説明

光偏向装置、光走査装置及び画像形成装置

【課題】回転多面鏡を備えた回転体とこの回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸とこれらの基板とを備え、新たな部品を加えなくとも、高速回転時における回転体、回転軸の自励振動が抑制される光偏向装置、これを有する光走査装置、これを有する画像形成装置の提供。
【解決手段】回転多面鏡117a、117bを有する回転体101の回転数をP[rpm]とし、回転体101の重心と基板110との距離をl[m]とし、回転体101の質量をm[kg]とし、回転軸104の半径をr[m]とし、回転軸104のヤング率をE[Pa]としたとき、(3πEr/4ml1/2/2π≦21/2×P/60または(3πr/4ml1/2/2π≦5.41×10−8×Pを満たすとともに、自励振動を抑制するために、基板110の厚さtが、0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からのビームを偏向する光偏向装置であって、回転多面鏡を備えた回転体とこの回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸とこれらの基板とを備えた光偏向装置、これを有する光走査装置、これを有する複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、かかる画像形成装置であって、形成すべき画像に対応した電子情報を光情報に変換し、光情報を光走査装置で像担持体上に潜像として固定し、固定された潜像をトナー等により現像して画像形成を行う画像形成装置においては、カラー化に加え、高速化及び高密度化が進んでいる。
【0003】
よって、かかる光偏向装置を光走査装置に備えているタイプの画像形成装置にあっては、回転多面鏡を複数設けた構造が提案されており、また回転多面鏡の回転高速化が進んでいるが、回転多面鏡の数や回転数の増加は、回転多面鏡の偏心等に起因する振動、騒音、周囲の空気との摩擦による風切り音の増大、あるいは温度上昇を招くという問題を抱えている。
【0004】
これに対し、たとえば、〔特許文献1〕には、カラー画像形成装置に用いられる光偏向装置として、小型化された複数の回転多面鏡を互いに強固に連結し、高速回転においても騒音が少なく、加速度や温度変化によっても回転多面鏡のずれが起こりにくい、光走査の高速化、高密度化を目的とする技術が開示されている。
【0005】
しかし、〔特許文献1〕に記載の技術を用いた場合であっても、光偏向装置の高速化を行うと、使用回転速度の増加に伴い、使用回転周波数が光偏向装置の固有振動数に近づくと、共振が生じて振動が大きくなり得る。かかる振動は、偏向ビームのばらつきとなり、出力画像の画質劣化へと繋がる可能性があるため問題である。そこで、たとえば、〔特許文献2〕や〔特許文献3〕には、動吸振子を設置し振動を抑制する技術が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−092129号公報
【特許文献2】特開2005−010260号公報
【特許文献3】特表2001−065560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、かかる技術は、新たな部品を要するためコスト面で不利であり、また動吸振子の大きさも限られるため、かかる振動抑制の大幅な改善が見込めない。
【0008】
本発明は、光源からのビームを偏向する光偏向装置であって、回転多面鏡を備えた回転体とこの回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸とこれらの基板とを備え、新たな部品を加えなくとも、高速回転時における自励振動が抑制される光偏向装置、これを有する光走査装置、これを有する複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、回転多面鏡を有する回転体と、この回転体に固定され同回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持した軸受け手段と、この軸受け手段を固定し同軸受け手段を介して前記回転軸を回転自在に支持した基板とを備え、前記回転体の回転数をP[rpm]とし、前記回転体の重心と前記基板との距離をl[m]とし、前記回転体の質量をm[kg]とし、前記回転軸の半径をr[m]とし、前記回転軸のヤング率をE[Pa]としたとき、
【0010】
【数1】

を満たすとともに、自励振動を抑制するために、前記基板の厚さtが、0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される光偏向装置にある。
【0011】
請求項2記載の発明は、回転多面鏡を有する回転体と、この回転体に固定され同回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持した軸受け手段と、この軸受け手段を固定し同軸受け手段を介して前記回転軸を回転自在に支持した基板とを備え、前記回転体の回転数をP[rpm]とし、前記回転体の重心と前記基板との距離をl[m]とし、前記回転体の質量をm[kg]とし、前記回転軸の半径をr[m]としたとき、
【0012】
【数2】

を満たすとともに、自励振動を抑制するために、前記基板の厚さtが、0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される光偏向装置にある。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の光偏向装置において、前記軸受け手段は、カシメにより前記基板に固定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3の何れか1つに記載の光偏向装置において、0.75≦r<1.5を満たすことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4の何れか1つに記載の光偏向装置において、前記基板のヤング率Hが、H>200[GPa]を満たすことを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし5の何れか1つに記載の光偏向装置において、前記基板が、鉄基板であることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし6の何れか1つに記載の光偏向装置と、前記回転多面鏡に入射するビームの光源と、この光源からのビームが進入する、前記回転多面鏡を含む光学系とを有し、前記回転体の回転により、前記光源からのビームを、前記光学系によって被走査面に導いて同被走査面の走査を行う光走査装置にある。
【0018】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の光走査装置において、前記光源は複数のビームを前記回転多面鏡に入射させるものであり、前記光学系によって複数のビームを被走査面に互いに隣接するように導いて同被走査面の走査を行う光走査装置にある。
【0019】
