説明

内燃機関の可変動弁装置

【課題】ロッカーアームを機関弁が開弁状態となるように押さえる油圧ピストンを備えた可変動弁装置において、油圧ピストンの昇降により発生した油圧をエンジン駆動エネルギーとして回収する。
【解決手段】カムシャフト3の回転により機関弁(吸気弁2)を弁バネ5に抗して開弁するロッカーアーム6の上方に、油圧室12の油圧によりロッカーアーム6を押さえて吸気弁2を開弁状態に保持する油圧ピストン13と、油圧室12に逆止弁14を介して作動油を導入し油圧室12から電磁弁15を介して作動油を排出する油路16とを備えたブロック7を配置し、電磁弁15により油圧室12の圧力を保持・解放して吸気弁2の閉弁時期を制御する。カムシャフト3に油圧タービン20を設け、油圧タービン20とブロック7の油路16の排出ポート19とを油導入路21で接続し、油圧タービン20に油排出路22を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関弁の閉弁時期を制御することで圧縮比を変化させる内燃機関の可変動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジンの排ガス中における有害成分の低減に関する要求が高まり、排ガス中のNOx及びスモークを同時に低減することが可能な均一予混合燃焼の研究がなされている。
【0003】
均一予混合燃焼とは、燃料を通常よりも早いタイミング(ピストン上死点よりも所定時期以上早いタイミング)でシリンダ内に噴射し、シリンダ内にて均一な混合気を生成して同時多発的に燃焼を生じさせるものである。この均一予混合燃焼を実現するためには、着火時期のコントロールが重要であり、圧縮比を通常燃焼の場合よりも大幅に低めることが可能な可変圧縮比システムが必要となる。即ち、均一予混合燃焼においては、シリンダ内の均一予混合気がピストンの上昇に伴って次第に圧縮されるが、このとき圧縮比が通常燃焼の場合と同じであると、ピストンが上死点に至る前に自然着火が生じてしまい、クランクシャフトにマイナス仕事がなされてしまう。これを回避するためには、圧縮比を下げ、ピストンが上死点に至る前に上記混合気に着火が生じないようにすることが必要となる。
【0004】
従来、圧縮比を可変にする技術としては、吸気カムシャフトの位相を可変にしたもの(位相可変方式)や、使用するカムを切り換えて機関弁(吸排気弁)のリフトを可変にしたもの(カム切換方式)が知られているが、何れも圧縮比を大幅に且つ任意に変更することが困難であった。圧縮比を大幅に且つ任意に変更できる可変圧縮比システムとして、ロッカーアームを油圧ピストンで押さえて機関弁を開弁状態に保持し、油圧ピストンに押下力を付与する油圧室の油圧をリリーフすることで機関弁を閉弁するようにした可変動弁装置(油圧によるバルブ押さえ方式)が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
この種の可変動弁装置の一例を図4に示す。この可変動弁装置は、カムシャフト3の回転により機関弁(吸気弁)2を弁バネ5に抗して開弁するロッカーアーム6の上方に、油圧室12の油圧によりロッカーアーム6を押さえて吸気弁2を開弁状態に保持する油圧ピストン13と、油圧室12に逆止弁(図示せず)を介して作動油(エンジン潤滑油)を導入する導入通路16aと、油圧室12から電磁弁15を介して作動油を排出する排出通路16bとを備えたブロック7を配置し、電磁弁15により油圧室12の圧力を保持又は解放して吸気弁2の閉弁時期を制御するものである。
【0006】
この装置において、吸気弁2の開弁は、通常の動弁系と同じであり、回転するカムシャフト3のカム山3aに押されたロッカーアーム6が弁バネ5の付勢力に抗して図4にて時計回りに傾動し、吸気弁2が押し下げられて開弁する。このとき、油圧室12には導入通路16aを介してエンジンの潤滑油が通常の油圧で供給されているため、吸気弁2の下降(バルブリフト)に追従して油圧ピストン13が下降して、油圧室12には導入通路16aから作動油が流入する。このとき、電磁弁15は閉じられている。
【0007】
吸気弁2の下降すなわちバルブリフトが最大(吸気弁全開)になったとき、電磁弁15を開弁すると、油圧室12が排出通路16bに連通され、弁バネ5の付勢力を受ける油圧室12内の作動油が排出通路16bにリリーフされ、油圧ピストン13の上昇が許容される。この結果、回転するカムシャフト3のカム山3aに応じてロッカーアーム6が弁バネ5の付勢力により図4にて反時計回りに傾動し、吸気弁2が上昇して閉弁される。
