説明

内燃機関の制御装置

【課題】オイルに混入される気泡率と油圧とに基づいて早期に第2の回転体を第1の回転体に保持することができるようにして、第2の回転体がばたつくのを防止して、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関の制御装置4は、VVT22に供給される油圧が、オイルに混入される気泡率に応じて予め定められた油圧の判定値未満となったことを条件として、VVT22の油圧異常を判定し、ベーン体32がハウジング31に対して回動するのを規制する保持制御を実施し、VVT22に供給される油圧が判定値以上である場合には、気泡率が高いことを条件として、VVT22の油圧異常を判定して前記保持制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、バルブタイミング可変機構に供給される油圧の異常時にバルブタイミング可変機構を保護するようにした内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される内燃機関(以下、エンジンともいう)においては、クランクシャフトの回転がタイミングチェーン等を介してカムシャフトに伝達される。エンジンの機関バルブ(吸気バルブ・排気バルブ)は、カムシャフトのカムにより周期的に押し下げられて往復動し、吸気通路・排気通路を開閉する。
【0003】
このタイプのエンジンでは、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相は常に一定である。これに対し、近年では、エンジンにバルブタイミング可変機構(VVT:Variable Valve Timing)を搭載している。
【0004】
このバルブタイミング可変機構は、エンジンの出力向上、燃費向上、排気エミッション低減等を目的として、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変化させ、機関バルブの開閉タイミングを変更する機構である。
バルブタイミング可変機構としては、例えば、ハウジングと、ハウジング内を進角側油圧室および遅角側油圧室に区画するベーン体とを備え、ハウジングをクランクシャフトに連結し、ベーン体をカムシャフトに連結した状態で、進角側油圧室および遅角側油圧室に供給する油圧をオイルコントロールバルブ(OCV)によって制御することにより、クランクシャフトとカムシャフトとの回転位相をずらして機関バルブの開閉タイミングを連続的に変化させる構造となっている。
【0005】
オイルコントロールバルブの上流側にはエンジンの回転に伴って回転駆動されるオイルポンプが接続されており、オイルポンプが駆動されると、オイルパンに貯留されるオイルがストレーナに吸い込まれる。
【0006】
このストレーナに吸い込まれたオイルは、OCVを介して進角側油圧室または遅角側油圧室に選択的に供給され、ハウジングとベーン体との相対回転位相が変更されることによってカムシャフトとハウジングとの相対回転位相、すなわち、バルブタイミングが可変される。
【0007】
ところで、オイルパンに貯留されるオイルレベル(油面高さ)が適正量に対して低下すると、オイルパンからオイルポンプに向けてオイルを吸い上げるためのストレーナは、空気を吸い込む状態(以下、この状態をエア吸いと呼ぶ)となる可能性がある。
【0008】
オイルポンプがエア吸い状態になると、VVTに供給される油圧が低下してしまうため、ベーン体をハウジングに対して安定して保持することができず、ベーン体がハウジングの内壁に強く衝突して大きな打音を発生することがあり、ベーン体とハウジングとの耐久性が悪化してしまうおそれがある。
【0009】
油圧低下時にベーン体がハウジングの内壁に強く衝突して大きな打音が発生するのを抑制することができるものとしては、特許文献1に示す内燃機関のバルブタイミング制御装置が知られている。
【0010】
この内燃機関のバルブタイミング制御装置は、油圧センサによって検知された油圧が所定値未満のとき、オイルポンプとVVTの進角側油圧室および遅角側油圧室との連通を遮断することにより、進角側油圧室および遅角側油圧室のオイルの逆流を防止して、ベーン体をハウジングに対して安定して保持するようにしている。このため、油圧低下時にベーン体がハウジングの内壁に強く衝突して大きな打音が発生するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−141359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような従来の内燃機関の制御装置にあっては、油圧が所定値未満のとき、オイルポンプとVVTの進角側油圧室および遅角側油圧室との連通を遮断してハウジングに対してベーン体が回動するのを抑制しているが、気泡率を考慮してオイルポンプとVVTの進角側油圧室および遅角側油圧室との連通を遮断するようにしていないため、ベーン体の回動を十分に抑制することができない。
【0013】
