説明

光送信器

【課題】LDからの信号の反射を防止することによって、出力波形の劣化防止と低消費電力化との両立を可能にする光送信器を提供すること。
【解決手段】この光送信器1は、差動信号をそれぞれアノードとカソードに受けて光信号を生成するLD9を含み入力インピーダンスZを有するTOSA2と、該差動信号を生成し出力インピーダンスを有するLDD3と、TOSA2とLDD3とを電気的に接続し該差動信号をLDD3からTOSA2に伝送し、その伝送インピーダンスZが該入力インピーダンスZ及び該出力インピーダンスに整合する一対の伝送線路15,16とを有し、LDD3は一対の伝送線路15,16のそれぞれに接続されたトランジスタ31a,31bと電流源32a,32bの直列回路と、一方のトランジスタ31aと電流源32aとを他方のトランジスタ31bと電流源32bとに接続する第1の抵抗35を含む擬似終端回路8を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を送信する光送信器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用される半導体レーザダイオード(以下、「LD」ともいう)は、通常5〜10Ωの微分抵抗を持っている。このLDは小型のTO−CANパッケージ内に実装され、LDは、TO−CANパッケージからフレキシブル基板、リジッド基板等に形成された伝送路を介してLD用の駆動回路(以下、「LDD」ともいう)と接続される。LDからLDDまでは通常数十mmの距離があるため、伝送速度が高速になるに伴い、反射による光信号の波形劣化が従来から問題となっていた。
【0003】
例えば、このような課題に対応するため、LDD側に反射された電気信号を吸収するためのバックターミネーションを設けることが行われている(下記非特許文献1参照。)。小さい負荷抵抗に対して反射波を発生させないようにするには、特性インピーダンスZがコントロールされた伝送路で接続する必要がある。ここで、反射の影響を小さくするには、ZをLDの微分抵抗を含めた伝送路から見込んだTO−CANの入力インピーダンスZに合わせるか、さらに/もしくはZとLDD側のバックターミネーションZBTを合わせる必要がある。Zに整合させようとすると、5〜10Ωの光伝送路を構成するために太い配線が必要となり非現実的である。また、仮にLDに直列に抵抗を接続してZをZに合わせようとしても、Zの周波数成分(特にLDのインピーダンスについては、内部容量等により大きな周波数特性を有する)を完全に補償することは難しく、有意な値の反射を生じ、この反射がLDD側にまで伝えられ、結果としてLDD出力波形の伝送品質の劣化が生じていた。従って、バックターミネーションを設けて、バックターミネーションZBTをZに合わせることにより、ZとZとの不整合によって生じるLDからの反射波全てをZBTに吸収させて多重反射を防いでいた。
【0004】
上記のようなバックターミネーションによる電力損失を低減するため、駆動回路の駆動波形と同振幅、同位相の信号をレプリカ信号として生成し、低インピーダンスのバッファアンプで負荷(LD)を駆動するような駆動回路も知られている(下記特許文献1参照)。レプリカ信号とは負荷抵抗RとLD電流の積、すなわちLDDの差動出力間の信号と同じ振幅、位相を持った信号である。この駆動回路では、バッファアンプとメインアンプの間に抵抗を設け、反射波のみをこの抵抗で吸収させることにより、電力損失の少ない駆動回路が実現されている。
【0005】
また、下記非特許文献1に記載されたアクティブバックターミネーションの一種として、バックターミネーションを線形負帰還アンプによって構成することも知られている(非特許文献2参照。)。帰還アンプを構成する素子(Rf、Cf)とアンプの駆動電流を最適化することによって、バックターミネーションによる電力損失を無くすことができる。
【0006】
さらに、バックターミネーションをエミッタフォロアの出力抵抗、抵抗、及びトランジスタによって実現することも知られている(下記特許文献2参照。)。このエミッタフォロアは、レプリカ信号で駆動され、バックターミネーションに電流が流れないように、出力端子電圧とレプリカ信号のコモンモード電圧が同じになるように負帰還制御をかけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,542,008号
【特許文献2】米国特許第6,965,722号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. Sackinger, “Broadband Circuits forOptical Fiber Communication”, Wiley-Interscience, 2005年3月11日, p.273
