説明

免震装置の試験方法、免震装置、及び免震装置の製造方法

【課題】免震装置の温度測定を正確に行なう。
【解決手段】免震装置10では、積層体100の積層方向の両端を積層方向と直交する方向に相対変位させても、測定用鋼板110は変形しない。よって、測定用鋼板110に形成された測定用穴112に挿入された温度センサ114には力がかからない、又は力がかかったとしても小さいので、温度センサ114の抜け出しや断線が防止又は抑制される。また、プラグ140を分断する測定用鋼板110を設けているので、プラグ140の中央部分の温度測定が可能になる。したがって、積層体100がせん断変形してプラグ140が塑性変形することによるプラグ140の温度上昇を、正確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置の試験方法、免震装置、及び免震装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震に対する構造物の安全性を高める技術として、免震技術が一般化しつつある。近年、東海地震や東南海地震等の海溝型巨大地震に伴う長周期地震動の発生が懸念されるようになってきている。そして、免震構造の構造物が、このような巨大地震に伴う長周期地震動を受けた際には、免震装置が地震によって構造物に与えられるエネルギーを十分吸収する性能が求められる。
【0003】
免震装置においては、振動を減衰させるために、ゴム層と鋼板層とを厚み方向に交互に積層した積層ゴム本体内に鉛プラグを挿入した鉛プラグ入り積層ゴム体を、免震支承として用いるものが知られている。このような鉛プラグ入り積層ゴム体を免震支承として用いる免震装置では、積層ゴム本体がせん断変形するときに、鉛プラグが塑性変形することで振動のエネルギーを吸収している。
【0004】
しかし、鉛プラグが塑性変形することよるエネルギー吸収に伴う鉛プラグの温度上昇は、鉛の融点近くまで上昇する可能性があることが指摘されている。そして、鉛プラグ入り積層ゴム体を前述したような長周期地震動に対して効果的に用いるためには、地震動によって鉛プラグが塑性変形する際の、鉛プラグの温度上昇と力学特性の変化を予め把握することが重要とされている。
【0005】
そこで、非特許文献1には、鉛プラグ入り積層ゴム体のゴム部分に半径方向に穿孔して形成された穴に温度センサを挿入して、鉛プラグの温度を測定した試験結果が発表されている(非特許文献1を参照)。
【0006】
しかし、非特許文献1のように鉛プラグ入り積層ゴム体のゴム部分に半径方向に穿孔した孔に温度センサを挿入する方法は、ゴム部分のせん断変形等によって、温度センサの抜け出しや断線が発生しやすい。よって、非特許文献1の試験報告に記載されているように、十分に正確な温度測定データを得ることは困難とされている。
また、一般的な熱電対を用いた温度測定センサでは、プラグが溶融すると温度測定ができない又は温度測定が困難とされている。
【0007】
特許文献1には、熱電対を用いて鋼板などの金属板材の内部温度を正確に測定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−164626号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】仲村崇仁、他4名 「大振幅繰返し変形を受ける積層ゴム支承体の熱・力学的連成挙動に関する研究(その3 実大鉛プラグ入り積層ゴム動的加振実験)」 日本建築学会大会学術講演梗概集 2007年8月 九州
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、免震装置の温度測定を正確に行なうことが求められている。
【0011】
本発明は、上記を考慮し、免震装置の温度測定を正確に行なうことが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、硬質層と軟質層とが交互に積層された積層体と、前記積層体の中に積層方向に挿入されたプラグと、を備える免震装置の試験方法であって、前記積層体は、前記プラグを積層方向に分断するように積層され、分断された前記プラグが接触する測定用鋼板と、前記測定用鋼板に、前記測定用鋼板の外周面から積層方向と交差する方向に向かって形成された測定用穴と、を有し、前記測定用穴の中に、平面視において、測定点が前記プラグと重なるように又は前記プラグの近傍に位置するように、温度測定センサを配置する温度測定センサ配置工程と、前記積層体の上下端を積層方向と直交する方向に相対変位させると共に前記温度測定センサで温度を測定する試験工程と、を備える。
【0013】
