説明

光学顕微鏡の立体視装置

【課題】光学顕微鏡による透過照明観察時に用いる、下記の特徴を有する立体視装置を提供する。
▲1▼両眼視差の原理に基づく正確で自然な立体感を得る。
▲2▼低倍率(100倍以下)から高倍率(1000倍以上)まで立体視できる。
▲3▼平面視から深い立体視まで容易に調整できる。
▲4▼既存の光学系や機構を変更すること無しに外付けもしくは挿入できる。
【解決手段】偏光板、シャッター、LEDなどを用いて、物理的属性の異なる複数の偏斜照明光を観察試料に混合入射させ、それによる像を、偏光板、シャッター、映像装置などを用いて左眼用、右眼用の像に再分離することで立体視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ないし半透明の試料を光学顕微鏡で透過照明観察する際の立体視技術に関する。
【背景技術】
【0002】
単眼顕微鏡では、片眼でしか観察することができないので、両眼視差による立体視は当然できない。
【0003】
双眼顕微鏡でも立体視できない。ここで双眼顕微鏡とは、実体顕微鏡を除いた主として生物試料の両眼観察に使用するものを指す。双眼といっても、1個の対物レンズから入った光をビーム分割器で左右接眼レンズに振り分けているので、左眼と右眼による観察像は同じものである。すなわち、両眼視差を生じないので、観察像は平面的にしか見えず深さ方向の前後関係や立体形状に関する視覚は得られない。以下では、この奥行き感の無い平面的な視覚を、立体視の対語として”平面視”と呼ぶことがある。
【0004】
実体顕微鏡では立体視できるが低倍率観察に限定される。奥行きのある対象物を、低倍率(10倍〜60倍程度)・双眼で、両眼視差の原理による立体視を行うものである。不透明な観察試料の落射照明観察に適するが、透過照明観察も可能である。しかし、100倍以上の高倍率では、通常の生物顕微鏡に比べ像質や分解能が著しく劣化する。このため、高倍率による精密な観察は前記の単眼または双眼の光学顕微鏡による平面視で行わざるを得ない。
【0005】
前記、単眼顕微鏡、双眼顕微鏡、実体顕微鏡において、偏斜照明における偏斜量を手動で変化させることによって運動視差を発生させ奥行き感覚(車窓効果)を得る観察手法がある。この手法を用いると、視野内に存在する物体のおおまかな立体感・前後感覚を得るのに有効な場合がある。しかし、顕微鏡観察においては細部の精密な観察を行うのが常なので、運動視差により立体感を得る手法の存在意義はあまりない。この手法では、観察像を静止(偏斜量を固定)させた状態での立体視はできない。
【0006】
位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡では、観察試料の屈折率や厚み、勾配などの分布にコントラストや穏影を付けることにより擬似的な立体感を得ることができる。これは、人間が日常行っている自然で強力な立体視、すなわち両眼視差による立体視とは異なる。従って例えば、個々の細胞の中での厚み分布はコントラストや穏影によって識別できるが、細胞内部の異なる粒子間や、異なる細胞間の前後関係を感覚することはできない。また、観察像から感覚される立体形状は真の立体形状からかけ離れているのが常である。
【0007】
特許文献1記載の方法では、内部に偏光板を設けた対物レンズを用いて両眼視差の原理によって立体視する。偏光板からなる部材を挿入した専用の対物レンズを用いる。対物レンズ内部の狭い空間に偏光板を高い精度で設置する必要があるので製作と調整が難しい。また、最適な立体感と像質は、観察試料や観察点の性質ならびに観察目的に合致するように観察中に調整されることが望ましいが、このための装置は含まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−152561公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