【0008】
電磁弁15の開弁時期を、吸気弁2がバルブリフト最大となったときより任意時間遅らせると、電磁弁15が開弁されるまでの間(閉弁されている間)、油圧室12内の油圧が保持されて油圧ピストン13の上昇が妨げられるため、ロッカーアーム6の傾動姿勢が図4にて右下がりの状態のままとなり、吸気弁2が開弁状態に保持される。その後、電磁弁15が開弁されると、油圧室12内の作動油が排出通路16bにリリーフされ、吸気弁2が弁バネ5の付勢力で上昇して閉弁される。
【0009】
よって、電磁弁15の開弁時期を適宜制御することで、吸気弁2の閉弁時期を、カムシャフト3のカム山3aによって定まる閉弁時期よりも容易に遅らせることができ、圧縮比を通常よりも大幅に且つ任意に低く変更することが可能となる。従って、この油圧によるバルブ押さえ方式の可変動弁装置は、均一予混合燃焼の可変圧縮比システムに用いるのに好適である。
【0010】
【特許文献1】特開平7−233718号公報
【特許文献2】特開2006−152943号公報
【特許文献3】実開平6−67805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述の油圧によるバルブ押さえ方式による可変動弁装置においては、油圧ピストン13は、吸気弁2を開弁状態に保持する期間を除き、吸気弁2の開閉に応じて昇降する。そして、この油圧ピストン13の昇降に応じて、吸気弁2のリフト量に油圧ピストン13の直径を乗じた体積の潤滑油が導入通路16aから油圧室12に吸い込まれ、弁バネ5の付勢力により圧縮されつつ排出通路16bに吐出される。よって、その分だけエンジンの潤滑油が消費されてしまい、損失仕事が発生する。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記油圧ピストンの昇降により発生した油圧をエンジン駆動エネルギーとして回収できる内燃機関の可変動弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、カムシャフトの回転により機関弁を弁バネに抗して開弁するロッカーアームの上方に、油圧室の油圧により上記ロッカーアームを押さえて上記機関弁を開弁状態に保持する油圧ピストンと、上記油圧室に逆止弁を介して作動油を導入し且つ上記油圧室から電磁弁を介して作動油を排出する油路とを備えたブロックを配置し、上記電磁弁により上記油圧室の圧力を保持又は解放して上記機関弁の閉弁時期を制御する内燃機関の可変動弁装置において、上記カムシャフトに油圧タービンを設け、該油圧タービンに作動油を供給すべく上記油圧タービンと上記ブロックに形成された上記油路の排出ポートとを油導入路で接続し、上記油圧タービンにその内部の作動油を排出する油排出路を接続したものである。
【0014】
上記油圧タービンが、上記カムシャフトのカム山及び軸受部以外の部分の外周面に周方向に間隔を隔てて設けられた複数のタービンブレードと、これらタービンブレードを囲繞するように上記カムシャフトの周方向に沿って形成されたタービンハウジングとを有し、該タービンハウジングに、上記油導入路と上記油排出路とが夫々接続されてもよい。
【0015】
上記機関弁の上部に装着されて上記機関弁と一体的に昇降する部材と上記油圧ピストンとを連結する連結部材を備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロッカーアームを機関弁が開弁状態となるように押さえる油圧ピストンを備えた内燃機関の可変動弁装置において、その油圧ピストンの昇降により発生した油圧をエンジン駆動エネルギーとして回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る可変動弁装置の側断面図である。
【0019】
この可変動弁装置1は、通常燃焼(拡散燃焼)モードと予混合燃焼モードとを切り換えるディーゼルエンジンの機関弁(例えば吸気弁2)に適用され、カムシャフト3のカム山3aによって開弁された吸気弁2の閉弁時期をカム山3aによって定められる閉弁時期よりも任意時間遅くすることで、エンジンのシリンダ内の混合気の一部を吸気ポート4に逆流させ、実質的な圧縮比を低い側に変更するものである。これにより、予混合燃焼モード時の着火時期をコントロールすることができる。
【0020】
