光偏向器、光偏向器を用いた光学機器
【課題】バンディングが出ず、等速度で光を走査できる小型な構成に容易にできる光偏向器、及びそれを用いる光学機器を提供する。
【解決手段】光偏向器は、光源101と、光を透過する光偏向素子102と、駆動手段103とを有する。光偏向素子102は、光源101からの光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有し、均一の屈折率を持つ。駆動手段103は、光源101と光偏向素子102との位置関係を相対的に変化させるべく光源と光偏向素子を相対的に往復運動させる。光源101と被走査体104との間に光偏向素子102が配され光源101からの光が光偏向素子102で偏向される。
【解決手段】光偏向器は、光源101と、光を透過する光偏向素子102と、駆動手段103とを有する。光偏向素子102は、光源101からの光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有し、均一の屈折率を持つ。駆動手段103は、光源101と光偏向素子102との位置関係を相対的に変化させるべく光源と光偏向素子を相対的に往復運動させる。光源101と被走査体104との間に光偏向素子102が配され光源101からの光が光偏向素子102で偏向される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器、及びこれを用いてパターンの認識、出力などを行うバーコードスキャナ、レーザビームプリンタなどの画像形成装置等の光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バーコードスキャナ、レーザビームプリンタ等に用いられる光偏向器として、ポリゴンミラーを回転させることで、ポリゴンミラーに形成されたミラー面に当たる光の出射角度を変化させ、光を走査するものがある(特許文献1参照)。
【0003】
ポリゴンミラーを用いない光偏向器としては、凹面鏡を光走査方向に往復直線運動させ、凹面鏡に入射する光の反射角度を変化させることで、光を走査するものがある(特許文献2参照)。
【0004】
また、光源と屈折率分布型レンズとが近距離に配置される光偏向器も提案されている(特許文献3参照)。ここでは、光源と屈折率分布型レンズを相対的に移動させることにより、光を走査している。
【特許文献1】特開2005−037502号公報
【特許文献2】特開2003−005121号公報
【特許文献3】特開平9−166758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の光偏向器では、ポリゴンミラーの有する複数のミラー面が回転軸に対して傾き(所謂面倒れ)があるとき、光の走査の間隔を一定に保てず、印刷された画像に規則的に横縞(バンディング)が出てしまうことがある。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の光偏向器では、凹面鏡と被走査体との間に光源を設ける必要があり、凹面鏡で反射される光の進行を妨げない様にする為、凹面鏡の光軸と光源の光軸をずらすことが行われる。よって、その分、光偏向器の厚みが増しやすく、これを用いる光学機器のサイズが増大しやすくなる。
【0007】
また、上記特許文献3に記載の光偏向器では、例えば、20cm走査するのに光偏向器と被走査体との距離を30cm離す必要があり、パターン認識・出力システムのサイズが増大しやすくなる。また、屈折率分布型レンズの作製には、イオン交換法を用いるのが一般的であるが、イオン交換法では、その交換表面からイオン交換が進行し、イオン濃度分布ができる。よって、屈折率分布はこの現象に従うことになり、例えば、モールド法や削り出し等により作られるレンズ等に比べて設計自由度が低くなりやすい。例えば、上記相対的な移動を単純な正弦波駆動として、等速度での光の走査を実現するのは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の光偏向器は、光源と、光を透過する光偏向素子と、駆動手段とを有する。前記光偏向素子は、前記光源からの光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有し、均一の屈折率を持つ。前記駆動手段は、前記光源と前記光偏向素子との位置関係を相対的に変化させるべく前記光源と前記光偏向素子を相対的に往復運動させる。そして、前記光源と被走査体との間に前記光偏向素子が配され前記光源からの光が前記光偏向素子で偏向される。
【0009】
また、上記課題に鑑み、本発明の画像形成装置などの光学機器は、上記光偏向器と、被走査体と、を有し、前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記被走査体に入射させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バンディングが出ず、等速度で光を走査できる小型な構成に容易にできる光偏向器を実現することができる。
【0011】
即ち、本発明の光偏向器及び光学機器によれば、ポリゴンミラーの様に複数の面で走査する方式を用いないので、バンディングが発生しない。また、本発明の光偏向器及び光学機器によれば、反射型の素子を用いないので、光の走査を阻害するのを避けるための光学的な配置などの制限がなく、システムを小型に容易に設計できる。更に、本発明の光偏向器及び光学機器によれば、屈折率分布型レンズを用いないので、光を等速度で走査するために必要な光偏向面の設計を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施形態は、光源と、曲面を有する光透過型の光偏向素子と、光源と光偏向素子との位置関係を相対的に変化させこれらを相対的に往復運動させる駆動手段とを備え、光源と被走査体との間に光偏向素子が配される基本的な構成を有する。これにより、上記課題を解決する。
【0013】
一実施形態では、図1に示す様に、光源101と被走査体104との間に、駆動手段103に支持された光透過型の均一の屈折率の光偏向素子102を配し、光源101の光軸106に対して光偏向素子を矢印105方向に往復運動させる。この往復運動により、図1(a)の位置⇒図1(b)の位置⇒図1(a)の位置⇒図1(c)の位置⇒図(a)の位置のサイクルで光偏向素子102が動き、これにより被走査体104上に光を走査できる。ここで、光源101と光偏向素子102との位置関係が大きくずれる程、光偏向素子102による光の偏向の度合いが大きくなるよう光偏向素子102の屈折率、形状などが設計される。上記構成では光偏向素子102を動かしたが、光源101側を駆動手段(不図示)で支持し、往復運動させても構わない。
【0014】
また、図1の図示例では、光偏向素子102は、光の入射側の面が平面で、光の出射側の面が凹形状であるが、光偏向素子の光出射側の面は凸形状であっても構わない。更に、光偏向素子の光入射側の面も平面に限らず、凹形状、凸形状などであっても構わない。即ち、光偏向素子は、光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有すればよい。その形状は、仕様に応じて決めればよい。光偏向素子は、屈折率分布レンズの様な大型の光学素子とはならないので、駆動手段を駆動させるのに必要なエネルギーも比較的小さくできる。
【0015】
上記構成において、光源101と光偏向素子102との相対的な位置関係の変化の速度が等速度であれば、図13(b)に示す様に、光源101と光偏向素子102との位置関係がずれる程、被走査体上の光走査速度は速くなる。
【0016】
ここで、光偏向素子の設計の一例について、図12を用いて説明する。被走査体104の被走査部の幅をW1とする。光偏向素子102の幅をW2とする。光源101(図12では不図示)から発せられる光が偏向される角度をθ1とする。また、θ2は、光偏向素子102の有する所定の面の駆動の方向(ここでは図12の上下方向)に対してなす角度とする。Lは、光偏向素子102と被走査体104との距離である。このとき、W1とLとθ1との間には次の関係式(式1)が成り立つ。
【0017】
【数1】
【0018】
また、空気の屈折率をN1、光偏向素子102の屈折率をN2とした場合、次の関係式(式2)が成り立つ。
【0019】
【数2】
【0020】
式1と式2を用いθ2の式を導くと、次の関係式(式3)が得られる。
【0021】
【数3】
【0022】
光偏向素子102の凹面を図12(c)の様に、円形状の一部とする場合、W2の値を決めることで、次の関係式(式4)が得られ、式3と式4よりRを求めることができる。
【0023】
【数4】
【0024】
W2の1/2の値が、光源101と光偏向素子102との相対的な位置変化の量となる。W2の値は、上記駆動手段に用いる駆動力(例えば、磁力、静電力、圧電体などを利用した応力、モータなどを用いる)や、支持用の梁などの設計範囲に応じて設計される。上では、光源と光偏向素子との位置関係がずれる程、被走査体上の光走査速度は速くなると述べた。しかし、ここにおいて、必要に応じて(特に、θ1の値が大きい場合)、Fθレンズなどを光路の途中に設けるなどして、被走査体上を光で走査する際の走査速度が等速度となる様に補正することができる。