顕微鏡の中で最も汎用的かつ使用頻度の高い透過照明型の光学顕微鏡においては、前記のように、微小世界の真の立体構造を直視するための技術が十分確立されていない。本発明は、透過照明型の光学顕微鏡を用いて正確で臨場感豊かな立体視観察を行うための手段を提供するものである。
【0010】
光学顕微鏡による平面視における問題点は下記のとおりである。
・人間の日常生活における立体世界感覚(視野内に存在する物体の奥行き関係や立体形状 を無意識,瞬時,正確に把握しているという感覚)からの違和感、非臨場感が強い。
・奥行き関係、立体形状を高頻度で誤認する。
・従って、正確な立体情報を得たいときは、深さ方向にピント面を微動させることで前後 関係や立体構造を調査する必要がある。この作業には手間がかかり、一度には着目点局 所の情報しか得られないので大変もどかしいものである。
・この方法を習得するには訓練を要する。
・この方法は、運動する観察対象については実施困難ないし不可能である。
・深さ方向のピント面の微動方向を高頻度で間違える。特にプランクトンや細胞内流動体 など、観察対象が奥行きのある空間内で運動している場合は深刻である。観察対象が奥 に移動したのか手前に移動したのか分からないのでピント追従操作が困難で見失ってし まうことも少なくない。
【0011】
特許文献1記載の装置における問題点は下記のとおりである
・専用の対物レンズが必要である。
・偏光面方位が左右像で異なるので、観察試料によってはこれが立体視を外乱する。
・対物レンズ内部の狭い空間に部材を配置するので、加工と調整に高い精度と手間を要す る。
・対物レンズ内部の狭い空間に部材を配置するので、立体感や像質を観察中に変更あるい は調整するための機構を実装するのが困難である。
【0012】
従来技術における上記問題点を解決するために、本発明は下記の特徴を有する立体視装置を提供する。
・両眼視差の原理に基づいて立体視する。
・自然で正確かつ高い臨場感を持った立体像が得られる。
・広い倍率範囲(100倍以下〜1000倍以上)で立体視できる。
・製作と調整が容易である。
・対物レンズを含む既存の光学系や機構に手を加えない。
・現在使用されている、また将来生産される膨大な台数の光学生物顕微鏡に外付けあるい は挿入できる。
・偏光による外乱を防ぐ選択ができる。
・平面視から深い立体視まで、観察中に容易に調整できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1は、本発明における手段の本質的な構成について述べたものである。図1に本発明で利用している視差発生の原理を示す。照明光1の左側部分Lと右側部分Rに互いに異なる偏光特性もしくは時分割特性を付与した偏斜光を作る(以下この部分を”前段”と呼ぶ)。これらの偏斜光はコンデンサー3で集光され観察試料面4に入射する。観察試料に互いに深さの異なる二つの点5があると、偏斜光Lと偏射光Rによる試料透過後の光には、深さの違いに応じた視差が発生しこれらが対物レンズ6に混合入射する。この混合入射光が作る像を、前記偏光特性もしくは時分割特性の違いにより左眼用像7と右眼用像8に分離(以下この部分を”後段”と呼ぶ)した上で、左眼、右眼に入射させてやれば、両眼視差の原理により立体視できる。
【0014】
図2に、双眼顕微鏡を例にとり、顕微鏡と前段,後段との機能的および位置的な構成関係を示す。この図では、左右の偏斜光の属性(偏光特性もしくは時分割特性)を光軸左右の小さな矢印で表し、これらが光路に沿っていかに付与、再分離されるかを示している。照明光10には顕微鏡の光源を用いてもよいし、前段装置に照明光源を内蔵させてもよい。いずれにしても前記のように、前段11で異なる偏光特性もしくは時分割特性を付与された左右の偏斜光が対物レンズ6に混合入射する。対物レンズを出た光はビーム分割器13のビーム分割点14で左眼、右眼用の光路に分割される。後段15において、左右偏斜光による像が保持する互いに異なる偏光特性もしくは時分割特性を利用して、左偏斜光による像は左眼のみに、右偏斜光による像は右眼のみに入るよう濾し分ける。前段と後段の挿入可能位置は前段,後段の実質により(請求項2〜7)多少異なるが、図2には典型的な前段挿入位置12,後段段挿入位置17を示す。
