説明

光学素子、成形金型、光学素子の製造方法、マイクロ化学チップおよび分光分析装置

【課題】環境が変化しても安定した光学特性を示す光学素子、ホログラム素子を提供すること。
【解決手段】マイクロ化学チップ100は金属ガラス製であり、マイクロ化学チップ100には、流体サンプルが流れるチャンネル2aが形成されている。領域Aのチャンネル2aの底面2Aには、微細凹凸構造体10が形成され、微細凹凸構造体10は、周期的に凹凸が繰り返される線状凹凸面から成り、入射光に対して反射型の回折作用を有する回折光学素子11と、周期的に柱状突起が分布する凹凸面から成り、入射光強度に対して反射光強度が零または低い無反射光学素子12とを含む。マイクロ化学チップ100は金属ガラス製であり、環境温度が変化しても安定した寸法精度を保つので、常に安定した光学特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、ホログラム素子、光学素子やホログラム素子の製作に用いられる成形金型および光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の光学素子は、金型を用いてポリマーの表面に微細な凹凸形状をプレス成型することにより製作され、回折や反射などの光学特性を有する。その製作過程は、金型を所定温度に加熱しておき、可塑化された樹脂材料を金型のキャビティ内に射出し、所定の圧力下で保持し、樹脂材料を固化させた後に金型から取り出す(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−58470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂製の光学素子は、耐熱性や耐蝕性が良好とは言えず、また、熱膨張率が10−3/℃と大きいために光学特性の温度依存性が大きいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明による光学素子は、金属ガラスの表面に、微細凹凸構造を有し、異なる光学性能を有する2以上の反射型光学素子を設けたことを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1の光学素子において、2以上の反射型光学素子は、回折光学素子と、低反射面もしくは無反射面とを含むことを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2の光学素子において、2以上の反射型光学素子は、ピッチの異なる2以上の回折光学素子を有することを特徴とする。
(4)請求項4の発明による光学素子は、金属ガラスの表面に、低反射面もしくは無反射面である微細凹凸構造を形成したことを特徴とする。
(5)請求項5の発明による光学素子は、金属ガラスの表面に、微細凹凸構造を有し、ホログラム効果により可視光を反射する機能を有する反射型光学素子を形成したことを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子の成形金型である。
(7)請求項7の発明は、請求項6の成形金型において、計算機ホログラムを用いた計算結果に基づいて微細凹凸構造と同一構造の立体パターンを形成した母型から、電鋳法により立体パターンを転写して製作したことを特徴とする。
(8)請求項8の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子をプレスで成形するための成形金型において、イオンビーム加工により微細凹凸構造に対応する転写用立体パターンを表面に形成して製作したことを特徴とする。
(9)請求項9の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子をプレスで成形するための成形金型において、レーザを用いたアブレーション加工により微細凹凸構造に対応する転写用立体パターンを表面に形成して製作したことを特徴とする。
(10)請求項10の発明による光学素子の製造方法は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子を請求項6〜9のいずれか一項に記載の成形金型を用いてプレス加工する光学素子の製造方法であって、金属ガラスの過冷却液体温度域まで金属ガラスと成形金型とを加熱する加熱工程と、金属ガラスを成形金型の立体パターン形成面に押圧して、金属ガラスの表面に微細凹凸構造を形成する成形工程とを含むことを特徴とする。
(11)請求項11の発明によるマイクロ化学チップは、被検流体を流す流路が設けられているマイクロ化学チップにおいて、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子を流路に形成したことを特徴とする。