【非特許文献2】“ISSCC 2005 / SESSION 12 /OPTICAL COMMUNICATIONS / 12.1”, 2005 IEEE ISSCC, DIGEST OF TECHNICAL PAPERS, 2005年2月8日, p220-221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した非特許文献1に記載の構成では、バックターミネーションが抵抗であり電源に接続されているため、出力電流が負荷及びバックターミネーションに分流してしまうので、負荷に供給される電流の効率が低下する。一方、特許文献1,2及び非特許文献2に記載の構成においては、伝送路とのインピーダンス整合を良くするために負荷抵抗を大きくする場合、レプリカ信号の振幅が大きくなって電力を消費してしまい、また低電圧化が困難な傾向にある。すなわち、駆動回路の出力と同振幅かつ同位相のレプリカ信号を生成する必要があるので、LD負荷抵抗が大きくなると、レプリカ信号生成回路の負荷抵抗を大きくするか、レプリカ信号生成回路に流れる電流を増やす必要がある。特に高速通信に利用した場合にはレプリカ信号生成回路の負荷抵抗を大きくすることはできないため、電流を増やす必要があり、消費電力が増大する。
【0010】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、LDからの信号の反射を防止することによって、出力波形の劣化防止と低消費電力化との両立を可能にする光送信器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の光送信器は、差動信号をそれぞれアノードとカソードに受けて光信号を生成するレーザダイオードを含み入力インピーダンスを有する光信号生成部と、該差動信号を生成し出力インピーダンスを有する駆動回路と、該光信号生成部と該駆動回路とを電気的に接続し該差動信号を該駆動回路から該光信号生成部に伝送し、その伝送インピーダンスが該入力インピーダンス及び該出力インピーダンスに整合する一対の伝送線路とを有し、駆動回路は一対の伝送線路のそれぞれに接続されたダイオード素子と電流源の直列回路と、一方のダイオード素子と電流源とを他方のダイオード素子と電流源とに接続する第1の抵抗を含む終端回路を備えている。
【0012】
このような光送信器によれば、駆動回路に設けられた終端回路が、ダイオード素子と電流源とを含む一対の直列回路と一対の直列回路を接続する抵抗とによって構成されているので、電流源から少ない電流を供給することで駆動回路の2つの差動出力間に効率的にバックターミネーションを形成することができる。さらには、レプリカ信号を生成することなく能動的なバックターミネーションを形成することができる。これにより、光出力波形の劣化を防止しようとする際に、低電圧化が容易であり、かつ消費電力の低減も図ることができる。
【0013】
ここで、ダイオード素子は、コレクタとベースを短絡されたバイポーラトランジスタである、ことが好ましい。また、ダイオード素子はダイオードである、ことも好ましい。
【0014】
また、終端回路はさらに一対の伝送線路のそれぞれを直接接続する第2の抵抗を含む、ことも好ましい。こうすれば、駆動回路の差動出力間の電位差が大きくなった場合であっても、第2の抵抗を補助抵抗として用いることで、高周波から低周波にわたってインピーダンスを下げることができる。その結果、駆動回路の差動出力間の電位差が大きくなってもバックターミネーションとして機能させることができる。
【0015】
さらに、電流源は、可変電流源である、ことも好ましい。かかる電流源を備えれば、電流源の出力を調整することでバックターミネーションの特性を調整することができ、反射波の影響を確実に低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光送信器によれば、LDからの信号の反射を防止することによって、出力波形の劣化防止と低消費電力化との両立が可能にされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な一実施形態にかかる光送信器の構成を示す回路図である。
【図2】図1の擬似終端回路の構成を示す回路図である。
【図3】図1の光送信器において擬似終端回路の端子間の差動振幅を変化させた場合のリターンロスの周波数特性を示すグラフである。
【図4】LDを直接変調した場合のLD電流波形を示す図であり、(a)は、従来文献に開示された方式の場合、(b)は、図1の光送信器から擬似終端回路を除いた場合、(c)は、図1の光送信器の場合の波形を示す図である。
