説明

光モジュール

【課題】プリズム等の光学素子を接着剤で固定した光モジュールにおいて、温度変化により接着剤の膨張・収縮に伴う光モジュールの光学特性への影響を低減させた光モジュールを提供する。
【解決手段】光モジュールの筐体30の底面31にプリズム16を固定する際に、固定のための接着剤を塗布する接着剤塗布領域35を、プリズム内を透過する光の光軸の直下または直上の領域以外とする。温度変化による接着剤の膨張又は収縮に伴うプリズムの歪が、入射光に与える影響を低減させることにより、環境温度変化の影響を受けにくい光モジュールを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムおよび光計測分野等に使用される光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブロードバンドの急速な普及を背景に、光伝送システムの高速化への検討が盛んに行われている。このような光伝送システムでは、プリズム等の光学素子を用いた光モジュールが使用されている。例えば、特許文献1では、複数の波長の光を合波し、または分波するためにプリズムを用いた合分波モジュールが提案されている。
特許文献1の光合分波モジュール(光合分波器)では、図11に示すように、直方体または立法体のプリズムの角部の一つを、該角部に接する端面に対して45度の角度で切り落として傾斜面110を形成したプリズム100が使用される。該プリズム100は、さらに第1の端面101と、第2の端面102、第3の端面103を有している。第1の端面101及び第3の端面103には反射防止膜(ARコート)が施され、傾斜面110には第1の端面101から入射した光を反射する反射コーティング(HRコート)が施されている。第2の端面102には、所定の波長(以下に述べる「第1の入射光」)のみを反射し、その他の波長の光は透過させるような波長選択性を有するフィルタ(例えば長波長透過フィルタ:Long Wavelength Pass Filter/LWPF)が形成されている。
【0003】
このプリズム100に、第1の端面101から、例えば第1の入射光として波長λ1の光を入射される。波長λ1の第1の入射光は、傾斜面110で反射され、反射光120はさらに第2の端面102で反射されて、第3の端面103から出射される。
一方、第2の端面102からは、第1の入射光λ1とは異なる第2の入射光λ2が入射される。第2の端面102は、波長λ1のみを反射し、その他の波長の光は透過させるような波長選択性を有するフィルタ(例えば長波長透過フィルタ)機能を持たせるように構成されており、第2の入射光λ2は第2の端面102を透過する。
【0004】
このような構成により、第2の端面102のフィルタで反射された波長λ1の反射光120と、第2の端面102を透過する第2の入射光λ2は合波され、第3の端面103から出射される。なお、第2の端面102で反射されて第3の端面103から出射される第1の入射光と、第2の端面から入射されて第3の端面から出射される第2の入射光は、互いに略平行になるように入射角度が調整され、第3の端面103から出射後にコリメートレンズ等を介して(図示せず)外部の光ファイバ等の光学部品に結合される。
【0005】
分波の場合には、合波の場合とは逆に、波長λ1とλ2の多重化された光が第3の端面103から入射される。多重化された光のうち波長λ2の光は、第2の端面102を透過して第2の端面から出射されるが、波長λ1の光は第2の端面102のLWPFで反射されて傾斜面110に照射され、さらに傾斜面110で反射されて、第1の端面101から出射される。このようにして、波長λ1、λ2は分波されてそれぞれ異なる端面から出力される。
【0006】
プリズム100を用いて上述のように2回の反射を繰り返して合波及び分波を行うことにより、温度変化等の周囲環境変化によりプリズムが角度θだけ傾いたとしても、第1の入射光と第2の入射光とがほぼ平行な状態を維持することができ、光結合性能の低下を抑制できるという効果を得ることができる。すなわち、第1の入射光の傾斜面110での反射光は2θ傾くことになるが、第2の端面102の反射で傾いた角度2θが逆方向に修正されるため、入射光が横方向に所定の距離だけシフトするだけで、第1の入射光と第2の入射光を平行状態に維持することができる。
