説明

内燃機関の動弁試験装置

【課題】油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れを低減できる内燃機関の動弁試験装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の動弁試験装置において、制御装置は、内燃機関のクランク角度を含む目標リフト波形情報、回転数情報及び負荷情報に対応する弁駆動装置の動作特性に基づく動作遅れを補償する補償波形を記憶した補償波形データベースを有し、弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形をドライブ波形として弁駆動ピストンを駆動し、実応答データである内燃機関のクランク角度と、回転数と、弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰から演算した負荷とを取得し、取得した内燃機関のクランク角度、回転数データ及び負荷を補償波形データベースへ与え、対応する補償波形がある場合には、対応する補償波形を目標リフト波形に加えて補償ドライブ波形を作成し、補償ドライブ波形で弁駆動装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気弁、排気弁を試験的に駆動するための内燃機関の動弁試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の制御の自由度を高めるため、油圧アクチュエータ及び油圧サーボ弁等を用いて吸気弁、排気弁を制御する油圧式の弁駆動装置がある。例えば、弁の開閉動作(リフト)のみをアクチュエータにて行う、弁駆動装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の弁駆動装置では、自由な弁制御が可能となるものの、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れが生じる。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れを低減できる内燃機関の動弁試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために本発明の内燃機関の動弁試験装置は、弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有し、内燃機関の排気弁と吸気弁との少なくとも一方を駆動可能な弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、前記制御装置は、前記内燃機関のクランク角度を含む目標リフト波形情報、回転数情報及び負荷情報に対応する弁駆動装置の動作特性に基づく動作遅れを補償する補償波形を記憶した補償波形データベースを有し、前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形をドライブ波形として前記弁駆動ピストンを駆動し、実応答データである前記内燃機関のクランク角度と、回転数と、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰から演算した負荷とを取得し、前記取得した前記内燃機関のクランク角度、回転数データ及び負荷を前記補償波形データベースへ与え、対応する補償波形がある場合には、前記対応する補償波形を前記目標リフト波形に加えて補償ドライブ波形を作成し、前記補償ドライブ波形で前記弁駆動装置を制御することを特徴とする。
【0007】
これにより、補償波形を駆動しようとする前記目標リフト波形に、加えて補償ドライブ波形を作成するタイミングを早くすることができる。油圧による弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れがより早く補償され、所望の応答で弁駆動できる。また、油圧アクチュエータは出力が高く、内燃機関での高回転の追従も可能となる。内燃機関での回転数の変更、クランク角度の変更、負荷の変更に追随した動弁動作とすることができる。また、クランクシャフトによってカムシャフトを駆動する機構はカムの位相が固定であるが、本発明の内燃機関の動弁試験装置はそのような機構を有さない。このため、本発明の内燃機関の動弁試験装置では、吸排気弁の開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁及び吸気弁の開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる自由度の高い内燃機関の動弁試験装置とすることができる。例えば、内燃機関の動弁試験において、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0008】
本発明の望ましい態様として前記制御装置は、前記補償ドライブ波形で弁駆動ピストンを駆動し実応答データを取得し、目標誤差に到達しない場合には、前記補償ドライブ波形をさらに補正することが好ましい。これにより、精度の高い実応答とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内燃機関の動弁試験装置によれば、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の構成図である。
【図2】図2は、弁駆動装置の概要図である。
【図3】図3は、制御装置の構成図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る補償波形の作成手順を説明する説明図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置のブロック線図を示す説明図である。
