説明

内燃機関の制御装置

【課題】高油温時に内燃機関の回転数を低下させて潤滑部位の冷却性能を向上させることができるとともに、オイルの冷却性能を確保できる低油温時に運転状態が急激に変化するのを防止して、運転者に違和感を与えるのを防止することができる内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関の制御装置4は、ECU41が、油圧の異常検知時に油温が所定温度Ta以上であることを条件として、油温が所定温度未満である場合よりもスロットルバルブ23の開度を閉じ側に制御するようにスロットルモータ24を駆動することにより、フェールセーフ処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、内燃機関の油圧の異常検知時に内燃機関の回転数を低下させるようにした内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルパンに貯留されたオイルをオイルポンプから吐出して被供給部位に供給する内燃機関のオイル供給装置が知られている。
通常、オイルの被供給部位は、油圧式可変動弁機構や動弁系の油圧式ラッシュアジャスタ等、内燃機関に搭載される油圧駆動部品や、クランクシャフトやカムシャフト等の内燃機関の潤滑部位を含んで構成されている。
【0003】
オイルポンプから吐出されるオイルは、これらの複数の被供給部位に対して、例えば、油圧式可変動弁機構、油圧式ラッシュアジャスタ、内燃機関の潤滑部位といった順にオイル供給経路を通じて供給される。
【0004】
従来、車両に搭載される内燃機関において、内燃機関の潤滑および冷却に使用するオイルを被供給部位に送給するオイル供給装置として、内燃機関の回転数に比例したオイル吐出量に設定されるオイルポンプが用いられている。
【0005】
ところで、オイルパンに貯留されるオイルは、オイルポンプによって被供給部位に供給された後、オイルパンに回収される。
このとき、オイルパンに貯留されるオイル量が少ないと、オイルパンに回収されるオイルの回収効率が悪化し、オイルパン内に貯留されるオイルレベル(油面高さ)が適正量に対して低下、すなわち、不足する。
【0006】
このようにオイルレベルが低下すると、オイルパンからオイルポンプに向けてオイルを吸い上げるためのストレーナは、空気を吸い込む状態(以下、この状態をエア吸いと呼ぶ)となる可能性がある。
【0007】
オイルポンプがエア吸い状態になると、オイルポンプから吐出される油圧が低下してしまうため、オイルポンプから潤滑部位に充分な油量および油圧のオイルを供給することができず、例えば、潤滑部位の潤滑性が悪化して潤滑部位の焼き付けが発生してしまうおそれがある。
【0008】
このため、油圧の異常検知時に、潤滑部位の潤滑性が悪化して潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止するために、スロットルバルブの開度を徐々に小さくして内燃機関の回転数を低下させることにより、内燃機関を保護するようにした内燃機関の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−124816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の内燃機関の制御装置にあっては、油圧に応じてスロットルバルブの開度を制限するように構成されており、油温を考慮してスロットルバルブの開度を制限するように構成されていないため、以下のような問題があった。
【0011】
油温が高温である場合には、オイルの冷却性能が悪化するために、潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止する必要がある。このため、スロットルバルブの開度を小さくして早期に内燃機関の回転数を低下させて内燃機関を保護する必要がある。
【0012】
これに対して、オイルが冷却性能を確保することができる低温である場合には、潤滑部位の焼き付けが発生しない可能性があるにもかかわらず、高油温時と同様にスロットルバルブの開度を小さくして内燃機関の回転数を低下させる制御を行うと、内燃機関の回転数が急激に低下してしまうことになる。したがって、運転状態が急激に変化することで運転者に違和感を与えてしまうおそれがある。
【0013】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、高油温時に内燃機関の回転数を低下させて潤滑部位の冷却性能を向上させることができるとともに、オイルの冷却性能を確保できる低油温時に運転状態が急激に変化するのを防止して、運転者に違和感を与えるのを防止することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、上記目的を達成するため、(1)吸気管に配置され、内燃機関に供給される吸入空気量を調整するスロットルバルブと、前記スロットルバルブを駆動する駆動部材と、オイル貯留手段に貯留されるオイルを前記内燃機関の複数の潤滑部位に供給して前記オイル貯留手段に回収するオイル供給経路とを備えた内燃機関に設けられ、前記オイル供給経路を流れる油圧の異常検知時に前記駆動部材を駆動して前記スロットルバルブの開度を閉じ側に制御することにより、前記内燃機関の回転数を低下させる制御手段を有する内燃機関の制御装置であって、前記制御手段は、油圧の異常検知時に、油温が所定温度以上であることを条件として、油温が前記所定温度未満である場合よりも前記スロットルバルブの開度が閉じ側になるように前記駆動部材を制御するフェールセーフ処理を実行するものから構成されている。
【0015】
この内燃機関の制御装置は、油圧の異常検知時に油温が所定温度以上であることを条件として、油温が所定温度未満である場合よりもスロットルバルブの開度を閉じ側に制御するフェールセーフ処理を実行するので、油温が高い場合には、内燃機関に供給される吸入空気量を少なくすることができる。
【0016】
このため、オイルの冷却性能が低い高油温時にスロットルバルブの開度の制限を大きくして早期に内燃機関の回転数を低下させることができ、潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止して内燃機関を保護することができる。
【0017】
