説明

光ファイバ製造方法

【課題】押し出し成型法以外の方法によってエアクラッド型光ファイバを製造する方法の提供。
【解決手段】中空ガラスファイバの中央にその軸方向に延びる光伝送ガラスが保持されている光ファイバの製造方法であって、中心軸の周りにその軸方向に延びる3個以上の直径が互いに等しい孔11が、各孔の軸と前記中心軸との距離が等しくなるように、また各孔の軸間の距離が等しくなるように、かつこれら孔によって囲まれている部分が前記光伝送ガラスとなるべき部分となるように形成されているガラスロッド10を、その一端を封じて前記孔を膨張させるように加圧しながら加熱して引き伸ばす工程を経て、前記各孔の間のガラスが板状であるプリフォームとし、このプリフォームを線引きして、前記光伝送ガラスが板状ガラスによって保持されている光ファイバとする光ファイバ製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空ガラスファイバの中空部中央に軸方向に延びる光伝送ガラスが保持されている光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソリトン自己周波数シフト効果を有しパルス圧縮が可能な異常分散高非線形性鉛ケイ酸塩ホーリーファイバが開示されている(非特許文献1参照)。
【0003】
このホーリーファイバは中空ガラスファイバの中空部中央に軸方向に延びる光伝送ガラス(直径:約1.7μm)が3個の板状ガラス(直径方向の長さは約5.5μm、厚みは250nm以下)で保持されている光ファイバであり、押し出し成型法によって作製され、波長1550nmでの非線形係数は640W−1km−1であると報告されている。なお、中空部は前記3個の板状ガラスで仕切られ、中空部の直径は約12.7μm(=1.7μm+5.5μm×2)である。
【0004】
【非特許文献1】P.Petropoulos他、‘Soliton−self−freqency−shift effects and pulse compression in an anomalously dispersive high nonlinearity lead silicate holey fiber’,OFC2003,2003,PD3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1で開示されている光ファイバは中空ガラスファイバの中央にその軸方向に延びる光伝送ガラスが板状ガラスによって保持されているもの(以下、このような光ファイバをエアクラッド型光ファイバということがある。)であり、非線形係数の大きいものが得られる。
【0006】
しかし、エアクラッド型光ファイバを押し出し成型法によって作製しようとすると、成型時にガラスが結晶化しやすくなる、成型金型が空孔を形成するガラス表面に接触するのでその表面に傷がつきまたはその表面部分のガラスが還元されるなどして伝播損失が大きくなるまたは光ファイバの強度が低下するおそれがある、作製された光ファイバのうち設計通りの構造を有する部分の割合を大きくするのが容易ではない、などの問題の発生が懸念される。
本発明は、押し出し成型法以外の方法によってエアクラッド型光ファイバを製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、中空ガラスファイバの中央にその軸方向に延びる光伝送ガラスが保持されている光ファイバの製造方法であって、中心軸の周りにその軸方向に延びる3個以上の直径が互いに等しい孔が、各孔の軸と前記中心軸との距離が等しくなるように、また各孔の軸間の距離が等しくなるように、かつこれら孔によって囲まれている部分が前記光伝送ガラスとなるべき部分となるように形成されているガラスロッドを、その一端を封じて前記孔を膨張させるように加圧しながら加熱して引き伸ばす工程を経て、前記各孔の間のガラスが板状であるプリフォームとし、このプリフォームを線引きして、前記光伝送ガラスが板状ガラスによって保持されている光ファイバとする光ファイバ製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、押し出し成型法を用いることなくエアクラッド型光ファイバを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るエアクラッド型光ファイバは、その波長1550nmの光に対する非線形係数(γ)が470W−1km−1以上であることが好ましい。470W−1km−1未満では、非線形性を大きくしようとするとファイバ長が長くなり、温度変動、振動等の外乱の影響を受けやすくなる。より好ましくは625W−1km−1以上である。