【図5】本発明の変形例に係る擬似終端回路の構成を示す回路図である。
【図6】本発明の別の変形例に係る擬似終端回路の構成を示す回路図である。
【図7】図6の擬似終端回路を用いた光送信器において差動振幅を変化させた場合のリターンロスの周波数特性を示すグラフである。
【図8】本発明の別の変形例に係る擬似終端回路の構成を示す回路図である。
【図9】本発明の別の変形例に係る擬似終端回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る光送信器の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の好適な一実施形態にかかる光送信器1の構成を示す回路図である。同図に示す光送信器1は、光通信において用いられ、データ信号に応じた光信号を生成するための装置であり、光信号生成部としての光送信サブアッセンブリ(以下、「TOSA:Transmitter Optical Sub Assembly」という)2と、集積回路であるレーザ駆動回路(以下、「LDD」という)3と、TOSA2とLDD3との間を電気的に接続する伝送線路4とによって構成されている。
【0020】
データ信号は、互いに相補的な信号である差動信号Txn,Txpとして、LDD3の入力端子T,Tにそれぞれ入力され、これらの信号は、変調電流源5に接続された差動対を構成する2つのトランジスタ6,7にそれぞれ入力される。この2つのトランジスタ6,7は、例えば、NPNトランジスタであり、それぞれのベース端子が入力端子T,Tに接続され、エミッタ端子が変調電流源5を介して接地されおり、それぞれのコレクタ端子が出力端子T,Tに接続されている。このような構成により、トランジスタ6,7がデータ信号に応じてスイッチングされることにより、LDD3のそれぞれの出力端子T,Tにデータ信号に応じた変調電流(差動信号)が生成及び出力され、TOSA2に供給される。
【0021】
また、LDD3の出力端子T,T間には、擬似終端回路8が接続されている。この擬似終端回路8は、伝送線路4側からの信号の反射を吸収してTOSA2側への再反射を防止する役割を有する(詳細は後述する。)。
【0022】
TOSA2は、半導体レーザダイオード(以下、「LD」という)9と、LD9に接続された直列抵抗10,11及びインダクタ12,13によって構成されている。詳細には、LD9、直列抵抗10,11、及びインダクタ12,13は、TO−CANパッケージやバタフライパッケージ等の光通信用のパッケージ内に実装されている。このTOSA2には入力端子T,Tが設けられ、入力端子Tが直列抵抗10を介してLD9のアノードに接続され、入力端子Tが直列抵抗11を介してLD9のカソードに接続されている。この入力端子T,Tを通じてLD9のアノードとカソードとがLDD3から差動信号を受けることにより、LD9が光信号を生成する。
【0023】
このとき、LDD3側からみたTOSA2の入力インピーダンスZは、LD9が持つ微分抵抗をRLD、直列抵抗10,11のそれぞれの抵抗値をRdn,Rdpとすると、下記式(1);
= RLD + Rdp + Rdn …(1)
によって与えられる。
【0024】
また、LD9は、そのアノードにインダクタ12を介してバイアス電圧Vccが印加され、そのカソードにインダクタ13を介してバイアス電流源14が接続されることにより、バイアス電流(駆動電流)が供給される。なお、このバイアス電流源14はインダクタ12側に配置されていてもよく、この場合、インダクタ13は直接接地される。
【0025】
さらに、LDD3の出力端子T,Tと、TOSA2の入力端子T,Tとの間には、それぞれ、LDD3とTOSA2とを電気的に接続する2本の伝送線路15,16が接続されている。この伝送線路15は、LDD3側の伝送線路17aとTOSA2側の伝送線路17bとが直流遮断用のキャパシタ19を介して接続されて構成されている。同様に、伝送線路16は、LDD3側の伝送線路18aとTOSA2側の伝送線路18bとが直流遮断用のキャパシタ20を介して接続されて構成されている。このような構成によって、伝送線路15,16上に伝送される信号は直流的に分離され、LDD3からの高周波信号(差動信号)は伝送線路15,16及び直列抵抗10,11を介してLD9に伝送される。
【0026】
さらに、伝送線路17a,18aとLDD3の出力端子T,Tとの間には、それぞれ、インダクタ21,22を介してバイアス電圧Vccが印加されている。これにより、LDD3のトランジスタ6,7のコレクタ端子に直流電流が供給される。
【0027】