この可変動弁装置(可変圧縮比装置)1は、図1に示すように、ディーゼルエンジンのクランクシャフトの回転に同期して回転されるカムシャフト3と、カムシャフト3により駆動され吸気弁2を弁バネ5に抗して開弁するロッカーアーム6と、ロッカーアーム6を押さえて吸気弁2を開弁状態に保持すると共にこの押力を消勢して吸気弁2の閉弁時期を制御するアクチュエータを構成するブロック7とを備えている。
【0021】
上記カムシャフト3は、図示しないシリンダヘッド等に軸支され、ディーゼルエンジンのクランクシャフトの回転が、チェーン、ベルト又はギヤ等の回転力伝達部材を介して伝達されるようになっている。カムシャフト3には、吸気弁2を開閉させるために所定形状に形成されたカム山3aが形成されている。
【0022】
上記ロッカーアーム6は、シリンダヘッド等に取り付けられたロッカーシャフト6aに揺動可能に挿通されており、ロッカーシャフト6aから図1の左方に延出された入力端にはカム山3aに当接するローラ8が、ロッカーシャフト6aから右方に延出された出力端には吸気弁2の頂部に装着されたブリッジ10に当接する調整部材9が、それぞれ取り付けられている。調整部材9は、ロッカーアーム6に形成されたネジ穴に上方からネジ込まれ、ナット9aによって固定される。なお、上記ローラ8に代えてスリッパが設けられてもよい。
【0023】
上記ブリッジ10は、二本の吸気弁2の頂部に装着されており、これら二本の吸気弁2をまとめて動作させるための部材である。各吸気弁2は、弁バネ5によって閉弁方向(図中、上方向)に付勢され、シリンダ内に突出する弁傘部分2aが吸気ポート4の弁座4aに着座され、ブリッジ10が弁バネ5に抗して下方に押し下げられることで、弁傘部分2aが弁座4aから下方に離間し、開弁される。ブリッジ10には、その上下動をガイドするためのガイド穴10aが形成されており、ガイド穴10aにはシリンダヘッド等に取り付けられたガイドロッド11が挿入されている。
【0024】
上記ブロック7は、シリンダヘッド等に設けられており、油圧室12と、この油圧室12の油圧によりロッカーアーム6を押さえて吸気弁2を開弁状態に保持するための油圧ピストン13と、油圧室12に逆止弁14を介して作動油(エンジンの潤滑油)を導入し且つ油圧室12から電磁弁15を介して作動油を排出する油路16と、を少なくとも備えている。詳しくは、ブロック7には、円柱状の油圧ピストン13を上下方向に摺動可能に嵌挿する油圧シリンダ17が下向きに開口して形成されており、この油圧シリンダ17内の上部における油圧ピストン13の上面で区画された領域が油圧室12となっている。油圧ピストン13の下端は、ブロック7の下面より突出され、ロッカーアーム6の出力端の上部、具体的には調整部材9の上端部に当接されている。
【0025】
上記油路16は、作動油をブロック7に形成された導入ポート18から逆止弁14を介して油圧室12に導入する導入通路16aと、油圧室12内の潤滑油を電磁弁15を介してブロック7に形成された排出ポート19から排出する排出通路16bとを有する。導入通路16aの先端は、油圧シリンダ17の上部側面に接続されている。排出通路16bは、油圧シリンダ17の頂部と電磁弁15の弁室15aの下部とを連通する第1連絡通路16b1と、電磁弁15の弁座の周囲に弁室15aに繋げて環状に形成された第1油室16b2と、電磁弁15を冷却するため電磁弁15の外周に沿って環状に形成された第2油室16b4と、第1油室16b2と第2油室16b4とを連通する第2連絡通路16b3と、第2油室16b4と排出ポート19とを連通する第3連絡通路16b5とを有する。
【0026】
また、導入通路16aの逆止弁14よりも上流側の部分と、排出通路16bの第2連絡通路16b3とは、バイパス通路16cによって連通されている。バイパス通路16cは、導入ポート18から導入通路16aに導入された作動油を、油圧室12をバイパスして第2油室16b4に導き、電磁弁15のソレノイド15dを冷却するために設けられる。但し、バイパス通路16cを設けた場合、油圧室12に向かう作動油の一部がバイパスされるため、油圧室12にて油圧ピストン13を押し下げるように作用する作動油の油圧が小さくなり、油圧条件(エンジンのオイルポンプの作動条件、油温等)によっては、油圧ピストン13がロッカーアーム6の傾動に追従して下降しなくなる可能性があるため、バイパス通路16cを省略するか或いはバイパス通路16cに絞りを設けてもよい。
【0027】
