説明

光触媒、光触媒の製造方法、水の電気分解方法、水素の製造方法、電気分解装置および水素製造用装置

【課題】 紫外線領域および可視光領域の双方において高い光触媒活性を示す光触媒を提供する。
【解決手段】 窒素含有不活性ガス雰囲気および基板温度400℃以上の条件下、ターゲットを酸化チタンとするRFマグネトロンスパッタ法により窒素置換型酸化チタン薄膜を製造する。前記窒素置換型酸化チタンは、ルチル構造を含まず、また窒素置換率が1.5%以上である。前記窒素置換型酸化チタンは、図1のグラフに示すように、紫外線領域および可視光領域の双方において、光吸収性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒、光触媒の製造方法、水の電気分解方法、水素の製造方法、電気分解装置および水素製造用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光を照射することにより活性酸素種を発生させる。また、これにより有機物を分解したり、殺菌作用を発揮するという性質を有する。この性質を利用して、種々の製品が開発され実用化されている。前記製品としては、例えば、光触媒を用いたトイレや風呂場等の陶磁器製品、空気清浄機や冷蔵庫等の家電製品等がある。この他に、光触媒は、水との接触角が極端に低くなるという超親水性現象を示す。この性質を利用して、曇を防止した自動車のドアミラー等が開発され実用化されている。
【0003】
従来の光触媒は、紫外線で活性化するため、室内での使用が困難であった。このため、室内の蛍光灯等でも活性を示す可視光応答型光触媒が求められていた。さらに、紫外線領域での活性を維持し、かつ可視光領域でも活性を有する可視光応答型光触媒が求められていた。これは、特に、太陽光を有効に利用するためである。これらの要望に対し、研究が盛んに行われた。そして、いくつかの可視光応答型光触媒が開発された。このような可視光応答型光触媒としては、以下のようなものがある。例えば、イオン注入法を用い、酸化チタンの格子Ti4+を遷移金属イオンで置換した可視光応答型酸化チタン光触媒がある(非特許文献1)。また、RFマグネトロンスパッタ法により製造された可視光応答型酸化チタン光触媒がある(非特許文献2および3)。そして、一部の酸素原子を窒素で置換した可視光応答型酸化チタン光触媒がある(非特許文献4)。
【0004】
このように、種々の可視光応答型光触媒が開発された。しかし、これらは性能において十分であるとはいえない。このため、さらに高性能の可視光応答型光触媒が求められている。
【0005】
【非特許文献1】M. Anpo, et al. Pure Appl. Chem., 2001, 72, 1787
【非特許文献2】M. Anpo, et al, Annu. Rev. Mater. Res., 2005, 35, 1
【非特許文献3】M. Kitano, M. Takeuchi, M. Matsuoka, J. M. Thomas, M. Anpo, Chem. Lett., 34, 616 (2005).
【非特許文献4】R. Asahi, T. Morikawa, T. Ohwaki, K. Aoki, Y. Taga, Science, 293, 269 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、紫外線領域および可視光領域の双方において高い活性を示す光触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、水の電気分解方法、水素の製造方法、電気分解装置および水素製造用装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の光触媒は、酸化チタンを含む光触媒であって、前記酸化チタンが、ルチル型を含まず、かつ窒素により酸素が置換されており、前記窒素置換率が、原子数で1.5%以上であることを特徴とする。なお、「窒素により酸素が置換されており、前記窒素置換率が、原子数で1.5%以上である」とは、全酸素原子数のうち1.5%以上の数が窒素で置換されていることをいう。また、以下において、酸化チタンにおける窒素置換率を単に「%」で表すときは、前記「%」は、特に記載がない限り、原子数により計算した窒素置換率を表す。すなわち、前記「%」は、酸化チタンにおける全酸素原子数のうち何%の数が窒素で置換されているかを表す。
【0008】
また、本発明の光触媒の製造方法は、窒素含有不活性ガス雰囲気および基板温度400℃以上の条件下、ターゲットを酸化チタンとするRFマグネトロンスパッタ法(Radio Frequency Magnetron Sputter Method、高周波マグネトロンスパッタ法)により窒素置換型酸化チタン薄膜を製造することを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の水の電気分解方法は、水の外部で電気的に接続されたアノード(陽極)およびカソード(陰極)により前記水に対し電圧を印加することで水素と酸素に分解する水の電気分解方法であって、前記アノードとして、本発明の光触媒を含むアノードを用い、前記アノードに光を照射することにより電圧を印加することを特徴とする。
【0010】
本発明の水素製造方法は、水の電気分解により水素(H)を製造する水素製造方法であって、本発明の水の電気分解方法により水を電気分解することを特徴とする。
【0011】
本発明の電気分解装置は、
アノード(陽極)とカソード(陰極)と電解槽とを含み、
前記電気分解装置の使用時には前記電解槽内部に水を入れ、前記使用時において、前記アノードおよび前記カソードはそれぞれ前記水に接触し、前記アノードと前記カソードは直接接触せず、前記電解槽外部で電気的接続手段により接続されている、水の電気分解装置であって、
前記アノードが、本発明の光触媒を含むアノードであることを特徴とする。
【0012】
