説明

光学式膜厚計及び光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置

【課題】高い精度で光学膜厚及び分光特性の計測が可能な光学式膜厚計及び光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置を提供する。
【解決手段】光学式膜厚計は、投光器11と、反射ミラー17と、受光器19と、分光器20とから構成されており、測定光の入射方向に対して実基板Sの逆側に、測定光の光軸に対してほぼ垂直に反射面を配設された反射ミラー17を備えている。また実基板Sは、測定光の光軸に対して所定の傾き角度を有して配設される。測定光(出射光と反射光)が実基板Sを2回透過することになり、透過率(光量)の変化量を大きくすることができ、膜厚測定の制御精度を向上させることができる。また透過位置の違いによる測定誤差の発生を防止することができ、また、測定基板を所定の経路を通って2回透過していない測定光が受光器19側で検出されることがなくなるため、高い精度で光学膜厚及び分光特性の計測ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学式膜厚計及び光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置に係り、特に、高精度な膜厚測定が可能な光学式膜厚計及び光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学デバイスに対する制御精度の向上のために、光学薄膜の膜厚の精度を高めることが望まれている。光学薄膜の高精度な膜厚制御には、測定が不可欠であり、膜厚制御に用いられる種々の膜厚測定方法及び膜厚計が提案されている。膜厚測定には応答性などの点で優れる光学式膜厚計を使用することが望ましい。なお、ここでいう膜厚は光学薄膜の膜厚を示し、物理的な膜厚と屈折率に依存する値を有するものである。
【0003】
光学式膜厚計は、反射式と透過式に大別することができる。反射式は、光学薄膜の表面上で反射された光線と、基板と光学膜の界面で反射された光線とが経路の違いにより位相差を生じることで干渉する現象を利用して膜厚を測定する技術であり、光線全体としての反射率は膜厚に対して周期的に変化するため、成膜の層数が少ない場合や相対的測定でもよい場合に使用されることが多く、用途が比較的限定されるという不都合がある。
【0004】
一方、透過式は、図9に示すように、投光器11から出射された光を、ミラーボックス107内に配設されたミラー105に反射させることにより、光学薄膜を透過させた光線を測定する技術であり、光量の透過率から膜厚と分光特性の両方を求めることができる。実基板Sの角度変化による光量変化の影響を受け難いため、高い精度で測定を行うことができる利点がある。
しかし、モニタ専用基板を用いており、このモニタ専用基板の配置位置は、実基板とは異なる位置に配置されているため、モニタ専用基板と実基板との間には、膜厚差が存在することになり、この膜厚差を補正するため成膜担当者の経験と知識が必要とされ、このため成膜プロセスの不安定要因となり、膜厚制御誤差が生じてしまうという不都合があった。
【0005】
また、従来の光学式膜厚計は、図9に示すように、薄膜形成装置3に取り付けられており、低屈折率膜に対する測定精度を上げることが難しい。例えば、蒸着材料として多用されるSiO2は、モニタガラスとの屈折率差が小さいことから、特に透過測光系においては、その場測定(in−situ)での光量変化量が小さく、制御することが困難であるという不都合がある。つまり、光量変化量が小さいと、限られた変化量に基づいて制御せざるを得ず、精度を高くすることが困難になってしまう。
【0006】
このような問題を解決するため、測定基板を透過した光線(出射光)をコーナーキューブプリズムによって反射させ、再び測定基板を透過させた光線(反射光)を測定して膜厚等を測定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2006−45673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、測定基板を透過した光線(出射光)をコーナーキューブプリズムによって反射させるため、測定基板における出射光と反射光の透過位置が異なり、透過測定する部分が異なってしまうため、微小な膜厚分布による測定誤差が生じるという不都合があった。また、この技術では、反射光が全て測定用に利用できるようにするために、反射防止膜(AR膜)を形成する必要があり、各面にAR膜を形成しておかないと、基板とコーナーキューブプリズム間の多重反射光分まで測定してしまい、正確な測定ができないという不都合があった。
【0009】
本発明の目的は、実基板を測定でき、測定位置の誤差を最小限にとどめた光学式膜厚計及び光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、測定のためのAR膜を不要とし、高い精度で光学膜厚及び分光特性の計測が可能な光学式膜厚計及び光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は本発明に係る光学式膜厚計によれば、実基板に測定光を透過させて光学膜厚を測定する光学式膜厚計であって、前記実基板に向けて測定光としての出射光を出射する投光手段と、前記実基板を介して前記投光手段と反対側の位置で、前記出射光を反射する反射ミラーと、前記実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して前記実基板を透過した前記測定光を受光する受光手段と、該受光手段により受光された前記測定光を検出する光検出手段と、を備え、前記実基板は、前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていることにより、解決される。
