説明

光学フィルムの製造方法

【課題】本発明の目的は、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とをブレンドして光学フィルムを製造する方法において、ヘイズを上昇させることなく、返材を再使用できる製造方法を提供することにある。
【解決手段】重量平均分子量Mwが80000以上1000000以下であるアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂を95:5から30:70の質量比で含有するドープを調製する調製工程と、前記ドープを溶液流延して光学フィルムを製膜する製膜工程と、返材を破砕してチップとし該チップを移送して前記調製工程に供給する返材供給工程とを有し、前記返材供給工程において、前記チップを除電することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂を混合して作製した光学フィルムの返材使用に関する。さらには、返材に破砕する工程あるいは返材を移送する工程において、返材を除電することを特徴とする光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のセルロースエステルフィルム製造工程においては、製造工程において生じる製品化されないフィルム(製造途中でフィルムの両端を裁ち落とされたフィルムや、何らかの欠陥や事故で製造が中断されて出てくる未完成フィルム等、以下返材と称す)が、粉砕されて、ドープ調製時に加えてられていた。このとき返材は、破砕された後、配管内を空送されることにより、ドープ調製用のタンクに投入されていた。(特許文献1)。
【0003】
また、セルロースエステル樹脂とアクリル樹脂とをブレンドした樹脂組成物から成形した光学フィルムが知られている(特許文献2)。特許文献2は、前記樹脂組成物を押出成形することで光学フィルムを製造している。
【0004】
本発明者がアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂をブレンドして、特許文献2に記載されている返材を使用した溶液流延法でフィルムを製造したところ、アクリル樹脂をブレンドしない場合と比べてヘイズが高くなった。
【0005】
その原因を探求したところ、返材を空送する場合の帯電量が、アクリル樹脂をブレンドしない場合と比べて数倍高くなっていること、そのため返材が凝集した状態で溶解タンクに投入されてしまい、それが未溶解物となってヘイズを上昇させていることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−161143号公報
【特許文献2】特開2008−88417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アクリル樹脂とセルロースエステル樹脂とをブレンドして光学フィルムを製造する方法において、ヘイズを上昇させることなく、返材を再使用できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、下記によって達成された。
【0009】
1.重量平均分子量Mwが80000以上1000000以下であるアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂を95:5から30:70の質量比で含有するドープを調製する調製工程と、前記ドープを溶液流延して光学フィルムを製膜する製膜工程と、返材を破砕してチップとし該チップを移送して前記調製工程に供給する返材供給工程とを有し、前記返材供給工程において、前記チップを除電することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0010】
2.前記返材は、前記製膜工程において乾燥後のフィルムから裁ち落とされたものであることを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0011】
3.前記返材供給工程において、前記チップの帯電量が−5kV〜+5kVとなるように前記チップを除電することを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0012】
4.前記返材供給工程は前記チップを、移送のための配管内を空気輸送するものであり、前記チップの配管内での帯電量が−5kV〜+5kVとなるように前記配管内を除電することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0013】
5.前記配管内を除電することが、湿度を調整することであることを特徴とする前記4に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
返材供給工程でチップを除電することで、チップが凝集状態でドープ調製工程に供給されるのを防ぐことができ、ヘイズの上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に用いられる溶液流延製造方法のドープ調製工程、流延工程および乾燥工程を模式的に示した図である。
【図2】チップ溶解タンクを有する調製工程図である。
【図3】検量手段とフィードバック手段を有するドープ調製工程図である。
【図4】返材溶解タンクと3点合流管を有するドープ調製工程図である。
【図5】返材溶解タンクと3点合流管を有し、かつ検量手段とフィードバック手段を有するドープ調製工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法で製造される光学フィルムは、耐熱性に乏しく高温下での使用、長期的な使用などにおいて、形状が変わり易く、脆性に劣るという性質を改善したものであり、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)とをブレンドすることにより、透明で、高耐候性であり、脆性を著しく改善した光学フィルムである。
【0017】
そして、本発明の製造方法は、必ずしも相溶性の良好ではないセルロースエステル樹脂とアクリル樹脂を混合した場合に発生する、原材料の均一性を確保するための方法を提供するものである。
【0018】
<光学フィルム>
本発明の光学フィルムはいわゆるアクリル樹脂含有フィルムであって、ヘイズ値が1%未満であり、張力軟化点が105〜145℃で、かつ延性破壊が起こらないことを特徴とする。
【0019】
本発明における延性破壊とは、ある材料が有する強度よりも、大きな応力が作用することで生じるものであり、最終破断までに材料の著しい伸びや絞りを伴う破壊と定義される。その破面には、ディンプルと呼ばれる窪みが無数に形成される特徴がある。
【0020】
従って「延性破壊が起こらないアクリル樹脂含有フィルム」とは、23℃55%RHの雰囲気下でフィルムを2つに折り曲げるような大きな応力を作用させても破断等の破壊がみられないことが特徴である。
【0021】
昨今の液晶表示装置の大型化に伴う光学フィルムの大判化、薄膜化に伴いリワーク性、生産性の観点から光学フィルムの脆性への要求はますます高いものがあり、上記延性破壊が起こらないことが求められている。
【0022】
本発明の延性破壊を起こらないアクリル樹脂含有フィルムを形成するには、用いるアクリル樹脂やセルロースエステル、その他添加剤等の材料構成を後述するように選択することにより達成される。
【0023】
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムは、ヘイズを低くし、プロジェクターのような高温になる機器や、車載用表示機器のような、高温の環境下での使用を考慮すると、その張力軟化点を、105℃〜145℃とすることが好ましく、110℃〜130℃に制御することがより好ましい。
【0024】
アクリル樹脂含有フィルムの張力軟化点温度の具体的な測定方法としては、例えば、テンシロン試験機(ORIENTEC社製、RTC−1225A)を用いて、アクリル樹脂含有フィルムを120mm(縦)×10mm(幅)で切り出し、10Nの張力で引っ張りながら30℃/minの昇温速度で昇温を続け、9Nになった時点での温度を3回測定し、その平均値により求めることができる。
【0025】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上である。特に好ましくは150℃以上である。
