説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】ベース空燃比を確実に検出する。
【解決手段】機関排気通路内に炭化水素供給弁15と、排気浄化触媒13と空燃比センサ24,25とが配置される。排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度が200ppm以上の予め定められた範囲内の振幅および5秒以下の予め定められた範囲内の周期でもって振動せしめられ、それによって排気ガス中に含まれるNOxが排気浄化触媒13において還元せしめられる。このとき空燃比センサ24,25によりベース空燃比を検出可能なベース空燃比検出可能期間ΔDtが求められ、このベース空燃比検出可能期間ΔDt内に空燃比センサ24,25により検出された排気ガスの空燃比がベース空燃比とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機関排気通路内に、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵し流入する排気ガスの空燃比がリッチになると吸蔵したNOxを放出するNOx吸蔵触媒を配置し、NOx吸蔵触媒上流の機関排気通路内に吸着機能を有する酸化触媒を配置し、NOx吸蔵触媒からNOxを放出すべきときには酸化触媒上流の機関排気通路内に炭化水素を供給してNOx吸蔵触媒に流入する排気ガスの空燃比をリッチにするようにした内燃機関が公知である(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
この内燃機関ではNOx吸蔵触媒からNOxを放出すべきときに供給された炭化水素が酸化触媒においてガス状の炭化水素とされ、ガス状の炭化水素がNOx吸蔵触媒に送り込まれる。その結果、NOx吸蔵触媒から放出されたNOxが良好に還元せしめられることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3969450号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらNOx吸蔵触媒は高温になるとNOx浄化率が低下するという問題がある。
本発明の目的は、排気浄化触媒の温度が高温になっても高いNOx浄化率を得ることができかつベース空燃比を確実に検出することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、機関排気通路内に排気ガス中に含まれるNOxと改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒を配置し、排気浄化触媒の排気ガス流通表面上には貴金属触媒が担持されていると共に貴金属触媒周りには塩基性の排気ガス流通表面部分が形成されており、排気浄化触媒は、排気浄化触媒に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると排気ガス中に含まれるNOxを還元する性質を有すると共に、炭化水素濃度の振動周期を予め定められた範囲よりも長くすると排気ガス中に含まれるNOxの吸蔵量が増大する性質を有しており、炭化水素の流通する機関排気通路内に排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサを配置し、機関運転時に排気浄化触媒に流入する炭化水素の濃度を上述の予め定められた範囲内の振幅および上述の予め定められた範囲内の周期でもって振動させると共に、このとき空燃比センサによりベース空燃比を検出可能なベース空燃比検出可能期間が求められ、このベース空燃比検出可能期間内に空燃比センサにより検出された排気ガスの空燃比がベース空燃比とされる内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
排気浄化触媒の温度が高温になっても高いNOx浄化率を得ることができると共にベース空燃比を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】圧縮着火式内燃機関の全体図である。
【図2】触媒担体の表面部分を図解的に示す図である。
【図3】排気浄化触媒における酸化反応を説明するための図である。
【図4】排気浄化触媒への流入排気ガスの空燃比の変化を示す図である。
【図5】NOx浄化率を示す図である。
【図6】排気浄化触媒における酸化還元反応を説明するための図である。
【図7】排気浄化触媒における酸化還元反応を説明するための図である。
【図8】排気浄化触媒への流入排気ガスの空燃比の変化を示す図である。
【図9】NOx浄化率を示す図である。
【図10】排気浄化触媒への流入排気ガスの空燃比の変化を示すタイムチャートである。
【図11】排気浄化触媒への流入排気ガスの空燃比の変化を示すタイムチャートである。
【図12】排気浄化触媒の酸化力と要求最小空燃比Xとの関係を示す図である。
【図13】同一のNOx浄化率の得られる、排気ガス中の酸素濃度と炭化水素濃度の振幅ΔHとの関係を示す図である。
【図14】炭化水素濃度の振幅ΔHとNOx浄化率との関係を示す図である。
【図15】炭化水素濃度の振動周期ΔTとNOx浄化率との関係を示す図である。
【図16】炭化水素供給量W等のマップを示す図である。
【図17】排気浄化触媒への流入排気ガスの空燃比の変化等を示す図である。
【図18】排出NOx量NOXAのマップを示す図である。
【図19】燃料噴射時期を示す図である。
【図20】炭化水素供給量WRのマップを示す図である。
【図21】EGR制御弁の基準開度θ等のマップを示す図である。
【図22】空燃比センサの出力の変化を示す図である。
【図23】ベース空燃比検出可能期間ΔDtのマップ等を示す図である。
【図24】運転制御を行うためのフローチャートである。
【図25】学習制御を行うためのフローチャートである。
【図26】補正係数KA等を示す図である。
【図27】学習制御を行うためのフローチャートである。
【図28】学習制御を行うためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に圧縮着火式内燃機関の全体図を示す。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内に夫々燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドを夫々示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口は吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置11が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0010】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結される。排気タービン7bの出口は排気管12を介して排気浄化触媒13の入口に連結され、排気浄化触媒13の出口は排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのパティキュレートフィルタ14に連結される。排気浄化触媒13上流の排気管12内には圧縮着火式内燃機関の燃料として用いられる軽油その他の燃料からなる炭化水素を供給するための炭化水素供給弁15が配置される。図1に示される実施例では炭化水素供給弁15から供給される炭化水素として軽油が用いられている。なお、本発明はリーン空燃比のもとで燃焼の行われる火花点火式内燃機関にも適用することができる。この場合、炭化水素供給弁15からは火花点火式内燃機関の燃料として用いられるガソリンその他の燃料からなる炭化水素が供給される。