したがって、プラグの熱が測定用鋼板に伝達されるので、測定用鋼板の温度を測定することで、プラグの温度が正確に測定される。更に、免震装置を構成する積層体の積層方向の両端を積層方向と直交する方向に相対変位させても、測定用鋼板は変形しない。よって、測定用鋼板に形成された測定用穴に挿入された温度センサには力がかからない、又は、力がかかったとしても小さいので、温度センサの抜け出しや断線が防止又は抑制される。よって、積層体がせん断変形してプラグが塑性変形することによるプラグの温度上昇が正確に測定される。
【0014】
請求項2の発明は、硬質層と軟質層とが交互に積層された積層体と、前記積層体の中に積層方向に挿入されたプラグと、前記積層体の中に積層され、前記プラグを積層方向に分断し、分断された前記プラグが接触するように設けられた測定用鋼板と、を備える。
【0015】
したがって、分断されたプラグが測定用鋼板に接触し、プラグの熱が測定用鋼板に伝達されるので、例えば、積層体がせん断変形してプラグが塑性変形することによるプラグの温度上昇を、測定用鋼板の温度を測定することで正確に測定される。
【0016】
請求項3の発明は、前記測定用鋼板に外周面から積層方向と交差する方向に向かって形成された測定用穴と、前記測定用穴の中に配置され、平面視において、測定点が前記プラグと重なるように又は前記プラグの近傍に位置するように配置された温度センサと、を備える。
【0017】
したがって、積層体の積層方向の両端が積層方向と直交する方向に相対変位しても、測定用鋼板は変形しない。よって、測定用鋼板に形成された測定用穴に挿入された温度センサには力がかからない、又は、力がかかったとしても小さいので、温度センサの抜け出しや断線が防止又は抑制される。よって、積層体がせん断変形してプラグが塑性変形することによるプラグの温度上昇が正確に測定される。
【0018】
請求項4の発明は、前記測定用鋼板には、前記プラグの端部が嵌る凹部が形成されている。
【0019】
したがって、測定用鋼板とプラグとのずれが防止又は抑制されるので、積層体がせん断変形してプラグが塑性変形することによるプラグの温度上昇が、より正確に測定される。
【0020】
請求項5の発明は、硬質層と軟質層とを交互に積層し、且つ、測定用鋼板が前記軟質層の間に積層された積層体を作成する積層体作成工程と、前記積層体の積層方向の両面から積層方向に形成された挿入穴に、前記両面からそれぞれ前記測定用鋼板に接触するまでプラグを挿入するプラグ挿入工程と、を備える。
【0021】
したがって、積層体の積層方向の両面から、それぞれ測定用鋼板までプラグを挿入することによって、プラグが測定用鋼板で積層方向に分断されるように設けられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、本発明が適用されていない場合と比較し、免震装置の温度測定を正確に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一実施形態に係る免震装置を示す部分断面斜視図である。
【図2】図1に示す本発明の第一実施形態に係る免震装置を示す積層方向に沿った断面図である。
【図3】図1に示す本発明の第一実施形態に係る免震装置を構成する測定用鋼板を示す平面図である。
【図4】図1に示す本発明の第一実施形態に係る免震装置の製造工程を(A)〜(E)へと順番に示す工程図である。
【図5】第一実施形態に係る免震装置を構成する取付フランジを水平方向に相対変位させた温度測定試験を説明する説明図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る免震装置を示す積層方向に沿った断面図である。
【図7】免震装置の測定点を説明する説明図である。
【図8】免震装置の実験条件を示す表である。
【図9】免震装置の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第一実施形態>
図1〜図4を用いて、本発明の第一実施形態に係る免震装置について説明する。
【0025】
図1及び図2に示すように、プラグ入りの免震装置10は、円柱状の積層体100を備えている(図4(A)も参照)。積層体100は、複数枚の円環状の金属板(硬質層)14と、同じく複数枚の円環状のゴム(軟質層)16と、を円柱の軸方向(矢印Z方向)に交互に複数積層した積層体とされている。
よって、本実施形態においては、軸方向は積層方向と一致する。また、積層方向(Z方向)から見た場合を平面視とし、積層方向(矢印Z方向)と直交する方向から見た場合を正面視とする。
【0026】
更に、積層体100の積層方向(Z方向)の中央部分におけるゴム16に、金属板14よりも厚い円盤状の測定用鋼板110が積層されている。
【0027】
金属板14の外径は、積層体100の外径よりも若干小さく形成されており、被覆ゴム18によって金属板14の径方向外側が覆われ被覆されている。なお、本実施形態では、測定用鋼板110は被覆ゴム18で被覆されていない。つまり、測定用鋼板110の外周面110Cは露出している。しかし、測定用鋼板110の外周面110Cが被覆ゴム18或いは他の被覆材で被覆されていてもよい。
