説明

光導波路素子

【課題】ワイヤボンディングによる光導波路の損傷が回避される光導波路素子を提供する。
【解決手段】有機非線形光学材料を含む光導波路と、光導波路の一方の面側に配される第1電極と、光導波路の他方の面側に配される第2電極と、第2電極上に積層された保護部材であって、該第2電極に近い側の第1面に設けられ且つ該第2電極に接続された第3電極、該第2電極に遠い側の第2面に設けられた第4電極、及び該第1面と該第2面とを貫通すると共に前記第3電極と前記第4電極とを電気的に導通する導通部を有する保護部材と、を備えたことを特徴とする光導波路素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の進展は著しく、特に最近では動画をはじめとする大容量の情報が企業間だけでなく個人の間でも頻繁にやり取りされるようになり、更なる大容量の高速通信手段が求められている。
大容量高速通信を支える技術の一つに、光通信技術がある。光通信に用いられる素子としては、光ファイバーをはじめとして、光スイッチ素子、光変調器やルーターなどの様々な光導波路素子がある。
【0003】
近年、電気光学(Electro−optic、以下「EO」と略す)効果で導波光を制御する導波路型光素子の開発が盛んに行われるようになってきた。光導波路素子では、様々なタイプの導波路構造が検討されており、それと同様に様々な導波路形成の方法が報告されている。
【0004】
従来、上記光導波路素子の光導波路の材料としては、大きなEO効果を示すニオブ酸リチウム(LiNbO)、ランタン添加のチタン酸ジルコン酸鉛((Pb,La)(Zr,Ti)O、「PLZT」と略す)などの無機系材料が広く用いられている。しかしながら、これらの材料は、高誘電率のため応答速度が遅く、そのため適用できる周波数帯域が限定されていた。また、作製方法が複雑であり、かつ高温の処理が必要であるなど、素子のコストが高く、適用できる範囲が限られていた。
【0005】
一方、ポリマーは無機系材料に比べ誘電率が低く、マイクロ波との速度不整合の問題を大幅に改善できることに加えて、スピンコート法などにより容易に薄膜形成が可能であり、サイズの制限も受けない。また、微細加工、成型加工等の加工性にも優れることから、極めて安価に素子化ができるという大きな利点を有するため、光導波路材料として注目を集めている。
【0006】
このような高分子光導波路素子は、下部クラッド層、導波路層、上部クラッド層となる高分子材料あるいは高分子前駆体化合物を、シリコン等からなる基板上に溶融または溶解させた状態で順次塗布、硬化させた後に、切断や研磨によって導波路端面を鏡面化することで作製される。また、導波路の形成は、フォトリソグラフィやエッチング等、周知の技術を組み合わせて行われる。特に、電気光学効果を始めとする非線形光学効果を利用するデバイスを作製する場合には、基板上や上部クラッド層の上に電極を配する。クラッド材料としては光あるいは熱硬化性の接着剤が、導波路層材料としては高分子化合物を有機溶剤に溶かした溶液が一般に用いられている。
【0007】
EO効果を用いて光を制御する上記光導波路素子においては、光源からの入力光を、電気信号によって、変調あるいはスイッチを行い、これを外部に取り出して用いることが必要になる。このため、ウェハ状の基板に作製された、素子状に切断された後、光入出力用のファイバーが導波路の入出力端に固定され光学的に接続されるとともに、素子をモジュール筐体に固定し、電気信号の印加用に制御電極に配線されたボンディングパッドに、ワイヤボンディングやフリップチップ実装などの方法により、電気的に接続される必要がある。
【0008】
従来、光導波路素子に形成される制御電極は、加工性の容易さから、素子の上部に形成された電極層に対してフォトマスクを用いてパターンニングを行った後、リフトオフあるいはエッチングにより形成されてきた。このため、電気接続用のボンディングパッドも導波路薄膜の上部に形成されることから、ワイヤボンディングを行う際の熱及び高周波により、有機材料により形成された導波路薄膜がダメージを受け、基板まで突き抜けてしまうという問題があった。
【0009】
ワイヤボンディングを用いて、光導波路素子を電気的に接続する手段としては、基板の加熱による損傷を少なくすることを目的として、パッドに高周波電流を流してパッドをその表層から加熱して、この熱と圧着力によりワイヤをパッドに固着する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
また、ワイヤボンディングによる以外の電気接続の方法として、フリップチップ方式による方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
また、上記以外では、接続用のコネクタを用いて電気的に接続する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平5−90355号公報
【特許文献2】特開平6−120225号公報
【特許文献3】特開平10−260382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような従来方法を用いることによっても、有機材料による光導波路素子の電気接続による問題の解決には至っていない。すなわち、ワイヤボンディングによる基板への損傷を低減するワイヤボンディング装置においても、LiNbOをはじめとする無機光学結晶などの比較的硬くて脆い材料においては、素子の破壊を防ぐ手段として有効であっても、ポリマー材料のように柔らかく、熱に弱い材料においては、その効果はほとんど見られないのが実情である。また、フリップチップによる方法においては、半田バンプを高温で溶融する必要があることから、有機材料では耐熱性の問題があり用いることができない。さらに、接続コネクタを用いる方法では、高密度の配線は不可能であるばかりでなく、コネクタを実装するために素子の形状の加工が必要であり、コストアップにつながるという問題がある。また、コネクタによる接続は接触による接続インピーダンスの増加につながることから、高速の光制御を行う素子に対しては、適用が難しいと言う問題もある。
【0012】
以上のように、光導波路素子においては、さまざまな利点を有することにより、将来的な応用の可能性を期待されているにもかかわらず、その実装上の問題が解決されないことにより、実用に供されることが難しかった。
【0013】
