説明

光偏向器、光走査装置、画像形成装置及び画像投影装置

【課題】マイクロミラー構成の光偏向器において、ミラー部にレーザ光等の光が照射された時の、該ミラー部を回転可能に支持している捻りバネ部に熱が伝達されることによる特性の変動を抑制する。
【解決手段】ミラー部10を固定ベース30に対して揺動可能に支持する弾性支持部20の表面上、さらには固定ベース30の表面上に、該弾性支持部材20及び固定ベース30を構成している母材よりも熱伝導率の高い高熱伝導部材40を積層・形成する。さらに、ミラー部10の反射面に形成される反射膜も、該高熱伝導部材40で一体的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光等の光ビームを偏向・走査する光偏向器に関し、さらには、この光偏向器を備えた光走査装置、この光走査装置を光書込みユニットとして備える画像形成装置、この光偏向器を投影面の走査ユニットとして備える画像投影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子複写機等の画像形成装置やその他の光応用機器においては、光ビームを偏向・走査する手段としてポリゴンミラーが一般的に用いられてきたが、近年、MEMS(micro electro mechanical systems)プロセスによって形成された偏向ミラー(以下、光偏向器)の開発が盛んになってきている。この光偏向器は、主にシリコンを母材として、半導体製造技術を利用した微細加工技術により製造するので、従来のポリゴンミラーに比較してはるかに小型にでき、振動が小さい、小電力駆動が可能であるなど、種々の利点を有している。
【0003】
ところで、この種の光偏向器では、反射面を有するミラー部の両端が一対のねじりバネによって回動可能に支持され、該一対のねじりバネをねじれ変形させながら、ミラー部を回動(振動)させることにより、反射面にレーザ光等を照射して光偏向・走査を行っている。この場合、ミラー部の反射面にて、照射された光のほとんどが反射するが、光反射率を完全に100%とすることができないため、ミラー部の反射面に照射された光の一部が熱となり、可動部であるミラー部を昇温させてしまう。レーザ光を照射し続けるシステムであれば大きな問題がないが、レーザ光をオン/オフ制御したり、光量を変化させるシステムの場合、レーザ光の照射状況によって可動部からねじりバネ部に熱が伝わり、ねじりバネ部の温度が変化して、光偏向器の特性が変化してしまう。特に温度変動により、ヤング率が変化し、ばね剛性が変わり、共振周波数が変わることにより、回転振幅が変わってしまう。
【0004】
このような光偏向器において、例えば特許文献1には、可動部であるミラー部の本体と光反射面との間に、該本体を構成する材料よりも熱伝導率の高い材料で構成された高熱伝導膜を設けて、ミラー部の熱を高熱伝導膜を通して外部へ放熱するようにして、ミラー部の昇温を防止することが開示されている。また、特許文献2には、ミラー部の光反射面とは反対側の面にミラー部よりも熱伝導率の高い薄膜を形成して、レーザ光によりミラー部に蓄積された熱を薄膜を介して効率的に放熱することが開示されている。しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、可動であるミラー部からねじりバネ部への熱の伝達を低減することについて考慮されておらず、光偏向器の特性の変動を抑制するには限界がある。また、特許文献2では、ミラー部の光反射面とは反対側の面に熱伝導率の高い膜を形成するため、裏面に構造体がある場合には採用することができず、さらに、反射面の形成とは別工程で膜を形成する必要があるため、プロセス増加によるコストアップが問題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の叙上の問題に鑑みなされたもので、MEMSプロセスによって形成されたマイクロミラーの光偏向器において、レーザ光等の照射状況によって生じる特性の変動を抑制することを目的とする。
【0006】
詳しくは、本発明は、ミラー部にレーザ光等が照射された時の、該ミラー部を回動可能に支持するねじりバネ部を構成している母材自体への熱の伝達を低減して、特性の変動を抑制した光偏向器を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、特性の変動が抑制された光偏向器を用いて、特性の安定した光走査装置、画像形成装置、更には画像投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、固定ベースと、反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を前記固定ベースに対して揺動可能に支持する弾性支持部材とを有し、前記弾性支持部材に捻りを発生させることで、前記ミラー部を回転振動させる光偏向器において、少なくとも前記弾性支持部材の表面上、さらには固定ベースの表面上に、該弾性支持部材や固定ベースを形成する母材よりも熱伝導率の高い高熱伝導部材が積層されていることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明は、ミラー部の反射面に形成される反射膜が高熱伝導部材で形成されていることを特徴とする。