プリズム100は、光ファイバとの光結合を正確に行うとともに、振動その他の外力等による位置ずれ等を防ぐために、筐体のベース部に接着剤等により強固に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−122439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1等の先行技術においては、プリズム100の下面全体が筐体のベース部にプリズムと熱膨張率の異なる接着剤等で固定されている。そのため、接着剤が環境温度変動に伴って膨張、収縮することによりプリズム100内に微小な歪が生じることとなる。その結果、環境温度変化に伴ってプリズムの光学特性が不安定になるという問題となる。とりわけ、プリズム100の内部を透過する透過光の光軸の直下の接着剤の膨張収縮によるプリズムの歪が、光学特性に顕著な影響を与えるということが分かった。 このような、プリズム等の光学素子を接着剤で固定する場合の歪による影響は、特許文献1で例示した光合分波器に限らず、光を透過して処理するプリズム等の光学素子を用いる光モジュールに共通の課題である。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたもので、その目的は周囲環境温度の変化にともなう接着剤の膨張、収縮がプリズムに与える影響を防止し、環境温度変化の影響を受けにくく、安定した動作を維持できる光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る光モジュールは、光ファイバを固定する側壁と、プリズムを固定する固定面とを有する筺体と、前記光ファイバをから入射される入射光を透過させ、または内部で反射するように配置されるプリズムと、前記プリズムを前記筺体に対して接着材を用いて固定するプリズム固定部とを備え、
前記プリズム固定部は、前記プリズム内を伝搬する光の光軸の直下または直上の領域を除く接着剤塗布領域に接着剤を塗布したことを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記プリズム固定部が前記接着剤塗布領域を、少なくとも2か所以上を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、上記態様の光モジュールのいずれか一つであって、前記プリズム固定部は、前記筐体の前記固定面に固定される固定基板を含み、前記プリズムは前記固定基板に接着剤により固定されることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、上記態様の光モジュールのいずれか一つであって、前記プリズム固定部が、前記プリズムが接着される前記接着剤塗布領域の前記光軸側の境界近傍に、接着剤の横方向の移動を制限する逃げ溝を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記逃げ溝が、前記プリズムを透過する光の光軸と略平行に設けられ、前記接着剤塗布領域が前記光軸の直下または直上の領域に入り込まないよう前記接着剤塗布領域を区画することを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記逃げ溝が、前記プリズムを透過する光の光軸で囲まれる領域全体が窪んだ面状の逃げ溝からなることを特徴とする。
【0016】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記逃げ溝が前記筐体の前記固定面に形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記逃げ溝が前記固定基板に形成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記逃げ溝がプリズムの下面または上面に形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の他の態様に係る光モジュールは、前記プリズム固定部が、前記プリズムの位置を規定する位置決め基板を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成によると、プリズム内を伝搬する光の光軸が接着剤固定部分の直上を通らないので、周囲環境温度の変化等により接着剤が膨張または収縮しても、プリズムを透過する光への影響を抑制することが可能となり、環境温度変化の影響を受けにくく安定した光学特性を有する光モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の実施例の一つである光合分波モジュール10の外観を示す平面図であり、図1(b)はその断面を示す図、(c)は、図1(a)のA1−A1方向から見た断面図である。
【図2】(a)は本発明の一実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA2−A2線方向から見た部分断面図である。
【図3】(a)は本発明の他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA3−A3線方向から見た部分断面図である。
