説明

光変調素子の異常検出回路、それを使った光送信装置及び光変調素子の異常検出方法

【解決手段】光変調素子EAMを駆動する駆動回路15と前記光変調素子EAMとの間の線路Lに設けられた1個又は複数個の検出点Pにおいて、当該線路Lを流れる光変調素子EAMを駆動する駆動電流を検出し、検出された駆動電流が正常範囲内か正常範囲外かを判定することによって、前記線路Lの断線を判定する。
【効果】前記線路Lの断線を判定することができ、光変調素子の光透過率が上がったままで光を遮断しなくなるという事態を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子を駆動する駆動電流の異常を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電界吸収型光変調素子(EAM; Electro-Absorption Modulator)が開発され、実用化されている。また、このEA変調素子を分布帰還型レーザ素子と合わせてモノリシックに集積した変調器集積型レーザ素子(EAM−integrated Laser Diode:EAM−LD)も開発され、実用化されている。
このEA変調素子を駆動する駆動回路は、EA変調素子のアノードに負電圧を与えて光透過率を制御する。駆動回路の形式には、AC結合素子(キャパシタ)を介したAC結合駆動回路と、AC結合素子を介さないDC結合駆動回路とがある。
【0003】
図7は、AC結合駆動回路を示す回路図である。EA変調素子(EAMと表示)のアノードには、インピーダンス整合用抵抗R2、インダクタL1、バイアス電流源であるトランジスタQを介して、負電圧源−VBが接続されている。EA変調素子に並列に接続されているのは、インピーダンス整合用抵抗R2である。この構成によってEA変調素子にバイアス電流が流される。このバイアス電流は、トランジスタQのベースに印加されるバイアス制御電圧によって変化させられる。またインピーダンス整合用抵抗R2とインダクタL1との接続点には、AC結合素子(キャパシタ)Cを介して高周波の変調信号が印加される。これにより、高周波の変調信号がEA変調素子に供給され、発光素子LDからの発光が強度変調される。
【0004】
図8は、DC結合駆動回路を示す回路図である。AC結合駆動回路と違っているところは、AC結合素子(キャパシタ)Cがなく、高周波の変調信号出力がEA変調素子に直接与えられることと、インピーダンス整合用抵抗R2とトランジスタQとの接続点に、他のインピーダンス整合用抵抗R3が接続されているところである。この回路も、AC結合駆動回路と同様、EA変調素子にバイアス電流を流すとともに、高周波の変調信号をEA変調素子に供給するという動作を実現できる。
【0005】
以下、高周波の変調信号による電流とバイアス電流との合計の電流を、「駆動電流」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-223802公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイアス電流源とEA変調素子とを接続する線路が、半田不良、パターン剥がれ、機構部品の当たりによって起こる損傷などにより断線することがある。この断線が発生すれば駆動電流が流れなくなり、EA変調素子のアノード側が開放状態になり、光透過率が上がったままで光を遮断しなくなる。したがって、信号の伝送ができないのでシステム上の障害が起こり得るのみならず、発光素子から出る光を常時素通しすることとなり、断線故障のため強い光が出ていることを知らない修理者の眼を損傷したり、受信器側のAPDなどの受光素子を壊したりする。
【0008】
従来の駆動回路では、この線路の断線故障を検出することができないため、発光素子の発光パワーを下げておくことが対策となっているが、それでは光変調特性を犠牲にすることとなる。発光パワーを下げると、光透過率の直線性の良い部分、あるいは光の伝送に悪影響を与えるチャープが出にくい部分を使うことが出来なくなるからである。
また変調後の光を分岐させてモニタ用のフォトダイオードを置くという対策も考えられているが、この場合、モニタ用に光を分岐させるので発光素子のパワーを余分に強める必要があり、消費電力の増加につながる。また、構造も複雑になる。
【0009】
