光学部品の製造方法及びその製造装置
【課題】 基材表面を集中的に加熱することにより、成形時間の短縮、及び成形品の光学性能を向上させる光学部品の製造方法及び製造装置を提供すること
【解決手段】 基材に、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型を密着させて光学部品を製造する光学部品の製造方法において、前記型を、前記基材との間に隙間を開けて配置した状態で、前記基材に赤外線を照射して、前記基材を加熱した後、前記型と前記基材とを密着させることを特徴とする。
【解決手段】 基材に、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型を密着させて光学部品を製造する光学部品の製造方法において、前記型を、前記基材との間に隙間を開けて配置した状態で、前記基材に赤外線を照射して、前記基材を加熱した後、前記型と前記基材とを密着させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズをはじめとする光学部品の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂からなる光学部品を成形によって製造する方法としては、射出成形またはプレス成形が一般的である。
【0003】
射出成形では、溶融可塑化させた樹脂材料を金型のキャビティ内に充填し、冷却固化することにより目的の形状を得る。冷却は金型側に樹脂の熱が逃げることにより行われるため、樹脂は金型に接している表面より固化を開始し、徐々に固化層が内部に広がっていく。その際、冷却収縮を伴うため、成形品は先に固化した表面付近の密度が高く、内部は低くなる特徴がある。
【0004】
このため、成形品をレンズのように光を透過させて使用する光学部品の場合、収縮によって発生する成形品内部の密度分布や複屈折により、成形品の光学性能が低下するという問題がある。また樹脂全体を溶融させるため、冷却に時間を要して成形時間が長くなるという問題がある。
【0005】
一方プレス成形では、プレートや最終的な形状に近似の基材を用意し、成形可能な温度まで加熱した金型内にて基材を加圧することによって、金型の形状を基材側に転写する。冷却は金型自身を冷やすことにより行う。このため、射出成形にも増して加熱及び冷却に時間を要し、成形時間が長くなるという問題がある。
【0006】
そこでこれらの問題を解決するため、以下のような装置及び方法が提案されている。
特許文献1では、紫外線を透過しない材質の基材と、紫外線を透過する金型、そして金型の背面に紫外線照射手段を備えたプレス成形装置を提案している。紫外線は金型を通して基材に照射することにより、基材を加熱する。表面が溶融状態になった基材を金型に押圧することにより、転写が行われる。
【0007】
特許文献2では、キャビティの難転写区域を赤外線透過材料にて形成されている金型と、赤外線を照射する光源を付設した射出成形装置を提案している。射出時に赤外線を難転写区域に照射することにより、照射領域の樹脂粘性が低下する。
【0008】
特許文献3では、赤外線透過材料にて形成されているスタンパーと基材と密着させた状態で、スタンパーを通して赤外線を転写面に照射する成形方法を提案している。転写面付近の樹脂は赤外線を吸収するため、昇温して粘性が低下するが、スタンパーは赤外線を透過するため、ほとんど昇温しない。
【0009】
上記特許文献1から3では、金型は紫外線または赤外線を透過し、樹脂で吸収されること、透過材で形成された金型及び樹脂である基材の熱伝導率は、金属と比べて共に非常に小さいことを利用し、基材表面の加熱を行う。基材表面の加熱を行うことにより、転写面付近の樹脂の粘性が低下し、転写性が向上する。また金型温度を低く抑えられるため、成形時間を短縮させる効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−95813号公報
【特許文献2】特許第3169786号公報
【特許文献3】特開2001−158044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1から3の方法では、基材表面を赤外線または紫外線にて加熱することにより、転写性を向上させる効果がある。
したがって金型温度を低く抑えても十分な転写性が得られるため、冷却時間の短縮、すなわち成形時間を短縮する効果もある。
【0012】
しかし、赤外線透過性材料、例えば石英は、一般的な樹脂よりも大きい熱伝導率を持つため、特許文献2及び3のような方法では、樹脂と金型が接しているため、赤外線によって加熱された樹脂表面付近の熱の多くが金型側に逃げてしまう。
【0013】
したがって従来技術においては、基材表面を加熱することにより、転写性を向上させる効果があるものの、表面を集中的に加熱することができていない。すなわち加熱により、基材全体が溶融状態になってしまうため、冷却固化の際、成形品内部に密度分布や複屈折が発生し、光学性能が低下するといった問題が発生する。
【0014】
また紫外線を光源として用いる場合、樹脂を劣化させてしまい、光学性能を劣化させる原因になりうる。
【0015】
本発明は、加熱手段として赤外線透過金型と赤外線照射装置を用いる光学部品の製造方法および製造装置において、基材表面を集中的に加熱することにより、成形時間の短縮、及び成形品の光学性能を向上させる製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の光学部品の製造方法は、基材に、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型を密着させて光学部品を製造する光学部品の製造方法において、前記型を、前記基材と前記型の間に隙間を開けて配置した状態で、前記基材に赤外線を照射して前記基材を加熱する工程と、前記加熱された基材と前記型とを密着させる工程とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の光学部品の製造装置は、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型と、赤外線を前記型を透して基材に照射するための赤外線照射装置と、開閉動作により前記の赤外線照射装置からの赤外線の照射を制御するシャッターと、前記基材を固定するための基材支持体と、前記型と前記基材支持体を相対的に移動させるための位置制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基材の表面を集中的に加熱することにより、加熱及び冷却に要する時間を短縮することができる。すなわち、成形時間を短縮することができる。
また、逆に基材内部の発熱が抑えられるため、成形前後での基材の密度分布や複屈折の変化を抑制することができる。
【0019】
さらに、基材として、事前に、アニールにより密度分布及び複屈折を低減させたニアシェープゴブを用いることにより、密度分布及び複屈折が小さく、光学性能の高い光学素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図2】本発明の第二の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図3】本発明の第三の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図4】熱伝導率を説明する図
【図5】赤外線ランプのピーク波長と基材表面のエネルギー吸収率との関係を説明する図
【図6】型と基材との間の隙間と、基材表面の加熱状況との関係を説明する図
【図7】型と基材との間の隙間と、光学部品との関係を説明する図
【図8】型と基材との接触速度と、光学部品との関係を説明する
【図9】基材表面の温度と、光学部品の形状誤差との関係を説明する図
【図10】型形状と基材形状との関係を説明する図
【図11】光学部品のプレス軸上における密度分布を説明する図
【図12】本発明の第四の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図13】隙間の変動と、形状誤差との関係を説明する図
【図14】本発明の第五、第六の実施形態に係る製造装置を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の光学部品の製造装置の第一の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。
【0022】
図1において、2は、少なくとも一部が赤外線透過性材料(例えば石英ガラス製)である型である。この型2は、成形型支持体1によって固定され、プレスユニット7に取り付けられている。プレスユニット7内には赤外線照射装置3としてカーボンランプが備え付けられており、赤外線照射装置3から発せられた赤外線23は集光ミラー4によって型2の方向に指向され、樹脂製の基材21に照射される。
【0023】
照射制御手段5により、赤外線23の出力が制御され、シャッター6の開閉動作によって、基材21への赤外線23の照射をONOFFする制御が行われる。
【0024】
本実施形態においては、型位置制御手段22によりプレスユニット7を移動させ、基材21と型2との隙間の制御や、型2の基材21への加圧力の制御を行なう。
【0025】
基材21には、事前アニールにより密度分布及び複屈折を低減させたニアシェープゴブを用いる。また、型の転写面を転写した後の、最終成形品である光学部品の表面形状に対して近似形状を持つことが好ましい。密度分布および、複屈折の少ないゴブを用いることにより、光学性能の高い成形品を得ることができる。
【0026】
また、基材は、PC,COC,COP,PMMA,MS等のプラスチック材料、また、ガラスあるいはプラスチックの部材表面にプラスチック材料を被覆したものであってもよい。
【0027】
図10(a),(b)に示すように、基材21の形状は、型2の転写面の曲率に対して、基材21の表面が凸形状の場合は型2の転写面の曲率よりも小さいものを用い、基材21の表面が凹形状の場合は型2の転写面の曲率よりも大きいものを用いる。これにより、型2の転写面を基材21の表面に接触及び加圧させて密着させた際、基材21の表面はまずプレス軸上から転写され、転写面が周囲に広がっていくことになる。よって空気溜まりを作ることなく、成形を完了することができ、形状精度の高い光学部品を得ることが可能である。
【0028】
次に、本実施の形態における光学部品の製造方法について説明する。
【0029】
まず、製造工程開始前は、シャッター6は図1(b)に示すように予め閉じておき、赤外線照射装置3は照射状態にしておく。赤外線照射装置3は立ち上がりに数秒から数分の時間を要するので、前もって照射状態にしておくことで、シャッター6を開く際に安定したエネルギーを基材21に与えることができる。
【0030】
基材21を基材支持体8上にセットし成形を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、型2は基材21に接近する。プレスユニット7は、型2と、基材21の表面211との間の隙間が、プレス軸上において所定の位置(例えば500um)まで近付いたところで型2を停止させる。ここで、プレス軸とは、基材21に対して型を押しつけ、加圧する方向であり、本実施形態においては、型位置制御手段22の移動方向である。また、このプレス軸上に光学部品の光軸が一致するように型および基材を配置しておくと、さらに光学性能が優れた光学部材を得ることができる。
【0031】
