説明

光学素子及び光学装置の製造方法

【課題】焦点位置に正確に光を集光することができるように回折格子に入射する光の入射角度を容易に効率良く調整することができる平面光学素子を提供する。
【解決手段】一部の輪郭形状が放物線であるコア層と前記コア層と接するクラッド層とからなる導波路と、照射される光を前記コア層の先端部に向かって進む光として前記コア層の内部に導入する回折格子と、を有し、前記コア層に導入された光が前記先端部にある前記放物線の焦点に収束し、前記先端部から射出する光学素子において、前記コア層を進む光の一部を吸収する若しくは散乱させる遮光部が前記回折格子と前記焦点との間に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び光学装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録方式では、記録密度が高くなると磁気ビットが外部温度等の影響を顕著に受けるようになる。このため高い保磁力を有する記録媒体が必要になるが、そのような記録媒体を使用すると記録時に必要な磁界も大きくなる。記録ヘッドによって発生する磁界は飽和磁束密度によって上限が決まるが、その値は材料限界に近づいており飛躍的な増大は望めない。そこで、記録時に局所的に加熱して磁気軟化を生じさせ、保磁力が小さくなった状態で記録し、その後に加熱を止めて自然冷却することにより、記録した磁気ビットの安定性を保証する方式が提案されている。この方式は熱アシスト磁気記録方式と呼ばれている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式では、記録媒体の加熱を瞬間的に行うことが望ましい。また、加熱する機構と記録媒体とが接触することは許されない。このため、加熱は光の吸収を利用して行われるのが一般的であり、加熱に光を用いる方式は光アシスト式と呼ばれている。光アシスト式で超高密度記録を行う場合、必要なスポット径は20nm程度になるが、通常の光学系では回折限界があるため、光をそこまで集光することはできない。そこで、非伝搬光である近接場光を用いて加熱する方式がいくつか提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、レーザー光を例えばプレーナー状光波ガイド(Planer Solid Immersion Mirror:PSIMとも称される。)によって微小な金属構造体である金属ピンに集光し近接場光を発生する磁気記録ヘッドが記載されている。
【0005】
近接場光を効率良く発生させるためには、金属構造体に効率良く集光する必要があるが、金属ピン等の金属構造体の大きさは数百nm程度と非常に小さいため、集光位置は高精度に決めることが要求される。
【0006】
特許文献2には、光アシスト磁気記録方式の記録ヘッドにおいて、回折格子を介してPSIMの導波路に光源からの光を効率良く結合させることができるように回折格子を照射する光を調整する方法が記載されている。具体的には、導波路に結合される光量に応じて変化する光量を検知する検出器を設け、この検出器が検知した光量に基づいて回折格子を照射する光の入射角度または左右位置を調整する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2006−179169号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0233061号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載されている、回折格子を照射する光の入射角度の調整は、所謂回折格子における入射角度である。すなわち、回折格子を照射する光の光軸は、ストライプ状に格子が等間隔で並ぶ方向に対して平行方向で、且つ、格子が形成されている回折面に対して垂直方向である2つの方向で定まる面(回折格子入射面と呼ぶ。)の面内にある。回折格子入射面における入射角度θは、入射する光の波長や回折格子のピッチ等から、後段の導波路に光が効率良く結合できる角度が定まり、この角度を所定の入射角度θとする。この所定の入射角度θの許容される角度は、±0.1°程度である。
【0008】
しかしながら、実際に回折格子の入射光の光軸が、上述の回折格子入射面内にあるとは限らず、回折格子入射面が回折面に対して垂直方向から傾く場合がある。以降、この傾きを傾き角度αと表す。傾き角度α=0でない場合、PSIMの集光位置にずれが生じ、集光位置に配置されている金属構造体を正確に照射されないため、近接場光を効率良く発生することができない。