【0026】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0027】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、フィルム面内の直径5μm以上の欠点が1個/10cm四方以下である。更に好ましくは0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。
【0028】
ここで欠点の直径とは、欠点が円形の場合はその直径を示し、円形でない場合は欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その最大径(外接円の直径)とする。
【0029】
欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影の大きさである。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認する。
【0030】
なお、反射光で観察する場合に、欠点の大きさが不明瞭であれば、表面にアルミや白金を蒸着して観察する。
【0031】
かかる欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、ポリマー溶液を流延直前に高精度濾過することや、流延機周辺のクリーン度を高くすること、また、流延後の乾燥条件を段階的に設定し、効率よくかつ発泡を抑えて乾燥させることが有効である。
【0032】
欠点の個数が1個/10cm四方より多いと、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を基点としてフィルムが破断して生産性が著しく低下する場合がある。また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。
【0033】
また、目視で確認できない場合でも、該フィルム上にハードコート層などを形成したときに、塗剤が均一に形成できず欠点(塗布抜け)となる場合がある。ここで、欠点とは、溶液製膜の乾燥工程において溶媒の急激な蒸発に起因して発生するフィルム中の空洞(発泡欠点)や、製膜原液中の異物や製膜中に混入する異物に起因するフィルム中の異物(異物欠点)を言う。
【0034】
また、本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が、10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。
【0035】
破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。
【0036】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの厚みは20μm以上であることが好ましい。より好ましくは30μm以上である。
【0037】
厚みの上限は特に限定される物ではないが、溶液製膜法でフィルム化する場合は、塗布性、発泡、溶媒乾燥などの観点から、上限は250μm程度である。なお、フィルムの厚みは用途により適宜選定することができる。
【0038】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。
【0039】
また、製膜時のフィルム接触部(冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、移送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや、アクリル樹脂の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
【0040】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、透明性を表す指標の1つであるヘイズ値(濁度)が1.0%以下であることが特徴であるが、液晶表示装置に組み込んだ際の輝度、コントラストの点から好ましくは0.5%以下である。
【0041】
かかるヘイズ値を達成するには、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散を低減させることが有効である。
【0042】
アクリル粒子を使用する場合は、アクリル系樹脂(A)とアクリル粒子(C)との屈折率差を小さくすることも有効である。
【0043】
また、表面の粗さも表面ヘイズとしてヘイズ値に影響するため、アクリル粒子(C)の粒子径や添加量を前記範囲内に抑えたり、製膜時のフィルム接触部の表面粗さを小さくすることも、有効である。
【0044】
尚、上記アクリル樹脂含有フィルムの全光線透過率およびヘイズ値は、JIS−K7361−1−1997およびJIS−K7136−2000に従い、測定した値である。
【0045】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、上記のような物性を満たしていれば、光学用のアクリル樹脂含有フィルムとして好ましく用いることができるが、以下の組成とすることにより、加工性、耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。
【0046】
すなわち、加工性および耐熱性を両立させる観点から、前記アクリル樹脂含有フィルムが、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂を95:5〜30:70の質量比で含有し、該セルロースエステル樹脂(B)のアシル基総置換度(T)が2.00〜3.00、アセチル基置換度(ac)が0〜1.89、アセチル基以外のアシル基の炭素数が3〜7であり、重量平均分子量(Mw)が75000〜280000であることを特徴とするアクリル樹脂含有フィルムにより、本発明の優れた効果が得られる。
【0047】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムにおいて、アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)は、95:5〜30:70の質量比で含有されるが、好ましくはアクリル樹脂(A)が50質量%以上である。
【0048】
アクリル樹脂成分が多くなると、例えば高温・高湿下での寸法変化が抑制され、偏光板として用いた時の偏光板のカールやパネルの反りを著しく低減することができる。さらにアクリル樹脂成分が半分以上の組成においては、上記物性をより長時間維持する事が可能となる。
【0049】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)以外の樹脂を含有して構成されていても良い。
【0050】
アクリル樹脂(A)とセルロースエステル樹脂(B)の総質量は、アクリル樹脂含有フィルムの55〜100質量%であり、好ましくは60〜99質量%である。
【0051】
〈アクリル樹脂(A)〉
本発明に用いられるアクリル樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。樹脂としては特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、およびこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが好ましい。
【0052】
共重合可能な他の単量体としては、アルキル数の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン、核置換スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0053】
これらの中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
【0054】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムに用いられるアクリル樹脂(A)は、フィルムとしての機械的強度、フィルムを生産する際の流動性の点から重量平均分子量(Mw)が80000〜1000000であることが好ましい。
【0055】
本発明のアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
【0056】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0057】
