光伝送モジュール
【課題】本発明は、不要な電磁波の放射を低減することを目的とする。
【解決手段】光伝送モジュールは、電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含む光電変換本体部18と、光電変換本体部18の表面に設けられた、光ファイバ32を光電変換素子に光学的に接続するための光学結合部30と、光学結合部30の少なくとも光電変換本体部18とは反対の端部を外側に出して、回路基板10及び光電変換本体部18を内側に収容するケース36と、導電抵抗部材46と、を有し、光電変換本体部18及び光学結合部30の表面は、それぞれ、導電材料からなり、相互に電気的に導通し、導電抵抗部材46は、光電変換本体部18及び光学結合部30のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなり、光電変換本体部18の光学結合部30が設けられる面に対向するように、ケース36の内側に配置されている。
【解決手段】光伝送モジュールは、電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含む光電変換本体部18と、光電変換本体部18の表面に設けられた、光ファイバ32を光電変換素子に光学的に接続するための光学結合部30と、光学結合部30の少なくとも光電変換本体部18とは反対の端部を外側に出して、回路基板10及び光電変換本体部18を内側に収容するケース36と、導電抵抗部材46と、を有し、光電変換本体部18及び光学結合部30の表面は、それぞれ、導電材料からなり、相互に電気的に導通し、導電抵抗部材46は、光電変換本体部18及び光学結合部30のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなり、光電変換本体部18の光学結合部30が設けられる面に対向するように、ケース36の内側に配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送モジュールには、通信量の増大に伴い、光伝送速度の高速化の要求が高い。この理由は、既施設済みの光ファイバをそのまま利用して伝送量を増大させることにより、新たな光ファイバの敷設という高額な投資を抑えることができる点にある。
【0003】
現状、主流の光伝送速度は2.5Gbit/sから10Gbit/s及び40Gbit/sに移ってきており、さらに伝送容量を上げるため光伝送モジュールを小型化し光伝送モジュールの搭載数を増加させるニーズがある。
【0004】
そのため光伝送モジュール内部のクロック周波数も数100MHz〜40GHz前後とミリ波帯まで高周波化すると同時に、小型化を実現するために40Gbit/sなどの光伝送モジュールでも変調器を含んだ光サブアセンブリの一部である光学結合部分を光伝送モジュールの金属ケース外に突出させる形態に移行している。その結果、通常は導体金属で形成される光学結合部分が電磁波の放射アンテナとして働き、光伝送モジュールから放射する不要電磁波が著しく増加する原因となっている。
【0005】
この突出した光学結合部から放射する電磁波を軽減する手段としては、特許文献1にあるように、上下ケースのうちの一方または両方を延長させることで、もしくは別の金属部材を組み合わせることで、光学結合部とその外周の弾性部材全体を覆い電磁波の放出を防ぐことが知られている。
【0006】
あるいは、特許文献2にあるように、光学結合部の外周を覆う弾性部材そのものを所定の抵抗率を有する導電性材料で被うことで、電磁波の放出を防ぐことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−247700号公報
【特許文献2】特開2009−258463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1にある従来技術では、光学結合部を被う弾性部材のさらに外周に、金属製のキャップを取り付けて電磁波の放射を抑制している。しかし光学結合部の先端から引き出された光ファイバに対して横方向に引張り屈曲させた場合の光強度の劣化を制限した、いわゆるファイバーサイドプル試験に際して、金属製のキャップが光ファイバの滑らかな屈曲を阻害するため、ファイバーサイドプル試験に適合することが困難であった。また光学結合部の外周形状がキャップの分だけ大きくなり、光伝送モジュールを搭載する側の基板の有効実装面積が縮小するなどの問題があった。
【0009】
また、特許文献2にある従来技術では、光学結合部を被う弾性部材に導電性の材料を使用することで電磁波の放射を抑制している。しかしこの弾性部材については、上述のファイバーサイドプル試験に適合するための適度な弾性率を満足する材料の選定と、その厚みに対する緻密な設計が必要であった。加えてこの弾性部材については、その形状外形を円柱状もしくは円錐状を組み合わせた形状に、内孔についても脱落防止の窪みを設けるなど複雑な形状に立体成形する必要があり、さらに弾性材料の立体成形には、加工メーカ独自のノウハウが必要となるため、コストが割高になるといった懸念があった。
【0010】
本発明は、不要な電磁波の放射を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る光伝送モジュールは、回路基板と、電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含み、前記回路基板に電気的に接続されるように搭載された光電変換本体部と、前記光電変換本体部の表面に設けられた、光ファイバを前記光電変換素子に光学的に接続するための光学結合部と、前記光学結合部の少なくとも前記光電変換本体部とは反対の端部を外側に出して、前記回路基板及び前記光電変換本体部を内側に収容するケースと、導電抵抗部材と、を有し、前記光電変換本体部及び前記光学結合部の表面は、それぞれ、導電材料からなり、相互に電気的に導通し、前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部及び前記光学結合部のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなり、前記光電変換本体部の前記光学結合部が設けられる面に対向するように、前記ケースの内側に配置されていることを特徴とする。本発明によれば、光電変換本体部の表面を流れるノイズ電流を、その一部を導電抵抗部材に流すことで減少させ、光学結合部の表面に伝わるノイズ電流を減少させ、これにより不要な電磁波の放射を低減することができる。
【0012】
(2)(1)記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面に電気的に接続されていることを特徴としてもよい。