【0009】
金属構造体の大きさは、数百nmと小さいため、上述の垂直方向から傾く傾き角度αの許容角度誤差は±0.1度程度と極めて小さい。このため、記録ヘッドの組み立て時等において、回折格子に入射する光の傾き角度の調整を行い、光スポットの位置を金属構造体の位置に合わせるようにするためには、例えば高価で大掛かりな装置である近接場光顕微鏡を用いることが必要である。近接場光顕微鏡を用いる方法は、プローブを少なくとも観察対象物に数十nmまで近接させてスキャンする必要があり、記録ヘッドの組み立てに多大な時間と労力を要するという問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、所望の位置に正確に光を集光することができるように回折格子に光が入射する傾き角度を容易に効率良く調整することができる平面光学素子及びこの平面光学素子を備えた光学装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0012】
1.一部の輪郭形状が放物線であるコア層と前記コア層と接するクラッド層とからなる導波路と、
照射される光を前記コア層の先端部に向かって進む光として前記コア層の内部に導入する回折格子と、を有し、
前記コア層に導入された光が前記先端部にある前記放物線の焦点に収束し、前記先端部から射出する光学素子において、
前記コア層を進む光の一部を吸収する若しくは散乱させる遮光部が前記回折格子と前記焦点との間に配置されていることを特徴とする光学素子。
【0013】
2.前記遮光部は、線対称である形状を有し、線対称の軸が前記放物線の対称軸と重なるように配置されていることを特徴とする前記1に記載の光学素子。
【0014】
3.前記コア層の先端部には、近接場光を発生する金属構造体を備えていることを特徴とする前記1又は2に記載の光学素子。
【0015】
4.前記1から3の何れか一項に記載の光学素子と、
前記回折格子を照射する光を発する光源と、を備えた光学装置の製造方法において、
前記光源からの光を前記回折格子に照射し、前記焦点に集束させてメインローブと該メインローブを中央にして対向する位置にある2つのサイドローブを有する光スポットを形成し、前記2つのサイドローブの光量を測定する光量測定工程と、
前記光量測定工程により測定された前記2つのサイドローブの光量の差若しくは比が、所望の差若しくは比となるように、前記放物線の対称軸に対して垂直な面内に投影された前記回折格子の回折面の法線と前記光が前記回折格子に入射する光軸とが成す傾き角度を調整する調整工程と、を有することを特徴とする光学装置の製造方法。
【0016】
5.前記光学装置は、
前記光源からの光を用いて記録される記録媒体と、
前記光学素子を有し、前記記録媒体に対して相対移動するスライダと、を備えるものであって、
前記光量測定工程は、前記記録媒体が有する前記光を透過する光透過部若しくは前記記録媒体と同じ形状を有する前記光を透過する透明基板を透過した前記2つのサイドローブの光量を測定することを特徴とする前記4に記載の光学装置の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の平面光学素子によれば、コア層の内部に導入された光は、導波路の焦点近傍にメインローブとメインローブを中央としてその両側に2つのサイドローブを有する光スポットを形成する。回折格子に光が入射する傾き角度を変化させると、コア層を進む光の進行方向が変化し光スポットの位置が移動すると共に、遮光部により遮光される光の状態が変化し2つのサイドローブの光量が変化する。
【0018】
よって、2つのサイドローブの光量を測定し、その測定量の差又は比が所望の差又は比となるように回折格子に光が入射する傾き角度を調整することによりメインローブの位置を所望の位置に移動させることができる。例えばコア層の焦点にメインローブの位置が正確に合うように傾き角度を調整することができ、焦点に金属構造体がある場合は、金属構造体の位置にメインローブの位置を正確に合わせ、近接場光を効率良く発生できるようにすることができる。
【0019】
従って、所望の位置に正確に光を集光することができるように回折格子に光が入射する傾き角度を容易に効率良く調整することができる平面光学素子及びこの平面光学素子を備えた光学装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、小さな光スポットである近接場光を効率良く発生するPSIMを有する平面光学素子に関するものであって、この平面光学素子を備える光学装置として、例えば光磁気記録媒体又は光記録媒体に記録を行う光記録ヘッドに使用できる。
