説明

光核分裂によって核物質を調査するための方法および装置

本発明は、放射線放射元素を潜在的に含む物品を調査すべく光核分裂を使用するための方法およびシステムに関する。物品が、充分なエネルギーの電子のビームによって照射され、それら電子が調査対象の物品内において直接、制動放射によって光子へと変換されるが、この物品がおそらくは光核分裂物質を含む。この変換を実行するために、パッケージにターゲットを追加する必要はない。好ましくは、調査対象の物品が放射性廃棄物のパッケージであり、容器が厚くて吸収性のあるコンクリートで作られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核物質を含む物品を調査するための方法および装置に関する。物質は、核物質に含まれるアクチニド元素の光核分裂を生じさせるため、充分なエネルギーを有する粒子のビームによって照射される。
【背景技術】
【0002】
光核分裂は、核分裂であり、すなわち重原子の原子核が分裂して、特定量のエネルギーが放出されるが、とくにはウラニウムおよびプルトニウムなどといったアクチニド元素にエネルギー光子を入射させることによって生じる。衝突を受けた原子の脱励起によって、はるかに少量の遅延中性子を伴い、即発中性子の放射を生じる。中性子検出器が、とくには存在するアクチニド元素を検出すべく機能する。
【0003】
本発明は、核廃棄物パッケージを特徴づける分野において、とくにはそれらをどこに保管すべきかを判断するために、きわめて好都合な用途を見つける。用語「パッケージ」は、約1メートルまたはそれ以上の直径を有するコンクリート製廃棄物ドラムを指し、あるいは実際には、数立方メートルにもなりうる体積を有する金属容器を指す。また、放射性廃棄物を保管する場合には、放射線の放射体、とくにはアクチニド元素の性質および放射能の量を知ることも、重要である。
【0004】
米国特許第4617169号(Brodzinski)では、廃棄物パッケージ中の核物質を検出するための受動的方法を提案している。この方法は、プローブ粒子を使用していない。パッケージの外に配置されたガンマ検出器および中性子検出器の両者によって、存在している放射性原子核のガンマ線特性、あるいは適切であれば中性子の放射を、抽出しようと試みている。この技法は、核廃棄物パッケージを特徴づけるために一般的に使用されている。しかしながら、完全にパッケージ内にとどめられてしまうアルファ放射の放射体を特定することはできず、少量の放射性物質を含む寸法の大きなパッケージを調査するのには適していない。
【0005】
より感度が高く、きわめて低い検出限界を有することを可能にする能動的方法も、知られている。そのような方法において、廃棄物は、廃棄物ドラムの直近に配置されたターゲットへと電子を衝突させることによって得られる中性子および/または光子の流束にさらされる。
【0006】
プローブ粒子として、光子または中性子が使用され、あるいは両者が一緒に使用される。
【0007】
一般的にはガンマ型の光子を、放射線崩壊または制動放射(「braking radiation」)によって生成することができる。そのような状況においては、充分なエネルギー(数メガ電子ボルト(MeV))を有する電子のビームが一般的にはタングステンで作られるターゲットに衝突し、ターゲット内の原子のきわめて近くを通過する電子が、入射電子のエネルギー程度のエネルギーのガンマ光子を特徴とする制動放射を生じさせる。
【0008】
他の選択肢を構成している中性子は、中性子源によって直接生み出すことができ、あるいは核反応から、例えば変換器を構成しているベリリウム・ターゲットを照射することによって生み出すことができる。すなわち、米国特許第4497768号(Caldwell)では、ガンマ光子および中性子のパルス照射から、サンプル中の核分裂性または燃料親物質の量のみを評価することを提案している。米国特許第5495106号(Matsny)は、パルス状のX線照射から地中に存在しうる汚染を測定するための構成を提案している。米国特許第5838759号(Armistead)は、X線放射体に対して移動している容器をX線または中性子で照射することによって、核物質中の禁制品を防止するためのツールを提案している。仏国特許第2726090号(Umiastowskiの米国特許第5828069号に相当)は、中性子減速層と遮蔽用カドミウム層とを有する中性子の計数のための囲いを記載している。
【0009】