本発明は、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、
本発明の目的は、ワイヤボンディングによる光導波路の損傷が回避される光導波路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、有機非線形光学材料を含む光導波路と、前記光導波路の一方の面側に配された第1電極と、前記光導波路の他方の面側に配された第2電極と、前記第2電極上に積層された保護部材であって、該第2電極に近い側の第1面に設けられ且つ該第2電極に接続された第3電極、該第2電極に遠い側の第2面に設けられた第4電極、及び該第1面と該第2面とを貫通すると共に前記第3電極と前記第4電極とを電気的に導通する導通部を有する保護部材と、を備えたことを特徴とする光導波路素子である。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記光導波路は、マッハツェンダー型であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子であるであるである。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記光導波路は、多モード干渉型であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子である。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記光導波路は、前記第1電極側又は前記第2電極側に向かって凸状に突出した構造であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子である。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記光導波路は、前記第1電極側及び前記第2電極側の双方側に向かって凸状に突出した構造であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、光導波路の損傷が回避される、という効果を奏する。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、マッハツェンダー型の光導波路においても、より光導波路の損傷が回避されるという効果を奏する。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、多モード干渉型の光導波路においても、より光導波路の損傷が回避される、という効果を奏する。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、光導波路における電極による光吸収損失が抑制される、という効果を奏する。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、より効果的に、光導波路における電極による光吸収損失が抑制される、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施の形態にかかる光導波路素子100は、基板10上に、下部電極12(第1電極)、下部クラッド層14(第1クラッド層)、光導波路層16(光導波路17)、上部クラッド層18(第2クラッド層)、上部電極20(第2電極)、及び保護部材22が順に積層されて構成されている。なお、本実施の形態では、光導波路素子100の後述する光導波路が、マッハツェンダー干渉型である場合を説明するが、このような形態に限られない。
【0026】
基板10について説明する。基板10としては、各種金属基板(アルミニウム、金、鉄、ニッケル、クロム、ステンレスなど)、各種半導体基板(シリコン、酸化シリコン、酸化チタン、酸化亜鉛、ガリウム−ヒ素など)、ガラス基板、プラスチック基板(PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリアミドなど)、等が用いられる。基板10は厚く剛直でもよいし、薄く柔軟であってもよい。
【0027】
次に、下部電極12について説明する。下部電極12は、例えば、基板10の表面全面に形成されている。下部電極12を構成する材料としては、例えば、Au、Ti、TiN、Pt、Ir、Cu、Al、Al−Cu、Al−Si−Cu、W、Moなどの各種金属、各種酸化物(NESA(酸化スズ)、酸化インジウム、ITO(酸化スズ−酸化インジウム複合酸化物)や、各種有機導電体(ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセチレン)などが用いられる。
【0028】
下部電極12は、公知の方法、例えば、DCマグネトロン・スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、電解メッキ法、フラッシュ蒸着法、イオン・プレーティング法、RFマグネトロン・スパッタリング法、イオン・ビーム・スパッタリング法、レーザー・アブレーション法、MBE法、CVD法、プラズマCVD、MOCVD法などより選ばれる気相成長法、又はゾルゲル法、MOD法などのウエット・プロセスによって、薄膜成長により形成される。
【0029】
なお、上記基板10を、金属基板として構成した場合には下部電極12が金属基板に相当することになる。このような導電性の基板、及び下部電極12は、後述する有機非線形光学材料からなる光導波路層16(光導波路17)に、上部電極20との間で電界を形成する場合の電極として使用される。また、上部クラッド層18上に形成される上部電極20も、この下部電極12と同様の材料により構成されることがよい。
【0030】
次に、下部クラッド層14について説明する。下部クラッド層14は、例えば、下部電極12の表面全面に形成される。下部クラッド層14としては、下部クラッド層14上に積層される光導波路層16よりも屈折率の低い材料が用いられる。
【0031】
下部クラッド層14に用いられる材料としては、光導波路層16の形成時にインターミキシングを起こさない材料が好ましく、一般的に知られている熱硬化型の架橋樹脂、紫外線硬化型の架橋樹脂、無機材料、導電性高分子、フッ素化ポリマーなどが用いられる。
