説明

光学材料用重合体の製造方法および製造装置

【課題】大規模な装置を必要とせずに、プラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材として好適なメタクリル酸メチル(共)重合体を安定して製造できる光学材料用重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともメタクリル酸メチルを含む単量体を重合させて光学材料用重合体を製造する方法であって、前記単量体、および10時間半減期温度が50℃以上90℃以下である重合開始剤を含む原料混合物を、複数の袋状重合容器12内に収容して密閉する収容工程と、該複数の袋状重合容器12を、温度制御された水が入っている浴槽11内に、互いに離間するように並列させて配した状態で、前記単量体を重合させる重合工程と、得られた重合体を脱揮して、重合体中の残存モノマーを1.0質量%以下に低減する脱揮工程を有することを特徴とする光学材料用重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ファイバのコア材やクラッド材として好適に用いられる光学材料用重合体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバとしては、石英系の光ファイバが、広い波長領域にわたって優れた光伝送を行なうことができることから、幹線系を中心として使用されている。しかしながら、石英系光ファイバは高価で加工性が低い。そのため、より安価で、軽量、大口径であり、端面加工や取り扱いが容易である等の長所を有したプラスチック製の光ファイバ(以下、POFということもある。)が開発され、照明・装飾用途や、食品・半導体分野等でのセンサー用途、FA、OA、LAN等の短・中距離での光情報伝送用途等において実用化されている。
【0003】
POFの大部分は、主たる光伝送路であるコアが、透明性に優れた、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)またはメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体からなる共重合体(以下これらを総称して「メタクリル酸メチル(共)重合体」という。)を用いて形成され、コアの外周部にコアよりも屈折率が低い、メタクリル酸メチル(共)重合体からなるクラッド層が設けられたPOF素線の形態で使用されている。
このようなメタクリル酸メチル(共)重合体としては、メタクリル酸メチルとフッ素化(メタ)アクリル酸メチルの共重合体や、メタクリル酸メチルと脂環式(メタ)アクリル酸メチルの共重合体等が公知である。
【0004】
ところで、光情報伝送に用いられるプラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材に用いられるメタクリル酸メチル(共)重合体は、該(共)重合体中に粉塵、夾雑物などの光散乱物質が混入したり、分子量分布の広がりや共重合組成に斑があったりする場合、光散乱性が著しく増大してしまう。
このため、かかる用途に用いられるメタクリル酸メチル(共)重合体の製造方法にあっては、光散乱物質の混入、分子量分布の広がり、および共重合組成の斑をできる限り抑えること要求される。
このようなメタクリル酸メチル(共)重合体の製造方法(重合方法)としては、ラジカル重合法が一般的に用いられ、工業的には塊状重合がよく採用されている。
【0005】
塊状重合としては連続塊状重合法(例えば、特許文献1)、セルキャスト重合法(例えば、特許文献2)、およびバッグ式重合方法(例えば、特許文献3)等が工業化されている。
連続塊状重合法は、重合温度や重合開始剤等を適当な条件に設定することで、重合率をある一定の範囲で停止させ(Dead−End重合)、残存する単量体成分を次の脱揮押出機等で揮発除去して重合体を得る方法であり、分子量分布の広がりや共重合組成の斑を抑えることができるという利点がある。
しかしながら大規模な装置が必要で設備投資や製造運転に多くの費用、時間を要するために、多品種少量生産が行い難いという欠点がある。
【0006】
一方、セルキャスト重合法やバッグ式重合方法は、小規模な装置があればよく、設備投資や製造運転に要する費用、時間を抑えることができ、多品種少量生産に適しているという利点がある。
しかしながら、複数の重合セルや重合袋の間における不均一が生じ易いという欠点があり、このため、(共)重合体の分子量分布の広がりや共重合組成に斑が発生し易い。また重合率を95%以上に達するまで行なう方法も知られておらず、さらに手作業が多いためにゴミ等の光散乱物質が混入する可能性も高い。
【特許文献1】特開平6−235831号公報
【特許文献2】特開平2−43507号公報
【特許文献3】特開平1−201301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、プラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材に適した、高品質のメタクリル酸メチル(共)重合体を、簡便に、かつ安定して製造するのに適した方法はまだ確立されていないのが現状である。
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、大規模な装置を必要とせずに、プラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材として好適なメタクリル酸メチル(共)重合体を安定して製造できる光学材料用重合体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の光学材料用重合体の製造方法は、少なくともメタクリル酸メチルを含む単量体を重合させて光学材料用重合体を製造する方法であって、
前記単量体、および10時間半減期温度が50℃以上90℃以下である重合開始剤を含む原料混合物を、複数の袋状重合容器内に収容して密閉する収容工程と、該複数の袋状重合容器を、温度制御された水が入っている浴槽内に、互いに離間するように並列させて配した状態で、前記単量体を重合させる重合工程と、得られた重合体を脱揮して、重合体中の残存モノマーを1.0質量%以下に低減する脱揮工程を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明は、水を収容する浴槽と、該浴槽内の水の温度を制御する手段と、該浴槽内に複数の袋状重合容器を互いに離間するように並列させて保持する手段を備えていることを特徴とする光学材料用重合体の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大規模な装置を必要とせずに、プラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材として好適なメタクリル酸メチル(共)重合体を安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<単量体>