(12)請求項12の発明による分光分析装置は、請求項2に記載の光学素子を流路に形成したマイクロ化学チップと、回折光学素子に分析光を照射する光源と、回折光学素子からの回折光を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明による金属ガラス製の光学素子は、耐熱性や耐蝕性に優れ、熱膨張率が小さいために環境の温度が変化しても安定した光学特性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態による光学素子、マイクロ化学チップ、ホログラム素子、成形金型について図1〜図10を参照しながら説明する。
【0008】
〈第1の実施の形態〉−マイクロ化学チップ−
図1は、本発明の第1の実施の形態によるマイクロ化学チップ100を模式的に示す平面図である。マイクロ化学チップ100は、リザーバー(貯蔵部)1a〜1d、チャンネル(流路)2a,2bおよび電極3a〜3dが設けられたチップ本体5に密着してガラス基板6を貼り合わして構成される。チップ本体5は、金属ガラスを素材としてプレス成形により作製される。なお、図1は、ガラス基板6を透してチップ本体5を見た図に相当する。
【0009】
4個のリザーバー1a〜1dは、外部から供給された流体サンプルを貯蔵したりチャンネル2a,2bを流れた流体サンプルを回収するための窪みである。チャンネル2a,2bは、例えば50μmの幅を有する溝であり、チャンネル2aは、リザーバー1aと1bに連通し、チャンネル2bは、リザーバー1cと1dに連通している。電極3a〜3dは、それぞれリザーバー1a〜1dの近傍に配置されている。電極3a,3bは、それぞれ直流電源4aに接続され、電極3c,3dは、それぞれ直流電源に接続されている。
【0010】
このように構成されたマイクロ化学チップ100では、例えば、リザーバー1aから流体サンプルをチップ本体5に導入し、電極3a,3b間に電圧を印加してチャンネル2a内で流体サンプルをリザーバー1bまで流通させる。また、例えばリザーバー1cから試薬等をチップ本体5に導入し、電極3c,3d間に電圧を印加してチャンネル2a内を流れる流体サンプルに試薬などを添加する。そして、リザーバー1aからリザーバー1bへチャンネル2aを通して流動する流体サンプル(試料)の光信号(光学情報)を領域Aに設けた後述する回折光学素子11で検出し、試料を分光分析する。
【0011】
図2は、図1に示す領域Aの微細凹凸構造体10を模式的に示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は側面図、図2(c)は平面図である。微細凹凸構造体10は、周期的に凹凸が繰り返される線状凹凸面から成り、入射光に対して反射型の回折作用を有する回折光学素子11と、周期的に柱状突起が分布する凹凸面から成り、入射光強度に対して反射光強度が零または低い無反射光学素子12とを含む。回折光学素子11および無反射光学素子12は、チャンネル2aの底面2Aに形成され、溝の長手方向に沿って回折光学素子11の両側に無反射光学素子12が配置されている。また、無反射光学素子12の外側には、流体サンプルを混合し反応を促進するための無数のピラー13が配置されている。
【0012】
このように構成されたマイクロ化学チップ100では次のようにして試料が分析される。図2(b),(c)に示すように、チャンネル2aの領域Aの微細凹凸構造体10にレーザスポット光(分析光)を照射する。図2(c)に示すように、入射スポット光の直径はチャンネル2aの幅より小さいが、一部は無反射面12にも入射する。このレーザ光は所定帯域の周波数成分を有し、回折光学素子11から試料に応じた周波数成分の光が回折する。この回折光を図示しない光電変換素子等から構成されるセンサで受光し、試料分析を行う。
【0013】
回折光学素子11の前後の領域に無反射面12を形成しているので、回折光学素子11に入射したレーザ光のみをセンサで受光でき、検出信号のS/N比が向上する。
【0014】
この実施の形態では、図1に示されるチップ本体5の全部を金属ガラスのプレス成形により作製するものとした。しかし、少なくとも領域Aを金属ガラスで製作し、領域A以外は別の素材、例えば、シリコン、プラスチックで作製してもよい。製造コストや工程数の観点からは、チップ本体5全体を金属ガラスで作る方が望ましい。
【0015】
金属ガラスは、安定な過冷却液体温度域を有し、この過冷却液体温度域で完全ニュートン粘性流動を呈する非晶質合金である。過冷却液体温度域とは、結晶化温度Txとガラス遷移温度Tgとの差分ΔTx(=Tx−Tg)である。金属ガラスは、過冷却液体温度域においては低応力での粘性流動加工が可能であり、優れた微細成形特性(微細形状転写性)を有する。したがって、過冷却液体温度域で金属ガラスを成形金型に押圧するプレス成形によって微細凹凸構造体10を高精度で作製することができる。