すなわち、油圧が所定値以上の場合であっても、オイルに混入される気泡率が高い場合に進角側油圧室および遅角側油圧室に供給される気泡率が高いオイルによってベーン体が左右にばたついてしまい、ベーン体をハウジングに安定して保持することができない現象が生じる。この結果、ドライバビリティが悪化してしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、オイルに混入される気泡率と油圧とに基づいて早期に第2の回転体を第1の回転体に保持することができるようにして、第2の回転体がばたつくのを防止して、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、上記目的を達成するため、(1)内燃機関の出力軸に連結される第1の回転体の内部にカムシャフトに連結される第2の回転体を回動可能に収容し、前記第2の回転体によって区画される進角側油圧室および遅角側油圧室の油圧が選択的に供給されることにより、前記カムシャフトと前記出力軸との相対回転位相を可変するバルブタイミング可変機構を備えた内燃機関の制御装置であって、オイルに混入される気泡率に応じて予め定められた油圧の判定値が設定され、前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧が前記判定値未満となったことを条件として、前記バルブタイミング可変機構の油圧異常と判定し、前記第2の回転体が前記第1の回転体に対して回動するのを規制する保持制御を実施する制御手段を備え、前記制御手段は、前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧が前記判定値以上である場合には、前記気泡率が高いことを条件として、前記バルブタイミング可変機構の油圧異常と判定し、前記保持制御を実施するものから構成されている。
【0016】
この内燃機関の制御装置は、バルブタイミング可変機構に供給される油圧が、オイルに混入される気泡率に応じて予め定められた油圧の判定値未満となったことを条件として、バルブタイミング可変機構の油圧異常を判定し、第2の回転体が第1の回転体に対して回動するのを規制する保持制御を実施するので、油圧が低い場合に、第2の回転体が第1の回転体に衝突して異音が発生するのを防止することができるとともに、第1の回転体および第2の回転体が損傷するのを防止して、バルブタイミング可変機構の耐久性が悪化するのを防止することができる。
【0017】
また、バルブタイミング可変機構に供給される油圧が判定値以上である場合には、気泡率が高いことを条件として、バルブタイミング可変機構の油圧異常を判定し、バルブタイミング可変機構の保持制御を実施するので、第2の回転体が第1の回転体に対してばたつくのを防止して、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる。
【0018】
上記(1)の内燃機関の制御装置において、(2)オイルポンプから吐出されるオイルを前記進角側油圧室および前記遅角側油圧室に選択的に供給するオイル供給部材を備え、前記バルブタイミング可変機構が、前記第2の回転体が前記第1の回転体に対して所定位置に回動したときに、前記第2の回転体を前記第1の回転体に保持する保持機構を有し、前記制御手段は、前記オイル供給手段を制御することにより、前記ベーン体が前記所定位置に回動するように前記進角側油圧室および前記遅角側油圧室に供給する油圧を調整することにより、前記保持制御を実施するものから構成している。
【0019】
この内燃機関の制御装置は、保持制御の実施時にベーン体が所定位置に回動するように進角側油圧室および遅角側油圧室に供給する油圧を調整して、保持機構により第2の回転体を第1の回転体に保持するようにしているので、第2の回転体を第1の回転体に確実に保持させることができる。
【0020】
上記(1)または(2)の内燃機関の制御装置において、(3)前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧を検知する油圧検知手段と、オイルに混入される気泡率を取得する気泡率取得手段とを備え、前記制御手段は、前記油圧検知手段および前記気泡率取得手段からの情報に基づいて前記保持制御を実施するものから構成されている。
【0021】
この内燃機関の制御装置は、油圧検知手段と気泡率取得手段からの情報に基づいて油圧および気泡率の情報を取得することができるため、油圧および気泡率に基づいて保持制御を実施することができる。
【0022】
上記(1)〜(3)の内燃機関の制御装置において、(4)前記制御手段から出力される前記異常信号に基づいて警告を行う警告手段を備え、前記制御手段は、前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧が前記判定値未満であることを条件として、前記警告手段に前記異常信号を出力するものから構成されている。
【0023】
