説明

光部品用封着ガラスおよび光部品の封着方法

【課題】本発明は、レーザー光等の光エネルギーを効率良く熱エネルギーに変換することができる光部品用封着ガラスを得ること、つまりレーザー光等による局所加熱に好適な光部品用封着ガラスを得ることにより、光部品の信頼性向上を図ることを技術的課題とする。
【解決手段】本発明の光部品用封着ガラスは、照射光による封着処理に供される光部品用封着ガラスであり、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、透過率が70%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光部品用封着ガラスに関し、特にLED(Light Emitting Diode)等の発光デバイスに好適な封着ガラスに関する。また、本発明は、光部品の封着方法に関し、特にLED等の発光デバイスに好適な封着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光部品の封着材料として有機樹脂系接着剤が用いられているが、一般的に、有機樹脂系接着剤は、耐候性や耐熱性に劣っており、光部品を長期に亘って使用した場合、デバイスの寸法や信頼性に不具合が生じやすくなる。具体的には、LED等の発光デバイスをハイパワーで使用する際に、デバイスの寸法や信頼性に不具合が生じやすくなる。また、有機樹脂系接着剤を使用した場合、有機樹脂系接着剤の成分が揮発すると、それが不純物となり、デバイスの特性を劣化させるおそれもある。
【0003】
一方、ガラスは、有機樹脂系接着剤に比べ、化学的耐久性および耐熱性が優れるとともに、光部品の気密性を確保するのに適している。
【0004】
これらのガラスは、用途によっては機械的強度、流動性、電気絶縁性等様々な特性が要求されるが、少なくともLED等の発光デバイス等に使用される発光素子を劣化させない温度で封着可能であることが要求される。
【0005】
特に、LED等の発光デバイスの封着、つまり金属ケース(LEDリフレクタ等)と波長変換部材を電気炉等で封着する場合、200℃未満の温度で封着する必要がある。200℃以上の高温で金属ケースと波長変換部材を封着すると、LED等の発光デバイスをハイパワーで使用する際に、デバイスの信頼性に不具合が生じやすくなり、結局のところ、上記問題点が解決できないことになる。近年、LED等の発光デバイスの高機能化が進んでいる傾向に照らせば、その問題がますます顕在化することになる。
【特許文献1】米国特許6416375号公報
【特許文献2】特開2006‐315902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、光部品は、構成部材の寸法精度および品質要求が高いことから、製品の信頼性に影響を及ぼす部位に不当な熱履歴をかけず、構成部材同士を短時間で封着する必要がある。
【0007】
このような事情に鑑み、レーザー光等を封着ガラスに照射し、封着ガラスを溶解させることで、構成部材同士を封着することが検討されている。レーザー光等は、封着すべき部位のみを局所加熱することができることから、構成部材の劣化を抑えることができる。
【0008】
しかし、特許文献1、2には、封着ガラスにレーザー光を照射して、ガラス基板同士を封着する方法が記載されているものの、封着ガラスとして、どのようなものが好適であるかといった観点からの記載はなく、レーザー光を封着ガラスに照射しても、封着ガラスがレーザー光の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換することができず、つまりレーザー光が封着ガラスを透過し、このような封着ガラスを用いて構成部材同士を封着する場合には、レーザー光の出力を上げる必要があり、その結果、製品の信頼性に影響を及ぼす部位に不当な熱履歴がかかり、製品特性が劣化するおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明は、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換することができる光部品用封着ガラスを得ること、つまりレーザー光等による局所加熱に好適な光部品用封着ガラスを得ることにより、光部品の信頼性向上および製造効率の向上を図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意努力した結果、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光部品用封着ガラスの透過率を70%以下に規制し、これを照射光による封着処理に用いることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の光部品用封着ガラスは、照射光による封着処理に供される光部品用封着ガラスであり、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、透過率が70%以下であることを特徴とする。なお、透過率の測定試料は、厚さ2mmの試料を用い、且つ溶融ガラスを成形し、鏡面研磨した試料を使用する。
【0011】