なお、伝送線路17a,17b,18a,18bの特性インピーダンスZは、入力インピーダンスZ及びLDD3の出力インピーダンスと整合されており、LD9を含む負荷からLDD3に向けた信号の反射はその大部分が抑制される。しかしながら、LD9は微分抵抗と並列に数pF程度の容量を持っており高周波ではインピーダンスが低下するため、反射は完全には無くならない。LDD3の擬似終端回路8は、吸収しきれない高周波の反射をLDD3側で吸収し再度伝送線路15、16からTOSA2に向けて戻さない役割を担う。
【0028】
図2は、擬似終端回路8の構成を示す回路図である。従来のバックターミネーションの方式のように、終端回路として出力端子T,T間を低抵抗で接続するだけでもバックターミネーションの効果は得られるが、その場合は変調電流の一部が分流するために結果的に消費電力が増えてしまう。そこで、擬似終端回路8は、同図に示すように、トランジスタを用いた終端回路を採用する。
【0029】
具体的には、擬似終端回路8は、トランジスタ31a,31b及び電流源32a,32bからなる2つの直列回路33a,33bと、抵抗値Rebtの第1の抵抗35とを有している。トランジスタ31a,31bは、例えば、NPNトランジスタ(バイポーラトランジスタ)であり、コレクタ−ベース間が互いに短絡されてエミッタとの間にダイオード素子が構成され、そしてそれぞれのエミッタは電流源32a,32bを介して接地され、それぞれのコレクタ及びベースは、出力端子T,Tを介して伝送線路15,16に接続されている。また、第1の抵抗35は、2つの直列回路33a,33bの中間点34a,34bの間、すなわち、2つのトランジスタ31a,31bのエミッタ間に接続されており、一方のトランジスタ31aと電流源32aを他方のトランジスタ31bと電流源32bに接続する役割を有する。このような構成により、それぞれのトランジスタ31a,31bには2つの電流源32a,32bからバイアス電流が供給される。
【0030】
ここで、ダイオード接続されたトランジスタ31a,31bにおいて、コレクタ−エミッタ間の微分抵抗はトランジスタのトランスコンダクタンスgmの逆数になる。このトランスコンダクタンスgmはコレクタ電流Icと温度によって決定され、出力端子T,Tが同電位の場合の2つのトランジスタ31a,31bのコレクタ電流Icは同じなので、このときのトランスコンダクタンスをgm0とすると、擬似終端回路8の端子間インピーダンスZBTは、下記式(2);
BT = Rebt + 2/gm0 …(2)
によって計算される。
【0031】
また、トランスコンダクタンスgm0は、下記式(3);
gm0 = Ic/Vt = Ic・q/(kT) …(3)
で表される。Vtは、kT/q(k:ボルツマン定数、T:絶対温度(K)、q:素電荷)であるので、gm0は絶対温度Tに反比例する。例えば、トランジスタ31a,31bの温度が27°Cの時、コレクタ電流Icが1mAであれば1/gm0は26Ωと計算される。従って、擬似終端回路8の電流源32a,32bとしては、絶対温度に比例するPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電流源が採用されることが好適である。このとき、gm0が有する温度特性をキャンセルして温度に依存しない値を有する抵抗を得ることが可能となる。
【0032】
上記のような構成の擬似終端回路8では、例えば第1の抵抗として75Ωを採用すると、トランジスタ31a,31bに数mAの電流を流せば数Ω〜数十Ωの抵抗を作ることができるので、この第1の抵抗35との合成回路により、多くの電流を流すことなく一対の伝送線路に一方から他方をみこんだインピーダンスを約100Ωとすることができ、所定のインピーダンスを示すバックターミネーションを形成することができる。また、擬似終端回路8は、レプリカ信号を生成することなく、能動的な終端を形成することができるので、低電圧化が容易であり、かつ消費電流も小さくすることができる。なお、ダイオード接続された差動対としてのトランジスタ31a,31bは第1の抵抗35によりエミッタ負帰還された差動アンプとして考えることができる。エミッタ負帰還の効果により終端回路8の端子間の電位差が数百mV程度であればZBTは変動しないが、その電位差が大きくなると、片側のトランジスタはオフし電流が流れなくなる。例えば、トランジスタ31b側の電位がトランジスタ31a側の電位に比較して十分小さくなりグラウンド電位に近づくと、電流源32bが定電流源として機能しなくなるばかりでなく、ダイオード接続されたトランジスタ31bのベース−エミッタ間電位(ダイオードの順方向電位)が0に近づくのでその等価抵抗も大きな値になってしまう。この場合、直流におけるインピーダンスは大きくなってしまうが、トランジスタのベース−エミッタ間容量を通じて、高周波では比較的低インピーダンスで終端することができるので、バックターミネーションの効果はある程度維持される。