この内燃機関の制御装置は、バルブタイミング可変機構に供給される油圧が判定値未満である場合には、警告手段に異常信号を出力するので、例えば、オイルパンに貯留されるオイルが低下したことを確実に検知して警告することができる。
【0024】
この結果、運転者にオイルパン内のオイルを交換するための作業を促してオイル交換後に、バルブタイミング可変機構に対して第2の回転体を第1の回転体に安定して保持できる油圧を供給することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、オイルに混入される気泡率と油圧とに基づいて早期に第2の回転体を第1の回転体に保持することができるようにして、第2の回転体がばたつくのを防止して、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、内燃機関の制御装置を備えた車両の概略構成図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、エンジンの概略斜視図である。
【図3】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、VVTにオイルを供給するオイルの供給経路と制御回路のブロック図を示す図である。
【図4】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、異常判定マップを示す図である。
【図5】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、気泡率判定マップを示す図である。
【図6】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、異常判定プログラムのフローチャートである。
【図7】本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図であり、他の気泡率判定マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る内燃機関の制御装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図7は、本発明に係る内燃機関の制御装置の一実施の形態を示す図である。
まず構成を説明する。
図1、図2において、車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、オイル供給装置3と、内燃機関の制御装置4とを含んで構成されている。
【0028】
図2に示すように、エンジン2は、図示しない気筒内に往復移動可能に収容されたピストン5が2往復する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う、所謂4サイクルのガソリンエンジンである。
【0029】
このエンジン2は、気筒およびピストン5をそれぞれ4つずつ備える直列4気筒のエンジンである。なお、気筒数は一例を示すもので4気筒に限られるものではない。また、エンジン2は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンであってもよい。
【0030】
エンジン2は、ピストン5と、バルブタイミング可変機構(Variable Valve Timing:以下、VVTという)22と、出力軸を構成するクランクシャフト6と、シリンダヘッドヘッド7、シリンダブロック8およびクランクケースからなるエンジンブロック9と、気筒内に燃料を噴射する図示しない燃料噴射装置とを含んで構成されている。
【0031】
クランクシャフト6は、クランクジャーナル6aを介してエンジンブロック9に回転可能に支持されている。また、クランクシャフト6は、コネクティングロッド10を介してピストン5に連結されており、ピストン5の往復運動が伝達されて回転運動するようになっている。なお、コネクティングロッド10は、クランクシャフト6のクランクピン6bに連結されている。
【0032】
図1、図2に示すように、オイル供給装置3は、オイルパン11と、オイルストレーナ12と、オイルポンプ13と、オイルポンプ13から吐出されたエンジンオイル(以下、単にオイルという)を濾過するオイルフィルタ14と、オイル通路15と、オイル還流通路16とを含んで構成されている。
【0033】
オイルパン11にはオイルストレーナ12が浸漬されており、オイルストレーナ12は、オイルパン11に貯留されたオイルを濾過するようになっている。
【0034】
オイルパン11に貯留されたオイルは、オイルストレーナ12を通してオイルポンプ13によって吸い上げられてオイルポンプ13からオイル通路15に吐出されるようになっている。オイル通路15にはオイルフィルタ14が介装されており、オイルフィルタ14は、オイルに混入される異物を除去するようになっている。
【0035】
オイルポンプ13は、例えば、トロコイドポンプやギヤポンプ等で構成され、チェーンを介してクランクシャフト6に連結されており、クランクシャフト6とは別軸でクランクシャフト6により等速駆動されるようになっている。なお、オイルポンプ13は、チェーンによらず、クランクシャフト6に直結されクランクシャフト6により等速駆動される構造のものでもよい。
