説明

共重合体およびレジスト組成物

【課題】金属表面等の極性の高い表面に対する密着性、疎水性および耐熱性に優れ、レジスト用の溶剤に対する溶解性が良好な共重合体および該共重合体を含むレジスト組成物を提供する。
【解決手段】脂環式骨格を有する単量体と、ラクトン骨格を有する単量体と、脂環式骨格を有する単量体よりも高い極性を持ち、かつラクトン骨格を有する単量体よりも低い極性を持つ他のビニル系単量体とを重合して得られる共重合体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面等の極性の高い表面に対する密着性に優れ、効果的に疎水性及び耐熱性を付与することができ、かつ、溶剤に対する溶解性が良好で不溶分の少ない好適な共重合体、および該共重合体を用いたレジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属表面のような極性の高い表面に対しては、同じく極性の高い化合物が静電的な相互作用により、密着性が良いことが知られている。一方、疎水性に関しては、極性の低い化合物が優れており、また、耐熱性に関しては環状の化合物が優れていることが知られている。
【0003】
そこで、金属表面等の極性の高い表面に対する密着性に優れ、効果的に疎水性および耐熱性を付与することができる塗料を得るために、極性の高い単量体と極性の低い環状構造を有する単量体とを共重合させた二元系共重合体を塗料用樹脂組成物として用いることが提案されている。
【0004】
しかしながら、このような極性が大きく異なり、かつ一方が大きな環状骨格を有する単量体を共重合させる場合、これらの重合反応性が大きく異なるため、ランダムに共重合しにくく、重合の初期と後期で一方の単量体成分が非常に多く共重合された共重合体が生じる傾向がある。そのため、この共重合体を溶剤系塗料やレジスト組成物として使用すべく、溶剤に溶解させた場合、単量体成分が大きく偏った一部の共重合体の溶解性が悪いため、溶剤不溶分が生じていた。そして、この溶剤不溶分が、塗料等の濾過工程でのフィルター詰まり、塗膜等の外観不良の原因となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明における課題は、金属表面等の極性の高い表面に対する密着性に優れる極性の高い単量体と、効果的に疎水性および耐熱性を付与することができる極性の低い環状構造を有する単量体とを共重合させた共重合体であって、溶剤に対する溶解性が良好で、不溶分のない好適な共重合体、および該共重合体を用いたレジスト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、共重合体の溶解性について鋭意検討した結果、極性の低い環状構造を有する単量体と極性の高い単量体から得られる共重合体において、(1)各共重合体鎖ごとにばらつきを生じていた極性の高い単量体の共重合組成を、共重合体全体における極性の高い単量体の平均共重合組成前後の特定の範囲内に収めること、(2)特定の極性を有する単量体を加えて共重合すること、(3)特定の重合方法で製造することにより、塗料やレジスト用等の溶剤に対する溶解性が良好で、不溶分のない好適な共重合体となることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の共重合体は、脂環式骨格を有する単量体と、ラクトン骨格を有する単量体と、他のビニル系単量体とを重合して得られる共重合体であって、他のビニル系単量体が、上記脂環式骨格を有する単量体よりも高い極性を持ち、かつ上記ラクトン骨格を有する単量体よりも低い極性を持つことを特徴とする(ただし、下記の共重合体を除く。
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−A−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−A−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体、および
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−C−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−C−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体。)。
【0008】
【化1】

【0009】
また、本発明の共重合体は、脂環式骨格を有する単量体と、置換または無置換のγ−ブチロラクトン環を有する(メタ)アクリレートと、他のビニル系単量体とを重合して得られることを特徴とする(ただし、下記の共重合体を除く。
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−A−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−A−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体、および
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−C−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−C−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体。)。
【0010】
本発明のレジスト組成物は、本発明の共重合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合体は、金属表面等の極性の高い表面に対する密着性や、疎水性および耐熱性に優れ、レジスト用の溶剤に対する溶解性が良好となる。
【0012】
また、本発明のレジスト組成物は、均一性が高く、感度および解像度の点で優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、少なくとも脂環式骨格を有する単量体とラクトン骨格を有する単量体を重合して得られる共重合体に関する。