また、該ミラー部の反射面に形成される高熱伝導部材と弾性支持部材の表面に形成される高熱伝導部材とは分離されていることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は、反射面の光ビーム有効範囲領域以外には、遮光部材が形成されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は、弾性支持部材及び固定ベースにおいて、これらを形成する母材と高熱伝導部材の間に、熱伝導率の低い低熱伝導率部材が積層されていることを特徴する。
【0012】
さらに、本発明は、ミラー部及び固定ベースの部分には、低熱伝導部材が積層されないが、あるいは、弾性支持部材の部分よりも低熱伝導部材が薄く積層されていることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、可動枠と、反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を前記可動枠に対して揺動可能に支持する第1の弾性支持部材とを有し、また、固定ベースと、前記第1の弾性支持部材と直交して、前記可動枠を前記固定ベースに対して揺動可能に支持する第2の弾性支持部材とを有し、前記第1の弾性支持部材に捻りを発生させることで、前記ミラー部を第1の方向に回転振動させ、前記第2の弾性支持部材に捻りを発生させることで、前記可動枠を回転振動させて、前記ミラー部を第2の方向に回転振動させる光偏向器において、前記第1及び第2の弾性支持部材の表面上、さらには前記可動枠及び前記固定ベースの表面上に、これらを形成する母材よりも熱伝導率の高い高熱伝導部材が積層されていることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明は、光源と、光源からの光ビームを偏向させる上記光偏向器と、偏向された光ビームを被走査面にスポット状に結像する結像光学系とを備える光走査装置を特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、上記光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有する画像形成装置を特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は、光源と、前記光源からの光ビームを画像信号に応じて変調する変調器と、前記光ビームを略平行光とするコリメート光学系と、前記略平行光とされた光ビームを偏向して投影面に投射する上記光偏向器とを有する画像投影装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光偏向器によれば、捻りばね部である弾性支持部材の表面上、さらには固定ベースや可動枠の表面上に、熱伝導率の高い高熱伝導部材を設けることで、ミラー部にレーザ光等が照射された時の該弾性支持部材を形成している母材への熱の伝わりを減少することができ、偏向ミラーの特性の変動を抑制することが可能になる。
【0018】
従って、本発明の光偏向器を用いることで、特性の安定した光走査装置を提供でき、該光走査装置を光書込みユニットに用いることで、特性の安定した画像形成装置を提供することができる。また、本発明の光偏向器を用いて、特性の安定した、消費電力が小さく、広画角投影が可能な画像投影装置を提供することができる。
【0019】
なお、本発明の光偏向器における更なる構成、作用効果は、後述の実施の形態の説明で明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1の光偏向器の全体斜視図である。
【図2】図1のA−A’線の部分断面図である。
【図3】本発明の実施例2の光偏向器の全体斜視図である。
【図4】図3のB−B’線の部分断面図である。
【図5】本発明の実施例3の光偏向器の全体斜視図である。
【図6】図5のC−C’線の部分断面図である。
【図7】本発明の実施例4の光偏向器の全体斜視図である。
【図8】図7のD−D’線の部分断面図である。
【図9】本発明の実施例5の光偏向器の全体斜視図である。
【図10】本発明の実施例5の別の光偏向器の全体斜視図である。
【図11】本発明の実施例6の光偏向器(2軸駆動)の全体斜視図である。
【図12】本発明の光偏向器を用いた光走査装置の一例の全体構成図である。
