説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】吸蔵還元型NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、燃料の消費量を低減しつつ硫黄被毒をより早期に回復させることの可能な技術を提供する。
【解決手段】NOx触媒6の硫黄被毒を回復させるときに、燃料添加弁7に燃料を添加させ、排気空燃比AFをリッチ時目標空燃比AFrichまで低下させるリッチ化処理を実行する。そして、リッチ化処理時に床温TcaがHC被毒判定温度Thcp以下まで低下した場合(t1)に、排気空燃比AFをリーン時目標空燃比AFleanに維持するリーン化処理を行う(t1〜t2)。そして、床温TcaがHC被毒回復温度Thcrまで上昇した場合に排気空燃比AFをリッチ時目標空燃比AFrichに切り替えてリッチ化処理を再開する(t2〜)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特に希薄燃焼を行う内燃機関から排出される排気中の窒素酸化物(NOx)を浄化すべく吸蔵還元型NOx触媒(以下、単に「NOx触媒」という)を備えた排気浄化装置が知られている。このNOx触媒には、排気中のNOxの他、硫黄酸化物(SOx)が吸蔵される。このため、NOx触媒におけるSOxの吸蔵量が増加するとNOxの吸蔵能が低下する硫黄被毒が発生する。
【0003】
そのため、NOx触媒より上流の排気通路を流れる排気中に還元成分としての燃料を添加し、触媒温度をSOxの放出が可能な温度(例えば、600℃乃至700℃程度)以上まで上昇させた上で、NOx触媒に流入する排気空燃比を例えば、ストイキまたはリッチ雰囲気まで低下させるリッチ化処理が行われる。これにより、NOx触媒の周囲にSOxの還元雰囲気が形成されることによって同触媒の硫黄被毒が回復する。
【0004】
ところで、硫黄被毒回復制御が行われると、比較的長期に亘り、多量の燃料添加が行われることが多い。硫黄被毒回復制御における燃料の添加量が多くなると、NOx触媒表面への燃料(炭化水素:HC)の付着量が多くなり、排気に晒される触媒の表面積が減少する。その結果、NOx触媒の活性度合が著しく低下するいわゆるHC被毒が生じる場合がある。このようにNOx触媒にHC被毒が生じると、燃料が供給されているにもかかわらず触媒温度が低下する触媒の失活現象が発生し、硫黄被毒の回復を図ることができない。そればかりか、NOx触媒に供給された燃料が未浄化のまま大気中に放出されてしまうため、スモークの多量発生といった排気エミッションの悪化を招く虞がある。
【0005】
これに関連して、硫黄被毒回復制御を実行している最中において、触媒活性が失われる可能性があるときには、当該硫黄被毒回復制御にかかる燃料添加を停止する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この技術によれば、NOx触媒が不活性状態になる可能性があるときに燃料添加が停止されるため、エミッションの悪化を抑制することができる。
【0006】
また、上記関連技術として、硫黄被毒回復制御の開始後に燃料供給に伴う触媒温度の上昇が確認された後、触媒が不活性状態であることを示す不活性判定温度以下に触媒温度が低下したことが検出された場合に、燃料の供給を中止する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2005−256723号公報
【特許文献2】特開2005−083352号公報
【特許文献3】特開2004−527372号公報
【特許文献4】特開2003−97257号公報
【特許文献5】特開2002−303176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、硫黄被毒回復制御の実行中にNOx触媒にHC被毒が生じた場合や、HC被毒が生じる可能性がある場合に燃料の添加を完全に停止するということは、排気エミッションの悪化については抑制できるものの、NOx触媒は排気によって冷却されるため触媒温度の低下を回避することが困難となる。そうすると、硫黄被毒回復制御を再開させ
るにあたり、排気温度近傍の温度まで一旦低下した触媒温度を再びSOxの放出可能な温度まで上昇させる必要がある。そのため、硫黄被毒回復制御の実行が完了する時期が遅延してしまい、また、硫黄被毒回復制御にかかる燃料消費量が多くなるという不具合が生じ得る。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸蔵還元型NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、燃料の消費量を低減しつつ硫黄被毒をより早期に回復させることの可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
前記吸蔵還元型NOx触媒より上流の排気通路を流れる排気中に燃料を添加する燃料添加手段と、
前記吸蔵還元型NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、前記燃料添加手段に燃料を添加させ、該吸蔵還元型NOx触媒に流入する排気空燃比(以下、単に「排気空燃比」という)を第一の目標空燃比まで低下させるリッチ化処理を実行する硫黄被毒回復手段と、を備え、
前記硫黄被毒回復手段は、リッチ化処理の実行中に前記吸蔵還元型NOx触媒にHC被毒が生じているか否かを判定するための基準となる所定のHC被毒判定温度以下まで触媒温度が低下した場合に前記排気空燃比を第一の目標空燃比より高く且つリーン空燃比の範囲内で設定される第二の目標空燃比に維持するリーン化処理を実行し、前記吸蔵還元型NOx触媒のHC被毒が解消されたか否かを判定するための基準となる所定のHC被毒回復温度まで触媒温度が上昇した場合に前記排気空燃比を第一の目標空燃比に切り替えてリッチ化処理を再開することを特徴とする。
【0010】
本発明において、リッチ化処理にかかる第一の目標空燃比は、NOx触媒の周囲にSOxの還元雰囲気が形成されるような値に設定される。この第一の目標空燃比は、ストイキ(理論空燃比)、またはリッチ空燃比の範囲で設定されると、NOx触媒からSOxの放出、還元が促進されるため好適である。
