説明

光学エレメント、このような光学エレメントを備えたリソグラフィ装置、デバイス製造方法およびそれによって製造されたデバイス

【課題】 スペクトル純度を改善することができる光学エレメントを提供する。
【解決手段】 本発明は、第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、第1の波長の放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、第2の波長の放射に対しては実質的に透過型または吸収型であるように構成された構造と、第2の材料を含む第2の層であって、第2の波長の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、第1の層と第2の層の間の真空とを備えた光学エレメントであって、第1の層が、第1の波長の放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、第2の層に対して上流側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、光学エレメントおよびこのような光学エレメントを備えたリソグラフィ装置、デバイスを製造するための方法およびそれによって製造されたデバイスに関する。より詳細には、光学エレメントは、レーザ生成プラズマ(LPP)極端紫外(EUV)源のための反射グレージング入射スペクトル純度フィルタとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
[0002] リソグラフィ装置は、基板の上、一般的には基板のターゲット部分に所望のパターンを付与するマシンである。リソグラフィ装置は、たとえば集積回路(IC)の製造に使用することができる。その場合、マスクまたはレチクルとも呼ばれているパターニングデバイスを使用して、ICの個々の層に形成すべき回路パターンが生成される。生成されたパターンが、基板(たとえばシリコンウェーハ)上のターゲット部分(たとえば部分的に1つまたは複数のダイからなっている)に転送される。パターンの転送は、通常、基板の上に提供されている放射感応性材料(レジスト)の層への結像によるものである。通常、1枚の基板には、順次パターニングされる隣接するターゲット部分の回路網が含まれている。知られているリソグラフィ装置には、パターン全体を1回でターゲット部分に露光することによってターゲット部分の各々が照射されるいわゆるステッパと、パターンを放射ビームで所与の方向(「スキャンニング」方向)にスキャンし、かつ、基板をこの方向に平行または非平行に同期スキャンすることによってターゲット部分の各々が照射されるいわゆるスキャナがある。パターンを基板にインプリントすることによってパターニングデバイスから基板へパターンを転送することも可能である。
【0003】
[0003] LPP源を使用する場合、レーザ放射は、それ自体が、プラズマでの散乱および反射によってEUVリソグラフィツール中に放出される望ましくない大量の放射を表している。通常、10.6μm近辺の波長を有するCOレーザが使用される。EUVリソグラフィシステムの光学系は、10.6μmで大きい反射率を有しているため、レーザ放射は、極めて大きいパワーでリソグラフィツール中を伝搬する。このパワーの一部は、最終的にウェーハによって吸収され、ウェーハの望ましくない加熱の原因になる。
【0004】
[0004] 米国特許第7,196,343 B2号に、深紫外(DUV)放射をフィルタリングするための反射グレージング入射スペクトル純度フィルタ(SPF)が開示されている。このSPFは、1偏光のDUV放射のための無反射(AR)コーティングが施された2つの垂直ミラーを備えている。2つの垂直反射(ほとんど非偏光の)を使用することにより、基板中での吸収によってDUV放射が有効に抑制される。さらに、ARコーティングは、EUVに対する反射率が大きく、したがってほとんどのEUV放射が反射することを特徴としている。
【0005】
[0005] このスペクトル純度フィルタは、10.6μmのためのARコーティングは、通常、EUVに対する反射率が極めて小さいこと、および従来のミラー基板は、10.6μmの放射を吸収するのではなく、10.6μmの放射を反射する、という主として2つの理由により、LPP源中の10.6μm放射を抑制するためには適していない。
【発明の概要】
【0006】
[0006] 本発明の実施形態は、第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、EUV放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、COレーザ放射またはイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)レーザ放射に対しては実質的に透過型または吸収型であるように構成された構造と、第2の材料を含む第2の層であって、COレーザ放射またはYAGレーザ放射の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、第1の層と第2の層の間の真空とを備えた光学エレメントであって、第1の層が、EUV放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、第2の層に対して上流側に配置された光学エレメントを提供することによってスペクトル純度を改善することができる。