【0033】
従来文献(E. Sackinger, “Broadband Circuits for Optical Fiber Communication”, Wiley-Interscience)に開示された抵抗によるバックターミネーション方式においては、抵抗RBTの典型的な抵抗値としては25Ω或いは50Ωが多く用いられている。この抵抗RBTは多重反射を抑制し、光波形を改善する効果を有するが、LDを変調する電流の一部が分流してしまうため(LDD内での伝送ライン駆動素子の負荷として挿入される)、消費電力が増加してしまう。また、LDDやLDを配線するワイヤボンディングに伴うインダクタンスによる影響を低減するには、インピーダンスZは、5〜10Ωではなく25〜50Ωなどのより高い値が望まれる。この場合、LDの直近に直列抵抗を挿入することでインピーダンスを大きくできる。そうすると、抵抗RBTとインピーダンスZの比率が同じ、あるいは逆転することになり、LDに流れる電流と同じかそれ以上の電流が抵抗RBTに流れることになってしまい、消費電流が増大する。これに対して、本実施形態では、LDD3に設けられた擬似終端回路8が、トランジスタ31a,31bと電流源32a,32bとの直列回路33a,33bによって構成されているので、電流源32a,32bから少ない電流を供給することでバックターミネーションを形成することができる。
【0034】
また、レプリカ信号を生成することなく能動的なバックターミネーションを形成することができる。その結果、光出力波形の劣化を防止しようとする際に、低電圧化が容易であり、かつ消費電力の低減も図ることができる。
【0035】
ここで、伝送線路4は、LD9のアノード及びカソードとLDD3との間に接続された2つの伝送線路15,16を有し、擬似終端回路8は、2つの伝送線路15,16のそれぞれに接続された2つの直列回路33a,33bと抵抗35とを有しているので、LDD3の2つの差動出力間に少ない電流でより効率的にバックターミネーションを形成することができる。
【0036】
図3には、光送信器1において擬似終端回路8の端子間の差動振幅を変化させた場合のリターンロスの周波数特性を示す。ここでのリターンロスとは、LDD3から伝送線路4に向けた反射率[dB]を表している。この結果より、差動振幅が0.2〜0.8[Vppd]の範囲において、広帯域にわたって良好なリターンロス特性を示し、反射が低減されている。差動振幅が1Vppdにおいては、1GHz以上の高周波ではリターンロスが0dBになることはなく、−6dB程度のリターンロスが確保できる。これは、擬似終端回路8のどちらかのトランジスタがオフ状態であってもベース−エミッタ間容量を介して差動終端されるためである。このように、伝送線路4を介して相補的な信号を伝送してLDを駆動する場合に振幅が1Vp−p程度では擬似終端回路8が有効に作用することが示される。
【0037】
また、図4には、LDを直接変調した場合のLD電流波形の計算結果を示しており、(a)は、従来文献“Broadband Circuits for Optical Fiber Communication”に開示された方式の場合、(b)は、本実施形態の光送信器1から擬似終端回路8を除いた場合、(c)は、本実施形態の光送信器の場合の計算結果である。ここでは、データ信号の速度25Gbps、LDの変調電流を80mAと設定し、従来方式における抵抗値RBT=50Ωと設定した。また、LDの微分抵抗を含む入力インピーダンスZ=25Ωとし、特性インピーダンスZを様々変更した場合について示した。
【0038】
この結果より、本実施形態における電流波形は、従来方式と同様に、良好に波形劣化が低減されていることが分かる。ただし、従来方式では40mAの電流が終端抵抗に流れてしまうが、本実施形態の場合は4〜6mA程度の消費電流増加で同程度の波形が実現できている。一方、擬似終端回路8を除いた構成では、特性インピーダンスZがずれた場合に波形劣化が顕著に現れている。
【0039】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、擬似終端回路8の構成としては、図2に示したもの以外にも様々な構成をとることができる。
【0040】