【0011】
一方、排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路16を介して互いに連結され、EGR通路16内には電子制御式EGR制御弁17が配置される。また、EGR通路16周りにはEGR通路16内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置18が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置18内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管19を介してコモンレール20に連結され、このコモンレール20は電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ21を介して燃料タンク22に連結される。燃料タンク22内に貯蔵されている燃料は燃料ポンプ21によってコモンレール20内に供給され、コモンレール20内に供給された燃料は各燃料供給管19を介して燃料噴射弁3に供給される。
【0012】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。排気浄化触媒13の下流には排気ガス温を検出するための温度センサ23が取付けられている。また、排気浄化触媒13の上流であって炭化水素供給弁15の下流には排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ24が配置されており、排気浄化触媒13の下流にも排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ25が配置されている。これら温度センサ23、空燃比センサ24,25、および吸入空気量検出器8の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。
【0013】
また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10の駆動用ステップモータ、炭化水素供給弁15、EGR制御弁17および燃料ポンプ21に接続される。
【0014】
図2は排気浄化触媒13の基体上に担持された触媒担体の表面部分を図解的に示している。この排気浄化触媒13では図2に示されるように例えばアルミナからなる触媒担体50上には貴金属触媒51,52が担持されており、更にこの触媒担体50上にはカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類金属、ランタノイドのような希土類および銀Ag、銅Cu、鉄Fe、イリジウムIrのようなNOxに電子を供与しうる金属から選ばれた少くとも一つを含む塩基性層53が形成されている。排気ガスは触媒担体50上に沿って流れるので貴金属触媒51,52は排気浄化触媒13の排気ガス流通表面上に担持されていると言える。また、塩基性層53の表面は塩基性を呈するので塩基性層53の表面は塩基性の排気ガス流通表面部分54と称される。
【0015】
一方、図2において貴金属触媒51は白金Ptからなり、貴金属触媒52はロジウムRhからなる。即ち、触媒担体50に担持されている貴金属触媒51,52は白金PtおよびロジウムRhから構成されている。なお、排気浄化触媒13の触媒担体50上には白金PtおよびロジウムRhに加えて更にパラジウムPdを担持させることができるし、或いはロジウムRhに代えてパラジウムPdを担持させることができる。即ち、触媒担体50に担持されている貴金属触媒51,52は白金Ptと、ロジウムRhおよびパラジウムPdの少なくとも一方とにより構成される。
【0016】
炭化水素供給弁15から排気ガス中に炭化水素が噴射されるとこの炭化水素は排気浄化触媒13において改質される。本発明ではこのとき改質された炭化水素を用いて排気浄化触媒13においてNOxを浄化するようにしている。図3はこのとき排気浄化触媒13において行われる改質作用を図解的に示している。図3に示されるように炭化水素供給弁15から噴射された炭化水素HCは触媒51によって炭素数の少ないラジカル状の炭化水素HCとなる。
【0017】
なお、燃料噴射弁3から燃焼室2内に燃料、即ち炭化水素を膨張行程の後半或いは排気行程中に噴射してもこの炭化水素は燃焼室2内又は排気浄化触媒13において改質され、排気ガス中に含まれるNOxはこの改質された炭化水素によって排気浄化触媒13で浄化される。従って本発明では炭化水素供給弁15から機関排気通路内に炭化水素を供給する代りに、膨張行程の後半或いは排気行程中に燃焼室2内に炭化水素を供給することもできる。このように本発明では炭化水素を燃焼室2内に供給することもできるが、以下炭化水素を炭化水素供給弁15から機関排気通路内に噴射するようにした場合を例にとって本発明を説明する。
【0018】
図4は炭化水素供給弁15からの炭化水素の供給タイミングと排気浄化触媒13への流入排気ガスの空燃比(A/F)inの変化とを示している。なお、この空燃比(A/F)inの変化は排気浄化触媒13に流入する排気ガス中の炭化水素の濃度変化に依存しているので図4に示される空燃比(A/F)inの変化は炭化水素の濃度変化を表しているとも言える。ただし、炭化水素濃度が高くなると空燃比(A/F)inは小さくなるので図4においては空燃比(A/F)inがリッチ側となるほど炭化水素濃度が高くなっている。
【0019】
図5は、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を周期的に変化させることによって図4に示されるように排気浄化触媒13への流入排気ガスの空燃比(A/F)inを変化させたときの排気浄化触媒13によるNOx浄化率を排気浄化触媒13の各触媒温度TCに対して示している。本発明者は長い期間に亘ってNOx浄化に関する研究を重ねており、その研究課程において、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると、図5に示されるように400℃以上の高温領域においても極めて高いNOx浄化率が得られることが判明したのである。
【0020】
更にこのときには窒素および炭化水素を含む多量の還元性中間体が塩基性層53の表面上に、即ち排気浄化触媒13の塩基性排気ガス流通表面部分54上に保持又は吸着され続けており、この還元性中間体が高NOx浄化率を得る上で中心的役割を果していることが判明したのである。次にこのことについて図6(A),(B)を参照しつつ説明する。なお、これら図6(A),(B)は排気浄化触媒13の触媒担体50の表面部分を図解的に示しており、これら図6(A),(B)には排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度が予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動せしめたときに生ずると推測される反応が示されている。
