説明

光学素子成形用金型および光学素子

【課題】Bi含有光学素子を成形する際に、光学特性を満足するものを作製することができる光学素子成形用金型を提供すること、および、この光学素子成形用金型で作製され光学特性を満足する光学素子を提供することを目的としている。
【解決手段】光学素子を成形するために用いられる光学素子成形用金型1において、金型母材2の成形部2a側の表面に、Bi及びBi酸化物のうちの少なくとも一方を主成分とする成形面層4が設けられるとともに、金型母材2と成形面層4との間に、金型母材2側から成形面層4側に向かって金属の単体から該金属の酸化物へと漸次変化する傾斜膜層3が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi(ビスマス)含有光学素子を成形するのに適した光学素子成形用金型、およびその光学素子成形用金型を用いて成形された光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ等の光学素子を加熱・プレス成形する際に使用される金型には、硬度や耐熱性、離型性、鏡面加工性等の特性が優れていることが要求される。従来の光学素子成形用金型としては、超硬合金や炭化珪素などからなる導電性金型母材の表面に貴金属被膜が施されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、従来の光学素子成形用金型としては、タングステンカーバイドやサーメット、ジルコニア、SiC、Si3N4等からなる金型母材の表面に炭素を主たる構成元素とする被膜が施されたものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2001−322827号公報
【特許文献2】特許第2505893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の光学素子成形用金型では、高屈折率特性を持つBi含有ガラスを成形する際に、成形対象の硝材に含まれるBiが金型表面に移行し、成形面に堆積する。そして、成形面に堆積したBiが金型内部へ拡散して化学的な浸食を起こす。これによって、金型の成形面の保護被膜が劣化して成形面の形状崩れが生じる。また、成形面の崩れた形状が成形品に転写されたり、成形面に堆積された堆積物(Bi)が成形品に付着されたりすることにより、成形される光学素子の透過率が低下する。このように、上記した従来の光学素子成形用金型では、Bi含有光学素子を成形する際に、光学特性を満足するものを作製することができないという問題が存在する。
【0004】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、Bi含有光学素子を成形する際に、光学特性を満足するものを作製することができる光学素子成形用金型を提供すること、および、この光学素子成形用金型で作製され光学特性を満足する光学素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る光学素子成形用金型は、光学素子を成形するために用いられる光学素子成形用金型において、金型母材の成形部側の表面に、Bi及びBi酸化物のうちの少なくとも一方を主成分とする成形面層が、前記表面の略全面に、または、その全投影面積の前記表面の面積に対する比率が20%以上となるような島状構造を有して設けられるとともに、前記金型母材と前記成形面層との間に、前記金型母材側から前記成形面層側に向かって金属の単体から該金属の酸化物へと漸次変化する傾斜膜層が設けられていることを特徴としている。
【0006】
このような特徴により、金型母材と成形面層との間に設けられた傾斜膜層は、金型母材に対して十分な密着強度を有しているため、金型母材と傾斜膜層との間に中間層を必要としない。また、傾斜膜層は金属の単体から該金属の共有結合酸化物へと変化した層であるため、傾斜膜層の成形面層側表面が熱力学的に最も安定した状態となる。また、その表面には、BiやBi酸化物を主成分とする成形面層が設けられているため、成形面層の表面(成形面)はBiやBi酸化物が飽和状態、或いはそれに近い状態になる。これにより、Bi含有光学素子を成形する際、当該光学素子と成形面との間におけるBiやBi酸化物の移行が平衡状態、或いはそれに近い状態となり、Bi含有光学素子から金型表面へ移行し偏析するBiやBi酸化物が阻害される。
ここで、成形面層は、傾斜膜層の成形面層側表面の略全面に設けられていてもよいが、その全投影面積の前記表面の面積に対する比率が20%以上となるような島状構造を有して設けられていてもよい。また、島状構造の個々の島に当たるものには、成形面層の厚さに対し投影径が十分に大きいもの以外に、成形面層の厚さと投影径とが同程度のものも含まれる。
なお、上記したBiはビスマスであり、Bi酸化物はビスマス酸化物である。
【0007】