【0013】
(3)(1)に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面とは電気的に絶縁されていることを特徴としてもよい。
【0014】
(4)(1)から(3)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記ケースは、貫通穴を有する金属からなり、前記貫通穴から前記光学結合部が突出していることを特徴としてもよい。
【0015】
(5)(4)に記載された光伝送モジュールにおいて、前記貫通穴の内側に、前記光学結合部の周囲を覆う弾性体をさらに有することを特徴としてもよい。
【0016】
(6)(1)から(5)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記光学結合部は、前記光電変換本体部から離れる方向に先細りになる形状を有することを特徴としてもよい。
【0017】
(7)(1)から(6)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、シート形状で穴又は切り欠きを有し、前記穴又は前記切り欠きの内側に前記光学結合部が配置されていることを特徴としてもよい。
【0018】
(8)(7)に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、外縁から前記穴又は前記切り欠きに至る切れ目を有することを特徴としてもよい。
【0019】
(9)(1)から(8)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、カーボン粉末を混入させたゴムからなることを特徴としてもよい。
【0020】
(10)(1)から(8)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、金属粉末を混入させたゴムからなることを特徴としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る光伝送モジュールを示す斜視図である。
【図2】図1に示す光伝送モジュールの底面図である。
【図3】図2に示す光伝送モジュールから下ケースを取り外した状態を示す図である。
【図4】光電変換本体部を示す図である。
【図5】図2に示す光伝送モジュールのV−V線断面図である。
【図6】導電抵抗部材を示す図である。
【図7】導電抵抗部材の変形例を示す図である。
【図8】導電抵抗部材の変形例を示す図である。
【図9】導電抵抗部材の変形例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る光伝送モジュールの不要な電磁波放射の抑制効果の一例を表すグラフである。
【図11】本発明の実施形態に係る光伝送モジュールの不要な電磁波放射の抑制効果の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光伝送モジュールを示す斜視図である。図2は、図1に示す光伝送モジュールの底面図である。図3は、図2に示す光伝送モジュールから下ケースを取り外した状態を示す図である。
【0023】
光伝送モジュールは、回路基板10を有する。回路基板10には、電気信号を光伝送モジュールの外部にある基板(図示せず)に接続するための電気コネクタ12が搭載されている。回路基板10には、電気コネクタ12から入力された並列電気信号を多重化する信号多重回路部品14、受信した光信号から変換された電気信号を並列電気信号に分離する信号分離回路部品16、電源生成回路(図示せず)や制御回路(図示せず)などの周辺回路部品が搭載されている。
【0024】
光伝送モジュールは、光電変換本体部18を有する。図4は、光電変換本体部18を示す図である。図5は、図2に示す光伝送モジュールのV−V線断面図である。光電変換本体部18は、電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含む。具体的には、一方の光電変換本体部18は、電気信号を光信号に変換する発光素子20及び電気信号を増幅するドライバ素子(図示せず)を内蔵した送信側の部品である。送信側の光電変換本体部18には、信号多重回路部品14からの信号出力を入力するための送信側同軸ケーブル22が接続されている。他方の光電変換本体部18は、光信号を電気信号に変換する受光素子24及び電気信号を増幅するアンプ素子(図示せず)を内蔵した受信側の部品である。受信側の光電変換本体部18には、光信号から変換された電気信号を信号分離回路部品16に伝達するための受信側同軸ケーブル26が接続されている。光電変換本体部18は、入出力端子28(図4参照)を有し、回路基板10に電気的に接続されるように搭載されている。光電変換本体部18の表面は、導電材料(例えば金属)からなる。
【0025】
光伝送モジュールは、光学結合部30を有する。光学結合部30は、光電変換本体部18の表面に設けられている。光学結合部30は、光ファイバ32を光電変換素子に光学的に接続するためのものであり、図示しないレンズ等を内部に有している。光学結合部30の表面は、導電材料(例えば金属)からなる。したがって、光電変換本体部18及び光学結合部30の表面は、相互に電気的に導通する。光学結合部30は、光電変換本体部18から離れる方向に先細りになる形状を有する。光学結合部30は、光電変換本体部18から垂直に突出している。光学結合部30の周囲は弾性体34によって覆われている。弾性体34は、光ファイバ32の屈曲保護のための部材であり、例えばゴムからなる。
【0026】
光伝送モジュールは、ケース36を有する。ケース36は金属からなる。ケース36は、上ケース38及び下ケース40を含む。ケース36は、回路基板10及び光電変換本体部18を内側に収容する。ケース36は、貫通穴42(図3及び図5参照)を有する。貫通穴42から光学結合部30が突出している。ケース36は、光学結合部30の少なくとも光電変換本体部18とは反対の端部を外側に出している。光学結合部30の周囲を、上述した弾性体34が覆っている。弾性体34は貫通穴42の内側に配置されている。
【0027】
貫通穴42の内側には、ケース36(上ケース38及び下ケース40)の内面に密着(圧接)するように、シール部材44が設けられている。光学結合部30及びその周囲の弾性体34がシール部材44を貫通している。シール部材44は、導電性の弾性材料からなり、ケース36の内部(回路基板10上の部品)で発生した不要電磁波が外部に漏洩することを抑制している。ただし、シール部材44のみによって電磁波を完全に遮断することは困難である。なお、電気コネクタ12の露出部については、光伝送モジュールが搭載される基板(図示せず)との間で十分な電磁波遮蔽構造を構成することは容易である。