次に、シャッター6を開き、型2を透して赤外線23を基材21に照射し、基材21の表面211を加熱する。型2と基材21の表面211との間には所定の隙間(例えば500umの隙間)を設けてあるので、隙間に存在する気体が断熱層の役割を果たし、基材21の表面211から型2への放熱が抑制される。また樹脂の熱伝導率は図4に示すように、金属や赤外線透過性材料に比べて十分に小さいので、基材21内部に移動する熱も少ない。よって、内部発熱を抑えつつ、基材21の表面211を集中的に加熱することが可能である。本明細書では、加熱のために設ける、型2と基材21の間の隙間を加熱時の隙間と称する。
【0032】
次に、基材21の表面211が、所定温度に達したら、型2を基材21の表面211に密着させる。所定温度とは、成形可能温度である、ガラス転移温度+25℃以上が好ましい。また、所定温度に達する直前、型2を所定の速度(例えば0.5mm/secの速度)で基材21の表面211に接近させ、型2と表面211の隙間を所定の隙間(例えば100um以下)にしておく。これにより、加熱終了後、スムーズにプレス工程に移ることができる。そして基材21の表面211が成形可能温度に達したところでシャッター6を閉じ、加熱を終了する。明細書では、型を表面211に接近させる速度を接近時の速度と称し、接近させた時の型2と表面211の隙間を接近時の隙間と称する。接近時の速度は、いずれの速度でもよいが、速ければより移動時間を短くすることができるため好ましい。接近時の隙間は、加熱時の隙間より基材に近ければいずれの値でもよいが、近いほどより移動時間を短くすることができるため好ましい。
【0033】
加熱終了後、型位置制御手段22を用いて型2を基材21に所定の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより型2を基材21の表面211に密着させ、型2の転写面の形状を基材21の表面211に転写する。転写と共に基材21の冷却が行われる。型2の熱伝導率は基材21に比べて十分大きいため、基材21の表面の熱は型2に素早く逃げるので、基材21内部の温度上昇を抑えることができる。本明細書では、型を基材に接触させる速度を接触時の速度と称する。
【0034】
その後十分な冷却を行ったところで、型位置制御手段22を用いて型2を上昇させて離型を行い、成形品である基材21を取り出す。このようにして、光学部品が製造される。
【0035】
ここでは、型位置制御手段22を用いて型2を基材に対して移動させる例を示したが、これに限らず、基材支持体8を移動可能に構成し、型2に対して基材を移動させてもよい。また、成形型位置制御手段22および基材支持体8の両方を移動し、型2と基材を相対的に移動するように構成してもよい。
【0036】
型2には、波長4um以下の赤外線を透過し、加工性にも優れている石英ガラスを用いることが好ましいが、それ以外の赤外線透過材料を用いてももちろんよい。たとえば、石英ガラス、シリコン、CaF2、MgF2、BaF2、Ge、ZnSe、ZnS、KBrまたはサファイアのいずれか、または2種以上の混合体から形成されていてもよい。
【0037】
赤外線照射装置3には、カーボンランプを好ましくは用いる。図5は数値計算により、赤外線ランプのピーク波長と、基材21表層50umにおいて吸収されるエネルギーの割合を求めたものである。ピーク波長が1um以上4um以下の範囲のとき、基材21表層における赤外線の吸収率が高く、表面を集中的に加熱するためには効果的である。今回使用したカーボンランプのピーク波長は2um前後であり、基材21の吸収波長と一致するため、基材21の表面加熱に適当である。赤外線照射装置3は、カーボンランプの他、同様に、1um以上4um以下の範囲にピーク波長を持つ、ハロゲンランプ、カンタルヒータ、セラミックヒータを用いても良い。
【0038】
基材21は、最終成形品に対して近似形状のニアシェープゴブであって、型に対して形状差異が300um以下のものが好ましい。図11は光学部品である成形品のプレス軸上の密度分布を測定したものである。成形品の表面において、大きな密度分布変化が発生している。密度分布が変化している領域は、光学部品の表面から約300umである。密度分布が変化している領域は、成形工程により加工が行われた領域に相当する。これ以上形状誤差を持つニアシェープゴブの成形は、さらなる密度分布変化量、変化領域の増大を招く。よってニアシェープゴブには、型2の転写面に対して形状差異が300um以下のものを用いることで、光学性能の高い成形品を得ることができる。
【0039】
また、基材21の表面である成形面は、曲面のほか、平板形状の基材21と型2を用いることも可能である。
【0040】
赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よって、より好ましくは、基材21の表面の全面が、型2の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面の全面を、赤外線照射時の型2の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有している。より好ましくは、プレス軸上の、型2の転写面と基材21の表面との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。100um以上10mm以下の範囲の加熱時の隙間を設けて、赤外線照射による基材21の表面の加熱を行うことにより、効率的な加熱を行なえると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。図6は、型2と基材21の加熱時の隙間の距離と、赤外線を照射することによる基材21の温度変化の関係を示したものである。○が基材21表面の温度変化、□が基材21表面と中心部の温度差を表している。
【0041】
型2と基材21の表面との間の加熱時の隙間が小さいと断熱層の役割を十分に果たさず、また逆に大きいと赤外線が隙間にて拡散してしまうため、加熱の効果は薄い。型2と基材21の表面を接触させて加熱したときに比べて、両者の隙間が100um以上10mm以下とした場合、効率的に基材21の表面を加熱できていることがわかる。基材21表面が集中的に加熱されることにより、基材21内部の温度上昇は抑えられるため、冷却に必要な時間も短縮され、成形時間の短縮が可能となる。次に図7(a)、(b)、(c)はそれぞれ、成形後の基材21の表面の形状誤差、密度分布、そして複屈折を評価したものである。型2と基材21の表面を接触させて加熱及び成形を行った際の値を基準とした。例えば形状誤差の場合、隙間0.1mmを開けて加熱及び成形を行ったときの形状誤差の最大値を、接触させて加熱及び成形を行ったときの形状誤差の最大値で割った値を、隙間0.1mmでの形状誤差として表している。同様に密度分布の場合、隙間0.1mmを開けて加熱及び成形を行ったときの密度差を、接触させて加熱及び成形を行ったときの密度差で割った値を、隙間0.1mmでの密度分布として示している。複屈折の場合、隙間0.1mmを開けて加熱及び成形を行ったときの複屈折位相差を、接触させて加熱及び成形を行ったときの複屈折位相差で割った値を、隙間0.1mmでの複屈折として示している。
【0042】
加熱時の隙間として100um以上10mm以下の隙間を設けた場合は、成形品内部の密度分布及び複屈折は、型2と基材21の表面を接触させて加熱及び成形を行った場合に比べ、改善されていることがわかる。よって赤外線照射時の型2と基材21の表面の隙間が100um以上10mm以下の範囲内において、赤外線照射による基材21の表面の加熱を行うことにより、効率的な加熱を行えると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。
【0043】
型2と基材21の接触時の速度は0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。図8は、型2と基材21の接触時の速度と、成形後の基材21内部の密度分布を評価したものである。接触時の速度が0.1mm/secのときの密度分布の値を基準とした。例えば、接触時の速度0.2mm/secで成形したときの密度差を、接触時の速度0.1mm/secで成形したときの密度差で割った値を、接触速度0.2mm/secにおける密度分布としてプロットしている。0.2mm/sec以下において、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られている。接触時の速度を小さくするほど、基材21は型2によりスムーズに加圧され、密着する。したがって基材に対して余計な応力を負荷させないので、成形品の密度分布の発生を抑制することができ、光学性能の高い光学素子、光学部品の成形が可能である。
【0044】
基材21の表面211が、所定温度に達したら、型を基材21の表面211に密着させるが、この所定温度は、成形可能温度以上が好ましく、成形可能温度とはここでは基材21のガラス転移温度+25℃とする。ガラスあるいはプラスチックの部材表面にプラスチック材料を被覆した基材の場合は、プラスチック材料のガラス転移温度+25℃とする。図9は、基材21の表面温度と成形後の形状誤差との関係の一例を示したものである。材料として、日本ゼオン社製、商品名「ゼオネックス」(ガラス転移温度139℃)を用いた例を示す。横軸は基材21のガラス転移温度に対する相対温度である。縦軸は、159℃(ガラス転移温度+20℃)まで加熱し、成形した基材21における形状誤差の値を基準とした。例えば、164℃(ガラス転移温度+25℃)まで加熱し成形したときの形状誤差の最大値を、159℃(ガラス転移温度+20℃)まで加熱し成形したときの形状誤差の最大値で割った値を、164℃における形状誤差としてプロットしている。164℃以上(ガラス転移温度+25℃以上)に基材21を加熱した場合において、転写が良好な成形品を得ることができることがわかる。樹脂はガラス転移温度以上において急激に粘度が低下する。ガラス転移温度よりも25℃以上高い温度に達した後成形を行うことで、型2の転写面の形状を基材側に精度良く転写することができる。また基材21に対して余計な応力を負荷させなくて良いので、光学部品の密度分布や複屈折の発生が抑制される。
【0045】
(第二の実施形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第2の実施形態について説明する。図2は、第2の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、第一の実施形態で説明した基材21の表面211を成形するとともに、第一の実施形態で説明した基材21の表面211と反対の面である第二の面212を第二の型により成形する形態について説明する。
【0046】
図2において、基材21に対して型2の反対側に、第二の型12が設置され、第二の型12により基材21の第二の面212を成形する。少なくとも一部が、赤外線透過性材料(例えば、石英ガラス製)である第二の型12は、第二の成形型支持体11によって固定され、第二のプレスユニット17に取り付けられている。第二のプレスユニット17内には第二の赤外線照射装置13としてカーボンランプが備え付けられている。そして、第二の赤外線照射装置13から発せられた赤外線23は第二の集光ミラー14によって第二の型12の方向に指向され、樹脂製の基材21の第二の面212に照射される。
【0047】
また第二の照射制御手段15により赤外線23の出力が制御され、第二のシャッター16の開閉動作によって、基材への赤外線の照射をONOFFする制御が行われる。
【0048】
基材21には、型の転写面を転写した後の、成形品である光学部品の両表面形状に対して近似形状を持つニアシェープゴブを用いる。ゴブは事前にアニールを行い、ゴブ内部の密度分布及び複屈折を取り除いておく。密度分布および、複屈折の少ないゴブを用いることにより、光学性能の高い成形品を得ることができる。
【0049】