最後に、仏国特許第2764383号(Umiastowskiの米国特許第6452992号に相当)が知られており、以下でさらに詳しく説明される。一般に、数MeVの光子と原子核との間の相互作用は、励起が充分であるという条件で、原子核に核反応を生じさせるための充分なエネルギーをもたらすことができる。原子核は、一般的には、1つ(または、それ以上)の光子または1つ(または、それ以上)の中性子を放射し、あるいは実際には、より稀ではあるが荷電粒子(p、α、・・・)を放射して脱励起する。アクチニド元素においては、励起された原子核が、分裂によっても崩壊しうる。原子核による光子の実効捕獲断面積が比較的大きいエネルギー範囲が存在する。これが、巨大双極子共鳴(GDR)範囲である。中間のエネルギー(典型的には、軽原子核について25MeVから重原子核について12MeVの範囲にある)においては、原子核が集団モードで励起され、中性子に対して移動する陽子に起因して電気共振モードを生じさせる。全断面の積分が、双極子総和則
【0010】
【数1】

によって与えられ、ここでN、Z、およびAは、従来どおり中性子、陽子、および核子の総数を表わしている。
【0011】
GDRが、それ自身は電磁気的な起源のものであるにもかかわらす、例えば中性子の反応といった標準的な原子核(強力な相互作用)の反応と同程度である数分の1バーンの断面を誘起できることを、見て取ることができる。これらのエネルギーの光子によって、きわめて重要な物理現象が構成される。
【0012】
マイナーアクチニド原子において、主要な脱励起の経路は、主として(γ、n)および(γ、2n)の中性子の放射および光核分裂(分裂による崩壊)である。これら3つの考えられる経路は、実際上は公算が同程度であることが分かっている。したがって、実際において、核分裂が、総積分光核断面積の3分の1に寄与する。
【0013】
仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)は、図1に示すようなシステムを記載している。粒子加速器5によって供給される電子からガンマ光子を生成するために使用される変換器1を見て取ることができる。電子が、変換器1を構成しているターゲット内の原子の原子核にきわめて近づくと、それらが制動放射を生成して、エネルギーを失う。この形式のいくつかの相互作用が、電子が実質的にすべてのエネルギーを失うまで連続して生じる。光子2が気中を通過し、調査対象のパッケージ3へと届けられる。したがって、これらの光子がプローブとして使用される。検出は、パッケージの周囲を巡って位置する中性子検出器4によって実行される。電子のパケットが送信されたときの「ガンマ・フラッシュ」の大きさゆえ、検出器4は、2つの方向へ惑わされてしまう。第1に、電子ビームから制動放射によって生成される膨大な量のガンマ光子が、中性子検出器のイオン化につながることができる。第2に、変換ターゲットが、大きな原子番号を有しているために、光子の照射の作用のもとで、光核分裂から由来する即発中性子の量よりも多い量の寄生中性子を生み出す。
【0014】
光子プローブを使用する米国特許第4497768号および第6452992号に教示の従来技術によれば、「ガンマ・フラッシュ」が、有用な信号よりも数桁も大きい背景雑音を引き起こす。米国特許第4497768号が提案する1つの解決策は、最初に中性子を熱中性子化し、次いで中性子によって引き起こされる分裂反応に由来し、すなわちフラッシュ後の約0.5ミリ秒(ms)から2.5msにおける即発中性子を、低速な熱中性子を吸収すべく検出器をカドミウムで囲むことによって測定することからなる。即座の結果として、有用な信号を紛らわせてしまうきわめて顕著な中性子環境(中性子雑音)を生成することになってしまう。
【0015】
他の文献、すなわち米国特許第5838759号は、プローブ粒子としての中性子を生成するために放射線源およびベリリウム変換器を利用し、次いで中性子を捕獲した元素の特徴であるガンマ放射線を、ガンマ検出器を利用することによって測定している。しかしながら、この技法においては、中性子フラッシュが検出器を惑わさせてしまい、フラッシュの後でのみ測定を行なわなければならないようにしている。
【0016】
最後に、米国特許第5495106号は、地中に存在する汚染物質、すなわちウラニウム、プルトニウム、およびベリリウムに光核分裂を生じさせるために、X線(実際には、ターゲットに衝突する電子の制動放射によって生成されるガンマ線)の使用を提案している。次いで、これらの汚染物質によって生成された中性子を、光子のパルスの送入後の100msまで測定することを提案している。
【0017】
したがって、「ガンマ・フラッシュ」の際に検出器4を禁止する必要があり、これがシステムを、フラッシュの後充分に到着する遅延中性子の測定に限定している。この検出の結果が、パッケージ内に存在するアクチニド元素を特定することができないというものであり、これが当該方法の第1の限界を構成している。
【0018】
さらに、中性子は、ひとたび生成されると直線状に移動を続け、パッケージの特定の位置へと導くことはできないため、通常はパッケージが全体として調査される。したがって、当該従来技術のシステムにおいては、パッケージ内において正確に廃棄物の位置を突き止めることはできない。
【0019】