【0011】
このように、光学式膜厚計は、実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して実基板を透過した測定光により測定するので、測定光(出射光と反射光)が実基板を2回透過することになり、透過率(光量)の変化量を大きくすることができ、膜厚測定の制御精度を向上させることができる。
また、実基板は、投光手段と反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていることで、反射ミラーによって反射した測定光だけが、実基板を透過することになり、反射によって生じる測定に不利な反射光を除外することが可能となる。
【0012】
より詳しくは、前記実基板は、前記反射ミラーと前記投光手段の間の位置に、前記測定光の光軸に対して所定角度を有して配設されることになる。
前記測定光である前記出射光と前記反射ミラーで反射された反射光は、前記実基板の略同一箇所を透過するので、反射ミラーで反射される前後の測定光である出射光と反射光は、実基板のそれぞれ同じ部分を透過させることができ、透過位置の違いによる測定誤差の発生を防止することができる。
【0013】
また、前記反射ミラーは、前記測定光の光軸に対してほぼ垂直方向に反射面が形成されているようにすると好適である。これにより、反射ミラーは、投光手段から入射して実基板を透過した測定光を、損失することなく、再度、入射経路と同一経路を通って実基板を透過するように反射させることが可能となる。
【0014】
なお、前記反射ミラーは、前記反射ミラーの反射面に対する垂線と、前記測定光の光軸とのなす角度が−5.0〜+5.0°の範囲になるように配設されてなると好適である。
このとき、光量の損失により測定精度に影響を与えない程度に確保されるため、反射ミラーの取り付け位置に関し、一定の自由度を確保することができる。
【0015】
また、前記実基板の前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対する傾斜は、略4.5°以上であると好適である。このとき、所定の経路を通って実基板を透過していない光(不要な反射光)を光検出手段に検出されないようにするので基板の透過光だけを正確に測定する事が可能となる。
【0016】
また、前記実基板は所定の速度で動き、前記反射ミラーは、前記実基板に対し一定の位置に固定されて配設されていると好ましい。このように反射ミラーが固定されていると、光学系が安定する。
【0017】
また、前記課題は、本発明の光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置によれば、真空容器内に実基板を支持して回転可能なドーム状の基板ホルダと、蒸着材料を蒸発させる蒸着手段と前記基板ホルダとの間の位置に、前記真空容器側に固定されて配設される補正板と、前記基板ホルダに前記実基板を取り付けた状態で、前記実基板に測定光を透過させて光学膜厚を測定する光学式膜厚計と、を備えた薄膜形成装置であって、前記光学式膜厚計は、前記実基板に向けて測定光としての出射光を出射する投光手段と、前記実基板を介して前記投光手段と反対側の位置で、前記出射光を反射する反射ミラーと、前記実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して前記実基板を透過した前記測定光を受光する受光手段と、該受光手段により受光された前記測定光を検出する光検出手段と、を備え、前記実基板は、前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていること、により解決される。
【0018】
このように、本発明によれば、光学式膜厚計によって、実基板の膜厚制御が十分になされた基板(光学製品)を製造できる薄膜形成装置を提供することが可能となる。
なお、前記反射ミラーは前記補正板に配設されていると好適であり、固定状態で安定して反射ミラーによって測定光を反射させることができる。また、固定された補正板で、蒸着源やプラズマ放電からの迷光の影響が受け難くできる。
【0019】
前記課題は、本発明の薄膜形成装置によれば、真空容器内に実基板を支持して回転可能な略円筒状の基板ホルダと、前記基板ホルダの外側に配設されたスパッタ手段と、前記基板ホルダに前記実基板を取り付けた状態で、前記実基板に測定光を透過させて光学膜厚を測定する光学式膜厚計と、を備えた薄膜形成装置であって、前記光学式膜厚計は、前記実基板に向けて測定光としての出射光を出射する投光手段と、前記実基板を介して前記投光手段と反対側の位置で、前記出射光を反射する反射ミラーと、前記実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して前記実基板を透過した前記測定光を受光する受光手段と、該受光手段により受光された前記測定光を検出する光検出手段と、を備え、前記実基板は、前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていることにより、解決される。このとき、前記反射ミラーは前記基板ホルダ内に配設されていると好適である。
【0020】
このように、反射ミラーを基板ホルダ内に配置しているので、反射ミラーの汚れが生じにくく、スパッタ中のプラズマ放電からの迷光の影響も受け難くできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る光学式膜厚計及び薄膜形成装置によれば、実基板そのものを測定できるので、モニタ基板での測定と異なり、測定誤差等が生じにくい。また、測定光(出射光及び反射光)が実基板を2回透過することになり、透過率(光量)の変化量を大きくすることができ、膜厚測定の制御精度を向上させることができる。そして、実基板が測定光の光軸に対して所定角度を有して配設されるため、反射ミラーによって反射した測定光だけが、実基板を透過することになり、反射ミラーと実基板間で生じる多重反射の反射光分を除外することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】回転ドラム式ホルダを備える薄膜形成装置を上方から見た概略構成説明図である。
