもよい。架橋剤を添加することにより、得られる重合体の分子量は無限大となり、耐薬品性および耐熱性に極めて優れた重合体を得ることが可能である。架橋剤としては、当該業者に公知のものであればいずれのものでも使用できるが、たとえば、トリス(3−メルカプトプロピオネート)などが挙げられる。
【0117】
本発明の重合体(1)は、フィルム、繊維、成形体等の形状で使用することができる。好ましい形状はフィルムである。フィルムは、組成物(1)を基板に塗布し、重合させる方法、重合体(1)の溶液を配向させた基板に塗布し、溶媒を除去する方法、重合体(1)をプレス成形する方法などによって得られる。重合体の厚さは、重合体の光学異方性の値および用途によって異なるため、その範囲を厳密に決定することはできないが、たとえば、厚さは0.05〜50μm、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜10μmの範囲である。
【0118】
基板上に光学異方性薄膜を形成する場合、基板として、当業者に公知のものであればいずれの基板も好適に使用できる。例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカーボナート(PC)、ト
リアセチルセルロース(TAC)およびノルボルネン系重合物などが挙げられる。市販品としては、たとえば、ゼオン社製「ゼオノア」(登録商標)、「ゼオネックス」(登録商標)、JSR製「アートン」(登録商標)などが挙げられる。本発明の重合体(1)はこれらの基板との密着性に優れ好適である。
【0119】
本発明における配向の分類としては、ホモジニアス(homogeneous;平行)、ホメオト
ロピック(homeotropic;垂直)、ハイブリッド(hybrid)、チルト(tilt)、ツイスト
(twist)などが挙げられる。ホモジニアス配向は、配向ベクトルが基板に平行で、かつ
一方向にある状態をいう。ホメオトロピック配向は、配向ベクトルが基板に垂直である状態をいう。ハイブリッド配向は、配向ベクトルが基板から離れるにしたがって、平行から垂直に立ちあがっている状態をいう。チルト配向は、配向ベクトルが基板に対して、一定の傾き角で起きあがっている状態をいう。これらの配向は、ネマチック相などを有する化合物、組成物で観察される。一方、ツイスト配向は、キラルなネマチック相、コレステリック相などを有する組成物で観察される。ツイスト配向は、配向ベクトルが基板に平行ではあるが、基板から離れるにしたがって、漸次ねじれている状態をいう。このねじれは光学活性な基の作用などによって生じる。
【0120】
基板上での組成物(1)の配向は、たとえば、基板上に塗布した配向膜をラビング処理し、その上に組成物(1)を塗布することにより得ることができる。配向を制御できるものであれば、当業者にとって公知の配向膜のいずれを用いても目的を達成できるが、ポリイミド、ポリアミドおよびポリビニルアルコール系配向膜が好適である。また、基板自体をラビング布等でラビングした後、直接組成物(1)を塗布することによっても配向を得ることができる。ホメオトロピック配向などでは、ラビングを必ずしも必要としない場合もある。配向した組成物は、光照射等で重合して光学異方性体を与えるので工業的に有利な手法である。
【0121】
重合体(1)は、分子配列が固定化されることによって光学異方性を有する。このような重合体を光学異方性体ともいう。また、化合物(1)が光学活性であるとき、重合体(1)は固定化されたらせん構造(helical structure)を有する。化合物(1)が光学的
に不活性であるときには、この組成物に光学活性化合物を添加することによって、固定化されたらせん構造を有する重合体(1)を得ることができる。
【0122】
分子配列およびらせん構造の両方が固定化された重合体(1)は、位相差膜、偏光素子、円偏光素子、楕円偏光素子、反射防止膜、選択反射膜、色補償膜、視野角補償膜、液晶配向膜等の用途に適している。分子配列が固定化された重合体(1)は、位相差膜、円偏光素子、楕円偏光素子、選択反射膜、色補償膜、視野角補償膜等の用途に適している。らせん構造が固定化された重合体(1)は、反射防止膜、色補償膜等に適している。分子配列およびらせん構造の両方が固定化されていない重合体(1)は、反射防止膜、液晶配向膜等に適している。また、いずれの場合においても、接着剤、機械的異方性を持つ合成高分子、化粧品、装飾品、非線型光学材料および情報記憶材料等としても利用できる。
【0123】
分子配列を固定化したり、らせん構造を固定化するには熱重合や光重合が適している。熱重合はラジカル重合開始剤の存在下で行なうことが好ましい。光重合は光ラジカル重合開始剤の存在下で行なうことが好ましい。例えば、光ラジカル重合開始剤の存在下、紫外線または電子線等を照射する重合法によって、分子が偏光の方向に配列した重合体が得られる。このような重合体は、ラビング処理をしなくても液晶配向膜等に使用できる。
【0124】
位相差膜は、光学活性な化合物(1)を含有する組成物を重合することによって得られる。位相差膜は、光学的に不活性な化合物(1)および適当量の光学活性化合物を含有する組成物を重合することによっても得られる。これらの組成物は光学活性であるので、ら
せん構造を有する。配向処理をした基板上でこれらの組成物を重合するとき、らせん構造および分子配列が固定された重合体が得られる。位相差膜の特性は、らせん構造におけるピッチに依存する。このらせんピッチは、光学活性化合物の種類および添加量により調整できる。この添加量は、組成物全体(溶媒を除く)に対して、通常0.01〜50重量%、好ましくは1〜30重量%である。光学活性化合物は1つでもよいが、らせんピッチの温度依存性を相殺する目的で複数の光学活性化合物を添加してもよい。
【0125】
単離した重合体は、溶媒に溶かしてフィルム等に加工することができ、2種の重合体を混合して加工してもよく、重合体を積層させてもよい。好ましい溶媒としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、ビス(メトキシエチル)エーテル、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸エチル、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶媒は、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、塩化メチレンなどの一般的な有機溶媒と混合して用いてもよい。
【0126】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0127】
化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル、赤外吸収スペクトル、質量スペクトル等で確認した。相転移温度の単位は℃であり、Cは結晶を、Nはネマチック相を、Iは等方性液体相を示す。以下に、物性値の測定法を示す。
【0128】
(1)らせんピッチ(helical pitch)
下記の組成物(M−1)99重量部に、試料化合物1重量部を溶解した組成物を調製し、カノ(Cano)のくさび法(応用物理、1974, 43, 125)に準じ、25℃で測定した。
【0129】
【化29】