さらに、制動放射中性子のスペクトルは、ゼロから入射電子の最大エネルギー(電子が停止させられ、そのエネルギーのすべてが放射される稀な状況)まで広がる。例として、そのようなスペクトルは図2に示すとおりであり、ここでは50MeVの電子が厚さ5ミリメートル(mm)のタングステン変換器に衝突している。光子密度は、エネルギーとともに指数関数的に減少し、したがって大部分の光子は低いエネルギーにて放射される。この例では、それぞれの電子が、平均で約40個の光子を放射するが、そのうちのわずか0.6個が、GDRのために「有用」なエネルギー範囲、すなわち10MeVから20Mevにある。
【0020】
放射された光子が調査されるターゲットに存在するアクチニド原子核と相互作用する場合、それらのうちの正しいエネルギーを有するものが、巨大双極子共鳴(GDR)を励起でき、おそらくは原子核の分裂を引き起こすことができる。
【0021】
分裂の際、脱励起において中性子が放射され、それらは即発中性子である。しかしながら、分裂片そのものが、通常は放射性であって励起状態にある。それらのいくらかが、分裂そのものに対して或る時間遅延(これは、分裂片の半減期に依存する)をともなって中性子を放射し、それらが遅延中性子である。
【0022】
アクチニド元素の量の検出は、加速器によってターゲットへと電子の集中射撃が届けられてガンマ・フラッシュが生成された後のこれらの遅延中性子の数の測定に依存している。
【0023】
光核分裂によって生成される遅延中性子の量は、以下の線形関係に従って、存在するアクチニド元素の質量に比例する。
【0024】
【数2】

1秒当たりに放射される遅延中性子の数は、分裂(光核分裂によって)が可能な元素の質量に比例し、平均電子電流に比例する。比例定数は、光子の収率に依存して決まり、光子の運搬および減衰に依存して決まり、考慮対象の種々の元素の断面積に依存して決まる。
【0025】
仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)に記載の方法が、遅延中性子の数を測定することによって、ターゲット内のアクチニド元素の総質量の推論を可能にしていることに、注意すべきである。したがって、この測定が、高速(パッケージが配置されるやいなや数分間から数時間)かつ非破壊的であるため、最も好都合である。しかしながら、異なるアクチニド元素を直接特定することを可能にしてはいない。
【0026】
仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)による方法の第2の限界は、アクチニド元素の質量が測定されるにすぎず、それらの放射能の量は測定されない点にある。
【0027】
遅延中性子が、パッケージの内側で放射され、それらの数nは、電子ビームの強度およびパッケージに存在するアクチニド元素の質量mに比例する。放射後に、それらは繰り返しの衝突および減速にさらされ、次いでパッケージの外へと拡散し、大気を通って移動して検出器に達する。このプロセスは、検出される遅延中性子の数が、主としてパッケージ内での吸収ゆえに、放射される中性子の数の小さな一部であることを意味する。
【0028】
検出される遅延中性子の割合は、廃棄物パッケージ内で移動しなければならない距離が小さいほど、増加する。すなわち、パッケージ内におけるアクチニド元素の位置に強く依存する。したがって、アクチニド元素の位置とパッケージの外部との間の距離をdで表わすと、検出される中性子の数nは、以下の近似関係によって検出器の毎秒のパルス数Sに関係する。
【0029】
【数3】

比例定数は、装置の形状(立体角)および使用される検出器の効率(検出器に到達する中性子1つ当たりのカウント数)に依存して決まる。厳密に言えば、係数αおよび比例定数は、中性子のエネルギーに依存して決まる。しかしながら、実務においては、遅延中性子のエネルギー・スペクトルを、平均エネルギーを450keV付近に有する従来の分裂(中性子によって誘起される)のものと同一であると仮定することができる。これは、廃棄物パッケージ内に存在するアクチニド元素の種類に依存して相違しうるスペクトル分布の発生を除去できるようにする。したがって、放射性物質の量mおよびそのパッケージ内における位置(所与の検出器からの距離dに関して表現される)という2つの未知数のみが、依然として残る。これら2つの未知数を割り出すため、複数の検出器が使用され、あるいは例えばパッケージをパッケージの中心軸を中心として回転させることによって、複数回の測定が使用される。測定の精度を改善するため、両方の技法を一緒に使用することができる。
【0030】
したがって、検出器によって測定されるカウント数と総アクチニド質量との間の直接の関係
【0031】
【数4】

を書くことができ、ここでAは、先の測定(較正)に依存するパラメータと考えられる。検出器によって測定される1秒当たりのパルスの数Sがパッケージ内に存在するアクチニド元素の質量mに比例することが、明白に証明されている。