基材21の形状は、第二の型12の転写面の曲率に対して、基材21の第二の面が凸形状の場合は第二の型12の転写面の曲率よりも小さいものを用い、基材21の第二の面が凹形状の場合は第二の型12の転写面の曲率よりも大きいものを用いる。これにより、第二の型12の転写面を基材21の第二の面に接触及び加圧させて密着させた際、基材21の第二の面はまずプレス軸上から転写され、転写面が周囲に広がっていくことになる。よって空気溜まりを作ることなく、成形を完了することができ、形状精度の高い光学部品を得ることが可能である。また、第二の型12の上に基材21を載置すると、プレス軸上にて点接触するので、第二の型12と基材21の間の一部にも気体の断熱層を持たせられる。よって、第2の成形型12側の基材21表面においても、効率的な加熱を行うことができる。
【0050】
基材21は両凸、両凹、平凸、平凹、凸メニスカス、凹メニスカス形状、平板のいずれでもよい。
【0051】
また、第一の型2および第二の型12を基材21に接触及び加圧させた際、基材21の両成形面はまずプレス軸上から転写され、転写面が周囲に広がっていくことになる。よって空気溜まりを作ることなく、成形を完了することができ、形状精度の高い成形品を得ることが可能である。その他、基材21の表面の形状等については、第一の実施形態と同様である。
【0052】
また、第二の型12は、赤外線透過材料を用いることができる。たとえば、石英ガラス、シリコン、CaF2、MgF2、BaF2、Ge、ZnSe、ZnS、KBrまたはサファイアのいずれか、または2種以上の混合体から形成されていてもよい。
【0053】
赤外線照射装置13には、カーボンランプを好ましくは用いる。カーボンランプの他、同様に、1um以上4um以下の範囲にピーク波長を持つ、ハロゲンランプ、カンタルヒータ、セラミックヒータを用いても良い。
【0054】
次に、本実施の形態における光学部品の製造方法について説明する。
【0055】
まず、成形工程開始前に於いて、シャッター6及び第二のシャッター16は予め閉じておき、赤外線照射装置3及び第二の赤外線照射装置13は照射状態にしておく。
【0056】
基材21は第2の型12上に載置され、プレス軸上で点接触させるようにセットされる。
【0057】
製造を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、型2は基材21に接近する。プレスユニット7は、型2と基材21の間の隙間が、プレス軸上において500umまで近付いたところで停止する。
【0058】
次に、図2(b)に示すように第二のシャッター16を開き、第二の型12を通して赤外線23を基材21に照射し、第二の型12側の基材21の表面である第二の面212を加熱する。
【0059】
つづいてシャッター6を開き、型2を通して赤外線23を基材21に照射し、型2側の基材21の表面211を加熱する。型2と基材21の間には加熱時の隙間として所定の隙間(例えば500umの隙間)を設けてあるのに対し、第二の型12と基材21はプレス軸上で点接触させているため、気体断熱の効果が小さい。そのため、表面211に比べ、第二の面212の温度上昇は鈍い。そこで、第二のシャッター16を先に開き、基材21の表面211および第二の面212が同時に成形可能温度に達するように調整する。そして基材21の両表面が成形可能温度に達したところでシャッター6及び第二のシャッター16を閉じ、加熱工程を完了する。
【0060】
この動作により、基材21の表面211および第二の面212で生じる温度分布の差や転写性の差を解消することが可能である。
【0061】
また、型2側の基材21の表面211が、成形可能温度である、ガラス転移温度+25℃に達する直前には、型2を接近時の速度(例えば0.5mm/secの速度)で基材21に接近させる。そして型2と基材21の隙間を接近時の隙間(例えば100um以下)にしておく。この動作により、基材21の加熱終了後、スムーズにプレス工程に移ることができる。加熱終了後、型位置制御手段22を用いて型2を基材21に接触時の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより型2を基材21の表面211に密着させると同時に、第二の型12を第二の面212に密着させる。そして、型2の転写面の形状を基材21の表面211に転写し、第二の型12の転写面の形状を基材21の第二の面212に転写する。
【0062】
赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との隙間(加熱時の隙間)は、第一の実施形態同様、赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よってより好ましくは、基材21の表面の全面が、型2の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面の全面を、赤外線照射時の型2の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有している。より好ましくは、プレス軸上の、型2の転写面と基材21の表面との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。100um以上10mm以下の範囲の加熱時の隙間を設けて、赤外線照射による基材21の表面の加熱を行うことにより、効率的な加熱を行なえると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。
【0063】
また、第一の実施形態同様、型2と基材21の接触時の速度は0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。
【0064】
その他の製造工程については、第一の実施形態と同様である。
【0065】
(第三の実施の形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第三の実施形態について説明する。図3は、第三の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、オートハンド24が基材21を把持し、位置決めをする、光学部品を製造する製造装置および製造方法について説明する。その他の構成は、第二の実施形態と同様である。
【0066】
製造工程開始前に於いて、シャッター6及び第二のシャッター16は示すように予め閉じておき、赤外線照射装置3及び第二の赤外線照射装置13は照射状態にしておく。
【0067】
基材21はオートハンド24に把持され、第二の型12と基材21の第二の面212との間にプレス軸上で加熱時の隙間(例えば500umの隙間)を開けた状態で、オートハンド24は停止している。
【0068】
製造を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、成形型2は基材21に接近する。プレスユニット7は、型2と基材21の表面211との間の隙間が、プレス軸上において加熱時の隙間(例えば500um)まで近付いたところで停止する。
【0069】
次に、シャッター6及び第二のシャッター16を開き、型2を通して、赤外線23を基材21の表面211に照射すると同時に、第二の型12を通して赤外線23を基材21の第二の面212に照射し、基材21の両表面を加熱する。
【0070】
赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との隙間(加熱時の隙間)は、第一の実施形態同様、赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よってより好ましくは、基材21の表面の全面が、型2の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面の全面を、赤外線照射時の型2の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有している。より好ましくは、プレス軸上の、型2の転写面と基材21の表面211との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。
【0071】
また、型12の転写面と基材21の表面212との隙間(加熱時の隙間)も、同様であり、赤外線照射時の型12の転写面と基材21の表面212との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よってより好ましくは、基材12の表面212の全面が、型12の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面212の全面を、赤外線照射時の型12の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型12の転写面と基材21の表面212との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有する。より好ましくは、プレス軸上の、型12の転写面と基材21の表面212との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。100um以上10mm以下の範囲の加熱時の隙間を設けて、赤外線照射による加熱を行うことにより、効率的な加熱を行なえると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。
【0072】
次に、基材21の両表面が、成形可能温度である、ガラス転移温度+25℃に達する直前、型2を所定の速度(例えば0.5mm/secの速度)で基材21に接近させ、型2と基材21の隙間を所定の隙間(例えば100um以下)にする。同時に、オートハンド24を動かして、第二の型12に接近させ、基材21と第二の型12の隙間を所定の隙間(例えば100um以下)にする。
【0073】
この動作により、基材21の加熱終了後、スムーズにプレス工程に移ることができる。そして基材21の両表面が成形可能温度に達したところでシャッター6及び第二のシャッター16を閉じ、加熱を終了する。加熱終了後、型位置制御手段22およびオートハンド24を動かして、型2を基材21に所定の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより型2を基材21の表面211に密着させる。また、同時に、第二の型12を基材21に所定の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより第二の型12を第二の面212に密着させる。そして、型2の転写面の形状を基材21の表面211に転写し、第二の型12の転写面の形状を基材21の第二の面212に転写する。
【0074】
型2と基材21の接触時の速度は0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。また、型12と基材21の接触時の速度も同様に、0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。
【0075】
その他の製造工程については、第1の実施形態と同様である。
【0076】
図3(a)は、基材21と型2および第二の型12が、重力方向の同一軸上に設置されている場合を例に取り説明したが、もちろん重力方向以外の方向でもよく、例えば、図3(b)に示すように、重力方向と垂直方向の同一軸上に設置されていても良い。
【0077】
また、第二の型12を動かすための第二の型位置制御手段を設け、第二の型位置制御手段を駆動することにより、第二の型12と基材21の間に所定の隙間を設けるようにしてもよい。
【0078】
(第四の実施形態)
図12は、本発明の光学部品の製造装置の第四の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図12において、26は、基材の肉厚を測定するための厚み測定手段を示す。本実施形態は、基材21の肉厚がばらついても、型2と、基材21の表面211との間の隙間が所定の範囲(例えば設定値に対し±10umの範囲)に収まるように、型2の停止位置を調整するものである。予め厚み測定手段26で測定した基材21の肉厚測定値をもとに、型2の停止位置を調整する。