請求項9記載の発明は、請求項7又は8記載の光走査装置と、前記被走査面を構成し前記走査によって潜像を形成される像担持体とを有する画像形成装置にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、回転多面鏡を有する回転体と、この回転体に固定され同回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持した軸受け手段と、この軸受け手段を固定し同軸受け手段を介して前記回転軸を回転自在に支持した基板とを備え、前記回転体の回転数をP[rpm]とし、前記回転体の重心と前記基板との距離をl[m]とし、前記回転体の質量をm[kg]とし、前記回転軸の半径をr[m]とし、前記回転軸のヤング率をE[Pa]としたとき、
【0021】
【数3】

を満たすとともに、自励振動を抑制するために、前記基板の厚さtが、0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される光偏向装置にあるので、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行うことができ、また高精度の光走査及びこれによる良好な画像形成に寄与することができる光偏向装置を提供することができる。
【0022】
本発明は、回転多面鏡を有する回転体と、この回転体に固定され同回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸と、この回転軸を回転自在に支持した軸受け手段と、この軸受け手段を固定し同軸受け手段を介して前記回転軸を回転自在に支持した基板とを備え、前記回転体の回転数をP[rpm]とし、前記回転体の重心と前記基板との距離をl[m]とし、前記回転体の質量をm[kg]とし、前記回転軸の半径をr[m]としたとき、
【0023】
【数4】

を満たすとともに、自励振動を抑制するために、前記基板の厚さtが、0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される光偏向装置にあるので、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行うことができ、また高精度の光走査及びこれによる良好な画像形成に寄与することができる光偏向装置を提供することができる。
【0024】
前記軸受け手段は、カシメにより前記基板に固定されていることとすれば、軸受け手段が基板に強固に固定され、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行うことができ、また高精度の光走査及びこれによる良好な画像形成に寄与することができる光偏向装置を提供することができる。
【0025】
0.75≦r<1.5を満たすこととすれば、回転軸等の強度を保つことができるとともに、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行うことができ、また高精度の光走査及びこれによる良好な画像形成に寄与することができる光偏向装置を提供することができる。
【0026】
前記基板のヤング率Hが、H>200[GPa]を満たすこととすれば、基板の強度を確保しまた部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行うことができ、また高精度の光走査及びこれによる良好な画像形成に寄与することができる光偏向装置を提供することができる。
【0027】
前記基板が、鉄基板であることとすれば、コストの上昇を抑制しまた部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行うことができ、また高精度の光走査及びこれによる良好な画像形成に寄与することができる光偏向装置を提供することができる。
【0028】
本発明は、かかる光偏向装置と、前記回転多面鏡に入射するビームの光源と、この光源からのビームが進入する、前記回転多面鏡を含む光学系とを有し、前記回転体の回転により、前記光源からのビームを、前記光学系によって被走査面に導いて同被走査面の走査を行う光走査装置にあるので、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行い高精度の光走査を行うことができ、またこれによる良好な画像形成に寄与することができる光走査装置を提供することができる。
【0029】
前記光源は複数のビームを前記回転多面鏡に入射させるものであり、前記光学系によって複数のビームを被走査面に互いに隣接するように導いて同被走査面の走査を行う光走査装置にあるので、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度でいわゆるマルチビームの偏向を行い高精度の光走査を行うことができ、またこれによる良好な画像形成に寄与することができる光走査装置を提供することができる。
【0030】
本発明は、かかる光走査装置と、前記被走査面を構成し前記走査によって潜像を形成される像担持体とを有する画像形成装置にあるので、部品点数を増加させることなく高速回転時における自励振動を抑制することができ、よって高精度で偏向を行い高精度の光走査を行うことができ、良好な画像形成を行うことができる画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1に本発明を適用した画像形成装置の概略を示す。画像形成装置100は、複写機、プリンタ、ファクシミリの複合機であってフルカラーの画像形成を行うことができるようになっている。画像形成装置100は、プリンタ、ファクシミリとして用いられる場合には、外部から受信した画像情報に対応する画像信号に基づき画像形成処理を行なう。
【0032】
画像形成装置100は、一般にコピー等に用いられる普通紙の他、OHPシートや、カード、ハガキ等の厚紙や、封筒等の何れをも記録用紙である転写シートとしてのシート状の記録媒体としてこれに画像形成を行なうことが可能である。
【0033】
画像形成装置100は、上下方向において中央位置を占める本体99と、本体99の上側に位置し原稿を読み取るスキャナとしての読取装置21と、読取装置21の上側に位置し原稿を積載され積載された原稿を読取装置21に向けて送り出すADFといわれる自動原稿給紙装置22と、本体99の下側に位置し感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kと中間転写ベルト11との間に向けて搬送される記録媒体である転写媒体たる転写紙Sを積載した給紙テーブルとしてのシート給送装置23とを有している。
【0034】
画像形成装置100は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に色分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な複数の像担持体としての潜像担持体である円筒状の光導電性感光体たる感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kを並設したタンデム構造を採用したタンデム構造、言い換えるとタンデム方式すなわちタンデム型の画像形成装置である。
【0035】
感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kは、同一径であり、画像形成装置100の本体99の内部のほぼ中央部に配設された無端ベルトである中間転写ベルトとしての転写ベルト11の外周面側すなわち作像面側に、等間隔で並んでいる。
【0036】