本発明の光学材料用重合体は、少なくともメタクリル酸メチルを含む単量体を重合させて製造される。具体的にはメタクリル酸メチルの単独重合体、またはメタクリル酸メチルとビニル系単量体の共重合体である。該共重合体において、ビニル系単量体はメタクリル酸メチルと共重合が可能なものが用いられる。
該ビニル系単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、n−アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類;マレイミド類;アクリル酸;メタクリル酸;無水マレイン酸;スチレン等が挙げられる。
特にプラスチック光ファイバのクラッド材に用いられる光学材料用重合体を製造する場合は、クラッド材の透明性を損なわずに低屈折率化を達成し易い点で、ビニル系単量体としてフッ素化(メタ)アクリル酸エステルを用いることが好ましい。
【0012】
メタクリル酸メチルとフッ素化(メタ)アクリル酸エステルの共重合体としては、例えば、メタクリル酸メチルから誘導される単位(A)の10〜85質量%と、下記一般式(I)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートから誘導される単位(B)の15〜90質量%と、これら以外の他の共重合可能な単量体から誘導される単位(C)の0〜30質量%からなる共重合体が挙げられる。
CH=CX−COO(CH(CFY・・・(I)
(式中、Xは水素原子またはメチル基、Yは水素原子またはフッ素原子を示し、mは1又は2、nは1〜12の整数を示す。)
【0013】
フッ素化(メタ)アクリル酸エステルから誘導される単位(B)としては、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(6FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(8FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロブチル)エチル(9FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル(13FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(16FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,11H−(イコサフルオロウンデシル)(20FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロデシル)エチル(21FM)等の、直鎖状フッ素化アルキル基を側鎖に有するフッ素化(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。
【0014】
上記の他の共重合可能な単量体から誘導される単位(C)としては特に限定されないが、機械特性の向上の点からは(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単位が好ましい。耐熱性の向上の点からは(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルの単位;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸芳香族エステルの単位;(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチルの単位;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミドの単位;およびα−メチレン−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ、γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ−シクロヘキシル−γ−ブチロラクトン等のγ−ブチロラクトン系化合物の単位が好ましい。
【0015】
<重合開始剤>
本発明の光学材料用重合体の製造方法において、10時間半減期温度が50℃以上、90℃以下である重合開始剤が用いられる。
10時間半減期温度とは、重合開始剤の半減期(濃度が半分に減少するまでの時間)が10時間となる温度であり、熱分解温度の指標となる値である。本発明において10時間半減期温度が50℃以上、90℃以下である重合開始剤を用いる理由は、該10時間半減期温度が50℃より低いと、重合率が不十分になるおそれがあり、90℃より高いと重合率が十分な程度に達するまで比較的長時間を要するおそれがあるためである。
かかる重合開始剤としては、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロへキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等の熱重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、重合体の加熱着色の影響が小さいことから、アゾ系開始剤が好ましく、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル(すなわちジメチル―2,2′−アゾビス(イソブチレート))が特に好ましい。
【0016】
本発明で使用される重合開始剤の種類は1種類だけに限定されるものではなく、2種以上を併用してもよい。例えば重合温度や重合時間と、得られる重合体組成物における重合率を考慮して、10時間半減期温度が50℃以上、65℃以下の化合物と、10時間半減期温度が65℃より高く、90℃以下の化合物を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体100質量部に対して、例えば0.001〜3質量部の範囲に設定することができる。
【0017】
<連鎖移動剤>
また、重合時において分子量を調節する目的で連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、重合時に副反応や着色等の悪影響を及ぼさないものであればよく、特に限定されない。目的とする分子量に応じて任意に選択でき、複数種の連鎖移動剤を併用してもよい。
連鎖移動剤の具体例としては、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどの第一級、第二級、第三級メルカプタン;チオグリコール酸およびそのエステルなどが挙げられる。特に、n−ブチルメルカプタンやn−オクチルメルカプタンは低揮発性のため、溶融押出工程で揮発除去が容易であることから好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、単量体100質量部に対して例えば3質量部以下の範囲で適宜設定することができる。