また、同じ光に対する群速度分散の絶対値(D)は50ps/nm/km以下であることが好ましい。50ps/nm/km超では位相整合条件を満たす波長帯域が小さくなるおそれがある。より好ましくは10ps/nm/km以下である。
【0010】
図3はエアクラッド型光ファイバの1例の横断面の概念図である。
図3に例示するエアクラッド型光ファイバ30は、6個の空孔31、光伝送ガラス32、中空ガラスファイバ33および板状ガラス34からなる。
中空ガラスファイバ33の中空部はその軸方向(紙面に垂直の方向)に延びる6個の空孔31からなり、隣り合う空孔31同士はそれらの間に存在する板状ガラス34によって仕切られている。
【0011】
空孔31の数は6個に限定されないが、3個以上であることが好ましい。2個ではエアクラッド型光ファイバにおける光の閉じ込めが不十分になるおそれがある。また、その数は好ましくは12個以下、より好ましくは9個以下である。
【0012】
光伝送ガラス32は1種類のガラスからなるものであってもよいし、横断面における境界が同心円状である2種類以上のガラスからなるものであってもよい。
前者の場合、光伝送ガラス32は光ファイバ30のコアそのものである。
後者の場合の例としては、光伝送ガラス32が内部の高屈折率ガラスとそれを取り囲む低屈折率ガラスからなるものなど、その中央に屈折率がより高い部分を有するものが挙げられる。光伝送ガラス32をこのような構造とすることにより前記γやDを調整すること、または、この光ファイバと石英ファイバとを融着接続する際に導波路構造が消失したり接続損失が大きくなることを防止もしくは抑制することが可能になる。
【0013】
中空ガラスファイバ33は、空孔31によって形成される中空部の中央に板状ガラス34を介して光伝送ガラス32を保持するものであり、そのガラス内部を光が伝播することは予定されていない。
【0014】
板状ガラス34は光伝送ガラス32を中空部中央に保持するものであり、その厚みは好ましくは0.05〜1.5μmである。0.05μm未満では光ファイバ30を切断したときに板状ガラス34が破損し光伝送ガラス32を保持できなくなるおそれがある。典型的には0.1μm以上である。1.5μm超では光伝送ガラス32から板状ガラス34への光の漏れが大きくなって光の閉じ込めが不十分になるおそれがある。好ましくは0.5μm以下である。
【0015】
空孔31は光伝送ガラス32、中空ガラスファイバ33および板状ガラス34によって画されているが、少なくとも光伝送ガラス32の空孔31と接する部分、中空ガラスファイバ33の空孔31と接する部分および板状ガラス34は同一組成のガラスからなる。
【0016】
板状ガラス34は、下記酸化物基準のモル%表示で、Bi 40〜75%、B 12〜45%、Ga 1〜20%、In 1〜20%、ZnO 0〜20%、BaO 0〜15%、SiO+Al+GeO 0〜15%、MgO+CaO+SrO 0〜15%、SnO+TeO+TiO+ZrO+Ta+Y+WO 0〜10%、CeO 0〜5%、から本質的になり、Ga+In+ZnOが5%以上であるガラスであることが好ましく、光伝送ガラス32についても同様である。なお、上記ガラスにおいてBiは45〜75%が典型的である。
光伝送ガラス32がこのようなガラスでないと、γを大きくし、Dを小さくすることが困難になるおそれがある。
【0017】
光伝送ガラス32の横断面の内接円の直径(d)は通常0.2〜10μmであり、典型的には0.5〜4μmである。
中空ガラスファイバ33の中空部の横断面の外接円の直径(d’)は、(1+21/2)d以上であることが好ましい。(1+21/2)d未満では光の閉じ込めが不十分になり伝播損失が大きくなるおそれがある。より好ましくは3d以上、特に好ましくは4d以上である。一方、d’は16d以下であることが好ましい。16d超では、光ファイバ30の強度が低下する、空孔31に異物が混入しやすくなる、光ファイバ30を切断しようとしたときに板状ガラス34を破壊するおそれがある、などの問題の発生が懸念される。
【0018】
中空ガラスファイバ33の外径は、光ファイバ30をITU−T勧告G.652で標準化された石英光ファイバ(SMF)と融着する場合、125±2μmであることが好ましい。
【0019】