【0015】
以上のように、本発明は、顕微鏡の光学系や構造はそのまま利用し、偏斜光に物理的的属性を付加する前段と、その属性により左眼、右眼用の像に再分離する後段を挿入することにより両眼視差による立体視を可能とするものである。前段と後段に用いる実質の違いによって請求項2〜7が対応する。
【0016】
請求項2は前段として左右隣接し互いに偏光面の直交する偏光板を用い、後段として左眼右眼用の互いに偏光面の直交する偏光板を用いたものである。図3に前段18と、後段20を含む双眼顕微鏡の構成を示す。透過照明光源と観察試料の間19に左右隣接し互いに偏光面方位の直交する偏光板18を挿入する(偏光方位を縦縞か横縞で表す)。また、両眼へのビーム分割点14と眼との間21に左眼右眼用の互いに偏光面の直交する偏光板20を設ける。前段、後段すべての偏光板の板面は光軸と直交させる(図3は偏光面の方位が見えやすいように偏光板の板面を紙面に一致させて描いてある)。
【0017】
請求項3は前段に左右隣接し交互にオン/オフするシャッターを用い、後段として前段の左右シャッターと同期して交互にオン/オフする左眼右眼用のシャッターを用いたものである。図4に前段22と、後段24を含む双眼顕微鏡の構成を示す。透過照明光源と観察試料の間23に左右隣接し肉眼の時間分解能以下の周期で交互にオン/オフするシャッター22を挿入する。また、両眼へのビーム分割点14と眼との間25に前段の左右シャッターと同期して交互にオン/オフする左眼右眼用のシャッター24を設ける。前段、後段すべてのシャッター面は光軸と直交させる(図4ではオン/オフの状態が見えやすいようにシャッター面を紙面に一致させて描いてある)。
【0018】
請求項4は前段に左右隣接し交互にオン/オフする照明光源を用い、後段として前段の左右光源と同期して交互にオン/オフする左眼右眼用のシャッターを用いたものである。図5に前段26と、後段28を含む双眼顕微鏡の構成を示す。コンデンサー絞り2の下部27に左右隣接し肉眼の時間分解能以下の周期で交互にオン/オフする照明光源26を設ける。また、両眼へのビーム分割点14と眼との間29に前段の左右光源と同期して交互にオン/オフする左眼右眼用のシャッター28を設ける。前段の光源は左右それぞれ複数個あってもよい。後段のシャッター面は光軸と直交させる(図5ではオン/オフの状態が見えやすいようにシャッター面を紙面に一致させて描いてある)。
【0019】
請求項5は前段に左右隣接し互いに偏光面の直交する偏光板を用い、後段として偏光面の方位を時間的に90°切り替える装置を用いたものである。図6に前段30と、後段32を含む単眼顕微鏡の構成を示す。透過照明光源10と観察試料4の間31に左右隣接し互いに偏光面方位の直交する偏光板30を挿入する。また、対物レンズ6以降の光路33に肉眼の時間分解能以下の周期で時間的交互に偏光面が0°,90°の2方位をとる装置32を設けて、左眼右眼用の時分割像を既存の立体視用映像装置34に出力する。対物レンズによる実像を直接撮影するときは接眼レンズ16は不要である。立体視用映像装置34は、偏光面方位を切り替える装置32と同期して左右像をカメラで時分割撮影し、モニターに時分割もしくは空間分割された左右映像を表示する。前段、後段すべての偏光板の板面は光軸と直交させる(図6は偏光面の方位が見えやすいように偏光板の板面を紙面に一致させて描いてある)。
【0020】
請求項6は前段に左右隣接し交互にオン/オフするシャッターを用い、後段として既存の立体視用映像装置のみを用いたものである。図7に前段35と、後段34を含む単眼顕微鏡の構成を示す。透過照明光源と観察試料の間36に左右隣接し肉眼の時間分解能以下の周期で交互にオン/オフするシャッター35を挿入する。また、対物レンズ6以降の光路37に立体視用映像装置34を設けて(対物レンズによる実像を直接撮影するときは接眼レンズ16は不要)、これに前段シャッターによる左眼右眼用の時分割像を出力する。前段のシャッター面は光軸と直交させる(図7ではオン/オフの状態が見えやすいようにシャッター面を紙面に一致させて描いてある)。