【0018】
<第1の実施形態>
以下、本発明の光学用重合体の製造方法の第1の実施形態について説明する。
【0019】
図1は本実施形態で好適に用いられる光学用重合体製造装置の例を示した概略構成図である。図中符号11は浴槽11であり、その内部に温度制御された水を保持している。本発明において浴槽11内の水(以下、温水ということもある。)は、原料混合物の単量体を重合可能な温度に制御される。具体的にはメタクリル系重合体を重合可能な温度に制御され、概ね50〜95℃の範囲内の温度に制御される。
本実施形態では、該浴槽11内の温水の温度が一定となるように制御する温度制御手段として、温調装置14、温水ポンプ15を備えた温水供給配管16、およびオーバーフロー配管18を備えている。
浴槽11と温調装置14は、温水ポンプ15を備えた温水供給配管16、およびオーバーフロー配管18を介して連通されており、温調装置14で温度制御された温水が温水供給配管16を通って浴槽11内へ供給され、浴槽11からオーバーフローした温水がオーバーフロー配管18を通って温調装置14内へ流入するように構成されている。温調装置14内へ流入された温水は、所定の温度に制御された後、再び浴槽11に供給されて循環される。
温調装置14は、内部に熱電対などからなる温度センサー19および電気式ヒーター10が設置されており、温度センサー19によって検知された温調装置14内の温水の温度に応じて、電気式ヒーター10の出力が制御されるように構成されている。
浴槽11および温調装置14は、耐熱性と耐腐食性が良好である点から銅、又はステンレスで構成されることが好ましい。
【0020】
温水供給配管16のうち、浴槽11内部に配置される部分には、管の壁面に温水を吐出するための吐出穴16aが多数設けられている。温水供給配管16は浴槽11の底部に配され、温水が浴槽11の下方から上方に向かう方向(垂直方向)に供給されるように構成されている。
吐出穴16aの直径は3mm〜1cmの範囲であることが好ましい。吐出穴16aの配置は特に限定されないが、例えば管の上部に、長さ方向に沿って等間隔で設けることができる。吐出穴間の間隔は1cm〜5cmの範囲であることが好ましい。
温水を浴槽11内に均一に供給するために、温水供給配管16を浴槽11の底部にあまねく配置させることが好ましい。例えば、温水供給配管16を蛇行させて配置することが好ましい。具体的に、温水供給配管16の直径が2cmであれば、長さ1mに対し5回以上蛇行させることが好ましい。
【0021】
浴槽11内において、温水供給配管16の上方に、複数の袋状重合容器12が、互いに離間するように並列された状態で配される。本実施形態において、浴槽11内に複数の袋状重合容器12を互いに離間するように並列させて保持する手段としてマガジン13が設けられている。マガジン13は複数の袋状重合容器12を垂直に立てた状態で、互いに離間して収容できるようになっている。複数の袋状重合容器12の配列方向は水平方向である。
袋状重合容器12は後述する保持治具12aによって保持された状態でマガジン13に収容される。マガジン13の底部は、保持治具12aの両端部を支持する枠体13aからなっており、温水が、マガジン13の下方から該枠体13aの内方を通って上方に流動できるようになっている。隣り合う保持治具12aの間には、保持治具12aを立てた状態で保持するための仕切り部材13b設けられている。該仕切り部材13bも温水の流動をできるだけ妨げないように枠状となっている。
袋状重合容器12の配列方向において、隣り合う袋状重合容器12どうしの間の間隙は、これらの間を温水がスムーズに流動できる大きさであればよい。例えば袋状重合容器12の配列方向(本実施形態では水平方向)における該間隙の幅が5mm以上であることが好ましい。該間隙が5mmより小さいと温水の流れが不十分になり、各袋状重合容器12の温度を均一に制御することが困難になる。該間隙の幅の上限は特に制限されないが5cm以下が好ましい。隣り合う袋状重合容器12どうしの間の間隙は均一(等間隔)であることが好ましい。
また本実施形態では、温水供給配管16とマガジン13との間に、多孔板17が設けられている。該多孔板17は整流作用を有するものであればよい。該多孔板17を設けることにより温水をより均一に供給することができる。
【0022】
図2および図3は、袋状重合容器12および保持治具12aの例をそれぞれ示した図である。
袋状重合容器12は、複数の層からなる多層構造膜を袋状としたものが好ましい。該袋状重合容器12内に酸素が進入すると重合反応が阻害されるため、これを抑制するために、多層構造膜の少なくとも1層は、酸素透過係数が1.0×10−16cm(STP)cm/(cm・s・Pa)以下の高分子膜からなることが好ましい。また、該袋状重合容器12内に外部から水分が浸透するのを抑制するために、少なくとも1層はASTMD570で規定された吸水率が1%以下の高分子膜からなることが好ましい。また多層構造膜の合計厚さが50μm以上であることが好ましい。
例えば、最内層が厚さ100μmのポリエチレン樹脂、中間層が厚さ20μmのエチレン−ビニールアルコール共重合体、最外層が厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート樹脂からなる3層構造の多層膜を用いて形成された袋状重合容器12が好適である。
袋状重合容器12の形状は、原料混合物を内部に注入するための開口部を有し、かつ該開口部が気密かつ液密に密閉できる構造であればよく、特に限定されない。
【0023】
図2に示す例の保持治具22は、2枚の金網(格子)が互いに蝶着されて開閉自在になっている。この2枚の金網の間に袋状重合容器12を挟み、一方の金網の周囲に設けられた爪状の止め具23で該2枚の金網を互いに固定することにより、袋状重合容器12を挟持する。本例の保持治具22において、2枚の金網はこれらを閉じたときに、格子を構成している縦横の格子が、互いに近接するように構成されており、該保持治具22に挟持された袋状重合容器12は、その内部が、該縦横の格子22aによって区画された複数のセル(部屋)に分けられる。
したがって、袋状重合容器12の内部に収容されている原料混合物が、互いに比重の異なる複数種の単量体を含有する場合であっても、重合工程中に比重の高い単量体が下に沈むことによって重合体の組成斑が生じるのを抑制できる。
また、保持治具22に挟持された状態で、袋状重合容器12の露出面積が大きいため、重合工程中に重合発熱が起きた場合でも、袋状重合容器12内部の熱を周りの熱媒(温水)に効率良く逃すことができる。したがって重合の暴走や重合斑を抑制するうえでも好ましい。
【0024】
本例の保持治具22において、縦横の格子22aによって区画される網目22bの大きさは、縦をL1(cm)、横をL2(cm)とすると、
1≦L1+L2≦30、0.5≦L1≦15かつ0.5≦L2≦15であることが好ましく、