【図2】ドーム式ホルダを備える薄膜形成装置を側方から見た概略構成説明図である。
【図3】光軸に対する反射ミラー角度と測定光強度の関係を示すグラフ図である。
【図4】基板の傾きと測定光の割合変化を示す説明図である。
【図5】基板角度と測定光強度の関係を示すグラフ図である。
【図6】BK−7基板の透過率測定結果を示すグラフ図である。
【図7】IRカットフィルタの透過率測定結果を示すグラフ図である。
【図8】SiO2単層成膜時の、波長520nmにおける光学膜厚の時間経過による光量変化の計算結果を示すグラフ図である。
【図9】従来の透過型光学式膜厚計を備える薄膜形成装置の概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0024】
図1及び図2は、本発明に係る光学式膜厚計及び薄膜形成装置を示すもので、図1は回転ドラム式ホルダを備える薄膜形成装置を上方から見た概略構成説明図、図2はドーム式ホルダを備える薄膜形成装置を側方から見た概略構成説明図である。
また、図3乃至図8は、本発明に係る光学式膜厚計に関するもので、図3は光軸に対する反射ミラー角度と測定光強度の関係を示すグラフ図、図4は基板の傾きと測定光の割合変化を示す説明図、図5は基板角度と測定光強度の関係を示すグラフ図、図6はBK−7基板の透過率測定結果を示すグラフ図、図7はIRカットフィルタの透過率測定結果を示すグラフ図、図8はSiO2単層成膜時の、波長520nmにおける光学膜厚の時間経過による光量変化の計算結果を示すグラフ図である。
【0025】
本発明に係る光学式膜厚計は、測定専用のモニタ基板を測定するものではなく、測定基板として実基板(製品)Sの膜厚を測定するもので、図1及び図2に示すように、光源もしくは投光手段としての投光器11と、導光手段としての光ファイバ13(13a,13b)と、球面アクロマティックレンズ15と、反射ミラー17と、受光手段としての受光器19と、を有して構成されている。また、投光器11には、光源用安定化電源21を介して電圧が印加され、受光器19はコンピュータ(演算用PC)23に接続されている。
なお、図4に示すように、本明細書中においては、反射ミラー17により反射される前の測定光を出射光L1、反射された後の測定光を反射光L2(L2−1、L2−2、L2−3)と区別して記載している。
【0026】
投光器11は、測定に用いる出射光L1を出力する装置であり、Ref回路11aが組み込まれており、また投光器11には光源用安定化電源21から電力が供給され、任意の波長を有する測定光を出射光側の光ファイバ13aに出射するように構成されている。
受光器19は、出射光L1によって測定基板である実基板Sを透過した光が、反射ミラー17で反射されて実基板Sを再び透過した反射光L2が反射光側の光ファイバ13bを介して入力される装置である。
受光器19は、光検出手段としての分光器20を備えており、測定光の波長や透過率の測定を行うことができ、また、分光器20による分析結果に基づいて光学薄膜の膜厚や光学特性を算出及び表示するためのコンピュータ(演算用PC)23に接続されている。
【0027】
光ファイバ13は、出射光側の光ファイバ13aと反射光側の光ファイバ13bからなる二分岐のバンドルファイバから構成され、ステンレス製の二分岐のフレキシブルチューブ内にまとめられている。出射光側の光ファイバ13aは、一端部側を投光器11に接続され、反射光側の光ファイバ13bは、一端部側を受光器19に接続されている。出射光側の光ファイバ13a及び反射光側の光ファイバ13bのそれぞれの光ファイバ端部14は、1つの束にまとめられ、光軸を球面アクロマティックレンズ15と測定基板である実基板Sに向けて配設されている。光ファイバ端部14から照射される出射光L1は、直径5〜6mm程度の円形断面とされている。
【0028】
球面アクロマティックレンズ15は、波長による収差(色収差)と球面収差を除去するためのレンズであり、測定精度の向上を図ることができるもので、光ファイバ端部14と、薄膜形成装置1,2に形成された測定窓25の間に配設されている。
【0029】
反射ミラー17は、実基板Sの裏側に配設されており、実基板Sを透過した投光器11からの出射光L1を反射するものである。反射ミラー17は、Al膜、Ag膜をコーティングしたミラーや、これらAl膜やAg膜上にMgF2又はSiOをオーバーコートしたミラー、また、その他の誘電体膜をオーバーコートしたミラーを用いることができる。反射面のサイズは任意であるが、実基板Sのサイズと同等程度とされることが望ましく、数cm程度である。反射ミラー17の反射面は80%程度の反射率を有している。反射ミラー17は、実基板Sに照射される出射光L1の光軸に対してほぼ垂直(直角)に配設されているため、出射光L1を反射して反射光L2とし、出射光L1の光軸と同経路で反射光L2が実基板Sを透過する。
なお、球面アクロマティックレンズ15と実基板Sと反射ミラー17は、光ファイバ端部14からの測定光の光軸に沿って配設されている。
【0030】
実基板Sとしては、ガラス等の材料で形成された部材を用いると好適である。本実施形態では、実基板Sとして板状のものを用いているが、実基板Sの形状としてはこのような板状のものに限定されない。また、表面に薄膜を形成できる他の形状、例えばレンズ形状、円筒状、円環状といった形状であってもよい。ここで、ガラス材料とは、二酸化ケイ素(SiO2)で形成された材料であり、具体的には、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。なお、本実施形態において実基板Sとは、光学フィルタFも含むものとしている。
【0031】