【0079】
厚み測定手段26により、成形前の基材21の定められた位置における肉厚を測定し、基材21の肉厚値の情報を型位置制御手段22に送る。肉厚の測定箇所は、基材21の中央部でもいいし、縁の部分でもよい。測定誤差が少なくなるよう、測定方向に対して垂直な面を持つ部分を測定すると好ましい。厚み測定手段26にはレーザー変位計、リニアゲージ、及びマイクロメータなどを用いることができる。
【0080】
型位置制御手段22では、厚み測定手段26から送られてきた基材21の肉厚値の情報及び型2やプレスユニット7の形状から、プレスユニット7を移動させたときのプレスユニット7と基材21の接触位置を計算する。
【0081】
そして型位置制御手段22によりプレスユニット7を移動させ、プレスユニット7と基材21の接触位置から所定の値だけ手前でプレスユニット7を停止させることで、基材21と型2との加熱時の隙間が設定値に対し±10μmの範囲内に制御することができる。
【0082】
このように、型2と、基材21の表面211との間の加熱時の隙間を一定にすることで、投入する基材21の肉厚が変動しても、赤外照射終了時の基材21の温度分布が変動することはない。また赤外照射終了後から、型2が基材21に接触するまでの時間も同一となるので、転写開始時の基材21の温度分布も一定にすることができる。
【0083】
その結果、成形後の形状誤差の変動を低減し、安定した光学素子を得ることが可能となる。
【0084】
図13(a)は、型2の停止位置を固定した場合、図13(b)は厚み測定手段26の測定値をもとに型2の停止位置を調整した場合の、成形後の形状誤差のショットバラツキを示したものである。
【0085】
○が型2と基材21表面との間の加熱時の隙間の大きさ、棒グラフが成形後の形状誤差である。
【0086】
形状誤差については、型2の停止位置を固定した場合のNo.1からNo.9までの平均値を基準とした。例えば、型2の停止位置を調整した場合のNo.1の成形品における形状誤差の最大値を、型2の停止位置を固定した場合のNo.1からNo.9までの形状誤差の平均最大値で割った値をプロットする。つまり型2の停止位置を調整した場合のNo.1の成形品における形状誤差としてプロットする。
【0087】
型2の停止位置を固定すると、基材21の肉厚変動がそのまま型2と、基材21の表面211との間加熱時の隙間の変動となり、ショットバラツキの要因となる。
【0088】
基材21の肉厚をもとに型2の停止位置を±10umの範囲に調整することで、ショットバラツキを大幅に低減し、高精度の光学素子を安定して得ることが可能となる。
【0089】
図12では基材21の肉厚値を直接測定したが、肉厚の代わりに成形前の基材21の重量を測定し、基材21の密度を元に定められた位置における基材21の肉厚を算出して型位置制御手段22に情報を送ることで、型2の停止位置を調整しても良い。
【0090】
(第五の実施形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第五の実施形態について説明する。図14(a)は、第五の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、基材21を製造する工程において測定または検出した製造装置可動部の位置情報から基材21の肉厚値を求めて、型2の停止位置を調整する形態について説明する。
【0091】
図14(a)において、基材製造装置25は型位置制御手段22に、基材製造装置25内に設置されている基材成形型の位置情報を送信できる構成となっている。型位置制御手段22は、現在基材支持体8上に載置されている基材21を製造するときに検出した、基材成形型の位置情報から基材21の肉厚値を計算する。更に型位置制御手段22は、基材21の肉厚値及び型2やプレスユニット7の形状から、プレスユニット7を移動させたときのプレスユニット7と基材21の接触位置を計算する。
【0092】
基材成形型の位置情報は、基材成形型に設置のレーザー変位計、リニアゲージ等により測定される。その他の装置構成、動作に関しては第四の実施形態と同様である。
【0093】
基材製造装置25にて測定または検出した位置情報から基材21の肉厚値を求めることで、基材21の厚みを測定する機構を新たに設ける必要がないので、製造コストや製造タクトを増加させることなく、高精度の光学素子を安定して得ることができる。
【0094】
本実施形態においては基材製造装置25内に設置されている基材成形型の位置情報から基材21の肉厚を求めた。しかし、例えば樹脂をシリンダー内で加熱して溶融し、溶融樹脂を基材成形型に吐出して基材21を製造する場合など、吐出前後でのシリンダーの移動量とシリンダーの内径から吐出された樹脂の体積を算出し、基材21の肉厚を求めても良い。
【0095】
(第六の実施形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第六の実施形態について説明する。図14(b)は、第六の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、赤外照射前に型2を基材21に接触させることで基材21の肉厚測定を行い、型2の停止位置を調整する形態について説明する。
【0096】
肉厚未測定の基材21を基材支持体8上にセットし成形を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、型2は基材21に接近する。型2が基材21に接触したところで、型2を停止し、そこから型2を所定値(例えば120um)上昇させ、再び停止させる。この動作により、型2と、基材21の表面211との間の加熱時の隙間を一定にすることが可能である。その他の装置構成、動作に関しては第四の実施形態と同様である。
【0097】
赤外照射前に型2を基材21に接触させることにより基材21の肉厚測定を行うことで、基材21の厚みを測定する機構を新たに設ける必要がないので、製造コストを増加させることなく、高精度の光学素子を安定して得ることができる。
【0098】
これまで、図12及び図14では基材21の片面のみを成形する場合を例にとり説明したが、基材21の表面211に対して反対側に、基材支持体8の代わりに、赤外線照射装置を内蔵した第二のプレスユニットを設けて、基材21の両面を成形できるようにしても良い。
【0099】
また基材21と型2が、鉛直方向に設置されている場合を例にとり説明したが、もちろん鉛直方向以外の方向でもよく、例えば水平方向に設置されても良い。
【0100】
以上より、本発明によれば、前記の従来の課題を解決することができる。従来のプレス成形法、射出成形法に比べて成形時間を短縮し、かつ優れた光学性能を持つ光学素子を安定して生産することを可能にする光学部品の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズをはじめとする光学部品の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂からなる光学部品を成形によって製造する方法としては、射出成形またはプレス成形が一般的である。
【0003】
射出成形では、溶融可塑化させた樹脂材料を金型のキャビティ内に充填し、冷却固化することにより目的の形状を得る。冷却は金型側に樹脂の熱が逃げることにより行われるため、樹脂は金型に接している表面より固化を開始し、徐々に固化層が内部に広がっていく。その際、冷却収縮を伴うため、成形品は先に固化した表面付近の密度が高く、内部は低くなる特徴がある。
【0004】
このため、成形品をレンズのように光を透過させて使用する光学部品の場合、収縮によって発生する成形品内部の密度分布や複屈折により、成形品の光学性能が低下するという問題がある。また樹脂全体を溶融させるため、冷却に時間を要して成形時間が長くなるという問題がある。
【0005】
一方プレス成形では、プレートや最終的な形状に近似の基材を用意し、成形可能な温度まで加熱した金型内にて基材を加圧することによって、金型の形状を基材側に転写する。冷却は金型自身を冷やすことにより行う。このため、射出成形にも増して加熱及び冷却に時間を要し、成形時間が長くなるという問題がある。
【0006】
そこでこれらの問題を解決するため、以下のような装置及び方法が提案されている。
特許文献1では、紫外線を透過しない材質の基材と、紫外線を透過する金型、そして金型の背面に紫外線照射手段を備えたプレス成形装置を提案している。紫外線は金型を通して基材に照射することにより、基材を加熱する。表面が溶融状態になった基材を金型に押圧することにより、転写が行われる。
【0007】
特許文献2では、キャビティの難転写区域を赤外線透過材料にて形成されている金型と、赤外線を照射する光源を付設した射出成形装置を提案している。射出時に赤外線を難転写区域に照射することにより、照射領域の樹脂粘性が低下する。
【0008】
特許文献3では、赤外線透過材料にて形成されているスタンパーと基材と密着させた状態で、スタンパーを通して赤外線を転写面に照射する成形方法を提案している。転写面付近の樹脂は赤外線を吸収するため、昇温して粘性が低下するが、スタンパーは赤外線を透過するため、ほとんど昇温しない。
【0009】
上記特許文献1から3では、金型は紫外線または赤外線を透過し、樹脂で吸収されること、透過材で形成された金型及び樹脂である基材の熱伝導率は、金属と比べて共に非常に小さいことを利用し、基材表面の加熱を行う。基材表面の加熱を行うことにより、転写面付近の樹脂の粘性が低下し、転写性が向上する。また金型温度を低く抑えられるため、成形時間を短縮させる効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−95813号公報
【特許文献2】特許第3169786号公報
【特許文献3】特開2001−158044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1から3の方法では、基材表面を赤外線または紫外線にて加熱することにより、転写性を向上させる効果がある。
したがって金型温度を低く抑えても十分な転写性が得られるため、冷却時間の短縮、すなわち成形時間を短縮する効果もある。
【0012】
しかし、赤外線透過性材料、例えば石英は、一般的な樹脂よりも大きい熱伝導率を持つため、特許文献2及び3のような方法では、樹脂と金型が接しているため、赤外線によって加熱された樹脂表面付近の熱の多くが金型側に逃げてしまう。
【0013】
したがって従来技術においては、基材表面を加熱することにより、転写性を向上させる効果があるものの、表面を集中的に加熱することができていない。すなわち加熱により、基材全体が溶融状態になってしまうため、冷却固化の際、成形品内部に密度分布や複屈折が発生し、光学性能が低下するといった問題が発生する。
【0014】
また紫外線を光源として用いる場合、樹脂を劣化させてしまい、光学性能を劣化させる原因になりうる。
【0015】
