説明

光学素子、偏光板、位相差板、照明装置、および液晶表示装置

【課題】正面及び斜めからの観察において同様の色バランスがとれた画像を表示するために用いる、ハンドリング性等に優れた光学素子を提供する。
【解決手段】ビカット軟化点が120℃以上で且つメチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Aにより形成された層Aと、メチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Bと、弾性体粒子とを含有し、ビカット軟化点が95℃〜115℃で且つ引張破壊ひずみが15%以上である樹脂組成物により形成された層Bとを、それぞれ少なくとも1層有し、層Bが最表面層となる積層体からなる透明基材と、該透明基材の上に形成された選択反射層とを有する、光源を備えた装置に用いる光学素子であって、入射角0度の光線を反射する波長帯域の下限λLが、光源が発する光の中で600nm〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長λR1よりも長い、光学素子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、偏光板、位相差板、照明装置、および液晶表示装置に関する。具体的には、正面及び斜めからの観察において同様の色バランスがとれた画像を表示するために用いる、耐高温高湿性、及びハンドリング性に優れ、十分な表面硬度を有する光学素子、偏光板、位相差板、照明装置、および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、光源と、二枚の二色性偏光子と、この二色性偏光子に挟まれて配置された液晶セルとを含むものである。冷陰極管、熱陰極管、LED(発光ダイオード)、EL(エレクトロルミネセンス)などの光源からの光は、青色光(波長410〜470nm)、緑色光(波長520〜580nm)、及び赤色光(波長600〜660nm)がバランスされ白色発光する。該光は一枚目の二色性偏光子で直線偏光に変換される。該直線偏光は、液晶セルにおける電圧印加又は電圧無印加の違いによって、位相がそのまま又は反転された直線偏光に変換される。一枚目の二色性偏光子の偏光透過軸と二枚目の二色性偏光子(検光子ともいう。)の偏光透過軸が直角の場合、液晶セルで位相が反転された直線偏光は二枚目の二色性偏光子を透過し、液晶セルで位相がそのままの直線偏光は二枚目の二色性偏光子を通過できない構成となる。一般に、入射角0度から入射する光に対して位相を反転できる(すなわち、位相を二分の一波長遅らせる)ものであっても、斜めから入射する光に対しては、位相の遅延をちょうど二分の一波長にすることができず、歪みを生じる。この歪みの度合いは波長によって異なってくる。その結果、正面から観察したときのカラー画像の色合いと、斜めから観察したときのカラー画像の色合いが異なる。
【0003】
また、輝度を向上させるために反射性偏光子が使われることがある。反射性偏光子では、斜めから入射する光の選択反射帯域が真正面から入射する光の選択反射帯域に比べて短波長側にシフトする。正面から入射する光について可視光領域全体を反射できる反射性偏光子であっても、斜めから入射する光については長波長の光(赤色光)を反射できないことがある。このようなことから、液晶表示装置では、一般に、正面から観察したときのカラー画像の色合いと、斜めから観察したときのカラー画像の色合いが異なる。
【0004】
この観察角度による色合いの相違を解消するために、特許文献1では、垂直入射光に対して波長λ1〜λ2(λ1<λ2)に選択反射帯域を示すコレステリック液晶層からなり、組み合されて使用される光源の発光スペクトルの極大波長λ0に対してλ0<λ1を満たすコリメータをバックライトシステムに配置することが提案されている。特許文献1に記載のコリメータは、様々な角度で進む光を、垂直方向に進む光だけに揃える機能を有するものである。従って、斜めから入射する光線はこのコリメータによって反射され透過しない。
【0005】
また特許文献2では、法線方向の可視光領域の入射光に対しては透過特性を有し、赤外域に反射波長帯域を有し、法線方向に対する入射角が大きくなるにしたがい、反射波長帯域が短波長側に変化する赤外反射層(B)を照明装置に配置することが提案されている。特許文献2には赤外反射層(B)として、入射角45度の波長710nm、640nm又は610nmの光の透過率が10%以下となるものが開示されている。すなわち、赤外反射層(B)は、斜めから入射する赤色光は赤外反射層(B)によってほぼ完全に反射又は吸収されてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2002−169026号公報(米国公開公報2002/0036735)
【特許文献2】特開2004−309618号公報
【0007】
ところで、偏光板は、二色性偏光子と、その両面に積層された保護フィルムとからなるものである。二色性偏光子としては、一軸配向ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素及び/又は二色性染料を吸着させたものが一般的に使用されている。また保護フィルムとしてはトリアセチルセルロース(以下、TACと言う)フィルム等のセルロースエステルフィルムが、その平面性、光線透過性、光学等方性等に優れるという理由から、一般的に使用されている。
【0008】
しかしながら、TACフィルムは水分透過率が高く、湿度による寸法変化が大きい。そのため、保護フィルムとして使用した場合には、偏光板の耐久性を損ね、偏光板の使用環境を制限してしまう。
例えば高温高湿の条件下では、TACフィルムを透過した水分により、偏光子が脱色し、偏光特性は大きく低下してしまう。また、偏光板が大型化した場合には、湿度による偏光子、およびTACフィルムの寸法変化が原因となり、偏光板周辺部の偏光特性が低下してしまう現象が観られる。
従って、自動車搭載用等、高温高湿の過酷な条件下に曝される場合、あるいは大型テレヴィジョン等の大画面用途においては、より耐高温高湿性に優れた保護フィルムが要求される。
【0009】
また、ディスプレイ最表面に配される偏光板保護フィルムについては、耐傷付き性も重要な特性となる。従来は、TACフィルム表面に紫外線硬化型樹脂、あるいは熱硬化型樹脂からなるハードコート層を形成して耐傷付き性を向上させてきた。しかしながら、斯様なハードコート層を形成しても、下層のセルロースフィルム自体が柔らかく、塑性変形してしまうため、十分な耐傷付き性を実現することはできなかった。
【0010】
水分透過率、耐傷付き性を改善する手段として、保護フィルムにポリメチルメタクリレート(以下PMMA)樹脂フィルムを使用することが提案されている。PMMA樹脂フィルムは、光線透過率が高く、光学的等方性にも優れるため、保護フィルムとして使用できるとの記述が各種文献に散見される。またPMMA樹脂フィルムは、TACフィルムと比較して水分透過率が1/100程度と低く、耐傷付き性も格段に優れる。
【0011】
しかしながら、保護フィルムとしてのPMMA樹脂フィルムには2つの欠点が存在する。
1点目は、機械的強度に劣り、非常に脆く、裂けやすいということである。容易に破断してしまうため、ロールトゥロールの合理的な製造工程で偏光板を生産することができない。
2点目は耐熱性が低いということである。偏光板の耐久性試験条件では、温度90℃/95%RHという過酷な高温高湿下となる。斯様な高温条件下においては、PMMA樹脂の機械強度が著しく低下し、偏光子を支持することができない。
【0012】
特許文献3には、メチルメタクリレート単位とN−シクロへキシルマレイミド単位とからなる共重合体中に、多層構造のアクリルゴム粒子を混合した、耐熱性アクリル樹脂組成物が開示されている。本樹脂組成物は耐熱性に優れる上、アクリルゴム粒子の働きで機械的強度も改善され、フィルムへの加工に好適であると報告されている。しかしながら、アクリルゴム粒子を添加すると、耐傷付き性と高湿条件下での耐熱性が低下する傾向がある。
【0013】
特許文献4には、メタクリル酸メチルとN−アルキルマレイミドや無水マレイン酸等との共重合体からなるフィルムを2軸延伸することで、機械的強度が向上し、耐久性、耐熱性に優れる偏光板保護フィルムとなることが開示されている。しかし、延伸することで光学異方性が発現し、ディスプレイ表示品質を損なう恐れがある。また高温条件下では、延伸で生じた分子配向が緩和されるため、フィルムの耐熱性が低下する傾向がある。
【0014】
特許文献5には、軟質層(曲げ弾性率1500MPa以下)と硬質層(曲げ弾性率1600MPa以上)とを積層したアクリル系樹脂フィルムが開示されている。本フィルムを使用することで、耐傷付き性を高く維持しながら、機械的強度を改善することができると開示している。曲げ弾性率が1500MPa以下の軟質層には、メタクリレート樹脂にゴム粒子を配合したものを用いている。メタクリレート樹脂としては、メタクリレートの単独又は共重合体や、メタクリレートとアクリレートとの共重合体などが挙げられている。
【0015】
【特許文献3】特開平5−98113号公報
【特許文献4】特開平5−288929号公報
【特許文献5】特開平2002−292808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、正面及び斜めからの観察において同様の色バランスがとれた画像を表示するために用いる光学素子、偏光板、位相差板、照明装置、および液晶表示装置を提供することにある。
本発明の目的は、光学性能、耐高温高湿性、及びハンドリング性に優れ、十分な表面硬度を有する、偏光板保護フィルムに適した光学素子、偏光板、位相差板、照明装置、および液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記特許文献に開示されている液晶表示装置を正面から観察した場合には、青色、緑色及び赤色が良くバランスした画像が得られるが、斜めから観察した場合には、黒表示時に青みを帯びた画像になってしまうことに気付いた。そして、この原因は、上記特許文献1及び2で用いているコリメータ又は赤外反射層(B)が斜めから入射する赤色光を遮断しすぎているからであることに思い至った。
また本発明者らは、特許文献3で提案された積層フィルムを検討した結果、高湿条件下での耐熱性の低下が確認された。そこで本発明者らは、この原因を、当該フィルムが曲げ弾性率1500MPa以下という極めて柔らかい層を有するため、ビカット軟化点が95℃より低くなることによるものと推定した。
【0018】
そこで、本発明者らは、特定のビカット軟化点等を有するメタクリル樹脂の層Aと、弾性体粒子とメタクリル樹脂とを含む樹脂組成物の層Bを含む積層体上に選択反射層を形成し、光源の600nm〜700nmの波長域中で最大発光強度を示す光の波長λR1よりも長い波長の帯域(λL〜λH)に入射角0度の光を反射する帯域を有する光学素子を、液晶表示装置の照明装置に備えたところ、正面及び斜めからの観察において同様の色バランスがとれた画像を表示でき、耐高温高湿性、及びハンドリング性に優れ、十分な表面硬度を有することを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らはさらに検討を加え、本発明を完成するに至った。
【0019】
かくして本発明は、以下のものを含む。
(1) 透明基材と、該透明基材の上に形成された選択反射層とを有する、光源を備えた装置に用いる光学素子であって、
該透明基材が、ビカット軟化点が120℃以上で且つメチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Aにより形成された層Aと、
メチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Bと、弾性体粒子とを含有し、ビカット軟化点が95℃〜115℃で且つ引張破壊ひずみが15%以上である樹脂組成物により形成された層Bとを、