【0025】
次に、Fθレンズを用いずに、被走査体上を等速度で走査する場合の設計について説明する。等速度の走査速度をVとすると、次の関係式(式5)が成り立つ(tは時間)。
【0026】
【数5】
【0027】
ここで、光軸に垂直な方向に光偏向素子が共振駆動(角周波数:ω)される場合、tについて、次の関係式(式6)が成り立つ(A は共振駆動の振幅、xは、光源の光軸と光偏向素子の光軸が一致する点を原点として共振駆動における各時間の変位量)。
【0028】
【数6】
【0029】
式5と式2より、次の関係式(式7)が得られる。
【0030】
【数7】
【0031】
式6と式7より、次の関係式(式8)が得られる。
【0032】
【数8】
【0033】
ここで、光偏向素子102の曲面F(X1)は、次の式9で与えられる(X1は光偏向素子の光軸からの距離、F(X1)は、光偏向素子の曲面の光軸上の点から曲面のX1における点までの光軸方向の高さであって、曲面の形状を表す)。
【0034】
【数9】
【0035】
式8と式9より、次の式10を得ることができ、F(X1)を求めることができる。
【0036】
【数10】
【0037】
F(X1)よりなる曲面の形状を有する光偏向素子を備える光偏向器は、Fθレンズを用いなくても、被走査体上を等速度に走査することが可能となる。
【0038】
上記の設計例において、例えば、被走査部の幅W1を210mm(A4の短い方向の長さに相当)、Lを100mmとした場合、θ1は約46度となる。空気の屈折率N1を1、光偏向素子の屈折率N2を1.6とした場合、式3によれば、θ2は約38度となる。光偏向素子の幅W2を2mmとする場合、Rは1.6mmとなる。
【0039】
光偏向素子の幅W2を2mmとする場合、往復運動量は±1mmとなる。最大の変位量が1mmとなり、最大変位量1mmと駆動態様(例えば、共振で駆動させるか否か)によって駆動手段の形態が変化する。駆動手段の形態の選択肢としては、梁支持とするかどうか、梁支持の場合の梁の形状、駆動力の選択、材質などがある。上記光偏向素子の曲面形状は、必要に応じて、図2に示す様なフレネルレンズの形状とすることもできる。
【0040】
以上の様に、光源101からの光束は、例えば、コリメータレンズを通してコリメート光にされて、光偏向素子102に照射され、透過と共に集光されて被走査体104に到達する。そして、上記の如く、光偏向素子102の表面形状等は、種々のファクタから決まり、被走査体104の表面において所望の集光スポットとなり、且つ光束の走査範囲が所望の値となるように設計される。ファクタとしては、被走査体の形状と長さ、被走査体までの距離、コリメート光のスポットサイズ、光偏向素子の往復運動の範囲と態様、光偏向素子の往復運動方向と被走査体上の走査方向の関係(通常、平行)、被走査体上の走査速度(通常、等速)、等がある。上記の光偏向素子の設計法は一例であり、一般的には、この設計は、光偏向素子の各点に入射する光束が被走査体の所望の各点に到達する為に要求される光偏向素子の表面形状をコンピュータを用いて求める様なレンズ設計法で行われ得る。
【0041】
次の様な形態も可能である。ここでは、光源と、曲面を有する光偏向素子と、光源と光偏向素子との位置関係を相対的に変化させこれらを相対的に往復運動させる駆動手段と、反射素子とを備え、光偏向素子と被走査体との間に反射素子が配される。光偏向素子からの光は、反射素子で反射される。
【0042】
図11(又は図8)に示す様に、反射素子1501(又は1201)を設けることで、PCB基板1502(又は1202)に設置する光偏向器1503の取り付け形態を図11(a)から図11(b)の様に変えられる。光偏向器が図3に示す様な板状の構造体が積層した様な形態の場合、図11(b)の取り付け形態は、図11(a)の如く立てて取り付けるのに比べて、取り付けが容易且つ安定で、設置高さ1505に比べて設置高さ1506を低くできる。駆動手段、光源などを例えば半導体プロセスを用いて作製する場合、光偏向器は数mmの高さで作製することも可能である。この場合、一般的な回路チップをPCB基板に実装するのと同じ様に光偏向器の実装ができるので、設置後、振動等で図11中の破線で示す光線がぶれるのが起きにくくなる。尚、図8において、1203は感光ドラムなどの被走査体であり、図8(b)の矢印1204は図8(a)の配置を見る方向を示す。図11において、1504は感光体などの被走査体である。また、図8において、図1に示すものと同様の機能の部分は図1における符号と同符号で示す。
【0043】
前述した様に、典型的には、光偏向器により等速度で光を走査することができる。光を等速度で走査することで、例えば光を周期的にオン、オフしながら走査する場合において、そのオン、オフの間隔に粗密が発生しない。光を等速度で走査しない場合、オン、オフの間隔に粗密が発生しやすくなる。その粗密を無くすには、光をオン、オフするための電気信号処理部の電気信号の補正が必要となる。
【0044】
また、前述した様に、駆動手段の駆動に共振を用いることができる。駆動に共振を用いることにより、第一に、共振でない場合に比べて格段に小さなエネルギーで駆動手段を駆動できる。第二に、光源と光偏向素子との間の相対的な往復運動について正弦波駆動を容易に実現できる。ここで、光偏向素子の光偏向特性と、光偏向素子の移動速度の変化の関係を図13で説明する。図13(c)は、駆動手段が正弦波駆動する場合の、光源101と光偏向素子102の位置関係と、光偏向素子102の移動速度との関係を示したものである。正弦波駆動の場合、光源101と光偏向素子102との相対的な位置変化が大きくなるのに従って、位置変化の速度は低下する。上述した図13(b)の特性と図13(c)の特性とをあわせると、図13(d)に示す様に被走査体上の光走査速度を等速度とすることができる。この場合、Fθレンズなどを用いる必要がなくなる。
【0045】
上で触れた様に、光偏向素子の形状の一部に断続的な曲面形状を有する形態にすることもできる。図2に示す様に、凹又は凸形状の光偏向素子102、110は、フレネルレンズ形状601、602としても構わない。フレネルレンズ形状とすることで、光偏向素子を薄く、軽くできるので、駆動に必要なエネルギーを少なくできる。この場合、フレネルレンズの段差数を増やすほど、光偏向素子を薄く、軽くできる。こうした光偏向器を画像形成装置に用いる場合、作製したい画像の解像度にあわせたフレネルレンズの段差数としてもよい。
【0046】
この様な光偏向素子は、一般的な削り出し、モールディング等により作製したものを取り付けても構わないが、例えば、駆動手段上に直接作り込むことも可能である。例えば、半導体プロセスで用いられるインプリント法や、EB描画法なども利用可能である。駆動手段等を半導体プロセスを用いて作製する場合は、半導体プロセスを用いての光偏向素子の作製が適している。半導体プロセスを用いることで、安価で且つ大量生産が可能となり、作製精度の非常に高いものを得ることが可能となる。半導体プロセスでは、回路等のシステム(駆動を検知する後述のセンサや、ヒーターなども含む)を、駆動手段を作製するための基板の一部に作り込むことが可能となる。これにより、光偏向器を更に安価且つ高性能に作製することが可能となる。
【0047】
また、光源が面発光型である形態も可能である。図3は、こうした実施形態の光偏向器の一例を示す。光偏向素子701は駆動手段702により支持される。駆動手段701は、往復運動のための要素として梁703と静電引力発生部704を備える。ここでは、静電引力発生部704は櫛歯電極構造としている。櫛歯構造とすることで、少ないエネルギーで、安定して駆動することが可能となる。
【0048】
梁の形状は、例えば図6(図6において、図3に示すものと同様の機能の部分は図3における符号と同符号で示す)に示す様な折曲がり構造1001とすることにより、駆動手段のサイズが大きくなるのを防止できる。梁の形状は図6に示す様な構造のほか、いわゆるミヤンダ構造(葛折構造)などを用いても構わない。図3では、梁703を<A−A断面>の軸を中心軸として両側に2本ずつ設けて固定端で固定しているが、例えば、片側のみに梁を複数本又は1本設けても構わない。梁を片側のみに設けて駆動手段を駆動させる場合は、好適には、駆動手段の運動は、光源側等に固定される梁の固定端を中心とした円弧運動とする。従って、光偏向素子の相対往復運動も円弧運動となる。
【0049】
図3の構成では駆動手段は静電引力発生部704を備えるが、これに限らす磁力、圧電体を利用する駆動力等を用いても構わない。光偏向素子701の下に設けた光源708と光偏向素子701との位置関係の相対的な変化の量は、およそ矢印707で示す幅となる。光源708には、必要に応じて、焦点を結ばせたり、束状にしたりする光学素子を設ける。この光学素子は、例えば、被走査体に結ばせるスポットの形状等に応じて設計したりする。
【0050】
