説明

光学フィルム

【課題】優れた光学的特性とりわけ光学的等方性と、優れた機械的特性とを兼ね備えた光学フィルムを提供する。
【解決手段】可塑剤および/またはゴム成分を実質的に含有せず、熱可塑性樹脂を含んでなる光学フィルムであって、該フィルム厚さが80μmの時の厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が30nm以下、JIS P8115に従いMIT試験機によって測定した耐折回数が300回以上である、溶融押出し法により作製した光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元の光学等方性に優れている、特に厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が小さくて、しかも機械特性にもすぐれた光学フィルムに関するものである。本発明の光学フィルムは、液晶駆動方式が平面内で動くIPS(In-Plane Switching)と言われる液晶駆動方式に用いる光学フィルムとしては特に好ましいものであり、さらに偏光子などの保護フィルムとしても優れた光学用部材として光学用に相応しいフィルムを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の偏光子のカバーフィルムや光学用の位相差には、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられてきたが、最近ではポリカーボネート(PC)フィルムや、環状オレフィンポリマーと言われるアートン(商品名:JSR株式会社製)フィルム、ゼオノア(登録商標:日本ゼオン株式会社製)フィルム、さらにはガラス転移温度を140℃程度以上に上昇させた特殊アクリルフィルムなども使用されるようになってきている。
【0003】
光学フィルムとしては代表的なポリカーボネートPCフィルムは、MIT試験機によって測定した耐折回数が1000回以上と比較的機械強度は高い特性を示しているが、その光学的等方性は必ずしも優れたものではない。環状オレフィンポリマー、アクリル重合体フィルムは、光学的には優れた特性を示すが、機械的特性は非常に劣り、耐折回数は250回以下と小さく、これらのフィルムに衝撃的な力を加えたり、フィルムを何度も繰り返して折り曲げたりすると、比較的簡単にフィルムに亀裂・クラックが入ったり、切断したりするために取扱性に劣るばかりか、クラックが入ると光学的にも劣ったフィルムとなる等の問題点があった。
【0004】
通常フィルムの機械的性質を改良するには、(a)高分子量化する方法(例えば、特許文献1参照)、(b)ゴム成分をブレンドして海島構造にする方法(例えば、特許文献2、特許文献3参照)、(c)可塑剤をブレンドする方法(例えば、特許文献4参照)、(d)ガラス転移温度Tgを120℃未満にする方法、(e)強靱なポリマー層をラミネートする方法、(f)一軸あるいは逐次二軸延伸する方法などがあるが、これらはいずれも、ある程度の機械特性は改良できるものも、肝心な光学特性が大幅に悪化してしまい光学用フィルムとしては使用できない等、問題を完全には解決出来ない方法である。すなわち、(a)では押出製膜時に大きな溶融配向が生じ、リターデーションの絶対値が大きくなるばかりか、押出性が極端に悪化し、溶融時にゲル化・熱分解が発生して内部欠点となり光学特性を大幅に悪化させるおそれがあり、通常はコストや作業環境の点で問題のある溶液流延法でフィルムを作製せざるを得なかった。(b)では透明性が低下したり、リターデーションの絶対値が変動したり大きくなったりして光学特性が悪化する場合がある。(c)では耐熱性の低下や、ブリードアウトによるヘイズ悪化の懸念があり好ましくない。(c)(d)では機械特性の改良効果は小さく、耐折回数が目的との関係で十分な大きさにはならず、有効な方法ではない。(d)(e)では接着界面、さらにはラミネートするフィルムの屈折率異方性が大きく、リターデーションの絶対値が大きくなり、さらに光が回折したり散乱したり反射したりして光学特性上問題点が多い。 (e)(f)では一軸延伸では異方性が大きくリターデーションの絶対値が大きくなり好ましくなく、逐次二軸延伸でも厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が大きくなり本発明の光学用途には必ずしも適当ではない。この様に従来の方法では光学特性と機械特性を満足した光学フィルムを得ることはできなかった。
【0005】