【0011】
NOx触媒にHC被毒が生じているか否かを判定するための基準となるHC被毒判定温度としては、例えばNOx触媒がHC被毒状態であることを示す温度の上限値を採用することができる。この場合、リッチ化処理にかかる燃料の添加によって触媒温度がSOxの放出可能な温度まで上昇した後、HC被毒判定温度以下まで触媒温度が低下した場合には、NOx触媒がHCによって被毒されたと判断することができる。
【0012】
本発明では、リッチ化処理時にNOx触媒がHC被毒状態にあると判定された場合に、NOx触媒のHC被毒を優先的に回復すべくリーン化処理を実行し、排気空燃比を第一の目標空燃比から、第二の目標空燃比に切り替える。ここで、第二の目標空燃比は、第一の目標空燃比より高く、且つリーン空燃比の範囲内で設定されるため、NOx触媒に流入する排気中により多くの酸素を含ませることができる。このため、NOx触媒の触媒表面に付着し、残留している燃料(HC)が、多量の酸素と反応することによって酸化、除去される。また、リーン化処理においては、排気空燃比がリーン空燃比に維持されつつ燃料添加手段からの燃料添加が継続される。そのため、NOx触媒のHC被毒からの回復と、NOx触媒の昇温とを両立させることができる。
【0013】
本発明におけるリーン化処理は、触媒温度がNOx触媒のHC被毒が解消されたか否かを判定するための基準となるHC被毒回復温度に到達するまで継続される。このHC被毒
回復温度としては、NOx触媒に生じたHC被毒が解消されたことを示す温度の下限値を採用することができる。この構成によれば、触媒温度がHC被毒回復温度まで上昇した場合に、リーン化処理が終了すると共にリッチ化処理が再開される。これにより、NOx触媒の周囲にSOxの還元雰囲気が再び形成され、硫黄被毒の回復を再開させることができる。
【0014】
以上のように、本発明によればリッチ化処理時において、NOx触媒にHC被毒が生じても、NOx触媒がHC被毒状態にあると判定された時点の温度(すなわち、HC被毒判定温度)を基準にして触媒温度が過度に低下することを回避できる。そのため、従来のようにNOx触媒の硫黄回復を再開させる際に、NOx触媒を排気温度の近傍からSOxの放出可能な温度まで、再昇温させる手間を省くことができる。従って、硫黄被毒回復制御にかかる燃料消費量を低減しつつ、該硫黄被毒回復制御をより早期に完了させることができる。
【0015】
なお、上記HC被毒回復温度は、HC被毒判定温度よりも高温側に設定されることが好ましい。
【0016】
ここで、NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときにおいて、触媒温度がHC被毒回復温度まで一旦上昇してからHC被毒判定温度に低下するまでの期間を床温維持期間と称する。ここで、床温維持期間が長いほど、リッチ化処理が中断される期間を短くすることができ、より多くのSOxをNOx触媒から放出させることができるため、好適である。
【0017】
そこで、本発明においては、NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、HC被毒回復温度まで上昇した触媒温度がHC被毒判定温度に低下するまでの床温維持期間を取得する取得手段を更に備え、硫黄被毒回復手段は、リーン化処理に関する制御パラメータ及びリッチ化処理にかかる第一の目標空燃比のうち少なくとも一方を、取得手段が取得した床温維持期間に応じて設定すると良い。
【0018】
「リーン化処理に関する制御パラメータ」とは、リーン化処理を実行する際に設定される設定値(目標値)であり、第二の目標空燃比、HC被毒回復温度、リーン化処理の継続期間等を含む概念である。ここで、リーン化処理に関する制御パラメータを変更すると、主としてリーン化処理におけるNOx触媒のHC被毒の回復度合いを変化させることができる。また、リッチ化処理にかかる第一の目標空燃比を変更すると、主としてNOx触媒におけるHC被毒の生じ難さについて変化させることができる。
【0019】
このような構成によれば、リーン化処理に関する制御パラメータ及びリッチ化処理における第一の目標空燃比のうち、少なくとも何れかを床温維持期間に応じて変更させることによって、NOx触媒がHCによって被毒してしまう時期をより先延ばしにする(遅延化させる)ことができる。その結果、硫黄回復制御が開始されてから完了するまでに、リーン化処理の通算実行回数を少なくすることができる。これにより、排気空燃比を第一の目標空燃比に維持できる期間が確保され易くなり、NOx触媒の硫黄被毒の回復をより早期に完了させることができる。
【0020】
ここで、取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、硫黄被毒回復手段は、次のリッチ化処理にかかる第一の目標空燃比を、後の床温維持期間に実行されたリッチ化処理にかかる第一の目標空燃比と比較してリーン側に設定すると好適である。
【0021】
そうすると、次のリッチ化処理では、直近のリッチ化処理時に比べて、NOx触媒へと流入する排気の酸素濃度が上昇する。そのため、次のリッチ化処理からはNOx触媒がH
C被毒状態となってしまう時期を遅延させることができる。
【0022】
また、制御パラメータにはリーン化処理にかかる第二の目標空燃比が含まれており、取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、硫黄被毒回復手段は、次のリーン化処理にかかる第二の目標空燃比を、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に(つまり、直近に)実行されたリーン化処理にかかる第二の目標空燃比と比較してリーン側に設定すると好適である。
【0023】
これによれば、次のリーン化処理において、直近のリーン化処理時に比べてNOx触媒に流入する排気の酸素濃度をより高めることができる。つまり、NOx触媒の触媒表面に付着したHCの酸化剤として機能する酸素をより多く供給することができる。よって、NOx触媒におけるHC被毒の回復度合いを高めることができる。
【0024】