【0028】
積層体100の、平面視における円の中心部分には、積層方向にプラグ挿入用の挿入孔120が形成されている(図4(A)を参照)。但し、挿入孔120は、測定用鋼板110には形成されていない。つまり、挿入孔120は、測定用鋼板110を境に積層方向に分断されている。なお、挿入孔120を区別して説明する場合は、符号の後にA又はBを付して区別する。
【0029】
積層体100の積層方向(矢印Z方向)の両端側には、連結鋼板132、134が固着されている。連結鋼板132、134は、肉厚の円環状の鋼板で構成されている。連結鋼板132、134には、積層体100のプラグ挿入用の挿入孔120に連通する円形の中央孔133、135が貫通形成されている。これら中央孔133、135は、小孔133H、135Hと小孔133H、135Hよりも大径の大孔133G、135Gとで構成されている。なお、小孔133H、135Hは、挿入孔120と同径とされると共に挿入孔120の軸方向の延長部分を構成する。
【0030】
図1と図2とに示すように、積層体100の小孔133H、135Hを含む挿入孔120には、減衰部材としての円柱状のプラグ140(コア)が圧入されている。本実施形態ではプラグ140は、純鉛や鉛合金等で構成されている。なお、本実施形態では、プラグ140はこのように鉛を使用したがこれに限定されない。鉛の他に、錫、アルミニウム等の金属や合金等を使用することができる。
【0031】
前述したように、挿入孔120は測定用鋼板110には形成されていないので、プラグ140が測定用鋼板110を境に積層方向に分断されている。言い換えると、プラグ140は、挿入孔120Aに挿入されるプラグ142と挿入孔120Bに挿入されるプラグ144とで構成されている。また、測定用鋼板110の積層方向の両面がプラグ146を分断する分断面110A、110Bとされ、分断面110A,110Bにプラグ142、144の軸方向端部が接触するように構成されている。なお、本実施形態においては、プラグ140の軸方向の中央部分を分断するように測定用鋼板110が設けられている。
【0032】
プラグ140の軸方向の両端は、それぞれ円盤状のキープレート(蓋体)152、154で覆われている。キープレート152、154は、連結鋼板132、134の中央孔133、135の大孔133G、135Gに嵌合されている。なお、キープレート152、154は、連結鋼板132、134から突出するように構成されている。
【0033】
更に、連結鋼板132、134とキープレート152、154の積層方向外側には、積層体100よりも大径の取付フランジ162、164が接合されている。連結鋼板132、134と取付フランジ162、164との接合はどのような接合方法であってもよいが、本実施形態ではボルト(図示略)によって締結されている。但し、連結鋼板132、134と取付フランジ162、164との接合は、キープレート152、154を軸方向中心に向かって押さえつける機能を有する接合方法が望ましい。
【0034】
なお、本実施形態では、積層体100の積層方向の両端側に連結鋼板132、134が固着された構成であったが、これに限定されない。連結鋼板132、134を有しない構成であってもよい。なお、この場合、キープレート(キャップ)と取付フランジとをボルトで締結する構成となる。
【0035】
図1〜図3に示すように、測定用鋼板110の径方向外側の外周面110Cから積層方向と交差する方向、本実施形態では略直交する方向、換言すると半径方向に向かって、測定用穴112A,112B,112C,112Dが形成されている。なお、以降、測定穴を区別する必要がない場合は、A〜Dを省略して説明する。
【0036】
図3に示すように、測定用穴112Aは、平面視において、穴端部(先端部)がプラグ140の中心部に位置するように形成されている。測定用孔112Bは、平面視において、穴端部(先端部)がプラグ140の外縁部内側に位置するように形成されている。測定用孔112Cは、平面視において、穴端部(先端部)がプラグ140の外縁部外側に位置するように形成されている。そして、測定用孔112Dは、平面視において、穴端部(先端部)がプラグ140と外周面110Cとの中間部分に位置するように形成されている。
【0037】
そして、これらの測定用穴112A,112B,112C,112Dの中に、温度センサ114A,114B,114C,114Dが挿入されている。なお、温度センサ114A,114B,114C,114Dは、先端部分が測定点116A,116B,116C,116Dとされている。また、本実施形態では、温度センサ114(測定点116)は熱電対を用いた温度センサとされている。また、測定点116は、各測定用穴112の穴端部まで挿入されている。よって、平面視において、測定点116Aと測定点116Bはプラグ140と重なるように配置され、測定点116Cはプラグ140の外側に位置するように配置されている。