図3で示す光源708が面発光型であって、例えば、面発光レーザ(VCSEL:vertical cavity
surface emitting laser)チップの様なものであれば、次の様にできる。即ち、図示の如く、駆動手段702を備える光偏向素子701に光源708を重ねる様にして光偏向器を作製することができる。この場合、駆動手段702の動きを妨げないよう、必要に応じて、スペーサ705を設ける。スペーサは、駆動手段702又は光源用基板706の一部を加工することでスペーサ705の代わりとしても構わない。
【0051】
この様にして作られる光偏向器は、チップが積層した様なものとなるので、例えば図10に示す様に積層したチップをパッケージ化することで、ICチップの様な構成にできる。ボンディング線1401を用いてICチップの様な構成とすることで、例えば、PCB基板等への実装も容易となる。ここでは、光を透過するパッケージ部1403を設けている。この場合、図10(d)、(e)に示す様に、必要に応じて反射素子1402を設けたりする。図10(d)中の矢印は、図10(e)の配置を見る方向を示す。図10において、図3に示すものと同様の機能の部分は図3における符号と同符号で示す。
【0052】
また、複数の光源を備える光偏向器とすることもできる。図5に示す様に、光源901を1つの光偏向素子102に対して複数設けることで、一回の往復運動で、複数本の光の走査を可能とできる。この場合、光源901の配置を、図5(b)に示す様に互いの走査線902が重ならない様にすることで、被走査体の所定の領域を高密度に走査できる。これにより、例えば、本光偏向器をプリンタや複写機などの画像形成装置に適用する場合、画質を向上させたり、処理速度を向上させたりすることができる。また、画像形成装置の仕様等によっては、駆動手段の駆動の周期を長く(すなわち速度を遅く)することも可能となる。
【0053】
駆動状態を検知するセンサを備える形態とすることもできる。前述の様に、駆動に共振を用いる場合、必要に応じて、その共振周波数を検知する必要がある。検知手段としては、例えば、次の様なものがある。1つの例は、駆動手段の梁にかかる応力の変化をモニターするピエゾ抵抗センサである。これは、ピエゾ抵抗効果(ピエゾ抵抗効果:半導体シリコンやゲルマニウム等に歪が加えられることによるエネルギーバンド構造変化に起因して、導電率が変化する効果)を利用するセンサである。他の例は、駆動手段と非駆動部(例えば、光源側の基板の一部や、図3の櫛歯状の静電引力発生部704の一部などを利用したりする)との距離変化に起因するコンデンサ容量変化を利用するコンデンサ型センサである。この例では、駆動部と非駆動部とに電極を設け、この電極間に電圧を印加する。そして、駆動部と非駆動との距離が変化することで、電極上で電荷の増減が起きるので、この電荷の増減より共振周波数を知る。勿論、これら以外のセンサを用いても構わない。共振で駆動させない場合も、必要に応じて駆動状態を検知するセンサを備えてもよい。
【0054】
駆動状態を検知するセンサを備えることで、例えば、本光偏向器を用いて画像形成等を行う場合の被走査体への光のオン、オフのタイミングを常に正確に把握でき、高品質な画像形成が実現できる。
【0055】
また、駆動周波数を補正する駆動周波数補正手段を備える形態の光偏向器にすることもできる。例えば図4の様に、発熱体801を駆動手段自体、又はその近傍に設ける。これにより、駆動手段を所定の周波数で動く様に調整することが可能となる。ここでは、比較的抵抗の高い配線(例えば、数Ω〜数千Ω)を半導体プロセス等で形成し、それに所定の電流を流すだけで熱を得ることができる。駆動の特性に大きく影響する梁703自体に直接発熱体を設けても構わない。勿論、これ以外の手段で駆動周波数を調整しても構わない。図4において、図3に示すものと同様の機能の部分は図3における符号と同符号で示す。
【0056】
こうした構成において、光偏向器の構成によっては、熱を加えると駆動周波数は低くなる方向に進む場合がある。従って、目標の駆動周波数に合わせたい場合は、予め駆動手段の駆動周波数を目標値よりも高めに設定しておき、発熱量を制御することで目標の駆動周波数とすればよい。
【0057】
上でも触れた様に、静電力で駆動する光偏向器とすることができる。駆動力として静電引力を用いる場合、図3に示す様に、ギャップを隔てて対向する対をなす櫛歯形状の電極を設けるのが好適である。櫛歯は必ずしも必要とはならないが、櫛歯形状の電極が無い場合は、対向する平板電極の形態となる。櫛歯形状の電極の場合、電極間のギャップは一定で、駆動に応じて電極間の対向面積が増大する。一方、櫛歯の無い平板電極の場合、電極間のギャップが変化する。ギャップが変化する場合、プルイン(静電引力が梁の復元力に比べて過大となって、駆動手段を安定に制御できなくなること)が発生する可能性がある。これにより、電極同士が衝突したりすることがある。櫛歯形状の電極を用いる場合、プルインは起きにくい。また、櫛歯の数を増やすほど、低エネルギーでの駆動が可能となるので、駆動量が大きい場合にこれは適している。
【0058】
櫛歯形状や梁などは、例えば半導体プロセスで容易に作製することが可能である。具体的には、半導体プロセスに用いられるSi基板を用い、このSi基板自体を加工して、櫛歯形状の電極や、梁を有する駆動手段を一括に作製することができる。
【0059】
こうした一括作製を行って、前述した様に、本発明の光偏向器は半導体プロセスにより作製することができる。図14は光偏向器の作製フローの一例を示すものである。
【0060】
先ず、Si基板1801を準備する(図14(a))。ここでは、一般に単結晶Siの基板を用いるが、結晶性は必ずしも単結晶に限る必要はなく、多結晶、アモルファルなどを含んでも構わない。またSiに限る必要もない。Si基板には回路等の作製もできるので、駆動手段の制御系や光源用の制御系の回路も作製できる。よって、Si基板に予め回路等を作製しておいてもよい。更には、前述の駆動状態を検知するセンサや、補正手段(例えばヒーター)も、この回路作製時に形成することが可能である。
【0061】
Si基板は、回路等を駆動部品の一部に作り込める点で、特にコストメリットが大きい。そして更に、単結晶のSiは機械的特性に非常に優れているので、特に、梁や駆動するもの等を作製するのに適する。
【0062】
次に、Si基板に適当なマスク層(フォトレジスト、SiO2、SiN、メタルマスクなど)を形成して、Si基板1801を加工する(図14(b))。加工には主にエッチング法を用いる。エッチング法としては、ウェットエッチング法、ドライエッチング法などがある。その他、サンドブラストやイオンミリングなど種々の加工方法がある。ドライエッチング法を用いる場合は、Si-DeepRIEという手法(SF系のガスやCF系のガス等を用いて、低圧、高密度なプラズマを発生させ、これを用いてSiを深く加工する方法)がある。ウェットエッチング法を用いる場合は、TMAH溶液(水酸化テトラメチルアンモニウム)やKOH溶液(水酸化カリウム)を用いる結晶異方性エッチングなどがある。ウェットエッチング法やドライエッチング法などは、半導体プロセスで用いられる手法であり、加工精度の高いものを得ることが可能である。
【0063】
Si基板1801を加工し、貫通穴1802を設けた後、光偏向素子1803を形成する(図14(c))。光偏向素子は、形状が出来上がったものを貫通穴1802に嵌め込む(若しくは穴の上に置く)ことで形成してもよいし、半導体プロセスを用いて樹脂、ガラス等をパターニングやリフローするなどして形成しても構わない。図14(c)の様に貫通穴1802の中に形成する場合は、次の様にもできる。即ち、穴の側壁の物性(特に、所定の溶液に対する濡れ易さ)によっては、穴の中に投入した光偏向素子材料(液体状のもの、若しくは熱などにより液体状となるもの)が、濡れ性等の影響や表面張力の影響などで、凹レンズや凸レンズの形状を形成する。これにより光偏向素子1803を形成しても構わない。
【0064】
ここで、Fθレンズについて図16を用いて説明する。図16(a)において、光源2002からレンズ2003を経て来た光束をポリゴンミラー2001のみで、直接、被走査体2004上で走査すると、光の走査速度は、走査線の中心軸2005から離れるに従って速くなってしまう。そこで、一般に、図16(b)の様にレンズ2006(一般にFθレンズ)を配することで、光の走査速度を等速にしている。Fθレンズは、走査速度が一定になるよう補正するレンズであるが、本発明の一実施形態では、前記走査速度の補正を、光偏向素子の曲面形状自体を補正することで実現できるので、Fθレンズを不要とできる。この場合、等速度な光走査を実現するための曲面形状の設計は、前述した様に、一般的な光学設計で設計可能である。
【0065】
次に、図14の説明に戻って、前述の基板1801に、光源1808を有する基板1084を、駆動手段の駆動を妨げないよう適当なスペーサ1810を挟んだ状態で取り付ける(図14(d))。この場合、スペーサは、Si基板1801の一部や、光源用の基板1804の一部から作成しても構わない(例えば、何れか一方の基板にザグリを入れる)。基板同士1801、1804の電気的な接続が必要な場合は、ワイヤーボンディングや貫通電極を設けるなどする。
