光導波路
【課題】伝播光と近接場光とのカップリング効率を向上するとともに集積化に有利な光導波路を提供する。
【解決手段】伝播光導波部と、フォトニック結晶を含む結合部と、表面プラズモン導波部とを有し、前記伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されている光導波路。
【解決手段】伝播光導波部と、フォトニック結晶を含む結合部と、表面プラズモン導波部とを有し、前記伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されている光導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理容量の増大および情報処理速度の高速化により、電子配線の情報遅延や発熱問題などが発生しており、これらの問題に対する解決手段が求められている。その解決手段として、チップ内光配線技術や、情報処理自体を光で行う技術が研究されている。情報処理を光で行う技術の1つとして、インテルが研究を進めているシリコンフォトニクス(たとえば、高速シリコン光変調器)が知られている。また、半導体の技術ロードマップにおいて、チップ内光配線技術の要求が示されている。
【0003】
光配線および光導波路も微細化が要求されているが、一般に光の回折限界により光機能素子の微細加工には限界が生じる。その対策として有効な技術が“近接場”である。近接場光を用いた光スイッチやプラズモン導波路の研究は精力的に発表されている。また、チップ内光配線などの微細な光配線も、近接場関連技術によって実現する可能性があるといわれている。ところが、発光デバイスおよび外部の光情報処理部品は、近接場光ではなく伝播光で機能する部品であるため、システム全体を考慮すると伝播光と近接場光との変換が不可欠になる。しかし、光とプラズモンポラリトンの分散関係を見れば分かる通り、伝播光と近接場光とでは分散関係が一致しない。これは、エネルギー(または振動数)保存と運動量(または波数)保存とが同時になり立たないという、いわゆる位相不整合の問題である。このため、伝播光と近接場光との変換効率は悪い。たとえば、近接場光学顕微鏡のファイバープローブは、先端部で波数ベクトルが広がるため多数の波数を持ち、そのうち特定の波数のみでエネルギーが一致するので変換効率が悪くなる。
【0004】
近接場光の一つである表面プラズモンポラリトンを導波する光デバイスでも、伝播光を導波する光デバイスとのカップリング効率が大きな課題である。図1に示すように、伝播光と、金属薄膜上の表面プラズモンポラリトンとでは分散カーブが異なることが一般に知られている。したがって、伝播光と表面プラズモンポラリトンとを効率よく変換することは容易ではない。
【0005】
研究や実験のレベルで、伝播光と表面プラズモンポラリトンとを効率よくカップリングさせる一般的な方法として、プリズムによるオットー配置やクレッチマン配置などのATR(attenuated total reflection)法が知られている。この方法は入射角度に応じて波数を調整するものであるが、このような原理に基づく結合部は三次元構造となる。また、ビームスプリッタおよび反射鏡(特許文献1)やレンズ(特許文献2)のような三次元構造の光学系を介して、表面プラズモン導波路に伝播光を入射する装置が知られている。しかし、情報処理システムまたは光回路は二次元構造であるので、三次元構造の結合部を用いたのでは、平面導波路システムを構築できなくなり、集積化に不利である。したがって、伝播光導波路と表面プラズモン導波路との間に設けることができる、伝播光の波数を制御する二次元構造の結合部が要望されている。
【特許文献1】特開2004−20381号公報
【特許文献2】特開2006−171479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、伝播光と近接場光とのカップリング効率を向上するとともに集積化に有利な光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光導波路は、伝播光導波部と、フォトニック結晶を含む結合部と、表面プラズモン導波部とを有し、前記伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、伝播光と近接場光とのカップリング効率を向上するとともに集積化に有利な光導波路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
伝播光と近接場光とを位相整合させるには、伝播光または近接場光の分散関係を調整する。分散関係を変えるには、エネルギー伝達媒体である素励起(フォトン、エキシトン、ポラリトン、プラズモン、プラズモンポラリトンなど)自体を変換する方法、または伝播部材を変えて屈折率を変える方法などが考えられる。しかし、素励起相互作用は効率が悪く、伝播部材を変える場合には任意の屈折率を持つ材料を自由に選択することが難しいという問題がある。
【0010】
本発明の実施形態においては、フォトニック結晶を用いて結合部を形成し、伝播光の分散関係を変化させる。フォトニック結晶とは屈折率の周期構造を有する結晶であり、電磁波の分散関係を変調させることができる。最近では、フォトニック結晶の一つであるフォトニック結晶ファイバーでも伝播光の分散関係を制御できることが報告されている。したがって、フォトニック結晶ファイバーを使用することもできる。
【0011】
フォトニック結晶はバンドの折り返しを示し、屈折率変化の周期を変えることによって、折り返しを自由に変えることができる。このため、伝播光と表面プラズモンポラリトンとの間でエネルギー(または振動数)と運動量(または波数)が一致する点(すなわち波長)が必ずある。また、フォトニックバンドギャップ端近傍では、伝播光の分散カーブの曲率を表面プラズモンポラリトンの曲率に近づけられる可能性がでてくる。そして、このような波長では、伝播光と表面プラズモンポラリトンのカップリング効率を上げることができる。
【0012】
図2に、真空中の光の分散カーブ、金属薄膜上における表面プラズモンポラリトンの分散カーブ、透明物質中の光の分散カーブ、およびフォトニック結晶中の光の分散カーブを示す。図2を参照して上記の議論を再度説明する。真空中の光と、金属薄膜上の表面プラズモンポラリトンとでは分散カーブが異なる点に関しては上述したとおりである。伝播部材としての透明物質の屈折率を適切に選択すれば、図2に示すように、両者のエネルギーと運動量が一致する点を生じさせることができる。しかし、任意の屈折率を持つ材料を自由に選択することは困難である。これに対して、フォトニック結晶ではバンドの折り返しを自由に変えることができるので、伝播光と近接場光との間でエネルギーと運動量が一致する点(2つの分散カーブの交点。図2ではP1およびP2)が必ず存在する。
【0013】
フォトニック結晶は、伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部を、導波方向に沿って1つの平面内に配置することができれば、二次元または三次元のものでもよいが、一次元のものが容易に作製できるので好ましい。
【0014】
フォトニック結晶は、たとえば、第1の屈折率を有する第1の透明部材と、第2の屈折率を有する第2の透明部材とを交互に配列することによって形成することができる。
【0015】
また、フォトニック結晶を含む結合部に、電子注入により屈折率を変化させることができる材料を用い、材料の屈折率を周期的に変化させることにより、伝播光の調整機能を高めることができる。具体的には、結合部を、電子注入により屈折率を変化させることができる材料を含む構造部と、前記構造部を挟んで周期的に配置され前記構造部の一部に選択的に電子を注入する電極とで形成し、前記電極からの電子注入により前記構造部に交互に配列された第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを含むフォトニック結晶を形成するようにする。
【0016】
一般にフォトニックバンドに変調を与えられるほど大きな屈折率変化を示す材料はほとんど存在しないが、以下に説明する材料は電子注入により大きな屈折率変化をもたらすことができる(特開2005−156922号公報、特開2006−98753号公報、特開2006−98996号公報、特開2006−201595号公報参照)。このような材料を用いて構造部を形成する。
【0017】
(1)電子吸引性置換基Xで置換されたメタロセン骨格とアルキル鎖またはエーテル鎖とを有するメタロセン誘導体、占有軌道の電子殻の変化を伴う元素のカチオンとアクセプターとの組み合わせを含む材料、金属微粒子、半導体微粒子、フラーレン分子、またはフラーレン誘導体は電子注入によって屈折率が大きく変化する。このため、このような材料を含む構造部と、この構造部を挟んで周期的に配置された対をなす電極とで結合部を形成すれば、構造部への選択的な電子注入により、屈折率変化の周期を変化させることによって、フォトニック結晶を再構成することができる。したがって、伝播光と表面プラズモンポラリトンとのカップリング効率を測定しながら、最適な屈折率変化の周期をもつフォトニック結晶を得ることができる。