一方、油圧の異常検知時に、油温が所定値未満である場合には、油温が所定値以上にあるときに比べてスロットルバルブの開度の制限を小さく、あるいは、開度の制限をしないようにする。
すなわち、油温が低い場合には、オイルの冷却性能を確保することができる運転状態であるため、内燃機関に供給される吸入空気量を高油温時に比べて多くすることにより、運転状態が急激に変化するのを防止して、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0018】
上記(1)の内燃機関の制御装置において、(2)前記オイル供給経路を流れる油圧を検知する油圧検知手段と、前記油温を検知する油温検知手段とを備え、前記制御手段は、前記油圧検知手段からの検知情報に基づいて油圧情報を取得するとともに、前記油温検知手段からの検知情報に基づいて油温情報を取得するものから構成されている。
【0019】
この内燃機関の制御装置は、制御手段が、油圧検知手段から油圧情報を取得するとともに、油温検知手段から油温情報を取得するので、油圧および油温の実測値に基づいてフェールセーフ処理を実行することができる。
【0020】
上記(1)または(2)の内燃機関の制御装置において、(3)前記制御手段から出力される異常信号に基づいて前記油圧が異常であることを警告する警告手段を有し、前記制御手段は、前記警告手段に異常信号を出力したことを条件として、油圧および油温に基づいて前記フェールセーフ処理を実行するものから構成されている。
【0021】
この内燃機関の制御装置は、制御手段から出力される異常信号に基づいて油圧が異常であることを警告する警告手段を有するので、潤滑部位に供給されるオイル量が低下したことを運転者に警告することができ、運転者に対してオイル貯留手段のオイルの点検またはオイル貯留手段にオイルを補充する作業を促すことができる。この結果、オイル貯留手段のオイルレベルを適正なものにして、潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止することができる。
【0022】
また、制御手段は、警告手段に異常信号を出力した後に、フェールセーフ処理を実行するので、オイルの冷却性能が低い高油温時にスロットルバルブの開度の制限を大きくして早期に内燃機関の回転数を低下させた場合に、運転者は、油圧の異常により運転状態が急激に変化したものであると認識できる。この結果、運転状態が急激に変化した場合であっても運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0023】
上記(1)〜(3)に記載の内燃機関の制御装置において、(4)前記制御手段は、前記オイル貯留手段に貯留されたオイルが前記潤滑部位に供給されてから前記オイル貯留手段に回収されるまでの期間をオイル循環期間とし、時間的に連続する前記オイル循環期間内において前記オイル供給経路の油圧値が所定値以下となった時間を積算し、前記積算値が判定値以上となったことを条件として、前記警告手段に異常信号を出力するものから構成されている。
【0024】
この内燃機関の制御装置は、オイル循環期間内に油圧値が所定値以下となった時間の積算値が判定値以上となったことを条件として、警告手段に異常信号を出力するので、油圧の変動周期が長くなった場合であっても、油圧の異常を検知して運転者に警告することができる。
【0025】
このため、オイル貯留手段に貯留されるオイルレベルが低下したこと、または、オイル供給経路の油圧が低下したことを確実に検知することができる。この結果、内燃機関の潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高油温時に内燃機関の回転数を低下させて潤滑部位の冷却性能を向上させることができるとともに、オイルの冷却性能を確保できる低油温時に運転状態が急激に変化するのを防止して、運転者に違和感を与えるのを防止することができる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、内燃機関の制御装置を備えたエンジンの概略構成図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、エンジンの概略斜視図である。
【図3】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、制御装置のブロック図である。
【図4】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、エンジンの潤滑部位および油圧駆動部品からなる被供給部位とオイルの流れを示すブロック図である。
【図5】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、フェールセーフ判定マップを示す図である。
【図6】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、特定温度フェールセーフ判定マップを示す図である。
【図7】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、一定のエンジン回転数および一定の油温の条件下でのオイルパンのオイルレベル毎の油圧と時間との関係を示す図である。
【図8】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、フェールセーフ処理のフローチャートである。
【図9】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、図8に後続するフェールセーフ処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る内燃機関の制御装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図9は、本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、オイル供給装置3と、制御装置4とを含んで構成されている。
【0029】
エンジン2は、例えば、気筒およびピストン10をそれぞれ4つずつ備える直列4気筒のエンジンである。なお、気筒数は一例を示すもので4気筒に限られるものではない。また、エンジン2は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンであってもよい。