【0021】
以下、本発明を図示の実施の形態である光記録ヘッドに磁気記録部を有する光アシスト式磁気記録ヘッドとそれを備えた光記録装置に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。尚、各実施の形態の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複の説明を適宜省略する。
【0022】
図1に光アシスト式磁気記録ヘッドを搭載した光記録装置(例えばハードディスク装置)の概略構成例を示す。この光記録装置100は、以下(1)〜(6)を筐体1の中に備えている。
(1)記録用のディスク(記録媒体)2
(2)支軸6を支点として矢印Aの方向(トラッキング方向)に回転可能に設けられたアーム5に支持されたサスペンション4
(3)アーム5に取り付けられたトラッキング用アクチュエータ7
(4)サスペンション4の先端に結合部材4aを介して取り付けられた光アシスト式磁気記録ヘッド(以下、光記録ヘッド3と称する。)
(5)ディスク2を矢印Bの方向に回転させるモータ(図示しない)
(6)トラッキング用アクチュエータ6、モータ及びディスク2に記録するために書き込み情報に応じて照射する光、磁界の発生等の光記録ヘッド3の制御を行う制御部8
こうした光記録装置100は、光記録ヘッド3がディスク2上で浮上しながら相対的に移動しうるように構成されている。
【0023】
図2は、ディスク2に対する情報記録に光を利用する光記録ヘッド3の一例として、光記録ヘッド3の記録書き込み周辺部を側面から概念的に示している。光記録ヘッド3は、スライダ30、平面光学素子20、磁気記録部40、磁気再生部41等を備えている。
【0024】
スライダ30は、その側面に平面光学素子20を備え、浮上しながらディスク2に対して相対的に移動する。スライダ30のディスク2と対向する面には、浮上特性向上のための空気ベアリング面32(ABS(Air Bearing Surface)面とも称する。)を有している。
【0025】
平面光学素子20は、光が入射する回折格子20aと入力された光を導波して先端部から射出するコア層とクラッド層からなる導波路20bとを備え、この導波路20bがPSIM(Planer Solid Immersion Mirror)である。
【0026】
平面光学素子20に入射する光は、光源50より発せられる。光源50は、例えばレーザー素子、光ファイバー射出端部等と、例えば複数枚のレンズを備えた光学系とを組み合わせたものが挙げられる。光源50から射出する光52は平行光で、平面光学素子20に設けてある回折格子20a(グレーティングカプラとも称する。)に入射(結合)する。
【0027】
光源50から射出された光52は、偏向素子であるミラー51で偏向され、偏向された光52aは、導波路20bに効率良く結合できるように所定の入射角度で回折格子20aに入射するのが好ましい。尚、偏向素子は、ミラー51に限らず、プリズムを使用してもよい。
【0028】
回折格子20aに入射した光は、導波路20b、詳しくはコア層に結合され、平面光学素子20の先端部24に向かって進み、先端部24に配置されているプラズモンアンテナ24dを照射する。光が照射されたプラズモンアンテナ24dは近接場光60を発生し、この近接場光60はディスク2の磁気記録面を加熱する。
【0029】
近接場光60が微小な光スポットとしてディスク2に照射されると、ディスク2の照射された部分の温度が一時的に上昇してディスク2の保磁力が低下する。その保磁力の低下した状態の照射された部分に対して、磁気記録部40により磁気情報が書き込まれる。
【0030】
尚、図2ではディスク2の記録領域の進入側から退出側(図の矢印2a方向)にかけて、平面光学素子20、磁気記録部40の順に配置されている。このように、平面光学素子20の退出側直後に磁気記録部40が位置すると加熱された記録領域の冷却が進みすぎない内に書き込みができるので好ましい。また、磁気記録部40の退出側又は平面光学素子20の流入側にディスク2に書き込まれた磁気記録情報を読み出す磁気再生部41を設けてもよい。
【0031】
平面光学素子20に関して詳しく説明する。平面光学素子20の正面図を図3、図3の軸Cにおける断面図を図4にそれぞれ模式的に示す。平面光学素子20は、PSIMである導波路20bを構成するコア層21と下クラッド層22、上クラッド層23を有し、コア層21には、ミラー51により偏向された光52aが入射する回折格子20aが形成されている。
【0032】