また、制御パラメータにはHC被毒回復温度が含まれており、取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、硫黄被毒回復手段は、次のリーン化処理にかかるHC被毒回復温度を、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に(つまり、直近に)実行されたリーン化処理にかかるHC被毒回復温度と比較して高温側に設定すると好適である。
【0025】
上記のように、後の床温維持期間が先の床温維持期間に比べて長くならなかった場合、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に実行されたリーン化処理時にかかるHC被毒回復温度が不適切、つまり低すぎたものと判断できる。この構成によれば、HC被毒回復温度を直近に設定されていた温度よりも高温側に設定されるので、次のリーン化処理時においてはHC被毒の回復度合いを高めることができる。
【0026】
また、制御パラメータにはリーン化処理の継続期間が含まれており、取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、硫黄被毒回復手段は、次のリーン化処理の継続期間を、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に(つまり、直近に)実行されたリーン化処理の継続期間と比較して長く設定すると好適である。ここで、リーン化処理の終期は、触媒温度がHC被毒回復温度まで上昇する時期であるため、本構成においては触媒温度の上昇速度を変更することによってリーン化処理の継続期間を変更しても良い。上記のように、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、次のリーン化処理の継続期間をより長くすることによって、NOx触媒に供給される酸素の絶対量を増やすことができる。また、NOx触媒の触媒表面に付着しているHCと酸素との反応時間をより長期に亘って確保することができる。よって、NOx触媒におけるHC被毒の回復度合いをより高めることができる。
【0027】
上記したリーン化処理に関する制御パラメータ、リッチ化処理における第一の目標空燃比に関する設定手法は、適宜、組み合わせて実行すると良い。これにより、リーン化処理におけるHC被毒の回復度合いをより効果的に高め、また、リッチ化処理においてHC被毒をより起こり難くすることができる。その結果、硫黄被毒回復制御を開始してから完了するまでの期間を通してリーン化処理を行う頻度が少なくなる。従って、硫黄被毒回復制御に要する燃料消費量を節約しつつ、NOx触媒の硫黄被毒をより早期に回復させることができる。
【0028】
なお、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にあっては、NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、燃料の消費量を低減しつつ硫黄被毒をより早期に回復させることの可能な技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。尚、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0031】
図1は、本実施例における内燃機関1とその吸排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、水冷式の4サイクル・ディーゼルエンジンである。
【0032】
内燃機関1には、吸気通路2および排気通路3が接続されている。この吸気通路2の途中には、スロットル4が設けられている。このスロットル4は、電動アクチュエータにより開閉される。スロットル4よりも上流の吸気通路2には、該吸気通路2内を流通する吸気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ5が設けられている。このエアフローメータ5により、内燃機関1の吸入新気量が測定される。
【0033】
一方、排気通路3の途中には、吸蔵還元型NOx触媒(以下、単に「NOx触媒」という)6が備えられている。NOx触媒6は、流入する排気の酸素濃度が高いときは排気中のNOxを吸蔵し、流入する排気の酸素濃度が低下し且つ還元剤が存在するときは吸蔵していたNOxを還元する機能を有する。
【0034】
さらに、本実施例では、NOx触媒6よりも上流の排気通路3を流通する排気中に還元剤たる燃料(軽油)を添加する燃料添加弁7を備えている。ここで、燃料添加弁7は、後述するECU10からの信号により開弁し、燃料を排気中に添加する。このように、燃料添加弁7から添加された燃料は、排気通路3の上流から流れてきた排気の空燃比を低下させ、且つNOx触媒6に還元成分として供給されるため、NOx触媒6に吸蔵されていたNOxが還元される。本実施例では燃料添加弁7が、本発明における燃料添加手段に相当する。
【0035】
NOx触媒6よりも上流側の排気通路3には、該NOx触媒6に流入する排気空燃比を検出する空燃比センサ8が取り付けられている。また、NOx触媒6よりも下流側の排気通路3には該排気通路3を流通する排気の温度を検出する排気温度センサ9が取り付けられている。この排気温度センサ9の出力信号に基づいてNOx触媒6の温度が検出される。また、内燃機関1には、該内燃機関1の燃料に供される燃料を気筒内に噴射する筒内燃料噴射弁11が取り付けられている。
【0036】
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU10が併設されている。このECU10は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。ECU10には、エアフローメータ5、空燃比センサ8、及び排気温度センサ9が電気配線を介して接続され、これらの出力信号が入力される。一方、ECU10には、スロットル4、筒内燃料噴射弁11、及び燃料添加弁7が電気配線を介して接続され、これらがECU10により制御される。
【0037】
ところで、燃料中、あるいはオイル中には硫黄(S)成分が含まれており、このS成分は酸素と反応して硫黄酸化物(SOx)となる。NOx触媒6は、NOxの他、排気中に