【図4】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA4−A4線方向から見た部分断面図である。
【図5】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA5−A5線方向から見た部分断面図である。
【図6】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA6−A6線方向から見た部分断面図である。
【図7】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA7−A7線方向から見た部分断面図である。
【図8】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA8−A8線方向から見た部分断面図である。
【図9】(a)は本発明のさらに他の実施形態に係るプリズム固定部の構造を説明するための平面図であり、(b)は(a)に示すA9−A9線方向から見た部分断面図である。
【図10】(a)は本発明の他の実施形態に係る蓋を外した状態の光モジュールを示す平面図であり、(b)は、さらに他の実施形態に係るプリズム固定部を示す平面図である。
【図11】(a)は、先行技術に係る光モジュールのプリズムの機能を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。以下の説明では、本発明の光モジュールの一例として光合分波モジュールを用いて説明するが、本発明は光合分波モジュールに限定されるものではなく、プリズム等の光学素子を接着剤で固定する光モジュールに広く適用可能である。
図1(a)、(b)、(c)は、それぞれ本発明の一実施形態に係る光合分波モジュール(光合波分波モジュール)の外観及び断面構造を示す平面図及び断面図であり、図2乃至図8は、本発明の一実施形態に係るプリズム固定部の構造を示す平面図及び部分断面図である。
【0023】
図1(a)は、本発明の実施例の一つである光合分波モジュール10の外観を示す平面図であり、図1(b)はその断面を示す図である。図1(c)は、図1(a)のA1−A1方向から見た断面を示す断面図である。図1(b)に例示するように、光合分波モジュール10は、透明な直方体のガラス板における直角の4隅の一つを端面に対して45°の角度で切除して傾斜面を形成した図11で示した先行技術と同様のプリズムを複数個備えている。
【0024】
光合分波モジュール10は、複数のプリズム11〜16を収容する筐体30と、各プリズム11〜16に波長の異なる光をコリメート光にして個別に入射させるコリメートレンズを有する複数のコリメータユニット18〜24と、蓋体34とを備えている。筺体30は、底部31と側壁部33とから構成され、側壁部33にはコリメータユニット18〜24が固定されている。プリズム11〜16は、例えば、一辺が5mm〜10mm程度で厚さ3mm程度であり、図10に示すプリズム100と同様の構造及び機能を有している。プリズム11〜16の傾斜面や第1の端面から第3の端面の符号については、図10に示すプリズム100と同じ番号を使用する。
【0025】
プリズム11〜16は、図1(b)に示すように、筐体30内に配置され、図1(c)に示すように、プリズム固定部35においてプリズム11〜16の下面が筐体30の底部32に対して、接着剤で固定される。プリズム11〜16が収容された筐体30は、蓋部34により密閉されて内部のプリズム11〜16等が保護される。プリズム11〜16は、以下に説明するように、入射された光を透過させ、かつ所定の入射光はプリズム内部で反射させることにより、入射光の合波又は分波を行う。従って、プリズム11〜16の位置及びコリメータユニット18〜24の位置は正確に調整される。しかし、もし環境温度変化による歪等が発生すると、プリズム11〜16内を透過する光に悪影響を与えることになる。
【0026】
本願発明は、環境温度変化に伴いプリズム11〜16を固定している接着剤の膨張及び収縮によるプリズムの歪を抑制若しくは制御して、温度変化の影響を受けにくい光モジュールを提供するものである。そのため、まずプリズム11〜16内を入射光λ1〜λ7がどのような経路で透過するかを説明する。
【0027】
複数のプリズム11〜16の各々へは、プリズム毎に波長の異なる単一波長λ1〜λ6の第1の光(第1の入射光)が第1の端面101から入射される。プリズム16の第1の端面102に入射された第1の入射光λ6は、第1の端面101から傾斜面110まで透過し傾斜面110で反射される。傾斜面110で反射された第1の入射光λ1は第2の端面102のLWPFで再度反射されて、第3の端面103から出射される(図11参照)。一方、プリズム16の第2の端面102からは、第2の入射光λ7がコリメータユニット24からが入射されている。