【0016】
金属ガラスは、ガラス遷移温度Tg以下でアモルファス状態であり、ナノメーターオーダーの等方均質性を有するため、高強度、高靭性、高耐食性、高軟磁特性などの特性を備えている。また、金属ガラスの熱膨張率は、10−5/℃程度であり、樹脂に比べると概ね2桁小さい。金属ガラスの例としては、Pt系(白金系)、Pd系(パラジウム系)、Zr系(ジルコニア系)、La系(ランタン系)などの合金がある。例えば、Pt系のPt48.75Pd9.75Cu19.522合金は、ガラス遷移温度Tg=502.3K、結晶化温度Tx=587.7K、過冷却液体温度域ΔTx=85.4Kである。また、Pd系のPd40Cu30Ni1020合金は、ガラス遷移温度Tg=577K、結晶化温度Tx=673K、過冷却液体温度域ΔTx=96Kであり、いずれの合金も比較的低温域での成形加工が可能である。
【0017】
以下、図3〜図7を参照しながら、金属ガラスの一つ、Pt48.75Pd9.75Cu19.522合金を用いた微細凹凸構造体10の製造方法について詳細に説明する。
図3は、マイクロ化学チップ100の微細凹凸構造体10の製造工程を示す図であり、図3(a)〜(f)は成形金型を製作する手順、図3(g),(h)は成形金型を用いて微細凹凸構造体10を製作する手順を示す。
【0018】
上述したように、微細凹凸構造体10には、回折光学素子11と無反射光学素子12の2種類の光学素子が含まれている。初めに回折光学素子11の成形金型の製造工程を説明する。なお、ピラー13も回折光学素子11と同様の手法で作成することができるので、説明は省略する。
【0019】
先ず、図3(a)に示すシリコン基板21を用意し、図3(b)に示すように、シリコン基板21の表面にフォトレジスト22をスピンコータにより塗布する。続いて図3(c)に示すように、フォトレジスト22の表面にレーザ光を照射する露光を行う。
【0020】
図4は、図3(c)に示す露光工程に用いられるレーザ干渉光学系を模式的に示す構成図である。レーザ干渉光学系30は、レーザ光源31と、ビームエキスパンダ32と、ビームスプリッタ33と、ミラー34,35とを備えている。レーザ光源31は、波長405nm以下の連続発振全固体レーザである。レーザ光源31から放射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ32で所定のビーム径に拡大され、ビームスプリッタ33で2つの光束に分離される。これらの2つの光束はそれぞれミラー34,35で反射し、2つの光束B1,B2は、ビーム交差角度θでレジスト22がコートされたシリコン基板21の表面に入射し、干渉縞F1が生成する。
【0021】
干渉縞F1は、図4の上部に示す拡大平面図のように、干渉による光強度の大小に基づく濃淡パターンである。干渉縞F1のピッチΔXは、レーザ光の波長λとビーム交差角度θを用いて式(1)のように書き表せる。したがって、波長λ、ビーム交差角度θを変えることによってピッチΔXを任意に変えることができる。
ΔX=λ/2sin(θ/2)・・・・(1)
【0022】
2つの光束により露光されたフォトレジスト22に対して現像とリンスを行うと、図3(d)に示すように、干渉縞F1のパターンに対応する微細凹凸構造を有するレジスト母型23が得られる。次に、図3(e)に示すように、このレジスト母型23に電鋳法によりニッケルを100μm程度の厚さに堆積させる。このニッケル電鋳品を離型すると、図3(f)に示す回折光学素子11用の成形金型24が完成する。
【0023】
次に、無反射光学素子12の成形金型の製造工程を説明する。無反射光学素子12用の成形金型も回折光学素子11用の成形金型24と同様の工程で製作されるが、図3(c)に示す露光工程のみが異なる。図5を参照して説明すると、無反射光学素子12用の成形金型の製作の場合も露光工程でレーザ干渉光学系30を使用するが、図4の干渉縞F1により露光した後に、フォトレジスト22付きシリコン基板21を90°回転させて干渉縞F1により2回目の露光を行う。この二重露光による干渉縞F2の濃淡パターンは、図5の上部に示す拡大平面図のような格子状となる。二重露光後に、現像とリンスを行うと、干渉縞F2のパターンに対応する複数の柱状突起が配列してなる微細凹凸構造を有するレジスト母型が得られる。このレジスト母型から電鋳法により無反射光学素子12用の成形金型を製作する。
【0024】
図6は、2種類の凹凸パターンを有する複合タイプの成形金型を模式的に示す部分斜視図である。複合金型70は、成形金型24,24Aを併せもつ複合タイプの成形金型であり、図2に示した領域Aの微細凹凸構造体10に対応する寸法形状を有する。すなわち、成形金型24が回折光学素子11に、成形金型24Aが無反射光学素子12にそれぞれ対応する。なお、符号26はピラー13に対応する小孔である。
