説明

光信号対雑音比を測定する装置および方法

【課題】光スペクトル測定を行うことなく、光増幅器で増幅された信号光の光信号対雑音比(光SNR)測定を行う。
【解決手段】本発明の一実施形態によれば、光SNRを測定する装置が提供される。この装置は、光を電気信号に変換して光パワーを検出する光パワー検出手段と、光に含まれる信号光に対応する電気信号から信号光パワーを検出する信号光パワー検出手段と、光パワーから信号光パワーを減算して光に含まれる雑音光パワーを求める減算手段と、信号光パワーと雑音光パワーを除算する除算手段とを備える。除算手段の出力は、光SNRに対応しているので光SNRの測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光の信号対雑音比を測定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離光伝送システムでは、伝送路である光ファイバの損失を補償するために、数十kmおきに光増幅器を配置し、減衰した信号光を増幅する。信号光が光増幅器によって増幅される際には、同時に自然放出光も発生し、この自然放出光が光増幅器内で増幅された、増幅自然放出(ASE:Amplified Spontaneous Emission)光が信号光に重畳する。このASE光は伝送路に多段に接続された各光増幅器で重畳されるため、信号光が光増幅器で増幅されるたびにASE光は累積的に増加することになる。
【0003】
ASE光は信号光に対して雑音成分となるため、信号光とASE光の比により光信号対雑音比(光SNR)が決まる。一方で、光伝送システムにおいて必要な伝送特性(例えば、ビット誤り率10-12以下など)を得るためには、一定値以上の光SNRが必要になる。そのため、光伝送システム運用上において、光SNRを監視し、十分な光SNRが得られるように光伝送システムに組み込まれている個々のデバイスを制御する必要がある。
【0004】
図7に、光増幅器で増幅された信号光のスペクトルを示す。この図は、波長多重された11波の信号光を増幅したときの光スペクトルを示している。信号光には光増幅器で増幅された際にASE光が重畳されている。図8は、このようにASE光が重畳された信号光の光SNR測定方法を説明するための図であり、図7に示した光スペクトルの1548nm近傍を拡大したものである。
【0005】
図8において矢印で示した信号光パワーとASEレベルの比がこの信号光の光SNRとなる。従って、光SNRを測定するためには、信号光パワーとその信号光波長近傍のASEレベルが必要となる。このため、光SNR測定には光スペクトルを測定する光スペクトルアナライザが必要となる(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特許第3569217号公報(例えば、〔従来の技術〕欄)
【非特許文献1】神徳、他、「高次モードを利用したAWGの透過特性の平坦化法」、2002年電子情報通信学会総合大会、C−3−66、pp.198
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光SNR測定装置に光スペクトルアナライザを装備する場合、装置の小型化および低価格化の点で問題となる。すなわち、信号光パワーとその近傍のASEレベルを測定するためには、波長分解能の良い光スペクトルアナライザが要求される。そのため、従来技術では、このような光スペクトルアナライザを小型かつ低コストで実現するのに限界がある。
【0008】
小型で低コストタイプの光スペクトルアナライザでは、高密度で波長多重化された信号光を、信号光の光パワー測定のために各波長ごとに分波するには十分な波長分解能はあっても、各波長近傍のASEレベルを測定するには不十分な場合がある。反対に、ASEレベルを測定するのに十分な波長分解能をもつ光スペクトルアナライザでは、サイズおよびコストが増大し、光SNR測定装置に装備する上で問題となる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光スペクトル測定を行うことなく、光増幅器で増幅された信号光の光SNR測定を行う技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、光信号対雑音比を測定する装置であって、光を電気信号に変換して検出する第1の検出手段と、前記光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出する第2の検出手段と、前記第1の検出手段での検出値から前記第2の検出手段での検出値を減算する減算手段と、前記第1の検出手段での検出値と前記減算手段での減算値を除算する除算手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、波長多重光の光信号対雑音比を測定する装置であって、前記波長多重光を各波長の光に分波する分波手段と、前記分波された光を電気信号に変換して検出する第1の検出手段と、前記分波された光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出する第2の検出手段と、前記第1の検出手段での検出値から前記第2の検出手段での検出値を減算する減算手段と、前記第1の検出手段での検出値と前記減算手段での減算値を除算する除算手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の装置であって、前記分波手段は、フラットな透過スペクトル特性を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の装置であって、前記信号光に対応する電気信号を透過するフィルタ手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、光信号対雑音比を測定するための方法であって、光を電気信号に変換して検出することと、前記光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出することと、前記光を電気信号に変換して検出した値から前記信号光に対応する電気信号を検出した値を減算することと、前記光を電気信号に変換して検出した値と前記減算した値を除算することとを備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、波長多重光の光信号対雑音比を測定するための方法であって、前記波長多重光を各波長の光に分波することと、前記分波された光を電気信号に変換して検出することと、前記分波された光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出することと、前記分波された光を電気信号に変換して検出した値から前記信号光に対応する電気信号を検出した値を減算することと、前記分波された光を電気信号に変換して検出した値と前記減算した値を除算することとを備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の方法であって、前記信号光に対応する電気信号を選択的に透過することをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による光SNR測定装置は、光スペクトルアナライザを用いることなく、光増幅器で増幅され信号光の光SNR測定を行うことができる。