含まれるSOxを吸蔵する。このように吸蔵されたSOxはNOxよりも放出されにくく、NOx触媒6内に蓄積される。これを硫黄被毒という。このようにNOx触媒に硫黄被毒が生じると、排気中のNOxがNOx触媒6にて浄化されずに大気中へ放出されてしまう虞がある。従って、本実施例においては、NOx触媒6に吸蔵されたSOxを放出、還元させることで硫黄被毒を回復させる硫黄被毒回復制御が実行される。
【0038】
硫黄被毒回復制御の概略としては、燃料添加弁7から排気中に燃料を添加させることによって、NOx触媒6の床温TcaをSOxの放出可能な温度(以下、「SOx放出温度」という)Tcatまで上昇させ、NOx触媒6に流入する排気の空燃比(以下、単に「排気空燃比」という)AFを低下させるリッチ化処理が実行される。
【0039】
図2は、本実施例における硫黄被毒回復制御時の排気空燃比の目標値(以下、「目標排気空燃比」という)AFtとNOx触媒の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示したタイムチャートである。上段にはNOx触媒6の床温Tcaの推移を示し、下段には目標排気空燃比AFtの推移を示している。
【0040】
時間t0において硫黄被毒回復制御が開始されると、既述のリッチ化処理が行われる。この図においては、SOx放出温度Tcatは概ね700℃程度に設定されている。また、リッチ化処理における目標排気空燃比AFtはストイキよりも僅かにリッチ側のリッチ空燃比として設定されている。ここで、リッチ化処理における目標排気空燃比AFtをリッチ時目標空燃比AFrichと称する。なお、本実施例においてリッチ時目標空燃比AFrichはリッチ空燃比として設定されているが、例えばストイキ(理論空燃比)であっても良い。
【0041】
本実施例では、リッチ化処理に係る燃料添加弁7からの燃料添加は間欠的に行われる。このため、NOx触媒6の床温Tcaが過度に高くなることを抑制しつつ、NOx触媒6の床温Tcaを高温に維持することができる。その結果、NOx触媒6の周囲がSOxの還元雰囲気に維持され、NOx触媒6からSOxが放出されることで硫黄被毒が回復する。本実施例においてはリッチ時目標空燃比AFrichが本発明における第一の目標空燃比に相当する。
【0042】
ここで、リッチ化処理が長期に亘って継続され、あるいは燃料添加弁7からの燃料添加量が多くなると、NOx触媒6に供給された燃料(炭化水素:HC)の一部は、触媒表面に付着したまま残留する。その結果、排気に晒される触媒の表面積が減少し、NOx触媒6の活性度合いが著しく低下する、いわゆるHC被毒が生じてしまう。そうすると、燃料添加弁7からの燃料が供給されているにもかかわらずNOx触媒6の床温Tcaが低下し、NOx触媒6の硫黄被毒の回復を図ることができない。そればかりか、燃料が未浄化のまま大気中に放出されてしまい、スモークの多量発生といった排気エミッションの悪化を招く虞がある。
【0043】
図2においては、SOx放出温度Tcatまで一旦上昇したNOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpまで低下したときに、NOx触媒6がHC被毒状態であると判断される(時間t1)。HC被毒判定温度Thcpは、NOx触媒6にHC被毒が生じているか否かを判定するための基準となる温度である。本実施例では、NOx触媒6がHCに被毒された判断される床温の上限値を予め実験的に求めておき、その温度(図2においては、概ね500℃近傍)をHC被毒判定温度Thcpに採用している。
【0044】
上記のように、時間t1において、NOx触媒6がHC被毒状態であると判断された場合、この状態でリッチ化処理を継続させても硫黄被毒の回復を図ることができないばかりか、却ってエミッションが悪化してしまう。そこで、本実施例では、このような不具合を
抑制すべく、NOx触媒6のHC被毒を優先的に解消(回復)させる制御が行われる。具体的には、目標排気空燃比AFtがリッチ化処理において設定されていたリッチ時目標空燃比AFrichから、リーン空燃比へと切り替える「リーン化処理」が実行される。リーン化処理にかかる目標排気空燃比AFtを、以下、リーン時目標空燃比AFleanと称する。リーン時目標空燃比AFleanは、リッチ時目標空燃比AFrichよりも高く且つリーン空燃比の範囲内で設定されるため、本発明における第二の目標空燃比に相当する。
【0045】
このように、時間t1を境に目標排気空燃比AFtがリッチ時目標空燃比AFrichからリーン時目標空燃比AFleanに切り替えられると、NOx触媒6に流入する排気中に含まれる酸素(O)の量が増加する。そのため、NOx触媒6の触媒表面に付着していた燃料(HC)の酸化が促され、排気に晒される触媒の表面積を増やすことができる。そのため、燃料添加弁7から供給されてくる燃料がNOx触媒6で酸化されるようになるため、NOx触媒6の床温Tcaを迅速に上昇させることができる。
【0046】
本実施例では、ひとたびHCに被毒されてしまったNOx触媒6の床温Tcaが再び高温まで上昇した場合にNOx触媒6のHC被毒状態が回復したと判断され、リーン化処理の実行が終了させられる。具体的には、NOx触媒6の床温Tcaが、NOx触媒6のHC被毒が解消されたか否かを判定するための基準となるHC被毒回復温度Thcrまで上昇した場合に、リーン化処理を終了させることとした。本実施例では、NOx触媒6のHC被毒が充分に解消されたと判断できる床温の下限値を予め実験的に求めておき、その温度(図2においては、概ね650℃近傍)をHC被毒回復温度Thcrとして採用している。本実施例においてHC被毒回復温度ThcrはHC被毒判定温度Thcpに比べて高温側に設定される。
【0047】
斯くして、時間t2においてNOx触媒6の床温TcaがHC被毒回復温度Thcrまで上昇すると、目標空燃比AFtがリーン時目標空燃比AFleanから再びリッチ時目標空燃比AFrichに切り替えられ、リッチ化処理が再開される。すなわち、NOx触媒6の周囲にSOxの還元雰囲気が再び形成され、NOx触媒6からSOxが放出、還元が行われる。
【0048】