【0025】
再び図3に戻り、成形金型24を用いた回折光学素子11の作成手順を説明する。図3(g)に示すように、金属ガラス素材25をその過冷却液体温度域ΔTxで成形金型24に押圧するプレス成形を行う。金属ガラス素材25としてPt48.75Pd9.75Cu19.522合金を用いた場合、成形条件は、成形温度550K、平均負荷応力10MPa、成形時間300秒とした。成形後、金属ガラス素材25のガラス遷移温度Tg以下に冷却し、除荷した後に、成形品である金属ガラスを成形金型24から分離すると、図3(h)に示す金属ガラス製の回折光学素子11が完成する。同様の手順で、無反射光学素子12も作製する。その結果、図2(b)に示すように、マイクロ化学チップ100のチャンネル2aに、回折光学素子11と無反射光学素子12とを有する微細凹凸構造体10が形成される。また、回折光学素子11の表面には反射膜をコートしてもよい。
【0026】
第1の実施の形態のマイクロ化学チップ100は、金属ガラス製であるので、熱膨張率が小さく、耐熱性、耐食性に富む。したがって、マイクロ化学チップ100は、環境温度が変化しても寸法変化が少なく、流体サンプルからの腐食作用を受け難く、安定した光学性能を維持できる。また、図2(b),(c)に示すように、回折光学素子11の形成範囲より大きいビーム径の入射光が照射された場合でも、ノイズが零またはほとんど無いSN比の高い回折光を取り出すことができる。これは、回折光学素子11の両側に無反射光学素子12が配置されているので、ノイズとなる反射光が全くないか、またはほとんど発生しないからである。
【0027】
なお、第1の実施の形態では、マイクロ化学チップ100のチャンネル2aに、回折光学素子11と無反射光学素子12の2種類の光学素子を配置したが、例えば、ピッチの異なる2種類以上の回折光学素子を配置してもよい。この場合は、ピッチの大きさに応じた2波長以上の分光が可能となる。さらに、2種類以上の回折光学素子と無反射光学素子12を混在させて配置してもよい。
【0028】
上述したプレス成形工程に使用される成形装置について図7を参照して説明する。図7は、成形装置の概略構成図である。成形装置40は、ガイドポスト41と、ダイセット上板42と、ダイセット下板43と、上部ヒータ44と、下部ヒータ45と、油圧アクチュエータ46と、ロードセル47とを備えている。ダイセット上板42、上部ヒータ44、下部ヒータ45は、真空チャンバ50内に配置されている。また、成形装置40は、温度制御回路51と、ヒータ電源52と、温度計53と、冷却水供給装置54と、駆動回路55と、荷重検出回路56と、型開変位計57と、型締変位計58と、制御盤59と、PC60とを備えている。
【0029】
複合金型70と金属ガラス素材25は、それぞれ下部ヒータ45と上部ヒータ44に保持される。上部ヒータ44と下部ヒータ45は、ヒータ電源52により加熱され、ヒータ温度は、温度計53により測定され、温度制御回路51によりPID制御される。また、上部ヒータ44と下部ヒータ45の周辺は、冷却水供給装置54により冷却される。油圧アクチュエータ46は、駆動回路55の制御の下にダイセット上板42の上下動作を行う。ダイセット上板42の移動により複合金型70と金属ガラス素材25との間に負荷がかかると、その荷重はロードセル47を介して荷重検出回路56により測定される。型開変位計57は、ダイセット上板42の位置決めのためのストローク計測に用いられ、型締変位計58は、成形加工中の金属ガラス素材25の圧縮変位量の計測に用いられる。温度制御回路51、駆動回路55、荷重検出回路56、型開変位計57および型締変位計58は、制御盤59を介してコントロールされ、各種測定データは制御盤59を介してPC60に取り込まれる。
【0030】
〈第2の実施の形態〉−ホログラム素子−
第2の実施の形態によるホログラム素子は、第1の実施の形態の微細凹凸構造体10と同様、金属ガラスを素材として成形金型を用いたプレス成形により作製される反射型の素子である。図8は、第2の実施の形態によるホログラム素子200を説明する図である。図8(a)に示すように、フィルム201上には、物体波と参照波とが干渉して成る干渉縞が記録され、フィルム201の濃淡パターン像からホログラム素子200の微細凹凸構造が形成される。ホログラム素子200から物体の像を再生するときは、図8(b)に示すように、ホログラム素子200の微細凹凸構造に参照波を照射して回折波を取り出す。この微細凹凸構造のパターン(ホログラムパターン)形成法として、光学的な手法と計算機による計算結果を描画するディジタル的な手法がある。
【0031】