【0007】
[0007] 本発明の一態様によれば、放射ビームを条件付けるように構成された照明システムと、放射ビームをパターニングするように構成されたパターニングデバイスと、基板を保持するように構成されたサポートと、パターン付き放射ビームを基板のターゲット部分に投影するように構成された投影システムとを備えたリソグラフィ装置が提供される。照明システムおよび/または投影システムは、第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、EUV放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、COレーザ放射またはイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)レーザ放射に対しては実質的に透過型または吸収型であるように構成された構造と、第2の材料を含む第2の層であって、COレーザ放射またはYAGレーザ放射の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、第1の層と第2の層の間の真空とを備えた光学エレメントであって、第1の層が、EUV放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、第2の層に対して上流側に配置された光学エレメントを備えている。
【0008】
[0008] 本発明の一態様によれば、パターン付き放射ビームを形成するために放射ビームをパターニングするステップと、パターン付き放射ビームを基板に投影するステップと、少なくとも1つの光学エレメントを使用して放射ビームを反射させるステップであって、少なくとも1つの光学エレメントが、第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、EUV放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、COレーザ放射またはイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)レーザ放射に対しては実質的に透過型または吸収型であるように構成された構造と、第2の材料を含む第2の層であって、COレーザ放射またはYAGレーザ放射の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、第1の層と第2の層の間の真空とを備え、第1の層が、EUV放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、第2の層に対して上流側に配置されたステップとを含むデバイス製造方法が提供される。
【0009】
[0009] 本発明の一態様によれば、パターン付き放射ビームを形成するために放射ビームをパターニングするステップと、パターン付き放射ビームを基板に投影するステップと、少なくとも1つの光学エレメントを使用して放射ビームを反射させるステップであって、少なくとも1つの光学エレメントが、第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、EUV放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、COレーザ放射またはイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)レーザ放射に対しては実質的に透過型または吸収型であるように構成された構造と、第2の材料を含む第2の層であって、COレーザ放射またはYAGレーザ放射の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、第1の層と第2の層の間の真空とを備え、第1の層が、EUV放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、第2の層に対して上流側に配置されたステップとを含む方法に従って製造されたデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
[0010] 以下、本発明の実施形態について、単なる例にすぎないが、添付の略図を参照して説明する。図において、対応する参照記号は対応する部品を表している。
【0011】
【図1】[0011]本発明の一実施形態によるリソグラフィ装置を示す図である。
【図2】[0012]本発明による光学エレメントの一実施形態を示す図である。
【図3】[0013]本発明による光学エレメントの一実施形態を示す図である。