【0018】
ここで、メタロセン骨格に導入される電子吸引性置換基Xとしては、ハロゲノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミド基、アルキルアミド基、アリルアミド基、アリールアミド基、アルコキシアミド基、アリルオキシアミド基、アリールオキシアミド基、スルフォン酸基またはその塩が挙げられる。また、上述した置換基が水素原子を有する場合、その水素原子がさらに上記の置換基、アルキル基、アルコキシ基、アリルオキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルキル基、アリルオキシアルキル基、アリールオキシアルキル基で置換されていてもよい。メタロセン誘導体への電子注入時の波動関数の変化および注入した電子の安定性の観点から、電子吸引性置換基Xを、特にニトロ基、ハロゲノ基、シアノ基、アシル基、スルホ基、ハロゲン化アルキル基、およびこれらの置換基で置換された芳香族炭化水素基または芳香族複素環基からなる群より選択することが効果的である。
【0019】
(2)占有軌道の電子殻の変化を伴う元素のカチオンとアクセプターとの組み合わせを含む材料は、電子注入により電子が入る軌道の電子殻(主量子数)が変化し、大きな分極率変化が期待できる。したがって、(1)の場合と同様に、これらの材料を含む構造部と、この構造部を挟んで周期的に配置された対をなす電極とで結合部を形成すれば、最適なフォトニック結晶を得ることができる。
【0020】
たとえばI族及びII族の元素(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Cu、Ag、Au、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd、Hg)のカチオンと、これらのカチオンへの電子注入による変化の例を以下に挙げる。
【0021】
Li+ → Li Be2+ → Be+
Na+ → Na Mg2+ → Mg+
K+ → K Ca2+ → Ca+
これらのカチオンは、アクセプター基またはアクセプター分子と結合させることによって安定して存在するようになる。カチオンとアクセプターとの組み合わせを一般式で示すと、(M+)(A-)、(M2+)(A-)2、(M2+)(A2-)、(M+)2(A2-)などの例が挙げられる。正および負の電荷が全体で相殺しあって中性になっていれば、これ以外の組み合わせでもよい。また、一分子中に複数のMまたはAが存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0022】
アクセプターとしては、無機酸から1個以上のプロトンを脱離したアニオンまたは有機酸から1個以上のプロトンを脱離したアニオンが挙げられる。
【0023】
無機酸としては、下記の(A1)群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
(A1)塩酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、硝酸、亜硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、シアン酸、イソシアン酸、チオシアン酸、硫化水素、青酸、亜ヒ酸、ホウ酸、リン酸、オルトケイ酸、雷酸、窒化水素酸、マンガン酸、過マンガン酸、クロム酸、および重クロム酸。
【0024】
有機酸としては、下記の(A2)群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
(A2)カルボン酸化合物、例えば酢酸、安息香酸、シュウ酸など、
アルコキシカルボン酸化合物、例えばエトキシ酢酸、p−メトキシ安息香酸など、
ヒドロキシカルボン酸化合物、例えば乳酸、クエン酸、リンゴ酸など、
チオカルボン酸化合物、例えばチオ酢酸、チオ安息香酸など、
ジチオカルボン酸化合物、例えばジチオ酢酸、ブタンビス(ジチオ)酸など、
スルホン酸化合物、例えばエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など、
スルフィン酸化合物、例えばベンゼンスルフィン酸など、
スルフェン酸化合物、例えばベンゼンスルフェン酸など、
ホスホン酸化合物、例えばフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸など、
ホスフィン酸化合物、例えばジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸など、
ヒドロキシ化合物、例えばエタノール、フェノールなど、
チオール化合物、例えばチオメタノール、チオフェノールなど、
ヒドロキシルアミン化合物、例えばヒドロキシルアミン、N−フェニルヒドロキシルアミンなど、
ヒドロキサム酸化合物、例えばアセトヒドロキサム酸、シクロヘキサンカルボヒドロキサム酸など、
オキシム化合物、例えばアセトンオキシム、ベンゾフェノン=オキシムなど、
イミド化合物、例えばフタルイミド、スクシンイミドなど、
ヒドロキシイミド化合物、例えばオキシイミノ酢酸、オキシイミノマロン酸、N−ヒドロキシフタルイミドなど、
カルボン酸アミド化合物、例えば酢酸アミド、p−アミノ安息香酸アミドなど、
カルボン酸ヒドラジド化合物、例えば酢酸ヒドラジド、ベンゾヒドラジド、4−アミノ安息香酸ヒドラジドなど、
ポルフィリン化合物、例えばポルフィン、エチオポルフィリンなど、
フタロシアニン化合物、例えばフタロシアニンなど、および
ヒドラゾン化合物、例えばベンズアルデヒド=ヒドラゾン、アセトン=ヒドラゾン、2−ピリジンカルボアルデヒド=2−ピリジルヒドラゾンなど。
【0025】
本発明の実施形態において、表面プラズモン導波部は、金や銀などの金属の、薄膜、細線、ドット列などの形態で形成することができる。特に、表面プラズモン導波部を、金属粒子を二次元的に集積して形成すると、バルク金属の吸収が小さく表面積が広がるため、表面プラズモン導波に適している。金属粒子の表面に局在化する近接場光はその粒子のサイズ程度の幅しか相互作用しないため、粒子同士の相互作用で近接場光を伝播させる場合には、粒子同士を近接場光の範囲内で隣接させて高密度化する。具体的には、金属粒子を粒径より短い間隔を隔てて配置する。
【0026】
上記のように金属粒子を高密度化するために、表面に有機リガンドを有する金属粒子を用いてもよい。このような材料は、金属粒子がコア、有機リガンドがシェルである、コアシェル構造をなす。この材料では、金属粒子を1nm程度のサイズまで小さくし、かつ高密度に充填することができる。表面に有機リガンドを有する金属粒子の表面プラズモンポラリトンの分散カーブは、金属薄膜上の表面プラズモンポラリトンの分散カーブと少し異なるものの、両者の特性は近いと推測される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
図3(a)は本実施例における光導波路を示す平面図、図3(b)は断面図である。この光導波路では、伝播光導波路10と、一次元フォトニック結晶を含む結合部20と、表面プラズモン導波路30が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されている。
【0028】
伝播光導波路10はSiO2からなる平面導波路である。
【0029】
結合部20は、第1の屈折率を有する第1の透明部材(SiO2、屈折率1.5)21と第2の屈折率を有する第2の透明部材(TiO2、屈折率2.5)22とを長さの比率を1:1に設定して交互に配列した周期構造を有し、全長は5μmである。個々の透明部材の長さを変化させて、1組の第1の透明部材21および第2の透明部材22を含む一周期の長さを変化させることにより、カップリング強度を調整することができる。
【0030】
表面プラズモン導波路30は、直径20nmのAuナノ粒子31をSiO2からなる誘電体32中に二次元的に分散させた構造を有する。表面プラズモン導波路30の幅は120nmである。この表面プラズモン導波路30は、以下のようにして作製することができる。すなわち、基板上にAu膜をスパッタリングし、電子ビームリソグラフィによりAuナノ粒子31のパターンを形成し、全面にSiO2からなる誘電体32を堆積した後、表面を平坦する。
【0031】
比較例として、図3の一次元フォトニック結晶を含む結合部20を省略し、SiO2からなる伝播光導波路10と、SiO2からなる誘電体32中にAuナノ粒子31を分散させた表面プラズモン導波路30とを直接結合した光導波路を作製した。
【0032】
まず、比較例の光導波路について、オプティカルパラメトリックアンプシステムのレーザーを用い、伝播光導波路10を通してレーザー光を伝播させ、プラズモン導波路30から出力される光のスペクトルをファイバープローブ型の近接場光学顕微鏡を用いて観測した。図4にその結果を示す。図4から、波長1.17μmで高い出力が得られることがわかる。
【0033】