前記熱硬化型の架橋樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリウレタン、ポリベンゾシクロロブテン、ポリアミドなどが挙げられ、前記紫外線硬化型の架橋樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0032】
下部クラッド層14を形成する方法としては、下部クラッド層14を形成する材料として高分子材料を用いる場合には、スピンコート法、ディップ法などの一般的な溶液塗布方法が用いられる。また、下部クラッド層14を形成する材料として無機材料を用いる場合には、電子ビーム蒸着法、フラッシュ蒸着法、イオン・プレーティング法、RF(高周波)−マグネトロン・スパッタリング法、DC(直流)−マグネトロン・スパッタリング法、イオン・ビーム・スパッタリング法、レーザー・アブレーション法、MBE(分子線エピタキシャル法)、CVD(気相成長法)、プラズマCVD、MOCVD(有機気相成長法)などより選ばれる気相成長法、又はゾルゲル法、MOD法などのウエット・プロセスによって作製が可能であるが、これらに限られるわけではない。
【0033】
なお、下部クラッド層14の膜厚は、光導波路素子100として構成したときに光導波路17へ入射させる光の波長等、光導波路設計指針に依存するが、1μm以上20μm以下程度の範囲が好ましく、1.5μm以上10.0μm以下の程度の範囲とすることがより好しい。
【0034】
下部クラッド層14の膜厚が、上記20μmを超える厚みである場合には、光導波路17にかかる実効電圧が低くなるため、充分な電気光学(Electro−optic、以下「EO」と略す)効果が得られず、また、1μm未満と薄い場合には、下部電極12による光吸収が増加するため、光損失が大きくなるという問題が生じる場合がある。
【0035】
次に、光導波路層16について説明する。光導波路層16は、下部クラッド層14の表面上に形成される。光導波路層16としては、光導波路が形成可能であり下部クラッド層14及び上部クラッド層18よりも屈折率の高い材料が用いられ、本実施の形態では、光導波路層16を構成する材料としては、非線形効果を付与したポリマー(有機非線形材料)が用いられる。この有機非線形材料は有機電気光学材料として機能し、これを用いることで光導波路層16に用いることで電気光学効果が付与される。
【0036】
有機非線形材料とは、高分子マトリックス中に非線形光学特性を有する有機化合物を添加した有機非線形光学ポリマーや、高分子の主鎖あるいは側鎖に、非線形光学特性を有する構造(以下、「クロモフォア構造」という場合がある)を導入した主鎖型有機非線形光学ポリマーあるいは側鎖型有機非線形光学ポリマーなどをいう。
【0037】
光導波路層16を構成する材料としては、光導波路17が形成可能なものであり、下部クラッド層14よりも屈折率の高い材料である上記有機非線形材料を用いることが好ましく、前記のように、高分子の側鎖又は主鎖に、ポリマーに非線形性を付与する目的でクロモフォア構造を導入したものが用いられる。
【0038】
上記高分子材料としては、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリシラン、ポリベンゾシクロブテンなどが用いられる。
【0039】
前記クロモフォア構造は、公知のものであれば特に限定されないが、下記の構造式(1)で表されるものが好ましい。
D−P−A ・・・ 構造式(1)
構造式(1)中、Dは、電子供与性を有する原子団、Pは結合部、Aは電子吸引性を有する原子団、を表す。構造式(1)において、「D」で表される電子供与性を有する原子団としては、電子供与性を有するものであれば公知のものが用いられるが、電子供与性置換基を有する、脂肪族不飽和結合、芳香環、ヘテロ芳香環、及びそれらの組み合わせからなるものであることが好ましい。前記電子供与性置換基としては、電子供与性を有するものであれば特に限定されないが、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、などが望ましい。なお、前記アルキル基の一部がアルコキシ基やフェニル基で置換されてもよく、前記アルコキシ基の一部がアルコキシ基やフェニル基で置換されてもよく、また、前記アミノ基の一部がアルキル基やアルコキシ基、あるいはフェニル基で置換されてもよい。
【0040】
一方、「A」で表される電子吸引性を有する原子団としては、電子吸引性を有するものであれば公知のものいずれでも良いが、電子吸引性置換基を導入した、脂肪族不飽和結合、芳香環、ヘテロ芳香環、及びそれらの組み合わせ、などの構造が望ましい。
【0041】
電子吸引性置換基としては、ハロゲン原子、ハロゲン置換されたアルキル基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、などが望ましい。
【0042】
また、「P」で表される結合部は、「D」と「A」とを共有結合で結ぶものであれば如何なるものであっても良いが、電子を非局在化しうる共役結合を持つものが望ましく、例えばπ共役系で「D」と「A」とを結びつけるような構造を有するものが望ましい。具体的には、脂肪族不飽和結合、芳香環、ヘテロ芳香環、及びそれらが互いに結合したものなどが望ましい。
【0043】
光導波路層16の形成は、上記クロモフォア構造を有する高分子材料、あるいはクロモフォア構造を有する有機化合物と高分子材料とを混合したものを、これらを溶解する溶剤に溶解しコーティング液を作製し、このコーティング液を上記下部クラッド層14等の表面にコートすることにより行う。
【0044】
コーティングにより光導波路層16を設ける方法としては、スピンコート、スプレーコート、ブレードコート、ディップコート、など公知の方法が用いられる。溶剤の除去は、送風乾燥機などで加熱乾燥しても良いし、減圧(真空)乾燥機などで乾燥してもよい。
【0045】
光導波路層16の膜厚としては、下部電極12と上部電極20との間に位置する光導波路(以下、作用部と称する場合がある)へ、下部電極12と上部電極20との間に形成された電界が効果的に作用するように、光導波路層16の膜厚は薄いほうが好ましく、5.0μm以下が好ましく、3.5μm以下がより好ましい。
【0046】
光導波路層16の膜厚が5.0μmより厚いと、光導波路17の作用部へ、該作用部を伝播する光に所望の位相変化を生じさせるために印加する電圧の電圧値として、より高い電圧値の電圧印加が必要となり、低駆動電圧を達成することが困難となる場合がある。なお、光導波路層16の膜厚の下限は、1.0μm程度である。