感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kは、A1方向の上流側からこの順で並設されている。各感光体ドラム感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kはそれぞれ、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像を形成するための、画像形成部としての作像部たる画像ステーション60Y、60M、60C、60Kに備えられている。
【0037】
転写ベルト11は、各感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kに対峙しながら矢印A1方向に移動可能となっている。各感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kに形成された可視像すなわちトナー像は、矢印A1方向に移動する転写ベルト11に対しそれぞれ重畳転写され、その後、転写紙Sに一括転写されるようになっている。
【0038】
転写ベルト11に対する重畳転写は、転写ベルト11がA1方向に移動する過程において、各感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kに形成されたトナー像が、転写ベルト11の同じ位置に重ねて転写されるよう、転写ベルト11を挟んで各感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kのそれぞれに対向する位置に配設された転写チャージャとしての1次転写ローラ12Y、12M、12C、12Kによる電圧印加によって、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして、各感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kと転写ベルト11と対向位置である転写位置にて行われる。
【0039】
転写ベルト11は、その全層をゴム剤等の弾性部材を用いて構成した弾性ベルトである。転写ベルト11は、単層の弾性ベルトであっても良いし、その一部を弾性部材とした弾性ベルトであっても良いし、従来から用いられている、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂等を用いても良く、非弾性ベルトであっても良い。
【0040】
画像形成装置100は、4つの画像ステーション60Y、60M、60C、60Kと、各感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kの下方に対向して配設され、転写ベルト11を備えた中間転写装置であるベルトユニットとしての転写ベルトユニット10と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11に当接し、転写ベルト11への当接位置において転写ベルト11と同方向に回転する転写部材としての紙転写ベルトである転写装置たる2次転写ローラ5とを有している。
【0041】
画像形成装置100はまた、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11上をクリーニングする中間転写クリーニングブレードを備えた中間転写ベルトクリーニング装置としての図示しないクリーニング装置と、画像ステーション60Y、60M、60C、60Kの上方に対向して配設された書き込み手段である光書き込み装置としての書込装置たる光走査装置8とを有している。
【0042】
画像形成装置100はまた、シート給送装置23から搬送されてきた記録紙を、画像ステーション60Y、60M、60C、60Kによるトナー像の形成タイミングに合わせた所定のタイミングで、転写ベルト11と2次転写ローラ5の間の転写部に向けて繰り出すレジストローラ対13と、転写紙Sの先端がレジストローラ対13に到達したことを検知する図示しないセンサとを有している。
【0043】
画像形成装置100はまた、トナー像を転写され矢印C1方向に搬送されることで進入してきた転写紙Sに同トナー像を定着させるためのローラ定着方式の定着ユニットとしての定着装置6と、定着装置6を経た転写紙Sを本体99の外部に排出する排紙ローラ7と、本体99の上部に配設され排紙ローラ7により本体99の外部に排出された転写紙Sを積載する排紙部としての排紙トレイ17と、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のトナーを充填された図示しないトナーボトルとを有している。
【0044】
画像形成装置100は、排紙トレイ17が本体99の上方でかつ読取装置21の下側に位置した胴内排紙型の画像形成装置である。排紙トレイ17上に積載された転写紙Sは、図1において左方に対応するD1方向下流側に取り出されるようになっている。
【0045】
転写ベルトユニット10は、転写ベルト11の他に、1次転写ローラ12Y、12M、12C、12Kと、中間転写ベルト11を巻き掛けられた、駆動ローラ72、2次転写対向ローラとしての転写入口ローラ73および従動ローラであるテンションローラ74とを有している。駆動ローラ72は、図示しない駆動源としてのモータの駆動により回転駆動され、これによって、転写ベルト11がA1方向に回転駆動される。
【0046】
定着装置6は、熱源を内部に有する定着ローラ62と、定着ローラ62に圧接された加圧ローラ63とを有しており、トナー像を担持した転写紙Sを定着ローラ62と加圧ローラ63との圧接部である定着部に通すことで、熱と圧力との作用により、担持したトナー像を転写紙Sの表面に定着するようになっている。
【0047】
光走査装置8は、感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kの表面によって構成された被走査面をそれぞれ走査して露光し、静電潜像を形成するための、画像信号に基づくレーザービームとしてのレーザー光であるビームLY、LM、LC、LKを発するものである。ビームLY、LM、LC、LKは、形成すべき画像に対応した電子情報が光情報に変換されたものであり、光走査装置8は、かかる光情報を感光体ドラム20Y、20M、20C、20K上に潜像として固定するものである。
【0048】
光走査装置8は、本体99に対し着脱自在となっており、離脱時には、画像ステーション60Y、60M、60C、60Kにそれぞれ備えられた後述するプロセスカートリッジをそれぞれ独立で本体99から上方に取り出せるようになっている。
【0049】
シート給送装置23は、転写紙Sを積載した給紙トレイ15と、給紙トレイ15上に積載された転写紙Sを送り出す給紙コロ16とを有している。
【0050】
読取装置21は、本体99の上方に位置し、画像形成装置100のD1方向上流側端部に配設された軸24により本体99に回動自在に一体化され本体99に対して開閉可能となっている。
【0051】
読取装置21は、D1方向下流側端部に、読取装置21を本体99に対して開くときに把持するための把持部25を有している。読取装置21は、軸24を中心に回動自在であって、把持部25を把持して上方に回動させることで本体99に対して開く。本体99に対する読取装置21の開放角度はほぼ90度であり、本体99内部へのアクセス、読取装置21を閉じる作業等が容易となっている。
【0052】