そこで、この発明の目的は、光変調特性を犠牲にすることなく、断線故障をすばやく検出することのできる光変調素子の異常検出回路、それを使った光送信装置及び光変調素子の異常検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の異常検出回路は、光変調素子を駆動する駆動回路と前記光変調素子との間の線路に設けられた1個又は複数個の検出点において、当該線路を流れる光変調素子を駆動する駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、前記駆動電流検出手段によって検出された駆動電流が正常範囲内か正常範囲外かを判定することによって、光変調素子の異常を判断する異常判断手段とを備える。
【0011】
この構成によれば、光変調素子を駆動する駆動回路と前記光変調素子との間の線路を流れる光変調素子の駆動電流を検出することによって、前記線路の断線による異常を判定することができる。当該線路の異常が検出されれば、直ちに対策をすることができ、EA変調素子が光を遮断しなくなる状態が継続することで起きる障害を食い止めることができる。
【0012】
前記駆動電流検出手段は、前記線路の1つの検出点の電圧を検出することによって、前記駆動電流を検出するものである場合は、前記正常範囲に対応して、接地電圧と光変調素子のバイアス電流源を駆動する電源電圧との間に存在する基準電圧範囲を設定すればよい。1つの検出点で検出される1つの電圧を処理すればよいので、駆動電流検出手段の構成が簡単になる。
【0013】
前記駆動電流検出手段は、前記線路の複数の検出点の電圧差を検出することによって、前記駆動電流を検出するものである場合は、前記正常範囲に対応して、零電圧と、バイアス電流源を駆動する電源電圧と接地電圧との差電圧との間に存在する基準電圧範囲を設定すればよい。この場合、駆動電流検出手段は、前記線路の複数の検出点の電圧差を検出するので、差動増幅回路を採用する必要があるが、前記線路に突発的なノイズが乗った場合に誤検出する確率が減少するという利点がある。
【0014】
また、本発明の光送信装置は、発光素子と、前記発光素子から出された光を変調する光変調素子と、前記光変調素子を駆動する駆動回路とを有するものであって、前述した本発明の異常検出回路が設けられているものである。
前記異常検出回路で、光変調素子の異常を判断した場合、前記発光素子の発光を停止するようにすれば、この発光の継続により信号の伝送ができなくて生じるシステム上の障害を未然に防ぐことができ、断線故障のため強い光が出ていることを知らない修理者の眼を損傷したり、受信器側のAPDなどの受光素子を壊したりすることもない。
【0015】
また光変調素子の異常を判断した場合、光送信装置の外部に異常を通知するようにして、システムの維持管理者に速やかに知らせることも有効である。
また本発明の光変調素子の異常検出方法は、前記本発明の異常検出回路と実質同一の発明に係る異常検出方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、光変調素子の異常をすばやく発見することができる。したがって、発光素子の発光パワーを下げておかなくても、故障のため強い光が出ていることを知らない修理者の眼を損傷するおそれはなくなる。またシステムの運用上、すばやく次の修理対策に入ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】EA変調素子に駆動電流を供給する線路の断線を検出する断線検出回路の一例を示す回路図である。
【図2】図1の回路における断線故障時の検出電圧の変化を示すグラフである。
【図3】断線検出回路の他の一例を示す回路図である。
【図4】図3の回路における断線故障時の検出電圧の変化を示すグラフである。
【図5】PONシステムの概略図である。
【図6】断線検出回路を光送信装置に組み込んだPONシステムのブロック図である。
【図7】EA変調素子を駆動するAC結合型駆動回路の回路図である。
【図8】EA変調素子を駆動するDC結合型駆動回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、EA変調素子にバイアス電流及び変調信号(あわせて「駆動電流」という)を供給する線路Lの断線を検出する断線検出回路11の一例を示す回路図である。