【0028】
プリズム11〜16に入射される光の波長は、λ1<λ2<λ3<λ4<λ5<λ6<λ7の関係にあり、第2の端面102には長波長透過フィルタ( Long Wavelength Pass Filter/LWPF)が形成されている。従って、各プリズム11〜16の第2の端面102はそれぞれ、第1の入射光は反射するが第2の入射光は透過させる。従って、各プリズムにおいて、第1の入射光と第2の入射光λ7からλ1までが順次合波されて、プリズム11の第3の端面103から入射光λ1〜λ7が合波された波長多重光が出力される。この波長多重光は、外部のコリメータレンズ(図示せず)等を介して外部の光ファイバ等に結合される。
【0029】
逆に、プリズム11の第3の端面30に、λ1〜λ7の光が多重化された波長多重光がコリメート光に変換して入射された場合、上述した合波の場合と逆の経路を通る。従って、プリズム11乃至16の第1の端面101から、λ1乃至λ6のコリメート光がそれぞれ個別に出射されると共に、プリズム16の第2の端面102からはλ7のコリメート光が出射される。
【0030】
上述のような機能をプリズム11〜16、及び第1の入射光λ1〜λ6及び第2の入射光λ7を入射するコリメータユニット18〜24は、その位置を正確に調整して強固に固定される。特にプリズム11〜16の位置は、強固な固定と正確な位置決めが必要となるため、筐体30の底面32に接着剤で固定される。
接着剤はプリズムと熱膨張率が異なるため、環境温度が変化すると、接着剤の膨張または収縮によりプリズムに歪を与える。この歪の影響は、プリズム内を透過する光の光軸上の歪が最も大きな影響を及ぼすことがわかってきた。そのため、本願発明は、プリズム内の透過する光の光軸の直下領域または真上の領域以外の領域に、プリズムを固定用の接着剤を塗布して、プリズムを接着固定することを基本思想とするものである。なお、本明細書では、プリズムが底面32に固定される例を用いて説明するが、筺体の下面に蓋を設けて、筺体の上面にプリズムを固定するように構成しても良い。
【0031】
以下、プリズムを筺体の底面32に固定する各種の実施形態を図2〜図10を用いて説明する。以下の実施形態においては、特殊なケースを除き、一つのプリズム16を固定する場合について説明するが、光合分波モジュール10の他のプリズム11〜15のいずれにも適用可能である。なお、図2(a)乃至図10(a)では、図面を簡略化するため、筺体30の底面32を示しておらず、さらに、図3乃至図10では、コリメータユニット23、24も省略している。また、図2(b)乃至図9(b)は、それぞれ図(a)に示すAx−Ax線(x=2〜9)に沿った断面図である。
【0032】
図2(a)は、本発明にかかる光モジュールで使用されるプリズム16の載置状態及び接着部分を示しており、斜線部分が接着剤を塗布する領域である。上述の通りコリメータユニット24、23から入射された入射光λ7、λ6は、プリズム16内を透過あるいは反射、屈折などにより伝搬する。ここで示すプリズム16の形状は、本実施形態で使用されるプリズムの一例であるが、このプリズム16は、一辺約5〜10mm程度の正方形あるいは長方形断面を有し、数mm程度の高さを有する柱状のガラスブロックから、一つの角を切り落とした五角形柱状をなしている。前述したとおり、プリズム16の第2の端面102の側面には長波長透過フィルタが、角が切り落とされた傾斜面110の側面には入射光をすべてほぼ全反射に近い反射率で反射させる高反射膜HR膜(High Reflection)が、それぞれ誘電体多層膜などによって形成されている。また、第1の端面101及び第3の端面103には、反射防止膜を形成することが好ましい。
【0033】
図2(a)に示すように、コリメータユニット24からは、波長λ7の光が第2の端面102のLWPF膜を透過してプリズム16に入射される。さらに、右方のコリメータユニット23から、λ7より短い波長λ6の第1の入射光が、第1の端面101を透過して波長λ7の入射光の光軸と略直交するように、HRコートされた傾斜面110に向けて入射される。第2の端面102から入射された波長λ7の光はプリズム内部を透過して、下方の第3の端面103より出射される。第1の端面101から入射された波長λ6の光は傾斜面のHRコート、及び第2の端面のLWPFで反射されて波長λ7とてλ7とほぼ同じ光軸上を進み第3の端面103から出射される。なお、外部から入力される各波長の入射光λ7、λ6は、ファイバコリメータ24,23によって略平行光として入射される。
【0034】