また、本発明に係る光学素子成形用金型は、前記成形面層に、ホウ素(以下、Bと記す。)が含有されていることが好ましい。
【0008】
このように、成形面層にBが含まれることによって、成形品の光学素子と金型の成形面との摺動性が向上する。
【0009】
また、本発明に係る光学素子成形用金型は、前記金属が、Cr、Ta、Ir、Al及びSiのうちのいずれかであることが好ましい。
【0010】
上記した金属材料(Cr、Ta、Ir、Al、Si)は、金型母材との密着性が良好であり、また、これらの酸化物は、共有結合で熱力学的に安定している。また、上記した金属材料(Cr、Ta、Ir、Al、Si)は、単体から酸化物へ変化する傾斜膜層を形成する際に、一度の成膜工程で形成することが可能である。
なお、上記したCrはクロムであり、Taはタンタルであり、Irはイリジウムであり、Alはアルミニウムであり、Siは珪素である。
【0011】
また、本発明に係る光学素子は、上記した光学素子成形用金型を用いて成形されていることを特徴としている。
【0012】
このような特徴により、光学素子成形用金型を用いて光学素子の成形加工を施した際に、化学的浸食で崩れた形状が光学素子に転写されることがなく、また、光学素子の転写面に堆積物が付着することがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光学素子成形用金型によれば、Bi含有光学素子の成分であるBiやBi酸化物が金型の成形面に予め設けられて平衡状態となっており、Bi含有光学素子を成形する際の当該光学素子からのBiやBi酸化物の移行、偏析が阻害されるため、光学素子成形用金型が化学的な浸食を受けることがなく、成形面の形状崩れやBiやBi酸化物の堆積を防止することができる。そのため、成形品(Bi含有光学素子)に堆積物が付着したり化学的な浸食によって崩れた成形面の形状が成形品に転写されたりすることを防止することができ、光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る光学素子成形用金型および光学素子の第1〜第4の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
まず、本発明の第1の実施の形態である光学素子成形用金型1について説明する。図1は光学素子成形用金型1の断面図である。
【0016】
図1に示すように、光学素子成形用金型1は、例えば超硬合金などからなる金型母材2と、金型母材2の成形部2aの表面2bに設けられた傾斜膜層3と、傾斜膜層3の表面に設けられた成形面層4とから構成されている。成形面層4の表面が成形面5である。
【0017】
金型母材2は、所望の成形品の形状に応じて加工された部材であり、その成形面5側の表面2bは、例えばダイヤモンド砥石を用いた研削加工等により、所望の成形品形状に合わせて加工される。また、金型母材2の表面2bには、鏡面研磨処理が施され、例えば面粗度Ryが0.05μm程度になるように仕上げられる。
【0018】
傾斜膜層3は、金型母材2側から成形面層4側に向かって厚みD方向に金属単体であるTaからその酸化物であるTa酸化物Ta2O5(金属酸化物)へと漸次変化する傾斜膜である。この傾斜膜層3は、公知の薄膜形成方法によって金型母材2の表面2bに成膜することが可能である。例えば、鏡面研磨処理が完了した金型母材2の表面2bに対して、スパッタ法によりTaを付着させていく。このとき、雰囲気中の酸素濃度を段階的に上昇させることで、TaからTa酸化物へと変化する傾斜膜を形成することができる。
【0019】
上記した傾斜膜層3は、金型母材2(の表面2b)に対して十分な密着強度を有しているため、金型母材2と傾斜膜層3との間に中間層を必要としない。また、上記した傾斜膜層3の成形面層4側の表面は、共有結合のTa酸化物(Ta2O5)であるため、熱力学的に最も安定した状態となる。
【0020】
成形面層4は、Bi酸化物(Bi2O3)からなる薄膜である。この成形面層4は、光学素子成形用金型1の最表層として形成されており、その表面が光学素子成形用金型1の成形面5となる。この成形面層4は、公知の方法によって傾斜膜層3の表面に形成することが可能である。例えば、金型母材2の表面2bに傾斜膜層3を成膜した後、Biを10mol%以上含有する硝材を傾斜膜層3に対して非接触な状態でセットし、上記したBiを含有する硝材と傾斜膜層3が設けられた金型母材2とを図示せぬ炉の中に入れ、大気雰囲気でアニール処理する。これにより、傾斜膜層3の表面にBi酸化物(Bi2O3)が形成される。アニール処理後に、光電子分光装置(XPS:X-ray photoelectron Spectroscopy)によって分析すると、傾斜膜層3の表面にBi酸化物が形成されていることが確認できる。
【0021】