本発明は、加熱手段として赤外線透過金型と赤外線照射装置を用いる光学部品の製造方法および製造装置において、基材表面を集中的に加熱することにより、成形時間の短縮、及び成形品の光学性能を向上させる製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の光学部品の製造方法は、基材に、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型を密着させて光学部品を製造する光学部品の製造方法において、前記型を、前記基材と前記型の間に隙間を開けて配置した状態で、前記基材に赤外線を照射して前記基材を加熱する工程と、前記加熱された基材と前記型とを密着させる工程とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の光学部品の製造装置は、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型と、赤外線を前記型を透して基材に照射するための赤外線照射装置と、開閉動作により前記の赤外線照射装置からの赤外線の照射を制御するシャッターと、前記基材を固定するための基材支持体と、前記型と前記基材支持体を相対的に移動させるための位置制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基材の表面を集中的に加熱することにより、加熱及び冷却に要する時間を短縮することができる。すなわち、成形時間を短縮することができる。
また、逆に基材内部の発熱が抑えられるため、成形前後での基材の密度分布や複屈折の変化を抑制することができる。
【0019】
さらに、基材として、事前に、アニールにより密度分布及び複屈折を低減させたニアシェープゴブを用いることにより、密度分布及び複屈折が小さく、光学性能の高い光学素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図2】本発明の第二の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図3】本発明の第三の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図4】熱伝導率を説明する図
【図5】赤外線ランプのピーク波長と基材表面のエネルギー吸収率との関係を説明する図
【図6】型と基材との間の隙間と、基材表面の加熱状況との関係を説明する図
【図7】型と基材との間の隙間と、光学部品との関係を説明する図
【図8】型と基材との接触速度と、光学部品との関係を説明する
【図9】基材表面の温度と、光学部品の形状誤差との関係を説明する図
【図10】型形状と基材形状との関係を説明する図
【図11】光学部品のプレス軸上における密度分布を説明する図
【図12】本発明の第四の実施形態に係る製造装置を説明する図
【図13】隙間の変動と、形状誤差との関係を説明する図
【図14】本発明の第五、第六の実施形態に係る製造装置を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の光学部品の製造装置の第一の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。
【0022】
図1において、2は、少なくとも一部が赤外線透過性材料(例えば石英ガラス製)である型である。この型2は、成形型支持体1によって固定され、プレスユニット7に取り付けられている。プレスユニット7内には赤外線照射装置3としてカーボンランプが備え付けられており、赤外線照射装置3から発せられた赤外線23は集光ミラー4によって型2の方向に指向され、樹脂製の基材21に照射される。
【0023】
照射制御手段5により、赤外線23の出力が制御され、シャッター6の開閉動作によって、基材21への赤外線23の照射をONOFFする制御が行われる。
【0024】
本実施形態においては、型位置制御手段22によりプレスユニット7を移動させ、基材21と型2との隙間の制御や、型2の基材21への加圧力の制御を行なう。
【0025】
基材21には、事前アニールにより密度分布及び複屈折を低減させたニアシェープゴブを用いる。また、型の転写面を転写した後の、最終成形品である光学部品の表面形状に対して近似形状を持つことが好ましい。密度分布および、複屈折の少ないゴブを用いることにより、光学性能の高い成形品を得ることができる。
【0026】
また、基材は、PC,COC,COP,PMMA,MS等のプラスチック材料、また、ガラスあるいはプラスチックの部材表面にプラスチック材料を被覆したものであってもよい。
【0027】
図10(a),(b)に示すように、基材21の形状は、型2の転写面の曲率に対して、基材21の表面が凸形状の場合は型2の転写面の曲率よりも小さいものを用い、基材21の表面が凹形状の場合は型2の転写面の曲率よりも大きいものを用いる。これにより、型2の転写面を基材21の表面に接触及び加圧させて密着させた際、基材21の表面はまずプレス軸上から転写され、転写面が周囲に広がっていくことになる。よって空気溜まりを作ることなく、成形を完了することができ、形状精度の高い光学部品を得ることが可能である。
【0028】
次に、本実施の形態における光学部品の製造方法について説明する。
【0029】
まず、製造工程開始前は、シャッター6は図1(b)に示すように予め閉じておき、赤外線照射装置3は照射状態にしておく。赤外線照射装置3は立ち上がりに数秒から数分の時間を要するので、前もって照射状態にしておくことで、シャッター6を開く際に安定したエネルギーを基材21に与えることができる。
【0030】
基材21を基材支持体8上にセットし成形を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、型2は基材21に接近する。プレスユニット7は、型2と、基材21の表面211との間の隙間が、プレス軸上において所定の位置(例えば500um)まで近付いたところで型2を停止させる。ここで、プレス軸とは、基材21に対して型を押しつけ、加圧する方向であり、本実施形態においては、型位置制御手段22の移動方向である。また、このプレス軸上に光学部品の光軸が一致するように型および基材を配置しておくと、さらに光学性能が優れた光学部材を得ることができる。
【0031】
次に、シャッター6を開き、型2を透して赤外線23を基材21に照射し、基材21の表面211を加熱する。型2と基材21の表面211との間には所定の隙間(例えば500umの隙間)を設けてあるので、隙間に存在する気体が断熱層の役割を果たし、基材21の表面211から型2への放熱が抑制される。また樹脂の熱伝導率は図4に示すように、金属や赤外線透過性材料に比べて十分に小さいので、基材21内部に移動する熱も少ない。よって、内部発熱を抑えつつ、基材21の表面211を集中的に加熱することが可能である。本明細書では、加熱のために設ける、型2と基材21の間の隙間を加熱時の隙間と称する。
【0032】
次に、基材21の表面211が、所定温度に達したら、型2を基材21の表面211に密着させる。所定温度とは、成形可能温度である、ガラス転移温度+25℃以上が好ましい。また、所定温度に達する直前、型2を所定の速度(例えば0.5mm/secの速度)で基材21の表面211に接近させ、型2と表面211の隙間を所定の隙間(例えば100um以下)にしておく。これにより、加熱終了後、スムーズにプレス工程に移ることができる。そして基材21の表面211が成形可能温度に達したところでシャッター6を閉じ、加熱を終了する。明細書では、型を表面211に接近させる速度を接近時の速度と称し、接近させた時の型2と表面211の隙間を接近時の隙間と称する。接近時の速度は、いずれの速度でもよいが、速ければより移動時間を短くすることができるため好ましい。接近時の隙間は、加熱時の隙間より基材に近ければいずれの値でもよいが、近いほどより移動時間を短くすることができるため好ましい。
【0033】
加熱終了後、型位置制御手段22を用いて型2を基材21に所定の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより型2を基材21の表面211に密着させ、型2の転写面の形状を基材21の表面211に転写する。転写と共に基材21の冷却が行われる。型2の熱伝導率は基材21に比べて十分大きいため、基材21の表面の熱は型2に素早く逃げるので、基材21内部の温度上昇を抑えることができる。本明細書では、型を基材に接触させる速度を接触時の速度と称する。
【0034】
その後十分な冷却を行ったところで、型位置制御手段22を用いて型2を上昇させて離型を行い、成形品である基材21を取り出す。このようにして、光学部品が製造される。
【0035】
ここでは、型位置制御手段22を用いて型2を基材に対して移動させる例を示したが、これに限らず、基材支持体8を移動可能に構成し、型2に対して基材を移動させてもよい。また、成形型位置制御手段22および基材支持体8の両方を移動し、型2と基材を相対的に移動するように構成してもよい。
【0036】
型2には、波長4um以下の赤外線を透過し、加工性にも優れている石英ガラスを用いることが好ましいが、それ以外の赤外線透過材料を用いてももちろんよい。たとえば、石英ガラス、シリコン、CaF2、MgF2、BaF2、Ge、ZnSe、ZnS、KBrまたはサファイアのいずれか、または2種以上の混合体から形成されていてもよい。
【0037】
赤外線照射装置3には、カーボンランプを好ましくは用いる。図5は数値計算により、赤外線ランプのピーク波長と、基材21表層50umにおいて吸収されるエネルギーの割合を求めたものである。ピーク波長が1um以上4um以下の範囲のとき、基材21表層における赤外線の吸収率が高く、表面を集中的に加熱するためには効果的である。今回使用したカーボンランプのピーク波長は2um前後であり、基材21の吸収波長と一致するため、基材21の表面加熱に適当である。赤外線照射装置3は、カーボンランプの他、同様に、1um以上4um以下の範囲にピーク波長を持つ、ハロゲンランプ、カンタルヒータ、セラミックヒータを用いても良い。
【0038】
基材21は、最終成形品に対して近似形状のニアシェープゴブであって、型に対して形状差異が300um以下のものが好ましい。図11は光学部品である成形品のプレス軸上の密度分布を測定したものである。成形品の表面において、大きな密度分布変化が発生している。密度分布が変化している領域は、光学部品の表面から約300umである。密度分布が変化している領域は、成形工程により加工が行われた領域に相当する。これ以上形状誤差を持つニアシェープゴブの成形は、さらなる密度分布変化量、変化領域の増大を招く。よってニアシェープゴブには、型2の転写面に対して形状差異が300um以下のものを用いることで、光学性能の高い成形品を得ることができる。
【0039】
また、基材21の表面である成形面は、曲面のほか、平板形状の基材21と型2を用いることも可能である。
【0040】
赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よって、より好ましくは、基材21の表面の全面が、型2の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面の全面を、赤外線照射時の型2の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有している。より好ましくは、プレス軸上の、型2の転写面と基材21の表面との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。100um以上10mm以下の範囲の加熱時の隙間を設けて、赤外線照射による基材21の表面の加熱を行うことにより、効率的な加熱を行なえると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。図6は、型2と基材21の加熱時の隙間の距離と、赤外線を照射することによる基材21の温度変化の関係を示したものである。○が基材21表面の温度変化、□が基材21表面と中心部の温度差を表している。
【0041】