光部品の封着材料として、ガラスを使用すれば、封着部位の耐候性や耐熱性を高めることができるとともに、光部品の気密信頼性を確保することもできる。
【0012】
また、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光部品用封着ガラスの透過率を70%以下に規制すれば、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換することができる。すなわち、封着すべき部位のみを的確に局所加熱することができることから、構成部材の劣化を抑えることができるとともに、短時間で封着を完了することができる。その結果、光部品の信頼性を向上させることができるとともに、光部品の製造効率を高めることができる。なお、レーザー光等で封着ガラスを局所加熱する場合、加熱箇所から1mm程度離れた部分の温度は100℃以下である。
【0013】
特に、LED等の発光デバイスの封着、例えば金属ケースと波長変換部材を封着する場合、レーザー光等で封着ガラスを溶解させると、発光素子の劣化を抑えながら、金属ケースと波長変換部材を短時間で封着することができる。その結果、LED等の発光デバイスの信頼性に不具合が生じにくくなる。
【0014】
第二に、本発明の光部品用封着ガラスは、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収を有する金属酸化物をガラス組成中に0.01モル%以上含有することに特徴付けられる。
【0015】
第三に、本発明の光部品用封着ガラスは、ガラス組成として、遷移金属酸化物を0.01モル%以上含有することに特徴付けられる。
【0016】
第四に、本発明の光部品用封着ガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算でCuO+NiO+Fe23(CuO、NiOおよび/またはFe23の合量)を0.01モル%以上含有することに特徴付けられる。このようにすれば、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光部品用封着ガラスの透過率を70%以下に規制しやすくなる。
【0017】
第五に、本発明の光部品用封着ガラスは、照射光がレーザー光であることに特徴付けられる。
【0018】
第六に、本発明の光部品用封着ガラスは、照射光が赤外光であることに特徴付けられる。
【0019】
第七に、本発明の光部品用封着ガラスは、光部品が発光デバイスであることに特徴付けられる。
【0020】
第八に、本発明の光部品用封着ガラスは、光部品がLEDであることに特徴付けられる。
【0021】
第九に、本発明の光部品の封着方法は、光部品用封着ガラスを用いた光部品の封着方法であって、照射光で光部品用封着ガラスを溶解させて、封着処理に供することに特徴付けられる。
【0022】
第十に、本発明の光部品の封着方法は、照射光として、レーザー光を使用し、且つ該レーザー光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%以下であることに特徴付けられる。
【0023】
第十一に、本発明の光部品の封着方法は、照射光として、赤外光を使用し、且つ該赤外光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%以下であることに特徴付けられる。
【0024】
第十二に、本発明の光部品の封着方法は、光部品用封着ガラスのガラス転移点が150℃〜700℃の範囲内であることに特徴付けられる。
【0025】
第十三に、本発明の光部品の封着方法は、波長を1060nmに設定し、パワー密度(出力/照射面積)を3〜8kW/cm2の範囲に設定してレーザー光を照射することに特徴付けられる。
【0026】
第十四に、本発明の光部品の封着方法は、光部品は、発光デバイスと、蛍光体と、金属材料を含むリフレクタと、を備え、かつ、照射光によって照射された光部品用封着ガラスが溶融し、リフレクタと蛍光体とを局所的に結合させることで、発光デバイスを封着することに特徴付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の光部品用封着ガラスにおいて、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、透過率が70%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、特に好ましくは55%以下である。紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、透過率が70%より高いと、レーザー光等がガラスに吸収されにくくなり、つまりガラスが軟化変形しにくくなり、構成部材同士の封着強度が低下しやすいことに加えて、封着に際し、長時間を要することになる。
【0028】
本発明の光部品用封着ガラスにおいて、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収を有する金属酸化物をガラス組成中に0.01モル%以上含有することが好ましく、0.05モル%以上含有することがより好ましく、0.1モル%以上含有することが更に好ましい。紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収を有する金属酸化物が0.01モル%より少ないと、レーザー光等を照射しても、ガラスがレーザー光等を吸収しないため、局所加熱することが困難になり、結果的に、光部品の信頼性が損なわれやすくなる。