図2(b)は、図2(a)のA2−A2線に沿った断面図である(分かりやすくするために、接着剤が塗布される固定部のみハッチングを入れてある:以下図3乃至図10において同じ)。図2では、筐体30の底面32に設けられた1か所に接着剤を塗布することにより、筐体30の底面31に固定される構成を示している。この形態では、接着剤塗布領域35がそのままプリズム固定部35となる。接着剤塗布領域35はプリズム内を伝搬する光軸の直下を避ける領域に設けられており、プリズム直下には接着剤は塗付されていない。これにより、光モジュール周辺に環境温度変動などが生じたとしても、接着部の膨張収縮により生ずる応力がプリズムに微小な歪みを与えることなく常に安定した特性を得ることができる。なお、図2では、接着剤が光軸の直下領域を避ける最も面積の広い箇所1カ所が選択されて塗付されている。接着剤としては、例えばエポキシ系熱硬化型接着剤(EPOTECH353ND、TRA−BONDF253)等が用いられる。
【0035】
図3(a)、(b)に示す実施形態本発明の他の実施形態は、接着剤塗布領域36を2カ所設けた例を示している。この実施形態では、2か所の接着剤塗布領域が全体としてプリズム固定部として機能する。複数の接着剤塗布領域36を設ける場合は、図示するように複数の光軸に挟まれた領域(この場合は三角形)の外側に設けると、プリズム16が更に安定して固定されるため望ましい。
【0036】
図4〜図10はさらに異なるその他の実施形態を示している。
図4(a),(b)に示す実施形態は、接着剤塗布領域37を複数の光軸で挟まれた領域の外側に区切るようにするため、筺体の底面32に線状の接着剤逃げ溝50が2本形成された構成を示している。これにより、接着材逃げ溝50をこえて接着剤が複数の光軸で挟まれた領域内に侵入することを阻止できるので、更に簡単な作業で、所定の固定領域内にのみ接着剤を投入することが可能となる。この実施形態では、2組の接着剤塗布領域37及び逃げ溝50が、プリズム固定部に相当する。
【0037】
図5(a)、(b)に示す実施形態は、複数の光軸で挟まれた領域の外側に接着剤塗布領域38を設け、かつ接着剤固定部38を取り巻くように線状の逃げ溝部51が形成された構成を示している。このような構成とすることにより、線状の溝部51で囲まれた領域内に接着剤が塗付されるため、各接着剤塗布領域38を極めて安定して形成することができ、光モジュールの環境温度特性を非常に小さく抑えることができる。この場合も2組の接着剤塗布領域38及び線条の逃げ溝51がプリズム固定部を形成する。
【0038】
図6(a)、(b)に示す実施形態は、複数の光軸で挟まれた領域全体が逃げ溝となる面状の逃げ溝52を、筐体30の底面32上に形成した構成を示している。一段上にある面状の逃げ溝52の外側の部分が主に接着に寄与する接着剤塗布領域となる。光軸の直下の領域は、面上の逃げ溝52となり接着剤が塗付されないので、光軸部分における接着剤による温度歪の原因を防ぐことができる。この実施形態では、面状の逃げ溝52と接着剤塗布領域がプリズム固定部を構成する。
【0039】
図7(a)、(b)に示す実施形態は、図6に示すような面状の逃げ溝52を、プリズム16側の下面に形成した構成を示している。図6の実施形態と同様に面状の逃げ溝52の外側に接着剤塗布領域40が形成される。接着剤塗布領域と面状の逃げ溝52がプリズム固定部を形成する。なお、本実施形態と同様に、図4、図5に示す逃げ溝を、プリズム16の下面に形成することも可能である。このことは、以下に説明する固定基板を用いた実施形態においても同様である。
【0040】
図8(a)、(b)の実施形態は、光モジュールパッケージの筐体の底面32に固定基板60が載置され、その上に接着剤でプリズム16が固定されるプリズム固定部41の構成を示している。固定基板60は、パッケージ筐体の底面32に対し、接着剤や溶接等によって固定される。なお、固定基板60を底面32に固定する場合でも、上記実施形態の場合と同様に、接着剤はプリズム内を伝搬する光軸の直下を避けるように塗付することが好ましい。
【0041】
なお、固定基板60を底面に接着する接着剤塗付領域42は、1つの固定基板60において複数あること、また、複数の光軸によって挟まれる領域の外側とするのが強度確保上望ましい。ここで、固定基板60の上面(プリズム固定面)には、上記図2〜図7の各実施形態に示したように、光軸の直下または真上を避けるように接着剤の逃げ溝54を設けて接着剤塗付部41をあらかじめ区画し、その区画された内部に接着剤を塗付するとよい。
【0042】
