説明

内燃機関の制御装置

【課題】燃料カット時、或いは、燃料カットからの復帰時において、トルク段差によるショックの発生を抑制する。
【解決手段】燃料カットの許可条件が成立した場合には、目標トルクを最小トルクまで漸減させていく。その間、目標効率は最大効率に固定する。そして、内燃機関の出力トルクが予め設定した最小トルクまで低下した後、燃料供給を停止する。一方、燃料カットからの復帰時には、燃料カット復帰条件が成立したら燃料供給を再開し、目標トルクは最小トルクから漸増させていく。その間、目標効率は最大効率に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、詳しくは、燃料カットの前や燃料カットからの復帰時にショック軽減のためのトルク制御を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の惰力走行時には、内燃機関への燃料供給を停止する燃料カットが行われている。燃料カットを行うことで無駄な燃料消費を抑えることができる。ただし、燃料カットを行うと内燃機関はトルクを出力できなくなるため、燃料カット直前に出力されていたトルクの大きさによってはトルク段差によってショックが発生する可能性がある。特開平8−246938号公報(特許文献1)には、燃料カット時に生じるショックの軽減策が記載されている。ここに記載されたものでは、燃料供給の停止に先行して点火時期の遅角を行い、それによりトルクを低下させてから燃料供給を停止することが行われている。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、点火時期の遅角によってトルクの低下を図っているが、トルクを低下させるには吸気量を低下させることも有効である。従来、内燃機関のトルクの制御方法として、吸気量と点火時期とを協調制御する方法が知られている。例えば、特開2005−113877号公報(特許文献2)には、要求トルクに基づいてスロットル開度と点火時期とを協調制御する所謂トルクデマンド制御に関する技術が記載されている。ここに記載の技術では、ベース点火時期とMBTとの差に応じて決まる点火時期効率によって要求トルクを補正し、その効率補正された要求トルク基づいて要求スロットル開度を算出している。また、要求トルクとMBTにおける推定トルクとの比に基づいてMBTに対する点火遅角量を算出している。
【0004】
ここで、特許文献2に記載のトルクデマンド制御を燃料カット時に生じるショックの軽減に利用することが考えられる。このようなトルクデマンド制御によれば、燃料供給の停止に先行して要求トルクを低下させることで、それを実現するようにスロットル開度と点火時期とが自動的に調整される。具体的には、吸気量を減らすようにスロットル開度が閉じ方向に調整されていくと同時に、スロットル開度から計算される推定トルクと要求トルクとの差を補償するように点火時期が遅角される。これにより内燃機関のトルクを十分に低下させてから燃料供給を停止することができるようになる。
【特許文献1】特開平8−246938号公報
【特許文献2】特開2005−113877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料カット時のショックを最小まで抑えるため、燃料供給を停止する際のトルクは内燃機関の最小トルクまで下げておきたい。しかし、特許文献2に記載の技術のように点火時期効率をトルク制御に反映させるものでは、最小トルクまでトルクを下げ切れない可能性がある。特許文献2に記載の技術は、吸気量の減量によってトルクを低下させ、それで足りない分を点火時期の遅角によって補償する仕組みになっている。このため、点火時期効率をによって吸気量が嵩上げされている場合には、その嵩上げ分だけ点火遅角量を大きく採らざるを得ない。ところが、点火遅角量を大きくすると燃焼が不安定になり、最小トルクまでトルクが下がりきる以前に失火してしまう場合がある。トルクが最小トルクよりも大きい状態で失火すれば、トルク段差によってショックが発生することになる。
【0006】
また、上述の燃料カット時のトルク段差に関する課題は、燃料カットからの復帰時にも共通する課題でもある。燃料カットからの復帰時のトルク段差を小さくしてショックを抑えるためには、復帰時の出力トルクは可能なかぎり低く抑えたい。しかし、点火時期効率をによって吸気量が嵩上げされている場合には、復帰時の出力トルクを最小トルクまで抑えることはできない。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、燃料カット時、或いは、燃料カットからの復帰時において、トルク段差によるショックの発生を抑えることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、第1の発明としての内燃機関の制御装置は、
内燃機関の機能に関する要求のうちトルクで表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、
前記内燃機関の機能に関する要求のうち効率で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標効率を設定する目標効率設定手段と、
前記目標トルクと前記目標効率とに基づいて前記内燃機関の目標吸気量を設定する目標吸気量設定手段と、
前記内燃機関の吸気量を調整する吸気アクチュエータの動作量を前記目標吸気量に基づいて制御する吸気制御手段と、
現在の吸気条件のもとで点火時期を最適点火時期に設定したときに得られる推定トルクを算出する推定トルク算出手段と、
前記目標トルクと前記推定トルクとの比をトルク効率として算出するトルク効率算出手段と、
前記目標トルクの実現に必要な点火遅角量を前記トルク効率に基づいて算出する点火遅角量算出手段と、
前記点火遅角量に基づいて点火時期を制御する点火時期制御手段と、
燃料カットの許可条件の成否を判定する判定手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記目標トルクを前記内燃機関の最小トルクまで低下させる燃料カット前トルク設定手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記目標効率を最大効率に固定する目標効率固定手段と、
前記内燃機関の出力トルクが前記最小トルクまで低下した後、燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限に対応して設定されたトルク効率ガード値によって前記トルク効率をガードするトルク効率ガード手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記トルク効率ガード値を通常より低い値に変更するトルク効率ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、
前記燃料カット前トルク設定手段は、前記目標トルクを前記最小トルクまで漸減させ、
前記トルク効率ガード値変更手段は、前記目標トルクの漸減速度に応じて設定された所定の漸減速度で前記トルク効率ガード値を漸減させることを特徴としている。
【0011】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、
前記内燃機関の機能に関する要求のうち空燃比で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限に対応して設定された空燃比ガード値によって前記目標空燃比をガードする目標空燃比ガード手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記空燃比ガード値を通常より高い値に変更する空燃比ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0012】