【0036】
図2に示すように、オイル通路15の下流にはメインギャラリ17が設けられており、メインギャラリ17は、クランクシャフト6に沿ってシリンダブロック8の壁面内に延設されている。このメインギャラリ17にはオイルポンプ13により加圧されたオイルが供給されるようになっており、メインギャラリ17に供給されたオイルは、シリンダヘッド7やシリンダブロック8に分岐して供給されるようになっている。
【0037】
シリンダヘッド7およびシリンダブロック8に分岐して供給されたオイルは、エンジン2の各被供給部位に供給される。
例えば、シリンダブロック8においては、クランクシャフト6のクランクジャーナル6a、クランクピン6bと、コネクティングロッド10等の潤滑部位の潤滑油や油圧駆動部品を構成するオイルジェット18の作動油として、シリンダヘッド7においては、カムシャフトとしての吸気カムシャフト20および排気カムシャフト21のカムジャーナル20a、21aの潤滑油や油圧駆動部品を構成するバルブタイミング可変機構(以下、単にVVTという)22の作動油として用いられる。
【0038】
ここで、オイルジェット18は、エンジン2のピストン5の底面に向けてオイルを噴射することで、燃焼ガスに晒され熱負荷が高くなるピストン5を冷却し、例えば、高負荷運転時での異常燃焼を防止しノッキングの抑制を図るものである。
【0039】
また、カムジャーナル20a、21aは、吸気カム20bおよび排気カム21bの間に位置し、吸気カムシャフト20および排気カムシャフト21をシリンダヘッド7に回転自在に支持する部位である。
【0040】
吸気カムシャフト20および排気カムシャフト21は、チェーン25を介してクランクシャフト6に連結されており、クランクシャフト6の動力がチェーン25を介して伝達されることにより、吸気カム20bおよび排気カム21bを介して吸気バルブ23および排気バルブ24の開閉を行うようになっている。
【0041】
一方、VVT22は、吸気カムシャフト20の端部に設けられており、図3に示すように、クランクシャフト6にチェーン25を介して連結された第1の回転体としてのハウジング31と、ハウジング31内に配置され、吸気カムシャフト23と一体に回転する第2の回転体としてのベーン体32とを備えている。
【0042】
ハウジング31の内部にはベーン体32によって区画される進角側油圧室33および遅角側油圧室34が形成されており、VVT22は、進角側油圧室33および遅角側油圧室34の容積比を変化させることで、ハウジング31に対してベーン体32を回動させ、クランクシャフト6に対する吸気カムシャフト20の回転位相を変化させることができ、吸気バルブ23のバルブタイミングを変化させることができる。
【0043】
なお、進角側油圧室33の容積が増大するとともに遅角側油圧室34の容積が縮小するようにベーン体32がハウジング31に対して相対回転したときには、バルブタイミングが進角となる。
【0044】
また、遅角側油圧室34の容積が増大するとともに進角側油圧室33の容積が縮小するようにベーン体32がハウジング31に対して相対回転したときには、バルブタイミングの遅角となる。
【0045】
VVT22は、進角側油圧室33と遅角側油圧室34の何れか一方に選択的にオイル(作動油)が供給されることで、進角側油圧室33と遅角側油圧室34の容積比を変化させることができる。
【0046】
進角側油圧室33にオイルを供給する場合には、供給されたオイルの分だけ進角側油圧室33が拡大するとともに、遅角側油圧室34からは進角側油圧室33の拡大に伴ってオイルが押し出される。逆に、遅角側油圧室34にオイルを供給する場合には、供給されたオイルの分だけ遅角側油圧室34が拡大し、進角側油圧室33は、オイルが押し出されることによって縮小する。
【0047】
また、VVT22には、VVT22の動作をロックするための保持機構が設けられている。この保持機構は、VVT22のベーン体32に設けられたロックピン35と、ハウジング31に形成されたロック穴36とを含んで構成される。
【0048】
ロックピン35がロック穴36に係合することでベーン体32はハウジング31に対して所定の回転角、すなわち、所定位置で固定されることになる。
【0049】
本実施の形態ではバルブタイミングを最遅角させる位置にロック穴36が設けられており、バルブタイミングを最遅角されると、ロックピン35がロック穴36に嵌合されてベーン体32がハウジング31に対して回動することが規制される。
【0050】
すなわち、ベーン体32がハウジング31に固定され、ベーン体32がハウジング31に保持される。なお、ロックピン35は、図示しないコイルスプリング等によってロック穴36の方向に付勢されており、遅角側油圧室34に供給される油圧が所定油圧以上となると、コイルスプリングの付勢力に抗してロック穴36から抜け出るようになっている。 このとき、ベーン体32は、ハウジング31に対して相対回動自在となる。
【0051】