また、最近開発されたIPS(In-Plane Switching)方式のような液晶駆動方式の場合は液晶分子が厚さ方向に移動せず、平面内のみに移動するので、TN(Twisted Nematic)方式やVA(Vertical Alignment)方式とは異なり視野角の依存性が出にくい。ところが、これに用いられる偏光板自体に視野角依存性があり、これが問題視される。これはポリビニルアルコール(PVA)偏光子の保護に広く用いられているトリアセチルセルロースTACフィルムに、厚さ方向に大きなリターデーションRthの絶対値を有するためである。したがって、この様な視野角依存性のない優れた光学的に等方性のフィルム、すなわち厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が小さなフィルムの開発が望まれており、その様なフィルムがIPS液晶テレビの特徴である視野角依存性のない画面が得るために求められていた。
【0006】
Rthの絶対値小さなゼロ位相差フィルムに近いフィルムとしては、環状オレフィンやアクリルフィルムがある。フィルム厚さを80μm一定としたとき、Rthの絶対値は20nm程度と小さく、光学特性には優れるが、上述したように機械特性に劣り、非常に脆くて、取扱性のみならず、クラックによる光学欠点も生じるために、現実には液晶表示部材フィルムとしては採用することが困難であった。
【特許文献1】特開平11−142645号公報
【特許文献2】特開2005−132972号公報
【特許文献3】特開2006−328369号公報
【特許文献4】特開2000−17087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、優れた光学的特性とりわけ光学的等方性と、優れた機械的特性とを兼ね備えた光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討の結果、特定の厚さ方向のリターデーションRthの絶対値と、特定の耐折回数を有するフィルムを実現し、これが上記課題を解決することを見出して、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)可塑剤および/またはゴム成分を実質的に含有せず、熱可塑性樹脂を含んでなる光学フィルムであって、該フィルム厚さが80μm時の厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が30nm以下、好ましくは15nm以下の光学フィルムで、該フィルムのJIS P8115に従いMIT試験機によって測定した耐折回数が300回以上, 好ましくは600回以上、さらに好ましくは1000回以上である溶融押出し法により作製した光学フィルムに関する。この様なフィルムを用いれば、取扱性に優れ、しかも光学特性にも優れたフィルムとなり得る。ここで、フィルムの厚さ方向のリターデーションRthとは、当該フィルム面内にあって屈折率が最大となる方向をX軸、面内にあってX軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向のナトリウムD線(波長589nm)に対する屈折率をnx 、ny、nz 、フィルムの膜厚をdとしたとき、Rth={(nx+ny)/2−nz}・dで規定されるリターデーションをいう。
【0010】
以下、(2)から(5)は、それぞれ、本発明の好ましい実施形態の1つである。
(2)該フィルムのガラス転移温度が125℃である、上記(1)に記載の光学フィルム。
【0011】
該光学フィルムのガラス転移温度が125℃以上、好ましくは145℃以上と高い方が温度、湿度の寸法安定性に優れた光学フィルムとなり得る。なお、ここで該フィルムのガラス転移温度は、実施例/比較例において詳述する方法で測定する。
(3)液晶表示素子用の部材に使用する、上記(1)または(2)に記載の光学フィルム。
液晶表示用の部材、例えば、IPS液晶駆動方式などでの偏光板に用いるPVA偏光子の保護フィルムとして、本発明の厚さ方向の位相差Rthが小さなフィルムを用いると、色、コントラスト、明るさなどの視野角依存性のないすぐれた液晶表示素子用の部材を得ることが可能なので、好ましい。
(4)上記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー、メチルペンテンポリマー、アクリル系ポリマー、ポリカーボネート、およびトリアセチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である、上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の光学フィルム。
(5)同時2軸延伸処理を行った、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルムによれば、