【0030】
エンジン2は、シリンダブロック5と、シリンダブロック5の上部に締結されたシリンダヘッド6と、シリンダブロック5の下部に締結され、エンジンオイルOが貯留されたオイルパン7とを含んで構成されている。
【0031】
シリンダブロック5には気筒を構成するシリンダボア8が形成されており、このシリンダボア8にはピストン10が収納されている。また、シリンダボア8の上部には燃焼室9が形成されており、この燃焼室9は、シリンダボア8、ピストン10の頂面およびシリンダヘッド6の下面によって囲まれる空間から構成されている。
【0032】
このエンジン2は、シリンダボア8内でピストン10が往復する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う、所謂4サイクルのガソリンエンジンである。
【0033】
ピストン10にはコネクティングロッド11を介してクランクシャフト12に連結されており、ピストン10の往復運動がコネクティングロッド11によってクランクシャフト12の回転運動に変換されるようになっている。
【0034】
図2に示すように、クランクシャフト12は、クランクジャーナル12aを介してシリンダブロック5に回転可能に支持されている。
エンジン2のシリンダヘッド6には点火プラグ38が設けられており、この点火プラグ38の点火時機は、イグナイタ13によって調整されるようになっている。
【0035】
シリンダヘッド6には吸気管14および排気管15が接続されており、この吸気管14および排気管15は、それぞれ燃焼室9に連通している。吸気管14と燃焼室9との間には吸気バルブ16が設けられており、この吸気バルブ16を開閉駆動することにより、吸気管14と燃焼室9とが連通および遮断される。
【0036】
また、排気管15と燃焼室9との間には排気バルブ17が設けられており、この排気バルブ17を開閉駆動することにより、排気管15と燃焼室9とが連通および遮断される。
【0037】
図2に示すように、吸気バルブ16および排気バルブ17の開閉駆動は、クランクシャフト12の回転が伝達される吸気カムシャフト18および排気カムシャフト19のそれぞれの回転によって行われる。また、吸気カムシャフト18および排気カムシャフト19は、それぞれカムジャーナル18a、19aがシリンダヘッド6に回転自在に支持されている。
【0038】
吸気カムシャフト18および排気カムシャフト19にはVVT(Variable Valve Timing)20が設けられており、このVVT20は、運転状態に応じて吸気バルブ16および排気バルブ17を最適な開閉タイミングに制御する機構である。
【0039】
このVVT20は、吸気カムシャフト18および排気カムシャフト19の軸方向端部にそれぞれ設けられたVVTコントローラからなり、VVT20は、各VVTコントローラに油圧が供給されることにより、カムスプロケットに対する吸気カムシャフト18および排気カムシャフト19の位相を変更して吸気バルブ16および排気バルブ17の開閉タイミングを進角または遅角させることができる。
【0040】
また、VVT20の各VVTコントローラに供給される油圧は、吸気側および排気側のオイルコントロールバルブ(OCV:Oil Control Valve)20a、20bによって制御される。
【0041】
図1に示すように、吸気管14には、エアクリーナー21およびエンジン2の吸入空気量を調整するための電子制御式のスロットルバルブ23が設けられている。
【0042】
スロットルバルブ23は、駆動部材を構成するスロットルモータ24によって駆動されるようになっており、スロットルバルブ23の開度は、スロットルポジションセンサ25によって検知される。
【0043】
排気管15には、排気ガスを浄化する三元触媒26が設けられている。吸気管14には燃料噴射用のインジェクタ27が設けられており、このインジェクタ27には燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、インジェクタ27は、吸気管14に燃料を噴射する。
【0044】
吸気管14に噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気となって燃焼室9に導入されるようになっており、燃焼室9に導入された混合気は、点火プラグ38によって点火されて燃焼および爆発する。
【0045】
この混合気の燃焼室9内での燃焼および爆発によりピストン10が往復運動してクランクシャフト12が回転する。
【0046】
クランクシャフト12には、外周面に複数の歯28aを有するシグナルロータ28が取り付けられており、シグナルロータ28の側方近傍にはクランクポジションセンサ29が配置されている。
【0047】
クランクポジションセンサ29は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト12が回転する際にシグナルロータ28の歯28aに対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
【0048】
本実施の形態では、点火プラグ38、インジェクタ27およびスロットルモータ24は、ECU(Electronic Control Unit)41の出力信号に基づいて制御されるようになっている。
【0049】
図1、図4に示すように、オイル供給装置3は、オイル貯留手段としてのオイルパン7と、オイルストレーナ30と、オイルポンプ31と、オイルポンプ31から吐出されたエンジンオイル(以下、単にオイルという)を濾過するオイルフィルタ32と、オイル通路33とを含んで構成されている。
【0050】
オイル供給装置3は、オイルパン7に貯留されたオイルをオイルポンプ31により吸引してエンジン2の潤滑部位に供給し、潤滑部位を潤滑および冷却したり、油圧駆動部品を作動するようになっている。
【0051】
各潤滑部位および油圧駆動部品に供給されたオイルは、その後、シリンダヘッド6およびシリンダブロック5内を滴下し再度オイルパン7に戻るようになっている。このようなオイル供給装置3におけるオイルの循環について具体的に説明する。
【0052】