【図7−1】図7−1は、評価例の目標リフトと応答リフトの比較を示す図である。
【図7−2】図7−2は、図7−1の補償波形を示す図である。
【図7−3】図7−3は、図7−1の偏差を示す図である。
【図8−1】図8−1は、比較例の目標リフトと応答リフトの比較を示す図である。
【図8−2】図8−2は、図8−1の補償波形を示す図である。
【図8−3】図8−3は、図8−2の偏差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0012】
本実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の構成図である。図2は、弁駆動装置の概要図である。図3は、制御装置の構成図である。本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置100(以下、動弁試験装置という。)に用いられる動弁装置は、シリンダブロック3内での燃焼用ピストン2の上下動に伴い、エンジンバルブとしての排気弁4a及び吸気弁4bを駆動する装置である。
【0013】
図1に示すように、動弁試験装置100は、内燃機関1(エンジン)に設置される弁駆動装置10と、内燃機関1の状態を計測する計測装置20、21と、弁駆動装置10に油圧を供給する油圧ユニット30と、弁駆動装置10を制御する制御装置80と、信号ラインI1、I2、I3、I4、I5と、油圧ラインO1及びO2と、を有している。なお、ダイナモ200は、電力変換装置である。ダイナモ200は、必須の構成要素ではなく付加要素であり、例えば後述する試験装置として使用する場合に用いる。
【0014】
図2に示すように、弁駆動装置10は、弁駆動シリンダ11と、弁駆動シリンダ11内に移動可能に収納された弁駆動ピストン12と、弁駆動ピストン12を駆動するためのサーボ弁13と、弁駆動ピストン12の位置を計測する変位計15とを有している。図1に示すように内燃機関1は、シリンダブロック3と、クランクケース9と、燃焼用ピストン2と、クランクシャフト7と、コネクティングロッド8とを有している。燃焼用ピストン2とクランクシャフト7とがコネクティングロッド8で連結されている。このような構造により、燃焼用ピストン2の往復運動がクランクシャフト7で回転運動に変換される。
【0015】
また、図1及び図2に示すように内燃機関1は、排気弁4a及び吸気弁4bと、弁ロッド5と、バルブスプリング6とを有している。排気弁4a、吸気弁4bは、各々、弁ロッド5の下端に固定されており、弁ロッド5に設けられたバルブスプリング6により閉弁方向に力が付勢されている。弁駆動装置10は、内燃機関1上に搭載され、弁駆動ピストン12が弁ロッド5と接続されている。又は、弁駆動装置10は、弁閉止時にわずかな隙間をあけ配置される。これにより、弁駆動ピストン12を駆動すると、弁ロッド5に応じて排気弁4a及び吸気弁4bが駆動される。なお、弁駆動ピストン12が弁ロッド5と接続される場合には、バルブスプリング6は不要となる。
【0016】
図2に示す弁駆動シリンダ11内に移動可能に収納された弁駆動ピストン12は、油圧アクチュエータであって、弁駆動ピストン12は弁駆動シリンダ11に油圧が供給されると伸びて排気弁4a又は吸気弁4bを開動作させる。また弁駆動ピストン12は弁駆動シリンダ11から油圧が排出されると縮んで排気弁4a又は吸気弁4bを閉動作させる。サーボ弁13は、弁駆動シリンダ11の外部側面に取り付けられている。サーボ弁13は、後述する油圧ユニット30と油圧の供給ラインである油圧ラインO1及び戻りラインである油圧ラインO2で接続されている。サーボ弁13は、制御装置80からの信号ラインI2の指示に基づいて弁駆動シリンダ11への油圧の供給又は弁駆動シリンダ11から油圧の排出を制御する。例えば、サーボ弁13は、スプール、油路、電磁コイル等により構成されている。変位計15は、弁駆動シリンダ11での弁駆動ピストン12の位置を計測し、計測した位置データを制御装置80へ出力する。
【0017】
図1に示す計測装置20は、内燃機関1の回転数を計測するエンコーダである。また、計測装置21は、内燃機関1のクランク角度を計測するクランク角センサである。計測装置20、21で計測された内燃機関1の回転数情報及びクランク角度情報は、制御装置80へ出力される。ここで、回転数というときには、各クランク角度での単位時間当たりの角度変化である回転速度をいうものとする。
【0018】
制御装置80は、弁駆動装置10を制御する装置である。図1に示すように、制御装置80は、信号ラインI1を介して油圧ユニット30を起動又は停止する制御を行う。また、制御装置80は、信号ラインI2を介してサーボ弁13を制御できる。また、制御装置80は、信号ラインI3、I4、I5を介して変位計15及び計測装置20、21に接続されている。次に、図3を用いて、制御装置80を説明する。
【0019】
図3に示す制御装置80は、入力処理回路81と、入力ポート82と、処理部90と、記憶部94と、出力ポート83と、出力処理回路84と、を有する。処理部90は、例えば、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)91と、RAM(Random Access Memory)92と、ROM(Read Only Memory)93とを含んでいる。制御装置80には、表示装置85と、入力装置86とが付随していてもよい。制御装置80には、表示装置85と、入力装置86とが必要に応じて接続可能である。また制御装置80は表示装置85と、入力装置86とがなくても動作可能である。