また、保持機構においてロックピン35を駆動する駆動力は、ベーン体32に内蔵されたスプリング(図示略)の付勢力と、VVT22に供給されるオイルの油圧である。スプリングの付勢力はロックピン35をロック穴36に押し込む方向に作用し、オイルの油圧はロックピン35をロック穴36から押し出す方向に作用するようになっている。
VVT22に供給されるオイルは、VVT通路37によってメインギャラリ17から取り出されるようになっている。
【0052】
VVT通路37の先端部にはオイルコントロールバルブ(Oil control valve、以下、単にOCVという)38が取り付けられている。OCV38とVVT22の進角側油圧室33とは油圧通路39によって接続され、OCV38とVVT22の遅角側油圧室34とは油圧通路40によって接続されている。
【0053】
OCV38は、オイルの供給先を油圧通路39と油圧通路40とで切換える通路切換弁であると同時に、その開度の制御によってオイルの供給量を調整できる流量調整弁でもある。
【0054】
詳しくは、OCV38は、電磁駆動式のスプール弁であって、スリーブ内のスプールの位置によって油圧通路39および油圧通路40に対するオイルの給排を制御することができる。スプールは移動方向の一方の端部をスプリングによって支持され、他方の端部をソレノイドによって支持されている。
【0055】
スプールの位置は、ソレノイドに供給する駆動電流のデューティ比によって制御することができる。ソレノイドへの非通電時には、スプールはスプリングの付勢力によって所定の初期位置に置かれる。この初期位置では、VVT通路37は、油圧通路40に接続されるようになっている。
【0056】
また、図1に示すように、オイル還流通路16は、オイルポンプ13の吐出側のオイル通路15に接続されており、このオイル還流通路16上にはリリーフバルブ26が設けられている。このリリーフバルブ26は、オイルポンプ13の吐出側の油圧(吐出圧)が所定値を越えたときに作動(開弁)してオイルをオイルパン11またはオイルポンプ13内にリリーフするものである。
【0057】
図1、図3に示すように、制御装置4は、油圧センサ41、油温センサ42、エンジン回転数センサ43、電子制御ユニット(Electronic Control Unit:以下、ECUという)44およびウォーニングランプ51を含んで構成されている。
【0058】
油圧センサ41は、油圧検知手段を構成しており、オイルポンプ13の吐出側のオイル通路15に設けられている。油圧センサ41は、オイルポンプ13からVVT22等の油圧駆動部品やエンジン2の潤滑部位に供給される油圧を検知して、油圧に応じた信号をECU44に出力するようになっている。なお、油圧センサ41は、メインギャラリ17に設けられていてもよい。
【0059】
エンジン回転数センサ43は、クランクシャフト6の回転角に基づいてエンジン回転数(rpm)を検知するようになっている。エンジン回転数センサ43は、ECU44に接続されており、検知したエンジン回転数(rpm)に応じた信号をECU44に出力するようになっている。
【0060】
油温センサ42は、油温検知手段を構成しており、オイルポンプ13から吐出されるオイル温度を検知するようになっている。この油温センサ42は、オイルポンプ13の吐出側のオイル通路15に設けられており、ECU44に電気的に接続されている。なお、油温センサ42は、オイルパン11やメインギャラリ17に設けられていてもよい。
【0061】
油温センサ42は、例えば、温度に応じて抵抗値が変化するサーミスタによって構成されており、抵抗値の変化に応じて変化する電圧を油温を表す信号としてECU44に出力するようになっている。
【0062】
図3に示すように、ECU44は、CPU(Central Processing Unit)45と、ROM(Read Only Memory)46と、RAM(Random Access Memory)47と、油圧センサ41、油温センサ42およびエンジン回転数センサ43が接続された入力インターフェース48と、OCV38およびウォーニングランプ51に接続された出力インターフェース49とを含んで構成されている。
【0063】
ROM46は、異常判定プログラムを含んだ各種制御プログラムや、これら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。
【0064】
また、ROM46には、制御マップとして異常判定マップ52が記憶されている。図4に示すように、異常判定マップ52は、オイルに混入される気泡率に応じて予め定められた油圧の判定値P1が設定されている。
【0065】
異常判定マップ52は、油圧が判定値P1未満の領域が異常領域に設定されており、ECU44は、油圧が判定値P1未満であるものと判断した場合には、VVT22に供給される油圧の異常と判定する。
【0066】
ECU44は、この油圧異常時にOCV38を制御して進角側油圧室33にオイルを供給するとともに遅角側油圧室34からオイルを排出することにより、ロックピン35がロック穴36にロックされるようにベーン体32をハウジング31に対して回動させる保持制御を実施する。