【0130】
(2)重量平均分子量および数平均分子量
島津製作所製「島津LC−9A型ゲル浸透クロマトグラフ」および昭和電工製「カラムShodex GF−7M HQ」を用いて、展開溶媒はDMFで測定した。
【0131】
(3)鉛筆硬度
JIS規格「JIS-K-5400 8.4 鉛筆引掻試験」の方法に従って測定した。
(4)機械的強度等の特性は、JIS規格等の方法に基づいて測定した。
【0132】
〔実施例1〕
下記に示す化合物(c−1)を以下のようにして合成した。
【0133】
【化30】

【0134】
<第1段>
上記化合物(ex1−1)25mmol、2−ベンジルオキシエタノール27mmolおよび4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)7mmolを、ジクロロメタン75mLに加え、窒素雰囲気下で撹拌した。そこへ、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)27mmolのジクロロメタン25mL溶液を滴下した。滴下後、室温で10時間撹拌した。析出した沈殿物を濾別し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶剤を留去し、残査をカラムクロマトグラフィーで精製し、エタノールから再結晶することにより、上記化合物(ex1−2)18mmolを得た。
【0135】
<第2段>
上記化合物(ex1−2)18mmolと5%−Pd/C 0.5gとを酢酸エチルに加え、水素雰囲気下、室温で5時間撹拌した。Pd/Cを除去後、ヘプタンから再結晶することにより化合物(ex1−3)15mmolを得た。
【0136】
<第3段>
窒素雰囲気下、化合物(ex1−3)15mmolのN,N−ジメチルホルミアミド(DMF)45mL溶液を−20℃に冷却した。そこへ、α−フルオロアクリル酸フルオリド45mmolのDMF20mL溶液を滴下した。室温で18時間攪拌し、水を加え、トルエンで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶剤を留去し、残査をカラムクロマトグラフィーおよびエタノールからの再結晶で精製し、目的の化合物(c−1)11mmolを得た。
【0137】
化合物(c−1)の相転移温度、NMR測定データおよび融点は以下のとおりである。相転移温度:C 89.8 N 96.4 I
1H−NMR(CDCl3):1.00(t,6H)、1.48−1.57(m,4H)、1.79−1.85(m,4H)、4.04−4.08(m,4H)、4.26−4.29(m,2H)、4.43−4.46(m,2H)、5.33(d,d,1H)5.66(d,d,1H)、6.98(d,4H)、7.28(d,1H)、7.49(d,d,1H)、7.92(d,1H)、8.15(d,4H)
19F−NMR(CDCl3):−117.73(d、d,1F)。
【0138】
〔実施例2〕
実施例1で製造した化合物(c−1)25重量部と、1,4−ビス(4−(6−アクリロイルオキシヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ)ベンゼン45重量部と、4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)シアノベンゼン27重量部とからなる組成物に、光重合開始剤イルガキュアー907(チバスペシャリティー・ケミカルズ製)3重量部を添加した。この光重合開始剤を含む重合性組成物100重量部を、シクロペンタノン200重量部に溶解して約33重量%濃度の溶液を調製した。この溶液をラビング処理したポリイミド配向膜を有するガラス基板に、バーコーターを用いて溶液の厚さが約12μmとなるように調整して塗布した。次いで、このガラス基板を70℃に加熱したホットプレート上に120秒間置いて溶媒を蒸発させた。この操作によって、分子配向が固定されたと思われる。