【0032】
各検出器が、自身の比例定数Aに対応する正確な値を得るために、このようにして較正される。通過される物質の厚さdが未知であるため、複数の検出器(理論上は、180°でパッケージの各側に位置する2つの検出器で充分である)を使用し、2つの未知数dおよびmをそこから導き出すことが可能である。当然ながら、複数のアクチニド元素が複数の位置に位置し、すべてが放射を行っているというきわめてありそうな状況においては、それらの種々の寄与を合計する必要がある。
【0033】
仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)による方法の第3の限界は、雑音にあり、これがシステムの感度を、パッケージの保管分類への分類、ならびに保管すべき場所の決定を可能にするためには高すぎる値に制限している。
【0034】
この検出限界が、15MeVの電子については1トンにつき約5グラム(約5g/t)であることが、実験から示されている。当然ながら、アクチニド元素がパッケージの中央にない場合、あるいはパッケージの寸法が小さい場合、検出限界ははるかに小さくなる(指数関数的変化)であろう。
【0035】
しかしながら、この5g/tという限界は、この技法をパッケージの行き先の決定に使用し、おそらくは廃棄物AからBへの分類の変更に使用するためには、きわめて高すぎる。例として、核廃棄物を含むパッケージが、1.74の平均相対密度を有するコンクリートで覆われていると仮定する。1.5×1.5×1.2メートル(m)の寸法について、パッケージの総重量は4.7(メトリック)トン(t)である。パッケージが、主として239Puを含むと仮定する。
【0036】
TFAパッケージ保管における最大許容放射能の量(当該同位元素について)は、1グラム当たり100ベクレル(100Bq/g)である。239Puの放射能は、1グラム当たり2.284ギガベクレル(2.284GBq/g)である。したがって、この種のパッケージについてのTFA分類限界が、
【0037】
【数5】

を満足する必要があることを、導き出すことができる。
【0038】
したがって、重量が約4.7tであるこのパッケージについて、200ミリグラム(mg)未満の質量を検出できる必要がある。仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)のシステムを使用して到達できる検出感度に比べ、約100倍も小さい検出感度を達成する必要があることを、見て取ることができる。
【0039】
換言すると、とくには仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)であるが、従来技術のシステムの主な欠点は、以下のとおりである。
【0040】
第1に、廃棄物ドラム内の中性子が制御に乏しい経路に従う。これはドラム内のすべての領域へと到達させることが不可能であることを意味し、さらには膨大な量の中性子(ターゲットに衝突する光子によって生成される)がすべての検出器を惑わさせてしまうことを意味し、即発中性子の測定を不可能にすることを意味する。効果的に測定できるのは遅延中性子だけであり、これは検出感度に大いに悪影響を及ぼす。最後に、この方法の効率は極端に低く、放射される光子のごくわずかな部分だけが、光核分裂反応を引き起こすための充分なエネルギーを有している。
【0041】
さらに、廃棄物ドラムが、中性子ではなく、きわめて高エネルギーの光子(廃棄物ドラムの直近に置かれたターゲットに電子が衝突することによって生み出される)にさらされるとき、作業断面全体における分布は先験的に一様であり、これが主要な利点を構成する。しかしながら、光子の進入の深さは小さく、エネルギーが不充分である光子のきわめて大多数は、最初の数センチメートルにて停止し、これはドラムの厚さ全体にわたってドラムの組成を割り出すことが不可能であることを意味している、最後に、電子の衝突によって生成された光子は、先験的に直線(それらを生み出す電子の入射の角度に依存して決まる)で移動するが、全体としての光子ビームは或る特定の量の発散にさらされ、これが中性子検出器を惑わさせてしまうに充分である。
【0042】
さらに一般的には、仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)による方法は、以下の3つの欠点を呈している。すなわち、第1に、測定されるのがアクチニド元素の質量であって、それらの放射能の量ではなく、第2に、どのアクチニド元素が存在するのかを特定することができず、最後に、廃棄物をどの分類に保管すべきかを判断するために充分に検出限界を下げることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
