説明

光導波路及び光モジュール、並びにそれらの製造方法

【課題】量産性の高い、分岐を有する光導波路、それを用いた光モジュール。
【解決手段】筐体50に、交差合体させた2つの光ファイバ102、103とそれを保持するコネクタ150から成る治具100、光ファイバ201とそれを保持するコネクタ250から成る治具200、光ファイバ301とそれを保持するコネクタ350から成る治具300を取り付ける(図)。液状の光硬化性樹脂420が筐体50に充填され、光ファイバ102及び201から硬化光を導入すると、幹部のコア412が形成される。液状の光硬化性樹脂430が筐体50に充填され、光ファイバ103及び301から硬化光を導入すると、枝部のコア413が形成される。クラッド45が形成され、光ファイバ10、受光素子20、発光素子30を取り付けると、光モジュール1000が製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分岐コアを有する光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、自己形成光導波路を多数開発し、出願し、特許を得ている(特許文献1乃至4他)。ここで自己形成光導波路とは、液状の光硬化性樹脂に例えば光ファイバから当該樹脂を硬化させうる波長の光を照射することで、当該樹脂が自己集光的に硬化することを利用した、軸状のコアを用いた光導波路である。
光ファイバ通信や光ファイバセンサなどで、コアが例えばY字型を形成する、分岐を有する光導波路を、複数の光を光ファイバへ結合させ或いは逆に分岐させる光カプラとして用い得ることはよく知られている。また、この分岐を有する光導波路と受発光素子と組み合わせて用いる素子(光モジュール)も知られている。これらの従来例の公報として、特許文献5乃至11及び非特許文献1を挙げる。
【特許文献1】特許第3444352号
【特許文献2】特許第3841656号
【特許文献3】特開2004−149579号公報
【特許文献4】特開2007−72129号公報
【特許文献5】特開昭62−291604号公報
【特許文献6】特開平8−334644号公報
【特許文献7】特開平9−318829号公報
【特許文献8】特開平9−101428号公報
【特許文献9】特開2000−304954号公報
【特許文献10】特開205−84347号公報
【特許文献11】特開平11−183743号公報
【非特許文献1】S. Shoji and S. Kawata, "Optically-induced growth of fiber patterns into a photopolymerizable resin," Applied Physics Letters, vol. 75, no. 5, pp. 737-739, 1999
【0003】
特許文献5には光分岐結合器が開示されている。マルチモード導波路のクラッドの側面にシングルモード導波路が接続された分岐を有する光導波路が開示されている。クラッドの作用により、マルチモード導波路の伝搬光がシングルモード光導波路へ結合しないようにされている。
特許文献6にはプラスチック光分岐・結合器及びその製造方法が開示されている。金型による成型技術を用いたプラスチック製の分岐を有する光導波路が開示されている。
特許文献7には光分岐器及びその製造方法が開示されている。フォトリソグラフィー及びエッチング技術によるプラスチック製の分岐を有する光導波路が開示されている。
特許文献8には光分岐結合器が開示されている。異なる開口数を相互に融着してなる光分岐結合器が開示されている。
特許文献9には、分岐を有する光導波路の分岐比調整方法と製造方法が開示されている。分岐を有する光導波路を作製した後に、分岐部に光を照射して屈折率を調整することにより、分岐比を調整する手段が開示されている。
特許文献10には分岐を有する光導波路が開示されている。分岐を有する光導波路の結合部分の一部形状をテーパー構造とすることで低損失の分岐導波路を提供する方法が開示されている。
特許文献11には光分岐結合器及びそれを用いた光伝送装置が開示されている。受信用光導波路をダウンテーパー形状とすることにより受光素子との光結合効率を向上させた、分岐を有する光導波路とその製造方法が開示されている。
【0004】
自己形成光導波路による、分岐導波路の作製技術としは、例えば次の2件を挙げる。
特許文献4は、本願発明者らによるものであり、シングルモードファイバの伝送モードの制御により、分岐を有する光導波路を作製する方法が開示されている。