回折格子20aは、コア層21に設けてある側面26、27の形状である放物線の準線(y軸方向)に対して平行な複数の溝により構成されている。図3において、回折格子20aを照射する光52aを光スポット55で示している。光スポット55は、回折格子20aを介してコア層21に結合される。尚、光スポット55の中心は、軸C上にあるとする。
【0033】
図4に示す回折格子20aへの光52aの入射角度θは、軸y方向に対して垂直なx−z面の面内で、回折格子20aの回折面(y−z面)に垂直な法線Nからの傾きを示し、導波路20bに最も効率良く光結合することができる所定の入射角度θとする。
【0034】
導波路20bは、屈折率が異なる物質による複数層で構成することができ、コア層21の屈折率は、下クラッド層22及び上クラッド層23の屈折率より大きい。この屈折率差により導波路が構成され、コア層21内の光は、コア層21内部に閉じ込められ外部への漏れが少なく効率良く矢印25の方向に進み、先端部24に到達する。
【0035】
コア層21の屈折率は、1.45から4.0程度とし、上クラッド層23及び下クラッド層22の屈折率は、1.0から2.0程度が好ましい。尚、上下のクラッド層の屈折率は同じでなくてもよい。
【0036】
コア層21は、Ta、TiO、ZnSe等で形成され、厚みは約20nmから500nmの範囲としてよく、また下クラッド層22及び上クラッド層23は、SiO、空気、Al等で形成され、厚みは約200nmから2000nmの範囲としてよい。
【0037】
図3に示す通り、コア層21は、外周面の輪郭形状が放物線である側面26、27を備え、回折格子20aにより結合された光を放物線の焦点Fに向かって反射させて集光するようにしている。側面26、27には、例えば金、銀、アルミニウム等の反射物質を設けて、光反射損失をより少なくする助けとしてもよい。また、図3において、放物線の左右の対称軸を軸C(準線(図示しない)に垂直で焦点Fを通る線)で示している。
【0038】
導波路20bのコア層21の先端部24は、放物線の先端部分が切断されたような平面形状である。焦点Fから放射される光は急に広がるため、先端部24の形状を平面とすることにより、ディスク2に焦点Fをより近くに配置することができるので好ましく、本例のように先端部24に焦点Fが位置するようにしてもよい。
【0039】
コア層21には、回折格子20aと先端部24との間で、本発明に係わる遮光部28を備えている。遮光部28は、回折格子20aにより導波路20bに結合され、コア層21内を進む光の一部を遮る機能を有している。
【0040】
導波路20bを先端部24側から見た様子を図5に示す。先端部24には、コア層21の中央にプラズモンアンテナ24dが配置されている。本例では、回折格子20aに光が入射する傾き角度αを垂直(傾き角度α=0)とすることにより、焦点Fに集光する光がプラズモンアンテナ24dを正確に照射することができる。
【0041】
図5ではプラズモンアンテナ24dの形状は三角形状をしているが、この形状に限定されず、例えば図17に示す形状としてもよい。図17において、(a)は三角形の平板状金属薄膜、(b)はボウタイ型の平板状金属薄膜、(c)は開口を有する平板状金属薄膜であり、何れの金属薄膜の材料も、例えばアルミニウム、金、銀等からなり、曲率半径20nm以下の頂点Pを有するアンテナからなっている。
【0042】
図5に示す傾き角度αは、回折格子20aの複数の格子が平行に並ぶ方向(軸z方向)、すなわち軸Cに垂直なx−y面に投影された、回折格子20aに入射する光52aの光軸と法線Nとが成す角度を示す。
【0043】
平面光学素子20において、回折格子20aにより入射角度θ及び傾き角度α=0で導波路20bに結合された光は、軸Cに沿ってコア層21内を先端部24に向かって伝搬する。この様子を図6(a)に示す。
【0044】
図6(a)において、コア層21内を進む光を光251a、251bで示す。光251aと光251bとの間(より詳しくは先端部24のコア層21の幅Wtに該当する間)の光は、回折格子20aから導波路20bに結合され軸Cに沿って直進し、放物面形状の側面26、27に入射しないで直接先端部24に到るため焦点Fに集光する光とならない。従って、本例の説明では、焦点Fに集光する光251a、251bを扱う。尚、光251aと光251bとの間の光のように、コア層21内を直進しそのまま先端部24から射出される光は、先端部24で発生する近接場光と重なるため不都合を生じる場合がある。このため、回折格子20aを軸Cを中心に2分し、この2分した回折格子20aの間に先端部24のコア層21の幅Wtに相当する空間を設け、この空間領域に入射する光をコア層21内に結合しないようにしてもよい。
