説明

免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物

【課題】マリンズ効果を十分に抑制することが可能で、弾性率の履歴依存性が小さい免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分100質量部に対して、脂肪酸塩を0.1質量部以上配合してなることを特徴とする免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物である。なお、該免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物は、前記脂肪酸塩の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましく、前記脂肪酸塩としては、オレイン酸カリウム、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸カリウム及びステアリン酸亜鉛が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物、特には、マリンズ効果を十分に抑制することが可能で、弾性率の履歴依存性が小さい免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム等の粘弾性的性質を有する軟質板と鋼板等の硬質板とを交互に積層した積層ゴムを用いた免震構造体が、建築物の基礎免震、橋梁や高架道路等の構造物の支承等として使用されており、該免震構造体は、建築物や構造物に地震等による振動が付加された際に、付加されたエネルギーを減衰させ、構造物、建築物やその中の人及び設備等に対する被害を最小限にする役割を果たしている(下記特許文献1参照)。
【0003】
一方、一般的な加硫ゴムにおいては、繰り返し変形を受けることで弾性率が低下する現象、所謂、マリンズ効果が起こり、所望の性能を安定して発揮できず、ゴム部材を用いた製品の設計を複雑にしている場合がある。特に、免震構造体の積層ゴムに用いられるゴム部材においては、マリンズ効果に起因する変形後の弾性率の低下が大きいため、マリンズ効果の小さいゴム組成物の開発が求められている。
【0004】
これに対して、例えば、特開2000−336207号公報(特許文献2)には、履歴依存性の小さい高減衰ゴム組成物として、ジエン系ゴムと、樹脂と、軟化剤と、補強剤とを含み、二段階の混練を経て製造されたゴム組成物が開示されており、また、特開2007−126560号公報(特許文献3)には、エチレンオキサイドが付加された芳香族オリゴマーと、ゴム成分とを含むゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−48190号公報
【特許文献2】特開2000−336207号公報
【特許文献3】特開2007−126560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2000−336207号公報や特開2007−126560号公報に開示のゴム組成物を用いた積層ゴムをもってしても、マリンズ効果を十分に抑制することができず、依然として弾性率の履歴依存性に改善の余地が有った。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、マリンズ効果を十分に抑制することが可能で、弾性率の履歴依存性が小さい免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ゴム成分に脂肪酸塩を配合してゴム組成物を構成することで、該ゴム組成物を用いた積層ゴムのマリンズ効果を十分に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、脂肪酸塩を0.1質量部以上配合してなることを特徴とする。
【0010】
本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物の好適例においては、前記脂肪酸塩の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して3質量部以下である。この場合、ゴム組成物の加工性が良好である。
【0011】
本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物において、前記脂肪酸塩としては、オレイン酸カリウム、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸亜鉛が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム成分に対して脂肪酸塩を特定量配合してなり、マリンズ効果を十分に抑制することが可能な免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のゴム組成物を用いた積層ゴムを具える免震構造体の一例の断面図である。
【図2】試験サンプルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、脂肪酸塩を0.1質量部以上配合してなることを特徴とする。脂肪酸塩が配合された本発明のゴム組成物を免震構造体の積層ゴムに用いることで、積層ゴムのマリンズ効果を十分に抑制することができる。そのため、本発明のゴム組成物を用いた積層ゴムを具える免震構造体は、変形による履歴依存性が小さく、免震構造体を用いた建築物や、構造物の設計者にとって、構造計算、設計が容易となるという格別の効果を奏する。
【0015】
本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物のゴム成分は、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)の他、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらゴム成分は、一種単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらゴム成分の中でも、天然ゴム及びブタジエンゴムが好ましく、ゴム成分の30質量%以上が天然ゴムであることが更に好ましい。
【0016】