次に、図1、2を用いて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されない。
図1は、中心軸の周りにその軸方向に延びる6個の直径が互いに等しい孔11が、各孔の軸と前記中心軸との距離が等しくなるように、また各孔の軸間の距離が等しくなるように、かつこれら孔によって囲まれている部分が光伝送ガラス32となるべき部分となるように形成されているガラスロッド10の平面図および側面図である。
なお、平面図では前記中心軸を中心とする円を点線で示し、その円の上に6個の孔11の各軸が等間隔で並んでいることを示す。
ガラスロッド10は、ドリル、超音波加工機などを用いて所定の数の孔が軸方向に貫通して形成されたガラス棒を加熱延伸するなどして作製される。
【0020】
図2は、ガラスロッド10の一端を封じて6個の孔11を膨張させるように加圧しながら加熱して引き伸ばす工程を説明するための概略図である。
一端が封止部10Aによって封じられているガラスロッド10を、その封止部10Aを下にしてガラス管20の中に入れ、その後ガラス管20の下端を封止部20Aによって封じる。
【0021】
次に、ガラスロッド10とガラス管20の間の空間を減圧し、かつ孔11を加圧して膨張させるようにしながらガラス管20を加熱延伸し、ガラスロッド10とガラス管20を融着しガラスロッド10−1(図示せず)とする。このガラスロッド10−1の製造方法はロッドインチューブ法の一種と言えるが、孔11を加圧して膨張させる点で通常のロッドインチューブ法とは異なる。
ガラスロッド10−1の断面には加熱延伸されたガラスロッド10の外周の痕跡が認められるがその外周痕跡の直径と加熱延伸される前のガラスロッド10の直径の比の二乗すなわち面積縮尺率αは1未満であるが、本発明でいう「孔11を加圧して膨張させる」とは、孔11のガラスロッド横断面方向面積の縮尺率を前記αで除して得られるβが1よりも大きいことをいう。
このガラスロッド10−1の製造方法はロッドインチューブ法の一種と言えるが、孔11を加圧して膨張させる点で通常のロッドインチューブ法とは異なる。
【0022】
ガラス管20の加熱延伸は、ガラスの粘度が104.5〜109.5ポアズとなる温度で行うことが典型的である。
孔11を加圧する際の圧力は適切に選ばれるべきであるが、典型的には1〜100kPaであり、また、加熱延伸中に圧力は一定である必要はなく、延伸中に次第に減少していくガラスロッド10未延伸部分の熱容量がガラスの粘性に与える影響を考慮に入れて適切に変化させてもよい。
【0023】
ガラスロッド10とガラス管20の間の空間の減圧は−100〜−1kPaで行うことが好ましい。−100kPa未満ではガラスロッド10−1が変形し、光の導波路が歪むまたは偏心するおそれがある。−1kPa超ではガラスロッド10とガラス管20の融着が困難になるおそれがある。典型的には−10kPa以下である。
【0024】
ガラスロッド10−1の光伝送ガラス32となるべき部分の横断面内接円直径が所望の値になっていない場合、または、円周方向に隣り合う孔の間に存在するガラスが所望の厚みの板状になっていない場合には、上記ガラスロッド10−1の製造方法をガラスロッド10−1に適用してガラスロッド10−2とし、なお所望のプリフォームが得られない場合にはこれを繰り返す。
【0025】
所望のプリフォームとはそれを線引きして製造されるべき光ファイバの形状、寸法などから決められるべきものであるが、光ファイバの外径が125μm、dが0.2〜10μm、板状ガラスの厚みが0.05〜1.5μmである場合には、プリフォームの外径をDとして前記横断面内接円直径が0.0016D〜0.08D、円周方向に隣り合う孔の間に存在するガラスが板状であってその厚みが0.0004D〜0.012Dであることが好ましい。なお、Dは典型的には1〜30mmである。
【0026】
このようにして得られたプリフォームは通常、次のようにして線引きされ光ファイバとされる。
まず、光ファイバの強度信頼性向上を目的としてプリフォームのエッチングおよび洗浄を行う。
エッチングはガラス表層から1μm以上にわたるように行うことが好ましい。1μm未満ではプリフォーム作製時に生成した傷を除去することが困難である。より好ましくは2μm以上である。
【0027】
エッチングまたは洗浄を行う際には、プリフォームの孔にエッチング液または洗浄液が入ることを防止するためにプリフォームの両端を封止した上で行うことが好ましい。