【0020】
処理部90と、記憶部94と、入力ポート82及び出力ポート83とは、バス87、バス88、バス89を介して接続される。バス87、バス88及びバス89により、処理部90のCPU91は、記憶部94と、入力ポート82及び出力ポート83と相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。
【0021】
入力ポート82には、入力処理回路81が接続されている。入力処理回路81には、例えば、計測データisが接続されている。そして、計測データisは、入力処理回路81に備えられるノイズフィルタやA/Dコンバータ等により、処理部90が利用できる信号に変換されてから、入力ポート82を介して処理部90へ送られる。これにより、処理部90は、必要な情報を取得することができる。計測データisは、例えば変位計15、計測装置20、21から信号ラインI3、I4、I5を介して取得した変位データ、クランク角度データ、回転数データである。
【0022】
出力ポート83には、出力処理回路84が接続されている。出力処理回路84には、表示装置85や、外部出力用の端子が接続されている。出力処理回路84は、表示装置制御回路、弁駆動装置等の制御信号回路、信号増幅回路等を備えている。出力処理回路84は、処理部90が算出したサーボ弁13への信号データを表示装置85に表示させる表示信号として出力したり、サーボ弁13へ伝達する指示信号idとして出力したりする。表示装置85は、例えば液晶表示パネルやCRT(Cathode Ray Tube)等を用いることができる。指示信号idは、サーボ弁13へ信号ラインI2を介して伝達される。
【0023】
記憶部94は、動弁試験装置100の動作手順を含むコンピュータプログラム等が記憶されている。ここで、記憶部94は、RAMのような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、ハードディスクドライブあるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0024】
上記コンピュータプログラムは、処理部90へすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、動弁試験装置100の動作手順を実行するものであってもよい。また、この制御装置80は、コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、動弁試験装置100の動作手順を実行するものであってもよい。
【0025】
また、動弁試験装置100の動作手順は、予め用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーション、あるいは制御用コンピュータ等のコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。また、このプログラムは、ハードディスク等の記録装置、フレキシブルディスク(FD)、ROM、CD−ROM、MO、DVD、フラッシュメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0026】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」には、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線網を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含むものとする。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0027】
次に、図1から図4を用いて、補償波形データベース及び補償波形の作成手順を説明する。図4は、本実施形態に係る補償波形の作成手順を説明する説明図である。
【0028】
動弁試験装置100の制御装置80は、計測装置20、21から、クランク角度及び回転数データを取得する。制御装置80は、取得した回転数データを回転数情報72として記憶部94又はRAM92に記憶する。本実施形態では、制御装置80は、例えば、4ストロークエンジンでは燃焼用ピストン2が2往復する間に、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うことで1サイクルを完結する。制御装置80は、この1サイクル分の目標リフト波形を生成する。制御装置80は、クランク角度を含む目標リフト波形情報71として目標リフト波形を記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0029】
次に、制御装置80は、予め目標リフト波形と同一のドライブ波形で弁駆動ピストン12を駆動する。制御装置80は、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0030】
次に、制御装置80は、弁駆動装置の動特性計算を行う。上述した1サイクルのドライブ波形及び応答波形は、クランク角度をインデックスとして回転数と共に記憶されているので、これを時間の経過に伴う、時刻をインデックスとした時間ドライブ波形及び時間応答波形に変換する。時間ドライブ波形に対する時間応答波形の時間に関する位相ずれが弁駆動装置10の動作遅れ特性であり、時間ドライブ波形に対する時間応答波形の振幅減衰が弁駆動装置10の応答振幅減衰特性である。動作遅れと応答振幅減衰を合わせて弁駆動装置10の動特性(動作特性)と呼ぶ。制御装置80は、弁駆動装置10の動特性を時間ドライブ波形と時間応答波形から計算し、記憶部94又はRAM92に記憶する。動作特性は例えば伝達関数の形で計算してもよい。