次に、FDTD(finite difference time domain)シミュレータにより、結合部20における1組の第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さをさまざまに変化させた複数の光導波路について、波長1.17μmで出力を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図5にその結果を示す。図5に示されるように、周期が800nm(0.8μm)の場合に高い出力(カップリング強度)が得られることが予測された。
【0034】
実際に、第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さが0.8μmである結合部20を用いて作製された光導波路は、結合部のない比較例の光導波路に比べて、出力が約20%高くなることがわかった。
【0035】
図6に、周期0.8μmの結合部について、フォトニックバンドを計算した結果を示す。図6には、第1ブリリアンゾーンを図示しているが、第2ブリリアンゾーンに拡張したブランチで、伝播光の分散カーブが表面プラズモンポラリトンの分散カーブと一致していると考えられる。また、本実施例における表面プラズモンポラリトンの分散カーブは、分散状態にあるAuナノ粒子に基づくものであり、Au薄膜上での表面プラズモンポラリトンの分散カーブとは異なっているため、その分散カーブを算出することはできない。ただし、これはAu薄膜上での表面プラズモンポラリトンの分散カーブと近いことが推測できる。
【0036】
なお、屈折率の異なる2種類の透明材料を交互に配置したフォトニック結晶では、透過率に1/e以上の変化を与えることができれば、光学特性が十分に変調されているといえる。ここで、eは自然対数の底で、その値は約2.72である。透過率に1/e以上の変化を与えるには、以下に示すように、2種類の透明材料の屈折率差が約15%以上であることが好ましい。言い換えれば、フォトニック結晶の光学特性を十分に変調させる条件は、2種類の材料が約15%以上の屈折率差を有することである。このように、光学特性が十分に変調しうるフォトニック結晶を用いれば、上記のような方法で、屈折率の異なる2種類の透明材料を含む一周期の長さを変えて、伝播光と表面プラズモンポラリトンとのカップリングが強くなるように結合部の構造を適切に設計することができる。
【0037】
例として、第1の透明材料にSiO2(ガラス、屈折率1.5)を用い、第2の透明材料の屈折率をnxとし、第1の透明材料(ガラス)及び第2の透明材料の厚みを同じと仮定して、nxがどの程度の値であれば透過率に変化を起こさせることが可能かを計算した。ここでは、2種類の透明材料の厚みをそれぞれ200nmとし、nxを変化させながら透過スペクトルの変化を調べた。この場合、あるとびとびの特定の波長において透過率が変化する。nxが1.72のときに、例えば波長約430nmで透過率が約35%となる。これは物理量としての透過率が約1/eになったことを意味しており、フォトニック結晶の光学特性が十分に変調されているといえる。この場合、第1の透明材料(ガラス)の屈折率(1.5)と第2の透明材料の屈折率(nx=1.72)の差は約15%である。
【0038】
また、第1の透明材料としてSiO2の代わりにTiO2(屈折率2.5)を用いた場合、屈折率差が12.4%である第2の透明材料を用いれば、例えば波長710nmで上記と同等に透過率が約1/eになるという効果が得られる。但し、第1および第2の透明材料のうち一方には、ガラスまたはガラスとほぼ同等の屈折率を持つポリマーを用いるのが一般的なので、実質的には2種類の透明材料の屈折率差が15%以上であるという条件が有効である。
【0039】
本発明の実施形態において、フォトニック結晶を形成する第1および第2の透明材料として用いることができる材料を下記の表1に示す。
【表1】
【0040】
フォトニック結晶を形成する第1および第2の透明材料は使用する光の波長で透明であることが要求される。一方、使用する光の波長は光源(半導体レーザー)の出力波長やフォトディテクタの感度特性に依存する。半導体レーザーは出力波長が400nm〜1550nmまでのものが市販されている。フォトディテクタのうちSi系やInGaAs系のものは320nm〜1650nmに感度特性を有する。実用的な波長領域は400nm〜1550nmである。
【0041】
(実施例2)
実施例1におけるAuナノ粒子の代わりに、Agナノ粒子をSiO2からなる誘電体中に二次元的に分散させた表面プラズモン導波路を用いた、光導波路について説明する。光導波路全体の構成は図3と同様である。
【0042】
FDTD(finite difference time domain)シミュレータにより、結合部20における1組の第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さをさまざまに変化させた複数の光導波路について、波長1.1μmで出力光(カップリング強度)を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図7にその結果を示す。図7に示されるように、周期900nm(0.9μm)での出力は、比較例の出力と比べて約2.5倍であった。
【0043】
実際に、第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さが0.9μmである結合部20を用いて作製された光導波路は、結合部のない比較例の光導波路に比べて、出力が約2.5倍になることがわかった。
【0044】
図8に、周期0.9μmの結合部について、フォトニックバンドを計算した結果を示す。バンドギャップ端に近く、ブランチが曲がった部分であることがわかる。伝播光の分散カーブは、Agナノ粒子に基づく表面プラズモンポラリトンのバンドの分散カーブと重なる部分が多いことが推測でき、この結果カップリング強度が実施例1よりもさらに高くなっていると考えられる。
【0045】
(実施例3)
実施例2のSiO2およびTiO2を含む結合部の代わりに、図9に示す結合部20を用いた光導波路について説明する。
【0046】
図9に示すように、ストライプ状の電極202が形成された第1のガラス基板201、トンネリングバリア層203、構造部204、トンネリングバリア層205、ストライプ状の電極207が形成された第2のガラス基板206が積層されている。構造部204は、屈折率変化材料としての(4−ニトロフェニル)フェロセンを1021モル/cm3オーダーの濃度でポリビニルアルコール(PVA)中に分散させたものである。(4−ニトロフェニル)フェロセンは電子注入によって屈折率が変化する。電極202および電極207は対をなして構造部204を挟むように、それぞれストライプ状に形成されている。電極202および電極207は電源ユニット210に接続され、電源ユニット210はコンピュータ220により制御される。
【0047】
電極202および電極207によって構造部204のうち電子が注入される部位、したがって屈折率を変化させる部位を制御でき、屈折率変化の周期を調整できる。構造部204のうち電子が注入される部位での屈折率変化率は最大で約20%になる。こうして、構造部204を、交互に配列された第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを含む一次元フォトニック結晶として用いることができる。
【0048】
図3の結合部の代わりに、図9の結合部20を用い、伝播光導波路10と、構造部204と、表面プラズモン導波路30を、導波方向に沿って1つの平面内に配置した以外は、光導波路全体の構成は図3と同様である。
【0049】
FDTD(finite difference time domain)シミュレータにより、結合部20における屈折率変化の一周期の長さをさまざまに変化させた複数の光導波路について、出力光(カップリング強度)を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図10にその結果を示す。図10に示されるように、周期400nm(0.4μm)での出力は、比較例の出力と比べて約2.3倍であった。
【0050】
実際に、図9の結合部20において、構造部204のうち電子注入する部位を制御することによって、屈折率変化の一周期の長さを0.4μmにした場合、結合部のない比較例の光導波路に比べて、出力が約2.3倍になることがわかった。
【0051】
一方、屈折率変化の周期構造がない結合部を用い、結合部全体の屈折率をさまざまに変化させた複数の光導波路について、出力光(カップリング強度)を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図11にその結果を示す。横軸は、結合部全体の屈折率変化である。図11からわかるように、単に結合部全体の屈折率を変化させただけでは、カップリング強度を向上する効果は得られない。
【0052】
このように、本実施例の光導波路では、図10に示されるように、結合部に屈折率の周期性をもつフォトニック結晶を用いたことによる効果が顕著に現れている。
【0053】