3≦L1+L2≦16、1.5≦L1≦8かつ1.5≦L2≦8であることがより好ましく、
6≦L1+L2≦10、3≦L1≦5かつ3≦L2≦5であることがさらに好ましい。
(L1+L2)が1より小さいと、格子の網目が細かくなりすぎて、袋状重合容器12内部の熱が周りの熱媒(温水)に逃されにくいために、袋状重合容器12内に熱が蓄積されやすくなる。(L1+L2)が30より大きければ、袋状重合容器12を浴槽11中に垂直に立てて配置した時に、縦横の格子22aによって区画された各セル内において、原料混合物が下部に集まって膨らんでしまうため、袋状重合容器12内の温度を均一に制御する事が難しくなり、その結果、重合組成斑を生じやすくなる。
本例の保持治具22は、耐熱性と耐腐食性が良好である点から銅、又はステンレスで構成されることが好ましい。
【0025】
図3に示す例の保持治具32は、厚みを均一にする治具であり、一面が開口している厚み一定の箱状である。この保持治具32の開口から袋状重合容器12を内部に挿入して用いる。これにより、袋状重合容器12を浴槽11中に垂直に立てて配置した時に、該袋状重合容器12の内容物が下部に集まって、袋状重合容器12の下部が膨らんでしまうことを防止できる。
本例の保持治具32は、耐熱性と耐腐食性や熱伝導性が良好である点から銅、又はステンレスで構成されることが好ましい。
【0026】
図2の例の保持治具22および図3に示す例の保持治具32の両方において、原料混合物が収容された袋状重合容器12を保持治具22(32)に保持した状態での、袋状重合容器12の厚みの上限は30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましく、15mm以下がさらに好ましい。該厚みが30mmより大きいと、重合熱が袋状重合容器12ないに滞留しやすいおそれがある。該厚みの下限は5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。該厚みが5mmより小さいと1個の袋状重合容器当たりの仕込み量が少なくなり、大量の袋状重合容器が必要となり生産性が悪い。
【0027】
<製造方法>
本実施形態の装置を用いて光学材料用重合体を製造するには、まず、メタクリル酸メチル、必要であればメタクリル酸メチルと共重合が可能なビニル系単量体およびその他の単量体、重合開始剤、および必要であれば連載移動剤を混合して原料混合物を調製する。
原料混合物中の溶存酸素量が20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下であることが好ましい。該溶存酸素量が20ppm以下であると、得られた光学材料用重合体を用いて製造したPOFの光伝送特性が良好となりやすい。該溶存酸素量を20ppm以下とする方法としては、原料混合物に不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス)を吹き込んだり、超音波振動(1〜10KHz)を加えたりする等の方法を用いることが可能である。
【0028】
[収容工程]
次いで、該原料混合物を袋状重合容器12に入れ、気密かつ水密に密閉する。
また、原料混合物を袋状重合容器12に入れる前に、予め孔径0.3μm以下のフィルターでろ過した原料混合物で袋状重合容器12の中を洗浄することが好ましい。
フィルターの孔径が0.3μmより大きい場合、光学材料用重合体の中に混入する異物のサイズが、可視光やPOFの通信波長(650nm付近)に対して相対的に大きくなり、異物による光散乱が増大するため、光学材料用重合体の透明性が低下したり、POFの場合には伝送損失が低下するおそれがある。
フィルターの材質は、原料混合物により腐食、溶解、膨潤しないことが必要であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のフィルターが、市販品として安価に入手できることから特に好ましい。
該洗浄は、袋状重合容器12内の原料混合物について、微粒子カウンタを用いて光散乱法で測定した、大きさ0.3μm以上のダスト数が、該原料混合物1cc当たり2.0×10個以下、より好ましくは2×10個以下、さらに好ましくは2×10個以下となるまで行うことが好ましい。洗浄後、原料混合物を孔径0.3μm以下のフィルターでろ過して袋状重合容器12に入れることが好ましい。該0.3μm以上のダスト数が上記の上限値以下であると、得られた光学材料用重合体を用いてPOFのコア材またはクラッド材料を製造したときに、光散乱損失が良好に抑制されて、POFの良好な光伝送特性が得られやすい。
微粒子カウンタによる異物数の測定方法については、ポリマーの場合は、1gに対して塩化メチレン100gを加え、一晩放置して十分溶解させた後、微粒子カウンタ装置(Pacific Sientific社製、装置名:ARS−2)で、大きさ0.5μm以上の異物数を測定した。原料混合物(モノマー)又は重合体溶液の場合には、原料混合物(モノマー)又は重合体溶液10gに対して塩化メチレン90gを加え、上と同様の手順で異物数を測定した。なお、塩化メチレンは、市販品をテフロン(登録商標)製フィルター(φ0.22μm)で濾過して、DMAc中の大きさ0.5μm以上の異物数が100個/g以下になることを確認した後、上記の測定に供した。
【0029】
原料混合物を袋状重合容器12に入れる際、1袋の袋状重合容器12に収容される原料混合物の量は0.2L以上、4.0L以下であることが好ましく、0.5L以上、3.0L以下がより好ましく、0.9L以上、2.1L以下がさらに好ましい。
1袋の袋状重合容器12に収容される原料混合物の量が上記の上限値より大きいと袋状重合容器12の内部における温度が不均一になりやすく、上記の下限値より小さいと生産性が低下する。
複数の袋状重合容器12内に入れる原料混合物の量は互いに同じ(等量)であることが好ましい。この場合、浴槽11内に同時に配される複数の袋状重合容器12に収容されている原料混合物の合計量をB(L)、袋状重合容器12の1袋に収容されている原料混合物の量をb(L)とするとき、5≦B/b≦100であることが好ましい。該B/bが5より大きいと該袋状重合容器12の数が5より小さいと生産性が低く、100より大きいと袋状重合容器12を大量に使用するため作業性が低下する。より好ましくは10≦B/b≦50であり、20≦B/b≦30がさらに好ましい。
【0030】
[一次重合工程]
次いで、図1に示すように、原料混合物を収容した袋状重合容器12を保持治具12aに保持した後、浴槽11内のマガジン13にセットし、該浴槽11内に温度制御された水を連続的に供給しながら、浴槽11内の水の量を一定に保ちつつ、単量体を重合させる。
浴槽11の容積をA(L)、マガジン13にセットされる複数の袋状重合容器12内の原料混合物の合計量をB(L)とするとき、20≦A/B≦150が好ましく、40≦A/B≦100がより好ましい。(A/B)が20より小さければ、浴槽11内の温水の循環が不十分となるおそれがあり、150より大きければ生産性が低下する。