読取装置21は、原稿を載置するコンタクトガラス21a、コンタクトガラス21aに載置された原稿に光を照射する図示しない光源及び光源から原稿に照射され反射された光を反射する図示しない第1の反射体を備え図1における左右方向に走行する第1走行体21b、第1走行体21bの反射体によって反射された光を反射する図示しない第2の反射体を備えた第2走行体21c、第2走行体21cからの光を結像するための結像レンズ21d、結像レンズ21dを経た光を受け原稿の内容を読み取る読み取りセンサ21e等を備えている。
【0053】
自動原稿給紙装置22は、読取装置21の上方に位置し、画像形成装置100のD1方向上流側端部に配設された軸26により読取装置21に回動自在に一体化され読取装置21に対して開閉可能に備えられている。
【0054】
自動原稿給紙装置22は、D1方向下流側端部に、自動原稿給紙装置22を読取装置21に対して開くときに把持するための把持部27を有している。自動原稿給紙装置22は、軸26を中心に回動自在であって、把持部27を把持して上方に回動させることで読取装置21に対して開き、コンタクトガラス21aを露出させる。
【0055】
自動原稿給紙装置22は原稿を載置する原稿台22aと、原稿台22aに載置された原稿を給送する、図示しないモータ等を備えた駆動部とを有している。画像形成装置100を用いて複写を行うときには、原稿を自動原稿給送装置22の原稿台22aにセットするか、自動原稿給送装置22を上方に向けて回動して手動でコンタクトガラス21a上に原稿を載置してから自動原稿給送装置22を閉じて原稿をコンタクトガラス21aに押圧する。読取装置21に対する自動原稿給紙装置22の開放角度はほぼ90度であり、コンタクトガラス21a上に原稿を載置する作業、コンタクトガラス21aのメンテナンス作業等が容易となっている。
【0056】
図1を参照して、画像ステーション60Y、60M、60C、60Kについて、そのうちの一つの、感光体ドラム20Yを備えた画像ステーション60Yの構成を代表して構成を説明する。なお、他の画像ステーションの構成に関しても実質的に同一であるので、以下の説明においては、便宜上、画像ステーション60Yの構成に付した符号に対応する符号を、他の画像ステーションの構成に付し、また詳細な説明については適宜省略することとし、符号の末尾にY、M、C、Kが付されたものはそれぞれ、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成を行うための構成であることを示すこととする。
【0057】
感光体ドラム20Yを備えた画像ステーション60Yは、感光体ドラム20Yの周囲に、図中時計方向であるその回転方向B1に沿って、1次転写ローラ12Yと、感光体ドラム20Yをクリーニングするためのクリーニング手段としてのクリーニング装置70Yと、感光体ドラム20Yを高圧に帯電するための帯電手段である帯電装置としての帯電チャージャたる帯電装置30Yと、感光体ドラム20Yを現像するための現像手段としての現像器である現像装置50Yとを有している。現像装置50Yは、感光体ドラム20Yに対向する位置に配設された現像ローラ51Yを有している。
【0058】
感光体ドラム20Yと、クリーニング装置70Yと、帯電装置30Yと、現像装置50Yとは一体化されており、プロセスカートリッジを構成している。プロセスカートリッジは本体99に対して着脱自在となっている。このようにプロセスカートリッジ化することは、交換部品として取り扱うことができるため、メンテナンス性が著しく向上し、大変好ましい。
【0059】
以上のような構成により、感光体ドラム20Yは、B1方向への回転に伴い、帯電装置30Yにより表面を一様に帯電され、光走査装置8からのビームLYの露光走査によりイエロー色に対応した静電潜像を形成される。この静電潜像の形成は、ビームLYが、紙面垂直方向である主走査方向に走査するとともに、感光体ドラム20YのB1方向への回転により、感光体ドラム20Yの円周方向である副走査方向へも走査することによって行われる。
【0060】
このようにして形成された静電潜像には、現像装置50Yにより供給される帯電したイエロー色のトナーが付着し、イエロー色に現像されて顕像化され、現像により得られたイエロー色の可視画像たるトナー像は、1次転写ローラ12YによりA1方向に移動する転写ベルト11に1次転写され、転写後に残留したトナー等の異物はクリーニング装置70Yにより掻き取り除去され備蓄されて、感光体ドラム20Yは、帯電装置30Yによる次の帯電に供される。
【0061】
他の感光体ドラム20C、20M、20Kにおいても同様に各色のトナー像が形成等され、形成された各色のトナー像は、1次転写ローラ12C、12M、12Kにより、A1方向に移動する転写ベルト11上の同じ位置に順次1次転写される。
【0062】
転写ベルト11上に重ね合わされたトナー像は、転写ベルト11のA1方向の回転に伴い、2次転写ローラ5との対向位置である2次転写部である転写部まで移動し、この転写部において転写紙Sに2次転写される。
【0063】
転写ベルト11と2次転写ローラ5との間に搬送されてきた転写紙Sは、シート給送装置23から繰り出され、レジストローラ対13によって、センサによる検出信号に基づいて、転写ベルト11上のトナー像の先端部が2次転写ローラ5に対向するタイミングで送り出されたものである。
【0064】
転写紙Sは、すべての色のトナー像を一括転写され、担持すると、C1方向に搬送されて定着装置6に進入し、定着ローラ62と加圧ローラ63との間の定着部を通過する際、熱と圧力との作用により、担持したトナー像を定着され、この定着処理により、転写紙S上に合成カラー画像たるカラー画像が形成される。定着装置6を通過した定着済みの転写紙Sは、排紙ローラ7を経て、排紙トレイ17上にスタックされる。一方、2次転写を終えた転写ベルト11は、クリーニング装置によってクリーニングされ、次の1次転写に備える。
【0065】
画像形成装置100は、高速の画像形成を行うため、光走査装置8による感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kの表面への潜像の書き込みが高速で行なわれるようになっている。そのため、光走査装置8は、回転多面鏡を複数設けた構造が採用されており、また回転多面鏡の回転高速化がなされている。
【0066】
このような特性をもつ光走査装置8について以下詳述する。なお、光走査装置8の書込み速度の高速化に応じて、感光体ドラム20Y、20M、20C、20K、転写ベルト11の回転速度、転写紙Sの搬送速度なども高速化されている。
【0067】
図2は、光走査装置8を、図1に示したのと同じ方向から見た状態を概略的に示している。光走査装置8は、同図における左右方向の中心部に、本発明を適用した光偏向装置としての光偏向器117を有しており、光偏向器117を中心に同図における左右方向において対称な構造となっている。同図においては光偏向器117を概略的に示しており、図8ないし10等においては光偏向器117のより詳細な構造が示されているが、これらの図を参照した光偏向器117の構造については後に詳述する。
【0068】
図3は、光走査装置8を副走査方向、即ち、光偏向器117の回転軸方向から見た状態を示しており、同図における左右方向は、図1、図2における左右方向に一致している。図3は、光走査装置8の、図2に示されていない構成の一部を示しているとともに、図2に示されている構成の一部である、光路屈曲用の、光路折り曲げミラーとしてのミラー119K、119Cの図示を省略している。同図はまた、図示の簡単のため、光偏向器117から光走査位置である感光体ドラム20Y、20M、20C、20K表面に至る光路が直線となるように描いた。同図からも、光走査装置8が光偏向器117を中心に同図における左右方向において対称な構造となっていることが分かる。