本実施例で用いた(4−ニトロフェニル)フェロセンに限らず、フォトニックバンドに影響を与えられるほど大きな屈折率変化をもたらす材料を用いて図9に示すような結合部を形成すれば、本実施例と同様な効果が得られる。
【0054】
(実施例4)
表面プラズモン導波路においては導波損失の大きさが課題の一つである。表面プラズモンポラリトンは、金属表面において集団自由電子が振動することにより起こる分極に起因しており、表面のみでの現象である。これに対して、導波損失は金属による吸収が大きな原因であると考えられる。吸収には金属の体積が関係する。したがって、表面プラズモンポラリトンの励起効率を高くし、吸収を小さくするには、金属に関して表面積の体積に対する比を大きくすることが有利である。表面プラズモン導波路に金属粒子を用いた場合、このことは金属粒子の粒径を小さくすることに相当する。一方、表面プラズモンは1nm程度以下の金属粒子では励起されないことが知られている。また、表面プラズモンのような近接場相互作用は金属粒子の粒径程度の範囲でしか有効に働かないことが知られている。このため、金属粒子間の間隔を粒径より短くすることが重要になる。
【0055】
以上の点を考慮すると、表面プラズモン導波路に用いられる金属粒子には、適切な粒径や密度が存在することがわかる。これらのパラメータを調整するには、表面に有機リガンドを有する金属粒子を用いることが有効である。
【0056】
実施例1のAuナノ粒子の代わりに、以下の(a)〜(e)に示す表面に有機リガンドを有する平均粒径約5nmの金属粒子を、SiO2からなる誘電体中に二次元的に分散させた表面プラズモン導波路を用いて、光導波路を作製した。
(a)メルカプトコハク酸を結合させたAuナノ粒子、
(b)ドデカンチオールを結合させたAuナノ粒子、
(c)クエン酸を結合させたAuナノ粒子、
(d)トリフェニルホスフィンを結合させたAuナノ粒子、
(e)ドデカンチオールを結合させたAgナノ粒子。
【0057】
その結果、いずれの光導波路でも、実施例1と同様にカップリング強度が約20%増大することが認められた。なお、上記のリガンドに置換基を導入してもよい。
【0058】
次に、金属粒子の平均粒径を10nmにした場合、カップリング強度が約2%増大することが認められた。しかし、金属粒子の平均粒径を10nmより大きくすると、カップリング強度はあまり向上しない。したがって、表面プラズモン導波路に用いる金属粒子の平均粒径は、1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0059】
金属粒子の密度は以下の条件を満たすことが好ましい。誘電体中に球体の金属粒子を粒径と同じ粒子間隔で充填して単純立方格子に配列することを考えた場合、金属粒子の密度は6.54体積%となる。したがって、表面プラズモンを誘起させるためには、金属粒子をこれ以上の密度で充填することが有効である。
【0060】
本実施例の場合、小角X線の結果に基づく計算から、金属粒子の密度は約12体積%であることがわかった。なお、これはリガンドのサイズに影響を受けた値である。
【0061】
(実施例5)
実施例3におけるSiO2中に金属ナノ粒子を分散させた表面プラズモン導波路の代わりに、幅8μm、厚み20nmのAu細線からなる表面プラズモン導波路を用いて光導波路を作製した。
【0062】
この光導波路に、光通信に使用されているのと同じ波長1.55μmのTi:SレーザーのOPO(optical parametric oscillator)光を照射した。実施例3と同様に結合部における屈折率変化の周期を変化させたところ、出力が変化し、屈折率変化の一周期が3.5μmのときにカップリング強度が約10%増大した。
【0063】
(実施例6)
実施例5におけるAu細線からなる表面プラズモン導波路の代わりに、金属粒子のドット列からなる表面プラズモン導波路を用いて光導波路を作製した。具体的には、表面にクエン酸を結合させた粒径40nmのAuナノ粒子を、原子間力顕微鏡(AFM)によって、Auナノ粒子の中心間のピッチが約60nm(粒子間隔:20nm)になるように一列に配列して、長さ12μmの表面プラズモン導波路を作製した。また、結合部の末端と先端のAuナノ粒子との間隔も20nmとした。
【0064】
本実施例では、結合部における屈折率変化の一周期が3.8μmのときにカップリング強度が約8%増大した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】伝播光および表面プラズモンポラリトンの分散カーブを示す図。
【図2】真空中の光の分散カーブ、金属薄膜上における表面プラズモンポラリトンの分散カーブ、透明物質中の光の分散カーブ、およびフォトニック結晶中の光の分散カーブを示す図。
【図3】実施例1の光導波路を示す平面図および断面図。
【図4】比較例の光導波路について観測された出力光のスペクトル図。
【図5】実施例1の光導波路について、結合部の屈折率変化の周期と、カップリング強度との関係を示す図。
【図6】実施例1の光導波路における結合部のフォトニックバンドを示す図。
【図7】実施例2の光導波路について、結合部の屈折率変化の周期と、カップリング強度との関係を示す図。
【図8】実施例2の光導波路における結合部のフォトニックバンドを示す図。
【図9】実施例3の光導波路における結合部を示す斜視図。
【図10】実施例3の光導波路について、結合部の屈折率変化の周期と、カップリング強度との関係を示す図。
【図11】屈折率変化の周期構造がない結合部を有する光導波路について、カップリング強度を示す図。
【符号の説明】
【0066】
10…伝播光導波路、20…結合部、21…第1の透明部材(SiO2)、22…第2の透明部材(TiO2)、30…表面プラズモン導波路、31…Auナノ粒子、32…誘電体、201…第1のガラス基板、202…電極、203…トンネリングバリア層、204…構造部、205…トンネリングバリア層、206…第2のガラス基板、207…電極、310…電源ユニット、320…コンピュータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理容量の増大および情報処理速度の高速化により、電子配線の情報遅延や発熱問題などが発生しており、これらの問題に対する解決手段が求められている。その解決手段として、チップ内光配線技術や、情報処理自体を光で行う技術が研究されている。情報処理を光で行う技術の1つとして、インテルが研究を進めているシリコンフォトニクス(たとえば、高速シリコン光変調器)が知られている。また、半導体の技術ロードマップにおいて、チップ内光配線技術の要求が示されている。
【0003】
光配線および光導波路も微細化が要求されているが、一般に光の回折限界により光機能素子の微細加工には限界が生じる。その対策として有効な技術が“近接場”である。近接場光を用いた光スイッチやプラズモン導波路の研究は精力的に発表されている。また、チップ内光配線などの微細な光配線も、近接場関連技術によって実現する可能性があるといわれている。ところが、発光デバイスおよび外部の光情報処理部品は、近接場光ではなく伝播光で機能する部品であるため、システム全体を考慮すると伝播光と近接場光との変換が不可欠になる。しかし、光とプラズモンポラリトンの分散関係を見れば分かる通り、伝播光と近接場光とでは分散関係が一致しない。これは、エネルギー(または振動数)保存と運動量(または波数)保存とが同時になり立たないという、いわゆる位相不整合の問題である。このため、伝播光と近接場光との変換効率は悪い。たとえば、近接場光学顕微鏡のファイバープローブは、先端部で波数ベクトルが広がるため多数の波数を持ち、そのうち特定の波数のみでエネルギーが一致するので変換効率が悪くなる。
【0004】
近接場光の一つである表面プラズモンポラリトンを導波する光デバイスでも、伝播光を導波する光デバイスとのカップリング効率が大きな課題である。図1に示すように、伝播光と、金属薄膜上の表面プラズモンポラリトンとでは分散カーブが異なることが一般に知られている。したがって、伝播光と表面プラズモンポラリトンとを効率よく変換することは容易ではない。
【0005】
研究や実験のレベルで、伝播光と表面プラズモンポラリトンとを効率よくカップリングさせる一般的な方法として、プリズムによるオットー配置やクレッチマン配置などのATR(attenuated total reflection)法が知られている。この方法は入射角度に応じて波数を調整するものであるが、このような原理に基づく結合部は三次元構造となる。また、ビームスプリッタおよび反射鏡(特許文献1)やレンズ(特許文献2)のような三次元構造の光学系を介して、表面プラズモン導波路に伝播光を入射する装置が知られている。しかし、情報処理システムまたは光回路は二次元構造であるので、三次元構造の結合部を用いたのでは、平面導波路システムを構築できなくなり、集積化に不利である。したがって、伝播光導波路と表面プラズモン導波路との間に設けることができる、伝播光の波数を制御する二次元構造の結合部が要望されている。
【特許文献1】特開2004−20381号公報