封止は、たとえば先球を作製する方法によって行えばよい。すなわち、プリフォームを回転させながらその端面をバーナーに近づけて溶融させ、表面張力によってその端面を丸める。
【0028】
エッチング後、すぐに純水でリンスし、乾燥する。
乾燥後、プリフォームの片端の封止を外し、封止を外した端面を上にして線引き治具に装着し、線引きを行う。
【0029】
線引きを行うに際して、プリフォームの孔が表面張力の影響で潰れてしまうのを防ぐために孔の大きさに応じてプリフォームの孔を加圧することが好ましい場合がある。
すなわち、プリフォームの孔の断面積sが1mm超であれば、加圧する必要はないが加圧してもよい。加圧する場合はその圧力Pは10kPa以下であることが好ましい。10kPa超では線引き時にファイバの線径が乱れる、孔が膨張しすぎる等のおそれがある。
sが0.2mm<s<1mmである場合、加圧は必須ではないが、ファイバ構造を精密に設計通りに作製したい場合には加圧することが好ましい。加圧する場合、Pは60kPa以下であることが好ましい。60kPa超では線引き時にファイバの線径が乱れる、空孔が膨張しすぎる等のおそれがある。好ましくは20kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下である。
sが0.2mm以下である場合、加圧することが好ましいまたは必須である。Pは、1〜60kPaであることが好ましい。1kPa未満では孔が潰れるおそれがある。60kPa超では線引き時にファイバの線径が乱れる、空孔が膨張しすぎる等のおそれがある。より好ましくは20kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下である。
【0030】
線引き速度は、線引き炉の加熱温度、プリフォームの外径、プリフォームの母材送り速度、線引き後の光ファイバの外径などによって適切に決定されるべきであるが、通常は3〜30m/minである。3m/min未満では、母材送り速度が遅くなってプリフォームが高温に保持される時間が長くなり、ガラスが結晶化しやすくなる。30m/min超では、プリフォームの高温に保持される時間が短くなってガラスの粘度が大きくなり、線引き途中で断線するおそれが生じる。
【実施例】
【0031】
(例1)
モル%表示の組成が、Bi 53.23%、B 27.61%、Ga 8.96%、In 1%、ZnO 4.48%、BaO 4.23%、CeO 0.5%、であるガラスが得られるように原料を調合、混合して250gの調合原料を作製した。この調合原料を白金ルツボに入れ大気雰囲気中で1000℃に2時間保持して溶解し、得られた溶融ガラスを板状に流し出し、引続き370℃に4時間保持後常温まで冷却する徐冷を行った。
【0032】
このようにして得られたガラスから厚み1mm、大きさ20mm×20mmのガラス板を作製し、その両面を鏡面研磨して得られたサンプル板について、波長1550nmの光に対する屈折率をメトリコン社製モデル2010プリズムカプラを用いて測定したところ2.111であった。
【0033】
また、前記ガラスから斜辺が40mm、短辺が20mm、斜辺と短辺の間の角度が60°である厚み10mmの直角三角形のプリズムを作製し、斜辺面と長辺面を鏡面研磨したサンプルブロックについて、次のようにしてガラスの材料分散D(単位:ps/nm/km)を算出した。すなわち、サンプルブロックの波長(λ)492〜1710nmにおける屈折率nλを、カルニュー光学工業社製精密屈折率測定装置GMR−1を用いて最小偏角法により求めた。このnλを(1)式のセルマイヤーの多項式にフィッテングさせ、フィッテングパラメータp、p、pおよびpを決めた。
λ=p+p・λ/(λ−p)+p・λ (1)
(1)式で表されるnλを用いて(2)式からDを算出したところ−170ps/nm/kmであった。
=−1015(λ/c)・dλ/dλ (2)。
【0034】
先に述べたと同様にして得られた溶融ガラスを、内径が28mm、高さが120mmであるSUS310S製の茶筒状モールド(底面を有する円筒状モールド)に流し出し、徐冷してガラス棒を得た。
このガラス棒にプロソニック社製超音波加工機USM−3CNCを用いて内径4mmの貫通孔6個を形成した。なお、これら6個の孔の中心軸はガラス棒の中心軸から5mm離れ、また隣り合う孔同士の間隔が1mmとなるようにした。
【0035】
次に、この6個の孔が形成されたガラス棒を444℃でリドローすなわち加熱延伸して直径7.5mmのロッドガラスを得、これを4分割して長さ130mmのロッドガラスとした。