また、実基板Sの材料はガラスに限定されず、プラスチック樹脂などであってもよい。プラスチック樹脂の例としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリカーボネート−ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリカーボネート−ポリブチレンテレフタレート共重合体、アクリル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選択される樹脂材料、またはこれらの材料とガラス繊維及び/またはカーボン繊維との混合物などが挙げられる。
【0032】
ここで、投光器11から出射された測定光(出射光L1及び反射光L2)が受光器19に入力されるまでの経路について説明する。
投光器11から出力された測定光である出射光L1は、投光側の光ファイバ13aを介して光ファイバ端部14から球面アクロマティックレンズ15に照射され、薄膜形成装置1,2に形成された測定窓25を通過して、実基板Sに照射される。
【0033】
実基板Sに照射された出射光L1は、実基板Sを透過して、その実基板Sの裏側に配設された反射ミラー17により反射され反射光L2となる。反射ミラー17によって反射された反射光L2は、再び実基板S、測定窓25、球面アクロマティックレンズ15を透過して光ファイバ端部14に至る。そして、実基板S側からの測定光(反射光L2)のみが反射光側の光ファイバ13bを通過して、受光器19に導かれる。
なお、後述するように、実基板Sは、測定光の光軸に対して傾き角度を有するように配設されている。
【0034】
次に、薄膜形成装置1,2への光学式膜厚計の取り付け状態について説明する。
図1に示した薄膜形成装置1は、回転ドラム式ホルダ33を備えるスパッタ(マグネトロンスパッタ)装置であり、真空容器31と、実基板Sが取り付けられる基板ホルダとしての回転ドラム式ホルダ33と、回転ドラム式ホルダ33の外側に対向して設けられたスパッタ手段35と、不図示のスパッタガス供給手段と、を少なくとも有して構成されている。
【0035】
真空容器31は、公知の薄膜形成装置で通常用いられるようなステンレススチール製で、ほぼ直方体形状をした中空体である。また、真空容器31の側面側、すなわち真空容器31の回転ドラム式ホルダ33の径方向側には測定窓25が形成されている。
回転ドラム式ホルダ33は、略円筒状に形成され、回転軸を真空容器31の上下方向に向けて配置されている。回転ドラム式ホルダ33は、実基板Sの保持手段としての機能を有しており、実基板Sはこの回転ドラム式ホルダ33の外周面に不図示の基板ホルダなどを介して並べて取り付けられる。
【0036】
回転ドラム式ホルダ33の実基板Sが取り付けられる部分には所定サイズの開口部(不図示)が形成されているため、実基板Sを透過した測定光は回転ドラム式ホルダ33の内側に入射することができる。なお、回転ドラム式ホルダ33は、中空角柱状に形成されてもよい。
スパッタ手段35は、一対のターゲットと、ターゲットを保持する一対のマグネトロンスパッタ電極と、電源装置と(いずれも不図示)、により構成される。ターゲットの形状は平板状であり、ターゲットの長手方向が回転ドラム式ホルダ33の回転軸線と平行になるように設置されている。
【0037】
スパッタ手段35の周辺にはアルゴン等のスパッタガスを供給するスパッタガス供給手段が設けられている。ターゲットの周辺が不活性ガス雰囲気になった状態で、マグネトロンスパッタ電極に電源から交流電圧が印加されると、ターゲット周辺のスパッタガスの一部は電子を放出してイオン化する。このイオンが加速され、ターゲットに衝突することでターゲットの表面の原子や粒子(ターゲットがニオブの場合はニオブ原子やニオブ粒子)が叩き出される。このニオブ原子やニオブ粒子は薄膜の原料である膜原料物質(蒸着物質)であり、実基板Sの表面に付着して薄膜が形成される。
【0038】
薄膜形成装置1では、回転ドラム式ホルダ33が回転すると、回転ドラム式ホルダ33の外周面に保持された実基板Sが公転して、スパッタ手段35に面する2カ所の位置を繰り返し移動することになる。そして、このように実基板Sが公転することで、スパッタ手段35でのスパッタ処理が順次繰り返し行われて、実基板Sの表面に薄膜が形成される。
【0039】
なお、薄膜形成装置1にプラズマ発生手段を取り付けて、薄膜の形成と同時に、薄膜形成前の実基板Sの表面にプラズマ処理を行う前処理工程や薄膜形成後の実基板Sの表面にプラズマ処理を行う後処理工程を行う構成とすることができる。もちろん、スパッタ手段35に代えて他の成膜手段を用いる構成であってもよい。
【0040】
薄膜形成装置1において、本発明に係る光学式膜厚計は、真空容器31の一部に形成された測定窓25から出射光L1を実基板Sに向けて照射し、実基板Sの裏側に設置された反射ミラー17によって、実基板Sを透過した出射光L1が反射された反射光L2が、再び実基板Sを透過できるようになっている。
【0041】
具体的には、投光器11と受光器19とに接続された光ファイバ13の他端部と球面アクロマティックレンズ15は真空容器31の外側に配設されており、反射ミラー17は、実基板Sの裏側、且つ、回転ドラム式ホルダ33の内側位置に固定してある。実基板Sが取り付けられた位置の回転ドラム式ホルダ33には開口部が形成されているため、実基板Sを透過した出射光L1を、回転ドラム式ホルダ33の開口部を通過してその内側に配設された反射ミラー17で反射させることができる。
【0042】
このように、光学式膜厚計が取り付けられることによって、回転ドラム式ホルダ33に取り付けられた実基板Sの光学膜厚や光学特性などを成膜中でも測定をすることができる。具体的には、回転ドラム式ホルダ33を、実基板Sの測定部分が測定光の光軸に重なる所定位置で、膜厚などの測定を行うことになる。なお、実基板Sは、測定光の光軸に対して傾き角度を有するように配設されている。