第5の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関の空燃比に関する要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
前記トルク効率と前記目標空燃比との関係が所定の正常燃焼条件に含まれているか判定し、前記正常燃焼条件に含まれていないのであれば前記トルク効率と前記目標空燃比の少なくとも一方を補正する目標値補正手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記正常燃焼条件を緩和する正常燃焼条件変更手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0013】
また、上記の目的を達成するため、第6の発明としての内燃機関の制御装置は、
内燃機関の機能に関する要求のうちトルクで表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、
前記内燃機関の機能に関する要求のうち効率で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標効率を設定する目標効率設定手段と、
前記目標トルクと前記目標効率とに基づいて前記内燃機関の目標吸気量を設定する目標吸気量設定手段と、
前記内燃機関の吸気量を調整するアクチュエータの動作量を前記目標吸気量に基づいて制御する吸気制御手段と、
現在の吸気条件のもとで点火時期を最適点火時期に設定したときに得られる推定トルクを算出する推定トルク算出手段と、
前記目標トルクと前記推定トルクとの比をトルク効率として算出するトルク効率算出手段と、
前記目標トルクの実現に必要な点火遅角量を前記トルク効率に基づいて算出する点火遅角量算出手段と、
前記点火遅角量に基づいて点火時期を制御する点火時期制御手段と、
燃料カットからの復帰条件の成否を判定する判定手段と、
前記燃料カット復帰条件が成立した場合には、燃料供給を再開する燃料供給再開手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記目標トルクを前記内燃機関の最小トルクから漸増させていく燃料カット復帰時トルク設定手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記目標効率を最大効率に固定する目標効率固定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
第7の発明は、第6の発明において、
正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限に対応して設定されたトルク効率ガード値によって前記トルク効率をガードするトルク効率ガード手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記トルク効率ガード値を通常より低い値に変更するトルク効率ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0015】
第8の発明は、第7の発明において、
前記トルク効率ガード値変更手段は、前記目標トルクの漸増速度に応じて設定された所定の漸増速度で前記トルク効率ガード値を漸増させることを特徴としている。
【0016】
第9の発明は、第7又は第8の発明において、
前記内燃機関の機能に関する要求のうち空燃比で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限に対応して設定された空燃比ガード値によって前記目標空燃比をガードする目標空燃比ガード手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記空燃比ガード値を通常より高い値に変更する空燃比ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0017】
第10の発明は、第6の発明において、
前記内燃機関の空燃比に関する要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
前記トルク効率と前記目標空燃比との関係が所定の正常燃焼条件に含まれているか判定し、前記正常燃焼条件に含まれていないのであれば前記トルク効率と前記目標空燃比の少なくとも一方を補正する目標値補正手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記正常燃焼条件を緩和する正常燃焼条件変更手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、燃料カットの許可条件が成立した場合には目標効率が最大効率に固定されるので、目標効率による目標吸気量の嵩上げは防止される。これにより、吸気量で実現できるトルクと目標トルクとの差を補償するために必要な点火時期の遅角は最小限で済むことになって、失火の可能性は抑えられる。したがって、第1の発明によれば、内燃機関のトルクを十分に低下させてから燃料供給を停止することが可能であり、トルク段差によるショックの発生を抑えることができる。
【0019】
第2の発明によれば、燃料カット許可条件が成立した場合には、正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限を超えて点火時期を遅角することが許容されるので、内燃機関のトルクを限界まで低下させることが可能になる。また、トルク効率ガード値が下げられるのは燃料カット許可条件の成立後であるので、通常の運転時には内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【0020】
第3の発明によれば、目標トルクを最小トルクまで漸減させていく過程で目標トルクの値が発散してしまったとしても、トルク効率はトルク効率ガード値によってガードされるので点火時期の突然の大遅角によって失火が発生してしまう事態は防止される。さらに、トルク効率ガード値は所定の漸減速度で漸減されていくので、実際の内燃機関のトルクも最小トルクに向けて漸減させていくことができる。
【0021】
第4の発明によれば、燃料カット許可条件が成立した場合には、正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限を超えて空燃比を高めることが許容されるので、失火時のエミッションの悪化を抑制すべく事前に燃料供給量を少なくしておくことが可能になる。また、空燃比ガード値が上げられるのは燃料カット許可条件の成立後であるので、通常の運転時には内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【0022】
第5の発明によれば、燃料カット許可条件が成立した場合には、正常燃焼条件が緩和されてトルク効率の許容範囲が広がるので、内燃機関のトルクを限界まで低下させることが可能になる。また、正常燃焼条件が緩和されるのは燃料カット許可条件の成立後であるので、通常の運転時には内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【0023】
また、第6の発明によれば、燃料カットからの復帰時には目標効率が最大効率に固定されるので、目標効率による目標吸気量の嵩上げは防止される。これにより、吸気量を最小に絞った状態で燃料カットからの復帰を行うことができ、点火時期の遅角によるトルクダウン効果を最大にすることができる。したがって、第6の発明によれば、燃料カットからの復帰によりトルクが発生したときのトルク段差を小さくすることが可能であり、トルク段差によるショックの発生を抑えることができる。
【0024】
