説明

免疫賦活作用および抗腫瘍作用を有するマイタケ由来の低分子物質

【課題】本発明は、従来知られている糖-タンパク複合体に比較して低分子で、しかも構造的にも異なる、高度に免疫賦活作用ならびに抗腫瘍作用を有するマイタケ由来の物質を開発することを課題とする。
【解決手段】1)マイタケの菌糸体もしくは子実体を水で熱水抽出する工程と、2)得られた抽出水溶性画分にアルコールを10〜80%の最終容量濃度になる様に添加し、1〜40℃の温度で放置し、液面もしくは液中に浮遊または容器の壁面に付着する物質および析出した沈殿物を除去する工程と、3)上記工程で得られたアルコール含有水溶性画分からアルコールを除去し、得られた水溶性画分から陰イオン交換クロマトグラフィーにより吸着画分を回収する工程と、4)該吸着画分を分子ふるいにより分子量5000以下の画分を採取する工程とにより、マイタケ由来の低分子物質を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイタケ菌糸体あるいは子実体から抽出、分画した高度に免疫賦活化作用および抗腫瘍作用を有する、低分子のタンパク―糖複合体からなる物質に関する。
【背景技術】
【0002】
マイタケの菌糸体もしくは子実体から抽出したβ―1,6結合を主鎖とし、1,3の分枝鎖を持つ多糖体またはβ―1,3結合を主鎖とし、1,6の分枝鎖を持つグルカンである多糖体が免疫賦活化作用を有することが知られている(特開昭59―210901号公報(特許文献1)、特開平9―238697号公報(特許文献2))。
【0003】
また、マイタケ、トンビマイまたはマスタケのいずれかを熱水にて抽出し、これを減圧にて濃縮した後、有機溶媒による沈殿工程、透析工程による低分子物質の除去および脂溶性有機溶媒による不純物の抽出除去工程を組み合わせて行うことを特徴とする制癌物質の製造法も公知である(特公昭43―16047号公報(特許文献3))。
【0004】
上記従来技術において、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載のものは、分子量100万前後の高分子糖―タンパク複合体である。これらの免疫賦活化作用における細胞レベルでの詳細なメカニズムを調べるためには、分子量が大きく、活性中心となる構造が特定できない。また、高分子であるがゆえに血中への投与も不可であると考えられる。
【0005】
本発明者らは、先にマイタケ熱水抽出物から低分子で免疫賦活作用、抗腫瘍作用等の活性ある物質を見出すため研究を進めた結果、分子量1万〜15万の糖-タンパク複合体を得ることに成功した(特開2007―31665号公報(特許文献4))。
しかしながら、分子量がいまだ1万から15万とかなり大きい糖-タンパク複合体であるために、取扱に不便であった。
【0006】
【特許文献1】特開昭59―210901号公報
【特許文献2】特開平9―238697号公報
【特許文献3】特公昭43―16047号公報
【特許文献4】特開2007―31665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、医薬品から飲食品さらには飼料にいたる素材として好ましい、マイタケ由来の低分子で免疫賦活作用、抗腫瘍作用の優れた物質を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はマイタケ熱水抽出物から新たに分子量5000以下で、しかも従来知られている糖-タンパク複合体(糖の方が比率的に大きい)とは構造的にも異なるタンパク―糖複合体(タンパクの方が比率的に大きい)からなる物質を分画し、これらの物質がin vitroにおいて1型ヘルパーTのヒト細胞樹立株(THP-1)、マウス脾臓細胞の生育および増殖促進作用をもつことを見出した。よって特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に記載のものと明らかに分子量およびタンパク質含量の異なる免疫賦活化作用を有する低分子のタンパク―糖複合体からなる物質の精製を成し遂げた。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)1)マイタケの菌糸体もしくは子実体を水で熱水抽出する工程、
2)得られた抽出水溶性画分にアルコールを10〜80%の最終容量濃度になる様に添加し、1〜40℃の温度で放置し、液面もしくは液中に浮遊または容器の壁面に付着する物質および析出した沈殿物を除去する工程、
3)上記2)の工程の後、得られたアルコール含有水溶性画分からアルコールを除去し、得られた水溶性画分から陰イオン交換クロマトグラフィーにより吸着画分を回収する工程、
4)該吸着画分を分子ふるいにより分子量5000以下の画分を採取する工程等によって製造されたアンスロン反応およびニンヒドリン反応に陽性のタンパク―糖複合体からなる免疫賦活作用および抗腫瘍作用を有する物質、
(2)タンパクと糖の比率が85:15〜99.5:0.5の割合である上記(1)に記載のタンパク―糖複合体からなる免疫賦活作用および/または抗腫瘍作用を有する物質、
(3)マイタケがマイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans lmaz.)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)である上記(1)または(2)に記載のタンパク―糖複合体からなる免疫賦活作用および/または抗腫瘍作用を有する物質、
(4)上記(1)、(2)又は(3)のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を有効成分として含有する免疫賦活化剤または抗腫瘍剤、