例えば、図5に示す本発明の変形例に係る擬似終端回路108のように、ダイオード接続された差動対トランジスタ31a,31bの代わりに、ダイオード131a,131bを用いることもできる。この場合、電流源32a,32bによりダイオード131a,131bに電流を供給することにより、ダイオード131a,131bを低インピーダンスのバックターミネーションとして機能させることができる。
【0041】
また、図6に示す本発明の別の変形例に係る擬似終端回路208のように、2つの直列回路33a,33bと伝送線路15,16とのそれぞれの接続点234a,234bの間(すなわち、擬似終端回路208の端子間)に接続された第2の抵抗236を更に用意して、伝送線路15,16を抵抗で直接接続してもよい。これにより、擬似終端回路208の端子間の電位差が大きく、片側のトランジスタがオフしている状況であっても、並列抵抗の効果により高周波から低周波にわたってインピーダンスを下げることができる。この第2の抵抗236は、消費電流の増加を防ぐために、インピーダンスZの10倍以上であることが望ましい。
【0042】
図7には、擬似終端回路208を用いた光送信器1において差動振幅を変化させた場合のリターンロスの周波数特性を示す。この場合、第2の抵抗236をインピーダンスZの10倍、すなわち500Ωに設定している。この結果より、擬似終端回路8を用いた場合(図3)に比較すると見劣りするが、差動振幅が0.2〜0.8[Vppd]の範囲において、広帯域にわたって良好なリターンロス特性を示している。また、片方のトランジスタがオフしてしまう1Vppd以上の領域においても、並列抵抗の効果により、リターンロスは−10dB程度まで改善されている。
【0043】
また、図8に示す本発明の変形例に係る擬似終端回路308にように、トランジスタ31a,31bに直列に接続される電流源332a,332bが出力電流を調整可能な可変電流源であってもよい。また、この可変電流源332a,332bは擬似終端回路208に適用されてもよい。このような電流源332a,332bを備えれば、出力電流を調整することでバックターミネーションの特性を調整することができ(上記式(2)及び(3)参照)、反射波の影響を確実に低減することができる。
【0044】
さらに、図9に示す本発明の変形例に係る擬似終端回路408にように、2つの直列回路33a,33bの間に接続される素子435,436が、任意のインピーダンスに置換されてもよい。抵抗ではなくインピーダンスにすることで、バックターミネーション特性に周波数特性を加えることが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1…光送信器2、…TOSA(光信号生成部)、3…LDD(駆動回路)、4,15,16…伝送線路、8,108,208,308,408…擬似終端回路、10,11…直列抵抗、31a,31b…トランジスタ、32a,32b,332a,332b…電流源、33a,33b…直列回路、35…第1の抵抗、131a,131b…ダイオード、236…第2の抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号をそれぞれアノードとカソードに受けて光信号を生成するレーザダイオードを含み入力インピーダンスを有する光信号生成部と、
該差動信号を生成し出力インピーダンスを有する駆動回路と、
該光信号生成部と該駆動回路とを電気的に接続し該差動信号を該駆動回路から該光信号生成部に伝送し、その伝送インピーダンスが該入力インピーダンス及び該出力インピーダンスに整合する一対の伝送線路とを有し、
前記駆動回路は前記一対の伝送線路のそれぞれに接続されたダイオード素子と電流源の直列回路と、一方のダイオード素子と電流源とを他方のダイオード素子と電流源とに接続する第1の抵抗を含む終端回路を備えている、
ことを特徴とする光送信器。
【請求項2】
前記ダイオード素子は、コレクタとベースを短絡されたバイポーラトランジスタである、請求項1に記載の光送信器。
【請求項3】
前記ダイオード素子はダイオードである、請求項1に記載の光送信器。
【請求項4】
前記終端回路はさらに前記一対の伝送線路のそれぞれを直接接続する第2の抵抗を含む、請求項1〜3に記載の光送信器。
【請求項5】
前記電流源は、可変電流源である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光送信器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−171062(P2010−171062A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9965(P2009−9965)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】