【0066】
貼付けが完了したら、必要に応じて、パッケージ用のケース1805を取り付け、個々の光偏向器として切り出す(図14(e)、図14(f))。以上のプロセスの順番は、これに限るものではない。また、プロセスによっては、必要に応じて支持基板等を貼り付けてプロセスを進めてもよい。
【0067】
パッケージジングの際は、必要に応じて、パッケージ内部を不活性ガスで満たしたり、真空にしたりする。不活性ガスで満たすことや真空にすることで、パッケージ内部の回路、駆動手段、光源等が酸化等により劣化するのを防止できる。更に、真空にすることで、駆動手段の駆動の際の空気抵抗が小さくなるので、駆動に必要なエネルギーが少なくできると共に、空気等の存在による駆動の不安定さが低減する。また、駆動手段が静電引力を用いる場合は、静電引力発生部が周囲のゴミなどを引き付けてしまい動作トラブルを引き起こす可能性があるが、パッケージングによりこうしたトラブルを防止することが可能となる。
【0068】
また、容器の一部の面が光を透過する材料である光偏向器とすることもできる。図7の構成例で説明すると、パッケージ1101には、光を透過するパッケージ部1102、1104が含まれる。パッケージ内部1103には、光源101、光偏向素子102、駆動手段103などが配されている。図7(b)に示す様に、パッケージ部1104に、必要に応じてレンズ機能を付加しても構わない。このとき、例えば、本発明の光偏向器を画像形成装置に用いる場合、必要に応じて、ポリゴンミラーなどで用いられる様なFθレンズの働きをパッケージ部1104に持たせることも可能である。図7において、図1に示すものと同様の機能の部分は図1における符号と同符号で示す。
【0069】
また、前述した図8に示す様な反射素子に曲面を持たせた形態の光偏向器とすることもできる。反射素子に曲面を持たせることで、レンズの様な機能を付加できる。この場合も、例えば、本発明の光偏向器を画像形成装置に用いる場合、必要に応じて、ポリゴンミラーなどで用いられる様なFθレンズの働きを反射素子に持たせることも可能である。
【0070】
次に、別の製造プロセスを図15を用いて説明する。先ず、駆動手段となるSi基板1900上に光偏向素子1901を作製する(図15(a))。光偏向素子はインプリント法で作製する。ここでは、光偏向素子1901は凹形状のフレネルレンズ形状とする。光偏向素子1901は、光偏向素子マスク層1902によりマスクし、保護する。続いて、Si基板1900を加工するための第1マスク層1903、第2マスク層1904を設ける(図15(b))。光偏向素子を設ける前にこれらのマスク層を設けてもよい。
【0071】
続いて、光が通過するための貫通穴1910を途中まで(光偏向素子1901がSiの加工処理に対して耐性を有する場合は、貫通しても構わない)掘り込む(図15(c))。第1マスク層1903を除去し、第2マスク層1904を用いて、Si基板1900を加工する。すると、図15(d)に示す様に、貫通穴1910と、段差1911を有するSi基板1900が得られる。更に、駆動手段を設ける上記Si基板1900に、光源1908を有する基板1912を接合し(図15(e))、パッケージ用のケース1913を取り付け(図15(f))、個々の光偏向器として切り出す(図15(g))。この場合、図15のプロセスは、全て一般的な半導体プロセスを用いて実施できるので、高精度で、安価な、大量生産に向く光偏向器を提供できる。
【0072】
また、光源と光偏向素子と駆動手段をそれぞれ複数備える形態の光偏向器とすることもできる。例えば、図9に示す様に光偏向器1301内に複数の光源101と、複数の光偏向素子102と、複数の駆動手段103を備える。これにより、光偏向器1301と被走査体1302との間の距離1303を狭めることが可能となり、本光偏向器を備える画像形成装置などのパターン認識・出力システムの小型化が可能となる。また、被走査体1302上の所望の光走査範囲を複数の光束で分担して走査を行なうことができるため、光走査に要する時間を光源101の数に反比例して短くすることができる。尚、図9において、図1に示すものと同様の機能の部分は図1における符号と同符号で示す。
【0073】
この際、隣り合う光源101からの光束の光走査範囲を被走査体1302上でいくらか重なるよう設計しておき、光源101への電気的信号の制御等によってこの重なりを無くすよう設定するとよい。また、光源101間の走査範囲の画像が連続的に繋がるように、適当に処理した画像信号に基づいて各光源101を駆動する必要がある。こうして、複数の光束で分担して走査を行ないつつも、被走査体1302上を支障なく連続的に繋がって光走査できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の光偏向器及び実施形態の原理を説明する図。
【図2】光偏向素子の形状の一例を説明する図。
【図3】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図4】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図5】本発明の光源の構成の一例を説明する図。
【図6】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図7】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図8】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図9】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図10】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図11】本発明の光偏向器の実装構成の一例を説明する図。
【図12】本発明の光偏向器の設計方法の一例を説明する図。
【図13】本発明の光偏向器の設計方法を説明する図。
【図14】本発明の光偏向器の作製方法の一例を説明する図。
【図15】本発明の光偏向器の作製方法の一例を説明する図。
【図16】Fθレンズを説明する図。
【符号の説明】
【0075】
101、708、901、1808、1908、2002・・・光源
102、112、601、602、701、1803、1901・・・光偏向素子(凹形状のフレネルレンズ、凸形状のフレネルレンズ)
103、702・・・駆動手段
104、1203、1302、1504、2004・・・被走査体
1201、1402、1501・・・反射素子
1301、1503・・・光偏向器
704・・・静電引力発生部
801・・・発熱体
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器、及びこれを用いてパターンの認識、出力などを行うバーコードスキャナ、レーザビームプリンタなどの画像形成装置等の光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バーコードスキャナ、レーザビームプリンタ等に用いられる光偏向器として、ポリゴンミラーを回転させることで、ポリゴンミラーに形成されたミラー面に当たる光の出射角度を変化させ、光を走査するものがある(特許文献1参照)。
【0003】
ポリゴンミラーを用いない光偏向器としては、凹面鏡を光走査方向に往復直線運動させ、凹面鏡に入射する光の反射角度を変化させることで、光を走査するものがある(特許文献2参照)。
【0004】
また、光源と屈折率分布型レンズとが近距離に配置される光偏向器も提案されている(特許文献3参照)。ここでは、光源と屈折率分布型レンズを相対的に移動させることにより、光を走査している。
【特許文献1】特開2005−037502号公報
【特許文献2】特開2003−005121号公報
【特許文献3】特開平9−166758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の光偏向器では、ポリゴンミラーの有する複数のミラー面が回転軸に対して傾き(所謂面倒れ)があるとき、光の走査の間隔を一定に保てず、印刷された画像に規則的に横縞(バンディング)が出てしまうことがある。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の光偏向器では、凹面鏡と被走査体との間に光源を設ける必要があり、凹面鏡で反射される光の進行を妨げない様にする為、凹面鏡の光軸と光源の光軸をずらすことが行われる。よって、その分、光偏向器の厚みが増しやすく、これを用いる光学機器のサイズが増大しやすくなる。
【0007】