【図4】[0014]放射のための図3の光学エレメントの反射率を示すグラフである。
【図5】[0015]図3の光学エレメントの反射率を示すグラフである。
【図6】[0016]本発明による光学エレメントの一実施形態を示す図である。
【図7】[0017]本発明による光学エレメントの一実施形態を示す図である。
【図8】[0018]本発明による光学エレメントの一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0019] 図1は、本発明の一実施形態によるリソグラフィ装置を略図で示したものである。この装置は、放射ビームB(たとえばUV放射、DUV放射、EUV放射またはEUV放射より波長がさらに短い放射)を条件付けるように構成された照明システム(イルミネータ)IL、パターニングデバイス(たとえばマスク)MAを支持するように構築された、特定のパラメータに従って該パターニングデバイスを正確に位置決めするように構成された第1のポジショナPMに接続されたサポート構造(たとえばマスクテーブル)MT、基板(たとえばレジストコートウェーハ)Wを保持するように構築された、特定のパラメータに従って該基板を正確に位置決めするように構成された第2ポジショナPWに接続された基板テーブル(たとえばウェーハテーブル)WT、およびパターニングデバイスMAによって放射ビームBに付与されたパターンを基板Wのターゲット部分C(たとえば1つまたは複数のダイが含まれている)に投影するように構成された投影システム(たとえば屈折投影レンズシステム)PSを備えている。
【0013】
[0020] 照明システムは、放射を導き、整形し、あるいは制御するための、屈折光学コンポーネント、反射光学コンポーネント、磁気光学コンポーネント、電磁光学コンポーネント、静電光学コンポーネントまたは他のタイプの光学コンポーネント、あるいはそれらの任意の組合せなどの様々なタイプの光学コンポーネントを備えることができる。
【0014】
[0021] サポート構造はパターニングデバイスを支持している。つまり、サポート構造は、パターニングデバイスの重量を支えている。サポート構造は、パターニングデバイスの配向、リソグラフィ装置の設計および他の条件、たとえばパターニングデバイスが真空環境中で保持されているか否か等に応じた方法でパターニングデバイスを保持している。サポート構造には、パターニングデバイスを保持するための機械式クランプ技法、真空クランプ技法、静電クランプ技法または他のクランプ技法を使用することができる。サポート構造は、たとえば必要に応じて固定または移動させることができるフレームまたはテーブルであってもよい。サポート構造は、パターニングデバイスをたとえば投影システムに対して所望の位置に確実に配置することができる。本明細書における「レチクル」または「マスク」という用語の使用はすべて、より一般的な「パターニングデバイス」という用語の同義語と見なすことができる。
【0015】
[0022] 本明細書において使用されている「パターニングデバイス」という用語は、放射ビームの断面にパターンを付与し、それにより基板のターゲット部分にパターンを生成するべく使用することができる任意のデバイスを意味するものとして広義に解釈されたい。放射ビームに付与されるパターンは、たとえばそのパターンに移相シフトフィーチャまたはいわゆるアシストフィーチャが含まれている場合、基板のターゲット部分における所望のパターンに必ずしも厳密に対応している必要はないことに留意されたい。放射ビームに付与されるパターンは、通常、ターゲット部分に生成されるデバイス、たとえば集積回路などのデバイス中の特定の機能層に対応している。
【0016】
[0023] パターニングデバイスは、透過型であってもあるいは反射型であってもよい。パターニングデバイスの例には、マスク、プログラマブルミラーアレイおよびプログラマブルLCDパネルがある。マスクについてはリソグラフィにおいては良く知られており、バイナリ、レベンソン型(alternating)位相シフトおよびハーフトーン型(attenuated)位相シフトなどのマスクタイプ、ならびに様々なハイブリッドマスクタイプが知られている。プログラマブルミラーアレイの例には、マトリックスに配列された、入射する放射ビームが異なる方向に反射するよう個々に傾斜させることができる微小ミラーが使用されている。この傾斜したミラーによって、ミラーマトリックスで反射する放射ビームにパターンが付与される。本明細書において使用されている「投影システム」という用語は、たとえば使用する露光放射に適した、もしくは液浸液の使用または真空の使用などの他の要因に適した、屈折光学システム、反射光学システム、反射屈折光学システム、磁気光学システム、電磁光学システムおよび静電光学システム、またはそれらの任意の組合せを始めとする任意のタイプの投影システムが包含されているものとして広義に解釈されたい。本明細書における「投影レンズ」という用語の使用はすべて、より一般的な「投影システム」という用語の同義語と見なすことができる。
【0017】