【0047】
光導波路層16に形成する光導波路17は、例えば、図1及び図2に示すように光導波路17をリッジ型(光導波路17が上部クラッド層18側に凸状に突出した形状)として構成する場合には、ドライエッチング法でリッジを形成することで、リッジ型の光導波路17を形成すればよい。
【0048】
なお、本実施の形態では、光導波路層16に形成する光導波路17は、図1及び図2に示すように、マッハツェンダー型である場合を説明する。
マッハツェンダー型の光導波路17は、光の入射される入射光導波路部17C及び入射された光を出射する出射光導波路部17Dは一本の光路として形成され、途中で2本の入射光導波路部17A(以下、アーム部17Aと称する場合がある)及び入射光導波路部17B(以下、アーム部17Bと称する場合がある)に分岐されている。このため、入射光導波路部17Aに入射された光は、2本の光路(アーム部17A及びアーム部17B)各々へと分かれた後に、アーム部17A及びアーム部17B各々を伝播し、出射光導波路部17Dで合流して光導波路17の外部へと出射される。
【0049】
この光導波路17を構成するリッジ幅とリッジ高さ(光導波路17の幅及び高さ)は、光導波路17の屈折率と光導波路層16の厚み膜厚との組み合わせにより異なるが、リッジ高さ(段差)は一般的には50nm以上3000nm以下の範囲が好ましく、500nm以上2000nm以下の範囲がより好ましい。リッジ高さが50nmに満たないと、光導波路17と上部クラッド層18、及び下部クラッド層14各々との間で、十分な屈折率差が得られず、光導波路17内における光の閉じ込めができなくなる場合がある。
一方、リッジ高さが3000nmを越えると、マルチモードとなって目的とする素子の機能を十分に発揮できなくなる場合がある。また、リッジ幅としては、1μm以上15μm以下の範囲が好ましく、3μm以上10μm以下の範囲がより好ましい。
【0050】
光導波路17は、上述のようなリッジ型の構造をとることにより、上部クラッド層18と下部クラッド層14との屈折率差を大きく取ることが可能となる。従って、電極による吸収損失を抑制し、かつ素子の実効電界を強めることが可能となることから、駆動電圧の低減をはかることが可能となる。
【0051】
次に、上部クラッド層18について説明する。上部クラッド層18は、例えば、光導波路層16の表面全面に形成されている。上部クラッド層18は、光導波路層16に上記リッジを形成することで光導波路17を形成した後に、光導波路層16よりも屈折率の低い材料で光導波路層16を覆うことで形成される。
【0052】
上部クラッド層18に用いられる材料としては、上部クラッド層18の形成時に、光導波路層16とインターミキシングを起こさない材料が好ましく、上記説明した下部クラッド層14に用いた材料等が用いられる。また、上部クラッド層18を形成する手段としても、上記説明した下部クラッド層14の形成に用いた方法が同様に使用される。なお、上部クラッド層18の膜厚としては、1μm以上20μm以下の範囲が好ましく、1.5μm以上10.0μm以下の範囲がより好ましい。
【0053】
光導波路素子100においては、通常、光導波路層16の屈折率に比べて、上部クラッド層18及び下部クラッド層14の屈折率を小さくする必要がある。本実施の形態において、光導波路層16と上部クラッド層18及び下部クラッド層14との屈折率の差は、光導波路素子100の用途によるが、例えば、シングルモードの光導波路として用いる場合には、光導波路層16と上部クラッド層18及び下部クラッド層14との屈折率の差は、0.01%以上10%以下の範囲であることが好ましい。
【0054】
次に、上部電極20について説明する。上部電極20は、上部クラッド層18の表面に形成される。上部電極20は、例えば、下部電極12との間に電界が形成されたときに、その形成された電界内に位置する光導波路17の領域を伝播する光の位相を変化させるとともに、光導波路17に入射した光の強度が変調されて出射されるような位置に設けられる。本実施形態では、上部電極20は、2つの電極対で構成している。
【0055】
具体的には、図1及び図2に示すように、光導波路17がマッハツェンダー型である場合には、上部電極20の各対を成す上部電極は、光導波路17のアーム部17A及びアーム部17Bの何れか一方又は双方に対応する領域に1対の上部電極20A及び上部電極20Bが設けられている。
【0056】
すなわち、この上部電極20を構成する対電極は、上部電極20の対電極と、下部電極12と、の間に電圧を印加することで、結果的に光導波路17に入射された光を変調して出射することの可能な領域に設けられている。
【0057】
図1及び図2に示す例では、対を成す上部電極20A及び上部電極20Bの内の、上部電極20Aは、下部電極12との間に電圧が印加されることで、光導波路17のアーム部17Aに電界を形成可能な位置に設けられており、上部電極20Bは、下部電極12との間に電圧が印加されることで、光導波路17のアーム部17Bに電界を形成可能な位置に設けられている。
【0058】
なお、本実施の形態では、上述のように、上部電極20を構成する対を成す上部電極20A及び上部電極20Bは、各々、光導波路17のアーム部17Aに対応する位置、及び光導波路17のアーム部17Bに対応する位置に設けられている場合を説明するが、対を成す上部電極20と下部電極12との間に電圧が印加されることで、光導波路17に入射される光の強度を変調した光が光導波路17から出射されるような位置に設けられていればよく、このような形態に限られない。
【0059】
例えば、上部電極20A及び上部電極20Bの双方が、光導波路17のアーム部17A又はアーム部17Bの何れか一方に対応する位置に設けられた構成であってもよい。
【0060】
また、本実施の形態では、説明を簡略化するために、上部電極20は、一対の電極で構成された場合を説明するが、複数対の上部電極が設けられた構成であってもよいことはいうまでもない。
【0061】
上部電極20は、公知の方法、例えば、DCマグネトロン・スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、電解メッキ法、フラッシュ蒸着法、イオン・プレーティング法、RFマグネトロン・スパッタリング法、イオン・ビーム・スパッタリング法、レーザー・アブレーション法、MBE法、CVD法、プラズマCVD、MOCVD法などより選ばれる気相成長法、又はゾルゲル法、MOD法などのウエット・プロセスによって、薄膜成長により形成される。