薄膜形成装置1においては、反射ミラー17は実基板Sの裏側、且つ、回転ドラム式ホルダ33の内側位置に固定されている。このため、反射ミラー17の汚れが生じにくく、スパッタ中のプラズマ放電から迷光の影響も受け難いという利点がある。
【0043】
また、反射ミラー17を複数の実基板Sに対して取付けてもよい。すなわち、実基板Sと反射ミラー17とをペアにして組み付けた場合、出射光L1の位置に対応した所定位置で、実基板Sの膜厚や光学特性について、各実基板Sの複数の測定を行なうことができる。このように構成することで、回転ドラム式ホルダ33を回転させて、所定位置に実基板Sを配置することにより、回転ドラム式ホルダ33に取り付けられた状態の複数の実基板Sに順次測定光を透過させて光学膜厚を測定することができる。このため、複数の実基板Sの膜厚を同時に測定することができ、より高い精度で光学膜厚の計測が可能な薄膜形成装置を得ることができる。
【0044】
つぎに、図2に示した薄膜形成装置2は、真空容器41内に配設された回転ホルダ43を備える蒸着装置であり、基板ホルダとして、実基板Sが取り付けられるドーム状の回転ホルダ43と、回転ホルダ43と対向して下方側に設けられた蒸着手段45と、を少なくとも有して構成されている。また、本実施形態における薄膜形成装置2では、回転ホルダ43と蒸着手段45の間の位置に、補正板47が配設されている。
真空容器41は、公知の薄膜形成装置で通常用いられるようなステンレススチール製で、ほぼ直方体形状をした中空体である。また、回転ホルダ43の上側面に測定窓25が形成されている。
【0045】
回転ホルダ43は、略ドーム状に形成され、回転軸を上下方向に向けて真空容器41内に配置され、基板保持手段としての機能を有しており、回転ホルダ43に複数の実基板Sを不図示の取り付け治具を介して装着することができる。回転ホルダ43の実基板Sが取り付けられる部分は所定サイズの開口部(不図示)が形成されている。
【0046】
蒸着手段45は、真空容器41の下方側の回転ホルダ43に対向した位置に設置されており、例えば、るつぼに入れた蒸着物質と、蒸着物質を加熱するための電子ビーム源または高周波コイルなどとから構成されている。もちろん、蒸着手段として、ターゲットと電極と電源とで構成されるスパッタ源を用いてもよい。
【0047】
補正板47は、回転ホルダ43の取り付け位置により生じる実基板S上の膜厚の差を補正する略板状の部材であって、真空容器41側に固定されている。これにより、実基板Sに薄膜を形成する際、蒸着手段45から実基板Sに向かって蒸発する蒸発物質の堆積を部分的に妨げることによって膜厚を補正することができる。薄膜形成装置2では、蒸着手段45から蒸発した蒸発物質が、回転ホルダ43に取り付けられた実基板S上に堆積されることで成膜を行うものである。このとき、回転ホルダ43の回転と補正板47によって実基板Sの位置による膜厚の差を補正している。
【0048】
薄膜形成装置2において、本発明に係る光学式膜厚計は、真空容器41の一部に形成された測定窓25から出射光L1を実基板Sに向けて照射し、実基板Sの下方側の補正板47に設置された反射ミラー17によって、実基板Sを透過した出射光L1を反射して反射光L2とし、再び実基板Sを透過するようにしている。
【0049】
具体的には、投光器11と受光器19とに接続された光ファイバ端部14と球面アクロマティックレンズ15は真空容器41の外側に配設されており、反射ミラー17は、実基板Sの下方側、且つ、補正板47の上側位置に固定してある。実基板Sが取り付けられた位置の回転ホルダ43には開口部が形成されているため、実基板Sを透過した出射光L1を、回転ホルダ43の開口部を通過してその下方側に配設された反射ミラー17によって反射させることができる。
【0050】
このように、光学式膜厚計が取り付けられることによって、回転ホルダ43に取り付けられた実基板Sの膜厚などの光学特性を成膜中でも測定をすることができる。具体的には、回転ホルダ43を、実基板Sの測定部分が測定光の光軸に重なる所定位置で、膜厚などの測定を行うことになる。
【0051】
なお、光学式膜厚計は、測定光の光軸に対して実基板Sが傾き角度を有するように配設されている。
また、補正板47の実基板S側に反射ミラー17が取り付けられるため、固定された状態で測定円周上に配設される実基板Sを測定することができるので、安定した測定が可能となる。
【0052】
薄膜形成装置2において、反射ミラー17は補正板47の実基板Sと同じ側に取り付けられており、蒸着手段45からの蒸着物質が回り込んで反射ミラー17の反射面に付着する可能性がある為、反射ミラー17の直前に回り込み防止ガラスを取り付けることができる。さらに、回り込み防止ガラスにも蒸着物質が付着しないように筒状のフードで囲んでもよい。
【0053】
なお、回り込み防止ガラスは定期的に交換すると好適である。また、回り込み防止ガラスも実基板Sと同様に測定光の光軸に対して角度を有して配設されるとさらに好適である。
【0054】
また、薄膜形成装置1,2において、光学式膜厚計で測定をする際には、実基板Sを測定位置に正確に合わせる必要がある。そのため、薄膜形成装置1,2はいずれも、回転ドラム式ホルダ33若しくは回転ホルダ43を測定位置で止めるための回転制御手段を備えている。回転制御手段としては、公知の装置を適用することができ、例えば、位置センサと回転角度を常時監視及び制御することが可能なモータとを備えて構成することができる。
【0055】
薄膜形成装置1,2では、測定窓25も測定光の光軸に対して所定の角度を有して配設されている。これは、実基板Sを所定角度傾けて配設することと同じ理由によるものである。このため、測定窓25のガラス部材によって反射する光線についても、受光器19側に入力されることを防いでいる。
【0056】
以下に、図3乃至図8に基づいて、本発明の光学式膜厚計について説明する。