[0024] 図に示されているように、この装置は、反射型(たとえば反射型マスクを使用した)タイプの装置である。別法としては、この装置は、透過型(たとえば透過型マスクを使用した)タイプの装置であってもよい。
【0018】
[0025] リソグラフィ装置は、2つ(デュアルステージ)以上の基板テーブル(および/または複数のマスクテーブル)を有するタイプの装置であってもよい。このような「マルチステージ」マシンの場合、追加テーブルを並列に使用することができ、あるいは1つまたは複数の他のテーブルを露光のために使用している間、1つまたは複数のテーブルに対して予備ステップを実行することができる。
【0019】
[0026] また、リソグラフィ装置は、基板の少なくとも一部が比較的屈折率が大きい液体、たとえば水で覆われ、それにより投影システムと基板の間の空間が充填されるタイプの装置であってもよい。また、リソグラフィ装置内の他の空間、たとえばマスクと投影システムの間の空間に液浸液を加えることも可能である。液浸技法は、当分野では、投影システムの開口数を大きくすることで良く知られている。本明細書において使用されている「液浸」という用語は、基板などの構造を液体中に浸さなければならないことを意味しているのではなく、単に、露光の間、投影システムと基板の間に液体が置かれることを意味しているにすぎない。
【0020】
[0027] 図1を参照すると、イルミネータILは、放射源SOから放射ビームを受け取っている。放射源がたとえばエキシマレーザである場合、放射源およびリソグラフィ装置は、個別の構成要素にすることができる。このような場合、放射源は、リソグラフィ装置の一部を形成しているとは見なされず、放射ビームは、たとえば適切な誘導ミラーおよび/またはビームエキスパンダを備えたビームデリバリシステムを使用して放射源SOからイルミネータILへ引き渡される。それ以外のたとえば放射源が水銀灯などの場合、放射源はリソグラフィ装置の一構成要素にすることができる。放射源SOおよびイルミネータILは、必要に応じてビームデリバリシステムと共に放射システムと呼ぶことができる。
【0021】
[0028] イルミネータILは、放射ビームの角度強度分布を調整するためのアジャスタを備えることができる。通常、イルミネータの瞳面内における強度分布の少なくとも外側および/または内側半径範囲(一般に、それぞれσ−outerおよびσ−innerと呼ばれている)は調整が可能である。また、イルミネータILは、インテグレータおよびコンデンサなどの他の様々なコンポーネントを備えることができる。イルミネータを使用して放射ビームを条件付け、所望する均一性および強度分布をその断面に持たせることができる。
【0022】
[0029] サポート構造(たとえばマスクテーブルMT)の上に保持されているパターニングデバイス(たとえばマスクMA)に放射ビームBが入射し、パターニングデバイスによってパターニングされる。マスクMAを横切って、放射ビームBは、放射ビームを基板Wのターゲット部分Cに集束させる投影システムPSを通過する。基板テーブルWTは、第2ポジショナPWおよび位置センサIF2(たとえば干渉計デバイス、リニアエンコーダまたは容量センサ)を使用して正確に移動させることができ、それによりたとえば異なるターゲット部分Cを放射ビームBの光路内に配置することができる。同様に、第1のポジショナPMおよびもう1つの位置センサIF1を使用して、たとえばマスクライブラリから機械的に検索した後、またはスキャン中に、マスクMAを放射ビームBの光路に対して正確に配置することができる。通常、マスクテーブルMTの移動は、第1のポジショナPMの一部を形成しているロングストロークモジュール(粗動位置決め)およびショートストロークモジュール(微動位置決め)を使用して実現することができる。同様に、基板テーブルWTの移動は、第2ポジショナPWの一部を形成しているロングストロークモジュールおよびショートストロークモジュールを使用して実現することができる。ステッパの場合(スキャナではなく)、マスクテーブルMTは、ショートストロークアクチュエータのみに接続することができ、あるいは固定することも可能である。マスクMAおよび基板Wは、マスクアライメントマークM1、M2および基板アライメントマークP1、P2を使用して整列させることができる。図には専用ターゲット部分を占有している基板アライメントマークが示されているが、基板アライメントマークは、ターゲット部分とターゲット部分の間の空間に配置することも可能である(このような基板アライメントマークは、けがき線アライメントマークとして知られている)。同様に、複数のダイがマスクMA上に提供される場合、ダイとダイの間にマスクアライメントマークを配置することができる。
【0023】
[0030] 図に示されている装置は、以下に示すモードのうちの少なくとも1つのモードで使用することができる。
【0024】
[0031] 1.ステップモード:マスクテーブルMTおよび基板テーブルWTが基本的に静止状態に維持され、放射ビームに付与されたパターン全体がターゲット部分Cに1回で投影される(すなわち単一静止露光)。次に、基板テーブルWTがX方向および/またはY方向にシフトされ、異なるターゲット部分Cが露光される。ステップモードでは、露光フィールドの最大サイズによって、単一静止露光で結像するターゲット部分Cのサイズが制限される。