【0062】
次に、保護部材22について説明する。
保護部材22は、上部電極20を介して上部クラッド層18上に積層されている。すなわち、保護部材22は、上部電極20を覆うように上部クラッド層18の表面全面に形成されている。なお、保護部材22は、上部電極20を覆うように形成されていれば、上部クラッド層18の表面全面に形成する必要はない。
【0063】
この保護部材22には、配線電極23C(第3電極に相当)と、配線電極23A(第4電極に相当)と、導通部23Bと、が設けられている。導通部23Bは、保護部材22を厚み方向に貫通するように設けられていると共に厚み方向に導通する。配線電極23Cは、保護部材22の下面側に設けられており、配線電極23Aは、保護部材22の上面側に設けられている。すなわち、導通部23Bは、これらの配線電極23Cと配線電極23Aとを保護部材22の厚み方向に電気的に導通している。
【0064】
なお、本実施の形態において、該保護部材22の下面側とは、保護部材22が上部クラッド層18上に上部電極20を介して積層されたときにおける、保護部材22の上部電極20側に近い側の面を示している。また、本実施の形態において、保護部材22の上面側とは、保護部材22が上部クラッド層18上に上部電極20を介して積層されたときにおける、保護部材22の上部電極20から遠い側の面を示している。
【0065】
配線電極23Cは、保護部材22が上部電極20上に積層されて光導波路素子100が形成されたときに、上部電極20に電気的に接続されるような位置に予め設けられている。このため、配線電極23Cは、図2に示すように上部電極20の配線電極23Cと向かい合う側の面の全領域に接するように設けられていてもよいし、図4の光導波路素子101に示すように、上部電極20の配線電極23Cと向かい合う側の面の一部領域に接するように設けられていても良い。また、配線電極23A及び導通部23Bは、光導波路素子100として構成されたときに配線電極23Cを介して上部電極20に電気的に導通されていればよく、図4に示すように、上部電極20と配線電極23C、及び配線電極23Cと配線電極23Aが、保護部材22の面方向に向かってずれた位置に設けられていてもよい。
【0066】
なお、図4に示す光導波路素子101は、図1〜図3に示す光導波路素子100の保護部材22と配線電極23C、導通部23B、及び配線電極23Aの設けられている位置が異なる以外は、該光導波路素子100と同一構成であるため詳細な説明を省略する。
【0067】
上記配線電極23Aは、ポーリング処理時や素子駆動の際の電圧を印加するための電圧印加手段の端子接続用に用いられる。
なお、放電・静電破壊抑制の点から、保護部材22の厚みは、例えば20μm以上1000μm以下とすることがよい。
【0068】
保護部材22を構成する材料としては、絶縁性材料であればよく、一般的に知られているプラスティックフィルム、無機材料などが用いられる。前記プラスティックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミドなどが挙げられる。前記無機材料としては、例えば、ガラス、セラミックなどが挙げられる。
【0069】
本実施の形態において、光導波路素子100は、基板10上に、下部電極12、下部クラッド層14、光導波路層16、上部クラッド層18、及び上部電極20を上記の方法により積層させることによって構成した光導波路部25上に、接着層21を介して上記保護部材22を積層させることによって、作製される。
【0070】
具体的には、図3(A)に示すように、基板10上に、下部電極12、及び下部クラッド層14を形成した後に、該下部クラッド層14上に導波路層材料の溶液を塗布して光導波路層16を成膜する。次いで、光導波路層16を、ドライエッチングなどにより加工し、リッジ部を有するリッジ型の光導波路17を形成する。さらに、光導波路層16上に、上部クラッド層18を形成した後に、上部クラッド層18上の光導波路層16の光導波路17(すなわちリッジ部)が位置する上方に、上部電極20を形成することによって、光導波路部25を作製する。
【0071】
次に、図3(B)に示すように、該光導波路部25の上部電極20上に導電性ペースト等の導電性接着剤による導電性接着層21Aを設けると共に、光導波路部25の上部クラッド層18上に絶縁性ペースト等の絶縁性接着剤による絶縁性接着層21Bを設けることによって接着層21を設ける。
【0072】
そして更に、図3(C)に示すように、接着層21を介して保護部材22を積層させることによって、光導波路素子100を作製する。
【0073】
なお、この保護部材22を積層させるときには、保護部材22の配線電極23Cが、光導波路部25の上部電極20に電気的に接続されるように、保護部材22の配線電極23Cの位置を予め調整した構成とすればよい。
【0074】
上記の工程により作製された光導波路素子は、切断によりチップ状(素子状)に加工され、素子を完成する。切断にはダイサーなどが用いられる。なお、素子状とは、一般的には矩形状のことを指すが、光入出力端面での戻り光を低減することを目的として、菱形状、あるいは台形状に加工する場合も含まれる。
【0075】
次いで、以上の工程により作製した光導波路素子100を、モジュール筐体(図示省略)に固定する場合には、上記保護部材22が設けられた構成で無い場合には、光導波路素子100の上部電極20と、モジュール筐体のパッド(図示省略)と、をワイヤボンディングにより直接結線する必要がある。しかし、該パッドと上部電極20とをワイヤボンディングにより直接結線すると、ワイヤボンディングにおいて加えられる熱や高周波電流によって光導波路17に損傷が加えられる場合がある。
【0076】
一方、本実施の形態においては、光導波路素子100は、上部電極20上に、配線電極23Cと、配線電極23Aと、これらの配線電極23Cと配線電極23Aとを保護部材22の厚み方向に電気的に導通する導通部23Bと、を備えた保護部材22が設けられた構成とされている。このため、ワイヤボンディングによる結線は、上部電極20に直接行うのではなく、上部電極20に電気的に接続された配線電極23C及び導通部23Bを介して、該導通部23Bに電気的に接続された配線電極23Aに対して行えばよい。すなわち、本実施の形態では、配線電極23Aと、モジュール筐体のパッド(図示省略)とをワイヤボンディングにより結線することで、光導波路素子100はモジュール筐体に固定される。