型2と基材21の表面との間の加熱時の隙間が小さいと断熱層の役割を十分に果たさず、また逆に大きいと赤外線が隙間にて拡散してしまうため、加熱の効果は薄い。型2と基材21の表面を接触させて加熱したときに比べて、両者の隙間が100um以上10mm以下とした場合、効率的に基材21の表面を加熱できていることがわかる。基材21表面が集中的に加熱されることにより、基材21内部の温度上昇は抑えられるため、冷却に必要な時間も短縮され、成形時間の短縮が可能となる。次に図7(a)、(b)、(c)はそれぞれ、成形後の基材21の表面の形状誤差、密度分布、そして複屈折を評価したものである。型2と基材21の表面を接触させて加熱及び成形を行った際の値を基準とした。例えば形状誤差の場合、隙間0.1mmを開けて加熱及び成形を行ったときの形状誤差の最大値を、接触させて加熱及び成形を行ったときの形状誤差の最大値で割った値を、隙間0.1mmでの形状誤差として表している。同様に密度分布の場合、隙間0.1mmを開けて加熱及び成形を行ったときの密度差を、接触させて加熱及び成形を行ったときの密度差で割った値を、隙間0.1mmでの密度分布として示している。複屈折の場合、隙間0.1mmを開けて加熱及び成形を行ったときの複屈折位相差を、接触させて加熱及び成形を行ったときの複屈折位相差で割った値を、隙間0.1mmでの複屈折として示している。
【0042】
加熱時の隙間として100um以上10mm以下の隙間を設けた場合は、成形品内部の密度分布及び複屈折は、型2と基材21の表面を接触させて加熱及び成形を行った場合に比べ、改善されていることがわかる。よって赤外線照射時の型2と基材21の表面の隙間が100um以上10mm以下の範囲内において、赤外線照射による基材21の表面の加熱を行うことにより、効率的な加熱を行えると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。
【0043】
型2と基材21の接触時の速度は0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。図8は、型2と基材21の接触時の速度と、成形後の基材21内部の密度分布を評価したものである。接触時の速度が0.1mm/secのときの密度分布の値を基準とした。例えば、接触時の速度0.2mm/secで成形したときの密度差を、接触時の速度0.1mm/secで成形したときの密度差で割った値を、接触速度0.2mm/secにおける密度分布としてプロットしている。0.2mm/sec以下において、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られている。接触時の速度を小さくするほど、基材21は型2によりスムーズに加圧され、密着する。したがって基材に対して余計な応力を負荷させないので、成形品の密度分布の発生を抑制することができ、光学性能の高い光学素子、光学部品の成形が可能である。
【0044】
基材21の表面211が、所定温度に達したら、型を基材21の表面211に密着させるが、この所定温度は、成形可能温度以上が好ましく、成形可能温度とはここでは基材21のガラス転移温度+25℃とする。ガラスあるいはプラスチックの部材表面にプラスチック材料を被覆した基材の場合は、プラスチック材料のガラス転移温度+25℃とする。図9は、基材21の表面温度と成形後の形状誤差との関係の一例を示したものである。材料として、日本ゼオン社製、商品名「ゼオネックス」(ガラス転移温度139℃)を用いた例を示す。横軸は基材21のガラス転移温度に対する相対温度である。縦軸は、159℃(ガラス転移温度+20℃)まで加熱し、成形した基材21における形状誤差の値を基準とした。例えば、164℃(ガラス転移温度+25℃)まで加熱し成形したときの形状誤差の最大値を、159℃(ガラス転移温度+20℃)まで加熱し成形したときの形状誤差の最大値で割った値を、164℃における形状誤差としてプロットしている。164℃以上(ガラス転移温度+25℃以上)に基材21を加熱した場合において、転写が良好な成形品を得ることができることがわかる。樹脂はガラス転移温度以上において急激に粘度が低下する。ガラス転移温度よりも25℃以上高い温度に達した後成形を行うことで、型2の転写面の形状を基材側に精度良く転写することができる。また基材21に対して余計な応力を負荷させなくて良いので、光学部品の密度分布や複屈折の発生が抑制される。
【0045】
(第二の実施形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第2の実施形態について説明する。図2は、第2の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、第一の実施形態で説明した基材21の表面211を成形するとともに、第一の実施形態で説明した基材21の表面211と反対の面である第二の面212を第二の型により成形する形態について説明する。
【0046】
図2において、基材21に対して型2の反対側に、第二の型12が設置され、第二の型12により基材21の第二の面212を成形する。少なくとも一部が、赤外線透過性材料(例えば、石英ガラス製)である第二の型12は、第二の成形型支持体11によって固定され、第二のプレスユニット17に取り付けられている。第二のプレスユニット17内には第二の赤外線照射装置13としてカーボンランプが備え付けられている。そして、第二の赤外線照射装置13から発せられた赤外線23は第二の集光ミラー14によって第二の型12の方向に指向され、樹脂製の基材21の第二の面212に照射される。
【0047】
また第二の照射制御手段15により赤外線23の出力が制御され、第二のシャッター16の開閉動作によって、基材への赤外線の照射をONOFFする制御が行われる。
【0048】
基材21には、型の転写面を転写した後の、成形品である光学部品の両表面形状に対して近似形状を持つニアシェープゴブを用いる。ゴブは事前にアニールを行い、ゴブ内部の密度分布及び複屈折を取り除いておく。密度分布および、複屈折の少ないゴブを用いることにより、光学性能の高い成形品を得ることができる。
【0049】
基材21の形状は、第二の型12の転写面の曲率に対して、基材21の第二の面が凸形状の場合は第二の型12の転写面の曲率よりも小さいものを用い、基材21の第二の面が凹形状の場合は第二の型12の転写面の曲率よりも大きいものを用いる。これにより、第二の型12の転写面を基材21の第二の面に接触及び加圧させて密着させた際、基材21の第二の面はまずプレス軸上から転写され、転写面が周囲に広がっていくことになる。よって空気溜まりを作ることなく、成形を完了することができ、形状精度の高い光学部品を得ることが可能である。また、第二の型12の上に基材21を載置すると、プレス軸上にて点接触するので、第二の型12と基材21の間の一部にも気体の断熱層を持たせられる。よって、第2の成形型12側の基材21表面においても、効率的な加熱を行うことができる。
【0050】
基材21は両凸、両凹、平凸、平凹、凸メニスカス、凹メニスカス形状、平板のいずれでもよい。
【0051】
また、第一の型2および第二の型12を基材21に接触及び加圧させた際、基材21の両成形面はまずプレス軸上から転写され、転写面が周囲に広がっていくことになる。よって空気溜まりを作ることなく、成形を完了することができ、形状精度の高い成形品を得ることが可能である。その他、基材21の表面の形状等については、第一の実施形態と同様である。
【0052】
また、第二の型12は、赤外線透過材料を用いることができる。たとえば、石英ガラス、シリコン、CaF2、MgF2、BaF2、Ge、ZnSe、ZnS、KBrまたはサファイアのいずれか、または2種以上の混合体から形成されていてもよい。
【0053】
赤外線照射装置13には、カーボンランプを好ましくは用いる。カーボンランプの他、同様に、1um以上4um以下の範囲にピーク波長を持つ、ハロゲンランプ、カンタルヒータ、セラミックヒータを用いても良い。
【0054】
次に、本実施の形態における光学部品の製造方法について説明する。
【0055】
まず、成形工程開始前に於いて、シャッター6及び第二のシャッター16は予め閉じておき、赤外線照射装置3及び第二の赤外線照射装置13は照射状態にしておく。
【0056】
基材21は第2の型12上に載置され、プレス軸上で点接触させるようにセットされる。
【0057】
製造を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、型2は基材21に接近する。プレスユニット7は、型2と基材21の間の隙間が、プレス軸上において500umまで近付いたところで停止する。
【0058】
次に、図2(b)に示すように第二のシャッター16を開き、第二の型12を通して赤外線23を基材21に照射し、第二の型12側の基材21の表面である第二の面212を加熱する。
【0059】
つづいてシャッター6を開き、型2を通して赤外線23を基材21に照射し、型2側の基材21の表面211を加熱する。型2と基材21の間には加熱時の隙間として所定の隙間(例えば500umの隙間)を設けてあるのに対し、第二の型12と基材21はプレス軸上で点接触させているため、気体断熱の効果が小さい。そのため、表面211に比べ、第二の面212の温度上昇は鈍い。そこで、第二のシャッター16を先に開き、基材21の表面211および第二の面212が同時に成形可能温度に達するように調整する。そして基材21の両表面が成形可能温度に達したところでシャッター6及び第二のシャッター16を閉じ、加熱工程を完了する。
【0060】
この動作により、基材21の表面211および第二の面212で生じる温度分布の差や転写性の差を解消することが可能である。
【0061】
また、型2側の基材21の表面211が、成形可能温度である、ガラス転移温度+25℃に達する直前には、型2を接近時の速度(例えば0.5mm/secの速度)で基材21に接近させる。そして型2と基材21の隙間を接近時の隙間(例えば100um以下)にしておく。この動作により、基材21の加熱終了後、スムーズにプレス工程に移ることができる。加熱終了後、型位置制御手段22を用いて型2を基材21に接触時の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより型2を基材21の表面211に密着させると同時に、第二の型12を第二の面212に密着させる。そして、型2の転写面の形状を基材21の表面211に転写し、第二の型12の転写面の形状を基材21の第二の面212に転写する。
【0062】
赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との隙間(加熱時の隙間)は、第一の実施形態同様、赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よってより好ましくは、基材21の表面の全面が、型2の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面の全面を、赤外線照射時の型2の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有している。より好ましくは、プレス軸上の、型2の転写面と基材21の表面との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。100um以上10mm以下の範囲の加熱時の隙間を設けて、赤外線照射による基材21の表面の加熱を行うことにより、効率的な加熱を行なえると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。
【0063】
また、第一の実施形態同様、型2と基材21の接触時の速度は0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。
【0064】
その他の製造工程については、第一の実施形態と同様である。
【0065】
(第三の実施の形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第三の実施形態について説明する。図3は、第三の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、オートハンド24が基材21を把持し、位置決めをする、光学部品を製造する製造装置および製造方法について説明する。その他の構成は、第二の実施形態と同様である。