【0067】
また、異常判定マップ52は、油圧が判定値P1以上である場合には、気泡率に基づいてVVT22に供給される油圧の異常の判定領域として保持不安定領域と正常領域とが割り当てられている。
【0068】
すなわち、油圧が判定値P1以上である領域では、同じ油圧であっても、気泡率が低い場合には、油圧が正常である正常領域が割り当てられており、気泡率が高い場合には、保持不安定領域が割り当てられている。
【0069】
ECU44は、油圧が判定値P1以上であるものと判断した場合には、気泡率に基づいてVVT22に供給される油圧の異常と判定することができる。ECU44は、この油圧異常時にOCV38を上述した保持制御を実施する。
【0070】
また、ECU44は、異常判定マップ52に基づいて油圧と気泡率の値が正常領域にあるものと判断した場合には、VVT22に供給される油圧が正常であるものと判断して、保持制御を実施しない。本実施の形態では、ECU44が制御手段を構成している。
【0071】
すなわち、本実施の形態のECU44は、VVT22に供給される油圧が判定値P1未満である場合には、VVT22の油圧異常と判定し、保持制御を実施し、VVT22に供給される油圧が判定値P1以上である場合には、気泡率が高いことを条件として、VVT22の油圧異常と判定し、保持制御を実施するようになっている。
【0072】
また、ROM46には図5に示す気泡率判定マップ53が記憶されている。この気泡率判定マップ53は、任意のエンジン回転数のときの気泡率と油圧とが関連付けられて記憶されている。
【0073】
オイルパン11内のオイルレベルが低下すると、オイルストレーナ12がエア吸いを起こしてオイルポンプ13によってオイルパン11から吸い込まれるオイルに混入される気泡率が上昇して油圧が低下するため、ECU44は、この気泡率判定マップ53に基づいて油圧とエンジン回転数とから気泡率を推定することができる。
【0074】
この気泡率判定マップ53は、エンジン回転数に応じて油圧と気泡率とが割り当てられており、ROM46にはエンジン回転数に応じた複数の気泡率判定マップ53が記憶されている。本実施の形態では、RAM46、油圧センサ41およびエンジン回転数センサ43が気泡率取得手段を構成している。
【0075】
ウォーニングランプ51は、油圧の異常が発生してオイルパン11内のオイルレベルが低下したことを警告する警告灯である。
【0076】
ウォーニングランプ51は、ECU44から異常信号が入力したときに点灯あるいは点滅して油圧の異常を警告することにより、オイルパン11内のオイルレベルが低下したことを運転者に警告する。
【0077】
ECU44は、異常判定マップ52に基づいて油圧が異常領域にあるものと判断したときに、ウォーニングランプ51に異常信号を出力する。
【0078】
次に、図6のフローチャートに基づいて内燃機関の制御装置4のECU44で実行される異常判定制御処理について説明する。なお、図6のフローチャートは、ROM46に記憶された異常判定プログラムである。
【0079】
図6において、CPU45は、油圧センサ41からの検知情報に基づいて油圧PiをRAM47に記憶した後(ステップS1)、エンジン回転数センサ43からの検知情報に基づいてエンジン回転数NiをRAM47に記憶する(ステップS2)。
【0080】
次いで、CPU45は、ROM46に記憶された気泡率判定マップ53を参照し、RAM47に記憶された油圧Piおよびエンジン回転数Niに基づいて気泡率Aiを推定する(ステップS3)。
【0081】
次いで、CPU45は、ROM46に記憶された異常判定マップ52を参照し、油圧Piが判定値P1以上であるか否かを判別する(ステップS4)。CPU45は、油圧Piが判定値P1未満であるものと判断した場合には、オイルパン11内のオイルレベルが低下したものと判断して、保持制御を実施する(ステップS5)。
【0082】
具体的には、OCV38は、ソレノイドの非通電時にスプールがスプリングの付勢力によってVVT通路37が油圧通路40に接続されるようになっている。このため、CPU45は、ソレノイドを通電してスプールをスプリングの付勢力に抗してVVT通路37が油圧通路39に接続されるように切換える。
【0083】
油圧通路39は、進角側油圧室33に連通しているため、VVT通路37が油圧通路39に接続されると、オイルポンプ13から吐出されてオイル通路15を介してVVT通路37に供給されるオイルが、油圧通路39を介して進角側油圧室33に供給され、遅角側油圧室34内のオイルが遅角側油圧室34からOCV38に排出される。
【0084】
このため、進角側油圧室33の容積が増大されるとともに遅角側油圧室34の容積が縮小され、ロックピン35がロック穴36に嵌合されるようにベーン体32がハウジング31に対して回動し、ロックピン35がロック穴36に嵌合される。
【0085】
このため、ベーン体32がハウジング31に対して回動しないようにロックピン35がハウジング31に保持された状態となる。