同図を参照して、EA変調素子(EAMと表示)のアノードには、インピーダンス整合用抵抗R21,R22、インダクタL1、バイアス電流源15を構成するトランジスタQを介して、負電圧源−VBが接続されている。EA変調素子に並列に接続されているのはインピーダンス整合用抵抗R1である。抵抗R21,R22の合計の抵抗値は、図7,図8で説明したR2の抵抗値に等しい。R2を、R21とR22に配分比率は、0:100から100:0まで任意である。例えば、配分比率を0:100にしても良く、この場合、R22は零になりR21(その抵抗値はR2に等しい)とインダクタL1との接続点が断線検出点Pとなる。配分比率を100:0にしても良く、この場合、R21は零になりR22(その抵抗値はR2に等しい)と抵抗R1との接続点が断線検出点Pとなる。なお、抵抗R1、抵抗R21,R22は外付けの抵抗素子で作っても良いし、線路のインピーダンスで作っても良い。
【0019】
この構成によって抵抗R21,R22を介して、EA変調素子にバイアス電流および変調信号が流される。このバイアス電流は、トランジスタQ5のベースに印加されるバイアス制御電圧によって変化させられる。またR21,R22とインダクタL14との接続点には、変調信号出力回路17より高周波の前記変調信号が印加される。これにより、高周波の変調信号がEA変調素子に供給され、発光素子(図示せず)から出射されEA変調素子を透過した光が強度変調される。
【0020】
バイアス電流源15とEA変調素子とを接続する線路L上に分岐点Pを設け、そこにローパスフィルタ12、バッファアンプ13及び電圧判定回路14をこの順に接続している。前記分岐点Pを、EA変調素子の断線を検出する点という意味で「断線検出点P」という。
ローパスフィルタ12は、高周波信号を遮断するための回路であり、例えばインダクタンスを形成する空芯コイルからなる。このローパスフィルタ12の機能により、変調信号出力回路17から出力される変調信号の高周波成分はローパスフィルタ12を通過することなく、EA変調素子側に流れて行く。ローパスフィルタ12を通過するのは、駆動電流の直流成分および低周波成分であり、実質的には、EA変調素子のバイアス電流が断線検出回路11の検出対象となる。このようにして、EA変調素子を定常的に流れるバイアス電流に着目して断線を検出するよう、この実施例は構成されている。なお、バッファアンプ13や電圧判定回路14の中に高周波をカットする機能が付属していれば、このローパスフィルタ12は省略できる。
【0021】
バッファアンプ13は、電圧判定回路14を接続しても、バイアス電流源15からEA変調素子側を見たインピーダンスが極力変化しないように挿入される回路であり、演算増幅回路が使用できる。バッファアンプ13の入力インピーダンスは大きく、出力インピーダンスは小さく設定されている。入力インピーダンスの値は、抵抗R1,R21,R22の抵抗値として0に近い値から数10Ωまでのものを使用しているとすれば、それよりはるかに大きな値、例えば数百MΩ〜数GΩに設定するとよい。なお、バッファアンプ13は、電圧判定回路14に内蔵されていてもよい。
【0022】
電圧判定回路14は、バッファアンプ13の出力電圧Vをしきい値と比較する回路であり、演算増幅回路が使用できる。なお、電圧判定回路14をディジタル制御回路によって構成しても良い。この場合、入力電圧をA/D変換し、A/D変換されたディジタル信号を、メモリに記憶しているしきい値と比較する。この比較処理は、所定のプログラムを実行するマイクロコンピュータによって実現する。
【0023】
以上説明した断線検出回路11の動作を、図2を用いて説明する。図2は、バッファアンプ13の出力電圧V、すなわち電圧判定回路14の入力電圧Vの時間変化を表わしたグラフである。
EA変調素子に駆動電流を供給する線路Lが正常で、所定の駆動電流が流れている場合、電圧判定回路14の入力電圧は、図示した電圧Vaと電圧Vbとの間(基準電圧範囲という)の値をとる。ここで基準電圧範囲の上限電圧Vaは、接地電圧(0V)から所定のマージンを引いた電圧であり、基準電圧範囲の下限電圧Vbは、電源電圧−VBに所定のマージンを足した電圧である。
【0024】
断線検出点PよりもEA変調素子に近い側、例えばR21が断線した場合、断線検出点Pの、接地レベルとの間の電圧は、バイアス電流源15を通って負の電源電圧−VBに引かれて下降する。下限電圧Vbは、その下降した電圧を検出することができるように、電源電圧−VB(例えば−1.3V)に所定のマージン(例えば0.3V)を足した値(例えば−1V)に設定される。
【0025】