非特許文献1には、交差する光ビーム照射によって、分岐を有する光導波路が作製できことが報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分岐を有する光導波路に光受発光素子を組み合わせて用いた光モジュールは、上記のような様々な技術が提案されている。分岐を有する光導波路の作製方法としては、樹脂成型、反応性イオンエッチング、ウェエットエッチング、ファイバ融着などが考えられているが、光送受信装置の低価格化を推し進めるためには、量産性をさらに向上する必要がる。
また、光クロストークを向上させるため、分岐を有する光導波路に屈折率構造として、例えば径の細い枝側のコアの屈折率を径の太い幹側のコアの屈折率より小さくしたい場合に上述の従来方法で量産性よく作製するのは難しい。
また、自己形成光導波路技術を用いて分岐を有する光導波路を作製するには、交差する光ビーム照射で作製するときに多くの場合コアが交差してX字状になり、Y字形状にすることは難しい。また、導波路経路中に光フィルタを挿入してコア形成光を途中で分割することにより分岐を有する光導波路を作製する方法では、光フィルタが必要であり、コストの上昇をもたらす問題がある。
【0006】
本発明は、量産性に富み、光送受信における光クロストークを低減するための構造を備えた分岐を有する光導波路とその製造方法、及びこの分岐を有する光導波路を用いた双方向光通信モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、各々円状の領域である第1、第2及び第3の光入出力端とそれらを分岐コアで接続した光導波路であって、
分岐コアは、第1及び第2の光入出力端を繋ぐ円柱状の幹部のコアと、当該幹部のコアよりも径が細く、当該幹部のコアの屈折率よりも小さい屈折率を有し、第1及び第3の光入出力端を繋ぐ円柱状の枝部のコアとからなり、
幹部のコアと枝部のコアの分岐は、第1の光入出力端から開始しており、枝部のコアの側面を、第1の光入出力端方向に延長すると、第1の光入出力端の円状の領域内部に達することを特徴とする。
請求項2に係る発明は、分岐コアの幹部のコアと枝部のコアは、各々、光硬化性樹脂の硬化物から成ることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の光導波路の、第1の光入出力端に光ファイバを、第2の光入出力端に受光素子を、第3の光入出力端に発光素子を、接続したことを特徴とする光モジュールである。
【0008】
請求項4に係る発明は、各々円状の領域である第1、第2及び第3の光入出力端とそれらを分岐コアで接続した光導波路の製造方法であって、
光硬化性樹脂を用い、
第1の光入出力端に、第2の光入出力端方向と、第3の光入出力端方向に光硬化性樹脂を硬化しうる波長の光を照射可能な、2つの光導波路を合体させた治具を接続し、
第1の光入出力端から、第2の光入出力端方向と、第3の光入出力端方向とに硬化波長光を照射して、第1の光入出力端と第2の光入出力端とを接続する幹部のコアと、第1の光入出力端と第3の光入出力端とを接続し、幹部のコアよりも細い枝部のコアとを形成することを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明は、第1の光入出力端から、第2の光入出力端方向に硬化波長光を照射して、第1の光入出力端と第2の光入出力端とを接続する幹部のコアを形成したのちに、第1の光入出力端から、第3の光入出力端方向に硬化波長光を照射して、第1の光入出力端と第3の光入出力端とを接続する枝部のコアを形成することを特徴とする。
請求項6に係る発明は、第1の光入出力端から、第2の光入出力端方向に硬化波長光を照射して、第1の光入出力端と第2の光入出力端とを接続する幹部のコアを形成する際の幹部用光硬化性樹脂と、第1の光入出力端から、第3の光入出力端方向に硬化波長光を照射して、第1の光入出力端と第3の光入出力端とを接続する枝部のコアを形成する際の枝部用光硬化性樹脂が異なることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、幹部用光硬化性樹脂の硬化物の屈折率よりも、枝部用光硬化性樹脂の硬化物の屈折率が小さいことを特徴とする。
請求項8に係る発明は、枝部用光硬化性樹脂は、第1の光硬化性樹脂と、第1の光硬化性樹脂よりも屈折率が小さく、硬化可能な最大波長が小さく、且つ第1の光硬化性樹脂とは硬化機構の異なる第2の光硬化性樹脂との混合物であり、
第1の光入出力端から、第3の光入出力端方向に、第1の光硬化性樹脂を硬化させうるが第2の光硬化性樹脂を硬化させない波長の光を照射して、主として第1の光硬化性樹脂の硬化物から成る、第1の光入出力端と第3の光入出力端とを接続する枝部のコアを形成した後、
残余の枝部用光硬化性樹脂を全て硬化させることで、幹部のコアと枝部のコアのクラッドを形成することを特徴とする。
【0010】