本発明の水素製造用装置は、本発明の水の電気分解装置において、さらに、前記水の電気分解により発生する水素(H)を回収する手段を含む装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光触媒は、紫外線領域および可視光領域の双方において、高い光触媒活性を示す。また、本発明の光触媒は、前記本発明の光触媒の製造方法により製造することができる。ただし、本発明の光触媒は、他の方法により製造されてもよい。本発明の水の電気分解方法によれば、本発明の光触媒を用いることで、光を利用した水の電気分解が可能である。本発明の水の電気分解方法は、本発明の電気分解装置により行うことができるが、他の装置により行ってもよい。また、本発明の水素の製造方法によれば、本発明の光触媒を用いることで、光を利用した水素の製造が可能である。本発明の水素製造方法は、本発明の水素製造用装置により行うことができるが、他の装置により行ってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、「ルチル構造を含まない」とは、XRD(X線回折、X−Ray Diffraction)スペクトロメトリーによりルチル構造が検出されないことを言う。本発明の光触媒における前記酸化チタンは、アナタース(アナターゼ)構造およびブルカイト構造のいずれを含んでいてもよい。前記酸化チタンは、アナタース構造の割合がなるべく大きいことが好ましく、アナタース構造のみからなることが最も好ましい。
【0015】
本発明の光触媒において、前記窒素置換率は、原子数で1.5〜17%の範囲、1.90〜12.0%の範囲、1.90〜6.0%の範囲、6.0〜12.0%の範囲、12.0%〜17%の範囲、2.0〜16.5%の範囲、2.0〜11.5%の範囲、2.0〜6.0%の範囲、6.0〜11.5%の範囲、11.5%〜16.5%の範囲、1.97〜16.5%の範囲、1.97〜11.7%の範囲、1.97〜5.98%の範囲、5.98〜11.7%の範囲、および11.7%〜16.5%の範囲からなる群から選択される少なくとも一つの範囲であることが好ましい。前記窒素置換率は、例えば、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)スペクトロメトリーにより測定した値である。より具体的には、まず、XPS装置として島津製作所社製ESCA-3200(商品名)を用いてXPSスペクトロメトリーを測定する。測定されたスペクトル中のTi−N結合由来ピーク面積は、前記XPS装置により自動的に算出される。そして、このTi−N結合由来ピーク面積と感度係数から、前記XPS装置によって自動的にNとTiの原子密度が算出される。この原子密度のN/Ti比は、N/Tiの原子数比に等しい。このN/Ti原子数比により、窒素置換型酸化チタンの組成が分かる。例えば、窒素置換型二酸化チタンであれば、前記N/Ti原子数比により、TiO2−xで表される組成式のxの値が求められる。この組成によって、全酸素原子数のうち何%が窒素で置換されているかが分かる。なお、この測定方法および計算方法は、前記窒素置換率を測定または計算する方法の一例であり、本発明を何ら限定しない。
【0016】
本発明の光触媒において、前記酸化チタンは、二酸化チタンであることが好ましい。
【0017】
本発明の光触媒において、前記酸化チタンは、窒素含有不活性ガス雰囲気下で、かつ基板温度400℃以上の高温条件のRFマグネトロンスパッタ法により製造される窒素置換型酸化チタン薄膜であることが好ましい。
【0018】
本発明において、前記RFマグネトロンスパッタ法における基板温度は、600℃以上であることがより好ましく、さらに好ましくは700℃以上、特に好ましくは800℃以上である。また、前記RFマグネトロンスパッタ法に用いる基板の種類は、特に限定されないが、例えば、石英、ITO、金属Ti等が挙げられる。
【0019】
本発明の光触媒の製造方法において、前記窒素含有不活性ガスは、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスであることが好ましい。窒素ガス(N)とアルゴンガス(Ar)の体積比(N/Ar)は、0.02〜0.7の範囲、0.020〜0.1の範囲、0.02〜0.05の範囲、0.05〜0.07の範囲、0.05〜0.1の範囲、0.02〜0.667の範囲、0.02〜0.111の範囲、0.02〜0.042の範囲、0.042〜0.667の範囲および0.042〜0.111の範囲からなる群から選択される少なくとも一つの範囲が好ましい。
【0020】
本発明の光触媒の製造方法において、さらに前記窒素置換型酸化チタン薄膜を焼成することが好ましい。前記焼成温度は、200℃以上の範囲、200〜500℃の範囲および200〜400℃からなる群から選択される少なくとも一つの範囲が好ましい。
【0021】
本発明の光触媒の用途は、特に制限されず、あらゆる分野に適用できる。例えば以下の通りである。
【0022】
本発明の光触媒は、例えば、汚染物質を含む液相または気相の浄化に用いることができる。本発明の光触媒を用いて汚染物質を含む液相または気相を浄化する方法は、例えば、(1)前記汚染物質を含む液相または気相に本発明の光触媒を接触させる工程、および、(2)前記光触媒を前記液相または気相に接触させたまま、前記光触媒に光照射し、前記汚染物質を分解する工程、を含む。前記液相または気相は、特に限定されない。また、前記汚染物質も特に限定されず、どのような物質でも良い。
【0023】
前記気相は、例えば汚染物質を含む大気であっても良い。前記大気は、屋外の大気であっても良いし、屋内の大気であっても良い。より具体的には、例えば、道路防音壁、トイレや風呂場等のタイル表面、窓ガラス、建材、空気清浄機、冷蔵庫、蛍光灯等の家電製品、ブラインド、カーテン、エアコン等の任意の環境に本発明の光触媒を使用し、これに接触する雰囲気の大気を浄化しても良い。前記大気中の汚染物質は、特に限定されないが、例えば、窒素化合物、硫黄化合物、有機化合物、菌類、細菌類、ウィルス等が挙げられる。前記窒素化合物としては、例えば、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、五酸化二窒素、アンモニア等が挙げられる。前記硫黄化合物としては、例えば、一酸化硫黄、三酸化二硫黄、二酸化硫黄、三酸化硫黄、七酸化二硫黄、四酸化硫黄、硫化水素等が挙げられる。前記有機化合物としては、例えば、ベンゼン、アセトアルデヒド、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等が挙げられる。前記菌類としては、例えば、カビの胞子等が挙げられる。前記細菌類としては、例えば、大腸菌、ブドウ球菌、結核菌等が挙げられる。前記ウィルスとしては、例えば、SARSウィルス、インフルエンザウィルス、HIV、肝炎ウィルス等が挙げられる。