ここで、本発明における浴槽の容積とは、浴槽の内壁で囲まれた空間全体の容積であり、浴槽内に収容される水の体積および袋状重合容器12の体積のほか、温水供給配管16、多孔板17、マガジン13の体積等も含んでいる。
また、浴槽11内のマガジン13にセットされる袋状重合容器12の数は、5以上、100以下が好ましく、10以上、50以下がより好ましく、20以上、30以下がさらに好ましい。該袋状重合容器12の数が5より小さいと生産性が低く、100より大きいと袋状重合容器12を大量に使用するため作業性が低下する。
【0031】
本工程における重合温度は、50℃以上、95℃以下の範囲に設定することが好ましく、60℃以上、75℃以下の範囲がより好ましい。具体的には、使用する重合開始剤の種類にもよるが、重合時間が30分以上、10時間以下の範囲において、本工程で得られる重合体組成物中の残存モノマーの含有量が好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下となるように重合温度を設定することが好ましい。
浴槽11内の水の温度は、この重合温度に保たれるように温度制御される。
本工程で得られた重合体組成物は、そのまま、又はより高い温度で重合を行なう二次重合工程に供した後に、脱揮押出機を用いて残存モノマーを揮発除去してプラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材として用いられる。一次重合工程直後における残存モノマーの含有量が8質量%より多いと、二次重合工程や、脱揮押出機による揮発除去の工程の負担が大きくなるため、好ましくない。
【0032】
温調装置14で温度制御された水(温水)を、浴槽11内にポンプ15により連続的に送液する際、単位時間当たりの温水の供給量をc(L/min)、浴槽11内における水の量をC(L)とするとき、(C/c)の上限は50以下が好ましく、30以下がより好ましい。(C/c)が50より大きいと、浴槽11の温度制御が困難になるおそれがある。(C/c)の下限は特に制限はないが、実用的には5より大きければ、浴槽11の温度制御を十分にできる。
また本実施形態においては、浴槽11内に並列して配されている袋状重合容器12の間を、温水が下方から上方に向かって流れるが、隣り合う袋状重合容器12の間隙における温水の流速が5cm以上であることが好ましい。該流速が5cm/秒より小さいと、袋状重合容器12内部で生じる重合発熱が周りの熱媒(温水)に逃されにくいために、袋状重合容器12内に熱が蓄積されやすく、重合斑を生じるおそれがある。該流速の上限については特に制限はないが、1.0m/秒程度であれば十分である。かかる隣り合う袋状重合容器12の間隙における温水の流速は温水供給配管16に送る温水の量や、または水蒸気供給配管43に送る水蒸気の量や、温水攪拌装置42により調整することができる。
【0033】
浴槽11内に配される袋状重合容器12の数がm個であり、一次重合工程中における各袋状重合容器12内の最高温度をそれぞれK、K、・・・・K(℃)とし、該K、K、・・・・K(℃)のうち最も高い温度をmaxK(℃)とし、浴槽11内の温水の制御温度(前記重合温度)をTa(℃)とするとき、TとmaxKとの差が、|T−maxK|≦30であることが好ましい。
上記式の左辺が30よりも大きいと、重合発熱が過剰に袋状重合容器12中に蓄積され、重合組成や分子量分布の斑が大きくなるおそれがある。このことは光学材料用重合体を製造するうえで重要な問題となる。上記式の左辺を30よりも小さくするには、温水の供給量や、複数の袋状重合容器12の間の間隔や、袋状重合容器12を保持している保持冶具12aの形状を適宜選択して組み合わせるにより達成できる。
【0034】
また同様に、一次重合工程中における各袋状重合容器12内の最高温度をそれぞれK、K、・・・・K(℃)とし、該K、K、・・・・K(℃)のうち最も高い温度をmaxK(℃)、最も低い温度をminK(℃)とするとき、maxKとminKとの差が、|maxK−minK|≦15であることが好ましい。
すなわち複数の袋状重合容器12における内部温度の最高値のばらつきが15℃以下になるような条件で、重合を行うことが好ましい。上記式の左辺が15よりも大きいと、重合発熱が過剰に袋状重合容器12中に蓄積され、重合組成や分子量分布の斑が大きくなるおそれがある。このことは光学材料用重合体を製造するうえで重要な問題となる。上記式の左辺を15よりも小さくするには、温水の供給量や、複数の袋状重合容器12の間の間隔や、袋状重合容器12を保持している保持冶具12aの形状を適宜選択して組み合わせることにより達成できる。
【0035】
[二次重合工程]
一次重合工程を経て得られた重合体組成物は、袋状重合容器12内に封入したまま、温度100℃以上、150℃以下に設置した恒温槽中に30分以上、6時間以下放置する二次重合工程に供して、重合体組成物中の残存モノマーを4質量%以下とすることが好ましい。
二次重合工程で得られる重合体組成物中の残存モノマーが4質量%より多い場合には、次の脱揮押出機による揮発除去の工程の負担が大きくなるため、好ましくない。
二次重合工程で得られる重合体組成物中の残存モノマーを4質量%以下とする方法としては、本工程における重合温度、すなわち前記恒温槽内の温度を、最終的に得ようとする光学材料用重合体のガラス転移温度よりも、5℃以上、50℃以下の範囲で高く、かつ重合体の熱分解や熱劣化が発生しない範囲で高くなるように設定し、本工程における重合時間を適切に設定することで達成できる。
【0036】
[脱揮工程]
一次重合工程、または一次重合工程および二次重合工程を経て得られる重合体組成物に対して、さらに脱揮押出機を用いて、残存モノマーを1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下となるように揮発除去することが好ましい。本発明における脱揮工程とは、残存モノマーを揮発除去する工程をいう。
該残存モノマーが1.0質量%より多い場合には、得られた光学材料用重合体を用いてプラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材を溶融紡糸する際に、ファイバ中で残存モノマーの揮発が原因で発泡が発生したり、プラスチック光ファイバの光学特性が低下したり、長期耐熱性が低下するおそれがある。
残存モノマーを1.0質量%以下とするには、一次重合工程が終了した後の重合体組成物中に含まれる残存モノマーの含有量をより低減することや、脱揮押出機の押出温度を光学材料用重合体の熱分解や熱劣化が発生しない範囲でより高く設定すること等により達成できる。
【0037】