請求項9に係る発明は、請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載の光導波路の製造方法において、幹部のコアを形成する際には、第1の光入出力端から導入する硬化波長光を第2の光入出力端からも導入し、枝部のコアを形成する際には、第1の光入出力端から導入する硬化波長光を第3の光入出力端からも導入することを特徴とする。
【0011】
請求項10に係る発明は、請求項4乃至請求項9のいずれか1項に記載の光導波路の製造方法により光導波路を得たのち、第1の光入出力端に光ファイバを、第2の光入出力端に受光素子を、第3の光入出力端に発光素子を、接続することを特徴とする光モジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、各々円状の領域である第1、第2及び第3の光入出力端が分岐コアで接続されており、第1及び第2の光入出力端を繋ぐ円柱状の幹部のコアよりも、第1及び第3の光入出力端を繋ぐ円柱状の枝部のコアの方が、屈折率が低く径が細い。よって、幹部のコアを光ファイバ等の外部の光導波路からの光を受光素子に導くコアとして、枝部のコアを発光素子からの光を光ファイバ等の外部の光導波路に導くコアとして、用いることが好適である。即ち、枝部のコアへは屈折率差により外部からの光は侵入しにくく、また、径が細いので、トータルのロスが小さくできる。一方、幹部のコアと枝部のコアの分岐は、第1の光入出力端から開始しており、枝部のコアの側面を、第1の光入出力端方向に延長すると、第1の光入出力端の円状の領域内部に達するので、発光素子からの光を全て光ファイバ等の外部の光導波路に確実に導くことが可能である。この際、光学フィルタによる透過/反射を経ないので、伝送ロスを抑制できる(請求項1、3)。
分岐コアの幹部のコアと枝部のコアは、各々、光硬化性樹脂を硬化させることで容易に形成できる(請求項2及び4乃至10)。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、液状の光硬化性樹脂を用い、2つの光導波路を合体させた治具を第1の光入出力端に接続することで、第2の光入出力端方向と、第3の光入出力端方向に光硬化性樹脂を硬化しうる波長の光を照射可能となる。これにより容易に分岐を有する光導波路を作製可能となる。なお、液状の光硬化性樹脂を保持するためには、例えば透明筐体を用いることに限定されない。下記実施例で説明する通り、例えば硬化光を照射するための光ファイバ等をコネクタ等で接続することで、初めて、液状物を保持可能な領域が形成されるような、光ファイバ接続部に孔を有する筐体でも良い。この場合、当該筐体は光ファイバや受発光素子を取り付ける部分に孔を有していれば、不透明な樹脂やセラミックスで形成できる。
【0014】
従来の自己形成光導波路の形成のような、例えば光軸が交差するように向かい合わせに設置した2本の光ファイバから光を照射することで、分岐を有する光導波路を形成しようとする場合、例えばT字の分岐が欲しい場合でも、X字状に形成されてしまう場合がある。一方本発明によれば、分岐点は第1の光入出力端であり、言わばV字状に光導波路のコア(分岐コア)を形成できるので、所望の角度の分岐コアを確実に形成できる。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、一旦幹部のコアを形成してから枝部のコアを形成するので、例えば枝部のコアの形成前に、幹部のコアの修正や洗浄をすることができる。また、2つのコア形成を同時に行わないので、各々、最適な条件や成長速度で形成することができる。
請求項6に係る発明によれば、幹部のコアと枝部のコアの屈折率を異なるものとすることができる。例えば請求項7に係る発明のように、幹部のコアの屈折率よりも小さい屈折率を有する枝部のコアを形成できる。
請求項8に係る発明によれば、径の細い枝部のコアを形成したのちに、未硬化の液状の光硬化性樹脂を除去してクラッド材を入れることなく、低屈折率のクラッド部を形成できる。これにより、樹脂の入れ換えの際のコアの破損を回避できる。請求項8に係る発明は、特許文献1及び2に記載された技術である。
請求項9に係る発明によれば、コア形成を双方向から行うので、幹部のコア、枝部のコア共に形成時間を短縮できる。また、3つの光入出力端からコアを形成し始めるので、少なくとも3つの光入出力端近傍のコアは、設計通りの位置、径を形成できる。なお、光軸が若干ずれていても、いわゆる光ハンダ効果により、円柱状のコアの合体部は滑らかな側面の柱状物として形成される。
請求項3に係る光モジュールは、例えば請求項10に係る製造方法により形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の光入出力端に用いる、第2の光入出力端方向と、第3の光入出力端方向に光硬化性樹脂を硬化しうる波長の光を照射可能な、2つの光導波路を合体させた治具は、添付図面を参考に、容易に作製できるものである。なお、必要に応じ、硬化/未硬化の光硬化性樹脂の屈折率と当該治具のコアの屈折率との関係を、照射方向の設計時に考慮すると良い。