【0038】
なお、温度センサ114が測定用穴112から容易に抜けでないように、外周面112に開口する各測定穴112の開口部に、温度センサ114の線材部が接着剤等で固定されている。
なお、前述した測定用穴及び測定点は一例であってこれに限定されない。所望する温度測位置で温度測定できるように、適宜、測定用穴を形成すればよい。
【0039】
つぎに、図4を用いて本実施形態の免震装置10の製造方法について説明する。なお、ここで説明する製造方法は一例であって、他の製造方法であってもよい。
【0040】
図4(A)に示すように、金属板14とゴム16とを交互に積層し、且つ、外周面100Cが露出するように測定用鋼板110がゴム16の間に積層された積層体100を作成する。なお、金属板14とゴム16とには、挿入孔120が形成されている。更に、積層体100の積層方向両側には連結鋼板132、134が設けられている。なお、金属板14、測定用鋼板110、連結鋼板132、134、及びゴム16とは、加硫接着等によって一体化されている
【0041】
図4(B)に示すように、積層体100(連結鋼板132、134)の積層方向の一方と他方の両面から積層方向に形成された挿入穴120A,120Bに、それぞれ測定用鋼板110の分断面110A,110Bに接触するまで、プラグ142、144を挿入する。挿入後に、連結鋼板132、134の中央孔133、135にキープレート152、154を嵌合し溶融接着する。
【0042】
図4(C)に示すように、連結鋼板132、134とキープレート152、154の外側に、取付フランジ162、164を接合する。
図4(D)に示すように、測定用鋼板110を半径方向に穿孔して、測定用穴112を形成する。
図4(E)に示すように、測定用穴112の中に温度センサ114を挿入し、外周面112Cの開口部に接着剤などで固定する。
【0043】
なお、本実施形態では、図4(D)に示すように、測定用鋼板110を積層したのち、半径方向に穿孔して測定用穴112を形成したが、これに限定されない。
図4(A)の工程で、予め測定用穴112を形成した測定用鋼板110を積層してもよい。この場合、図4(D)の工程が不要となる。また、このように予め測定用穴112を形成した測定用鋼板110を積層するほうが、製作上好ましい。
【0044】
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
本実施形態の免震装置10は、構造物を構成する上部構造部と下部構造部との間に設けられ、上部構造部を鉛直方向に支持しつつ、下部構造部に対して水平方向に抵抗力を伴って相対移動可能に支持する。そして、地震時においては、取付フランジ162、164が互いに水平方向に相対移動することで免震効果を発揮する(図5を参照)。このとき、積層体100は相対移動に追従し、せん断変形する。積層体100がせん断変形すると、プラグ140が塑性変形する。そして、このプラグ140の塑性変形により、振動エネルギーが吸収され、振動が減衰する。
【0045】
ここで、振動エネルギーを吸収するプラグ140が挿入された積層体100を有する免震装置10を、長周期地震動に対して効果的に用いるためには、地震動によってプラグ140が塑性変形する際のプラグ140の温度上昇と力学特性の変化を予め把握することが重要とされている。
【0046】
そこで、本実施形態の免震装置10を用いて、地震動によってプラグ140が塑性変形する際のプラグ140の温度測定を行なう。
【0047】
具体的には、図5に示すように、温度センサ114を測定装置180に繋げ、免震装置10を試験装置190によって、取付フランジ162を積層方向と直交する方向、本実験では水平方向に相対変位させて、プラグ140が塑性変形することによるプラグ140の温度上昇を測定する。
【0048】
本実施形態の免震装置10では、プラグ142、144の軸端部が測定用鋼板110の分断面110A,110Bに接触し、プラグ142、144の熱が測定用鋼板110に伝達されるので、測定用鋼板110の温度を測定することでプラグ142、144の温度が正確に測定される。
なお、測定用鋼板110は、所謂鋼(はがね)以外の材料で構成されてもよい。但し、プラグ142、144の熱が伝達されやすいように、熱伝導率に優れた材質(銅やアルミニウム等)で構成されていることが望ましい。
【0049】
更に、取付フランジ162、164(積層体100の積層方向の両端)を積層方向と直交する方向に相対変位させても、測定用鋼板110は変形しない。よって、測定用鋼板110に形成された測定用穴112に挿入された温度センサ114には力がかからない、又は力がかかったとしても小さいので、温度センサ114の抜け出しや断線が防止又は抑制される。