こうして得られる重合体組成物は、プラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材として好適に用いられる。該重合体組成物は、微粒子カウンタを用いて光散乱法で測定した、重合体1g当たりの、大きさ0.5μm以上、1.0μm以下の極微小のダスト数が2.0×10個以下であることが好ましく、2.0×10個以下がより好ましく、2.0×10個以下であることがさらに好ましい。該極微小ダスト数が2.0×10個より多いと、光散乱損失が大きくなるために、POFの光学性能が低下しやすい。
該極微小ダスト数を2.0×10個以下とするためには、前述したように、原料混合物を袋状重合容器12に入れて重合工程に供する前に、予め孔径0.3μm以下のフィルターで予めろ過した単量体混合物で袋状重合容器の中を十分洗浄し、さらに原料混合物を孔径0.3μm以下のフィルターでろ過した後に袋状重合容器12に収容することや、あるいは脱揮押出機の最中に熱分解物を生成させないように、できるだけ低い温度で脱揮押出機による残存モノマーの揮発除去操作を行なうことにより達成できる。
【0038】
<第2の実施形態>
次に、本発明の光学用重合体の製造方法の第2の実施形態について説明する。
図4は本実施形態で好適に用いられる重合装置の例を示した概略構成図である。図中符号41は浴槽を示す。本実施形態では、該浴槽41内の温水の温度が一定となるように制御する温度制御手段として、水蒸気の供給源(図示せず)、水蒸気の供給配管43、および電磁弁45を備えており、温度制御された水蒸気を浴槽41内の温水中に供給することによって該温水の温度を制御するように構成されている。
すなわち浴槽41内の下方隅部に、水蒸気の供給配管43が水平方向に延びており、該供給配管43は電磁弁45を介して、外部に設けられた水蒸気の供給源(図示せず)に接続されている。水蒸気の供給配管43には、前記第1の実施形態における温水供給配管16と同様に水蒸気を吐出するための吐出穴が多数設けられている。
浴槽41内には、浴槽内の温水の温度分布を均一にするための攪拌装置42が設けられている。また、浴槽41内に配される袋状重合容器近傍の温水の度を測定する温度センサー44が設けられている。
本実施形態においては、浴槽41内の温水の温度、すなわち温度制御用センサー44により測定される温度が所定の制御温度で一定となるように、供給配管43より供給される水蒸気量が電磁弁45でコントロールされるようになっている。
浴槽41は、耐熱性と耐腐食性が良好である点から銅、又はステンレスで構成されることが好ましい。
【0039】
本実施形態においては、浴槽41内に複数の袋状重合容器を互いに離間するように並列させて保持する手段として保持冶具収納籠46が用いられる。
すなわち袋状重合容器は、図5に示すように、保持治具32によって保持された状態で収納籠46に互いに間隔をおいて収納され、該収納籠46の取っ手47を浴槽41内に設けられたフック(図示せず)に掛けることにより、浴槽41内に配置される。本実施形態における複数の袋状重合容器の配列方向は垂直方向である。
収納籠46に収納された状態で、隣り合う袋状重合容器どうしの間隙の幅は、温水がスムーズに流動できる大きさであればよい。例えば保持治具32の配列方向(本実施形態では垂直方向)における間隙が5mm以上であることが好ましい。該間隙が5mmより小さいと温水の流れが不十分となり、各袋状重合容器の温度を均一に制御することが困難になる。該間隙の幅の上限は特に制限されないが5cm以下が好ましい。
保持治具32に代えて、図2に示す格子からなる保持治具22を用いてもよい。
【0040】
本実施形態の装置を用いて光学材料用重合体を製造するには、前記第1の実施形態と同様に原料混合物を調製し、これを袋状重合容器に入れて密閉する。
一次重合工程においては、原料混合物を収容した袋状重合容器を保持治具32に保持した後、収納籠46に収納し、これを浴槽41内にセットする。
第1の実施形態と大きく異なる点は、第1の実施形態が水を連続的に供給しながら、浴槽11内の水の量を一定に保ち、供給される水の温度を制御することによって浴槽11内の水の温度を所定の制御温度に保つのに対して、本実施形態では供給配管43より供給される水蒸気量をコントロールすることにより、浴槽41内の温水の温度を制御温度に保つ点である。水蒸気の供給は間欠的に行ってもよい。
その他は、第1の実施形態と同様にして光学材料用重合体を製造できる。
【0041】
[変形例]
なお、第1の実施形態においては、袋状重合容器12を垂直に立てて保持し、水平方向に間隔をおいて並べたが、袋状重合容器12を水平に保持し、配列方向を垂直方向としてもよい。
また第2の実施形態においては、袋状重合容器を水平に保持し、垂直方向に間隔をおいて並べたが、袋状重合容器を垂直に保持し、配列方向を水平方向としてもよい。
いずれにしても、複数の袋状重合容器の間における温度の均一性の点からは、互いに並列に配されている複数の袋状重合容器の配列方向に対して、温水の供給方向が垂直となるように、配置することが好ましい。
【0042】
上記実施形態の方法によれば、袋状重合容器内の温度斑、及び複数の袋状重合容器間の温度斑を抑制することができる。したがって、(共)重合体の分子量分布の広がりや共重合組成の斑を抑制でき、品質の高い光学材料用重合体を、安定に量産することが可能である。
また、プラスチック光ファイバのコア材又はクラッド材において重要な問題となる光散乱物質の混入を抑えることもできる。例えば、大きさ0.5μm以上、1.0μm以下の極微小ダストが、好ましくは光学材料用重合体の1g当たり2.0×10個以下である光学材料用重合体を製造できる。
また小規模な装置で実施することができ、設備投資や製造運転に要する費用、時間を抑えることができる。また多品種少量生産にも適している。
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることが可能であることは勿論である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、袋状重合容器としては、最内層が厚さ100μmのポリエチレン、中間層が厚さ20μmのエチレン−ビニールアルコール共重合体、外層が厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートで構成された3層構造の積層体を用いて形成された袋を使用した。
【0044】
(実施例1)
図1に示す装置を用い、表1に示す条件で光学材料用重合体を製造した。
まず、メタクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル30質量部、メタクリル酸−1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロエチル50質量部、メタクリル酸メチル18質量部、およびメタクリル酸1質量部から成る単量体混合物に対してn−オクチルメルカプタン0.035%及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1%を添加して原料混合物を調製した。この原料混合物を酸素不在下で精製窒素ガス(酸素濃度100ppd以下)で1時間バブリングした。バブリング後の原料混合物中の溶存酸素量は、1.0ppmであった。