【0017】
発光素子としては、VCSEL(面発光レーザ)などの光指向性の高い(光放射角度が狭い)光源が好ましい。これにより、径の細い、枝部のコアに光を導入することが可能である。これは、硬化光を照射する際も同様である。
【0018】
本発明の実施に当たり、液状の光硬化性樹脂を保持するための筐体の材料は、如何なる材料を用いても良い。好適には、エンジニアリングプラスチックを用いることができる。
本発明に係る自己形成光導波路の作製方法は、特許文献1乃至4に記載の任意の技術を用いて良く、公知の如何なる技術をも排除するものではない。また、光硬化性樹脂としては特許文献3に記載の任意の材料を用いて良く、公知の如何なる材料をも排除するものではない。特許文献3に記載された光硬化性樹脂は次のものである。
【0019】
構造単位中にフェニル基等の芳香族環を一つ以上含んだものが高屈折率、脂肪族系のみからなる場合は低屈折率となる。屈折率を下げるために構造単位中の水素の一部をフッ素に置換したものであっても良い。
脂肪族系としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールが挙げられる。
芳香族系としてはビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ビスフェノールF、ノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、p-アルキルフェノールノボラック等の各種フェノール化合物等が挙げられる。
これら、あるいはこれらから任意に1種乃至複数種選択された多価アルコールのオリゴマー(ポリエーテル)の構造を有する比較的低分子(分子量3000程度以下)骨格に、反応基として次の官能基等を導入したものを使用できる。
〔ラジカル重合性材料〕
ラジカル重合性材料としては、ラジカル重合可能なアクリロイル基等のエチレン性不飽和反応性基を構造単位中に1個以上、好ましくは2個以上有する光重合性モノマー及び/又はオリゴマーを使用できる。エチレン性不飽和反応性基を有するものの例としては、(メタ)アクリル酸エステル、イタコン酸エステル、マレイン酸エステル等の共役酸エステルを挙げることができる。
〔カチオン重合性材料〕
カチオン重合性材料としては、カチオン重合可能なオキシラン環(エポキシド)、オキセタン環等の反応性エーテル構造を構造単位中に1個以上、好ましくは2個以上有する、光重合性のモノマー及び/又はオリゴマーを使用できる。オキシラン環(エポキシド)としては、オキシラニル基の他、3,4-エポキシシクロヘキシル基なども含まれる。またオキセタン環とは、4員環構造のエーテルである。
【0020】
〔ラジカル重合開始剤〕
ラジカル重合開始剤は、光によって活性化し、ラジカル重合性モノマー及び/又はオリゴマーから成るラジカル重合性材料の重合反応を開始させる化合物である。具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン類、アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン及びN,N-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類、2-メチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン及び2-アミルアントラキノン等のアントラキノン類、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン及び2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール類、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、4,4'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4-ベンゾイル-4'-メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類、並びに2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。尚、ラジカル重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を併用しても良く、また、これらに限定されることはない。
〔カチオン重合開始剤〕