【0028】
不要輻射をもたらすノイズ電流の発生源は、光電変換本体部18を含めた電子回路部品であり、これらの部品から発生したノイズ電流は、回路基板10上の不特定の導体パターンやケース36の内側表面付近などを経由して光伝送モジュールの内部の導体表面をあらゆる方向に伝播する。不要輻射はこのノイズ電流が導体の突出した形状の箇所に達することで、その部位をアンテナとして空間に輻射されることで発生する。回路基板10や光電変換本体部18で生じたノイズ電流は、その表面を経由して光学結合部30に達する。光学結合部30は前述の通り導体であり、且つ光電変換本体部18から突出しているため、光学結合部30は不要輻射を空間に放射するアンテナとして働く。
【0029】
光伝送モジュールは、導電抵抗部材46を有する。導電抵抗部材46は、光電変換本体部18及び光学結合部30のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなる。導電抵抗部材46は、カーボン粉末を混入させたゴムや、金属粉末を混入させたゴムから形成されている。導電抵抗部材46は、光電変換本体部18の光学結合部30が設けられる面に対向するように、ケース36の内側に配置されている。
【0030】
図6は、本実施形態に係る導電抵抗部材46を示す図である。導電抵抗部材46は、シート形状で切り欠き48を有している。この形状の導電抵抗部材46が、切り欠き48の内側に光学結合部30が配置される。変形例として、図7に示すように、導電抵抗部材146は、外縁から切り欠き148に至る切れ目150を有していてもよい。この例では、分割された複数の部材を組み合わせて導電抵抗部材146が構成される。
【0031】
他の変形例として、図8に示すように、導電抵抗部材246は、シート形状で穴248を有していてもよい。この例では、穴248の内側に光学結合部30を配置するために、導電抵抗部材246は、外縁から穴248に至る切れ目250を有している。さらに、図9に示すように、導電抵抗部材346には、穴348に至る複数の切れ目350が形成されていてもよい。
【0032】
導電抵抗部材46は、光電変換本体部18の表面に電気的に接続されていてもよいし、光電変換本体部18の表面とは電気的に絶縁されていてもよい。導電抵抗部材46は、送信側及び受信側の両方の光電変換本体部18に設けてもよいし、いずれか一方のみに設けてもよい。
【0033】
導電抵抗部材46は光電変換本体部18に密着させる必要はなく、電気的に導通させる必要はない。よって導電抵抗部材46を光電変換本体部18に固定する際に、図示しない両面テープや接着剤などの組立が平易で安価な固定方法を選択してもよい。導電抵抗部材46はその表面部分が導電性である必要はないので、光電変換本体部18や、上ケース38又は下ケース40に対して電気的に導通する必要はない。
【0034】
本実施形態に係る光伝送モジュールでは、導電抵抗部材46を光電変換本体部18に対向するように配置することで、ノイズ電流が、アンテナとなる光学結合部30に到達する前にノイズ電流を減衰させることが出来る。これによりケース36の貫通穴42からの不要輻射に対して大幅な抑制を実現することができる。そのメカニズムは、導電抵抗部材46が光電変換本体部18に電気的に導通している場合と、導電抵抗部材46が光電変換本体部18とは電気的に導通していない場合とでは異なるが、いずれの場合もノイズ電流を減衰させる効果がある。以下、そのメカニズムについて説明する。
【0035】
まず、導電抵抗部材46が存在しない従来技術の場合を考える。周波数が数〜数10GHzに及ぶミリ波帯では、導体を流れる電流は表皮効果のため導体表面から深さ0.数〜数μmまでの極浅い表面に集中する。例えば磁性体でない金属を伝わる電流の場合で、金属表面の電流に対し1/e(eは自然対数)すなわち約0.368倍の電流に減衰する深さは、電流の周波数fの平方根の逆数及び金属の導電率σの平方根の逆数に比例する。この深さは一般に浸透の深さと呼ばれる。比例定数は約503.3である。具体例で述べると、例えば10GHzの電流が導電率40MS/mのアルミ導体を流れる場合、0.368倍の電流に減衰する深さは0.8μm、40GHzの場合は約0.4μmとなる。光電変換本体部18も導体であり、ノイズ電流も数〜数10GHzの電流のため、光電変換本体部18を流れるノイズ電流は、0.数〜数μmといった極浅い表面に集中して流れている。
【0036】
次に、導電抵抗部材46が光電変換本体部18に接触して電気的に導通している場合を考える。導電抵抗部材46を光電変換本体部18に電気的に接続した場合、導電抵抗部材46と光電変換本体部18は、部分的に導電率が異なる1つの導体と見なせる。よってノイズ電流の大半は導電抵抗部材46の表面から、導電抵抗部材46の導電率で求まる浸透の深さに応じた深さの範囲に集中する。導電抵抗部材46の導電率と厚さを適切にすることで、ノイズ電流の大半を光電変換本体部18ではなく、導電抵抗部材46に集中させることが出来る。導電抵抗部材46の体積抵抗率を例えば5Ω・cmとすると、導電率は20S/mであるから導電抵抗部材46を流れる電流の大半は、40GHzでは表面からの深さ0.56mm、10GHzでは表面からの深さ1.13mmを流れる。よってこの場合導電抵抗部材46の厚さを1mm以上にすれば、ノイズ電流の大半を導電抵抗部材46に集中させることが出来る。高周波電流が抵抗体に流れると電流の一部はジュール熱となって消費されるため、ノイズ電流を減衰させる効果が得られる。
【0037】
次に、導電抵抗部材46が光電変換本体部18から僅かに離れて電気的に導通していない場合を考える。前述のとおり、ノイズ電流は光電変換本体部18の表面から深さ0.数〜数μmといった極浅い表面に集中して流れている。導電抵抗部材46を光電変換本体部18から僅かに離れた位置に配置すると、ノイズ電流による磁界が導電抵抗部材46に交差する。ノイズ電流は高周波電流であり時間的に変化しているため、導電抵抗部材46に起電力を発生させ、導電抵抗部材46にノイズ電流による磁界を打ち消す方向に誘導電流を生じさせる。結果、光電変換本体部18を流れるノイズ電流の一部は等価的に導電抵抗部材46を流れることになり、前述の通りノイズ電流の一部がジュール熱となって消費されるため、ノイズ電流を減衰させる効果が得られる。
【0038】