したがって、本発明の目的は、即発および遅延中性子を効率的かつ簡単に検出できる装置を提案することによって、従来技術のシステムを改善することにある。
【0044】
即発中性子と遅延中性子との間の比が、考慮対象のアクチニド元素の種類に強く依存して変化することが、知られている。遅延中性子の測定に加えて、即発中性子の測定を可能にすることで、本発明はこの比の割り出しを可能にし、したがってパッケージ内に存在するアクチニド元素の種類を判断できるようにする。
【0045】
本発明の他の目的は、卓越した検出感度を呈し、この感度をパッケージ内の特定の領域へと合焦させるために適している能動的方法を提供することにある。さらに本発明は、大きな寸法の物品中に存在するアクチニド元素の量を正確に測定することを追及している。
【課題を解決するための手段】
【0046】
上記目的の少なくとも1つが、放射線を放射する可能性がある元素を含む物品を調査する新規な方法によって達成される。物品が、物品内の放射線放射元素に光核分裂を生じさせるための充分なエネルギーを有する粒子のビームによって照射される。光核分裂によって生成された中性子が、少なくとも1つの中性子検出器によって測定される。本発明においては、光核分裂によって物品を調査する粒子が、物品を直接照射する電子であり、これら電子が、光核分裂の生成に適した光子へと調査対象の物品によって直接変換される。従来技術と異なり、本発明においては、電子が調査対象の物品を照射するために直接使用され、電子を放射線を放射する可能性がある元素における光核分裂の生成に適した光子へと変換する目的で、重金属(例えば、タングステンなど)のターゲットを物品の前方または内部に加える必要がない。
【0047】
調査対象の物品は、通常は、外周の容器および中央部を占めている中身で構成されている。物品が核物質のパッケージである場合には、一般的には容器が厚くて吸収性であるコンクリートで作られ、中身が核物質を含む。
【0048】
厚さの大きい吸収性のコンクリートが核物質を囲んでいるそのようなパッケージにおいて、本発明は、制動放射の大部分をコンクリート容器の内側で生じさせるため、とくに好都合である。コンクリートの原料は、平均で20程度である小さな原子番号(もっとも重い原料は、原子番号56のバリウムであるが、きわめて少量しか存在していない)を有し、これはすなわち、生成されたならば検出器を惑わすることになりかねない直接中性子が、光核分裂反応によって生成されることが実質的にないことを意味する。
【0049】
さらに一般的には、制動放射反応を光核分裂を誘発するために充分に多くし、かつ中性子の発生を抑えるために充分に弱くするために、充分に大きな原子番号を有する物質を、調査対象の物品の周囲または調査対象の物品の容器の内部に配置することによって、測定が向上する。例として、これに限られるわけではないが、10から50の範囲において上手く機能することが可能である。
【0050】
さらには、検討の対象となっているエネルギーおよびタングステンなどの大きな原子番号を有する物質において、電子から光子への変換は、数ミリメートルにわたって生じることが知られている。コンクリートにおいて生じるとき、この変換は、数デシメートル(dm)にわたって生じ、コンクリートの厚さがこの距離よりも小さい場合、光子へと変換されない電子が残り、物品内に含まれる廃棄物に直接衝突する。
【0051】
このような状況において、例えばウラニウムなどといった潜在的に核分裂性である物質の一部に直接出会う電子が、数ミリメートルにおいて光子へと変換され、その後にすぐに光核反応を生じさせることができる。このようにして、充分に厚さの小さい容器が、光子と対照的である電子の案内の大いなる容易さから利益を受けることを可能にする。
【0052】
要約すると、本発明は、充分に小さい原子番号を有する材料で作られた容器を選択し、充分な量の電子が光子へと変換されずに通過できるように充分に小さい厚さを与えることによって、物品の中身を走査するために電子の指向性を完全に活用できるようにする。用語「充分な部分」が、後続の光核分裂反応が要件に適合する信号対雑音比の範囲内で測定できるための充分な量を意味して使用される。
【0053】
上述の特徴が、パッケージ内の核物質の光核分裂反応に位置を可能な限り詳しく突き止め、さらに所望であれば光核分裂反応を調査対象の核物質の体積の全体にわたって比較的一様に分布させるために、合同する。
【0054】
本発明の方法は、多数の利点を呈する。
【0055】
第1の利点は、電子が光子よりも操作しやすい点にある。照射の精度を変化させるべく、電子ビームの寸法を変化させることが可能であり、電子ビームを、核物質の或る部分へと合焦させることができ、電子をよく目標付けられ、あるいは定められた様相で、輸送し、偏向させ、走査させることが可能である。したがって、電子ビームが核物質の全体または一部を走査し、あるいは実際には例えばドラムであってよい調査対象の物品の全体を走査するように、保証することが可能である。次いで、電子ビームが、物品に対して動かされる。同じ様相で、電子ビームがパッケージの中身の全体または一部を照射するよう、物品を電子ビームに対して平行移動および/または回転させることが可能である。