【0021】
図6(A)は排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度が低いときを示しており、図6(B)は炭化水素供給弁15から炭化水素が供給されて排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度が高くなっているときを示している。
【0022】
さて、図4からわかるように排気浄化触媒13に流入する排気ガスの空燃比は一瞬を除いてリーンに維持されているので排気浄化触媒13に流入する排気ガスは通常酸素過剰の状態にある。従って排気ガス中に含まれるNOは図6(A)に示されるように白金51上において酸化されてNO2となり、次いでこのNO2は白金51から電子を供与されてNO2-となる。従って白金51上には多量のNO2-が生成されることになる。このNO2-は活性が強く、以上このNO2-を活性NO2*と称する。
【0023】
一方、炭化水素供給弁15から炭化水素が供給されると図3に示されるようにこの炭化水素は排気浄化触媒13内において改質され、ラジカルとなる。その結果、図6(B)に示されるように活性NO2*周りの炭化水素濃度が高くなる。ところで活性NO2*が生成された後、活性NO2*周りの酸素濃度が高い状態が一定時間以上継続すると活性NO2*は酸化され、硝酸イオンNO3-の形で塩基性層53内に吸収される。しかしながらこの一定時間が経過する前に活性NO2*周りの炭化水素濃度が高くされると図6(B)に示されるように活性NO2*は白金51上においてラジカル状の炭化水素HCと反応し、それにより還元性中間体が生成される。この還元性中間体は塩基性層53の表面上に付着又は吸着される。
【0024】
なお、このとき最初に生成される還元性中間体はニトロ化合物R-NO2であると考えられる。このニトロ化合物R-NO2は生成されるとニトリル化合物R-CNとなるがこのニトリル化合物R-CNはその状態では瞬時しか存続し得ないのでただちにイソシアネート化合物R-NCOとなる。このイソシアネート化合物R-NCOは加水分解するとアミン化合物R-NH2となる。ただしこの場合、加水分解されるのはイソシアネート化合物R-NCOの一部であると考えられる。従って図6(B)に示されるように塩基性層53の表面上に保持又は吸着されている還元性中間体の大部分はイソシアネート化合物R-NCOおよびアミン化合物R-NH2であると考えられる。
【0025】
一方、図6(B)に示されるように生成された還元性中間体の周りを炭化水素HCが取り囲んでいると還元性中間体は炭化水素HCに阻まれてそれ以上反応が進まない。この場合、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度が低下せしめられ、それによって酸素濃度が高くなると還元性中間体周りの炭化水素は酸化せしめられる。その結果、図6(A)に示されるように還元性中間体と活性NO2*とが反応するようになる。このとき活性NO2*は還元性中間体R-NCOやR-NH2と反応してN2,CO2,H2Oとなり、斯くしてNOxが浄化されることになる。
【0026】
このように排気浄化触媒13では、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を高くすることにより還元性中間体が生成され、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を低くして酸素濃度を高くすることにより活性NO2*が還元性中間体と反応し、NOxが浄化される。即ち、排気浄化触媒13によりNOxを浄化するには排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を周期的に変化させる必要がある。
【0027】
無論、この場合、還元性中間体を生成するのに十分高い濃度まで炭化水素の濃度を高める必要があり、生成された還元性中間体を活性NO2*と反応させるのに十分低い濃度まで炭化水素の濃度を低下させる必要がある。即ち、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅で振動させる必要がある。なお、この場合、生成された還元性中間体が活性NO2*と反応するまで、十分な量の還元性中間体R-NCOやR-NH2を塩基性層53上に、即ち塩基性排気ガス流通表面部分24上保持しておかなければならず、そのために塩基性の排気ガス流通表面部分24が設けられている。
【0028】
一方、炭化水素の供給周期を長くすると炭化水素が供給された後、次に炭化水素が供給されるまでの間において酸素濃度が高くなる期間が長くなり、従って活性NO2*は還元性中間体を生成することなく硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収されることになる。これを回避するためには排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の周期でもって振動させることが必要となる。
【0029】
そこで本発明による実施例では、排気ガス中に含まれるNOxと改質された炭化水素とを反応させて窒素および炭化水素を含む還元性中間体R-NCOやR-NH2を生成するために排気浄化触媒13の排気ガス流通表面上には貴金属触媒51,52が担持されており、生成された還元性中間体R-NCOやR-NH2を排気浄化触媒13内に保持しておくために貴金属触媒51,52周りには塩基性の排気ガス流通表面部分54が形成されており、塩基性の排気ガス流通表面部分54上に保持された還元性中間体R-NCOやR-NH2の還元作用によりNOxが還元され、炭化水素濃度の振動周期は還元性中間体R-NCOやR-NH2を生成し続けるのに必要な振動周期とされる。因みに図4に示される例では噴射間隔が3秒とされている。
【0030】
炭化水素濃度の振動周期、即ち炭化水素HCの供給周期を上述の予め定められた範囲内の周期よりも長くすると塩基性層53の表面上から還元性中間体R-NCOやR-NH2が消滅し、このとき白金Pt53上において生成された活性NO2*は図7(A)に示されるように硝酸イオンNO3-の形で塩基性層53内に拡散し、硝酸塩となる。即ち、このときには排気ガス中のNOxは硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収されることになる。
【0031】
一方、図7(B)はこのようにNOxが硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収されているときに排気浄化触媒13内に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチにされた場合を示している。この場合には排気ガス中の酸素濃度が低下するために反応が逆方向(NO3-→NO2)に進み、斯くして塩基性層53内に吸収されている硝酸塩は順次硝酸イオンNO3-となって図7(B)に示されるようにNO2の形で塩基性層53から放出される。次いで放出されたNO2は排気ガス中に含まれる炭化水素HCおよびCOによって還元される。
【0032】