図9に示す実施形態のプリズム固定部43は、図8の構成の固定基板61に加えて、位置決め基板65を有している。位置決め基板65は、予め定められた位置にプリズム16を嵌めこむようにくり抜かれた嵌合穴45を有している。位置決め基板65は、固定基板61の上に載置されて固定される。プリズム16は、位置決め基板65の嵌合穴45に嵌めこまれて接着剤で固定されるが、図2〜図7の各実施形態と同様、固定基板上あるいはプリズム16の下面に逃げ溝55を設けてもよい。位置決め基板65は、厚さ0.1〜0.3mm程度のステンレスなどからなる金属板の表面に、レーザ、切削などの機械加工によって嵌合穴45をあけた後に、当該位置決め基板65の外縁部および嵌合穴45の周辺部のバリを研削することによって得ることができ、このように位置決め基板65を設けることで、プリズム16を固定基板61上に密着させて精度よく固定することができる。なお、嵌合穴45をエッチングにより作成するとバリが生じないため、より簡単に固定基板に密着させることができる。
【0043】
この実施形態において、プリズム16は、位置決め基板65に形成された嵌合穴45に嵌め込むことにより位置決めされた上で、固定基板61上に接着剤により固定される。ここで、固定基板61および位置決め基板65は、それぞれ所定位置にピン穴56を設け、(b)に破線で示すようなピン57を嵌合して固定し、その後接着剤や溶接などによって筐体底面に固定するよう構成することができる。更に、嵌合穴45の少なくとも1箇所に、相対するプリズムの側面との間を埋めるようにRTVゴムなどの硬化後にゴム弾性を有する硬化弾性部を設けてもよい。これによって、環境温度変動や外部衝撃に対しても、プリズムが固定基板から容易に外れることがないようにプリズムを強固に固定することができる。
【0044】
プリズムを固定する固定基板61、および位置決め基板65を、パッケージ(筺体)の底面32の所定位置に複数配置することによって、複数のプリズムを容易かつ精度よくパッケージ底面に固定することができる。なお、この場合も、固定基板61や位置決め基板65の予め定められた位置にピン穴などを設けるとともに、筐体底面にもピン穴やピンなどを予め所定位置に設けて、ピンを用いて固定基板や位置決め基板の光モジュールパッケージ内での位置決めを行うようにしてもよい。これにより、プリズムの位置決めを更に容易にすることができる。
【0045】
本発明は、図1に例示したような複数のプリズムを直列配置した光モジュールにおいて、とりわけ有用である。このような複数のプリズム有する光モジュールに使用可能なプリズム固定部の実施形態として、図10(a)に、3個のプリズムに用いるプリズム固定部70を例示する。
図10(a)に示す光モジュールでは、3個のプリズム75〜77が、図1と同様にパッケージ中心軸に対して向きを反転させながら互いに縦列配置されている。この光モジュールの合波及び分波の動作については、図1の説明と同じであるから、これ以上の説明はしない。
【0046】
図10(a)に示す実施形態のプリズム固定部70は、固定基板71と位置決め基板72を備えている。位置決め基板72は縦列配置された複数のプリズム75〜76の配置形状に倣う様に形成された嵌合穴73を有しており、3個のプリズム75〜77は、嵌合穴73に嵌めこまれて、固定基板70とともに筺体の底面32の所定の位置に正確に配置される。固定基板71と位置決め板72はピン穴74にピン(図示せず)を挿入した後、接着剤又は溶接等の固定手段により固定される。このように、本実施形態によるプリズム固定部は、複数のプリズムを所定位置に配置するのが非常に容易な構成となっている。
【0047】
さらに図10(b)に、複数のプリズムを固定するプリズム固定部の他の実施形態として、嵌合穴73の代りにプリズムの突き当て部83を有する位置決め基板82を備えるプリズム固定部80を示す。本実施形態では、右側に、縦列配置された複数のプリズム75〜77の右縁の形状に倣った突き当て部83を有する位置決め基板82を設置して、当該突き当て部83に複数のプリズムを突き当てるようにして位置決めを容易に行うことができる。
【0048】
上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせた構成は、本発明の意図しているところであり、本発明の技術思想の範囲内である。例えば、上記複数のプリズムに使用するプリズム固定部において、光軸の直下を避けるように接着剤塗付部を設けること、固定基板上あるいはプリズム下面に逃げ溝を設けて接着剤塗付部から光軸の直下に接着剤が回り込むのを抑制することなどの構成を組み合わせることが可能である。また、上記実施形態では、固定基板と位置決め基板とを組み合わせた構成を例示しているが、位置決め基板のみを直接筐体底面部に載置固定する構成(固定基板がなくて位置決め基板のみので固定する構成)とすることも可能である。このようにして、環境温度変動に対し安定な特性を有する光モジュールを得ることができる。