図9は、光学的な手法によるホログラム素子200の製造工程を示す図である。先ず、図9(a)に示すように、シリコン基板81上のフォトレジスト82の表面に、干渉縞が記録されたフィルム201をマスク90として用い、光Cを照射する露光を行う。露光されたフォトレジスト82に対して現像とリンスを行うと、図9(b)に示すように、マスク90のパターンに対応する微細凹凸構造を有するレジスト母型83が得られる。次に、図9(c)に示すように、この微細凹凸構造83を有するレジスト母型に電鋳法によりニッケルを100μm程度の厚さに堆積させる。このニッケル電鋳品を離型すると、図9(d)に示すホログラム素子200用の成形金型84が完成する。
【0032】
図9(e)に示すように、金属ガラス素材85をその過冷却液体温度域ΔTxで成形金型84に押圧するプレス成形を行う。金属ガラス素材85としてPt48.75Pd9.75Cu19.522合金を用い、成形条件は第1の実施の形態と同じとした。成形後、金属ガラス素材85のガラス遷移温度Tg以下に冷却し、除荷した後に、成形品である金属ガラスを成形金型84から分離すると、図9(f)に示す金属ガラス製のホログラム素子200が完成する。
【0033】
また、上述した計算機を援用したディジタルホログラム法では、フィルムに干渉縞を記録せず、計算機内で物体波と参照波のモデルから干渉縞を計算して目的とする回折像を得るようにホログラムを設計する。すなわち、図10のチャートに示すように、符号化による制約の下でホログラムと回折像との間で最適化アルゴリズム演算を行う。そして、目的とする回折像が得られた段階で、そのホログラムパターンを描画装置によりフォトレジスト上に描画してホログラムパターンに対応する微細凹凸構造を形成する。その後の製造工程は、図9(c)以降と同様である。なお、ディジタルホログラム法では、ホログラムの符号化方式に振幅型と位相型(レリーフ型)とがあるが、位相型の方がホログラム作製の容易さから有利である。
【0034】
第2の実施の形態のホログラム素子200も、第1の実施の形態のマイクロ化学チップ100と同様、金属ガラス製であるので、熱膨張率が小さく、耐熱性、耐食性に富むので、環境温度が変化しても安定したホログラム効果を維持できる。
【0035】
〈変形例:成形金型〉
次に、成形金型の変形例を説明する。変形例の一つは、集束イオンビーム加工により、例えばアモルファスカーボン表面に微細凹凸構造に対応する転写用立体パターンを形成して製作した成形金型である。他の一つは、エキシマレーザを用いたアブレーション加工により、例えばポリイミド樹脂のような耐熱樹脂表面に微細凹凸構造に対応する転写用立体パターンを形成して製作した成形金型である。いずれの金型も、第1、第2の実施の形態で説明した母型を必要とせず、直接に成形金型を製作するので、工程数の削減を図ることができる。
【0036】
本発明は、上記の実施の形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、金属ガラス製の光学機能を有する微細凹凸構造を有する素子や部品に適用できる。例えば、第1の実施の形態のマイクロ化学チップ100に設けられる微細凹凸構造体10は、分光分析機器の分光板として用いることもできる。また、第2の実施の形態のホログラム素子200は、例えばセキュリティ用の認証タグやストレージデバイスとして応用することができる。
【0037】
また、図2のマイクロ化学チップ100と、その回折光学素子11に分析光としてのレーザ光を照射する光源と、回折光学素子11からの回折光を受光する光電変換素子とを備える分光分析装置も本発明の一形態である。また、流路2aの異なる箇所に、異なる回折機能を有する光学素子をそれぞれ設けた場合、1種類のレーザ光を2つの回折光学素子に照射して、各回折光をそれぞれ光電変換素子で受光すれば、一度に2種類の試料の分光分析を行うことができる分光分析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ化学チップを模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示すマイクロ化学チップ100の領域Aの微細凹凸構造体を模式的に示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は側面図、図2(c)は平面図である。
【図3】マイクロ化学チップ100の微細凹凸構造体10の製造工程を示す図であり、図3(a)〜(f)は成形金型を製作する手順、図3(g),(h)は成形金型を用いて微細凹凸構造体10を製作する手順を示す。
【図4】図3(c)に示す露光工程に用いられるレーザ干渉光学系を模式的に示す構成図である。
【図5】図4に示すレーザ干渉光学系30の別の態様を模式的に示す構成図である。
【図6】マイクロ化学チップ100用の複合タイプの成形金型70を模式的に示す部分斜視図である。
【図7】マイクロ化学チップ100の成形に使用される成形装置の概略構成図である。
【図8】第2の実施の形態に係るホログラム素子200を説明する図である。