カチオン重合開始剤は光によって活性化し、カチオン重合性モノマー及び/又はオリゴマーから成るカチオン重合性材料の重合反応を開始させる化合物である。具体例としては、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレニウム塩、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、ホスホニウム塩、チオピリニウム塩が挙げられるが、熱的に比較的安定であるジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、フェニル(p-アニシル)ヨードニウム、ビス(p-t-ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウムなどの芳香族ヨードニウム塩、ジフェニルスルホニウム、ジトリルスルホニウム、フェニル(p-アニシル)スルホニウム、ビス(p-t-ブチルフェニル)スルホニウム、ビス(p-クロロフェニル)スルホニウムなどの芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩光重合開始剤が好ましい。芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩光重合開始剤を使用する場合、アニオンとしてはBF4-、AsF6-、SbF6-、PF6-、B(C6F5)4-などが挙げられる。尚、カチオン重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を併用しても良く、また、これらに限定されることはない。
【0021】
光硬化の際に用いる治具表面には剥離剤又は離型剤を塗布すると良い。光硬化性樹脂とコネクタ及び光ファイバとの関係を考慮して適切なものを選択すると良い。例えばフッ素系樹脂(ペルフルオロアルキル基を有するもの等)から成るコーティング剤、特にテフロン(登録商標)系のような全フッ素化ポリマーを塗布すると良い。これにより、受発光素子と相対する、コア及びクラッドの端面の荒れによる散乱が少なくなる。
【実施例1】
【0022】
図1.Aは、本発明の具体的な一実施例に係る光モジュール1000の構成を示す断面図である。光モジュール1000は、筐体50内部に、幹部のコア412と枝部のコア413から成るV字状の分岐コアとクラッド45を有し、光ファイバ10をコネクタ15を用いて接続し、受光素子20、発光素子30を取り付けたものである。光ファイバ10の光軸(中心軸)と幹部のコア412の光軸(中心軸)は実質的に一致し、その延長上に受光素子20の受光中心が位置する。枝部のコア413の光軸(中心軸)の、一方の延長上に発光素子30の発光中心が位置し、他方の延長上に光ファイバ10のコアが位置する。
【0023】
図1.Aに示す通り、発光素子30から発せられた光は枝部のコア413を介して光ファイバ10に導かれ(実線矢印)、外部装置へ送り出される。一方、外部装置からの光は、光ファイバ10から幹部のコア412を介して受光素子20に導かれる(破線矢印)。
【0024】
図1.Bは、図1.Aの光モジュール1000の製造方法の一例を示す断面図である。図1.Bは、交差合体させた2つの光ファイバ102、103とそれを保持するコネクタ150とから成る治具100を用い、受光素子20と発光素子30を予め取り付けた形で幹部のコア412、枝部のコア413、クラッド45を形成する場合を示している。光ファイバ102の光軸(中心軸)と幹部のコア412の光軸(中心軸)は実質的に一致する。枝部のコア413、幹部のコア412、光ファイバ102のコア、光ファイバ103のコアの屈折率が全て一致していれば、枝部のコア413の光軸(中心軸)は、光ファイバ103の光軸(中心軸)と一致する。それら4つの屈折率の一部が異なる場合は、2つの光軸はそれに応じた角度を成す。
【0025】
図1.Cは、図1.A光モジュール1000から、光ファイバ10とコネクタ15、受光素子20及び発光素子30を取り除いた、分岐を有する光導波路1100の構成を示す断面図である。幹部のコア412の両端は、光ファイバ10を接続すべき第1の光入出力端10cと、受光素子20を接続すべき第2の光入出力端20cである。枝部のコア413は、一端が幹部のコア412に、他端が発光素子30を接続すべき第3の光入出力端30cである。図1.Cの分岐を有する光導波路1100は、図1.Bのように受光素子20及び発光素子30を取り付けた上で光硬化性樹脂から分岐コアを形成するほか、図2の工程図で示す通り、受光素子20及び発光素子30を取り付けないまま光硬化性樹脂から分岐コアを形成することもできる。
【0026】
図2.A乃至図2.Gは、光モジュール1000の他の製造方法を示す工程図である。