なお、以下に示す測定若しくは計算例は、本発明に係る光学式膜計を取り付けた薄膜形成装置1における結果であるが、測定結果から導き出せる効果等はそのまま薄膜形成装置2にも適用できるものである。
【0057】
図3は、光軸に対する反射ミラー角度と測定光強度の関係を示すグラフ図であり、反射ミラー角度が−6〜+6°までの測定結果である。
ここで、反射ミラー17の反射ミラー角度は、反射ミラー17の反射面に対する垂線、測定光の光軸とのなす角度である。
図3で判明するように、反射ミラー17の角度θが0°において反射光の光量が最大値となる。なお、図3において、反射ミラー17の反射率は100%として換算したデータを示した。
【0058】
また、反射光の測定光強度は反射ミラー角度が0°で最大となるものの、反射ミラー角度が±1.0°において、反射ミラー角度0°に比して、82〜87%以上の測定光強度を有しており、反射ミラー角度が±0.6°の場合には、94〜96%以上の測定光強度を有している。なお、図3において、反射光の光量は、出射光L1の光量に対する、反射ミラー17において測定された光量(反射光L2の光量)の割合をパーセントで示した値である。
【0059】
また、許容できる反射ミラー17の反射ミラー角度−5.0〜+5.0°は、反射ミラー17と球面アクロマティックレンズ15若しくは光ファイバ端部14との距離に応じて変化する値である。すなわち、反射ミラー17と球面アクロマティックレンズ15若しくは光ファイバ端部14との距離が長くなれば、許容できる反射ミラー17の反射ミラー角度は狭くなる。
なお、薄膜形成装置1においては、反射ミラー17と球面アクロマティックレンズ15との間の距離は、60〜350mm程度である。
【0060】
図4は、基板の傾きと測定光の割合変化を示す説明図であり、実基板Sの傾きと測定光(出射光及び反射光)の経路と光の割合変化を示すもので、図4(a)は、実基板Sの傾き角度0°の場合(傾いていない場合)、図4(b)は実基板Sの傾き角度が所定の値を有する場合である。ここで、実基板Sの傾き角度は、実基板Sの成膜面に対する垂線と、測定光の光軸とのなす角度である。
なお、図4中の光量は、実基板Sを取り付けない状態で測定した光量を100%とした模式図である。また、ここでは反射ミラー17の反射率は80%としている。
【0061】
まず、図4(a)に示した、基板の傾き角度=0°での測定光の経路と光の割合変化について説明する。
真空容器31の測定窓25から入射された光(出射光L1)は、実基板Sを透過する。このとき、入射された光(出射光L1)の全光量を「100」とすると、実基板Sの両側の表面で、透過せずにそれぞれ4.25%ずつ反射される(合計光量8.5)。この光量8.5の光は、反射光L2−1として測定窓25から出射される。したがって、実基板Sを透過する光量は91.5となる。この透過された光量91.5の光は、実基板Sの裏側に配設された反射ミラー17によって反射される。この折り返し反射光は、再度実基板Sを透過する事になり、同様に、合計8.5%の反射率を考慮し、残りの91.5%が実基板Sを透過する。即ち、光量83.7(1回目の透過光91.5×反射ミラー17からの折り返しによる2回目の透過率91.5%)がL2−2として測定窓25から出射される。このとき、反射ミラー17の反射率を無視するのは、実基板Sの測定前に、実基板Sが無い(反射ミラー17の反射のみ)の状態で100%ベースライン測定を行う為である。
折り返し反射光が実基板Sを透過する際、実基板Sで反射された光量7.78(91.5×8.5%)が再度反射ミラー17によって反射する場合、光量6.22(7.78×反射ミラー反射率80%)が再度実基板Sへ向かう。この光量6.22の再反射光も同様に実基板Sでそれぞれ4.25%ずつ合計8.5%が反射され、光量5.69(6.22×91.5%)がL2−3として測定窓25から出射される。
すなわち、測定窓25から出射される光は、L2−1〜3であり、実基板Sの反射光も混在してしまう。
【0062】
つまり、測光窓25から入射される光(出射光L1)は、
(1)反射光L2−1・・・8.5(実基板Sによる両面反射光)
(2)反射光L2−2・・・83.7(反射ミラー17の反射により2回実基板Sを透過する光)
(3)反射光L2−3・・・5.69(再度反射ミラー17の反射により実基板Sを透過する光)
に大別される(反射光L2−4以上の多重反射光は微小な為、このモデルでは無視する)。
したがって、測定窓25から入射された光(出射光L1)のうち、97.89(8.5+83.7+5.69)程度の光量となり、反射光L2として真空容器31の測定窓25に向かう。実基板の傾き角度が0°であることから、反射された光線が全て同一経路を通るためである。
【0063】
つまり、実基板Sの傾斜角度が0°の場合では、受光器19に入力される光(反射光L2)のうち14.19(8.5+5.69)程度が、実基板Sの反射光という事になる。従って、実基板Sの傾斜角度を0°とすると、受光器19に入射される反射光L2に所望の経路以外を通った光線を一割以上含むことになり、これが測定誤差を生じる原因になる。
【0064】
次に、図4(b)に示した、基板の傾き角度が所定の値を有する場合の測定光の経路と光の割合変化について説明する。
前記図4(a)と同様に、出射光L1及び反射光L2の透過、反射が生じるが、実基板Sが所定角度傾いているため、実基板Sの表面で反射された8.5%の光は、実基板Sの傾きに応じた方向に反射される。従って、実基板Sの傾斜角度が所定値以上であれば、実基板Sの表面で反射された光線は受光器19には向かないことになる。
また、反射ミラー17で反射された反射光L2のうち、実基板Sで反射される光も、実基板Sの傾きに応じた方向に反射され受光器19には向かわないことになる。
つまり、実基板Sを所定角度傾けた場合には、実基板Sを2回透過した光線(光量83.7)のみが受光器19に入力されることになる。従って、誤差が生じる原因が少なく、測定の高精度化が期待できる。
【0065】