それぞれ少なくとも1層有し、
層Bが少なくとも一方の最表面層となる積層体からなるものであり、
入射角0度の光線を反射する波長帯域の下限λLが、光源が発する光の中で600nm〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長λR1よりも長い、光学素子。
【0020】
(2) 透明基材が、前記層Aの両面に、前記層Bが積層されてなる、平均厚さが100μm未満の積層体である、請求項1に記載の光学素子。
【0021】
(3) 入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が40%以上80%以下である、前記の光学素子。
(4) 入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が60%以上であり、
入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率より大きい、前記の光学素子。
(5) 入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が50%以上80%以下である、前記の光学素子。
【0022】
(6) 選択反射層がコレステリック規則性を持つ樹脂層を含む、前記の光学素子。
(7) 選択反射層がコレステリック規則性を持つ樹脂層を含み、
該樹脂層のカイラルピッチが400nm以上であり、且つ
入射角0度における選択反射帯域での最大反射率が10%以上40%以下である、前記の光学素子。
(8) 入射角0度における選択反射帯域で最大反射率を示す波長の光を、入射角60度で入射したときの反射率が、入射角0度における前記最大反射率の50%以上90%以下である、前記の光学素子。
(9) 入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均反射率が20%以上60%以下である、前記の光学素子。
【0023】
(10) 前記の光学素子と、直線偏光子とを積層させた偏光板。
(11) 前記の光学素子と、位相差素子とを積層させた位相差板。
(12) 光反射素子、光源、光拡散素子、及び前記の光学素子が、この順に配置された照明装置。
(13) 光反射素子、光源、光拡散素子、及び前記の偏光板が、この順に配置された偏光照明装置。
(14) 光反射素子、光源、光拡散素子、前記の光学素子、直線偏光子、液晶パネル及び検光子が、この順に配置された液晶表示装置。
(15) 光源が冷陰極管、熱陰極管、発光ダイオード、及びエレクトロルミネセンスから選択されるものである前記の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0024】
従来の液晶表示装置では、斜めから観察したときに、赤みを帯びることが多かった。それは、正面から観察したときの青色、緑色及び赤色の光量バランスに対して、斜めから観察したときの赤色の光量が青色及び緑色の光量に比べ相対的に高くなるからである。一方、特許文献1及び2のように斜めから入射する波長710nm、640nm又は610nmの光の透過率を10%以下にしてしまうと、正面から観察したときの青色、緑色及び赤色の光量バランスに対して、斜めから観察したときの赤色の光量が青色及び緑色の光量に比べ相対的に低くなりすぎてしまう。その結果、斜めから液晶表示装置を観察したときに、青みや赤みを帯びたり、暗くなったりする傾向にあった。
【0025】
本発明の光学素子は、斜めから観察したときの青色、緑色及び赤色の色バランスが、正面から観察したときの青色、緑色及び赤色のバランスと同様のバランスに調整できる。その結果、斜めから観察したときに、赤みを帯びたり、青みを帯びたりすることがなくなり、色再現範囲を広くできる。
【0026】
本発明の一実施態様の光学素子は、選択反射層がカイラルピッチ400nm以上であるコレステリック樹脂層を含み、且つ入射角0度における選択反射帯域での最大反射率が10%以上40%以下である。コレステリック樹脂層は入射角が大きくなると選択反射帯域が短波長側にシフトするので、本発明の光学素子を光源を有する装置に据え付けると、斜めから観察したときの青色、緑色及び赤色の色バランスが、正面から観察したときの青色、緑色及び赤色のバランスと同様のバランスに調整できる。その結果、斜めから観察したときに、赤みを帯びたり、青みを帯びたりすることがなくなり、色再現範囲を広くすることができる。
【0027】
また、本発明の光学素子は、柔軟で撓み性に優れ、表示画面に干渉縞などの視認不良が起きず、さらに表示画面の額縁付近での光漏れ、色むら、着色等による視認不良が無い液晶表示装置を提供できる。本発明の光学素子は、耐高温高湿性、及びハンドリング性に優れ、十分な表面硬度を有する。さらに、表面硬度が高いので、耐擦傷性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】光源の発光スペクトルの一例を示す図。
【図2】選択反射帯域を説明するための図。
【図3】本発明の光学素子(円偏光反射板)の一例を示す図。
【図4】本発明の液晶表示装置の一例の構成を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1:透明基材
2:配向膜
3:コレステリック樹脂層
11:偏光子Y(検光子)
12:液晶セル
13:偏光子X
17:本発明の光学素子(円偏光反射板)
18:光拡散板
19:冷陰極管
20:反射板
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の光学素子は、ビカット軟化点が120℃以上で且つメチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Aにより形成された層Aと、
メチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Bと、弾性体粒子とを含有し、ビカット軟化点が95℃〜115℃で且つ引張破壊ひずみが15%以上である樹脂組成物により形成された層Bとを、
それぞれ少なくとも1層有し、
層Bが少なくとも一方の最表面層となる積層体からなる透明基材と、
該透明基材の上に形成された選択反射層とを有し、
入射角0度の光線を反射する波長帯域の下限λLが、光源が発する光の中で600nm〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長λR1よりも長い光学素子である。
なお、本発明の光学素子は、光源とともに用いられる部材であって、この光源の光出射側に配置されるものである。
【0031】
本発明の光学素子は、光線を反射する波長帯域(以下、選択反射帯域ということがある。)がある。図2の実線30は入射角0度における反射率の波長依存性を示すものである。選択反射帯域は実線30のように、特定波長域(λLからλHの間の波長域)において反射率が他の部分よりも大きくなっている部分である。図2では選択反射帯域と非選択反射帯域との境界でくっきりと反射率が変化し、グラフが矩形又は台形状を成しているが、反射率が緩やかに変化して、例えば、グラフが放物線のような緩やかな山形形状を成していても良い。ここで選択反射帯域の下限λL及び上限λHは選択反射帯域における最大反射率の1/2倍の反射率を示す波長の中で、それぞれ最も短いもの及び最も長いものである。
【0032】
図1は、液晶表示装置に使用されている光源(冷陰極管)の発光スペクトルの一例を示すものである。λR1は光源が発する光の中で600nm〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長である。
前記の光線を反射する帯域(選択反射帯域)は、入射角によって、波長範囲が変化する。本発明では、入射角0度の光線を反射する帯域の下限波長λLが、前記波長λR1よりも長い。
【0033】
さらに、本発明の光学素子は、λLが、光源が発する光の中で630〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長λR2よりも長いことが好ましい。λLがより長い波長になることにより、正面観察したときの色バランスを良くでき、又は色度域に対する色再現範囲の面積比の値を高くすることができる。
【0034】
図1ではλR1は約610nmであるので、λLは610nmよりも長い波長にすることが好ましい。図2の実線30で示す選択反射帯域のλLは約680nmである。選択反射帯域の幅(λHとλLとの差)は、好ましくは50nm以上、特に好ましくは80nm以上である。
【0035】
入射角0度における選択反射帯域の最大反射率は、好ましくは10%以上40%以下、より好ましくは15%以上35%以下である。最大反射率が上記範囲にあると、液晶表示装置の表示画面を斜めから観察した場合において、正面から観察した場合と同様の色バランスがとれた画像を得ることができる。最大反射率が低いと斜めから観察したときに画像が赤みを帯びる傾向になる。最大反射率が高いと斜めから観察した時に画像が青みを帯びる傾向になる。
【0036】
本発明の光学素子は、入射角0度における選択反射帯域で最大反射率を示す波長の光を入射角60度で入射したときの反射率が、入射角0度における前記最大反射率の、好ましくは50%以上90%以下、より好ましくは60%以上85%以下である。
【0037】
本発明の光学素子は、入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。さらに入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が、後記の入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率より大きいことが好ましい。具体的には、入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が、入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率の94%以下であることが好ましい。
【0038】
青色光及び緑色光の入射角0度における光線透過率は、赤色光に対する光量バランスを考慮して適宜選択できる。入射角0度における青色光(波長400nm〜500nm)及び緑色光(波長500nm〜600nm)の平均透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。なお、本明細書において平均透過率とは、10nmの波長間隔で測定した透過率の算術平均値である。
【0039】
前記の選択反射帯域は、光線の入射角度が大きくなると短波長側にシフトすることが好ましい。具体的には入射角60度において選択反射帯域が波長λR1又はλR2を含むようになることが好ましい。入射角が大きくなると選択反射帯域は短波長側にシフトする。これによって、入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率を下げることができる。
【0040】
図2の破線31は、入射角60度における選択反射帯域の一例を示すものである。図2では選択反射帯域の下限が約610nmになっている。
本発明の光学素子は、その入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が、好ましくは40%以上80%以下、より好ましくは50%以上80%以下である。光線透過率が上記範囲未満になると、斜めから観察したときの表示画像が青みを帯る傾向になる。光線透過率が上記範囲を超えると斜めから観察したときの表示画像が赤みを帯びる傾向になる。
【0041】
本発明の光学素子では、入射角60度における青色光(波長400nm〜500nm)及び緑色光(波長500nm〜600nm)の平均透過率が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