【0025】
[0032] 2.スキャンモード:放射ビームに付与されたパターンがターゲット部分Cに投影されている間、マスクテーブルMTおよび基板テーブルWTが同期スキャンされる(すなわち単一動的露光)。マスクテーブルMTに対する基板テーブルWTの速度および方向は、投影システムPSの倍率(縮小率)および画像反転特性によって決まる。スキャンモードでは、露光フィールドの最大サイズによって、単一動的露光におけるターゲット部分の幅(非スキャン方向の幅)が制限され、また、スキャン運動の長さによってターゲット部分の高さ(スキャン方向の高さ)が決まる。
【0026】
[0033] 3.その他のモード:プログラマブルパターニングデバイスを保持するべくマスクテーブルMTが基本的に静止状態に維持され、放射ビームに付与されたパターンがターゲット部分Cに投影されている間、基板テーブルWTが移動またはスキャンされる。このモードでは、通常、パルス放射源が使用され、スキャン中、基板テーブルWTが移動する毎に、あるいは連続する放射パルスと放射パルスの間に、必要に応じてプログラマブルパターニングデバイスが更新される。この動作モードは、上で参照したタイプのプログラマブルミラーアレイなどのプログラマブルパターニングデバイスを利用しているマスクレスリソグラフィに容易に適用することができる。
【0027】
[0034] 上で説明した使用モードの組合せおよび/またはその変形形態、あるいは全く異なる使用モードを使用することも可能である。
【0028】
[0035] 図2は、EUV反射キャップ層3を備えた第1の層1および赤外を受け取る第2の層2を備えた本発明による光学エレメントの一実施形態を示したものである。
【0029】
[0036] 第1の層1は、10.6μmの放射に対して透過性である材料、たとえばZnSe、ZnS、GaAsまたはGeを使用して構築することができる。第1の層は、2つの反射平行表面を備えた透明プレートであるいわゆるエタロンの層または構造を形成することができる。エタロンという語は、場合によっては、緊密に間隔を隔てた、部分的に銀張りが施された2つの表面を備えることができるファブリ−ペロ干渉計を記述するために使用されることに留意されたい。
【0030】
[0037] エタロンの複素数振幅反射率は、
【0031】
【数1】

で与えられる。
【0032】
[0039] 上式でr1は、第1の表面の複素数振幅反射率
【0033】
【数2】

である。
【0034】
[0041] 上式でnはプレートの屈折率であり、tはプレートの厚さである。θtは、光がプレート内で屈折する角度であり、λは真空中における光の波長である。
【0035】
[0042] キャップ層3は、EUVに対して大きい反射率を有しており、通常、そのためには10nm程度の厚さが必要である。金属は、たとえ極めて薄い層として加えられたとしても、通常、10.6μmの放射を反射することになるため、このキャップ層3は非金属材料でできていることが好ましく、たとえばダイヤモンド様炭素(DLC)またはTiO2でできていることが好ましい。この層の厚さは、所望の波長範囲におけるEUV反射率および最適DUV抑制に対して調整することができる。第1の層1およびキャップ層3の総合厚さは、p−偏光赤外放射の反射が最小になり、かつ、 入射角の全範囲における透過が最大になるように調整することができる。偏光依存性のため、2つの垂直反射が必要であり、これは、図3に示されているように中間焦点で実施されることが好ましい。
【0036】
[0043] 第1の層1は、10.6μmの波長の放射に対して透過性であるように構成することができ、また、第3の層3(EUVを反射するキャップ層)には、DUV放射に対して無反射コーティングとして機能する厚さを持たせることができる。したがって、この光学エレメントは、2種類の放射、つまり10.6μmの波長の放射およびDUV放射の2つの放射の抑制を組み合わせることができる。つまり、この光学エレメントに入射する10.6μmの波長の放射を第3の層3および第1の層1を通って伝搬させ、かつ、第2の層2によって吸収させることができ、また、DUV放射に対して無反射コーティングとして作用する第3の層3によってDUV放射を抑制することができる。
【0037】
[0044] 赤外を受け取る第2の層2は、赤外放射を吸収し、吸収した赤外放射をエテンデューの外側へ反射させるか、またはエテンデューの外側へ散乱させるように設計することができ、 あるいは吸収した赤外放射をエテンデューの外側へ反射させ、かつ、エテンデューの外側へ散乱させるように設計することができる。いずれの場合においても、第2の層の表面は、第1の層から傾斜させることができる。エテンデューは、図1に示されている放射ビームBが横断する光路と関連している。吸収の場合、たとえガラス(たとえば石英ガラス)またはセラミック(たとえばTiO2)などの赤外吸収材料であっても、使用される極めて小さい入射角に対しては実質的に反射型になるため、場合によっては表面が傾斜していることが好ましい。反射の場合は、EUV放射の方向とは異なる方向に赤外放射が反射するよう、表面を傾斜させなければならない。