図3は、硫黄被毒回復制御にかかる制御フローを示したフローチャートである。本ルーチンは所定の時間毎にECU10によって繰り返し実行される。本実施例においては本ルーチンを実行するECU10が本発明における硫黄被毒回復手段に相当する。
【0049】
本ルーチンが実行されると、まずステップS101では、硫黄被毒回復制御中であるか否かが判定される。本ステップにおいて、硫黄被毒回復制御中であると判定された場合(S101:Yes)にはステップS102に進み、硫黄被毒回復制御中ではないと判定された場合(S101:No)には本ルーチンを一旦終了する。
【0050】
ステップS102では、リッチ化処理中であるか否かが判定される。ここで、リッチ化処理中であると判定された場合(S102:Yes)にはステップS103に進む。なお、ステップS102のリッチ化処理においては、NOx触媒6の床温Tca、および排気空燃比AFが排気温度センサ9、空燃比センサ8の出力信号に基づいて検出され、これらが夫々の目標値(SOx放出温度Tcat、リッチ時目標空燃比AFrich)となるように、燃料添加弁7からの間欠的な燃料添加が制御されている。
【0051】
また、ステップS102においてリッチ化処理中ではないと判定された場合(S102:No)には、リーン化処理中であると判断され、ステップS105に進む。ステップS105以降の処理については後述する。
【0052】
ステップS103では、排気温度センサ9の出力信号に基づいてNOx触媒6の床温Tcaが検出され、該床温TcaがHC被毒判定温度Thcp以下であるか否かが判定される。すなわち、本ステップでは、NOx触媒6がHC被毒状態であるかどうかが判断される。本ステップにおいてNOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcp以下であると判定された場合(S103:Yes)、ステップS104に進む。一方、NOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpよりも高いと判定された場合(S103:No)には、本ルーチンを一旦終了する。
【0053】
ステップS104では、NOx触媒6のHC被毒を優先的に回復させるべくリーン化処理が実行される。すなわち、目標空燃比AFtがリッチ時目標空燃比AFrichからリーン時目標空燃比AFleanに切り替えられる。そして、空燃比センサ8の出力信号に基づいて、排気空燃比AFがリーン時目標空燃比AFleanまで上昇するように燃料添加弁7からの燃料添加が制御される。そして、本ステップの処理が終了した後、本ルーチンを一旦終了する。この場合、本ルーチンが次回実行される際には、ステップS101にて硫黄被毒回復制御中であると判定(S101:Yes)され、ステップS102ではリッチ化処理中ではないと判定(S102:No)されることとなり、ステップS105の処理へと進むことになる。
【0054】
ステップS105では、排気温度センサ9の出力信号に基づいてNOx触媒6の床温Tcaが検出され、該床温TcaがHC被毒回復温度Thcr以上であるか否かが判定される。すなわち、本ステップでは、NOx触媒6がHC被毒状態から充分に回復したかどうかが判断される。そして、NOx触媒6の床温TcaがHC被毒回復温度Thcr以上であると判定された場合(S105:Yes)には、リーン化処理を終了しても良いと判断され、ステップS106に進む。一方、NOx触媒6の床温TcaがHC被毒回復温度Thcrよりも低いと判定された場合(S105:No)には、リーン化処理を継続する必要があると判断され、本ルーチンを一旦終了する。
【0055】
ステップS106では、リーン化処理を終了すると共にリッチ化処理を再開させるべく、目標排気空燃比AFtがリーン時目標空燃比AFleanから再びリッチ時目標空燃比AFrichに切り替えられる。なお、リッチ時目標空燃比AFrichは、リーン化処理を開始する前に設定されていた値と等しくする必要はなく、適宜変更することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施例では、リッチ化処理時において燃料添加弁7からの燃料添加量が多くなることによってNOx触媒6にHC被毒が生じても、NOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpに比して過度に低下することを回避できる。つまり、NOx触媒6の床温Tcaが排気の温度近傍まで低下することを確実に抑制することができる。従って、従来のようにNOx触媒6の硫黄回復を再開させる際に、NOx触媒6の床温Tcaを排気温度近傍からSOx放出温度Tcatまで上昇させる行程を省くことができる。
【0057】
その結果、硫黄被毒回復制御にかかる燃料消費量を低減しつつ、同制御をより早期に完了させることが可能となる。また、NOx触媒6がHC被毒状態になった場合においても燃料が未浄化のまま大気中に放出されることが確実に防止されるため、排気エミッションを向上させることができる。
【実施例2】
【0058】
次に、実施例2について説明する。本実施例における内燃機関1やその吸排気系、その他の装置等については実施例1と同様なので説明を省略する。本実施例では、NOx触媒
6の硫黄被毒回復制御において、HC被毒回復温度Thcrまで上昇したNOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpに低下するまでの期間(以下、「床温維持期間」という)に着目した。そして、床温維持期間に応じて、リーン化処理に関する制御パラメータ及びリッチ化処理にかかるリッチ時目標空燃比AFrichのうち少なくとも一方を設定することとした。
【0059】
図4は、本実施例における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒6の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示した第一のタイムチャートである。上段にはNOx触媒6の床温Tcaの推移を示し、下段には目標排気空燃比AFtの推移を示している。図中において、時間t0は硫黄回復制御が開始される時点を表す。また、時間t1、t3の夫々はリッチ化処理中のHC被毒によってNOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpまで低下した時点を表し、時間t2、t4の夫々は、リーン化処理によってNOx触媒6の床温TcaがHC被毒回復温度Thcrまで上昇した時点を表す。また、時間taは、硫黄被毒回復制御が開始された後、NOx触媒6の床温Tcaが初めてHC被毒回復温度Thcrまで上昇した時点を表す。