図5は基板角度と測定光強度の関係を示すグラフ図であり、実基板Sの傾き角度αと反射光の光量の関係の測定結果で、図5(a)は傾き角度αが−6〜+6°までの測定結果、図5(b)は、図5(a)の結果を傾き角度α=+3〜+5.5°について拡大した図である。なお、図5中の光量は、実基板Sを取り付けていない状態で測定したデータを基準としている。
【0066】
図5(a)で判明するように、実基板Sの傾き角度がないα=0°において反射光の光量が最大値となる。これは、図4(a)に説明したように実基板Sの表裏面で反射した光線も含んでいるためである。
【0067】
実基板Sの角度を傾けていくと、実基板Sの表面で反射された光線は実基板Sの傾きに応じた方向に反射されるため、実基板Sの傾き角度とともに受光器19で測定される光量が減少していく。そして、およそ傾き角度4.5°以上の領域では、光量はほぼ一定の値を示すようになった。これは、図4(b)に説明したように、実基板Sの表裏面で反射した光を受光器19で取り込まないようになるためである。
【0068】
図5(b)により、およそ傾き角度4.5°以上で一定の値を示すようになることから、実基板Sの傾き角度は4.5°以上に設定すると好適である。ここで、実基板Sがいずれの方向に傾いても同様な効果が得られることから、傾き角度は、測定光Sの光軸に直行する面に対する角度の絶対値である。
【0069】
すなわち、実基板Sの傾き角度は、±4.5°以上に設定されることが望ましい。
また、実基板Sの傾き角度は、光量が一定の値を示す範囲内で最小であることが好ましい。ここで、図5(b)によれば、傾き角度4.5°程度では僅かに光量変化に傾きが認められるものの、傾き角度=5°程度以上で光量の変化が見られなくなる。
【0070】
また、実基板Sの傾き角度は、実基板Sと反射ミラー17、若しくは、実基板Sと球面アクロマティックレンズ15若しくは光ファイバ端部14との距離に応じて変化する値である。例えば、実基板Sと球面アクロマティックレンズ15若しくは光ファイバ端部14との距離が長くなれば、許容できる実基板Sの傾き角度は小さな値になる。
【0071】
上述のように、薄膜形成装置1においては、反射ミラー17と球面アクロマティックレンズ15との間の距離は、60〜350mm程度である。
【0072】
図6乃至図8は、本発明の光学式膜厚計による測定例であり、これらの図は、光学式膜厚計により実基板S(BK−7基板)や光学フィルタFを測定した結果であり、1回透過させて測定した結果と比較したものである。以下に説明するいずれの例においても、測定された実基板Sは傾き角度=5°として測定を行った。
【0073】
(実施例1)
図6は、BK−7基板の透過率測定結果を示すグラフ図である。X軸は測定波長、Y軸は光量(透過率)である。図6では、本発明に係る光学式膜厚計による2回透過時の透過率測定結果と、分光光度計SolidSpec3700(島津製作所製)による1回透過時の透過率測定結果と、1回測定のデータを2回測定として換算した換算値を示している。
【0074】
図6から判明するように、BK−7基板は測定された全波長領域に渡りほぼフラットな透過率特性(光学特性)を有しており、2回透過の測定値と、1回透過を2回透過に換算した換算値とは、全波長域に渡りほぼ同じ値を示した。これは、本発明に係る光学式膜厚計は、真空容器31内に反射ミラー17を配置した簡単な構成でありながら、100%光量に対する変化量が大きい、すなわち、膜厚測定の制御精度を向上させることができる事を示している。
【0075】
(実施例2)
図7はIRカットフィルタの透過率測定結果を示すグラフ図である。IR(赤外線)カットフィルタは、BK−7基板上に、Nb2O5/SiO2を積層させた光学フィルタFである。図7においても、図6と同様に、X軸とY軸は、それぞれ測定波長と透過率を示しており、また、本発明に係る光学式膜厚計による測定結果(2回透過)と、分光光度計による測定(1回透過)と、1回透過のデータを2回透過に換算した(換算値)が示されている。
【0076】
図7によれば、IRカットフィルタは、およそ700nm以上の赤外線波長域での透過率が0%近傍の値を示している。このIRカットフィルタの測定においても、2回透過の測定値と、1回透過を2回透過に換算した換算値とは、全波長域に渡りほぼ同じ値を示した。従って、IRカットフィルタの測定においても、本発明に係る光学式膜厚計は、従来の1回透過型の光学式膜厚計と少なくとも同等の測定精度を有していると言える。
【0077】
図8は、本発明の光学式膜厚計の特性を従来の測定法と比較したものであり、本発明に係る光学式膜厚計で計算した結果と、従来の1回透過で計算した結果とを比較した。計算(シミュレーション)には、市販の光学演算理論ソフトを用いた。
【0078】
(実施例3)
図8は、SiO2単層膜成膜時の、波長520nmにおける光学膜厚の時間経過による光量変化を示すグラフ図で、SiO2単層膜フィルタの光量変化計算結果であり、1回透過による計算結果と、本発明に係る光学式膜厚計によるSiO2単層膜フィルタの2回透過の計算結果と、を比較したものである。SiO2単層膜フィルタは、BK−7にSiO2単層膜を形成した光学フィルタFである。X軸は成膜時間(膜厚に比例)、Y軸は透過光量を示している。また、光量変化計算は、波長520nmの値である。
【0079】
図8で示すように、本発明に係る光学式膜厚計での2回透過の計算値(2回透過)と、1回透過の計算値(1回透過)とでは、本発明の2回透過の場合は、透過率及び透過光量ともに、変化量が大きくなっており、従来例に比して、この変化量が多い分だけ、測定精度が向上する。
【0080】
図8において、本発明に係る光学式膜厚計による測定値の計算結果と、1回透過による測定値の計算結果と、を比較すると、本発明の光学式膜厚計による測定の変化率の方が高いことがわかる。変化量の差はおよそ1.6乃至1.8倍であった。これは、実基板Sを2回透過することによる透過率の減少により変化量が大きくなるためである。測定値の変化量が大きいため、測定精度の向上を図ることができ、本発明に係る光学式膜厚計は、従来の1回透過型の光学式膜厚計よりも優れた測定精度を有していると言える。