図8は塩基性層53のNOx吸収能力が飽和する少し前に排気浄化触媒13に流入する排気ガスの空燃比(A/F)inを一時的にリッチにするようにした場合を示している。なお、図8に示す例ではこのリッチ制御の時間間隔は1分以上である。この場合には排気ガスの空燃比(A/F)inがリーンのときに塩基性層53内に吸収されたNOxは、排気ガスの空燃比(A/F)inが一時的にリッチにされたときに塩基性層53から一気に放出されて還元される。従ってこの場合には塩基性層53はNOxを一時的に吸収するための吸収剤の役目を果している。
【0033】
なお、このとき塩基性層53がNOxを一時的に吸着する場合もあり、従って吸収および吸着の双方を含む用語として吸蔵という用語を用いるとこのとき塩基性層53はNOxを一時的に吸蔵するためのNOx吸蔵剤の役目を果していることになる。即ち、この場合には、機関吸気通路、燃焼室2および排気浄化触媒13上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、排気浄化触媒13は、排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOxを吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸蔵したNOxを放出するNOx吸蔵触媒として機能している。
【0034】
図9は、排気浄化触媒13をこのようにNOx吸蔵触媒として機能させたときのNOx浄化率を示している。なお、図9の横軸は排気浄化触媒13の触媒温度TCを示している。排気浄化触媒13をNOx吸蔵触媒として機能させた場合には図9に示されるように触媒温度TCが300℃から400℃のときには極めて高いNOx浄化率が得られるが触媒温度TCが400℃以上の高温になるとNOx浄化率が低下する。
【0035】
このように触媒温度TCが400℃以上になるとNOx浄化率が低下するのは、触媒温度TCが400℃以上になると硝酸塩が熱分解してNO2の形で排気浄化触媒13から放出されるからである。即ち、NOxを硝酸塩の形で吸蔵している限り、触媒温度TCが高いときに高いNOx浄化率を得るのは困難である。しかしながら図4から図6(A),(B)に示される新たなNOx浄化方法では図6(A),(B)からわかるように硝酸塩は生成されず或いは生成されても極く微量であり、斯くして図5に示されるように触媒温度TCが高いときでも高いNOx浄化率が得られることになる。
【0036】
そこで本発明では、機関排気通路内に排気ガス中に含まれるNOxと改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒13を配置し、排気浄化触媒13の排気ガス流通表面上には貴金属触媒51,52が担持されていると共に貴金属触媒51,52周りには塩基性の排気ガス流通表面部分54が形成されており、排気浄化触媒13は、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると排気ガス中に含まれるNOxを還元する性質を有すると共に、炭化水素濃度の振動周期をこの予め定められた範囲よりも長くすると排気ガス中に含まれるNOxの吸蔵量が増大する性質を有しており、機関運転時に排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させ、それにより排気ガス中に含まれるNOxを排気浄化触媒13において還元するようにしている。
【0037】
即ち、図4から図6(A),(B)に示されるNOx浄化方法は、貴金属触媒を担持しかつNOxを吸収しうる塩基性層を形成した排気浄化触媒を用いた場合において、ほとんど硝酸塩を形成することなくNOxを浄化するようにした新たなNOx浄化方法であると言うことができる。実際、この新たなNOx浄化方法を用いた場合には排気浄化触媒13をNOx吸蔵触媒として機能させた場合に比べて、塩基性層53から検出される硝酸塩は極く微量である。なお、この新たなNOx浄化方法を以下、第1のNOx浄化方法と称する。
【0038】
次に図10から図15を参照しつつこの第1のNOx浄化方法についてもう少し詳細に説明する。
図10は図4に示される空燃比(A/F)inの変化を拡大して示している。なお、前述したようにこの排気浄化触媒13への流入排気ガスの空燃比(A/F)inの変化は同時に排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度変化を示している。なお、図10においてΔHは排気浄化触媒13に流入する炭化水素HCの濃度変化の振幅を示しており、ΔTは排気浄化触媒13に流入する炭化水素濃度の振動周期を示している。
【0039】
更に図10において(A/F)bは機関出力を発生するための燃焼ガスの空燃比を示すベース空燃比を表している。言い換えるとこのベース空燃比(A/F)bは炭化水素の供給を停止したときに排気浄化触媒13に流入する排気ガスの空燃比を表している。一方、図10においてXは、生成された活性NO2*が硝酸塩の形で塩基性層53内に吸蔵されることなく還元性中間体の生成のために使用される空燃比(A/F)inの上限を表しており、活性NO2*と改質された炭化水素とを反応させて還元性中間体を生成させるには空燃比(A/F)inをこの空燃比の上限Xよりも低くすることが必要となる。
【0040】
別の言い方をすると図10のXは活性NO2*と改質された炭化水素とを反応させて還元性中間体を生成させるのに必要な炭化水素の濃度の下限を表しており、還元性中間体を生成するためには炭化水素の濃度をこの下限Xよりも高くする必要がある。この場合、還元性中間体が生成されるか否かは活性NO2*周りの酸素濃度と炭化水素濃度との比率、即ち空燃比(A/F)inで決まり、還元性中間体を生成するのに必要な上述の空燃比の上限Xを以下、要求最小空燃比と称する。
【0041】
図10に示される例では要求最小空燃比Xがリッチとなっており、従ってこの場合には還元性中間体を生成するために空燃比(A/F)inが瞬時的に要求最小空燃比X以下に、即ちリッチにされる。これに対し、図11に示される例では要求最小空燃比Xがリーンとなっている。この場合には空燃比(A/F)inをリーンに維持しつつ空燃比(A/F)inを周期的に低下させることによって還元性中間体が生成される。
【0042】
この場合、要求最小空燃比Xがリッチになるかリーンになるかは排気浄化触媒13の酸化力による。この場合、排気浄化触媒13は例えば貴金属51の担持量を増大させれば酸化力が強まり、酸性を強めれば酸化力が強まる。従って排気浄化触媒13の酸化力は貴金属51の担持量や酸性の強さによって変化することになる。
【0043】
さて、酸化力が強い排気浄化触媒13を用いた場合に図11に示されるように空燃比(A/F)inをリーンに維持しつつ空燃比(A/F)inを周期的に低下させると、空燃比(A/F)inが低下せしめられたときに炭化水素が完全に酸化されてしまい、その結果還元性中間体を生成することができなくなる。これに対し、酸化力が強い排気浄化触媒13を用いた場合に図10に示されるように空燃比(A/F)inを周期的にリッチにさせると空燃比(A/F)inがリッチにされたときに炭化水素は完全に酸化されることなく部分酸化され、即ち炭化水素が改質され、斯くして還元性中間体が生成されることになる。従って酸化力が強い排気浄化触媒13を用いた場合には要求最小空燃比Xはリッチにする必要がある。
【0044】