1. 耐折れ曲げ性に優れた、機械特性を有した光学フィルムを提供することができる。
2. 厚さ方向のリターデーション値Rthの絶対値、および平面方向のリターデーション値Reが非常に小さく、波長依存性の小さな光学的に3次元的に等方性の優れたフィルムを提供することができる。
3. この様な光学フィルムは液晶表示用の部材として、画面での色ずれ・色むらなどのない優れた画像特性を発揮する
上記のような優れた特性を有する、本発明のフィルムは、液晶用の部材、例えば偏光フィルムなどの保護フィルムや位相差フィルム、さらにはコンパクトデイスク、ビデオデイスク、光カ−ドなどとして好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光学フィルムの場合、フィルム厚さが80μmの時に、厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が、30nm以下、好ましくは15nm以下、さらに好ましくは5nm以下、と出来る限り小さいことが好ましく、すなわち0に近い方がよい。しかも、表示素子において重要な可視光に相当する光学的な波長である400nmから800nmの全波長範囲でRthの絶対値が30nm以下と小さくて、しかも波長依存性が小さく、Rthがほぼ一定であることが好ましい。このRthの絶対値が30nmを越すと、視野角によって液晶の表示画面を見る視野角によっては色ずれ、解像度の低下、コントラストの低下、明るさの低下などが起こり、見る方向によって画面上の画像の見え方が変わるなどの不具合の発生が懸念される。もちろんこれらはRthの絶対値が30nmから大きくずれるにつれてひどくなるのである。さらにフィルム平面内のリターデーション値Reは5nm以下、好ましくは3nm以下であることが望まれる。もちろん400nmから800nmの全波長域でRe≦5nmであることが好ましい。
【0014】
本発明の光学フィルムの、フィルム厚さが80μmのときのRthの絶対値は小さいほど好ましく、特にRthの絶対値の下限値は存在しない。すなわち、Rthの絶対値は0nm以上である。
さらに本発明のフィルムのMIT試験機によって測定した耐折回数はフィルム厚さが80μmの時に、300以上である。耐折回数は、好ましくは600以上、さらに好ましくは1000以上と高いほど優れた機械特性を示すのである。MIT値が300を下回る場合は、フィルムの取扱性に劣り、例えばフィルムの搬送時や、スリット・押切りの様な切断工程時や、重ね合わせ時、表面処理時、折り曲げ加工時などにはフィルムが切断したり、破断したり、クラックが入ったりして、光学特性上に問題となるばかりか、取扱性に劣る懸念があり、光学フィルムとしての使用に適さない。
【0015】
本発明の光学フィルムの、フィルム厚さが80μmのときの耐折回数は大きいほど好ましく、特に上限値は存在しない。参考までに市販されている2軸延伸ポリエチレンテレフタレートPETフィルムの耐折回数は2万回程度となることが多い。
さらに本発明のフィルムのガラス転移温度Tgは125℃以上、好ましくは145℃以上であることが好ましい。Tgが125℃未満だと、高温下での使用環境、例えば日本の夏場や赤道近傍の国や地域で使用される自動車内でのテレビTVやカーナビゲーションCNなどの液晶表示部材として使用されている場合には、車内温度の上昇により光学フィルムの特性が変わってしまい、その結果、画像の色目やコントラストが変わったり、視野角依存性が出る等の不具合が生ずる懸念がある。本発明のフィルムのガラス転移温度は、製品の生産性と言う観点から、200℃以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のフィルムの光線透過率は88%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上と、なるべく多くの光線を透過させた方が透過ロスが少なく、明るい液晶画面となるので、なるべく光線透過率の高いフィルムであることが好ましい。
【0017】
さらに本発明フィルムの厚みムラは、長手方向で5%以下、好ましくは、3%以下と小さい方がリターデーションムラにならないので好ましい。幅方向にも厚みムラは小さいことが求められ、幅方向にも5%以下であることが好ましい。本発明のフィルムの厚みムラは、以下の方法で測定することができる。電子マイクロメーターを用い、測定長は長手方向MDには20m長、幅方向には最大の幅を測定する。測定結果の最大厚さd1、最小厚さd2、平均厚さdaとすると、フィルムの厚みムラ(%)=〔(d1-d2)/da〕×100で求めることができる。
【0018】