断線検出点Pよりもバイアス電流源15に近い側、例えばR22が断線した場合、断線検出点Pの、接地レベルとの間の電圧は接地電圧(0V)に引かれて上昇する。上限電圧Vaは、その上昇した電圧を検出することができるように、上限電圧Vaは、接地電圧(0V)から所定のマージン(例えば−0.3V)を引いた値(例えば−0.3V)に設定される。
【0026】
なお本明細書で「断線」と言う場合、線路Lが完全に切れる(破断する)場合だけでなく、線路Lの抵抗値が異常に上昇する場合を含む。線路Lの抵抗値が異常に上昇するのは、例えば線路Lを固定している半田付け端子の融着部分や圧着端子の圧接部分が切れかかって無視できない抵抗が生じている場合や、線路L自体が曲げ応力や引張り応力を受けて断面積が減少し無視できない抵抗が生じている場合である。
【0027】
前記各「マージン」は、線路Lが完全に切れる(破断する)場合だけ検出すればよいのであれば比較的小さな値に設定してもよいが、前記無視できない抵抗が生じている場合も検出したいのであれば、比較的大きな値に設定する。マージンは、どのくらいまでの抵抗を検出したいのかに応じて、実験的に設定される値である。
図2を参照して、三角でマークした時点で、EA変調素子に駆動電流を供給する線路Lが断線したとする。断線検出点Pよりもバイアス電流源15に近い側が断線した場合、電圧判定回路14の入力電圧Vは上限電圧Vaを超えて上昇する。この動きを、図2の実線グラフで表示している。断線検出点PよりもEA変調素子に近い側が断線した場合、電圧判定回路14の入力電圧Vは下限電圧Vbを超えて下降する。この動きを、図2の破線グラフで表示している。
【0028】
電圧判定回路14は、その入力電圧Vが基準電圧範囲からはみだしたことを検知すると、バイアス電流源15とEA変調素子とを接続する線路L上に断線が生じていると判断して、発光素子の発光を停止する、異常ランプを点灯させて通知する、などの措置を行う。
図3は、他の実施形態にかかる断線検出回路11′の一例を示す回路図である。
この断線検出回路11′では、EA変調素子を駆動するバイアス電流源15とEA変調素子とを接続する線路L上に2つの断線検出点P1,P2を設け、それぞれローパスフィルタ121,122、バッファアンプ131,132を接続し、差動増幅回路16で、2つのバッファアンプ131,132の出力電圧差(例えば正の値とする)を検出している。電圧判定回路14は、差動増幅回路16の出力電圧値をしきい値と比較する。バッファアンプ13、差動増幅回路16、電圧判定回路14とも、演算増幅回路が使用できるが、電圧判定回路14の機能を、マイクロコンピュータによって実現してもよいことは、図1の断線検出回路11′と同様である。
【0029】
図4は、差動増幅回路16の出力側の電圧V、すなわち電圧判定回路14の入力電圧Vの時間変化を表わしたグラフである。
EA変調素子に駆動電流を供給する線路Lが正常で、所定のバイアス電流が流れている場合、2つの断線検出点P1,P2には、バイアス電流×R2の抵抗値に相当する電圧差が生じている。この電圧差は、差動増幅回路16の出力電圧として表れる。差動増幅回路16の出力電圧は、図示したように上限電圧Vcと下限電圧Vdとの間の値をとる。
【0030】
断線検出点P1よりもEA変調素子に近い側又は断線検出点P2よりもバイアス電流源15に近い側が断線した場合、抵抗R2には電流が流れなくなり、差動増幅回路16に入る2つの電圧の差は小さくなる。したがって、差動増幅回路16の出力電圧Vも小さくなる。下限電圧Vdは、この小さくなった電圧を検出することができように、零電圧(0V)に所定のマージン(例えば0.3V)を足した電圧である値(例えば0.3V)に設定される。
【0031】
2つの断線検出点P1,P2の内側、すなわち抵抗R2が断線した場合、EA変調素子に近い断線検出点P1の電圧は接地電圧(0V)に引かれて上昇するが、バイアス電流源15に近い断線検出点P2の電圧は、バイアス電流源15を経由して負の電源電圧−VBに引かれて下降する。したがって、2つの断線検出点P1,P2の電位差は増大する。電圧Vcは、その増大した電圧差を検出することができるように、接地電圧(0V)から負の電源電圧−VB(例えば−1.3V)を引いた値、すなわち電源電圧の絶対値(1.3V)から、所定のマージン(例えば0.3V)を引いた値(例えば1V)に設定される。
【0032】
前記各「マージン」は、前述したのと同様であり、どのくらいまでの抵抗を検出したいのかに応じて、実験的に設定される値である。