【0056】
パッケージを照射する電子ビームは、好ましくはパルス状とされ、前記少なくとも1つの中性子検出器が、電子ビーム・パルスからもたらされるフラッシュの後の光核分裂によって生成された遅延中性子を検出する。前記少なくとも1つの中性子検出器が、さらに電子ビーム・パルスの最中に発せられる即発中性子を検出してもよい。
【0057】
好都合には、電子が気中においてきわめて速やかにエネルギーを失い、容易に分散してしまう限りにおいて、核物質を、電子ビームを真空管路を介してもたらすことによって照射することができる。
【0058】
本発明の一実施形態においては、電子ビームで物体を走査することによって、被スキャン部によって放射された粒子が同時に検出され、物品内において核物質の位置を突き止めることが可能になる。
【0059】
第2の利点は、電子が物質中へと侵入する力を有している点にある。結果として、パッケージ内に存在するアクチニド元素にきわめて接近することができ、核反応の機会が増加する。これは、エネルギー効率の顕著な改善およびより高い測定感度につながる。
【0060】
第3の利点は、電子を直接使用することで、中性子検出器を惑わさせてしまう可能性がある最初の衝突時のガンマ放射(制動放射ガンマ・フラッシュ)によって誘起される雑音を、最小限にすることができる点にある。したがって、電子ビームが少なくとも1つのパルスの形態で核物質を照射するとき、パルスの最中に放射される即発中性子を検出および測定することが可能である。また、パルスの後に放射される遅延中性子を検出および測定することも可能である。すなわち本発明は、即発中性子束の測定および遅延中性子束の測定の両者を可能にする。後者の測定は、仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)または米国特許第4497768号に教示のように、しかしながらはるかに良好な分解能(雑音がなく、プローブ光子がより良好に分布する)で、アクチニド元素の質量を割り出すべく機能する。さらには、好都合なことに、2つの測定の比を、物質(放射線放射元素)中に存在するアクチニド元素の同位体組成を割り出すためにも使用することができる。すでに述べたように、種々に異なるアクチニド元素が、遅延中性子に対する即発中性子のさまざまな比を呈する。したがって、この比についての実験的測定が、当該同位体の特徴を構成している。
【0061】
このように、放射線放射元素に存在するアクチニド元素の総量を、測定した即発中性子および遅延中性子から割り出すことが可能である。
【0062】
本発明の他の態様においては、放射線放射元素を含む物品を調査するための装置が提供される。この装置は、物品内の放射線放射元素に光核分裂を生じさせる充分なエネルギーの粒子のビームによって前記物品を照射するための手段と、光核分裂によって生成された中性子を測定するための少なくとも1つの中性子検出器とを有している。本発明によれば、前記粒子が核物質を直接照射する電子であり、電子の光核分裂の生成に適した光子への変換が、調査対象の物品において直接行われる。
【0063】
電子ビームは、好ましくは、出口窓を物品に接触させて有している真空管路によって運ばれる。好都合には、即発中性子を検出するための手段が、電子ビームが物品の前方経由で到着する場合、物品の背後に配置される。
【0064】
本発明の他の利点および特徴は、実施形態(ただし、本発明がこの実施形態に限定されるわけではない)についての以下の詳細な説明および添付の図面を検討することによって、明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
本発明がこれに限られるわけではないが、以下の説明は、大きな寸法のパッケージの内側の小さな寸法の廃棄物を特徴づけるために適した実施形態に関係している。
【0066】
図3に、大きな寸法であってきわめて少量の核物質7、すなわちアクチニド元素を含む調査対象物品6を見て取ることができる。この物質7は、物品6内の特定の点に位置している。核物質7へと衝突させるべく電子ビーム13をパルスの形態で放射するために機能する電子加速器8を、見て取ることができる。このビーム13が、加速器8からの出口を調査対象の物品6へと接続する排気された筒によって構成されている真空管路9によって運ばれる。しかしながら、物品6内の核物質7の位置を正確に突き止めるため、あるいは極めて大きな領域を検査し、おそらくは物品全体をただ1つの機会にて検査するため、電子ビーム13を走査することができるよう、磁気偏向素子を基盤とするスキャナ装置10が設置(加速器の分野において周知の技法である)され、プロセッサ・ユニット(図示されていない)によって制御される。真空管路9の端部には、出口窓も設けられている。この窓は、電子ビームが気中を通過することがないように、物品6、たとえばスキャナ装置の外側に接触してもよい。