【0021】
請求項7は前段に左右隣接し交互にオン/オフする照明光源を用い、後段として既存の立体視用映像装置を用いたものである。図8に前段26と、後段34を含む単眼顕微鏡の構成を示す。コンデンサー絞り2の下部38に左右隣接し肉眼の時間分解能以下の周期で交互にオン/オフする照明光源26を設ける。また、対物レンズ6以降の光路39に立体視用映像装置34を設けて(対物レンズによる実像を直接撮影するときは接眼レンズ16は不要)、これに前段光源による左眼右眼用の時分割像を出力する。
【0022】
立体感を調節する手段としては、上記いずれの前段装置においても、左右の部材(偏光板,シャッター,照明光)間のすきまを変える。光路全体をすきまで覆うと平面視となる。すきまを小さくするほどさらには重ねしろを大きくするほど立体感は大きくなる。前段装置が左右偏光板の場合を図9に示す。ここでは、偏光板は作りやすい形状である矩形としている。左右偏光板40,41間の距離を、42a→42b→42Cのように変えると立体感は次第に大きくなる。前段装置がシャッターの場合を図10に示す。前段装置が照明光の場合を図11に示す。この場合は左右光源間の距離48を機械的に変えるか、複数光源の点灯パターンを制御する。点灯パターンを49→50→51のように変えると立体感は次第に大きくなる。なお、49,50,51の左側の列は左側点灯時の時間帯における点灯パターンを、右側の列は右側点灯時の時間帯における点灯パターンを示す。いずれの立体感調整装置においても、コントラストや分解能などの像質も連動して変化するので、観察試料の種類や観察目的に応じて調整する。
【0023】
なお、本発明の説明において使用する”単眼顕微鏡”、”双眼顕微鏡”という用語は顕微鏡自体の種類というよりは、同時に使用する眼数の意味で用いる。従って例えば、本発明における”単眼顕微鏡”に対する記述内容は、”単眼顕微鏡”のみならず、単眼で使用するときの”双眼顕微鏡”や”三眼顕微鏡”にもそのまま成立する。
【発明の効果】
【0024】
顕微鏡観察における平面視と立体視の差は、日常生活における片眼視と両眼視の差以上に大きい。日常生活における片眼視の場合、脳に蓄積された物体形状に関する経験的知識が無意識に動員されこれは多くの場合正しいので大きな不自由は生じない。しかし、顕微鏡観察の対象物は経験的知識が適用できない形状や立体構造をしばしば有する。このため平面視の場合、経験的知識の無意識的な動員による(従って看過されやすい)誤認が頻繁に起こる。端的な例では、数メートル離れた植物の生い茂った葉を片眼視する場合に近い。片眼視では葉の前後関係や枝葉の立体構造をほとんど識別できないだけでなく、個々の葉の形状も誤認しやすい。両眼視の場合はこれらの多くが一目瞭然となる。本発明による立体視もこれと同程度の効果を生じる。
【0025】
本発明による立体視の効果は、請求項2〜7に関するいずれの実施例においても、実際の観察試料と観察作業を通して下記のとおり確認される。
▲1▼両眼視差の原理に基づいているので、自然な奥行き感のある臨場感豊かな像になる。
▲2▼倍率を上げていくと奥行き識別能が連動して高くなり、自然なズーム感覚が得られる。
▲3▼平面視の場合のように経験や考察、ピント面微動によることなく、”見てのとおり”の 立体情報が瞬時にかつ視野全体で得られる。
▲4▼日常生活におけるのと同じような、3次元試料空間内での本能的な位置感覚、ならびに物体形状を把握しているという本能的な安心感を与える。
▲5▼視覚的に判断される前後関係は正確であって、平面視に比べて誤認が圧倒的に少ない。
▲6▼従って、深さ方向のピント面の微動方向を間違えない。特に、3次元的運動をしている観察物のピント追従を正確に行うことができる。このため平面視の場合と比べると、ピント合わせの操作性が格段に優れる。
▲7▼以上の効果が、低倍率(100倍以下)から高倍率(1000倍以上)まで、乾燥系、液浸系いずれの対物レンズにおいても一定して得られる。