上記したように、光学素子成形用金型1の最表層としてBi酸化物(Bi2O3)からなる成形面層4が予め形成されていると、その表面である成形面5はBiが飽和状態或いはそれに近い状態になる。これによって、BiやBi酸化物(Bi2O3)が含有されたBi含有光学素子を成形する際、当該光学素子と成形面5との間におけるBiやBi酸化物(Bi2O3)の移行が平衡状態、或いはそれに近い状態となり、Bi含有光学素子から光学素子成形用金型1へ移行し偏析するBiや Bi酸化物(Bi2O3)が阻害される。
【0022】
このため、光学素子成形用金型1が化学的な浸食を受けることがなく、成形面5の形状崩れやBiや Bi酸化物(Bi2O3)の成形面5への堆積を防止することができる。これにより、成形品(Bi含有光学素子)に堆積物が付着したり化学的な浸食によって崩れた成形面の形状が成形品に転写されたりすることを防止することができ、光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【0023】
具体的に説明すると、上記した傾斜膜層3や成形面層4が設けられていない従来の光学素子成形用金型を用いてBi含有硝材を酸素濃度100ppm以下の窒素雰囲気下で560℃に加熱してプレス成形すると、10shot以降から成形品表面のクモリや金型成形面への焼付きなどが発生し、外観規格上の良品を得ることができなかった。一方、上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型1を用いて、成形対象のBi含有硝材を同様の条件下で加熱・プレス成形したところ、1000shot以上でも良品を得ることができ、十分な金型耐久性を有することが確認できた。
【0024】
また、上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型1によれば、傾斜膜層3の成形面層4側の表面が熱力学的に最も安定した状態となるため、成形面層4のBi酸化物(Bi2O3)が傾斜膜層3の内部へ侵入拡散することを防止することができる。これにより、光学素子成形用金型1が化学的な浸食を受けず、所望の光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【0025】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態である光学素子成形用金型101について説明する。なお、第2の実施の形態における光学素子成形用金型101の構成を、第1の実施の形態の説明でも用いた図1に基づいて説明する。
【0026】
光学素子成形用金型101の傾斜膜層103は、金型母材2側から成形面層104側に向かって厚みD方向に金属単体であるIrからその酸化物であるIr酸化物IrO2(金属酸化物)へと漸次変化する傾斜膜である。この傾斜膜層103は、公知の薄膜形成方法によって金型母材2の表面2bに成膜することが可能であり、上述した第1の実施の形態における傾斜膜層3の成膜方法と同様の方法で成膜することができる。
【0027】
上記した傾斜膜層103は、金型母材2(の表面2b)に対して十分な密着強度を有しているため、金型母材2と傾斜膜層103との間に中間層を必要としない。また、上記した傾斜膜層103の成形面層104側の表面は、共有結合のIr酸化物(IrO2)であるため、熱力学的に最も安定した状態となる。
【0028】
光学素子成形用金型101の成形面層104は、Bi及びBi酸化物(Bi2O3)からなる薄膜である。この成形面層104は、公知の方法によって傾斜膜層103の表面に形成することが可能である。例えば、金型母材2の表面2bに傾斜膜層103を成膜した後、Biを10mol%以上含有する硝材を傾斜膜層103に対して非接触な状態でセットし、荷重をかけずに成形機に投入しヒートサイクルを施す。これにより、傾斜膜層103の表面にBiとBi酸化物(Bi2O3)とが形成される。アニール処理後に、XPSによって光学素子成形用金型101を分析することで、最表層の部分にBi及びBi酸化物が存在することを確認できる。
【0029】
また、アニール処理後にオージェ分析を行うことで傾斜膜層103の表面におけるBi分布を確認できる。図2は代表的なオージェ分析のピークを表すグラフである。図2に示すように、オージェ分析の結果、Biを含有する硝材から移行したBi及びO(酸素)が検出されたが、Irは検出されず、スパッタにより形成したIr酸化物からなる傾斜膜層103の表面全域に、均一にムラ無くBi及びBi酸化物からなる薄い層が形成されていることが確認できる。
【0030】
上記したように、光学素子成形用金型101の最表層としてBi及びBi酸化物(Bi2O3)からなる成形面層104が予め形成されていると、その成形面5はBi及びBi酸化物(Bi2O3)が飽和状態或いはそれに近い状態になる。これによって、上述した第1の実施の形態と同様に、Bi含有光学素子から光学素子成形用金型101へ移行し偏析するBi及びBi酸化物(Bi2O3)が阻害される。