【0014】
脂環式骨格を有する単量体は、これを重合して得られる共重合体、およびそのレジスト組成物に、疎水性と耐熱性を付与するものである。
このような脂環式骨格を有する単量体としては、特に限定されないが、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、および、これらの置換体からなる群から選ばれる少なくとも1種が、疎水性と耐熱性に優れることから好適に用いられる。具体的には、1−イソボニルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタン、シクロヘキシルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、トリシクロデカニルメタクリレート、ジシクロペンタジエニルメタクリレートなどが挙げられる。これらは必要に応じて単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
また、脂環式骨格を有する単量体は、単量体成分全体に対して、10〜90モル%の範囲で用いられることが好ましく、より好ましくは、40〜60モル%の範囲である。脂環式骨格を有する単量体は、多いほど得られる共重合体およびそのレジスト組成物の疎水性と耐熱性が向上し、少ないほど後述するラクトン骨格を有する単量体による密着性向上の効果が顕著になる。
【0016】
ラクトン骨格を有する単量体は、これを重合して得られる共重合体、およびそのレジスト組成物に、金属表面等の極性の高い表面に対する密着性を付与するものである。
このようなラクトン骨格を有する単量体としては、特に限定はされないが、置換あるいは無置換のδ−バレロラクトン環を有する(メタ)アクリレート、置換あるいは無置換のγ−ブチロラクトン環を有する単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が、密着性に優れることから好適に用いられ、特に無置換のγ−ブチロラクトン環を有する単量体が好適に用いられる。具体的には、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン、4,4−ジメチル−2−メチレン−γ−ブチロラクトン、β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、2−(1−メタクリロイルオキシ)エチル−4−ブタノリド、パントイルラクトンメタクリレートなどが挙げられる。また、類似構造を持つ単量体として、メタクリロイルオキシこはく酸無水物なども挙げられる。これらは必要に応じて単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
また、上記ラクトン骨格を有する単量体は、単量体成分全体に対して、10〜90モル%の範囲で用いられることが好ましく、より好ましくは、40〜60モル%の範囲である。ラクトン骨格を有する単量体は、多いほど得られる共重合体およびそのレジスト組成物の密着性が向上し、少ないほど脂環式骨格を有する単量体による疎水性と耐熱性向上の効果が顕著になる。
【0018】
本発明では、上記の脂環式骨格を有する単量体とラクトン骨格を有する単量体以外に、これらと共重合可能なビニル系単量体(以下、他のビニル系単量体という。)を用いてもよい。
他のビニル系単量体としては、例えば、直鎖または分岐骨格構造を持つ(メタ)アクリル酸エステル、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、n−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、i−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、i−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、t−ブトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族アルケニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリルアミド、塩化ビニル、エチレンなどが挙げられる。これらは必要に応じて単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
他のビニル系単量体は、得られる共重合体の密着性、耐水性、耐熱性を損なわない範囲で用いることができ、単量体成分全体に対して40モル%以下で用いることが好ましい。
【0019】
本発明では、共重合体中のラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布は、ラクトン骨格を有する単量体の平均共重合組成(X、単位モル%)の−10〜+10モル%内、すなわち(X−10)〜(X+10)モル%内であることが好ましい。共重合体中のラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布が、この範囲を超えて拡がると、レジスト用の溶剤に対する溶解性が悪くなり、不溶分が増加するので好ましくない。
また、ラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布が、その平均共重合組成の−10〜+10モル%内である共重合体を使用した半導体製造用のレジスト組成物は、均一性が高いことからレジストとしての感度および解像度が高く、優れている。
【0020】
この共重合体を半導体製造用のレジスト組成物として使用する場合は、ラクトン骨格を有する単量体の平均共重合組成は40〜60モル%であることが好ましい。この平均共重合組成は、大きいほど基板表面への密着性が向上してレジストとしての解像度が向上し、小さいほど脂環式骨格を有する単量体の含有量が相対的に増加するのでレジストとしてのドライエッチング耐性が向上する。