▲8▼スンプ法などによる不透明物体表面形状のレプリカ試料も上と同様に立体視できる。
【0026】
また、請求項1に関わる本発明の構造的特徴による効果は下記のとおりである。特に▲10▼の後段に関する記述と▲11▼は特許文献1で用いている方法に比べると大きな長所である。
▲9▼既存の光学系や機構がそのまま使用でき、現在使用されている膨大な台数の光学顕微鏡に装置を外付けまたは挿入するのみで立体視できる。
▲10▼前段、後段ともに設置位置の自由度とスペースが大きい。特に前段に下記▲11▼の立体感調整装置を装備する場合、これを格納するための十分なスペースが既存の顕微鏡には存在するので装置を大きく作ることができ、製作に高い精度や手間を要しない。
▲11▼立体感調整装置を用いて、従来の平面視から深い立体視まで、観察中に容易に調整可能である。最適な立体感を観察試料の種類によって変えたり、立体視が無意味な非常に薄い試料は従来の平面視に直ちに戻すことが出来る。
【0027】
また、特許文献1では左右で偏光面方位が異なる偏光板を用いているので、観察試料の偏光特性によっては、これによる左右像間の差が生じ立体視のかく乱要因となる。本発明における請求項2,5では同じ問題が残るが、請求項3,4,6でシャッター透過光が偏光の場合(液晶シャッター)は左右の透過光の偏光面方位が一致するように作れば解決し、また、請求項7では偏光を利用しないのでこの問題は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に関わる視差発生の原理を示す図である。
【図2】本発明と光学顕微鏡との構成関係を双眼顕微鏡の例で説明した図である。
【図3】本発明の実施例1を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例2を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例3を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例4を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例5を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例6を示す説明図である。
【図9】実施例1,4における立体感調整装置の説明図である。
【図10】実施例2,5における立体感調整装置の説明図である。
【図11】実施例3,6における立体感調整装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0029】
図3に請求項2の実施例を示す。本形態の長所は、偏光板しか用いないため経済的で、製作も容易、電気回路が皆無であることである。前段18は、光源表面から観察試料下面の間19に、光路上左右半分ずつに、互いに偏光方位が直交する偏光板を配置する。左右の偏光板の偏光面方位は互いに直交していさえすればよく、必ずしも図のように隣接線に対して直交している必要はない。また、偏光板形状は光路を覆いさえすれば円形でも矩形でもよい。立体感を調節するためには、図9に示すように、左右の偏光板40,41の距離を42a,42b,42cのように調整する。左右の偏光板間のすきま42aが大きいほど平面視に近づく。すきまを42bのように小さくさらには42cのように重ねしろが大きくなるほど立体感は大きくなる。左右対称運動をする機構(一個のピニオンを対向して挟んだ2個のラックなど)により平面視から深い立体視まで連続的に容易に調節できる。この機構を装備する場合の前段挿入位置は、コンデンサー絞り2の下が最もスペースがあり適している。後段20には、左右眼へのビーム分割点14と眼との間21に前段18で与えた偏光を分離するための偏光方位の互いに直交した偏光板を挿入する。左右の偏光板を交換すると奥行き感覚が逆転するので、観察試料を表面側、裏側どちらから見るかを選択できる。後段挿入位置の例を下に示す。
・ビーム分割プリズム側面
・接眼レンズ用内筒
・接眼レンズ視野絞り