このロッドガラスを418℃でリドローし、直径4.7mmのガラスロッドを得た。
【0036】
一方、このロッドガラスと同じガラスからなり、外径が15mm、高さが130mmであるガラス棒を4本作製し、各ガラス棒の中心に前記超音波加工機を用いて直径6mmの孔をあけ、4本のガラス管を作製した。
【0037】
次に、前記直径4.7mmのガラスロッドの一端を封じ、その封止部を下にして外径が15mmの前記ガラス管の中に入れ、その後ガラス管の下端を封じた。
ガラスロッドとガラス管の間の空間を−60kPaで減圧し、ガラスロッドの6個の孔を50kPaで加圧して膨張させるようにしながら425℃に加熱してガラスロッドとガラス管とを同時にリドローし、直径5mmのプリフォームを得た。なお、このときの前記βは3.8であった。
【0038】
このプリフォームを、孔を加圧することなく線引き温度425℃、線引き速度6mm/minの条件で線引きし、前記dが3.6μm、前記d’が35.8μm、中空ガラスファイバ外径すなわちファイバ径が125μm、前記板状ガラスの厚みが0.35μmである光ファイバ1を得た。
【0039】
光ファイバ1の波長1550nmの光に対する群速度分散GVDを、Agilent社製81910Aを用いてホモダイン干渉法により測定したところ−70±20ps/nm/kmであった。
【0040】
(例2)
ガラスとしては例1と同じガラスを用い、次のようにして光ファイバ2を作製した。
すなわち、例1で得た6個の孔が形成され直径が7.5mm、長さが130mmのロッドガラスを418℃でリドローし、直径3.5mmのガラスロッドを得た。
【0041】
次に、このガラスロッドの一端を封じ、その封止部を下にして外径が15mm、内径が6mmの例1で用いたものと同様のガラス管の中に入れ、その後ガラス管の下端を封じた。
ガラスロッドとガラス管の間の空間を−60kPaで減圧し、ガラスロッドの6個の孔を30〜40kPaで加圧して膨張させるようにしながら425℃に加熱してガラスロッドとガラス管とを同時にリドローし、直径5mmのプリフォームを得た。なお、このときのβは3.9であった。
【0042】
このプリフォームを、孔を5kPaで加圧しながら線引き温度425℃、線引き速度6mm/minの条件で線引きし、前記dが2.8μm、前記d’が17.3μm、ファイバ径が125μm、前記板状ガラスの厚みが0.25μmである光ファイバ2を得た。
図4に光ファイバ2の横断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。挿入写真は中空部の拡大写真である。
【0043】
光ファイバ2のGVDを例1と同様にして測定したところ−10±20ps/nm/kmであった。
【0044】
また、光ファイバ2について4光波混合により次のようにしてγを測定した。すなわち、長さが1mである光ファイバ2を用意し、波長が1550nmである光をポンプ光とし、1549.5nm、1549nm、1548.5nmと0.5nm刻みでポンプ光波長から離れた波長を有する信号光をカプラを通して同時に光ファイバ2に入射し、その出力を光スペクトラムアナライザで観察し、この時のアイドラー光と信号光の比rを計測した。
このようにして得られたrと(3)式とからγを算出したところ、700±90W−1km−1であった。なお、(3)式におけるPは光ファイバ中を通る平均のポンプパワー、zは光ファイバの長さである。
r=(γ×P×z) (3)。
【0045】
(例3)
ガラスとしては例1と同じガラスを用い、次のようにして光ファイバ3を作製した。
すなわち、例1で得た6個の孔が形成され直径が7.5mm、長さが130mmのロッドガラスを418℃でリドローし、直径3.1mmのガラスロッドを得た。
一方、同じガラスからなり、外径が15mm、高さが130mmであるガラス棒を作製し、このガラス棒の中心に前記超音波加工機を用いて直径4mmの孔をあけ、ガラス管を作製した。
【0046】
次に、前記直径3.1mmのガラスロッドの一端を封じ、その封止部を下にして外径が15mm、内径が4mmの前記ガラス管の中に入れ、その後ガラス管の下端を封じた。
ガラスロッドとガラス管の間の空間を−60kPaで減圧し、ガラスロッドの6個の孔を30〜40kPaで加圧して膨張させるようにしながら425℃に加熱してガラスロッドとガラス管とを同時にリドローし、直径3mmの1次プリフォームを得た。なお、このときのβは3.7であった。
【0047】