【図13】図12の光走査装置の光偏向器と駆動手段の接続を示す図である。
【図14】図12の光走査装置を光書込みユニットとして実装した画像形成装置の一例の全体構成図である。
【図15】本発明の光偏向器を用いた画像形成装置の一例の全体斜視図である。
【図16】図15の画像投影装置を駆動系も含めて示した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に、本発明の光偏向器の実施例1の全体斜視図、図2に、図1のA−A’線の部分断面図を示す。図1,図2において、10は光を反射させる反射面10aを有するミラー部であり、該ミラー部10の両端には一対の弾性支持部材としてのトーションバースプリング20の一端が接続され、該トーションバースプリング20の他端は固定ベース30に接続されている。
【0023】
例えば、シリコン(Si)を母材にMEMSプロセスによって加工することで、ミラー部10、トーションバースプリング20、固定ベース30が一体で形成される。ミラー部10には、シリコン基板の表面にアルミニウム(Al)や金(Au)、銀(Ag)などの金属の薄膜を形成することによって反射面10aが形成される。
【0024】
ここで、本実施例では、トーションバースプリング20と固定ベース30の表面上に、高熱伝導部材40が積層されている。この高熱伝導部材40は、トーションバースプリング20や固定ベース30を形成する母材(Si)よりも熱伝導率の高い材質のものであればよく、その材料は任意であるが、ここでは、ミラー部10の反射面10aと同じ材料(Al,Au,Ag等)とする。
【0025】
図1では省略したが、固定ベース30には駆動機構が配置されており、図1中、矢印の方向に外部から固定ベース30を加振することができるようになっている。駆動機構により、トーションバースプリング20が捻れてミラー部10が回転する捻れモードの固有周波数で固定ベース40を加振することで、ミラー部10が大きく回転(揺動)する。したがって、ミラー部10の反射面10aにレーザ光等の光を照射すると、該光を偏向・走査することができる。
【0026】
なお、固定ベース自体を加振するかわりに、梁状部材に圧電材料が積層された駆動梁をトーションバースプリング20に接続し、駆動梁を圧電駆動することで、トーションバースプリング20に捻り変形を発生して、ミラー部10を回転振動させることでもよい。また、静電力や電磁力などを用いることでもよい。いずれにしても、捻れモードが励起されて、ミラー部10が回転振動すれば良く、駆動方式はなんでもよい。
【0027】
ところで、ミラー部10に照射されたレーザ光等の光のほとんどは、反射面10aで反射されるが、一部は熱としてミラー部10に吸収されて、ねじりバネ部であるトーションバースプリング20に伝達し、トーションバースプリングの温度上昇をまねき、偏向ミラーの特性が変化してしまう。具体的には、トーションバースプリング20の温度が上昇すると、共振周波数が低下し、ミラー部10の回転振幅が変動する。
【0028】
本実施例では、トーションバースプリング20と固定ベース30の表面上に、これらを形成する母材よりも熱伝導率の高い材質の高熱伝導部材40が積層されていることで、該高熱伝導部材40を伝わる熱が増加し、トーションバースプリング20の母材自体に伝わる熱を抑制することができる(図2)。したがって、トーションバースプリング20の温度変化が減少し、該偏向ミラーの共振周波数や振幅特性の変動を抑制することができる。
【0029】
また、本実施例では、高熱伝導部材40には、ミラー部10の反射面10aと同じ材料(Al等)が用いられている。このため、ミラー部10の反射面10aと高熱伝導部材40の薄膜を同一のプロセスで同時に形成することができ、形成プロセスが簡素化され、コスト増を抑制できる。
【0030】
なお、図1、図2では、トーションバースプリング20及び固定ベース30の両方に、高熱伝導部材40を積層するようにしたが、高熱伝導部材40はトーションバースプリング20だけに積層することでもよい。
【実施例2】
【0031】
図3に本発明の光偏向器の実施例2の全体斜視図、図4に、図3のB−B’線の部分断面図を示す。図3、図4において、図1及び図2と同一部分には同一の符号が付与されている。
【0032】
本実施例は、基本構成は実施例1と同様であり、トーションバースプリング20及び固定ベース30の表面上に高熱伝導部材40が積層されているが、さらに、ミラー部10の反射面10aを除く全領域に遮光部材50が形成されていることである。このように、ミラー部10の反射面10aの光ビームの有効領域以外を遮光部材50によって遮光することで、余計な光が反射しないようにすることができる。
【実施例3】
【0033】
図5に本発明の光偏向器の実施例3の全体斜視図、図6に、図5のC−C’線の部分断面図を示す。図5、図6において、図1及び図2と同一部分には同一の符号が付されている。