【0031】
上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型101によれば、上述した第1の実施の形態と同様に、成形品(Bi含有光学素子)に堆積物が付着したり化学的な浸食によって崩れた成形面の形状が成形品に転写されたりすることを防止することができ、光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【0032】
具体的に説明すると、傾斜膜層103や成形面層104が設けられた上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型101を用いてBi含有硝材を酸素濃度100ppm以下の窒素雰囲気下で560℃に加熱してプレス成形したところ、1500shot以上でも良品を得ることができ、十分な金型耐久性を有することが確認できた。
【0033】
また、上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型101によれば、傾斜膜層103の成形面層104側の表面が熱力学的に最も安定した状態となるため、成形面層104のBiやBi酸化物(Bi2O3)が傾斜膜層103の内部へ侵入拡散することを防止することができる。これにより、光学素子成形用金型101が化学的な浸食を受けず、所望の光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【0034】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態である光学素子成形用金型201について説明する。なお、第3の実施の形態における光学素子成形用金型201の構成は、第1の実施の形態の光学素子成形用金型1と同様であり、第1の実施の形態の光学素子成形用金型1と比較すると、成形面層204の形成方法が異なる。具体的に説明すると、上記した第1の実施の形態では、非接触状態でセットされたBi含有硝材と金型母材2とを大気雰囲気でアニール処理することで、傾斜膜層3の表面にBi酸化物(Bi2O3)からなる成形面層4を形成しているが、第3の実施の形態における光学素子成形用金型201の成形面層204は、図3に示すプラズマ成膜装置10を用いて形成される。
【0035】
まず、プラズマ成膜装置10の構成について説明する。
図3に示すように、プラズマ成膜装置10は、真空チャンバー11と、真空チャンバー11内を減圧するための真空ポンプ12およびターボ分子ポンプ13と、真空チャンバー11内にプラズマを発生させるプラズマ源14と、被処理体22(傾斜膜層3が設けられた金型母材2)を保持する試料台21とが備えられている。真空ポンプ12およびターボ分子ポンプ13は、図示せぬ制御装置によって動作が制御されている。
【0036】
プラズマ源14は、ターゲット15とトリガー電極16とアーク電源17とから構成されている。ターゲット15は、金属Bi単体からなる棒状の部材である。トリガー電極16は、ターゲット15に対し図示しない絶縁体を介して配置されており、アーク電源17は、ターゲット15の中心軸と同軸上に、トリガー電極16およびターゲット15に対し空間を介して配置されている。ターゲット15とトリガー電極16にはトリガー電源18が接続されており、また、ターゲット15とアーク電源17にはアーク電源19が接続されている。アーク電源19の正極と負極とは、例えば8800μFの電解コンデンサー20を介してプラズマ源14に接続されている。また、トリガー電源18は、図示せぬ制御装置により、設定された電圧を、設定された時間で印加するように制御されている。
【0037】
試料台21は、真空チャンバー11内に設けられており、ターゲット15の中心軸の延長線上に被処理体22が配置されるような位置に配設されている。
また、真空チャンバー11には、酸素ボンベ23から真空チャンバー11内へ酸素ガスを送るガス導入管24が接続されており、このガス導入管24には、図示せぬ制御装置で制御されて酸素ガスの流量をコントロールするマスフローコントローラ25が設置されている。
【0038】
上記した構成からなるプラズマ成膜装置10を用いて被処理体22の表面(金型母材2に設けられた傾斜膜層3の表面)に対してBi酸化物(Bi2O3)からなる成膜を施す。具体的に説明すると、試料台21に被処理体22を保持させる。また、真空ポンプ12およびターボ分子ポンプ13によって真空チャンバー11内の気圧を所定圧(例えば、1×10−4Pa)まで減圧させる。その後、酸素ボンベ23からガス導入管24を介して真空チャンバー11内に酸素ガスを導入する。このとき、酸素ガスの流量が所定流量(例えば、50sccm)となるように図示せぬ制御装置によりマスフローコントローラ25を制御し、酸素ガスの流量を設定する。
【0039】