本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物は、脂肪酸塩を含む。上述のように、積層ゴム用ゴム組成物に脂肪酸塩を配合することで、マリンズ効果を抑制することができる。ここで、該脂肪酸塩の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上であり、3質量部以下であることが好ましく、1.0〜3.0質量部の範囲が特に好ましい。脂肪酸塩の配合量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部未満では、マリンズ効果を十分に抑制することができず、一方、3質量部を超えると、ゴム組成物のムーニー粘度が低下して、ゴム組成物の加工性が低下する。また、脂肪酸塩の配合量が1.0質量部以上であれば、マリンズ効果を十分に抑制できる。
【0017】
上記脂肪酸塩は、脂肪酸と金属との塩である。ここで、脂肪酸塩を構成する脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等が挙げられ、一方、脂肪酸塩を構成する金属としては、K、Na、Ca、Zn、Mg、Ba等が挙げられる。また、上記脂肪酸塩として、具体的には、オレイン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛が挙げられ、これらの中でも、オレイン酸カリウム、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸カリウム及びステアリン酸亜鉛が好ましい。これら脂肪酸塩は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
本発明の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物は、例えば、上記ゴム成分に対して、上記脂肪酸塩と共に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、充填剤、石油炭化水素、加硫剤、ステアリン酸等の硬化脂肪酸、亜鉛華、各種プロセスオイル、加硫促進剤、老化防止剤、樹脂等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して、通常の配合量の範囲内で配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0019】
上記充填剤としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。なお、充填剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して20〜70質量部の範囲が好ましく、25〜65質量部の範囲が更に好ましい。
【0020】
上記石油炭化水素としては、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン等のC9系の芳香族不飽和炭化水素や、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等のC5系の脂肪族不飽和炭化水素が挙げられる。
【0021】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、高分散性硫黄、不溶性硫黄等のゴム用加硫剤として一般に用いられている硫黄が好ましい。なお、該加硫剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.5〜10.0質量部の範囲が好ましく、1.0〜6.0質量部の範囲が更に好ましい。
【0022】
上記プロセスオイルとしては、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、アロマティック系プロセスオイル等が挙げられる。
【0023】
上記加硫促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(DZ)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、ジフェニルグアニジン(DPG)等が挙げられる。なお、該加硫促進剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.5〜5質量部の範囲が好ましい。
【0024】
上記老化防止剤としては、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6C)、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(ETMDQ)等が挙げられる。なお、該老化防止剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.5〜5質量部の範囲が好ましい。
【0025】
上記樹脂としては、フェノール樹脂、ロジン樹脂、DCPD樹脂、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、脂環系石油樹脂、C5系石油樹脂とC9系石油樹脂とを共重合させた樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、ポリエステルポリオール樹脂等が挙げられる。なお、該樹脂の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して5〜60質量部の範囲が好ましく、5〜40質量部の範囲が更に好ましい。
【0026】
本発明のゴム組成物は、免震構造体の積層ゴムに用いられる。本発明のゴム組成物は、例えば、シート状に成形され、得られたゴムシートと、剛性を有する剛性板とを交互に積層して積層ゴムを構成する。そして、該積層ゴムは、免震構造体の主要部を構成し、振動により水平方向のせん断力を受けた際に、振動のエネルギーを効果的に吸収して、振動を速やかに減衰することができる。以下に、図を参照しながら本発明のゴム組成物を用いた積層ゴムを具える免震構造体を詳細に説明する。
【0027】
図1に示す免震構造体1は、剛性を有する剛性板2と弾性を有する弾性板3とが交互に積層されてなる積層ゴム4と、該積層ゴム4の両端(上端及び下端)に固定されたフランジ板5とを具え、更に、積層ゴム4の外周面が被覆材6で覆われている。そして、本発明においては、弾性板3に、上述した本発明のゴム組成物を用いる。
【0028】