(5)上記(1)、(2)又は(3)のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を有効成分として含有する化学療法補助剤、
(6)上記(1)、(2)又は(3)のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を含有する飲食品、
(7)上記(1)、(2)又は(3)のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を含有するペットフードもしくは家畜飼料またはペットフードもしくは家畜飼料への添加剤
に関する。
【0010】
以下本発明について詳述する。
【0011】
本発明におけるタンパク―糖複合体とは、タンパクと糖からなる物質を意味し、上記(2)にも記載されているタンパクと糖の比率が99.5:0.5のような割合の、主たる成分がタンパクである物質も包含される。
【0012】
本発明において、マイタケはマイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans lmaz.)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)等のいずれも用いることができ、使用形態としては生のものはそのままもしくは適宜カットした状態で用いられるが、乾燥したものでも同様そのまま、適宜カットした状態、もしくは粉末化した状態で使用することができる。
【0013】
熱水抽出は50〜135℃で15分〜3時間処理であり、短時間で行う場合は、圧力下100℃以上、例えば圧力釜を用いて1〜2気圧下110〜125℃前後で、15分〜60分の範囲で抽出を行うことも可能である。
【0014】
水としては、蒸留水、精製水、イオン交換水、水道水等を使用する。乾燥マイタケ1重量に対して2〜50倍容量程度を使用する。生マイタケを使用する場合は、1重量に対して2〜20倍容量程度使用する。
【0015】
熱水抽出後抽出溶液に加えるアルコールとしてはメタノール、エタノール、プロピルアルコール等使用しうるが、抽出液に対して最終容量濃度10〜80%になるように添加する。水分含量0〜50%アルコールも使用可能である。添加後、1〜25時間の放置により液面もしくは液中に浮遊および容器の壁面に付着する物質が現れるので、ろ過、ピペット、遠心分離あるいは網状のもので除去する。
【0016】
上記工程の後、得られたアルコール含有水溶性画分からアルコールを除去し、得られた水溶性画分から陰イオン交換クロマトグラフィーにより吸着画分を回収する。陰イオン交換クロマトグラフィーに使用される樹脂は強塩基性イオン交換樹脂、弱塩基性イオン交換樹脂等一般に陰イオン交換樹脂として使用さているものが用いられるが、浸透性が高く、化学的、物理的に安定で、交換容量の大きいものを用いるのが好ましい。
【0017】
吸着画分は、常法により溶出し分子ふるいにより分子量5000以下の低分子画分を採取する。分子ふるいとしては、ゲルろ過クロマトグラフィー、限外ろ過、透析等が用いうる。ゲルろ過材としてはデキストラン系、アガロース系、セルロース系、アクリルアミド系のもの等一般に汎用されているものが用い得る。限外ろ過、透析等についても各種装置が市販されており、それらを適宜使用しうる。
【0018】
本発明者らが見いだした分画分子量5000以下を選択することが望ましいが、装置の都合によっては、上下20%まで位は許容され、所期目的は達成できる。また、下限については500以上が好ましい。
【0019】
以上得られた本発明の目的物の性質について記載する。
外観:無色から黄色系色調の液体
溶解性:水、アルコール水、アルカリ性溶液、酸性溶液、ジメチルスルフォキシドに溶解
水溶液の液性:中性ないし弱酸性
呈色反応:アンスロン反応およびニンヒドリン反応が陽性
分子量:5000以下
【0020】
カラムクロマト法で精製したところ本発明によって得られる免疫賦活化作用、抗腫瘍作用を有する物質のタンパク質と糖の比率は85:15〜99.5:0.5の範囲で、原料のマイタケの品質、抽出精製の条件により適宜変動する。
【0021】
本発明のタンパク―糖複合体は、免疫賦活作用や抗腫瘍作用を有する物質であるので、免疫賦活剤や抗腫瘍剤として、または抗腫瘍剤や抗生物質等の化学療法剤との併用、すなわち化学療法補助剤としてヒトまたは動物に投与してもよい。また、この物質を飲食品、ペットフード、家畜飼料等に添加して用いることもできる。
【0022】
本発明の物質を医薬品、あるいは動物薬として用いる場合、低分子であり水やアルコールに溶けるので、広範囲の剤形、例えば経口投与のための液剤、シロップ剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル、丸剤等として、さらに経口のみならず、非経口投与のための注射剤、点滴剤、さらに座剤、外用剤、点鼻剤、点眼剤等の広範囲な剤形とすることが可能であり、医薬品としての開発に当たってきわめて有利である。
【0023】
本発明の物質は、古くから食品として食されてきたマイタケ由来のもので、安全性が高く飲食品として、もしくは飲食品に配合して使用することができる。本発明における飲食品とは、牛乳、ジュース等の飲料や日常食する加工食品に限定されるものではなく、いわゆる健康食品を含めた一般飲食品と言われるものから、栄養機能食品や特定保健用食品等を含めた保健機能食品、医療用の補助食品、高齢者や病者用の食品を含めた特別用途食品等すべて含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって得られた、マイタケ熱水抽出物から新たに分画された分子量5000以下のタンパク―糖複合体は、免疫賦活化作用や抗腫瘍作用を示し、免疫賦活剤や抗腫瘍剤、または抗生剤や抗腫瘍剤等による化学療法の補助剤として用いることができる。