次に、孔径0.2μmのPTFEメンブレンフィルターを介して、袋状重合容器に、その容積の1/2量の原料混合物を注ぎ入れ、袋状重合容器の中を共洗いした。この操作を3回繰り返した後、孔径0.2μmのPTFEメンブレンフィルターを解して原料混合物の24L(=原料混合物の総量:B)を12個の袋状重合容器に各2.0L(=1袋当たりの原料混合物の量:b)注入した。
このとき、袋状重合容器内の原料混合物について、微粒子カウンタを用いて光散乱法で測定した、大きさ0.3μm以上のダスト数は、原料混合物1cc当たり5.1×10個であった。
【0045】
このようにして準備した12個の袋状重合容器を、図2に示す金網(格子)からなる保持冶具22(網目の大きさ:縦10cm×横10cm)挟んで固定した後、図1に示す装置の浴槽11内にセットした。浴槽11の容積(A)は1000Lである。
温調装置14から温度65℃に制御した温水を連続的に供給することにより、浴槽11内の温水を65℃に保ちながら、5時間重合させた(一次重合工程)。浴槽11内の温水の量(C)は975Lで一定とし、温水供給量(c)は25L/分とした。一次重合工程で得られた重合体組成物の残存モノマー(表には第1の残存モノマーと記載する。)は4.6質量%であった。
本実施例においてA/B=41.7、B/b=12、C/c=39である。また、袋状重合容器の間を流れる温水の流速は10〜20cm/秒であった。
【0046】
各袋状重合容器内に熱電対センサーを設置し、一次重合工程の開始直後から、各袋状重合容器の内部温度の経時変化を測定した。その結果を図6に示す。図6中の番号1〜6は、浴槽11内に配されている12個の袋状重合容器に対して、端から1個おきに順番に番号をつけた6個の袋状重合容器を示している。
この図に示されるように、浴槽11内の温水の温度(Ta=65℃)と、6個の袋状重合容器の重合発熱温度(最高温度)のうち最も高い温度(maxK=89℃)との差は24℃であった。また、6個の袋状重合容器の重合発熱温度のうち最も高い温度(maxK=89℃)と最も低い温度(minK=87℃)との差は2℃であった。これらの結果を表1に示す。
【0047】
続いて、袋状重合容器を、120℃に設定した蒸気乾燥機の中に2時間放置して二次重合工程を行った。二次重合工程で得られた重合体組成物の重合率は98.8%以上であり、残存モノマー(表には第2の残存モノマーと記載する。)は1.2質量%以下であった。
【0048】
続いて、得られた重合体組成物を、2ベント式の一軸押出機に供して残存モノマー類の揮発除去操作を行った。その結果、得られた重合体組成物の重合率は99.7%〜99.8%であり、残存モノマー(表には第3の残存モノマーと記載する。)は0.2〜0.3質量%)であった。
得られた重合体組成物を、空気中のダスト類等が混入しないように十分注意しながら、充分に濾過した塩化メチレン溶液に溶解した。得られた溶液において、微粒子カウンタを用いて光散乱法で測定した、大きさ0.5μm以上、1.0μm以下の極微小ダストは、重合体組成物1g当たり、6.1×10個であった。
また、ゲルパーミエーションカラムクロマトグラフィー(GPC)で測定した、ポリスチレン換算分子量Mw(以下、同様。)は324,000であり、Mw/Mn=1.82であった。
【0049】
次に、得られた重合体組成物をクラッド材とし、PMMAをコア材としてPOF素線を製造した。すなわち、これらの重合体をそれぞれ溶融して225℃の紡糸ヘッドに供給し、同心円状複合ノズルを用いて紡糸した後、150℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に2倍に延伸して、クラッド厚み10μm、直径1mmのPOF素線を得た。得られたPOF素線の伝送損失を励振NA=0.1の光を用い、25−1mのカットバック法により評価した。このPOF素線の伝送損失は,650nmの波長で入射NA0.1で測定したときは132dB/kmであり、入射NA0.65では165dB/kmであり、非常に良好であった。これらの結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
図4に示す装置を用い、表1に示す条件で光学材料用重合体を製造した。
実施例1と同様にして原料混合物を調製し、精製窒素ガスによるバブリングを行った後、袋状重合容器に注入した。ただし、原料混合物の総量(B)、1袋当たりの原料混合物の量(b)を表1のとおりに変更した。
このようにして準備した20個の袋状重合容器を、図3に示す箱状のステンレス製保持冶具32(厚みの内寸1.5cm)内に挿入し、さらに図5に示す収納籠46に水平方向に重ね並べた状態に収納した。収納籠46は2個用い、それぞれに10個の保持冶具32を収納した。
次いで、2個の収納籠46を、浴槽41の中に、各袋状重合容器が水平になるように設置し、各袋状重合容器を温水に完全に浸漬させた。浴槽41の容積(A)は300Lである。
浴槽41内へ水蒸気を供給し、浴槽41内の温水の温度が65℃になるように、供給配管43から供給する蒸気の量を制御しながら、5時間重合を行った(一次重合工程)。袋状重合容器の間を流れる温水の流速、得られた重合体組成物における残存モノマー量(第1の残存モノマーと記載する。)を表1に示す。
【0051】
また、実施例1と同じように、一次重合工程における、各袋状重合容器の内部温度の経時変化を測定した。その結果を図7に示す。図7中の番号R1〜R3、L1〜L3は、2個の収納籠46内に収納されている各10個の袋状重合容器(R、L)について、上から1個目、5個目、10個目に番号をつけたものである。Ta、maxK、minK、TaとmaxKとの差、maxKとminKの差は表1のとおりであった。
続いて、実施例1と同様にして二次重合工程を行った。得られた重合体組成物の重合率は98.5%以上(残存モノマー1.5質量%以下)であった。
続いて、実施例1と同様にして残存モノマー類の揮発除去操作を行った。その結果、得られた重合体組成物の重合率は99.6%〜99.7%(残存モノマー0.3〜0.4質量%)であった。
この重合体組成物について、実施例1と同様にして測定した極微小ダストの数、Mw、およびMw/Mnを表1に示す。
さらに、実施例1と同様にしてPOF素線を製造し、伝送損失を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
(実施例3)
実施例2において、袋状重合容器の保持冶具を、実施例1と同様の金網(格子)からなる保持冶具22に変更したほかは同様にして、光学材料用重合体を製造した。製造条件および実施例2と同様にして測定した各測定結果を表1および図8に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