【0060】
本実施例におけるリッチ化処理およびリーン化処理における基本的な制御内容は、実施例1と共通する。すなわち、リッチ化処理中においてNOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpまで低下する毎に、NOx触媒6の床温TcaがHC被毒回復温度Thcrに上昇するまでリーン化処理が実行される。また、リッチ化処理におけるリッチ時目標空燃比AFrichはリッチ空燃比の範囲内で設定され、リーン化処理におけるリーン時目標空燃比AFleanはリーン空燃比の範囲内で設定される。
【0061】
図中において、時間t0〜t1、時間t2〜t3、時間t4〜において実行されるリッチ化処理を夫々第一リッチ化処理R1〜第三リッチ化処理R3と称する。また、時間t1〜t2、時間t3〜t4において実行されるリーン化処理を夫々第一リーン化処理L1、第二リーン化処理L2と称する。なお、第三リッチ化処理中においてNOx触媒6の床温TcaがHC被毒判定温度Thcpまで低下した場合には、リーン化処理が実行されるのはいうまでもない。ここで、第三リッチ化処理R3におけるリッチ時目標空燃比AFrichは、第二リッチ化処理R2におけるリッチ時目標空燃比AFrichに比べてリーン側に設定されているが、その理由は後述する。
【0062】
ここで、図4を参照して上述した床温維持期間について説明する。この図において、床温維持期間は、時間ta〜t1の期間、および時間t2〜t3の期間に該当する。ここで、時間ta〜t1における床温維持期間を先行床温維持期間ΔTpre、時間t2〜t3における床温維持期間を後続床温維持期間ΔTfolと称する。本実施例においては、先行床温維持期間ΔTpreが先の床温維持期間に相当し、後続床温維持期間ΔTfolが後の床温維持期間に相当する。また、先行床温維持期間ΔTpreと後続床温維持期間ΔTfolとの夫々が本発明における床温維持期間に相当する。
【0063】
本実施例では、連続する二の床温維持期間(図4においては、先行床温維持期間ΔTpreと後続床温維持期間ΔTfol)の大小関係に基づいて、リーン化処理に関する制御パラメータ及びリッチ化処理にかかるリッチ時目標空燃比AFrichのうち、少なくとも何れか一方を設定する。具体的には、硫黄被毒回復制御が開始されると、ECU10はNOx触媒6の床温Tcaを排気温度センサ9の出力信号に基づいて継続的、あるいは断続的に検出する。これにより、ECU10は先行床温維持期間ΔTpreと後続床温維持期間ΔTfolとを計測することができる。本実施例においては排気温度センサ9、及びその出力信号に基づいて床温維持期間を計測するECU10が本発明における取得手段を構成する。
【0064】
ここで、硫黄被毒回復制御において、床温維持期間をより長く維持することが好ましい。その方が、リッチ化処理の実行頻度、及び実行期間(継続期間)をより短くすることができ、且つより多くのSOxをNOx触媒6から放出、還元することができる。
【0065】
そして、後続床温維持期間ΔTfolの計測が完了した時点、すなわち図4の時間t3において、ECU10は、先行床温維持期間ΔTpreと後続床温維持期間ΔTfolとの大小関係を判定する。そして、後続床温維持期間ΔTfolが先行床温維持期間ΔTpre以下である場合(言い換えると後続床温維持期間ΔTfolが先行床温維持期間ΔTpreよりも長くならなかった場合)には、第一リーン化処理においてNOx触媒6のHC被毒の回復が不充分であったと判断される。
【0066】
そのため、本実施例では、ECU10によって後続床温維持期間ΔTfolが先行床温維持期間ΔTpre以下であると判定された場合(図中、ΔTfol≦ΔTpre)、次のリッチ化処理(図中、第三リッチ化処理R3)にかかるリッチ時目標空燃比AFrichを、後続床温維持期間ΔTfol、つまり直近に実行されたリッチ化処理(図中、第二リッチ化処理R2)にかかるリッチ時目標空燃比AFrichと比較してリーン側に設定している。
【0067】
ここで、リッチ化処理にかかるリッチ時目標空燃比AFrichを変更すると、主として、NOx触媒6に対するHC被毒の起こり難さ、生じ難さについて変化させることができる。すなわち、上記のように次のリッチ化処理(第三リッチ化処理R3)におけるリッチ時目標空燃比AFrichをよりリーン側に設定することにより、第二リッチ化処理R2に比べて第三リッチ化処理時R3にNOx触媒6へと流入する排気ガスの酸素濃度が上昇する。そのため、時間t4以降、NOx触媒6がHC被毒状態となってしまう時期を遅延させることができる。
【0068】
次に、図5及び6を参照して、床温維持期間に応じて、リーン化処理に関する制御パラメータを設定する制御例について説明する。ここで、リーン化処理に関する制御パラメータとは、リーン化処理を実行する際に設定される設定値(目標値)であり、本実施例においてはリーン化処理にかかるリーン時目標空燃比AFlean、HC被毒回復温度Thcr、リーン化処理が実行される継続期間が採用されている。この制御パラメータを変更すると、リーン化処理におけるNOx触媒6のHC被毒の回復度合いについて変化させることができる。つまり、これから説明する制御では、リーン化処理におけるNOx触媒6のHC被毒の回復度合いを向上させ、同処理の終了後に再開されるリッチ化処理においてNOx触媒6がHC被毒状態となる時期の遅延化を図っている。
【0069】
