説明

光検出装置及び光検出方法

【課題】光検出不能領域を有する光センサーの光強度の情報の低下を抑えること、又は、光センサーの光検出不能領域に照射される光を有効に活用すること。
【解決手段】複数個の光検出領域と、光検出領域に隣接した光検出不能領域を持つ光検出面を有する光センサーと、光検出面に光を照射する光照射部と、光の照射位置に対して光検出面を相対的に変位する変位作用部と、を備え、光の照射位置を光検出面に対して相対的に変位して、光検出不能領域に照射されている光を光検出領域に照射する、光検出装置、又は光検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCD、フォトダイオードアレイ、MCPなどの複数の光検出素子や増幅素子で構成された光検出面を有する光センサーを用いた光検出に関するものである。

【背景技術】
【0002】
従来、マルチチャンネル型分光器は、回折格子などからなる分光系より光を波長ごとに分離し、固定されたCCDやフォトダイオードアレイなどの面検出型光センサーを用いて分離した光を測定し、光強度の情報を測定していた。しかし、面検出型光センサーは、いずれも微細な光検出素子の集合体である。そのため、画素と同程度あるいはそれ以下の大きさの光は、画素と画素にまたがって照射されると、画素間の光検出不能領域にも照射され、光の強度が低下すると共に、それぞれの画素にも分散して出力され、光強度の情報が低下することになる。更に、二つの画素から光強度の情報が出力されるため、分解能が低下することになる。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(1)本発明は、光検出不能領域を有する光センサーの光強度の情報の低下を抑えることにある。
(2)また、本発明は、光センサーの光検出不能領域に照射される光を有効に活用することにある。
(3)また、本発明は、光検出領域の大きさで決まる分解能を超える分解能を実現することにある。

【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)本発明は、複数個の光検出領域と、光検出領域に隣接した光検出不能領域を持つ光検出面を有する光センサーと、光検出面に光を照射する光照射部と、光の照射位置に対して光検出面を相対的に変位する変位作用部と、を備え、光の照射位置を光検出面に対して相対的に変位して、光検出不能領域に照射されている光を光検出領域に照射する、光検出装置にある。
(2)また、本発明は、複数個の光検出領域と、光検出領域に隣接して光検出不能領域を有する光検出面を備えた光センサーで光を検出する、光検出方法において、光の照射位置に対して光検出面を相対的に変位して、光検出不能領域に照射されている光を光検出領域に照射する、光検出方法にある。