【0021】
ラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布がその平均共重合組成の−10〜+10モル%内である共重合体の溶解性がよい理由としては、以下のことが考えられる。
極性が大きく異なる脂環式骨格を有する単量体とラクトン骨格を有する単量体は、それぞれの単量体の重合反応性が大きく異なるため、通常はランダムに共重合しにくい。特に、バッチ重合においては、重合の初期と後期で(即ち、重合率によって)得られる共重合体中の単量体の共重合組成は大きく偏っている。一方、レジスト組成物に用いられる溶剤は、共重合体合成時に仕込まれる単量体の平均組成比に合わせて選択されている。そのため、単量体の共重合組成が大きく偏った共重合体は、上記溶剤に対して溶解性が悪くなると推察される。
【0022】
本発明における共重合体全体のラクトン骨格を有する単量体の平均共重合組成の数値は、共重合体の 1H−NMRを測定し、得られる特定の 1Hシグナル強度の比率から平均共重合組成を計算して得られる。上記 1H−NMR測定によって得られる平均共重合組成は、共重合体製造時に仕込んだ単量体の割合とほぼ一致する。
【0023】
本発明における共重合体中のラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布は、各共重合体鎖ごとのラクトン骨格を有する単量体の共重合組成が、上記 1H−NMR測定によって得られる平均共重合組成からどれだけばらついているかを示す。
本発明における共重合体中のラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布は、共重合体溶液をゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)にて10〜数十個のフラクションに分割し、各フラクションについて 1H−NMRの測定を行い、各フラクションにおけるラクトン骨格を有する単量体の共重合組成を求めることにより測定する。
【0024】
本発明の共重合体は、前述したように、共重合体が脂環式骨格を有する単量体およびラクトン骨格を有する単量体に他のビニル系単量体を加えて共重合したものであってもよい。この際、他のビニル系単量体は脂環式骨格を有する単量体よりも高い極性を持ち、かつラクトン骨格を有する単量体よりも低い極性を持つビニル系単量体(以下、中間の極性を有する他のビニル系単量体という)が好ましい。脂環式骨格を有する単量体と、ラクトン骨格を有する単量体と、さらに中間の極性を有する他のビニル系単量体とを共重合させることによって、重合の初期と後期で得られる共重合体中の単量体成分の偏りを少なくすることができる。それによって、共重合体の溶解性が向上し、溶剤に対する不溶分を減少させることができる。
【0025】
このような中間の極性を有する他のビニル系単量体としては、例えば、直鎖または分岐骨格構造を持つ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、n−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、i−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、i−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、t−ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは必要に応じて単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
このような中間の極性を有する他のビニル系単量体は、単量体成分全体に対して0〜40モル%で用いることが好ましい。中間の極性を有する他のビニル系単量体は、多いほど得られる共重合体の溶解性が高くなるので不溶分が減少し、少ないほど得られる共重合体の密着性、耐水性、耐熱性が高くなる。
【0027】
ここで、単量体の極性は、Polymer Handbook Third Edition Ed. by J. Brandrup and E. H. Immergut (John Wiley & Sons Inc., 1989) 7 section 519-544 に記載の分散力の項、極性の項、水素結合の項の和で表される液体の溶解度パラメーターの式中における極性の項の数値(以下δP値と記す)で定義される。このδP値は、通常、脂環式骨格構造を持つもの、直鎖または分岐骨格構造を持つもの、ラクトン骨格を持つものの順で大きくなる傾向にある。
【0028】
中間の極性を有する他のビニル系単量体を用いる場合、脂環式骨格を有する単量体は、単量体成分全体に対して10〜90モル%の範囲が好ましい。脂環式骨格を有する単量体は多いほど得られる共重合体およびそのレジスト組成物の疎水性と耐熱性が向上し、少ないほどラクトン骨格を有する単量体による密着性向上の効果が顕著になる。
また、中間の極性を有する他のビニル系単量体を用いる場合、ラクトン骨格を有する単量体は、単量体成分全体に対して10〜90モル%の範囲が好ましい。ラクトン骨格を有する単量体は、多いほど得られる共重合体およびそのレジスト組成物の密着性が向上し、少ないほど脂環式骨格を有する単量体による疎水性と耐熱性向上の効果が顕著になる。
【0029】
半導体製造用レジスト組成物として本発明の共重合体を使用する場合は、重量平均分子量は1,000〜20,000がより好ましい。重量平均分子量は、小さいほどレジストとしての感度や解像度が向上する。また、分子量分布は狭い方がレジストとしての感度や解像度が向上するためより好ましい。具体的には、重量平均分子量/数平均分子量の値が、1.0〜1.5のものが好ましい。
【0030】