図4の三角でマークした時点で、EA変調素子に駆動電流を供給する線路Lが断線したとする。2つの断線検出点P1,P2の内側で断線した場合、電圧判定回路14の入力電圧は上限電圧Vcを超えて上昇する。この動きを、図2の実線グラフで表示している。2つの断線検出点P1,P2よりも外側で断線した場合、電圧判定回路14の入力電圧は下限電圧Vdを超えて下降する。この動きを、図2の破線グラフで表示している。
【0033】
電圧判定回路14は、入力電圧Vが基準電圧範囲からはみだしたことを検知すると、バイアス電流源15とEA変調素子とを接続する線路L上に断線が生じていると判断して、発光素子の発光を停止する、異常ランプを点灯させて通知する、などの措置を行う。
この複数の断線検出点P1,P2で電圧差を検出する差動増幅回路16を採用した検出回路によれば、単一の断線検出点Pで電圧を検出する場合に比べて、線路Lに突発的なノイズが乗った場合に誤検出する確率が減少するという利点がある。
【0034】
次に、本発明の断線検出回路11,11′が適用されるPON(Passive Optical Network)光通信システムについて説明する。
図5は、PON光通信システムの構成例を示す概略図である。
PON光通信システムは、局舎に備えられる局側装置OLTと複数の加入者に備えられる宅側装置ONUとが、光ファイバ4及び光分岐器3を介して接続されている。
【0035】
宅側装置ONUは、加入者宅内に設置されるパーソナルコンピュータなどで光ネットワークサービスを享受するための端末を接続するネットワークインタフェースを有している。
光分岐器3は、特に外部からの電源供給を必要とせず入力された信号から受動的に信号を分岐・多重するスターカプラで構成されている。
【0036】
局側装置OLT及び光分岐器3、光分岐器3及び宅側装置ONUに接続されている光ファイバ4は、それぞれ1本(上り下りあわせて2本)のシングルモードファイバを用いている。つまり、1台の局側装置OLTは、1本の幹線光ファイバ4を通して光分岐器3に接続されている。そして光分岐器3は、M台(Mは1以上の整数)の宅側装置ONUと、支線光ファイバ4で接続されている。よって、1局の局側装置OLTが送受する信号は、光分岐器3によって、M台の宅側装置ONUに分配される。
【0037】
本発明の実施形態の光通信システムは、前記PON光通信システムに、イーサネット(イーサネット(Ethernet)は、登録商標である)の技術を取り込み、高速で光ファイバのアクセス区間通信を実現するGE−PON(Gigabit Ethernet-Passive Optical Network)方式若しくは10G−EPON方式を採用している。
前記GE−PON方式若しくは10G−EPON方式に従えば、局側装置OLT及び宅側装置ONUの相互の通信は、可変長なフレームを単位として行われる。
【0038】
まず、上位のネットワークから放送形態で各局側装置OLTに入ってくる下りフレームは、局側装置OLTにおいて所定の処理が行われ、中継されるべき論理リンク(MPCPリンクという)が特定される。そして、局側装置OLTを通して、光信号として光ファイバ4に送信される。光ファイバ4に送信させた光信号は、光分岐器3で分岐され、光分岐器3につながる宅側装置ONUに送信されるが、フレームの宛先アドレスに基づき、当該MPCPリンクを構成する宅側装置ONUのみが所定の下りフレームを取り込み、フレームを宅内ネットワークインタフェースに中継する。
【0039】
一方、上り光信号には、それぞれの宅側装置ONUからの上りフレームが含まれている。上り光信号は、それぞれの宅側装置ONUからの光信号どうしが互いに時間的に競合しないように送信される必要がある。そのために、局側装置OLTは、各宅側装置ONUに対して上り光信号を送信してもよい期間ウインドウ(以下、単にウインドウという)を割り当て、上り帯域割当用制御フレームとして通知する。ウインドウを割り当てられた宅側装置ONUは、その割り当てられたウインドウ期間に上り光信号を送信する。この上り光信号を「バースト光信号」という。バースト光信号は、各宅側装置ONUから送信され、ベースバンド信号で発光状態を変調した、有限時間の光信号列である。
【0040】
したがって、各宅側装置ONU間の上り光信号の競合は回避される。各宅側装置ONUは、あるウインドウが与えられたとき、そのウインドウに収まる限りフレームを連続して送信してよい。そして、局側装置OLTは、各宅側装置ONUからの一連のフレーム信号を含んだバースト光信号を受信することができる。