また、入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率は、入射角60度における青色光(波長400nm〜500nm)及び緑色光(波長500〜600nm)の平均透過率よりも小さいことが好ましく、具体的には入射角60度における青色光(波長400〜500nm)及び緑色光(波長500nm〜600nm)の平均透過率よりも5〜30%小さい方が好ましい。
【0042】
本発明の光学素子は、入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均反射率が、好ましくは20%以上60%以下、より好ましく25%以上50%以下である。
【0043】
〔透明基材〕
本発明の光学素子を構成する透明基材は、層Aと層Bとをそれぞれ少なくとも1層有し、層Bが最表面層となる積層体からなる。また、透明基材は、全体の厚さが100μm未満である。
【0044】
<メタクリル樹脂>
層A及び層Bはメタクリル樹脂を含む層である。本発明に用いるメタクリル樹脂は、メチルメタクリレート単位を70重量%以上、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは70〜95重量%、特に好ましくは75〜95重量%含有する。メタクリル樹脂がメチルメタクリレートの単独重合体でない場合、これと共重合可能なモノマー単位の含有量は、30重量%以下、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%である。メタクリル樹脂は、メチルメタクリレートと、必要に応じて用いられるこれと共重合可能なモノマーとを、常法に従って重合することにより得られる。
【0045】
共重合可能なモノマーとしては、N−アルキルマレイミド;無水マレイン酸;エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル化合物;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸アルキルエステル;など、脂肪族性の炭素−炭素二重結合を分子内に1つ有する化合物が挙げられる。芳香族ビニル化合物は、メチルメタクリレートとN−アルキルマレイミドや無水マレイン酸との共重合反応性を高めることができる。また、アクリル酸アルキルエステルを共重合することで、樹脂の高温での熱分解を抑制することができる。
メチルメタクリレートと共重合可能なモノマーの種類や使用割合を制御すること、他の配合剤を用いることなどにより、層A及び層Bを形成することができる。
【0046】
透明基材を構成する層Aは、ビカット軟化点が120℃以上で且つメチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Aにより形成された層である。
層Bは、メチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Bと、数平均粒子径2.0μm以下の弾性体粒子とを含有し、ビカット軟化点が95℃〜115℃で、引張破壊ひずみが15%以上である樹脂組成物により形成された層である。
本発明において、ビカット軟化点及び引張破断ひずみは、実施例にて採用された条件で測定された値である。更に、本発明の光学素子は、少なくとも一方の最表面層が層Bである。
【0047】
層Aを構成するメタクリル樹脂Aは、ビカット軟化点が120℃以上、好ましくは120〜150℃のものである。
このようなビカット軟化点を与えるメタクリル樹脂Aとしては、メチルメタクリレート単位の他に、N−アルキルマレイミド単位、無水マレイン酸単位、及びエステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル化合物単位のいずれか1種以上を2〜30重量%、好ましくは5〜20重量%含有するものが好適な例として挙げられる。メチルメタクリレート単位以外の単位の割合が2重量%未満では耐熱性の改善効果が低下傾向になる、30重量%を超えると成形性が損なわれる傾向になる。もちろん、メタクリル樹脂Aは、ビカット軟化点が規定の範囲である限りにおいて、N−アルキルマレイミド単位、無水マレイン酸単位、及びエステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル化合物単位以外の単位を有していても良い。
【0048】
N−アルキルマレイミド単位の中でも、特にアルキル部分が、メチル、イソプロピル、t−ブチル、シクロへキシルなどの、メチル基又は炭素数3〜7の分岐若しくは環状のアルキル基であるものが好ましい。アルキル部分が、エチル、n−プロピル、n−ブチル等のノルマルアルキル基であるものは耐熱性の改善効果が小さくなる傾向がある。また、芳香族基でN−置換されたものは、得られた共重合体が黄色に着色し、光線透過率が低下傾向になる。
【0049】
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル化合物単位を共重合しても良い。炭素数5〜22の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル、シクロへキシル、ノルボルニル、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル等が挙げられる。
【0050】
層Bを構成する樹脂組成物は、ビカット軟化点が95℃〜115℃、引張破壊ひずみが15%以上のものである。この樹脂組成物は、メタクリル樹脂Bに弾性体粒子を配合したものである。
【0051】
<弾性体粒子>
本発明に用いられる弾性体粒子は、ゴム状弾性体からなる粒子である。ゴム状弾性体としては、アクリル酸エステル系ゴム状重合体、ブタジエンを主成分とするゴム状重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。アクリル酸エステル系ゴム状重合体としてはブチルアクリレ−ト、2−エチルヘキシルアクリレ−ト等を主成分とするものがある。これらの内ブチルアクリレ−トを主成分としたアクリル酸エステル系重合体及びブタジエンを主成分とするゴム状重合体が好ましい。弾性体粒子は、二種の重合体が層状になったものであってもよく、その代表例としては、ブチルアクリレ−ト等のアルキルアクリレ−トとスチレンのグラフト化ゴム弾性成分と、ポリメチルメタクリレ−ト及び/又はメチルメタクリレ−トとアルキルアクリレ−トの共重合体からなる硬質樹脂層とがコア−シェル構造で層を形成している弾性体粒子が挙げられる。
【0052】
本発明に用いられる弾性体粒子は、メタクリル樹脂中に分散した状態における数平均粒径が好ましくは2.0μm以下、より好ましくは0.1〜1.0μm、特に好ましくは0.1〜0.5μmである。弾性体粒子の一次粒子径が小さくても、凝集などによって形成される二次粒子の数平均粒径が大きいと、透明基材はヘイズ(曇り度)が高くなりすぎ、光線透過率が低くなるので、視認側には適さない傾向になる。また、数平均粒径が小さくなりすぎると可撓性が低下する傾向にある。
【0053】
本発明において、弾性体粒子の波長380nm〜780nmにおける屈折率na(λ)は、マトリックスとなるメタクリル樹脂の波長380nm〜780nmにおける屈折率nb(λ)との間に、|na(λ)−nb(λ)| ≦ 0.05の関係を満たすことが好ましい。特に、|na(λ)−nb(λ)| ≦ 0.045であることがより好ましい。なお、na(λ)及びnb(λ)は、波長λにおける主屈折率の平均値である。|na(λ)−nb(λ)|の値が上記値を超える場合には、界面での屈折率差によって生じる界面反射により、透明性が低下傾向になる。
【0054】
本発明に用いられる弾性体粒子として、多層構造のアクリルゴム粒子を用いた樹脂組成物が特に好適である。多層構造のアクリルゴム粒子を用いると、ビカット軟化点を必要以上に低下させることなく引張破断ひずみを15%以上にすることが容易にできる。多層構造のアクリルゴム粒子は公知の方法により製造することができる(例えば特開昭57−200412号公報など)。
【0055】
弾性体粒子の添加量としては、樹脂組成物全体量の20〜60重量%であることが好ましい。弾性体粒子の量が少な過ぎると、引っ張り破壊ひずみ改良の効果が低下傾向になり、逆に多すぎるとビカット軟化点が低下気味になり、フィルムとしての耐熱性が低下傾向になる。
【0056】
メタクリル樹脂Bとしては、メチルメタクリレート単位以外の単位を含まないものや、メチルメタクリレート単位以外にアクリル酸アルキルエステル単位を含むものが好適である。更に必要に応じて芳香族ビニル化合物単位を含むこともできる。
【0057】
メタクリル樹脂Bと多層構造のアクリルゴム粒子とを含有する樹脂組成物は、例えば、「デルペットSR」(製品名、旭化成ケミカルズ社製)などの耐衝撃性PMMA樹脂として市販されている。
【0058】
透明基材は、層A及び層B以外に、他の樹脂層を有していてもよい。他の樹脂層を構成する樹脂としては、上記以外のメタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。また、これらから選ばれる2種以上を混練した樹脂組成物を使用しても良い。
【0059】
層A、層B、及び他の樹脂層には、必要により他の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;染料や顔料等の着色剤;脂肪族アルコールのエステル、多官能アルコールのエステル、脂肪酸アミド、無機粒子等の滑剤;トリエステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸−塩基酸エステル系可塑剤等の可塑剤等が挙げられる。
【0060】
本発明に用いられる透明基材は、その製造方法によって限定されないが、生産性や厚さ精度に優れる点からTダイを用いた溶融共押出成形法で得られたものが好ましい。
Tダイを用いた溶融共押出成形法では、メタクリル樹脂A、樹脂組成物、及び必要に応じて形成されるその他の樹脂層を構成する樹脂を、それぞれ別個の押出機にて溶融し、溶融状態で積層した後に、Tダイからシート状に押し出し、シートを冷却ロールで引き取ることで、一気に積層構造の透明基材を作成することができる。
【0061】
この際に、Tダイから押し出された直後のシート厚さTtと冷却ロールで引き取られた後のシート厚さTrとの比(Tt/Tr)が大きいほど透明基材の表面粗さは大きくなる。TtとTrの値を変更するためには、Tダイのスリットの間隙、冷却ロールの回転速度を変更する必要があるが、これらは透明基材の厚さむら等、他の品質にも影響を与えるため限界がある。一般的には、Tt/Trを5〜40の間で調整することが好ましい。
【0062】
透明基材では層Bが最表面層となるように積層されるが、透明基材製造時において最表面層となった層Bを冷却ロールに接触させないようにするのが好ましい。すなわち、最表面層となった層Bとは反対の側の表面が冷却ロールに接触するようにすることが好ましい。共押出成形直後の層Bに冷却ロールを接触させると、弾性体粒子によって形成された表面突起が押しつぶされて、表面粗さが小さくなってしまう可能性もある。また、Tダイから押し出されたシートを平行な2本の金属ロールで挟み込む方法も一般的に使用されているが、斯様な方法でも表面の突起が押しつぶされて表面粗さが小さくなってしまう。層Bが配置されてなる最表面層は、層Bの温度が樹脂のガラス転移点以下に冷却された後に、他ロールに接触させることが好ましい。層Bを層Aの両面に形成した場合、一方の層Bだけは冷却ロールに接触させることができるが、もう一方の層Bは最表面層とするために冷却ロールに接触させないことが好ましい。
【0063】
透明基材は、各層を構成するフィルムを従来公知の成形法によって用意し、これらを接着剤で貼りあわせて製造することも可能である。