第7の発明によれば、燃料カットからの復帰時には、正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限を超えて点火時期を遅角することが許容されるので、内燃機関のトルクを限界まで低下させることが可能になる。また、トルク効率ガード値が下げられるのは燃料カット復帰条件が成立している間なので、通常の運転時には内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【0025】
第8の発明によれば、目標トルクを最小トルクから漸増させていく過程で目標トルクの値が発散してしまったとしても、トルク効率はトルク効率ガード値によってガードされるので点火時期の突然の大遅角によって失火が発生してしまう事態は防止される。さらに、トルク効率ガード値は所定の漸増速度で漸増されていくので、実際の内燃機関のトルクも最小トルクから漸増させていくことができる。
【0026】
第9の発明によれば、燃料カットからの復帰時には、正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限を超えて空燃比を高めることが許容されるので、失火時のエミッションの悪化を抑制すべく事前に燃料供給量を少なくしておくことが可能になる。また、空燃比ガード値が上げられるのは燃料カット復帰条件が成立している間なので、通常の運転時には内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【0027】
第10の発明によれば、燃料カットからの復帰時には、正常燃焼条件が緩和されてトルク効率の許容範囲が広がるので、内燃機関のトルクを限界まで低下させることが可能になる。また、正常燃焼条件が緩和されるのは燃料カット復帰条件が成立している間なので、通常の運転時には内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について図1乃至図3を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態1としての内燃機関の制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態の制御装置は、火花点火式の内燃機関に適用され、火花点火式内燃機関のアクチュエータであるスロットル、点火装置及び燃料供給装置の動作を制御する制御装置として構成されている。まずは、図1を参照して本実施の形態の制御装置の基本的な構成について説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態の制御装置は要求調停部2、調整部4、制御量計算部6及びアクチュエータ制御部8から構成されている。これら部分2,4,6,8間での信号の流れは基本的には一方向であり、要求調停部2からアクチュエータ制御部8へ向けて信号が伝達されるようになっている。内燃機関のアクチュエータであるスロットル、点火装置及び燃料供給装置は、最下位のアクチュエータ制御部8に接続されている。
【0031】
要求調停部2は、内燃機関の各種機能に関する要求を調停し、内燃機関の動作を制御するための目標値を設定する機能を有している。内燃機関の機能とはドライバビリティ、排気ガス、燃費等であり、それらに関する要求はトルク、効率及び空燃比の何れかの物理量で表現されている。なお、ここでいう効率とは、トルクに変換可能な熱エネルギのトルクへの変換効率に相当し、点火時期がMBTのときを基準にして設定される無次元パラメータである。触媒暖機のために熱エネルギを排気ガスの昇温に利用したい場合等には、効率の要求値は基準値の1よりも小さい値とされる。また、点火時期の進角によってトルクアップを図りたい場合にも、予めリザーブトルクを確保しておくために効率の要求値は基準値の1よりも小さい値とされる。
【0032】
要求調停部2には、トルクに関する要求を集約して1つの値に調停するトルク調停部12と、効率に関する要求を集約して1つの値に調停する効率調停部14と、空燃比に関する要求を集約して1つの値に調停する空燃比調停部16とが設けられている。トルク調停部12は、調停したトルク値を内燃機関の目標トルクとして設定する。また、効率調停部14は、調停した効率値を内燃機関の目標効率として設定する。そして、空燃比調停部16は、調停した空燃比を内燃機関の目標空燃比として設定する。なお、ここでいう調停とは、予め定められた計算規則に従って複数の数値から1つの数値を得る動作である。計算規則には例えば最大値選択、最小値選択、平均、或いは重ね合わせ等が含まれる。それら複数の計算規則を適宜に組み合わせたものとしてもよい。
【0033】
次の階層である調整部4は、要求調停部2で設定された目標トルク、目標効率及び目標空燃比の大きさを調整する。要求調停部2では内燃機関の実現可能範囲は調停に加味されていないため、各目標値の大きさの関係によっては、内燃機関を適正に運転できない可能性があるからである。調整部4は、内燃機関の適正運転が可能になるように、予め設定された優先順序に従い、優先順位の高い目標値を基準にして優先順位の低い目標値を調整する。本実施の形態では、内燃機関の運転モードとして効率優先モードと空燃比優先モードとがあり、この運転モードに応じて前述の優先順序を変更できるようになっている。
【0034】
調整部4は目標効率の上下限を制限する効率ガード部202を備えている。効率ガード部202では、効率調停部14で設定された目標効率が内燃機関の適正運転が可能な範囲に修正される。また、調整部4は目標空燃比の上下限を制限する空燃比ガード216も備えている。空燃比ガード216では、空燃比調停部16にて設定された目標空燃比が内燃機関の適正運転が可能な範囲に修正される。これら二つのガード部202,216の上下限ガード値は何れも可変であり、相互に連動して上下限ガード値が変更されるようになっている。その仕組みは次の通りである。
【0035】
効率ガード部202の上下限ガード値には、運転モードとして効率優先モードが選択されたときの上下限ガード値(効率優先時)と、空燃比優先モードが選択されたときの上下限ガード値(A/F優先時)とが用意されている。効率ガード部202の規制範囲を変更することで、目標効率の大きさの調整が可能になる。選択部208は運転モードに応じて何れか一方の上下限ガード値を選択し、選択した上下限ガード値を効率ガード部202にセットする。
【0036】
効率優先時の上下限ガード値は、正常燃焼を担保できる効率の最上限値及び最下限値であり、効率最上下限値記憶部204に記憶されている値が読み出される。一方、A/F優先時の上下限ガード値は、優先される空燃比のもとで正常燃焼を担保できる効率の上下限値であり、機関回転数、目標トルク、バルブタイミング等の運転条件をもとに効率上下限値マップ206から読み出される。効率上下限値マップ206には、空燃比ガード部216で処理された目標空燃比が入力され、この目標空燃比を基準にして上下限ガード値が決定される。
【0037】
空燃比ガード部216のガード値には、運転モードとして効率優先モードが選択されたときの上下限ガード値(効率優先時)と、空燃比優先モードが選択されたときの上下限ガード値(A/F優先時)とが用意されている。空燃比ガード部216の規制範囲を変更することで、目標空燃比の大きさの調整が可能になる。選択部222は運転モードに応じて何れか一方の上下限ガード値を選択し、選択した上下限ガード値を空燃比ガード部216にセットする。
【0038】
A/F優先時の上下限ガード値は、正常燃焼を担保できる空燃比の最上限値及び最下限値であり、空燃比最上下限値記憶部218に記憶されている値が読み出される。一方、効率優先時の上下限ガード値は、優先される効率のもとで正常燃焼を担保できる空燃比の上下限値であり、機関回転数、目標トルク、バルブタイミング等の運転条件をもとに空燃比上下限値マップ220から読み出される。空燃比上下限値マップ220には、後述するトルク効率ガード部214で処理されたトルク効率が入力され、このトルク効率を基準にして上下限ガード値が決定される。
【0039】