本発明のフィルムの厚さは、通常は200〜20μm、好ましくは100〜40μmの範囲のフィルムが多用されているが、特に厚さの限定はなく、リターデーション、機械的強度等の所望の特性との関係で必要なフィルム厚みが決まるものである。
【0019】
この様な優れた機械特性と光学特性を有したフィルムは、光学用フィルム、特に液晶表示用部材用として任意の部材に用いることが出来る。すなわち、ポリビニルアルコール系偏光子の偏光板保護フィルムとして、またゼロ位相差フィルムなど高機能な光学フィルムとして用いることが出来る。
【0020】
本発明の光学フィルムの吸水率は0.2%以下、好ましくは0.1%以下であることが寸法安定性の点で好ましい。吸水率は、ASTM D570に従い、温度23℃の水中に24時間浸漬した際の重量増加を測定することで、評価することができる。
【0021】
本発明のフィルム中心線平均表面粗さRaは、100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下であることが好ましい。また、フィルムのヘイズ値は、80μm厚さで1.5%以下、好ましくは1.0%以下であるのが良い。
【0022】
さらに必要なら本発明のフィルムにコーティングや放電処理などの表面処理をして、JIS C2151(2006)の濡れ張力測定法により測定される表面ぬれ張力を45mN/m以上、好ましくは50mN/m以上と大きくすることも可能である。さらに、コーティングなどで表面比抵抗は1012Ω/□以下好ましくは1010Ω/□以下にする事も可能である。
【0023】
本発明フィルムに用いるポリマーとしては、可塑剤および/またはゴム成分を実質的に含有しない透明性に優れた熱可塑性樹脂である。実質的にとは、全く含有しないか、たとえ含有してもその含有量が合計で8重量%未満、好ましくは3重量%未満しか含有しないことを言う。ここで、可塑剤とは、樹脂に添加すると樹脂の運動性を向上させる添加剤で、ガラス転移温度Tgとか、粘弾性特性に変化をもたらす添加剤である。また、ゴム成分とは、ガラス転移温度Tgがマトリックスポリマーに比べて50℃以上も低いポリマーで、マトリックスポリマーとは相容性・密着性に優れ、マトリックスポリマー中で島状態に微分散することにより、マトリックスポリマーの機械的性質を改良出来る添加剤である。
【0024】
熱可塑性とは加熱することにより流動性を示すポリマーのことで、具体的には、環状オレフィンCOP,COC、メチルペンテンポリマーPMP、アクリル系ポリマー、ポリカーボネートPC、トリアセチルセルロースTACフィルムなどが本発明フィルムに用いる原料としては好ましいが、これらには限定されない。
【0025】
環状オレフィンポリマーとしては、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物2代表されるCOP、ジシクロペンタジエンとエチレンとの共重合体およびその水素化物2代表されるCOC、およびノルボルネン系重合体などから選ばれた1種以上で、ガラス転移点が100℃以上、好ましくは130℃以上ものが好ましい。ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、特公昭58−43412号公報、特開昭63−218727号公報などでよく知られている。またジシクロペンタジエンとエチレンとの共重合体は、特開昭63−314220号公報などでも知られており、ノルボルネン系重合体は米国特許第2883372号明細書、特公昭46−14910号公報、特開平1−149738号公報などに示されているようにジシクロペンタジエン類とジエノフイルとの混合物から4環体以上の多環ノルボルネン系化合物を得たのち重合体にしたものなどが知られている。もちろんジシクロペンタジエン類は、そのメチルやエチル置換体などのアルキル置換体や、エンド異性体、キキソ異性体またはこれらの混合物なども含んでも良い。該環状ポリオレフインの分子量は数平均分子量で30000以上、70000未満、好ましくは35000以上、60000未満であるのが、フィルムの機械強度、特に衝撃性、押出成形などの点で好ましい。
【0026】
メチルペンテンポリマーPMPとは、4メチルペンテン-1ホモポリマーや、それに炭素数8,10,12、20などの任意の長さのコモノマーを2〜20モル%程度共重合させた共重合メチルペンテンポリマーなども含み、これらの主たるものは三井化学株式会社からTPX(登録商標)として市販されている。
【0027】