【0024】
前記液相は、例えば、汚染物質を含む水溶液であっても良い。前記水溶液としては、例えば、下水、家庭排水、風呂水、プールの水、工場排水、水道水等が挙げられる。前記水溶液中の汚染物質は、特に限定されないが、例えば、有機化合物、環境ホルモン物質、菌類、細菌類、ウィルス等が挙げられる。前記有機化合物としては、例えば、有機ハロゲン化物等が挙げられる。前記菌類、細菌類、ウィルス等は、特に限定されないが、例えば、前記気相と同様である。前記有機ハロゲン化物としては、例えば、ダイオキシン、トリハロメタン等が挙げられる。本発明による前記水溶液の浄化方法は、浄水の製造方法と言うこともできる。例えば、前記本発明の方法により、下水、家庭排水等を浄化して生活用水とすることもできる。別の一例として、前記本発明の方法により、水道水を浄化し、半導体洗浄等に用いる超純水とすることもできる。
【0025】
前記汚染物質を含む液相または気相の浄化方法において、前記液相または気相に本発明の光触媒を接触させる工程(1)は、特に限定されない。また、前記光触媒を前記液相または気相に接触させたまま、前記光触媒に光照射し、前記汚染物質を分解する工程(2)を行う方法も、特に限定されない。さらに、光源等も特に限定されない。前述の通り、本発明の光触媒は、紫外線領域および可視光領域の双方において高い活性を示す。このため、太陽光等の自然光、蛍光灯、その他の室内光源等を有効利用することができる。例えば、前記液相または気相中の、光が常時照射される位置に本発明の光触媒を設置することで前記工程(1)を行うことができる。その後、自然光、室内光源等を適宜用いて光照射することにより前記光照射工程(2)を行うことができる。
【0026】
前記汚染物質を含む液相または気相の浄化方法の一例として、道路防音壁表面に本発明の光触媒を設置する。そして、太陽光等を光源として自動車排気ガス中のNOXを分解し、大気を浄化することができる。別の一例として、トイレや風呂場等のタイル表面、窓ガラス室内側表面、空気清浄機、冷蔵庫等に本発明の光触媒を設置する。そして、自然光や室内光源等を光源としてトイレ、風呂場、室内、冷蔵庫内等の臭気の源である大気中の汚染物質を分解し、前記大気を浄化することができる。さらに別の一例として、窓ガラス屋外側表面、建材表面等、屋外の大気に接する任意の環境に本発明の光触媒を設置する。そして、太陽光等を光源として、酸性雨の原因となる大気中の酸化窒素(NOX)、酸化硫黄(SOX)等を分解し、前記大気を浄化することができる。さらに別の一例として、例えば、風呂桶、プール槽等の表面に本発明の光触媒を設置する。太陽光等を光源として、前記風呂桶、プール槽等内部の水中の汚染物質を分解し、前記水を浄化することができる。
【0027】
前記液相または気相の浄化方法は、さらに前記工程(1)、(2)以外の工程を適宜含んでいても良い。例えば、前記工程(1)および(2)により分解または除去し切れない不要物質等があれば、必要に応じ、従来公知の方法等により、適宜、分解、除去等をしても良い。
【0028】
このように大気や水を浄化する本発明の光触媒の作用を利用して、防汚製品を製造することもできる。すなわち、製品の表面に本発明の光触媒を用いることにより、前記光触媒が周囲の大気や水を浄化する。このため、前記製品に大気中や水中の汚れが付着しにくくなるのである。例えば、前述の道路防音壁、トイレや風呂場等のタイル、窓ガラス、建材等の表面に本発明の光触媒を用いることで、汚れにくい製品とすることもできる。また、例えば、トンネル内の照明(ランプ)のカバー表面に本発明の光触媒を用いても良い。この場合、前記ランプ自体を光源とすれば良い。また、例えば、フッ素加工樹脂製品表面等に本発明の光触媒を用いても良い。より具体的には、例えば、フッ素加工樹脂テント表面に本発明の光触媒を用い、汚れにくいテントとすることができる。さらに、本発明の光触媒は、これらに限定されずどのような製品の表面に用いても良い。
【0029】
次に、本発明の水の電気分解方法は、水の外部で電気的に接続されたアノード(陽極)およびカソード(陰極)により前記水に対し電圧を印加することで水素と酸素に分解する水の電気分解方法である。本発明の水の電気分解方法は、前記アノード(陽極)として、本発明の光触媒を含むアノードを用い、前記アノードに光を照射することにより電圧を印加することを特徴とする。前記カソードは、特に限定されないが、例えば、白金(Pt)、炭素(C)等が挙げられる。前記アノードへの光照射の光源は、特に限定されず、太陽光、室内光源、水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ等、どのような光源でも良い。これら以外は、本発明の水の電気分解方法は、特に限定されない。例えば、前記各条件以外の条件は、公知の水の電気分解反応を参考にして適宜設定しても良い。水には、導電性の観点から、あらかじめ電解質を適宜加え、電解質溶液(電解質水溶液)としておくことが好ましい。前記アノードおよび前記カソードへの電圧印加により生じる電流は、特に限定されないが、アノードの電位1V(vs SCE)に対して、例えば600〜1100μA・cm-2、好ましくは800〜1100μA・cm-2、特に好ましくは900〜1100μA・cm-2(照射光波長λ≧300nm)である。なお、本発明において、前記アノードおよび前記カソードへの電圧印加は、理想的には、前記アノードへの光照射のみにより行う。すなわち、従来の水の電気分解方法のように電池等の電圧印加手段を用いることなく、前記アノードへの光照射のみにより水の電気分解を行うことができるのが理想である。しかし、必要に応じ、適宜な電圧印加手段を併用しても良い。すなわち、前記アノードと前記カソードを前記水の外部で電気的に接続する方法は特に限定されない。例えば、前記アノードと前記カソードは、前記電圧印加手段および必要に応じて導線等により接続しても良い。また、前記電圧印加手段が必要なければ、単に前記アノードと前記カソードを導線により接続する等の方法を用いても良い。前記電圧印加手段は特に限定されず、例えば、電池等の、従来の水の電気分解反応と同様の電圧印加手段でも良い。前記電圧印加手段により電圧を印加する場合、前記アノードと前記カソードの間の電位差は特に限定されないが、例えば、電流が前記数値範囲となるようにする。前記電位差の具体的な数値は、電解質溶液(電解質水溶液)の抵抗値等により異なるが、例えば0.7〜1.5V、好ましくは0.7〜1.2V、より好ましくは0.7〜1.0Vである。