トルク効率は、内燃機関の推定トルクに対する目標トルクの比として定義される。調整部4には、トルク効率の算出ための要素として、推定トルク算出部210とトルク効率算出部212とを備えている。推定トルク算出部210は、現在のスロットル開度のもと点火時期を最適点火時期(MBT若しくはトレースノック点火時期)に設定した場合に出力されるトルクを内燃機関の推定トルクとして算出する。トルク効率算出部212は、トルク調停部12にて設定された目標トルクと、推定トルク算出部210で算出された推定トルクとの比をトルク効率として算出する。
【0040】
トルク効率算出部212で算出されたトルク効率は、トルク効率ガード部214にてその上下限を制限される。トルク効率ガード部214には、選択部208で選択された上下限ガード値がセットされる。つまり、このトルク効率ガード部214の規制範囲の設定は、目標効率の上下限を制限する効率ガード部202と同じ設定とされている。
【0041】
以上の処理の結果、調整部4から出力される信号は、目標トルク、修正目標効率、修正目標空燃比、そして、修正トルク効率となる。次の階層の制御量計算部6では、これらの信号に基づいて各アクチュエータの制御量であるスロットル開度、点火時期及び燃料噴射量が計算される。
【0042】
制御量計算部6は、スロットル開度の計算のための要素として目標トルク補正部30、目標吸気量設定部32及びスロットル開度設定部34を備えている。調整部4から出力される信号のうち目標トルクと修正目標効率とは、目標トルク補正部30に入力される。目標トルク補正部30は目標トルクを修正目標効率で除算して補正し、補正目標トルクを目標吸気量設定部32に出力する。修正目標効率が最大効率の1であれば、トルク調停部12で設定された目標トルクがそのまま目標吸気量設定部32に出力される。一方、修正目標効率が1よりも小さければ、修正目標効率による除算によって目標トルクは嵩上げされ、嵩上げされた補正目標トルクが目標吸気量設定部32に出力される。
【0043】
目標吸気量設定部32は、マップを用いて補正目標トルクを吸気量に変換する。このマップは、補正目標トルクを含む複数のパラメータを軸とする多次元マップであって、点火時期、機関回転数、空燃比、バルブタイミング等、トルクに影響する各種の運転条件をパラメータとして設定することができる。これらのパラメータには現在の運転状態情報から得られる値が入力される。ただし、点火時期は最適点火時期とされている。目標吸気量設定部32は、補正目標トルクから変換された吸気量を内燃機関の目標吸気量として設定し、それをスロットル開度設定部34に出力する。
【0044】
スロットル開度設定部34は、吸気系エアモデルの逆モデルを用いて目標吸気量をスロットル開度に変換する。すなわち、目標吸気量を実現可能なスロットル開度を計算する。逆モデルでは、エアフローメータの出力値、バルブタイミング、吸入空気温度等、スロットル開度に影響する運転条件をパラメータして設定することができる。これらのパラメータには現在の運転状態情報から得られる値が入力される。スロットル開度設定部34は、目標吸気量から変換されたスロットル開度を目標スロットル開度として出力する。
【0045】
また、制御量計算部6は、点火時期の計算のための要素として点火遅角量算出部36と点火時期設定部38とを備えている。調整部4から出力される信号のうち修正トルク効率が点火遅角量算出部36に入力される。点火遅角量算出部36は修正トルク効率から最適点火時期に対する遅角量を計算する。遅角量の計算にはマップが用いられる。このマップは、修正トルク効率を含む複数のパラメータを軸とする多次元マップであって、機関回転数等、点火時期の決定に影響する各種の運転条件をパラメータとして設定することができる。これらのパラメータには現在の運転状態情報から得られる値が入力される。このマップでは、トルク効率が小さいほど点火遅角量は大きい値に設定されるようになっている。
【0046】
点火時期設定部38は、点火遅角量算出部36で計算された点火遅角量を最適点火時期に加算し、その計算結果を最終的な点火時期として設定する。最適点火時期は内燃機関の運転状態に基づいて計算する。
【0047】
また、制御量計算部6は、燃料噴射量の計算のための要素として燃料噴射量設定部40を備えている。燃料噴射量設定部40には修正目標空燃比が入力される。燃料噴射量設定部40は、修正目標空燃比と吸気量とから燃料噴射量を計算する。
【0048】
アクチュエータ制御部8には、スロットル制御部50、点火時期制御部52及び燃料供給制御部54が設けられている。スロットル制御部50は、スロットル開度設定部34で設定されたスロットル開度を実現するようにスロットルを制御する。また、点火時期制御部52は、点火時期設定部38で設定された点火時期を実現するように点火装置を制御する。そして、燃料供給制御部54は、燃料噴射量設定部40で設定された燃料噴射量を実現するように燃料供給装置を制御する。
【0049】
以上が本実施の形態の制御装置の基本的な構成に関する説明である。上述のような構成を有することで、本実施の形態の制御装置によれば、内燃機関の機能に関する各種要求を正常燃焼が担保できる範囲内で実現することができる。効率で表現された要求についても例外ではなく、それらの調停により設定される目標効率に基づきスロットル制御が行われ、また、目標効率が反映されるトルク効率に基づき点火時期制御が行われることで、それら要求の実現が図られるようになっている。
【0050】
しかし、各種の要求から目標効率が1よりも小さく設定されている場合、最大効率である1のときに比較して吸気量は嵩上げされることになる。この吸気量の嵩上げは効率の低下に伴うトルクダウンを補償するためには重要ではあるが、燃料カット時や燃料カットからの復帰時には不利に作用する。燃料カット時や燃料カットからの復帰時にはトルクを最小トルクまで下げたいが、吸気量が嵩上げされていると最小トルクまで下げ切ることができない場合がある。
【0051】
また、上述の構成では、吸気量の減量のみで最小トルクまで下げ切れなかったとしても、その不足分を補償するように自動的に点火時期の遅角が行われる。しかし、点火遅角量が大きくなるとトルク効率ガード部214によるガードが働き、点火遅角量は正常燃焼が担保される範囲で制限されることになる。つまり、正常燃焼を担保するための機能も燃料カット時や燃料カットからの復帰時には不利に作用する場合がある。
【0052】
そこで、本実施の形態の制御装置では、制御装置を構成する一部の要素に燃料カット時や燃料カットからの復帰時に対応するための機能が具備されている。そして、それらの機能を用いて燃料カット時のショックを抑えるための制御(以下、FC前制御)と、燃料カットからの復帰時のショックを抑えるための制御(以下、FC復帰制御)とを行っている。以下、本実施の形態の制御装置によって実行されるFC前制御とFC復帰制御とについて順に説明する。
【0053】
図2はFC前制御及びFC復帰制御を実現するための構成を示すブロック図である。本実施の形態の制御装置では、FC前制御及びFC復帰制御の実行の可否判断はフラグセット部18で行われる。フラグセット部18は、各可否判断の結果をフラグのオン/オフで表して発信する。FC前制御の実行の可否はFC前制御実行フラグのオン/オフで表現される。FC復帰制御の実行の可否はFC復帰制御実行フラグのオン/オフで表現される。
【0054】
フラグセット部18は、FC前制御の実行の可否を所定の燃料カット許可条件の成否によって判断する。燃料カット許可条件とは、例えば、運転者からの要求を含む軸トルク要求がゼロであること、且つ、現在の機関回転数が所定回転数よりも大きいことである。フラグセット部18は、燃料カット許可条件が成立した場合にはFC前制御実行フラグをオフからオンに切り替える。
【0055】
FC前制御実行フラグのオン/オフは、トルク調停部12による目標トルクの設定と燃料供給制御部54による燃料供給制御とに反映される。トルク調停部12は、FC前制御実行フラグがオンになったときには、機関回転数等の運転条件から決まる内燃機関の最小トルクまで目標トルクを漸減させていく。燃料供給制御部54は、FC前制御実行フラグがオンの状態で内燃機関の出力トルクが内燃機関の最小トルクまで低下したら燃料供給を停止する。