アクリル系ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレートPMMA、ポリメタクリレートなどで代表されるポリマーが代表的で、これらの共重合体などを含む光線透過率の高い光学的に透明なポリマーを使用することができる。また、特開2006−265543号公報に示されている様に、カルボキシル基含有アクリル共重合体に環化反応を行うことにより得られるグルタル酸無水物単位含有共重合体は、高いガラス転移温度Tgを有するのみならず、高度な耐熱性、無色透明性、熱安定性に優れた成形加工特性を有し、さらに異物も減少し、光学材料に要求されている高度な無色透明性、低異物アクリルポリマーとなるので本発明フィルムにも有効に用いることが出来る。もちろん、これにアクリルゴムを分散させて強靱性を付与したポリマー、例えば特開2006−283013号公報に示されているように、グルタル酸無水物単位を有するアクリル樹脂に、該アクリル樹脂との屈折率差が0.05以下で、該粒子径が1μm以下のアクリル弾性体粒子を配合したポリマーなども有効である。
【0028】
ポリカーボネートPCとは、炭酸とグリコールあるいは2価フェノールとのポリエステルで、-O-CO-O−のカーボネート結合を有する高分子で、ビスフェノールと炭酸エステルの高分子が最も実用的に用いられており、帝人株式会社(商品名パンライト(登録商標)、ピュアエース(登録商標))、株式会社カネカ(商品名エルメック(登録商標))、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社(商品名ユーピロン(登録商標))などから市販されている。
【0029】
トリアセチルセルロースTACとは、セルロールの3カ所の水酸基OHをアセチル化したセルロール化合物である。特に特開2005−272685号公報や特開2007−44880号公報に示されている様に、厚さ方向の屈折率をコントロールするために安息香酸アニリド化合物などを含有させたセルロース体組成も好んで用いることがある。
【0030】
本発明フィルム中には公知の任意の添加剤、例えば着色防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、結晶核剤、接着向上剤、すべり剤、ブロツキング防止剤、耐侯剤、消泡剤、透明化剤、粘度調整剤などを含有させてもよい。帯電防止としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ビス(オクチルポリオキシエチレン)ホスフエ−トソ−ダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸ホスホニウム、スチレンスルホン酸、ポリエチレングリコールなどの公知の帯電防止剤などがあるが、透湿性のある帯電防止剤を添加剤として用いると、乾燥時、および経時での耐電防止安定性に優れるので好ましい。ここで透湿性のある帯電防止剤とは、カリウムK、ルビジウムRb、セシウムCe、リチウムLi、ナトリウムNa、などのアルカリ金属から選ばれたイオン基を有するアイオノマーポリマーのことであり、本発明の場合には特にカリウムKイオンを含有したポリマーの含有が、フィルムの透湿性、相容性、透明性の点で好ましい。透湿性アイオノマーの代表例としては、ポリスチレンスルフォン酸塩PSSアイオノマー、エチレン系スルホン酸塩アイオノマー、エチレン・不飽和カルボン酸アイオノマーなどがあり、代表的なポリマーとしては三井デュポンポリケミカル株式会社から市販されているエンティラ(商品名)が特に優れている。もちろんこれと同時に相溶化剤を併用しても良い。これらの帯電防止剤の添加量としては、透明性およびブリードアウト性などの点から重量換算で20%以下、出来れば10%、さらに好ましくは5%以下が良い。
【0031】
次に本発明フィルムの製造方法の好ましい一例について述べるが、これに限定されるものではない。
【0032】
常法により公知の光学用の原料を乾燥・加熱した原料ペレットを窒素雰囲気下でシート押出機に供給して押出機のシリンダー内で溶融させ、これを光学用に相応しい、すなわち10μ以上の異物を通さない多数の微細リーフディスク・フィルターを通過させたのちに口金より溶融シ−トを吐出させ冷却ドラムに密着固化させてキヤストシ−トを得る。積層シートとして他のポリマーとの積層することも可能である。
【0033】