【0031】
次に、制御装置80は、弁駆動装置10の応答振幅減衰特性から負荷を計算し、負荷情報73として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0032】
次に、制御装置80は、弁駆動装置10の動作特性の逆動特性として例えば、逆伝達関数を計算する。すなわち、弁駆動装置10の動作特性の逆動特性計算は、上述した動作特性が伝達関数の形で計算されていると、動作特性の伝達関数の逆関数である逆伝達関数を計算すればよい。
【0033】
次に、制御装置80は、目標リフト波形(時間目標リフト波形)から応答波形(時間応答波形)を引いた偏差波形を生成する。制御装置80は、偏差波形に上述した逆動特性を作用させ補償波形を生成する。例えば、偏差波形に前記逆伝達関数を作用させると補償波形が計算できる。次に、制御装置80は、上述した目標リフト波形情報71と、回転数情報72と、負荷情報73と、をインデックスとして紐付けた補償波形を補償波形データベース74として記憶部94又はRAM92に記憶する。本実施形態では、制御装置80が補償波形の各成分を作成したが、制御装置80とは異なるコンピュータシステムで補償波形の各成分を作成し、補償波形の各成分のデータを伝送して記憶部94又はRAM92に記憶するようにしてもよい。
【0034】
また、実際の弁駆動装置10の動特性(動作特性)を元に補償波形を作成したが、シミュレーションで補償波形を作成してもよい。まず、予め、弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルを作成する。解析モデルは、高次の常微分非線形方程式で記述され、コンピュータを用いた数値計算により、その解として弁駆動ピストン12の変位等を求めることができる。弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルは、弁駆動ピストン12の質量、ストローク、弁駆動ピストン12と弁駆動シリンダ11との間の摩擦係数、バルブスプリング6のばね定数、弁駆動シリンダ11への油圧の供給及び排出と弁駆動シリンダ11内での油の圧縮、供給と排出を切り替えるサーボ弁13動作遅れ等を考慮して作成される。解析可能なモデルでは、ドライブ波形で弁駆動装置10(アクチュエータ)を駆動したときの応答波形が計算できる。作成した解析モデルを用いて、内燃機関1(エンジン)の回転数毎に弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルにドライブ波形の入力を与え、その入力に対する応答をコンピュータでシミュレーションする。そして、上述した補償波形の作成手順にて補償波形を作成することができる。
【0035】
動弁試験装置100は、クランク角度及び回転数データを変更した試験を行う。あるいは、複数のシミュレーションを行う。これにより、目標リフト波形情報71と、回転数情報72と、負荷情報73と、をインデックスとして紐付けた複数の補償波形が記憶された補償波形データベース74とする。
【0036】
補償波形データベース74を有する制御装置80は、図4に示すように、目標リフト波形情報71と、回転数情報72と、負荷情報73と、を補償波形データベース74へ与えると、記憶部94又はRAM92に記憶された目標リフト波形、回転数、負荷情報に合致又は近い補償波形75を出力することができる。制御装置80は、取得した補償波形75を記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0037】
次に、図5及び図6を用いて動弁試験装置100の動作手順について説明する。図5は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。図6は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置のブロック線図を示す説明図である。
【0038】
図5に示すように、制御装置80は、計測装置20、21からリアルタイムに内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得する(ステップS1)。例えば、4ストロークエンジンでは燃焼用ピストン2が2往復する間に、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うことで1サイクルを完結する。制御装置80は、この1サイクル分の目標リフト波形を生成する(ステップS2)。
【0039】
次に、制御装置80は、目標リフト波形と同一のドライブ波形を生成する。(ステップS3)。制御装置80は、ドライブ波形で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波形との偏差を算出しPID制御する(ステップS4)。
【0040】
制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS5)、目標バルブリフト量との差(誤差)を演算する。演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、記憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形75が記憶されているか確認する手順を行う(ステップS7)。
【0041】