【0067】
本発明は、電子パルスの際に放射される即発中性子の測定を可能にする一方で、調査対象の物品から由来する遅延中性子の測定を続け、したがってパルスの後の数ミリ秒から100ms、あるいはさらに長くの期間において、測定を続ける。遅延中性子に関しては、この装置は、仏国特許第2764383号(米国特許第6452992号に相当)または米国特許第4497768号に記載の装置と同一である。これを実行するため、遅延中性子検出器11が、物品6の周囲に配置される。対照的に、即発中性子に関しては、プローブ・ビームとして電子を使用することが、「ガンマ・フラッシュ」の背景雑音の回避に役立っている。電子が物品の表面の小さな部分にのみ衝突し、後方散乱(後方への)によって終わり、あるいは物品そのものに吸収されることによって終わる(物品内の順次の反応によって生成される種々の粒子のすべてと同様)。したがって、パルスの際に放射される即発中性子を、即発中性子検出器12にて測定することができる。
信号/雑音の観点から、これらの検出器の最適位置は、それらを調査対象の物品の背後に置くことであることが示されている。検出された即発中性子信号(上述の遅延中性子信号よりもはるかに強い)が、パッケージ内に存在する核物質の量を導出するために使用される。遅延中性子信号も、2つのパルスの間において測定される。さらに、同時に得られるこれら2つの情報項目(即発信号および遅延信号)の組み合わせが、それらの比をとることによって、検査対象のアクチニド元素の同位体の割り出しを可能にする。物品を動かす(垂直方向、および/または垂直軸を中心とする回転)ことで、物品6内で物質7を見つけることができる位置を、正確に突き止めることが可能になる。精度は、電子ビーム13の寸法によって決定される。具体的には、本発明の直接プローブ電子法を使用することによって、単に真空搬送管路9に適切な合焦設備(図示されていない)を配置することによって、電子ビームの寸法を所望のとおり小さくする(ビームのエミッタンスによって決まる限界内で)ことができる。
【0068】
本発明のさらなる特徴は、プローブ・ビーム・パルスの幅に関する。光子または中性子の場合には、使用されるパルスが、一般的にはきわめて強力(最大200ミリアンペア(mA))かつきわめて短い(一般的には、4マイクロ秒(μs)未満)のに対し、この状況においては、例えば4msもの長さ、すなわち1000倍も長いパルスを、はるかに小さくてよく、数マイクロアンペアで充分である強度にて、同様に上手く使用することができる。
【0069】
当然ながら、本発明は上述の例には限定されず、これらに例に対し、本発明の範囲を超えることなく多数の変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】核廃棄物を特徴づけるための従来技術の装置の概略図である。
【図2】従来技術のとおり厚さ5mmのタングステン・ターゲットに衝突する50MeVのエネルギーを有する電子について、制動放射によって放射される光子のスペクトルを示したグラフである。
【図3】核廃棄物を特徴づけるための本発明の装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線放射元素を潜在的に含む物品(6)を調査するための方法であって、
前記物品が、前記物品の放射線放射元素に光核分裂を生じさせるための充分なエネルギーを有する粒子のビーム(13)によって照射され、
光核分裂によって生成された中性子が、少なくとも1つの中性子検出器によって測定され、
前記粒子(13)が物品を直接照射する電子であり、電子の光核分裂の生成に適した光子への変換が、調査対象の物品(6)によって直接行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
調査対象の物品が、核物質を含む放射性廃棄物のパッケージであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
調査対象の物品が、コンクリートで作られた容器および核物質を含む中身からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
パッケージを照射する電子ビームがパルス状であり、前記少なくとも1つの中性子検出器が、電子ビーム・パルスからもたらされるフラッシュの後の光核分裂によって生成された遅延中性子を検出することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの中性子検出器が、電子ビーム・パルスの最中に発せられる即発中性子をさらに検出することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