【0069】
図4は、光走査装置8の構造のうち、図1ないし図3における左右方向において光偏向器117から左側の構造を示している。上述のように、光走査装置8は、光偏向器117を中心に図1ないし3における左右方向において対称な構造となっているため、光走査装置8の構造は、図4に沿って説明し、図1ないし図3における左右方向における光偏向器117から右側の構造については、対応する符号を図2、図3に付して適宜説明を省略する。
【0070】
図4において、符号111、111’は半導体レーザを示している。半導体レーザ111、111’は1つの光源を構成する2つの発光源であり、それぞれ1本の光ビームを放射する。これら半導体レーザ111、111’はホルダ112に保持されている。半導体レーザ111、111’から放射された各光ビームはそれぞれ、カップリングレンズ113、113’により以後の光学系に適した光束形態である平行光束に変換される。なお、カップリングレンズ113、113’は、以後の光学系に応じて、半導体レーザ111、111’から放射された各光ビームをそれぞれ弱い発散性もしくは弱い収束性の光束に変換するものであっても良い。
【0071】
カップリングレンズ113、113’から射出し、所望の光束形態である平行光束となった各光ビームは、光ビーム幅を規制するアパーチュア122の開口部を通過してビーム整形されたのち、ハーフミラープリズム114に入射し、この作用により副走査方向に2分割されてそれぞれが2本の光ビームに分けられる。
【0072】
この状況を図5に示す。同図では、煩雑を避けるため、半導体レーザ111から放射された光ビームL1を代表して示している。図5の上下方向が副走査方向に対応しており、ハーフミラープリズム114は半透鏡114aと反射面114bとを副走査方向に並列して有している。
【0073】
光ビームL1はハーフミラープリズム114に入射すると半透鏡114aに入射し、一部は半透鏡114aを直進的に透過して光ビームL11となり、残りは反射されて反射面114bに入射し、反射面114bにより全反射されて光ビームL12となる。半透鏡114aと反射面114bとは互いに平行であり、従ってハーフミラープリズム114から射出する光ビームL11、L12は互いに平行である。
【0074】
このようにして、半導体レーザ111からの光ビームは、2つの光ビームL11、L12として副走査方向に2分割される。半導体レーザ111’からの光ビームも同様にして2分割される。よって、光走査装置8では、1つの光源から2本の光ビームが放射され、これら2本の光ビームが副走査方向に2分割されて4本の光ビームが得られる。
【0075】
図4に戻って、これら4本の光ビームはシリンドリカルレンズ115K、115Cに入射し、これらシリンドリカルレンズ115K、115Cの作用により副走査方向へ集光され、光偏向器117の偏向反射面近傍に主走査方向に長い線像として結像する。半導体レーザ111、111’から放射され、ハーフミラープリズム114より分割された光ビームのうち、ハーフミラープリズム114の半透鏡114aを直進的に透過した光ビーム(図5に示した光ビームL12)がシリンドリカルレンズ115Kに入射し、また、半透鏡114aにより反射され、更に反射面114bで反射された光ビーム(図5に示した光ビームL12)がシリンドリカルレンズ115Cに入射する。
【0076】
同図において、符号116は光偏向器117の図示しない防音ハウジングの窓に設けられた防音ガラスを示している。光源側からの4本の光ビームは防音ガラス116を介して光偏向器117内に入射し、偏向された光ビームは防音ガラス116を介して走査結像光学系側へ射出する。光偏向器117は、後に詳述するが、上ポリゴンミラーとしての回転多面鏡117a、下ポリゴンミラーとしての回転多面鏡117bを回転軸方向に上下2段に積設して一体とした状態で備えているとともに、回転多面鏡117a、117bは、この例においてそれぞれ4面の偏向反射面を持つ同一形状のものであって、回転多面鏡117aの偏向反射面に対し、回転多面鏡117bの偏向反射面が、回転方向へ所定角θ(=45度)ずれている。
【0077】
同図において、符号118K、118Cはそれぞれ第1走査レンズ、符号120K、120Cはそれぞれ第2走査レンズを示している。第1走査レンズ118K、第2走査レンズ120Kと、ミラー119Kとは、光偏向器117の回転多面鏡117aにより偏向される2本の光ビーム、すなわち、半導体レーザ111、111’から射出し、ハーフミラープリズム114の半透鏡114aを透過した2本の光ビームを、対応する光走査位置である感光体ドラム20K上に導光して、副走査方向に分離した2つの光スポットを形成する1組の走査結像光学系を構成する。第1走査レンズ118C、第2走査レンズ120Cと、光路折り曲げミラー119Cとは、光偏向器117の回転多面鏡117bにより偏向される2本の光ビーム、すなわち、半導体レーザ111、111’から射出し、ハーフミラープリズム114の半透鏡114aにより反射された2本の光ビームを、対応する光走査位置である感光体ドラム20C上に導光して、副走査方向に分離した2つの光スポットを形成する1組の走査結像光学系を構成する。
【0078】
半導体レーザ111、111’から放射された光ビームは、光偏向器117の回転軸方向から見て偏向反射面位置の近傍において主光線が交差するように光学配置が定められており、従って、回転多面鏡117a、117bによって形成される偏向反射面に入射してくる2光束の各対は光ビーム相互が開き角、すなわち、同偏向反射面の側から光源側を見たとき、2本の光ビームの回転軸に直交する面への射影がなす角を有する。この開き角により、感光体ドラム20K、20Cのそれぞれに形成される2つの光スポットは主走査方向にも分離しており、このため各感光体ドラム20K、20Cを光走査する2本の光ビームを、有効走査領域外に配設された図示しない同期受光手段としてのフォトダイオードにより個別的に検出して光走査開始の同期を光ビームごとに取るようになっている。
【0079】
このようにして、光偏向器117の回転多面鏡117aにより偏向される2光ビームにより、感光体ドラム20Kが2本の光ビームによりマルチビーム走査され、光偏向器117の回転多面鏡117bにより偏向される2光ビームにより、感光体ドラム20Cが2本の光ビームによりマルチビーム走査される。光偏向器117の回転多面鏡117aの偏向反射面と回転多面鏡117bの偏向反射面とは互いに回転方向に45度ずれているので、回転多面鏡117aによる偏向光ビームが感光体ドラム20Kの光走査を行うとき、回転多面鏡117bによる偏向光ビームは、感光体ドラム20Cには導光されず、回転多面鏡117bによる偏向光ビームが感光体ドラム20Cの光走査を行うとき、回転多面鏡117aによる偏向光ビームは、感光体ドラム20Kには導光されない。即ち、感光体ドラム20K、20Cの光走査は時間的にずれて交互に行われることになる。
【0080】