図6は、PON光通信システムのさらに詳細なブロック構成図である。局側装置OLTに対して、宅側装置ONUを1台のみ描いている。
【0041】
宅側装置ONUは、光合分波器27、光送信装置20、光受信装置28、上位処理系(コンピュータ)29、警告用LED24、光送信装置20のための電源装置25を備えている。局側装置OLTは、光合分波器37、光送信装置30、光受信装置38、上位処理系(コンピュータ)39、警告用LED34、光送信装置30のための電源装置35、通信端末36を備えている。なお白抜きの矢印は光の伝送を、実線の矢印は電気信号の伝送を表わす。
【0042】
本発明の断線検出回路11又は11′は、宅側装置ONU、局側装置OLTの光送信装置20,30にそれぞれ搭載されている。以下、宅側装置ONUに搭載されているものを「異常検出回路21」、局側装置OLTに搭載されているものを「異常検出回路31」という。
まず宅側装置ONUの光送信装置20の構成を説明する。光送信装置20は、発光素子LD、発光素子LDからの発光を強度変調するEA変調素子(EAMと表示)、発光素子LDに発光のための電力を供給するパワー制御回路22、変調素子駆動回路23、及びEA変調素子の異常検出回路21を備えている。
【0043】
変調素子駆動回路23は、図7,図8を用いて説明したのと同様の回路であり、EA変調素子にバイアス電流を流すとともに、高周波の変調信号出力を印加して、これにより光の強度変調を実現する。EA変調素子の異常検出回路21は、図1〜図4を用いて説明したとおり、線路Lの断線を検出する断線検出回路11に相当する回路である。
EA変調素子の故障がない平常時は、発光素子LDからの発光は強度変調され、光合分波器27を介して、PONを構成する光ファイバに出力される。この光は光分岐器3(図5参照)を通して局側装置OLTに入力される。
【0044】
ところが、EA変調素子に断線異常が生じた場合、異常検出回路21がこの異常を検出する。異常検出の仕組みは、図1〜図4を参照して説明したとおりである。異常検出回路21は、異常を検出するとただちにパワー制御回路22に働きかけて、発光素子LDの発光を停止する。もし発光素子LDからの発光を続けると、局側装置OLTに常時、光が入力され、当該宅側装置ONUだけでなく他の宅側装置ONUからの上り通信も不能になってしまうからである。それとともに異常検出回路21は、上位処理系29に、故障が発生したことを通知する。上位処理系29は、異常検出回路21から故障の通知を受けた場合、電源装置25を制御して、光送信装置20への電源供給を最小限の機器だけにとどめるとともに、警告用LED24を点灯させて故障を通知する。この状態では、当該宅側装置ONUはデータの受信のみ可能な状態となっている。
【0045】
局側装置OLTの維持管理者は、警告用LED24の点灯を認識した宅側装置ONUのユーザから連絡を受けるか、又は受信されるべき上りのデータが受信されないことを認識すれば、当該宅側装置ONUの修理を行う。このとき、当該宅側装置ONUの発光素子LDからの発光が停止しているので、光が修理者の眼に入ることがない。したがって修理者の目を保護することができるという効果がある。特に発光素子LDの発光波長が近赤外線であれば視覚で認識できないので、この効果は大きい。
【0046】
次に、局側装置OLTの光送信装置30の構成を説明すると、EA変調素子、発光素子LD、パワー制御回路32、変調素子駆動回路33、及びEA変調素子の異常検出回路31を備えた構成は宅側装置ONUの光送信装置と同様である。
EA変調素子の故障がない平常時は、発光素子LDからの発光は、駆動回路33により強度変調され、光合分波器37を介して、PONを構成する光ファイバに出力される。この光は光分岐器3(図5参照)を通して、全ての宅側装置ONUに同時に入力される。このとき宛て先とされた宅側装置ONUのみが下りデータを取得できることは、前述したとおりである。
【0047】
EA変調素子に異常が生じた場合、異常検出回路31がこの異常を検出し、ただちにパワー制御回路32に働きかけて、発光素子LDの発光を停止する。もし発光素子LDからの発光を続けると、全ての宅側装置ONUに常時、光が伝送され、全ての宅側装置ONUへの下り通信が不能になってしまうからである。この状態では、当該宅側装置ONUはデータの受信のみ可能な状態となっている。この状態では、当該局側装置OLTは上りデータの受信のみ可能な状態となっている。