油圧室12の油圧を解放する上記電磁弁15は、通電の有無により開閉動作するオンオフ型の二方電磁弁から構成されている。電磁弁15は、上下方向に長い中空円筒状の弁室15aと、弁室15a内の下部側に上下方向に摺動可能に嵌挿された円柱状の弁体15bと、弁体15bを閉方向(図1の下方)に常時付勢するバネ15cと、通電により弁体15bをバネ15cに抗して開方向(上方)に移動するソレノイド15dとから主に構成されている。ソレノイド15dには、ソレノイド15dへの通電、非通電を制御して電磁弁15の開閉を制御するための制御部25が接続されている。
【0028】
電磁弁15の開弁により油圧室12から第1連絡通路16b1を通って第1油室16b2に吐出された作動油は、第2連絡通路16b3を通って第2油室16b4に流入し、ソレノイド15bを冷却した後、第3連絡通路16b5を通って排出ポート19から排出される。排出ポート19から排出された作動油は、カムシャフト3に設けた油圧タービン20に油導入路21を介して供給され、カムシャフト3を回転させるように作用した後、油圧タービン20に接続された油排出路22からエンジンのヘッドカバー内に放出される。
【0029】
油圧タービン20は、カムシャフト3のカム山3a及び軸受部以外の部分の外周面に周方向に間隔を隔てて設けられた複数のタービンブレード20aと、これらタービンブレード20aを囲繞するようにカムシャフト3の周方向に沿って形成されたタービンハウジング20bとを有する。タービンハウジング20bとカムシャフト3の外周面との隙間には、図示しない環状のシールが設けられていて、タービンハウジング20b内の作動油が上記隙間から漏れないようになっている。
【0030】
このタービンハウジング20bには、タービンブレード20aに作動油を供給するため、上記ブロック7の排出ポート19に繋がれた油導入路21が接続されていると共に、タービンハウジング20b内の作動油を排出する油排出路22が接続されている。油排出路22の出口22aは、図1では下方に向けられており、エンジンのヘッドカバー内に作動油を排出するようになっているが、ロッカーシャフト6a又はロッカーアーム6のローラ8に指向させ、それらに作動油を供給するようにしてもよい。
【0031】
本実施形態に係る可変動弁装置1の作用を述べる。
【0032】
図1に示すカムシャフト3の回転に伴ってロッカーアーム6の入力端のローラ8がカムシャフト3のカム山3aのアップスロープに乗り上がると、ロッカーアーム6が弁バネ5の力に抗して時計回りに回動され始め、ロッカーアーム6の出力端の調整部材9がブリッジ10を下方に押圧し、吸気弁2が弁バネ5の力に抗して押し下げられて開弁される。その後、ロッカーアーム6のローラ8がカム山3aの頂点に乗り上がったとき、吸気弁2が最大リフト状態(全開)となり、更にカムシャフト3が回転してローラ8がカム山3aの頂点を越えてダウンスロープに差し掛かると、各吸気弁2が弁バネ5の力によって上昇され、最終的には各吸気弁2の弁傘部分2aが弁座4aに着座して閉弁(全閉)される。
【0033】
エンジンの通常運転時(拡散燃焼時)には、通常圧縮比の運転を行う。通常圧縮比運転では、図2(a)に示すように、吸気弁2が最大リフト状態となるクランクアングルにて、それまで閉じられていた電磁弁15を開く。これにより、油圧室12が第1連絡通路16b1を介して第1油室16b2と連通し、油圧ピストン13の上昇が許容される。よって、ロッカーアーム6の揺動が許容され、吸気弁2がカム山3aのダウンスロープの形状に応じて弁バネ5により閉じられる。吸気弁2が閉じられたならば、電磁弁15を閉じる。これにより、図1にて、油圧室12の出口側が閉塞された状態となるので、導入ポート18から導入通路16aに流入した作動油は、油圧室12に向かうことなく、バイパス通路16cを通って第2油室16b4に至り、ソレノイド15dを冷却する。
【0034】
エンジンの均一予混合燃焼時には、低圧縮比の運転を行う。低圧縮比運転では、図2(b)に示すように、電磁弁15の開弁時期を、所望する低圧縮比に応じて、吸気弁2が最大リフト状態となるクランクアングルよりも所定期間Aだけ遅らせる。これにより、図1にて、油圧室12の油圧が保持されて油圧ピストン13の上昇が妨げられ、ロッカーアーム6が右下がりの傾斜姿勢に保持され、吸気弁2が略最大リフト位置まで押し下られた状態に保持される。その後、電磁弁15を開くことで、油圧ピストン13の上昇が許容され、ロッカーアーム6の揺動が許容され、吸気弁2が弁バネ5に付勢力によって閉じられる。よって、電磁弁15の開弁時期を適宜制御することで、図3に示すように、吸気弁2の閉弁時期を、カムシャフト3のカム山3aによって定まる閉弁時期よりも任意且つ容易に遅らせることができ、圧縮比を通常よりも大幅に且つ任意に低く変更することが可能となる。