本発明におけるアクリル樹脂(A)の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系およびアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。重合温度については、懸濁または乳化重合では30〜100℃、塊状または溶液重合では80〜160℃で実施しうる。さらに、生成共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
【0058】
この分子量とすることで、耐熱性と脆性の両立を図ることができる。
【0059】
本発明のアクリル樹脂としては、市販のものも使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0060】
〈セルロースエステル樹脂(B)〉
本発明のセルロースエステル樹脂は、脂肪族のアシル基、芳香族のアシル基のいずれで置換されていても良いが、アセチル基で置換されていることが好ましい。
【0061】
本発明のセルロースエステル樹脂が、脂肪族アシル基とのエステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0062】
本発明において前記脂肪族アシル基とはさらに置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
【0063】
上記セルロースエステル樹脂が、芳香族アシル基とのエステルであるとき、芳香族環に置換する置換基Xの数は0または1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1又は2個である。
【0064】
更に、芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えばナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリンなど)を形成してもよい。
【0065】
上記セルロースエステル樹脂において置換もしくは無置換の脂肪族アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の少なくともいずれか1種選択された構造を有する構造を有することが本発明のセルロース樹脂に用いる構造として用いられ、これらは、セルロースの単独または混合酸エステルでもよい。
【0066】
本発明のセルロースエステル樹脂の置換度は、アシル基の総置換度(T)が2.00〜3.00であり、アセチル基は必ずしも必要ではなく、アセチル基置換度(ac)が0〜1.89である。より好ましくはアセチル基以外のアシル基置換度(r)が2.00〜2.89である。
【0067】
アセチル基以外のアシル基は炭素数が3〜7であることが好ましい。
【0068】
本発明のセルロースエステル樹脂において、炭素原子数2〜7のアシル基を置換基として有するもの、即ちセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、およびセルロースベンゾエートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0069】
これらの中で特に好ましいセルロースエステル樹脂は、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0070】
混合脂肪酸として、さらに好ましくは、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルであり、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
【0071】
アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
【0072】
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
【0073】
本発明のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、75000以上であれば、1000000程度のものであっても本発明の目的を達成することができるが、生産性を考慮すると75000〜280000のものが好ましく、100000〜240000のものが更に好ましい。
【0074】
〈アクリル粒子(C)〉
本発明においては、アクリル樹脂含有フィルムにアクリル粒子を含有させてもよい。
【0075】
本発明に係るアクリル粒子(C)は、前記アクリル樹脂(A)およびセルロースエステル樹脂(B)とアクリル樹脂含有フィルム中で粒子の状態で存在すること(非相溶状態ともいう)が特徴である。
【0076】
上記アクリル粒子(C)は、例えば、作製したアクリル樹脂含有フィルムを所定量採取し、溶媒に溶解させて攪拌し、充分に溶解・分散させたところで、アクリル粒子(C)の平均粒子径未満の孔径を有するPTFE製のメンブレンフィルターを用いて濾過し、濾過捕集された不溶物の重さが、アクリル樹脂含有フィルムに添加したアクリル粒子(C)の90質量%以上あることが好ましい。
【0077】
本発明に用いられるアクリル粒子(C)は特に限定されるものではないが、2層以上の層構造を有するアクリル粒子(C)であることが好ましく、特に下記多層構造アクリル系粒状複合体であることが好ましい。
【0078】
多層構造アクリル系粒状複合体とは、中心部から外周部に向かって最内硬質層重合体、ゴム弾性を示す架橋軟質層重合体、および最外硬質層重合体が、層状に重ね合わされてなる構造を有する粒子状のアクリル系重合体を言う。
【0079】
本発明のアクリル系樹脂組成物に用いられる多層構造アクリル系粒状複合体の好ましい態様としては、以下の様なものが挙げられる。(a)メチルメタクリレート80〜98.9質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート1〜20質量%、および多官能性グラフト剤0.01〜0.3質量%からなる単量体混合物を重合して得られる最内硬質層重合体、(b)上記最内硬質層重合体の存在下に、アルキル基の炭素数が4〜8のアルキルアクリレート75〜98.5質量%、多官能性架橋剤0.01〜5質量%および多官能性グラフト剤0.5〜5質量%からなる単量体混合物を重合して得られる架橋軟質層重合体、(c)上記最内硬質層および架橋軟質層からなる重合体の存在下に、メチルメタクリレート80〜99質量%とアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレート1〜20質量%とからなる単量体混合物を重合して得られる最外硬層重合体、よりなる3層構造を有し、かつ得られた3層構造重合体が最内硬質層重合体(a)5〜40質量%、軟質層重合体(b)30〜60質量%、および最外硬質層重合体(c)20〜50質量%からなり、アセトンで分別したときに不溶部があり、その不溶部のメチルエチルケトン膨潤度が1.5〜4.0であるアクリル系粒状複合体、が挙げられる。
【0080】
なお、特公昭60−17406号あるいは特公平3−39095号において開示されている様に、多層構造アクリル系粒状複合体の各層の組成や粒子径を規定しただけでなく、多層構造アクリル系粒状複合体の引張り弾性率やアセトン不溶部のメチルエチルケトン膨潤度を特定範囲内に設定することにより、さらに充分な耐衝撃性と耐応力白化性のバランスを実現することが可能となる。
【0081】
ここで、多層構造アクリル系粒状複合体を構成する最内硬質層重合体(a)は、メチルメタクリレート80〜98.9質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート1〜20質量%および多官能性グラフト剤0.01〜0.3質量%からなる単量体混合物を重合して得られるものが好ましい。
【0082】
ここで、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが好ましく用いられる。
【0083】
最内硬質層重合体(a)におけるアルキルアクリレート単位の割合は1〜20質量%であり、該単位が1質量%未満では、重合体の熱分解性が大きくなり、一方、該単位が20質量%を越えると、最内硬質層重合体(c)のガラス転移温度が低くなり、3層構造アクリル系粒状複合体の耐衝撃性付与効果が低下するので、いずれも好ましくない。
【0084】