なお、キヤスト密着方式は、キャストロールに粘着させながら密着力を得る粘着キャスト方式や、静電荷を印可させながら静電気力で密着させる方式などがあるが、本発明の場合、静電密着方式が、高速製膜、無欠点製膜、取扱性などの点で特に好ましい。この様な静電密着方式が適用できるようにするには、出来れば溶融時のポリマーの体積抵抗値は108〜10Ω・cm程度の範囲であることが好ましい。この様な体積抵抗値を有するポリマーは、抵抗値の小さな、相容性のある特定のポリマー、例えば帯電防止ポリマーとしてエンティラ(商品名、三井デュポンポリケミカル株式会社製)などを含有させることによっても達成出来るものである。もちろん、ニツプロ−ル(ソフトニップ&ハードニップ)方式、ベルト方式、カレンダ−方式、エア−ナイフ方式、エア−チャンバ−方式なども用いることが出来る。また、ドラム材質はクロムメツキ、ステンレスまたはセラミックからなる最大表面粗さRy0.1μm以下の表面ドラムをもちいるのがよい。またドラム表面温度は、ポリマーの種類にもよるが、そのポリマーのガラス転移温度近傍がよい。COP、COCの場合、105〜165℃のものがよく用いられる。また、ドラフト比は10以下、好ましくは5以下と小さい方が光学的に等方なフイルムとなるので好ましい。
【0034】
本発明光学フィルムを得るには、この様にして押出成形されたフィルムを特定の延伸処理、すなわち同時二軸延伸をすることが非常に好ましい。また、必要によっては延伸後、リラックス処理をしたりして本発明の光学特性と機械特性とを満足した光学フィルムを得ることが出来る。
本発明の場合、特定の方式の延伸をすることが非常に好ましく、具体的には押出で得られたフィルムを同時二軸延伸をすることが好ましい。同時延伸とは、延伸工程の少なくとも一部において、縦方向MDと幅方向TDとに同時に延伸が行なわれている延伸方式のことであり、本発明の場合、延伸の開始時にはMDとTDとが同時に延伸が開始されることが特に好ましく、延伸の終了時は必ずしもMD,TDを同時に終了させる必要はない。
【0035】
通常の二軸延伸機で用いられているような逐次延伸方式のように、MD延伸とTD延伸とが時間的に個別に別々に行われるような延伸方式は、本発明フィルムのような光学特性と機械特性とを改良したフィルムは得る観点からは好ましくない。すなわち、逐次二軸延伸方式だと、それぞれの延伸方向に個別に延伸されるために、脆いフィルムを一軸延伸しても、機械特性に異方性が出るために、さらに光学特性がアンバランスになるために、再度、最初の延伸方向と直角方向に再延伸する必要が生ずる場合が多い。この様に一旦配向した脆いフィルムを配向方向と直角方向に再延伸すると破れたり、延伸ムラが発生したり、厚み均質性の悪いフィルムしか得られない、といった問題が懸念される。また、たとえ外観の良いフィルムが得られても、膜面の分子配向が優先して厚さ方向の屈折率が小さくなるために、厚さ方向のリターデーションの絶対値が比較的大きな値になってしまい、本発明の光学フィルム用途に必ずしも適当でないことが懸念される。すなわち、本発明フィルムを得るには同時二軸延伸方式でフィルムを延伸することが非常に好ましいのである。 用いるポリマーのガラス転移温度Tg近傍、あるいはそれ以上の温度で延伸することで、有効な機械的特性の改良が期待出来る。
【0036】
この様に透明性に優れたフィルムを同時二軸延伸することにより、機械的性質であるフィルムの脆さを大幅に改良することが出来る。具体的にはフィルムの脆さを表す数値としては、耐屈曲MIT試験による折れ曲げ回数が、例えば20回の脆いフィルムを同時二軸延伸することにより2000回以上にもなり場合があり、大幅な脆さ改良効果が認められるのである。
【0037】
ところが、この様に機械的性質は改善できても、延伸する事によりどうしても分子配向が生じるので、分子配向であるリターデーションの絶対値が大きくなってしまい、厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が30nmを越えてしまう場合もある。この様なときには、同時二軸延伸直後に長手方向MD、幅方向TDの延伸倍率を戻す、すなわちリラックス処理をして、Rthの絶対値が30nm以下のフィルムとすることができる。リラックスする方向や温度は、最初の延伸する程度によって、また、希望するリターデーションRthの絶対値によって適宜設定すれば良い。
【0038】
このようにして得られたフィルムに、表面処理、例えばコーティング処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などの表面変性をすることにより、各種表面特性を有したフィルムを得ることができる。たとえば、ラミネート処理、帯電防止処理、易接着処理、易滑化処理、離型処理、着色、耐摩耗性、耐反射性、粗面化処理などが挙げられる。さらに他の化合物を含浸させても良い。
(実施例/比較例)
以下、実施例および比較例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても、以下に示す実施例等に限定されるものではない。
(物性の評価方法)
以下の実施例、比較例においては、フィルムの各種物性は、以下の測定方法に従って評価した。