【0038】
[0045] 一例として、一実施形態は、DLCキャップ層の厚さが20nmである厚さ50566nmのGeエタロンを備えている。ここでは、エタロンの厚さは、妥当な機械的安定性がエタロンに与えられるよう、約50μmになるように選択されている。しかしながら、エタロンの挙動は、約1.35μmの周期で周期的に変化するため、この厚さは、周期の整数数だけ変更することによってはるかに薄くすることも、あるいははるかに分厚くすることも可能である。図4は、この実施形態におけるp−偏光10.6μm放射に対する反射率を示したものである。反射率は、0.04°と10°の間のすべての角度に対して1%未満である。これは、微小角度範囲に対してのみ小さい反射率を有する(3.8°と5.5°の間で1%未満)、無反射コーティングが施された従来技術によるSPFと比較すると実質的な改善である(図5を参照されたい)。図5の横軸は入射角を示している。反射率は縦軸に沿ってプロットされている。
【0039】
[0046] 他の実施形態では、本発明は、中間焦点または図3に示されているリソグラフィツール中の他の焦点で十字形にレイアウトされた2つのミラーとして実施されている。図4に示されている構造は、個々のミラーの両側に適用される。この実施形態の利点は、入射角の範囲がより小さく、したがって平均反射率がより大きいことである。2つのミラーの総反射率は、平均反射率[Rp(θ)Rs(φ)+Rs(θ)Rp(φ)]/2を適切な範囲の入射角に対して積分することによって得られる。特定の条件の下では、総反射率は、13.5nmで85.1%、10.6μmで0.06%であり、つまり総スペクトル純度は、1000倍を超えて高くなっている。DUV範囲の反射率は、10%と40%の間で変化しており、これは、DLC層の厚さを変化させることによって調整することができる。
【0040】
[0047] エタロンの赤外反射率は、その厚さの変化および抑制すべき赤外波長の変化に極めて敏感であることに留意されたい。図4は、これを、エタロンの厚さが50566nmではなく、それぞれ50572nm、50578nmおよび50600nmの実施形態の反射率によって示したものである。この反射率は、縦軸に沿ってプロットされている。横軸には入射角がプロットされている。エタロンの厚さが50566nmではなく、50600nmである場合、10.6μmにおける総反射率は3.0%になり、つまりスペクトル純度がさらに28.5倍高くなる。したがって、良好な赤外抑制を達成するためには、+/−30〜40nmの範囲内で厚さを制御しなければならない。同様に、赤外波長も、良好な抑制を達成するために同様の帯域幅内に維持することができる。
【0041】
[0048] SPFが汚染されると(たとえば炭素で)、エタロンの厚さが変化することになることに留意されたい。したがって、場合によってはEUVミラーの場合と同様の浄化戦略が必要である。しかしながら、エタロンの汚染許容限界は比較的寛容であるため、これはほとんど問題とは見なされていない。
【0042】
[0049] 他の実施形態では、第1の層1は、高度に平行な表面を備えた材料の単一スラブ(つまりエタロン)として実施することはできないが、互いに対して移動させることができる材料の2つのスラブを備えたファブリ−ペロ干渉計として実施することができる。図6は、この実施形態を示したもので、2つのプレート1a、1bおよびこれらのスラブを互いに対して移動させるための少なくとも1つのアクチュエータ4を備えている。少なくとも1つのアクチュエータ4は、たとえば、プレートとプレートの間の距離および/または角度を変化させるための圧電アクチュエータであるか、あるいは一方のプレートをもう一方のプレートに対して回転させるための回転手段である。
【0043】
[0050] この実施形態の場合、アクチュエータによってプレート厚さの不完全性を補償することができる。たとえば、これらのプレートの反射表面が正確に平行ではない場合(望ましくない余計なエタロン効果を防止するためには、プレートはくさび留めされることが好ましい)、一方のプレートの表面がもう一方のプレートの表面と整列するよう、プレートを回転または傾斜させることができる。さらに、これらのプレートの厚さが最適でない場合(たとえば汚染の蓄積のために)、プレートとプレートの間の距離を変更することによってこれを補償することができる。
【0044】
[0051] 他の実施形態では、第1の層1は、赤外を受け取る第2の層2から、真空によってではなく、10.6μmの放射に対して1に近い屈折率を有する他の材料によって分離することができる。このようにすることにより、容易に損傷する自立型の層が存在しないため、SPFがより頑健になる。
【0045】