【0066】
製造工程開始前に於いて、シャッター6及び第二のシャッター16は示すように予め閉じておき、赤外線照射装置3及び第二の赤外線照射装置13は照射状態にしておく。
【0067】
基材21はオートハンド24に把持され、第二の型12と基材21の第二の面212との間にプレス軸上で加熱時の隙間(例えば500umの隙間)を開けた状態で、オートハンド24は停止している。
【0068】
製造を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、成形型2は基材21に接近する。プレスユニット7は、型2と基材21の表面211との間の隙間が、プレス軸上において加熱時の隙間(例えば500um)まで近付いたところで停止する。
【0069】
次に、シャッター6及び第二のシャッター16を開き、型2を通して、赤外線23を基材21の表面211に照射すると同時に、第二の型12を通して赤外線23を基材21の第二の面212に照射し、基材21の両表面を加熱する。
【0070】
赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との隙間(加熱時の隙間)は、第一の実施形態同様、赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面211との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よってより好ましくは、基材21の表面の全面が、型2の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面の全面を、赤外線照射時の型2の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型2の転写面と基材21の表面との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有している。より好ましくは、プレス軸上の、型2の転写面と基材21の表面211との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。
【0071】
また、型12の転写面と基材21の表面212との隙間(加熱時の隙間)も、同様であり、赤外線照射時の型12の転写面と基材21の表面212との間のいずれかに隙間があれば、本発明の効果を得ることができるが、接触している部分から熱が逃げてしまうため、気体断熱の効果が小さくなる。よってより好ましくは、基材12の表面212の全面が、型12の転写面と非接触であることが好ましい。つまり基材21の表面212の全面を、赤外線照射時の型12の転写面と接触させないことが好ましい。赤外線照射時の型12の転写面と基材21の表面212との間のいずれかに、100um以上10mm以下の範囲の隙間を有する。より好ましくは、プレス軸上の、型12の転写面と基材21の表面212との間の隙間が、100um以上10mm以下の範囲であることが好ましい。100um以上10mm以下の範囲の加熱時の隙間を設けて、赤外線照射による加熱を行うことにより、効率的な加熱を行なえると共に、より光学性能の高い光学素子の成形を可能にする。
【0072】
次に、基材21の両表面が、成形可能温度である、ガラス転移温度+25℃に達する直前、型2を所定の速度(例えば0.5mm/secの速度)で基材21に接近させ、型2と基材21の隙間を所定の隙間(例えば100um以下)にする。同時に、オートハンド24を動かして、第二の型12に接近させ、基材21と第二の型12の隙間を所定の隙間(例えば100um以下)にする。
【0073】
この動作により、基材21の加熱終了後、スムーズにプレス工程に移ることができる。そして基材21の両表面が成形可能温度に達したところでシャッター6及び第二のシャッター16を閉じ、加熱を終了する。加熱終了後、型位置制御手段22およびオートハンド24を動かして、型2を基材21に所定の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより型2を基材21の表面211に密着させる。また、同時に、第二の型12を基材21に所定の速度(例えば0.02mm/secの速度)で接触させ、加圧することにより第二の型12を第二の面212に密着させる。そして、型2の転写面の形状を基材21の表面211に転写し、第二の型12の転写面の形状を基材21の第二の面212に転写する。
【0074】
型2と基材21の接触時の速度は0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。また、型12と基材21の接触時の速度も同様に、0.2mm/sec以下であれば、概ね良好な密度分布をもつ成形品が得られる。
【0075】
その他の製造工程については、第1の実施形態と同様である。
【0076】
図3(a)は、基材21と型2および第二の型12が、重力方向の同一軸上に設置されている場合を例に取り説明したが、もちろん重力方向以外の方向でもよく、例えば、図3(b)に示すように、重力方向と垂直方向の同一軸上に設置されていても良い。
【0077】
また、第二の型12を動かすための第二の型位置制御手段を設け、第二の型位置制御手段を駆動することにより、第二の型12と基材21の間に所定の隙間を設けるようにしてもよい。
【0078】
(第四の実施形態)
図12は、本発明の光学部品の製造装置の第四の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図12において、26は、基材の肉厚を測定するための厚み測定手段を示す。本実施形態は、基材21の肉厚がばらついても、型2と、基材21の表面211との間の隙間が所定の範囲(例えば設定値に対し±10umの範囲)に収まるように、型2の停止位置を調整するものである。予め厚み測定手段26で測定した基材21の肉厚測定値をもとに、型2の停止位置を調整する。
【0079】
厚み測定手段26により、成形前の基材21の定められた位置における肉厚を測定し、基材21の肉厚値の情報を型位置制御手段22に送る。肉厚の測定箇所は、基材21の中央部でもいいし、縁の部分でもよい。測定誤差が少なくなるよう、測定方向に対して垂直な面を持つ部分を測定すると好ましい。厚み測定手段26にはレーザー変位計、リニアゲージ、及びマイクロメータなどを用いることができる。
【0080】
型位置制御手段22では、厚み測定手段26から送られてきた基材21の肉厚値の情報及び型2やプレスユニット7の形状から、プレスユニット7を移動させたときのプレスユニット7と基材21の接触位置を計算する。
【0081】
そして型位置制御手段22によりプレスユニット7を移動させ、プレスユニット7と基材21の接触位置から所定の値だけ手前でプレスユニット7を停止させることで、基材21と型2との加熱時の隙間が設定値に対し±10μmの範囲内に制御することができる。
【0082】
このように、型2と、基材21の表面211との間の加熱時の隙間を一定にすることで、投入する基材21の肉厚が変動しても、赤外照射終了時の基材21の温度分布が変動することはない。また赤外照射終了後から、型2が基材21に接触するまでの時間も同一となるので、転写開始時の基材21の温度分布も一定にすることができる。
【0083】
その結果、成形後の形状誤差の変動を低減し、安定した光学素子を得ることが可能となる。
【0084】
図13(a)は、型2の停止位置を固定した場合、図13(b)は厚み測定手段26の測定値をもとに型2の停止位置を調整した場合の、成形後の形状誤差のショットバラツキを示したものである。
【0085】
○が型2と基材21表面との間の加熱時の隙間の大きさ、棒グラフが成形後の形状誤差である。
【0086】
形状誤差については、型2の停止位置を固定した場合のNo.1からNo.9までの平均値を基準とした。例えば、型2の停止位置を調整した場合のNo.1の成形品における形状誤差の最大値を、型2の停止位置を固定した場合のNo.1からNo.9までの形状誤差の平均最大値で割った値をプロットする。つまり型2の停止位置を調整した場合のNo.1の成形品における形状誤差としてプロットする。
【0087】
型2の停止位置を固定すると、基材21の肉厚変動がそのまま型2と、基材21の表面211との間加熱時の隙間の変動となり、ショットバラツキの要因となる。
【0088】
基材21の肉厚をもとに型2の停止位置を±10umの範囲に調整することで、ショットバラツキを大幅に低減し、高精度の光学素子を安定して得ることが可能となる。
【0089】
図12では基材21の肉厚値を直接測定したが、肉厚の代わりに成形前の基材21の重量を測定し、基材21の密度を元に定められた位置における基材21の肉厚を算出して型位置制御手段22に情報を送ることで、型2の停止位置を調整しても良い。
【0090】
(第五の実施形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第五の実施形態について説明する。図14(a)は、第五の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、基材21を製造する工程において測定または検出した製造装置可動部の位置情報から基材21の肉厚値を求めて、型2の停止位置を調整する形態について説明する。
【0091】
図14(a)において、基材製造装置25は型位置制御手段22に、基材製造装置25内に設置されている基材成形型の位置情報を送信できる構成となっている。型位置制御手段22は、現在基材支持体8上に載置されている基材21を製造するときに検出した、基材成形型の位置情報から基材21の肉厚値を計算する。更に型位置制御手段22は、基材21の肉厚値及び型2やプレスユニット7の形状から、プレスユニット7を移動させたときのプレスユニット7と基材21の接触位置を計算する。
【0092】
基材成形型の位置情報は、基材成形型に設置のレーザー変位計、リニアゲージ等により測定される。その他の装置構成、動作に関しては第四の実施形態と同様である。
【0093】
基材製造装置25にて測定または検出した位置情報から基材21の肉厚値を求めることで、基材21の厚みを測定する機構を新たに設ける必要がないので、製造コストや製造タクトを増加させることなく、高精度の光学素子を安定して得ることができる。
【0094】
本実施形態においては基材製造装置25内に設置されている基材成形型の位置情報から基材21の肉厚を求めた。しかし、例えば樹脂をシリンダー内で加熱して溶融し、溶融樹脂を基材成形型に吐出して基材21を製造する場合など、吐出前後でのシリンダーの移動量とシリンダーの内径から吐出された樹脂の体積を算出し、基材21の肉厚を求めても良い。
【0095】
(第六の実施形態)
次に、本発明の光学部品の製造装置の第六の実施形態について説明する。図14(b)は、第六の実施形態を表すプレス成形装置の概略図である。図1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態においては、赤外照射前に型2を基材21に接触させることで基材21の肉厚測定を行い、型2の停止位置を調整する形態について説明する。
【0096】
肉厚未測定の基材21を基材支持体8上にセットし成形を開始すると、まず型位置制御手段22によりプレスユニット7は下降し、型2は基材21に接近する。型2が基材21に接触したところで、型2を停止し、そこから型2を所定値(例えば120um)上昇させ、再び停止させる。この動作により、型2と、基材21の表面211との間の加熱時の隙間を一定にすることが可能である。その他の装置構成、動作に関しては第四の実施形態と同様である。
【0097】