【0034】
本実施例も、基本構成は実施例1と同様であるが、図5及び図6に符号60で示すように、高熱伝導部材40を、ミラー部10の反射面10aを形成する部分とトーションバースプリング20上に形成する部分とで分離したことである。これにより、レーザ光等の照射による熱がトーションバースプリング20上の高熱伝導部材40上に伝わりにくくなり、該高熱伝導部材40から、トーションバースプリング20を構成している母材自体への熱の伝わりを低減することができ、偏向ミラーの特性変動を抑制することが可能になる。
【実施例4】
【0035】
図7に本発明の光偏向器の実施例4の全体斜視図、図8に、図7のD−D’線の部分断面図を示す。図7、図8において、図1及び図2と同一部分には同一の符号が付されている。
【0036】
本実施例も、基本構成は実施例1と同様であるが、高熱伝導部材40と、ミラー部10、トーションバースプリング20、固定ベース30の母材との間に、さらに低熱伝導部材70を形成したことである。ここで、低熱伝導部材70にはSiOなどを使用する。このように構成することによって、ミラー部10の反射面10aに照射したレーザ光等から吸収された熱が、トーションバースプリング20の母材に更に伝わりにくくなり、偏向ミラーの特性変動を更に抑制することが可能になる。
【実施例5】
【0037】
図9、図10に本発明の光偏向器の実施例5の部分断面図を示す。本実施例は、実施例4の変形例であり、固定ベース40上で低熱伝導部材70をまったくなくすか、もしくは薄くするようにしたものである。
【0038】
図9は固定ベース40上で低熱伝導部材70を無くした構成例を示し、図10は固定ベース40上で低熱伝導部材70を薄くした構成例を示したものである。このように構成することによって、高熱伝導部材40から固定ベース30への熱の伝わりを大きくすることができ、放熱性が向上する。
【0039】
なお、図9の構成例においては、ミラー部10上でも低熱伝導部材70をなくすようにしてもよい。また、図10の構成例においては、ミラー部10上でも低熱伝導部材70を薄くするようにしてもよい。
【実施例6】
【0040】
図11に、本発明の光偏向器の実施例6の全体斜視図を示す。これまで説明した光偏向器は、いずれも1軸方向に光を偏向するものであったが、本実施例は2軸方向に光を偏向する構成に拡張したものである。なお、図1、図2などでは、固定ベース自体を加振することで、捻れモードを励起して、ミラー部を回転させるとしたが、図11では、表面に圧電材料が積層された梁状部材をトーションバースプリングに接続し、梁状部材をユニモルフ構造(もしくはバイモルフ構造)として駆動することで、ミラー部を回転させるとする。勿論、ミラー部の駆動は、これに限定されるものでないことは云うまでもない。
【0041】
図11において、10はレーザ光等の光を反射させる反射面を有するミラー部であり、該ミラー部10の両側には一対の第1の弾性支持部材としての第1のトーションバースプリング120が接続されている。この一対の第1のトーションバースプリング120のミラー部10と反対側の端部にはそれぞれ第1のトーションバースプリング120の長手方向と略直交する向きを長手方向として2組の第1の駆動梁130a,130bが対称に接続され、これら第1の駆動梁130a,130bの他端が、中央に穴があいている枠状の可動枠140に接続されている。ここで、第1の駆動梁130a,130bは、それぞれ、梁状部材の表面に圧電材料が積層され、平板短冊状のユニモルフ構造を形成している。なお、これら第1の駆動梁130a,130bは、梁状部材の両面に圧電材料が積層されたバイモルフ構造とすることでもよい。
【0042】
さらに、可動枠140の両側には、上記一対の第1のトーションバースプリング120と直交する方向に、一対の第2の弾性支持部材としての第2のトーションバースプリング220が接続されている。この一対の第2のトーションバースプリング220の可動枠140と反対側の端部にも、それぞれ、該第2のトーションバースプリング220の長手方向と略直交する向きを長手方向として2組の第2の駆動梁a230a,230bが対称に接続され、これら第2の駆動梁230a,230bの他端が固定ベース240に接続されている。これら第2の駆動梁230a,230bもそれぞれ、梁状部材の表面に圧電材料が積層され、平板短冊状のユニモルフ構造を形成している。これらも、梁状部材の両面に圧電材料が積層されたバイモルフ構造とすることでもよい。
【0043】