【0029】
紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収を有する金属酸化物は、遷移金属酸化物であることが好ましい。遷移金属酸化物としては、たとえばCuO、NiO、Fe23、CoO、MnO2、Cr23、V25、TiO2、MoO3等がある。遷移金属酸化物は、ガラスの透過率を確実に低下させることができることに加えて、ガラスの熱的安定性を向上させる効果があり、ガラス組成中に所定量含有させると、ガラスが軟化変形する際に、ガラスが失透し難くなり、光部品の気密信頼性を担保することができる。特に、遷移金属酸化物として、CuO、NiO、Fe23が好適であり、これらを一種または二種以上含有させると、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに確実に変換できるとともに、ガラスの熱的安定性を確実に向上させることができる。CuO+NiO+Fe23の含有量は、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.1モル%以上が更に好ましい。CuO+NiO+Fe23の含有量が0.01モル%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0030】
本発明の光部品用封着ガラスにおいて、ガラス転移点は700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、500℃以下が更に好ましく、400℃以下が特に好ましく、350℃以下が最も好ましい。ガラス転移点が700℃より高いと、レーザー光等を照射しても、封着ガラスが軟化し難い傾向があり、構成部材同士の封着強度を高めるためには、レーザー光等の出力を上げなければならない。ガラス転移点の下限は特に限定されないが、ガラスの熱的安定性を考慮すれば、ガラス転移点は150℃以上が目安になる。
【0031】
本発明の光部品用封着ガラスは、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。このようにすれば、近年の環境的要請を的確に満たすことができる。ここで、「PbOを実質的に含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0032】
本発明の光部品用封着ガラスとして、種々のガラス組成系を使用可能であるが、ガラスの熱的安定性、低融点特性等の点で、SnO−P25系ガラス、V25−P25系ガラス、Ag2O−P25系ガラス、CuO−P25系ガラス、Bi23−B23系ガラス等が好適である。特に、Ag2O−P25系ガラスおよびBi23−B23系ガラスは、封着強度が高く、更にはガラス組成中にPbOを含有しなくても熱的安定性が良好であるため、好適である。
【0033】
Ag2O−P25系ガラスにおいて、下記酸化物換算のモル%表示で、ガラス組成範囲をAg2O 20〜60%、P25 15〜60%、TeO2 0〜50%、Nb25 0〜20%、CuO+NiO+Fe23 0.01〜20%に規制すれば、低融点特性と熱的安定性に優れ、更には所定の波長域で光吸収特性を有するため、好ましい。
【0034】
本発明において、Ag2O−P25系ガラスのガラス組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0035】
Ag2Oは、ガラスを低融点化させるとともに、ガラスの耐水性を向上させる効果があり、その含有量は20〜60%、好ましくは22〜55%、より好ましくは25〜50%である。Ag2Oの含有量が20%より少ないと、ガラスの粘性が高くなり、低温封着が困難になるとともに、耐水性が低下しやすくなる。一方、Ag2Oの含有量が70%より多いと、ガラス化が困難になる。
【0036】
25も、ガラスの骨格を形成する成分であるとともに、ガラスを低融点化させる成分であり、その含有量は15〜60%、好ましくは17〜50%、より好ましくは20〜35%である。P25の含有量が15%より少ないと、ガラス化が困難となり、55%より多いと、耐水性が低下しやすくなる。
【0037】
TeO2は、ガラスを安定化させる成分の中ではガラス転移点を上昇させにくい成分であり、その含有量は0〜50%、好ましくは2〜50%、より好ましくは5〜45%、更に好ましくは7〜40%である。TeO2の含有量が50%より多いと、ガラスの耐水性が低下しやすくなる。
【0038】
Nb25は、ガラスの耐水性を向上させるのに著しい効果があり、その含有量は0〜20%、好ましくは1〜15%、より好ましくは1〜12%である。Nb25の含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなる。
【0039】