上述の通り本実施形態に係る光伝送モジュールでは、前述の従来技術に挙げた金属製のキャップは不要であり、また光学結合部30を被う弾性体34に導電性の材料を使用する必要がないため、ファイバーサイドプル試験に際して特性劣化を招く恐れもなく、光伝送モジュールを搭載する側の基板(図示せず)の有効実装面積の現象を招く恐れもなく、緻密な構造設計を不要とする低コストな方法で不要な電磁波の放射を抑制することが出来る。さらに不要電磁波の漏洩箇所、放射箇所を対策する技術ではなく、放射の原因となるノイズ電流に対して、ノイズ電流を供給する経路側での低減技術であるため、光伝送モジュールの外形形状に影響を与えることなく実施でき、さらに製品化直前のEMI (Electro Magnetic Interference)評価で特性改善が必要と判明した場合などにも、短期間での追加抑制対策として実施できる。
【0039】
米国のEMI (Electro Magnetic Interference)規格であるFCC (Federal Communications Commission) Standard Part15 SubpartB ClassB規格(3m測定法)では、1Gbit/sから40Gbit/sまでのAverage測定時の放射電界強度限界値として53.9dB(μV/m)が示されている。そこで、本実施形態では、この限界値に対して6dBのマージンを持った47.9dB(μV/m)を、当該装置における放射電界強度の目標上限値とした。
【0040】
本実施形態に係る光伝送モジュールの不要な電磁波放射の抑制効果を図10、図11に示す。図10は、導電抵抗部材46を受信側の光電変換本体部18に適用した場合の不要電磁波の抑制効果を表す。測定周波数は39.8GHz、縦軸はモジュールから3mの距離での不要電磁波の放射電界強度、白の棒グラフは垂直方向の電界強度、黒の棒グラフは水平方向の電界強度、横軸は導電抵抗部材46の光電変換本体部18からの距離を示している。但し横軸の左端の棒グラフのみ導電抵抗部材46がない場合を示す。
【0041】
導電抵抗部材46がない場合と、導電抵抗部材46を光電変換本体部18から0mmの距離においた場合では、導電抵抗部材46を光電変換本体部18から0mmの距離においた時の方が、不要輻射が約10dB低減する。また距離を0.5mm、1.0mmと離す事で低減量は9dB弱、8dB弱と効果は減少するものの、依然として47.9dB(μV/m)を大幅に下回る低減効果が得られる。
【0042】
図11は、導電抵抗部材46を送信側の光電変換本体部18に適用した場合の不要電磁波の抑制効果を表す。測定周波数は39.8GHz、縦軸はモジュールから3mの距離での不要電磁波の放射電界強度、白の棒グラフは垂直方向の電界強度、黒の棒グラフは水平方向の電界強度、横軸は導電抵抗部材46の有無を示す。導電抵抗部材46がない場合と、導電抵抗部材46を光電変換本体部18に適用した場合では、導電抵抗部材46を光電変換本体部18に適用した場合の方が、不要輻射が約10dB低減する。
【0043】
導電抵抗部材46の材料は、導電性のゴムが好適である。例えば、導電性ミラブル型シリコーンゴムなどが好適であり、既存のものでは導電性フィラーとしてカーボンブラックを混入した白金加硫型のミラブル型シリコーンゴム(体積抵抗率:5Ω・cm、タイプA硬さ:60)なども適している。上述の導電ゴム部材を用いると、体積抵抗率5Ω・cm、すなわち導電率は20S/mであり、電波の浸透の深さはたとえば40GHzでは0.56mm、10GHzでは1.13mmとなるため、導電抵抗部材46の厚さが、例えば、1.5mm程度でも充分なノイズ電流抑制効果が得られ、不要な電磁波放射を抑制できる。但し、導電抵抗部材46の材料を、体積抵抗率が5Ω・cm以下のものに限定するものではない。
【0044】
また、上記のカーボンブラックを混入したシリコーンゴムは、金属フィラーの混入もハロゲン化物の含有もないため、金属フィラーの脱落による回路の短絡や腐食、ハロゲン化物に起因する脱酸素、脱ハロゲンの問題がなく、安全性や信頼性の確保、腐食耐性などの面でも特に優れている。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態で説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0046】
10 回路基板、12 電気コネクタ、14 信号多重回路部品、16 信号分離回路部品、18 光電変換本体部、20 発光素子、22 送信側同軸ケーブル、24 受光素子、26 受信側同軸ケーブル、28 入出力端子、30 光学結合部、32 光ファイバ、34 弾性体、36 ケース、38 上ケース、40 下ケース、42 貫通穴、44 シール部材、46 導電抵抗部材、48 切り欠き、146 導電抵抗部材、148 切り欠き、150 切れ目、246 導電抵抗部材、248 穴、250 切れ目、346 導電抵抗部材、348 穴、350 切れ目。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送モジュールには、通信量の増大に伴い、光伝送速度の高速化の要求が高い。この理由は、既施設済みの光ファイバをそのまま利用して伝送量を増大させることにより、新たな光ファイバの敷設という高額な投資を抑えることができる点にある。
【0003】
現状、主流の光伝送速度は2.5Gbit/sから10Gbit/s及び40Gbit/sに移ってきており、さらに伝送容量を上げるため光伝送モジュールを小型化し光伝送モジュールの搭載数を増加させるニーズがある。
【0004】
そのため光伝送モジュール内部のクロック周波数も数100MHz〜40GHz前後とミリ波帯まで高周波化すると同時に、小型化を実現するために40Gbit/sなどの光伝送モジュールでも変調器を含んだ光サブアセンブリの一部である光学結合部分を光伝送モジュールの金属ケース外に突出させる形態に移行している。その結果、通常は導体金属で形成される光学結合部分が電磁波の放射アンテナとして働き、光伝送モジュールから放射する不要電磁波が著しく増加する原因となっている。
【0005】
この突出した光学結合部から放射する電磁波を軽減する手段としては、特許文献1にあるように、上下ケースのうちの一方または両方を延長させることで、もしくは別の金属部材を組み合わせることで、光学結合部とその外周の弾性部材全体を覆い電磁波の放出を防ぐことが知られている。
【0006】
あるいは、特許文献2にあるように、光学結合部の外周を覆う弾性部材そのものを所定の抵抗率を有する導電性材料で被うことで、電磁波の放出を防ぐことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−247700号公報
【特許文献2】特開2009−258463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1にある従来技術では、光学結合部を被う弾性部材のさらに外周に、金属製のキャップを取り付けて電磁波の放射を抑制している。しかし光学結合部の先端から引き出された光ファイバに対して横方向に引張り屈曲させた場合の光強度の劣化を制限した、いわゆるファイバーサイドプル試験に際して、金属製のキャップが光ファイバの滑らかな屈曲を阻害するため、ファイバーサイドプル試験に適合することが困難であった。また光学結合部の外周形状がキャップの分だけ大きくなり、光伝送モジュールを搭載する側の基板の有効実装面積が縮小するなどの問題があった。