【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
(光検出装置)
光検出装置は、分光器やパターン検出装置などに用いられる光センサー、光センサーに光を照射する光照射部、光センサーの光検出面と光の照射位置を相対的に変位する変位作用部などを備えている。この構成により、光検出装置は、光検出面の変位と同期して、照射光を測定することで、光の照射位置と強度の情報を同時に検出することができる。それにより、光検出装置は、例えば、画素と同程度、或いはそれ以下の大きさの光線が、光検出面の画素と画素の間の光検出不能領域に照射された際に生じる感度や分解能などの低下を防止することができる。又は、光検出装置は、光検出面に照射される光パターンの境界が、画素と画素の間の光検出不能領域にかかる場合でも、パターンの境界位置を正確に測定することができる。又は、光センサーの経年変化による画素毎の感度のばらつきや、若しくは、不良画素があっても、その近傍の画素を用いて、補正することができる。又は、見かけ上の画素数の分解能を向上することができる。
【0006】
光センサーは、CCD、フォトダイオードアレイ、MCPなど複数の光検出素子や増感素子が線状又は面状に配列されたものである。また、光センサーは、光を線状又は面状に検出できる光検出面を備えている。光検出面は、光を検出できる複数の光検出領域と、光を検出できない光検出不能領域とを備えている。光検出領域は、光を検出できる領域であり、画素であり、例えばCCD、受光ダイオードなどの光検出素子や増感素子などがある。光検出不能領域は、光検出領域の間の光を検出できない領域、又は、光検出が不能になった光検出領域又は感度が劣化した光検出領域である。光検出が不能になった光検出領域又は感度が劣化した光検出領域は、例えば、不良画素、不良の光検出素子、不良の増感素子がある。光センサーのCCDは、近紫外から近赤外に感度があり、蛍光面と組み合わせることで、深紫外からX線領域まで使用可能となる。又は、光センサーは、CCDと、MCPなどのイメージインテンシフファイヤーと組み合わせることで、感度を向上することができる。フォトダイオードアレイは、X線領域から可視光に感度があり、光増幅器やゲート機能を持つISPDなどがある。
【0007】
変位作用部は、光センサーの光検出面と、光検出面の光の照射位置を相対的に変位するものである。変位とは、移動、振動など位置の変化を言い、どのような方法でも行っても良い。変位作用部は、例えば、ピエゾ素子を使用でき、微細な振動を物体に付与することができる。変位作用部は、光センサーに変位を付与しても、又は、光を照射する側の光照射部に変位を付与しても良い。
【0008】
図1は、マルチチャンネル型分光器(ポリクロメータ)として使用する光検出装置の例を示している。マルチチャンネル型分光器は、複数の波長の光を同時に測定する分光器である。光源1からの光は、入射スリット12を通り、絞られて回折格子13に入射する。その光は、回折格子13により、波長ごとに分離される。分離された異なった波長の各光線14は、光センサー20の光検出面21の異なった位置に入射する。光センサー20の光検出面21は、多数の光検出領域22と、光検出領域22の間にある光検出不能領域23を有する。光照射部10は、光源11、入射スリット12、回折格子13などで構成される。
【0009】
光検出面21で受光した各光線14、14、・・・の位置と強度の信号は、増幅器41で増幅して、コンピュータ40で処理される。これにより、異なった波長の光の照射位置と強度は、コンピュータ40の記憶装置に記憶することができる。
【0010】
変位作用部30は、光センサー20に振動などの変位を作用する。光センサー20の変位量は、位置検出部31で測定する。変位作用部30と位置検出部31は、光検出面21の変位の付与と、その変位量を検出できれば良く、一体に構成されていても良い。変位作用部30と位置検出部31により、光検出面21と光検出面21に対する光線14の照射位置との相対変位量を、ある時点ごとに測定し、その位置情報をコンピュータ40に送信する。変位作用部30と位置検出部31は、1軸だけでなく、2軸、又は3軸を用いて、平面的に又は立体的に、光センサーに変位を与え、位置を測定しても良い。平面的に又は立体的とは、平行移動だけでなく、回転運動も含めた運動でもよい。例えば、光検出面21は、その中心部を支点にシーソー状に振動し、又は、その中心部を支点に回転運動をし、又は、シーソー状の振動と回転運動の合成された運動でもよい。
【0011】
光検出装置は、分離された複数の周波数の光線14、14、・・・を光検出面に照射すると同時に、光検出面21に変位を与える。光検出装置は、ある時点において光検出面21により光線の照射位置と強度を測定すると共に、位置測定部31により光検出面の変位位置を測定する。同様に、光検出装置は、別の時点において光の照射位置と強度を測定すると共に、光検出面の変位位置を測定する。これらの測定値をコンピュータ40で処理することにより、ある時点では、光検出不能領域に照射されていた光線が、別の時点では、光検出領域に照射されることになり、検出不能な光線も確実に検出することができる。これにより、光検出装置は、分光された光の照射位置や強度を正確に測定でき、分解能を高めることができる。
【0012】
図2は、光パターン17の形状を検出する光検出装置の例を示している。光源11からの光は、レンズなどの光学系15を通り、例えば光軸に平行な無数の光線となり、フォトマスク16に入射する。フォトマスク16は、光の透過領域161と不透過領域162を有している。平行な光線は、フォトマスク16の透過領域161を通り、光センサー20の光検出面21に照射される。光検出面21には、フォトマスク16の透過領域161の形状の同じ光パターン17が照射される。光照射部10は、光源11、光学系15、フォトマスク16などで構成される。
【0013】
光検出面21で受光した光パターン17の画像信号は、増幅器41で増幅して、コンピュータ40で処理される。これにより、光パターン17の照射位置信号と強度信号は、コンピュータ40の記憶装置などに記憶される。変位作用部30と位置検出部31は、光検出面21の変位位置を測定し、その位置情報をコンピュータ40に送信する。変位作用部30と位置検出部31は、図1の光検出装置と同様に、1軸だけでなく、2軸、又は3軸を用いて、光センサーに変位を与え、位置を測定しても良い。
【0014】
光検出装置は、光パターン17を光検出面21に照射しながら、光検出面21に変位を付与する。光検出装置は、ある時点において光検出面21により光パターンの形状と強度を測定すると共に、位置測定部31により光検出面21の位置を測定し、同様に、別の時点において光パターン17の形状と強度を測定すると共に、光検出面21の位置を測定する。これらの測定値をコンピュータ40で処理することにより、ある時点では、光検出不能領域23に照射されていた光が、別の時点では、光検出領域に照射されることになり、光パターンの周囲の輪郭も確実に検出することができる。