そのため、光SNR測定を小型および低コストで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態による光SNR測定装置の一例を示すブロック図である。この光SNR測定装置100は、ASE光が重畳された信号光を受光するフォトダイオード(PD)102と、受光した電気信号を分配する分配器104と、分配した電気信号の一方を増幅する高周波増幅器106と、増幅した電気信号をフィルタするバンドパスフィルタ(BPF)108と、フィルタした電気信号を検出する検出器110とを備えている。また、光SNR測定装置100は、検出器110で検出した信号を分配する分配器112と、分配した検出信号の一方から分配器104で分配した電気信号の他方を減算する減算回路114と、減算した信号を分配器112で分配した検出信号の他方で除算する除算回路116とをさらに備えている。
【0019】
ASE光が重畳された信号光がフォトダイオード102に入射すると、信号光パワーとASE光パワーの合計に相当する電流が発生する。この電流は電圧に変換された後、分配器104で2方向に分配される。その一方は、必要に応じて増幅器(図示せず)により増幅された後、減算回路114に入力される。この減算回路114への入力は、信号光とASE光の合計の光パワー値に相当するものである。
【0020】
他方、分配器104で分配されたもう一方の信号は高周波増幅器106で増幅される。この高周波増幅器106は、信号光の変調ビットレート値の周波数成分を十分増幅できる増幅帯域を有する。高周波増幅器106の出力はバンドパスフィルタ108で信号光のビットレート値と同じ周波数成分を透過させ、RFパワー検出器110でその周波数成分のパワーが検出される。このバンドパスフィルタ108は、信号光のビットレート値と同じ周波数成分を透過させるハイパスフィルタ(高域透過フィルタ)に置き換えても良い。ハイパスフィルタを使用した場合は、信号光のビットレート値の整数倍の周波数成分を主に透過させることになる。ここで検出されるRFパワーは信号光パワーに対して一意に決まる値であり、適切な係数をかけることにより信号光パワー値となる。
【0021】
RFパワー検出器110の出力信号は分配器112で分配され、一方が前述の減算回路114のもう一方の入力端子へ入力される。減算回路114への2入力はそれぞれ、信号光とASE光の合計の光パワー値および信号光パワー値に相当するものである。そのため、減算回路114の出力はASE光パワーに相当するものである。従って、減算回路114の出力と、分配器112のもう一方の出力との比を除算回路116で演算することにより、光SNR値に相当する電圧を出力として得ることができる。なお、本発明は、信号光のビットレート値と同じ周波数成分の電気信号を利用して信号光のパワーを検出し、これにより光SNRを測定するものであれば、本実施形態の構成に限定されない。
【0022】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態による光SNR測定装置の構成例を示すブロック図である。この構成例では、本発明の第1の実施形態による複数の光SNR測定装置を用いて、波長多重された複数の信号光の光SNRを各波長ごとに測定することができる。この構成例では、伝送用の光ファイバ202と、光ファイバ202から信号光を分岐する光カプラ204と、分岐した信号光を分波する光分波器206と、分波された各波長の信号光の光SNR測定を行うN個の光SNR測定装置100−1〜100−Nとで構成されている。
【0023】
本実施形態において、光ファイバ202を伝搬する波長多重された信号光が光カプラ204でパワー分岐される。分岐された信号光は、分波器206で波長多重された信号光を波長ごとにN個の信号光に分波する。例えば、40波の波長多重された信号光が光分波器206の入力ポートに入力され、40波の信号光がそれぞれ分波されて出力ポートから出力される。
【0024】
図3は、光分波器206の1つの出力ポート(中心波長1550nm)での透過スペクトル形状を示している。この透過スペクトルの中心波長は、このポートを透過する信号光の中心波長と一致しており、この透過スペクトルの3dB帯域幅は、約0.45nmである。このときASE光が重畳された信号光が入射すると、波長1550nmの信号光およびその近傍約0.45nmの帯域幅にあるASE光がこの分波器のポートを透過し、光SNR測定装置に入射する。なお、その他の波長の出力ポートも同様の透過スペクトル形状を有している。
【0025】
図4に、異なる光SNRを有する波長1550nmの信号光について、本発明の光SNR測定装置を用いて光SNRを測定した結果を示す。波長1550nmの信号光の光SNRは、光SNR測定装置に入力する前に光スペクトルアナライザで測定しており、その値を図4の横軸に、本発明の光SNR測定装置によって測定した光SNRを縦軸に示している。光スペクトルアナライザで測定した光SNRと本発明の光SNR測定装置で測定した光SNRが一致した場合、測定点が図4に示した直線上にあることになる。
【0026】
図4から、本発明の光SNR測定装置によって測定した光SNRは、入力信号光の光SNRとほぼ一致していることがわかる。また、本発明の光SNR測定装置によって光SNRは0.7dB以下の誤差で測定できていることがわかる。同様に、その他の波長の出力ポートにおいても、本発明の光SNR測定装置によって光SNRが0.7dB以下の誤差で測定できていることを確認した。
【0027】
このように、本発明による光SNR測定装置は、光スペクトル測定を行うことなく、ASE光が重畳された信号光の光SNRを測定することができる。
【0028】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態による光SNR測定装置の構成例は、図2に示した第2の実施形態と同様であるが、分波器206の透過スペクトル形状が異なる。図5に、本実施形態での分波器の1つの出力ポート(中心波長1550nm)での透過スペクトル形状を示す。この透過スペクトル形状は、第2の実施形態で使用した分波器とは異なり、透過率ピーク近傍での波長依存性が小さく、フラットなものとなっている。このような分波器としては、入射導波路形状を変形する手法、AWGとMZIを縦続接続する手法、高次モードを利用した手法などによるものが知られている(非特許文献1参照)。