また、上記特許文献3に記載の光偏向器では、例えば、20cm走査するのに光偏向器と被走査体との距離を30cm離す必要があり、パターン認識・出力システムのサイズが増大しやすくなる。また、屈折率分布型レンズの作製には、イオン交換法を用いるのが一般的であるが、イオン交換法では、その交換表面からイオン交換が進行し、イオン濃度分布ができる。よって、屈折率分布はこの現象に従うことになり、例えば、モールド法や削り出し等により作られるレンズ等に比べて設計自由度が低くなりやすい。例えば、上記相対的な移動を単純な正弦波駆動として、等速度での光の走査を実現するのは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の光偏向器は、光源と、光を透過する光偏向素子と、駆動手段とを有する。前記光偏向素子は、前記光源からの光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有し、均一の屈折率を持つ。前記駆動手段は、前記光源と前記光偏向素子との位置関係を相対的に変化させるべく前記光源と前記光偏向素子を相対的に往復運動させる。そして、前記光源と被走査体との間に前記光偏向素子が配され前記光源からの光が前記光偏向素子で偏向される。
【0009】
また、上記課題に鑑み、本発明の画像形成装置などの光学機器は、上記光偏向器と、被走査体と、を有し、前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記被走査体に入射させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バンディングが出ず、等速度で光を走査できる小型な構成に容易にできる光偏向器を実現することができる。
【0011】
即ち、本発明の光偏向器及び光学機器によれば、ポリゴンミラーの様に複数の面で走査する方式を用いないので、バンディングが発生しない。また、本発明の光偏向器及び光学機器によれば、反射型の素子を用いないので、光の走査を阻害するのを避けるための光学的な配置などの制限がなく、システムを小型に容易に設計できる。更に、本発明の光偏向器及び光学機器によれば、屈折率分布型レンズを用いないので、光を等速度で走査するために必要な光偏向面の設計を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施形態は、光源と、曲面を有する光透過型の光偏向素子と、光源と光偏向素子との位置関係を相対的に変化させこれらを相対的に往復運動させる駆動手段とを備え、光源と被走査体との間に光偏向素子が配される基本的な構成を有する。これにより、上記課題を解決する。
【0013】
一実施形態では、図1に示す様に、光源101と被走査体104との間に、駆動手段103に支持された光透過型の均一の屈折率の光偏向素子102を配し、光源101の光軸106に対して光偏向素子を矢印105方向に往復運動させる。この往復運動により、図1(a)の位置⇒図1(b)の位置⇒図1(a)の位置⇒図1(c)の位置⇒図(a)の位置のサイクルで光偏向素子102が動き、これにより被走査体104上に光を走査できる。ここで、光源101と光偏向素子102との位置関係が大きくずれる程、光偏向素子102による光の偏向の度合いが大きくなるよう光偏向素子102の屈折率、形状などが設計される。上記構成では光偏向素子102を動かしたが、光源101側を駆動手段(不図示)で支持し、往復運動させても構わない。
【0014】
また、図1の図示例では、光偏向素子102は、光の入射側の面が平面で、光の出射側の面が凹形状であるが、光偏向素子の光出射側の面は凸形状であっても構わない。更に、光偏向素子の光入射側の面も平面に限らず、凹形状、凸形状などであっても構わない。即ち、光偏向素子は、光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有すればよい。その形状は、仕様に応じて決めればよい。光偏向素子は、屈折率分布レンズの様な大型の光学素子とはならないので、駆動手段を駆動させるのに必要なエネルギーも比較的小さくできる。
【0015】
上記構成において、光源101と光偏向素子102との相対的な位置関係の変化の速度が等速度であれば、図13(b)に示す様に、光源101と光偏向素子102との位置関係がずれる程、被走査体上の光走査速度は速くなる。
【0016】
ここで、光偏向素子の設計の一例について、図12を用いて説明する。被走査体104の被走査部の幅をW1とする。光偏向素子102の幅をW2とする。光源101(図12では不図示)から発せられる光が偏向される角度をθ1とする。また、θ2は、光偏向素子102の有する所定の面の駆動の方向(ここでは図12の上下方向)に対してなす角度とする。Lは、光偏向素子102と被走査体104との距離である。このとき、W1とLとθ1との間には次の関係式(式1)が成り立つ。
【0017】
【数1】
【0018】
また、空気の屈折率をN1、光偏向素子102の屈折率をN2とした場合、次の関係式(式2)が成り立つ。
【0019】
【数2】
【0020】
式1と式2を用いθ2の式を導くと、次の関係式(式3)が得られる。
【0021】
【数3】
【0022】
光偏向素子102の凹面を図12(c)の様に、円形状の一部とする場合、W2の値を決めることで、次の関係式(式4)が得られ、式3と式4よりRを求めることができる。
【0023】
【数4】
【0024】
W2の1/2の値が、光源101と光偏向素子102との相対的な位置変化の量となる。W2の値は、上記駆動手段に用いる駆動力(例えば、磁力、静電力、圧電体などを利用した応力、モータなどを用いる)や、支持用の梁などの設計範囲に応じて設計される。上では、光源と光偏向素子との位置関係がずれる程、被走査体上の光走査速度は速くなると述べた。しかし、ここにおいて、必要に応じて(特に、θ1の値が大きい場合)、Fθレンズなどを光路の途中に設けるなどして、被走査体上を光で走査する際の走査速度が等速度となる様に補正することができる。
【0025】
次に、Fθレンズを用いずに、被走査体上を等速度で走査する場合の設計について説明する。等速度の走査速度をVとすると、次の関係式(式5)が成り立つ(tは時間)。
【0026】
【数5】
【0027】
ここで、光軸に垂直な方向に光偏向素子が共振駆動(角周波数:ω)される場合、tについて、次の関係式(式6)が成り立つ(A は共振駆動の振幅、xは、光源の光軸と光偏向素子の光軸が一致する点を原点として共振駆動における各時間の変位量)。
【0028】
【数6】
【0029】
式5と式2より、次の関係式(式7)が得られる。
【0030】
【数7】
【0031】
式6と式7より、次の関係式(式8)が得られる。
【0032】
【数8】
【0033】
ここで、光偏向素子102の曲面F(X1)は、次の式9で与えられる(X1は光偏向素子の光軸からの距離、F(X1)は、光偏向素子の曲面の光軸上の点から曲面のX1における点までの光軸方向の高さであって、曲面の形状を表す)。
【0034】
【数9】
【0035】
式8と式9より、次の式10を得ることができ、F(X1)を求めることができる。
【0036】
【数10】
【0037】
F(X1)よりなる曲面の形状を有する光偏向素子を備える光偏向器は、Fθレンズを用いなくても、被走査体上を等速度に走査することが可能となる。
【0038】
上記の設計例において、例えば、被走査部の幅W1を210mm(A4の短い方向の長さに相当)、Lを100mmとした場合、θ1は約46度となる。空気の屈折率N1を1、光偏向素子の屈折率N2を1.6とした場合、式3によれば、θ2は約38度となる。光偏向素子の幅W2を2mmとする場合、Rは1.6mmとなる。
【0039】
光偏向素子の幅W2を2mmとする場合、往復運動量は±1mmとなる。最大の変位量が1mmとなり、最大変位量1mmと駆動態様(例えば、共振で駆動させるか否か)によって駆動手段の形態が変化する。駆動手段の形態の選択肢としては、梁支持とするかどうか、梁支持の場合の梁の形状、駆動力の選択、材質などがある。上記光偏向素子の曲面形状は、必要に応じて、図2に示す様なフレネルレンズの形状とすることもできる。
【0040】
以上の様に、光源101からの光束は、例えば、コリメータレンズを通してコリメート光にされて、光偏向素子102に照射され、透過と共に集光されて被走査体104に到達する。そして、上記の如く、光偏向素子102の表面形状等は、種々のファクタから決まり、被走査体104の表面において所望の集光スポットとなり、且つ光束の走査範囲が所望の値となるように設計される。ファクタとしては、被走査体の形状と長さ、被走査体までの距離、コリメート光のスポットサイズ、光偏向素子の往復運動の範囲と態様、光偏向素子の往復運動方向と被走査体上の走査方向の関係(通常、平行)、被走査体上の走査速度(通常、等速)、等がある。上記の光偏向素子の設計法は一例であり、一般的には、この設計は、光偏向素子の各点に入射する光束が被走査体の所望の各点に到達する為に要求される光偏向素子の表面形状をコンピュータを用いて求める様なレンズ設計法で行われ得る。
【0041】
次の様な形態も可能である。ここでは、光源と、曲面を有する光偏向素子と、光源と光偏向素子との位置関係を相対的に変化させこれらを相対的に往復運動させる駆動手段と、反射素子とを備え、光偏向素子と被走査体との間に反射素子が配される。光偏向素子からの光は、反射素子で反射される。