一方、酸化力が弱い排気浄化触媒13を用いた場合には図11に示されるように空燃比(A/F)inをリーンに維持しつつ空燃比(A/F)inを周期的に低下させると、炭化水素は完全に酸化されずに部分酸化され、即ち炭化水素が改質され、斯くして還元性中間体が生成される。これに対し、酸化力が弱い排気浄化触媒13を用いた場合に図10に示されるように空燃比(A/F)inを周期的にリッチにさせると多量の炭化水素は酸化されることなく単に排気浄化触媒13から排出されることになり、斯くして無駄に消費される炭化水素量が増大することになる。従って酸化力が弱い排気浄化触媒13を用いた場合には要求最小空燃比Xはリーンにする必要がある。
【0045】
即ち、要求最小空燃比Xは図12に示されるように排気浄化触媒13の酸化力が強くなるほど低下させる必要があることがわかる。このように要求最小空燃比Xは排気浄化触媒13の酸化力によってリーンになったり、或いはリッチになったりするが、以下要求最小空燃比Xがリッチである場合を例にとって、排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度変化の振幅や排気浄化触媒13に流入する炭化水素濃度の振動周期について説明する。
【0046】
さて、ベース空燃比(A/F)bが大きくなると、即ち炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高くなると空燃比(A/F)inを要求最小空燃比X以下とするのに必要な炭化水素の供給量が増大し、それに伴なって還元性中間体の生成に寄与しなかった余剰の炭化水素量も増大する。この場合、NOxを良好に浄化するためには前述したようにこの余剰の炭化水素を酸化させる必要があり、従ってNOxを良好に浄化するためには余剰の炭化水素量が多いほど多量の酸素が必要となる。
【0047】
この場合、排気ガス中の酸素濃度を高めれば酸素量を増大することができる。従ってNOxを良好に浄化するためには、炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高いときには炭化水素供給後の排気ガス中の酸素濃度を高める必要がある。即ち、炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高いほど炭化水素濃度の振幅を大きくする必要がある。
【0048】
図13は同一のNOx浄化率が得られるときの、炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度と炭化水素濃度の振幅ΔHとの関係を示している。図13から同一のNOx浄化率を得るためには炭化水素が供給される前の排気ガス中の酸素濃度が高いほど炭化水素濃度の振幅ΔHを増大させる必要があることがわかる。即ち、同一のNOx浄化率を得るにはベース空燃比(A/F)bが高くなるほど炭化水素濃度の振幅ΔTを増大させることが必要となる。別の言い方をすると、NOxを良好に浄化するためにはベース空燃比(A/F)bが低くなるほど炭化水素濃度の振幅ΔTを減少させることができる。
【0049】
ところでベース空燃比(A/F)bが最も低くなるのは加速運転時であり、このとき炭化水素濃度の振幅ΔHが200ppm程度あればNOxを良好に浄化することができる。ベース空燃比(A/F)bは通常、加速運転時よりも大きく、従って図14に示されるように炭化水素濃度の振幅ΔHが200ppm以上であれば良好なNOx浄化率を得ることができることになる。
【0050】
一方、ベース空燃比(A/F)bが最も高いときには炭化水素濃度の振幅ΔHを10000ppm程度にすれば良好なNOx浄化率が得られることがわかっている。従って本発明では炭化水素濃度の振幅の予め定められた範囲が200ppmから10000ppmとされている。
【0051】
また、炭化水素濃度の振動周期ΔTが長くなると炭化水素が供給された後、次に炭化水素が供給される間、活性NO2*周りの酸素濃度が高くなる。この場合、炭化水素濃度の振動周期ΔTが5秒程度よりも長くなると活性NO2*が硝酸塩の形で塩基性層53内に吸収され始め、従って図15に示されるように炭化水素濃度の振動周期ΔTが5秒程度よりも長くなるとNOx浄化率が低下することになる。従って炭化水素濃度の振動周期ΔTは5秒以下とする必要がある。
【0052】
一方、炭化水素濃度の振動周期ΔTがほぼ0.3秒以下になると供給された炭化水素が排気浄化触媒13の排気ガス流通表面上に堆積し始め、従って図15に示されるように炭化水素濃度の振動周期ΔTがほぼ0.3秒以下になるとNOx浄化率が低下する。そこで本発明では炭化水素濃度の振動周期が0.3秒から5秒の間とされている。
【0053】
さて、本発明では炭化水素供給弁15からの炭化水素供給量および噴射時期を変化させることによって炭化水素濃度の振幅ΔHおよび振動周期ΔTが機関の運転状態に応じた最適値となるように制御される。この場合、本発明による実施例ではこの最適な炭化水素濃度の振幅ΔHを得ることのできる炭化水素供給量Wが燃料噴射弁3からの噴射量Qおよび機関回転数Nの関数として図16(A)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。また、最適な炭化水素濃度の振動振幅ΔT、即ち炭化水素の供給周期ΔTも同様に噴射量Qおよび機関回転数Nの関数として図16(B)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。
【0054】
次に図17から図20を参照しつつ排気浄化触媒13をNOx吸蔵触媒として機能させた場合のNOx浄化方法について具体的に説明する。このように排気浄化触媒13をNOx吸蔵触媒として機能させた場合のNOx浄化方法を以下、第2のNOx浄化方法と称する。
【0055】
この第2のNOx浄化方法では図17に示されるように塩基性層53に吸蔵された吸蔵NOx量ΣNOXが予め定められた許容量MAXを越えたときに排気浄化触媒13に流入する排気ガスの空燃比(A/F)inが一時的にリッチにされる。排気ガスの空燃比(A/F)inがリッチにされると排気ガスの空燃比(A/F)inがリーンのときに塩基性層53内に吸蔵されたNOxが塩基性層53から一気に放出されて還元される。それによってNOxが浄化される。
【0056】
吸蔵NOx量ΣNOXは例えば機関から排出されるNOx量から算出される。本発明による実施例では機関から単位時間当り排出される排出NOx量NOXAが噴射量Qおよび機関回転数Nの関数として図18に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、この排出NOx量NOXAから吸蔵NOx量ΣNOXが算出される。この場合、前述したように排気ガスの空燃比(A/F)inがリッチにされる周期は通常1分以上である。
【0057】
この第2のNOx浄化方法では図19に示されるように燃焼室2内に燃料噴射弁3から燃焼用燃料Qに加え、追加の燃料WRを噴射することによって排気浄化触媒13に流入する排気ガスの空燃比(A/F)inがリッチにされる。なお、図19の横軸はクランク角を示している。この追加の燃料WRは燃焼はするが機関出力となって現われない時期に、即ち圧縮上死点後ATDC90°の少し手前で噴射される。この燃料量WRは噴射量Qおよび機関回転数Nの関数として図20に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。無論、この場合炭化水素供給弁15からの炭化水素の供給量を増大させることによって排気ガスの空燃比(A/F)inをリッチにすることもできる。