その後、アーク電源19を所定電圧(例えば、90V)に設定して電解コンデンサー20を充電し、トリガー電源18に図示せぬ制御装置により所定電圧(3.5kV)、所定時間(10μ秒)の電力を印加する。その瞬間、トリガー電極16とターゲット15との間に沿面放電により瞬間的に放電が起き、ターゲット15の表面から僅かにプラズマ化されたBiが放出される。その結果、ターゲット15とアーク電源17との間の真空絶縁が破れて電気回路が形成され、ターゲット15とアーク電源17との間でアーク放電が約600μ秒起きる。このアーク放電で、ターゲット15のBiがプラズマ化され、且つターゲット15に流れる電流により発生する磁場によってターゲット15の軸延長線上にある被処理体22の方向へプラズマが放出され、雰囲気の酸素と反応してBi酸化物(Bi2O3)として被処理体22へ到達し付着する。このときの付着量は僅かであり、1回の放電により被処理体22の表面にはBi酸化物(Bi2O3)の分子が点在する程度である。したがって、上述した放電処理を繰り返し複数回行うことで、被処理体22に付着するBi酸化物(Bi2O3)の量が徐々に増え、島状構造を経た後に一様な膜となる。
【0040】
ここで、上記したプラズマ成膜装置10を用いて被処理体22の表面にBi酸化物(Bi2O3)の膜を形成する実験の実験結果について説明する。本実験では、目的とする表面状態を、Bi酸化物(Bi2O3)からなる島状構造であって、その全投影面積の被処理体22の表面積に対する比率を20%とし、そのために放電処理を500回行った。その後、XPSを用いて被処理体22の表面分析を行ったところ、Bi酸化物(Bi2O3)が21原子%であった。また、電子顕微鏡で被処理体22の表面を観察したところ、斑模様が確認された。このように、上記した実験では、目的とする表面状態を実現することができた。
【0041】
上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型201によれば、上述した第1、第2の実施の形態と同様に、成形品(Bi含有光学素子)に堆積物が付着したり化学的な浸食によって崩れた成形面の形状が成形品に転写されたりすることを防止することができ、光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【0042】
具体的に説明すると、傾斜膜層3や成形面層204が設けられた上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型201を用いてBi含有硝材を酸素濃度100ppm以下の窒素雰囲気下で550℃に加熱してプレス成形したところ、2000shot以上でも良品を得ることができ、十分な金型耐久性を有することが確認できた。
【0043】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態である光学素子成形用金型301について説明する。なお、第4の実施の形態における光学素子成形用金型301の構成を、第1〜第3の実施の形態の説明でも用いた図1に基づいて説明する。
【0044】
光学素子成形用金型301の成形面層304は、Bi及びBからなる薄膜である。この成形面層304は、公知の方法によって傾斜膜層3の表面に形成することが可能である。例えば、金型母材2の表面2bに傾斜膜層3を成膜した後、Biを10mol%以上、およびB酸化物(B2O3)を3mol%以上含有する硝材を傾斜膜層3に接触させた状態でセットし、上記したBi およびB酸化物(B2O3)を含有する硝材と傾斜膜層3が設けられた金型母材2とを大気雰囲気でアニール処理する。これにより、傾斜膜層3の表面にBiおよびBを含む層が形成される。アニール処理後に、XPSによって分析すると、傾斜膜層3の表面にBiおよびBが形成されていることが確認できる。
【0045】
上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型301によれば、上述した第1〜第3の実施の形態と同様に、成形品(Bi含有光学素子)に堆積物が付着したり化学的な浸食によって崩れた成形面の形状が成形品に転写されたりすることを防止することができ、光学特性を満足するBi含有光学素子を作製することができる。
【0046】
具体的に説明すると、傾斜膜層3や成形面層304が設けられた上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型301を用いてBi含有硝材を酸素濃度100ppm以下の窒素雰囲気下で485℃に加熱してプレス成形したところ、1000shot以上でも良品を得ることができ、十分な金型耐久性を有することが確認できた。
【0047】
また、上記した構成からなる本実施の形態の光学素子成形用金型301によれば、成形面層304にBが含有されているため、BiやBi酸化物(Bi2O3)のみからなる成形面層4、104、204に比べて、成形品の光学素子と光学素子成形用金型301の成形面5との摺動性が向上する。これにより、成形時のプレストルクを低減させることができる。