【0042】
図11(又は図8)に示す様に、反射素子1501(又は1201)を設けることで、PCB基板1502(又は1202)に設置する光偏向器1503の取り付け形態を図11(a)から図11(b)の様に変えられる。光偏向器が図3に示す様な板状の構造体が積層した様な形態の場合、図11(b)の取り付け形態は、図11(a)の如く立てて取り付けるのに比べて、取り付けが容易且つ安定で、設置高さ1505に比べて設置高さ1506を低くできる。駆動手段、光源などを例えば半導体プロセスを用いて作製する場合、光偏向器は数mmの高さで作製することも可能である。この場合、一般的な回路チップをPCB基板に実装するのと同じ様に光偏向器の実装ができるので、設置後、振動等で図11中の破線で示す光線がぶれるのが起きにくくなる。尚、図8において、1203は感光ドラムなどの被走査体であり、図8(b)の矢印1204は図8(a)の配置を見る方向を示す。図11において、1504は感光体などの被走査体である。また、図8において、図1に示すものと同様の機能の部分は図1における符号と同符号で示す。
【0043】
前述した様に、典型的には、光偏向器により等速度で光を走査することができる。光を等速度で走査することで、例えば光を周期的にオン、オフしながら走査する場合において、そのオン、オフの間隔に粗密が発生しない。光を等速度で走査しない場合、オン、オフの間隔に粗密が発生しやすくなる。その粗密を無くすには、光をオン、オフするための電気信号処理部の電気信号の補正が必要となる。
【0044】
また、前述した様に、駆動手段の駆動に共振を用いることができる。駆動に共振を用いることにより、第一に、共振でない場合に比べて格段に小さなエネルギーで駆動手段を駆動できる。第二に、光源と光偏向素子との間の相対的な往復運動について正弦波駆動を容易に実現できる。ここで、光偏向素子の光偏向特性と、光偏向素子の移動速度の変化の関係を図13で説明する。図13(c)は、駆動手段が正弦波駆動する場合の、光源101と光偏向素子102の位置関係と、光偏向素子102の移動速度との関係を示したものである。正弦波駆動の場合、光源101と光偏向素子102との相対的な位置変化が大きくなるのに従って、位置変化の速度は低下する。上述した図13(b)の特性と図13(c)の特性とをあわせると、図13(d)に示す様に被走査体上の光走査速度を等速度とすることができる。この場合、Fθレンズなどを用いる必要がなくなる。
【0045】
上で触れた様に、光偏向素子の形状の一部に断続的な曲面形状を有する形態にすることもできる。図2に示す様に、凹又は凸形状の光偏向素子102、110は、フレネルレンズ形状601、602としても構わない。フレネルレンズ形状とすることで、光偏向素子を薄く、軽くできるので、駆動に必要なエネルギーを少なくできる。この場合、フレネルレンズの段差数を増やすほど、光偏向素子を薄く、軽くできる。こうした光偏向器を画像形成装置に用いる場合、作製したい画像の解像度にあわせたフレネルレンズの段差数としてもよい。
【0046】
この様な光偏向素子は、一般的な削り出し、モールディング等により作製したものを取り付けても構わないが、例えば、駆動手段上に直接作り込むことも可能である。例えば、半導体プロセスで用いられるインプリント法や、EB描画法なども利用可能である。駆動手段等を半導体プロセスを用いて作製する場合は、半導体プロセスを用いての光偏向素子の作製が適している。半導体プロセスを用いることで、安価で且つ大量生産が可能となり、作製精度の非常に高いものを得ることが可能となる。半導体プロセスでは、回路等のシステム(駆動を検知する後述のセンサや、ヒーターなども含む)を、駆動手段を作製するための基板の一部に作り込むことが可能となる。これにより、光偏向器を更に安価且つ高性能に作製することが可能となる。
【0047】
また、光源が面発光型である形態も可能である。図3は、こうした実施形態の光偏向器の一例を示す。光偏向素子701は駆動手段702により支持される。駆動手段701は、往復運動のための要素として梁703と静電引力発生部704を備える。ここでは、静電引力発生部704は櫛歯電極構造としている。櫛歯構造とすることで、少ないエネルギーで、安定して駆動することが可能となる。
【0048】
梁の形状は、例えば図6(図6において、図3に示すものと同様の機能の部分は図3における符号と同符号で示す)に示す様な折曲がり構造1001とすることにより、駆動手段のサイズが大きくなるのを防止できる。梁の形状は図6に示す様な構造のほか、いわゆるミヤンダ構造(葛折構造)などを用いても構わない。図3では、梁703を<A−A断面>の軸を中心軸として両側に2本ずつ設けて固定端で固定しているが、例えば、片側のみに梁を複数本又は1本設けても構わない。梁を片側のみに設けて駆動手段を駆動させる場合は、好適には、駆動手段の運動は、光源側等に固定される梁の固定端を中心とした円弧運動とする。従って、光偏向素子の相対往復運動も円弧運動となる。
【0049】
図3の構成では駆動手段は静電引力発生部704を備えるが、これに限らす磁力、圧電体を利用する駆動力等を用いても構わない。光偏向素子701の下に設けた光源708と光偏向素子701との位置関係の相対的な変化の量は、およそ矢印707で示す幅となる。光源708には、必要に応じて、焦点を結ばせたり、束状にしたりする光学素子を設ける。この光学素子は、例えば、被走査体に結ばせるスポットの形状等に応じて設計したりする。
【0050】
図3で示す光源708が面発光型であって、例えば、面発光レーザ(VCSEL:vertical cavity
surface emitting laser)チップの様なものであれば、次の様にできる。即ち、図示の如く、駆動手段702を備える光偏向素子701に光源708を重ねる様にして光偏向器を作製することができる。この場合、駆動手段702の動きを妨げないよう、必要に応じて、スペーサ705を設ける。スペーサは、駆動手段702又は光源用基板706の一部を加工することでスペーサ705の代わりとしても構わない。
【0051】
この様にして作られる光偏向器は、チップが積層した様なものとなるので、例えば図10に示す様に積層したチップをパッケージ化することで、ICチップの様な構成にできる。ボンディング線1401を用いてICチップの様な構成とすることで、例えば、PCB基板等への実装も容易となる。ここでは、光を透過するパッケージ部1403を設けている。この場合、図10(d)、(e)に示す様に、必要に応じて反射素子1402を設けたりする。図10(d)中の矢印は、図10(e)の配置を見る方向を示す。図10において、図3に示すものと同様の機能の部分は図3における符号と同符号で示す。
【0052】
また、複数の光源を備える光偏向器とすることもできる。図5に示す様に、光源901を1つの光偏向素子102に対して複数設けることで、一回の往復運動で、複数本の光の走査を可能とできる。この場合、光源901の配置を、図5(b)に示す様に互いの走査線902が重ならない様にすることで、被走査体の所定の領域を高密度に走査できる。これにより、例えば、本光偏向器をプリンタや複写機などの画像形成装置に適用する場合、画質を向上させたり、処理速度を向上させたりすることができる。また、画像形成装置の仕様等によっては、駆動手段の駆動の周期を長く(すなわち速度を遅く)することも可能となる。
【0053】
駆動状態を検知するセンサを備える形態とすることもできる。前述の様に、駆動に共振を用いる場合、必要に応じて、その共振周波数を検知する必要がある。検知手段としては、例えば、次の様なものがある。1つの例は、駆動手段の梁にかかる応力の変化をモニターするピエゾ抵抗センサである。これは、ピエゾ抵抗効果(ピエゾ抵抗効果:半導体シリコンやゲルマニウム等に歪が加えられることによるエネルギーバンド構造変化に起因して、導電率が変化する効果)を利用するセンサである。他の例は、駆動手段と非駆動部(例えば、光源側の基板の一部や、図3の櫛歯状の静電引力発生部704の一部などを利用したりする)との距離変化に起因するコンデンサ容量変化を利用するコンデンサ型センサである。この例では、駆動部と非駆動部とに電極を設け、この電極間に電圧を印加する。そして、駆動部と非駆動との距離が変化することで、電極上で電荷の増減が起きるので、この電荷の増減より共振周波数を知る。勿論、これら以外のセンサを用いても構わない。共振で駆動させない場合も、必要に応じて駆動状態を検知するセンサを備えてもよい。
【0054】
駆動状態を検知するセンサを備えることで、例えば、本光偏向器を用いて画像形成等を行う場合の被走査体への光のオン、オフのタイミングを常に正確に把握でき、高品質な画像形成が実現できる。
【0055】
また、駆動周波数を補正する駆動周波数補正手段を備える形態の光偏向器にすることもできる。例えば図4の様に、発熱体801を駆動手段自体、又はその近傍に設ける。これにより、駆動手段を所定の周波数で動く様に調整することが可能となる。ここでは、比較的抵抗の高い配線(例えば、数Ω〜数千Ω)を半導体プロセス等で形成し、それに所定の電流を流すだけで熱を得ることができる。駆動の特性に大きく影響する梁703自体に直接発熱体を設けても構わない。勿論、これ以外の手段で駆動周波数を調整しても構わない。図4において、図3に示すものと同様の機能の部分は図3における符号と同符号で示す。