本実施例では、ミラー部10の両側の第1の駆動梁130a,130bで第1のトーションバースプリング120に振動を与えることで、ミラー部10を該第1のトーションバースプリング120の軸周りに回転させ、可動枠140の両側の第2の駆動梁230a,230bで第2のトーションバースプリング220に振動を与えることで、可動枠140を第2のトーションバースプリング220の軸周りに回転させてミラー部10を回転させる。ここで、第1のトーションバースプリング120の軸周りの第1の回転方向と第2のトーションバースプリング220の軸周りの第2の回転方向の振動モードの固有周波数を異ならせておき、それぞれの周波数で第1の駆動梁130a,130bと第2の駆動梁220a,220bを駆動することで、ミラー部10を2軸方向に回転(回動)させることができる。
【0044】
このような2軸駆動の構成においても、ミラー部10の第1のトーションバースプリング120、第1の駆動梁130a,130b、可動枠140の表面上、更には第2のトーションバースプリング220、第2の駆動梁230a,230b、固定ベース240の表面に、先の実施例1のように熱伝導部材を形成することで、偏向ミラーの特性変動を抑制することが可能になる。さらには、先の実施例2乃至5を適用することで、偏向ミラーの特性変動を更に抑制することが可能になる。なお、熱伝導部材は、第1のトーションバースプリング120及び第2のトーションバースプリング220の表面上だけに形成するようにしてもよい。
【実施例7】
【0045】
本実施例は、実施例1〜5の1軸方向に光を偏向する光偏向器を用いて画像形成装置の光書き込みユニットとしての特性の安定した光走査装置を提供するものである。
【0046】
図12に本実施例の光走査装置の全体構成図、図13に該光走査装置に用いる光偏向器と駆動手段の接続図を示す。
【0047】
図12において、レーザ素子1020からのレーザ光は、コリメータレンズ系1021を経た後、光偏向器1022により偏向される。この光偏向器1022として、実施例1〜5のいずれかの構成の光偏向器が用いられる。光偏向器1022で偏向されたレーザ光は、その後、第一レンズ1023aと第二レンズ1023b、反射ミラー1023cからなる走査光学系1023を経て感光ドラム等のビーム走査面1022に照射される。
【0048】
図13に示すように、光偏向器1022は駆動手段1024と電気的に連結されている。この駆動手段1024が、光偏向器1022の下部電極と上部電極間に駆動電圧を印加する。これにより、光偏向器1022のミラー部が回転してレーザ光が偏向され、ビーム走査面1022上が光走査される。
【0049】
このように、本発明の光偏向器を利用した光走査装置は写真印刷方式のプリンタや複写機などの画像形成装置のための光書込ユニットの構成部材として最適である。
【実施例8】
【0050】
本実施例は、実施例7の光走査装置を光書込みユニットの構成部材として実装した特性の安定した画像形成装置を提供するものである。
【0051】
図14に本実施例の画像形成装置の一例の全体構成図を示す。図14において、1001が光書込みユニットであり、レーザビームを被走査面に出射して画像を書き込む。1002は光書込みユニット1001による走査対象としての被走査面を提供する像担持体としての感光体ドラムである。
【0052】
光書込みユニット1001は、記録信号によって変調された1本又は複数本のレーザビームで感光体ドラム1002の表面(被走査面)を同ドラムの軸方向に走査する。感光体ドラム1002は矢印1003方向に回転駆動され、帯電手段1004により帯電された表面に、光書込みユニット1001により光走査されることによって、静電潜像が形成される。この静電潜像は現像手段1005でトナー像に顕像化され、このトナー像は転写手段1006で記録紙1007に転写される。転写されたトナー像は定着手段1008によって記録紙1007に定着される。感光体ドラム1002の転写手段1006対向部を通過した感光体ドラムの表面部分はクリーニング部1009で残留トナーを除去される。
【0053】
なお、感光体ドラム1002に代えてベルト状の感光体を用いる構成も可能である。また、トナー像を記録紙以外の転写媒体に一旦転写し、この転写媒体からトナー像を記録紙に転写して定着させる構成とすることも可能である。
【0054】
光書込みユニット1001は、記録信号によって変調された1本又は複数本のレーザビームを発するレーザ素子としての光源部1020と、レーザビームを変調する光源駆動手段1500と、これまで説明した本発明の1軸方向にレーザビームを偏向する光偏向器1022と、この光偏向器1022のミラー基板のミラー面に光源部1020からの、記録信号によって変調されたレーザビーム(光ビーム)を結像させるための結像光学系1021と、ミラー面で反射・偏向された1本又は複数本のレーザビームを感光体ドラム1002の表面(被走査面)に結像させるための手段である走査光学系1023などから構成される。光偏向器1022は、その駆動のための集積回路(駆動手段)1024とともに回路基板1025に実装された形で光書込みユニット1001に組み込まれている。
【0055】