・接眼レンズ外表面
・めがね表面(偏光めがね)
また、偏光板の代わりに、ビーム分割器のプリズムに偏光作用を持たせた偏光ビーム分割器を用いてもよい。
【実施例2】
【0030】
図4に請求項3の実施例を示す。本形態の長所は、左右の偏斜光に偏光特性の違いを付与しないので、光学的活性の大きい観察試料(結晶など)中での偏光面の強制回転の影響を受けないことである。シャッターとして液晶シャッターを用いた場合、透過光は偏光となっている。しかし、左右シャッターの偏光面方位を一致させることで、試料による偏光面の回転量を左右同じにすることができる。従って、立体視のかく乱要因とはならない。
本実施例では液晶シャッターを用いる。前段シャッター22と後段シャッター24には、タイマーIC、ロジックICなどで生成した肉眼の時間分解能以下の周期(例えば60Hz)の矩形波電圧を前段後段同期して左右交互にかける。前段あるいは後段のシャッターの開閉タイミングを左右交換すると奥行き感覚が逆転するので、観察試料を表面側、裏側どちらから見るかを選択できる。立体感を調節するためには、図10に示すように、左右の液晶シャッター43,44の距離を45a、45b、45cのように調整する。左右のシャッター間のすきま45aが大きいほど平面視に近づく。すきまを45b、45cのように小さくさらには重ねしろが大きくなるほど立体感は大きくなる。前段の挿入位置は、光源表面から観察試料下面の間23なら任意であるが、前記立体感調整装置を装備した場合はコンデンサー絞り2の直下が最もスペースがあり適している。後段の挿入位置はビーム分割点14から眼との間25なら任意である。後段挿入位置の例は、実施例1におけるものと同じである。
【実施例3】
【0031】
図5に請求項4の実施例を示す。本形態の長所は、左右の偏斜光に偏光をかけないこと、および光源(前段)にLEDを用いることにより偏斜光の分布パターンの自由度を大きくできることである。本実施例では前段にLED26を、後段に液晶シャッター28を用いる。前段LEDと後段シャッターには、肉眼の時間分解能以下の周期(例えば60Hz)で、タイマーIC、ロジックICなどで生成した矩形波電圧を前段後段同期して左右交互にかける。前段LEDの点滅あるいは後段シャッターの開閉タイミングを左右交換すると奥行き感覚が逆転するので、観察試料を表面側、裏側どちらから見るかを選択できる。立体感を調節するためには、図11に示すように、左右のLED46,47の距離を機械的に変化させてもよいが、発光領域を変化させることによって、浅い立体視49,標準的50,深い立体視51のように制御してもよい。同図では、左側偏斜光がONの時間帯と右側偏斜光がONの時間帯それぞれにおける発光パターンを左右に並べて示している。その他、多数の偏斜光に分けて像質を変化させたり、発光領域中心を図11上下にずらして運動視差効果を出すなど、見え方を制御するための自由度が大きい。前段の挿入位置は、コンデンサー絞り2の直下なら任意である。後段の挿入位置はビーム分割点14から眼との間29なら任意である。後段挿入位置の例は、実施例1におけるものと同じである。
【実施例4】
【0032】
図6に請求項5の実施例を示す。本形態の長所は、双眼顕微鏡に比べて安価で大量に使用されている単眼顕微鏡に適用できること、およびモニターによる多人数観察用であることである。前段30については、偏光板構成、挿入位置、立体感調整法などすべてが実施例1と同じである。後段には偏光面方位を時間的に90°切り替えるフィルター32を設ける。この装置は、液晶シャッターの表裏面に貼られている偏光板を片面のみ(接眼レンズ側に配置)にすることで実現できる。液晶層に電圧をかけたときとかけないときで、偏光面が0°か90°のどちらかの方位をとる。後段挿入位置は、対物レンズ6からカメラ受光部の間33なら任意である。図6は鏡筒内部に設置した例である。前段30で混合した左右偏斜光による像を、後段フィルター32で時間的交互に左偏斜光のみによる像と右偏斜光のみによる像とに濾し分ける。この時分割像を既存の立体視用映像装置34のカメラに入射させ、モニターに時分割または空間分割表示させる。観察者は液晶シャッターめがね(時分割映像の場合)や偏光めがね(空間分割映像の場合)でモニター映像を立体視する。後段フィルターの偏光方位切り替えはカメラの同期信号に同期させる。なお、対物レンズによる実像を直接撮影するときは、接眼レンズ16は不要で後段フィルター32の後に立体視用映像装置34のカメラを配置する。