【0009】
また、特許文献2にある従来技術では、光学結合部を被う弾性部材に導電性の材料を使用することで電磁波の放射を抑制している。しかしこの弾性部材については、上述のファイバーサイドプル試験に適合するための適度な弾性率を満足する材料の選定と、その厚みに対する緻密な設計が必要であった。加えてこの弾性部材については、その形状外形を円柱状もしくは円錐状を組み合わせた形状に、内孔についても脱落防止の窪みを設けるなど複雑な形状に立体成形する必要があり、さらに弾性材料の立体成形には、加工メーカ独自のノウハウが必要となるため、コストが割高になるといった懸念があった。
【0010】
本発明は、不要な電磁波の放射を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る光伝送モジュールは、回路基板と、電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含み、前記回路基板に電気的に接続されるように搭載された光電変換本体部と、前記光電変換本体部の表面に設けられた、光ファイバを前記光電変換素子に光学的に接続するための光学結合部と、前記光学結合部の少なくとも前記光電変換本体部とは反対の端部を外側に出して、前記回路基板及び前記光電変換本体部を内側に収容するケースと、導電抵抗部材と、を有し、前記光電変換本体部及び前記光学結合部の表面は、それぞれ、導電材料からなり、相互に電気的に導通し、前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部及び前記光学結合部のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなり、前記光電変換本体部の前記光学結合部が設けられる面に対向するように、前記ケースの内側に配置されていることを特徴とする。本発明によれば、光電変換本体部の表面を流れるノイズ電流を、その一部を導電抵抗部材に流すことで減少させ、光学結合部の表面に伝わるノイズ電流を減少させ、これにより不要な電磁波の放射を低減することができる。
【0012】
(2)(1)記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面に電気的に接続されていることを特徴としてもよい。
【0013】
(3)(1)に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面とは電気的に絶縁されていることを特徴としてもよい。
【0014】
(4)(1)から(3)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記ケースは、貫通穴を有する金属からなり、前記貫通穴から前記光学結合部が突出していることを特徴としてもよい。
【0015】
(5)(4)に記載された光伝送モジュールにおいて、前記貫通穴の内側に、前記光学結合部の周囲を覆う弾性体をさらに有することを特徴としてもよい。
【0016】
(6)(1)から(5)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記光学結合部は、前記光電変換本体部から離れる方向に先細りになる形状を有することを特徴としてもよい。
【0017】
(7)(1)から(6)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、シート形状で穴又は切り欠きを有し、前記穴又は前記切り欠きの内側に前記光学結合部が配置されていることを特徴としてもよい。
【0018】
(8)(7)に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、外縁から前記穴又は前記切り欠きに至る切れ目を有することを特徴としてもよい。
【0019】
(9)(1)から(8)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、カーボン粉末を混入させたゴムからなることを特徴としてもよい。
【0020】
(10)(1)から(8)のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、前記導電抵抗部材は、金属粉末を混入させたゴムからなることを特徴としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る光伝送モジュールを示す斜視図である。
【図2】図1に示す光伝送モジュールの底面図である。
【図3】図2に示す光伝送モジュールから下ケースを取り外した状態を示す図である。
【図4】光電変換本体部を示す図である。
【図5】図2に示す光伝送モジュールのV−V線断面図である。
【図6】導電抵抗部材を示す図である。
【図7】導電抵抗部材の変形例を示す図である。
【図8】導電抵抗部材の変形例を示す図である。
【図9】導電抵抗部材の変形例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る光伝送モジュールの不要な電磁波放射の抑制効果の一例を表すグラフである。
【図11】本発明の実施形態に係る光伝送モジュールの不要な電磁波放射の抑制効果の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光伝送モジュールを示す斜視図である。図2は、図1に示す光伝送モジュールの底面図である。図3は、図2に示す光伝送モジュールから下ケースを取り外した状態を示す図である。
【0023】
光伝送モジュールは、回路基板10を有する。回路基板10には、電気信号を光伝送モジュールの外部にある基板(図示せず)に接続するための電気コネクタ12が搭載されている。回路基板10には、電気コネクタ12から入力された並列電気信号を多重化する信号多重回路部品14、受信した光信号から変換された電気信号を並列電気信号に分離する信号分離回路部品16、電源生成回路(図示せず)や制御回路(図示せず)などの周辺回路部品が搭載されている。
【0024】