【0056】
また、FC前制御実行フラグのオン/オフは、効率ガード部202の上下限ガード値の設定に反映される。効率ガード部202の上下限ガード値には、上述の運転モードに応じた上下限ガード値とは別に、FC前制御実行フラグがオンのときに設定される上下限ガード値が用意されている。FC前制御実行フラグがオンのときには、上限ガード値は最大値の1に設定され、下限ガード値も最大値の1に設定される。つまり、FC前制御が実行されるときには目標効率は最大値の1に固定されるようになっている。
【0057】
FC前制御実行フラグのオン/オフは、トルク効率ガード部214の上下限ガード値の設定にも反映される。トルク効率ガード部214の上下限ガード値には、上述の運転モードに応じた上下限ガード値とは別に、FC前制御実行フラグがオンのときに設定される上下限ガード値が用意されている。FC前制御実行フラグがオンのときに設定される上限ガード値は、効率優先モードで設定される最上限値に等しい。しかし、FC前制御実行フラグがオンのときに設定される下限ガード値は、効率優先モードで設定される最下限値よりも低い値(定数1)に設定されている。つまり、FC前制御が実行されるときにはトルク効率の失火側の制限が緩和されるようになっている。
【0058】
次に、FC復帰制御の内容について説明する。フラグセット部18は、FC復帰制御の実行の可否を所定の燃料カット復帰条件の成否によって判断する。燃料カット復帰条件とは、例えば、運転者からの要求を含む軸トルク要求が発生したこと、或いは、ロックアップが解除されたことである。フラグセット部18は、燃料カット復帰条件が成立した場合にはFC復帰制御実行フラグをオフからオンに切り替える。
【0059】
FC復帰制御実行フラグのオン/オフは、燃料供給制御部54による燃料供給制御とトルク調停部12による目標トルクの設定とに反映される。燃料供給制御部54は、FC復帰制御実行フラグがオンになったら燃料供給を再開する。トルク調停部12は、FC復帰制御実行フラグがオンになったときには、機関回転数から決まる内燃機関の最小トルクから目標トルクを漸増させていく。漸増する目標トルクはやがて軸トルク要求値に達する。その時点で、FC復帰制御実行フラグはフラグセット部18によってオンからオフに切り替えられる。
【0060】
また、FC復帰制御実行フラグのオン/オフは、効率ガード部202の上下限ガード値の設定に反映される。FC復帰制御実行フラグがオンのときの上下限ガード値は、FC前制御実行フラグがオンのときと同じ設定とされる。すなわち、上限ガード値は最大値の1に設定され、下限ガード値も最大値の1に設定される。つまり、FC復帰制御が実行されるときにも目標効率は最大値の1に固定されるようになっている。
【0061】
FC復帰制御実行フラグのオン/オフは、トルク効率ガード部214の上下限ガード値の設定にも反映される。FC復帰制御実行フラグがオンのときの上下限ガード値は、FC前制御実行フラグがオンのときと同じ設定とされる。すなわち、上限ガード値は効率優先モードで設定される最上限値に等しく設定され、下限ガード値は効率優先モードで設定される最下限値よりも低い定数1に設定される。つまり、FC復帰制御が実行されるときにもトルク効率の失火側の制限が緩和されるようになっている。
【0062】
上述のように、本実施の形態の制御装置によって実行されるFC前制御及びFC復帰制御は、効率ガード部202及びトルク効率ガード部214の各上下限ガード値の設定を変更することに特徴がある。各上下限ガード値の設定変更の判定手順をフローチャートで示すと図3に示すようになる。ステップS2で判定される燃料カット許可条件と、ステップS4で判定される燃料カット復帰条件の何れか一方が成立したならば、効率ガード部202の上下限ガード値が変更され(ステップS6)、トルク効率ガード部214の上下限ガード値も変更される(ステップS8)。
【0063】
FC前制御及びFC復帰制御において効率ガード部202及びトルク効率ガード部214の各上下限ガード値の設定を変更することには次のような効果がある。まず、FC前制御に関して言えば、効率ガード部202の上下限ガード値を最大値の1に設定することで目標効率を最大効率の1に固定することができる。これにより、目標効率による目標吸気量の嵩上げは防止されるので、吸気量で実現できるトルクと目標トルクとの差を補償するために必要な点火時期の遅角は最小限で済むことになる。また、トルク効率ガード部202の下限ガード値を最下限値よりも低い値に設定することで、正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限を超えて点火時期を遅角することが許容される。これらの効果により、本実施の形態の制御装置によれば、内燃機関のトルクを最小トルクまで低下させてから燃料供給を停止することが可能であり、トルク段差によるショックの発生を抑えることができる。
【0064】
FC復帰制御に関して言えば、効率ガード部202の上下限ガード値を最大値の1に設定することで目標効率を最大効率の1に固定することができる。これにより、目標効率による目標吸気量の嵩上げは防止されるので、吸気量を最小に絞った状態で燃料カットからの復帰を行うことができ、点火時期の遅角によるトルクダウン効果を最大にすることができる。また、トルク効率ガード部202の下限ガード値を最下限値よりも低い値に設定することで、正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限を超えて点火時期を遅角することが許容される。これらの効果により、本実施の形態の制御装置によれば、燃料カットからの復帰によりトルクが発生したときのトルク段差を小さくすることが可能であり、トルク段差によるショックの発生を抑えることができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態1としての内燃機関の制御装置について説明した。実施の形態1と本発明との対応関係は次の通りである。
【0066】
図1に示す構成において、トルク調停部12は第1及び第6の発明の「目標トルク設定手段」に相当する。効率調停部14は第1及び第6の発明の「目標効率設定手段」に相当する。また、目標トルク補正部30及び目標吸気量設定部32により第1及び第6の発明の「目標吸気量設定手段」が構成されている。スロットル開度設定部34及びスロットル制御部50によって第1及び第6の発明の「吸気制御手段」が構成されている。推定トルク算出部210は第1及び第6の発明の「推定トルク算出手段」に相当する。トルク効率算出部212は第1及び第6の発明の「トルク効率算出手段」に相当する。点火遅角量算出部36は第1及び第6の発明の「点火遅角量算出手段」に相当する。また、点火時期設定部38と点火時期制御部52とにより第1及び第6の発明の「点火時期制御手段」が構成されている。また、トルク効率ガード部214及び効率上下限値マップ206により第5及び第10の発明の「目標値補正手段」が構成されている。
【0067】
図2に示す構成において、フラグセット部18は第1及び第6の発明の「判定手段」に相当する。トルク調停部12は第1の発明の「燃料カット前トルク設定手段」と第6の発明の「燃料カット復帰時トルク設定手段」とに相当する。効率ガード部202は第1及び第6の発明の「目標効率固定手段」に相当する。燃料供給制御部54は第1の発明の「燃料供給停止手段」と第6の発明の「燃料供給再開手段」とに相当する。トルク効率ガード部214は第2及び第7の発明の「トルク効率ガード手段」並びに第2及び第7の発明の「トルク効率ガード値変更手段」に相当する。また、トルク効率ガード部214は第5及び第10の発明の「正常燃焼条件変更手段」にも相当する。
【0068】
実施の形態2.