【0045】
遮光部28は、図6(a)に示す本例のように、上記で説明した焦点Fに集光されない光の通路上に配置するのが好ましい。このように遮光部28を配置することにより、回折格子20aに傾き角度α=0で入射しコア層21に結合され焦点Fに集光される光は、遮光部28により遮光されないため、近接場光の発生効率の低下を招かない。
【0046】
図6(a)において、コア層21内を進む光251a、251bは、側面26、27により反射され、反射された光252a、252bは焦点Fに光スポットを形成する。図6(b)に、焦点Fに形成される光スポットを先端部24側から見た様子を模式的に示す。焦点Fに形成される光スポットは、中央に最も強度の大きい山状のメインローブMLがあり、このメインローブMLを中央として対向する外側にメインローブMLの次に強度の大きい山状のサイドローブSL1、SL2を有する。サイドローブSL1、SL2は、2つの光251a、251bが焦点Fに集光することに起因して形成される。
【0047】
先端部24から光スポットが射出する位置に光量を検知する例えばフォトダイオード等のセンサPD1、PD2、PD3を設ける。センサPD1はメインローブMLの光量を測定するように配置し、同様にセンサPD2はサイドローブSL1の光量を、センサPD3はサイドローブSL2の光量を測定するように配置する。傾き角度α=0の場合、センサPD2とセンサPD3とから測定される光量は、遮光部28の影響を受けないため、ほぼ同じとなる。
【0048】
次に、傾き角度α=0でない場合に関して説明する。図7(b)に示すように、回折格子20aに傾き角度αで傾いて光52aが入射すると、導波路20bに結合しコア層21内を進む光251d、251eは図7(a)に示す通り、軸Cに対して角度α傾いて進み、光251dの一部は遮光部28により遮光される。その後、側面26、27により反射され、反射された光252d、252eは焦点Fに光スポットを形成する。
【0049】
焦点Fに形成される光スポットは、図7(b)に示すように、全体がy軸方向にシフトしメインローブMLを中心として、その両側に非対称(光量が左右で異なる)なサイドローブSL1、SL2を有する。サイドローブSL1、SL2の非対称性の度合いは、入射角度αが大きくなるに従って大きくなる関係にある。
【0050】
図6(a)と同じく、図7(a)に示すように、先端部24から光スポットが射出する位置に設けたセンサPD1、PD2及びPD3により、光スポットのメインローブML、サイドローブSL1、SL2それぞれの光量を検知することができる。センサPD2とセンサPD3とから測定される光量は差が生じ、センサPD2とセンサPD3のどちらが大きいか(又は小さいか)により回折格子20aに光が入射する傾き角度αが垂直方向からどちらの方向に傾いているかが分かり、その差(又は比)から傾きの程度が分かる。
【0051】
よって、センサPD2及びPD3によりサイドローブSL1、SL2の光量を検知し、その光量差が少なくなる方向に回折格子20aに光が入射する傾き角度αの傾き調整し、光量差であればその差がゼロ(光量比の場合は比が1)となるところで回折格子20aに光が入射する傾き角度αを固定する。固定した状態は、傾き角度α=0となり、メインローブMLの位置を焦点Fに設けてあるプラズモンアンテナ24dと合致する所望の位置にすることができる。
【0052】
また、予め、傾き角度α、センサPD2,PD3の光量、メインローブMLの位置との関係を求めて置くことにより、センサPD2,PD3の光量を測定することにより、傾き角度αを求め、これに従って傾き角度を調整して、メインローブMLの位置を所望の位置にするようにすることができる。
【0053】
従って、所望の位置に正確に光を集光することができるように傾き角度αの調整を容易に効率良く行うことができ、光記録ヘッド3の組み立てを容易に効率良く行うことができる。
【0054】
本例では、導波路20bにおける側面26、27が軸Cに対称な放物面であったり、遮光部28が軸Cに対して線対称である形状であったり等で、傾き角度α=0の場合、センサPD2、PD3の光量が一致するようにしてある。しかし、例えば、導波路20bの側面の一部に配置や製造の都合等で非対称性が生じたり、遮光部28の形状や配置に非対称性が生じたりする場合が考えられる。この場合、メインローブMLの位置を焦点Fに合わせる場合、センサPD2、PD3の光量は一致する状態とならない。このような場合、メインローブMLの位置と焦点Fとが重なった状態でのセンサPD2、PD3の光量(若しくは比)を実験等で求め、この時の光量差(若しくは比)を調整時の所望する値とする目標値にするようにすればよい。