図4に示すように、オイル供給装置3のオイル供給経路40は、オイル通路33を含んで構成されており、オイル供給経路40は、複数の配管および通路により、オイルパン7に貯留されたオイルをエンジン2の潤滑部位および油圧駆動装置に供給した後に、オイルパン7に回収する循環経路として構成されている。
【0053】
すなわち、オイル供給経路40は、オイルパン7に貯留されたオイルをオイルポンプ31によってエンジン2の潤滑部位および油圧駆動部品に供給した後、オイルパン7に回収するまでのオイルの循環経路である。
【0054】
オイルパン7にはオイルストレーナ30が浸漬されており、オイルストレーナ30は、オイルパン7に貯留されたオイルを濾過するようになっている。
【0055】
オイルパン7に貯留されたオイルは、オイルストレーナ30を通してオイルポンプ31によって吸い上げられてオイルポンプ31からオイル通路33に吐出されるようになっている。オイル通路33にはオイルフィルタ32が介装されており、オイルフィルタ32は、オイルに混入される異物を除去するようになっている。
【0056】
オイルポンプ31は、例えば、トロコイドポンプやギヤポンプ等で構成され、チェーン47(図2参照)を介してクランクシャフト12に連結されており、クランクシャフト12とは別軸でクランクシャフト12により等速駆動されるようになっている。なお、オイルポンプ31は、チェーン47によらず、クランクシャフト12に直結されクランクシャフト12により等速駆動される構造のものでもよい。
【0057】
オイル通路33の下流にはメインギャラリ34が設けられており、メインギャラリ34は、図2に示すように、クランクシャフト12に沿ってシリンダブロック5の壁面内に延設されている。
【0058】
このメインギャラリ34にはオイルポンプ31により加圧されたオイルが供給されるようになっており、メインギャラリ34に供給されたオイルは、シリンダヘッド6やシリンダブロック5に分岐して供給されるようになっている。
シリンダヘッド6およびシリンダブロック5に分岐して供給されたオイルは、エンジン2の潤滑部位や油圧駆動部品に供給される。
【0059】
例えば、シリンダブロック5においては、供給されたオイルが潤滑部位を構成するクランクジャーナル12a、クランクピン12b、コネクティングロッド11等の潤滑油として、シリンダヘッド6においては、潤滑部位を構成するカムジャーナル18a、19a等の潤滑油や油圧駆動部品を構成するVVT20の作動油として用いられる。
【0060】
すなわち、本実施の形態においてエンジン2の各潤滑部位とは、クランクジャーナル12a、クランクピン12b、コネクティングロッド11、カムジャーナル18a、19aである。但し、潤滑部位は、上記潤滑部位に限定されるものではなく、エンジン2の構成等に応じて適宜変更される。
【0061】
図3に示すように、内燃機関の制御装置4は、上述したイグナイタ13、スロットルモータ24、スロットルポジションセンサ25、インジェクタ27、クランクポジションセンサ29、アクセル開度センサ35、油圧センサ36、油温センサ37、ECU41およびウォーニングランプ51を含んで構成されている。
【0062】
アクセル開度センサ35は、アクセルペダル35aの踏込量(アクセル操作量)を検知するようになっており、アクセル開度に応じた電圧信号をECU41に出力するようになっている。
【0063】
油圧センサ36は、油圧検知手段を構成しており、オイル通路33上に設けられている。油圧センサ36は、オイル通路33を流れるオイルの油圧を検知して、油圧情報として油圧に応じた信号をECU41に出力するようになっている。なお、油圧センサ36は、メインギャラリ34に設けられてもよい。
【0064】
クランクポジションセンサ29は、クランクシャフト12の回転角に基づいてエンジン2の回転数(rpm)を検知するようになっている。クランクポジションセンサ29は、ECU41に接続されており、検知したエンジン回転数(rpm)に応じた信号をECU41に出力するようになっている。
【0065】
油温センサ37は、油温検知手段を構成しており、オイル通路33上に設けられ、ECU41に電気的に接続されている。
油温センサ37は、例えば、温度に応じて抵抗値が変化するサーミスタによって構成されており、抵抗値の変化に応じて変化する電圧を、油温情報としてECU41に出力するようになっている。
【0066】
ECU41は、油圧センサ36および油温センサ37からの検知情報に基づいて油圧情報および油温情報を取得する。なお、油温センサ37は、メインギャラリ34またはオイルパン7に設けられてもよい。
【0067】
ECU41は、CPU(Central Processing Unit)42、ROM43(Read Only Memory)43、RAM44(Random Access Memory)44、入力インターフェース45および出力インターフェース46等を含んで構成されている。
ROM43は、フェールセーフプログラムを含んだ各種制御プログラムや、これら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。
【0068】
また、ROM43には、制御マップとしてオイル循環期間判定マップが記憶されている。このオイル循環期間判定マップは、オイルパン7に貯留されたオイルがオイルポンプ31によってエンジン2の潤滑装置や油圧駆動部品に供給されてからオイルパン7に回収されるまでの期間がオイル循環期間として設定されており、このオイル循環期間は、複数の油温と関連付けられて記憶されている。すなわち、オイル循環期間は、複数の油温毎に異なる長さが設定されている。
【0069】
オイル循環期間判定マップには、各オイル循環期間のそれぞれに対応する判定値が記憶されている。この判定値は、オイル循環期間の長さの範囲内でオイル循環期間の長さに応じた一定の割合の長さ(時間)に設定されている。すなわち、判定値は、オイル循環期間が長い場合には、オイル循環期間が短い場合よりも長く設定されている。
【0070】
ECU41は、スロットルポジションセンサ25、クランクポジションセンサ29、油圧センサ36および油温センサ37に基づいてフェールセーフ処理を実行する。