CuO+NiO+Fe23は、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収特性を有する成分であり、所定の発光中心波長を有する光を照射すると、光を吸収して、ガラスを軟化させやすくするための成分であり、その含有量は0.01〜20%であり、好ましくは0.05〜20%、より好ましくは0.1〜10%である。CuO+NiO+Fe23の含有量が0.01%より少ないと、光を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。一方、CuO+NiO+Fe23の含有量が20%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、ガラスが不安定になりやすい。酸化鉄中のFeイオンは、Fe2+、或いはFe3+が想定されるが、本発明において、酸化鉄中のFeイオンは、Fe2+、或いはFe3+のいずれかに限定されるものではなく、いずれであっても構わない。特に、照射光として赤外光を使用する場合、Fe2+は赤外域に吸収ピークを有することから、Fe2+の割合を高くする方が好ましく、酸化鉄中のFe2+/Fe3+の比率を0.03以上(望ましくは0.08以上)にすることが好ましい。
【0040】
上記成分以外にも、以下の成分をガラス組成中に更に含有させることができる。
【0041】
ZnOは、ガラスを安定化させる働きの他に、熱膨張係数を低下させる効果があり、その含有量は0〜55%、好ましくは0〜25%、より好ましくは1〜15%である。ZnOの含有量が55%より多いと、ガラスの粘性が高くなりやすい。
【0042】
23は、ガラスを安定化させる効果があり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜12%である。B23が15%より多いと、ガラスの粘性が高くなる。
【0043】
Al23は、ガラスを安定化させる成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜12%である。Al23の含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなる傾向がある。
【0044】
MnO2とWO3は、ガラスの耐水性の向上させるとともに、熱膨張係数を低下させる効果があり、その含有量はそれぞれ0〜20%、好ましくは0〜15%である。MnO2とWO3の含有量がそれぞれ20%より多いと、ガラスの粘性が高くなりやすい。
【0045】
また、上記成分以外にも、Li2O、SiO2、In23、MoO3、Bi23、CoO、GeO2や、Li、Si、B、Al、Mn、In、Mo、Cu、Co、Ge、W、Zn、Te、Ga、P、Agのハロゲン化物や硫化物をそれぞれ5%まで含有させることが可能である。
【0046】
なお、ハロゲン化物とは、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物のことである。金属元素が同じ場合には、これらを使用する方が、酸化物を使用するよりも、ガラスの粘性を低下させる効果が大きい。
【0047】
また、Bi23−B23系ガラスにおいて、下記酸化物換算のモル%表示で、ガラス組成範囲をBi23 5〜60%、B23 10〜50%、ZnO 5〜50%、BaO+SrO+MgO+CaO 0〜30%、CuO+NiO+Fe23 0.01〜20%、SiO2+Al23 0〜15%、WO3 0〜5%、Sb23 0〜5%、In23+Ga23 0〜5%に規制すれば、低融点特性と熱的安定性に優れるとともに、所定の波長域で光吸収特性を有するため、好ましい。
【0048】
本発明において、Bi23−B23系ガラスのガラス組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0049】
Bi23は、軟化点を下げるための主要成分である。その含有量は5〜60%、好ましくは10〜55%、より好ましくは15〜50%、更に好ましくは20〜45%である。Bi23の含有量が5%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、封着しにくくなる。一方、Bi23の含有量が60%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスが失透しやすくなる。
【0050】
23は、Bi23−B23系ガラスのガラスネットワークを形成する成分である。その含有量は10〜50%、好ましくは12〜45%、より好ましくは15〜40%、更に好ましくは15〜36%である。B23の含有量が10%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、失透しやすくなる。一方、B23の含有量が50%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、封着することが困難になる。
【0051】
ZnOは、失透を抑制する成分である。その含有量は5〜50%、好ましくは7〜45%、より好ましくは10〜40%、更に好ましくは13〜35%である。ZnOの含有量が5%より少ないと、失透を抑制する効果が得られにくくなる。ZnOの含有量が50%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0052】