【0048】
それとともに異常検出回路31は、上位処理系39に、故障が発生したことを通知する。上位処理系39は、異常検出回路31から故障の通知を受けた場合、電源装置35を制御して、光送信装置30への電源供給を最小限の機器だけにとどめるとともに、警告用LED34を発行させて故障を通知する。
局側装置OLTの維持管理者は、警告用LED34の点灯を認識すれば、局側装置OLTの修理を行う。このとき、当該局側装置OLTの発光素子LDの発光が停止しているので、光が修理者の目に入ることがない。特に発光素子LDの発光波長が近赤外線であれば、視覚で認識できないので、維持管理者の目を保護することができるというメリットがある。
【0049】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0050】
11,11′断線検出回路
12,121,122 ローパスフィルタ
13,131,132 バッファアンプ
14 電圧判定回路
15 バイアス電流源
16 差動増幅回路
17 変調信号出力回路
20,30 光送信装置
21,31 異常検出回路
22,32 パワー制御回路
23,33 変調素子駆動回路
EAM EA変調素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光変調素子の異常を検出する回路であって、
光変調素子を駆動する駆動回路と前記光変調素子との間の線路に設けられた1個又は複数個の検出点において、当該線路を流れる光変調素子を駆動する駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、
前記駆動電流検出手段によって検出された駆動電流が正常範囲内か正常範囲外かを判定することによって、光変調素子の異常を判断する異常判断手段とを備える、異常検出回路。
【請求項2】
前記駆動電流検出手段は、前記線路の1つの検出点の電圧を検出することによって、前記駆動電流を検出するものであり、
前記正常範囲に対応して、接地電圧と前記光変調素子のバイアス電流源を駆動する電源電圧との間に存在する基準電圧範囲が設定される請求項1記載の異常検出回路。
【請求項3】
前記駆動電流検出手段は、前記線路の複数の検出点の電圧差を検出することによって、前記駆動電流を検出するものであり、
前記正常範囲に対応して、零電圧と、前記光変調素子のバイアス電流源を駆動する電源電圧と接地電圧との差電圧との間に存在する基準電圧範囲が設定される請求項1記載の異常検出回路。
【請求項4】
発光素子と、前記発光素子から出された光を変調する光変調素子と、前記光変調素子を駆動する駆動回路とを有する光送信装置において、
前記光変調素子の異常を検出する異常検出回路が設けられ、当該異常検出回路は、光変調素子を駆動する駆動回路と前記光変調素子との間の線路に設けられた1個又は複数個の検出点において、当該線路を流れる光変調素子を駆動する駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、
前記駆動電流検出手段によって検出された駆動電流が正常範囲内か正常範囲外かを判定することによって、光変調素子の異常を判断する異常判断手段とを備えるものである、光送信装置。
【請求項5】
前記異常判断手段は、光変調素子の異常を判断した場合、前記発光素子の発光を停止するものである、請求項4記載の光送信装置。
【請求項6】
前記異常判断手段は、光変調素子の異常を判断した場合、光送信装置の外部に異常を通知するものである、請求項4記載の光送信装置。
【請求項7】
光変調素子の異常を検出する方法であって、
光変調素子を駆動する駆動回路と前記光変調素子との間の線路に設けられた1個又は複数個の検出点を設け、
前記検出点において、当該線路を流れる光変調素子を駆動する駆動電流を検出し、
前記検出された駆動電流が正常範囲内か正常範囲外かを判定し、
正常範囲外であれば、前記光変調素子の異常を判断する、光変調素子の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−226847(P2011−226847A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95018(P2010−95018)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】