【0049】
なお、上記各実施形態において、プリズム固定後の接着剤塗付部の面積は、各固定基板上において、1箇所当たり1mm2以内とすることにより、より光学特性が安定化させることができる。1つの固定基板上で複数の接着箇所を有するときは、1mm2以上の面積を有する接着箇所は1箇所以内とするのが望ましい。
【0050】
上記実施形態では、ほぼ同様の形状を有するプリズムについて記載しているが、本発明はこれに限定されない。プリズムの形状が変わったとしても、複数の光軸により挟まれる領域の外側に接着剤塗付部を設けること、及び本発明のその他の特徴事項によって、本発明と同様の効果を奏すること構成とすることは、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
さらに、上記実施形態では、筺体の底面にプリズムを固定する例を示したが、筺体の上面にプリズムを固定することも可能である。この場合、接着剤塗布領域が、光軸の直上領域を除く領域に設けられるよう構成する。
【0052】
さらに、上記実施形態では、プリズムを6個使用した光モジュールと、3個使用した光モジュールを用いて説明したが、プリズムの数は何個でもよく、プリズムの数が1個の光モジュールであっても良い。
【符号の説明】
【0053】
10…光合分波モジュール
11〜16…プリズム
18〜24…コリメータユニット
30…筐体
31…底部
32…底面
33…側壁部
35、36、39、40、41,70…プリズム固定部
37、38…固定領域
50〜53…逃げ溝
60、61、71…固定基板
65,72、82…位置決め基板
100…プリズム
101…第1の端面
102…第2の端面
103…第3の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも光ファイバを固定する側壁と、プリズムを固定する固定面とを有する筺体と、
前記光ファイバから入射される入射光を透過させ、または内部で反射するように配置されるプリズムと、
前記プリズムを前記筺体に対して接着材を用いて固定するプリズム固定部と
を備え、
前記プリズム固定部は、前記プリズム内を伝搬する光の光軸の直下または直上の領域を除く接着剤塗布領域に接着剤を塗布したことを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記プリズム固定部は、前記接着剤塗布領域を少なくとも2か所以上を備えることを特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記プリズム固定部は、前記筐体の前記固定面に固定される固定基板を含み、前記プリズムは前記固定基板に接着剤により固定されることを特徴とする請求項1または2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記プリズム固定部は、前記プリズムが接着される前記接着剤塗布領域の前記光軸側の境界近傍に、接着剤の横方向の移動を制限する逃げ溝を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記逃げ溝が、前記プリズムを透過する光の光軸と略平行に設けられ、前記接着剤塗布領域が前記光軸の直下または直上の領域に入り込まないよう前記接着剤塗布領域を区画することを特徴とする請求項4に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記逃げ溝が、前記プリズムを透過する光の光軸で囲まれる領域全体が窪んだ面状の逃げ溝からなることを特徴とする請求項4に記載の光モジュール。
【請求項7】
前記逃げ溝が前記筐体の前記固定面に形成されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項8】
前記逃げ溝が前記固定基板に形成されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項9】
前記逃げ溝がプリズムの下面または上面に形成されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項10】
前記プリズム固定部が、前記プリズムの位置を規定する位置決め基板を備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−101244(P2013−101244A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245317(P2011−245317)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】