また食経験豊富なマイタケ由来の安全性の高い物質で、医薬品、動物薬に限られることなく、飲食品、飼料、ペットフードとして、あるいはそれらに配合して用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0026】
(1)抽出方法
乾燥マイタケ子実体150gを精製水1.5Lで110〜125℃、15〜60分間熱水抽出を行い、得られた可溶性画分500mLにエタノールを最終容量濃度10〜80%になるように添加する。該溶液を1〜40℃で12時間前後静置すると液面もしくは液中に浮遊または容器の壁面に付着する飴状、茶褐色の物質が生成する。この物質をピペット等により除去した後、さらに析出物質を遠心工程によって除去することによって得られたアルコール含有水溶性画分を回収する。この溶液からアルコールを除去して得られた水溶性画分から陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE-Sephadex)により吸着画分を回収する。該溶液をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadexまたはcellolofine) によってTHP-1細胞増殖活性を有する画分が得られる。該物質はアンスロン反応およびニンヒドリン反応陽性であり、カラムクロマト法で精製したところ、タンパク―糖複合体の比率は85:15〜99.5:0.5であった。
【0027】
分子量をゲルろ過クロマトグラフィーにより検討した結果、5000以下であった。本発明によって得られた物質は紫外部に吸収をもち、可視部には吸収をもたなかった。
【0028】
(2)細胞増殖活性試験(in vitro)
マウス脾臓細胞を該物質で18時間、37℃、5%CO条件下で培養した結果、細胞増殖活性率(%)を図1に示す。前記(1)で得た物質投与群が対照群に比べ強いマウス脾臓細胞増殖促進効果を示した。
【0029】
(3)抗腫瘍試験
前記(1)で得た物質と対照として生理食塩水をcolon26カルシノマを移植したBalb/cAマウスに体重あたり溶液容量として250μL/kg7回腹腔投与し,腫瘍の増殖に及ぼす作用を検討し表1の結果を得た。
【0030】
【表1】

(1群6匹)
腫瘍増殖抑制率は下記の式により求めた。
腫瘍増殖抑制率(%)={1−(処置群の平均腫瘍重量(g)/対照群の平均腫瘍重量(g))}×100
【0031】
表1から分かるように、前記(1)で得た物質投与群が対照群に比べ強い腫瘍増殖抑制効果を示した。また、担癌マウスでの免疫担当細胞の活性化を調べるため、脾臓細胞を24時間、37℃、5%CO条件下で培養した結果、IL−12およびIFN−γの生産量を図2に示す。以上(2)の細胞増殖活性試験および(3)の抗腫瘍試験の結果から、本発明によって得られる物質には強い免疫賦活化作用並びに抗腫瘍作用のあることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】細胞増殖活性試験の結果を示す図。
【図2】IL−12およびIFN−γの生産量を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)マイタケの菌糸体もしくは子実体を水で熱水抽出する工程、
(2)得られた抽出水溶性画分にアルコールを10〜80%の最終容量濃度になる様に添加し、1〜40℃の温度で放置し、液面もしくは液中に浮遊または容器の壁面に付着する物質および析出した沈殿物を除去する工程、
(3)(2)の工程の後、得られたアルコール含有水溶性画分からアルコールを除去し、得られた水溶性画分から陰イオン交換クロマトグラフィーにより吸着画分を回収する工程、
(4)該吸着画分を分子ふるいにより分子量5000以下の画分を採取する工程、
によって製造された、アンスロン反応およびニンヒドリン反応に陽性のタンパク―糖複合体からなる免疫賦活作用および抗腫瘍作用を有する物質。
【請求項2】
タンパクと糖の比率が85:15〜99.5:0.5の割合である請求項1記載のタンパク―糖複合体からなる免疫賦活作用および/または抗腫瘍作用を有する物質。
【請求項3】
マイタケがマイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans lmaz.)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)、である請求項1または2に記載のタンパク―糖複合体からなる免疫賦活作用および/または抗腫瘍作用を有する物質。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を有効成分として含有する免疫賦活化剤または抗腫瘍剤。
【請求項5】
請求項1、2又は3のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を有効成分として含有する化学療法補助剤。
【請求項6】
請求項1、2又は3のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1、2又は3のいずれかに記載のタンパク―糖複合体からなる物質を含有するペットフードもしくは家畜飼料またはペットフードもしくは家畜飼料への添加剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−191009(P2009−191009A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32935(P2008−32935)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(593084915)株式会社雪国まいたけ (30)
【Fターム(参考)】