図5は、本実施例における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒6の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示した第二のタイムチャートである。図中に付された符号のうち、図4と同じ符号については同義であり、説明を割愛する。図5においては、後続床温維持期間ΔTfolが先行床温維持期間ΔTpre以下であると判定された場合(図中、ΔTfol≦ΔTpre)、次のリーン化処理(図中、第二リーン化処理L2)にかかるリーン時目標空燃比AFleanを、先行床温維持期間ΔTpreと後続床温維持期間ΔTfolとの間に実行されたリーン化処理、つまり直近に実行されたリーン化処理(図中、第一リーン化処理L1)にかかるリーン時目標空燃比AFleanと比較してリーン側に設定している。
【0070】
そのため、第二リーン化処理L2では、第一リーン化処理L1に比べてNOx触媒6に流入する排気ガスの酸素濃度をより高めることができる。その結果、NOx触6媒表面に付着したHCの酸化剤として機能する酸素をより多量に供給される。これにより、第二リーン化処理L2では、NOx触媒6におけるHC被毒の回復度合いを、第一リーン化処理
L1に比べてより高めることができる。
【0071】
図6は、本実施例における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒6の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示した第三のタイムチャートである。図中に付された符号のうち、図4及び5と同じ符号については同義であり、説明を割愛する。図6においては、後続床温維持期間ΔTfolが先行床温維持期間ΔTpre以下であると判定された場合(図中、ΔTfol≦ΔTpre)には、直近に実行されたリーン化処理(図中、第一リーン化処理L1)にかかるHC被毒回復温度Thcr(図中、Thcr1で表す)が低すぎたと判断される。
【0072】
そして、このような場合には、次のリーン化処理(図中、第二リーン化処理L2)にかかるHC被毒回復温度Thcr(図中、Thcr2で表す)を、先行床温維持期間ΔTpreと後続床温維持期間ΔTfolとの間に実行されたリーン化処理(第一リーン化処理L1)にかかるHC被毒回復温度Thcr1と比較して高温側に設定することとした。ここで、NOx触媒6に流入する排気空燃比AFがリーン空燃比の状態で、NOx触媒6の床温Tcaがより高温まで上昇するということは、NOx触媒6表面に残留していたHCの除去がより好適に促進されたことを意味する。従って、HC被毒回復温度Thcr2をThcr1に比べて高温側に設定することで、NOx触媒6におけるHC被毒の回復度合いを高めることができる。
【0073】
更に、図6においては、第二リーン化処理L2を実行する継続期間ΔTL2(時点t3〜t4)を、第一リーン化処理L1を実行する継続期間ΔTL1(時点t1〜t2)に比べて長く設定することとした(ΔTL2>ΔTL1)。そうすれば、第一リーン化処理L1に比べて、第二リーン化処理L2においてNOx触媒6に供給される酸素の絶対量を増やすことができる。また、NOx触媒6の触媒表面に付着しているHCと酸素との反応時間をより長期に亘って確保される。その結果、NOx触媒6におけるHC被毒の回復度合いがより高められる。
【0074】
以上のように、本実施例にかかる制御によれば、リーン化処理時においてNOx触媒6に対するHC被毒の回復度合いが向上し、また、リッチ化処理時においてNOx触媒6のHC被毒が起こり難くなる。その結果、硫黄被毒回復制御を開始してから完了するまでの期間を通してリーン化処理を行う頻度を低減できる。従って、硫黄被毒回復制御に要する燃料消費量を節約しつつ、NOx触媒6の硫黄被毒をより早期に回復させることができる。
【0075】
なお、図5及び6で説明したリーン化処理に関する制御パラメータやリッチ時目標空燃比AFrichの設定については、任意の組み合わせで実行することができる。また、図5及び6においては、連続する二の床温維持期間の組み合わせとして一番目と二番目の床温維持期間との大小関係を対比しているが、これに限定されるものではない。例えば、硫黄被毒回復制御が開始されてから、二番目と三番目の床温維持期間に基づいて上記制御を実行して良いし、それ以外であっても構わない。
【0076】
次に、本実施例における硫黄被毒回復制御の変形例を説明する。この変形例では、連続する二の床温維持期間ではなく、単一(任意の一つ)の床温維持期間に応じて、次に実行されるリーン化処理に関する制御パラメータ及びリッチ化処理にかかるリッチ時目標空燃比AFrichの少なくとも何れかを設定する。すなわち、本変形例では、ECU10により計測された床温維持期間が短いほど、次のリーン化処理にかかるリーン時目標空燃比AFleanがよりリーン側に、HC被毒回復温度Thcrがより高温側に、継続期間がより長い期間として設定される。また、計測された床温維持期間が短いほど、次のリッチ化処理にかかるリッチ時目標空燃比AFrichがリーン側に設定される。
【0077】
具体的には、床温維持期間と、上記各パラメータとの関係が格納されたパラメータ設定マップがECU10のROM内に予め記憶されている。そして、ECU10は、硫黄被毒回復制御中における床温維持期間を計測する毎に、この床温維持期間をパラメータ設定マップへと代入し、各パラメータの設定値を導出することができる。この制御パラメータ決定マップに基づけば、連続した二の床温維持期間の大小関係を比較しなくても、次のリーン化処理やリッチ化処理における制御パラメータを好適に決定することができる。
【0078】
例えば、硫黄被毒回復制御が開始されてから二番目の床温維持期間に該当する後続床温維持期間ΔTfolをECU10が計測した場合、この後続床温維持期間ΔTfolをパラメータ設定マップへと代入することによって、次のリーン化処理(第二リーン化処理L2)にかかるリーン時目標空燃比AFlean、HC被毒回復温度Thcr、継続期間ΔTL2、及び次のリッチ化処理(第三リッチ化処理R3)にかかるリッチ時目標空燃比AFrichを導出することができる。そのため、ECU10が床温維持期間を計測する毎に、NOx触媒6のHC被毒を抑制しつつ硫黄被毒の回復時期が早まるように、次に実行されるリーン化処理やリッチ化処理に関するパラメータを適切に設定することができる。なお、上述したパラメータ設定マップでは、上記の全パラメータと床温維持期間との関係を格納する態様を例示したが、特定のパラメータのみを床温維持期間に応じて設定しても構わない。