【0056】
こうした構成において、光偏向器の構成によっては、熱を加えると駆動周波数は低くなる方向に進む場合がある。従って、目標の駆動周波数に合わせたい場合は、予め駆動手段の駆動周波数を目標値よりも高めに設定しておき、発熱量を制御することで目標の駆動周波数とすればよい。
【0057】
上でも触れた様に、静電力で駆動する光偏向器とすることができる。駆動力として静電引力を用いる場合、図3に示す様に、ギャップを隔てて対向する対をなす櫛歯形状の電極を設けるのが好適である。櫛歯は必ずしも必要とはならないが、櫛歯形状の電極が無い場合は、対向する平板電極の形態となる。櫛歯形状の電極の場合、電極間のギャップは一定で、駆動に応じて電極間の対向面積が増大する。一方、櫛歯の無い平板電極の場合、電極間のギャップが変化する。ギャップが変化する場合、プルイン(静電引力が梁の復元力に比べて過大となって、駆動手段を安定に制御できなくなること)が発生する可能性がある。これにより、電極同士が衝突したりすることがある。櫛歯形状の電極を用いる場合、プルインは起きにくい。また、櫛歯の数を増やすほど、低エネルギーでの駆動が可能となるので、駆動量が大きい場合にこれは適している。
【0058】
櫛歯形状や梁などは、例えば半導体プロセスで容易に作製することが可能である。具体的には、半導体プロセスに用いられるSi基板を用い、このSi基板自体を加工して、櫛歯形状の電極や、梁を有する駆動手段を一括に作製することができる。
【0059】
こうした一括作製を行って、前述した様に、本発明の光偏向器は半導体プロセスにより作製することができる。図14は光偏向器の作製フローの一例を示すものである。
【0060】
先ず、Si基板1801を準備する(図14(a))。ここでは、一般に単結晶Siの基板を用いるが、結晶性は必ずしも単結晶に限る必要はなく、多結晶、アモルファルなどを含んでも構わない。またSiに限る必要もない。Si基板には回路等の作製もできるので、駆動手段の制御系や光源用の制御系の回路も作製できる。よって、Si基板に予め回路等を作製しておいてもよい。更には、前述の駆動状態を検知するセンサや、補正手段(例えばヒーター)も、この回路作製時に形成することが可能である。
【0061】
Si基板は、回路等を駆動部品の一部に作り込める点で、特にコストメリットが大きい。そして更に、単結晶のSiは機械的特性に非常に優れているので、特に、梁や駆動するもの等を作製するのに適する。
【0062】
次に、Si基板に適当なマスク層(フォトレジスト、SiO2、SiN、メタルマスクなど)を形成して、Si基板1801を加工する(図14(b))。加工には主にエッチング法を用いる。エッチング法としては、ウェットエッチング法、ドライエッチング法などがある。その他、サンドブラストやイオンミリングなど種々の加工方法がある。ドライエッチング法を用いる場合は、Si-DeepRIEという手法(SF系のガスやCF系のガス等を用いて、低圧、高密度なプラズマを発生させ、これを用いてSiを深く加工する方法)がある。ウェットエッチング法を用いる場合は、TMAH溶液(水酸化テトラメチルアンモニウム)やKOH溶液(水酸化カリウム)を用いる結晶異方性エッチングなどがある。ウェットエッチング法やドライエッチング法などは、半導体プロセスで用いられる手法であり、加工精度の高いものを得ることが可能である。
【0063】
Si基板1801を加工し、貫通穴1802を設けた後、光偏向素子1803を形成する(図14(c))。光偏向素子は、形状が出来上がったものを貫通穴1802に嵌め込む(若しくは穴の上に置く)ことで形成してもよいし、半導体プロセスを用いて樹脂、ガラス等をパターニングやリフローするなどして形成しても構わない。図14(c)の様に貫通穴1802の中に形成する場合は、次の様にもできる。即ち、穴の側壁の物性(特に、所定の溶液に対する濡れ易さ)によっては、穴の中に投入した光偏向素子材料(液体状のもの、若しくは熱などにより液体状となるもの)が、濡れ性等の影響や表面張力の影響などで、凹レンズや凸レンズの形状を形成する。これにより光偏向素子1803を形成しても構わない。
【0064】
ここで、Fθレンズについて図16を用いて説明する。図16(a)において、光源2002からレンズ2003を経て来た光束をポリゴンミラー2001のみで、直接、被走査体2004上で走査すると、光の走査速度は、走査線の中心軸2005から離れるに従って速くなってしまう。そこで、一般に、図16(b)の様にレンズ2006(一般にFθレンズ)を配することで、光の走査速度を等速にしている。Fθレンズは、走査速度が一定になるよう補正するレンズであるが、本発明の一実施形態では、前記走査速度の補正を、光偏向素子の曲面形状自体を補正することで実現できるので、Fθレンズを不要とできる。この場合、等速度な光走査を実現するための曲面形状の設計は、前述した様に、一般的な光学設計で設計可能である。
【0065】
次に、図14の説明に戻って、前述の基板1801に、光源1808を有する基板1084を、駆動手段の駆動を妨げないよう適当なスペーサ1810を挟んだ状態で取り付ける(図14(d))。この場合、スペーサは、Si基板1801の一部や、光源用の基板1804の一部から作成しても構わない(例えば、何れか一方の基板にザグリを入れる)。基板同士1801、1804の電気的な接続が必要な場合は、ワイヤーボンディングや貫通電極を設けるなどする。
【0066】
貼付けが完了したら、必要に応じて、パッケージ用のケース1805を取り付け、個々の光偏向器として切り出す(図14(e)、図14(f))。以上のプロセスの順番は、これに限るものではない。また、プロセスによっては、必要に応じて支持基板等を貼り付けてプロセスを進めてもよい。
【0067】
パッケージジングの際は、必要に応じて、パッケージ内部を不活性ガスで満たしたり、真空にしたりする。不活性ガスで満たすことや真空にすることで、パッケージ内部の回路、駆動手段、光源等が酸化等により劣化するのを防止できる。更に、真空にすることで、駆動手段の駆動の際の空気抵抗が小さくなるので、駆動に必要なエネルギーが少なくできると共に、空気等の存在による駆動の不安定さが低減する。また、駆動手段が静電引力を用いる場合は、静電引力発生部が周囲のゴミなどを引き付けてしまい動作トラブルを引き起こす可能性があるが、パッケージングによりこうしたトラブルを防止することが可能となる。
【0068】
また、容器の一部の面が光を透過する材料である光偏向器とすることもできる。図7の構成例で説明すると、パッケージ1101には、光を透過するパッケージ部1102、1104が含まれる。パッケージ内部1103には、光源101、光偏向素子102、駆動手段103などが配されている。図7(b)に示す様に、パッケージ部1104に、必要に応じてレンズ機能を付加しても構わない。このとき、例えば、本発明の光偏向器を画像形成装置に用いる場合、必要に応じて、ポリゴンミラーなどで用いられる様なFθレンズの働きをパッケージ部1104に持たせることも可能である。図7において、図1に示すものと同様の機能の部分は図1における符号と同符号で示す。
【0069】
また、前述した図8に示す様な反射素子に曲面を持たせた形態の光偏向器とすることもできる。反射素子に曲面を持たせることで、レンズの様な機能を付加できる。この場合も、例えば、本発明の光偏向器を画像形成装置に用いる場合、必要に応じて、ポリゴンミラーなどで用いられる様なFθレンズの働きを反射素子に持たせることも可能である。
【0070】
次に、別の製造プロセスを図15を用いて説明する。先ず、駆動手段となるSi基板1900上に光偏向素子1901を作製する(図15(a))。光偏向素子はインプリント法で作製する。ここでは、光偏向素子1901は凹形状のフレネルレンズ形状とする。光偏向素子1901は、光偏向素子マスク層1902によりマスクし、保護する。続いて、Si基板1900を加工するための第1マスク層1903、第2マスク層1904を設ける(図15(b))。光偏向素子を設ける前にこれらのマスク層を設けてもよい。
【0071】
続いて、光が通過するための貫通穴1910を途中まで(光偏向素子1901がSiの加工処理に対して耐性を有する場合は、貫通しても構わない)掘り込む(図15(c))。第1マスク層1903を除去し、第2マスク層1904を用いて、Si基板1900を加工する。すると、図15(d)に示す様に、貫通穴1910と、段差1911を有するSi基板1900が得られる。更に、駆動手段を設ける上記Si基板1900に、光源1908を有する基板1912を接合し(図15(e))、パッケージ用のケース1913を取り付け(図15(f))、個々の光偏向器として切り出す(図15(g))。この場合、図15のプロセスは、全て一般的な半導体プロセスを用いて実施できるので、高精度で、安価な、大量生産に向く光偏向器を提供できる。
【0072】