光伝送モジュールは、光電変換本体部18を有する。図4は、光電変換本体部18を示す図である。図5は、図2に示す光伝送モジュールのV−V線断面図である。光電変換本体部18は、電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含む。具体的には、一方の光電変換本体部18は、電気信号を光信号に変換する発光素子20及び電気信号を増幅するドライバ素子(図示せず)を内蔵した送信側の部品である。送信側の光電変換本体部18には、信号多重回路部品14からの信号出力を入力するための送信側同軸ケーブル22が接続されている。他方の光電変換本体部18は、光信号を電気信号に変換する受光素子24及び電気信号を増幅するアンプ素子(図示せず)を内蔵した受信側の部品である。受信側の光電変換本体部18には、光信号から変換された電気信号を信号分離回路部品16に伝達するための受信側同軸ケーブル26が接続されている。光電変換本体部18は、入出力端子28(図4参照)を有し、回路基板10に電気的に接続されるように搭載されている。光電変換本体部18の表面は、導電材料(例えば金属)からなる。
【0025】
光伝送モジュールは、光学結合部30を有する。光学結合部30は、光電変換本体部18の表面に設けられている。光学結合部30は、光ファイバ32を光電変換素子に光学的に接続するためのものであり、図示しないレンズ等を内部に有している。光学結合部30の表面は、導電材料(例えば金属)からなる。したがって、光電変換本体部18及び光学結合部30の表面は、相互に電気的に導通する。光学結合部30は、光電変換本体部18から離れる方向に先細りになる形状を有する。光学結合部30は、光電変換本体部18から垂直に突出している。光学結合部30の周囲は弾性体34によって覆われている。弾性体34は、光ファイバ32の屈曲保護のための部材であり、例えばゴムからなる。
【0026】
光伝送モジュールは、ケース36を有する。ケース36は金属からなる。ケース36は、上ケース38及び下ケース40を含む。ケース36は、回路基板10及び光電変換本体部18を内側に収容する。ケース36は、貫通穴42(図3及び図5参照)を有する。貫通穴42から光学結合部30が突出している。ケース36は、光学結合部30の少なくとも光電変換本体部18とは反対の端部を外側に出している。光学結合部30の周囲を、上述した弾性体34が覆っている。弾性体34は貫通穴42の内側に配置されている。
【0027】
貫通穴42の内側には、ケース36(上ケース38及び下ケース40)の内面に密着(圧接)するように、シール部材44が設けられている。光学結合部30及びその周囲の弾性体34がシール部材44を貫通している。シール部材44は、導電性の弾性材料からなり、ケース36の内部(回路基板10上の部品)で発生した不要電磁波が外部に漏洩することを抑制している。ただし、シール部材44のみによって電磁波を完全に遮断することは困難である。なお、電気コネクタ12の露出部については、光伝送モジュールが搭載される基板(図示せず)との間で十分な電磁波遮蔽構造を構成することは容易である。
【0028】
不要輻射をもたらすノイズ電流の発生源は、光電変換本体部18を含めた電子回路部品であり、これらの部品から発生したノイズ電流は、回路基板10上の不特定の導体パターンやケース36の内側表面付近などを経由して光伝送モジュールの内部の導体表面をあらゆる方向に伝播する。不要輻射はこのノイズ電流が導体の突出した形状の箇所に達することで、その部位をアンテナとして空間に輻射されることで発生する。回路基板10や光電変換本体部18で生じたノイズ電流は、その表面を経由して光学結合部30に達する。光学結合部30は前述の通り導体であり、且つ光電変換本体部18から突出しているため、光学結合部30は不要輻射を空間に放射するアンテナとして働く。
【0029】
光伝送モジュールは、導電抵抗部材46を有する。導電抵抗部材46は、光電変換本体部18及び光学結合部30のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなる。導電抵抗部材46は、カーボン粉末を混入させたゴムや、金属粉末を混入させたゴムから形成されている。導電抵抗部材46は、光電変換本体部18の光学結合部30が設けられる面に対向するように、ケース36の内側に配置されている。
【0030】
図6は、本実施形態に係る導電抵抗部材46を示す図である。導電抵抗部材46は、シート形状で切り欠き48を有している。この形状の導電抵抗部材46が、切り欠き48の内側に光学結合部30が配置される。変形例として、図7に示すように、導電抵抗部材146は、外縁から切り欠き148に至る切れ目150を有していてもよい。この例では、分割された複数の部材を組み合わせて導電抵抗部材146が構成される。
【0031】
他の変形例として、図8に示すように、導電抵抗部材246は、シート形状で穴248を有していてもよい。この例では、穴248の内側に光学結合部30を配置するために、導電抵抗部材246は、外縁から穴248に至る切れ目250を有している。さらに、図9に示すように、導電抵抗部材346には、穴348に至る複数の切れ目350が形成されていてもよい。
【0032】
導電抵抗部材46は、光電変換本体部18の表面に電気的に接続されていてもよいし、光電変換本体部18の表面とは電気的に絶縁されていてもよい。導電抵抗部材46は、送信側及び受信側の両方の光電変換本体部18に設けてもよいし、いずれか一方のみに設けてもよい。
【0033】
導電抵抗部材46は光電変換本体部18に密着させる必要はなく、電気的に導通させる必要はない。よって導電抵抗部材46を光電変換本体部18に固定する際に、図示しない両面テープや接着剤などの組立が平易で安価な固定方法を選択してもよい。導電抵抗部材46はその表面部分が導電性である必要はないので、光電変換本体部18や、上ケース38又は下ケース40に対して電気的に導通する必要はない。
【0034】
本実施形態に係る光伝送モジュールでは、導電抵抗部材46を光電変換本体部18に対向するように配置することで、ノイズ電流が、アンテナとなる光学結合部30に到達する前にノイズ電流を減衰させることが出来る。これによりケース36の貫通穴42からの不要輻射に対して大幅な抑制を実現することができる。そのメカニズムは、導電抵抗部材46が光電変換本体部18に電気的に導通している場合と、導電抵抗部材46が光電変換本体部18とは電気的に導通していない場合とでは異なるが、いずれの場合もノイズ電流を減衰させる効果がある。以下、そのメカニズムについて説明する。
【0035】
まず、導電抵抗部材46が存在しない従来技術の場合を考える。周波数が数〜数10GHzに及ぶミリ波帯では、導体を流れる電流は表皮効果のため導体表面から深さ0.数〜数μmまでの極浅い表面に集中する。例えば磁性体でない金属を伝わる電流の場合で、金属表面の電流に対し1/e(eは自然対数)すなわち約0.368倍の電流に減衰する深さは、電流の周波数fの平方根の逆数及び金属の導電率σの平方根の逆数に比例する。この深さは一般に浸透の深さと呼ばれる。比例定数は約503.3である。具体例で述べると、例えば10GHzの電流が導電率40MS/mのアルミ導体を流れる場合、0.368倍の電流に減衰する深さは0.8μm、40GHzの場合は約0.4μmとなる。光電変換本体部18も導体であり、ノイズ電流も数〜数10GHzの電流のため、光電変換本体部18を流れるノイズ電流は、0.数〜数μmといった極浅い表面に集中して流れている。