【0086】
次いで、CPU45は、ウォーニングランプ51に異常信号を出力してウォーニングランプ51を点灯させる(ステップS6)。このため、運転者にオイルパン11内のオイルレベルが低下したことを警告して、運転者にオイルを交換する作業を促すことができる。
【0087】
一方、油圧Pが判定値P1以上であるものと判断した場合には、気泡率Aiに基づいてVVT22に供給される油圧が保持不安定領域にあるか否かを判断する(ステップS7)。
【0088】
CPU45は、図6に対して油圧に対して気泡率が低い正常領域にあるものと判断したした場合には今回の処理を終了し、図6に対して油圧に対して気泡率が高い保持不良領域にあるものと判断した場合には、ステップS5と同様の保持制御を実施して(ステップS8)、今回の処理を終了する。
【0089】
なお、ステップS8の処理の後に、ウォーニングランプ51を点灯する処理、すなわち、ステップS6に処理を移してもよい。
【0090】
このように本実施の形態では、VVT22に供給される油圧が、オイルに混入される気泡率に応じて予め定められた油圧の判定値P1未満となったことを条件として、VVT22の油圧異常を判定し、ベーン体32がハウジング31に対して回動するのを規制する保持制御を実施するので、油圧が低い場合に、ベーン体32がハウジング31に衝突して異音が発生するのを防止することができるとともに、ベーン体32およびハウジング31が損傷するのを防止して、VVT22の耐久性が悪化するのを防止することができる。
【0091】
また、VVT22に供給される油圧が判定値P1以上である場合には、気泡率が高いことを条件として、VVT22の油圧異常を判定し、VVT22の保持制御を実施するので、ベーン体32がハウジング31に対してばたつくのを防止して、ドライバビリティが悪化するのを防止することができる。
【0092】
すなわち、本出願人の発明者は、図4に示すように、VVT22に供給される油圧が所定値P1未満の異常領域では、ベーン体32がハウジング31に対して大きく回動してベーン体32がハウジング31に衝突して異音が発生し、VVT22に供給される油圧が所定値P1以上であっても、気泡率が高い保持不安定領域では、ベーン体32がハウジング31に対してふらつく現象があることを発見したのである。
【0093】
この現象を鑑み、VVT22に供給される油圧が所定値P1以上であっても、気泡率が高い場合には、VVT22の油圧異常を判定し、VVT22の保持制御を実施することで、ドライバビリティが悪化するのを防止することができるのである。
【0094】
また、本実施の形態では、VVT22が、オイルポンプ13から吐出されるオイルを進角側油圧室33および遅角側油圧室34に選択的に供給するOCV38を備え、VVT22が、ベーン体32がハウジング31に対して所定位置である遅角側に回動したときに、ベーン体32をハウジング31に保持するロックピン35およびロック穴36を有する。
【0095】
そして、ECU44がOCV38を制御することにより、ベーン体32が遅角側に回動するように進角側油圧室33および遅角側油圧室34に供給する油圧を調整することにより、ロックピン35をロック穴36に嵌合させてベーン体32をハウジング31に保持するように構成した。
【0096】
この結果、ベーン体32をハウジング31に確実に保持させることができ、ベーン体32がハウジング31に衝突することを確実に防止することができるとともに、ベーン体32がばたつくのを確実に防止することができる。
【0097】
また、本実施の形態では、ECU44が、油圧センサ41およびエンジン回転数センサ43からの検知情報に基づいてオイルに混入される気泡率を取得するので、気泡率を確実に取得して保持制御を実施することができる。
【0098】
また、本実施の形態では、ECU44が、油圧が所定値P1未満の場合にウォーニングランプ51に異常信号を出力してウォーニングランプ51を点灯させるようにしているので、オイルパン11に貯留されるオイルが低下したことを確実に検知して警告することができる。
【0099】
この結果、運転者にオイルパン11内のオイルを交換するための作業を促してオイル交換後に、VVT22に対してベーン体32をハウジング31に安定して保持できる油圧を供給することができる。
【0100】
なお、本実施の形態では、油圧とエンジン回転数とに基づいて気泡率を推定しているが、これに限定されるものではない。例えば、図7の気泡率判定マップ54に基づいて気泡率を取得してもよい。
【0101】
図7に示す気泡率判定マップ54は、任意の油温(例えば、80℃)とエンジン回転数に基づいて油圧Poが割り当てられており、この油圧Poにおける気泡率は正常(例えば、気泡率が零)となっている。ECU44は、この油圧Poに対する油圧の変化分を気泡率として取得する。
【0102】