【0079】
また、上述した実施例では、燃料添加弁7から燃料を排気中に添加することで、NOx触媒3に還元剤たる燃料を供給しているが、筒内燃料噴射弁11からの主噴射とは異なるタイミングでの燃料噴射(いわゆる副噴射)を行うことで、燃料の未燃成分を排気中に添加させても良い。なお、副噴射としては、主噴射を行った後の膨張行程若しくは排気行程中に再度燃料を噴射するポスト噴射等が例示できる。また、このような副噴射と燃料添加弁7からの燃料添加を併用することで、還元成分を排気中へと添加しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1における内燃機関と、その吸排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示したタイムチャートである。
【図3】実施例1の硫黄被毒回復制御にかかる制御フローを示したフローチャートである。
【図4】実施例2における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示した第一のタイムチャートである。
【図5】実施例2における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示した第二のタイムチャートである。
【図6】実施例2における硫黄被毒回復制御時の目標排気空燃比AFtとNOx触媒の床温Tcaとの変化とを同一時間軸上に示した第三のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0081】
1・・・内燃機関
2・・・吸気通路
3・・・排気通路
6・・・吸蔵還元型NOx触媒
7・・・燃料添加弁
8・・・空燃比センサ
9・・・排気温度センサ
10・・ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
前記吸蔵還元型NOx触媒より上流の排気通路を流れる排気中に燃料を添加する燃料添加手段と、
前記吸蔵還元型NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、前記燃料添加手段に燃料を添加させ、該吸蔵還元型NOx触媒に流入する排気空燃比を第一の目標空燃比まで低下させるリッチ化処理を実行する硫黄被毒回復手段と、を備え、
前記硫黄被毒回復手段は、リッチ化処理の実行中に前記吸蔵還元型NOx触媒にHC被毒が生じているか否かを判定するための基準となる所定のHC被毒判定温度以下まで触媒温度が低下した場合に前記排気空燃比を第一の目標空燃比より高く且つリーン空燃比の範囲内で設定される第二の目標空燃比に維持するリーン化処理を実行し、前記吸蔵還元型NOx触媒のHC被毒が解消されたか否かを判定するための基準となる所定のHC被毒回復温度まで触媒温度が上昇した場合に前記排気空燃比を第一の目標空燃比に切り替えてリッチ化処理を再開することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記HC被毒回復温度は、前記HC被毒判定温度よりも高温側に設定されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記吸蔵還元型NOx触媒の硫黄被毒を回復させるときに、前記HC被毒回復温度まで上昇した触媒温度が前記HC被毒判定温度に低下するまでの床温維持期間を取得する取得手段を更に備え、
前記硫黄被毒回復手段は、リーン化処理に関する制御パラメータ及びリッチ化処理にかかる第一の目標空燃比のうち少なくとも一方を、前記取得手段が取得した床温維持期間に応じて設定することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、前記硫黄被毒回復手段は、次のリッチ化処理にかかる第一の目標空燃比を、後の床温維持期間に実行されたリッチ化処理にかかる第一の目標空燃比と比較してリーン側に設定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記制御パラメータにはリーン化処理にかかる第二の目標空燃比が含まれており、
前記取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、前記硫黄被毒回復手段は、次のリーン化処理にかかる第二の目標空燃比を、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に実行されたリーン化処理にかかる第二の目標空燃比と比較してリーン側に設定することを特徴とする請求項3または4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記制御パラメータには前記HC被毒回復温度が含まれており、
前記取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、前記硫黄被毒回復手段は、次のリーン化処理にかかるHC被毒回復温度を、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に実行されたリーン化処理にかかるHC被毒回復温度と比較して高温側に設定することを特徴とする請求項3から5の何れか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記制御パラメータにはリーン化処理の継続期間が含まれており、
前記取得手段によって連続して取得された二の床温維持期間のうち、後の床温維持期間が先の床温維持期間以下となった場合には、前記硫黄被毒回復手段は、次のリーン化処理の継続期間を、先の床温維持期間と後の床温維持期間との間に実行されたリーン化処理の
継続期間と比較して長く設定することを特徴とする請求項3から6の何れか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−250210(P2009−250210A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102703(P2008−102703)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】