【0036】
次に、導電抵抗部材46が光電変換本体部18に接触して電気的に導通している場合を考える。導電抵抗部材46を光電変換本体部18に電気的に接続した場合、導電抵抗部材46と光電変換本体部18は、部分的に導電率が異なる1つの導体と見なせる。よってノイズ電流の大半は導電抵抗部材46の表面から、導電抵抗部材46の導電率で求まる浸透の深さに応じた深さの範囲に集中する。導電抵抗部材46の導電率と厚さを適切にすることで、ノイズ電流の大半を光電変換本体部18ではなく、導電抵抗部材46に集中させることが出来る。導電抵抗部材46の体積抵抗率を例えば5Ω・cmとすると、導電率は20S/mであるから導電抵抗部材46を流れる電流の大半は、40GHzでは表面からの深さ0.56mm、10GHzでは表面からの深さ1.13mmを流れる。よってこの場合導電抵抗部材46の厚さを1mm以上にすれば、ノイズ電流の大半を導電抵抗部材46に集中させることが出来る。高周波電流が抵抗体に流れると電流の一部はジュール熱となって消費されるため、ノイズ電流を減衰させる効果が得られる。
【0037】
次に、導電抵抗部材46が光電変換本体部18から僅かに離れて電気的に導通していない場合を考える。前述のとおり、ノイズ電流は光電変換本体部18の表面から深さ0.数〜数μmといった極浅い表面に集中して流れている。導電抵抗部材46を光電変換本体部18から僅かに離れた位置に配置すると、ノイズ電流による磁界が導電抵抗部材46に交差する。ノイズ電流は高周波電流であり時間的に変化しているため、導電抵抗部材46に起電力を発生させ、導電抵抗部材46にノイズ電流による磁界を打ち消す方向に誘導電流を生じさせる。結果、光電変換本体部18を流れるノイズ電流の一部は等価的に導電抵抗部材46を流れることになり、前述の通りノイズ電流の一部がジュール熱となって消費されるため、ノイズ電流を減衰させる効果が得られる。
【0038】
上述の通り本実施形態に係る光伝送モジュールでは、前述の従来技術に挙げた金属製のキャップは不要であり、また光学結合部30を被う弾性体34に導電性の材料を使用する必要がないため、ファイバーサイドプル試験に際して特性劣化を招く恐れもなく、光伝送モジュールを搭載する側の基板(図示せず)の有効実装面積の現象を招く恐れもなく、緻密な構造設計を不要とする低コストな方法で不要な電磁波の放射を抑制することが出来る。さらに不要電磁波の漏洩箇所、放射箇所を対策する技術ではなく、放射の原因となるノイズ電流に対して、ノイズ電流を供給する経路側での低減技術であるため、光伝送モジュールの外形形状に影響を与えることなく実施でき、さらに製品化直前のEMI (Electro Magnetic Interference)評価で特性改善が必要と判明した場合などにも、短期間での追加抑制対策として実施できる。
【0039】
米国のEMI (Electro Magnetic Interference)規格であるFCC (Federal Communications Commission) Standard Part15 SubpartB ClassB規格(3m測定法)では、1Gbit/sから40Gbit/sまでのAverage測定時の放射電界強度限界値として53.9dB(μV/m)が示されている。そこで、本実施形態では、この限界値に対して6dBのマージンを持った47.9dB(μV/m)を、当該装置における放射電界強度の目標上限値とした。
【0040】
本実施形態に係る光伝送モジュールの不要な電磁波放射の抑制効果を図10、図11に示す。図10は、導電抵抗部材46を受信側の光電変換本体部18に適用した場合の不要電磁波の抑制効果を表す。測定周波数は39.8GHz、縦軸はモジュールから3mの距離での不要電磁波の放射電界強度、白の棒グラフは垂直方向の電界強度、黒の棒グラフは水平方向の電界強度、横軸は導電抵抗部材46の光電変換本体部18からの距離を示している。但し横軸の左端の棒グラフのみ導電抵抗部材46がない場合を示す。
【0041】
導電抵抗部材46がない場合と、導電抵抗部材46を光電変換本体部18から0mmの距離においた場合では、導電抵抗部材46を光電変換本体部18から0mmの距離においた時の方が、不要輻射が約10dB低減する。また距離を0.5mm、1.0mmと離す事で低減量は9dB弱、8dB弱と効果は減少するものの、依然として47.9dB(μV/m)を大幅に下回る低減効果が得られる。
【0042】
図11は、導電抵抗部材46を送信側の光電変換本体部18に適用した場合の不要電磁波の抑制効果を表す。測定周波数は39.8GHz、縦軸はモジュールから3mの距離での不要電磁波の放射電界強度、白の棒グラフは垂直方向の電界強度、黒の棒グラフは水平方向の電界強度、横軸は導電抵抗部材46の有無を示す。導電抵抗部材46がない場合と、導電抵抗部材46を光電変換本体部18に適用した場合では、導電抵抗部材46を光電変換本体部18に適用した場合の方が、不要輻射が約10dB低減する。
【0043】
導電抵抗部材46の材料は、導電性のゴムが好適である。例えば、導電性ミラブル型シリコーンゴムなどが好適であり、既存のものでは導電性フィラーとしてカーボンブラックを混入した白金加硫型のミラブル型シリコーンゴム(体積抵抗率:5Ω・cm、タイプA硬さ:60)なども適している。上述の導電ゴム部材を用いると、体積抵抗率5Ω・cm、すなわち導電率は20S/mであり、電波の浸透の深さはたとえば40GHzでは0.56mm、10GHzでは1.13mmとなるため、導電抵抗部材46の厚さが、例えば、1.5mm程度でも充分なノイズ電流抑制効果が得られ、不要な電磁波放射を抑制できる。但し、導電抵抗部材46の材料を、体積抵抗率が5Ω・cm以下のものに限定するものではない。
【0044】
また、上記のカーボンブラックを混入したシリコーンゴムは、金属フィラーの混入もハロゲン化物の含有もないため、金属フィラーの脱落による回路の短絡や腐食、ハロゲン化物に起因する脱酸素、脱ハロゲンの問題がなく、安全性や信頼性の確保、腐食耐性などの面でも特に優れている。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態で説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0046】