【0139】
次に、窒素雰囲気下、ホットプレートで70℃に加熱しながら、250Wの超高圧水銀灯を用いて、30mW/cm2(中心波長365nm)の強度の光を20秒間照射して重
合させた。得られた膜は、偏光顕微鏡クロスニコル下において、ポーラライザー、アナライザーを時計回りに回転させたところ、45°おきに明暗が反転したことから、ホモジニアス配向していることが確認された。
【0140】
〔実施例3〕
実施例1で製造した化合物(c−1)10 mg、重合開始剤としてアゾビスシクロヘ
キサンカルボニトリル0.1 mg、およびベンゼン100μLをガラスのアンプルに入
れた。これを−60℃に冷却して、真空ポンプで十分脱気した後に封管した。このアンプルを110℃で24時間加熱した。得られた反応混合物を、メタノール15 mLから3
回再沈殿して重合体6.8 mgを得た。
【0141】
得られた重合体は、GPCで測定した重量平均分子量(MW)が25,000であり、多分散度(Mw/Mn)が2.01であった。重合体1.378mgを純水1mLに浸し10日間50℃で放置した後、重合体を取り出し、よく乾燥して重量を測定したところ1.385mgであった。このことから、得られた重合体の吸水率が低いことが確認された。
【0142】
〔実施例4〕
実施例3で製造した重合体5重量部をNMP100重量部に溶解した。この溶液を予め十分に洗浄した2枚のガラス基板それぞれにスピンコーターを用いて塗布した。これらのガラス基板を200℃で3時間加熱し、溶媒を除去することにより、ガラス基板上に重合体の薄膜を形成した。これらのガラス基板上に形成された重合体の薄膜の表面を、ラビング布を装着したローラーで一方向に擦りラビング処理を施した。この2枚のガラス基板を重合体の薄膜が対面する向きで、厚み10 μmスペーサーを挟んでラビング方向が同一
になるように貼り合せてセルを作成した。このセルにメルク社製の液晶組成物「ZLI−1132」(商品名)を室温で注入した。液晶セル中の液晶組成物は均一なホモジニアス配向を示した。
【0143】
〔組成例〕
本発明の化合物(1)を用いて調製できる組成物の好適例を、組成例1〜組成例6として以下に示す。いずれもUV光の照射により重合し、光学異方性を有する重合体を与える。下記における(%)は重量%を表す。
【0144】
<組成例1>
【0145】
【化31】

【0146】
<組成例2>
【0147】
【化32】

【0148】
<組成例3>
【0149】
【化33】

【0150】
<組成例4>
【0151】
【化34】

【0152】
<組成例5>
【0153】
【化35】

【0154】
<組成例6>
【0155】
【化36】

【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の組成物は、液晶表示素子用の液晶組成物などとしての利用可能性を有する。また、本発明の重合体は、たとえば、位相差膜(retardation film)、偏光素子(polarizing element)、円偏光素子(circularly polarized light element)、楕円偏光素子(elliptically polarized light element)、反射防止膜(anti-reflection film)、選択反射膜(selective reflection film)、色補償膜(color compensator)、視野角補償膜(viewing angle compensator)、液晶配向膜(liquid crystal alignment film)、接着剤などへの利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