光偏向器1022は、従来の回転多面鏡に比べ駆動のための消費電力が小さいため、画像形成装置の省電力化に有利である。また、光偏向器1022のミラー基板の振動時の風切り音は回転多面鏡に比べ小さいため、画像形成装置の静粛性の改善に有利である。さらに、光偏向器1022は、回転多面鏡に比べ設置スペースが圧倒的に少なくて済み、また、発熱量もわずかであるため、小型化が容易であり、したがって画像形成装置の小型化に有利である。そして、光偏向器1022の特性の変動が抑制されていることで、特性が安定した画像形成装置を提供することができる。
【0056】
なお、記録紙1007の搬送機構、感光体ドラム1002の駆動機構、現像手段1005、転写手段1006などの制御手段、光源部1020の駆動系などは、従来の画像形成装置と同様でよいため図14では省略されている。
【実施例9】
【0057】
本実施例は、実施例6のような2軸方向に光を偏向する光偏向器を実装した特性が安定した画像投影装置を提供するものである。
【0058】
図15に本実施例の画像投影装置の全体構成図を示す。図15において、筐体2000に赤(R)、緑(G)、青(B)の異なる3波長のレーザ光を出射するレーザ光源2001−R,2001−G,2001−Bが取り付けられ、これらレーザ光源2001−R,2001−G,2001−Bの出射端近傍には、該レーザ光源2001−R,2001−G,2001−Bからの出射光を略平行光に集光する集光レンズ2002−R,2002−,002−Bが配置されている。集光レンズ2002−R,2002−,002−Bで略平行になったR,G,Bのレーザ光は、ミラー2003やハーフミラー2004を経て、合成プリズム2005によって合成され、光偏向器2006のミラー面に入射される。光偏向器2006には、実施例7や8のような2軸方向に光を偏向する構成の光偏向器(二次元反射角度可変ミラー)が使用される。光偏向器2006のミラー面に入射した合成レーザ光は、光偏向器2006によって二次元偏向走査されて投影面に投射され、画像を投影する。
【0059】
図16は、本実施例の画像投影装置の制御系も含めた概略構成図である。なお、図16では、3波長のレーザ光源や集光レンズは一つにまとめて示し、また、ミラー、ハーフミラー、合成プリズムは省略してある。
【0060】
画像情報に応じて画像生成部2011で画像信号を生成し、この画像信号が変調器2012を介して光源駆動回路2013に送られると共に、スキャナ駆動回路2014に画像同期信号が送られる。スキャナ駆動回路2014は、画像同期信号に応じて駆動信号を光偏向器2006に与える。この駆動信号によって、光偏向器2006のミラー部10は、直交した2つの方向に所定角度(例えば10deg程度)の振幅で共振振動し、入射したレーザ光が二次元偏向走査される。一方、レーザ光源2001から出射されるレーザ光は、光源駆動回路2013により、光偏向器2006の二次元偏向走査のタイミングに合わせて強度変調されており、これによって、投影面2007に二次元の画像情報が投影される。強度変調はパルス幅を変調してもよいし、振幅を変調してもよい。変調器2012は画像信号をパルス幅変調あるいは振幅変調し、この変調された信号を光源駆動回路2013によりレーザ光源2001を駆動できる電流に変調してレーザ光源2001を駆動する。
【0061】
ここで、光偏向手段には、ポリゴンミラーなどの回転走査ミラーを使用することもできるが、本発明の実施例6の構成の光偏向器(二次元反射角度可変ミラー)2006は、回転走査ミラーに比べ駆動のための消費電力が小さいため、画像投影装置の省電力に有利である。また、光偏向器2006のミラー基板の振動時の風切り音は回転走査ミラーに比べて小さいため、画像投影装置の静粛性の改善に有利である。さらに光偏向器2006は、回転走査ミラーに比べ設置スペースが圧倒的に少なくて済み、また、発熱量もわずかであるため、小型化が容易であり、したがって、画像投影装置の小型化に有利である。そして、光偏向器2006の特性の変動が抑制されていることで、特性が安定した画像投影装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 ミラー部
20 トーションバースプリング(弾性支持部材)
30 固定ベース
40 高熱伝導部材
50 遮光部材
60 分離部
70 低熱伝導部材
120 第1のトーションバースプリング
130a,130b 第1の駆動梁
140 可動枠
220 第2のトーションバースプリング
230a,230b 第2の駆動梁
240 固定ベース
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特許第4337862号公報
【特許文献2】特開2009−031536号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ベースと、反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を前記固定ベースに対して揺動可能に支持する弾性支持部材とを有し、前記弾性支持部材に捻りを発生させることで、前記ミラー部を回転振動させる光偏向器において、