多官能性グラフト剤としては、異なる重合可能な官能基を有する多官能性単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸のアリルエステル等が挙げられ、アリルメタクリレートが好ましく用いられる。多官能性グラフト剤は、最内硬質層重合体と軟質層重合体を化学的に結合するために用いられ、その最内硬質層重合時に用いる割合は0.01〜0.3質量%である。
【0085】
アクリル系粒状複合体を構成する架橋軟質層重合体(b)は、上記最内硬質層重合体(a)の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレート75〜98.5質量%、多官能性架橋剤0.01〜5質量%および多官能性グラフト剤0.5〜5質量%からなる単量体混合物を重合して得られるものが好ましい。
【0086】
ここで、アルキル基の炭素数が4〜8のアルキルアクリレートとしては、n−ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく用いられる。
【0087】
また、これらの重合性単量体と共に、25質量%以下の共重合可能な他の単官能性単量体を共重合させることも可能である。
【0088】
共重合可能な他の単官能性単量体としては、スチレンおよび置換スチレン誘導体が挙げられる。アルキル基の炭素数が4〜8のアルキルアクリレートとスチレンとの比率は、前者が多いほど生成重合体(b)のガラス転移温度が低下し、即ち軟質化できるのである。
【0089】
一方、樹脂組生物の透明性の観点からは、軟質層重合体(b)の常温での屈折率を最内硬質層重合体(a)、最外硬質層重合体(c)、および硬質熱可塑性アクリル樹脂に近づけるほうが有利であり、これらを勘案して両者の比率を選定する。
【0090】
例えば、被覆層厚みの小さな用途においては、必ずしもスチレンを共重合しなくとも良い。
【0091】
多官能性グラフト剤としては、前記の最内層硬質重合体(a)の項で挙げたものを用いることができる。ここで用いる多官能性グラフト剤は、軟質層重合体(b)と最外硬質層重合体(c)を化学的に結合するために用いられ、その最内硬質層重合時に用いる割合は耐衝撃性付与効果の観点から0.5〜5質量%が好ましい。
【0092】
多官能性架橋剤としては、ジビニル化合物、ジアリル化合物、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物などの一般に知られている架橋剤が使用できるが、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量200〜600)が好ましく用いられる。
【0093】
ここで用いる多官能性架橋剤は、軟質層(b)の重合時に架橋構造を生成し、耐衝撃性付与の効果を発現させるために用いられる。ただし、先の多官能性グラフト剤を軟質層の重合時に用いれば、ある程度は軟質層(b)の架橋構造を生成するので、多官能性架橋剤は必須成分ではないが、多官能性架橋剤を軟質層重合時に用いる割合は耐衝撃性付与効果の観点から0.01〜5質量%が好ましい。
【0094】
多層構造アクリル系粒状複合体を構成する最外硬質層重合体(c)は、上記最内硬質層重合体(a)および軟質層重合体(b)の存在下に、メチルメタクリレート80〜99質量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレート1〜20質量%からなる単量体混合物を重合して得られるものが好ましい。
【0095】
ここで、アクリルアルキレートとしては、前述したものが用いられるが、メチルアクリレートやエチルアクリレートが好ましく用いられる。最外硬質層(c)におけるアルキルアクリレート単位の割合は、1〜20質量%が好ましい。
【0096】
また、最外硬質層(c)の重合時に、アクリル樹脂(A)との相溶性向上を目的として、分子量を調節するためアルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用い、実施することも可能である。
【0097】
とりわけ、最外硬質層に、分子量が内側から外側へ向かって次第に小さくなるような勾配を設けることは、伸びと耐衝撃性のバランスを改良するうえで好ましい。具体的な方法としては、最外硬質層を形成するための単量体混合物を2つ以上に分割し、各回ごとに添加する連鎖移動剤量を順次増加するような手法によって、分子量を内側から外側へ向かって小さくすることが可能である。
【0098】
この際に形成される分子量は、各回に用いられる単量体混合物をそれ単独で同条件にて重合し、得られた重合体の分子量を測定することによって調べることもできる。
【0099】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体であるアクリル系粒状複合体の粒子径については、特に限定されるものではないが、10nm以上、1000nm以下であることが好ましく、さらに、20nm以上、500nm以下であることがより好ましく、特に50nm以上、400nm以下であることが最も好ましい。
【0100】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体であるアクリル系粒状複合体において、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体を100質量部としたときに、コア層が50質量部以上、90質量部以下であることが好ましく、さらに、60質量部以上、80質量部以下であることがより好ましい。
【0101】
このような多層構造アクリル系粒状複合体の市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド”およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0102】
また、本発明に好ましく用いられるアクリル粒子(C)として好適に使用されるグラフト共重合体であるアクリル粒子(c−1)の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、芳香族ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0103】
グラフト共重合体であるアクリル粒子(c−1)に用いられるゴム質重合体には特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0104】
また、アクリル樹脂(A)およびアクリル粒子(C)のそれぞれの屈折率が近似している場合、本発明のアクリル樹脂含有フィルムの透明性を得ることができるため、好ましい。具体的には、アクリル粒子(C)とアクリル樹脂(A)の屈折率差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。
【0105】
このような屈折率条件を満たすためには、アクリル樹脂(A)の各単量体単位組成比を調整する方法、および/またはアクリル粒子(C)に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れたアクリル樹脂含有フィルムを得ることができる。
【0106】
尚、ここで言う屈折率差とは、アクリル樹脂(A)が可溶な溶媒に、本発明のアクリル樹脂含有フィルムを適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(アクリル樹脂(A))と不溶部分(アクリル粒子(C))をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を示す。
【0107】
本発明においてアクリル樹脂(A)に、アクリル粒子(C)を配合する方法には、特に制限はなく、アクリル樹脂(A)とその他の任意成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、アクリル粒子(C)を添加しながら一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。
【0108】
また、アクリル粒子(C)を予め分散した溶液を、アクリル樹脂(A)、およびセルロースエステル樹脂(B)を溶解した溶液(ドープ液)に添加して混合する方法や、アクリル粒子(C)およびその他の任意の添加剤を溶解、混合した溶液をインライン添加する等の方法を用いることができる。
【0109】
