説明

内燃機関の制御装置

【課題】車両の挙動の乱れを招くことなく、円滑に制動を行うことのできる好適なブレーキオーバーライドシステムを実現する。
【解決手段】アクセルペダル及びブレーキペダルの両方が同時に踏み込まれたことを検出した場合に、気筒で反復的に行われている燃焼の回数を間引く制御を実行する。燃焼を間引く回数は、エンジン回転数が高いほど、またはアクセルペダルの踏込量が大きいほど、増やすものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキオーバーライドシステムを実現する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転者が心理的に切迫し、ブレーキペダルを踏みながら意図せずアクセルペダルをも踏み込んでいる場合、あるいは、アクセルペダルがフロアマットに引っ掛かり戻らなくなってしまった場合等に、安全確保のため、アクセルよりもブレーキを優先させるべくエンジン出力を強制的に抑える、いわゆるブレーキオーバーライドシステムが知られている(例えば、下記特許文献を参照)。
【0003】
かかる場合において、エンジン出力を抑えるための手法としては、
(1)燃料供給を完全に遮断する
(2)燃料噴射量を減量補正する
(3)点火時期を遅角補正する
(4)アクセルペダルの踏込量とは無関係に吸気量を絞る
等が考えられる。
【0004】
しかしながら、上記の手法にはそれぞれ問題がある。まず、(1)では、エンジン出力の急激な低下を招いて車両の挙動が乱れるおそれがある。特に、エンジンストールに至ると、ブレーキブースタやパワーステアリングが機能しなくなる。
【0005】
(2)では、失火に至らないリーン限界までしか燃料を減量することはできないので、ブレーキを効かせるのに必要十分な程度までエンジン出力を落とせないケースがあり得る。
【0006】
(3)では、点火時期の遅角量が大きすぎると、排気ガスに未燃燃料が混入し、排気温も高くなるために排気ガス浄化用の触媒が破損するおそれがある。
【0007】
そして、(4)では、電子制御できる吸気絞り弁を予め吸気系に設置しておく必要があり、コストの騰貴につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平05−050043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、車両の挙動の乱れを招くことなく、円滑に制動を行うことのできる好適なブレーキオーバーライドシステムを実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、アクセルペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段と、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段と、両検出手段を介してアクセルペダル及びブレーキペダルの両方が同時に踏み込まれたことを検出した場合に、気筒で反復的に行われている燃焼の回数を間引く制御部とを具備する内燃機関の制御装置を構成した。このようなものであれば、上述の(1)ないし(4)の問題を回避することが可能である。
【0011】
前記制御部は、エンジン回転数が高いほど、またはアクセルペダルの踏込量が大きいほど、気筒における燃焼を間引く回数を増やすものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の挙動の乱れを招くことなく、円滑に制動を行うことのできる好適なブレーキオーバーライドシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関の構成を示す図。
【図2】同実施形態における制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、複数の気筒を有する内燃機関0の一気筒の構成を概略的に示したものである。この内燃機関0は、自動車に搭載される。
【0015】
内燃機関0の吸気系1には、アクセルペダルの踏込量に応じて開閉するスロットルバルブ11を設けており、スロットルバルブ11の下流にはサージタンク13を一体に有する吸気マニホルド12を取り付けている。サージタンク13には、吸気管内圧力(または、吸気負圧)を検出する圧力センサ61を配している。
【0016】
排気系5には、排気マニホルド51を取り付け、排出ガス浄化用の三元触媒52を装着している。そして、触媒52の上流にフロントO2センサ53を、下流にリアO2センサ54を、それぞれ配している。O2センサ53、54は、排出ガスに接触して反応することにより、排出ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。
【0017】
気筒2の上部に形成される燃焼室の天井部(シリンダヘッド)には、吸気バルブ21、排気バルブ22、インジェクタ3及び点火プラグ23を設ける。
【0018】
内燃機関0の運転制御を司る制御部たるECU(Electronic Control Unit)4は、中央演算装置41、記憶装置42、入力インタフェース43、出力インタフェース44等を有するマイクロコンピュータシステムである。
【0019】
入力インタフェース43には、吸気管内圧力を検出する圧力センサ61から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出する回転数センサ62から出力される回転数信号b、車速を検出する車速センサ63から出力される車速信号c、アクセルペダルの踏込量を検出する検出手段たるアクセルセンサ64から出力されるアクセル開度信号d、ブレーキペダルの踏込量を検出する検出手段たるブレーキセンサ65から出力されるブレーキ踏量信号e、冷却水温を検出する水温センサ66から出力される水温信号f、吸気カムシャフトの端部にあるタイミングセンサ67から出力されるクランク角度信号及び気筒判別用信号g、排気カムシャフトの端部にあるタイミングセンサ68から240°CA(クランク角度)回転毎に出力される排気カム信号h、フロントO2センサ53から出力される上流側空燃比信号i、リアO2センサ54から出力される下流側空燃比信号j等が入力される。なお、アクセルペダルの踏込量とスロットルバルブ11の開度とが完全に連動している場合には、スロットルバルブ11の開度を検出するスロットルポジションセンサを、アクセルペダルの踏込量の検出手段とすることができる。
【0020】
出力インタフェース44からは、インジェクタ3に対して燃料噴射信号n、点火プラグ8に対して点火信号m等を出力する。
【0021】
中央演算装置41は、記憶装置42に予め格納されているプログラムを解釈、実行して、内燃機関0の燃料噴射量や点火時期等の制御を遂行する。
【0022】