【符号の説明】
【0081】
S 実基板(測定基板)
F 光学フィルタ
L1 出射光
L2(L2−1,L2−2,L2−3) 反射光
1,2,3 薄膜形成装置
11 投光器
11a Ref回路
13 光ファイバ
13a 出射光側の光ファイバ
13b 反射光側の光ファイバ
14 光ファイバ端部
15 球面アクロマティックレンズ
17 反射ミラー
19 受光器
20 分光器
21 光源用安定化電源
23 コンピュータ(演算用PC)
25 測定窓
31,41,101 真空容器
33 回転ドラム式ホルダ
35 スパッタ手段
43,103 回転ホルダ
45 蒸着手段
47 補正板
105 ミラー
107 ミラーボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実基板に測定光を透過させて光学膜厚を測定する光学式膜厚計であって、
前記実基板に向けて測定光としての出射光を出射する投光手段と、
前記実基板を介して前記投光手段と反対側の位置で、前記出射光を反射する反射ミラーと、
前記実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して前記実基板を透過した前記測定光を受光する受光手段と、
該受光手段により受光された前記測定光を検出する光検出手段と、を備え、
前記実基板は、前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていることを特徴とする光学式膜厚計。
【請求項2】
前記実基板は、前記反射ミラーと前記投光手段の間の位置に、前記測定光の光軸に対して所定角度を有して配設されることを特徴とする請求項1記載の光学式膜厚計。
【請求項3】
前記測定光である前記出射光と前記反射ミラーで反射された反射光は、前記実基板の略同一箇所を透過することを特徴とする請求項1記載の光学式膜厚計。
【請求項4】
前記反射ミラーは、前記測定光の光軸に対してほぼ垂直方向に反射面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学式膜厚計。
【請求項5】
前記反射ミラーは、前記反射ミラーの反射面に対する垂線と、前記測定光の光軸とのなす角度が−5.0〜+5.0°の範囲になるように配設されてなることを特徴とする請求項4記載の光学式膜厚計。
【請求項6】
前記実基板の前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対する傾斜は、略4.5°以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学式膜厚計。
【請求項7】
前記実基板は所定速度で動き、前記反射ミラーは、前記実基板に対し一定の位置に固定されて配設されていることを特徴とする請求項1,2,4,5,6のいずれか1項に記載の光学式膜厚計。
【請求項8】
真空容器内に実基板を支持して回転可能なドーム状の基板ホルダと、
蒸着材料を蒸発させる蒸着手段と前記基板ホルダとの間の位置に、前記真空容器側に固定されて配設される補正板と、
前記基板ホルダに前記実基板を取り付けた状態で、前記実基板に測定光を透過させて光学膜厚を測定する光学式膜厚計と、を備えた薄膜形成装置であって、
前記光学式膜厚計は、
前記実基板に向けて測定光としての出射光を出射する投光手段と、
前記実基板を介して前記投光手段と反対側の位置で、前記出射光を反射する反射ミラーと、
前記実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して前記実基板を透過した前記測定光を受光する受光手段と、
該受光手段により受光された前記測定光を検出する光検出手段と、を備え、
前記実基板は、前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていることを特徴とする光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置。
【請求項9】
前記反射ミラーは前記補正板に配設されていることを特徴とする請求項8記載の光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置。
【請求項10】
真空容器内に実基板を支持して回転可能な略円筒状の基板ホルダと、
前記基板ホルダの外側に配設されたスパッタ手段と、
前記基板ホルダに前記実基板を取り付けた状態で、前記実基板に測定光を透過させて光学膜厚を測定する光学式膜厚計と、を備えた薄膜形成装置であって、
前記光学式膜厚計は、
前記実基板に向けて測定光としての出射光を出射する投光手段と、
前記実基板を介して前記投光手段と反対側の位置で、前記出射光を反射する反射ミラーと、
前記実基板を透過し、且つ前記反射ミラーで反射して前記実基板を透過した前記測定光を受光する受光手段と、
該受光手段により受光された前記測定光を検出する光検出手段と、を備え、
前記実基板は、前記投光手段と前記反射ミラーとからなる光学系に対して傾斜をもって配設されていることを特徴とする光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置。
【請求項11】
前記反射ミラーは前記基板ホルダ内に配設されていることを特徴とする請求項10記載の光学式膜厚計を備えた薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−13145(P2011−13145A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158798(P2009−158798)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】