【0048】
上記した第1〜第4の実施の形態の光学素子成形用金型1、101、201、301を用いて、公知の加熱・プレス成形方法を行うことにより、非球面レンズや球面レンズ、自由曲面レンズ、マイクロレンズアレイ等の種々の形状の光学素子を成形することができる。また、この光学素子には、Biの他に、ガラス形成成分(P、B、Si、Ge等)や、ガラス修飾成分(Na、K等)、中間酸化物成分(Ba等)などが、光学素子が失透しない範囲内で含有されていてもよい。
【0049】
以上、本発明に係る光学素子成形用金型および光学素子の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した第1、第2、第4の実施の形態における傾斜膜層3は、金型母材2側から成形面層4、104、304側に向かって厚みD方向に金属単体であるTaからその酸化物であるTa酸化物Ta2O5(金属酸化物)へと漸次変化する傾斜膜であり、第3の実施の形態における傾斜膜層103は、金型母材2側から成形面層204側に向かって厚みD方向に金属単体であるIrからその酸化物であるIr酸化物IrO2(金属酸化物)へと漸次変化する傾斜膜であるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、金型母材2側から成形面層4、104、204、304側に向かって厚みD方向に金属単体であるCrからその酸化物であるCr酸化物Cr2O3へと漸次変化する傾斜膜であってもよく、或いは、金型母材2側から成形面層4、104、204、304側に向かって厚みD方向に金属単体であるAlからその酸化物であるAl酸化物Al2O3へと漸次変化する傾斜膜であってもよく、また、金型母材2側から成形面層4、104、204、304側に向かって厚みD方向に金属単体であるSiからその酸化物であるSi酸化物SiO2へと漸次変化する傾斜膜であってもよい。
【0050】
また、上記した実施の形態では、炉や成形機を用いた非接触加熱方法、接触加熱方法或いはプラズマ成膜方法等によってBi、Bi酸化物(Bi2O3)、又はBi及びBからなる成形面層4、104、204、304が形成されているが、本発明は、他の方法でBi等からなる成形面層を形成してもよい。例えば、真空蒸着法や、反応性スパッタ法、イオンプレーティング法、電子ビーム照射法などの各種の公知手法を用いることができる。
【0051】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための光学素子成形用金型の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態を説明するための代表的なオージェ分析のピークを表すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態を説明するためのプラズマ成膜装置を表す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1、101、201、301 光学素子成形用金型
2 金型母材
2a 成形部
3、103 傾斜膜層
4、104、204、304 成形面層
5 成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を成形するために用いられる光学素子成形用金型において、
金型母材の成形部側の表面に、Bi及びBi酸化物のうちの少なくとも一方を主成分とする成形面層が、前記表面の略全面に、または、その全投影面積の前記表面の面積に対する比率が20%以上となるような島状構造を有して設けられるとともに、
前記金型母材と前記成形面層との間に、前記金型母材側から前記成形面層側に向かって金属の単体から該金属の酸化物へと漸次変化する傾斜膜層が設けられていることを特徴とする光学素子成形用金型。
【請求項2】
請求項1記載の光学素子成形用金型において、
前記成形面層に、ホウ素が含有されていることを特徴とする光学素子成形用金型。
【請求項3】
請求項1または2記載の光学素子成形用金型において、
前記金属が、Cr、Ta、Ir、Al及びSiのうちのいずれかであることを特徴とする光学素子成形用金型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の光学素子成形用金型を用いて成形されていることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−214114(P2008−214114A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51024(P2007−51024)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】