【0030】
本発明の水素(H)製造方法は、水の電気分解により水素を製造する水素製造方法である。この本発明の水素製造方法は、前記本発明の水の電気分解方法により水を電気分解することを特徴とする。また、本発明の光触媒を用いた酸素(O)の製造方法は、例えば、前記本発明の水の電気分解方法により水を電気分解する。
【0031】
次に、本発明の水の電気分解装置は、アノード(陽極)とカソード(陰極)と電解槽とを含む。前記電気分解装置の使用時においては、前記電解槽内部に水を入れる。前記使用時において、前記アノードおよび前記カソードはそれぞれ前記水に接触する。前記アノードと前記カソードは直接接触せず、前記電解槽外部で電気的接続手段により接続されている。そして、本発明の水の電気分解装置は、前記アノードが、本発明の光触媒を含むアノードであることを特徴とする。これ以外には、本発明における水の電気分解装置の構造は特に限定されない。例えば、必要に応じ、前記アノードと前記カソードに電圧を印加する手段を備えていても良い。前記電圧印加手段は特に限定されない。例えば、従来の水の電気分解装置と同様、電池等を用いても良い。また、必要なければ、電池等の電圧印加手段を備えていなくても良い。理想的には、電池等の電圧印加手段を用いず、前記アノードへの光照射のみで、前記アノードと前記カソードに電圧を印加する。前記アノードと前記カソードを前記電解槽外部で接続するための前記電気的接続手段も、特に限定されない。例えば、前記電圧印加手段および必要に応じて導線等を前記電気的接続手段とし、これらにより前記アノードと前記カソードを接続し、電圧を印加しても良い。また、前記電圧印加手段が必要ない場合、単に導線等を前記電気的接続手段とし、前記アノードと前記カソードを接続しても良い。それ以外の構成要素も特に限定されない。例えば、従来の水の電気分解装置と同じ構成要素を適宜用いても良い。前記電気分解装置の使用時に前記電解槽内部に入れる水は、導電性の観点から、電解質を適宜加えた電解質溶液(電解質水溶液)であることが好ましい。前記カソードとしては、特に限定されないが、例えば、白金等、本発明の水の電気分解方法の前記説明における例示と同様のカソードが挙げられる。なお、本発明の水の電気分解方法は、本発明の水の電気分解装置により行うことができる。本発明の水の電気分解装置は、例えば、さらに、前記水の電気分解により発生する水素(H)を回収する手段を含み、水素の製造に用いることが好ましい。
【0032】
図11に、本発明の水の電気分解装置の一例を示す。図示のとおり、この装置は、電解槽6および7を主要構成要素とする。電解槽6および7内部は電解質溶液8で満たされている。電解槽6と電解槽7とは流路9で連結されている。電解質溶液8は、流路9を介して電解槽6と電解槽7との間を移動可能である。電解槽6と電解槽7の間には、TiO薄膜1、Ti基板2、Pt(白金)薄膜3、Ti基板4および絶縁シート5が配置されている。TiO薄膜1は、Ti基板2の片面に密着し、その面を全て覆うように形成されている。TiO薄膜1において、Ti基板2に密着した面と反対側の面は、電解槽6に密着している。電解槽6には、四角形のセルすなわち窓(図示せず)が空けられている。前記セルは、TiO薄膜1により覆われている。TiO薄膜1は、前記セルを介して電解質溶液8に接触している。Pt薄膜3は、Ti基板4の片面に密着し、その面を全て覆うように形成されている。Pt薄膜3において、Ti基板4に密着した面と反対側の面は、電解槽7に密着している。電解槽7には、四角形のセルすなわち窓(図示せず)が空けられている。前記セルは、Pt薄膜3により覆われている。Pt薄膜3は、前記セルを介して電解質溶液8に接触している。Ti基板2におけるTiO薄膜1が形成されていない面と、Ti基板4におけるPt薄膜3が形成されていない面とは、対向するように配置されている。Ti基板2におけるTiO薄膜1が形成されていない面と、Ti基板4におけるPt薄膜3が形成されていない面との間には、絶縁シート5が挟まれている。Ti薄膜2とTi薄膜4とは、絶縁シート5により絶縁されている。Ti基板2(TiO薄膜1)は、アノード(陽極)として電池の正極に接続されている。Ti基板4(Pt薄膜3)は、カソード(陰極)として電池の負極に接続されている。電解槽6の上端には酸素タンク10が配置されている。電解槽7の上端には水素タンク11が配置されている。
【0033】
この装置に対し、TiO薄膜1側から光14を照射することで、本発明の水の電気分解方法を行うことができる。必要に応じ、Ti薄膜2とTi基板4との間に、電池等で電圧を印加しても良い。水の電気分解が起こると、TiO薄膜1表面から酸素が発生し、Pt薄膜3表面から水素が発生する。酸素タンク10内部には、TiO薄膜1表面から発生した酸素を貯めることが可能である。水素タンク11内部には、Pt薄膜3表面から発生した水素を貯めることが可能である。この装置は、水素タンク11を水素回収手段とし、水素の製造に用いる場合は、水素製造用装置ということもできる。
【0034】
本発明の光触媒の活性等は、特に限定されない。しかし、例えば、前記各用途に用いるために、例えば、以下のような活性を有することが好ましい。なお、本発明の光触媒は、前述の通り、酸化チタンの酸素の一部が窒素で置換(窒素ドープ)されている。これにより、例えば、活性が飛躍的に向上する等の効果が得られる。
【0035】
本発明の光触媒は、例えば、紫外光(紫外線)を含む光(λ≧250nm)を下記反応条件に基づいて照射した場合の2−プロパノールの酸化分解反応において、2−プロパノールの分解率が15%(15%/h)以上であることが好ましい。2−プロパノールの分解率は、光触媒活性のうち、各種汚染物質に対する分解能力の指標となる。すなわち、本発明の光触媒を、前記汚染物質を含む液相または気相の浄化方法に用いる際の指標となる。なお、下記反応条件は、活性測定のための条件の一例である。本発明は、この反応条件により限定されない。