【0015】
(光の検出方法)
図3は、光線の強度分布と、光センサーの光検出面の位置を示している。図3(A)は、光検出面が一定の位置にある状態で、光線が光検出面に照射された状態を示している。強度分布は、複数の光検出領域22a、22b、22cに跨っている。そのため、光の強度分布において、光検出不可能領域23b、23cに照射される光は、光センサーで検出されない。また、光線の周辺(R、L)が光検出不可能領域にかかっている場合、光線の周囲の位置が曖昧になる。その結果、光センサーは、光線全体の光量を検出できず、及び、正確な照射位置も測定できない。
【0016】
図3(B)は、光線14を光検出面21で測定しながら、光検出面21に変位を与え、光検出面21の位置を測定する状態を示している。光センサー20は、光線14に対して20a、20b、20cと位置が変化している。そのため、光線14を測定する光検出面21の位置が異なることになる。光線14の強度分布は、光センサー20の変位の時間内では、変動しないとしている。その場合、光センサー20の変位位置毎に、同一の光線14について、その照射位置と強度を測定する。その結果、光センサー20aの位置において光検出不可能領域23b、23cに照射された光は、光センサー20bの位置では、光検出領域22b、22cに照射され、その領域で光の照射位置と強度が測定される。このように、光検出面21を変位することにより、ある位置では測定できなかった光の照射位置と強度を測定できるので、光の照射位置と強度の情報の低下を防止することができる。特に、1画素に満たない幅を持つ光が、2画素にわたって照射されたときに生じる光強度情報の低下を理論上ゼロにすることができる。更に、光センサー20に不良画素があっても、光検出面21の変位の大きさを画素の幅より大きくとることにより、不良画素に照射されていた光を隣接する優良な画素に照射でき、光センサー20の画素のばらつきを補正することができる。振動の変位を与えることにより、光センサーの測定回数を多く取り、測定精度を高めることができる。又は、変位作用部による光センサーの振幅(変位幅)を大きく取る、例えば複数の光検出領域に跨る幅以上にすることにより、同一の光に対して、多数の光検出領域で測定することができ、測定精度を高めることができる。例えば、ある画素は感度が悪いなど不良画素であり、隣接する画素は感度が良い正常画素の場合、不良画素に照射された光は、光検出面21の変位により、正常画素に照射されるので、正確な光量や位置を測定することができる。また、画素ごとに感度のばらつきがある場合、同一の光は、光検出面21の変位により、複数の画素に照射されるので、同一の光に対して、複数の画素の測定値を平均化することにより、画素のばらつきを補正することができる。各画素の光量の比較処理、平均処理などの処理は、コンピュータ40により行うことができる。

【0017】
図4は、光パターン16の強度分布と、光センサー20の光検出面21の位置を示している。図4(A)は、光検出面21が一定の位置にある状態で、光パターン16が光検出面21に照射された状態を示している。強度分布は、複数の光検出領域22a、22b、22c、22dに跨っている。そのため、光の強度分布において、光検出不可能領域23b、23c、23dに照射される光は、光センサー20で検出されない。また、光パターン16の周辺R、Lが、もし、光検出不可能領域23にかかっている場合、光パターン16の周囲の位置が曖昧になる。その結果、光パターン61の形状と強度分布を正確に測定できない。
【0018】
図4(B)は、光パターン16を光検出面21で測定しながら、光検出面21を変位し、光検出面21の位置を測定する。光センサー20は、光パターン16に対して20a、20b、20cと相対位置が変化する。光パターン16の強度分布は、光センサー20の変位の時間内では、変動しないとしている。その場合、光センサー20の位置毎に、同一の光パターン16について、その形状と強度を測定することができる。そのため、20aの位置の光センサー20において、光検出不可能領域23b、23c、23dに照射された光は、20bの別の位置では、光検出領域22b、22c、22dに照射され、そこでは光の照射位置と強度が測定できる。20bの位置の光センサーは、光パターン20の右端R付近の光は、光検出不能領域23bに照射されるために、測定することができないが、20aや20cの位置の光センサー20では、光検出領域22aや22bで測定できる。同様に、光パターン20の左端L付近の光は、20cの位置の光パターン20では、光検出不能領域23eに照射され、測定できないが、20aや20bの位置の光センサー20では、同一の光検出領域22dで測定できる。このように、測定できない光が測定できるので、見かけ上の画素数と分解能を向上することができる。