本発明のアクリル粒子としては、市販のものも使用することができる。例えば、メタブレンW−341(C2)(三菱レイヨン(株)製)を、ケミスノーMR−2G(C3)、MS−300X(C4)(綜研化学(株)製)等を挙げることができる。
【0110】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムにおいて、該フィルムを構成する樹脂の総質量に対して、0.5〜45質量%のアクリル粒子(C)を含有することが好ましい。
【0111】
〈その他の添加剤〉
本発明のアクリル樹脂含有フィルムにおいては、組成物の流動性や柔軟性を向上するために、可塑剤を併用することも可能である。可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ系等が挙げられる。
【0112】
この中で、ポリエステル系とフタル酸エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れるが、可塑化効果や相溶性にはやや劣る。
【0113】
従って、用途に応じてこれらの可塑剤を選択、あるいは併用することによって、広範囲の用途に適用できる。
【0114】
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0115】
特に、アジピン酸、フタル酸などを用いると可塑化特性に優れたものが得られる。グリコールとしてはエチレン、プロピレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、ネオペンチレン、ジエチレン、トリエチレン、ジプロピレンなどのグリコールが挙げられる。これらの二価カルボン酸およびグリコールはそれぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。
【0116】
このエステル系の可塑剤はエステル、オリゴエステル、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは600〜3000の範囲が可塑化効果が大きい。
【0117】
また、可塑剤の粘度は分子構造や分子量と相関があるが、アジピン酸系可塑剤の場合相溶性、可塑化効率の関係から200〜5000mPa・s(25℃)の範囲が良い。さらに、いくつかのポリエステル系可塑剤を併用してもかまわない。
【0118】
可塑剤はアクリル樹脂(A)を含有する組成物100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。可塑剤の添加量が30質量部を越えると、表面がべとつくので、実用上好ましくない。
【0119】
本発明のアクリル樹脂(A)を含有する組成物は紫外線吸収剤を含有することも好ましく、用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系またはサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を例示することができる。
【0120】
ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。
【0121】
また、特に薄い被覆層から基板層への移行性も小さく、積層板の表面にも析出しにくいため、含有された紫外線吸収剤量が長時間維持され、耐候性改良効果の持続性に優れるなどの点から好ましい。
【0122】
分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、さらには2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子内にヒンダードフェノールとヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系のものが挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。これらのうちでも、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾールや2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が特に好ましい。
【0123】
さらに、本発明のアクリル樹脂含有フィルムに用いられるアクリル樹脂(A)には成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するために各種の酸化防止剤を添加することもできる。また帯電防止剤を加えて、アクリル樹脂含有フィルムに帯電防止性能を与えることも可能である。
【0124】
本発明のアクリル樹脂組成物として、リン系難燃剤を配合した難燃アクリル系樹脂組成物を用いても良い。
【0125】
ここで用いられるリン系難燃剤としては、赤リン、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等から選ばれる1種、あるいは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0126】
具体的な例としては、トリフェニルホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0127】
<光学フィルムの製造方法>
本発明の光学フィルムであるアクリル樹脂含有フィルムの製造方法の例を説明する。
【0128】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの製造方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液製膜が好ましい。
【0129】
(有機溶媒)
本発明のアクリル樹脂含有フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
【0130】
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
【0131】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのアクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)の溶解を促進する役割もある。
【0132】
特に、メチレンクロライド、および炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂(A)と、セルロースエステル樹脂(B)と、アクリル粒子(C)の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
【0133】
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0134】
以下、本発明のアクリル樹脂含有フィルムの好ましい製造方法について説明する。
【0135】
1)ドープを調製する調製工程(溶解工程)
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、場合によってアクリル粒子(C)、その他の添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいは該アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)溶液に、場合によってアクリル粒子(C)溶液、その他の添加剤溶液を混合して主溶解液であるドープを形成する工程である。
【0136】
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
【0137】
ドープ中のアクリル樹脂(A)と、セルロースエステル樹脂(B)は、計15〜45質量%の範囲であることが好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解および分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0138】
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。
【0139】
この方法では、粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去できる。主ドープでは粒子の濃度も添加液に比べ十分に薄いため、濾過時に凝集物同士がくっついて急激な濾圧上昇することもない。