【0077】
このため、本実施の形態の光導波路素子100によれば、上部電極とモジュール筐体のパッド(図示省略)とを直接ワイヤボンディングにより結線する場合とは異なり、保護部材22に設けられた配線電極23Aとモジュール筐体のパッド(図示省略)とをワイヤボンディングにより結線することで、光導波路素子100はモジュール筐体に固定されるので、ワイヤボンディングによる光導波路17の損傷が抑制される。
【0078】
なお、ワイヤボンディングには、半導体ICの電気実装に用いられる汎用の装置を用いればよい。
【0079】
ここで、上記光導波路素子100の光導波路17に、非線形光学効果(電気光学効果)を発現させるためには、ポーリング処理により分子の配向を揃える必要がある。
このポーリング処理とは、成膜した後に、ガラス転移温度(Tg)以上に加熱した状態で電界を印加して配向処理することにより、光導波路17及び光導波路層16を構成する上記有機非線形材料の分極方向、あるいは、前記クロモフォアを有する有機非線形材料のクロモフォア部分の分極方向、に配向させ、これを維持した状態で、Tg以下に温度を下げた後に電界を取り除く処理をいう。
【0080】
このようなポーリング処理としては、電界の印加方法として、有機非線形材料が含まれる光導波路17を2つ以上の電極で直接挟み込んで電界を印加する方法(電極ポーリング)を行う。具体的には、下部電極12を接地すると共に、電圧印加手段の端子を保護部材22の配線電極23Aに対して電気的に接続し、電圧印加手段により当該配線電極23Aに所定の電圧を印加することで、配線電極23Aを介して上部電極20と下部電極12との間に電界が印加され、有機非線形材料が含まれる光導波路17に対しポーリング処理を行う。
【0081】
ポーリング温度は、ガラス転移温度以上が好ましく、具体的には100℃以上200℃以下の範囲内に0.2時間以上10時間以下程度保持することが望ましい。ポーリング温度を室温から最終的な温度まで段階的に上昇させる場合、各ステップの上昇温度は5℃以上50℃以下程度の範囲、各ステップの時間は10分間以上120分間以下程度が望ましく、それらは終始同じでも異なってもよい。連続的に上昇させる場合の昇温速度は、0.1℃/分以上20℃/分以下程度とすることが望ましく、前記の段階的に温度を上昇させるステップと組み合わせてもよい。
【0082】
ポーリング処理の際に印加する電圧は、一定でもよいし、連続的あるいは段階的に変化させてもよく、温度上昇や下降のタイミングに合わせても合わせなくてもよい。例えば、上部電極20に印加する電圧としては、0.1kV以上2kV以下程度の範囲とするのが好ましい。電極の極性は正負どちらでもよい。
【0083】
ポーリング処理は、試料(有機非線形材料)の軟化状態もしくは流動状態において、試料に対し電極よって直流電界を印加することがよい。試料の固化は、冷却による場合や高分子の熱硬化による場合があるが、いずれも、電界印加状態で行うことが望ましい。この工程は、光導波路形成後であればいつ実行してもよいが、後の工程で加熱の必要がある場合には、非線形光学効果の低下が起こってしまうため、分極配向処理を、加熱処理を含む工程後に行うことが好ましい。
【0084】
このように構成された光導波路素子100は、光の変調を行う光変調素子や、スイッチングを行う光変調スイッチとして用いられる。
【0085】
次に、このように構成された光導波路素子100の作用を説明する。
【0086】
光導波路17の入射光導波路部17Cから入射された光は、アーム部17A及びアーム部17Bに分岐されて伝播した後に、出射光導波路部17Dを伝播し、光導波路17から出射される。
【0087】
光導波路素子100においては、電圧印加部(不図示)から上部電極20と下部電極12との間に電圧を印加しない状態においては、入射光導波路部17Cに入射されて、アーム部17A及びアーム部17Bを伝播した光は、これらのアーム部の接合部(出射光導波路部17Dとの接合部)において互いに干渉しつつ単一モード光に収束される。このとき、アーム部17A及びアーム部17Bには電界が形成されていないことから、これらのアーム部を伝播する光に位相差が生じていないので、出射光導波路部17Dからは、入射光導波路部17Cに入射された光と同一強度の光が出射する。
【0088】
上記説明したように、光導波路17は、電気光学効果を有する材質で形成されていることから、配線電極23A、導通部23B、及び配線電極23Cを介して、上部電極20と下部電極12との間に電圧が印加されて、光導波路17に電界が形成されると、光導波路17内の該電界の形成された領域を伝播する光の屈折率が変化して位相が変化する。このため、電圧印加部(不図示)から、配線電極23A、導通部23B、及び配線電極23Cを介して、下部電極12と上部電極20とに電圧が印加されて、下部電極12と上部電極20との間に電界が形成されると、印加された電圧の電圧値に応じて、光導波路17内の、形成された電界内に相当する領域を伝播する光の屈折率が変化し、光導波路17に入射された光の強度とは異なる強度の光が光導波路17から出射される。
【0089】
詳細には、電圧印加部(不図示)から上部電極20と下部電極12との間に電圧が印加されると、入射光導波路部17Cに入射されて、アーム部17A及びアーム部17Bを伝播した光は、これらのアーム部の接合部(出射光導波路部17Dとの接合部)において互いに干渉しつつ収束される。このとき、アーム部17A及びアーム部17Bに電界が形成されているので、これらのアーム部を伝播する光に電界に応じた位相差が生じ、出射光導波路部17Dからは、入射光導波路部17Cに入射された光とは異なる強度の光が出射する。すなわち、電圧印加部(不図示)から上部電極20と下部電極12との間に電圧が印加されると、印加された電圧に応じて光の強度が連続的に変調される。
【0090】
以上説明した本実施の形態の光導波路素子100では、上部電極20が保護部材22に覆われている。そして、この保護部材22に設けられた配線電極23Aに対し、電圧印加装置の端子を電気的に接続し、配線電極23Aを介して上部電極20に対して電圧を印加することで、ポーリング処理が行われる。このポーリング処理の際、上部電極20は保護部材22により被覆されていることから、保護部材22により被覆されていない場合に比べ、電圧の印加による電極の放電や静電破壊が抑制されつつ、高い電圧の印加によるポーリング処理が実現される。その結果、有機非線形光学材料の配向度が向上し、より高い有機非線形光学材料の電気光学効果が引き出される。