BaO、SrO、MgO、CaOは失透を抑制する成分である。これらの成分は、合量で30%まで含有させることができる。これらの成分の合量が30%より多くなると、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、封着することが困難になる。
【0053】
BaOの含有量は0〜10%が好ましく、2〜9%がより好ましい。BaOの含有量が10%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0054】
SrO、MgO、CaOのそれぞれの含有量は0〜20%が好ましく、0〜15%がより好ましい。各成分の含有量が20%より多いと、ガラスが失透や分相しやすくなる。
【0055】
CuO+NiO+Fe23は、ガラスの安定性を向上させる成分であるとともに、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収特性を有する成分であり、所定の発光中心波長を有する光を照射すると、光を吸収して、封着ガラスを軟化させやすくするための成分であり、その含有量は0.01〜20%であり、好ましくは0.05〜20%、より好ましくは0.1〜10%である。CuO+NiO+Fe23の含有量が0.01%より少ないと、光を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。一方、CuO+NiO+Fe23の含有量が20%より多いと、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0056】
SiO2、Al23は、ガラスの耐候性を向上させる成分である。その含有量は、合量で0〜15%が好ましく、0〜10%がより好ましい。これらの成分の合量が15%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、封着することが困難となる。特に、SiO2の含有量は、0〜15%が好ましく、0〜10%がより好ましい。Al23の含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。
【0057】
WO3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。Bi23−B23系ガラスにおいて、ガラスの軟化点を下げるためには、Bi23の含有量を多くする必要があるが、Bi23の含有量が多くなると、封着処理中にガラスから結晶が析出して、ガラスの流動性が阻害される。特に、Bi23の含有量が40%以上の場合、その傾向が顕著になる。しかし、Bi23−B23系ガラスにおいて、WO3を適宜添加すれば、Bi23の含有量が40%以上であっても、ガラスの熱的安定性が低下しにくくなる。ただし、WO3の含有量が5%より多くなると、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0058】
Sb23は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。Sb23はBi23−B23系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、Bi23−B23系ガラスにSb23を適宜添加することにより、Bi23の含有量が40%以上であっても、ガラスの熱的安定性が低下しにくくなる。ただし、Sb23の含有量が5%より多くなると、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0059】
In23、Ga23は必須成分ではないが、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は合量で0〜5%が好ましく、0.1〜3%がより好ましい。In23、Ga23はBi23−B23系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、Bi23−B23系ガラスにIn23、Ga23を適宜添加することにより、Bi23の含有量が40%以上であっても、ガラスの熱的安定性が低下しにくくなる。ただし、In23、Ga23の含有量が5%より多くなると、ガラス組成内のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が損なわれ、その結果、ガラスが失透しやすくなる。なお、In23の含有量は0〜5%がより好ましく、Ga23の含有量は0〜2%がより好ましい。
【0060】
Li、Na、KおよびCsの酸化物は、ガラスの軟化点を低くする成分であるが、溶融時にガラスの失透を促進する作用を有するため合量で2%以下であることが好ましい。
【0061】
また、上記成分以外の成分であっても、ガラスの特性を損なわない範囲で15%まで添加することができる。
【0062】
25は、溶融時の失透を抑制する成分であるが、添加量が1%よりも多いと溶融時にガラスが分相しやすいため好ましくない。
【0063】
MoO3、La23、Y23、CeO2およびGd23は、溶融時にガラスの分相を抑制する成分であるが、これらの合量が3%よりも多いとガラスの軟化点が高くなり、600℃以下の温度で焼成しにくくなる。