ステップS7では、制御装置80は、上述した図4に示す目標リフト波形情報71と、回転数情報72と、負荷情報73と、を補償波形データベース74へ与える。制御装置80は、記憶部94又はRAM92に記憶された目標リフト波形、回転数、負荷情報に合致又は近い補償波形75を出力することができる。制御装置80は、取得した補償波形75を記憶部94又はRAM92に記憶する。こうして、記憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形が記憶されている場合(ステップS7、Yes)、制御装置80のCPU91が補償波形をRAM92のワークエリアに読み込む手順を行ったうえで、制御装置80は次の補償ドライブ波形生成(ステップS9)の手順に進む。
【0042】
記憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形75が記憶されていない場合(ステップS7、No)は、制御装置80は、上述した図4に示す目標リフト波形情報71と、回転数情報72と、負荷情報73と、を補償波形データベース74へ与え、記憶部94又はRAM92に記憶された目標リフト波形、回転数、負荷情報に合致又は近い補償波形75がないとの応答を得た場合である。この場合(ステップS7、No)は、制御装置80は、補償波形生成(ステップS8)の手順に進む。例えば、補償波形生成(ステップS8)の手順では、制御装置80は、目標リフト波形(時間目標リフト波形)から応答波形(時間応答波形)を引いた偏差波形を生成する。制御装置80は、偏差波形に上述した逆動特性を作用させ補償波形を生成する。例えば、偏差波形に前記逆伝達関数を作用させると補償波形が計算できる。補償波形生成(ステップS8)の手順により補償波形を生成すると、制御装置80は次のドライブ波形生成(ステップS9)の手順に進む。
【0043】
動弁試験装置100の制御装置80は、補償ドライブ波を生成する手順を行う(ステップS9)。ステップS9において、上述したドライブ波形が目標リフト波形とされる。制御装置80は、目標リフト波形(ステップS3で生成したドライブ波形)に補償波形を足し合わせ補償ドライブ波形を生成する。
【0044】
図6のブロック図に示すように、制御装置80は、ドライブ波形生成ブロック51の信号Rは、補償波形生成ブロック53の出力の信号Sと加算点55で加算される。ここで、CPU91が、変位データをフィードバックする。図6では、加算後の信号T(補償ドライブ波形)は、図2に示す変位計15から弁駆動ピストン12の変位データ56を信号Uとして加算点57で加算(フィードバック接続)される。次に、制御装置80は、補償ドライブ波とフィードバックした変位データの偏差がPID制御ブロックへ送出される。つまり、図6で示す偏差の制御信号Vは、PID制御ブロック58へ送出される。これにより、図1に示す制御装置80は、サーボ弁13を制御する。なお、上述した加算点において適宜補正ゲインを加えても良い。補正ゲインは1でもよいが、装置特性変化や繰り返しによる過補償を考慮して0〜1の可変値をとるようにしていることが好ましい。
【0045】
このように制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波形との偏差を算出しPID制御する(ステップS4)。制御装置80は、補償ドライブ波形で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0046】
制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS25)、目標バルブリフト量との差(誤差)を演算する。演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、記憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形75が記憶されているか確認する手順を行う(ステップS7)。
【0047】
本実施形態の制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS5)、目標バルブリフト量との差(誤差)を演算し、演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで、上述した補償波形により補償ドライブ波形の生成(ステップS9)を行うことになる。ステップS4からステップ9までの手順が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで繰り返されるので、本実施形態の動弁試験装置は、目標誤差を達成した応答をするドライブ波形を生成できる。これにより、精度の高い応答とすることができる。
【0048】
記憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形75が記憶されていない場合(ステップS7、No)、例えば、補償波形生成(ステップS8)の手順では、制御装置80が補償波形の作成を行うには、所定時間かかることになる。ここで、繰り返し補正波を生成する場合、例えば、制御装置80は、時間目標リフト波形とi回目の時間応答波形の偏差からi回目の偏差波形を生成し、偏差波形と逆動特性とから(i+1)回目の補償波形を生成する(ステップS28)。これにより、制御装置80は、i回目のドライブ波形と(i+1)回目の補償波形とから(i+1)回目のドライブ波形を生成する(ステップS9)。
【0049】
記憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形が記憶されている場合(ステップS7、No)、例えば、補償波形生成(ステップS8)の手順を省くことができる。このため、図6に示す制御装置80が補償波形作成ブロック53の出力の信号Sを加算点55で加算するタイミングが早くなる。ここで、繰り返し補償波形を生成する場合でも、目標誤差以内とする時間を短時間とできる。
【0050】
演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下であれば(ステップS26、Yes)、応答振幅減衰と動作遅れが補償されたので補償を終了する。
【0051】
上述したように、内燃機関の動弁試験装置100は、弁駆動ピストン12及び弁駆動シリンダ11を有し、内燃機関1の排気弁4a又は吸気弁4bの少なくとも一方を駆動可能な弁駆動装置10と、前記弁駆動シリンダ12に油圧を供給する油圧ユニット30と、前記弁駆動装置10を制御する制御装置80と、を有する。制御装置80は、内燃機関1のクランク角度を含む目標リフト波形情報71、回転数情報72及び負荷情報73に対応する弁駆動装置10の動作特性に基づく動作遅れを補償する補償波形を記憶した補償波形データベース74を記憶部94又はRAM92に記憶している。弁駆動ピストン12を駆動しようとする目標リフト波形をドライブ波形として弁駆動ピストン12を駆動し、実応答データである前記内燃機関1のクランク角度と、回転数と、前記弁駆動装置10の動作特性に基づく応答振幅減衰から演算した負荷とを取得し、前記取得した前記内燃機関のクランク角度、回転数データ及び負荷を前記補償波形データベース74へ与え、対応する補償波形75がある場合には、前記対応する補償波形75を前記目標リフト波形に加えて補償ドライブ波形を作成し、前記補償ドライブ波形で前記弁駆動装置10を制御する。
【0052】
これにより、補償波形75を駆動しようとする前記目標リフト波形に、加えて補償ドライブ波形を作成するタイミングを早くすることができる。油圧による弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れがより早く補償され、所望の応答で弁駆動できる。また、油圧アクチュエータは出力が高く、内燃機関1での高回転の追従も可能となる。内燃機関1での回転数の変更、クランク角度の変更、負荷の変更に追随した動弁動作とすることができる。また、クランクシャフトによってカムシャフトを駆動する機構はカムの位相が固定であるが、本実施形態の内燃機関1の動弁試験装置100はそのような機構を有さない。このため、本実施形態の内燃機関の動弁試験装置100では、吸排気弁の開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁及び吸気弁の開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる自由度の高い内燃機関1の動弁試験装置100とすることができる。
【0053】
例えば、内燃機関の動弁試験において、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0054】
上述したように本実施形態の動弁試験装置100では、前記制御装置80は、補償ドライブ波形の実応答データを取得し、目標誤差に到達しない場合には、前記補償ドライブ波形をさらに補正することが好ましい。これにより、精度の高い応答とすることができる。
【0055】
(評価)
上述した実施形態で説明した動弁試験装置100で評価を行った。評価で使用した内燃装置(エンジン)はディーゼルエンジンであり、4気筒16バルブである。内燃装置(エンジン)の定格出力は、40.9kW、定格回転数は1800rpmである。
【0056】
動弁試験装置100の弁駆動装置10の仕様は、排気弁4a及び吸気弁4bを駆動する一組の弁駆動装置が8組一体化され、最大ストローク14mm、最大速度2.2m/s、最大推力1.1kN、外径寸法426mm×250mm×273mm、質量75kgである。上述した内燃装置(エンジン)に弁駆動装置10を組み付け、図5に示すフローチャートに沿って動弁試験装置の動作を行った。評価方法は、変位計15のデータ及びクランク角度センサである計測装置21のデータを制御装置80で取得する。弁駆動ピストン12の目標リフト量と、実応答データである応答リフト量を比較した。
【0057】
評価例は、補償波形データベース74を有する制御装置80を備えた動弁試験装置である。比較例は、補償波形データベース74を有しない制御装置80を備えた動弁試験装置である。比較例である補償波形データベース74を有しない制御装置80は、憶部94又はRAM92に記憶されている補償波形形が記憶されている場合(ステップS7、Yes)を実行できない。
【0058】
評価例の評価結果を図7−1、図7−2及び図7−3に示す。比較例の評価結果を図7−1、図7−2及び図7−3に示す。ここで、図7−1は、評価例の目標リフトと応答リフトの比較を示す図である。図7−2は、図7−1の補償波形を示す図である。図7−3は、図7−1の偏差を示す図である。また、図8−1は、比較例の目標リフトと応答リフトの比較を示す図である。図8−2は、図8−1の補償波形を示す図である。図8−3は、図8−2の偏差を示す図である。
【0059】
図7−1は、時間TS1で内燃機関の回転数が変動した場合、時間TS1の前後で評価例の目標リフトと応答リフトとの比較を行っている。図7−1に示すように、補償波形データベース74を有する制御装置80を備えた動弁試験装置は、時間TS1の前後で実応答データである応答リフト量を目標リフト量と重ね合わせると、両者はほぼ一致している。これは、図7−2に示すように、制御装置80は、時間TS1の直後に補償波形を変更し、補償ドライブ波生成できている。このため図7−3に示す目標リフト量と応答リフト量との偏差に時間TS1の前後で変化がなく、弁動作遅れのおそれが低減できている。