【実施例5】
【0033】
図7に請求項6の実施例を示す。本形態の長所は、実施例2と同じく観察試料の偏光特性による立体視のかく乱を受けないこと、実施例4と同じく単眼顕微鏡であること、モニターで立体視することである。前段シャッター35については、シャッター構成、挿入位置、立体感調整法などは実施例2と同じで、シャッターの左右開閉をカメラの同期信号に同期させる点が異なる。本実施例では、既存の立体視用映像装置34が後段になっていて、時分割撮影によって左右の偏斜光を分離する。対物レンズによる実像を直接撮影するときは接眼レンズ16は不要である。
【実施例6】
【0034】
図8に請求項7の実施例を示す。本形態の長所は、実施例3と同じく観察試料の偏光特性による立体視のかく乱を受けないこと、LEDを用いることにより偏斜光の分布パターンの自由度が大きいこと、実施例4,5と同じく単眼顕微鏡であること、モニターで立体視することである。本実施例は、実施例5における前段シャッターをLEDに置き換えたものである。前段LED26については、LED構成、挿入位置、立体感調整法などは実施例3と同じで、左右点滅をカメラの同期信号に同期させる点が異なる。後段34については実施例5と全く同じである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、現在使用されている、また将来生産される膨大な数の単眼、双眼顕微鏡に適用できる。現在使用されている単眼、双眼顕微鏡は日本国内だけで約十万台と推定される。これらは主に、小学校、中学校、高校における初等理科教育用として、また生物系、医学系の教育・研究用として使用されている。
【0036】
教育産業
現状の顕微鏡を用いた理化教育は平面視で行われている。立体視による高臨場感を伴う観察経験はミクロの世界への興味を倍加させ、理科教育に貢献すると思う。請求項2〜4は双眼顕微鏡を眼視で立体視するものであるが、両眼に3D撮影用カメラを接続すれば直ちに3Dモニター上で多人数観察できる。請求項5〜7はモニターによる観察を前提としている。これらモニターを用いた多人数観察は特に教育用として適している。また、これから普及する3Dテレビジョン用の教材作成にも利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 左右の偏斜照明光
2 コンデンサー絞り
3 コンデンサー
4 観察試料面
5 観察試料
6 対物レンズ
7 左偏斜光による観察像
8 右偏斜光による観察像
9 右偏斜光の光路例
10 透過照明光
11 前段装置
12 前段装置の挿入可能範囲
13 ビーム分割器
14 ビーム分割点
15 後段装置
16 接眼レンズ
17 後段装置の挿入可能範囲
18,30 偏光板を用いた前段装置
19,31 偏光板を用いた前段装置の挿入可能範囲
20 偏光板を用いた後段装置
21 偏光板を用いた後段装置の挿入可能範囲
22,35 シャッターを用いた前段装置
23,36 シャッターを用いた前段装置の挿入可能範囲
24 シャッターを用いた後段装置
25 シャッターを用いた後段装置の挿入可能範囲
26 時分割型偏斜照明光源
27,38 時分割型偏斜照明光源の挿入可能範囲
28 シャッターを用いた後段装置
29 シャッターを用いた後段装置の挿入可能範囲
32 偏光面が90°切り替わるフィルターを用いた後段装置
33 偏光面が90°切り替わるフィルターを用いた後段装置の挿入可能範囲
34 立体視用映像装置(カメラ,モニター,立体視めがね)
37,39 立体視用映像装置の挿入可能範囲
40 左側偏光板
41 右側偏光板
42a,42b,42c 左右偏光板間の距離もしくは重ねしろ