次に、図1,図2,図4乃至図6の各図を参照して本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態の制御装置は、実施の形態1のものと同構成の制御回路を備えている。したがって、以下の説明では、実施の形態1と同じく図1及び図2に示す構成を前提にして説明を行うものとする。
【0069】
本実施の形態の制御装置の特徴の1つはトルク調停部12の構成である。図4はトルク調停部12の構成を示すブロック図である。本実施の形態では、トルク調停部12は重ね合わせ要素102と最小値選択要素104とから構成されている。また、本実施の形態においてトルク調停部12によって集約されるトルク要求は、運転者からの要求を含む軸トルク要求、補機負荷損失分、FC前トルク要求及びFC復帰時トルク要求である。トルク調停部12で集約された要求値のうち、軸トルク要求と補機負荷損失分と重ね合せ要素102にて重ね合わされる。重ね合わせ要素102の出力値は、内燃機関のトルクを消費する各消費要素から内燃機関に対して要求される出力トルクの合計値に相当する。重ね合わせ要素102の出力値は、FC前トルク要求及びFC復帰時トルク要求とともに最小値選択要素104に入力され、それらの中の最小値が選択される。そして、選択された値が最終的なトルク要求値、すなわち、内燃機関の目標トルクとしてトルク調停部12から出力される。
【0070】
本実施の形態の制御装置では、FC前制御実行フラグのオン/オフがFC前トルク要求の設定に反映されるようになっている。FC前制御実行フラグがオフのときには、FC前トルク要求の値は最大値に固定される。この最大値は内燃機関が実現可能なトルク範囲を超える値になっている。このような値を要求値として出力した場合、トルク調停部12の最小値選択要素104では、必ず重ね合わせ要素102の出力値が選択されるようになる。したがって、FC前制御実行フラグがオフのときには、軸トルク要求値と補機負荷損失分との合算値が目標トルクとして出力される。
【0071】
一方、FC前制御実行フラグがオンのときには、FC前トルク要求の値は次の式1によって算出される値となる。式1中の最小トルクとは内燃機関が出力可能な最小トルクであって、機関回転数の関数で表される。また、式1中の前回トルク要求値とは、前回のトルク調停によって得られたトルク要求値、すなわち、前回の目標トルクである。なお、内燃機関の制御装置は一定の周期で計算を繰り返しており、目標トルクの計算もその周期で行われている。式1中のenは定数であって、その値は適合によって決定されている。
FC前トルク要求値=(最小トルク−前回トルク要求値)/en+前回トルク要求値 ・・・式1
【0072】
式1で計算されるFC前トルク要求値は、重ね合わせ要素102の出力値、すなわち、軸トルク要求値と補機負荷損失分とを合算したトルク要求値よりも小さい。したがって、FC前制御実行フラグがオンのときには、トルク調停部12の最小値選択要素104ではFC前トルク要求値が選択される。つまり、FC前制御実行フラグがオンのときには、式1で計算されるFC前トルク要求値が目標トルクとして出力される。
【0073】
また、本実施の形態の制御装置は、FC前制御実行フラグがオンのときに設定されるトルク効率ガード部214の下限ガード値にも特徴がある。トルク効率ガード部214の下限ガード値は次の式2によって算出される値に設定される。式2中の時間とはFC前制御が開始されてからの経過時間である。また、式2中の定数2は負の値であり、式1で計算されるFC前トルク要求値の変化速度に合うように適合によって決定されている。
下限ガード値=定数2×時間+効率優先モードでの最下限値 ・・・式2
【0074】
なお、FC前制御実行フラグがオンのときに設定されるトルク効率ガード部214の上限ガード値は、実施の形態1の場合と同じく効率優先モードでの最上限値である。また、FC前制御実行フラグがオンのときに設定される効率ガード部202の上下限ガード値は、実施の形態1の場合と同じく最大値の1である。
【0075】
図5は、FC前制御の実行結果の一例を示す図である。上段のチャートは、FC前トルク要求値の時間変化(図中の破線)と、軸トルク要求値の時間変化(図中の二点鎖線)と、それらの調停結果である目標トルクの時間変化(図中の実線)とを示している。なお、ここでは補機負荷損失分は無視している。下段のチャートは、トルク効率ガード部214の下限ガード値の時間変化を示している。各チャートの時間軸は一致している。
【0076】
図5の各チャートは、運転者によりアクセルが戻されていった場合に実行されるFC前制御の結果を示したものである。この場合、アクセルが戻されるに応じて内燃機関の軸トルクの要求値も低下していき、やがて軸トルク要求値はゼロになる。軸トルク要求値がゼロになるまでの間はFC前制御実行フラグはオフであることから、その間のFC前トルク要求値は最大値に固定される。そして、調停の結果、軸トルク要求値が目標トルクとして出力される。
【0077】
軸トルク要求値がゼロになると、その時点(時点t1)においてFC前制御実行フラグはオンになる。FC前制御実行フラグのオンにより、FC前トルク要求値は上記の式1で計算されることになる。アクセルが完全に戻された後は、軸トルク要求値はゼロに固定される。式1で計算されるFC前トルク要求値は軸トルク要求値よりも小さい値になることから、調停の結果、FC前トルク要求値が目標トルクとして出力される。式1によれば、FC前トルク要求値は、時点t1での軸トルク要求値(すなわち、ゼロ)から最小トルクまで漸減させられていく。これにより、目標トルクも最小トルクまで漸減していく。
【0078】
また、FC前制御実行フラグがオンになると、トルク効率ガード部214の下限ガード値は上記の式2で計算されることになる。式2によれば、トルク効率ガード部214の下限ガード値は、目標トルクの漸減速度に応じた漸減速度で下げられていく。このように、目標トルクの低下に応じてトルク効率ガード部214の下限ガード値も低下させることで、正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限を超えて点火時期を遅角することが許容されることになり、内燃機関のトルクを限界まで低下させることが可能になる。そして、目標トルクに追従して内燃機関のトルクが最小トルクまで低下した時点(時点t2)で、燃料カットが実行される。
【0079】
FC前制御においてトルク効率ガード部214の下限ガード値を上述のように設定することには次のような効果がある。本実施の形態ではFC前トルク要求値によってFC前の目標トルクを規定する構成になっているが、FC前トルク要求値がRAM化けなどで発散してしまうことがありうる。その影響はトルク効率の算出値にも及ぶが、トルク効率はトルク効率ガード部214によってガードされるので点火時期の突然の大遅角によって失火が発生してしまう事態は防止される。さらに、トルク効率ガード部214の下限ガード値は本来の目標トルクの漸減速度に応じた所定の漸減速度で漸減されていくので、実際の内燃機関のトルクも最小トルクに向けて漸減させていくことができる。
【0080】
次に、本実施の形態の制御装置によって実行されるFC復帰制御の詳細について説明する。本実施の形態の制御装置では、FC復帰制御実行フラグのオン/オフがFC復帰時トルク要求の設定に反映されるようになっている。FC復帰制御実行フラグがオフのときには、FC復帰時トルク要求の値は最大値に固定される。この最大値は内燃機関が実現可能なトルク範囲を超える値になっている。このような値を要求値として出力した場合、トルク調停部12の最小値選択要素104では、必ず重ね合わせ要素102の出力値が選択されるようになる。したがって、FC復帰制御実行フラグがオフのときには、軸トルク要求値と補機負荷損失分との合算値が目標トルクとして出力される。
【0081】
FC復帰制御実行フラグがオンのときには、FC復帰時トルク要求部の値は次の式3或いは式4によって算出される値となる。式3は、FC復帰制御実行フラグがオンになった直後、つまり、初回に設定するFC復帰時トルク要求値の計算式である。式3中の所定トルクとは、運転者からの要求を含む軸トルク要求値に補機負荷損失分を加算したトルクである。すなわち、トルク調停部12の重ね合わせ要素102の出力値である。βは係数であって、所定トルクにβを掛けた値がエンジンの最小トルク付近になるような値(具体的には0に近い値、例えば0.1)に設定されている。
FC復帰時トルク要求値=所定トルク×β ・・・式3
【0082】
初回以外のFC復帰時トルク要求値の計算には次の式4が使用される。式4中の前回トルク要求値とは、前回のトルク調停によって得られたトルク要求値、すなわち、前回の目標トルクである。式4中のenは定数であって、その値は適合によって決定されている。所定トルクは、式4の場合と同じくトルク調停部12の重ね合わせ要素102の出力値であり、その値は毎回更新される。
FC復帰時トルク要求値=(所定トルク−前回トルク要求値)/en+前回トルク要求値 ・・・式4
【0083】
式3或いは式4で計算されるFC復帰時トルク要求値は、重ね合わせ要素102の出力値、すなわち、軸トルク要求値と補機負荷損失分とを合算したトルク要求値よりも小さい。したがって、FC復帰制御実行フラグがオンのときには、トルク調停部12の最小値選択要素104ではFC復帰時トルク要求値が選択される。つまり、FC復帰制御実行フラグがオンのときには、式3或いは式4で計算されるFC復帰時トルク要求値が目標トルクとして出力される。
【0084】