[0052] さらに他の実施形態では、図7に示されているように、圧電素子を使用して第1の層1を圧縮することによってその厚さが制御される。第1の層1をその側面から圧縮することによってその厚さを若干長くすることができる。調整しなければならない厚さはほんの数ナノメートルにすぎないため、この若干の長さの増加で十分である。
【0046】
[0053] 他の実施形態では、図8に略図で示されているように、赤外放射を散乱させるために第2の層2の表面がパターニングされる。
【0047】
[0054] この実施形態の場合、散乱した赤外放射は、ミラーを透過した後、EUVビームの外側に導かれる。
【0048】
[0055] さらに他の実施形態では、第2の層2の表面は、パターニングまたは粗くされていないが、EUV反射表面に対して連続的に傾斜している。これは、放射をEUVビームの外側へ回折させるためには実質的な傾斜角(たとえば5°)が必要であるため、好ましい実施形態ではない。そのためにミラーが比較的分厚くなり、ミラーが両面化され、かつ、図3に示されているIFに配置される場合、延いてはエテンデューが不要に大きくなることになる。したがって、傾斜した表面をいくつかのステップで破壊し、図2に示されているような鋸歯パターンにすることが好ましい。
【0049】
[0056] 本明細書においては、とりわけICの製造におけるリソグラフィ装置の使用が参照されているが、本明細書において説明したリソグラフィ装置は、集積光学システム、磁気ドメインメモリのための誘導および検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッド、等々の製造などの他のアプリケーションを有することができることを理解されたい。このような代替アプリケーションのコンテキストにおいては、本明細書における「ウェーハ」または「ダイ」という用語の使用はすべて、それぞれより一般的な「基板」または「ターゲット部分」という用語の同義語と見なすことができることは当業者には理解されよう。本明細書において参照されている基板は、たとえばトラック(通常、基板にレジストの層を加え、かつ、露光済みのレジストを現像するツール)、メトロロジーツールおよび/またはインスペクションツール中で、露光前または露光後に処理することができる。適用可能である場合、本明細書における開示は、このような基板処理ツールおよび他の基板処理ツールに適用することができる。さらに、基板は、たとえば多層ICを生成するために複数回にわたって処理することができるため、本明細書において使用されている基板という用語は、処理済みの複数の層が既に含まれている基板を指している場合もある。
【0050】
[0057] また、本発明による実施形態の使用について、とりわけ光リソグラフィのコンテキストの中で参照されているが、本発明は、他のアプリケーション、たとえばインプリントリソグラフィに使用することができ、コンテキストが許容する場合、光リソグラフィに限定されないことは理解されよう。インプリントリソグラフィの場合、基板に生成されるパターンは、パターニングデバイスのトポグラフィによって画定される。パターニングデバイスのトポグラフィが、基板に供給されているレジストの層にプレスされ、次に、レジストを硬化させるべく、電磁放射、熱、圧力またはそれらの組合せが印加される。レジストが硬化すると、パターニングデバイスがレジストから除去され、後にパターンが残される。
【0051】
[0058] 本明細書において使用されている「放射」および「ビーム」という用語には、紫外(UV)放射(たとえば約365nm、355nm、248nm、193nm、157nmまたは126nmの波長またはその近辺の波長を有する放射)、および極端紫外(EUV)放射(波長の範囲が5〜20nmの放射)、ならびにイオンビームまたは電子ビームなどの粒子線を含むあらゆるタイプの電磁放射が包含されている。
【0052】
[0059] コンテキストが許容する場合、「レンズ」という用語は、屈折光学コンポーネント、反射光学コンポーネント、磁気光学コンポーネント、電磁光学コンポーネントおよび静電光学コンポーネントを始めとする様々なタイプの光学コンポーネントのうちの任意の1つまたは組合せを意味している。
【0053】
[0060] 以上、本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は、説明されている方法以外の方法で実践することも可能であることは理解されよう。たとえば、本発明は、上で開示した方法を記述した1つまたは複数の機械読取可能命令シーケンスを含んだコンピュータプログラムの形態を取ることができ、あるいはこのようなコンピュータプログラムを記憶したデータ記憶媒体(たとえば半導体記憶装置、磁気ディスクまたは光ディスク)の形態を取ることができる。
【0054】
[0061] 以上の説明は、実例による説明を意図したものであり、本発明を制限するものではない。したがって、特許請求の範囲に示されている各請求項の範囲を逸脱することなく、上で説明した本発明に修正を加えることができることは当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、第1の波長の放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、第2の波長の放射に対しては少なくとも部分的に透過型であるように構成された構造と、