【0064】
本発明の光部品用封着ガラスは、特に形状は限定されず、ロッド状、ボタン状、粉末状等に加工して使用することができる。特に、封着ガラスが粉末状であれば、ビークル(溶剤中に有機樹脂を溶解させたもの)中に分散させることで、容易にペースト化することができる。また、得られたペーストをディスペンサー等の塗布機に投入した上で、ディスペンサーノズルから吐出すれば、所望の封着パターンを容易に形成することができる。
【0065】
本発明の光部品用封着ガラスにおいて、熱膨張係数は、30〜200℃の温度範囲において、60〜200×10-7/℃が好ましく、70〜190×10-7/℃がより好ましく、80〜185×10-7/℃が更に好ましい。光部品用封着ガラスの熱膨張係数が上記範囲内であると、光部品の構成部材、例えば光学部品に使用される金属ケース、光学レンズ、或いは波長変換部材等の熱膨張係数と整合しやすくなり、光学部品を封着した後に、熱膨張係数の差に起因する封着層の割れや剥離等を防止することができる。
【0066】
光部品の構成部材の熱膨張係数が低い、例えば約50×10-7/℃程度の場合、光部品用封着ガラスと光部品の熱膨張係数が整合しないこともあるが、そのような場合には、ガラス粉末に適量の耐火性フィラー粉末を含有させて、熱膨張係数を整合させることもできる。この場合、ガラス粉末50〜99.9体積%、耐火性フィラー粉末0.1〜50体積%の割合で混合させることが好ましく、ガラス粉末70〜90体積%、耐火性フィラー粉末10〜30体積%の割合で混合させることがより好ましい。耐火性フィラー粉末の含有量が0.1体積%より少ないと、耐火性フィラーを添加させることによる効果が乏しくなり、50体積%より多いと、ガラスが流動し難くなり、封着強度が低下するおそれが生じる。
【0067】
熱膨張係数を低下させる耐火性フィラー粉末としては、NaZr2(PO43型固溶体、ウイレマイト、コーディエライト、ジルコン、酸化スズ、β−ユークリプタイト、リン酸ジルコニウム、五酸化ニオブ、石英ガラス、ムライト、チタン酸アルミニウム等を使用することができるが、特にNaZr2(PO43型固溶体は、Ag2O−P25系ガラスと相性が良く、低膨張であり、好ましい。なお、ここでいうNaZr2(PO43型固溶体は、次の一般式で表される物質であり、Xは1価に相当し、Yは4価に相当し、Zは5価に相当する。
【0068】
XY2312
X=Li、Na、K、1/2Mg、1/2Ca、1/2Sr、1/4Zr
Y=Zr、Ti、Sn、Nb−Na、Ta−Na、V−Na
Z=P、Si+Na
【0069】
紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収を有する耐火性フィラー粉末をガラス粉末に添加し、レーザー光等の光吸収を促進させることも可能である。また、封着層の機械的強度を向上させる目的で耐火性フィラーを添加することもできる。
【0070】
本発明の光部品用封着ガラスは、光部品の構成部材が金属であることが好ましい。一般的に、封着ガラスを用いて、金属を封着する場合、ガラス基板等を封着する場合に比べて、封着強度を高めることは困難であるが、本発明の封着ガラスは、レーザー光等を効率良く吸収できることから、構成部材が金属であっても、強固な封着強度を得ることができる。なお、金属材料として、SUS、ステンレス、チタン、鉄ニッケル、アルミニウム、コバール、銅、銀メッキされた銅等は、安価であり、金属ケースに成型しやすく、好適である。
【0071】
本発明の光部品用封着ガラスは、LED等の発光デバイスに使用することが好ましい。LED等の発光デバイスは、電気炉等で200℃以上に加熱すると、発光素子の特性が劣化するおそれがあるとともに、蛍光体の蛍光特性も劣化するおそれがある。本発明の光部品用封着ガラスを使用すれば、レーザー光等を用いて、局所加熱することができるため、LED素子や蛍光体の特性を損なうことなく、封着することができる。なお、本発明の光部品用封着ガラスは、レーザー光等と同様にして、高出力LEDから出力された光源を用いて局所加熱することにより、LED素子や蛍光体の特性を損なうことなく、封着することもできる。
【0072】
本発明の光部品用封着ガラスは、LED等の発光デバイスの金属ケースと、蛍光体をガラス中に分散させた波長変換部材の封着に用いることが好ましい。本発明の光部品用封着ガラスは、レーザー光等を用いて、局所加熱することができるため、封着層を形成したい部位のみに封着層を形成することができ、波長変換部材の軟化変形および波長変換部材の特性変動を抑制することができる。また、金属ケースは、内部にリフレクタ形状を有することが好ましい。このようにすれば、光取り出し効率を向上させることができる。
【0073】
蛍光体は、LED等の発光素子からの光を吸収し異なる波長の光に波長変換するものであればよい。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくともいずれか1以上であることが好ましい。
【0074】