【0050】
なお、測定用鋼板110の外周面110Cが被覆ゴム18(或いは他の被覆材)で被覆されている構成であっても、被覆ゴム18は非常に薄いので、外周面110Cが露出した構成と同様に、温度センサ114には力がかからない、又は力がかかったとしても小さいので、温度センサ114の抜け出しや断線が防止又は抑制される。
【0051】
また、プラグ140の軸方向の中央部分を分断するように測定用鋼板110が設けられているので、プラグ140の軸方向の中央部分の温度測定が可能である。
【0052】
したがって、積層体100がせん断変形してプラグ140が塑性変形することによるプラグ140の温度上昇を、本発明が適用されていない免震装置よりも正確に測定することができる。また、正確に温度測定されることで、地震動によってプラグ140が塑性変形する際のプラグ140の温度上昇と力学特性の変化を、予め正確に把握することができる。
【0053】
また、積層体100の積層方向の両面から測定用鋼板110までプラグ142、144を挿入することによって、プラグ140が測定用鋼板110で積層方向に分断されるように、容易に設けることができる。
【0054】
<第二実施形態>
つぎに、図6を用いて、本発明の第二実施形態に係る免震装置について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
免震装置20の積層体200を構成する測定用鋼板210の分断面210A,210Bの、平面視における円の中心部分には、積層方向に凹とされた凹部(ざぐり)222、224が形成されている。そして、この凹部(ざぐり)222、224にプラグ242、244の軸端部が嵌め込まれている。なお、これ以外の構造及び製造方法は、第一実施形態と同様又は略同様であるので、説明を省略する。
【0056】
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
測定用鋼板210の凹部222、224にプラグ242、244の端部が嵌め込まれているので、積層体200がせん断変形した際の、測定用鋼板210とプラグ240とのずれが防止又は抑制される。よって、測定用鋼板210の凹部222、224にプラグ242、244の端部が嵌め込まれていない構成と比較し、より正確な温度測定が可能となる。
【0057】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限定されない。
【0058】
例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、プラグ140、240は、平面視における円の中央部分に一箇所、測定用鋼板110、210を境に合計二つ設けられているが、これに限定されない。プラグ140、240は、平面視における円中心以外の複数箇所に設けられていてもよい。
なお、プラグは、測定用鋼板を境に同数、且つ平面視において、略同じ位置に配置されていることが望ましい。
【0059】
また、例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、測定用鋼板110、210は一枚のみ設けられ、プラグ140、240が軸方向の中央部で分断されていたが、これに限定されない。プラグは軸方向の中央部以外で分断されていてもよい。
更に、測定用鋼板が、複数枚設けられた構成であってもよい。言い換えると、プラグが軸方向の複数の箇所で分断されていてもよい。
なお、測定用鋼板を複数枚設ける方法(プラグを複数箇所で分断する方法)は、どのような方法であってもよい。例えば、プラグが挿入された積層体の積層方向の両側が測定用鋼板で構成された積層体ユニットを作成し、この積層体ユニットを重ねて接合することで、測定用鋼板が複数枚設けられた構成(プラグが複数箇所で分断された構成)の免震装置とすることができる。
【0060】
なお、上記実施形態では、本発明が適用された免震装置10、20は、地震動による鉛プラグが塑性変形する際の鉛プラグの温度上昇と力学特性の変化を予め把握する実験に用いたが、これに限定されない。
本発明が適用された免震装置を、実際の構造物に設置し、実際の地震時におけるプラグが塑性変形する際のプラグの温度を測定してもよい。この場合、例えば、記録装置に温度測定データを記録するようにし、地震後、記録装置から温度データを読み出して分析する。なお、記録装置は、免震装置が設置された構造物に設置してもよいし、別の場所に設置し、有線や無線によって記録装置にデータを送るようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、剛性を有する硬質層として金属板14を用いたがこれ限定されない。例えば、金属板14と同様の剛性を有する樹脂材料で構成されていてよい。また、ゴム状の弾性を有する軟質層の材料としてゴム16を使用したが、これに限定されない。例えば、ゴム16と同様の弾性を有する樹脂材料を使用してもよい。