前記弾性支持部材の表面上に、該弾性支持部材を形成する母材よりも熱伝導率の高い高熱熱伝導部材が積層させていることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
前記弾性支持部材の表面上に加えて、前記固定ベースの表面上にも前記高熱伝導部材が延長して積層されていることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記ミラー部の反射面には反射膜が形成され、該反射膜は前記高熱伝導部材で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記ミラー部の反射面に形成された高熱伝導部材と前記弾性支持部材の表面に形成された高熱伝導部材とは分離されていることを特徴とする請求項3に記載の光偏向器。
【請求項5】
前記反射面の光ビーム有効範囲領域以外には遮光部材が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光偏向器。
【請求項6】
前記弾性支持部材を形成する母材と前記高熱伝導部材との間に、該高熱伝導部材より熱伝導率の低い低熱伝導部材が更に積層されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光偏向器。
【請求項7】
前記弾性支持部材及び前記固定ベースを形成する母材と前記高熱伝導部材との間に、該高熱伝導部材より熱伝導率の低い低熱伝導部材が更に積層されていることを特徴する請求項2乃至5のいずれか1項に記載の光偏向器。
【請求項8】
前記固定ベース上の低熱伝導部材は、前記弾性支持部材上の低熱伝導部材よりも薄く形成されていることを特徴する請求項7に記載の光偏向器。
【請求項9】
前記ミラー部、前記弾性支持部材及び前記固定ベースの母材はSi、前記高熱伝導部材はAl、AuもしくはAgであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光偏向器。
【請求項10】
前記ミラー部、前記弾性支持部材及び前記固定ベースの母材はSi、前記高熱伝導部材はAl、AuもしくはAg、前記低熱伝導部材はSiOであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の光偏向器。
【請求項11】
可動枠と、反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を前記可動枠に対して揺動可能に支持する第1の弾性支持部材とを有し、
さらに、固定ベースと、前記第1の弾性支持部材と直交して、前記可動枠を前記固定ベースに対して揺動可能に支持する第2の弾性支持部材とを有し、
前記第1の弾性支持部材に捻りを発生させることで、前記ミラー部を第1の方向に回転振動させ、前記第2の弾性支持部材に捻りを発生させることで、前記可動枠を回転振動させて、前記ミラー部を第2の方向に回転振動させる光偏向器において、
前記第1及び第2の弾性支持部材の表面上に、これら弾性支持部材を形成する母材よりも熱伝導率の高い高熱伝導部材が積層されていることを特徴とする光偏向器。
【請求項12】
前記第1及び第2の弾性支持部材の表面上に加えて、前記可動枠及び前記固定ベースの表面上にも前記高熱伝導部材が延長して積層されていることを特徴とする請求項11に記載の光偏向器。
【請求項13】
光源と、光源からの光ビームを偏向させる請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光偏向器と、偏向された光ビームを被走査面にスポット状に結像する結像光学系とを備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項14】
請求項13に記載の光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項15】
光源と、前記光源からの光ビームを画像信号に応じて変調する変調器と、前記光ビームを略平行光とするコリメート光学系と、前記略平行光とされた光ビームを偏向して投影面に投射する請求項1乃至12のいずれか1項記載の光偏向器とを有することを特徴とする画像投影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−93431(P2012−93431A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238634(P2010−238634)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】