【特許文献2】特開2006−171479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、伝播光と近接場光とのカップリング効率を向上するとともに集積化に有利な光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光導波路は、伝播光導波部と、フォトニック結晶を含む結合部と、表面プラズモン導波部とを有し、前記伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、伝播光と近接場光とのカップリング効率を向上するとともに集積化に有利な光導波路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
伝播光と近接場光とを位相整合させるには、伝播光または近接場光の分散関係を調整する。分散関係を変えるには、エネルギー伝達媒体である素励起(フォトン、エキシトン、ポラリトン、プラズモン、プラズモンポラリトンなど)自体を変換する方法、または伝播部材を変えて屈折率を変える方法などが考えられる。しかし、素励起相互作用は効率が悪く、伝播部材を変える場合には任意の屈折率を持つ材料を自由に選択することが難しいという問題がある。
【0010】
本発明の実施形態においては、フォトニック結晶を用いて結合部を形成し、伝播光の分散関係を変化させる。フォトニック結晶とは屈折率の周期構造を有する結晶であり、電磁波の分散関係を変調させることができる。最近では、フォトニック結晶の一つであるフォトニック結晶ファイバーでも伝播光の分散関係を制御できることが報告されている。したがって、フォトニック結晶ファイバーを使用することもできる。
【0011】
フォトニック結晶はバンドの折り返しを示し、屈折率変化の周期を変えることによって、折り返しを自由に変えることができる。このため、伝播光と表面プラズモンポラリトンとの間でエネルギー(または振動数)と運動量(または波数)が一致する点(すなわち波長)が必ずある。また、フォトニックバンドギャップ端近傍では、伝播光の分散カーブの曲率を表面プラズモンポラリトンの曲率に近づけられる可能性がでてくる。そして、このような波長では、伝播光と表面プラズモンポラリトンのカップリング効率を上げることができる。
【0012】
図2に、真空中の光の分散カーブ、金属薄膜上における表面プラズモンポラリトンの分散カーブ、透明物質中の光の分散カーブ、およびフォトニック結晶中の光の分散カーブを示す。図2を参照して上記の議論を再度説明する。真空中の光と、金属薄膜上の表面プラズモンポラリトンとでは分散カーブが異なる点に関しては上述したとおりである。伝播部材としての透明物質の屈折率を適切に選択すれば、図2に示すように、両者のエネルギーと運動量が一致する点を生じさせることができる。しかし、任意の屈折率を持つ材料を自由に選択することは困難である。これに対して、フォトニック結晶ではバンドの折り返しを自由に変えることができるので、伝播光と近接場光との間でエネルギーと運動量が一致する点(2つの分散カーブの交点。図2ではP1およびP2)が必ず存在する。
【0013】
フォトニック結晶は、伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部を、導波方向に沿って1つの平面内に配置することができれば、二次元または三次元のものでもよいが、一次元のものが容易に作製できるので好ましい。
【0014】
フォトニック結晶は、たとえば、第1の屈折率を有する第1の透明部材と、第2の屈折率を有する第2の透明部材とを交互に配列することによって形成することができる。
【0015】
また、フォトニック結晶を含む結合部に、電子注入により屈折率を変化させることができる材料を用い、材料の屈折率を周期的に変化させることにより、伝播光の調整機能を高めることができる。具体的には、結合部を、電子注入により屈折率を変化させることができる材料を含む構造部と、前記構造部を挟んで周期的に配置され前記構造部の一部に選択的に電子を注入する電極とで形成し、前記電極からの電子注入により前記構造部に交互に配列された第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを含むフォトニック結晶を形成するようにする。
【0016】
一般にフォトニックバンドに変調を与えられるほど大きな屈折率変化を示す材料はほとんど存在しないが、以下に説明する材料は電子注入により大きな屈折率変化をもたらすことができる(特開2005−156922号公報、特開2006−98753号公報、特開2006−98996号公報、特開2006−201595号公報参照)。このような材料を用いて構造部を形成する。
【0017】
(1)電子吸引性置換基Xで置換されたメタロセン骨格とアルキル鎖またはエーテル鎖とを有するメタロセン誘導体、占有軌道の電子殻の変化を伴う元素のカチオンとアクセプターとの組み合わせを含む材料、金属微粒子、半導体微粒子、フラーレン分子、またはフラーレン誘導体は電子注入によって屈折率が大きく変化する。このため、このような材料を含む構造部と、この構造部を挟んで周期的に配置された対をなす電極とで結合部を形成すれば、構造部への選択的な電子注入により、屈折率変化の周期を変化させることによって、フォトニック結晶を再構成することができる。したがって、伝播光と表面プラズモンポラリトンとのカップリング効率を測定しながら、最適な屈折率変化の周期をもつフォトニック結晶を得ることができる。
【0018】
ここで、メタロセン骨格に導入される電子吸引性置換基Xとしては、ハロゲノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミド基、アルキルアミド基、アリルアミド基、アリールアミド基、アルコキシアミド基、アリルオキシアミド基、アリールオキシアミド基、スルフォン酸基またはその塩が挙げられる。また、上述した置換基が水素原子を有する場合、その水素原子がさらに上記の置換基、アルキル基、アルコキシ基、アリルオキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルキル基、アリルオキシアルキル基、アリールオキシアルキル基で置換されていてもよい。メタロセン誘導体への電子注入時の波動関数の変化および注入した電子の安定性の観点から、電子吸引性置換基Xを、特にニトロ基、ハロゲノ基、シアノ基、アシル基、スルホ基、ハロゲン化アルキル基、およびこれらの置換基で置換された芳香族炭化水素基または芳香族複素環基からなる群より選択することが効果的である。
【0019】
(2)占有軌道の電子殻の変化を伴う元素のカチオンとアクセプターとの組み合わせを含む材料は、電子注入により電子が入る軌道の電子殻(主量子数)が変化し、大きな分極率変化が期待できる。したがって、(1)の場合と同様に、これらの材料を含む構造部と、この構造部を挟んで周期的に配置された対をなす電極とで結合部を形成すれば、最適なフォトニック結晶を得ることができる。
【0020】
たとえばI族及びII族の元素(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Cu、Ag、Au、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd、Hg)のカチオンと、これらのカチオンへの電子注入による変化の例を以下に挙げる。
【0021】
Li+ → Li Be2+ → Be+
Na+ → Na Mg2+ → Mg+
K+ → K Ca2+ → Ca+
これらのカチオンは、アクセプター基またはアクセプター分子と結合させることによって安定して存在するようになる。カチオンとアクセプターとの組み合わせを一般式で示すと、(M+)(A-)、(M2+)(A-)2、(M2+)(A2-)、(M+)2(A2-)などの例が挙げられる。正および負の電荷が全体で相殺しあって中性になっていれば、これ以外の組み合わせでもよい。また、一分子中に複数のMまたはAが存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0022】
アクセプターとしては、無機酸から1個以上のプロトンを脱離したアニオンまたは有機酸から1個以上のプロトンを脱離したアニオンが挙げられる。
【0023】
無機酸としては、下記の(A1)群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
(A1)塩酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、硝酸、亜硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、シアン酸、イソシアン酸、チオシアン酸、硫化水素、青酸、亜ヒ酸、ホウ酸、リン酸、オルトケイ酸、雷酸、窒化水素酸、マンガン酸、過マンガン酸、クロム酸、および重クロム酸。
【0024】
有機酸としては、下記の(A2)群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
(A2)カルボン酸化合物、例えば酢酸、安息香酸、シュウ酸など、
アルコキシカルボン酸化合物、例えばエトキシ酢酸、p−メトキシ安息香酸など、