【0060】
図8−1は、時間TS2で内燃機関の回転数が変動した場合、時間TS2の前後で比較例の目標リフトと応答リフトとの比較を行っている。図8−1に示すように、補償波形データベース74を有していない制御装置80を備えた動弁試験装置は、時間TS2の前では実応答データである応答リフト量を目標リフト量と重ね合わせると、両者はほぼ一致している。しかしながら、時間TS2の直後であると、応答リフト量と目標リフト量との乖離がみられる。また、応答リフト量と目標リフト量との乖離は、時間が経過すると解消され、応答リフト量と目標リフト量とが一致していく傾向がみられる。これは、図8−2に示すように、制御装置80は、時間TS2の直後に補償波形のデータがなく、補償波形生成の時間を要している。このため、図8−3に示す目標リフト量と応答リフト量との偏差は、時間TS2の直後に大きくなる。
【0061】
評価結果した動弁試験装置100では、吸排気弁の開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁及び吸気弁の開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる。このため、例えば内燃機関の試験装置に搭載された場合、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ、燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る動弁試験装置は、内燃機関の吸気弁又は排気弁を開閉駆動する試験機に適している。なお、本発明は、燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、前記制御装置は、前記内燃機関のクランク角度を含む目標リフト波形情報、回転数情報及び負荷情報に対応する弁駆動装置の動作特性に基づく動作遅れを補償する補償波形を記憶した補償波形データベースを有し、前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形をドライブ波形として前記弁駆動ピストンを駆動し、実応答データである前記内燃機関のクランク角度と、回転数と、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰から演算した負荷とを取得し、前記取得した前記内燃機関のクランク角度、回転数データ及び負荷を前記補償波形データベースへ与え、対応する補償波形がある場合には、前記対応する補償波形を駆動しようとする前記目標リフト波形に、加えて補償ドライブ波形を作成し、前記補償ドライブ波形で前記弁駆動装置を制御する内燃機関の動弁装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 内燃機関
2 燃焼用ピストン
3 シリンダブロック
4a 排気弁
4b 吸気弁
5 弁ロッド
6 バルブスプリング
7 クランクシャフト
8 コネクティングロッド
9 クランクケース
10 弁駆動装置
11 弁駆動シリンダ
12 弁駆動ピストン
13 サーボ弁
15 変位計
20、21 計測装置
30 油圧ユニット
51 目標リフト波形生成ブロック
53 補償波形生成ブロック
55、57 加算点
58 PID制御ブロック
80 制御装置
100 動弁試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有し、内燃機関の排気弁と吸気弁との少なくとも一方を駆動可能な弁駆動装置と、
前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、
前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、
前記制御装置は、
前記内燃機関のクランク角度を含む目標リフト波形情報、回転数情報及び負荷情報に対応する弁駆動装置の動作特性に基づく動作遅れを補償する補償波形を記憶した補償波形データベースを有し、
前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形をドライブ波形として前記弁駆動ピストンを駆動し、実応答データである前記内燃機関のクランク角度と、回転数と、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰から演算した負荷とを取得し、
前記取得した前記内燃機関のクランク角度、回転数データ及び負荷を前記補償波形データベースへ与え、対応する補償波形がある場合には、前記対応する補償波形を前記目標リフト波形に加えて補償ドライブ波形を作成し、前記補償ドライブ波形で前記弁駆動装置を制御することを特徴とする内燃機関の動弁試験装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記補償ドライブ波形で弁駆動ピストンを駆動し実応答データを取得し、目標誤差に到達しない場合には、前記補償ドライブ波形をさらに補正する請求項1に記載の内燃機関の動弁試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【公開番号】特開2012−181058(P2012−181058A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43162(P2011−43162)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】