(反応条件)
本発明の触媒を10×20mm角の薄膜上に形成する。これを、反応溶液中に全部浸漬させる。下記条件で前記薄膜の片面から光照射する。
反応溶液:2−プロパノール水溶液(3.25×10−4mol/L, 5mL)
照射光:λ≧250nm
光源:500W 高圧水銀ランプ
光照射時間:1時間
反応温度:25℃

この反応条件における2−プロパノールの分解率は、より好ましくは20%/h以上、さらに好ましくは22.5%/h以上である。前記2−プロパノールの分解率の上限値は、特に限定されないが、例えば、50%/h以下、または22.5%/h以下である。
【0036】
また、本発明の光触媒に下記反応条件に基づいて可視光(λ≧450nm)を照射した場合の2−プロパノールの分解率は、10%/h以上であることが好ましい。下記反応条件は、活性測定のための条件の一例である。本発明は、この反応条件により限定されない。

(反応条件)
本発明の触媒を10×20mm角の薄膜上に形成する。これを、反応溶液中に全部浸漬させる。下記条件で前記薄膜の片面から光照射する。
反応溶液:2−プロパノール水溶液(3.25×10−4mol/L, 5mL)
照射光:λ≧450nm
光源:500W Xeランプ
光照射時間:1時間
反応温度:25℃

この反応条件における2−プロパノールの分解率は、より好ましくは13%/h以上、さらに好ましくは13.4%/h以上である。前記2−プロパノールの分解率の上限値は、特に限定されないが、例えば、20%/h以下、または13.4%/h以下である。
【0037】
本発明の光触媒における2−プロパノールの分解率は、2−プロパノール水溶液濃度を前記の20倍(6.5×10−3mol/L)にして紫外光を含む光(λ≧250nm)を照射した場合、すなわち下記反応条件においては、6.0%/h以上であることが好ましい。下記反応条件は、活性測定のための条件の一例である。本発明は、この反応条件により限定されない。

(反応条件)
本発明の触媒を10×20mm角の薄膜上に形成する。これを、反応溶液中に全部浸漬させる。下記条件で前記薄膜の片面から光照射する。
反応溶液:2−プロパノール水溶液(6.5×10−3mol/L, 5mL)
照射光:λ≧250nm
光源:500W 高圧水銀ランプ
光照射時間:1時間
反応温度:25℃

この反応条件における2−プロパノールの分解率は、より好ましくは7.0%/h以上、さらに好ましくは8.0%/h以上である。前記2−プロパノールの分解率の上限値は、特に限定されないが、例えば、10%/h以下、または8.0%/h以下である。
【0038】
また、本発明の光触媒における2−プロパノールの分解率は、2−プロパノール水溶液濃度を前記の2倍(6.5×10−3mol/L)にして可視光(λ≧450nm)を照射した場合、すなわち下記反応条件においては、0.15%/h以上であることが好ましい。

(反応条件)
本発明の触媒を10×20mm角の薄膜上に形成する。これを、反応溶液中に全部浸漬させる。下記条件で前記薄膜の片面から光照射する。
反応溶液:2−プロパノール水溶液(6.5×10−3mol/L, 5mL)
照射光:λ≧450nm
光源:500W Xeランプ
光照射時間:1時間
反応温度:25℃

この反応条件における2−プロパノールの分解率は、より好ましくは0.2%/h以上、さらに好ましくは0.25%/h以上である。前記2−プロパノールの分解率の上限値は、特に限定されないが、例えば、0.5%/h以下、または0.25%/h以下である。
【0039】
本発明の光触媒は、例えば、下記条件に基づいて紫外光を含む光(照射光波長λ≧300nm)を照射した際の光電流が、1000μA・cm-2以上であることが好ましい。この光電流値の大きさは、光触媒としての活性全般の指標となる。なお、下記条件は、光電流測定のための条件の一例である。本発明は、下記条件により何ら限定されない。

(光電流測定条件)
ポテンシオスタットで測定する。作用極上に本発明の光触媒を薄膜上に形成し、測定する。
作用極:ITO(インジウムスズ酸化物)
対極:白金
参照電極:飽和カロメル電極(SCE)
電解質溶液:0.25M KSO水溶液(アルゴンガスパージにより酸素除去)
印加電圧:+1.0V vs SCE
照射光:λ≧300nm
光源:500W Xeランプ
測定温度:25℃

この条件における光電流は、より好ましくは1100μA・cm-2以上である。前記光電流の上限値は、特に限定されないが、例えば、1500μA・cm-2以下、または1100μA・cm-2以下である。
【0040】
本発明の光触媒における光電流は、下記条件による可視光(λ≧450nm)照射時においては、130μA・cm-2以上であることが好ましい。下記条件は、光電流測定のための条件の一例である。本発明は、下記条件により何ら限定されない。

(光電流測定条件)
ポテンシオスタットで測定する。作用極上に本発明の光触媒を薄膜上に形成し、測定する。
作用極:ITO(インジウムスズ酸化物)
対極:白金
参照電極:飽和カロメル電極(SCE)
電解質溶液:0.25M KSO水溶液(アルゴンガスパージにより酸素除去)
印加電圧:+1.0V vs SCE
照射光:λ≧450nm
光源:500W Xeランプ
測定温度:25℃

この条件における光電流は、より好ましくは150μA・cm-2以上、さらに好ましくは170μA・cm-2以上である。前記光電流の上限値は、特に限定されないが、例えば、200μA・cm-2以下、または170μA・cm-2以下である。
【0041】
本発明の光触媒は、例えば、下記反応条件における水の電気分解反応において、H発生量が0.45μmoL/h以上であることが好ましい。下記反応条件は、H発生量測定条件の一例であり、本発明を限定しない。

(反応条件)
アノード(陽極):金属Ti基板上に本発明の光触媒を薄膜上に形成
カソード(陰極):金属Ti基板上にPt(白金)薄膜を形成
電解質溶液:0.25M KSO水溶液
印加電圧:+1.5V vs Pt
セルサイズ:50mm×50mm角
照射光:λ≧450nm
光源:光源は500W Xeランプ
反応温度:25℃