【0055】
これまでは傾き角度αの調整に関して説明したが、入射角度θの調整にもセンサPD1からPD3の光量を検知することにより行うことができ、以下、この調整に関して説明する。
【0056】
入射角度θが所定に入射角度θとなると、回折格子20aから導波路20bに結合される光量は最大となる。従って、焦点Fに集光される光量全体が最大となるように入射角度θを調整すれば良い。焦点Fに集光される光量全体を検知するためには、例えばセンサPD1からPD3で検知されて光量の総和としてもよいし、傾き角度αの影響を大きく受けないメインローブMLの光量を検知するセンサPD1の光量としてもよい。
【0057】
これまで説明したことから、平面光学素子20の回折格子20aを照射する光52aが入射する角度の調整は、図8に示すフローチャートに従って行うことができる。最初にセンサPD2、PD3によりサイドローブSL1、SL2の光量を検知し、その光量が一致するように傾き角度αを調整する。傾き角度αを調整するとき、傾き方向はPD2とPD3からの光量に応じた出力の大小関係から容易に判断できる。傾き角度αの調整が終了した後、PD1の光量を検知し、少なくとも得られると考えられる所望の光量(規定量)となるように入射角度θの調整を行い、所望の光量が得られた時点で調整終了とする。
【0058】
これまで説明した回折格子20aに光が入射する傾き角度αの調整において、図9に示すように光記録ヘッド3がディスク2Aの上に配置され、実際の稼動又はそれに近い状態で行うのが好ましい。例えば、光記録装置100において、例えば磁気記録材料を有するディスク2と同等の形状を備え、記録用光が透過するガラス等の透明材料からなる調整用基板としてディスク2Aを用いて傾き角度αを調整し、その後調整用基板であるディスク2Aを実際に使用するディスク2と入れ替えるようにしてもよい。この場合、光記録装置100は、少なくとも調整時にはセンサPD1、PD2、PD3を備えている。
【0059】
また、ディスク2の基板にガラス等の透明材料を用いている場合、図10に示すように透明な基板に磁気記録材料を有する領域2dと磁気記録材料を有しない領域2eとを備えたディスク2Bをディスク2の代わりに使用してもよい。基板の磁気記録材料を有しない領域2eに光記録ヘッド3を配置した状態で傾き角度αを調整するようにしても良い。ディスク2Bを使用する場合、傾き角度を調整した後基板の交換を行う必要がなく、又、基板の交換作業による調整ズレ等の不具合が生じることがないため、より一層安定した位置合わせとすることができる。尚、図10では磁気記録材料を有しない領域2eを内周側としているが、必ずしもこの場所には限る必要はなく、例えば、外周側としても良い。
【0060】
これまで説明した、放物面形状の側面を有するコア層21に遮光部28を設けた導波路20bに光を導入した場合、焦点Fにどのような光スポットが形成されるかシミュレーション(点像強度分布解析)を行った。このシミュレーションに関して説明する。
【0061】
シミュレーションを行った導波路を図11に示し、条件を以下に示す。シミュレーションにおいて、反射面形状は回転放物面とし、回転放物面の中心部を厚み7.5μmで切り出して平面形状のコア層21に対応させた。以下の条件にある符合は図11の符号に対応している。
(1)焦点距離:5mm
(2)像側開口:0.6
(3)遮光部:16μm×40μm(幅Wb×長さLb)
(4)コア層に入射する光Lの幅W1:50μm
(5)遮光部から焦点までの距離L1:83μm
(6)コア層の反射面形状:放物面
(7)コア層の反射近軸曲率:60.0mm
(8)焦点Fから放物面の先端までの距離L2:8.3μm
(9)解析のメッシュ寸法:0.33μmの正方形
遮光部28は、軸C方向に長辺を平行とした長方形で、長方形の線対称軸を軸Cに重ね、コア層21の軸Cに対して左右対称となるように配置している。
【0062】
回折格子20aに光が入射する傾き角度α=0に対応して、図11においてコア層21の放物面形状の軸Cに平行な光Lがコア層21に入射した場合のシミュレーションの結果を図12に示す。
【0063】
図12は、焦点Fに形成される光スポットの光強度分布(点像強度分布)を示している。光強度は、最大値を100として正規化して等高線のように示している。図12において、座標(x、y)の中央(0、0)に光スポットのメインローブMLが形成され、その両側にほぼ同等の強度分布を持つサイドローブSL1、SL2が形成されていることが分かる。尚、メインローブMLの中央の位置の座標(x、y)は、表示の便宜上(0、0)とした。