【0019】
(ロックイン増幅器、時間分解増幅)
光センサー20の変位として振動を用いると、光センサー20の出力信号は、周期的な変調がかかる。そこで、増幅器41としてロックイン増幅器や時間分解増幅を使用する。例えば、光センサー20の出力信号をロックイン増幅する。光センサー20の振動に合わせて、光センサー20の出力信号をロックイン増幅することで、光センサー20の出力信号に含まれているショットノイズなどのノイズを低減でき、光センサー20の出力信号のS/N比を向上することができる。

【0020】
(画素スリット)
画素スリットは、光センサーの光検出面上に配置して、光検出面内の各画素の感度を均一にするものである。画素スリットは、各画素に対応して光の透過窓を有する。透過窓は、感度の均一な画素の中央部を照射する光を透過し、感度の不均一な画素の周辺部を照射する光を遮断する。これにより、各画素の感度特性をシャープにし、各画素の感度を均一にすることができる。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ポリクロメータとして使用する光検出装置の説明図
【図2】光パターン検出のための光検出装置の説明図
【図3】光センサーに変位を付与して光線を検出する説明図
【図4】光センサーに変位を付与して光パターンを検出する説明図
【符号の説明】
【0022】
10・・・光照射部
11・・・光源
12・・・入射スリット
13・・・回折格子
14・・・光線
15・・・光学系
16・・・フォトマスク
17・・・光パターン
20・・・光センサー
21・・・光検出面
22・・・光検出領域
23・・・光検出不能領域
30・・・変位作用部
31・・・位置測定部
40・・・コンピュータ
41・・・増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の光検出領域と、光検出領域に隣接した光検出不能領域を持つ光検出面を有する光センサーと、
光検出面に光を照射する光照射部と、
光の照射位置に対して光検出面を相対的に変位する変位作用部と、を備え、
光の照射位置を光検出面に対して相対的に変位して、光検出不能領域に照射されている光を光検出領域に照射する、光検出装置。

【請求項2】
請求項1に記載の光検出装置において、
変位作用部は、光の照射位置に対して光検出面を振動させる、光検出装置。

【請求項3】
請求項2に記載の光検出装置において、
光センサーからの電気信号を増幅する増幅器を備え、
増幅器は、光の照射位置の振動に合わせて時間分解増幅又はロックイン増幅をする、光検出装置。

【請求項4】
請求項1に記載の光検出装置において、
光照射部は、複数の波長の光線を同時に光検出面に照射する、光検出装置。

【請求項5】
請求項1に記載の光検出装置において、
光照射部は、光パターンを光検出面に照射する、光検出装置。

【請求項6】
請求項1に記載の光検出装置において、
光検出面に対向して配置される画素スリットを備える、光検出装置。

【請求項7】
複数個の光検出領域と、光検出領域に隣接して光検出不能領域を有する光検出面を備えた光センサーで光を検出する、光検出方法において、
光の照射位置に対して光検出面を相対的に変位して、光検出不能領域に照射されている光を光検出領域に照射する、光検出方法。

【請求項8】
請求項7に記載の光検出方法において、
光の照射位置に対して光検出面を振動し、この振動に合わせて時間分解増幅又はロックイン増幅をする、光検出方法。

【請求項9】
請求項7に記載の光検出方法において、
光の照射位置に対して光検出面を相対的に変位する変位量は、少なくとも複数の光検出領域に跨る幅とする、光検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127443(P2007−127443A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318395(P2005−318395)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】