放射線放射元素に存在するアクチニド元素の同位体組成が、測定された即発中性子の遅延中性子に対する比から割り出されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
放射線放射元素に存在するアクチニド元素の総量が、測定された即発中性子および遅延中性子から割り出されることを特徴とする、請求項4および5、または6に記載の方法。
【請求項8】
調査対象の物品が、真空管路(9)にて電子ビームを物品まで運ぶことによって照射されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電子ビームが、調査対象の物品の全体または一部を走査することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
調査対象の物品(6)が、該調査対象の物品の全体または一部が電子ビームによって照射される様相で、電子ビームに対して移動させられることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電子ビームの寸法が、照射の精度を変化させる様相で変化させられることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
物品内の放射線放射元素の位置を特定するように、電子ビームによって物品を走査することで、被スキャン部によって放射された粒子が同時に検出されることを特徴とする、請求項3から11にいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
放射線放射元素(7)を含む物品(6)を調査するための装置であって、
前記物品の放射線放射元素に光核分裂を生じさせるための充分なエネルギーの粒子のビーム(13)によって該物品を照射するための手段と、
光核分裂によって生成された中性子を測定するための少なくとも1つの中性子検出器とを備え、
前記粒子(13)が核物質を直接照射する電子であり、電子の光核分裂の生成に適した光子への変換が、調査対象の物品(6)によって直接行われることを特徴とする、装置。
【請求項14】
電子ビームを少なくとも1つのパルスの形態で放射するための手段と、パルスの最中に放射される即発中性子を検出および測定するための手段(12)を備えることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
検出手段(12)が、電子ビームが前方から物品に到達するとき、該物品の背後に配置されることを特徴とする、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
遅延中性子を検出および測定するための手段(11)を備えることを特徴とする、請求項13から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
測定した即発中性子および遅延中性子から、放射線放射元素に存在するアクチニド元素の同位体組成および総量を割り出すためのプロセッサ・ユニットを含むことを特徴とする、請求項14および16に記載の装置。
【請求項18】
電子ビームを運ぶための真空管路(9)を備えることを特徴とする、請求項13から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
真空管路の端部が、物品に接触させられた出口窓を備えることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
電子ビームを案内することに適したスキャナ手段(10)を備えることを特徴とする、請求項13から19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
物品を電子ビームに対して移動させるための手段を備えることを特徴とする、請求項13から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
電子ビームを核物質の部分へと合焦するための合焦手段を備えることを特徴とする、請求項13から21のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−503742(P2008−503742A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517345(P2007−517345)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001462
【国際公開番号】WO2006/008360
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク (85)
【Fターム(参考)】