波長変換部材は、ガラス粉末と蛍光体粉末とを均一に混合したものが好ましく、この混合粉末を加熱プレス成形したものが好ましい。波長変換部材は、LED等の発光素子から出射された光を吸収した上で、波長変換を行い、所定の光を放出するが、吸収した光の一部は熱に変換される。しかし、蛍光体をガラス中に均一に分散すれば、蛍光体に蓄積した熱を効率よく拡散することができる。また、蛍光体をガラス中に均一に分散すれば、出射光の配光色ムラを低減することもできる。なお、蛍光体の他に酸化チタンなどの光拡散剤や、酸化防止剤なども混合しておくこともできる。
【0075】
LED等の発光デバイスの封着に際し、波長変換部材の外周端部に沿って封着層を形成すれば、波長変換部材と金属ケースを確実に封着することができる。また、波長変換部材の一部、例えば波長変換部材の側面の一部に封着層を形成すれば、封着処理を短時間で行うことができる。
【0076】
本発明の光部品の封着方法は、光部品用封着ガラスを用いた光部品の封着方法であって、照射光で光部品用封着ガラスを溶解させて、封着処理に供することを特徴とする。ここで、本発明の光部品の封着方法は、本発明の光部品用封着ガラスの説明の欄に記載された作用効果、構成要件および好ましい態様等を併有することができるため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0077】
本発明の光部品の封着方法において、照射光として、レーザー光を使用し、且つ該レーザー光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%以下であることが好ましい。また。レーザー光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率は、70%以下であることが好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、55%以下が特に好ましい。レーザー光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率を70%以下に規制すれば、レーザー光による局所加熱で的確にガラスを溶解させることができる。一方、レーザー光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%より高いと、レーザー光が封着ガラスに吸収されにくくなり、ガラスが軟化変形しにくくなる。照射光の光源として、種々のレーザーを使用することができるが、特に、半導体レーザー、YAGレーザー、CO2レーザー、エキシマレーザー等は、取り扱いが容易な点で好適である。
【0078】
本発明の光部品の封着方法において、照射光として、赤外光を使用し、且つ該赤外光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%以下であることが好ましい。また、赤外光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率は、70%以下であることが好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、55%以下が特に好ましい。赤外光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率を70%以下に規制すれば、赤外光による局所加熱で的確にガラスを溶解させることができる。一方、赤外光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%より高いと、赤外光が封着ガラスに吸収されにくくなり、ガラスが軟化変形しにくくなる。
【実施例1】
【0079】
以下、本発明の光部品用封着ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0080】
表1は、本発明の封着用ガラス組成物の実施例(試料No.1〜7)および比較例(試料No.8、9)を示している。
【0081】
【表1】

【0082】
各ガラス試料は次のようにして調製した。まず表1のガラス組成を有するようにバッチ原料を調合し、白金坩堝を用いて、電気炉で800〜1000℃1時間溶融した。実施例7については電気炉で1300℃3時間溶融した。次に、溶融ガラスを白金坩堝からカーボン板の上に流し出して、板状のガラスを成形した。最後に、板状のガラスをアニール処理して、各試料を作製した。
【0083】
得られた各試料について、ガラス転移点、透過率を測定するとともに、封着性を評価した。
【0084】
ガラス転移点は、各試料を20mm×5mmφに加工した後、ディラトメーターで測定した。
【0085】
透過率は、板状のガラスを厚さ2mmになるように、鏡面研磨して、各試料を作製した後、分光光度計(株式会社島津製作所製UV−3100PC)を用いて、波長300〜1600nmにおいて測定し、表中には、1060nmにおける透過率を示した。
【0086】