【0064】
次に、傾き角度α=0でない場合として、コア層21の放物面形状の軸Cに対して0.05°傾いた光Lがコア層21に入射した場合のシミュレーションの結果を図13に示す。このシミュレーションにおいて設定する傾き角度αは、回折格子20aに光が入射する傾き角度αと同じである。
【0065】
図13において、中央位置(0、0)より光スポット全体が右側に移動すると共に、右側のサイドローブSL2の強度に比較して左側のサイドローブSL1の強度は小さいことが分かる。また、図では示さないが、放物面形状の軸Cに対して傾き角度αを反対方向の−0.05°とすると、図13に示す光スポットの状態は、座標軸y=0で折り返した状態となる。すなわち、光スポット全体が左側に移動すると伴に、左側のサイドローブSL1の強度に比較して右側のサイドローブSL2の強度が小さくなる。
【0066】
よって、センサPD2及びPD3によるサイドローブの光量を測定し、その光量値を比較し、値が均衡するように傾き角度αを調整することにより、メインローブを所望の位置である中心(0、0)に合致させることができることが分かる。
【0067】
傾き角度αの許容範囲は、焦点Fのプラズモンアンテナを良好に照射するため、±0.1度以内とすることが好ましい。±0.1度を超えると、プラズモンアンテナを正確に照射することができなくなる共に、形成される光スポットに発生する収差が大きくなり、光スポットを十分小さくすることができない。
【0068】
遮光部28の軸C方向の長さを長くすると、傾き角度αの変化に対するサイドローブの非対称の程度が大きくなり、傾き角度α=0からのズレを検出する感度を高くすることができる。
【0069】
また、遮光部28の幅を、焦点Fに集光されない光の通路の幅と同じとすると傾き角度α=0からのズレを検出する感度を最も大きくすることができる。このことは、遮光部28の形状が軸Cに対して左右対称性を有していない場合、傾き角度αの極性すなわち傾く方向により、2つのサイドローブの差(又は比)の変化量が異なることになる。
【0070】
遮光部28を回折格子20aと焦点Fとの間のどの当たりに配置するかについては、傾き角度αの変化に対するサイドローブSL1、SL2の非対称性への影響はほとんど生じない。
【0071】
図14に、傾き角度α=0で、コア層21の放物面形状の軸Cに対して平行のまま光Lを中心から25μmシフトした光がコア層21に入射した場合のシミュレーションの結果を示す。この場合、光スポットは、中央に形成されたメインローブがサイドローブを吸収した状態となって一つとなる。この場合、サイドローブの光量を検知するセンサPD2、PD3における光量は、両側とも想定される量より少なくなることが分かる。このことは、回折格子20aに光を良好に入射するように調整する際の情報とすることができる。
【0072】
遮光部28の形成方法に関して図15を用いて説明する。導波路20bのコア層21を形成した後、コア層21の遮光部28を形成する部分をエッチング処理して除去する。この様子を図15(a)に平面光学素子20の正面図、図15(a)のA−A’位置での断面の状態を示す図として図15(b)に示す。その後、エッチング処理によりコア材料を除去した凹部28aに光吸収材料を、例えば蒸着、スパッタ、塗布等の方法で成膜する。図15(c)において、成膜された光吸収材料を符号28bで示す。その後、クラッド材料により上クラッド層23を形成する。この様子を図15(d)に示す。
【0073】
同様な方法として、コア層21及び上クラッド層23を形成した後、上クラッド層23と共にコア層21を上記と同様に除去し、光吸収材料の成膜をしてもよい。光吸収材料は、有色塗料、金属、セラミックなどを用いることができ、又、光吸収材料以外に光散乱材料を用いても良く、透明材料に波長程度の大きさの散乱材料(金属など)を分散させたものを用いても良い。
【0074】
また、図16に示すようにコア層21に加工された凹部の内周面に波長程度の大きさで荒れるように粗面加工して光散乱構造を形成して、これを遮光部28cとしてもよい。この場合、光吸収材料で埋めなくても散乱させることが可能であるが、光吸収材料を埋め込んでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】光アシスト式磁気記録ヘッドを搭載した光記録装置の概略構成の例を示す図である。
【図2】光記録ヘッドの一例の断面を示す図である。
【図3】平面光学素子の正面図を示す図である。
【図4】平面光学素子の側面図を示す図である。
【図5】平面光学素子の底面図を示す図である。