接着剤としては、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、変性ポリオレフィン系接着剤、ポリビニルアルキルエーテル系接着剤、ゴム系接着剤、エチレン−酢酸ビニル系接着剤、塩化ビニル−酢酸ビニル系接着剤、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)系接着剤、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)系接着剤、エチレン−スチレン共重合体などのエチレン系接着剤、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル系接着剤などが挙げられる。これらの内、接着後に所定の弾性を維持するものがより好ましく、そのような接着剤としては、SEBS系接着剤、SIS系接着剤、エチレン−酢酸ビニル系接着剤を挙げることができる。
この接着剤からなる層の平均厚さは、通常0.01〜30μm、好ましくは0.1〜15μmである。
【0064】
本発明においては、透明基材全体の厚さは100μm以下であることが好ましい。透明基材全体の厚さが100μmより厚いと、屈曲性が低下傾向になる。
また、透明基材は層Aの合計厚さが30μm以上であって、かつ層Bの合計厚さが透明基材全体の厚さの10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。層Aの合計厚さが30μmより薄いと、耐熱性が低下傾向になる。また層Bの合計厚さが透明基材全体の厚さの10%より小さいと、屈曲性、耐衝撃性が低下傾向になる。また、層A及び層Bそれぞれの一層の厚さは、いずれも1μm以上とするのが、生産性と光学特性とのバランスの観点から望ましい。
【0065】
本発明において、最表面層となった層Bの表面粗さ(Ra)は、好ましくは8〜30nm、より好ましくは10〜20nmである。表面粗さが小さ過ぎると、透明基材の滑り性が悪化し、操作性が低下傾向になる。例えば、透明基材をロールトゥロールで搬送する際に、搬送ロールに透明基材が張り付き、しわが入ったり、破断したりする。また透明基材をロールとして巻き取る際には、透明基材同士でこすれ、傷がついたり、透明基材間の空気抜けが十分に行われず、巻き取りロールの形状が悪化する場合がある。
一方で表面粗さが大き過ぎると、表面での光の散乱により、透明基材の透明性が低下傾向になる。
【0066】
層Bが配置されてなる最表面層の表面粗さは、層Bに含まれる弾性体粒子の量や、透明基材の製造方法を制御することにより、上記範囲の値にすることができる。一般に、弾性体粒子の添加量が多いほど、表面粗さは大きくなる。
【0067】
透明基材は、ハードコート層、反射防止層、防汚層、防眩層などの機能層が更に積層されたものであることが好ましい。各機能層は、表示素子製造に採用される通常の機能層を選択すればよく、積層方法は常法に従えば良い。
【0068】
(ハードコート層)
ハードコート層は、表面硬度を高める機能を有する層であり、JIS K5600−5−4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板を用いる)で「H」以上の硬度を示すことが好ましい。このようなハードコート層が設けられた透明基材は、その鉛筆硬度が4H以上になることが好ましい。ハードコート層を形成する材料(ハードコート材料)としては、熱や光で硬化する材料であることが好ましく、例えば、有機シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系などの有機ハードコート材料;二酸化ケイ素などの無機ハードコート材料;などを挙げることができる。これらの中でも、接着力が良好であり、生産性に優れる観点から、ウレタンアクリレート系および多官能アクリレート系ハードコート材料が好ましい。
【0069】
ハードコート層は、所望により、屈折率の調整、曲げ弾性率の向上、体積収縮率の安定化、並びに耐熱性、帯電防止性、および防眩性などの向上を図る目的で、各種フィラーを含有できる。また、ハードコート層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、および消泡剤などの添加剤を含有できる。
【0070】
(反射防止層)
反射防止層は、外光の移りこみを防止するための層であり、透明基材の表面(外部に露出する面)に直接またはハードコート層等の他の層を介して積層される。反射防止層が設けられた透明基材は、入射角5°、波長430nm〜700nmにおける反射率が2.0%以下であることが好ましく、波長550nmにおける反射率が1.0%以下であることが好ましい。
【0071】
反射防止層の厚さは、0.01μm〜1μmが好ましく、0.02μm〜0.5μmがより好ましい。反射防止層としては、当該反射防止層が積層される層(保護層やハードコート層など)の屈折率よりも小さい屈折率、具体的には1.30〜1.45の屈折率を有する低屈折率層からなるもの;無機化合物からなる薄膜の低屈折率層と無機化合物からなる薄膜の高屈折率層とを交互に複数積層したもの、などを挙げることができる。
【0072】
前記低屈折率層を形成する材料は、屈折率の低いものであれば特に制限されない。例えば、紫外線硬化型アクリル樹脂等の樹脂材料、樹脂中にコロイダルシリカ等の無機微粒子を分散させたハイブリッド材料、テトラエトキシシラン等の金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル材料等を挙げることができる。これらの低屈折率層を形成する材料は、重合済みのポリマーであってもよいし、前駆体となるモノマーやオリゴマーであってもよい。また、それぞれの材料は、防汚染性を付与するために、フッ素基を含有する化合物を含むことが好ましい。
【0073】
前記のゾル−ゲル材料としては、フッ素基を含有するゾル−ゲル材料が好適に用いられる。フッ素基を含有するゾル−ゲル材料としては、パーフルオロアルキルアルコキシシランを例示できる。パーフルオロアルキルアルコキシシランは、たとえば、CF3(CF2nCH2CH2Si(OR)3(式中、Rは、炭素数1〜5個のアルキル基を示し、nは0〜12の整数を示す)で表される化合物である。具体的には、パーフルオロアルキルアルコキシシランとしては、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、およびヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等を挙げることができる。この中でも、前記nが2〜6の化合物が好ましい。
【0074】
低屈折率層は、熱硬化性含フッ素化合物または電離放射線硬化型含フッ素化合物の硬化物からなるものとすることができる。前記硬化物は、その動摩擦係数が0.03〜0.15であることが好ましく、水に対する接触角が90〜120度であることが好ましい。硬化性含フッ素化合物としては、パーフルオロアルキル基含有シラン化合物(例えば(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラデシル)トリエトキシシラン)等の他、架橋性官能基を有する含フッ素重合体を挙げることができる。
【0075】
架橋性官能基を有する含フッ素重合体はフッ素含有モノマーと架橋性官能基を有するモノマーとを共重合することによって、又はフッ素含有モノマーと官能基を有するモノマーとを共重合し次いで重合体中の官能基に架橋性官能基を有する化合物を付加させることによって得ることができる。
【0076】
含フッ素モノマーとしては、フルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等のフルオロオレフィン類;ビスコート6FM(大阪有機化学製)、M−2020(ダイキン製)等の(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0077】
架橋性官能基を有するモノマー又は架橋性官能基を有する化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基を有するモノマー;アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレートなどのヒドロキシル基を有するモノマー;メチロールアクリレート、メチロールメタクリレート;アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどのビニル基を有するモノマー;アミノ基を有するモノマー;スルホン酸基を有するモノマー;等を挙げることができる。
【0078】
低屈折率層を形成するための材料としては、耐傷性を向上できる点で、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、フッ化マグネシウム等の微粒子をアルコール溶媒に分散したゾルが含まれたものを用いることができる。前記微粒子は、反射防止性の観点から、屈折率が低いものほど好ましい。このような微粒子は、空隙を有するものであってもよく、特にシリカ中空微粒子が好ましい。中空微粒子の平均粒径は、5nm〜2,000nmが好ましく、20nm〜100nmがより好ましい。ここで、平均粒径は、透過型電子顕微鏡観察によって求められる数平均粒径である。
【0079】
(防汚層)
防汚層は、撥水性、撥油性、耐汗性、および防汚性などを付与できる層である。防汚層を形成するために用いる材料としては、フッ素含有有機化合物が好適である。フッ素含有有機化合物としては、フルオロカーボン、パーフルオロシラン、又はこれらの高分子化合物などを挙げることができる。また、防汚層の形成方法は、形成する材料に応じて、蒸着、スパッタリング等の物理的気相成長法、化学的気相成長法、湿式コーティング法等を用いることができる。防汚層の平均厚さは、好ましくは1nm〜50nm、より好ましくは3nm〜35nmである。
さらに、透明基材には、ガスバリア層、透明帯電防止層、プライマー層、電磁遮蔽層、下塗り層等のその他の層を設けてもよい。
【0080】
以上のような機能層を形成する場合には、形成させる面に化学的処理を施すことが好ましい。化学的処理の手段としては、例えば、コロナ放電処理、スパッタ処理、低圧UV照射処理、プラズマ処理などが挙げられる。また透明基材は、前記化学的処理に加えて、機能層との密着性強化や防眩性付与を目的として、エッチング、サンドブラスト、エンボスロール等による機械的処理が施されていても良い。
これらの機能層の形成方法に格別な限定はなく、各機能層の形成に一般的な方法を採用すればよい。
【0081】
本発明に用いられる透明基材は、その光弾性係数の絶対値が30×10-13cm2/dyn以下であることが好ましく、10×10-13cm2/dyn以下であることがより好ましく、5×10-13cm2/dyn以下であることがさらに好ましい。光弾性係数が上記数値よりも大きくなると、当該透明基材が外部からの応力によって位相差を発現しやすくなり、光学性能を低下させる傾向がある。
【0082】
本発明に用いられる透明基材は、面内方向のレターデーションRe(Re=d×(nx−ny)で定義される値;nxは面内の遅相軸の屈折率、nyは面内で遅相軸と直交する方向の屈折率;dは当該フィルムの平均厚さ)、及び厚さ方向のレターデーションRth(Rth=d×([nx+ny]/2−nz)で定義される値;nzは厚さ方向の屈折率)の絶対値が小さいものが好ましい。具体的には、当該透明基材の面内方向のレターデーションReは、波長550nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることが特に好ましく、2nm以下であることが最も好ましい。当該透明基材の厚さ方向のレターデーションRthは、波長550nmにおいて−10nm〜+10nmであることが好ましく、−5nm〜+5nmであることがより好ましい。
【0083】