本発明の共重合体の製造は、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法などの公知の重合法によって行われる。中でも、得られる共重合体の分子量を考慮すると、溶液重合法が好ましい。
通常、溶液重合法による共重合体の製造は、脂環式骨格を有する単量体およびラクトン骨格を有する単量体、場合によっては他のビニル系単量体が加えられた単量体成分を有機溶剤に溶解させ、これに重合開始剤を添加し、一定時間加熱撹拌することにより行われる。
【0031】
特に、本発明の共重合体を製造する方法としては、あらかじめ脂環式骨格を有する単量体とラクトン骨格を有する単量体とを含む全ての単量体成分および重合開始剤を有機溶剤に溶解させた混合溶液を一定温度に保持した有機溶剤中に滴下する方法、いわゆる滴下重合法が、重合の初期と後期で得られる共重合組成が大きく偏らないので好ましい。
【0032】
滴下重合法に用いられる重合開始剤は、熱により効率的にラジカルを発生するものであればよく、特に限定はされない。このような重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0033】
滴下重合法において用いられる溶剤および被滴下溶剤は、脂環式骨格を有する共重合可能な単量体、ラクトン骨格を有する共重合可能な単量体、重合開始剤、および、得られる共重合体のいずれも溶解できる溶剤であれば、特に限定はされない。このような溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類などが挙げられる。
【0034】
滴下重合法における重合温度は、用いる溶剤の沸点、用いる重合開始剤の分解温度などによって決定され、特に限定はされないが、50〜150℃の範囲が好ましい。重合温度は、高いほど反応時間が短くなり生産性が向上し、低いほど反応の制御が容易になる。
滴下重合法における滴下速度は特に限定されないが、通常一定速度であることが好ましい。また、滴下時間は特に限定されないが、通常6時間以上であり、さらに滴下終了後2時間程度その温度を保持し、重合を完結させることが好ましい。
【0035】
上述の製造方法によって、製造された共重合体溶液は、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの良溶媒にて適当な溶液粘度に希釈された後、メタノール、水などの多量の貧溶媒中に滴下して析出させる。その後、その析出物を濾別、十分に乾燥する。この工程は「再沈」と呼ばれ、場合により不要となることもあるが、重合溶液中に残存する未反応の単量体、あるいは、重合開始剤等を取り除くために非常に有効である。これらの未反応物がそのまま残存していると、レジストとした後の保存安定性や塗膜等の外観に悪影響を及ぼす可能性があるため、できれば取り除いた方が好ましい。
【0036】
本発明の共重合体は、500nmの膜厚で測定した193nmの光線透過率が優れている。ArFレジスト樹脂用には、この光線透過率は60%以上の共重合体が好ましく、70%以上の共重合体がより好ましく、75%以上の共重合体が特に好ましい。
その後、乾燥した共重合体粉体をレジスト用の溶剤に溶解させる。この溶剤は目的に応じて任意に選択されるが、本発明のような脂環式骨格とラクトン骨格を有する共重合体は、それらの極性が大きく異なるため、溶剤の選択が非常に難しい。また、溶剤の選択は、樹脂の溶解性以外の理由、たとえば、塗膜の均一性、外観、あるいは安全性等から制約を受ける。
【0037】
本発明の共重合体をレジスト組成物として用いる場合の上記の条件を満たす溶剤としては、例えば、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサン、ジグライムなどが挙げられる。
【0038】
本発明のレジスト組成物には、光酸発生剤を含有させることが好ましい。使用する光酸発生剤については特に制限は無く、化学増幅型レジスト組成物の光酸発生剤として使用可能なものの中から任意に選択することができる。具体的には、オニウム塩化合物、スルホンイミド化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、キノンジアジド化合物及びジアゾメタン化合物などがあげられる。中でもオニウム塩化合物が好適であり、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、ピリジニウム塩などを挙げることができる。具体例としては、トリフェニルスルホニウムトリフレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムナフタレンスルホネート、(ヒドロキシフェニル)ベンジルメチルスルホニウムトルエンスルホネート、ジフェニルヨードニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムピレンスルホネート、ジフェニルヨードニウムドデシルベンゼンスルホネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートなどをあげることができる。
【0039】
本発明において、光酸発生剤は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。本発明における光酸発生剤の使用量は選択された光酸発生剤の種類により適宜選定されるが、通常、共重合体100重量部当たり0.1〜20重量部、特に好ましくは0.5〜10重量部である。光酸発生剤の使用量は多いほど露光により発生した酸の触媒作用による化学反応を十分に生起させることができ、少ないほど組成物を塗布する際の塗布むらや現像時のスカムなどの発生が少なくなる。
【0040】
また本発明のレジスト組成物には、塩基性物質を含有させることが好ましい。このような塩基性物質としては、含窒素複素環化合物および/またはアミド基含有化合物が特に好ましい。