第2の材料を含む第2の層であって、前記第2の波長の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、
前記第1の層と前記第2の層の間の真空またはガスと
を備えた光学エレメントであって、前記第1の層が、前記第1の波長の前記放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、前記第2の層に対して上流側に配置された光学エレメント。
【請求項2】
前記構造が、前記第1の波長の前記放射を第1の方向に反射するように構成され、前記第2の層が、前記第2の波長の前記放射を第2の方向に反射するように構成され、前記第1の方向および前記第2の方向が互いに実質的に異なる、請求項1に記載の光学エレメント。
【請求項3】
前記第2の層が、前記第2の波長の次数の近辺の長さスケールの表面粗さを有する、請求項1または2に記載の光学エレメント。
【請求項4】
前記構造の厚さが適合可能である、請求項1、2または3に記載の光学エレメント。
【請求項5】
前記構造が、前記第1の層の頂部に第3の層をさらに備え、前記第3の層が第3の材料からなり、また、前記第1の波長の放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、前記第2の波長の放射に対しては少なくとも部分的に透過型であるように構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の光学エレメント。
【請求項6】
前記第3の層の厚さが1nmと20nmの間である、請求項6に記載の光学エレメント。
【請求項7】
前記第1の波長の前記放射がEUV放射である、請求項1から6のいずれか一項に記載の光学エレメント。
【請求項8】
前記第2の波長の前記放射が赤外放射である、請求項1から7のいずれか一項に記載の光学エレメント。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の少なくとも2つの光学エレメントを備えた光学デバイス。
【請求項10】
前記光学エレメントのうちの少なくとも2つの反射表面が互いに対して横方向に配向された、請求項9に記載の光学デバイス。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの光学エレメントを備えたリソグラフィ装置。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載の少なくとも2つの光学エレメントを備えたリソグラフィ装置であって、個々の光学エレメントの反射表面が互いに対して実質的に垂直に配向されたリソグラフィ装置。
【請求項13】
放射ビームを条件付ける照明システムと、
前記放射ビームをパターニングするパターニングデバイスと、
基板を保持するサポートと、
パターン付き放射ビームを前記基板のターゲット部分に投影する投影システムと
をさらに備えた、請求項11または12に記載のリソグラフィ装置。
【請求項14】
パターン付き放射ビームを形成するために放射ビームをパターニングするステップと、
前記パターン付き放射ビームを基板に投影するステップと、
少なくとも1つの光学エレメントを使用して前記放射ビームを反射させるステップであって、前記少なくとも1つの光学エレメントが、
第1の材料を含む少なくとも第1の層を備えた構造であって、第1の波長の放射に対しては実質的に反射型であり、かつ、第2の波長の放射に対しては少なくとも部分的に透過型であるように構成された構造と、
第2の材料を含む第2の層であって、前記第2の波長の放射に対して実質的に反射型、吸収型または散乱型であるように構成された第2の層と、
前記第1の層と前記第2の層の間の真空またはガスと
を備え、前記第1の層が、前記第1の波長の前記放射のスペクトル純度を改善するために、入射する放射の光路内に、前記第2の層に対して上流側に配置されたステップと
を含むデバイス製造方法。
【請求項15】
前記構造が、前記第1の波長の前記放射を第1の方向に反射するように構成され、前記第2の層が、前記第2の波長の前記放射を第2の方向に反射するように構成され、前記第1の方向および前記第2の方向が互いに実質的に異なる、請求項14に記載のデバイス製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−16371(P2010−16371A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−148144(P2009−148144)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(504151804)エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ. (1,856)
【Fターム(参考)】