【0029】
第2の実施形態の光SNR測定装置では、分波器の透過スペクトル形状がガウシアンに近く透過率ピーク波長から少しでも信号光波長がずれると、過剰な透過損失が付加される。そのため、信号光パワーの検出値が小さくなり、その結果、光SNR測定に誤差を生じる。一方、本実施形態の光SNR測定装置で使用されている分波器は透過スペクトル形状がピーク近傍で約±0.2nm(0.4nm)にわたりフラットになっている。そのため、信号光波長が約±0.2nm程度中心波長からずれても光SNR測定に過剰な誤差は生じない。
【0030】
図6に、信号光の波長ずれ(中心波長より長波長側にずれた場合)に対する光SNR測定誤差変化について、本実施形態による光SNR測定装置と第2の実施形態による光SNR測定装置を用いた場合の結果を示す。第2の実施形態による光SNR測定装置では、信号光の波長ずれに対して急激に光SNR測定誤差が増加したが、本実施形態による光SNR測定装置では、信号光波長ずれ0.2nmまでほぼ一定の光SNR測定誤差が得られた。なお、信号光波長ずれによる光SNR測定誤差は、信号光波長が短波長側へずれた場合も同様の結果が得られた。
【0031】
さらに本実施形態による光SNR測定装置では、分波器の透過スペクトル形状がピーク近傍でフラットになっているため、信号光波長近傍のASE光もより多く検出することになり、その結果、光SNR測定可能範囲を第2の実施形態光SNR測定装置と比較して約2dB程度拡大することができた。
【0032】
以上、本発明について、具体的にいくつかの実施形態について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態による光SNR測定装置の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態による光SNR測定装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による光分波器の1つの出力ポートでの透過スペクトル形状を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による光SNR測定装置を用いて、光SNRを測定した結果を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態による光分波器の1つの出力ポートでの透過スペクトル形状を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による光SNR測定装置と第3の実施形態による光SNR測定装置を用いた場合の信号光の波長ずれに対する光SNR測定誤差を示す図である。
【図7】光増幅器で増幅され、ASE光が重畳された信号光のスペクトルを示す。
【図8】ASE光が重畳された信号光の光SNRを測定する方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0034】
100,100−1〜100−N 光SNR測定装置
102 フォトダイオード
104 分配器
106 増幅器
108 バンドパスフィルタ
110 検出器
112 分配器
114 減算回路
116 除算回路
202 光ファイバ
204 光カプラ
206 光分波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号対雑音比を測定する装置であって、
光を電気信号に変換して検出する第1の検出手段と、
前記光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検出手段での検出値から前記第2の検出手段での検出値を減算する減算手段と、
前記第1の検出手段での検出値と前記減算手段での減算値を除算する除算手段と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項2】
波長多重光の光信号対雑音比を測定する装置であって、
前記波長多重光を各波長の光に分波する分波手段と、
前記分波された光を電気信号に変換して検出する第1の検出手段と、
前記分波された光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検出手段での検出値から前記第2の検出手段での検出値を減算する減算手段と、
前記第1の検出手段での検出値と前記減算手段での減算値を除算する除算手段と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置であって、
前記分波手段は、フラットな透過スペクトル特性を有することを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の装置であって、
前記信号光に対応する電気信号を透過するフィルタ手段をさらに備えたことを特徴とする装置。
【請求項5】
光信号対雑音比を測定するための方法であって、
光を電気信号に変換して検出することと、
前記光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出することと、
前記光を電気信号に変換して検出した値から前記信号光に対応する電気信号を検出した値を減算することと、
前記光を電気信号に変換して検出した値と前記減算した値を除算することと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
波長多重光の光信号対雑音比を測定するための方法であって、
前記波長多重光を各波長の光に分波することと、
前記分波された光を電気信号に変換して検出することと、
前記分波された光に含まれる信号光に対応する電気信号を検出することと、
前記分波された光を電気信号に変換して検出した値から前記信号光に対応する電気信号を検出した値を減算することと、
前記分波された光を電気信号に変換して検出した値と前記減算した値を除算することと
を備えることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法であって、
前記信号光に対応する電気信号を選択的に透過することをさらに備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−244163(P2009−244163A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92335(P2008−92335)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】