赤外照射前に型2を基材21に接触させることにより基材21の肉厚測定を行うことで、基材21の厚みを測定する機構を新たに設ける必要がないので、製造コストを増加させることなく、高精度の光学素子を安定して得ることができる。
【0098】
これまで、図12及び図14では基材21の片面のみを成形する場合を例にとり説明したが、基材21の表面211に対して反対側に、基材支持体8の代わりに、赤外線照射装置を内蔵した第二のプレスユニットを設けて、基材21の両面を成形できるようにしても良い。
【0099】
また基材21と型2が、鉛直方向に設置されている場合を例にとり説明したが、もちろん鉛直方向以外の方向でもよく、例えば水平方向に設置されても良い。
【0100】
以上より、本発明によれば、前記の従来の課題を解決することができる。従来のプレス成形法、射出成形法に比べて成形時間を短縮し、かつ優れた光学性能を持つ光学素子を安定して生産することを可能にする光学部品の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型を密着させて光学部品を製造する光学部品の製造方法であって、
前記型を、前記基材と前記型の間に隙間を開けて配置した状態で、前記基材に赤外線を照射して前記基材を加熱する工程、
前記加熱された基材と前記型とを密着させる工程
とを有することを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記密着させる工程は、前記基材と前記型とをプレス軸に沿って相対的に移動させることにより行なうことを特徴とする請求項1記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記隙間は、少なくとも前記プレス軸上の前記基材と前記型の間隔が100um以上10mm以下であることを特徴とする請求項2記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記基材の肉厚から求めた位置に前記型を配置させて前記基材と前記型の間に隙間を開けることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱する工程は、前記基材の表面が、前記基材のガラス転移温度よりも25℃以上高い温度になるまで加熱されることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記赤外線のピーク波長は、1um以上4um以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記基材は曲面であって、前記曲面の曲率は、前記曲面が凸形状の場合は、前記型の転写面の曲率よりも小さいものを用い、前記曲面が凹形状の場合は、前記型の転写面の曲率よりも大きいものを用いることを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、アニールにより密度分布及び複屈折を低減させたニアシェープゴブであることを特徴とする請求項1乃至7いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、ガラスあるいはプラスチックの部材の表面にプラスチック材料を被覆したものであることを特徴とする請求項1乃至8いずれか一項の光学部品の製造方法。
【請求項10】
前記型は、石英、シリコン、CaF2、MgF2、BaF2、Ge、ZnSe、ZnS、KBrまたはサファイアのいずれかまたは2種以上の混合体から形成されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項11】
前記型と前記基材を0.2mm/sec以下の速度で相対的に移動させることを特徴とする請求項1乃至10いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項12】
前記基材は第二の面をさらに有し、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる第二の型を、前記第二の面との間に隙間を開けて配置した状態で、前記第二の面に赤外線を照射して、前記第二の面を加熱した後、
前記第二の型を前記第二の面に密着させることを特徴とする請求項1乃至11いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項13】
前記第二の型と前記基材を相対的に移動させることで、前記第二の型と前記第二の面とを密着させることを特徴とする請求項12記載の光学部品の製造方法。
【請求項14】
前記基材は第二の面をさらに有し、前記第二の面を、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる第二の型の上に載置した状態で、前記第二の面に赤外線を照射し、前記第二の面を加熱した後、前記第二の型を前記第二の面に密着させることを特徴とする請求項1乃至11いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
前記型を重力方向に移動させることで、前記型を前記基材の表面に密着させ、かつ、前記第二の型を前記第二の面に密着させることを特徴とする請求項14記載の光学部品の製造方法。
【請求項16】
少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型と、赤外線を前記型を透して基材に照射するための赤外線照射装置と、開閉動作により前記の赤外線照射装置からの赤外線の照射を制御するシャッターと、前記基材を固定するための基材支持体と、前記型と前記基材支持体を相対的に移動させるための位置制御手段と、を備えることを特徴とする光学部品の製造装置。
【請求項17】
少なくとも一部が赤外線透過材料からなる第二の型と、赤外線を前記第二の型を透して基材に照射するための第二の赤外線照射装置と、開閉動作により前記第二の赤外線照射装置からの赤外線の照射を制御する第二のシャッターと、をさらに備えることを特徴とする請求項16記載の光学部品の製造装置。
【請求項18】
前記基材支持体は、型および第二の型との間に隙間を開けて基材を配置できるオートハンドであることを特徴とする請求項17に記載の光学部品の製造装置。
【請求項1】
基材に、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型を密着させて光学部品を製造する光学部品の製造方法であって、
前記型を、前記基材と前記型の間に隙間を開けて配置した状態で、前記基材に赤外線を照射して前記基材を加熱する工程、
前記加熱された基材と前記型とを密着させる工程
とを有することを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記密着させる工程は、前記基材と前記型とをプレス軸に沿って相対的に移動させることにより行なうことを特徴とする請求項1記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記隙間は、少なくとも前記プレス軸上の前記基材と前記型の間隔が100um以上10mm以下であることを特徴とする請求項2記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記基材の肉厚から求めた位置に前記型を配置させて前記基材と前記型の間に隙間を開けることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱する工程は、前記基材の表面が、前記基材のガラス転移温度よりも25℃以上高い温度になるまで加熱されることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記赤外線のピーク波長は、1um以上4um以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記基材は曲面であって、前記曲面の曲率は、前記曲面が凸形状の場合は、前記型の転写面の曲率よりも小さいものを用い、前記曲面が凹形状の場合は、前記型の転写面の曲率よりも大きいものを用いることを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、アニールにより密度分布及び複屈折を低減させたニアシェープゴブであることを特徴とする請求項1乃至7いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、ガラスあるいはプラスチックの部材の表面にプラスチック材料を被覆したものであることを特徴とする請求項1乃至8いずれか一項の光学部品の製造方法。
【請求項10】
前記型は、石英、シリコン、CaF2、MgF2、BaF2、Ge、ZnSe、ZnS、KBrまたはサファイアのいずれかまたは2種以上の混合体から形成されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項11】
前記型と前記基材を0.2mm/sec以下の速度で相対的に移動させることを特徴とする請求項1乃至10いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項12】
前記基材は第二の面をさらに有し、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる第二の型を、前記第二の面との間に隙間を開けて配置した状態で、前記第二の面に赤外線を照射して、前記第二の面を加熱した後、
前記第二の型を前記第二の面に密着させることを特徴とする請求項1乃至11いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項13】
前記第二の型と前記基材を相対的に移動させることで、前記第二の型と前記第二の面とを密着させることを特徴とする請求項12記載の光学部品の製造方法。
【請求項14】
前記基材は第二の面をさらに有し、前記第二の面を、少なくとも一部が赤外線透過材料からなる第二の型の上に載置した状態で、前記第二の面に赤外線を照射し、前記第二の面を加熱した後、前記第二の型を前記第二の面に密着させることを特徴とする請求項1乃至11いずれか一項記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
前記型を重力方向に移動させることで、前記型を前記基材の表面に密着させ、かつ、前記第二の型を前記第二の面に密着させることを特徴とする請求項14記載の光学部品の製造方法。
【請求項16】
少なくとも一部が赤外線透過材料からなる型と、赤外線を前記型を透して基材に照射するための赤外線照射装置と、開閉動作により前記の赤外線照射装置からの赤外線の照射を制御するシャッターと、前記基材を固定するための基材支持体と、前記型と前記基材支持体を相対的に移動させるための位置制御手段と、を備えることを特徴とする光学部品の製造装置。
【請求項17】
少なくとも一部が赤外線透過材料からなる第二の型と、赤外線を前記第二の型を透して基材に照射するための第二の赤外線照射装置と、開閉動作により前記第二の赤外線照射装置からの赤外線の照射を制御する第二のシャッターと、をさらに備えることを特徴とする請求項16記載の光学部品の製造装置。
【請求項18】
前記基材支持体は、型および第二の型との間に隙間を開けて基材を配置できるオートハンドであることを特徴とする請求項17に記載の光学部品の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−76452(P2012−76452A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173942(P2011−173942)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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