すなわち、ECU41は、油温センサ37からの検知情報に基づいてオイル循環判定マップからオイルの油温に対応するオイル循環期間および判定値を読み出す。ECU41は、エンジン2の運転中にオイル循環期間を時間的に連続させ、油圧センサ36からの検知情報に基づいてオイルポンプ31から吐出された油圧値を取得し、それぞれのオイル循環期間内にオイルポンプ31の油圧値が所定値以下となった時間を積算して、積算値をRAM44の積算カウンタに記憶する。
【0071】
そして、ECU41は、それぞれのオイル循環期間のうち、油圧値が所定値以下となった時間の積算値が判定値以上となったことを条件として、油圧の異常が発生したものと判断してウォーニングランプ51に異常信号を送信するようになっている。
【0072】
また、ECU41は、タイマーによってオイル循環期間や圧力値が所定値以下となった時間を計時するようになっている。
【0073】
ウォーニングランプ51は、ECU41に接続されている。ウォーニングランプ51は、油圧の異常が発生してオイルパン7内のオイルレベルが低下したこと、またはオイル供給経路40内の油圧が低下したことを警告する警告灯である。
【0074】
ウォーニングランプ51は、ECU41から異常信号が入力したときに点灯あるいは点滅して油圧の異常を警告することにより、オイルパン7内のオイルレベルが低下したこと、またはオイル供給経路40内の油圧が低下したことを運転者に警告する。本実施の形態ではウォーニングランプ51が警告手段を構成している。
【0075】
一方、ROM43には図5に示すフェールセーフ判定マップが記憶されている。このフェールセーフ判定マップは、油圧および油温に対して上昇を抑制するためのエンジン回転数が関連付けられている。
【0076】
具体的には、フェールセーフ判定マップは、オイルの油温(C°)がTa以上である場合に、油圧(Kp)に応じてエンジン回転数(rpm)の上限値が割り当てられており、オイルの油温がTa未満である場合に、油圧の大きさにかかわらずにエンジン回転数の上限値は設定されていない。
【0077】
ECU41は、オイル供給経路40を流れる油圧の異常検知時に、圧力センサ36、油温センサ37およびクランクポジションセンサ29からの検知情報に基づいて、フェールセーフ判定マップを参照する。
【0078】
そして、ECU41は、油温がTa以上である場合には、スロットルモータ24を制御することにより、油温がTa未満である場合よりもアクセルペダル35aの踏み込み量に対してスロットルバルブ23の開度を閉じ側に制御する。
【0079】
すなわち、スロットルバルブ23の開度を、アクセルペダル35aの踏み込み量に応じた正規のスロットルバルブ23の開度よりも閉じ側に制御して、スロットルバルブ23の開度の制限を大きくする。このとき、ECU41は、スロットルポジションセンサ25からの検知情報に基づいてスロットルバルブ23の開度が設定された開度以上に閉じるのを禁止する。
【0080】
このようにスロットルバルブ23の開度が小さくなると、燃焼室9に吸入される空気量が低減して、エンジン回転数が低下される。
また、油温が所定温度Ta未満の場合には、スロットルバルブ23の開度をアクセルペダル35aの踏み込み量に応じた開度に制御する。本実施の形態では、ECU41が制御手段を構成している。
【0081】
図6は、油温がTa以上のときの油圧とエンジン回転数に対するフェールセーフラインを示す特定温度フェールセーフ判定マップである。
図6に示す特定温度フェールセーフ判定マップは、例えば、油温が80℃以上のときのオイルの油圧とエンジン回転数に対してフェールセーフラインLiが設定されている。なお、この油温は、例示であってこれに限定されるものではない。また、このフェールセーフラインLiは、油圧に対応してウォーニングランプ51を点灯するための点灯ラインでもある。
【0082】
ECU41は、油温がTa以上のときに、図6に示す特定フェールセーフ判定マップを参照し、フェールセーフラインLiよりも下の領域の油圧およびエンジン回転数において、スロットルバルブ23がアクセルペダル35aの開度に応じた開度となるようにスロットルモータ24を駆動する。
【0083】
また、ECU41は、フェールセーフラインLiよりも上の領域の油圧およびエンジン回転数の領域において、アクセルペダル35aの踏み込み量に対してスロットルバルブ23を閉じ側になるようにスロットルモータ24を駆動する。なお、図6に示すエンジン回転数を例示であって、これに限定されるものではない。
【0084】
次に、図7〜図9を参照して、制御装置4のECU41で実行されるフェールセーフ処理について説明する。
図7は、一定のエンジン回転数および一定の油温の条件下でのオイルパン7のオイルレベル毎の油圧と時間との関係を示す図である。
【0085】
図7に示すように、オイルパン7のオイルレベルL0が適正な場合には、油圧特性Aで示すように油圧の変動が小さく、フラットな特性となる。
【0086】
また、オイルレベルが適正なオイルレベルL0からオイルレベルがオイルレベルL1に低下すると、オイルストレーナ30が吸い込んだエアに含まれる気泡をオイルポンプ31が噛み込む、所謂、エア噛みを起こしてしまい、圧力変動が発生してしまう。このときには、油圧特性Bで示すように油圧の変動が大きくなり、油圧が短い周期で変動する特性となる。
【0087】
また、オイルパン7のオイルレベルがオイルレベルL1からオイルレベルL2に低下すると、オイルポンプ31のエア吸いがより多くを発生して油圧特性Cで示すように油圧の変動がさらに大きくなり、油圧が長い周期で変動する特性となる。
【0088】
ここで、図7に示すように、オイル循環期間CTは、時間的に連続しており、図7の中央に位置するオイル循環期間CTを見てみると、オイルパン7のオイルレベルがオイルレベルL2にあるときには、油圧の変動周期がオイル循環期間CTまで長くなってしまう。
【0089】
このため、本実施の形態のECU41は、時間的に連続するそれぞれのオイル循環期間CT内に油圧値が所定値以下となった時間(例えば、図7のTkで示す)を積算し、積算値が判定値以上となったことを条件として、オイルパン7内のオイルレベルが低下したものと判断して異常信号をウォーニングランプ51に出力し、ウォーニングランプ51によって警告を行うようにしている。
【0090】
本実施の形態では、時間的に連続するそれぞれのオイル循環期間CT内に油圧値が所定値以下となった時間を積算し、積算値が判定値以上となったことを条件として、オイルパン7内のオイルレベルが低下したものと判断するのは、以下の理由である。