10 回路基板、12 電気コネクタ、14 信号多重回路部品、16 信号分離回路部品、18 光電変換本体部、20 発光素子、22 送信側同軸ケーブル、24 受光素子、26 受信側同軸ケーブル、28 入出力端子、30 光学結合部、32 光ファイバ、34 弾性体、36 ケース、38 上ケース、40 下ケース、42 貫通穴、44 シール部材、46 導電抵抗部材、48 切り欠き、146 導電抵抗部材、148 切り欠き、150 切れ目、246 導電抵抗部材、248 穴、250 切れ目、346 導電抵抗部材、348 穴、350 切れ目。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と、
電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含み、前記回路基板に電気的に接続されるように搭載された光電変換本体部と、
前記光電変換本体部の表面に設けられた、光ファイバを前記光電変換素子に光学的に接続するための光学結合部と、
前記光学結合部の少なくとも前記光電変換本体部とは反対の端部を外側に出して、前記回路基板及び前記光電変換本体部を内側に収容するケースと、
導電抵抗部材と、
を有し、
前記光電変換本体部及び前記光学結合部の表面は、それぞれ、導電材料からなり、相互に電気的に導通し、
前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部及び前記光学結合部のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなり、前記光電変換本体部の前記光学結合部が設けられる面に対向するように、前記ケースの内側に配置されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面に電気的に接続されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面とは電気的に絶縁されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記ケースは、貫通穴を有する金属からなり、
前記貫通穴から前記光学結合部が突出していることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記貫通穴の内側に、前記光学結合部の周囲を覆う弾性体をさらに有することを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記光学結合部は、前記光電変換本体部から離れる方向に先細りになる形状を有することを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、シート形状で穴又は切り欠きを有し、前記穴又は前記切り欠きの内側に前記光学結合部が配置されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、外縁から前記穴又は前記切り欠きに至る切れ目を有することを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、カーボン粉末を混入させたゴムからなることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、金属粉末を混入させたゴムからなることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項1】
回路基板と、
電気及び光の一方を他方に変換する光電変換素子を内部に含み、前記回路基板に電気的に接続されるように搭載された光電変換本体部と、
前記光電変換本体部の表面に設けられた、光ファイバを前記光電変換素子に光学的に接続するための光学結合部と、
前記光学結合部の少なくとも前記光電変換本体部とは反対の端部を外側に出して、前記回路基板及び前記光電変換本体部を内側に収容するケースと、
導電抵抗部材と、
を有し、
前記光電変換本体部及び前記光学結合部の表面は、それぞれ、導電材料からなり、相互に電気的に導通し、
前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部及び前記光学結合部のいずれよりも高い電気抵抗を有する導電材料からなり、前記光電変換本体部の前記光学結合部が設けられる面に対向するように、前記ケースの内側に配置されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面に電気的に接続されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、前記光電変換本体部の前記表面とは電気的に絶縁されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記ケースは、貫通穴を有する金属からなり、
前記貫通穴から前記光学結合部が突出していることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記貫通穴の内側に、前記光学結合部の周囲を覆う弾性体をさらに有することを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記光学結合部は、前記光電変換本体部から離れる方向に先細りになる形状を有することを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、シート形状で穴又は切り欠きを有し、前記穴又は前記切り欠きの内側に前記光学結合部が配置されていることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、外縁から前記穴又は前記切り欠きに至る切れ目を有することを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、カーボン粉末を混入させたゴムからなることを特徴とする光伝送モジュール。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載された光伝送モジュールにおいて、
前記導電抵抗部材は、金属粉末を混入させたゴムからなることを特徴とする光伝送モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−210957(P2011−210957A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77250(P2010−77250)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】
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