【0058】
ところで第1のNOx浄化方法を用いてNOxを浄化するには排気ガス中のNOx濃度が低いときでも一定量以上の炭化水素を短かい周期で供給する必要がある。従って排気ガスのNOx濃度が低いときにはNOx浄化効率が悪くなる。これに対し、第2のNOx浄化方法では排気ガス中のNOx濃度が低いときには吸蔵NOx量ΣNOXが許容値MAXに達するまでの時間が長くなるために排気ガスの空燃比(A/F)inをリッチにする周期が長くなるだけであり、特にNOx浄化効率は悪くならない。従って排気ガス中のNOx濃度が低いときには第1のNOx浄化方法よりも第2のNOx浄化方法を用いる方が好ましいと言える。即ち、第1のNOx浄化方法および第2のNOx浄化方法のいずれを用いるべきかは機関の運転状態において変わることになる。
【0059】
次に機関の運転制御方法について簡単に説明する。
即ち、本発明による実施例では一般的な圧縮着火式内燃機関と同様にアクセルペダル40の踏込み量Lおよび機関回転数Nに基づいて燃焼室2内に噴射すべき燃焼用燃料の噴射量Qが算出され、この算出された噴射量Qに従って燃料噴射弁3から燃焼室2内に燃料が噴射される。この場合、この噴射量Qに対する燃焼室2内への吸入空気量GAの比(GA/Q)を示すベース空燃比(A/F)bには機関の運転状態に応じて変化する最適値が存在しており、ベース空燃比(A/F)bがこの最適値となるようにスロットル弁10の開度およびEGR制御弁17の開度が制御されている。
【0060】
図21(A)はベース空燃比(A/F)bを最適値とするのに必要なEGR制御弁17の基準開度θを示しており、本発明による実施例ではこの基準開度θが図21(A)に示されるように噴射量Qおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM32内に記憶されている。また、最適なベース空燃比(A/F)bも図21(B)に示されるように噴射量Qおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM32内に記憶されている。
【0061】
さて、ベース空燃比が最適なベース空燃比(A/F)bからずれると燃焼室2内における燃焼が悪化するという問題が生ずるばかりでなく、第1のNOx浄化方法によるNOx浄化処理が行われているときには周期的に振動せしめられる排気浄化触媒13への流入空燃比(A/F)inの最小空燃比が変化するために最適な量の還元性中間体を生成しえなくなるという問題を生ずる。このような問題が生じないようにするためにはベース空燃比が最適なベース空燃比(A/F)bからずれたときにはベース空燃比を最適なベース空燃比(A/F)bに戻す必要があり、そのためには実際のベース空燃比を検出する必要がある。
【0062】
この場合、炭化水素の供給が停止されていれば排気ガスの空燃比はベース空燃比となり、従って実際のベース空燃比は空燃比センサ24又は25によって容易に検出することができる。しかしながら第1のNOx浄化方法によるNOxの浄化処理が行われているときのように炭化水素が周期的に供給されているときには排気ガスの空燃比が激しく変動し、このときには排気ガスの空燃比はなかなかベース空燃比に一致しなくなる。このことについて図22を参照しつつ説明する。
【0063】
図22は炭化水素供給弁15からの炭化水素の供給タイミングと、空燃比センサ24の出力との関係を示している。なお、図22は空燃比センサ24として排気ガスの空燃比がリーンになるほど出力電圧(V)が高くなる空燃比センサが用いられている場合を示している。図22に示されるように炭化水素供給弁15からは炭化水素が瞬時に噴射される。しかしながらこの炭化水素は排気ガス中に拡散し、また空燃比センサ24には検出遅れが存在するために空燃比センサ24の出力電圧(V)は瞬時的な変化とはならない。
【0064】
また、この場合炭化水素が液滴の形で空燃比センサ24に付着すると付着した炭化水素が蒸発するまでの間、空燃比センサ24の出力電圧(V)はリッチ寄りの空燃比を示す。従って炭化水素の供給が瞬時に行われたとしても空燃比センサ24の出力電圧(V)は図22に示されるようにゆっくりと変化することになる。
【0065】
図22においてΔDtは空燃比センサ24の出力電圧(V)がベース空燃比を示している期間を表しており、ΔAtは空燃比センサ24の出力電圧(V)がベース空燃比よりもリッチ側の空燃比を示している期間を表している。即ち、期間ΔAtでは空燃比センサ24によってベース空燃比を検出することができず、空燃比センサ24によってベース空燃比を検出しうるのは期間ΔDtだけである。従って、以下この期間ΔDtは空燃比センサ24によりベース空燃比を検出可能なベース空燃比検出可能期間と称される。従って本発明ではこのベース空燃比検出可能期間ΔDt内に空燃比センサ24によってベース空燃比を検出するようにしている。
【0066】
即ち、本発明では、炭化水素の流通する機関排気通路内に排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ24,25が配置されており、機関運転時に排気浄化触媒13に流入する炭化水素の濃度が予め定められた範囲内の振幅ΔHおよび予め定められた範囲内の周期ΔTでもって振動せしめられると共に、このとき空燃比センサ24,25によりベース空燃比を検出可能なベース空燃比検出可能期間ΔDtが求められ、このベース空燃比検出可能期間ΔDt内に空燃比センサ24,25により検出された排気ガスの空燃比がベース空燃比とされる。
【0067】
このベース空燃比検出可能期間ΔDtは機関の運転状態に応じて変化する。本発明による一実施例ではこのベース空燃比検出可能期間ΔDtは予め実験により求められており、このベース空燃比検出可能期間ΔDtは各機関の運転状態に対して予め記憶されている。例えば図23(A)に示されるようにベース空燃比検出可能期間ΔDtは噴射量Qおよび機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM32内に記憶されている。なお、図23(A)において×印はベース空燃比検出可能期間ΔDtが存在しないことを示している。
【0068】
本発明ではこのようなベース空燃比検出可能期間ΔDtを求めることによって第1のNOx浄化方法が用いられているときのように炭化水素の供給間隔が短かいときであっても空燃比センサ24,25によりベース空燃比を検出することができる。なお、この場合、ベース空燃比は空燃比センサ24,25のいずれか一方又は双方を用いて検出される。
【0069】
また、本発明による実施例ではベース空燃比が最適なベース空燃比(A/F)bとなるように、空燃比センサにより検出された空燃比に基づいてベース空燃比の学習制御が行われる。この場合、本発明による実施例ではベース空燃比が最適なベース空燃比(A/F)bからずれたときにはベース空燃比が最適なベース空燃比(A/F)bとなるように吸入空気量が調整され、この吸入空気量の調整はEGR制御弁17の開度を調整することによって行われる。
【0070】