まず、筐体50に、交差合体させた2つの光ファイバ102、103とそれを保持するコネクタ150から成る治具100、光ファイバ201とそれを保持するコネクタ250から成る治具200、光ファイバ301とそれを保持するコネクタ350から成る治具300を取り付ける。治具100、200、300は、各々、図1.Aで示した光モジュール1000の、光ファイバ10及びコネクタ150、受光素子20、発光素子30を取り付けるべき位置に取り付けられる。治具100、200、300により孔部が塞がれて、筐体50の内部50vは、液状物を保持可能な領域となる(図2.A)。
【0027】
図2.Bのように、幹部のコア412を形成するための、液状の光硬化性樹脂420が筐体50に充填される。
図2.Cのように、互いに光軸が一致する、光ファイバ102及び201から、液状の光硬化性樹脂420を硬化させうる波長の光を導入すると、軸状のコアが成長し、例えば中央部付近で合体して、幹部のコア412が形成される。
図2.Dのように、未硬化の光硬化性樹脂420を除去し、例えば洗浄の上、枝部のコア413とクラッド45を形成するための、液状の光硬化性樹脂430が筐体50に充填される。液状の光硬化性樹脂430は、第1の光硬化性樹脂と、第1の光硬化性樹脂よりも屈折率が小さく、硬化可能な最大波長が小さく、且つ第1の光硬化性樹脂とは硬化機構の異なる第2の光硬化性樹脂との混合物である。例えば第1の光硬化性樹脂としてアクリル系の未硬化樹脂を、第2の光硬化性樹脂としてエポキシ系の未硬化樹脂を用いる。硬化物の屈折率が、幹部のコア412の屈折率よりも低いものが第1の光硬化性樹脂として選択される。
【0028】
図2.Eのように、屈折率を考慮して互いに光軸が一致する、光ファイバ103及び301から、液状の光硬化性樹脂430のうちの、第1の光硬化性樹脂を硬化させうるが第2の光硬化性樹脂を硬化させない波長の光を導入すると、主として第1の光硬化性樹脂の硬化物から成る軸状のコアが成長し、例えば中央部付近で合体して、枝部のコア413が形成される。この際、光ファイバ103及び301からの硬化光は全て、幹部のコア412と光ファイバ102の接触する円領域を通過し、他の方向には漏れないものとする。
【0029】
図2.Fのように、未硬化の液状の光硬化性樹脂430全体を、例えば上面から紫外線を照射するなどして、第1の光硬化性樹脂と第2の光硬化性樹脂を共に硬化させると、枝部のコア413よりも低屈折率の混合硬化物から成るクラッド45が形成される。
【0030】
こののち、治具100、200、300を取り外し、光ファイバ10及びコネクタ150、受光素子20、発光素子30を取り付けることで、光モジュール1000が製造できる(図2.G)。
【0031】
なお、液状の光硬化性樹脂430として、硬化機構の異なる2つの光硬化性樹脂を用い無い場合は、図2.Eのように枝部のコア413を形成したのち、未硬化の光硬化性樹脂430を除去して、クラッド材を充填すれば良い。
また、図2.A乃至図2.Gでは、コアを自己形成する際に、双方向から光照射を行ったが、治具200及び300を用いないで、治具100のみを用いて形成しても良い。その際、受光素子20及び発光素子30を取り付けたまま、分岐コアとクラッドを硬化形成しても良く、それらを取り付けるべき位置に蓋を取り付けて分岐コアとクラッドを硬化形成しても良い。
【0032】
図3は上記図2.A乃至図2.Gで示した、幹部のコア412の屈折率よりも枝部のコア413の屈折率が小さい場合を示している。
図3.Aの1−1’と示した位置、即ち、クラッド45、幹部のコア412、枝部のコア413、クラッド45を横切る位置の屈折率変化は図3.Bのようである。幹部のコア412と枝部のコア413の接触部分において、枝部のコア413は幹部のコア412に対して弱いクラッドとして働く。図3.Bは屈折率がステップ状に変化する場合を示している。
或いは図3.Cのようになっている場合もある。即ち、図2.D乃至図2.Eの工程において、液状の光硬化性樹脂430の低屈折率成分である第2の光硬化性樹脂が、幹部のコア412の表面に浸透し、幹部のコア412表面の屈折率が低下することで、図3.Cのように屈折率の変化が滑らかになりうる。この際、幹部のコア412と枝部のコア413の接触部分412sが、枝部のコア413の屈折率よりも小さくなる場合もある。
【0033】
いずれにせよ、図1.Aの光モジュール1000は、例えば図2.A乃至図2.Gのような量産性の良い製造方法で生産できることは明らかである。治具100、200及び300は、適切な洗浄等を行いつつ繰り返し使用可能である。また、わずかなコアの曲がりが生じうるが、実施的に同一の特性を有する分岐を有する光導波路1100、及び光モジュール1000を連続して大量に生産できる。また、光クロストークが低減できる。