43 左側シャッター
44 右側シャッター
45a,45b,45c 左右シャッター間の距離もしくは重ねしろ
46 左側光源
47 右側光源
48 左右光源間の距離
49 弱い立体感を得るための時分割点灯パターン
50 中程度の立体感を得るための時分割点灯パターン
51 強い立体感を得るための時分割点灯パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過照明光を用いる光学顕微鏡において、互いに異なる偏光特性もしくは時分割特性を付与した複数の偏斜照明光を観察試料に混合入射させる手段と、対物レンズと眼との間に、前記複数の偏斜照明光による像を前記偏光特性もしくは時分割特性の違いを利用して左眼用と右眼用の像に再分離する手段を有することにより、観察試料を両眼視差の原理によって立体視させることを特徴とする光学顕微鏡の立体視装置。
【請求項2】
透過照明光を用いる双眼顕微鏡において、前記異なる偏光特性を付与した偏斜照明光を混合入射させる手段として、透過照明光源と観察試料の間に、左右隣接し互いに偏光面方位の直交する偏光板を挿入し、かつ前記左眼用と右眼用の像に再分離する手段として、両眼へのビーム分割点と眼との間に、左眼右眼用の互いに偏光面方位の直交する偏光板を設けて立体視する請求項1記載の立体視装置。
【請求項3】
透過照明光を用いる双眼顕微鏡において、前記異なる時分割特性を付与した偏斜照明光を混合入射させる手段として、透過照明光源と観察試料の間に、左右隣接し交互にオン/オフするシャッターを挿入し、かつ前記左眼用と右眼用の像に再分離する手段として、両眼へのビーム分割点と眼との間に、上記左右シャッターと同期して交互にオン/オフする左眼右眼用のシャッターを設けて立体視する請求項1記載の立体視装置。
【請求項4】
透過照明光を用いる双眼顕微鏡において、前記異なる時分割特性を付与した偏斜照明光を混合入射させる手段として、左右隣接し交互にオン/オフする透過照明光源を用い、かつ前記左眼用と右眼用の像に再分離する手段として、両眼へのビーム分割点と眼との間に、上記光源と同期して交互にオン/オフする左眼右眼用のシャッターを用いて立体視する請求項1記載の立体視装置。
【請求項5】
透過照明光を用いる単眼顕微鏡において、前記異なる偏光特性を付与した偏斜照明光を混合入射させる手段として、透過照明光源と観察試料の間に、左右隣接し互いに偏光面方位の直交する偏光板を挿入し、かつ前記左眼用と右眼用の像に再分離する手段として、対物レンズ以降に時間的交互に偏光面が0°と90°の2つの方位に切り替わる装置を設けて、左眼右眼用の時分割像を既存の立体視用映像装置に出力することで立体視する請求項1記載の立体視装置。
【請求項6】
透過照明光を用いる単眼顕微鏡において、前記異なる時分割特性を付与した偏斜照明光を混合入射させる手段として、透過照明光源と観察試料の間に、左右隣接し交互にオン/オフするシャッターを挿入し、かつ前記左眼用と右眼用の像に再分離する手段として、対物レンズ以降で、上記シャッターにより生じた左眼右眼用の時分割像を既存の立体視用映像装置に入力することで立体視する請求項1記載の立体視装置。
【請求項7】
透過照明光を用いる単眼顕微鏡において、前記異なる時分割特性を付与した偏斜照明光を混合入射させる手段として、左右隣接し交互にオン/オフする透過照明光源を用い、かつ前記左眼用と右眼用の像に再分離する手段として、対物レンズ以降で、前記光源により生じた左眼右眼用の時分割像を既存の立体視用映像装置に入力することで立体視する請求項1記載の立体視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−58706(P2012−58706A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222736(P2010−222736)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(510261256)
【Fターム(参考)】