【0091】
なお、本実施の形態では、光導波路17は、リッジ型である場合を説明したが、図5(A)に示すように、光導波路17が、下部クラッド層14(下部電極12)側へ突出した形状の逆リッジ型に構成してもよい。
この逆リッジ型の光導波路17の形成方法としては、予め、下部クラッド層14へ、反応性イオンエッチング(RIE)、湿式エッチング、フォトリソグラフィ、電子線リソグラフィー等の半導体プロセス技術を用いた公知の方法によりパターニングを行い、該下部クラッド層14を加工してトレンチを形成し、その上に光導波路層16を形成することによって、逆リッジ型光導波路が形成される。
【0092】
光導波路17は、逆リッジ型の構造をとることにより、上部クラッド層18と下部クラッド層14との屈折率差を大きく取ることが可能となる。従って、電極による吸収損失を抑制し、かつ素子の実効電界を強めることが可能となることから、駆動電圧の低減をはかることが可能となる。
【0093】
また、本実施の形態では、光導波路17は、リッジ型である場合を説明したが、図5(B)に示すように、光導波路17は、上部クラッド層18(上部電極20)側及び下部クラッド層14(下部電極12)側の双方へ凸状に突出した形状の正逆リッジ型に構成してもよい。
【0094】
この正逆リッジ型の光導波路17の形成方法としては、上記リッジ型、上記逆リッジ型の形成方法を組み合わせることで形成される。
光導波路17を正逆リッジ型とすると、リッジ型、逆リッジ側に比べ、上部クラッド層18と下部クラッド層14との屈折率差を大きく取ることが可能となる。従って、電極による吸収損失を抑制し、かつ素子の実効電界を強めることが可能となることから、駆動電圧の低減をはかることが可能となる。
【0095】
なお、本実施の形態では、光導波路層16に形成する光導波路17は、マッハツェンダー型である場合を説明したが、光導波路17の形状はこのような形状に限られず、光導波路17がX字に交差した形状のX交差型、や光導波路17が横方向に広げてマルチモードの伝搬を可能とした形状の多モード干渉型(図6参照)、あるいはそれらの組み合わせの光導波路パターン等が挙げられ、マッハツェンダー型に限られない。
【0096】
例えば、光導波路17を多モード干渉型に構成した場合には、図6に示すように、光導波路素子103は、光導波路層16に形成する光導波路31を、入射光導波路部31Aと、多モード干渉光導波路31Bと、出射光導波路部31C及び出射光導波路部31Dと、から構成すればよい。
そして、上部電極20の対をなす電極は、下部電極12との間に電界が形成されたときに、その形成された電界内に位置する光導波路31の領域を伝播する光の位相を変化させるとともに、光導波路31に入射した光の強度が変調されて出射されるような位置に設けられていればよい。
【0097】
例えば、図6に示すように、多モード干渉光導波路31Bに対応する位置で、且つ入射光導波路部31Aから出射光導波路部31C及び出射光導波路部31Dに向かって光が伝播する方向に交差する方向の中心線を挟んで両側に、対を成す上部電極の一方(上部電極20)及び他方(上部電極20)が設けられた構成であればよい。
【実施例】
【0098】
以下、発明の詳細を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。言うまでもなく、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
はじめに、非線形光学材料の溶液として、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ポリスルホン、及びDR1(Disperse Red 1)を、前記すべての材料の総質量を100質量部としてそれぞれ、77質量部、9質量部、10質量部、及び4質量部からなる溶液(以下、PS溶液)を調製した。該材料の薄膜における屈折率をプリズムカップリング法により測定したところ、1.63であることを確認した。
【0100】
シリコン基板(直径:50.8mm、厚さ:0.5mm)表面に、スパッタ法により下部電極としてAuを厚さ500nm設けた
【0101】
次に、下部電極表面に、下部クラッド層として屈折率1.54のアクリル系紫外線硬化樹脂を塗布し、紫外線を照射して3.5μm厚の樹脂硬化膜を作製した。
続いて、光導波路層として上記調整した非線形光学材料の溶液(PS溶液)を塗布し、120℃の環境に60分間放置することで硬化させ、フォトリソグラフィに続くリアクティブイオンエッチング(RIE)によりマッハツェンダー型の光導波路を形成した。光導波路層の膜厚は3.3μmであり、光導波路のリッジ高さは0.7μm、幅は5μmであった。
【0102】
次に、この形成した光導波路層上に上部クラッド層となる屈折率1.54の上記アクリル系紫外線硬化樹脂を塗布し、上記下部クラッド層と同様にして紫外線を照射して硬化させて、3.5μ厚の樹脂硬化膜からなる上部クラッド層を作製した。
【0103】
この上部クラッド層上に、レジストを塗布して、フォトリソグラフィにより上部電極のパターンを形成し、金をスパッタ、リフトオフすることで上部電極を形成した。
このとき、マッハツェンダー型に形成した光導波路の2つのアーム部に対応する領域各々に、厚みが0.5μmの直方体状の上部電極を1つずつ形成し、これらを対となる上部電極20用の電極パッドとして定めた。
【0104】
これらの工程により光導波路部25を作製した。
【0105】
次に、保護部材22として、まず、感光性ガラス(商品名:HOYA株式会社製PEG3、厚み500μm)を用意し、マスクを密着させ、該マスクを通してスルーホール部分にUV光を照射し、露光部分に対応する潜像を形成した。その後、400℃で熱処理を行ない、露光部分のみを結晶化させた後、薄いフッ化水素酸(10%溶液)を感光性ガラスの表裏にスプレーし、結晶化したスルーホール部分のガラスを溶解除去し開口径50μmの開口を形成した。そして、この開口の一方を塞ぐように、スパッタ法および電界メッキ法によりクロム及び銅からなる導電性膜を形成することにより、導通部23Bと配線電極23Cとなる導電膜を一括形成した。さらに、配線パターンをフォトリソグラフィ法により形成し、エッチング処理を行うことにより、所望の位置に電極パッド(20μm×20μm、厚み5μm)を設けた配線パターンを形成した。