本発明に用いられる透明基材は、その透湿度が10g・m-2day-1以上、200g・m-2day-1以下であることが好ましい。透湿度を上記好適な範囲とすることにより、当該透明基材を偏光子の保護層として用いた場合に偏光子との密着性が向上する。透湿度は、40℃、92%RHの環境下で、24時間放置する試験条件で、JIS Z 0208に記載のカップ法により測定できる。
【0084】
〔選択反射層〕
本発明の光学素子を構成する選択反射層は、光学素子が上記のような光学特性(入射角に対する光線透過率及び光線反射率)を示すことができるものであれば特に制限されない。
選択反射層として、例えば、屈折率の異なる無機酸化物を交互に蒸着した多層薄膜(例えば、コールドフィルターなど);屈折率の異なる樹脂の薄膜を積層した薄膜;屈折率の異なる樹脂の多層膜を2軸延伸して得られる赤外反射フィルム;屈折率の異なる2種の樹脂膜を1軸延伸して赤外反射フィルムを得、それを直交させて積層したもの;コレステリック規則性を持つ樹脂層を含む円偏光反射板の選択反射帯域を赤外域としたもの;前記円偏光反射板の右捻れ品と左捻れ品を積層としたもの;同一捻れ方向のコレステリック規則性を持つ樹脂層を含む円偏光反射板2枚を1/2波長板を介して積層したもの;グリッド偏光子などが挙げられる。
【0085】
本発明の一実施態様の光学素子は、選択反射層がコレステリック規則性を持つ樹脂層(以下、コレステリック樹脂層ということがある。)を含み、該樹脂層のカイラルピッチが400nm以上であり、且つ入射角0度における選択反射帯域での最大反射率が10%以上40%以下である。
【0086】
コレステリック規則性は、一平面上では分子軸が一定の方向に並んでいるが、次の平面では分子軸の方向が少し角度をなしてずれ、さらに次の平面ではさらに角度がずれるという具合に、該平面の法線方向に分子軸の角度が次々にずれて(ねじれて)いく構造である。このように分子軸の方向がねじれてゆく構造はカイラルな構造と呼ばれる。該平面の法線(カイラル軸)はコレステリック樹脂層の厚さ方向に略平行になっていることが好ましい。コレステリック樹脂層の厚さは、1μm〜10μmが好ましく、1μm〜5μmが特に好ましい。
【0087】
本発明に用いるコレステリック樹脂層は、そのカイラルピッチが好ましくは400nm以上、より好ましくは430nm以上である。カイラルピッチとは、カイラル構造において分子軸の方向が平面を進むに従って少しずつ角度がずれていき、そして再びもとの分子軸方向に戻るまでのカイラル軸方向の距離のことである。
【0088】
これらのうち、コレステリック規則性を持つ樹脂層を含む円偏光反射板は、選択反射帯域の調整が比較的容易である。そこで、コレステリック規則性を持つ樹脂層を含む円偏光反射板について説明する。
【0089】
図3は本発明の光学素子(円偏光反射板)の一例の構造を示す図である。
この円偏光反射板は、シート状の透明基材1に、配向膜2を形成し、さらにその上にコレステリック規則性を持つ樹脂層(反射選択層)3を形成することによって得ることができる。
【0090】
<配向膜>
前記配向膜は、コレステリック規則性を持つ樹脂層を面内で一方向に配向規制するために透明基材の表面に形成される。配向膜は、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのポリマーを含有するものである。配向膜は、このようなポリマーを含有する溶液(配向膜用組成物)を膜状に積層し、乾燥させ、そして一方向にラビング等することで、得ることができる。
【0091】
膜状に積層する方法としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延製膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法などが挙げられる。
ラビングの方法は、特に制限されないが、例えばナイロンなどの合成繊維、木綿などの天然繊維からなる布やフェルトを巻き付けたロールで一定方向に配向膜を擦る方法が挙げられる。ラビングした時に発生する微粉末(異物)を除去して配向膜の表面を清浄な状態とするために、形成された配向膜をイソプロピルアルコールなどによって洗浄することが好ましい。
また、ラビングする方法以外に、配向膜の表面に偏光紫外線を照射する方法によっても、配向膜にコレステリック規則性を持つ樹脂層を面内で一方向に配向規制する機能を持たせることができる。
配向膜の厚さは0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜1μmであることがさらに好ましい。
【0092】
<コレステリック樹脂層>
前記円偏光反射板は、コレステリック規則性を持つ樹脂層を含むものである。コレステリック規則性は、一平面上では分子軸が一定の方向に並んでいるが、次の平面では分子軸の方向が少し角度をなしてずれ、さらに次の平面ではさらに角度がずれるという具合に、該平面の法線方向に分子軸の角度が次々にずれて(ねじれて)いく構造である。このように分子軸の方向がねじれてゆく構造はカイラルな構造と呼ばれる。該平面の法線(カイラル軸)はコレステリック樹脂層の厚さ方向に略平行になっていることが好ましい。コレステリック樹脂層の厚さは、1μm〜10μmが好ましく、1μm〜5μmが特に好ましい。
【0093】
<コレステリック樹脂層を形成する材料(1):液晶ポリマー>
コレステリック樹脂層を形成する材料としては、先ず、液晶ポリマーが挙げられる。
一般に物質は温度や圧力などの条件により、気体、液体、固体の3つの状態(相)のいずれかになる。液晶は“液体と固体の中間の状態にあるもの”と説明されている。一般に液晶物質は他の物質と同様に低温では固体であり高温では透明な液体であるが、その中間の温度範囲で濁った液状となる。この状態が液晶状態である。このような状態を示す液晶物質はその分子構造の中に細長い棒状または盤状をなす部分がある。液晶状態では、この部分が“固体となる状態”、すなわち規則的に配列しようとする状態になり、他の部分が“液体となる状態”、すなわち流動的に自由な位置を保ち得る状態にある。液晶の分子は、この“固体となる状態”である部分が、電界、温度など、周囲条件に応じて規則的に配列したり、その配列状態が変ったり、さらにバラバラになったりすることにより光学的な特性が変化する。液晶物質は、液晶状態では液状で流動的ではあるが、分子がある規則性を持って配列しているので結晶と同様な性格を示す。すなわち“液状であるが結晶の性格を持つ状態”である。液晶ポリマーはこのような液晶性を有するポリマーである。この液晶ポリマーを配向膜上に膜状に積層することでコレステリック樹脂層を得ることができる。
【0094】
この液晶ポリマーとしては、メソゲン構造を有するポリマーがある。メソゲンは、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団である。
メソゲン構造を有するポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、及びポリエステルイミド等のポリマー主鎖に、直接に又は屈曲性を付与するスペーサー部を介して、パラ置換環状化合物等からなるメソゲン基を結合した構造を有するもの;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシロキサン、ポリマロネート等をポリマー主鎖に、直接に又は共役性の原子団からなるスペーサー部を介して、パラ置換環状化合物等からなる低分子結晶化合物(メソゲン部)を結合した構造を有するものが挙げられる。
前記スペーサー部としては、ポリメチレン鎖やポリオキシメチレン鎖等が挙げられる。スペーサー部を形成する構造単位に含まれる炭素数は、メソゲン部の化学構造等により適宜に決定される。一般にはポリメチレン鎖の場合には、該炭素原子数が1〜20、好ましくは2〜12であり、ポリオキシメチレン鎖の場合には、該炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜3である。
【0095】
また、前記液晶ポリマーの他の例としては、低分子カイラル剤含有のネマチック液晶ポリマー;カイラル成分導入の液晶ポリマー;ネマチック液晶ポリマーとコレステリック液晶ポリマーの混合物等が挙げられる。カイラル成分導入の液晶ポリマーとは、それ自体がカイラル剤の機能を果たす液晶ポリマーである。ネマチック液晶ポリマーとコレステリック液晶ポリマーの混合物は、それらの混合比率を変えることによって、ネマチック液晶ポリマーのカイラル構造のピッチを調整することができるものである。
【0096】
さらに、アゾメチン形、アゾ形、アゾキシ形、エステル形、ビフェニル形、フェニルシクロヘキサン形、及びビシクロヘキサン形のようなパラ置換芳香族単位やパラ置換シクロヘキシル単位等からなるネマチック配向性を付与するパラ置換環状化合物を有するものに、不斉炭素を有する化合物等からなる適宜なカイラル成分や低分子カイラル剤等を導入する方法等により、コレステリック規則性を付与したもの(特開昭55−21479号公報、米国特許第5332522号等を参照)も挙げることができる。なお、パラ置換環状化合物におけるパラ位の末端置換基としては、シアノ基やアルキル基、アルコキシル基等が挙げられる。
【0097】
液晶ポリマーはその製法によって制限されない。液晶ポリマーは、例えば、メソゲン構造を有するモノマーをラジカル重合、カチオン重合又はアニオン重合することによって得られる。メソゲン構造を有するモノマーは、例えばアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルのようなビニル系モノマーに、直接に又はスペーサー部を介してメソゲン基を公知の方法で導入することによって得ることができる。また、液晶ポリマーは、ポリオキシメチルシリレンのSi−H結合を介し白金系触媒の存在下にビニル置換メソゲンモノマーを付加反応させることによって;主鎖ポリマーに付与した官能基を介して相間移動触媒を用いたエステル化反応によりメソゲン基を導入することによって;マロン酸の一部に必要に応じスペーサー部を介してメソゲン基を導入したモノマーとジオールとを重縮合反応させることによって得ることができる。
【0098】
(液晶ポリマーに導入または含有させるカイラル剤)
液晶ポリマーに導入または含有させるカイラル剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、特開平6−281814号公報に記載されたカイラルモノマー、特開平8−209127号公報に記載されたカイラル剤、特開2003−131187号公報に記載の光反応型カイラル化合物等が挙げられる。
またカイラル剤としては、カイラル剤の添加によって意図しない相転移温度の変化を避けるために、カイラル剤自身が液晶性を示すものが好ましい。さらに、経済性の観点からは、液晶ポリマーを捩じる効率を表す指標であるHTP(=1/P・c)の大きなものが好ましい。ここで、Pはカイラル構造のピッチ長を表し、cはカイラル剤の濃度を表す。カイラル構造のピッチ長とは、カイラル構造において分子軸の方向が平面を進むに従って少しずつ角度がずれていき、そして再びもとの分子軸方向に戻るまでのカイラル軸方向の距離のことである。
【0099】
<コレステリック樹脂層を形成する材料(2):重合性組成物>
コレステリック樹脂層を形成する好適な材料として、重合性液晶化合物を含有する重合性組成物、好ましくは重合性液晶化合物、重合開始剤、及びカイラル剤を含有する重合性組成物が挙げられる。この材料を用いてコレステリック樹脂層を形成する方法の例としては、重合性液晶化合物、重合開始剤及びカイラル剤、さらに必要に応じて界面活性剤、配向調整剤等を溶剤に溶解させた塗布液を得、これを基材に膜状に積層し、乾燥させ、その乾燥させた膜を重合させる方法がある。
【0100】
(重合性組成物に含有させる重合性液晶化合物)
重合性液晶化合物としては、棒状液晶化合物が好ましく用いられる。
棒状液晶化合物としては、式(1)で表される化合物を挙げることができる。