ヒドロキシカルボン酸化合物、例えば乳酸、クエン酸、リンゴ酸など、
チオカルボン酸化合物、例えばチオ酢酸、チオ安息香酸など、
ジチオカルボン酸化合物、例えばジチオ酢酸、ブタンビス(ジチオ)酸など、
スルホン酸化合物、例えばエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など、
スルフィン酸化合物、例えばベンゼンスルフィン酸など、
スルフェン酸化合物、例えばベンゼンスルフェン酸など、
ホスホン酸化合物、例えばフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸など、
ホスフィン酸化合物、例えばジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸など、
ヒドロキシ化合物、例えばエタノール、フェノールなど、
チオール化合物、例えばチオメタノール、チオフェノールなど、
ヒドロキシルアミン化合物、例えばヒドロキシルアミン、N−フェニルヒドロキシルアミンなど、
ヒドロキサム酸化合物、例えばアセトヒドロキサム酸、シクロヘキサンカルボヒドロキサム酸など、
オキシム化合物、例えばアセトンオキシム、ベンゾフェノン=オキシムなど、
イミド化合物、例えばフタルイミド、スクシンイミドなど、
ヒドロキシイミド化合物、例えばオキシイミノ酢酸、オキシイミノマロン酸、N−ヒドロキシフタルイミドなど、
カルボン酸アミド化合物、例えば酢酸アミド、p−アミノ安息香酸アミドなど、
カルボン酸ヒドラジド化合物、例えば酢酸ヒドラジド、ベンゾヒドラジド、4−アミノ安息香酸ヒドラジドなど、
ポルフィリン化合物、例えばポルフィン、エチオポルフィリンなど、
フタロシアニン化合物、例えばフタロシアニンなど、および
ヒドラゾン化合物、例えばベンズアルデヒド=ヒドラゾン、アセトン=ヒドラゾン、2−ピリジンカルボアルデヒド=2−ピリジルヒドラゾンなど。
【0025】
本発明の実施形態において、表面プラズモン導波部は、金や銀などの金属の、薄膜、細線、ドット列などの形態で形成することができる。特に、表面プラズモン導波部を、金属粒子を二次元的に集積して形成すると、バルク金属の吸収が小さく表面積が広がるため、表面プラズモン導波に適している。金属粒子の表面に局在化する近接場光はその粒子のサイズ程度の幅しか相互作用しないため、粒子同士の相互作用で近接場光を伝播させる場合には、粒子同士を近接場光の範囲内で隣接させて高密度化する。具体的には、金属粒子を粒径より短い間隔を隔てて配置する。
【0026】
上記のように金属粒子を高密度化するために、表面に有機リガンドを有する金属粒子を用いてもよい。このような材料は、金属粒子がコア、有機リガンドがシェルである、コアシェル構造をなす。この材料では、金属粒子を1nm程度のサイズまで小さくし、かつ高密度に充填することができる。表面に有機リガンドを有する金属粒子の表面プラズモンポラリトンの分散カーブは、金属薄膜上の表面プラズモンポラリトンの分散カーブと少し異なるものの、両者の特性は近いと推測される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
図3(a)は本実施例における光導波路を示す平面図、図3(b)は断面図である。この光導波路では、伝播光導波路10と、一次元フォトニック結晶を含む結合部20と、表面プラズモン導波路30が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されている。
【0028】
伝播光導波路10はSiO2からなる平面導波路である。
【0029】
結合部20は、第1の屈折率を有する第1の透明部材(SiO2、屈折率1.5)21と第2の屈折率を有する第2の透明部材(TiO2、屈折率2.5)22とを長さの比率を1:1に設定して交互に配列した周期構造を有し、全長は5μmである。個々の透明部材の長さを変化させて、1組の第1の透明部材21および第2の透明部材22を含む一周期の長さを変化させることにより、カップリング強度を調整することができる。
【0030】
表面プラズモン導波路30は、直径20nmのAuナノ粒子31をSiO2からなる誘電体32中に二次元的に分散させた構造を有する。表面プラズモン導波路30の幅は120nmである。この表面プラズモン導波路30は、以下のようにして作製することができる。すなわち、基板上にAu膜をスパッタリングし、電子ビームリソグラフィによりAuナノ粒子31のパターンを形成し、全面にSiO2からなる誘電体32を堆積した後、表面を平坦する。
【0031】
比較例として、図3の一次元フォトニック結晶を含む結合部20を省略し、SiO2からなる伝播光導波路10と、SiO2からなる誘電体32中にAuナノ粒子31を分散させた表面プラズモン導波路30とを直接結合した光導波路を作製した。
【0032】
まず、比較例の光導波路について、オプティカルパラメトリックアンプシステムのレーザーを用い、伝播光導波路10を通してレーザー光を伝播させ、プラズモン導波路30から出力される光のスペクトルをファイバープローブ型の近接場光学顕微鏡を用いて観測した。図4にその結果を示す。図4から、波長1.17μmで高い出力が得られることがわかる。
【0033】
次に、FDTD(finite difference time domain)シミュレータにより、結合部20における1組の第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さをさまざまに変化させた複数の光導波路について、波長1.17μmで出力を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図5にその結果を示す。図5に示されるように、周期が800nm(0.8μm)の場合に高い出力(カップリング強度)が得られることが予測された。
【0034】
実際に、第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さが0.8μmである結合部20を用いて作製された光導波路は、結合部のない比較例の光導波路に比べて、出力が約20%高くなることがわかった。
【0035】
図6に、周期0.8μmの結合部について、フォトニックバンドを計算した結果を示す。図6には、第1ブリリアンゾーンを図示しているが、第2ブリリアンゾーンに拡張したブランチで、伝播光の分散カーブが表面プラズモンポラリトンの分散カーブと一致していると考えられる。また、本実施例における表面プラズモンポラリトンの分散カーブは、分散状態にあるAuナノ粒子に基づくものであり、Au薄膜上での表面プラズモンポラリトンの分散カーブとは異なっているため、その分散カーブを算出することはできない。ただし、これはAu薄膜上での表面プラズモンポラリトンの分散カーブと近いことが推測できる。
【0036】
なお、屈折率の異なる2種類の透明材料を交互に配置したフォトニック結晶では、透過率に1/e以上の変化を与えることができれば、光学特性が十分に変調されているといえる。ここで、eは自然対数の底で、その値は約2.72である。透過率に1/e以上の変化を与えるには、以下に示すように、2種類の透明材料の屈折率差が約15%以上であることが好ましい。言い換えれば、フォトニック結晶の光学特性を十分に変調させる条件は、2種類の材料が約15%以上の屈折率差を有することである。このように、光学特性が十分に変調しうるフォトニック結晶を用いれば、上記のような方法で、屈折率の異なる2種類の透明材料を含む一周期の長さを変えて、伝播光と表面プラズモンポラリトンとのカップリングが強くなるように結合部の構造を適切に設計することができる。
【0037】
例として、第1の透明材料にSiO2(ガラス、屈折率1.5)を用い、第2の透明材料の屈折率をnxとし、第1の透明材料(ガラス)及び第2の透明材料の厚みを同じと仮定して、nxがどの程度の値であれば透過率に変化を起こさせることが可能かを計算した。ここでは、2種類の透明材料の厚みをそれぞれ200nmとし、nxを変化させながら透過スペクトルの変化を調べた。この場合、あるとびとびの特定の波長において透過率が変化する。nxが1.72のときに、例えば波長約430nmで透過率が約35%となる。これは物理量としての透過率が約1/eになったことを意味しており、フォトニック結晶の光学特性が十分に変調されているといえる。この場合、第1の透明材料(ガラス)の屈折率(1.5)と第2の透明材料の屈折率(nx=1.72)の差は約15%である。
【0038】
また、第1の透明材料としてSiO2の代わりにTiO2(屈折率2.5)を用いた場合、屈折率差が12.4%である第2の透明材料を用いれば、例えば波長710nmで上記と同等に透過率が約1/eになるという効果が得られる。但し、第1および第2の透明材料のうち一方には、ガラスまたはガラスとほぼ同等の屈折率を持つポリマーを用いるのが一般的なので、実質的には2種類の透明材料の屈折率差が15%以上であるという条件が有効である。
【0039】
本発明の実施形態において、フォトニック結晶を形成する第1および第2の透明材料として用いることができる材料を下記の表1に示す。
【表1】
【0040】