また、本実施の形態の制御装置は、FC復帰制御実行フラグがオンのときに設定されるトルク効率ガード部214の下限ガード値にも特徴がある。トルク効率ガード部214の下限ガード値は次の式5によって算出される値に設定される。式5中の時間とはFC復帰時制御が開始されてからの経過時間である。また、式5中の定数3は正の値であり、式4で計算されるFC前トルク要求値の変化速度に合うように適合によって決定されている。
下限ガード値=定数3×時間+定数1 ・・・式5
【0085】
なお、FC復帰制御実行フラグがオンのときに設定されるトルク効率ガード部214の上限ガード値は、実施の形態1の場合と同じく効率優先モードでの最上限値である。また、FC復帰制御実行フラグがオンのときに設定される効率ガード部202の上下限ガード値は、実施の形態1の場合と同じく最大値の1である。
【0086】
図6は、FC復帰制御の実行結果の一例を示す図である。上段のチャートは、FC復帰時トルク要求値の時間変化(図中の破線)と、軸トルク要求値の時間変化(図中の二点鎖線)と、それらの調停結果である目標トルクの時間変化(図中の実線)とを示している。なお、ここでは補機負荷損失分は無視している。下段のチャートは、トルク効率ガード部214の下限ガード値の時間変化を示している。各チャートの時間軸は一致している。
【0087】
図6のチャートは、運転者によりアクセルが踏まれた場合に実行されるFC復帰制御の結果を示したものである。アクセルが踏まれて軸トルク要求値がゼロから上昇すると、その時点(時点t3)においてFC復帰制御実行フラグはオンになり、燃料供給が再開される。FC復帰制御実行フラグのオン後、最初の計算ではFC復帰時トルク要求値は上記の式3で計算され、次回以降の計算ではFC復帰時トルク要求値は上記の式4で計算される。式3或いは式4で計算されるFC復帰時トルク要求値は軸トルク要求値よりも小さい値になることから、調停の結果、FC復帰時トルク要求値が目標トルクとして出力される。
【0088】
式3,式4によれば、燃料カットからの復帰直後におけるFC復帰時トルク要求値は、内燃機関が出力できる最小トルク付近の値に設定される。そして、式4によれば、FC復帰時トルク要求値は、時点t3での最小トルク付近での初期値から漸増させられていく。これにより、目標トルクも最小トルクから漸増していく。そして、FC復帰時トルク要求値が軸トルク要求値に達した時点(時点t4)でFC復帰制御実行フラグはオフにされ、FC復帰制御は終了する。
【0089】
また、FC復帰制御実行フラグがオンになると、トルク効率ガード部214の下限ガード値は上記の式5で計算されることになる。式5によれば、トルク効率ガード部214の下限ガード値は、目標トルクの漸増速度に応じた漸増速度で上げられていく。このような下限ガード値の設定によれば、万が一、FC前トルク要求値がRAM化けなどで発散してしまったとしても、トルク効率はトルク効率ガード部214よってガードされるので点火時期の突然の大遅角によって失火が発生してしまう事態は防止される。さらに、トルク効率ガード部214の下限ガード値は本来の目標トルクの漸増速度に応じた所定の漸増速度で漸増されていくので、実際の内燃機関のトルクも最小トルクから漸増させていくことができる。
【0090】
以上、本発明の実施の形態2としての内燃機関の制御装置について説明した。実施の形態2にかかるトルク調停部12は第3の発明の「燃料カット前トルク設定手段」に相当する。また、トルク効率ガード部214は第3及び第8の発明の「トルク効率ガード値変更手段」に相当する。実施の形態2と本発明とのその他の対応関係に関しては、実施の形態1と本発明との対応関係に共通している
【0091】
実施の形態3.
次に、図1,図7及び図8の各図を参照して本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態の制御装置は、実施の形態1のものと基本的な構成が共通する制御回路を備えている。相違があるのはFC前制御及びFC復帰制御を実現するための構成であり、図1に示す基本的な構成には相違は無い。以下の説明では、基本的な構成については実施の形態1と同じく図1に示す構成を前提にする。そして、FC前制御及びFC復帰制御を実現するための構成については図7を用いて説明する。
【0092】
図7に示すように、本実施の形態の制御装置は、FC前制御実行フラグのオン/オフと、FC復帰制御実行フラグのオン/オフとが空燃比ガード部216の上下限ガード値の設定にも反映される点に特徴がある。それらのフラグ信号が効率ガード部202、トルク効率ガード部214、トルク調停部12及び燃料供給制御部54に供給される点については実施の形態2に共通している。以下では、本実施の形態の特徴である空燃比ガード部216の上下限ガード値の設定について説明する。
【0093】
空燃比ガード部216には、上述の運転モードに応じた上下限ガード値とは別に、FC前制御実行フラグがオンのとき、及び、FC復帰制御実行フラグがオンのときに設定される上下限ガード値が用意されている。まず、空燃比ガード部216の下限ガード値に関して言えば、これは効率優先モードで設定される下限ガード値、すなわち、優先される効率のもとで正常燃焼を担保できる空燃比の下限値とされている。
【0094】
一方、FC前制御実行フラグがオンのとき、及び、FC復帰制御実行フラグがオンのときの空燃比ガード部216の上限ガード値は、トルク効率ガード部214によるガード処理後のトルク効率値に応じて設定される。ガード処理後のトルク効率値が正常燃焼を担保できる効率の最下限値(図1の効率最上下限値記憶部204に記憶されている値)以下であるならば、効率優先モードでの上限ガード値(優先される効率のもとで正常燃焼を担保できる空燃比の上限値)にある係数を掛けた値がここでの上限ガード値として設定される。その係数は1以上の値であって、ガード処理後のトルク効率値をパラメータとするマップから算出される。つまり、FC前制御及びFC復帰制御が実行されるときには、空燃比のリーン側の制限が緩和されるようになっている。ガード処理後のトルク効率値が前記の最下限値よりも大きいときには、効率優先モードでの上限ガード値がここでの上限ガード値として設定される。
【0095】
上述のように、本実施の形態の制御装置によって実行されるFC前制御及びFC復帰制御は、効率ガード部202及びトルク効率ガード部214の各上下限ガード値の設定を変更するとともに、空燃比ガード部216の上下限ガード値も変更することに特徴がある。各上下限ガード値の設定変更の判定手順をフローチャートで示すと図8に示すようになる。ステップS2で判定される燃料カット許可条件と、ステップS4で判定される燃料カット復帰条件の何れか一方が成立したならば、効率ガード部202の上下限ガード値が変更され(ステップS6)、トルク効率ガード部214の上下限ガード値も変更され(ステップS8)、さらに、空燃比ガード部216の上下限ガード値も変更される(ステップS10)。
【0096】
本実施の形態でも、FC前やFCからの復帰時にはトルク効率ガード部214の下限ガード値が下げられる。この処理は目標トルクを最小トルクまで下げるためには必要な処理ではあるものの、緩慢燃焼によって全ての燃料が燃えきらなかったり、部分気筒失火が起こったりしてしまう。その結果として、HC等の排出量が増加してエミッションが悪化してしまう。
しかし、本実施の形態によれば、同時に、効率優先モードでの上限ガード値に係数を掛けた値が空燃比の上限ガード値として設定されるので、正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限超えて空燃比をリーン化することが許容されるようになる。これにより、失火時のエミッションの悪化を抑制すべく事前に燃料供給量を少なくしておくことが可能になる。また、空燃比の上限ガード値がリーン側に緩和されるのは、燃料カット許可条件の成立中と燃料カット復帰条件の成立中だけであるので、通常の運転時おける内燃機関の正常燃焼を担保することができる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態3としての内燃機関の制御装置について説明した。実施の形態3にかかるトルク調停部12は第4及び第9の発明の「目標空燃比設定手段」に相当する。また、空燃比ガード部216及び空燃比上下限値マップ220により第5及び第10の発明の「目標値補正手段」が構成されている。空燃比ガード部216は第4及び第9の発明の「目標空燃比ガード手段」及び「空燃比ガード値変更手段」に相当する。また、空燃比ガード部216は第5及び第10の発明の「正常燃焼条件変更手段」にも相当する。実施の形態3と本発明とのその他の対応関係に関しては、実施の形態1或いは2と本発明との対応関係に共通している。
【0098】