[式(1)中、
aは、独立に水素、ハロゲン、シアノ、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF3
−OCF2H、−N=C=O、−N=C=Sまたは炭素数1〜20のアルキルであり、該
アルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、−S−、−SO2−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
bはフッ素または−CF3であり;
Aは、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイルまたはビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジイルであり、これらの環において、任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよく、任意の−CH
=は−N=で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲン、炭素数1〜5のアルキルまたは炭素数1〜5のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく;
Zは、独立に単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−
、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
Yは単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−または−CH=CH−で置
き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
mおよびnは、それぞれ0〜5の整数である。]
【請求項2】
前記式(1)中、m+nが1〜3の整数である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1)中、m+nが2である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記式(1)中、Raが非重合性基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
前記式(1)中、
aが、独立に炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のアルコキシまたは炭素数2
〜10のアルケニルであり、これらの任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;
Aが、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルまたはピリミジン−2,5−ジイルであり、これらの任意の水素は、塩素、フッ素、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のフルオロアルキルで置き換えられてもよく;
Zが、独立に単結合、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−または−C≡C−であり;
Yが単結合または炭素数1〜10を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて任意
の−CH2−は−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよい請求項1〜
4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
下記式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物。
【化2】

[式(I)〜(III)中、
aは、独立に水素、ハロゲン、シアノ、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF3
−OCF2H、−N=C=O、−N=C=Sまたは炭素数1〜20のアルキルであり、該
アルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、−S−、−SO2−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
bはフッ素または−CF3であり;
Aは、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイルまたはビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジイルであり、これらの環において、任意の−CH2−は−O−で置き換えられてもよく、任意の−CH
=は−N=で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲン、炭素数1〜5のアルキルまたは炭素数1〜5のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく;
Zは、独立に単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−
、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
Yは単結合または炭素数1〜20を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−、−OCO−または−CH=CH−で置
き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよい。]
【請求項7】
前記式(I)〜(III)中、Raが非重合性基である請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記式(I)〜(III)中、
aが、独立に炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のアルコキシまたは炭素数2
〜10のアルケニルであり、これらの任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;
Aが、独立に1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルまたはピリミジン−2,5−ジイルであり、これらの任意の水素は、塩素、フッ素、炭素数1〜3のアルキルまたは炭素数1〜3のフルオロアルキルで置き換えられてもよく;
Zが、独立に単結合、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−または−C≡C−であり;
Yが単結合または炭素数1〜10を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて任意の−CH2−は−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよい請求項6に
記載の化合物。
【請求項9】
前記式(I)〜(III)中、
aが、独立に炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数1〜10のアルコキシであり;
Aが、独立に1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;
Zが、独立に単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−(CH22COO−、−OCO(CH22−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−または−C≡C−であり;
Yが単結合または炭素数1〜10を有するアルキレンであり、該アルキレンにおいて環に隣接する−CH2−が−O−、−COO−または−OCO−で置き換えられてもよい請求
項6に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を少なくとも1種含有する組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物とは異なる重合性化合物をさらに含有する請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物とは異なる重合性の光学活性化合物をさらに含有する請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
非重合性の液晶性化合物をさらに含有する請求項10〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
非重合性の光学活性化合物をさらに含有する請求項10〜13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
重合開始剤をさらに含有する請求項10〜14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
溶媒をさらに含有する請求項10〜15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれかに記載の組成物を重合させることにより得られる重合体。
【請求項18】
重量平均分子量が500〜1,000,000である請求項17に記載の重合体。
【請求項19】
重量平均分子量が1,000〜500,000である請求項17に記載の重合体。
【請求項20】
光学活性化合物である請求項17〜19のいずれかに記載の重合体。
【請求項21】
請求項17〜20のいずれかに記載の重合体を含むフィルム。
【請求項22】
請求項17〜20のいずれかに記載の重合体を含む光学異方性を有する成形体。
【請求項23】
請求項10〜16のいずれかに記載の組成物、請求項17〜20のいずれかに記載の重合体、請求項21に記載のフィルム、または、請求項22に記載の光学異方性を有する成形体を含む液晶表示素子。

【公開番号】特開2007−182423(P2007−182423A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288804(P2006−288804)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】