図6は、この状況を説明する図である。説明図であるので、煩雑を避け、光偏向器117へ入射する実際は4本の光ビームを白抜きの矢印によって入射光として図示し、偏向された光ビームを黒塗りの矢印によって偏向光a、偏向光bとして示している。同図(a)は、入射光が光偏向器117に入射し、回転多面鏡117aで反射されて偏向された偏向光aが光走査位置である感光体ドラム20K表面へ導光されるときの状況を示している。このとき、回転多面鏡117bによる偏向光bは光走査位置である感光体ドラム20C表面へは向かわない。同図(b)は、回転多面鏡117bで反射されて偏向された偏向光bが光走査位置である感光体ドラム20C表面へ導光されるときの状況を示している。このとき、回転多面鏡117aによる偏向光aは光走査位置である感光体ドラム20K表面へは向かわない。
【0081】
なお、偏向光a、bのうちの一方がその光走査位置へ導光されている間に、偏向光a、bのうちの他方がゴースト光として作用しないように、同図に示す如き適宜の遮光手段SDを用いて、偏向光a、bのうち、光走査位置へ導光されない方の偏向光を遮光するのがよい。これは実際には、光偏向器117の図示しない防音ハウジングの内壁を非反射性とすることにより容易に実現される。感光体ドラム20K、20Cの光走査は交互に行われるので、感光体ドラム20Kの光走査が行われるときは光源の光強度を黒画像の画像信号で変調し、感光体ドラム20Cの光走査が行われるときは光源の光強度をシアン画像の画像信号で変調することにより、感光体ドラム20Kには黒画像の静電潜像が書き込まれ、感光体ドラム20Cにはシアン画像の静電潜像が書き込まれることとなる。
【0082】
図7は共通の光源である図4に示した半導体レーザ111,111’により黒画像とシアン画像の書込みを行う場合において、有効走査領域において全点灯する場合のタイムチャートを示している。実線は黒画像の書込みに相当する部分、破線はシアン画像の書込みに相当する部分を示す。黒画像、シアン画像の書き出しのタイミングは、同期受光手段としてのフォトダイオードで光走査開始位置へ向かう光ビームを検知することにより決定される。
【0083】
図8ないし図10を参照して光偏向器117の構成を説明する。
図8又は図9に示すように、光偏向器117は回転多面鏡117a、117bを備えた回転体101を有している。回転体101は、回転多面鏡117a、117bのほか、ロータ磁石103を支持するフランジ102cを有しており、回転軸104の外周に焼き嵌めにて固定されている。回転多面鏡117a、117bは、連結部102fを介し連続する形で形成されている。
【0084】
回転体101は、アルミニウムにより一体成形され一体構造となっている。そのため、回転多面鏡117a、117bは互いに強固に連結された状態となっており、高速回転においても騒音が少ない、加速度や温度変化によっても回転多面鏡のずれが起こりにくいという特性を有する。
【0085】
回転体101は、回転多面鏡7a、7bによって形成されるそれぞれの偏向反射面に角度θによる位相差を設けることで、光走査装置8に適用されているが、かかる偏向反射面が回転方向へずれていない光偏向器にも本発明は適用可能である。
【0086】
回転軸104の軸受であるラジアル軸受105は含油動圧軸受であり、軸受隙間は直径で10μm以下に設定されている。高速回転での安定性を確保するため、ラジアル軸受105には、図示しない動圧発生溝としての動圧溝が設けられている。動圧溝は、回転軸104の外周面に設けても良いが、ラジアル軸受105は加工性が良好な焼結部材からなるため、動圧溝を本形態のようにラジアル軸受105の内周面に施すのが好適である。
【0087】
回転軸104の素材としては、焼入れが可能で表面硬度を高くでき、耐磨耗性が良好なマルテンサイト系のステンレス鋼(例えばSUS420J2)が好適である。ロータ磁石103はフランジ102cの下部内面に固定され、軸受ハウジング106に固定された、巻線コイル107aを有するステータコア107とともに、径方向に磁気ギャップを有するアウターロータ型のブラシレスモータを構成している。ロータ磁石103は樹脂をバインダーに使用したボンド磁石であり、高速回転時の遠心力による破壊が発生しないように、ロータ磁石103の外径部がフランジ102cにより保持されている。ロータ磁石103を圧入固定することにより一層の高速回転、かつ高温環境においても固定部の微移動を生ずることなく、回転体バランスの高精度維持が可能となっている。
【0088】
回転体101及び回転軸104のスラスト方向の軸受は、回転軸104の下端面に形成された凸曲面104aと、その対向面にスラスト受部材としてのスラスト軸受108とを接触させたピボット軸受である。スラスト軸受108はマルテンサイト系ステンレス鋼やセラミックス、または金属部材表面にDLCすなわち(ダイヤモンドライクカーボン)処理等の硬化処理をしたもの、あるいは、樹脂材料等を用いて潤滑性を良好にし、磨耗粉の発生が抑えられている。ラジアル軸受105とスラスト軸受108とは軸受ハウジング106に収納され、流体シール109により、油の流出が防止されている。
【0089】
軸受ハウジング106は、カシメにより、基板としての回路基板110に固定されている。カシメによる固定は、同径の凸と凹の部材の間にマイナス公差を設けることにより、機械的に部材を結合させる方式であって、接着等の他の方法による固定に比べて強固であるため好適である。ラジアル軸受105とスラスト軸受108と軸受ハウジング106とは回転軸104を回路基板110に回転自在に支持した軸受手段130を構成している。軸受手段130は、回転軸104を介して、回転体101を回路基板110に回転自在に支持している。
【0090】
回転体101を25000rpm以上で高速回転させる場合、振動を小さくするために回転体101のバランスを高精度に修正かつ維持しなければならない。回転体101にはアンバランスの修正部が上下2ヶ所あり、上側は回転体101の上面円周凹部102dに、下側はフランジ102cの円周凹部102eに各々接着剤を塗布することによりバランス修正を行う。アンバランス量は10mg/mm以下が必要であり、例えば半径10mmの箇所で修正量は1mg以下に保たれている。なお、上記のような微少な修正を実行する際に接着剤等の付着物では管理がしにくい場合、また量が少ないため接着力が弱く40000rpm以上の高速回転時には剥離、飛散してしまう場合には、回転体101の一部を、ドリルによる切削やレーザ加工によって削除することが好適である。
【0091】
回転体101の回転駆動は、ロータ磁石103の磁界により回路基板110に実装されているホール素子111から出力される信号を位置信号として参照し、駆動IC132により巻線コイル107aの励磁切り替えを行い回転する。ロータ磁石103は径方向に着磁されており、ステータコア107の外周とで回転トルクを発生し回転する。ロータ磁石103は内径以外の外径及び高さ方向は磁路を開放しており、モータの励磁切り換えのためのホール素子111を開放磁路内に配置している。符号133はコネクタを示しており、このコネクタ133には、不図示のハーネスが接続され、本体99からの電力供給とモータの起動停止、回転数等の制御信号の入出力が行われる。このようなモータ構成により、回転体101は、回転軸104と一体で、回転軸104の周りに回転駆動されるようになっている。言い換えると、回転軸104は、回転体101の中心をなし回転体101とともに回転するようになっている。
【0092】