この条件における前記H発生量は、より好ましくは0.5μmoL/h以上、さらに好ましくは0.575μmoL/h以上である。前記H発生量の上限値は、特に限定されないが、例えば、1.0μmoL/h以下、または0.575μmoL/h以下である。なお、水の電気分解反応においては、O発生量(μmoL/h)は、H発生量(μmoL/h)の2分の1となる。
【実施例】
【0042】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は以下の実施例および比較例によって制限されない。
【0043】
[酸化チタン薄膜(光触媒)の作製]
(実施例a〜d:窒素置換型酸化チタン薄膜)
窒素置換型酸化チタン薄膜を、RFマグネトロンスパッタ法により作製(成膜)した。基板は、石英、ITOまたは金属Tiを用いた。成膜時、基板の温度は873Kに設定した。ターゲットは、二酸化チタンを用いた。そして、下記に示す種々の割合のN/Ar混合ガス雰囲気中で、前記基板上にRFマグネトロンスパッタ法で窒素置換型酸化チタン薄膜(N−TiO)を成膜した。前記混合ガスのN/Ar比は、0.020(a)、0.042(b)、0.111(c)および0.667(d)の四種類である。
【0044】
(比較例:窒素置換されていない酸化チタン薄膜)
比較例1として、石英、ITOまたは金属Ti基板上に二酸化チタン薄膜(UV−TiO)を成膜した。比較例1では、雰囲気ガスを、N/Ar混合ガスに代えてO/Ar混合ガスを用いて成膜した。これ以外の条件は前記と同様であった。成膜法は、RFマグネトロンスパッタ法を用いた。前記O/Ar比は0.042(24:1)とした。
【0045】
比較例2として、金属Ti基板上に二酸化チタン薄膜(Vis−TiO)を成膜した。比較例2の薄膜は、雰囲気ガスを、N/Ar混合ガスに代えてArガスのみを用いる以外は、前記と同様の作製条件で、金属Ti基板上に作製した。成膜法は、RFマグネトロンスパッタ法を用いた。
【0046】
なお、RFマグネトロンスパッタ法に用いた機器は、オーナルテック社製のマグネトロンスパッター装置「N-SP-12」(商品名)である。
【0047】
このようにして得られた実施例および比較例の二酸化チタン薄膜について、光触媒活性等の特性について評価若しくは測定した。
【0048】
[キャラクタリゼーションおよび光電気化学特性]
前記二酸化チタン薄膜のキャラクタリゼーションは、UV−vis−吸収スペクトロメトリー、XRDスペクトロメトリーおよびXPSスペクトロメトリーにより行った。UV−vis−吸収スペクトロメトリーは、島津製作所社製UV−2200A(商品名)を用いて測定した。XRDスペクトロメトリーは、島津製作所社製XRD−6100(商品名)を用いて測定した。XPSスペクトロメトリーは、島津製作所社製ESCA−3200(商品名)を用いて測定した。
【0049】
図1のグラフに、前記実施例の窒素置換型酸化チタン薄膜および比較例1の二酸化チタン薄膜のUV−vis吸収スペクトルを示す。同図において、aがN/Ar比=0.020である。bがN/Ar比=0.042である。cがN/Ar比=0.111である。dがN/Ar比=0.667である。図2および図3においても同様である。図1に示すように、比較例1の薄膜は紫外光領域(λ≦420nm)の光しか吸収しなかった。しかし、N/Ar雰囲気下で作製した実施例の薄膜は、紫外線領域(紫外光領域)および可視光領域の双方において光吸収が認められた。また、N/Ar比(窒素導入量)の増加に伴い、可視光吸収量も増大した。なお、比較例1の薄膜は無色であった。しかし、実施例の薄膜は、可視光領域の光吸収に由来する黄色を呈していた。また、図1に示すように、N/Ar比が0.042以上(b,cおよびd)では、吸収端そのものが500nm以上の可視光領域にシフトしていた。この結果は、非特許文献4に開示されている窒素置換型酸化チタンの吸収(400〜600nm付近までの吸収はショルダー)と大きく異なっていた。これについては、本発明の実施例の窒素置換型酸化チタン薄膜では、不純物準位がなく、バンドギャップが小さくなっていると推測される。ただし、この推測は、本発明をなんら制限するものではない。
【0050】
図2のグラフに、前記実施例の窒素置換型酸化チタン薄膜および比較例1の二酸化チタン薄膜のXPSスペクトルを示す。図示のように、本実施例の薄膜では、396eV付近にTi−N結合に由来するピークが観測された。そして、窒素導入量の増加とともにそのピーク強度は増大した。また、本実施例の薄膜について、XPSスペクトロメトリーにより窒素置換率(窒素ドープ率)を測定した。窒素置換率の測定方法および算出方法は、前述の通りである。その結果、N/Ar比=0.020(a)が2.0%、N/Ar比=0.042(b)が6.0%、N/Ar比=0.111(c)が11.5%、N/Ar比=0.667(d)が16.5%であった。
【0051】
図3のグラフに、前記窒素置換型酸化チタン薄膜および比較例1の二酸化チタン薄膜のXRDスペクトルを示す。図3Aは全体グラフである。図3Bは部分拡大グラフである。図3Aのグラフに示すように、窒素置換率が11.5%以下のもの(a,b,c)はアナタースメインの結晶構造を有していた。そして、窒素置換率の増加とともにピーク位置が低角度側にシフトしていた。窒素置換率16.5%(d)ではアナタース、ルチルのいずれにも帰属されないピークが観測された。また、本実施例において、ルチル構造由来のピークは、観測されなかった。さらに、図3Bに示すように、窒素置換率の増加とともにXRDピークのシフトも大きくなっていた。これは、Nの方が、Oよりもイオン半径が大きいため、結晶格子にひずみが生じ、バンドギャップが小さくなっていることに由来すると推測される。なお、この推測は、本発明をなんら制限するものではない。
【0052】
前記二酸化チタン薄膜の光電気化学測定は、ポテンシオスタットを用いて行った。具体的には、ITO基板上に成膜した薄膜を作用極、白金を対極および飽和カロメル電極(SCE)を参照電極とした三電極系で行った。この測定において、電解質は0.25M KSO水溶液を用いた。溶液中の酸素を取り除くために、予め、溶液内をアルゴンガスでパージした。印加電圧は、+1.0V vs SCEとした。測定温度は、室温(25℃)であった。
【0053】
図4のグラフに、窒素置換率6.0%(b)の本実施例の薄膜のアノード光電流の照射光波長依存性を示す。また、破線は、窒素置換率6.0%(b)の本実施例の薄膜のUV−Vis吸収スペクトルを示す。同図に示すように、吸収スペクトルとよく一致してアノード光電流が観測された。このことから、光電流応答性は、バンドギャップ励起によるものであると考えられる。なお、この推測は、本発明をなんら制限するものではない。
【0054】
[2−プロパノールの酸化分解反応]
石英基板(10×20mm)上に前述の通り酸化チタン薄膜を成膜し、その上に白金を蒸着した。これを触媒として用い、光触媒活性評価を実施した。具体的には、まず、2−プロパノール水溶液(3.25×10−4mol/L, 5mL)を反応溶液とした。この反応溶液中に前記触媒を全部浸漬させた。そして、前記触媒に、500W Xeランプまたは500W 高圧水銀ランプを光源として室温(25℃)で1時間光照射した。このときに起こった前記2−プロパノールの酸化分解反応で光触媒活性を評価した。前記酸化分解反応の生成物は、ガスクロマトグラフで検出した。ガスクロマトグラフは、島津製作所社製GC−14A(商品名)を用いて測定した。