【0091】
オイルポンプ31からオイル供給経路40に吐出された油圧変動が一定時間内で所定回数繰り返される場合、すなわち、油圧変動回数に基づいて警告を発する場合には、一定時間内の圧力変動周期が長くなると、警告を発することができない。
【0092】
例えば、圧力変動周期が、オイルパン7に貯留されたオイルがオイルポンプ31によって潤滑部位や油圧駆動部品に供給されてからオイルパン7に回収されるまでのオイル循環期間まで延びた場合には、油圧変動が一定時間内で1回だけ発生することになる。
【0093】
このため、圧力変動周期が長い場合には、油圧が正常であるものと判断してしまい、オイルレベルが低下したことやオイル供給経路40内の油圧が低下したことを正確に判定して警告することができない。
【0094】
そこで、本実施の形態では、時間的に連続するそれぞれのオイル循環期間CT内に油圧値が所定値以下となった時間の積算値が判定値以上となったことを条件として、オイルパン7内のオイルレベルが低下したものと判断する。
【0095】
また、図7に示すように、適正なオイルレベルL0またはオイルレベルが低下したオイルレベルL1、L2となるようなオイル吐出の変動を検知するには、エンジン回転数および油温が一定の条件下であることが望ましい。
【0096】
オイルポンプ31は、エンジン回転数に応じて油圧(吐出量)が変化するため、車両1の加減速時等のように単位時間の当たりのエンジン回転数の変化が大きい場合には、油圧の変動が大きくなる。
【0097】
このため、ECU41は、エンジン回転数の変動が大きい場合に、油圧が正常であるにもかかわらず、油圧が低下したものと誤判断するのを防止するために、計数値を積算する処理を実行しない。
【0098】
以下、図8、図9に基づいてフェールセーフ処理を説明する。図8、図9は、ECU41によって実行されるフェールセーフ処理のフローチャートであり、CPU42は、ROM43に格納されたフェールセーフプログラムを実行するようになっている。なお、このフローチャートの同一のステップが実行される時間間隔は一定である。
【0099】
図8において、ECU41のCPU42は、エンジンが始動されると、RAM44の積算カウンタをリセットする(ステップS1)。
次いで、CPU42は、油温センサ37から入力される油温ToをRAM44に記憶し、油温Tiを超えているか否かを判別する(ステップS2)。油温Tiは、冷間始動時の低温の油温に設定されている。
【0100】
CPU42は、油温Toが油温Ti以下であるものと判断した場合には、ステップS1に戻り、計数値を積算する処理を実行しない。すなわち、ECU41は、油圧の異常判定を行わない。
【0101】
また、ECU41は、油温Toが油温Tiを超えているものと判断した場合には、油温センサ37から入力された油温Toに基づいてROM43に記憶されたオイル循環期間判定マップを参照し、油温Toに関連付けられたオイル循環期間CTおよび判定値JTを読み出してRAM44の記憶領域にセットする(ステップS3)。
【0102】
次いで、CPU42は、クランクポジションセンサ29の検知情報に基づいてエンジン回転数Nを読み込んで、このエンジン回転数Nを初期値のエンジン回転数Ne0としてRAM44の記憶領域にセットした後(ステップS4)、油圧センサ36の検知情報に基づいて油圧P0を読み込んで油圧P0を初期値としてRAM44の記憶領域にセットする(ステップS5)。
【0103】
次いで、CPU42は、クランクポジションセンサ29の検知情報に基づいてエンジン回転数Nを読み込み(ステップS6)、このエンジン回転数Nを最新のエンジン回転数Ne1としてRAM44の記憶領域にセットされたエンジン回転数Ne0とエンジン回転数Ne1との回転数差Ne、すなわち、エンジン2の単位時間当たりの回転数差Neが、例えば、50rpm以上であるか否かを判別する(ステップS7)。なお、この回転数差50rpmは、例示であって、これに限定されるものではない。
【0104】
CPU42は、エンジン回転数Ne0とエンジン回転数Ne1との回転数差Neが50rpm以上であるものと判断した場合には、エンジン回転数が上昇して車両1が加速したもの、またはエンジン回転数が低下して車両1が減速したものと判断してステップS1に進んでRAM44の積算カウンタをリセットする。
【0105】
すなわち、オイルポンプ31は、エンジン2によって駆動されるため、エンジン回転数が上昇すると油圧が上昇するとともに、エンジン回転数が低下すると油圧が低下するため、油圧の圧力変動が大きくなってしまい、結果的にオイル循環期間CT内の圧力変動時間が長くなる可能性がある。このため、ECU41は、油圧が正常であるにもかかわらず、オイルレベルが低下したものと誤判定してしまうおそれがある。
【0106】
したがって、エンジン回転数Ne0とエンジン回転数Ne1との回転数差Neが大きい場合には、計数値を積算する処理を実行しない。すなわち、ECU41は、オイルレベルの異常判定を行わない。
【0107】
CPU42は、エンジン回転数Ne0とエンジン回転数Ne1との回転数差Neが50rpm未満であるものと判断した場合には、油温センサ37からの検知情報に基づいて最新の油圧P1を読み込む(ステップS8)。
【0108】
次いで、CPU42は、RAM44にセットされた油圧P0と最新の油圧P1との大きさを比較し、油圧P1が油圧P0よりも大きい場合には、油圧P1をオイル循環期間CT内の最大の油圧P0としてRAM44の記憶領域にセットし、最大の油圧P0に基づいて油圧の所定値Psを算出する(ステップS9)。
【0109】
この所定値Psは、オイル循環期間CT内の最大の油圧P0から一定の圧力値Piを減算することにより、算出されるものであり、例えば、20kPaに設定される。すなわち、所定値Ps=P0−Piによって求められる。
【0110】
この圧力値Piは、あくまで例示であって、圧力値Piは、エンジンの種類や車両1の運転条件によって異なるものであり、エンジン回転数や油圧によって可変させてもよい。
本実施の形態では、最大の油圧P0が、例えば、70kPaの場合には、所定値Psは、50kPaに設定される。
【0111】
次いで、CPU42は、P0とP1との差が圧力値Pi以下であるか否かを判別し(ステップS10)、PiがP0よりも小さくP0とP1との差がPiを超えているものと判断した場合には、オイル循環期間CT内に油圧値が所定値Ps以下となったものと判断して、所定値Ps以下となった時間をRAM44の積算カウンタに積算する(ステップS11)。