R1−B1−A1−B3−M−B4−A2−B2−R2 式(1)
なお、式(1)中のA1及びA2は、後述するようにスペーサー基であるが、このスペーサー基を省いて、直接にB1とB3又はB4とB2が結合していてもよい。
【0101】
式(1)中、R1及びR2は重合性基を表す。重合性基であるR1、R2の具体例としては、化1に示す(r−1)〜(r−15)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
【化1】

【0103】
B1、B2、B3及びB4は、それぞれ独立して単結合又は二価の連結基を表す。また、B3、B4の少なくとも一方は、−O−CO−O−であるのが好ましい。
【0104】
A1及びA2は炭素原子数1〜20のスペーサー基を表す。スペーサー基としては、例えば、ポリメチレン基やポリオキシメチレン基等が挙げられる。スペーサー基を形成する構造単位に含まれる炭素数は、メソゲン基の化学構造等により適宜に決定される。一般にはポリメチレン基の場合には、炭素原子数が1〜20、好ましくは2〜12であり、ポリオキシメチレン基の場合には、炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜3である。
【0105】
Mはメソゲン基を表す。メソゲン基Mの形成材料としては特に制限されないが、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0106】
(重合性組成物に含有させる重合開始剤)
前記重合開始剤には、熱重合開始剤と光重合開始剤とがあるが、重合反応が速いことから光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、多核キノン化合物(米国特許3046127号公報、同2951758号公報)、オキサジアゾール化合物(米国特許4212970号公報)、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号公報、同2367670号公報)、アシロインエーテル(米国特許2448828号公報)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号公報)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号公報)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号公報)などが挙げられる。
【0107】
重合開始剤の量は、重合性液晶化合物100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、1〜5重量部であることがさらに好ましい。光重合開始剤を用いたときには、照射光として紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、0.1mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、0.1mJ/cm2〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。
紫外線の照射方法は、特に制限されない。また、重合転化率が100%になるまでの紫外線照射量は、重合性液晶化合物の種類によって適宜選択される。
【0108】
(重合性組成物に含有させるカイラル剤)
前記重合性組成物に含有させるカイラル剤としては、特開2003−66214号公報、特開2003−313187号公報、米国特許第6468444号公報、WO98/00428等に掲載されるものを適宜使用することが出来るが、液晶化合物を捩じる効率を表す指標であるHTPの大きなものが経済性の観点から好ましい。HTPは、式:HTP=1/P・cで表される。ここで、Pはカイラル構造のピッチ長を表し、cはカイラル剤の濃度を表す。また、カイラル剤の添加による意図しない相転移温度の変化を避けるために、カイラル剤自身が液晶性を示すものを用いることが好ましい。
【0109】
(重合性組成物に含有させるその他の配合剤)
前記塗布液および重合前の前記塗布液の膜の表面張力を調整するために界面活性剤を使用し得る。特に好ましくはノニオン系の界面活性剤であり、分子量が数千程度のオリゴマーであることが好ましい。このような界面活性剤としては、セイミケミカル社製KH−40等が挙げられる。
【0110】
重合性組成物に含有させる配向調整剤は、基材上に形成されたコレステリック樹脂層の空気側表面の配向状態を制御するためのものであり、前記界面活性剤を兼ねる場合もあるが、目的の配向状態によっては適宜樹脂類が用いられる。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、あるいはこれらの変性物が用いられるがこの限りではない。
【0111】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、及びエーテル類が含まれる。特に環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0112】
塗布液を膜状に積層するには、公知の方法、例えば、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、及びダイコーティング法等を実施できる。
【0113】
本発明に用いるコレステリック樹脂層は非液晶性の樹脂層であることが好ましい。非液晶性のものであると、周囲の温度や電界などによってコレステリック規則性が変化しないからである。非液晶性のコレステリック樹脂層は、前記重合性組成物として、重合性基を2以上有する重合性液晶化合物を含有したものを選択し、それを重合することによって得ることができる。重合性基を2以上有する重合性液晶化合物によって、コレステリック樹脂に比較的剛直な架橋構造が導入され、液晶性を生じない樹脂が得られるのである。
【0114】
コレステリック規則性を持つ樹脂層に、光が入射すると、特定波長領域の左回り又は右回りの何れかの円偏光のみが反射される。反射された円偏光以外の光は透過する。この円偏光が反射される特定波長領域を選択反射帯域という。
図3に示すように、円偏光反射板のコレステリック樹脂層に入射角θ1で入射した白色光は、コレステリック樹脂層表面で屈折して屈折角θ2でコレステリック樹脂層内を通過し、波長λに対応したピッチ長Pを持つコレステリック樹脂層(図3ではP2と表記された層)で一方の円偏光が反射角θ2で反射し、コレステリック樹脂層表面で屈折して出射角θ1で出射する。屈折はスネルの法則に従って行われる。
【0115】
カイラル構造において分子軸が捩れる時の回転軸を表す螺旋軸4と、コレステリック樹脂層の法線とが平行である場合、カイラル構造のピッチ長Pと反射される円偏光の波長λとは式(2)及び式(3)の関係を有する。
λc=n×P×cosθ2 式(2)
o×P×cosθ2≦λ≦ne×P×cosθ2 式(3)
式中、noは棒状液晶化合物の短軸方向の屈折率を表し、neは棒状液晶化合物の長軸方向の屈折率を表し、n=(ne+no)/2、Pはカイラル構造のピッチ長を表す。
【0116】
すなわち、選択反射帯域の中心波長λcは、コレステリック樹脂層におけるカイラル構造のピッチ長Pに依存する。このカイラル構造のピッチ長を変えることによって、選択波長帯域を変えることができる。また、反射率はカイラル構造の積層数に比例する。反射率を調整するためにカイラル構造の層数、すなわち厚さを調整する。選択反射帯域の幅はnoとneの差に依存するので、製造しやすい適切な液晶化合物を選択する。
【0117】
本発明の光学素子を、直線偏光子と積層させることによって偏光板を得ることができる。また、本発明の光学素子を位相差素子と積層させることによって位相差板を得ることができる。直線偏光子や位相差素子と積層することによって、各素子間の空気層が排除され、界面における無用な反射や干渉を低減できる。なお、直線偏光子または位相差素子を、前記コレステリック樹脂層を積層させる透明基材の代わりに使用することで、コレステリック樹脂層を直接に直線偏光子または位相差素子に積層することができる。
また本発明の光学素子を他の光学素子と組み合わせることによって照明装置、偏光照明装置、及び液晶表示装置を得ることができる。
【0118】
前記直線偏光子は、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。その他に、グリッド偏光子、多層偏光子などの偏光を反射光と透過光に分離する機能を有する偏光子が挙げられる。これらのうちポリビニルアルコールを含有する偏光子が好ましい。
【0119】
本発明に用いる直線偏光子の偏光度は特に限定されないが、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。直線偏光子の平均厚さは好ましくは5μm〜80μmである。
一対の直線偏光子(以下、一対の直線偏光子を、別々に、直線偏光子X、直線偏光子Y(検光子)と言うことがある。)の偏光透過軸が互いに、平行又は直角になるように、液晶セルを挟んで配置する。直線偏光子は吸湿によって偏光性能が変化することがある。これを防ぐために保護フィルムが直線偏光子Xまたは検光子の両面に通常貼り合わせてある。検光子に貼り合わされる保護フィルムには、反射防止層、防汚層、防眩層などが備わっていてもよい。
【0120】
前記位相差素子は、光の位相を変化させることができる素子である。例えば、高分子フィルムを延伸して配向させたものが挙げられる。位相差素子は、直線偏光子に貼り合わされる前記保護フィルムとして用いることができる。
【0121】
本発明の照明装置は、光反射素子、光源、光拡散素子、及び本発明の光学素子が、この順に配置されたものである。また本発明の偏光照明装置は、光反射素子、光源、光拡散素子、及び本発明の偏光板が、この順に配置されたものである。なお、偏光板は本発明の光学素子が直線偏光子よりも光拡散素子側になるように配置することが好ましい。その他に、プリズムシート、反射性偏光子、1/4波長板、1/2波長板、視野角補償フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルムなどが配置されていてもよい。
【0122】
前記光反射素子は、光を反射することができる素子である。具体的には、反射性金属膜や白色膜を備えた反射板が挙げられる。本発明に用いる光源は白色光を発するものであればよく、冷陰極管、熱陰極管、発光ダイオード、及びエレクトロルミネセンスから選択される。前記光拡散素子は輝度の面内分布をなくすために光を散乱し拡散光とする素子である。具体的には透明基材中にシリコーンビーズなどの光拡散材を分散させたもの(光拡散板と称することもある)、透明基材表面に光拡散材を塗布したもの(光拡散シートと称することもある)などが挙げられる。
【0123】
本発明の液晶表示装置は、本発明の光学素子を備えるものである。さらに、前記偏光板、前記位相差板、前記照明装置、または前記偏光照明装置を備えるものである。特に、光源、本発明の光学素子、直線偏光子X、液晶セル、及び直線偏光子Yが、この順に配置されたものであることが好ましい。その他に、反射素子、導光板、光拡散素子、プリズムシート、反射性偏光子、1/4波長板、1/2波長板、視野角補償フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルムなどが配置されていてもよい。
【0124】
液晶セルは、数μmのギャップを隔てて対向する透明電極を設けた2枚のガラス基板の間に液晶物質を充填し、この電極に電圧を掛けて液晶の配向状態を変化させてここを通過する光の量を制御するものである。