【0140】
図1は本発明に好ましい溶液流延製造方法のドープ調製工程、流延工程および乾燥工程を模式的に示した図である。
【0141】
必要な場合は、アクリル粒子仕込釜41より濾過器44で大きな凝集物を除去し、ストック釜42へ送液する。その後、ストック釜42より主ドープ溶解釜1へアクリル粒子添加液を添加する。
【0142】
その後主ドープ液は主濾過器3にて濾過され、これに紫外線吸収剤添加液が16よりインライン添加される。
【0143】
多くの場合、主ドープには返材が10〜50質量%程度含まれることがある。返材にはアクリル粒子が含まれることがある、その場合には返材の添加量に合わせてアクリル粒子添加液の添加量をコントロールすることが好ましい。
【0144】
アクリル粒子を含有する添加液には、アクリル粒子を0.5〜10質量%含有していることが好ましく、1〜10質量%含有していることが更に好ましく、1〜5質量%含有していることが最も好ましい。
【0145】
<返材>
製膜工程の途中または最終段階から発生する返材の量の増減により投入量は若干変わるが、通常、ドープ中の全固形分に対する返材の混合率は10〜50質量%程度である。
【0146】
実際的には、できるだけ一定量の混合率とすることが、生産安定上好ましく、また、混合率を15〜40質量%程度とすることがより好ましい。
【0147】
返材は、乾燥中あるいは最終段階で、両端のきり落とし、作業開始直後とか条件調整中のロス、あるいは突発事故による製品とならなかったウェブまたはフィルムで発生する。
【0148】
これらを返材として再使用する際、まず、返材を0.5〜40mmの大きさ、好ましくは10〜30mmに図1で示す破砕機70(工程(E))で破砕しチップ75とする。
【0149】
この際、返材チップの除電により、返材チップの破砕機への張り付きや詰まり、返材チップ同士の凝集、壁面へのチップの貼り付きを防止することができる。
【0150】
最も好ましい除電方法として加湿が挙げられる。加湿装置は比較的に安価かつ容易に設置することができ、かつ、工程内全体の湿度を一定に制御することにより、長期間導管内や貯蔵容器内に返材チップが保管されていても低帯電状態を維持することができる。
【0151】
そのほかに好ましい除電方法として、溶媒蒸気での加湿、イオン風の送風、帯電防止スプレーの吹き付け、壁面への除電シート、除電ブラシの設置あるいはアースの設置などが挙げられる。
【0152】
粉砕したチップ75をブロワーのような空気輸送手段(空送手段)71で配管を移送(返材供給工程)して一旦貯蔵容器(計量器の場合もある)72に蓄え、続いて決められた投入量を計量器73で計量し、74の投入機で返材投入系統7を通して工程(A)の溶解タンク1に投入する。
【0153】
本発明においては、空気輸送手段から貯蔵容器、計量器、投入機に配管内を移送する際にも除電することが好ましい。
【0154】
本発明においては、投入機74の手前に静電電位測定器を設置しチップの電位を測定する。チップの電位が高い場合、除電装置(加湿装置)の出力を上げ、工程内を加湿することでチップの電位を低下させる。
【0155】
チップの電位は−5kV〜+5kV(絶対値として5kV以内)が好ましく、−1kV〜+1kV(絶対値として1kV以内)がより好ましい。
【0156】
加湿装置は破砕機70や貯蔵容器72や計量機73および投入機74に設置されているだけでも構わないが、破砕から投入までの全ての工程(返材供給工程)を加湿できるよう配管内を50mおきに設置されることが好ましく、10mおきに設置されることがより好ましい。
【0157】
工程(A)において、加熱撹拌溶解してセルロースエステル溶液9を調製し、溶解終了後、送液ポンプ11(例えばプランジャーポンプ)で送液し、濾過器12(例えば、フィルタープレス)で不純物を濾過し、導管10を通して下から静置貯蔵タンク13にセルロースエステル溶液9を静かに貯めて脱泡する。
【0158】
本発明において、返材をチップとして溶解タンクに投入する方法の他に、チップを別に溶解して返材溶液として投入する方法がある。
【0159】
図2は、チップ溶解タンクを有するドープ調製工程である。これは返材チップを返材溶液としてドープを調製する方式である。
【0160】
図2の調製工程のドープ調製方法は次のように行われる。返材溶液97は、工程(E)で粉砕した返材チップ75を、チップ投入系統93から、また有機溶媒投入系統92から有機溶媒を耐圧型のチップ溶解タンク90に投入し、攪拌機91で撹拌溶解し、送液ポンプ94で濾過器95(例えば、フィルタープレス型)を通して調製し、返材溶液97を返材溶液貯蔵タンク96に貯える。
【0161】
この返材溶液97を送液ポンプ98で濾過器99(例えばステンレスワイヤーリーフディスク型濾過器)を通して溶解タンク1に返材投入系統7を通して導入する。
【0162】
このような方法は、図1のチップをそのまま投入する方法より、セルロースエステル溶液の調製が容易である。微粒子の添加量の決定方法および微粒子分散液の調製方法は、図1と同様に行うことができる。但し、図2の方が濾過回数が多いだけセルロースエステル溶液中の微粒子の量は少なくなり易い。
【0163】
図3は本発明に好ましく使用される構成として、図2の方法を自動的に微粒子の添加量を検量し、コントロールできるようにしたものである。
【0164】
添加剤含有量の検量手段とフィードバック手段を有するドープ調製工程図である。ウェブの破砕工程(E)、返材チップ75の計量の工程(F)および返材溶液調製工程(J)、セルロースエステル溶液9の調製と送液の工程(A)と工程(B)および微粒子分散液20の調製送液の工程(C)と工程(D)は図2と同じであり、工程(B)側の工程(G)の手前に微粒子や紫外線吸収剤等の添加剤含有量の検量手段(a)80と工程(C)にフィードバックするフィードバック手段(b)81が図2に付加されたものである。
【0165】
図4の調製工程のドープ調製方法は次のように行われる。工程(E)で粉砕した返材チップ75を工程(F)で計量し、工程(K)で返材チップ75と有機溶媒を、チップ投入系統93と有機溶媒投入系統92から耐圧型のチップ溶解タンク90に投入し、攪拌機91で撹拌溶解し、返材溶液97とし、送液ポンプ94で濾過器95(例えば、フィルタープレス型)を通し、返材溶液貯蔵タンク96に貯える。
【0166】
この返材溶液97を送液ポンプ98で濾過器99(例えばステンレスワイヤーリーフディスク型濾過器)を通して工程(L)の合流管で、工程(B)および工程(D)からのセルロースエステル溶液9および微粒子分散液20と合流させ、工程(H)の混合機42および45で混合され、導管41を経てダイ50に送られる。
【0167】
このような方法は、図1のチップをそのまま投入する方法より、セルロースエステル溶液の調製が容易であり、更に、図2よりもセルロースエステル溶液を常にコンスタントに保てることから、簡易な方法である。セルロースエステル溶液(場合によって)および微粒子の添加量の決定方法および微粒子分散液の調製方法は、図1と同様に行うことができる。
【0168】
図5は、本発明の他の実施態様であり、添加剤含有量の検量手段とフィードバック手段を有するドープ調製工程図である。
【0169】
合流管43(工程(L))は3方向から液が合流してくるもので、工程(B)からのセルロースエステル溶液9、工程(C)の微粒子分散液20および返材溶液97が合流するところは図4と同じである。
【0170】
本発明の図3と違うところは、返材溶液97が、工程(K)から直接工程(L)に合流し、直ぐに混合機42と45で混合し、ドープを形成するところである。また、図4と異なる所は、工程(K)側の工程(L)の手前に、添加剤含有量の検量手段(a)85と工程(C)にフィードバックするフィードバック手段(b)86があり、返材溶液中(濾過済みの)にある微粒子や紫外線吸収剤等添加剤の含有量をチェックすることができる所である。この方法は、返材溶液を微粒子分散液の調製および移送する手段の近くで合流混合されるので、微粒子の量的な情報がよりはっきりと伝えられるところがよく、品質的にも時間的にも対応が直ぐに取れより正確なドープを調製することができる。
【0171】
アクリル粒子の含有量の少ない方が、低粘度で取り扱い易く、アクリル粒子の含有量の多い方が、添加量が少なく、主ドープへの添加が容易になるため、上記の範囲が好ましい。
【0172】
返材とは、アクリル樹脂含有フィルムを細かく粉砕した物で、アクリル樹脂含有フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトしたアクリル樹脂含有フィルム原反が使用される。