【0055】
図5のグラフおよび図6のグラフに、実施例(窒素置換型酸化チタン薄膜)および比較例1の二酸化チタン薄膜の紫外光(紫外線)および可視光照射下での2−プロパノールの酸化分解反応の結果を示す。図5のグラフは、可視光照射下(λ≧450nm、光源は500W Xeランプ)での結果である。図6のグラフは、紫外光を含む全光照射下(λ≧250nm、光源は500W 高圧水銀ランプ)での結果である。図5のグラフに示すとおり、可視光照射下(λ≧450nm)では、比較例1の薄膜は、光触媒活性を全く示さなかった。しかし、本実施例の薄膜(a〜d)は、2−プロパノールを酸化分解できた。また、本実施例の薄膜において、窒素置換率が6.0%(b)のとき,光触媒活性が最大であった。さらに、図6のグラフに示すとおり、本実施例の薄膜(a〜d)は、紫外光照射下(λ≧250nm)での活性も維持していた。特に、窒素置換率が6.0%(b)のときは、最大の活性を示した。
【0056】
さらに、2−プロパノール水溶液の濃度を20倍(6.5×10−3mol/L)にした以外は前記と同様にして2−プロパノールの酸化分解反応を行った。図7および8のグラフにその結果を示す。図7のグラフは、可視光照射下(λ≧450nm、光源は500W Xeランプ)での結果である。図8のグラフは、紫外光を含む全光照射下(λ≧250nm、光源は500W 高圧水銀ランプ)での結果である。図示の通り、本実施例の薄膜は、可視光照射下(λ≧450nm)において、2−プロパノールの濃度を20倍にしても同様に2−プロパノールを酸化分解できた。また、前記と同様、紫外光照射下(λ≧250nm)での活性も維持していた。さらに、前記と同様、紫外光照射下、可視光照射下のいずれにおいても、窒素置換率が6.0%(b)のとき,光触媒活性が最大であった。
【0057】
[焼成光触媒、そのキャラクタリゼーションおよび光電気化学特性]
つぎに、窒素置換率6.0%(b)の本実施例の薄膜について、大気中において、温度473K(200℃)(e)、温度673K(400℃)(f)、温度773K(500℃)(g)で30分焼成した。そして、下記に示すように、それらの特性を評価した。
【0058】
まず、前記焼成二酸化チタン薄膜について、UV−vis−吸収スペクトロメトリーによりキャラクタリゼーションした。図9のグラフに、前記焼成した本実施例の薄膜の吸収スペクトルを、焼成前の薄膜(b)および比較例1の薄膜と併せて示す。図示のように、焼成前の薄膜(b)に見られる500〜800nmのTi3+に基づく吸収が、焼成温度の上昇とともに減少した。前記吸収は、673K(400℃)でほぼ消失していた。
【0059】
図10のグラフに、焼成温度473K(e)、焼成温度673K(f)および焼成温度773K(g)のアノード光電流の測定値を、焼成前の薄膜(b)および比較例1の薄膜と併せて示す。図10Aは紫外光を含む全光照射下(λ≧300nm、光源は500W Xeランプ)での測定結果である。図10Bは可視光照射下(λ≧450nm、光源は500W Xeランプ)での測定結果である。また、前記両図において、「N−TiO」は、焼成前の薄膜(実施例b)を表し、「UV−TiO」は、比較例1の薄膜を示す。図示のように、紫外光照射下(λ≧300nm)では焼成温度が高くなるにつれて光電流が増加した。そして、673K(g)以上の焼成温度で最も高いアノード光電流値を示した。一方、可視光照射下(λ≧450nm)では、焼成温度673K(f)でアノード光電流値が最大となった。このように、焼成温度のコントロールにより、紫外光領域(紫外線領域)および可視光領域における光触媒活性を選択的に高めることができる。
【0060】
[光電気化学的水の分解反応]
光電気化学的水の電気分解による水素と酸素の分離生成反応(以下、単に「水の電気分解反応」という場合がある)により、光触媒活性を評価した。本実施例の光触媒としては、金属Ti基板上に形成した、窒素置換率が6.0%である前記薄膜(b)を用いた。比較例1として、O/Ar混合ガス雰囲気で金属Ti基板上に形成した前記二酸化チタン薄膜(UV−TiO)を用いた。比較例2として、Arガスのみの雰囲気で金属Ti基板上に形成した前記二酸化チタン薄膜(Vis−TiO)を用いた。
【0061】
本実施例における水の電気分解反応には、図11に示した構造の装置を用いた。本実施例の装置では、セルは50mm×50mm角であった。絶縁シート5は、テフロンシートを用いた。なお、「テフロン」は、イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーが販売するポリテトラフルオロエチレン製品の登録商標である。電解質溶液8は、0.25M KSO水溶液を用いた。水の電気分解反応は、TiO薄膜1側から光14を照射するとともに、Ti薄膜2とTi基板4との間に電池で電圧を印加して行った。光14は、可視光(λ≧450nm、光源は500W Xeランプ)を用いた。電池は、ポテンシオスタット(北斗電工株式会社製、商品名HZ3000)を用いた。Ti基板2(TiO薄膜1)とTi基板4(Pt薄膜3)との間の印加電圧は、1.5Vとした。反応温度は、室温(25℃)であった。
【0062】
図12のグラフに、前記水分解反応の結果を示す。同図において、横軸は光照射時間である。縦軸は水素(H)および酸素(O)の発生量(μmoL)である。同図中、●は水素発生量を示す。■は酸素発生量を示す。図示のとおり、窒素置換率が6.0%である本実施例の薄膜(b)は、光照射により、水素と酸素を2:1のモル比で発生させた。水素と酸素の発生量は、光照射時間に正比例した。O/Ar混合ガス中で作製した比較例1の薄膜(UV−TiO)は、水素と酸素を全く発生しなかった。すなわち、比較例1の薄膜(UV−TiO)は、光触媒活性を全く示さなかった。Arガス中で作製した比較例2の薄膜(Vis−TiO)は、水素と酸素を2:1のモル比で発生させた。しかし、その発生量は、実施例の薄膜と比較して5分の1程度であった。すなわち、窒素ドープした本実施例の薄膜は、比較例2の薄膜よりもはるかに優れた光触媒活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明の光触媒は、紫外線領域および可視光領域の双方において高い光触媒活性を示す。本発明の光触媒は、例えば、有機化合物を含む液相または気相の浄化、浄水の製造、水の電気分解、水素の製造等に使用可能である。その他、本発明の光触媒の用途は、特に制限されず、あらゆる分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の一実施例におけるUV−vis吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の一実施例におけるXPSスペクトルを示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の一実施例におけるXRDスペクトルを示すグラフであり、図3Aは全体図であり、図3Bは部分拡大図である。
【図4】図4は、本発明の一実施例におけるアノード光電流の照射光波長依存性を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の一実施例において、可視光照射下における水溶液中の2−プロパノール分解率を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の一実施例において、紫外光を含む全光照射下における水溶液中の2−プロパノール分解率を示すグラフである。