即ち、本発明では図23(B)および図23(C)において破線で示されるように噴射量Qと機関回転数Nから定まる運転領域が複数個の運転領域に分割されており、分割された各運転領域がベース空燃比の学習領域とされている。図23(B)に示されるように各学習領域には夫々ベース空燃比を最適なベース空燃比(A/F)bとするのに必要な、EGR制御弁17の基準開度θ(図21(A))に対する補正値、即ち学習値Δθijが記憶されている。
【0071】
なお、図23(B)からわかるように本発明による実施例ではこれら学習値Δθijはベース空燃比検出可能期間ΔDtが存在する学習領域についてのみ記憶されており、ベース空燃比検出可能期間ΔDtの存在しない学習領域における学習値Δθijは補間法を用いて算出される。機関運転時にはEGR制御弁17の開度は基準開度θに学習値Δθijを加算した開度とされ、このときベース空燃比は最適のベース空燃比(A/F)bとなる。
【0072】
図24は機関の運転ルーチンを示している。
図24を参照するとまず初めにステップ60において噴射量Qが算出され、次いでステップ61において燃料噴射弁3から噴射量Qの燃焼用燃料が噴射される。次いでステップ62ではスロットル弁10の開度が制御される。次いでステップ63では図21(A)に示されるマップからEGR制御弁17の基準開度θが算出され、次いでステップ63では図23(B)に示されるマップから学習値Δθが算出される。次いでステップ64では基準開度θに学習値Δθを加算することにより最終的な開度θt(=θ+Δθ)が算出され、ステップ65ではEGR制御弁17の開度がこの開度θtとされる。次いでステップ66では炭化水素供給弁15からの炭化水素の供給制御が行われる。
【0073】
図25はベース空燃比の学習制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図25を参照するとまず初めにステップ70において予め定められている学習時期に到達したか否かが判別される。予め定められている学習時期に到達したときにはステップ71に進んで機関が定常運転状態にあるか否かが判別される。機関が定常運転状態にあるときにはステップ72に進んで図23(A)に示されるマップからベース空燃比検出可能期間ΔDtが存在しているか否か、即ちベース空燃比の学習が可能であるか否かが判別される。
【0074】
学習が可能であるときにはステップ73に進んで現在、学習することを許容されている期間内であるか否か、即ちベース空燃比検出可能期間ΔDt内であるか否かが判別される。現在、ベース空燃比検出可能期間ΔDt内であるときにはステップ74に進んで例えば空燃比センサ24により排気ガスの空燃比(A/F)tが検出される。次いでステップ75では図21(B)に示されるマップから最適なベース空燃比(A/F)bが算出される。
【0075】
次いでステップ76では比例定数Kijが算出され、ステップ77ではこの比例定数Kijを用いて次式からEGR制御弁17の開度の学習値Δθijが算出される。
Δθij←Kij・((A/F)t−(A/F)b)
ここで比例定数Kijは、ベース空燃比を最適なベース空燃比(A/F)bとするのに必要なEGR制御弁17の開度の補正量、即ち学習値Δθijと最適なベース空燃比(A/F)bに対する空燃比のずれ量((A/F)t−(A/F)b)との関係を示しており、この比例定数Kijは図23(C)に示すように各学習領域に対して予め設定されている。
【0076】
ステップ77において学習値Δθijが算出されると図23(B)において対応する学習領域の学習値Δθijが更新される。次いでステップ78では学習可能な全ての領域において学習が完了したか否かが判別され、学習可能な全ての領域において学習が完了したときにはステップ79に進んで次の学習時期が設定される。
【0077】
次に図26から図28に示される別の実施例について説明する。
さて、前述したように図22においてΔAtは空燃比センサ24,25の出力電圧(V)がベース空燃比よりもリッチ側の空燃比を示している期間を示しており、従ってこの期間ΔAtでは空燃比センサ24,25によってベース空燃比を検出することができない。従って本発明ではこの期間ΔAtは、ベース空燃比を検出しえないためにベース空燃比の検出を禁止するベース空燃比検出禁止期間と称されている。
【0078】
本発明による実施例ではこのベース空燃比検出禁止期間ΔAtは図26(B)に示されるように噴射量Qと機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM32内に記憶されている。一方、本発明では炭化水素の供給周期ΔTも図16(B)に示されるように予め記憶されている。従ってこの実施例では炭化水素の供給周期ΔTからベース空燃比検出禁止期間ΔAtを減算することによってベース空燃比検出可能期間ΔDt(=ΔT−ΔAt)が算出され、基本的には算出されたベース空燃比検出可能期間ΔDtを用いてベース空燃比の学習制御が行われる。
【0079】
更にこの実施例では炭化水素供給弁15からの炭化水素の噴射圧が考慮されている。即ち、炭化水素の供給量が同一の状態で噴射圧が高められると炭化水素の噴射時間が短かくなり、斯くして炭化水素は高密度で噴射されることになる。噴射された炭化水素の密度が高くなると噴射された炭化水素が排気浄化触媒13の下流部分へも流れ込み、その結果還元性中間体の生成領域が増大することになる。即ち、噴射圧が高められると還元性中間体の生成量および保持量が増大することになる。従ってこのとき、供給周期ΔTを長くしても十分な量の還元性中間体を生成できかつ保持できることになる。
【0080】
そこでこの実施例では炭化水素の噴射圧が高められるほど炭化水素の供給周期ΔTが長くされる。具体的に言うと図16(B)に示される供給周期ΔTに乗算すべき補正係数KAが図26(A)に示されるように噴射圧Pの関数として予め記憶されており、ΔTにこの補正係数KAを乗算することによって最終的な供給周期ΔTが算出される。なお、図26(A)においてPoは、図16(B)に示される供給周期ΔTが求められたときの噴射圧を示している。
【0081】
一方、炭化水素の噴射圧が高められて噴射時間が短かくなると炭化水素が瞬時のうちに空燃比センサ24,25に付着する。その結果、噴射圧が高くなるほど空燃比センサ24,25に炭化水素が付着し始めてから付着した炭化水素の蒸発が完了するまでの時間、即ちベース空燃比を検出しえない時間が短かくなる。
【0082】
従ってこの実施例では炭化水素の噴射圧が高められるほどベース空燃比検出禁止期間ΔAtが短かくされる。具体的に言うと図26(B)に示されるベース空燃比検出禁止期間ΔAtに乗算すべき補正係数KBが図26(C)に示されるように噴射圧Pの関数として予め記憶されており、ΔAtにこの補正係数KBを乗算することによって最終的なベース空燃比検出禁止期間ΔAtが算出される。なお、図26(C)においてPoは、図26(B)に示されるベース空燃比検出禁止期間ΔAtが求められたときの噴射圧を示している。
【0083】
図26(A)からわかるように炭化水素の供給周期ΔTは噴射圧Pが高くなるほど長くされ、図26(C)からわかるようにベース空燃比検出禁止期間ΔAtは噴射圧Pが高くなるほど減少する。従ってベース空燃比検出可能期間ΔDt(=ΔT−ΔAt)は噴射圧Pが高くなるほど増大せしめられることになる。
【0084】