このような構成の光偏向器117の振動は、図11に示す様な円柱状の片持ち梁の先端に球状の重りを乗せた振動系に置き換えて考える事ができる。回転体101の回転軸104の半径の太さをr[m]、ヤング率をE[Pa]、回転体101の質量をm[kg]、回転体101の重心と回路基板110の距離をl[m]とした場合、片持ち梁の横方向の一次の固有振動数fは、
【0093】
【数5】

で表す事ができる(以下、これを式(1)という)。質量mに関しては、多面鏡、フランジが別体の構成の光偏向器についても質量の総和を算出し代入すれば良い。本構成の回転体101の固有振動数fは式(1)を用いた計算によりf=782Hzと算出された。
【0094】
一方、図10に光偏向器117の固有振動の解析結果を示す。図10(b)は、たとえば60000rpmを上限とする高速回転に対応可能な、小型の回転体101の固有振動を示した図であり、回転体101及び回転軸104についてはその一部のみを示したものである。回路基板110の厚さは0.8mmであり、回転軸104の半径は1mmである。
【0095】
同図に示したシミュレーションにより、このモードにおける光偏向器117全体としての固有振動数Fは1016Hzとなることが分かった。言い換えれば、かりに回転体101を60000rpmで回転駆動すると、同図(b)に示されているように、回転体101は、軸受ハウジング106の付け根である回路基板110との固定箇所を中心に、回路基板110の短手方向であるX方向に平行に振動すると考えられる。これは、回転体101を60000rpmで駆動させるとすると、回転周波数が1000Hzであることから、固有振動数Fである1016Hzに非常に近く、共振が生じるためである。共振が生じると、走査ずれが生じて画像品質が低下するおそれがある。
【0096】
一般的に、共振の影響を回避する為の使用回転数P[rpm]と固有振動数F[Hz]の関係は、
【0097】
【数6】

が望ましいと言われる(以下、これを式(2)という)。即ち、光偏向器117を60000rpmで回転させる場合、光偏向器117の固有振動数が1410Hz以上となるような構造を取る必要がある。
【0098】
式(1)により求めた回転体101の固有振動数fは、上述のように782Hzであって、光偏向器117全体としての固有振動数Fである1016Hzに比べて低いが、これは回転軸104と一体で回転する回転体101自体の固有振動であり、回転体101が軸受ハウジング106に挿入された、回路基板110等を含むシステム全体の固有振動数Fは、1000Hz程度になる。言い換えれば、回転体101単独では1000Hz以下のところに共振点を持ち、それを軸受ハウジング106および回路基板110で支えているということになる。
【0099】
そして、固有振動数Fと固有振動数fとは、一般にF>fの関係となるが、これらが近い値をとるとすると、式(1)、(2)から、
【0100】
【数7】

が得られる(以下、これを式(3)という)。
【0101】
また一般に、回転軸114についてはヤング率が1.9〜2.1×1011Paである、剛性の高い材質(SUS420、鉄)が使用されている。ヤング率EとしてE=1.9×1011Paの値を用いると、式(3)から、
【0102】
【数8】

が得られる(以下、これを式(4)という)。
【0103】
しかしながら、実際には、固有振動数Fと固有振動数fとは、F>fの関係を有するため、光偏向器117全体としての固有振動数Fを増加させて自励による共振を回避し、画像品質を保つ必要がある。
【0104】
光偏向器117の固有振動数Fを増加させる対策としては、大きく分けて2つある。一つは回転体101自身の固有振動数fを高めること、もう一つは振動源である回転体101を支える回路基板110を頑強にすることである。
【0105】
回転体101の固有振動数fを増加させる方法として、回転軸104の軸径を太くする方法がある。式(1)において、回転軸104の半径rを1mmから1.25mmに増加させた場合、固有振動数fが782Hzから1222Hzに増加した。しかし、目的とする1410Hzにまでは達しなかった。
【0106】
固有振動数fをより大きくするには、軸径を更に太くすることも考えられるが、軸径を大きくすると、1.軸受損失が大きくなる、2.回転体101の構成が大きくなり、消費電力が大きくなる、3.回転軸101を太くするとロータ磁石103の径も大きくする必要があるため、遠心力の増加によりロータ磁石103が割れやすくなる、といった問題が生じる。
【0107】
実際に回転軸104の半径rを1.5mmとした光偏向器117を作製し、駆動したところ、高速回転においてはロータ磁石103に割れが発生した。一方、回転体101を支えるための強度を確保するには、回転軸104の半径rは0.75mm以上とすることを要する。故に固有振動数増加対策として回転軸104の半径rを増加させる場合、回転軸半径rは0.75mm≦r<1.5mmを満たすものが望ましいと考えられる。
【0108】
回転体101自身の固有振動数fを高めるために回転軸104の軸径を太くすることには限界があるため、回路基板110を頑強にすることについて検討したところ、次のとおりであった。
【0109】
図12に回路基板110の厚みを変更した場合の固有振動数の変化を示す。回路基板110の厚みに応じて、固有振動数Fが増加している様子が分かる。特に基板厚0.8mmから1.1mmにかけて、回転軸104の半径rが1.0mm(軸径φ2.0mm)である場合には200Hz、半径rが1.25mm(軸径φ2.5mm)である場合には400Hz近く、固有振動数Fが増加していることが分かる。これは回路基板110を厚くすることで、振動源を支える土台が頑強になったためである。
【0110】
回路基板110としては、強度およびコストの観点から、厚みtが0.6<t<0.9mmの鉄基板を使用することが望ましい。しかし高速回転に対応させるためには、通常より厚い回路基板が必要であると考えられる。また半径rが1mm(軸径φ2.0mm)の固有振動数Fをみると、基板厚1.7mm付近で固有振動の増加が飽和していることが分かる。基板厚みによるコスト増加とこれらの関係を考慮すると、固有振動数の増加策すなわち自励振動抑制策としては基板厚さtは、
0.8mm≦t<1.8mm
の範囲で選択されることを要する(以下、これを式(5)という)。
【0111】
回路基板110としては、コスト及び強度の面で適し一般的に用いられている鉄基板を用いることが好ましく、また鉄基板のヤング率Hが206[GPa]であることから、回路基板110のヤング率Hは、
H>200[GPa]
を満たすことが望ましい。また回路基板110として、腐食を抑える為に、鉄基板を亜鉛コーティングした亜鉛鋼板を用いることが好ましい。
【0112】
なお、図10には、回転体101を60000rpmで回転駆動する場合を示したが、かかる回転数は、現状において最高速度とされる回転数を用いたものであって、高速回転は、かかる回転数で行うことに限定されるものではない。
【0113】
たとえば、図12に示した場合において、固有振動数Fが最も小さくなる条件は、回転軸104の半径rが0.75mm(軸径φ1.5mm)で、回路基板110の厚さtが0.8mmである場合であって、このときの固有振動数Fは約800Hzとなっている。式(2)から、このときに共振が防止される回転体101の回転数の上限は約34000rpmであるが、この条件でも、一般に高速回転とされる20000rpmに対して大きな余裕度がある。
【0114】