【0112】
また、CPU42は、P0とP1との差が圧力値Pi以下であるものと判断した場合には、オイル循環期間CT内に油圧値が所定値Psを超えており、油圧変動が小さいものと判断して、ステップS6に処理を移す。
【0113】
次いで、CPU42は、ステップS11でRAM44の積算カウンタに積算値を加算した後、RAM44の積算カウンタの積算値がステップS3でRAM44の記憶領域にセットされた判定値JT以上になったか否かを判別する(ステップS12)。
【0114】
CPU42は、積算カウンタの積算値が判定値JT未満であるものと判断した場合には、タイマーに基づいて現在のオイル循環期間CTの開始時間からタイマーによって計測した時間が、ステップS3でRAM44の記憶領域にセットされたオイル循環期間CT以上であるか否かを判別する(ステップS13)。
【0115】
ここで、オイル循環期間CTは、油温に応じてオイルの粘性が異なることから、油温に応じて異なる長さに設定されている。また、判定値JTは、オイル循環期間CTに応じて一定の割合の時間に設定されている。
【0116】
CPU42は、ステップS13で計測時間がオイル循環期間CT以上でないものと判断した場合には、ステップS6に処理を移し、オイル循環期間CT以上であるものと判断した場合には、ステップS1に処理を移す。
【0117】
また、ECU41は、ステップS12でRAM44の積算カウンタの積算値がステップS3でRAM44の記憶領域にセットされた判定値JT以上になったものと判断した場合には、油圧の異常が発生してオイルレベルが低下したものと判断して、ウォーニングランプ51に異常信号を出力してウォーニングランプ51を点灯または点滅させる。
【0118】
次いで、CPU42は、RAM44の記憶領域に記憶された油温をリセットする(ステップS15)。次いで、CPU42は、油温センサ37からの検知情報に基づいて油温T1を読み込んでRAM44にセットする(ステップS16)。
【0119】
次いで、CPU42は、油温T1が油温Ta以上であるか否かを判別し(ステップS17)、油温T1が油温Ta以下であるものと判断した場合には、ステップS15に処理を移してRAM44の記憶領域にセットされた油温をリセットする。
【0120】
ステップS17において、CPU42は、油温T1が油温Ta未満であるものと判断した場合には、スロットルバルブ23の開度の制限を行わず、アクセルペダル35aの踏み込み量に応じた開度にスロットルバルブ23の開度を制御する。
【0121】
一方、CPU42は、ステップS17において、油温T1がTa以上であるものと判断した場合には、エンジン回転数Ne1がNeT以上であるか否かを判別する(ステップS18)。
【0122】
CPU42は、エンジン回転数Ne1がNeT未満であるものと判断した場合には、ステップS6に処理を移行し、NeT以上であるものと判断した場合には、オイル循環期間CT内に検知した油圧P1の平均値を算出する(ステップS19)。エンジン回転数NeTとしては、例えば、2000rpmに設定される(図6参照)。但し、この回転数は、例示であってこれに限定されるものではない。
【0123】
ここで、オイル循環期間CT内に検知した油圧Pの平均値を算出するのは、オイル循環期間CT内に油圧変動があるからである。
【0124】
次いで、CPU42は、油圧と油温とに基づいて図6の特定油温フェールセーフ判定マップを参照し、アクセルペダル35aの踏み込み量に対してスロットルバルブ23の開度を閉じ側に制御するようにスロットルモータ24を駆動する、すなわち、スロットルバルブ23の開度の制限を行う(ステップS20)。
【0125】
CPU42は、図6に示すように、油温がTa以上である場合に、油圧がPa1以下の領域で、アクセルペダル35aを大きく踏み込んでも、スロットルモータ24を駆動してスロットルバルブ23を閉じ側に制御することにより、燃焼室9に吸入される空気量を少なくしてエンジン回転数を4000rpm未満の回転数となるようにエンジン回転数を低下させる。
【0126】
また、油圧がPa1以上、Pa2未満の領域で、アクセルペダル35aを大きく踏み込んでも、スロットルモータ24を駆動してスロットルバルブ23を閉じ側に制御することにより、燃焼室9に吸入される空気量を少なくしてエンジン回転数を5000rpm未満の回転数となるようにエンジン回転数を低下させる。
【0127】
このように本実施の形態では、ECU41が、油圧の異常検知時に油温が所定温度Ta以上であることを条件として、油温が所定温度Ta未満である場合よりもスロットルバルブ23の開度を閉じ側に制御するようにスロットルモータ24を駆動することにより、フェールセーフ処理を実行するので、高油温時には、エンジン2に供給される吸入空気量を少なくすることができる。
【0128】
このため、オイルの冷却性能が低い高油温時にスロットルバルブ23の開度を小さくして早期にエンジン2の回転数を低下させることができ、潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止してエンジン2を保護することができる。
【0129】
一方、ECU41は、油圧の異常検知時に、油温が所定値Ta未満である場合には、スロットルバルブ23の開度の制限をしないようにスロットルモータ24を駆動することにより、アクセルペダル35aの踏み込み量に応じたスロットル開度に制御する。
【0130】
すなわち、低油温時には、オイルの冷却性能を確保することができるため、エンジン2に供給される吸入空気量を高油温時に比べて多くすることにより、エンジン2の回転数が急激に低下するのを防止して、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0131】
また、本実施の形態では、ECU41が、油圧センサ36からの検知情報に油圧情報を取得するとともに、油温センサ37からの検知情報に基づいて油温情報を取得するので、油圧および油温の実測値に基づいてフェールセーフ処理を実行することができる。
【0132】