すなわち、油圧Poに対して油圧が低下した場合には、オイルに気泡が混入されることになるので、ECU44は、油温センサ42が任意の油温を検知したときに、この任意の油温とエンジン回転数センサ43との実測値によって油圧Piを推定し、この推定された油圧Piと気泡率が正常な油圧Poとの差分から気泡率を推定する。なお、ROM46には油温毎に応じた気泡率判定マップ54が記憶されている。この場合には、ROM46、油圧センサ41、油温センサ42およびエンジン回転数センサ43が気泡率取得手段を構成している。
【0103】
なお、本実施の形態の内燃機関の制御装置4は、車両用内燃機関に適用した例について説明したが、動力源として内燃機関を用いるものであれば適用可能であり、例えば、所謂ハイブリッド車や自動二輪車等に搭載される内燃機関はもとより、船舶や建設機械等のように車両以外のものに搭載される内燃機関にも適用可能である。
【0104】
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、オイルに混入される気泡率と油圧とに基づいて早期に第2の回転体を第1の回転体に保持することができるようにして、第2の回転体がばたつくのを防止して、ドライバビリティが悪化するのを防止することができるという効果を有し、バルブタイミング可変機構に供給される油圧の異常時にバルブタイミング可変機構を保護するようにした内燃機関の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0105】
2 エンジン(内燃機関)
4 制御装置
6 クランクシャフト(出力軸)
13 オイルポンプ
20 吸気カムシャフト(カムシャフト)
21 排気カムシャフト
22 VVT(バルブタイミング可変機構)
31 ハウジング(第1の回転体)
32 ベーン体(第2の回転体)
33 進角側油圧室
34 遅角側油圧室
35 ロックピン(保持機構)
36 ロック穴(保持機構)
38 OCV(オイル供給部材)
41 油圧センサ(油圧検知手段、気泡率取得手段)
42 油温センサ(気泡率取得手段)
43 エンジン回転数センサ(気泡率取得手段)
44 ECU(制御手段)
46 ROM(気泡率取得手段)
51 ウォーニングランプ(警告手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸に連結される第1の回転体の内部にカムシャフトに連結される第2の回転体を回動可能に収容し、前記第2の回転体によって区画される進角側油圧室および遅角側油圧室の油圧が選択的に供給されることにより、前記カムシャフトと前記出力軸との相対回転位相を可変するバルブタイミング可変機構を備えた内燃機関の制御装置であって、
オイルに混入される気泡率に応じて予め定められた油圧の判定値が設定され、前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧が前記判定値未満となったことを条件として、前記バルブタイミング可変機構の油圧異常と判定し、前記第2の回転体が前記第1の回転体に対して回動するのを規制する保持制御を実施する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧が前記判定値以上である場合には、前記気泡率が高いことを条件として、前記バルブタイミング可変機構の油圧異常と判定し、前記保持制御を実施することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
オイルポンプから吐出されるオイルを前記進角側油圧室および前記遅角側油圧室に選択的に供給するオイル供給部材を備え、
前記バルブタイミング可変機構が、前記第2の回転体が前記第1の回転体に対して所定位置に回動したときに、前記第2の回転体を前記第1の回転体に固定する保持機構を有し、
前記制御手段は、前記オイル供給手段を制御することにより、前記ベーン体が前記所定位置に回動するように前記進角側油圧室および前記遅角側油圧室に供給する油圧を調整することにより、前記保持制御を実施することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧を検知する油圧検知手段と、オイルに混入される気泡率を取得する気泡率取得手段とを備え、
前記制御手段は、前記油圧検知手段および前記気泡率取得手段からの情報に基づいて前記保持制御を実施することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段から出力される前記異常信号に基づいて警告を行う警告手段を備え、前記制御手段は、前記バルブタイミング可変機構に供給される油圧が前記判定値未満であることを条件として、前記警告手段に前記異常信号を出力することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113146(P2013−113146A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257912(P2011−257912)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】