また、上記開口孔に、導通部23Bの金属膜の保護層とした。さらに、この保護部材22の該導通部の形成された領域に、レジストを塗布して、フォトリソグラフィにより配線電極のパターンを形成し、金をスパッタ、リフトオフすることで配線電極23A用の電極パッド(100μm×100μm、厚み1μm)を形成した。これによって、配線電極23Aとしての電極パッドと、導通部23Bと、配線電極23Cとしての電極パッドと、が設けられた保護部材22を作製した。
【0106】
そして、上記作製した光導波路部と、上記保護部材22と、を配線電極23Cとしての電極パッドと、上部電極20用の電極パッドと、が対向するようにして導電性ペーストを用いて接着することによって、光導波路素子100を作製した。
【0107】
次いで、この光導波路素子100を、あらかじめ用意したモジュール筐体上に熱硬化性の接着剤を用いて、150℃で30分間加熱することにより固定した。次いで、このモジュール筐体をワイヤボンダーにセットし、200℃に加熱した上で、モジュール筐体と、保護部材22の上面に設けられた配線電極23Cとしての電極パッドと、モジュール筐体と、をワイヤボンディングにより結線した。このようにして得られたモジュールの光導波路素子100の配線電極23Cに電圧印加装置(ポーリング装置)の端子を接続すると共に、下部電極12を接地し、該光導波路素子100を140℃に保持した状態で、該配線電極23Cを介して上部電極20と下部電極12との間に1000Vの電圧を印加し30分保持した。その後、電圧を印加した状態で温度を室温(25℃)まで下げた。このようにしてポーリング処理を施すことで、光導波路素子100を得た。
【0108】
得られた光導波路素子について、光導波路の光入射側から光入出力用の光ファイバーを介して波長1.55μmのレーザ光を1mWの強度で入射させると共に、25℃の環境下で、この光導波路素子の2つの上部電極の一方の電極と下部電極との間に、周波数が10Hzであり、最大値が+10V、及び最小値が−10Vの三角波を印加して、素子の変調特性を評価したところ、半波長電圧(Vπ)は4Vの結果が得られ、光変調素子モジュールとして機能することが確認された。
【0109】
なお、変調特性(半波長電圧)は、次のようにして評価した。出射光を、光ファイバーを介して、光パワーメーター(アンリツ社製、MT9812B+MU931241A)により計測し、印加電圧対出射光強度の関係から、変調特性曲線を求め、最大光出力電圧と最小光出力電圧の差から半波長電圧:Vπを求めた。
【0110】
(比較例1)
保護部材を設けなかった以外は、実施例1と同様にして光導波路素子(実施例1の光導波路部25に相当)を作製した後に、該光導波路素子を、実施例1と同様にしてモジュール筐体上に熱硬化性の接着剤を用いて、150℃で30分間加熱することにより固定した。次いで、このモジュール筐体をワイヤボンダーにセットし、200℃に加熱した上で、モジュール筐体と、光導波路素子の上部電極20と、をワイヤボンディングにより結線しようとしたところ、ワイヤボンディングによる熱及び圧力により光導波路層16に穴があき、電気的な接続を行うことができず、また光導波路に損傷が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本実施形態に係る光導波路素子の構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る光導波路素子の図1に示す斜視図のA−A’断面図である。
【図3】(A)〜(C)本実施の形態に係る光導波路素子の製造方法を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係る光導波路素子の図1に示す斜視図のA−A’断面図であり、図2とは異なる形態を示した断面図である。
【図5】(A)(B)本実施形態に係る光導波路素子における図1に示す斜視図のB−B’断面図に相当する模式図である。
【図6】本実施形態における光導波路素子における図1に示す形態とは異なる態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0112】
10 基板
12 下部電極
14 下部クラッド層
16 光導波路層
17 光導波路
18 上部クラッド層
20 上部電極
20A 上部電極
20B 上部電極
22 保護部材
23B 導通部
23A 配線電極
23C 配線電極
100、101、103 光導波路素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機非線形光学材料を含む光導波路と、
前記光導波路の一方の面側に配された第1電極と、
前記光導波路の他方の面側に配された第2電極と、
前記第2電極上に積層された保護部材であって、該第2電極に近い側の第1面に設けられ且つ該第2電極に接続された第3電極、該第2電極に遠い側の第2面に設けられた第4電極、及び該第1面と該第2面とを貫通すると共に前記第3電極と前記第4電極とを電気的に導通する導通部を有する保護部材と、
を備えたことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記光導波路は、マッハツェンダー型であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記光導波路は、多モード干渉型であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記光導波路は、前記第1電極側又は前記第2電極側に向かって凸状に突出した構造であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記光導波路は、前記第1電極側及び前記第2電極側の双方側に向かって凸状に突出した構造であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−139843(P2009−139843A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318484(P2007−318484)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】