フォトニック結晶を形成する第1および第2の透明材料は使用する光の波長で透明であることが要求される。一方、使用する光の波長は光源(半導体レーザー)の出力波長やフォトディテクタの感度特性に依存する。半導体レーザーは出力波長が400nm〜1550nmまでのものが市販されている。フォトディテクタのうちSi系やInGaAs系のものは320nm〜1650nmに感度特性を有する。実用的な波長領域は400nm〜1550nmである。
【0041】
(実施例2)
実施例1におけるAuナノ粒子の代わりに、Agナノ粒子をSiO2からなる誘電体中に二次元的に分散させた表面プラズモン導波路を用いた、光導波路について説明する。光導波路全体の構成は図3と同様である。
【0042】
FDTD(finite difference time domain)シミュレータにより、結合部20における1組の第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さをさまざまに変化させた複数の光導波路について、波長1.1μmで出力光(カップリング強度)を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図7にその結果を示す。図7に示されるように、周期900nm(0.9μm)での出力は、比較例の出力と比べて約2.5倍であった。
【0043】
実際に、第1の透明部材(SiO2)21および第2の透明部材(TiO2)22を含む一周期の長さが0.9μmである結合部20を用いて作製された光導波路は、結合部のない比較例の光導波路に比べて、出力が約2.5倍になることがわかった。
【0044】
図8に、周期0.9μmの結合部について、フォトニックバンドを計算した結果を示す。バンドギャップ端に近く、ブランチが曲がった部分であることがわかる。伝播光の分散カーブは、Agナノ粒子に基づく表面プラズモンポラリトンのバンドの分散カーブと重なる部分が多いことが推測でき、この結果カップリング強度が実施例1よりもさらに高くなっていると考えられる。
【0045】
(実施例3)
実施例2のSiO2およびTiO2を含む結合部の代わりに、図9に示す結合部20を用いた光導波路について説明する。
【0046】
図9に示すように、ストライプ状の電極202が形成された第1のガラス基板201、トンネリングバリア層203、構造部204、トンネリングバリア層205、ストライプ状の電極207が形成された第2のガラス基板206が積層されている。構造部204は、屈折率変化材料としての(4−ニトロフェニル)フェロセンを1021モル/cm3オーダーの濃度でポリビニルアルコール(PVA)中に分散させたものである。(4−ニトロフェニル)フェロセンは電子注入によって屈折率が変化する。電極202および電極207は対をなして構造部204を挟むように、それぞれストライプ状に形成されている。電極202および電極207は電源ユニット210に接続され、電源ユニット210はコンピュータ220により制御される。
【0047】
電極202および電極207によって構造部204のうち電子が注入される部位、したがって屈折率を変化させる部位を制御でき、屈折率変化の周期を調整できる。構造部204のうち電子が注入される部位での屈折率変化率は最大で約20%になる。こうして、構造部204を、交互に配列された第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを含む一次元フォトニック結晶として用いることができる。
【0048】
図3の結合部の代わりに、図9の結合部20を用い、伝播光導波路10と、構造部204と、表面プラズモン導波路30を、導波方向に沿って1つの平面内に配置した以外は、光導波路全体の構成は図3と同様である。
【0049】
FDTD(finite difference time domain)シミュレータにより、結合部20における屈折率変化の一周期の長さをさまざまに変化させた複数の光導波路について、出力光(カップリング強度)を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図10にその結果を示す。図10に示されるように、周期400nm(0.4μm)での出力は、比較例の出力と比べて約2.3倍であった。
【0050】
実際に、図9の結合部20において、構造部204のうち電子注入する部位を制御することによって、屈折率変化の一周期の長さを0.4μmにした場合、結合部のない比較例の光導波路に比べて、出力が約2.3倍になることがわかった。
【0051】
一方、屈折率変化の周期構造がない結合部を用い、結合部全体の屈折率をさまざまに変化させた複数の光導波路について、出力光(カップリング強度)を調べ、比較例の出力に対する比を計算した。図11にその結果を示す。横軸は、結合部全体の屈折率変化である。図11からわかるように、単に結合部全体の屈折率を変化させただけでは、カップリング強度を向上する効果は得られない。
【0052】
このように、本実施例の光導波路では、図10に示されるように、結合部に屈折率の周期性をもつフォトニック結晶を用いたことによる効果が顕著に現れている。
【0053】
本実施例で用いた(4−ニトロフェニル)フェロセンに限らず、フォトニックバンドに影響を与えられるほど大きな屈折率変化をもたらす材料を用いて図9に示すような結合部を形成すれば、本実施例と同様な効果が得られる。
【0054】
(実施例4)
表面プラズモン導波路においては導波損失の大きさが課題の一つである。表面プラズモンポラリトンは、金属表面において集団自由電子が振動することにより起こる分極に起因しており、表面のみでの現象である。これに対して、導波損失は金属による吸収が大きな原因であると考えられる。吸収には金属の体積が関係する。したがって、表面プラズモンポラリトンの励起効率を高くし、吸収を小さくするには、金属に関して表面積の体積に対する比を大きくすることが有利である。表面プラズモン導波路に金属粒子を用いた場合、このことは金属粒子の粒径を小さくすることに相当する。一方、表面プラズモンは1nm程度以下の金属粒子では励起されないことが知られている。また、表面プラズモンのような近接場相互作用は金属粒子の粒径程度の範囲でしか有効に働かないことが知られている。このため、金属粒子間の間隔を粒径より短くすることが重要になる。
【0055】
以上の点を考慮すると、表面プラズモン導波路に用いられる金属粒子には、適切な粒径や密度が存在することがわかる。これらのパラメータを調整するには、表面に有機リガンドを有する金属粒子を用いることが有効である。
【0056】
実施例1のAuナノ粒子の代わりに、以下の(a)〜(e)に示す表面に有機リガンドを有する平均粒径約5nmの金属粒子を、SiO2からなる誘電体中に二次元的に分散させた表面プラズモン導波路を用いて、光導波路を作製した。
(a)メルカプトコハク酸を結合させたAuナノ粒子、
(b)ドデカンチオールを結合させたAuナノ粒子、
(c)クエン酸を結合させたAuナノ粒子、
(d)トリフェニルホスフィンを結合させたAuナノ粒子、
(e)ドデカンチオールを結合させたAgナノ粒子。
【0057】
その結果、いずれの光導波路でも、実施例1と同様にカップリング強度が約20%増大することが認められた。なお、上記のリガンドに置換基を導入してもよい。
【0058】
次に、金属粒子の平均粒径を10nmにした場合、カップリング強度が約2%増大することが認められた。しかし、金属粒子の平均粒径を10nmより大きくすると、カップリング強度はあまり向上しない。したがって、表面プラズモン導波路に用いる金属粒子の平均粒径は、1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0059】
金属粒子の密度は以下の条件を満たすことが好ましい。誘電体中に球体の金属粒子を粒径と同じ粒子間隔で充填して単純立方格子に配列することを考えた場合、金属粒子の密度は6.54体積%となる。したがって、表面プラズモンを誘起させるためには、金属粒子をこれ以上の密度で充填することが有効である。
【0060】
本実施例の場合、小角X線の結果に基づく計算から、金属粒子の密度は約12体積%であることがわかった。なお、これはリガンドのサイズに影響を受けた値である。
【0061】
(実施例5)
実施例3におけるSiO2中に金属ナノ粒子を分散させた表面プラズモン導波路の代わりに、幅8μm、厚み20nmのAu細線からなる表面プラズモン導波路を用いて光導波路を作製した。
【0062】
この光導波路に、光通信に使用されているのと同じ波長1.55μmのTi:SレーザーのOPO(optical parametric oscillator)光を照射した。実施例3と同様に結合部における屈折率変化の周期を変化させたところ、出力が変化し、屈折率変化の一周期が3.5μmのときにカップリング強度が約10%増大した。
【0063】
(実施例6)
実施例5におけるAu細線からなる表面プラズモン導波路の代わりに、金属粒子のドット列からなる表面プラズモン導波路を用いて光導波路を作製した。具体的には、表面にクエン酸を結合させた粒径40nmのAuナノ粒子を、原子間力顕微鏡(AFM)によって、Auナノ粒子の中心間のピッチが約60nm(粒子間隔:20nm)になるように一列に配列して、長さ12μmの表面プラズモン導波路を作製した。また、結合部の末端と先端のAuナノ粒子との間隔も20nmとした。