また、図12に示した場合において、固有振動数Fが最も大きくなる条件は、回転軸104の半径rが1.25mm(軸径φ2.5mm)で、回路基板110の厚さtが1.8mmである場合であって、このときの固有振動数Fは約1800Hzとなっている。式(2)から、このときに共振が防止される回転体101の回転数の上限は約73550rpmであり、現状において最高速度とされる60000rpmに対して大きな余裕度がある。
【0115】
よって、式(3)または式(4)、並びに、式(5)等を満たすように光偏向器117を構成し、これを組み込んで光走査装置8、画像形成装置100を構成することで、感光体ドラム20Y、20M、20C、20Kに対する潜像の書き込みが均一かつ高精度で行われ、高画質の画像形成が可能となる。
【0116】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0117】
たとえば、上述の形態では、光源から複数のビームを回転多面鏡に入射させ、回転多面鏡を含む光学系によって複数のビームを被走査面に互いに隣接するように導いて被走査面の走査を行って、潜像の書き込みを行なうマルチビーム方式を採用したが、光源から単一のビームを回転多面鏡に入射させ、回転多面鏡を含む光学系によって単一のビームを被走査面に導いて被走査面の走査を行って、潜像の書き込みを行なうシングルビーム方式を採用しても良い。
【0118】
画像形成装置は、いわゆるタンデム方式の画像形成装置ではなく、1つの感光体ドラム上に順次各色のトナー像を形成して各色トナー像を順次重ね合わせてカラー画像を得るいわゆる1ドラム方式の画像形成装置にも同様に適用することができる。画像形成装置は、モノカラー画像のみを形成可能なものであっても良い。
【0119】
いずれのタイプの画像形成装置でも、中間転写体を用いず、各色のトナー像を転写紙S等のシートに直接転写しても良い。この場合、複数の像担持体上のトナー像は、シートがたとえば搬送ベルトによって搬送される過程で、直接、同シートに転写される。
【0120】
画像形成装置は、複写機、プリンタ、ファクシミリの複合機でなく、これらの単体であっても良いし、その他、複写機とプリンタとの複合機等の他の組み合わせの複合機であっても良い。
【0121】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明を適用した画像形成装置の概略正面図である。
【図2】図1に示した画像形成装置に備えられた光走査装置の一部の概略正面図である。
【図3】図1に示した画像形成装置に備えられた光走査装置の他の一部の概略平面図である。
【図4】図1に示した画像形成装置に備えられた光走査装置のさらに他の一部の概略斜視図である。
【図5】図4に示した光走査装置に備えられた光学系の構成部品であるハーフミラープリズムの正面図である。
【図6】図1に示した画像形成装置に備えられた光走査装置を構成する回転多面鏡による偏向走査の様子を示した概念図である。
【図7】図4に示した光走査装置の一部による潜像の書き込みのタイムチャートである。
【図8】本発明を適用した光偏向装置の正断面図である。
【図9】図8に示した光偏向装置の一部の斜視図である。
【図10】図8に示した光偏向装置の斜視図であり、(a)は全体斜視図、(b)は回転体の固有振動が生じたときの挙動を示す部分斜視図である。
【図11】図8に示した光偏向装置をモデル化した概念図である。
【図12】図8に示した光偏向装置の基板厚と固有振動数との関係を回転軸の種々の軸径について示した相関図である。
【符号の説明】
【0123】
8 光走査装置
100 画像形成装置
101 回転体
104 回転軸
110 基板
111、111’ 光源
117 光偏向装置
117a、117b 回転多面鏡
130 軸受手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転多面鏡を有する回転体と、
この回転体に固定され同回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸と、
この回転軸を回転自在に支持した軸受け手段と、
この軸受け手段を固定し同軸受け手段を介して前記回転軸を回転自在に支持した基板とを備え、
前記回転体の回転数をP[rpm]とし、
前記回転体の重心と前記基板との距離をl[m]とし、
前記回転体の質量をm[kg]とし、
前記回転軸の半径をr[m]とし、
前記回転軸のヤング率をE[Pa]としたとき、
【数1】

を満たすとともに、
自励振動を抑制するために、前記基板の厚さtが、
0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される光偏向装置。
【請求項2】
回転多面鏡を有する回転体と、
この回転体に固定され同回転体の回転中心をなし同回転体とともに回転する回転軸と、
この回転軸を回転自在に支持した軸受け手段と、
この軸受け手段を固定し同軸受け手段を介して前記回転軸を回転自在に支持した基板とを備え、
前記回転体の回転数をP[rpm]とし、
前記回転体の重心と前記基板との距離をl[m]とし、
前記回転体の質量をm[kg]とし、
前記回転軸の半径をr[m]としたとき、
【数2】

を満たすとともに、
自励振動を抑制するために、前記基板の厚さtが、
0.8mm≦t≦1.8mmの範囲で選択される光偏向装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の光偏向装置において、
前記軸受け手段は、カシメにより前記基板に固定されていることを特徴とする光偏向装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1つに記載の光偏向装置において、
0.75≦r<1.5を満たすことを特徴とする光偏向装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1つに記載の光偏向装置において、
前記基板のヤング率Hが、
H>200[GPa]を満たすことを特徴とする光偏向装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1つに記載の光偏向装置において、前記基板が、鉄基板であることを特徴とする光偏向装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか1つに記載の光偏向装置と、前記回転多面鏡に入射するビームの光源と、この光源からのビームが進入する、前記回転多面鏡を含む光学系とを有し、前記回転体の回転により、前記光源からのビームを、前記光学系によって被走査面に導いて同被走査面の走査を行う光走査装置。
【請求項8】
請求項7記載の光走査装置において、前記光源は複数のビームを前記回転多面鏡に入射させるものであり、前記光学系によって複数のビームを被走査面に互いに隣接するように導いて同被走査面の走査を行う光走査装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載の光走査装置と、前記被走査面を構成し前記走査によって潜像を形成される像担持体とを有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−222815(P2009−222815A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64871(P2008−64871)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】