この1次プリフォームの一端を封じ、その封止部を下にして外径が15mm、内径が4mmのガラス管の中に入れ、その後ガラス管の下端を封じた。
1次プリフォームとガラス管の間の空間を−60kPaで減圧し、1次プリフォームの6個の孔を20〜30kPaで加圧して膨張させるようにしながら425℃に加熱してガラスロッドとガラス管とを同時にリドローし、直径5mmのプリフォームを得た。なお、このときのβは3.0であった。
【0048】
このプリフォームを、孔を3kPaで加圧しながら線引き温度425℃、線引き速度6mm/minの条件で線引きし、前記dが2.1μm、前記d’が11μm、ファイバ径が125μm、前記板状ガラスの厚みが0.2μmである光ファイバ3を得た。
光ファイバ3のGVDを例1と同様にして測定したところ−70±20ps/nm/kmであった。
また、光ファイバ3のγを例2に同様にして測定したところ1050±150W−1km−1であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
γが大きくDの小さな光ファイバの製造に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ガラスロッドの平面図および側面図である。
【図2】ガラスロッドの一端を封じて6個の孔を膨張させるように加圧しながら加熱延伸する工程を説明するための概略図である。
【図3】エアクラッド型光ファイバの1例の横断面の概念図である。
【図4】エアクラッド型光ファイバの横断面のSEM写真である。
【符号の説明】
【0051】
10:ガラスロッド
11:孔
20:ガラス管
30:光ファイバ
31:空孔
32:光伝送ガラス
33:中空ガラスファイバ
34:板状ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空ガラスファイバの中央にその軸方向に延びる光伝送ガラスが保持されている光ファイバの製造方法であって、
中心軸の周りにその軸方向に延びる3個以上の直径が互いに等しい孔が、各孔の軸と前記中心軸との距離が等しくなるように、また各孔の軸間の距離が等しくなるように、かつこれら孔によって囲まれている部分が前記光伝送ガラスとなるべき部分となるように形成されているガラスロッドを、その一端を封じて前記孔を膨張させるように加圧しながら加熱して引き伸ばす工程を経て、前記各孔の間のガラスが板状であるプリフォームとし、このプリフォームを線引きして、前記光伝送ガラスが板状ガラスによって保持されている光ファイバとする光ファイバ製造方法。
【請求項2】
ガラスロッドをプリフォームとするときに、前記工程またはそれ以外の工程においてロッドインチューブ法を用いる請求項1の光ファイバ製造方法。
【請求項3】
光伝送ガラスの横断面の内接円の直径が0.2〜10μmである請求項1または2の光ファイバ製造方法。
【請求項4】
中空ガラスファイバの中空部の横断面の外接円の直径が、光伝送ガラスの横断面の内接円の直径の(1+21/2)倍以上である請求項1、2または3の光ファイバ製造方法。
【請求項5】
光伝送ガラスを保持する各板状ガラスの厚みが1.5μm以下である請求項1、2、3または4の光ファイバ製造方法。
【請求項6】
光伝送ガラスがその中央に屈折率がより高い部分を有するものである請求項1〜5のいずれかの光ファイバ製造方法。
【請求項7】
光伝送ガラスが下記酸化物基準のモル%表示で、Bi 40〜75%、B 12〜45%、Ga 1〜20%、In 1〜20%、ZnO 0〜20%、BaO 0〜15%、SiO+Al+GeO 0〜15%、MgO+CaO+SrO 0〜15%、SnO+TeO+TiO+ZrO+Ta+Y+WO 0〜10%、CeO 0〜5%、から本質的になり、Ga+In+ZnOが5%以上である請求項1〜6のいずれかの光ファイバ製造方法。
【請求項8】
光ファイバの、波長1550nmの光に対する非線形係数が470W−1km−1以上かつ同光に対する群速度分散の絶対値が50ps/nm/km以下である請求項1〜7のいずれかの光ファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−308323(P2007−308323A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137914(P2006−137914)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】