含窒素複素環化合物の具体例としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−メチル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;ピリジン、2−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2−エチルピリジン、4−エチルピリジン、2−フェニルピリジン、4−フェニルピリジン、N−メチル−4−フェニルピリジン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、キノリン、8−オキシキノリン、アクリジン等のピリジン類のほか、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、キノザリン、プリン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、4−メチルモルホリン、ピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、テトラゾール、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等を挙げることができる。中でも、テトラゾール類、ジアザビシクロオクタン類、ピペリジン類がより好ましい。
【0041】
アミド基含有化合物の具体例としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−(1−アダマンチル)アセトアミド、プロピオンアミド、ベンズアミド、N−アセチルエタノールアミン、1−アセチル−3−メチルピペリジン等、あるいは、ピロリドン、N−メチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、2−ピロリジノン等の環状アミド類、あるいは、アクリルアミド、メタクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシアクリルアミド、N−エトキシアクリルアミド、N−ブトキシアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド類を挙げることができる。中でも、(メタ)アクリルアミド類、アセトアミド類がより好ましい。
【0042】
塩基性物質は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。塩基性物質の使用量は選択された塩基性物質の種類よりに適宜選定されるが、光酸発生剤1モルに対して、通常0.01〜10モルであり、好ましくは0.05〜1モルである。塩基性物質の使用量は、多いほどレジスト形状が良くなり、少ないほどレジストとしての感度や露光部の現像性が向上する傾向がある。
さらに本発明の化学増幅型レジスト組成物には、必要に応じて、界面活性剤、増感剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤等の各種添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ここで「部」は、特に断りがない限り、「重量部」を意味する。
【0044】
また、共重合体の物性の測定は、以下の方法を用いて行った。
・重量平均分子量
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリメタクリル酸メチル換算で求めた。溶剤には、クロロホルムを使用した。
・ラクトン骨格を有する単量体の平均共重合組成(モル%)
1H−NMRの測定により求めた。溶剤には、重クロロホルムを使用した。
・ラクトン骨格を有する単量体の共重合組成分布
共重合体をクロロホルムに溶解し、この溶液をGPCにて10個のフラクションに分取し、各フラクションについて 1H−NMRの測定を行い、共重合体中のラクトン骨格を有する単量体の共重合組成を求めた。最もラクトン骨格を有する単量体の共重合組成が高かったものを最大組成(モル%)とし、最もラクトン骨格を有する単量体の共重合組成が低かったものを最小組成(モル%)とした。
【0045】
・溶解性
乳酸エチル、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートそれぞれ7部に共重合体1部を添加し、室温で2時間撹拌し、溶液の状態を観察した。判定は、不溶分がなく、溶液が透明なものを○、不溶分があり、溶液が不透明なものを×とした。
・光線透過率
試料である共重合体をシリコン基板上に500nmの膜厚(d)で塗布し、共重合体の複素屈折率(屈折率nおよび消衰係数k)を分光エリプソメーターを用いて、193nmの露光波長(λ)で測定した。この測定条件および測定結果から、透過率(I/I0 )は次式により算出される。(ただし、透過率を%単位で表すときはI/I0 に100を乗じる。)
I/I0 =exp(−4πdk/λ)
【0046】
(実施例1)
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、1,4−ジオキサン20.0部を入れ、攪拌しながら湯浴の温度を80℃に上げた。1−イソボニルメタクリレート27.8部(単量体全成分に対して50モル%)、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン24.8部(単量体全成分に対して50モル%)、1,4−ジオキサン62.5部、アゾビスイソブチロニトリル1.9部を混合した単量体溶液を一定速度で6時間かけて、フラスコ中に滴下し、その後、80℃の温度を2時間保持した。次いで、得られた反応溶液をテトラヒドロフランで約2倍に希釈し、約10倍量のメタノール中に撹拌しながら滴下し、白色の析出物(共重合体A)の沈殿を得た。得られた沈殿を濾別し、減圧下60℃で約40時間乾燥し、共重合体Aの各物性を測定した結果を表1に示した。
【0047】
(実施例2〜8)
単量体の合計モル数は変えずに、単量体およびその仕込量を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして共重合体B〜Hを得た。得られた共重合体B〜Hの各物性を測定した結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