即ち、本発明による実施例では第1のNOx浄化方法による炭化水素の供給制御が行われているときに炭化水素の噴射圧Pが検出され、検出された炭化水素の噴射圧Pが高くなるほどベース空燃比検出可能期間ΔDtが増大される。具体的に言うとこの実施例では炭化水素濃度の振動周期ΔTと、ベース空燃比検出禁止期間ΔAtとが機関の運転状態に応じて予め記憶されており、これら振動周期ΔTおよびベース空燃比検出禁止期間ΔAtを炭化水素の噴射圧Pにより補正することによってベース空燃比検出可能期間ΔDtが算出される。
【0085】
図27および図28はこの実施例を実行するためのベース空燃比の学習制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図27を参照するとまず初めにステップ80において予め定められている学習時期に到達したか否かが判別される。予め定められている学習時期に到達したときにはステップ81に進んで機関が定常運転状態にあるか否かが判別される。機関が定常運転状態にあるときにはステップ82に進んで炭化水素の噴射圧Pが検出される。
【0086】
次いでステップ83では図26(A)に示される関係から補正係数KAの値が算出される。次いでステップ84では図26(B)に示されるマップからベース空燃比検出禁止期間ΔAtijが算出される。次いでステップ85では図26(C)に示される関係から補正係数KBの値が算出される。次いでステップ86では次式に基づいてベース空燃比検出可能期間ΔDtijが算出される。
ΔDtij←KA・ΔT−KB・ΔAtij
次いでステップ87ではベース空燃比検出可能期間ΔDtが正であるか否か、即ちベース空燃比の学習が可能であるか否かが判別される。
【0087】
学習が可能であるときにはステップ88に進んで現在、学習することを許容されている期間内であるか否か、即ちベース空燃比検出可能期間ΔDtij内であるか否かが判別される。現在、ベース空燃比検出可能期間ΔDtij内であるときにはステップ89に進んで例えば空燃比センサ24により排気ガスの空燃比(A/F)tが検出される。次いでステップ90では図21(B)に示されるマップから最適なベース空燃比(A/F)bが算出される。
【0088】
次いでステップ91では図23(C)に示されるマップから比例定数Kijが算出され、ステップ92ではこの比例定数Kijを用いて次式からEGR制御弁17の開度の学習値Δθijが算出される。
Δθij←Kij・((A/F)t−(A/F)b)
【0089】
学習値Δθijが算出されると図23(B)において対応する学習領域の学習値Δθijが更新される。次いでステップ93では学習可能な全ての領域において学習が完了したか否かが判別され、学習可能な全ての領域において学習が完了したときにはステップ94に進んで次の学習時期が設定される。
【0090】
なお、別の実施例として排気浄化触媒13上流の機関排気通路内に炭化水素を改質させるための酸化触媒を配置することもできる。
【符号の説明】
【0091】
4 吸気マニホルド
5 排気マニホルド
7 排気ターボチャージャ
12 排気管
13 排気浄化触媒
14 パティキュレートフィルタ
15 炭化水素供給弁
24,25 空燃比センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関排気通路内に排気ガス中に含まれるNOxと改質された炭化水素とを反応させるための排気浄化触媒を配置し、該排気浄化触媒の排気ガス流通表面上には貴金属触媒が担持されていると共に該貴金属触媒周りには塩基性の排気ガス流通表面部分が形成されており、該排気浄化触媒は、排気浄化触媒に流入する炭化水素の濃度を予め定められた範囲内の振幅および予め定められた範囲内の周期でもって振動させると排気ガス中に含まれるNOxを還元する性質を有すると共に、該炭化水素濃度の振動周期を該予め定められた範囲よりも長くすると排気ガス中に含まれるNOxの吸蔵量が増大する性質を有しており、該炭化水素の流通する機関排気通路内に排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサを配置し、機関運転時に排気浄化触媒に流入する炭化水素の濃度を上記予め定められた範囲内の振幅および上記予め定められた範囲内の周期でもって振動させると共に、このとき該空燃比センサによりベース空燃比を検出可能なベース空燃比検出可能期間が求められ、該ベース空燃比検出可能期間内に該空燃比センサにより検出された排気ガスの空燃比がベース空燃比とされる内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
機関運転時に排気浄化触媒に流入する炭化水素の濃度が上記予め定められた範囲内の振幅および上記予め定められた範囲内の周期でもって振動せしめられているときに炭化水素の噴射圧が検出され、検出された該炭化水素の噴射圧が高くなるほどベース空燃比検出可能期間が増大される請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
炭化水素濃度の振動周期と、ベース空燃比を検出しえないためにベース空燃比の検出を禁止するベース空燃比検出禁止期間とが機関の運転状態に応じて予め記憶されており、該振動周期および該ベース空燃比検出禁止期間を上記炭化水素の噴射圧により補正することによってベース空燃比検出可能期間が算出される請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
上記ベース空燃比検出可能期間が各機関の運転状態に対して予め記憶されている請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
上記空燃比センサにより検出された空燃比に基づいてベース空燃比の学習制御が行われる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
上記排気浄化触媒内において排気ガス中に含まれるNOxと改質された炭化水素とが反応して窒素および炭化水素を含む還元性中間体が生成され、上記炭化水素濃度の振動周期は還元性中間体を生成し続けるのに必要な振動周期である請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
上記炭化水素濃度の振動周期が0.3秒から5秒の間である請求項6に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
上記貴金属触媒は白金Ptと、ロジウムRhおよびパラジウムPdの少くとも一方とにより構成される請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
上記排気浄化触媒の排気ガス流通表面上にアルカリ金属又はアルカリ土類金属又は希土類又はNOxに電子を供与しうる金属を含む塩基性層が形成されており、該塩基性層の表面が上記塩基性の排気ガス流通表面部分を形成している請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−62864(P2012−62864A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209616(P2010−209616)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】