【図9】ホログラム素子200の製造工程を示す図である。
【図10】ディジタルホログラム法による回折像の最適化アルゴリズムを説明するチャートである。
【符号の説明】
【0039】
2a:チャンネル 5:チップ本体
10:微細凹凸構造体 11:回折光学素子
12無反射光学素子 23,83:レジスト母型
24,24A,84:成形金型 25,85:金属ガラス
30:レーザ干渉光学系 40:成形装置
70:複合金型 100:マイクロ化学チップ
200:ホログラム素子 A:領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラスの表面に、微細凹凸構造を有し、異なる光学性能を有する2以上の反射型光学素子を設けたことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1の光学素子において、
2以上の前記反射型光学素子は、回折光学素子と、低反射面もしくは無反射面とを含むことを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1または2の光学素子において、
2以上の前記反射型光学素子は、ピッチの異なる2以上の回折光学素子を有することを特徴とする光学素子。
【請求項4】
金属ガラスの表面に、低反射面もしくは無反射面である微細凹凸構造を形成したことを特徴とする光学素子。
【請求項5】
金属ガラスの表面に、微細凹凸構造を有し、ホログラム効果により可視光を反射する機能を有する反射型光学素子を形成したことを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子の成形金型。
【請求項7】
請求項6の成形金型において、
計算機ホログラムを用いた計算結果に基づいて前記微細凹凸構造と同一構造の立体パターンを形成した母型から、電鋳法により前記立体パターンを転写して製作したことを特徴とする成形金型。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子をプレスで成形するための成形金型において、
イオンビーム加工により前記微細凹凸構造に対応する転写用立体パターンを表面に形成して製作したことを特徴とする成形金型。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子をプレスで成形するための成形金型において、
レーザを用いたアブレーション加工により前記微細凹凸構造に対応する転写用立体パターンを表面に形成して製作したことを特徴とする成形金型。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子を請求項6〜9のいずれか一項に記載の成形金型を用いてプレス加工する光学素子の製造方法であって、
前記金属ガラスの過冷却液体温度域まで前記金属ガラスと前記成形金型とを加熱する加熱工程と、
前記金属ガラスを前記成形金型の立体パターン形成面に押圧して、前記金属ガラスの表面に前記微細凹凸構造を形成する成形工程とを含むことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項11】
被検流体を流す流路が設けられているマイクロ化学チップにおいて、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子を前記流路に形成したことを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項12】
請求項2に記載の光学素子を前記流路に形成したマイクロ化学チップと、
前記回折光学素子に分析光を照射する光源と、
前記回折光学素子からの回折光を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする分光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−164068(P2007−164068A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363395(P2005−363395)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)9月18日 社団法人日本機械学会発行の「2005年度年次大会講演論文集(1)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月4日 社団法人日本塑性加工学会発行の「第56回塑性加工連合講演会講演論文集」に発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(505461094)株式会社BMG (13)
【Fターム(参考)】