【0173】
また、予めアクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、場合によってアクリル粒子を混練してペレット化したものも、好ましく用いることができる。
【0174】
2)製膜工程(流延工程)
ドープを送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属ベルト31、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
【0175】
ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0176】
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
【0177】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法および/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が乾燥効率が良く好ましい。又、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0178】
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
【0179】
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
【0180】
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃であり、更に好ましくは11〜30℃である。
【0181】
尚、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
【0182】
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
【0183】
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
尚、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0184】
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、更には、剥離できる最低張力〜166.6N/m、次いで、最低張力〜137.2N/mで剥離することが好ましいが、特に好ましくは最低張力〜100N/mで剥離することである。
【0185】
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0186】
本発明においては、金属支持体上の剥離位置におけるフィルムを除電することにより、フィルムの電位を−10〜10kVとするのが好ましく、−5〜5kVがより好ましく、−2〜2kVとするのが最も好ましい。
【0187】
5)乾燥および延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して移送する乾燥装置35、および/またはクリップでウェブの両端をクリップして移送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブを乾燥する。
【0188】
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥は概ね40〜250℃で行われる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
【0189】
テンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
【0190】
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0191】
尚、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。
【0192】
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
【0193】
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。
【0194】
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になる迄テンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、更に好ましくは5質量%以下である。
【0195】
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜150℃が好ましく、50〜120℃が更に好ましく、70〜100℃が最も好ましい。
【0196】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0197】
6)巻き取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってからアクリル樹脂含有フィルムとして巻き取り機37により巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0198】
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0199】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
【0200】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの膜厚に特に制限はないが、後述する偏光板保護フィルムに使用する場合は20〜200μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、30〜80μmであることが特に好ましい。
【0201】
<偏光板>
本発明に用いられる偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明のアクリル樹脂含有フィルムの裏面側に粘着層を設け、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、貼り合わせることが好ましい。
【0202】
もう一方の面には該フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KV8UY−HA、KV8UX−RHA、以上コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
【0203】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0204】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0205】
上記粘着層に用いられる粘着剤としては、粘着層の少なくとも一部分において25℃での貯蔵弾性率が1.0×10Pa〜1.0×10Paの範囲である粘着剤が用いられていることが好ましく、粘着剤を塗布し、貼り合わせた後に種々の化学反応により高分子量体または架橋構造を形成する硬化型粘着剤が好適に用いられる。
【0206】
具体例としては、例えば、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤等の硬化型粘着剤、湿気硬化ウレタン粘着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレート等の嫌気性粘着剤、シアノアクリレート系の瞬間粘着剤、アクリレートとペルオキシド系の2液型瞬間粘着剤等が挙げられる。
【0207】
上記粘着剤としては1液型であっても良いし、使用前に2液以上を混合して使用する型であっても良い。
【0208】
また上記粘着剤は有機溶剤を媒体とする溶剤系であってもよいし、水を主成分とする媒体であるエマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型などの水系であってもよいし、無溶剤型であってもよい。上記粘着剤液の濃度は、粘着後の膜厚、塗布方法、塗布条件等により適宜決定されれば良く、通常は0.1〜50質量%である。