内燃機関0の運転制御において、ECU4は、内燃機関0の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、h、i、jを入力インタフェース43を介して取得し、さらに現状の吸気量を推定して、それらに基づいて制御入力である燃料噴射量、燃料噴射タイミング、点火タイミング等を演算する。そして、演算した制御入力に対応した制御信号m、nを、出力インタフェース44を介して印加する。上記制御入力の算定手法は、既知の内燃機関0の運転制御と同様とすることができるので、ここでは説明を割愛する。
【0023】
しかして、ECU4は、アクセルセンサ64及びブレーキセンサ を介してアクセルペダルとブレーキペダルとの両方が同時に踏み込まれていることを検出した暁には、エンジン出力を低下させるべく、内燃機関0の気筒2で反復的に行われている燃焼の回数を間引く制御を実施する。
【0024】
図2に、ECU4が燃焼回数の間引き制御に際して実行する処理の手順を示す。ECU4は、アクセルペダルとブレーキペダルとの両方が同時に踏み込まれたことを検出したとき(ステップS1)、その時点でのエンジン回転数やアクセル開度(アクセルペダルの踏込量若しくはスロットルバルブ11の開度)を参照して、燃焼を間引く回数を決定する(ステップS2)。
【0025】
そもそも、燃焼回数を間引くのは、速やかにエンジン出力を低下させてブレーキによる制動能力を下回るようにし、ブレーキが効く状態を実現するためである。アクセルペダル及びブレーキペダルが踏み込まれた時点でエンジン回転数が高い、またはアクセル開度が大きい場合、エンジン出力も大きいことが想定される。従って、ステップS2では、エンジン回転数が高いほど、及び/または、アクセル開度が大きいほど、間引き制御の開始当初の間引き回数を多く設定する。例えば、エンジン回転数が比較的高い/アクセル開度が比較的大きい場合には燃焼回数を75%間引き、エンジン回転数が比較的低い/アクセル開度が比較的小さい場合には燃焼回数を50%間引く、というようにする。
【0026】
その上で、ステップS2で決定した間引き回数を初期値として、燃焼回数の間引きを実行開始する(ステップS3)。燃焼を間引くためには、気筒2(に充填されるガス)への燃料噴射を停止し、また気筒2内での点火を停止する。内燃機関0が有している複数の気筒2のうちの何れの気筒で燃焼をカットするかは、燃焼回数の間引き率による。例えば、燃焼回数を75%間引くには、複数の気筒にて順次行われる燃焼を、三回カットの後、一回行うようにする。よって、三気筒エンジンであれば、第一気筒、第二気筒及び第三気筒で一回ずつ燃焼をカットした後、第一気筒で燃焼を一回行い、さらにその後、第二気筒、第三気筒及び第一気筒で一回ずつ燃焼をカットし、第二気筒で燃焼を一回行う、というように制御する。燃焼回数を50%間引くには、燃焼カットと燃焼とを交互に行う。三気筒エンジンであれば、第一気筒で燃焼をカットした後、第二気筒で燃焼を行い、第三気筒で燃焼をカットし、その後第一気筒で燃焼を行う、というように制御する。
【0027】
さらに、ステップS3では、燃焼回数の間引きの実行開始の後、時間または膨張行程の反復回数を経るに従い、徐々に間引き率を減少させてゆく。例えば、燃焼回数の間引き開始の当初間引き率が75%のケースでは、所定時間または所定の燃焼回数若しくは燃焼間引き回数を経る毎に、間引き率を66%(二回燃焼カットの後一回燃焼)、50%、33%(一回燃焼カットの後二回燃焼)、というように徐々に引き下げてゆく。この制御により、エンジンストールに至るような急激な制動を回避することができる。
【0028】
本実施形態によれば、アクセルペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段64と、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段65と、両検出手段64、65を介してアクセルペダル及びブレーキペダルの両方が同時に踏み込まれたことを検出した場合に、気筒2で反復的に行われている燃焼の回数を間引く制御部4とを具備する内燃機関0の制御装置を構成したため、車両の挙動の乱れやエンジンストールを招くことなく、円滑に制動を行うことのできる好適なブレーキオーバーライドシステムを実現できる。
【0029】
そして、前記制御部4が、エンジン回転数が高いほど、またはアクセルペダルの踏込量が大きいほど、気筒2における燃焼を間引く回数を増やす(間引き率を上げる)ことから、速やかにエンジン出力をブレーキによる制動能力以下にまで低下させることができる。
【0030】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、制御部4が、ステップS2において、ブレーキペダルの踏込量を参照し、その踏込量が大きいほど燃焼の間引き回数を減らす(間引き率を下げる)ものとしてもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、燃焼回数の間引き制御の開始当初の間引き率が最も高く、その後徐々に間引き率を引き下げてゆくようにしていた。これに対し、間引き制御の開始当初の間引き率は低く抑え、間引き制御の開始から時間または膨張行程の反復回数を経るに従い、徐々に間引き率を(ステップS2にて決定した値まで)引き上げてゆき、さらにその後に間引き率を徐々に引き下げてゆくように制御してもよい。これにより、燃焼回数の間引き開始によるトルク急変を抑制することができる。
【0032】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、車両に搭載される内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
4…制御部(ECU)
64…アクセルペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段(アクセルセンサ)
65…ブレーキペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段(ブレーキセンサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段と、
ブレーキペダルが踏み込まれたことを検出する検出手段と、
両検出手段を介してアクセルペダル及びブレーキペダルの両方が同時に踏み込まれたことを検出した場合に、気筒で反復的に行われている燃焼の回数を間引く制御部と
を具備する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、エンジン回転数が高いほど、またはアクセルペダルの踏込量が大きいほど、気筒における燃焼を間引く回数を増やす請求項1記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72661(P2012−72661A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215826(P2010−215826)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】