【0062】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【0063】
<温度測定実験例>
つぎに、本発明が適用された免震装置を用いたプラグの温度測定実験の一例について説明する。なお、本実験例では、第一実施形態の免震装置10を用いた。本実験例では、図7に示す測定点A〜Hの温度を測定する。なお、測定用鋼板110の温度測定の測定点は、実施形態で説明した位置とは若干位置がずれている(測定点A、B,C、D)。更に、キープレート154にも温度センサ114を挿入して温度を測定した(測定点E,F,G)。更に、連結鋼板134の外側近傍(測定点H)と雰囲気中(測定点J)の温度も測定した。
【0064】
「実験条件等」
試験装置は動的加力試験機(1000kN)を用いた。なお、免震装置10は試験体#1と試験体#2との二つ用意した。試験体#1に入力する振動の波形はγ=±150%一定の正弦波とした。試験体#2に入力する振動の波形は、γ=±150%の繰返しの途中に小振幅(γ=±50%)の繰返しを数回挿入する条件とした。なお、試験体#2は、地震応答中の振幅変動に伴うであろう温度拡散を模擬することを意図したものである。具体的な加振条件と加振名を図8の表に示す。面圧は、免震装置10を構成する積層体100の基準面圧として標準的な面圧と考えられる7.0MPaとした。
【0065】
「実験結果」
温度時刻歴を図9に示す。この図9に示すように、測定点A、測定点Bにおいては、いずれも最高温度は200℃を超えるまで測定された。つまり、既往研究を上回る温度が測定できたことが確認された。言い換えると、本発明を適用することで、免震装置の温度測定を十分に正確に行なうことができた。
【符号の説明】
【0066】
10 免震装置
14 金属板(硬質層)
16 ゴム(軟質層)
20 免震装置
100 積層体
110 測定用鋼板
110A 分断面
110B 分断面
110C 外周面
112 測定用穴
114 温度測定センサ
116 測定点
140 プラグ
200 積層体
210 測定用鋼板
210A 分断面
210B 分断面
210C 外周面
222 凹部
224 凹部
240 プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質層と軟質層とが交互に積層された積層体と、
前記積層体の中に積層方向に挿入されたプラグと、
を備える免震装置の試験方法であって、
前記積層体は、
前記プラグを積層方向に分断するように積層され、分断された前記プラグが接触する測定用鋼板と、
前記測定用鋼板に、前記測定用鋼板の外周面から積層方向と交差する方向に向かって形成された測定用穴と、
を有し、
前記測定用穴の中に、平面視において、測定点が前記プラグと重なるように又は前記プラグの近傍に位置するように、温度測定センサを配置する温度測定センサ配置工程と、
前記積層体の上下端を積層方向と直交する方向に相対変位させると共に前記温度測定センサで温度を測定する試験工程と、
を備える免震装置の試験方法。
【請求項2】
硬質層と軟質層とが交互に積層された積層体と、
前記積層体の中に積層方向に挿入されたプラグと、
前記積層体の中に積層され、前記プラグを積層方向に分断し、分断された前記プラグが接触するように設けられた測定用鋼板と、
を備える免震装置。
【請求項3】
前記測定用鋼板に外周面から積層方向と交差する方向に向かって形成された測定用穴と、
前記測定用穴の中に配置され、平面視において、測定点が前記プラグと重なるように又は前記プラグの近傍に位置するように配置された温度センサと、
を備える請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記測定用鋼板には、前記プラグの端部が嵌る凹部が形成されている、
請求項2又は請求項3に記載の免震装置。
【請求項5】
硬質層と軟質層とを交互に積層し、且つ、測定用鋼板が前記軟質層の間に積層された積層体を作成する積層体作成工程と、
前記積層体の積層方向の両面から積層方向に形成された挿入穴に、前記両面からそれぞれ前記測定用鋼板に接触するまでプラグを挿入するプラグ挿入工程と、
を備える免震装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−17813(P2012−17813A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156176(P2010−156176)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】