(1)光線透過率(%)
日立製作所製の分光光度計U-3410を用いて測定し、波長300nmから700nmまでの可視光線の全光線透過率を測定し、550nmにおける値を採用した。単位は%で表す。
(2)リターデーションRe、Rth (nm)
フィルムの複屈折△nにフィルムの厚さd(nm)を掛けたものでる。屈折率が最大となる長手方向MDの屈折率から幅方向TDの屈折率を引いた差を面内複屈折△npとし、これにフィルム厚さdを掛けたものを面内リターデーション値Reとする。一方、長手方向MDと幅方向TDの屈折率の算術平均値から、厚さ方向ZDの屈折率を引いた差を厚さ方向複屈折△naとして、これにフィルム厚さdを掛けたものを厚さ方向リターデーションRth値とする。
なお、屈折率の測定はアッベの屈折計を用い、ナトリウムD線(589nm)を光源として偏光板を水平方向になるように接眼レンズに置き、試料フイルム面とレンズとの密着が良くなるように沃化メチレン液でマウントして全反射が均一になるようにして測定した。単位はnmで表す。
(3) 中心線平均表面粗さRa
JIS B0601に従い、小坂研究所製の高精度薄膜段差計ET-10を用いて測定した。測定条件は、触針先端半径0.5μm、針圧5mg、測定長1mm、カットオフ0.08mm。中心線平均粗さRaは、粗さ曲線の中心線から上下にずれた成分の面積を引き算して出た差額の面積を測定長で割り、その値を中心線に加えたものである。
(4) ヘイズ(%)
JIS K6782の方法に従いト−タルヘイズを求めた。
(5) フィルム厚さ(μm)
触診式の接触部が円盤状のフラットなダイアルゲージで測定した。
(6) フィルムの厚みムラ(%)
アンリツ製電子マイクロメーターK306Cを用い、測定長は長手方向MDには20m長、幅方向には最大の幅を測定した。測定結果の最大厚さをd1、最小厚さをd2、平均厚さをdaとして、
フィルムの厚みムラ(%)=〔(d1-d2)/da〕×100 で求めた。
(7) ガラス転移温度Tg(℃)
マックサイエンス社製の走査熱量計DSC3100を用い、サンプル重量5mg、窒素気流下で昇温速度20℃/minで300℃まで昇温後、3分間保持後、サンプルを取り出して液体窒素中に投入して急冷した。該サンプルを再びDSCにセットして昇温速度10℃で昇温して、ベースラインがずれ始める温度をTg、あるいは吸熱ピークの出る場合はそのピーク温度をTgとした。
(8) MIT試験機による耐折回数(回)
MIT試験機を用いた耐屈曲試験であり、何回で破断するかを折り曲げ回数で表現したもの。JIS P8115(2006)により0.98Nの荷重で測定し、5回の算術平均を取った
(9)表面比抵抗
主電極(50mmφ)、主電極と同心円のガ−ド電極(内径70mmφ、外径80mmφ)と対電極(80mmφ)との間にフィルムを挿み、1kVの電圧を印加した時の主電極からガ−ド電極に流れる電流値から抵抗を求め、これに60πを乗じて表面抵抗とした。測定は23℃で湿度は60%で行った。単位はΩ/□で表す。但し、表1および3においては、対数表示を行った。
【0039】

(実施例1〜4、比較例1〜2)
ガラス転移温度Tgが145℃の環状オレフィンポリマー(商品名:APEL6015T、三井化学株式会社製)100重量部に帯電防止剤として分子量4000のポリエチレングリコールPEGを3重量%添加した原料を用い、105℃で4時間乾燥した後、これを95℃に加熱された加熱押出機ホッパーに供給し、窒素雰囲気下にある押出機を用いて285℃で溶融させ、5μm以上の異物を濾過後、口金より吐出させ、該溶融体シート上に10mm離れたところから正の直流電圧1.2万V、電流値1mAで静電荷を印可して、60℃の鏡面クロムメッキドラム上で溶融体を密着・冷却して、延伸原反を製膜した。該フィルムを、同時二軸延伸機(ブルックナー社製、LISIM)を用いて、延伸温度150℃で表1に記載の延伸倍率で長手方向MDと幅方向TDに同時二軸延伸したのちに、180℃で表1に記載のリラックス率でリラックス熱処理をして、厚さ80μmのフィルムを得た。該フィルム表面に大気圧プラズマ処理をして、得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例に示す本発明のフィルムは、機械特性に優れているのみならず、光学的にもほぼ理想的な等方性を示し、厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が30nm以下の優れた特性を有したフィルムであり、この様なフィルムは、液晶表示用の部材、特に液晶のIPS駆動方式の偏光子保護フィルムに好適な優れた特性を示すものである。さらに、帯電防止性・表面平滑性・透明性にも優れたフィルムであり、光学用の新しい部材としても相応しいフィルムであることが判る。