【0035】
次に、作動油の流れを述べる。
【0036】
吸気弁2のリフト前には、図1に示す導入ポート18から流入した作動油は、導入通路16a、バイパス通路16c、第2連絡通路16b3を通り、第2油室16b4に至り、ソレノイド15dを冷却して排出ポート19から排出される。このとき電磁弁15は閉じられており、油圧室12、第1連絡通路16b1、第1油室16b2には、作動油が充満した状態となっている。
【0037】
吸気弁2のリフト中は、導入ポート18の作動油は、導入通路16a、バイパス通路16c、第2連絡通路16b3を通り、第2油室16b4に至り、排出ポート19から排出される。また、油圧ピストン13が下がるに従って、逆止弁14を通過した作動油が油圧室12に流入する。このとき電磁弁15は閉じられており、第1油室16b2には、作動油が充満した状態となっている。
【0038】
吸気弁2がリフト状態に保持されているときには、導入ポート18の作動油は、導入通路16a、バイパス通路16c、第2連絡通路16b3を通り、第2油室16b4に至り、排出ポート19から排出される。電磁弁15は閉じられており、油圧室12、第1連絡通路16b1には、作動油が充満した状態となっていて、油圧ピストン13は下方に突出された状態に保持されている。また、第1油室16b2内にも作動油が充満している。
【0039】
吸気弁2を閉じ動作するときには、電磁弁15が開かれる。すると、油圧室12の作動油は、第1連絡通路16b1を通って第1油室16b2に移動し、第2連絡通路16b3を通って第2油室16b4に至り、排出ポート19から排出される。同時に、導入ポート18から流入した作動油は、導入通路16a、バイパス通路16c、第2連絡通路16b3を通り、第2油室16b4に至り、排出ポート19から排出される。
【0040】
排出ポート19から排出された作動油は、図1に示す油導入路21を通って油圧タービン20のタービンハウジング20b内に供給され、タービンブレード20aに流れ当たってカムシャフト3に回転力を与えた後、油排出路22を通ってタービンハウジング20bから排出される。カムシャフト3は、チェーン、ベルト、ギヤ等の回転力伝達部材を介してクランクシャフトに接続されているので、油圧ピストン12の昇降によって生じた油圧がエンジン駆動エネルギーとして回収されることになる。
【0041】
すなわち、油圧ピストン13の昇降により、吸気弁2のリフト量に油圧ピストン13の直径を乗じた体積の潤滑油が導入通路16aから油圧室12に吸い込まれ、弁バネ5の付勢力により圧縮されつつ排出通路16bに吐出されるところ、このように弁バネ5の付勢力(スプリング荷重)により加圧された作動油が、カムシャフト3に設けた油圧タービン20を回転させるエネルギーとして有効利用され、エンジン駆動エネルギーとして回収されることになる。
【0042】
ここで、油圧ピストン13は、吸気弁2をリフト状態に保持する期間を除き、吸気弁2の開閉に応じて昇降して油圧を継続的に発生させている。本可変動弁装置1は、このように略継続的に発生する油圧を利用して、カムシャフト3に設けた油圧タービン20を回転させ、エンジン駆動エネルギーとして回収しているのである。これにより、最終的には、燃費の向上に繋がる。
【0043】
また、導入ポート18から導入通路16aを通って導かれた油圧室12内の作動油は、油圧ピストン13の上昇により、第1連絡通路16b1、第1油室16b2、第2連絡通路16b3、第2油室16b4を通って排出ポート19に排出される。この結果、油圧室12内の作動油は、油圧ピストン13の一往復によって淀むことなく入れ替えられることになり、温度上昇が抑制される。よって、作動油の温度上昇に基づく体積膨張に因る吸気弁2の閉弁時期のバラツキ、作動油のベーパーに因る油圧ピストン13及び吸気弁2の作動不良を回避できる。
【0044】
また、多気筒エンジンにおいては、各気筒毎に上記可変動弁装置1が設けられるが、各可変動弁装置1の排出ポート19に接続された油導入路21を、集合させて一つの油圧タービン20に導くようにしてもよい。これにより、各気筒の吸気弁2のリフト順に応じて順次、各気筒の可変動弁装置1の排出ポート19から作動油が排出され、次々と油圧タービン20に導かれるので、油圧タービン20には途切れなく作動油が供給されることになり、エネルギーの回収効率が高まる。また、油圧タービン20が一つで済むため低コストとなる。