(実施例9)
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、1−イソボニルメタクリレート22.8部(単量体全成分に対して41モル%)、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン20.3部(単量体全成分に対して41モル%)、メチルメタクリレート4.5部(単量体全成分に対して18モル%)、1,4−ジオキサン82.5部、アゾビスイソブチロニトリル3.8部を全量入れ、攪拌しながら湯浴の温度を80℃に上げ、その温度で8時間重合させた。次いで、得られた反応溶液をテトラヒドロフランで約2倍に希釈し、約10倍量のメタノール中に撹拌しながら滴下し、白色の析出物(共重合体I)の沈殿を得た。得られた沈殿を濾別し、減圧下60℃で約40時間乾燥し、共重合体Iの各物性を測定した結果を表2に示した。
【0050】
(実施例10〜14)
単量体の合計モル数は変えずに、単量体およびその仕込割合を、表2に示したように変更した以外は、実施例9と同様にして共重合体J〜Nを得た。得られた共重合体J〜Nの各物性を測定した結果を表2に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
(比較例1)
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、1−イソボニルメタクリレート27.8部、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン24.8部、1,4−ジオキサン82.5部、アゾビスイソブチロニトリル3.8部を全量入れ、攪拌しながら湯浴の温度を80℃に上げ、その温度で8時間重合させた。次いで、得られた反応溶液をテトラヒドロフランで約2倍に希釈し、約10倍量のメタノール中に撹拌しながら滴下し、白色の析出物(共重合体O)の沈殿を得た。得られた沈殿を濾別し、減圧下60℃で約40時間乾燥し、共重合体Oの各物性を測定した結果を表3に示した。
【0053】
(比較例2〜6)
単量体の合計モル数は変えずに、単量体およびその仕込量を表3に示したように変更した以外は、比較例1と同様にして共重合体P〜Tを得た。得られた共重合体P〜Tの各物性を測定した結果を表3に示した。
【0054】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の半導体製造用のレジスト組成物は均一性が高く、感度および解像度の点で優れている。また、本発明の共重合体はArFエキシマレーザー(波長193nm)に対して優れた透明性を有するのでArFレジスト用樹脂として優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式骨格を有する単量体と、ラクトン骨格を有する単量体と、他のビニル系単量体とを重合して得られる共重合体であって、
上記他のビニル系単量体が、上記脂環式骨格を有する単量体よりも高い極性を持ち、かつ上記ラクトン骨格を有する単量体よりも低い極性を持つことを特徴とする共重合体(ただし、下記の共重合体を除く。
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−A−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−A−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体、および
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−C−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−C−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体。)。
【化1】

【請求項2】
脂環式骨格を有する単量体と、置換または無置換のγ−ブチロラクトン環を有する(メタ)アクリレートと、他のビニル系単量体とを重合して得られることを特徴とする共重合体(ただし、下記の共重合体を除く。
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−A−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−A−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体、および
トリシクロデカニルメタクリレートと、
式[II−C−2]で表わされる単量体と、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートと、
メタクリル酸とを重合して得られる共重合体であって、
t−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−アミルアクリレートまたはt−アミルメタクリレートに基づく繰り返し構造単位/式[II−C−2]で表わされる単量体に基づく繰返し構造単位=6/1以下の共重合体。)。
【化2】

【請求項3】
請求項1または2に記載の共重合体を含むレジスト組成物。

【公開番号】特開2010−95725(P2010−95725A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263942(P2009−263942)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【分割の表示】特願2006−107500(P2006−107500)の分割
【原出願日】平成11年3月26日(1999.3.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】