封着性は、板状のガラスを厚さ2mmになるように、鏡面研磨して、各試料を作製した後、各試料に波長1060nmのYAGレーザー(出力600mW)を照射することで評価した。YAGレーザーを照射した後、ガラスが溶解する状態を顕微鏡でその場観察し、ガラスが軟化変形しているものを「○」、ガラスが軟化変形していないものを「×」として評価した。なお、パワー密度条件についても評価した。その結果、特に、試料No.1については、パワー密度を3〜8kW/cm2の範囲に設定することが好ましいことが分かった。パワー密度が8kW/cm2より高いと、ガラス試料に照射された部位が極度に加熱され、応力集中を引き起こし易くなり、3kW/cm2より低いとガラスが実質的に溶解しにくくなる。上記試料について所定の封着部位を効率的に封着させていくには、パワー密度を8kW/cm2近傍に設定することが最も好ましい。
【0087】
その結果、試料No.1〜7は、ガラス転移点が234〜585℃であり、波長1060nmにおいて透過率が70%以下であり、封着性の評価も良好であった。よって、試料No.1〜7は、YAGレーザーを照射すれば、良好に軟化変形し、光部品の封着に好適に使用できることが分かる。一方、試料No.8、9は、波長1060nmにおいて透過率が70%より高く、封着性の評価も不良であった。よって、試料No.8、9は、YAGレーザーを照射しても、ガラスが軟化変形し難く、光部品の封着に不適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の光部品用封着ガラスは、LED等の発光デバイス、球レンズキャップ部品、LDキャップ部品等の光部品の封着に好適であり、特に、少なくとも構成部材の一方が金属である光部品の封着に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射光による封着処理に供される光部品用封着ガラスであり、紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、透過率が70%以下であることを特徴とする光部品用封着ガラス。
【請求項2】
紫外域、可視域、赤外域のいずれかの波長において、光吸収を有する金属酸化物をガラス組成中に0.01モル%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の光部品用封着ガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、遷移金属酸化物を0.01モル%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光部品用封着ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、下記酸化物換算でCuO+NiO+Fe23を0.01モル%以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光部品用封着ガラス。
【請求項5】
照射光がレーザー光であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光部品用封着ガラス。
【請求項6】
照射光が赤外光であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光部品用封着ガラス。
【請求項7】
光部品が発光デバイスを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光部品用封着ガラス。
【請求項8】
光部品がLEDを備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光部品用封着ガラス。
【請求項9】
光部品用封着ガラスを用いた光部品の封着方法であって、照射光で光部品用封着ガラスを溶解させて、封着処理に供することを特徴とする光部品の封着方法。
【請求項10】
照射光として、レーザー光を使用し、且つ該レーザー光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%以下であることを特徴とする請求項9に記載の光部品の封着方法。
【請求項11】
照射光として、赤外光を使用し、且つ該赤外光の発光中心波長における光部品用封着ガラスの透過率が70%以下であることを特徴とする請求項9に記載の光部品の封着方法。
【請求項12】
光部品用封着ガラスのガラス転移点が150℃〜700℃の範囲内であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の光部品の封着方法。
【請求項13】
波長を1060nmに設定し、パワー密度を3〜8kW/cm2の範囲に設定してレーザー光を照射することを特徴とする請求項10又は請求項12に記載の光部品の封着方法。
【請求項14】
光部品は、発光デバイスと、蛍光体と、金属材料を含むリフレクタと、を備え、かつ、照射光によって照射された光部品用封着ガラスが溶融し、リフレクタと蛍光体とを局所的に結合させることで、発光デバイスを封着することを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の光部品の封着方法。

【公開番号】特開2009−67632(P2009−67632A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237974(P2007−237974)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】