また、光源と光偏向素子と駆動手段をそれぞれ複数備える形態の光偏向器とすることもできる。例えば、図9に示す様に光偏向器1301内に複数の光源101と、複数の光偏向素子102と、複数の駆動手段103を備える。これにより、光偏向器1301と被走査体1302との間の距離1303を狭めることが可能となり、本光偏向器を備える画像形成装置などのパターン認識・出力システムの小型化が可能となる。また、被走査体1302上の所望の光走査範囲を複数の光束で分担して走査を行なうことができるため、光走査に要する時間を光源101の数に反比例して短くすることができる。尚、図9において、図1に示すものと同様の機能の部分は図1における符号と同符号で示す。
【0073】
この際、隣り合う光源101からの光束の光走査範囲を被走査体1302上でいくらか重なるよう設計しておき、光源101への電気的信号の制御等によってこの重なりを無くすよう設定するとよい。また、光源101間の走査範囲の画像が連続的に繋がるように、適当に処理した画像信号に基づいて各光源101を駆動する必要がある。こうして、複数の光束で分担して走査を行ないつつも、被走査体1302上を支障なく連続的に繋がって光走査できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の光偏向器及び実施形態の原理を説明する図。
【図2】光偏向素子の形状の一例を説明する図。
【図3】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図4】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図5】本発明の光源の構成の一例を説明する図。
【図6】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図7】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図8】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図9】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図10】本発明の光偏向器の構成の一例を説明する図。
【図11】本発明の光偏向器の実装構成の一例を説明する図。
【図12】本発明の光偏向器の設計方法の一例を説明する図。
【図13】本発明の光偏向器の設計方法を説明する図。
【図14】本発明の光偏向器の作製方法の一例を説明する図。
【図15】本発明の光偏向器の作製方法の一例を説明する図。
【図16】Fθレンズを説明する図。
【符号の説明】
【0075】
101、708、901、1808、1908、2002・・・光源
102、112、601、602、701、1803、1901・・・光偏向素子(凹形状のフレネルレンズ、凸形状のフレネルレンズ)
103、702・・・駆動手段
104、1203、1302、1504、2004・・・被走査体
1201、1402、1501・・・反射素子
1301、1503・・・光偏向器
704・・・静電引力発生部
801・・・発熱体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有し、均一の屈折率を持ち、光を透過する光偏向素子と、
前記光源と前記光偏向素子との位置関係を相対的に変化させるべく前記光源と前記光偏向素子を相対的に往復運動させる駆動手段と、
を有し、
前記光源と被走査体との間に前記光偏向素子が配され前記光源からの光が前記光偏向素子で偏向されることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
反射素子を有し、
前記光源と前記反射素子との間に前記光偏向素子が配され前記光偏向素子からの光が前記反射素子で反射されることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記光偏向素子の曲面が、断続的な曲面形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記光源が面発光型の光源であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項5】
前記駆動手段の駆動状態を検知するセンサを備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項6】
前記光源と前記光偏向素子と前記駆動手段をそれぞれ複数備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項7】
前記駆動手段が、ギャップを隔てて対向する対をなす櫛歯電極を含み、静電力で前記往復運動を起こすことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項8】
N1を空気の屈折率、N2を光偏向素子の屈折率、Vを被走査体上の等速度の走査速度、Lを光偏向素子と被走査体との距離、ωを共振駆動される光偏向素子の角周波数、A を共振駆動の振幅、xを、光源の光軸と光偏向素子の光軸が一致する点を原点として共振駆動における各時間の変位量、X1を光偏向素子の光軸からの距離、F(X1)を光偏向素子の曲面の光軸上の点からの光軸方向の高さとして、
光偏向素子の曲面の形状が、
【数0】
なる式により設計されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1つに記載の光偏向器と、被走査体と、を有し、
前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記被走査体に入射させることを特徴とする光学機器。
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光の入射側の面と光の出射側の面のうちの少なくとも一方に曲面を有し、均一の屈折率を持ち、光を透過する光偏向素子と、
前記光源と前記光偏向素子との位置関係を相対的に変化させるべく前記光源と前記光偏向素子を相対的に往復運動させる駆動手段と、
を有し、
前記光源と被走査体との間に前記光偏向素子が配され前記光源からの光が前記光偏向素子で偏向されることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
反射素子を有し、
前記光源と前記反射素子との間に前記光偏向素子が配され前記光偏向素子からの光が前記反射素子で反射されることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記光偏向素子の曲面が、断続的な曲面形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記光源が面発光型の光源であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項5】
前記駆動手段の駆動状態を検知するセンサを備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項6】
前記光源と前記光偏向素子と前記駆動手段をそれぞれ複数備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項7】
前記駆動手段が、ギャップを隔てて対向する対をなす櫛歯電極を含み、静電力で前記往復運動を起こすことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項8】
N1を空気の屈折率、N2を光偏向素子の屈折率、Vを被走査体上の等速度の走査速度、Lを光偏向素子と被走査体との距離、ωを共振駆動される光偏向素子の角周波数、A を共振駆動の振幅、xを、光源の光軸と光偏向素子の光軸が一致する点を原点として共振駆動における各時間の変位量、X1を光偏向素子の光軸からの距離、F(X1)を光偏向素子の曲面の光軸上の点からの光軸方向の高さとして、
光偏向素子の曲面の形状が、
【数0】
なる式により設計されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1つに記載の光偏向器。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1つに記載の光偏向器と、被走査体と、を有し、
前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記被走査体に入射させることを特徴とする光学機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−162806(P2009−162806A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339190(P2007−339190)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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