また、本実施の形態では、ECU41から出力される異常信号に基づいて油圧が異常であることを警告するウォーニングランプ51を有するので、潤滑部位や油圧駆動部品に供給されるオイル量が低下したことを運転者に警告することができ、運転者に対してオイルパン7のオイルの点検またはオイルパン7にオイルを補充する作業を促すことができる。この結果、オイルパン7のオイルレベルを適正なものにして、潤滑部位の焼き付けが発生するのを防止することができる。
【0133】
また、ECU41は、ウォーニングランプ51に異常信号を出力した後に、フェールセーフ処理を実行するので、オイルの冷却性能が低い高油温時にスロットルバルブ23の開度を小さくして早期にエンジン2の回転数を低下させた場合に、運転者は、オイルの異常により運転状態が急激に変化したものであると認識できる。この結果、運転状態が急激に変化した場合であっても運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0134】
また、本実施の形態では、ECU41が、オイルパン7に貯留されたオイルがオイルポンプ31によってエンジン2の潤滑部位や油圧駆動部品に供給されてからオイルパン7に回収されるまでの期間をオイル循環期間CTとし、時間的に連続するそれぞれのオイル循環期間CT内に油圧値が所定値Ps以下となった時間を積算し、積算値が判定値JT以上となったことを条件として、異常信号を出力するようにしている。
【0135】
このため、油圧の変動周期が、図7の油圧特性Cで示すようにオイル循環期間CTまで長くなった場合であっても、油圧の異常を検知することができる。
【0136】
なお、本実施の形態では、オイルの冷却性能が高い油温が所定温度Ta未満の場合には、スロットルバルブ23の開度をアクセルペダル35aの踏み込み量に応じた開度に制御してエンジン回転数を低下させないようにしているが、油温が所定温度Ta未満の場合に、アクセルペダル35aの踏み込み量に対してスロットルバルブ23の開度を閉じ側に制御してエンジン回転数を低下する処理を実行してもよい。
【0137】
この場合には、スロットルバルブ23の開度の制限は、油温が所定温度Ta以上の場合よりも小さくすればよい。このようにしても低油温時には、オイルの冷却性能を確保することができるため、エンジン2に供給される吸入空気量を高油温時に比べて多くすることにより、エンジン2の回転数が急激に低下するのを抑制することができる。
【0138】
さらに、本実施の形態の制御装置4は、車両用内燃機関に適用した例について説明したが、動力源として内燃機関を用いるものであれば適用可能であり、例えば、所謂ハイブリッド車や自動二輪車等に搭載される内燃機関はもとより、船舶や建設機械等のように車両以外のものに搭載される内燃機関にも適用可能である。
【0139】
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、高油温時に内燃機関の回転数を低下させて潤滑部位の冷却性能を向上させることができるとともに、オイルの冷却性能を確保できる低油温時に運転状態が急激に変化するのを防止して、運転者に違和感を与えるのを防止することができるという効果を有し、内燃機関の油圧の異常検知時に内燃機関の回転数を低下させるようにした内燃機関の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0140】
2 エンジン(内燃機関)
4 制御装置
7 オイルパン(オイル貯留手段)
11 コネクティングロッド(潤滑部位)
12a クランクジャーナル(潤滑部位)
12b クランクピン(潤滑部位)
14 吸気管
18a、19a カムジャーナル(潤滑部位)
23 スロットルバルブ
24 スロットルモータ(駆動手段)
36 油圧センサ(油圧検知手段)
37 油温センサ(油温検知手段)
40 オイル供給経路
41 ECU(制御手段)
51 ウォーニングランプ(警告手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気管に配置され、内燃機関に供給される吸入空気量を調整するスロットルバルブと、前記スロットルバルブを駆動する駆動部材と、オイル貯留手段に貯留されるオイルを前記内燃機関の複数の潤滑部位に供給して前記オイル貯留手段に回収するオイル供給経路とを備えた内燃機関に設けられ、
前記オイル供給経路を流れる油圧の異常検知時に前記駆動部材を駆動して前記スロットルバルブの開度を閉じ側に制御することにより、前記内燃機関の回転数を低下させる制御手段を有する内燃機関の制御装置であって、
前記制御手段は、油圧の異常検知時に、油温が所定温度以上であることを条件として、油温が前記所定温度未満である場合よりも前記スロットルバルブの開度が閉じ側になるように前記駆動部材を制御するフェールセーフ処理を実行することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記オイル供給経路を流れる油圧を検知する油圧検知手段と、油温を検知する油温検知手段とを備え、前記制御手段は、前記油圧検知手段からの検知情報に基づいて油圧情報を取得するとともに、前記油温検知手段からの検知情報に基づいて油温情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段から出力される異常信号に基づいて油圧が異常であることを警告する警告手段を有し、
前記制御手段は、前記警告手段に異常信号を出力したことを条件として、油圧および油温に基づいて前記フェールセーフ処理を実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記オイル貯留手段に貯留されたオイルが前記潤滑部位に供給されてから前記オイル貯留手段に回収されるまでの期間をオイル循環期間とし、時間的に連続する前記オイル循環期間内において前記オイル供給経路の油圧値が所定値以下となった時間を積算し、前記積算値が判定値以上となったことを条件として、前記警告手段に異常信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108392(P2013−108392A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252856(P2011−252856)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】