積層ゴム4を構成する剛性板2と弾性板3とは、例えば、加硫接着により、あるいは接着剤により強固に貼り合わされている。なお、加硫接着においては、剛性板2と未加硫ゴム組成物とを積層してから加硫を行い、未加硫ゴム組成物の加硫物が弾性板3となる。ここで、剛性板2としては、鋼板等の金属板、セラミックス板、FRP等の強化プラスチックス板等を使用することができる。
【0029】
また、積層ゴム4は、被覆材6で覆われていなくてもよいが、図示例のように、積層ゴム4の外周面が被覆材6で覆われている場合、積層ゴム4に外部から雨や光が届かなくなり、酸素やオゾン、紫外線による積層ゴム4の劣化を防止できる。なお、被覆材6としては、加硫ゴム等を使用することができる。
【0030】
そして、本発明のゴム組成物を積層ゴム4の弾性板3に用いた免震構造体は、マリンズ効果が十分に抑制されているため、変形による履歴依存性が小さく、設計が容易であるという格別の効果を奏する。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
表1及び2に示す成分をバンバリーミキサーにより混練して、ゴム組成物を調製した。なお、練りステージAの後、練りステージBを行い、二段階の混練を経て、ゴム組成物を調製した。次に、得られたゴム組成物のムーニー粘度、弾性率、履歴依存性を下記の方法で測定した。結果を表1及び2に示す。
【0033】
(1)ムーニー粘度
JIS K6300−1に準拠して、ムーニー粘度[ML(1+4)127℃]を測定した。
【0034】
(2)弾性率
上記ゴム組成物を、ゴム圧延用ロールを用いて2mm厚に圧延し、ゴムシートを作製した。次に、得られたゴムシートを25mm×25mmのサイズに打ち抜いた1枚の方形状ゴムシート7を作製し、これを25mm×60mm×厚み2.3mmの接着剤を塗布した2枚の鉄板8で、図2に示すように、断面クランク状となるように挟んだ。次に、鉄板8とこれに接するゴムシート7の面とを接着した状態で加硫を行い、鉄板8とゴムシート7とを接着して、試験サンプルを準備した。次に、該試験サンプルを、バネ剛性、損失エネルギー測定装置(鷺宮製作所製、型式:EFH−26−8−10)に配置し、上述の2枚の鉄板8をゴムシート7に対して外側および内側に、周波数0.2Hzで、50%、100%、250%のせん断歪を加えて、各せん断歪時の弾性率を測定した。なお、測定は、合計3回行い、その平均値を求めた。
【0035】
(3)履歴依存性
上記の方法で、一回目に測定した弾性率を三回目に測定した弾性率で除して比を求め、弾性率の履歴依存性の指標とした。比が1に近い程、一回目に測定した弾性率と三回目に測定した弾性率との差が小さく、弾性率の履歴依存性が小さいことを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
*1 天然ゴム:RSS#4
*2 カーボンブラックA:旭カーボン(株)製、「アサヒサーマル」
*3 硬化脂肪酸:日本油脂(株)製、「FA−KR」
*4 亜鉛華:白水化学工業(株)製、「3号亜鉛華」
*5 石油炭化水素:新日本石油(株)製、「プロトワックス1」
*6 老化防止剤6C:住友化学工業(株)製、「ANTIGENE 6C」
*7 脂肪酸塩:Schill+Seilacher製、「Struktol(ストラクトール)EF44」、オレイン酸亜鉛とオレイン酸カリウムとステアリン酸亜鉛とステアリン酸カリウムとの混合物
*8 ナフテンオイル:Sun Refining & Marketing製、「Sunthene 4240」
*9 亜鉛華混合硫黄:鶴見化学製、「Z硫黄」
*10 加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製、「ノクセラーCZ」
*11 ブタジエンゴム:旭化成製、「ジエンNF35R」
*12 カーボンブラックB:旭カーボン(株)製、「旭#80−N」
*13 フェノール樹脂:住友ベークライト(株)製、「スミライトレジン217」
*14 シクロペンタジエン系樹脂:日本ゼオン(株)製、「クイントン1325」
*15 ポリオール芳香族オリゴマー:フドー(株)製、「L5」
*16 ヘビーアロマオイル:出光興産(株)製、「ダイアナプロセスオイルAH−58」
【0039】
表1及び2から、脂肪酸塩を配合することで、マリンズ効果が抑制され、弾性率の履歴依存性、特には、250%せん断歪時の弾性率の履歴依存性が小さくなることが分かる。
【0040】
また、実施例4及び8の結果から、脂肪酸塩を3質量部よりも多く配合すると、ゴム組成物のムーニー粘度が低くなりすぎ、加工性が低下することが分かる。このことから、脂肪酸塩の配合量は、加工性の観点から、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下が好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0041】
1 免震構造体
2 剛性板
3 弾性板
4 積層ゴム
5 フランジ板
6 被覆材
7 方形状ゴムシート
8 鉄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、脂肪酸塩を0.1質量部以上配合してなることを特徴とする免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸塩の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して3質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸塩が、オレイン酸カリウム、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸カリウム及びステアリン酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の免震構造体の積層ゴム用ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248453(P2010−248453A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102339(P2009−102339)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】