【0045】
ところで、導入ポート18に導入される作動油の油圧条件(エンジンのオイルポンプの作動条件、油温等)によっては、油圧ピストン13がロッカーアーム6の傾動に追従して下降しなくなる可能性がある。この場合、吸気弁2がフルリフトした状態でも、油圧ピストン13とロッカーアーム6の調整部材9との間に隙間が生じ、カムシャフト3の回転に伴ってロッカーアーム6が戻ってきたときに、中間リフトの位置で油圧ピストン13と衝突し、吸気弁2がその中間リフト位置で保たれることになる。よって、所望の圧縮比が得られないという問題が生じ得る。
【0046】
この対策として、図1に仮想線で示すように、油圧ピストン13と吸気弁2の頂部に取り付けたブリッジ10とを連結する連結部材26を設けてもよい。この連結部材26により、油圧ピストン13が、吸気弁2の昇降に連動して強制的に昇降されるので、上述の問題は生じない。なお、ブリッジ10の昇降方向と油圧ピストン13の昇降方向とは平行となっている。
【0047】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0048】
例えば、上記可変動弁装置1は、吸気弁2に適用した例を述べたが、排気弁に適用してもよい。また、上記可変動弁装置1は、通常運転と均一予混合運転とを切り換えるディーゼルエンジンに適用した例を述べたが、通常運転のみ又は均一予混合運転のみのディーゼルエンジンに適用してもよく、またガソリンエンジンに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の可変動弁装置の側断面図である。
【図2】通常圧縮比時、低圧縮比時の電磁弁の作動状態を示す説明図である。
【図3】機関弁の開閉行程図である。
【図4】従来の可変動弁装置の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 可変動弁装置
2 機関弁としての吸気弁
3 カムシャフト
3a カム山
5 弁バネ
6 ロッカーアーム
7 ブロック
10 機関弁と一体的に昇降する部材としてのブリッジ
12 油圧室
13 油圧ピストン
14 逆止弁
15 電磁弁
16 油路
19 排出ポート
20 油圧タービン
20a タービンブレード
20b タービンハウジング
21 油導入路
22 油排出路
26 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトの回転により機関弁を弁バネに抗して開弁するロッカーアームの上方に、油圧室の油圧により上記ロッカーアームを押さえて上記機関弁を開弁状態に保持する油圧ピストンと、上記油圧室に逆止弁を介して作動油を導入し且つ上記油圧室から電磁弁を介して作動油を排出する油路とを備えたブロックを配置し、上記電磁弁により上記油圧室の圧力を保持又は解放して上記機関弁の閉弁時期を制御する内燃機関の可変動弁装置において、
上記カムシャフトに油圧タービンを設け、該油圧タービンに作動油を供給すべく上記油圧タービンと上記ブロックに形成された上記油路の排出ポートとを油導入路で接続し、上記油圧タービンにその内部の作動油を排出する油排出路を接続したことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【請求項2】
上記油圧タービンが、上記カムシャフトのカム山及び軸受部以外の部分の外周面に周方向に間隔を隔てて設けられた複数のタービンブレードと、これらタービンブレードを囲繞するように上記カムシャフトの周方向に沿って形成されたタービンハウジングとを有し、 該タービンハウジングに、上記油導入路と上記油排出路とが夫々接続された請求項1に記載の内燃機関の可変動弁装置。
【請求項3】
上記機関弁の上部に装着されて上記機関弁と一体的に昇降する部材と上記油圧ピストンとを連結する連結部材を備えた請求項1又は2に記載の内燃機関の可変動弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275545(P2009−275545A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126053(P2008−126053)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】