【0034】
図4は、図1.Aの光モジュール1000を組み入れた、光送受信機1500を2個用いた一芯双方向光通信システムの構成を示すブロック図である。
図4の光送受信機1500は、図1.Aの光モジュール1000の受光素子20に、電流電圧変換回路21と復調回路22を接続し、発光素子30に、発光素子駆動回路31と変調回路32を接続して構成される。復調回路22と変調回路32は更に端末装置に接続される。
一方、光送受信機1500の光モジュール1000に接続された光ファイバ10の他端には、光送受信機1500とほぼ同様の構成を有する光送受信機1500−2が接続される。なお、本発明によれば、光クロストークが低減されているので、発光素子30と受光素子20の使用光波長帯域を同一にしたり、一部重ねても良い。勿論、それらを異なる(重ならない)ものとして、光送受信機1500−2では対応する波長帯域の受発光素子を用いることとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1.A】本発明の具体的な一実施例に係る光モジュール1000の構成を示す断面図。
【図1.B】光モジュール1000の製造方法の一工程を示す断面図。
【図1.C】光モジュール1000から、光ファイバ10と受光素子20と発光素子30を除いた、光導波路1100の構成を示す断面図。
【図2.A】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図2.B】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図2.C】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図2.D】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図2.E】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図2.F】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図2.G】光モジュール1000の他の製造方法の工程図(断面図)。
【図3】光導波路1100の幹部コア412及び枝部413、並びにクラッド45の、屈折率の関係の例を示す説明図。
【図4】光モジュール1000を組み入れた、光送受信機1500を2個用いた一芯双方向光通信システムの構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0036】
1000:光モジュール
1100:光導波路
1500:光送受信機
10:通信用光ファイバ
10c:第1の光入出力端
15、150、250、350:コネクタ
100、200、300:治具
102、103、201、301:光ファイバ
20:受光素子
20c:第2の光入出力端
21:電流電圧変換回路
22:復調回路
30:発光素子
30c:第3の光入出力端
31:発光素子駆動回路
32:変調回路
412:幹部コア
413:枝部コア
420、430:液状の光硬化性樹脂
45:クラッド
50:筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々円状の領域である第1、第2及び第3の光入出力端とそれらを分岐コアで接続した光導波路であって、
前記分岐コアは、
第1及び第2の光入出力端を繋ぐ円柱状の幹部のコアと、
当該幹部のコアよりも径が細く、当該幹部のコアの屈折率よりも小さい屈折率を有し、第1及び第3の光入出力端を繋ぐ円柱状の枝部のコアとからなり、
前記幹部のコアと前記枝部のコアの分岐は、第1の光入出力端から開始しており、
前記枝部のコアの側面を、前記第1の光入出力端方向に延長すると、前記第1の光入出力端の円状の領域内部に達することを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記分岐コアの幹部のコアと枝部のコアは、各々、光硬化性樹脂の硬化物から成ることを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光導波路の、
前記第1の光入出力端に光ファイバを、
前記第2の光入出力端に受光素子を、
前記第3の光入出力端に発光素子を、
接続したことを特徴とする光モジュール。
【請求項4】
各々円状の領域である第1、第2及び第3の光入出力端とそれらを分岐コアで接続した光導波路の製造方法であって、
光硬化性樹脂を用い、
前記第1の光入出力端に、前記第2の光入出力端方向と、前記第3の光入出力端方向に前記光硬化性樹脂を硬化しうる波長の光を照射可能な、2つの光導波路を合体させた治具を接続し、