【図7】図7は、水溶液濃度を変えた以外は図5と同条件で測定した2−プロパノール分解率を示すグラフである。
【図8】図8は、水溶液濃度を変えた以外は図6と同条件で測定した2−プロパノール分解率を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の一実施例におけるUV−vis吸収スペクトルを示すグラフである。
【図10】図10Aは、本発明の一実施例における紫外光を含む全光照射下の光電流を示すグラフであり、図10Bは、本発明の一実施例における可視光照射下の光電流を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の水の電気分解装置の一例を示す模式図である。
【図12】図12は、図11の装置を用いた水分解反応による水素と酸素の発生量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1 TiO薄膜
2、4 Ti基板
3 Pt(白金)薄膜
5 絶縁シート
6、7 電解槽
8 電解質溶液
9 流路
10 酸素タンク
11 水素タンク
12 酸素
13 水素
14 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを含む光触媒であって、前記酸化チタンが、ルチル型を含まず、かつ窒素により酸素が置換されており、前記窒素置換率が、原子数で1.5%以上であることを特徴とする光触媒。
【請求項2】
前記窒素置換率が、原子数で1.5〜17%の範囲である請求項1記載の光触媒。
【請求項3】
前記酸化チタンが、二酸化チタンである請求項1または2記載の光触媒。
【請求項4】
紫外線領域および可視光領域において光触媒活性を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の光触媒。
【請求項5】
前記酸化チタンが、窒素含有不活性ガス雰囲気下で、かつ基板温度400℃以上の高温条件のRFマグネトロンスパッタ法により製造される窒素置換型酸化チタン薄膜である請求項1〜4のいずれか一項に記載の光触媒。
【請求項6】
光触媒の製造方法であって、窒素含有不活性ガス雰囲気および基板温度400℃以上の条件下、ターゲットを酸化チタンとするRFマグネトロンスパッタ法により窒素置換型酸化チタン薄膜を製造する光触媒の製造方法。
【請求項7】
前記窒素含有不活性ガスが、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスである請求項6記載の光触媒の製造方法。
【請求項8】
窒素ガス(N)とアルゴンガス(Ar)の体積比(N/Ar)が、0.020〜0.7の範囲である請求項7記載の光触媒の製造方法。
【請求項9】
さらに前記窒素置換型酸化チタン薄膜を焼成する請求項6〜8のいずれか一項に記載の光触媒の製造方法。
【請求項10】
前記焼成温度が、200℃以上である請求項9記載の光触媒の製造方法。
【請求項11】
水の外部で電気的に接続されたアノード(陽極)およびカソード(陰極)により前記水に対し電圧を印加することで水素と酸素に分解する水の電気分解方法であって、前記アノードとして、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒を含むアノードを用い、前記アノードに光を照射することにより電圧を印加することを特徴とする方法。
【請求項12】
水の電気分解により水素(H)を製造する水素製造方法であって、請求項11記載の方法により水を電気分解することを特徴とする製造方法。
【請求項13】
水の電気分解装置であり、
アノード(陽極)とカソード(陰極)と電解槽とを含み、
前記電気分解装置の使用時には前記電解槽内部に水を入れ、前記使用時において、前記アノードおよび前記カソードはそれぞれ前記水に接触し、前記アノードと前記カソードは直接接触せず、前記電解槽外部で電気的接続手段により接続されている、水の電気分解装置であって、
前記アノードが、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒を含むアノードであることを特徴とする装置。
【請求項14】
さらに、前記水の電気分解により発生する水素(H)を回収する手段を含み、水素の製造に用いる請求項13記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−253148(P2007−253148A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34001(P2007−34001)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電気通信回線による発表: 掲載年月日:平成18年11月4日 掲載アドレス1: http://pubs.acs.org/journals/jpcbfk/index.html 掲載アドレス2: http://pubs.acs.org/cgi−bin/article.cgi/jpcbfk/2006/110/i50/pdf/jp064893e.pdf 掲載アドレス3: http://pubs.acs.org/emeta/AcsLogin?url=%2FUADB%2Fxppview%2Fcgi−bin%2Farticle.cgi%2Fjpcbfk%2F2006%2F110%2Fi50%2Fpdf%2Fjp064893e.pdf&mode=login 掲載アドレス4: https://pubs.acs.org/emeta/PurchaseAccess?SV−SuccessRedirect=+http%3A%2F%2Fpubs.acs.org%2Fcgi−bin%2Farticle.cgi%2Fjpcbfk%2F2006%2F110%2Fi50%2Fpdf%2Fjp064893e.pdf%3FbeginP pview%3D%2FUADB%2Fxppview%26emFrom%3DemLogin+&paPurchaseForm=aocCreditInput&SV−ArticleInfo=+%253CATL%253E%253CB%253EPreparation%2Bof%2BNitrogen−Substituted%2BTiO%253Csub%253E2%253C%252Fsub%253E%2BThin%2BFilm%2BPhotocatalysts%2Bby%2Bthe%2BRadio%2BFrequency%2BMagnetron%2BSputtering%2BDeposition%2BMethod%2Band%2BTheir%2BPhotocatalytic%2BReactivity%2Bunder%2BVisible%2BLight%2BIrradiation%253C%252FB%253E%253C%252FATL%253E%253CP%253E%253CI%253EMasaaki%2BKitano%252C%2BKeisho%2BFunatsu%252C%2BMasaya
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】