(参考例)
参考までに現行の市販されている光学フィルムの特性を一覧して表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示したとおり、市販の光学フィルムでは、厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が小さく光学的に優れていて、しかも耐屈曲特性MIT値で表される機械的性質にも優れている熱可塑性の光学フィルムは存在しない。

(実施例5〜8、比較例3〜4)
メチルペンテンポリマー(商品名:TPX MX022、三井化学株式会社製)を用い、透湿性ポリマーとしては、エチレンアクリル酸系のカリウムアイオノマー(商品名:エンティラSD1000、三井デュポンポリケミカル株式会社製)を用いた。この疎水性ポリマー80重量%に対して、透湿性ポリマーを添加量20重量%加えた組成の均一混合体を撹拌式加熱槽中で、105℃で4時間乾燥した後、これを押出機ホッパーに供給し、押出機内で285℃で溶融させ、異物を濾過後、口金より吐出させ、該溶融体上10mm離れたところから正の直流電圧1.2万V、電流値1mAで静電荷を印可して、20℃の鏡面クロムメッキドラム上に最高速度で巻き取り溶融体を密着・冷却して、延伸用のフイルムを得た。該フィルムを、同時二軸延伸機(ブルックナー社製、商品名LISIM)を用いて、延伸温度170℃で長手方向MDと幅方向TDに表3記載の延伸倍率で同時二軸延伸したのちに、200℃で表2記載のリラックス率でリラックス熱処理をして、厚さ40μのフィルムを得た。該フィルム表面に大気圧プラズマ処理をして、得られたフィルムの物性を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
この様にして得られた本発明光学フィルムは、従来では全く存在しなかった新規なフィルム、すなわち、優れた光学特性と機械特性を有したフィルムであることが判る。さらに、帯電防止性・表面平滑性・透明性にも優れたフィルムであり、光学用の新しい部材として相応しい光学フィルムであることが判る。IPS液晶用の偏光板の保護フィルムとして評価するためにコ−タ−でアクリル系の水系の粘着剤を本発明フィルムに塗工加工を行ない、これをポリビニールアルコールPVA偏光子の両面に貼り合わせ、乾燥させた。実施例5〜8について、得られた本発明光学フィルム/PVA偏光子/本発明光学フィルムからなる3層積層偏光板フィルムは、優れた偏光性能を有するばかりか、カールや皺や斑点などの発生は無く、偏光子の経時での性能も安定していた。比較例3および4のフィルムを用いた場合、3層ラミネート工程の製作時に、該比較例フィルムが破断したり、たとえ破断しなくて偏光板が出来たとしても、得られた偏光板内に微細なクラックが入っており、光学用偏光板としては使用できない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤および/またはゴム成分を実質的に含有せず、熱可塑性樹脂を含んでなる光学フィルムであって、該フィルム厚さが80μm時の厚さ方向のリターデーションRthの絶対値が30nm以下、JIS P8115に従いMIT試験機によって測定した耐折回数が300回以上である、溶融押出し法により作製した光学フィルム。
【請求項2】
該フィルムのガラス転移温度が125℃以上である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
液晶表示素子用の部材に用いる、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
上記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー、メチルペンテンポリマー、アクリル系ポリマー、ポリカーボネート、およびトリアセチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1から3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
同時2軸延伸処理を行った、請求項1から4のいずれか1項に記載の光学フィルム

【公開番号】特開2008−225286(P2008−225286A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66182(P2007−66182)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】