前記第1の光入出力端から、前記第2の光入出力端方向と、前記第3の光入出力端方向とに前記硬化波長光を照射して、前記第1の光入出力端と前記第2の光入出力端とを接続する幹部のコアと、前記第1の光入出力端と前記第3の光入出力端とを接続し、前記幹部のコアよりも細い枝部のコアとを形成することを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項5】
前記第1の光入出力端から、前記第2の光入出力端方向に前記硬化波長光を照射して、前記第1の光入出力端と前記第2の光入出力端とを接続する幹部のコアを形成したのちに、前記第1の光入出力端から、前記第3の光入出力端方向に前記硬化波長光を照射して、前記第1の光入出力端と前記第3の光入出力端とを接続する枝部のコアを形成することを特徴とする請求項4に記載の光導波路の製造方法。
【請求項6】
前記第1の光入出力端から、前記第2の光入出力端方向に前記硬化波長光を照射して、前記第1の光入出力端と前記第2の光入出力端とを接続する幹部のコアを形成する際の幹部用光硬化性樹脂と、
前記第1の光入出力端から、前記第3の光入出力端方向に前記硬化波長光を照射して、前記第1の光入出力端と前記第3の光入出力端とを接続する枝部のコアを形成する際の枝部用光硬化性樹脂が異なることを特徴とする請求項5に記載の光導波路の製造方法。
【請求項7】
前記幹部用光硬化性樹脂の硬化物の屈折率よりも、
前記枝部用光硬化性樹脂の硬化物の屈折率が小さいことを特徴とする請求項6に記載の光導波路の製造方法。
【請求項8】
前記枝部用光硬化性樹脂は、第1の光硬化性樹脂と、第1の光硬化性樹脂よりも屈折率が小さく、硬化可能な最大波長が小さく、且つ第1の光硬化性樹脂とは硬化機構の異なる第2の光硬化性樹脂との混合物であり、
前記第1の光入出力端から、前記第3の光入出力端方向に、前記第1の光硬化性樹脂を硬化させうるが前記第2の光硬化性樹脂を硬化させない波長の光を照射して、主として前記第1の光硬化性樹脂の硬化物から成る、前記第1の光入出力端と前記第3の光入出力端とを接続する枝部のコアを形成した後、
残余の前記枝部用光硬化性樹脂を全て硬化させることで、前記幹部のコアと前記枝部のコアのクラッドを形成することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の光導波路の製造方法。
【請求項9】
前記幹部のコアを形成する際には、前記第1の光入出力端から導入する硬化波長光を前記第2の光入出力端からも導入し、
前記枝部のコアを形成する際には、前記第1の光入出力端から導入する硬化波長光を前記第3の光入出力端からも導入することを特徴とする請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載の光導波路の製造方法。
【請求項10】
請求項4乃至請求項9のいずれか1項に記載の光導波路の製造方法により光導波路を得たのち、
前記第1の光入出力端に光ファイバを、
前記第2の光入出力端に受光素子を、
前記第3の光入出力端に発光素子を、
接続することを特徴とする光モジュールの製造方法。

【図1.A】
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【図1.B】
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【図1.C】
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【図2.A】
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【図2.B】
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【図2.C】
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【図2.D】
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【図2.E】
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【図2.F】
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【図2.G】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−32584(P2010−32584A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191734(P2008−191734)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】