【0209】
<液晶表示装置>
本発明のアクリル樹脂含有フィルムを貼合した偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。本発明に係る偏光板は、前記粘着層等を介して液晶セルに貼合する。
【0210】
本発明に係る偏光板は反射型、透過型、半透過型LCDまたはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。特に画面が30型以上、特に30型〜54型の大画面の表示装置では、画面周辺部での白抜け等もなく、その効果が長期間維持される。
【0211】
また、色ムラ、ギラツキや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0212】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0213】
アクリル樹脂として以下の市販のものを用いた。
【0214】
ダイヤナールBR80(三菱レイヨン(株)製) Mw95000
ダイヤナールBR83(三菱レイヨン(株)製) Mw40000
ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製) Mw280000
ダイヤナールBR88(三菱レイヨン(株)製) Mw480000
80N(旭化成ケミカルズ(株)製) Mw100000
上記市販のアクリル樹脂における分子中のMMA単位の割合は、いずれも90質量%以上99質量%以下であった。
【0215】
実施例1
<返材アクリル樹脂チップの作製>
試験的にアクリル樹脂フィルムを作製し、それを返材として加工し除電することによって本発明の効果を確認した。
【0216】
《返材用アクリル樹脂ドープの調製》
ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製) 70質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アシル基総置換度2.75、アセチル基置換度0.19、プロピオニル基置換度2.56、Mw=100000) 30質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
上記組成物を、加熱しながら十分に溶解し、ドープ溶液を作製した。
【0217】
上記作製したドープ液を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
【0218】
剥離したアクリル樹脂のウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.5m幅にスリットし、その後、テンターで幅方向に1.1倍に延伸しながら、135℃の乾燥温度で乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は10%であった。
【0219】
テンターで延伸後130℃で5分間緩和を行った後、120℃、130℃の乾燥ゾーンを多数のロールで移送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径6インチコアに巻き取り、アクリル樹脂フィルム1を得た。
【0220】
ステンレスバンド支持体の回転速度とテンターの運転速度から算出されるMD方向の延伸倍率は1.1倍であった。アクリル樹脂フィルム1の残留溶剤量は0.1%であり、膜厚は60μm、巻長は4000mであった。
【0221】
《返材チップの作製》
上記製膜したアクリル樹脂フィルム1を、破砕機を用いて10〜30mmの大きさの不定形の返材アクリル樹脂チップに破砕した。破砕した返材チップは樹脂を溶解する釜に空送した。フィルムを破砕および空送する工程において、返材チップの帯電量が−1kVに減少するよう工程内の湿度を調整して除電を行った。返材チップの帯電量は静電電位測定器(KSD−0103S型、春日電機(株)製)を用いて測定した。
【0222】
《返材含有アクリル樹脂ドープの調製》
樹脂量に対して、返材チップ量が30質量%となるように混合した。
【0223】
ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製) 49質量部
セルロースエステル(アシル基総置換度2.75、アセチル基置換度0.19、プロピオニル基置換度2.56、Mw=100000) 21質量部
返材チップ 30質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
上記組成物を、加熱しながら十分に溶解し、ドープ溶液を作製した。
【0224】
《返材含有アクリル樹脂フィルムの製膜》
上記作製したドープ液を、アクリル樹脂フィルム1と同様にして返材含有のアクリル樹脂フィルムを作製した。その他樹脂を表1の各組成に変え、また除電レベルを変えた以外は、実施例1と同様の方法で本発明のアクリル樹脂フィルムを作製した。
【0225】
比較として、返材アクリル樹脂チップの作製・移送時に除電を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを作製した。
【0226】
得られた光学フィルムについて、ヘイズ(コントラストに影響の大きい透明性)の評価を実施した。
【0227】
上記作製した各々のフィルム試料について、23℃55%RH雰囲気下フィルム試料1枚をJIS K−7136に従って、ヘーズメーター(NDH2000型、日本電色工業(株)製)を使用して測定した。
【0228】
結果を表1に示す。
【0229】
【表1】

【0230】
表1から本発明の除電の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0231】
1 溶解タンク
3 セルロースエステル投入系統
7 返材投入系統
9 セルロースエステル溶液
13 静置貯蔵タンク
20 微粒子分散液
21 添加剤調製タンク
24 微粒子原液投入系統
40、43 合流管
42、45 混合機
50 ダイ
51 金属支持体
52 剥離ロール
60 ウェブ
70 破砕機(機内に除電装置設置)
71 空気輸送手段(空気輸送手段と計量器の間に除電装置設置)
72、73 計量器
74 投入機(74への投入直前に静電電位測定装置設置)
75 返材チップ(チップ)
80、85 検量手段(a)
81、86 フィードバック手段(b)
90 チップ溶解タンク
97 返材溶液
100 検量用バイパス管
102 検量セル
103 光源部
104 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量Mwが80000以上1000000以下であるアクリル樹脂とセルロースエステル樹脂を95:5から30:70の質量比で含有するドープを調製する調製工程と、前記ドープを溶液流延して光学フィルムを製膜する製膜工程と、返材を破砕してチップとし該チップを移送して前記調製工程に供給する返材供給工程とを有し、前記返材供給工程において、前記チップを除電することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記返材は、前記製膜工程において乾燥後のフィルムから裁ち落とされたものであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記返材供給工程において、前記チップの帯電量が−5kV〜+5kVとなるように前記チップを除電することを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記返材供給工程は前記チップを、移送のための配管内を空気輸送するものであり、前記チップの配管内での帯電量が−5kV〜+5kVとなるように前記配管内を除電することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記配管内を除電することが、湿度を調整することであることを特徴とする請求項4に記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242017(P2010−242017A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94704(P2009−94704)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】