図6〜8のグラフを見て解るように、実施例1〜3のいずれにおいても、同一の浴槽内で重合反応させた6個の袋状重合容器の温度はほぼ均一に制御できていた。特に実施例1は該温度の均一性に優れており、次いで実施例3が良好であった。
実施例1〜3で得られた光学材料用重合体は、いずれも重合率が高く、光散乱物質(極微小ダスト)の混入が少なく、分子量分布の広がりが小さかった。
また得られた光学材料用重合体を用いて製造したPOFは、伝送損失が良好であり、特に実施例1は伝送損失がより小さくて優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の光学材料用重合体の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】保持治具の一例を示す説明図である。
【図3】保持治具の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の光学材料用重合体の製造装置の他の例を示す概略構成図である。
【図5】保持治具の収納籠の例を示す説明図である。
【図6】実施例1において各袋状重合容器の内部温度の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
【図7】実施例2において各袋状重合容器の内部温度の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
【図8】実施例3において各袋状重合容器の内部温度の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
10…電気ヒーター、
11、41…浴槽、
12…袋状重合容器、
12a、22、32…保持治具、
13…マガジン、
14…温調装置、
15…温水ポンプ、
16…温水供給配管、
17…多孔板、
18…オーバーフロー配管、
19…温度センサー、
42…攪拌装置、
43…水蒸気の供給配管、
44…温度センサー、
45…電磁弁、
46…収納籠。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともメタクリル酸メチルを含む単量体を重合させて光学材料用重合体を製造する方法であって、
前記単量体、および10時間半減期温度が50℃以上90℃以下である重合開始剤を含む原料混合物を、複数の袋状重合容器内に収容して密閉する収容工程と、
該複数の袋状重合容器を、温度制御された水が入っている浴槽内に、互いに離間するように並列させて配した状態で、前記単量体を重合させる重合工程と、
得られた重合体を脱揮して、重合体中の残存モノマーを1.0質量%以下に低減する脱揮工程を有することを特徴とする光学材料用重合体の製造方法。
【請求項2】
前記浴槽の容積をA(L)、前記複数の袋状重合容器に収容されている前記原料混合物の量の合計をB(L)とするとき、20≦A/B≦150であることを特徴とする、請求項1に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項3】
前記袋状重合容器の1袋に収容される前記原料混合物の量が0.2L以上、4.0L以下である請求項1または2に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、前記袋状重合容器の配列方向に対して垂直方向に、温度制御された水を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項5】
前記袋状重合容器の配列方向において隣り合う袋状重合容器の間隙における、水の流速が5cm/秒以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程において、前記浴槽内に前記複数の袋状重合容器を配し、該浴槽内に温度制御された水を連続的に供給し、かつ該浴槽内の水の量を一定に保つとともに、
該浴槽内の水の量をC(L)、該浴槽内への水の単位時間当たりの供給量をc(L/min)とするとき、C/c≦50とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項7】
前記袋状重合容器を、その厚みを均一にする治具で保持した状態で、前記浴槽内に配することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項8】
前記袋状重合容器を格子で挟持した状態で、前記浴槽内に配することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項9】
前記重合工程において前記浴槽内の水の温度がTa(℃)で一定となるように制御し、
前記浴槽内に配される前記袋状重合容器の数がm個であり、前記重合工程中における各袋状重合容器内の最高温度をそれぞれK、K、・・・・K(℃)とし、該K、K、・・・・K(℃)のうち最も高い温度をmaxK(℃)とするとき、|T−maxK|≦30であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項10】
前記浴槽内に配される前記袋状重合容器の数がm個であり、前記重合工程中における各袋状重合容器内の最高温度をそれぞれK、K、・・・・K(℃)とし、該K、K、・・・・K(℃)のうち最も高い温度をmaxK(℃)、最も低い温度をminK(℃)とするとき、|maxK−minK|≦15であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項11】
前記重合工程の後、かつ前記脱揮工程の前に、前記袋状重合容器を100℃以上150℃以下の恒温槽中に30分以上6時間以下保持する二次重合工程を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項12】
前記収容工程において、孔径0.3μm以下のフィルターでろ過した前記原料混合物を用いて前記袋状重合容器の中を洗浄した後、該洗浄された重合容器袋内に、孔径0.3μm以下のフィルターでろ過した前記原料混合物を収容することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項13】
前記光学材料用重合体が、プラスチック光ファイバのコア材用又はクラッド材用である請求項1〜12のいずれか一項に記載の光学材料用重合体の製造方法。
【請求項14】
水を収容する浴槽と、該浴槽内の水の温度を制御する手段と、該浴槽内に複数の袋状重合容器を互いに離間するように並列させて保持する手段を備えていることを特徴とする光学材料用重合体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−111073(P2008−111073A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296015(P2006−296015)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】