【図6】平面光学素子に結合した光がコア層内を進む様子を示す図である。
【図7】平面光学素子に結合した光がコア層内を進む様子を示す図である。
【図8】回折格子に光が入射する角度を調整するフローを示す図である。
【図9】回折格子に光が入射する角度を調整する際にディスクを用いる様子を示す図である。
【図10】回折格子に光が入射する角度を調整する際に使用するディスクの例を示す斜視図である。
【図11】平面光学素子に結合した光が焦点に形成する光スポットの光強度分布をシミュレーションする条件を説明する図である。
【図12】光強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】光強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】光強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】コア層に遮光部を形成する方法を説明する図である。
【図16】コア層に形成した遮光部の例を示す図である。
【図17】プラズモンアンテナの例を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 筐体
2、2A、2B ディスク
3 光記録ヘッド
4 サスペンション
20 平面光学素子
20a 回折格子
20b 導波路
21 コア層
22 下クラッド層
23 上クラッド層
24 先端部
24d プラズモンアンテナ
26、27 側面
28、28c 遮光部
30 スライダ
32 空気ベアリング面
40 磁気記録部
41 磁気再生部
50 光源
51 ミラー
52、52a、L 光
55 光スポット
60 近接場光
100 光記録装置
C 軸
F 焦点
ML メインローブ
SL1、SL2 サイドローブ
PD1、PD2、PD3 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部の輪郭形状が放物線であるコア層と前記コア層と接するクラッド層とからなる導波路と、
照射される光を前記コア層の先端部に向かって進む光として前記コア層の内部に導入する回折格子と、を有し、
前記コア層に導入された光が前記先端部にある前記放物線の焦点に収束し、前記先端部から射出する光学素子において、
前記コア層を進む光の一部を吸収する若しくは散乱させる遮光部が前記回折格子と前記焦点との間に配置されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記遮光部は、線対称である形状を有し、線対称の軸が前記放物線の対称軸と重なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記コア層の先端部には、近接場光を発生する金属構造体を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の光学素子と、
前記回折格子を照射する光を発する光源と、を備えた光学装置の製造方法において、
前記光源からの光を前記回折格子に照射し、前記焦点に集束させてメインローブと該メインローブを中央にして対向する位置にある2つのサイドローブを有する光スポットを形成し、前記2つのサイドローブの光量を測定する光量測定工程と、
前記光量測定工程により測定された前記2つのサイドローブの光量の差若しくは比が、所望の差若しくは比となるように、前記放物線の対称軸に対して垂直な面内に投影された前記回折格子の回折面の法線と前記光が前記回折格子に入射する光軸とが成す傾き角度を調整する調整工程と、を有することを特徴とする光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記光学装置は、
前記光源からの光を用いて記録される記録媒体と、
前記光学素子を有し、前記記録媒体に対して相対移動するスライダと、を備えるものであって、
前記光量測定工程は、前記記録媒体が有する前記光を透過する光透過部若しくは前記記録媒体と同じ形状を有する前記光を透過する透明基板を透過した前記2つのサイドローブの光量を測定することを特徴とする請求項4に記載の光学装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−123176(P2010−123176A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295435(P2008−295435)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】