【0064】
本実施例では、結合部における屈折率変化の一周期が3.8μmのときにカップリング強度が約8%増大した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】伝播光および表面プラズモンポラリトンの分散カーブを示す図。
【図2】真空中の光の分散カーブ、金属薄膜上における表面プラズモンポラリトンの分散カーブ、透明物質中の光の分散カーブ、およびフォトニック結晶中の光の分散カーブを示す図。
【図3】実施例1の光導波路を示す平面図および断面図。
【図4】比較例の光導波路について観測された出力光のスペクトル図。
【図5】実施例1の光導波路について、結合部の屈折率変化の周期と、カップリング強度との関係を示す図。
【図6】実施例1の光導波路における結合部のフォトニックバンドを示す図。
【図7】実施例2の光導波路について、結合部の屈折率変化の周期と、カップリング強度との関係を示す図。
【図8】実施例2の光導波路における結合部のフォトニックバンドを示す図。
【図9】実施例3の光導波路における結合部を示す斜視図。
【図10】実施例3の光導波路について、結合部の屈折率変化の周期と、カップリング強度との関係を示す図。
【図11】屈折率変化の周期構造がない結合部を有する光導波路について、カップリング強度を示す図。
【符号の説明】
【0066】
10…伝播光導波路、20…結合部、21…第1の透明部材(SiO2)、22…第2の透明部材(TiO2)、30…表面プラズモン導波路、31…Auナノ粒子、32…誘電体、201…第1のガラス基板、202…電極、203…トンネリングバリア層、204…構造部、205…トンネリングバリア層、206…第2のガラス基板、207…電極、310…電源ユニット、320…コンピュータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝播光導波部と、フォトニック結晶を含む結合部と、表面プラズモン導波部とを有し、前記伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されていることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記フォトニック結晶は、交互に配列された第1の屈折率を有する第1の透明部材と第2の屈折率を有する第2の透明部材とを含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記第1の透明部材と前記第2の透明部材との屈折率差が15%以上であることを特徴とする請求項2に記載の光導波路。
【請求項4】
前記結合部は、電子吸引性置換基で置換されたメタロセン骨格とアルキル鎖またはエーテル鎖とを有するメタロセン誘導体、占有軌道の電子殻の変化を伴う元素のカチオンとアクセプターとの組み合わせを含む材料、金属微粒子、半導体微粒子、フラーレン分子、およびフラーレン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む構造部と、前記構造部を挟んで周期的に配置され、前記構造部の一部に選択的に電子を注入する電極とを有し、前記構造部は前記電極からの電子注入により、交互に配列された第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを含むフォトニック結晶を形成することを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項5】
前記表面プラズモン導波部は粒径より短い間隔を隔てて配置された金属粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項6】
前記金属粒子は金または銀であることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項7】
前記金属粒子は誘電体中に分散されていることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項8】
前記金属粒子は二次元的に配列していることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項9】
前記金属粒子は一次元的に配列していることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項10】
前記金属粒子はその表面に有機リガンドを有することを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項11】
前記有機リガンドは、メルカプトコハク酸、アルカンチオール、クエン酸、およびトリフェニルホスフィンからなる群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の光導波路。
【請求項12】
前記表面プラズモン導波部は金属線を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項13】
前記金属線は金または銀であることを特徴とする請求項12に記載の光導波路。
【請求項1】
伝播光導波部と、フォトニック結晶を含む結合部と、表面プラズモン導波部とを有し、前記伝播光導波部、結合部および表面プラズモン導波部が、導波方向に沿って1つの平面内に配置されていることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記フォトニック結晶は、交互に配列された第1の屈折率を有する第1の透明部材と第2の屈折率を有する第2の透明部材とを含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記第1の透明部材と前記第2の透明部材との屈折率差が15%以上であることを特徴とする請求項2に記載の光導波路。
【請求項4】
前記結合部は、電子吸引性置換基で置換されたメタロセン骨格とアルキル鎖またはエーテル鎖とを有するメタロセン誘導体、占有軌道の電子殻の変化を伴う元素のカチオンとアクセプターとの組み合わせを含む材料、金属微粒子、半導体微粒子、フラーレン分子、およびフラーレン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む構造部と、前記構造部を挟んで周期的に配置され、前記構造部の一部に選択的に電子を注入する電極とを有し、前記構造部は前記電極からの電子注入により、交互に配列された第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを含むフォトニック結晶を形成することを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項5】
前記表面プラズモン導波部は粒径より短い間隔を隔てて配置された金属粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項6】
前記金属粒子は金または銀であることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項7】
前記金属粒子は誘電体中に分散されていることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項8】
前記金属粒子は二次元的に配列していることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項9】
前記金属粒子は一次元的に配列していることを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項10】
前記金属粒子はその表面に有機リガンドを有することを特徴とする請求項5に記載の光導波路。
【請求項11】
前記有機リガンドは、メルカプトコハク酸、アルカンチオール、クエン酸、およびトリフェニルホスフィンからなる群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の光導波路。
【請求項12】
前記表面プラズモン導波部は金属線を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項13】
前記金属線は金または銀であることを特徴とする請求項12に記載の光導波路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−242300(P2008−242300A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85699(P2007−85699)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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