液晶物質の配向状態を変化させる方式(動作モード)などによって、液晶セルは分類され、例えば、TN(Twisted Nematic)型液晶セル、STN(Super Twisted Nematic)型液晶セル、HAN(Hybrid Alignment Nematic)型液晶セル、IPS(In Plane Switching)型液晶セル、VA(Vertical Alignment)型液晶セル、MVA(Multi−domain Vertical Alignment型液晶セル、OCB(Optical Compensated Bend)型液晶セルなどが挙げられる。
【0125】
図4は、本発明の液晶表示装置の一例の構成を示す図である。図4に示すように、反射板20、冷陰極管19、光拡散板18、円偏光反射板17、直線偏光子X、液晶セル12、直線偏光子Yの順に配置されている。光源からの光が入射角0度で円偏光反射板に入射した場合は、光学素子の選択反射帯域は赤外域付近にあるので、青色、緑色、赤色の各光がそのまま透過する。入射角が大きくなると、選択反射帯域が短波長側にシフトし、赤色光を一部反射するようになり、赤色光の光線透過率が低くなっていく。
そして入射角60度において、600nm〜700nmの波長の光の平均透過率が40%以上80%以下に調整される。また、波長600nm〜700nmの波長の光の平均反射率が調整される。
これによって、赤色光の青色光及び緑色光に対するバランスが調整され、正面及び斜めからの観察において同様の色バランスがとれた画像を表示することができる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、部および%は、特に記載のない限り重量基準である。
【0127】
<樹脂1>
メチルメタクリレート(以下、MMAと記す。) 100重量部、N−シクロへキシルマレイミド 15重量部、スチレン 15重量部、アゾ−t−ブタン 0.05重量部、トルエン 200重量部を有する混合物を調整した後、孔径0.05μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過しながら、重合槽に仕込んだ。重合槽中、窒素加圧下、130℃で16時間溶液重合した後、徐々に加熱して、最終的に180℃で16時間保持し、重合開始剤を分解させた。更に昇温して230℃で1時間保持した後、窒素加圧下で脱モノマー工程に供し、未反応モノマー等を除去して樹脂1を得た。
【0128】
樹脂1のビカット軟化点は、128℃、曲げ弾性率は3300MPaであった。
また、樹脂1の各構造単位の割合(重量比)は、1H−NMRスペクトルによる測定の結果、MMA/N−シクロヘキシルマレイミド/スチレン=77/11/12であった。
樹脂1の引っ張り破壊ひずみは、5%であった。尚、本発明において樹脂の引っ張り破壊ひずみは、JIS K 6717-2に準拠して試験片を作成し、サンプルが降伏を伴わずに破壊する場合は、引張破壊ひずみ、降伏後に破壊する場合は、引張破壊時呼びひずみの測定値をもって引っ張り破壊ひずみとした。
【0129】
<多層構造アクリル系ゴム粒子Aの作成>
かき混ぜ機とコンデンサーを備えた反応器中に、蒸留水 6860mlと乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ソーダ 20gとを投入し、攪拌しながら、窒素雰囲気下75℃に昇温し、酸素の影響が無い状態下に、乳化剤入り蒸留水を得た。
この乳化剤入り蒸留水中に、MMA 220g、n−ブチルアクリレート 33g、アリルメタクリレート(以下、ALMAと記す。) 0.8g及びジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド(以下、PBPと記す) 0.2gからなる混合液を加え、80℃で15分間保持し、第1層目を重合した。
【0130】
次にn−ブチルアクリレート 1270g、スチレン 320g、ジエチレングリコールアクリレート 20g、ALMA 13.0g及びPBP 1.6gからなる混合液を、第1層目の重合を終えた反応液中に、1時間にわたって連続的に滴下し、滴下終了後、更に40分かけて反応を進行させ、第2層目を重合した。
【0131】
次に3層目の重合として、第2層目の反応を終えた反応液中に、MMA 340g、n−ブチルアクリレート 2.0g、PBP 0.3g及びn−オクチルメルカプタン 0.1gからなる混合液を添加し、更にMMA 340g、n−ブチルアクリレート 2.0g、PBP 0.3g及びn−オクチルメルカプタン 1.0gからなる混合液を添加した。その後、温度を95℃に上げ30分間保持し、多層構造アクリル系ゴム粒子のラテックスを得た。ラテックスを少量採取し、吸光度法により平均粒径を求めたところ、200nmであった。
得られたラテックスを0.5%塩化アルミニウム水溶液中に投入して重合体を凝集させ、温水で5回洗浄後、乾燥して多層アクリル系ゴム粒子Aを得た。
【0132】
<樹脂2>
PMMA樹脂「デルペット80NH」(製品名、旭化成ケミカルズ社製;メチルメタクリレート/メチルアクリレート共重合体) 80重量部と、多層アクリル系ゴム粒子A 20重量部とを混合した後、2軸押出機を用いて260℃で溶融混練し樹脂2を得た。
樹脂2のビカット軟化点は102℃、曲げ弾性率は2500MPaであった。
樹脂2の引っ張り破壊ひずみは20%であった。
【0133】
<樹脂3>
上記樹脂1 20重量部と、多層アクリル系ゴム粒子A 80重量部とを混合した後、2軸押出機を用いて260℃で溶融混練し樹脂3を得た。
樹脂3のビカット軟化点は90℃、曲げ弾性率は1500MPaであった。
樹脂3の引っ張り破壊ひずみは55%であった。
【0134】
<透明基材1>
2種2層の多層共押出装置を使用し、樹脂1および樹脂2をそれぞれ、20kg/hrおよび20kg/hrの押出量で、700mm幅、スリットの間隙が1mmのT型ダイスよりシート状にして吐出させ、該シートを100℃の金属ロールで10m/分程度の速度で引き取りながら冷却し、樹脂1層40μm厚−樹脂2層40μm厚が積層された積層フィルム1を得た。上記金属ロール面には樹脂1層が接触し、樹脂2層は金属ロールとは非接触となるように吐出させた。T型ダイスより吐出した直後のシートの厚さは約1mmあり、T型ダイスよりはき出されたシートは、最終的に10倍以上延伸されたことになる。透明基材1の物性を表1に示した。
【0135】
<透明基材2>
単層押出装置を使用し、樹脂1を40kg/hrの押出量で、700mm幅、スリットの間隙が1mmのT型ダイスよりシート状にして吐出させ、該シートを100℃の金属ロールで10m/分程度の速度で引き取りながら冷却し、80μm厚の透明基材2を得た。透明基材2の物性を表1に示した。
【0136】
<透明基材3>
単層押出装置を使用し、樹脂3を40kg/hrの押出量で、700mm幅、スリットの間隙が1mmのT型ダイスよりシート状にして吐出させ、該シートを100℃の金属ロールで10m/分程度の速度で引き取りながら冷却し、80μm厚の透明基材3を得た。透明基材3の物性を表1に示した。
【0137】
<透明基材4>
トリアセチルセルロースフィルム「KC8UX2M」(製品名、コニカ・ミノルタ社製、厚さ80μm;引っ張り破壊ひずみ25%;表中は「TAC」と表記)を透明基材4とした。透明基材4の物性を表1に示した。
【0138】
【表1】

(透明基材の透湿度)
40℃、92%RHの環境下に24時間放置する試験条件で、JIS Z 0208に記載のカップ法に準じた方法で測定した。透湿度の単位はg・m-2・day-1である。
【0139】
(透明基材のRe及びRth)
高速分光エリプソメーター[J.A.Woollam社製、M−2000U]を用いて、波長550nmにおけるRe及びRthの値を求めた。
【0140】
(透明基材の光弾性係数)
透明基材に50〜150gの範囲で荷重を加えながら、フィルム面内のレターデーションを測定し、これをフィルムの厚さで割って複屈折値Δnを求める。荷重を変えながらΔnを求め、荷重−Δn曲線を作成し、その傾きを光弾性係数とした。
【0141】
(透明基材の表面粗さ)
JIS B 0601:2001の規定に従い、カラー3Dレーザ顕微鏡(キーエンス社製、製品名「VK−9500」)を用い、平均粗さ(Ra)を測定した。
【0142】
実施例1
透明基材1の両面を濡れ指数が56dyne/cmになるようにプラズマ処理した。ポリビニルアルコール 5部及び水 95部からなる配向膜用組成物を透明基材1の片面(A層(樹脂1)側)に塗布し、乾燥して、膜を形成した。次いで、透明基材1の長手方向に平行な方向に、フェルトのロールでラビングして、平均厚さ0.1μmの配向膜を得た。
【0143】
ネマチック液晶化合物(BASF社製、商品名「LC242」) 100部、カイラル剤(BASF社製、商品名「LC756」) 3.60部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名「Irgacure907」) 3.21部、及び界面活性剤(セイミケミカル社製、商品名「KH−40」) 0.11部を、メチルエチルケトン 160部に溶解し、孔径2μmのポリフルオロエチレン製CD/Xシリンジフィルターを用いて濾過することにより、液晶塗工液を調製した。
【0144】
配向膜上に、液晶塗工液を乾燥厚さが1.85μmになるように塗工し、100℃で5分間乾燥した。次いで、紫外線を150mJ/cm2で照射し、コレステリック樹脂層を形成し、円偏光反射板を得た。
この円偏光反射板に、図1に示す発光スペクトルを持つ平行化された白色光を入射角0度で入射し、光線透過率を分光器(相馬光学社製、商品名「S−2600」)で測定した。入射角0度のおける選択反射帯域は波長700〜820nmであり、入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率は89%であった。
次に平行化された白色光(600nm〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長λR1が630nmの光)を入射角60度で入射し、光線透過率を同様に測定した。入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率は71%であった。その他の物性を併せて表2に示した。
【0145】
【表2】

【0146】
(円偏光反射板の可撓性)
円偏光反射板を1cm×5cmに打ち抜いてフィルム片を得た。得られたフィルム片を3mmφのスチール製の棒に巻きつけ、巻きつけたフィルム片が棒のところで割れるか否かをテストした。合計10枚のフィルム片についてテストを行い、割れたフィルム片の枚数によって下記指標で可撓性を表した。
○:割れたフィルム片が0枚
△:割れたフィルム片が1枚
×:割れたフィルム片が2枚以上
【0147】
(円偏光反射板のカール性の評価)
円偏光反射板を10cm×10cmの大きさに切り出し、水平盤上に置き、カール状態を観察して、次の基準にてカール性を評価した。
◎:全くカールが認められず、良好
○:殆ど目立たないが、わずかにカールが認められる。
×:明らかにカールが認められ、実用上問題のあるレベル。
【0148】
【表3】

【0149】
(偏光子の作成)
ポリビニルアルコールフィルムを、2.5倍に一軸延伸し、ヨウ素0.2g/L及びヨウ化カリウム60g/Lを含む30℃の水溶液中に240秒間浸漬し、次いでホウ酸70g/L及びヨウ化カリウム30g/Lを含む水溶液に浸漬すると同時に6.0倍に一軸延伸して5分間保持した。最後に、室温で24時間乾燥し、平均厚さ30μmで、偏光度.99.95%の偏光子Pを得た。
【0150】
(入射側偏光板Xの作成)
偏光子Pの両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し、偏光子Pの一方の面に円偏光反射板のコレステリック樹脂層が形成されていない面(B層(樹脂2)側)を重ね、偏光子Pのもう一方の面に透明基材1のB層(樹脂2)側を重ね、ロールトゥロール法により貼り合わせ円偏光反射機能を有する入射側偏光板Xを得た。
【0151】
(出射側偏光板Yの作成)
厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(「KC8UX2M」(製品名、コニカ・ミノルタ社製))の一方の面に、水酸化カリウムの1.5モル/Lイソプロピルアルコール溶液を25mL/m2塗布し、25℃で5秒間乾燥した。次いで、流水で10秒間洗浄し、最後に25℃の空気を吹き付けることによりフィルムの表面を乾燥して、トリアセチルセルロースフィルムの一方の表面のみをケン化処理した保護フィルムを得た。
偏光子Pの両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し、偏光子Pの両面に保護フィルムのケン化処理が施された面を重ね、ロールトゥロール法により貼り合わせ出射側偏光板Yを得た。
【0152】
この入射側偏光板X、出射側偏光板Yを図4に示す構成の液晶表示装置に組み込み特性評価をした。液晶表示装置の評価結果を表3に示した。
【0153】
(色度変化)
液晶表示装置を、左右方向で0〜80度の角度から目視観察し、以下の基準で評価した
○:左右方向0〜80度の範囲で殆ど色度変化が認められなかった。
×:左右方向60度以上で赤みを帯びた。
【0154】
(表示装置の色むら)
液晶表示装置を白表示にして、入射角度60度にて、色むらを目視観察し、以下の基準で評価した。
○:色むらが見えない
×:色むらが目立つ
【0155】
(額縁故障)
液晶表示装置を温度60℃、湿度90%の恒温槽に500時間放置した。液晶表示装置を黒表示にして画面を目視にて観察する。
○:全面にわたり光漏れが見られない。
×:端部に光漏れが見られる。
【0156】
比較例1
実施例1の円偏光反射板の光線透過率を測定したのと同様に透明基材1の光線透過率を測定した。選択反射帯域は確認されず、平行化された白色光を入射角0度で入射した場合の波長600nm〜700nmの光の平均透過率は90%であった。平行化された白色光を入射角60度で入射した場合の波長600nm〜700nmの光の平均透過率は82%であった。その他の物性を併せて表2に示した。
実施例1で用いた円偏光反射板に代えて、透明基材1を用いた他は、実施例1と同様に図4に示す構成の液晶表示装置に組み込み評価した。左右方向60度以上で赤みを帯びていた。液晶表示装置の評価結果を表3に示した。
【0157】
実施例2
透明基材1の両面を濡れ指数が56dyne/cmになるようにプラズマ処理した。ポリビニルアルコール 5部及び水 95部からなる配向膜用組成物を透明基材1の片面(A層(樹脂1)側)に塗布し、乾燥して、膜を形成した。次いで、透明基材1の長手方向に平行な方向に、フェルトのロールでラビングして、平均厚さ0.1μmの配向膜を得た。
【0158】
ネマチック液晶化合物(BASF社製、商品名「LC242」) 100部、カイラル剤(BASF社製、商品名「LC756」) 3.46部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名「Irgacure907」) 3.21部、及び界面活性剤(セイミケミカル社製、商品名「KH−40」) 0.11部を、メチルエチルケトン 160部に溶解し、孔径2μmのポリフルオロエチレン製CD/Xシリンジフィルターを用いて濾過することにより、液晶塗工液を調製した。
【0159】
配向膜上に、液晶塗工液を乾燥厚さが1.88μmになるように塗工し、100℃で5分間乾燥した。次いで、紫外線を150mJ/cm2で照射し、コレステリック樹脂層を形成し、円偏光反射板を得た。
円偏光反射板の断面をSEM観察したところ、コレステリック樹脂層の螺旋ピッチは470nmであった。その他の物性を併せて表2に示した。
【0160】
この円偏光反射板に、図1に示す発光スペクトルを持つ平行化された白色光を入射角0度で入射し、光線反射率を分光器(相馬光学製、商品名「S−2600」)で測定した。選択反射帯域は690nm〜850nmにあり、波長760nmで最大反射率24%を示した。
次に平行化された白色光を入射角60度で入射し、光線反射率を同様に測定したところ、波長760nmでの反射率は20%であり、入射角0度における波長760nmの反射率の83%であった。また、入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均反射率は29%であった。
【0161】
前記円偏光反射板を実施例1と同様に図4に示す構成の液晶表示装置に組み込み、評価した。左右0〜80度の範囲でほとんど色度変化が認められなかった。液晶表示装置の特性を表3に示した。
【0162】
比較例2
透明基材1の両面を濡れ指数が56dyne/cmになるようにプラズマ処理した。ポリビニルアルコール 5部、及び水 95部からなる配向膜用組成物を透明基材1の片面(A層(樹脂1)側)に塗布し、乾燥して、膜を形成した。次いで、透明基材1の長手方向に平行な方向に、フェルトのロールでラビングして、平均厚さ0.1μmの配向膜を得た。
【0163】
ネマチック液晶化合物(BASF社製、商品名「LC242」) 100部、カイラル剤(BASF社製、商品名「LC756」) 4.98部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名「Irgacure907」) 3.24部、及び界面活性剤(セイミケミカル社製、商品名「KH−40」) 0.12部を、メチルエチルケトン 162部に溶解し、孔径2μmのポリフルオロエチレン製CD/Xシリンジフィルターを用いて濾過することにより、液晶塗工液を調製した。
【0164】
配向膜上に、液晶塗工液を乾燥厚さが1.50μmになるように塗工し、100℃で5分間乾燥した。次いで、紫外線を150mJ/cm2で照射し、コレステリック樹脂層を形成し、円偏光反射板を得た。
円偏光反射板の断面をSEM観察したところ、コレステリック樹脂層の螺旋ピッチは365nmであった。その他の物性を併せて表2に示した。
【0165】
さらに、実施例2と同様に光線反射率を測定した。選択反射帯域は530nm〜630nmにあり、波長555nmで最大反射率28%を示した。平行化された白色光を入射角60度で入射した場合の、波長555nmでの反射率は12%であり、入射角0度における波長555nmの反射率の43%であった。また、入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均反射率は18%であった。
【0166】
実施例2で用いた円偏光反射板に代えて、前記円偏光反射板を用いて、実施例1と同様に図4に示す構成の液晶表示装置に組み込み、評価した。左右方向60度以上で黄緑色を呈していた。液晶表示装置の特性を表3に示した。
【0167】
比較例3
透明基材1を透明基材2に替えた他は実施例1と同様にして円偏光反射板を得た。この円偏光反射板に、図1に示す発光スペクトルを持つ平行化された白色光を入射角0度で入射し、光線透過率を分光器(相馬光学社製、商品名「S−2600」)で測定した。入射角0度のおける選択反射帯域は波長700〜820nmであった。円偏光反射板の物性を表2に、液晶表示装置の特性を表3に示した。
【0168】
比較例4
透明基材1を透明基材3に替えた他は実施例1と同様にして円偏光反射板を得た。この円偏光反射板に、図1に示す発光スペクトルを持つ平行化された白色光を入射角0度で入射し、光線透過率を分光器(相馬光学社製、商品名「S−2600」)で測定した。入射角0度のおける選択反射帯域は波長700〜820nmであった。透明基材3の物性を表1に示した。円偏光反射板の物性を表2に、液晶表示装置の特性を表3に示した。
【0169】
比較例5
透明基材1をTACフィルム(透明基材4)に替えた他は実施例1と同様にして円偏光反射板を得た。この円偏光反射板に、図1に示す発光スペクトルを持つ平行化された白色光を入射角0度で入射し、光線透過率を分光器(相馬光学社製、商品名「S−2600」)で測定した。入射角0度のおける選択反射帯域は波長700〜820nmであった。透明基材4の物性を表1に示した。円偏光反射板の物性を表2に、液晶表示装置の特性を表3に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材の上に形成された選択反射層とを有する、光源を備えた装置に用いる光学素子であって、
該透明基材が、ビカット軟化点が120℃以上で且つメチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Aにより形成された層Aと、
メチルメタクリレート単位70重量%以上を含有するメタクリル樹脂Bと、弾性体粒子とを含有し、ビカット軟化点が95℃〜115℃で且つ引張破壊ひずみが15%以上である樹脂組成物により形成された層Bとを、
それぞれ少なくとも1層有し、
層Bが少なくとも一方の最表面層となる積層体からなるものであり、
入射角0度の光線を反射する波長帯域の下限λLが、光源が発する光の中で600nm〜700nmの波長帯域で最大発光強度を示す光の波長λR1よりも長い、光学素子。
【請求項2】
透明基材が、前記層Aの両面に、前記層Bが積層されてなる、平均厚さが100μm未満の積層体である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が40%以上80%以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が60%以上であり、
入射角0度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率より大きい請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均透過率が50%以上80%以下である請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
選択反射層がコレステリック規則性を持つ樹脂層を含む、請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
選択反射層がコレステリック規則性を持つ樹脂層を含み、
該樹脂層のカイラルピッチが400nm以上であり、且つ
入射角0度における選択反射帯域での最大反射率が10%以上40%以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項8】
入射角0度における選択反射帯域で最大反射率を示す波長の光を、入射角60度で入射したときの反射率が、入射角0度における前記最大反射率の50%以上90%以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項9】
入射角60度における波長600nm〜700nmの光の平均反射率が20%以上60%以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項10】
請求項1に記載の光学素子と、直線偏光子とを積層させた偏光板。
【請求項11】
請求項1に記載の光学素子と、位相差素子とを積層させた位相差板。
【請求項12】
光反射素子、光源、光拡散素子、及び請求項1に記載の光学素子が、この順に配置された照明装置。
【請求項13】
光反射素子、光源、光拡散素子、及び請求項10に記載の偏光板が、この順に配置された偏光照明装置。
【請求項14】
光反射素子、光源、光拡散素子、請求項1に記載の光学素子、直線偏光子、液晶パネル及び検光子が、この順に配置された液晶表示装置。
【請求項15】
光源が冷陰極管、熱陰極管、発光ダイオード、及びエレクトロルミネセンスから選択されるものである請求項14に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−197223(P2008−197223A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30307(P2007−30307)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】