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施の形態では、効率ガード部202の上下限ガード値をともに1とすることで目標効率を最大効率に固定しているが、燃料カット前や燃料カットからの復帰時には効率調停部14による調停の結果として最大効率の1が出力されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施の形態1としての内燃機関の制御装置の基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかるFC前制御及びFC復帰制御を実現するための構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1で実行される各上下限ガード値の設定変更の判定手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2にかかるトルク調停部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2にかかるFC前制御を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかるFC復帰制御を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態3にかかるFC前制御及びFC復帰制御を実現するための構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態3で実行される各上下限ガード値の設定変更の判定手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0100】
12 トルク調停部
14 効率調停部
16 空燃比調停部
18 フラグセット部
30 目標トルク補正部
32 目標吸気量設定部
34 スロットル開度設定部
36 点火遅角量算出部
38 点火時期設定部
40 噴射量設定部
50 スロットル制御部
52 点火時期制御部
54 燃料供給制御部
202 効率ガード部
204 効率最上下限値記憶部
206 効率上下限値マップ
208 選択部
210 推定トルク算出部
212 トルク効率算出部
214 トルク効率ガード部
216 空燃比ガード部
218 空燃比最上下限値記憶部
220 空燃比上下限値マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の機能に関する要求のうちトルクで表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、
前記内燃機関の機能に関する要求のうち効率で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標効率を設定する目標効率設定手段と、
前記目標トルクと前記目標効率とに基づいて前記内燃機関の目標吸気量を設定する目標吸気量設定手段と、
前記内燃機関の吸気量を調整するアクチュエータの動作量を前記目標吸気量に基づいて制御する吸気制御手段と、
現在の吸気条件のもとで点火時期を最適点火時期に設定したときに得られる推定トルクを算出する推定トルク算出手段と、
前記目標トルクと前記推定トルクとの比をトルク効率として算出するトルク効率算出手段と、
前記目標トルクの実現に必要な点火遅角量を前記トルク効率に基づいて算出する点火遅角量算出手段と、
前記点火遅角量に基づいて点火時期を制御する点火時期制御手段と、
燃料カットの許可条件の成否を判定する判定手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記目標トルクを最小トルクまで低下させる燃料カット前トルク設定手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記目標効率を最大効率に固定する目標効率固定手段と、
前記内燃機関の出力トルクが前記最小トルクまで低下した後、燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限に対応して設定されたトルク効率ガード値によって前記トルク効率をガードするトルク効率ガード手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記トルク効率ガード値を通常より低い値に変更するトルク効率ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料カット前トルク設定手段は、前記目標トルクを前記最小トルクまで漸減させ、
前記トルク効率ガード値変更手段は、前記目標トルクの漸減速度に応じて設定された所定の漸減速度で前記トルク効率ガード値を漸減させることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の機能に関する要求のうち空燃比で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限に対応して設定された空燃比ガード値によって前記目標空燃比をガードする目標空燃比ガード手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記空燃比ガード値を通常より高い値に変更する空燃比ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2又は3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の空燃比に関する要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
前記トルク効率と前記目標空燃比との関係が所定の正常燃焼条件に含まれているか判定し、前記正常燃焼条件に含まれていないのであれば前記トルク効率と前記目標空燃比の少なくとも一方を補正する目標値補正手段と、
前記燃料カット許可条件が成立した場合には前記正常燃焼条件を緩和する正常燃焼条件変更手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
内燃機関の機能に関する要求のうちトルクで表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、
前記内燃機関の機能に関する要求のうち効率で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標効率を設定する目標効率設定手段と、
前記目標トルクと前記目標効率とに基づいて前記内燃機関の目標吸気量を設定する目標吸気量設定手段と、
前記内燃機関の吸気量を調整するアクチュエータの動作量を前記目標吸気量に基づいて制御する吸気制御手段と、
現在の吸気条件のもとで点火時期を最適点火時期に設定したときに得られる推定トルクを算出する推定トルク算出手段と、
前記目標トルクと前記推定トルクとの比をトルク効率として算出するトルク効率算出手段と、
前記目標トルクの実現に必要な点火遅角量を前記トルク効率に基づいて算出する点火遅角量算出手段と、
前記点火遅角量に基づいて点火時期を制御する点火時期制御手段と、
燃料カットからの復帰条件の成否を判定する判定手段と、
前記燃料カット復帰条件が成立した場合には、燃料供給を再開する燃料供給再開手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記目標トルクを最小トルクから漸増させていく燃料カット復帰時トルク設定手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記目標効率を最大効率に固定する目標効率固定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
正常燃焼が担保される点火時期範囲の下限に対応して設定されたトルク効率ガード値によって前記トルク効率をガードするトルク効率ガード手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記トルク効率ガード値を通常より低い値に変更するトルク効率ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記トルク効率ガード値変更手段は、前記目標トルクの漸増速度に応じて設定された所定の漸増速度で前記トルク効率ガード値を漸増させることを特徴とする請求項7記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記内燃機関の機能に関する要求のうち空燃比で表現された要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
正常燃焼が担保される空燃比範囲の上限に対応して設定された空燃比ガード値によって前記目標空燃比をガードする目標空燃比ガード手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記空燃比ガード値を通常より高い値に変更する空燃比ガード値変更手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項7又は8記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記内燃機関の空燃比に関する要求に基づいて前記内燃機関の目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
前記トルク効率と前記目標空燃比との関係が所定の正常燃焼条件に含まれているか判定し、前記正常燃焼条件に含まれていないのであれば前記トルク効率と前記目標空燃比の少なくとも一方を補正する目標値補正手段と、
前記燃料カット復帰条件の成立中は前記正常燃焼条件を緩和する正常燃焼条件変更手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項6記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−299667(P2009−299667A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158296(P2008−158296)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】